JP2009031102A - 試料分析チップ - Google Patents

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Abstract

【課題】試料分析チップにおいて測定領域に試料液の流入が完了した後、試料液の流動は、試料液の測定の正確さを損ねる要因となる場合があるので、試料液の流動を制御すること。
【解決手段】本発明の試料分析チップは、2箇所の開口部を有する管状の試料液移送路を有している。これらの開口部のうち1箇所が試料液供給口であり、もう1箇所が空気口であって、前記試料液移送路内の前記空気口と測定領域との間に、試料液に溶解し試料液の粘性を増加させる試薬の層が前記試料液移送路を塞がないように配置されている。
【選択図】図1

Description

本発明は、試料液の分析を行うための試料分析チップに関する。
ポイント・オブ・ケアテスティング(POCT)と呼ばれる臨床検査分野が注目されている。POCTでは、簡易迅速測定、および検体を採取してから検査結果が出るまでの時間の短縮が目的とされている。したがって、POCTには簡易な測定原理、および小型で携帯性があり、操作性が良い測定装置が要求される。
今日、簡易測定原理の構築、それに伴う生体成分の固相化技術、センサデバイス化技術、センサシステム化技術、微細加工技術およびマイクロ流体制御技術の進歩によって、実用性の高いPOCT対応測定機器が提供されるようになってきている。
これまで、試料液の希釈や撹拌などを行うことなく簡易に試料液中の特定成分を測定する方法として、様々なセンサが提案されている。
このようなセンサには、測定する物質を基質とする酸化還元酵素を用いたバイオセンサがある。
例えば、酸化還元酵素にグルコースオキシターゼを用いたグルコースセンサがある(特許文献1参照)。特許文献1のグルコースセンサは、流路を有し、絶縁性の基板上にスクリーン印刷等の方式で測定極、対極を含む電極対が形成されている。さらに前記電極対上に親水性高分子および酸化還元酵素を含む反応試薬層が形成されている。
グルコースを含む試料液をグルコースセンサの先端の導入部に接触させると、試料液は流路内に流入し電極上の反応試薬層を溶解させる。これによりグルコースオキシターゼと試料液内のグルコースが反応する。グルコースオキシターゼは、酸素を電子受容体として基質であるβ−D−グルコースをD−グルコノ−δ−ラクトンに選択的に酸化する。この反応にともない、酸素は過酸化水素に還元される。このときの過酸化水素の生成量を電極を用いた過酸化水素電極によって測定することによりグルコースの定量が行われる(特許文献1参照)。
特許文献1のグルコースセンサでは電子受容体として酸素を用いたが、金属錯体や有機化合物を電子受容体として用いるバイオセンサもある。このタイプのセンサは、溶存酸素濃度の影響を受けにくく、酸素のない条件下でも測定が可能という利点を有する。
例えば、酸化還元酵素にコレステロールオキシターゼを用いたコレステロールセンサがある(特許文献2参照)。特許文献2のコレステロールセンサは、流路を有し、絶縁性の基板上にスクリーン印刷等の方式で測定極、対極を含む電極対が形成されている。さらに前記電極対上に親水性高分子、酸化還元酵素およびフェリシアン化カリウムなどの電子受容体を含む反応試薬層が形成されている。
コレステロールを含む試料液をコレステロールセンサの先端の導入部に接触させると、試料液は流路内に流入し電極上の反応試薬層を溶解させる。これにより酵素と基質が反応し、さらに電子受容体が還元される。酵素反応終了後、この還元された電子受容体を電気化学的に酸化し、このとき得られる酸化電流値から試料液中のコレステロールの濃度が求められる。
特許文献2の方法では、特許文献1の方法と異なり、酸素を電子受容体として用いず、フェリシアン化カリウムなどを電子受容体として用いる。このタイプのセンサでは、酵素反応の結果生じた電子受容体の還元体を電極で酸化することにより、その酸化電流からコレステロール濃度が求められる。この方法は、溶存酸素濃度の影響を受けにくく、酸素の無い条件下でも測定が可能という利点を有する。
また、前記の電子受容体の多くは、その酸化数に応じて電磁波の吸収波長が変化する。したがって吸光度を測定することによっても、試料液中での濃度変化を検出することが可能である。
また、上述した、基質特性が高い触媒材料である酵素を用いた選択反応による特定物質の検出のほかに、抗原抗体反応などを用いた検出方法を適用するセンサも数多く提示されている。例えば、ラテックス粒子等に特定物質と特異的に結合する抗体等を固定させ担体粒子を作製し、その担体粒子と前記特定物質との特異的凝集反応によって生じる担体粒子の凝集を指標にして前記特定物質を検出する方法がある。この方法は、POCT測定機器にも適用されている。担体粒子の凝集に伴う光の透過率の変化や、凝集により変化するけん濁粒子の個数または粒径分布の変化などを測定することで試料液中の特定物質の濃度を測定することが可能である。測定時間の短縮のために担体粒子の凝集を促進し、また形成される凝集塊の検出を容易にするために反応系をはさむ電極系に交流電圧を印加する方法も提案されている(特許文献3および特許文献4参照)。
特許文献3に示された方法は、試料液および担体粒子の混合液をはさむ電極系に、10mM以上の塩の共存下で5〜50V/mmの電界強度になるように交流電圧を印加する。電場形成前は担体粒子が均一に分散していることが望ましい。この電場形成により担体粒子が電場に沿って直線的に並ぶ(パールチェイン化)。この際、試料液内に前記特定物質が存在する場合、担体粒子同士は特定物質を介して結合する。一方で、試料液内に特定物質が無い場合、担体粒子同士は結合しない。その後、電圧印加を停止することで電場が解消すると、結合していない担対粒子はブラウン運動などによって再分散する。一方で特定物質を介して結合した担体粒子は電場解消後も結合したまま残る。前記結合した担体粒子を光学的に観察することで、試料液中の特定物質を検出することができる。
特許文献3および特許文献4に示された方法を使い捨てチップに適用するためには、担体粒子を乾燥状態でチップ内に配置することが望ましい。さらに、試料液が流入したときに、担体粒子を迅速にかつ試料液全体に均一に拡散させるためには、乾燥状態の担体粒子塊を試料液が停止した状態で溶解させ、その後に測定領域に移動させる必要がある。さらに、試料液が測定領域に到達した後は、試料液が静止することが必要である。これは、例えば、チップを先端部に空気口を有する細管構造とし、担体粒子が乾燥状態で配置されている位置と測定領域との間に開口部を設けることで実現されうる。この構造により、試料液は測定領域の上流で一旦停止し、担体粒子塊が試料液中に溶解する。次に、この開口部を塞ぐことで、測定領域に試料液を流入させることができる。
特開平1−291153号公報 特開平10−232219号公報 特開平7−83928号公報 国際公開第2005/088309号パンフレット
