次に、発明の実施の形態を説明する。
本発明に係る高速回転機器のアンバランス修正装置は、例えば自動車エンジンに備えられるターボチャージャ等の、比較的高速で回転する回転部を有する高速回転機器について、その回転部のアンバランスを修正するために用いられるものである。
すなわち、高速回転機器のアンバランス修正装置においては、高速回転機器の回転部が、所定の回転数で回転させられ、その回転部の回転にともなう振動加速度が測定される。その測定された振動加速度に基づいて、回転部のアンバランスが測定される。そして、測定されたアンバランスの値に基づき、高速回転機器における回転部のアンバランスが修正される。
本実施形態に係る高速回転機器のアンバランス修正装置(以下単に「アンバランス修正装置」という。)の構成について、図1および図2を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態に係るアンバランス修正装置の全体構成を示す図、図2は図1におけるA−A断面図である。なお、本実施形態では、アンバランス修正装置が用いられることでアンバランスが修正される高速回転機器を、自動車エンジンに備えられるターボチャージャとする。
図1に示すように、本実施形態のアンバランス修正装置1は、ターボチャージャ2のアンバランス修正を行うために用いられる。
ターボチャージャ2は、回転部を有する。本実施形態では、ターボチャージャ2が有する回転部は、回転軸21と、この回転軸21の一端(図1において左端)に設けられるタービンロータ22と、回転軸21の他端(図1において右端)に設けられるコンプレッサロータ23とを有する。つまり、本実施形態では、ターボチャージャ2が有する回転部は、回転軸21とタービンロータ22とコンプレッサロータ23とが組み立てられ一体的に回転する回転体として構成される。
回転軸21は、全体として略筒状に構成されるセンターハウジング24に回転自在に支持される。回転軸21は、センターハウジング24に対して軸受(図示略)を介して支持される。
ターボチャージャ2が実際に製品として使用される場合は、タービンロータ22は、センターハウジング24の一側(図1において左側)に取り付けられるタービンハウジングに収容されることとなる。同じくターボチャージャ2が実際に製品として使用される場合は、コンプレッサロータ23は、センターハウジング24の他側(図1において右側)に取り付けられるコンプレッサハウジングに収容されることとなる。
このような構成を備えるターボチャージャ2により、エンジンからの排気が、回収されて圧縮され、吸気として再度エンジンに供給される。すなわち、ターボチャージャ2においては、エンジンからの排気により、タービンハウジング内のタービンロータ22が回転する。タービンロータ22が回転することにより、回転軸21を介してコンプレッサハウジング内のコンプレッサロータ23が回転する。このコンプレッサロータ23の回転により、ターボチャージャ2内に回収されたエンジンからの排気が、圧縮されて吸気として再びエンジンに供給される。
ターボチャージャ2については、その回転部およびセンターハウジング24を含む構成が、アンバランス修正装置1におけるワーク20となる。すなわち、本実施形態では、回転軸21とタービンロータ22とコンプレッサロータ23とを有する回転部を回転可能に支持した状態のセンターハウジング24が、アンバランス修正装置1におけるワーク20となる。したがって、ワーク20は、半組立状態のターボチャージャ2となる。そして、ターボチャージャ2のアンバランス修正に際しては、ワーク20の回転部のアンバランスが修正される。
以下では、ターボチャージャ2における回転部、即ち回転軸21、タービンロータ22、およびコンプレッサロータ23からなる回転体を「ワーク回転部」ともいう。
本実施形態のアンバランス修正装置1は、回転部を有するワーク20を支持するとともに振動検出手段としての加速度ピックアップ4を有する治具として、タービンハウジング部3を備える。
タービンハウジング部3は、前記のとおり製品としてのターボチャージャ2においてタービンロータ22を収容することとなるタービンハウジングと同様の部材により構成される。つまり、タービンハウジング部3は、ターボチャージャ2の生産ライン等において、アンバランス修正装置1によりアンバランス修正が行われる複数のワーク20に対して、共通の治具として用いられる。したがって、アンバランス修正装置1においては、センターハウジング24が、タービンハウジング部3に対して支持されることで、ワーク20がタービンハウジング部3に支持される。
タービンハウジング部3は、架台5上において所定の姿勢で設けられる。本実施形態では、タービンハウジング部3は、その支持するワーク20の回転部の回転軸線の方向が略水平方向となる姿勢で設けられる。したがって、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20は、その回転部の回転軸線の方向が、略水平方向(図1における左右方向)となる。タービンハウジング部3は、架台5上に立設される支持壁6に対して所定の姿勢で支持固定されることで、架台5上において所定の姿勢で設けられる。
架台5は、床面7上にゴムマウント8を介して防振支持された状態で設けられる。
加速度ピックアップ4は、タービンハウジング部3における所定の位置に設けられる。加速度ピックアップ4は、例えば加速度センサ等により構成され、タービンハウジング部3の所定の位置についての振動加速度を検出(ピックアップ)する。加速度ピックアップ4により検出された振動加速度の値に基づいて、ワーク回転部のアンバランスが測定される。
すなわち、加速度ピックアップ4は、図示せぬ演算装置に接続され、加速度ピックアップ4から出力される検出信号が演算装置に入力される。そして、演算装置において、ワーク20についてのアンバランスの測定および修正に係る演算が行われる。
アンバランス修正装置1においては、タービンハウジング部3に、ワーク回転部が回転可能な状態でワーク20が固定された状態で、ワーク回転部が所定の回転数で回転させられる。そして、ワーク回転部が前記所定の回転数で回転している状態での加速度ピックアップ4による検出値に基づいて、ワーク回転部のアンバランス修正が行われる。
具体的には、アンバランス修正装置1におけるアンバランス修正は、次のようにして行われる。
アンバランス修正装置1におけるアンバランス修正に際しては、まず、ワーク20がタービンハウジング部3に取り付けられる。タービンハウジング部3に対するワーク20の取付けに際しては、センターハウジング24が、タービンハウジング部3に固定される。
ワーク20がタービンハウジング部3に取り付けられた状態において、エンジンからの排気と同様のエア(排気ガス圧に相当する圧力を有する圧縮エア)が、エア源(図示略)からタービンハウジング部3に対して供給され、タービンロータ22を介してこれを含むワーク回転部が回転させられる。
アンバランス修正に際しては、ワーク回転部は、予め定められた所定の回転数(例えば7万rpm、以下「アンバランス修正回転数」という。)で回転させられる。つまり、ワーク回転部がアンバランス修正回転数で回転している状態での振動加速度が、加速度ピックアップ4によって検出される。この検出された振動加速度の値に基づいて、ワーク回転部のアンバランスが測定される。
そして、測定されたアンバランスの値に基づき、ワーク回転部のアンバランスの修正が行われる。ワーク回転部についてのアンバランスの修正は、例えば、ワーク回転部において、コンプレッサロータ23を回転軸21に固定するために用いられるナットの部分等の、所定の部分が研削機等で削られることにより行われる。
以上のようにして行われるターボチャージャ2についてのアンバランス修正に用いられる本実施形態のアンバランス修正装置1は、アンバランス修正に際し、タービンハウジング部3にワーク20を固定するため、複数の爪構造体10を備える。爪構造体10は、ワーク20をタービンハウジング部3に対してクランプして固定するクランプ部材の実施の一形態である。
