JP2009035707A - カチオンポリマー含有水性エマルジョン、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末、及び、それを用いたセメントモルタル混和剤 - Google Patents

カチオンポリマー含有水性エマルジョン、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末、及び、それを用いたセメントモルタル混和剤 Download PDF

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Abstract

【課題】セメントモルタル混和剤として使用した場合に、良好な流動性、作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面などに対する密着性に優れた、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強さなどが向上するカチオンポリマー含有水性エマルジョン、及び、カチオン性カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末を提供することにある。
【解決手段】側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂[I]により、合成樹脂が分散安定化されてなる水性合成樹脂エマルジョン、及び、分子量3,000〜500,000の水溶性カチオンポリマーを含有してなるカチオンポリマー含有水性エマルジョン、及び、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末。
【選択図】なし

Description

本発明は、特定のポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」と略記することがある。)を保護コロイドとして合成樹脂を分散安定化してなる水性合成樹脂エマルジョンと特定の水溶性カチオンポリマーとを含有してなるカチオンポリマー含有水性エマルジョン、及び、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末に関するものであり、更に詳しくは、セメントモルタル用途の混和剤として用いた場合に、良好な流動性、作業性を示し、加えて接着強度が向上するセメントモルタル混和剤に関するものである。
従来より、水性合成樹脂エマルジョンに機械安定性や凍結安定性を付与するために、保護コロイド剤として、PVA系樹脂が使用されている。しかしながら、この場合、一般には、エマルジョンの機械安定性や凍結安定性は改善されるものの、重合安定性が不充分であり、特に、エマルジョン中の樹脂分が50重量%を超えるような高い不揮発分では、重合することができなかった。
そのため、アクリル系モノマー及びスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマーを重合してなる水性合成樹脂エマルジョンの保護コロイド剤として、PVA系樹脂を使用する場合には、このエマルジョン中の樹脂分を50重量%未満にする必要があり、生産性の点で問題があった。更に、重合安定性付与として連鎖移動剤を使用するのが一般的であったため、連鎖移動剤の使用は合成樹脂の重合度を低下させることから、得られる皮膜の耐水性や強靭性が失われ易く、この点でも問題があった。また、得られる水性合成樹脂エマルジョンの安定性も不充分で、経時的に増粘するという問題もあった。
また、PVA系樹脂を保護コロイド剤として用いた水性合成樹脂エマルジョンを、セメントモルタルへの混和用途に用いることが知られているが、かかる水性合成樹脂エマルジョンを混和すると、セメントモルタルの流動性が経時的に悪化し、作業性が低下するという問題があった。
そのため、水性合成樹脂エマルジョンの保護コロイド剤としてPVA系樹脂を使用する場合に、エマルジョン中の樹脂分を50重量%以上の高濃度でも重合することができるPVA系保護コロイド剤の開発、およびセメントモルタルに混和しても流動性、作業性が低下しない水性合成樹脂エマルジョンの開発が望まれていた。
一方、所謂セメントモルタル混和剤として広く使用されている再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末は、水性合成樹脂エマルジョンを乾燥(例えば、噴霧乾燥)することにより製造されるものであり、粉末であることから水性合成樹脂エマルジョンと比較して取り扱いが容易である。製品の紙袋包装が可能で、保管・輸送に便利である。また、この再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末は、使用時に水に添加して攪拌するだけで水中に再乳化させることができるため、セメントモルタルなどのセメント製品や石膏製品などへの既調合混和剤として、更に木部・木質用材料の接着剤、塗料用バインダー、土壌改良用バインダーなどとして使用されている。特に、再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末は、セメント製品や石膏等の無機水硬性組成物に予め混合させておくことができるため、現場において水を添加するだけでセメントモルタル製品や石膏製品を形成させることができる。
一般的に、水に再乳化しうる水性合成樹脂エマルジョン粉末として知られているものの多くは、再乳化させる必要性から、保護コロイドとしてPVA系樹脂などの水溶性高分子を使用し、乳化重合して得られた水性合成樹脂エマルジョンを乾燥して得られるものである。それ故に、皮膜の耐水性が充分でなく、特にセメントモルタル製品や石膏製品を改質するために混和するには湿潤時の接着強さなどの物性が不充分であった。
これに対応するため、水に再乳化した際に、元のエマルジョン状態レベルに戻り易く、特にセメントモルタル製品や石膏製品を改質するために混和するには湿潤時の接着強さなどにおいて充分な物性を発現する、加えて、セメントモルタルに混和しても流動性、作業性が低下しない再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末の開発が望まれていた。
かかる対策として、水性合成樹脂エマルジョンにおいては、アセトアセチル(CH3COCH2CO−)基含有PVA系樹脂や変性PVA系樹脂を乳化分散剤として使用することなどが提案され、多くの特許文献などに記載されている。
たとえば、下記の特許文献1には、アセト酢酸エステル基、メルカプト基、ジアセトンアクリルアミド基などの活性水素基を含有し、ブロックキャラクター[η]が0.6より大きく、ケン化度が95.0モル%より高く、かつブロック性の低いPVAを重合体に付着させた水性合成樹脂エマルジョンが開示されており、得られる水性合成樹脂エマルジョンの機械安定性、凍結安定性および高温放置安定性が良好であると述べられている。
また、下記の特許文献2には、側鎖に炭素数4以上の炭化水素基と、スルホン酸基もしくは硫酸エステル基とを、含有する変性PVA系樹脂からなるスチレンの乳化安定剤が開示されており、得られた乳化エマルジョンは、優れた安定性を示しかつ適度の粘性を有しており、接着剤、セメントモルタル混和剤などとして用いることが述べられている。
しかしながら、特許文献1では、機械安定性、凍結安定性および高温放置安定性の良好な水性合成樹脂エマルジョンが得られているものの、長期の保管における粘度安定性についてはまだまだ満足のいくものではなかった。特許文献2では、重合安定性が不充分であったり、グラフト率が低く機械安定性が劣ったりするため、セメントモルタル混和用途において混和安定性が不充分であり、まだまだ満足のいくものではなかった。
すなわち、水性合成樹脂エマルジョンに関するこれらの文献においては、実際の製品化を目的として不揮発分濃度を50%以上にした際に、静置時の粘度安定性と高いグラフト率に起因する機械安定性の両立が充分ではなく、セメントやモルタルに混和した場合にも、セメントやモルタルを混和直後に使用する場合には作業性は良好であるが、混和後に時間をおいて使用する場合にはセメントやモルタルの流動性が低下して作業性が低下するという問題が生じていた。
また、再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末に関しては、下記の特許文献3に記載の如くアセトアセチル(CH3COCH2CO−)基含有PVA系樹脂を乳化分散剤として使用する提案がなされている。
しかしながら、まだまだ満足のいくものではなく、再乳化時の物性が改善され、皮膜の耐水性を更に改善した再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末が望まれている。特に、セメントモルタルに混和した際の流動性や作業性の改善、加えて経時で流動性や作業性が低下しない再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末の開発が望まれていた。
特開2003−277419号公報 特開昭58−063706号公報 特許第3225150号公報
本発明の目的は、セメントモルタル混和剤として使用した場合に、良好な流動性、作業性を示し、旧セメントモルタル面や樹脂塗面などに対する密着性に優れた、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強さなどが向上するカチオンポリマー含有水性エマルジョン、及びカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末、更にはそれらを用いたセメントモルタル混和剤を提供することにある。