しかしながら、前記使い捨てチップでは、空気口の大きさが小さすぎると、試料液の測定領域への流入が遅くなり、試料液の分析にかかる時間が長くなってしまう。逆に、空気口の大きさが大きすぎると、空気口の部分で試料液が、チップの貼り合わせ境界部を伝って徐々に流出したり、試料液が蒸発したりすることにより、測定領域での試料液の流動が激しくなる場合がある。このように、測定領域での試料液の流動が激しいと、担体粒子の結合の様子を観察することが困難になる。また、前述したコレステロールセンサにおいても、電圧を印加し、電流を測定するとき、試料液が流動している場合に測定される電流値は、試料液が静止している場合に測定される電流値と大きく異なる。したがって、試料液が流動している場合、正確なコレステロールセンサ濃度を算出することができなくなる。
このように、試料液は速やかに測定領域まで流入することが望ましい。しかし、測定領域に試料液の流入が完了した後、試料液の流動は、試料液の測定の正確さを損ねる要因となる場合があるので、制御されることが望ましい。
本発明は、このような試料液の流動制御に関する課題を解決するためになされたものであり、試料液の流入および静止の制御が可能な試料分析チップを提供することを目的とする。
本発明の試料分析チップは、管状の試料液移送路を備え、前記管状の試料液移送路は2つの開口部を有し、前記開口部の一方は試料液供給口であり、他方は空気口であり、前記空気口と測定領域との間の前記試料液移送路には、増粘試薬層が配置されており、前記増粘試薬層によって前記試料液移送路は塞がれない。
本発明の構成により、試料液は本発明の試料分析チップに速やかに流入し、測定用の領域に移動した後に速やかに静止する。この効果により、試料液は、電気化学的、または光学的に容易かつ正確に分析される。これにより測定の迅速性および正確性が確保される。また、試料液が停止することで、固体状の試薬を試料液内に均一に分散させることができる。これにより、試料液と試薬との反応がより好適な条件でおこる。
本発明の試料分析チップは、試料液供給口および空気口の2箇所の開口部を有する管状の試料液移送路を有する。試料液移送路上の試料液供給口と空気口の間には測定領域がある。測定領域と空気口との間の試料液移送路には試料液に溶解し、試料液の粘性を増加させる試薬の層が、試料液移送路を塞がないように配置されている。また必要に応じて、試料液供給口と測定領域との間の試料液移送路に、一または複数の反応試薬層が配置されていてもよい。さらに、試料液移送路は、第三の開口部を有していてもよい。例えば、第三の開口部は測定領域と試料液供給口との間の試料液移送路に設けられる。
試料液移送路は、試料液を試料液供給口から、空気口へ移行させる管である。ここで「試料液」とは、試料液または試薬等と試料液との混合液を意味する。試料液が毛細管現象により、試料液供給口から空気口へ移送されるのであれば、試料液移送路の形状、および大きさは特に限定されない。毛細管現象は試料液と試料液移送路との壁面の濡れ性に起因するものであってもよい。例えば、試料液進行方向に対して垂直の試料液移送路の断面形状が四角形の管であり、幅が0.5〜10mm、高さが5〜1000μmである。より好ましくは、前記試料液移送路の幅は、0.5〜1.5mmであり、高さが10〜500μmである。また、毛細管現象による試料液を吸引する力を増加させるため、試料液移送路の内壁の表面には、濡れ性を改善するための加工が施されていてもよい。例えば、試料液移送路の内壁の表面は、界面活性剤で被覆されている。試料液移送路の壁面の一部は、特定の電磁波に透明な部材であってもよい。例えば、試料液移送路の壁面の一部は、可視光の波長域に含まれる波長の光に対して透明である。これにより、試料液移送路内の試料液の外観的変化のような試料液の様子が観察される。また、試料液の流入制御のための状態把握が可能である。さらに、試料液と試薬等との相互作用による化学的または物理的な変性を検出することも可能である。前記化学的または物理的な変性は、特定波長の電磁波に対する試料液の吸光度、透過率、または一定領域に含まれる試料液中の固形物の外観的性状の変化を意味する。例えば、ポリカーボネートには、可視光に対して非常に良好な透明性を有するものがあるので、試料液移送路の壁面の材質として、特に好ましい。
試料液供給口は、試料液が供給される開口部である。試料液供給口は試料液の供給を容易にするための点着部を有してもよい。試料液供給口は、試料液進行方向に垂直の試料液移送路の断面(以下「試料液移送路の断面」という。)と同じ寸法であってよい。また、例えば、血液を試料液とし、血球などの固形成分の除去が必要な場合、試料液供給口に血球除去用のフィルタが配置される。例えば、前記フィルタは、ガラス不織布が裁断されたものである。
空気口は、試料液が試料液移送路を移送される際に、試料液移送路内の空気を排出するための開口部である。空気の排出が円滑であれば、空気口の形状および大きさは限定されない。空気口は、試料液移送路の断面と同じ寸法であってよい。
測定領域は、試料液を光学的、または電気化学的に分析するための領域である。測定領域を構成する部材は、特定の波長域の電磁波を透過させるものでもよい。また、測定領域は電極系を備えてもよい。
ここで、「試料液を光学的に分析する」とは、特定波長の電磁波に対する試料液の吸光度、一定範囲の波長の吸光度スペクトル、透過率または濁度の測定、あるいは顕微鏡を用いて測定領域内の試料液中の固形物の外観的性状を観察することを意味する。
また、「試料液を電気化学的に分析する」とは、電極系を用いて、電圧印加時の試料液中の物質、または試料液中の物質と試薬等との化学反応によって生成した物質の酸化反応もしくは還元反応による電流値を測定することを意味する。
前記電極系は、試料液を電気化学的に分析するためのもの、または試料液中の特定物質を物理化学的に制御するためのものでもよい。物理化学的に制御する例には、パルスイムノアッセイが含まれる。電極系は、一組の電極対からなる。電極対を形成する電極は、試料液移送路の内部に形成された平面電極または導線であってもよい。平面電極は、導体を含むペーストの印刷による方法、スパッタ法または蒸着法によって形成されてもよい。このとき、マスクパターンなどにより薄膜形成部位を制御することで、好ましい電極形状を得ることができる。電極系の材質は、導体であり、試料液中でイオン化しにくく、試料液による酸化作用または還元作用を受けにくい材質であれば特に限定されない。このような材質の例には、金、白金、銀、銅、パラジウム、クロムまたはカーボンなどが含まれる。
前記電極系の一部は、試料液移送路以外の部分に、露出していてもよい。これにより、試料分析チップの外部に独立して設けられた電気化学測定装置、または試料液を物理化学的に制御するための電圧印加装置に接続するための端子構造が形成される。
試料分析チップの材質および形成方法は、特に限定されない。例えば、試料液移送路は、平板状の板材を組み合わせて形成されてもよいし、薄い平板状の板材を巻いて筒状にすることによって形成されてもよい。例えば、試料分析チップは、2枚の試料液移送路の底面および天井をそれぞれ形成する2枚の基板と、前記基板間に挿入され試料液移送路の側面をそれぞれ形成するスペーサを含む。また、試料分析チップは、ポリエチレンテレフタレートの板材をアクリル系接着剤で貼り合わせて、試料液移送路の断面が四角形になるよう形成されてもよい。