爪構造体10は、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20に対して係止する係止部13を有する。爪構造体10は、その係止部13がワーク20に対して係止した状態で、ワーク20をタービンハウジング部3に固定することとなる所定の方向に付勢されることにより、ワーク20をタービンハウジング部3に対してクランプして固定する。
本実施形態では、図1に示すように、爪構造体10は、爪部11とロッド部12とを有する。
爪部11は、係止部13を有する。つまり、本実施形態では、爪部11により、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20に対して係止する係止部13が構成される。係止部13は、爪部11において、略直方体形状に構成される本体部11aの一端部(先端部)にて突出形成される板状の部分である。
ロッド部12は、爪部11において係止部13が設けられる側(先端側、図1において右側)と反対側(後端側、図1において左側)から延設される。ロッド部12は、爪部11の大きさに対して細径の棒状部分として構成される。
このような構成を有する爪構造体10により、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20が固定される。
タービンハウジング部3は、ワーク回転部の回転軸線に対して略垂直方向の面となる支持面3aを有する。支持面3aは、タービンハウジング部3においてワーク20を支持する側に形成される支持凹部3bの底側(奥側)の面として形成される。このタービンハウジング部3の支持面3aに対して、ワーク20が支持される。ワーク20のセンターハウジング24は、その一側(タービンハウジングが取り付けられる側)に、環状のフランジ部24aを有する。そして、ワーク20は、その支持された状態で、センターハウジング24のフランジ部24aが、タービンハウジング部3の支持面3aに接触した状態となる。つまり、タービンハウジング部3が有する支持凹部3bは、センターハウジング24のフランジ部24aの形状に沿う円形の形状を有し、フランジ部24aの一部が支持凹部3bに嵌合した状態で、フランジ部24aが支持面3aに接触した状態となる。かかる状態において、爪構造体10によってフランジ部24aが支持面3aに対して押え付けられることにより、ワーク20がタービンハウジング部3に対して固定される。
爪構造体10は、その係止部13をセンターハウジング24のフランジ部24aに係止させた状態で、フランジ部24aをタービンハウジング部3の支持面3aに対して押え付ける。つまり、ワーク20におけるセンターハウジング24のフランジ部24aが、爪構造体10の係止部13に対する被係止部となる。
ここで、係止部13によるフランジ部24aの押え付けに際しては、前記のとおり板状の部分である係止部13の一側の面が、フランジ部24aに対する押圧面13aとなる。つまり、係止部13の押圧面13aは、タービンハウジング部3の支持面3aに対して略平行な面となる。そして、ワーク20が爪構造体10によってタービンハウジング部3に固定された状態では、センターハウジング24のフランジ部24aが、タービンハウジング部3の支持面3aと係止部13の押圧面13aとの間に挟まれた状態となる。このように、押圧面13aがフランジ部24aに接触した状態が、爪構造体10について、その係止部13がワーク20に対して係止した状態となる。
したがって、爪構造体10は、アンバランス修正装置1において、係止部13の押圧面13aが、タービンハウジング部3の支持面3aに接触した状態のフランジ部24aに対向した状態となる姿勢で設けられる。本実施形態では、爪構造体10は、アンバランス修正装置1において、ロッド部12の延設方向が、ワーク回転部の回転軸線の方向に対して略平行となる姿勢で設けられる。また、爪構造体10は、爪部11における係止部13の本体部11aからの突出方向が、ワーク回転部の径方向(回転軸21等の径方向)に沿うような(前記突出方向がワーク回転部の回転軸線に向かう方向となるような)姿勢で設けられる。
また、爪構造体10は、その押圧面13aが、フランジ部24aに対して近接・離間する方向(図1における左右方向)に移動可能に設けられる。
そして、爪構造体10は、その移動方向(前記近接・離間する方向)において、押圧面13aがフランジ部24aに接触した状態、即ち係止部13がワーク20に対して係止した状態から、係止部13によってフランジ部24aを押え付ける方向に付勢可能に設けられる。つまり、本実施形態では、爪構造体10は、爪部11に対するロッド部12の延設方向(図1における左方向)に付勢可能に設けられる。
したがって、本実施形態において、爪構造体10について、その付勢される方向である、ワーク20をタービンハウジング部3に固定することとなる所定の方向は、爪構造体10が、その係止部13の押圧面13aによって、フランジ部24aを押え付ける方向となる。以下では、爪構造体10について、その付勢される方向となる前記所定の方向を、「ワーク固定方向」という。
爪構造体10のワーク固定方向への付勢は、シリンダ機構30により行われる。つまり、本実施形態のアンバランス修正装置1は、爪構造体10をワーク固定方向に付勢するための手段として、シリンダ機構30を備える。
シリンダ機構30は、エアシリンダとして構成される。シリンダ機構30は、爪構造体10のロッド部12をシリンダロッドとして移動可能に収容するシリンダケース31を有する。すなわち、ロッド部12は、拡径部分となるピストン部14を有し、このピストン部14を介して、シリンダケース31に内装された状態でシリンダケース31に対して摺動可能に設けられる。ピストン部14は、ロッド部12における爪部11側と反対側(図1における左側)の端部に設けられる。ピストン部14は、シリンダケース31の内壁に対して摺動可能な形状を有する栓状の部分である。
シリンダケース31は、シリンダプレート9に対して固定されることで支持される。シリンダプレート9は、板状の部材であり、その板面が、ワーク回転部の回転軸線の方向に対して略垂直方向の面となるように、タービンハウジング部3における支持面3a側と反対側に固定される。このシリンダプレート9におけるタービンハウジング部3側と反対側の板面部に対して、シリンダケース31が、その内装するロッド部12の摺動方向が前述した爪構造体10の移動方向に対応する方向となる姿勢で支持される。
なお、シリンダプレート9には、ロッド部12を貫通させた状態で爪構造体10の移動を許容するための貫通孔9aが設けられている。
このように構成されるシリンダ機構30において、爪構造体10のワーク固定方向への付勢に際しては、所定の圧力を有する圧縮エアが、エア源(図示略)からシリンダケース31に対して供給される。そして、シリンダケース31内のエア圧が調整されることにより、爪構造体10が、ピストン部14を介して所定の付勢力をもってワーク固定方向に引っ張られる。このようにして、シリンダ機構30における推力により、爪構造体10がワーク固定方向に付勢される。このように、爪構造体10がワーク固定方向に付勢されることにより、係止部13の押圧面13aとタービンハウジング部3の支持面3aとにより挟まれた状態のフランジ部24aが、係止部13からの所定の押圧力によって支持面3aに対して圧接した状態となり、ワーク20がタービンハウジング部3に対して固定された状態となる。
なお、本実施形態のアンバランス修正装置1においては、エアシリンダとして構成されるシリンダ機構30が備えられるが、爪構造体10をワーク固定方向に付勢するための手段は、これに限定されるものではない。爪構造体10をワーク固定方向に付勢するための手段としては、例えば、油圧シリンダ等の他の流体圧シリンダ機構等であってもよい。
このように、本実施形態のアンバランス修正装置1においては、爪構造体10は、爪部11が有する係止部13によって、センターハウジング24のフランジ部24aをタービンハウジング部3の支持面3aに対して押し付けることにより、ワーク20をタービンハウジング部3に対してクランプして固定する。したがって、爪構造体10において、係止部13を構成する部分である爪部11は、係止部13によるワーク20の固定に際して十分な(シリンダ機構30による付勢によって破損や変形等が生じることのないような)強度および剛性を備える部分となる。