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂[I]を保護コロイドとして、合成樹脂が分散安定化されてなる水性合成樹脂エマルジョンに、水溶性カチオンポリマーを含有させることにより、セメントモルタル混和剤として使用した場合に、良好な流動性、作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面などに対する密着性に優れた、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強度などが向上するなどの優れた効果を有することを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂[I]により、合成樹脂が分散安定化されてなる水性合成樹脂エマルジョン、及び、分子量3,000〜500,000の水溶性カチオンポリマーを含有してなるカチオンポリマー含有水性エマルジョンに関するものである。
また、本発明は、上記カチオンポリマー含有水性エマルジョンを乾燥してなるカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末に関するものである。
更に、本発明は、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂[I]により、合成樹脂が分散安定化されてなる水性合成樹脂エマルジョンを乾燥してなる水性合成樹脂エマルジョン粉末、及び、分子量3,000〜2,000,000の水溶性カチオンポリマーを含有してなるカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末に関するものである。
そして、本発明は、上記カチオンポリマー含有水性エマルジョンまたは上記カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末を含有してなるセメントモルタル混和剤をも提供するものである。
本発明のカチオンポリマー含有水性エマルジョン、及びカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末は、セメントモルタル混和剤として使用した際に、良好な流動性、作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面などに対する密着性に優れた、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強度などが向上するなどの優れた効果を有するものであり、セメントモルタル用途として、補修モルタル用、下地調整塗材用、セルフレベリング材、タイル接着モルタル、及び石膏系材料などの改質剤として有用である。更に、ガラス繊維収束剤、難燃剤用などとしても有用である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、水性合成樹脂エマルジョンまたは水性合成樹脂エマルジョン粉末に、水溶性カチオンポリマーを含有させるものであり、この水性合成樹脂エマルジョンまたは水性合成樹脂エマルジョン粉末は、合成樹脂が、側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂[I]により、分散安定化されてなるものである。まず、このPVA系樹脂[I]について、説明する。
本発明において用いられるPVA系樹脂[I]としては、側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂であれば、特に限定されるものではない。このように側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂[I]を使用すると、共重合性モノマーとの反応性がより良好となり重合安定性に優れ、かつ不揮発分のより高い水性合成樹脂エマルジョンが得られ易くなり、不揮発分の高い水性合成樹脂エマルジョンが得られると、輸送コストの低減、水性合成樹脂エマルジョンの乾燥性の向上、特に、噴霧乾燥時における熱源エネルギーの省力化ができることとなる。
上記PVA系樹脂[I]は、公知であり、通常、下記一般式(1)で示される1,2−ジオール構造単位を含有するPVA系樹脂があげられる。
Figure 2009035707
このようなPVA系樹脂[I]は、例えば、(a)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(b)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(c)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(d)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
本発明において、上記PVA系樹脂[I]の平均ケン化度は、85モル%以上であり、好ましくは90〜99.8モル%である。平均ケン化度が低すぎると、水性合成樹脂エマルジョンの重合時の安定性が低下する傾向があり、重合が完結したとしても水性合成樹脂エマルジョンの保存安定性が良好でなくなる傾向があり、安定な水性合成樹脂エマルジョンを得ることが困難になる傾向がある。
なお、本発明において、平均ケン化度は、慣用の方法により測定し求めることができる。例えば、JIS K 6726に記載のケン化度の算出方法にしたがって求めることができる。
PVA系樹脂[I]の平均重合度は、通常50〜3000であることが好ましく、より好ましくは100〜1700、更に好ましくは100〜1000、特に好ましくは200〜500である。平均重合度が低すぎるとPVA系樹脂を工業的に製造することが困難となる傾向があり、高すぎると水性合成樹脂エマルジョンの粘度が高くなり過ぎたり、水性合成樹脂エマルジョンの重合安定性が低下したりする傾向がある。
なお、本発明において、平均重合度は、慣用の方法により測定し求めることができる。例えば、JIS K 6726に記載の平均重合度の算出方法にしたがって求めることができる。
PVA系樹脂[I]の側鎖の1,2−ジオール結合量は、通常1〜15モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜12モル%、更に好ましくは2〜10モル%、特に好ましくは2〜8モル%である。かかる1,2−ジオール結合量が少なすぎると水性合成樹脂エマルジョンの機械安定性や皮膜の耐水性などが低下する傾向があり、多すぎると重合時の安定性が低下し、不揮発分の高い安定な水性合成樹脂エマルジョンが得られにくくなる傾向がある。
本発明において、保護コロイド剤(分散安定化剤)として使用するPVA系樹脂[I]の使用量は、使用される全共重合モノマー100重量部(以下「部」と略す)に対して、3〜20部であることが好ましく、より好ましくは4〜15部、特に好ましくは5〜10部である。かかる使用量が少なすぎると、乳化重合の際の保護コロイド量が不足となって、重合安定性が不良となる傾向があり、多すぎると、水性合成樹脂エマルジョンの粘度が高まり安定性が低下する傾向がある。
ここで、用いられたPVA系樹脂[I]は、通常、重合により形成される水性合成樹脂エマルジョン中に全量が存在することとなる。即ち、共重合体100部に対して、3〜20部、より好ましくは4〜15部、更に好ましくは5〜10部のPVA系樹脂[I]がエマルジョン中に存在することがある。
本発明においては、保護コロイド剤(分散安定化剤)として、側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂[I]を使用するが、本発明の目的を阻害しない範囲において変性、非変性タイプの部分・完全ケン化PVA系樹脂などを併用しても良い。
また、本発明では、PVA系樹脂[I]は、通常、水系媒体を用いて水溶液とし、これが乳化重合の過程において使用される。ここで水系媒体とは、水、または水を主体とするアルコール性溶媒をいい、好ましくは水のことをいう。
この水溶液におけるPVA系樹脂[I]の量(不揮発分)については特に限定されないが、取り扱いの容易性の観点からは、5〜30重量%、特には5〜20重量%であることが望ましい。
また、本発明で用いられるPVA系樹脂[I]に、アニオン性基を含むPVA系樹脂を併用してもよい。アニオン性基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などをあげることができるが、これらの中でも、エマルジョン中のpHに関係なく、安定して強い電荷反発が得られる点から、スルホン酸基であることが好ましい。
なお、本発明において、PVA系とは、PVA自体、または、例えば、各種変性種(本発明においては1,2−ジオール結合を有する変性種以外のもの)によって変性されたものを意味し、その変性度は、通常20モル%以下、好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
かかる変性種としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン〔1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル〕エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等があげられる。また、上記の他、アセトアセチル基変性、メルカプト基変性、ジアセトンアクリルアミド変性等の活性水素を含有する変性種もあげられる。
次に、PVA系樹脂[I]により分散安定化される水性合成樹脂エマルジョンについて説明する。
本発明における水性合成樹脂エマルジョンは、合成樹脂が分散安定化されたものであり、かかる合成樹脂としては、例えば、アクリル系モノマー及びスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(A)と特定の官能基含有モノマー(B)とを共重合成分として含んでなるものである。