試料液に溶解し、試料液の粘性を増加させる試薬の層(以下、「増粘試薬層」という。)は、測定領域と空気口との間の試料液移送路に配置される。増粘試薬層は試料液に速やかに溶解し、試料液の粘性を増加させる試薬を含むのであれば特に限定されない。このような試薬の例には、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの親水性高分子またはこれらの塩、ゼラチンまたはその誘導体、あるいはスクロースなどが含まれる。特にカルボキシメチルセルロール塩は、0.1wt%から1.0wt%という低濃度でも、試料液に溶解し、試料液の粘性を増加させる効果が著しいことから、増粘試薬層に含まれる試薬として好ましい。増粘試薬層は、例えば、上記試薬の水溶液を滴下し、乾燥させることによって形成される。増粘試薬層の形状は、例えば、直径1.2mmであり、半球状である。増粘試薬層の高さは、試料液流路を塞がないのであれば特に限定されない。増粘試薬層は測定領域と空気口との間の試料液移送路内に配置される。試料液移送路の断面積は、増粘試薬層が配置されている箇所よりも試料液供給口側の任意の箇所と比較して、増粘試薬層が配置されている箇所または増粘試薬層が配置されている箇所よりも空気口側の特定箇所において小さくてもよい。試料液移送路の断面積を小さくするには、例えば、試料液移送路の天井高を低くすればよい。
反応試薬層は、試料液中の特定成分の化学反応を進行させるための試薬等を含む。ここで「試薬等」とは、試料液中の特定成分の化学反応を促進させるための試薬または酵素、あるいは試料液中の特定物質と特異的に結合する抗体、または前記抗体が表面に固定された微小粒子等のいずれかを1または2以上含むものを意味する。反応試薬層は、試料液と接触した際に目的に応じ、反応試薬層に含まれる試薬が溶解、分散または膨潤するものであればよい。反応試薬層は、固形化またはゲル状のような半固形化された状態で配置されていてもよい。反応試薬層は、前記試薬等を適当な溶媒に溶解させた試薬等含有溶液を滴下し、風乾させることで形成されてもよい。風乾法は、手軽であることから、作業の観点から好ましい。また、反応試薬層は、前記試薬等含有溶液を滴下し、凍結乾燥させることで形成されてもよい。凍結乾燥法を用いると、風乾法を用いた場合よりも、一般的に乾燥後に反応試薬層に残留する水分量が少なくなる。したがって、凍結乾燥法は、試薬等の保存安定性の確保のために好ましい。また、凍結乾燥法を用いると、滴下した溶液は、体積をほぼ維持した状態で、内部に空隙を生じた形態で固形化される。したがって、凍結乾燥法によって形成された反応試薬層は、試料液への溶解が迅速であり好ましい。また、反応試薬層は、前記試薬等溶媒をガラス濾紙など、試料液に溶解しない多孔質体に滴下し乾燥させることによって形成されてもよい。試薬等を多孔質体に固定することで形成された反応試薬層は、風乾法および凍結乾燥法により形成された反応試薬層よりも、表面積が大きいため、試料液に迅速に溶解することが期待される。一つの反応試薬層に必要な試薬等を全て含ませてもよいが、試薬等を二つ、またはそれ以上の反応試薬層に分割して含ませてもよい。反応試薬層は試料液供給口と測定領域との間の試料液移送路に配置される。
上記のような構造を有する試料分析チップは、試料液移送路内の試料液の外観的変化を観察することで、試料液分析装置として機能することができる。また、試料分析チップは、試料分析チップの外部に設けられた測定装置に組み合わされることで、試料分析装置となることもできる。前記測定装置は、例えば、光学測定装置または電気化学測定装置である。
ここで「光学測定装置」とは、試料分析チップ内の試料液の特定波長の電磁波に対する吸光度、一定範囲の波長の吸光度スペクトル、透過率または濁度を測定する装置、あるいは顕微鏡を意味する。
ここで「電気化学測定装置」とは、試料分析チップの電極系に電圧を印加し、電圧印加時の試料液中の物質または試料液中の物質と試薬等との化学反応によって生成した物質の酸化反応もしくは還元反応による電流値を測定する装置を意味する。
以下、本発明の試料分析チップによる試料液の分析方法について説明する。
本発明に試料分析チップによる試料液の分析方法は、(1)試料液を試料液供給口に点着させるステップ、(2)試料液を試料液移送路内に移送させるステップ、(3)試料液が増粘試薬層を溶解させるステップ、(4)試料液の流動を停止させるステップ、(5)試料液を分析するステップを含む。
(1)試料液供給口に試料液を点着させるステップでは、試料液を試料液供給口に点着させる。点着させる試料液にはあらかじめ試薬等が混合されていてもよい。
(2)試料液を試料液移送路内に移送させるステップでは、試料液が試料液移送路内を毛細管現象によって、測定領域を越えて、空気口方向へ移送される。このとき、反応試薬層がある場合は、試料液中に反応試薬層に含まれる試薬等が溶解され、試薬等が溶解した試料液が、測定領域を越えて、空気口方向へ移送される。
(3)試料液が増粘試薬層を溶解させるステップでは、試料液が、試料液供給口から空気口へ移送されるとき、測定領域と空気口との間の試料液移送路内に配置された増粘試薬層を溶解させる。これにより増粘試薬層が溶解した部分の試料液の粘度が増加する。
(4)試料液の流動を停止させるステップでは、粘度が増加した試料液が試料液移送路を塞ぐ。その結果、空気口から試料液が漏れ出すことが防止され、試料液の流動は停止する。
(5)試料液を分析するステップでは、試料液の流動が停止した後、電気化学的、または光学的に試料液を分析する。また、電極対に電圧を印加することで、試料液中の特定物質が物理化学的に制御された状態で、試料液を光学的に分析してもよい。
このように、本発明の試料分析チップでは、測定領域と空気口との間の試料液移送路に増粘試薬層を配置することで、試料液が速やかに測定領域に移送されることができ、かつ試料液が測定領域に移送された後は、試料液の流動を停止させることができる。この効果により、試料液を電気化学的にまたは光学的に、より正確に分析することができる。これにより試料液の分析の迅速性および正確性が確保される。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1では、試料液を光学的に分析する試料分析チップについて説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る試料分析チップの分解斜視図である。図2は、図1に示された試料分析チップの試料液移送路25の進行方向に平行な断面図である。
図1および図2において、の試料分析チップは、基板1、2つのスペーサ2、2’および天板3を有する。基板1、スペーサ2、2’および天板3が接着されると、試料液移送路25、試料液供給口23および空気口24が形成される。試料液移送路25は、測定領域9を備える。試料液移送路25には増粘試薬層4が配置される。