本実施形態では、ワーク20のタービンハウジング部3に対する固定に際し、三つの爪構造体10が用いられる。つまり、本実施形態のアンバランス修正装置1は、三つの爪構造体10を備える。そして、センターハウジング24のフランジ部24aが三箇所で押え付けられることにより、ワーク20がタービンハウジング部3に対して固定される(図2参照)。
本実施形態のアンバランス修正装置1においては、三つの爪構造体10は、次のようにして配設される。
三つの爪構造体10は、環状のフランジ部24aに対して、その周方向に等間隔を隔てて設けられる。したがって、図2に示すように、ワーク回転部の回転軸線方向視(以下単に「回転軸線方向視」という。)において、この回転軸線の位置を中心とする円周に対して、各爪構造体10(の中心位置)同士の角度間隔が120°となる。
そして、図2に示すように、三つの爪構造体10のうちの一つの爪構造体10aは、フランジ部24aの周方向において、前記のとおりワーク回転部の径方向に沿う方向となる、係止部13の本体部11aからの突出方向が、略鉛直方向となる位置に設けられる。つまり、この爪構造体10aは、その係止部13が床面7(図1参照)を基準とするとフランジ部24aの上端部に対して係止することとなる。したがって、前記のとおり周方向に等間隔を隔てて設けられる三つの爪構造体10のうちの他の二つの爪構造体10b、10cは、フランジ部24aの周方向において、図2に示す回転軸線方向視(床面7が下となる回転軸線方向視)で、爪部11の姿勢が略左右対称となるように位置することとなる。
なお、各爪構造体10a、10b、10cに対応して、シリンダ機構30が設けられる。つまり、シリンダプレート9には、各爪構造体10a、10b、10cに対応する三つのシリンダケース31が支持固定される。
以下では、三つの爪構造体10を、その設けられる位置によって区別して指す場合は、前記のとおり係止部13の本体部11aからの突出方向が略鉛直方向となる位置に設けられる爪構造体10aを「第一爪構造体10a」とする。また、三つの爪構造体10のうちの他の二つの爪構造体10b、10cのうち、図2に示す回転軸線方向視で反時計回りで第一爪構造体10aの次に位置する爪構造体10b(図2において左側の爪構造体10b)を、「第二爪構造体10b」とし、残りの爪構造体10c(図2において右側の爪構造体10c)を、「第三爪構造体10c」とする。
以上のように、本実施形態のアンバランス修正装置1においては、三つの爪構造体10により、ワーク20がタービンハウジング部3に対してクランプして固定される。
このように、ワーク20のタービンハウジング部3に対する固定に際して爪構造体10によるクランプ方式が用いられる構成を備えるアンバランス修正装置1においては、ワーク回転部の回転にともない、爪構造体10による共振が生じる。
すなわち、アンバランス修正装置1においては、ワーク回転部が回転することにより、ワーク回転部の回転にともなう装置の振動特性として、ワーク回転部の回転周波数によって共振が生じる。つまり、ワーク回転部の回転にともない、アンバランス修正装置1が有する固有振動数とワーク回転部の回転周波数とが一致することによる共振が生じる。
そして、前記のとおりクランプ方式が用いられる構成を備えるアンバランス修正装置1においては、ワーク回転部の回転にともない発生する共振として、架台5およびこの架台5上に設けられるタービンハウジング部3を含む各部材が一体的に構成される装置本体による共振(以下「本体系による共振」という。)と、爪構造体10による共振(以下「爪系による共振」という。)が生じる。つまり、アンバランス修正装置1においては、装置本体の固有振動数と、爪構造体10の固有振動数とが異なり、本体系による共振が生じることに加え、爪系による共振が生じる。
爪構造体10においては、爪部11は、前述したように係止部13によるワーク20の固定を行うため、そのワーク20の固定に際して十分な強度および剛性を備える部分であることが必要となる。
このため、図3の模式図に示すように、爪構造体10は、略水平方向(横方向)に配されて一端側がシリンダ機構30に支持される細径(小径)のロッド部12の他端側(先端側)に、重量物となる爪部11が付いている構成となる。かかる構成に起因して、ワーク回転部の回転にともない、ロッド部12を介して爪部11が振動し、アンバランス修正装置1における前記装置本体に含まれるシリンダ機構30に対して、爪構造体10の相対的な振動が生じる(矢印A1参照)。これにより、装置本体の固有振動数、つまり本体系による共振が生じる共振周波数(共振点に対応する回転周波数)とは異なる回転周波数において、爪系による共振が生じる。
アンバランス修正装置1においてワーク回転部の回転にともなって生じる共振について、図4および図5を用いて説明する。図4は本発明の一実施形態に係るアンバランス修正装置を4自由度系にモデル化した図、図5は本発明の一実施形態に係るアンバランス修正装置のモデル化に際しての各マス(質量体)を示す図である。
本実施形態のアンバランス修正装置1においては、爪構造体10は、シリンダ機構30のシリンダケース31内の流体(本実施形態ではエア)によりフローティングしている状態にあるといえる。つまり、爪構造体10は、アンバランス修正装置1の装置本体に対してフローティングしている状態にあると見ることができる。
そこで、アンバランス修正装置1は、マス(質量体)として、一つの大きいマスとなる装置本体としてのマス(以下「本体マス」という。)と、三つの小さいマスとなる爪構造体10としてのマス(以下「爪マス」という。)とを備えることとなる。
すなわち、本実施形態のアンバランス修正装置1において、本体マスは、図5(a)に示すように、架台5と、支持壁6と、タービンハウジング部3と、ワーク20と、シリンダプレート9と、シリンダケース31とを含み、これらがボルト固定等によって一体的に構成された一つのマスとなる。また、爪マスは、図5(b)に示すように、爪部11とロッド部12とを有しこれらが一体的に構成された一つの爪構造体10としてのマスとなる。したがって、アンバランス修正装置1は、第一爪構造体10aとしての爪マス(第一爪マス)と、第二爪構造体10bとしての爪マス(第二爪マス)と、第三爪構造体10cとしての爪マス(第三爪マス)との三つの爪マスを有することとなる。
このように、アンバランス修正装置1が、一つの本体マスと三つの爪マスとを備えるという概念を用いることで、アンバランス修正装置1を4自由度系の振動モデルに置き換えることが可能となる。
すなわち、図4に示すように、4自由度系にモデル化されたアンバランス修正装置1においては、質量m0の本体マス40上に、質量m1の第一爪マス41と、質量m2の第二爪マス42と、質量m3の第三爪マス43とが存在することとなる。そして、本体マス40は、床面7に対して、バネ定数k0のバネ40aおよび減衰係数c0のダンパ40bを介して接続された状態となる。また、第一爪マス41は、本体マス40に対して、バネ定数k1のバネ41aおよび減衰係数c1のダンパ41bを介して接続された状態となる。同様にして、第二爪マス42は、本体マス40に対して、バネ定数k2のバネ42aおよび減衰係数c2のダンパ42bを介して接続された状態となり、第三爪マス43は、本体マス40に対して、バネ定数k3のバネ43aおよび減衰係数c3のダンパ43bを介して接続された状態となる。
ここで、本体マス40について、バネ定数k0は、質量m0の系の総合剛性を示す。また、第一爪マス41について、バネ定数k1は、質量m1の系の総合剛性を示す。同様にして、第二爪マス42について、バネ定数k2は、質量m2の系の総合剛性を示し、第三爪マス43について、バネ定数k3は、質量m3の系の総合剛性を示す。なお、各爪マス41〜43についての総合剛性には、ワーク20がタービンハウジング部3に固定された状態で、爪構造体10によるクランプに際し、押圧面13a(図1参照)に対して作用する反力に対する剛性(以下「クランプ剛性」という。)が含まれる。クランプ剛性は、爪構造体10がシリンダ機構30により付勢される力(係止部13からの押圧力)の大きさによって異なることとなる。