かかるアクリル系モノマーとしては、当業者に公知のものであれば特に制限はなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどの脂肪族系(メタ)アクリレートや、フェノキシ(メタ)アクリレート等の芳香族系(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチルなどがあげられ、中でもアルキル基の炭素数が1〜18、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜8の脂肪族系(メタ)アクリレートが好適であり、また、これらは1種または2種以上併用して用いられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味する。
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
上記の中でも、ホモポリマーのガラス転移温度の高いメチルメタクリレートおよびスチレンの少なくとも一方と、ガラス転移温度の低いn−ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートの少なくとも一方との組み合わせが、共重合性の容易さ、及び汎用的に塗料用や接着剤用に使用されているモノマー類であることなどの点で特に好ましい。
本発明においては、乳化重合する際に、上記のアクリル系モノマー及びスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(A)とともに、特定の官能基含有モノマー(B)を共重合することが、セメントモルタル混和剤として使用した場合に、物性ばらつきが少なく、加えて接着強さなどが向上するなどの優れた効果を発揮する点で好ましい。
かかる官能基含有モノマー(B)としては、下記(ア)〜(カ)からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
(ア)グリシジル基含有モノマー。
(イ)アリル基含有モノマー。
(ウ)加水分解性シリル基含有モノマー。
(エ)アセトアセチル基含有モノマー。
(オ)分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー。
(カ)ヒドロキシル基含有モノマー。
上記グリシジル基含有モノマー(ア)の具体例としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等があげられる。このうち、特に物性ばらつきの少なく、加えて湿潤時の接着強さなどが向上するなどの観点から、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。
上記アリル基含有モノマー(イ)の具体例としては、例えば、トリアリルオキシエチレン、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン等のアリル基を2個以上有するモノマー、アリルグリシジルエーテル、酢酸アリル等があげられる。このうち、湿潤時の接着強さの観点から、アリルグリシジルエーテルが好ましい。
上記加水分解性シリル基含有モノマー(ウ)の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン;ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のビニルアルキルジアルコキシシラン;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン;γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシラン;ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等があげられる。このうち、湿潤時接着強さの観点から、ビニルトリアルコキシシラン、特にはビニルトリメトキシシランが好ましい。
上記アセトアセチル基含有モノマー(エ)の具体例としては、例えば、アセト酢酸ビニルエステル、アセト酢酸アリルエステル、ジアセト酢酸アリルエステル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート;アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピルクロトナート等のアセトアセトキシアルキルクロトナート;2−シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等があげられる。このうち、特に物性ばらつきの少なく、加えて湿潤時接着強さなどが向上するなどの観点から、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート、特にはアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
上記分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー(オ)の具体例としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコール(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等があげられる。
上記ヒドロキシル基含有モノマー(カ)の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が1〜10、特に1〜6のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどがあげられる。このうち、乳化重合時における保護コロイド的作用及びセメントモルタル配合物などとの混和性改良の観点から、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、官能基含有モノマー(B)は、グリシジル基含有モノマー(ア)、加水分解性シリル基含有モノマー(ウ)、アセトアセチル基含有モノマー(エ)からなる群より選択されることが好ましく、特には、グリシジル基含有モノマー(ア)、アセトアセチル基含有モノマー(エ)のうち少なくとも1つを含んでなることが、セメントモルタル混和剤として使用した場合に、物性ばらつきの少ない、加えて接着強さなどが向上するなどの優れた効果を発揮する点で特に好ましい。
官能基含有モノマー(B)の使用量は、共重合性モノマー全体の0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%である。使用量が少なすぎると、セメントモルタル混和剤として使用した場合に、物性ばらつきの少ない、加えて接着強さなどが向上するなどの効果が不充分となる傾向があり、多すぎると、重合不良となったりする傾向がある。
なお、これらの官能基含有モノマー(B)は、単独でもしくは2種以上のものを組み合わせて使用することができる。
また、本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲において、上記以外の共重合可能なモノマーを併用することができ、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニル、メチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテルといったビニル系モノマー;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン、エチレンスルホン酸といったオレフィン系モノマー;および、ブタジエン−1,3、2−メチルブタジエン、1,3又は2,3−ジメチルブタジエン−1,3、2−クロロブタジエン−1,3等のジエン系モノマー等があげられる。
また、上記以外の官能基含有モノマーとして、(メタ)アクリルニトリル等のニトリル系モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ダイアセトンアクリルアミド等のアミド変性アクリルや(メタ)アクリル酸等のアクリル系モノマー;および、(無水)イタコン酸、(無水)マレイン酸等及びこれらのエステルの不飽和ジカルボン酸またはそのエステル系モノマー等も使用可能である。
本発明による水性合成樹脂エマルジョンにおいては、前記したアクリル系モノマー及びスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(A)と特定の官能基含有モノマー(B)などの共重合性モノマー成分以外に、必要に応じて他の成分をさらに用いることができる。このような他の成分としては、水性合成樹脂エマルジョンとしての性質を低下させることがない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。他の成分としては、例えば、重合開始剤、重合調整剤、補助乳化剤、可塑剤、造膜助剤等があげられる。
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用できるものであれば特に制限なく使用でき、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;有機過酸化物、アゾ系開始剤、過酸化水素、ブチルパーオキサイド等の過酸化物;およびこれらと酸性亜硫酸ナトリウムやL−アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせたレドックス重合開始剤等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらの中でも、皮膜物性や強度増強に悪影響を与えず重合が容易な点で、過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムが好ましい。
重合調整剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができる。このような重合調整剤としては、例えば、連鎖移動剤、バッファーなどがあげられる。