基板1は試料液移送路25の底面を形成する板である。基板1の測定領域に対応する部位は透明な材質であることが好ましい。透明な材質の例には、ポリエチレンテレフタレート、またはポリカーボネートが含まれる。
スペーサ2、2’は、試料液移送路25の両側面を形成する部材である。スペーサ2は試料液移送路25の一方の側面を形成し、スペーサ2’は試料液移送路25の他方の側面を形成する。スペーサ2、2’の材質は特に限定されないが、基板1の材質と同じであってよい。
天板3は、試料液移送路25の天井を形成する板である。天板3の材質は基板の材質と同じであってよい。
基板1、スペーサ2、2’および天板3は、試料液移送路25の断面が長方形であり、幅および高さが一定の試料液移送路25を形成するように接着される。基板1,スペーサ2、2’および天板3は、例えば、アクリル系接着剤によって接着される。
試料液移送路25は、試料液を試料液供給口23から空気口24まで移送させる管である。試料液移送路25の断面の大きさは、試料液移送路25が試料液を毛細管現象によって移送させることができるのであれば、特に限定されない。試料液移送路25の断面の幅は、例えば、0.5〜1.5mmであり、高さが10〜500μmである。
試料液供給口23は、試料液が供給される開口部である。試料液供給口の大きさは、特に限定されない。試料液供給口23の寸法は、試料液移送路25の断面の寸法と同じでよい。
空気口24は、試料液が試料液移送路内を移送される際に、試料液移送路内の空気を排出するための開口部である。空気口24は空気の排出が円滑であれば、大きさは特に限定されない。空気口24の寸法は、試料液移送路25の断面の寸法と同じでよい。
測定領域9は、試料液が光学的に分析される領域である。測定領域9は、図2で示す矢印方向に透明である。
増粘試薬層4は、試料液に溶解し、試料液の粘性を増加させる試薬を含む層である。増粘試薬層4は空気口に接するように、試料液移送路25の底面に配置される。増粘試薬層4は、例えば、カルボキシメチルセルロース塩を含む。また、増粘試薬層4は、例えば、カルボキシメチルセルロース塩の水溶液を滴下し、乾燥させることによって形成される。増粘試薬層4は、例えば、直径1.2mmであり、半球状である。増粘試薬層4の高さは、試料液流路を塞がないのであれば特に限定されない。
以下、上記のように構成された分析チップによる試料液の分析方法について説明する。
試料液供給口23に点着された試料液は、毛細管現象により、試料液移送路25内を空気口24方向へ移送される。試料液には、予め試薬等を溶解させてもよい。試料液が試料液移送路25内を移送されているとき、空気口24からは、試料液移送路25内の空気が排出される。試料液は試料液移送路25内の測定領域9を越えて、さらに空気口24方向へ移送される。試料液が空気口24まで達すると、空気口24に接するように配置された増粘試薬層4が、試料液に溶解する。これにより、増粘試薬層4が溶解した部分の試料液の粘性が増加する。粘性が増加した試料液は、空気口24を塞ぐ。空気口24が塞がれることにより、空気口から試料液が漏れ出すことが防止され、試料液の流動は停止する。
試料液の流動が停止した後、測定領域で、試料液が光学的に分析される。例えば、顕微鏡を用いて、測定領域内の試料液が観察される。
以上のように、本実施の形態によれば、試料液は、毛細管現象により速やかに試料液移送路25内に流入する。そして、試料液が空気口まで達すると、増粘試薬層4が試料液に溶解し、試料液の粘性を増加させる。粘性が増加した試料液は、空気口24を塞ぐ。空気口24が塞がれることにより、空気口から試料液が漏れ出すことが防止され、試料液の流動は停止する。この効果により、試料液の分析中に試料液が流動しないため、試料液は、容易かつ正確に光学的に分析される。
(実施の形態2)
実施の形態2では、試料液を電極により物理化学的に制御し、光学的に試料液を分析する試料分析チップ、または試料液を電気化学的に分析する試料分析チップについて説明する。
図3は、本発明の実施の形態2に係る試料分析チップの分解斜視図である。図4は、図3に示された試料分析チップの試料液の進行方向に平行な断面図である。
図3および図4において、試料分析チップは、基板1b、スペーサ2、2’天板3b、増粘試薬層4、反応試薬層5、および多孔質体6を有する。基板1bは、電極13および電極14を有する。基板1b、スペーサ2、2’および天板3bが接着されると、試料液移送路25、試料液供給口23および空気口24が形成される。試料液移送路25は、測定領域9を備える。
基板1bは試料液移送路25の底面を形成する板である。基板1bの測定領域に対応する部位は透明な材質であることが好ましい。透明な材質の例には、ポリエチレンテレフタレート、またはポリカーボネートが含まれる。基板1bの表面には、貴金属の薄膜による電極13および電極14が形成されている。
電極13および電極14は、試料液中の特定成分を物理化学的に制御するためのもの、または試料液を電気化学的に分析するためのものでよい。電極13および電極14は、試料液の進行方向に対して並行に試料液移送路25内に配置される。電極13および電極14の一部は、試料液移送路25の外部に露出するように形成される。電極13および電極14は、試料液移送路25内に試料液移送路25の幅よりも狭いギャップを形成するように配置されている。電極13および電極14は、電極13および電極14の形状をくりぬいたステンレスなどのマスク板を基板1bに貼り付けて、基板1bの表面にスパッタ法または蒸着法により、パラジウムなどの貴金属の薄膜を形成させることによって形成されてもよい。
スペーサ2、2’は、試料液移送路25の両側面を形成する部材である。スペーサ2は試料液移送路25の一方の側面を形成し、スペーサ2’は試料液移送路25の他方の側面を形成する。スペーサ2、2’の材質は基板1bの材質と同じであってよい。
天板3bは、試料液移送路25の天井面を形成する板である。天板3bの材質は特に限定されない。天板3bの材質は基板1bの材質と同じであってよい。図3において、天板3bには、多孔質体6を配置するための切り込みが設けられている。
基板1b、スペーサ2、2’および天板3bは、試料液移送路25の断面が長方形であり、幅および高さが一定の試料液移送路25を形成するように接着される。また、基板1b、スペーサ2、2’および天板3bは、電極13および電極14の一部が試料液移送路25の外部に露出するように接着される。さらに基板1b、スペーサ2、2’および天板3bは、多孔質体6を試料液供給口23に接するようにかつ試料液移送路25の外部に配置できるように、接着される。