また、本体マス40について、減衰係数c0は、質量m0の系の総合減衰を示す。同様にして、第一爪マス41について、減衰係数c1は、質量m1の系の総合減衰を示し、第二爪マス42について、減衰係数c2は、質量m2の系の総合減衰を示し、第三爪マス43について、減衰係数c3は、質量m3の系の総合減衰を示す。
このようにして4自由度系にモデル化されるアンバランス修正装置1においては、前述したように、ワーク回転部の回転にともなって生じる共振は、本体系による共振と爪系による共振とに大別される。
このように、本体系による共振と爪系による共振とが生じるアンバランス修正装置1においては、ワーク回転部の回転にともなう装置の振動特性(加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度についての特性)について、ワーク回転部がアンバランス修正回転数で回転させられることにより行われるアンバランス修正に際しての好ましい振動特性(以下単に「好ましい振動特性」という。)が存在する。
アンバランス修正装置1の好ましい振動特性について、図6を用いて説明する。図6は本発明の一実施形態に係るアンバランス修正装置の好ましい振動特性のグラフの一例を示す図である。
図6において、横軸はワーク回転部の回転周波数(周波数[Hz])、縦軸は加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度(加速度[G]、(1G=9.8m/s2))である。なお、以下の説明における他の振動特性のグラフにおける横軸および縦軸についても、図6に示すグラフと同様である。
図6のグラフに示すように、アンバランス修正装置1においては、ワーク回転部の回転にともなう振動特性として、本体系による共振と爪系による共振とが生じる。本体系による共振については、図6に示すグラフにおいて、装置本体の固有振動数に対応する共振周波数(以下「第一の共振周波数」という。)fn1をピークとする山形状の部分となる。
同様に、爪系による共振については、爪構造体10の固有振動数対応する共振周波数(以下「第二の共振周波数」という。)fn2をピークとする山形状の部分となる。なお、第二の共振周波数fn2は、第一の共振周波数fn1よりも大きな値となる。
このように、アンバランス修正装置1の好ましい振動特性のグラフにおいては、本体系による共振および爪系による共振それぞれの共振周波数をピークとする二つの山形状の部分が存在する。つまり、アンバランス修正装置1の好ましい振動特性としては、三つの爪構造体10についての爪系による共振の共振周波数が、第二の共振周波数fn2として共通の回転周波数となる。言い換えると、三つの爪構造体10それぞれの固有振動数が一致する状態となる。
また、本体系による共振や爪系による共振により生じる振動加速度は、ターボチャージャ2のアンバランス修正に際し、加速度ピックアップ4によるワーク回転部の回転にともなう振動加速度の検出に影響する。つまり、加速度ピックアップ4により検出される振動加速度の値に、前記各共振により生じる振動加速度が影響することとなる。この共振により生じる振動加速度の影響が大きくなると、ワーク回転部についての振動加速度の測定の正確性が確保されないこととなり、アンバランス修正についての精度が低下する。
このため、アンバランス修正回転数は、加速度ピックアップ4によって検出される、ワーク回転部についての振動加速度の正確性が確保されるためには、アンバランス修正回転数が、ワーク回転部の回転にともなう装置の振動特性において、本体系による共振や爪系による共振による影響が少なく、かつ安定した領域において設定される必要がある。
一方で、アンバランス修正回転数については、車両の騒音と相関が取られている関係等から、所定の回転数に固定される場合がある。つまり、アンバランス修正回転数については、その値が車両の構造等に基づいて制限されることから、アンバランス修正回転数を変更することによっては、前述のような共振による影響を避けることができない場合がある。
したがって、前記のとおり所定の回転数に固定されるアンバランス修正回転数が、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間の回転周波数となる場合、アンバランス修正装置1の好ましい振動特性のグラフにおいては、次のような部分が存在する。
すなわち、図6に示すように、アンバランス修正装置1の好ましい振動特性のグラフにおいては、本体系による共振についての山形状の部分と、爪系による共振についての山形状の部分との間に、本体系による共振および爪系による共振による影響が少なく、かつ安定した領域の部分(破線領域部分B1参照)が存在する。そして、アンバランス修正回転数が、前記領域の部分(破線領域部分B1参照)の略中央部分に対応する回転周波数として設定される。
以下では、アンバランス修正装置1の好ましい振動特性のグラフにおける、本体系による共振および爪系による共振による影響が少なく、かつ安定した領域の部分(破線領域部分B1参照)を、「振動特性の安定領域」という。
このように、アンバランス修正装置1の好ましい振動特性のグラフにおいては、本体系による共振および爪系による共振それぞれの共振周波数をピークとする二つの山形状の部分が存在するとともに、これらの山形状の部分の間に、振動特性の安定領域が存在する。そして、この振動特性の安定領域の略中央部分に対応する回転周波数が、アンバランス修正回転数とされるべき回転周波数となる。言い換えると、アンバランス修正装置1の好ましい振動特性は、所定の回転数に固定されるアンバランス修正回転数が、振動特性の安定領域の略中央部分に対応する回転周波数となるように、振動特性の安定領域を有することとなる。
なお、アンバランス修正装置1の好ましい振動特性のグラフにおいて、振動特性の安定領域として、共振による影響が少ない部分がある程度の範囲(領域)で存在することが好ましいことは、アンバランス修正が行われている状態で、アンバランス修正回転数が外乱等によって変動することによって共振による影響(振動加速度)が急激に大きくなることを防止する観点に基づく。
次に、アンバランス修正装置1において、ワーク回転部の回転にともなう装置の振動特性を、前述した好ましい振動特性に近付けるための対策が講じられていない場合における、アンバランス修正装置1の振動特性(以下「対策前の振動特性」という。)について、図7および図8を用いて説明する。図7は本発明の一実施形態に係るアンバランス修正装置の対策前の振動特性のグラフの一例を示す図、図8はワークについてその自重により生じるモーメントの説明図である。
図7のグラフに示すように、アンバランス修正装置1においては、ワーク回転部の回転にともなう振動特性として、本体系による共振と爪系による共振とが生じる。本体系による共振については、前述した好ましい振動特性の場合と同様、図7に示すグラフにおいて、第一の共振周波数fn1をピークとする山形状の部分となる。そして、対策前の振動特性においては、爪系による共振として、第一爪構造体10aによる共振と、第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10cによる共振との二つの共振が生じる。つまり、爪系による共振については、図7に示すグラフにおいて、第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10cによる共振として、これら爪構造体10b、10cそれぞれの固有振動数となる共振周波数fn3をピークとする山形状の部分と、第一爪構造体10aによる共振として、第一爪構造体10aの固有振動数となる共振周波数fn4をピークとする山形状の部分とが生じることとなる。ここで、第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10cによる共振についての共振周波数fn3は、第一の共振周波数fn1よりも大きな値となり、第一爪構造体10aによる共振についての共振周波数fn4は、前記共振周波数fn3よりも大きな値となる。