ここで、連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;および、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ノルマルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類などがあげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。連鎖移動剤の使用は、重合を安定に行わせるという点では有効であるが、合成樹脂の重合度を低下させるため、得られる皮膜の耐水性の低下やセメントモルタル混和剤として使用した場合には物性ばらつきが大きくなり、加えて接着強さなどが低下する傾向がある。このため、連鎖移動剤を使用する場合には、その使用量をできる限り低く抑えることが望ましい。
ここで、前記バッファーとしては、例えば、酢酸ソーダ、酢酸アンモニウム、第二リン酸ソーダ、クエン酸ソーダなどがあげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
補助乳化剤としては、乳化重合に用いることができるものとして当業者に公知のものであれば、いずれのものでも使用可能である。したがって、補助乳化剤は、例えば、アニオン性、カチオン性、およびノニオン性の界面活性剤、PVA系樹脂[I]以外の保護コロイド能を有する水溶性高分子、および水溶性オリゴマー等の公知のものの中から、適宜選択することができる。
ここで、界面活性剤の好ましい具体例としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤、および、プルロニック型構造を有するものやポリオキシエチレン型構造を有するものなどのノニオン性界面活性剤があげられる。また、界面活性剤として、構造中にラジカル重合性不飽和結合を有する反応性界面活性剤を使用することもできる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
界面活性剤の使用は乳化重合をスムーズに進行させ、コントロールし易くする(乳化剤としての効果)。加えて、重合中に発生する粗粒子やブロック状物の発生を抑制する効果がある。
ただし、これら界面活性剤を乳化剤として多く使用すると、グラフト率が低下する傾向がある。このため、界面活性剤を使用する場合には、その使用量はPVA系樹脂に対して補助的な量であること、すなわち、できる限り少なくすることが望ましい。
ここで、PVA系樹脂[I]以外の保護コロイド能を有する水溶性高分子としては、例えば、PVA系樹脂[I]以外のPVA系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースなどがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらは、エマルジョンの増粘やエマルジョンの粒子径を変えて粘性を変化させる点で効果がある。ただし、その使用量によっては皮膜の耐水性を低下させることがあるため、使用する場合には少量で使用することが望ましい。
ここで、水溶性オリゴマーとしては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基などの親水性基を有する重合度が、10〜500程度の重合体または共重合体が好適にあげられる。水溶性オリゴマーの具体例としては、例えば、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体などのアミド系共重合体、メタクリル酸ナトリウム−4−スチレンスルホネート共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ポリ(メタ)アクリル酸塩などがあげられる。さらに、具体例としては、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基などを有するモノマーやラジカル重合性の反応性乳化剤を予め単独または他のモノマーと共重合してなる水溶性オリゴマーなどもあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。本発明においては、これらの中でも、顔料および炭酸カルシウム等のフィラーとの混和安定性の点で、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、メタクリル酸ナトリウム−4−スチレンスルホネート共重合体が好ましい。水溶性オリゴマーは、乳化重合を開始する前に予め重合したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
また、可塑剤としては、アジペート系可塑剤、フタル酸系可塑剤、燐酸系可塑剤などが使用できる。また、沸点が260℃以上の造膜助剤も使用できる。
これら他の成分の使用量は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
次に、本発明で用いられる水性合成樹脂エマルジョンの製造について説明する。
前記したように、本発明による水性合成樹脂エマルジョンは、特定のPVA系樹脂[I]を保護コロイド剤として用いて、アクリル系モノマー及びスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(A)と特定の官能基含有モノマー(B)とを含む共重合性モノマーを乳化重合することによって製造することができる。
乳化重合の方法としては、特に制限はなく、例えば、反応缶に、水、PVA系樹脂[I]を仕込み、昇温して共重合性モノマーと重合開始剤を滴下するモノマー滴下式乳化重合法;および、滴下するモノマーを予めPVA系樹脂[I]と水とで分散・乳化させた後、滴下する乳化モノマー滴下式乳化重合法などがあげられるが、重合工程の管理やコントロール性等の面でモノマー滴下式が便利である。
通常、乳化重合は、PVA系樹脂[I]及び前記共重合性モノマー成分以外に、重合開始剤、重合調整剤、補助乳化剤等のような前記した他の成分を必要に応じて用いて実施する。また、重合の反応条件は、特に制限はなく、共重合性モノマーの種類、目的等に応じて適宜選択することができる。
乳化重合過程をさらに具体的に説明にすると、以下のとおりである。
まず、反応缶に水、PVA系樹脂[I]、必要に応じて補助乳化剤を仕込み、これを昇温(通常65〜90℃)した後、共重合性モノマー成分の一部と重合開始剤をこの反応缶に添加して、初期重合を実施する。次いで、残りの共重合性モノマー成分を、一括または滴下しながら反応缶に添加し、必要に応じてさらに重合開始剤を添加しながら重合を進行させる。重合反応が完了したと判断されたところで、反応缶を冷却し、目的とする水性合成樹脂エマルジョンを取り出すことができる。
本発明において、乳化重合より得られる水性合成樹脂エマルジョンは、典型的には、均一な乳白色であって、水性合成樹脂エマルジョン中の合成樹脂の平均粒子径は、0.2〜2μmであることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5μmである。
なお、ここで、平均粒子径は、慣用の方法、例えばレーザー解析/散乱式粒度分布測定装置「LA−910」(株式会社堀場製作所製)により測定することができる。
また、水性合成樹脂エマルジョン中の合成樹脂において、下記の計算法により計算されるガラス転移温度が、−20〜+30℃であることが、セメントモルタル混和剤として使用した場合に、物性ばらつきが少なく、加えて接着強さなどが向上するなどの点で好ましく、特には−15〜+20℃であることが好ましい。かかるガラス転移温度が低すぎると接着強さが低下する傾向となり、高すぎるとジブチルフタレートなどの可塑剤を多く入れて水性合成樹脂エマルジョンの造膜温度を低下させることになり、この結果、特に湿潤時接着強さなどが低下する傾向がある。
本発明における合成樹脂のガラス転移温度とは、共重合モノマー成分として官能基含有モノマー(B)を除いた主要モノマー成分に基づき、Foxの式により計算される値のことである。
更に、本発明においては、PVA系樹脂[I]の少なくとも一部が、前記の合成樹脂にグラフトしていることが、得られる乾燥前の水性合成樹脂エマルジョン自体の貯蔵安定性や接着強さ測定における測定値のばらつきが少なくなることなどの点で好ましい。
PVA系樹脂[I]が前記の合成樹脂にグラフトした場合に、下記式(2)で表される値(W)が50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは65重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上である。かかる値は、グラフト化程度の目安になるものであり、この値が低すぎると、グラフト化の程度が低く、乳化重合時の保護コロイド作用が低下し、重合安定性が低下したり、加えてフィラー類との混和性が低下したりするなどの傾向がある。
式(2)の値(W)は、以下のようにして算出される。
即ち、対象となるエマルジョン等を、40℃×16時間乾燥して、厚さが約0.5mmの皮膜を作製し、それを23℃×65%RH下に2日間放置する。その皮膜を、沸騰水中で8時間抽出を行った後、アセトン中で8時間抽出を行い、グラフト化していない樹脂等を除去する。この場合の、抽出前の皮膜絶乾重量をw(g)、抽出後の皮膜絶乾重量をw(g)とし、下記の式より求める。
W(重量%)=(w)/(w)×100 …(2)
:抽出前の皮膜絶乾重量(g)
:抽出後の皮膜絶乾重量(g)
なお、抽出前の皮膜絶乾重量(w)は、予め、抽出試験サンプルとは別のサンプルを105℃×1時間乾燥させ、抽出前サンプルの皮膜絶乾重量を算出したものであり、抽出後の皮膜絶乾重量(w)は、抽出後のサンプルを105℃×1時間乾燥させた時の重量である。これらwとwの重量の算出は、それぞれ別のサンプルを用いたものであるため、同一条件下での取り扱いとすべく、両サンプルの乾燥にともなう揮発分割合により補正して、両サンプルの皮膜絶乾重量を算出した。