増粘試薬層4は、空気口24から試料液移送路25外部へはみ出すように配置されてもよい。または、増粘試薬層4は、完全に試料液移送路25中に収まるように配置されてもよい。増粘試薬層4が、完全に試料液移送路25中に収まるように配置されている場合、試料液移送路25中を満たしている試料液のうち、増粘試薬が溶解している部分が占める割合が多くなる。これにより、反応試薬と試料液中の成分との反応に影響が生じる可能性が高くなる。しかし一方で、試料液移送路25中から試料液の漏れ出しを防ぐ効果は大きくなり、反応中の試料液の漏れ出しおよび乾燥などの影響を緩和する。
多孔質体6は、試料液をろ過するフィルタとして機能する多孔質体である。血液を試料液とする場合、多孔質体6は、例えば、血球ろ過用のフィルタである。また多孔質体6内には反応試薬層5が固定される。多孔質体6は、例えば、ガラス不織布を裁断したものである。多孔質体6は基板1b上に、試料液移送路25の外部に試料液供給口23に接するよう配置される。
反応試薬層5は、試料液中の特定成分の化学反応を促進させるための酵素や電子受容体等を含む。
以下、上記のように構成された分析チップによる試料液の分析方法について説明する。
試料液は、まず多孔質体6に点着される。多孔質体6により試料液から不要物が取り除かれる。不要物が取り除かれた試料液は、反応試薬層5を溶解させる。反応試薬層5を溶解させた試料液は、毛細管現象により、試料液移送路25内を空気口24方向へ移送される。試料液が反応試薬層を溶解させたことで、試料液内では特定の化学反応が進行する。その後、試料液はさらに空気口方向へ移送され、増粘試薬層4を溶解させる。これにより、増粘試薬層4が溶解した部分の試料液の粘性が増加する。粘性が増加した試料液は空気口24を塞ぐ。これにより、試料液の流動が停止する。
特定の化学反応が終了し、試料液の流動が停止した後に、測定領域で試料液が光学的に分析される。光学的分析は顕微鏡観察であってよい。また、試料液移送路25の外部の基板1b上に露出した部分の電極13および電極14を、電圧印加装置に接続することで、電極13と電極14との間に電圧を印加することができる。これにより、電極試料液中の成分を物理化学的に制御する工程を含んだ光学的分析が可能となる。
「電極試料液中の成分を物理化学的に制御する工程」の例にはパルスイムノアッセイが含まれる。パルスイムノアッセイでは、特定の抗原と特異的に結合する抗体等が固定された担体粒子を含む試料液を流入させた後、電極間に交流電圧を印加する。電圧印加による電場形成により誘電泳動力が生じ、前記担体分子が電極間で一直線状に並ぶ。一直線状に並んだ担体粒子を「パールチェイン」という。この際、試料液内に前記抗原が存在する場合、担体粒子同士は抗原を介して結合する。一方で、試料液内に抗原が無い場合、担体粒子同士は結合しない。その後、電圧印加を停止することで電場が解消すると、結合していない担対粒子はブラウン運動などによって再分散する。一方で抗原を介して結合した担体粒子は電場解消後も結合したまま残る。前記結合した担体粒子を光学的に観察することで、試料液中の特定の抗原を検出することができる。パルスイムノアッセイは、ブラウン運動のみで担体同士を接触させるよりも、迅速に担体同士を接触させることができるという利点を有する。
なお、試料液は電気化学的に分析されてもよい。電気化学的分析では、試料液移送路25の外部の基板1b上に露出した電極13および電極14を、電圧印加装置に接続し、電極13と電極14との間に電圧を印加する。そして電圧印加時の試料液の特定の物質の酸化反応または還元反応による電流値が測定される。これより、例えば、特定の物質の検出または濃度が測定される。
以上のように、本実施の形態によれば、試料液は、毛細管現象により試料液が試料液移送路25内に速やかに流入する。そして、試料液が空気口24まで達すると、増粘試薬層4が試料液に溶解し、試料液の粘性を増加させる。粘性が増加した試料液は、空気口24を塞ぐ。空気口24が塞がれることにより、空気口から試料液が漏れ出すことが防止され、試料液の流動は停止する。この効果により、試料液の分析中に試料液が流動しないため、試料液は、容易かつ正確に光学的または電気化学的に分析される。
(実施の形態3)
実施の形態3では、試料液を電気化学的に分析する試料分析チップについて説明する。
図5は、本発明の実施の形態3に係る試料分析チップの分解斜視図である。図6は、図5に示された試料分析チップの試料液の進行方向に平行な断面図である。
図5および図6において、試料分析チップは、基板1c、スペーサ15、15’、スペーサ16、天板3c、反応試薬層5、多孔質体6、および増粘試薬層4を有する。基板1cは、電極10および電極11を有する。基板1c、スペーサ16および天板3cが接着されると、試料液移送路25、試料液供給口23および空気口24が形成される。
基板1cは、試料液移送路25の底面を形成する板である。基板1cの材質は特に限定されない。基板1cの材質は例えばポリエチレンテレフタレートである。基板1cの表面には、パラジウムなどの貴金属の薄膜による電極10および電極11が形成されている。
電極10および電極11は、電圧が印加された際に、試料液中の物質の酸化反応または還元反応による電流値を測定するためのものである。電極10および電極11は、基板1cの表面に形成された前記貴金属の薄膜に、YAGレーザなど、基板1cの材質には吸収されないレーザを照射し、薄膜の一部を取り去ることで得てもよい。
スペーサ15、15’は、試料液移送路25の側面を形成する板である。スペーサ15,15’の材質は基板の材質1cと同じであってよい。
スペーサ16は、試料液移送路25の側面および試料液移送路25の空気口近傍の天井を形成する板である。
天板3cは、試料液移送路25の天井を形成する板である。天板3cの材質は基板1cと同じであってよい。天板3cは、基板1cに多孔質体6を配置するための切り込みを有している。
基板1c、スペーサ15、15’、スペーサ16および天板3cは、試料液移送路25の断面が長方形であり、幅が一定の試料液移送路25を形成するように接着される。基板1c、スペーサ15、15’、スペーサ16および天板3cは、試料液移送路25内に電極10からなる作用極および電極11からなる対極が形成されるように接着される。また、基板1c、スペーサ15、スペーサ15’、スペーサ16および天板3cは、電極10および電極11の一部が試料液移送路25の外部に露出するように接着される。さらに基板1c、スペーサ15、15’、スペーサ16および天板3cは、多孔質体6を試料液供給口23に接するようにかつ試料液移送路25の外部に配置できるように、接着される。接着にはアクリル系接着剤が用いられる。図6に示すように、試料液移送路25の天井高はスペーサ16により空気口近傍で低くなる。
増粘試薬層4および反応試薬層5の形成方法等については、実施の形態2と同様である。
以下、上記のように構成された分析チップによる試料液の分析方法について説明する。
多孔質体6に点着された試料液は、フィルタとしての多孔質体6により不要物が取り除かれる。不要物が取り除かれた試料液は、毛細管現象により、試料液移送路25内を空気口24方向へ移送される。試料液は空気口24方向へ移行される際、反応試薬層5を溶解させる。試料液が反応試薬層を溶解させたことで、試料液内では特定の化学反応が進行する。その後、試料液はさらに空気口方向へ移送され、増粘試薬層4を溶解させる。これにより、増粘試薬層4が溶解した部分の試料液の粘性が増加する。粘性が増加した試料液は空気口24を塞ぐ。これにより、試料液の流動が停止する。