このように、アンバランス修正装置1の対策前の振動特性のグラフにおいては、本体系による共振の共振周波数をピークとする一つの山形状の部分と、爪系による共振の二つの共振周波数をピークとする二つの山形状の部分との、計三つの山形状の部分が存在する。つまり、アンバランス修正装置1の対策前の振動特性としては、三つの爪構造体10についての爪系による共振の共振周波数が、第一爪構造体10aの共振周波数fn4と、第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10cの共振周波数fn3とで値の異なる二つの回転周波数となる。言い換えると、第一爪構造体10aの固有振動数と、第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10cの固有振動数とが存在する状態となる。
アンバランス修正装置1の対策前の振動特性について、爪系による共振として、二つの共振が生じること(異なる二つの共振周波数が存在すること)は、本実施形態のアンバランス修正装置1が備える次のような構成に基づく。
前述したように、アンバランス修正装置1においては、ワーク20が、そのワーク回転部の回転軸線の方向が略水平方向となる姿勢で、ワーク回転部の回転軸線の方向に対して略垂直方向の面となる、タービンハウジング部3の支持面3aに取り付けられる。そして、ワーク20は、三つの爪構造体10により、略水平方向に押え付けられてクランプされることで、タービンハウジング部3に対して固定される。
このようなワーク20の支持構成においては、図8に示すように、ワーク20の自重による重力が、ワーク20の重心の位置(点C1参照)に、ワーク回転部の回転軸線の方向に対して略垂直方向となる鉛直方向に作用する(矢印C2参照)。このワーク20に作用する重力により、ワーク20において、支持面3aを基準とするモーメントが生じる。つまり、図8に示すように、ワーク20においては、ワーク20が、その自重によって、センターハウジング24のフランジ部24aの下端部が接触した状態で傾く方向のモーメント(図8において右回りの方向のモーメント)が生じる。
こうしたワーク20における自重によるモーメントにより、ワーク20のクランプに際し、三つの爪構造体10それぞれが、各シリンダ機構30によって同一の推力でワーク20をクランプしている状態であっても、各爪構造体10の爪部11(の押圧面13a)に作用する反力が異なることとなる。
ワーク20のクランプにともない、各爪構造体10の爪部11に作用する反力について説明する。なお、ここでの説明は、前述のとおり等間隔を隔てて設けられる三つの爪構造体10のうち、第一爪構造体10aが、係止部13の本体部11aからの突出方向が鉛直方向となる位置に設けられる場合とする。したがって、第二爪構造体10bと第三爪構造体10cとは、図2に示す回転軸線方向視で左右対称の状態で設けられる。また、三つの爪構造体10について同一となるシリンダ機構30による推力の値をFsとする。
三つの爪構造体10によってワーク20がクランプされた状態においては、前記のようなワーク20における自重によるモーメントにより、各爪構造体10の爪部11に対して反力が作用する。このワーク20におけるモーメントによって三つの爪構造体10の爪部11に作用する反力(以下「モーメントによる反力」という。)の合計の値をFhとする。そうすると、ワーク20がその自重によって傾く方向(図8参照)から、モーメントによる反力は、ワーク20の重心の位置(点C1参照)よりも上側の部分を支持する爪構造体10(第一爪構造体10a)にはプラス方向(図8における右方向)に作用し、ワーク20の重心の位置(点C1参照)よりも下側の部分を支持する爪構造体10(第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10c)にはマイナス方向(図8における左方向)に作用することとなる。
したがって、モーメントによる反力の合計の値がFhである場合、第一爪構造体10aの爪部11に作用するモーメントによる反力の値は、ワーク20におけるモーメントの方向から、Fh/2となる。つまり、第一爪構造体10aにおいては、そのモーメントによる反力は、ワーク20のクランプにともないシリンダ機構30による推力によって爪部11(の押圧面13a)に作用する反力(以下「クランプにともなう反力」という。)と同じ方向に作用する。
また、第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10cそれぞれの爪部11に作用するモーメントによる反力の値は、ワーク20におけるモーメントの方向から、−Fh/4となる。つまり、第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10cにおいては、そのモーメントによる反力は、クランプにともなう反力と反対方向に作用する。
したがって、三つの爪構造体10によってワーク20がクランプされた状態において、各爪構造体10の爪部11に作用する反力、つまりクランプにともなう反力とモーメントによる反力との合計は、次のようになる。
すなわち、各爪構造体10において爪部11に作用する反力の値をそれぞれ、第一爪構造体10aについてはFa、第二爪構造体10bについてはFb、第三爪構造体10cについてはFcとすると、Fa=Fs+(Fh/2)、Fb=Fc=Fs−(Fh/4)となる。
このように、爪構造体10の爪部11に作用する反力の値が、各爪構造体10の設けられる位置によって異なるということは、前述した4自由度系のモデル(図4参照)において、各爪マスについての総合剛性であるバネ定数k1、k2、k3が異なることとなる。
具体的には、爪部11に作用する反力が大きくなる第一爪構造体10aに対応する第一爪マス41についてのバネ定数k1が、第二爪構造体10bに対応する第二爪マス42についてのバネ定数k2および第三爪構造体10cに対応する第三爪マス43についてのバネ定数k3よりも大きくなる。つまりは、前述した各爪構造体10において爪部11に作用する反力の値に基づくと、k1>k2=k3となる。
そして、ある部分についての固有振動数fは、その部分のバネ定数(剛性)をk、質量をmとした場合、f=(1/2π)・√(k/m)と表せることから、各爪構造体10の質量(m1、m2、m3)が同じ場合、前述したように、第一爪構造体10aによる共振についての共振周波数fn4は、第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10cによる共振についての共振周波数fn3よりも大きな値となる。
このように、アンバランス修正装置1の対策前の振動特性においては、爪系による共振について、異なる二つの共振周波数が存在することとなる。つまり、各爪系による共振により、図7に示す対策前の振動特性のグラフにおいて、爪系による共振のピークが二つ存在することとなる。
これにより、アンバランス修正装置1の対策前の振動特性においては、図7に示すように、本体系による共振の共振周波数と爪系による共振の共振周波数との間に、振動特性の安定領域(破線領域部分B1参照)が存在しない場合がある。つまり、アンバランス修正装置1の対策前の振動特性においては、前記のとおり所定の回転数に固定されるアンバランス修正回転数が、本体系による共振の共振周波数と爪系による共振の共振周波数との間の回転周波数となる場合において、アンバランス修正回転数が振動特性の安定領域に対応する回転周波数となることができないときがある。
そこで、本実施形態のアンバランス修正装置1においては、装置の振動特性に関し、対策前の振動特性(図7参照)を好ましい振動特性(図6参照)に近付けるための対策、つまり、本体系による共振の共振周波数と爪系による共振の共振周波数との間に振動特性の安定領域を形成しようとするための対策が講じられている。
以下では、アンバランス修正装置1における、対策前の振動特性を好ましい振動特性に近付けるための対策について説明する。
まず、アンバランス修正装置1においては、三つの爪構造体10が、各爪構造体10の総合質量の調整により、各爪構造体10についての、各爪構造体10の総合剛性の前記総合質量に対する比が、三つの爪構造体10で相互に等しくなるように構成されている。
図9に示すように、爪構造体10の総合質量とは、爪構造体10が有する爪部11の質量とロッド部12の質量との合計である。つまり、爪構造体10の総合質量をmall、爪部11の質量をmT、ロッド部12の質量をmRとすると、mall=mT+mRとな