上記式(2)の値(W)を上記範囲に調整する方法としては、乳化重合温度を従来よりもやや高くしたり、重合用触媒として使用する過硫酸塩に極微量の還元剤(例えば、酸性亜硫酸ソーダ、など)を併用したりする等があげられる。
本発明においては、乳化重合後の水性合成樹脂エマルジョンに、必要に応じて各種添加剤をさらに加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、水溶性添加剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤などがあげられる。
このようにして、本発明で用いられる水性合成樹脂エマルジョンが得られるが、その使用に際しては、不揮発分として通常40〜60重量%に調整することが好ましい。
本発明においては、前記乳化重合により得られた水性合成樹脂エマルジョンを乾燥することにより、再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末とすることができる。
得られた再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末は、粉末のまま、または水に再乳化して水性合成樹脂エマルジョンとして水溶性カチオンポリマーと混合することができる。
乾燥方法は、特に制限はなく、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、凝析後の温風乾燥等があげられる。これらの中でも、生産コスト、省エネルギーの観点から噴霧乾燥することが好ましい。
噴霧乾燥の場合、その噴霧形式は、特に制限はなく、例えばディスク式、ノズル式などの形式により実施することができる。噴霧乾燥の熱源としては、例えば、熱風、加熱水蒸気などがあげられる。噴霧乾燥の条件としては、噴霧乾燥機の大きさ、種類、水性合成樹脂エマルジョンの不揮発分、粘度、流量等に応じて適宜選択することができる。噴霧乾燥の温度は、通常は、80〜150℃が好ましく、より好ましくは100〜140℃である。乾燥温度が低すぎると乾燥に時間を要し、生産的に問題が生じることがあり、高すぎると熱による樹脂自体の変質が起こり易くなってくる傾向がある。
噴霧乾燥処理をさらに具体例をあげて説明すると、まず水性合成樹脂エマルジョン中の不揮発分を調整し、これを噴霧乾燥機のノズルより連続的に供給し、霧状にしたものを温風により乾燥させて粉末化させる。場合により、調整した噴霧液を噴霧に際して予め加温してノズルより連続的に供給し、霧状にしたものを温風により乾燥させて粉末化させることも可能である。加温することで乾燥スピードが速くなり、かつ噴霧液の粘度低下に伴い噴霧液の高不揮発分化が可能で、生産コストの低減にも寄与する。
なお、本発明においては、抗粘結剤を、水性合成樹脂エマルジョンに混合したり、噴霧乾燥後の樹脂エマルジョン粉末に混合したり、噴霧乾燥時に水性合成樹脂エマルジョンと別のノズルから噴霧するなどして、併用することができる。
抗粘結剤を添加することにより、抗粘結剤で樹脂エマルジョン粉末をまぶすような状態にして貯蔵中などにおいて粒子同士が粘結して凝集しブロッキングするのを防止することができる。
抗粘結剤としては、公知の不活性な無機または有機粉末、例えば、無機粉末としては炭酸カルシウム、タルク、クレー、ドロマイト、無水珪酸、アルミナホワイト等を使用することができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらの中でも、無水珪酸、炭酸カルシウム、クレー等が好ましい。有機粉末としては合成樹脂のガラス転移温度が70℃以上の水性合成樹脂エマルジョンを噴霧乾燥してなる樹脂エマルジョン粉末も抗粘結剤として使用可能である。抗粘結剤の使用量は、得られる樹脂エマルジョン粉末に対して、5〜30重量%程度であることが好ましい。
再乳化性水性合成樹脂エマルジョン粉末の水への再乳化性をより向上させるために、水溶性添加剤を配合することができる。通常、水溶性添加剤は、乾燥前の水性合成樹脂エマルジョンに添加する。この添加量は、乾燥前の水性合成樹脂エマルジョンの不揮発分100部に対して、2〜50部である。添加量が少なすぎると水への再乳化性の向上が充分に図れない傾向があり、多すぎると水への再乳化性の向上には大いに役立つが皮膜の耐水性が低下し、期待する物性が発揮できなくなることがある。
水溶性添加剤としては、例えば、PVA系樹脂類、ヒドロキシエチルセルロース類、メチルセルロース類、ポリビニルピロリドン、でんぷん類、デキストリン類、水溶性アルキッド樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリアミド樹脂などの水溶性樹脂があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらの中でも、PVA系樹脂類が好ましい。
上記PVA系樹脂類としては、平均ケン化度85モル%以上のポリビニルアルコールが望ましく、87モル%以上であることがより好ましい。また、平均ケン化度の上限値としては、特に限定されるものではないが、99.5モル%以下であることが好ましく、95モル%以下であることがより好ましい。平均ケン化度が小さすぎると皮膜の耐水性が著しく低下する傾向があり、大きすぎると耐水性が良くなるが、水への再乳化性を悪くする傾向がある。
また、この平均重合度は、50〜3000であることが好ましく、200〜2000であることがより好ましく、300〜600であることがさらに好ましい。平均重合度が小さすぎると耐水性が低下する傾向があり、大きすぎると再乳化性が低下する傾向がある。
水への溶解性が容易でないものは、再乳化性に悪影響を与える場合があるので、事前に水への溶解性を確認した上で使用することが望ましい。
本発明においては、上記で得られた水性合成樹脂エマルジョンまたは水性合成樹脂エマルジョン粉末に、特定の水溶性カチオンポリマーを含有させることによって、本発明の目的とするカチオンポリマー含有水性エマルジョン、またはカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末が得られる。
具体的には、カチオンポリマー含有水性エマルジョン、またはカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末を得る方法として、(a)水性合成樹脂エマルジョンと液状の水溶性カチオンポリマーとを混合する、(b)(a)のカチオンポリマー含有水性エマルジョンを乾燥してカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末とする、(c)水性合成樹脂エマルジョンを乾燥してなる水性合成樹脂エマルジョン粉末と粉末状の水溶性カチオンポリマーとを混合する、等の方法があげられる。
本発明において用いられる水溶性カチオンポリマーとしては、液状のもの、粉末状のものがあり、例えば、水性合成樹脂エマルジョンに含有させる場合には液状の水溶性カチオンポリマーを用いたり、粉末状の水溶性カチオンポリマーを水溶液にして用いたりすることが好ましく、水性合成樹脂エマルジョン粉末に含有させる場合には粉末状の水溶性カチオンポリマーを用いたりすることが好ましい。但し、これらの使用形態に限定されるものではない。
水性合成樹脂エマルジョンに含有させる場合には、分子量3,000〜500,000の水溶性カチオンポリマーが用いられ、好ましくは5,000〜300,000であり、特に好ましくは8,000〜200,000である。分子量が大きすぎると水性合成樹脂エマルジョンの安定性が低下し凝集物が発生したり、また粘度が上昇したりする傾向があり、分子量が小さすぎるとエマルジョン粒子に対する吸着が不充分となり、期待されるセメントモルタル強度や接着強さが不充分となる傾向がある。
また、水性合成樹脂エマルジョン粉末に含有させる場合には、分子量3,000〜2,000,000の水溶性カチオンポリマーが用いられ、好ましくは50,000〜1,500,000であり、特に好ましくは100,000〜1,200,000である。分子量が大きすぎると、これをセメントモルタル混和剤としてセメントモルタルに使用した場合、セメントモルタルの安定性が低下しコテ作業性が悪くなったり、経時でセメントモルタル粘度が上昇したりする傾向がある。また、分子量が小さすぎると期待されるセメントモルタル強度や接着強さが発現しなくなる傾向がある。
本発明においては、水性合成樹脂エマルジョンまたは水性合成樹脂エマルジョン粉末のそれぞれに対して、特定範囲の分子量を持つ水溶性カチオンポリマーが安定に混和でき、かつ接着強さなどの向上が達成されるものとなったのである。
本発明の水溶性カチオンポリマーとは、ポリマー中にカチオン基を有するポリマーのことであり、かかる水溶性カチオンポリマーとしては、入手しやすい点、環境および人体への安全性に優れる点、カチオン強度が強すぎない点から、3級カチオンを有する基および4級カチオンを有する基の少なくとも一つを含む水溶性カチオンポリマーであることが好ましい。
3級カチオンを有する基としては、例えば、ジアリルモノメチルアンモニウムクロライド等のジアリルモノアルキルアンモニウムハライドなどがあげられ、4級カチオンを有する基としては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド等のジアリルジアルキルアンモニウムハライドなどがあげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらの中でもジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位を含む重合体が好ましい。
また、3級カチオンを有する基および4級カチオンを有する基の少なくとも一つを含むジアリル化合物とアクリルアミドとの共重合体や、該ジアリル化合物とマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸との共重合体なども好ましく用いられる。
具体的には、水溶性カチオンポリマーとしては、下記一般式(3):
Figure 2009035707