特定の化学反応が終了し、試料液の流動が停止した後に、測定領域9で試料液が電気化学的に分析される。具体的には、試料液移送路25の外部の基板1c上に露出した電極10および電極11を電圧印加装置に接続し、電極10と電極11との間に電圧を印加する。そして、電圧印加時の試料液中の特定の物質の酸化反応または還元反応による電流値が測定される。これにより、例えば、特定の物質の検出または濃度が測定される。
以上のように、本実施の形態によれば、試料液は、毛細管現象により試料液が試料液移送路25内に速やかに流入する。そして、試料液が空気口24まで達すると、増粘試薬層4が試料液に溶解し、試料液の粘性を増加させる。粘性が増加した試料液は、空気口24を塞ぐ。空気口24が塞がれることにより、空気口から試料液が漏れ出すことが防止され、試料液の流動は停止する。この効果により、試料液の分析中に試料液が流動しないため、試料液は、容易かつ正確に電気化学的に分析される。
また、本実施の形態では、空気口近傍の試料液移送路25の天井高が、それ以外の試料液移送路25の天井高よりも低くなっている。これにより、空気口近傍以外の試料液移送路25の天井高は、試料液の移送、特定の化学反応や特定物質の検出等に必要な高さにされる。さらに空気口近傍の天井高は、増粘試薬層が溶解した試料液によって容易に塞がれる程度の高さにされる。
以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
(コレステロールセンサ)
実施例1では、本発明の試料分析チップをコレステロールセンサに適用した例について説明する。本実施例の試料分析チップは、本発明の実施の形態3で説明したような構造を有する。
試料液移送路の作製
試料液移送路の幅が、1.2mm、試料液供給口から空気口までの試料液移送路の長さが4mmになるように、基板、スペーサおよび天板がそれぞれ接着された。
電極系の作製
基板にパラジウムの薄膜を形成した。そして、この薄膜をYAGレーザで描線し、作用極および対極が形成されるようにパラジウムの薄膜を0.1mmの幅で除去した。作用極は、試料供給口から空気口1mmの方向位置に1mmの幅になるように作製された。対極は作用極の空気口方向側および試料液供給口側に作用極を挟むように配置された。
反応試薬層の作製
反応試薬層は基板上の作用極を覆うように形成された。反応試薬層はフェリシアン化カリウム70mM、カルボキシメチルセルロース(以下「CMC」という。)0.05wt%、タウリン1.33wt%、マルチトール0.1%、ノカルジア由来のコレステロールオキシダーゼ(以下「ChOD」という。)0.75キロユニット/ml(約2.34wt%)、シュードモナス由来のコレステロールエステラーゼ(以下「ChE」という。)2キロユニット/ml(約1.1wt%)、およびコレステロールエステラーゼの反応を活性化させる作用を有する界面活性剤であるポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテル(TritonX−100)0.5wt%、同じく界面活性剤であるコール酸ナトリウム塩75mMの混合水溶液を0.1μl滴下し、室温25℃中の実験室内で乾燥させて層を形成する工程を5回繰り返して形成された。この形成方法により、反応試薬層の直径は約1mmとなり、反応試薬層を試料液移送路中に全てを収めることができた。上記混合溶液を、一度に0.5μl滴下した場合、液滴が過度に広がり、反応試薬層の直径を1mm以内に収めることができない。したがって、本実施例では上記方法を採った。タウリン、マルチトールおよびCMCを混合水溶液に添加することで、乾燥時の反応試薬層の表面形状が均一になり、かつ試料液点着時の反応試薬の溶解が迅速になるという効果がある。また、反応試薬層は2箇所、またはそれ以上の箇所に配置することもできる。反応試薬層を2箇所以上に配置することで、反応試薬層に含まれる試薬等が相互作用することを防止することができる。
反応機構
本実施例の試料分析チップは、試料液中のコレステロール濃度を測定するために、以下の反応機構を用いた。
(1)コレステロールエステル→コレステロール+脂肪酸(酵素:ChE)
(2)コレステロール+フェリシアン化物イオン→コレステノン+フェロシアン化物イオン(酵素:ChOD)
以下、上記反応機構の説明をする。
診断指針として用いられる血清コレステロール値は、コレステロールとコレステロールエステルの濃度を合計したものである。したがって、まず、血漿に含まれるコレステロールの脂肪酸エステルであるコレステロールエステルを、ChEによる触媒作用を用いてコレステロールに変換する必要がある。この反応を示すのが上記の反応式(1)である。次に、ChODを触媒として、コレステロールを酸化させる。ChODは、コレステロールの酸化と同時に生じる電子によって、フェリシアン化物イオンを還元させる。フェリシアン化物イオンが還元されるとフェロシアン化物イオンに変化する。このフェリシアン化物イオンの減少による吸光度変化などを測定することで、フェリシアン化物イオン濃度の減少量を定量することができる。フェリシアン化物イオンの減少量は、コレステロール濃度に対応する。したがって、フェリシアン化物イオンの減少量を定量することで、コレステロール濃度を算出することが可能である。
反応試薬層は2箇所、またはそれ以上の箇所に配置することもできる。反応試薬層を2箇所に配置する場合は、フェリシアン化カリウムを一方の反応試薬層に含ませ、酵素および界面活性剤を他方の反応試薬層に含ませるのが好ましい。さらに、フェリシアン化カリウムを含む反応試薬層を、酵素および界面活性剤を含む反応試薬層より試料液供給口側に配置し、作用極を覆うように酵素および界面活性剤を含む反応試薬層を配置するのが好ましい。仮に、フェリシアン化カリウムを含む反応試薬層を試料液移送路の下流側に配置すると、まず、ChE,ChODを含む反応試薬層が試料液中に溶解し、コレステロールの酸化反応が先に開始されてしまう。この場合、コレステロールの酸化に伴う電子の受容体に試料液中の溶存酸素分子が用いられ、過酸化水素が生成される反応が生じる。この結果、フェリシアン化物イオンの減少による定量が不可能になる。したがって、フェリシアン化カリウムを含む反応試薬層は上流側に配置されなければならない。
増粘試薬層の作製
増粘試薬層は、基板上の空気口に対応する位置に形成された。増粘試薬層は0.5wt%のCMC水溶液を0.5μl滴下し、乾燥させて形成された。このCMC水溶液を0.5μl滴下すると、液滴はほぼ半球状になり、その直径は約1.2mmになる。その後の乾燥により得られる増粘試薬層の直径もおよそ1.0mmになり、試料液移送路からはみ出さない。
基板、スペーサおよび天板の接着