る。
また、爪構造体10の総合剛性(バネ定数)とは、爪構造体10が有する爪部11の剛性とロッド部12の剛性とクランプ剛性(矢印D1参照)とが含まれる。そして、爪構造体10の総合剛性をkall、爪部11の剛性をkT、ロッド部12の剛性をkR、クランプ剛性をkFとすると、次式(1)が成り立つ。
1/kall=(1/kT)+(1/kR)+(1/kF) ・・・(1)
したがって、kall=kTkRkF/(kRkF+kFkT+kTkR)となる。
以上より、各爪構造体10についての総合剛性の総合質量に対する比とは、kall/mallとなる。
そして、前述した4自由度系のモデル(図4参照)において、質量m1は第一爪構造体10aの総合質量を、質量m2は第二爪構造体10bの総合質量を、質量m3は第三爪構造体10cの総合質量をそれぞれ示す。また、バネ定数k1は第一爪構造体10aの総合剛性を、バネ定数k2は第二爪構造体10bの総合剛性を、バネ定数k3は第三爪構造体10cの総合剛性をそれぞれ示す。
したがって、各爪構造体10についての総合剛性の総合質量に対する比kall/mallが、三つの爪構造体10で相互に等しくなる場合、次式(2)が成り立つこととなる。
k1/m1=k2/m2=k3/m3 ・・・(2)
すなわち、本実施形態のアンバランス修正装置1においては、三つの爪構造体10が、各爪構造体10の総合質量の調整により、式(2)が満たされるように構成されている。言い換えると、各爪構造体10の総合質量が、式(2)が満たされるように調整されている。
つまり、前述したように、爪構造体10の爪部11に作用する反力の大きさが各爪構造体10で異なることから、各爪構造体10の総合剛性k1、k2、k3が異なることとなる。そこで、各爪構造体10の総合質量m1、m2、m3が調整されることにより、式(2)が満たされる。
各爪構造体10における総合質量の調整は、爪部11およびロッド部12の少なくともいずれかの質量が調整されることにより行われる。爪部11およびロッド部12の質量の調整は、例えば、各部の形状や大きさ(寸法)の調整、あるいは各部を構成する材料の選定等により行われる。
なお、式(2)が満たされるように行われる各爪構造体10における総合質量の調整に際しては、所定の範囲(例えば、±5%程度)の誤差が許容される。つまり、各爪構造体10における総合質量の調整によって式(2)が満たされることには、調整される値について所定の範囲の誤差が存在する場合も含まれる。
このように、ワーク20の固定に際して爪構造体10によるクランプ方式が用いられるアンバランス修正装置1において、各爪構造体10についての総合剛性の総合質量に対する比が、三つの爪構造体10で相互に等しくなるように構成されることにより、ターボチャージャ2の生産ラインにおける生産性の低下を防止することができるとともに、アンバランス修正回転数として用いられる回転周波数を含む周波数領域において、ワーク回転部の回転にともなう装置の振動特性について、共振による影響が少なく安定した周波数領域を確保することができ、アンバランス修正についての精度を向上することができる。
すなわち、本実施形態のアンバランス修正装置1のように、ワーク20のタービンハウジング部3に対する固定に際し、爪構造体10によるクランプ方式が用いられることにより、ワーク20の固定にボルト固定が用いられる場合と比べて、ターボチャージャ2の生産ラインにおいて生産性が低下することを防止することができる。
また、三つの爪構造体10が、上記式(2)を満たすように構成されることにより、三つの爪構造体10において、各爪構造体10の固有振動数を一致させることができる。つまり、第一爪構造体10aの固有振動数をfa、第二爪構造体10bの固有振動数をfb、第三爪構造体10cの固有振動数をfcとすると、各固有振動数は、次式で表される。
fa=(1/2π)・√(k1/m1) ・・・(3)
fb=(1/2π)・√(k2/m2) ・・・(4)
fc=(1/2π)・√(k3/m3) ・・・(5)
これら式(3)〜(5)と、上記式(2)から、次式(6)が成り立つ。
つまり、三つの爪構造体10が、上記式(2)を満たすように構成されることにより、各爪構造体10の固有振動数が一致することとなる。この一致する三つの爪構造体10についての固有振動数が、爪系による共振についての第二の共振周波数fn2となる。
このように、各爪構造体10の固有振動数が一致することにより、爪系による共振についての共振周波数(振動特性のグラフにおけるピーク)が、アンバランス修正回転数付近で発生することを避けることが容易となる。すなわち、各爪構造体10の固有振動数が一致せずに複数存在する場合、爪系による共振についての共振周波数が複数存在することとなり(図7参照)、その共振周波数がアンバランス修正回転数付近で発生しやすくなる。しかし、前記のとおり各爪構造体10の固有振動数を一致させることにより、爪系による共振の共振周波数が一つとなり、その共振がアンバランス修正回転数付近で発生することを避けることが容易となる。
これにより、ターボチャージャ2のアンバランス修正に際して、爪系による共振の影響を低減することができ、アンバランス修正についての精度を向上することができる。
具体的には、図10(a)に示すように、アンバランス修正装置1の改善前の振動特性においては、アンバランス修正回転数(回転周波数fu[Hz]、以下「アンバランス修正回転数fu」ともいう。)付近に第二爪構造体10bおよび第三爪構造体10cによる共振の共振周波数fn3が存在する場合がある。かかる場合、ワーク回転部がアンバランス修正回転数で回転している状態における、共振による振動加速度が比較的大きくなる(矢印E1参照)。つまり、加速度ピックアップ4により検出される振動加速度について、ワーク回転部自体の回転により生じる振動加速度に加わる、共振による振動加速度が比較的大きくなる。これにより、加速度ピックアップ4によって検出される、ワーク回転部についての振動加速度の正確性が確保されない状態となる。
そこで、前述のように各爪構造体10の固有振動数を一致させることにより、図10(b)に示すように、爪系による共振の共振周波数を、第二の共振周波数fn2として共通の回転周波数とすることができ、アンバランス修正装置1の振動特性のグラフにおいて、アンバランス修正回転数fu付近に存在していた爪系による共振のピークを無くすことができる。これにより、アンバランス修正装置1の振動特性を好ましい振動特性に近付けることができ、ワーク回転部がアンバランス修正回転数で回転している状態における、共振による振動加速度を小さくすることができる(図10(a)における矢印E1に対する同図(b)における矢印E2参照)。結果として、ターボチャージャ2のアンバランス修正に際して、爪系による共振の影響を低減することができ、アンバランス修正についての精度を向上することができる。
このように、各爪構造体10の固有振動数を一致させることにより、アンバランス修正装置1の振動特性のグラフにおいて、爪系による共振のピークを一つにすることができ、ターボチャージャ2のアンバランス修正に際して、爪系による共振の影響を低減することができる。一方で、アンバランス修正装置1の共振周波数として、本体系による共振についての第一の共振周波数fn1と、爪系による共振についての第二の共振周波数fn2とが存在する状態において、アンバランス修正回転数fuが第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に存在する場合、両者の共振の影響により、アンバランス修正回転数fuでの共振による振動加速度が十分に低減されないときがある。
すなわち、前述したように振動特性のグラフにおいてそれぞれ山形状の部分となる本体系による共振および爪系による共振による振動加速度の値は、それぞれの共振周波数の位置をピークとして、回転周波数の値が共振周波数から遠ざかるにつれて減衰する。そして、アンバランス修正回転数fuが第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に存在する場合において、両者の共振による振動加速度の値が第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間にて十分に減衰しないときがある。