(式(3)中、R、Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。R、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Yは1価のアニオンである。)で示される繰り返し単位を有するポリマー(好ましい繰り返し単位数(重合度)は10〜4000である。)、または下記一般式(4):
Figure 2009035707
(式(4)中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基が好ましいがその限りではない。R、Rは、炭素数1〜2のアルキレン基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Zは酸である。)で示される繰り返し単位を有するポリマー(好ましい繰り返し単位数は10〜4000である。)などをあげることができる。
上記一般式(3)および(4)において、炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマル−プロピル基、イソプロピル基などをあげることができる。炭素数1〜3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などをあげることができる。
上記一般式(3)において、1価のアニオン(Y)としては、Cl、Brなどがあげられるが、なかでも特にClが好ましい。
上記一般式(4)において、アミンと塩を形成する酸(Z)としては、例えば、塩酸、硝酸等の無機酸および、蟻酸、酢酸、プロピル酸、マレイン酸、フマル酸等の有機酸などをあげることができる。これらの中でも、入手のしやすさから、無機酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
具体的には、下記一般式(5)および(6)の少なくとも一方で示される繰り返し単位を有するポリマーが好ましい。
Figure 2009035707
Figure 2009035707
また、下記一般式(7)と(8)との繰り返し単位を含むポリマーや、下記一般式(9)と(10)との繰り返し単位を含むポリマーが、特に好ましく用いられる。
Figure 2009035707
Figure 2009035707
Figure 2009035707
Figure 2009035707
上記一般式(7),(9)および(10)の繰り返し単位において、好ましい繰り返し単位数は10〜4000であり、上記一般式(8)の繰り返し単位において、好ましい繰り返し単位数は1〜500である。
上記ポリマーの中でも、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位を含む重合体であることがより好ましく、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの共重合体であることがさらに好ましい。
水溶性カチオンポリマーの添加量は、水性合成樹脂エマルジョン(不揮発分)または水性合成樹脂エマルジョン粉末100部に対して、0.1〜50部あることが好ましく、0.1〜10部であることがより好ましい。添加量が少なすぎると添加した効果が認められない傾向があり、多すぎるとカチオンポリマー含有水性エマルジョン、またはカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末を再乳化して得られる水性合成樹脂エマルジョンが凝集する傾向や経時で増粘する傾向がある。
また、得られたこれらカチオンポリマー含有水性エマルジョン、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末のゼータ電位としては、0.1〜100mVであることが好ましく、1〜100mVであることがより好ましく、3〜100mVであることがさらに好ましい。ゼータ電位は、本発明においては、特に旧モルタル面や樹脂塗面への密着性を示す指標となるものである。ゼータ電位が高すぎると、樹脂粒子の分散安定性が低下する傾向があり、ゼータ電位値が低くなりすぎると、セメントモルタルの流動性の低下、さらに旧モルタル面や樹脂塗面への密着性が低下したりする傾向がある。
本発明におけるゼータ電位とは、マイクロテック・ニチメン株式会社製の「ZEECOM IP−120B SYSTEM」を用いて測定したものである。なお、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末の場合には、水に再乳化してから測定に供する。
このようにして、本発明のカチオンポリマー含有水性エマルジョン、またはカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末を得ることができるが、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末を得るに当たっては、水性合成樹脂エマルジョンと水溶性カチオンポリマーからなるカチオンポリマー含有水性エマルジョンを上記の粉末化処理と同様にして、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末とすることもできる。
このようにして得られたカチオンポリマー含有水性エマルジョン、及びカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末を、セメントモルタル混和剤として使用した際に、良好な流動性、作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面などに対する密着性に優れた、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強さなどが向上するなどの優れた効果を有するようになる。そして、これらは、セメントモルタル混和剤として、補修モルタル用、下地調整塗材用、セルフレベリング材、タイル接着モルタル、モルタルシーラー・プライマー、モルタル養生剤、及び石膏系材料などの改質剤として有用であり、更に、土木・建材用原料、ガラス繊維収束剤、難燃剤用などにも有用である。
また、本発明のカチオンポリマー含有水性エマルジョン、及び、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末は、木部・木質用、紙用などの接着剤、紙・繊維などの加工剤、無機仕上げ剤、塗料、土木・建築原料などにも使用できる。
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
<カチオンポリマー含有水性エマルジョンの製造例>
〔実施例1/カチオンポリマー含有水性エマルジョン1〕
攪拌機と還流冷却器とを備えた2Lサイズのステンレス製反応缶に、670部の水、保護コロイドとして、側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA(平均重合度300、平均ケン化度99.1モル%、側鎖の1,2−ジオール結合の含有量8モル%/日本合成化学工業株式会社製)の46部、酢酸ナトリウムの2g、酸性亜硫酸ナトリウムの1gを仕込み、反応缶を85℃に加熱して、このPVAを溶解させた。次に、この反応缶の温度を80℃に保ち、ここに、予め混合しておいた混合モノマー〔ブチルアクリレート358部/メチルメタクリレート293部/アセトアセトキシエチルメタクリレート6.5部=54.4/44.6/1(重量比)〕の66部を添加し、重合開始剤として過硫酸アンモニウム1.6gを水30gに溶解した過硫酸アンモニウム水溶液の30%を加えて、初期重合反応を1時間行った。次いで、残りの混合モノマーと重合開始剤として前記過硫酸アンモニウム水溶液の60%とを、反応缶に4時間にわたって滴下して重合を進行させた。滴下終了後に前記過硫酸アンモニウム水溶液の10%を加え、同温度で1時間熟成させ、不揮発分50.1%の水性合成樹脂エマルジョン1を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョンの上記(2)で算出される値(W)は、80重量%であった。
この主要モノマー組成〔ブチルアクリレート/メチルメタクリレート=358/293=55/45(重量比)〕からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+105℃とした場合、約−1℃である。
得られた水性合成樹脂エマルジョン1の500gに、水溶性カチオンポリマーとして、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド/アクリルアミド共重合体(PAS−J−81L/25%水溶液、分子量:約10,000/日東紡株式会社製)5.5gを、水で2倍に希釈して添加し、更に加水して45%品に調整し、カチオンポリマー含有水性エマルジョン1を得た。
〔実施例2/カチオンポリマー含有水性エマルジョン2〕
混合モノマーの種類と組成比を、ブチルアクリレート/スチレン/アセトアセトキシエチルメタクリレート=54.4/44.6/1(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にして、不揮発分49.8%の水性合成樹脂エマルジョン2を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョンの上記(2)で算出される値(W)は、75重量%であった。
この主要モノマー組成〔ブチルアクリレート/スチレン=55/45(重量比)〕からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃とした場合、約−2℃である。
得られた水性合成樹脂エマルジョン2の500gに、水溶性カチオンポリマーとして、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド/アクリルアミド共重合体(PAS−J−81/25%水溶液、分子量:約200,000/日東紡株式会社製)5.5gを、水で2倍に希釈して添加し、更に加水して45%品に調整し、カチオンポリマー含有水性エマルジョン2を得た。