厚さ75μmのスペーサAの片面に厚さ12.5μmの接着剤を配置させ、スペーサAが天板に接着された。厚さ25μmのスペーサBの両面に12.5μmの接着を配置させ、天板に接着されたスペーサAにスペーサBが接着された。スペーサAは試料液移送路の側面および空気口近傍の試料液移送路の天井の一部を構成する。そして、スペーサAおよびスペーサBが接着された天板が、基板に接着された。接着に用いた接着剤はアクリル系接着剤である。スペーサの材質はポリエチレンテレフタレートである。こうして、幅は、1.2mm、試料液供給口から空気口までの試料液移送路の長さは4mm、そして試料液移送路の天井高は137.5μmの試料液移送路が形成された。さらに空気口近傍の試料液移送路の天井高は50μmであり、他の試料液移送路内の領域の天井高と比較して低くなっている。
多孔質体の配置
試料液供給口に接するように多孔質体を配置した。本実施例では、多孔質体は血球ろ過フィルタとして機能する。多孔質体はワットマン社製のMF−1フィルタを1.2mm×7.5mmに裁断して作製した。MF−1フィルタは、632μmの厚みを有する。多孔質体に全血を点着すると、本発明の試料液移送路を満たすだけの血漿を得ることができた。血球ろ過フィルタとしては、このMF-1と同様のガラス不織布以外にも、血球を損傷せず、血球と血漿の浸透の速度差による濾過が可能なものを用いることができる。ガラス不織布以外の血球ろ過フィルタは、例えば、樹脂繊維で形成されたものである。
上記方法によって作製したバイオセンサに、試料液としての血液を基板上の血球ろ過フィルタに5μl滴下した。血球ろ過フィルタにより、血液から血漿が分離され、血漿のみが試料液供給口から試料液移送路に流入した。血漿はまず、反応試薬層に到達し、反応試薬層を溶解させた。その後、血漿は、空気口部分まで到達して、増粘試薬層を溶解させ、血漿の流動は停止した。
試料液としての血漿の流動が停止してから2分後に、作用極および対極間の電圧が0.4Vになるように両電極に電圧を印加した。その直後から、両電極間に流れる電流を測定した。電圧印加4秒後の電流値は、コレステロール濃度に依存的な数値を示した。
(微粒子計測セル)
実施例2では、本発明の試料分析チップを微粒子計測セルに適用した例について説明する。本実施例の試料分析チップは、本発明の実施の形態1で説明したような構造を有する。
増粘試薬層の作製方法
基板の試料液移送路に対応しかつ空気口に対応する部分に、0.5wt%CMC水溶液が0.1μl、滴下され乾燥された。これにより空気口の位置に半円状の増粘試薬層が形成された。
試料液移送路の作製
試料液移送路の幅が、0.8mm、試料液供給口から空気口までの試料液移送路の長さは7.5mmとなるように基板、スペーサおよび天板がそれぞれ接着された。スペーサには総厚み10μmの両面粘着基板を用いたので、天井高は10μmとなった。天板には、親水処理剤を塗布されたポリエチレンテレフタレート板が使用された。
上記方法によって作製した微粒子計測セルに、試料液(BSAを表面に固定した直径2.0μmのポリスチレンビーズ0.4wt%、BSA1wt%のMOPSバッファー(pH7.4)20mM)を添加した。試料液は空気口まで達すると増粘試薬層が溶解され、試料液の流動が停止した。その直後、顕微鏡で測定領域の試料液移送路内を観察したところ、顕微鏡下で観察される微粒子は静止していた。
増粘試薬層を配置しないもので同様の実験を行った。増粘試薬層が配置されていない場合、試料液内の微粒子の流動は、試料液の流入後、少なくなった。しかし、微粒子は少しずつ空気口側に移動したり、暫くすると試料液供給口方向に移動したりと、静止しなかった。または微粒子の流動が静止するまでかなりの時間を要した。
この実験結果により、本実施例の試料分析チップは、微粒子計測セルとして用いることができることが確認された。例えば、BSAの代わりに抗体を表面に固定した担体粒子を試料液中に混合することができる。これにより、担体粒子と試料液中の特定物質との凝集を惹起させ、その凝集率を計測するような免疫センサとして用いることができる。
(微粒子計測セル)
実施例3では、本発明の試料分析チップを微粒子計測セルに適用した例について説明する。本実施例の試料分析チップは、本発明の実施の形態2で説明したような構造を有する。
本実施例の計測の原理は、特許文献3および特許文献4に示された「パルスイムノアッセイ」と呼ばれる方法である。この方法では、特定の抗原と特異的に結合する抗体等が固定された担体粒子を含む反応系に交流電圧を印加する。電圧印加による電場形成により誘電泳動力が生じ、担体粒子が電場に沿って直線的に並ぶ(パールチェイン化)。この際、試料液内に前記抗原が存在する場合は、担体粒子は抗原を介して結合する。一方で、試料液内に抗原が無い場合は、担体粒子同士は結合しない。その後、電圧印加を停止することで電場が解消すると、結合していない担対粒子はブラウン運動などによって再分散する。一方で抗原を介して結合した担体粒子は電場解消後も結合したまま残る。前記結合した担体粒子を光学的に観察することで、試料液中の特定の抗原を検出することができる。
電極の作製
基板上に電極パターン型に切り抜いたステンレスのマスクを貼り付けた状態でスパッタ法により、図3のような電極を基板上に形成させた。電極の材質には金(Au)を用いた。試料液移送路内の電極間のギャップは0.5mmになるように、電極対を形成した。ギャップは狭いほうが、同じ電圧を両極に印加した場合に、より大きな誘導電力を得ることができる。しかし電極部分では光学的観察ができないため、あまりにギャップを狭くすることは、測定領域内での光学的観察が困難となるため好ましくない。ギャップは概ね0.1mm〜0.5mmが好ましい。
基板、スペーサおよび天板の接着
基板、スペーサおよび天板は、試料液移送路の幅が0.8mm、試料液供給口から空気口までの試料液移送路の長さが4.5mm、そして天井高が10μmになるようにそれぞれ接着された。その際に、電極が試料液移送路の外部に露出するように、基板、スペーサおよび天板がそれぞれ接着された。
反応試薬層の作製
本実施例では、反応試薬等を多孔質体に固定することで反応試薬層を作製した。多孔質体としては、ワットマン社製のFusion5というガラス不織布を用いた。この製品は、いわゆるコンジュゲーションパットとして好適である。この製品以外でも、本実施例で用いる担体粒子を含浸固定化でき、かつ試料液の添加によって試料液中に速やかに担体粒子が分散するといった機能が担保されるなら、他の多孔質体を用いてもよい。このFusion5を、0.8mm×1.0mmに裁断して、後述する試薬分散液を0.3μl滴下し、乾燥させて、反応試薬層とした。反応試薬層は試料液供給口に接するように、試料液移送路の外部に配置された。
試薬分散液の作製
試薬分散液の構成は、抗CRP(C反応性タンパク)ポリクローナル抗体を表面に固定した直径2.0μmのポリエチレンビーズ0.4wt%、トレハロース5wt%にした。