そこで、前記のとおりアンバランス修正回転数fuでの共振による振動加速度が十分に低減されないことについての対策としては、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間隔を広げる(差を大きくする)ことが考えられる。つまり、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間隔が確保されることで、両者の共振による振動加速度の値が減衰する範囲が確保される。これにより、アンバランス修正回転数fuが第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に存在する場合において、アンバランス修正回転数fuでの共振による振動加速度が十分に低減される。
第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間隔を広げるための手法の一つとして、第二の共振周波数fn2、つまり各爪構造体10の固有振動数を上げることがある。ここで、ある部分についての固有振動数fは、前記のとおりf=(1/2π)・√(k/m)と表せることから、爪構造体10の剛性(バネ定数)または質量を調整することで、各爪構造体10の固有振動数、つまり第二の共振周波数fn2を上げることができる。
一方で、爪構造体10の剛性や質量は、爪系による共振についての振動特性に限らず、本体系による共振についての振動特性にも影響する。
具体的には、爪構造体10の剛性が高められると、通常、爪構造体10の質量の増加をともない、爪系による共振についての振動(振幅)が大きくなるとともに、本体系による共振についての振動(振幅)が小さくなる(図11(a)参照)。また、爪構造体10の質量が低下させられると、通常、クランプ剛性の低下をともない、本体系による共振についての振動(振幅)が大きくなるとともに、爪系による共振についての振動(振幅)が小さくなる(図11(b)参照)。
このため、第二の共振周波数fn2を上げるに際し、爪構造体10の剛性や質量が成行きで調整されると、アンバランス修正装置1の振動特性が、アンバランス修正回転数fuあるいはその近傍の回転周波数において、共振による振動加速度を低減させることに対して好ましくないように変動する場合が生じる。
そこで、本実施形態のアンバランス修正装置1は、次のように構成されている。
前述したように、本実施形態のアンバランス修正装置1は、ワーク回転部の回転にともなう振動特性(以下単に「振動特性」ともいう。)として、タービンハウジング部3を含み一体的に構成される装置本体による共振(本体系による共振)が生じるワーク回転部についての回転周波数である第一の共振周波数fn1と、爪構造体10による共振(爪系による共振)が生じる前記回転周波数であり第一の共振周波数fn1よりも大きい第二の共振周波数fn2とを有する。
そして、爪構造体10の係止部13の形状の寸法が調整されることで、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に所定の間隔が確保される。
すなわち、アンバランス修正装置1は、爪構造体10が有する係止部13の形状の寸法の調整により、振動特性における第二の共振周波数fn2からの回転周波数の減少にともなう振動加速度の減衰性に基づいて振動加速度の値が第二の共振周波数fn2での振動加速度の値に対して十分に小さくなる回転周波数(以下「爪系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf2」とする。)と、振動特性における第一の共振周波数fn1からの回転周波数の増加にともなう振動加速度の減衰性に基づいて振動加速度の値が第一の共振周波数fn1での振動加速度の値に対して十分に小さくなる回転周波数(以下「本体系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf1」とする。)との差が、500Hz以上となるように構成されている。
係止部13の形状の寸法の調整は、係止部13の形状の寸法のうち、総合剛性kallに対する影響が比較的大きい所定の寸法と、総合剛性kallに対する影響が比較的小さい所定の寸法との、少なくともいずれかの寸法の調整により行われる。
すなわち、爪構造体10の固有振動数、つまり第二の共振周波数fn2は、fn2=(1/2π)・√(kall/mall)で表されることから、爪構造体10の総合質量mallおよび総合剛性kallが、係止部13の形状の寸法から調整されることにより、第二の共振周波数fn2が調整される。
ここで、係止部13の形状の寸法のうち、総合剛性kallに対する影響が比較的大きい所定の寸法(以下「第一の調整寸法」という。)とは、それが変化することにより、上記式(1)から導かれる爪構造体10の総合剛性kallの値が比較的大きく変化する係止部13の形状の寸法となる。
具体的には、爪構造体10において、総合剛性kallを定める各剛性(kT、kR、kF)のうち、係止部13の寸法が変化することによって影響を受ける剛性は、爪部11における剛性、特にクランプ剛性kFとなる。つまり、係止部13の形状の寸法のうち、第一の調整寸法の調整により、主にクランプ剛性kFが変化することで、爪構造体10の総合剛性kallが変化する。
本実施形態では、係止部13は、前述したように、爪構造体10が有する爪部11において、略直方体形状に構成される本体部11aの一端部(先端部)にて突出形成される板状の部分である(図12参照)。したがって、係止部13の形状において、第一の調整寸法は、図12に示すように、板状の部分である係止部13の厚さ方向の寸法bとなる。
すなわち、係止部13のクランプ剛性kFは、概略的には、爪部11の材料のヤング率と係止部13の厚さ方向の寸法bの3乗との積に比例することとなる。このため、係止部13の厚さ方向の寸法bが、クランプ剛性kF、ひいては爪構造体10の総合剛性kallに比較的大きく影響する。そこで、本実施形態では、第一の調整寸法は、係止部13の厚さ方向の寸法bとなる。
また、係止部13の形状の寸法のうち、総合剛性kallに対する影響が比較的小さい所定の寸法(以下「第二の調整寸法」という。)とは、それが変化することによる、上記式(1)から導かれる爪構造体10の総合剛性kallの値の変化が比較的小さい係止部13の形状の寸法となる。
本実施形態では、係止部13の形状において、第二の調整寸法は、図12に示すように、板状の部分である係止部13の幅方向の寸法hとなる。
すなわち、係止部13のクランプ剛性kFは、前記のとおり係止部13の厚さ方向の寸法bにより比較的大きく影響を受けることから、係止部13の幅方向の寸法hは、クランプ剛性kFに対する影響が、厚さ方向の寸法bに対して比較的小さい寸法となる。したがって、係止部13の幅方向の寸法hは、爪構造体10の総合剛性kallに対する影響が比較的小さい寸法となる。そこで、本実施形態では、第二の調整寸法は、係止部13の幅方向の寸法hとなる。
そして、係止部13の幅方向の寸法hが変化することで、爪部11の質量mTが変化し、爪構造体10の総合質量mallが変化する。つまり、第二の調整寸法である係止部13の幅方向の寸法hが調整されることで、爪構造体10の総合剛性kallの変化が比較的小さい状態での、爪構造体10の総合質量mallの調整が可能となる。
したがって、係止部13の形状における第二の調整寸法は、爪構造体10の総合質量mallに対する影響が比較的大きい寸法であることが好ましい。本実施形態では、爪部11において、本体部11aの部分も含み係止部13の幅方向の寸法hが調整される場合、つまり爪部11全体として係止部13の幅方向の寸法hが調整される場合、第二の調整寸法である係止部13の幅方向の寸法hは、爪構造体10の総合質量mallに対する影響が比較的大きい寸法となる。
このように、爪構造体10の総合質量mallおよび総合剛性kallが、係止部13の形状の寸法から調整されることにより、第二の共振周波数fn2が調整される。そして、係止部13の寸法の調整は、第一の調整寸法である係止部13の厚さ方向の寸法bと、第二の調整寸法である係止部13の幅方向の寸法hとの、少なくともいずれかの寸法が調整されることにより行われる。