〔実施例3/カチオンポリマー含有水性エマルジョン3〕
混合モノマーの種類と組成比を、ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/グリシジルメタクリレート=54.4/44.6/1(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にして、不揮発分49.9%の水性合成樹脂エマルジョン3を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョンの上記(2)で算出される値(W)は、73重量%であった。
この主要モノマー組成〔ブチルアクリレート/メチルメタクリレート=55/45(重量比)〕からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、実施例1の水性合成樹脂エマルジョン1と同様に、約−1℃であった。
得られた水性合成樹脂エマルジョン3の500gに、実施例1と同様の水溶性カチオンポリマー(PAS−J−81L)5.5gを、水で2倍に希釈して添加し、更に加水して45%品に調整し、カチオンポリマー含有水性エマルジョン3を得た。
〔実施例4/カチオンポリマー含有水性エマルジョン4〕
混合モノマーの種類と組成比を、ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/ビニルトリメトキシシラン=54.4/44.6/1(重量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、不揮発分50.2%の水性合成樹脂エマルジョン4を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョンの上記(2)で算出される値(W)は、75重量%であった。
この主要モノマー組成〔ブチルアクリレート/メチルメタクリレート=55/45(重量比)〕からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、実施例1の水性合成樹脂エマルジョン1と同様に、約−1℃であった。
得られた水性合成樹脂エマルジョン4の500gに実施例1と同様の水溶性カチオンポリマー(PAS−J−81L)5.5gを、水で2倍に希釈して添加し、更に加水して45%品に調整し、カチオンポリマー含有水性エマルジョン4を得た。
〔実施例5/カチオンポリマー含有水性エマルジョン5〕
保護コロイドとして、側鎖に1,2ージオール結合を有するPVA(重合度300、ケン化度99.1モル%、側鎖の1,2ージオール結合の含有量3モル%/日本合成化学工業株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、不揮発分50.1%の水性合成樹脂エマルジョン5を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョンの上記(2)で算出される値(W)は、75重量%であった。
この主要モノマー組成〔ブチルアクリレート/ブチルメタクリレート=55/45(重量比)〕からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、実施例1記載の水性合成樹脂エマルジョン1と同様に約−1℃である。
得られた水性合成樹脂エマルジョン5の500gに実施例1記載の水溶性カチオンポリマー(PAS−J−81L)5.5gを、水で2倍に希釈して添加し、更に加水して45品に調整し、カチオンポリマー含有水性エマルジョン5を得た。
〔比較例1/カチオンポリマー含有水性エマルジョン6〕
実施例1で得られた水性合成樹脂エマルジョン1の500gに、水溶性カチオンポリマーとしてジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体(Magnafloc 368、分子量:約1,000,000/チバスペシャリテイ・ケミカルズ株式会社製)の2%水溶液の35gを添加したが、添加時にゲル化してしまい、カチオンポリマー含有水性エマルジョン6を得ることができなかった。
<カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末の製造例>
〔実施例6/カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末1〕
実施例1で得られたカチオンポリマー含有水性エマルジョン1(不揮発分45%)200部に対して、平均重合度500、平均ケン化度88モル%のPVA(ゴーセノールGL05/日本合成化学工業株式会社製)の20%水溶液を31.5部(カチオンポリマー含有水性エマルジヨンの不揮発分に対しPVA7%)添加し、加水して不揮発分を40%に調整した。抗粘結剤として炭酸カルシウムの存在下において、ノズル式の噴霧乾燥機により熱源を熱風として140℃の温風下にて噴霧乾燥させて、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末1を得た。
〔実施例7/カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末2〕
実施例1で得られた水溶性カチオンポリマー添加前の水性合成樹脂エマルジョン1(不揮発分50.1%)200部に対して、平均重合度500、平均ケン化度88モル%のPVA(ゴーセノールGL05/日本合成化学工業株式会社製)の20%水溶液を35部(水性合成樹脂エマルジョンの不揮発分に対しPVA7%)添加し、加水して不揮発分を40%に調整した。抗粘結剤として炭酸カルシウムの存在下において、ノズル式の噴霧乾燥機により熱源を熱風として140℃の温風下にて噴霧乾燥させて、水性合成樹脂エマルジョン粉末2を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョン粉末2の500gに、水溶性カチオンポリマーとして、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体(Magnafloc 368/微粉末品、分子量:約1,000,000/チバスペシャリテイ・ケミカルズ株式会社製)3g添加し、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末2を得た。
〔実施例8/カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末3〕
実施例3で得られた水溶性カチオンポリマー添加前の水性合成樹脂エマルジョン3(不揮発分49.9%)を用いて、実施例7と同様にして水性合成樹脂エマルジョン粉末3を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョン粉末3の500gに、水溶性カチオンポリマーとして、実施例7と同様のジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体(Magnafloc 368)3gを添加し、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末3を得た。
〔実施例9/カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末4〕
実施例4で得られた水溶性カチオンポリマー添加前の水性合成樹脂エマルジョン4(不揮発分50.2%)を用いて、実施例7と同様にして水性合成樹脂エマルジョン粉末4を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョン粉末4の500gに、水溶性カチオンポリマーとして、実施例7と同様のジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体(Magnafloc 368)5gを添加し、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末4を得た。
〔実施例10/カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末5〕
実施例5で得られた水溶性カチオンポリマー添加前の水性合成樹脂エマルジョン5(不揮発分50.1%)を用いて、実施例7と同様にして水性合成樹脂エマルジョン粉末5を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョン粉末5の500gに、水溶性カチオンポリマーとして、実施例7記載のジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体(Magnafloc 368)3gを添加し、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末5を得た。
上記実施例、比較例について以下の通り評価した。
<水溶性カチオンポリマーの混和安定性>
実施例、比較例で得られた水性合成樹脂エマルジョンに、上記水溶性カチオンポリマーを添加し、ゲル化の有無などの混和安定性を観察した。なお、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末の場合には、45%濃度となるように水に再乳化し、再乳化した時の状態から評価した。評価基準は以下のとおりである。
○・・・ゲル化などの変化は起こらない。
△・・・少し増粘するが、ゲル化などの変化は起こらない。
×・・・ゲル化、著しい粘度上昇。
<ゼータ電位>
マイクロテック・ニチメン株式会社製の「ZEECOM IP−120B SYSTEM」を用いてゼータ電位を測定した。なお、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末の場合には、水に再乳化してから測定に供した。