上記方法で作製した、試料分析チップに試料液として10−10MのCRP溶液を反応試薬層に滴下した。滴下された試料液は反応試薬層を溶解させ、速やかに試料液移送路内に流入した。このとき、測定領域内の試料液の様子を顕微鏡で観察したところ、担体粒子の密度は、試薬分散液内の担体粒子密度と比較しておよそ半分程度であった。担体粒子が分散するための充分な時間が経過していないからである。しかし、倍率600倍で観察すると、数百個の担体粒子が1視野に観察され、担体粒子の密度は測定するために充分であると思われた。試料液移送路内に試料液が流入し、空気口まで到達した後に、増粘試薬層の効果により、試料液中の担体粒子は顕微鏡視野下で、ほぼ停止した。その後電極間に20V、100kHzの交流電圧を印加した。波形は短形波である。およそ1分間印加すると、顕微鏡視野下のほぼ全ての担体粒子が電場に沿って直線的に、数個から数十個の数珠状につながった。ここまでの担体粒子の挙動はCRPの有無に関係なく、同様であった。電圧印加を中止したところ、CPR無添加の試料液では、数珠状につながった担体粒子は徐々にバラバラになり、多くの担体粒子は1個ずつに分散した。一方でCRP添加の試料液では、担体粒子が数個ずつ連なったものが多く存在し、CRP無添加の試料液との差は明確であった。
増粘試薬層を配置しなかった場合でも同様の実験を行った。増粘試薬層を配置しなかった場合、試料液が試料液移送路に流入した後も、担体粒子の動きは止まらず、さらに時間と共に速度が変動する様子が観察された。電圧印加時には、担体粒子が静止しているより、若干流動していたほうが、担体粒子の結合形成には有利であると思われる観察結果もあるが、あまりにも流動の速度が変動するとかえって担体粒子の結合形成が防げられる。また、観察にも支障をきたす。
以上のように、本発明の試料分析チップは、増粘試薬層の配置により試料液の移動と静止を確実に行なうことができる。これにより、本発明の試料分析チップは測定の迅速性及び正確性を確保することができるという効果を有し、血液成分測定装置等、POCT機器として有用である。
本発明の実施の形態1に係る試料分析チップの分解斜視図 図1に示す試料分析チップの縦断面図 本発明の実施の形態2に係る試料分析チップの分解斜視図 図3に示す試料分析チップの縦横断面 本発明の実施の形態3に係る試料分析チップの分解斜視図 図5に示す試料分析チップの縦横断面
符号の説明
1、1b、1c 基板
2、2’、15、15’、16 スペーサ
3、3b、3c 天板
4 増粘試薬層
5 反応試薬層
6 多孔質体
9 測定領域
10、11、13、14 電極
23 試料液供給口
24 空気口
25 試料液移送路

Claims (17)

  1. 管状の試料液移送路を備える試料分析チップであって、
    前記管状の試料液移送路は2つの開口部を有し、
    前記開口部の一方は試料液供給口であり、他方は空気口であり、
    前記空気口と測定領域との間の前記試料液移送路には、増粘試薬層が配置されており、
    前記増粘試薬層によって前記試料液移送路は塞がれないことを特徴とする、
    試料分析チップ。
  2. 前記試料液移送路の断面積は、前記増粘試薬層が配置されている箇所よりも試料液供給口側の任意の箇所と比較して、前記増粘試薬層が配置されている箇所または前記増粘試薬層が配置されている箇所よりも空気口側の特定箇所において、小さいことを特徴とする、請求項1に記載の試料分析チップ。
  3. 前記試料液移送路内に反応試薬層が、さらに配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の試料分析チップ。
  4. 試料液を分析するための装置として機能することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の試料分析チップ。
  5. 外部に設けられた装置と組み合わせることで、試料液を分析するための装置として機能することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の試料分析チップ。
  6. 前記試料液移送路の内面に、測定極および対極を含む電極対を有し、
    これらの電極対を外部の測定装置に接続するための導線部が前記試料液移送路外まで設けられていることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の試料分析チップ。
  7. 分析する対象が、前記試料液中の特定の成分と前記反応試薬層の試薬との相互作用により変化する電気化学的性質であることを特徴とする、請求項6に記載の試料分析チップ。
  8. 請求項6または請求項7に記載の試料分析チップと、前記試料分析チップの外部に設けられた電気化学測定装置とを有することを特徴とする、前記試料液を電気化学的に分析する装置。
  9. 前記試料液移送路の壁面を形成する部材の一部が可視光の波長域に含まれる波長の光に対して透明であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の試料分析チップ。
  10. 分析する対象が、前記試料液中の特定の成分と前記反応試薬層の試薬との相互作用により変化する、試料液の特定波長の電磁波に対する吸光度、または透過率、あるいは一定領域に含まれる試料液中の固形物の外観的性状であることを特徴とする、請求項9に記載の試料分析チップ。
  11. 請求項9または10に記載の試料分析チップと、前記試料分析チップの外部に設けられた光学測定装置とを有することを特徴とする、前記試料液を光学的に分析する装置。
  12. 前記試料液移送路の天井を形成する第一の基板と、
    前記試料液移送路の底面を形成する第二の基板と、
    前記第一の基板と前記第二の基板との間で、前記試料液移送路の側面を形成するスペーサと、
    を有する、請求項1から請求項7、請求項9、請求項10のいずれか一項に記載の試料分析チップ。
  13. 前記増粘試薬層が親水性高分子を含むことを特徴とする請求項1から請求項7、請求項9、請求項10、請求項12のいずれか一項に記載の試料分析チップ。
  14. 前記反応試薬層が、前記試料液中の特定の成分の特異的な化学反応を触媒する酵素を含むことを特徴とする請求項3から請求項7、請求項9、請求項10、請求項12、請求項13のいずれか一項に記載の試料分析チップ。
  15. 前記反応試薬層が、前記試料液中の特定の物質に特異的に結合する物質を含むことを特徴とする請求項3から請求項7、請求項9、請求項10、請求項12、請求項13のいずれか一項に記載の試料分析チップ。
  16. 前記特定物質に特異的に結合する物質が、前記試料液中の特定の物質に特異的に結合する抗体、または前記抗体が表面に固定されている微小粒子であることを特徴とする請求項15に記載の試料分析チップ。
  17. 前記試料液移送路の内面に、電極対を有し、
    前記電極対は、電圧が印加されることで前記試料液移送路内の試料液を物理化学的に制御することを特徴とする、請求項15に記載の試料分析チップ。
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