<セメントモルタルの流動性試験>
JIS A 6203に準じてセメントモルタル混和試験を行った。普通ポルトランドセメント500g、豊浦硅砂1500g、不揮発分45%のカチオンポリマー含有水性エマルジョン111g(不揮発分50g)および、練り混ぜ水265gを、ホバートミキサーで3分間攪拌して、セメントモルタルを調整した。このセメントモルタルの流動性は、フローテーブルの上に設置した底辺直径100mmのフローコーンに、上記セメントモルタルを詰め込み、フローコーンを抜き取った後、12mmの落下衝撃を15回与えてモルタルセメントの広がり直径を測定した。これを初期フローとして評価した。更に、1時間放置後、ホバートミキサーで30秒間攪拌して同様の測定を行った。これを1時間後のフローとした。
なお、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末の場合には、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末50gとし、水量を340gとして試験した。
カチオンポリマー含有水性エマルジョンのセメント(C)に対する水(W)量、すなわちW/Cは65%、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末のセメントに対する水量(W/C)は68%とした。
<セメントモルタル接着強さ>
JIS A 6203に準じてセメントモルタルの常態時接着強さ試験を行い、下記の基準で評価した。
供試体の作製:セメントモルタル基板(70×70×20mm/JIS R 5201準拠)をJIS R 6252に規定の150番研磨紙を用いて研磨した。この基板上に型枠を用いて各テストセメントモルタルを40×40×10mmとなるように充填し、成型・養生して供試体を作製した。
養生条件:成型後、温度20±2℃、相対湿度90%以上で48時間経過した後、脱型してから温度20±2℃の水中で5日間養生し、さらに温度20±2℃、相対湿度60±10%で21日間養生した。
なお、湿潤時接着強さの測定は、前記記載の養生を経た供試体を室温水に24時間浸漬後、ただちに取り出し、湿潤状態のままに接着強さを測定した。
測定は万能測定機(島津製作所株式会社製)にて行った。
(評価基準)
◎・・・ 接着強度1.5 N/mm以上
○・・・ 接着強度1.0 N/mm以上、1.5 N/mm未満
△・・・ 接着強度0.8 N/mm以上、1.0 N/mm未満
×・・・ 接着強度0.8 N/mm未満
これらの評価結果は、表1に示されるとおりであった。
Figure 2009035707
以上の結果より、実施例はいずれも、水溶性カチオンポリマーの混和安定性に優れ、良好な流動性とともに、常態時・湿潤時の接着強さに優れた結果が得られた。さらに、これら実施例の流動性と接着強さの物性は、ほとんどばらつきのない良好なものであった。
そして、カチオンポリマー含有水性エマルジョンのセメントに対する水量(W/C)は65%と少なく、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末のセメントに対する水量(W/C)も68%と少ない。このように少ない水量であっても、充分なレベルの流動性が得られるのは、水溶性カチオンポリマーを添加することによるものである。
これに対して、本発明に規定する範囲を超える分子量であるカチオンポリマーを含有する比較例1は、カチオンポリマーの添加時にゲル化してしまい、カチオンポリマー含有水性エマルジョン自体が得られないものであった。
本発明のカチオンポリマー含有水性エマルジョン、及びカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末は、セメントモルタル混和剤として使用した際に、良好な流動性、作業性を示し、物性ばらつきの少ない、加えて接着強度などが向上するなどの優れた効果を有し、セメントモルタル用途として、補修モルタル用、下地調整塗材用、セルフレベリング材、タイル接着モルタル、モルタルシーラー・プライマー、モルタル養生剤、及び石膏系材料などの改質剤として非常に有用である。更に、土木・建材用原料、ガラス繊維収束剤、難燃剤用などにも有用である。また、本発明のカチオンポリマー含有水性エマルジョン、及び、カチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末は、木部・木質用、紙用などの接着剤、紙・繊維などの加工剤、無機仕上げ剤、塗料、土木・建築原料などにも使用できる。

Claims (12)

  1. 側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂[I]により、合成樹脂が分散安定化されてなる水性合成樹脂エマルジョン、及び、分子量3,000〜500,000の水溶性カチオンポリマーを含有してなることを特徴とするカチオンポリマー含有水性エマルジョン。
  2. 水性合成樹脂エマルジョンが、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂[I]を保護コロイド剤として用い、アクリル系モノマー及びスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(A)と下記(ア)〜(カ)からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基含有モノマー(B)とを共重合成分として乳化重合してなることを特徴とする請求項1記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン。
    (ア)グリシジル基含有モノマー。
    (イ)アリル基含有モノマー。
    (ウ)加水分解性シリル基含有モノマー。
    (エ)アセトアセチル基含有モノマー。
    (オ)分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー。
    (カ)ヒドロキシル基含有モノマー。
  3. 官能基含有モノマー(B)の使用量が、全モノマー成分の0.01〜10重量%であることを特徴とする請求項2記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン。
  4. ポリビニルアルコール系樹脂[I]の使用量が、全モノマー成分100重量部に対して、3〜20重量部であることを特徴とする請求項2または3記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン。
  5. 分子量3,000〜500,000の水溶性カチオンポリマーが、3級カチオンを有する基及び4級カチオンを有する基の少なくとも一つを含む水溶性カチオンポリマーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョンを乾燥してなることを特徴とするカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末。
  7. 側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂[I]により、合成樹脂が分散安定化されてなる水性合成樹脂エマルジョンを乾燥してなる水性合成樹脂エマルジョン粉末、及び、分子量3,000〜2,000,000の水溶性カチオンポリマーを含有してなることを特徴とするカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末。
  8. 水性合成樹脂エマルジョン粉末が、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂[I]を保護コロイド剤として用い、アクリル系モノマー及びスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(A)と下記(ア)〜(カ)からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基含有モノマー(B)とを共重合成分として乳化重合してなる水性合成樹脂エマルジョンを乾燥してなることを特徴とする請求項7記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末。
    (ア)グリシジル基含有モノマー。
    (イ)アリル基含有モノマー。
    (ウ)加水分解性シリル基含有モノマー。
    (エ)アセトアセチル基含有モノマー。
    (オ)分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー。
    (カ)ヒドロキシル基含有モノマー。
  9. 官能基含有モノマー(B)の使用量が、全モノマー成分の0.01〜10重量%であることを特徴とする請求項8記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末。
  10. ポリビニルアルコール系樹脂[I]の使用量が、全モノマー成分100重量部に対して、3〜20重量部であることを特徴とする請求項8または9記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末。
  11. 分子量3,000〜2,000,000の水溶性カチオンポリマーが、3級カチオンを有する基及び4級カチオンを有する基の少なくとも一つを含む水溶性カチオンポリマーであることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末。
  12. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン、または請求項6〜11のいずれか一項に記載のカチオンポリマー含有水性エマルジョン粉末を含有してなることを特徴とするセメントモルタル混和剤。
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