具体的には、第二の共振周波数fn2を上げる場合は、前述した固有振動数の式から、総合剛性kallについては増加するように、総合質量mallについては減少するように、係止部13の形状の寸法が調整される。つまり、第二の共振周波数fn2を上げる場合は、係止部13の厚さ方向の寸法bについては大きくされ、係止部13の幅方向の寸法hについては小さくされる。したがって、逆に、第二の共振周波数fn2を下げる場合における、係止部13の形状の寸法の調整に際しては、係止部13の厚さ方向の寸法bについては小さくされ、係止部13の幅方向の寸法hについては大きくされる。
そして、第二の共振周波数fn2の調整に際しては、爪系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf2(以下単に「回転周波数Nf2」ともいう。)と、本体系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf1(以下単に「回転周波数Nf1」ともいう。)との差が、500Hz以上となるように、係止部13の形状の寸法の調整が行われる。
ここで、爪系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf2とは、次のような数値である。
すなわち、振動特性のグラフにおいて、爪系による共振については、第二の共振周波数fn2の位置をピークとする一つの山形状の部分となる。つまり、回転周波数が第二の共振周波数fn2である場合の振動加速度の値をピークとして、回転周波数が第二の共振周波数fn2から増加方向および減少方向に変化するにつれて、爪系による共振による振動加速度の値が減衰する。この振動加速度の値が減衰することについて、グラフにおける山形状の部分の勾配を減衰性ということができる。そこで、爪系による共振による振動加速度について、第二の共振周波数fn2から第一の共振周波数fn1側にかけての減衰性、つまり回転周波数の減少にともなう振動加速度の減衰性に基づき、回転周波数Nf2が定められる。
爪系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf2は、前記のとおり振動加速度の値が第二の共振周波数fn2での振動加速度の値に対して十分に小さくなる回転周波数となる(図13参照)。つまり、回転周波数Nf2における振動加速度の値が、爪系による共振の振動特性におけるピークでの振動加速度の値に対して十分に小さくなるように、回転周波数Nf2が設定される。言い換えると、爪系による共振による振動特性の値が十分に減衰した状態となる回転周波数として、回転周波数Nf2が設定される。
また、本体系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf1とは、次のような数値である。
すなわち、振動特性のグラフにおいて、本体系による共振については、爪系による共振の場合と同様に、第一の共振周波数fn1の位置をピークとする一つの山形状の部分となる。つまり、回転周波数が第一の共振周波数fn1である場合の振動加速度の値をピークとして、回転周波数が第一の共振周波数fn1から増加方向および減少方向に変化するにつれて、本体系による共振による振動加速度の値が減衰する。
そこで、本体系による共振による振動加速度について、第一の共振周波数fn1から第二の共振周波数fn2側にかけての減衰性、つまり回転周波数の増加にともなう振動加速度の減衰性に基づき、回転周波数Nf1が定められる。
本体系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf1は、前記のとおり振動加速度の値が第一の共振周波数fn1での振動加速度の値に対して十分に小さくなる回転周波数となる(図13参照)。つまり、回転周波数Nf1における振動加速度の値が、本体系による共振の振動特性におけるピークでの振動加速度の値に対して十分に小さくなるように、回転周波数Nf1が設定される。言い換えると、本体系による共振による振動特性の値が十分に減衰した状態となる回転周波数として、回転周波数Nf1が設定される。
これら回転周波数Nf2、Nf1の設定に際し、振動特性における振動加速度の減衰性は、アンバランス修正装置1において、ハンマリング試験等の加振試験を実施することにより把握することができる。
具体的には、タービンハウジング部3にワーク20が固定された状態において、装置における所定の部分がハンマリングされることにより振動させられ、加速度ピックアップ等によって振動特性が測定される。この振動特性から、前述のような振動加速度の減衰性が把握される。
以上のようにして設定される、爪系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf2と本体系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf1との差が、500Hz以上となるように、第二の共振周波数fn2が、係止部13の形状の寸法の調整によって調整される。
これにより、図13に示すように、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間の周波数領域において、500Hz以上の範囲にわたって、アンバランス修正装置1における爪系による共振および本体系による共振による振動加速度の値が十分に少ない領域が確保されることとなる(破線領域部分F1参照)。
本実施形態のアンバランス修正装置1では、各回転周波数Nf2、Nf1は、それぞれ第二の共振周波数fn2、第一の共振周波数fn1に所定の係数がかけられることにより導かれる。
つまり、第二の共振周波数fn2に対しては、1より小さい値の係数がかけられることにより、第二の共振周波数fn2の値よりも小さい値となる(グラフにおいて第二の共振周波数fn2よりも左側に位置する)、爪系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf2が導かれる。また、第一の共振周波数fn1に対しては、1より大きい値の係数がかけられることにより、第一の共振周波数fn1の値よりも大きい値となる(グラフにおいて第一の共振周波数fn1よりも右側に位置する)、本体系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf1が導かれる。以下では、第二の共振周波数fn2にかけられる所定の係数を「第二の共振周波数についての係数」とし、第一の共振周波数fn1にかけられる所定の係数を「第一の共振周波数についての係数」とする。
第二の共振周波数についての係数は、振動特性における第二の共振周波数fn2からの回転周波数の減少にともなう振動加速度の減衰性に基づいて振動加速度の値が第二の共振周波数fn2での振動加速度の値に対して十分に小さくなる回転周波数が導かれる所定の係数となる。つまり、第二の共振周波数fn2に、第二の共振周波数についての係数がかけられることにより、爪系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf2が導かれる。したがって、第二の共振周波数についての係数は、回転周波数Nf2と同様に、振動特性において爪系による共振の減衰性に基づいて定められる。
また、第一の共振周波数についての係数は、振動特性における第一の共振周波数fn1からの回転周波数の増加にともなう振動加速度の減衰性に基づいて振動加速度の値が第一の共振周波数fn1での振動加速度の値に対して十分に小さくなる回転周波数が導かれる所定の係数となる。つまり、第一の共振周波数fn1に、第一の共振周波数についての係数がかけられることにより、本体系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf1が導かれる。したがって、第一の共振周波数についての係数は、回転周波数Nf1と同様に、振動特性において本体系による共振の減衰性に基づいて定められる。
以上より、第二の共振周波数fn2に、第二の共振周波数についての係数をかけた値と、第一の共振周波数fn1に、第一の共振周波数についての係数をかけた値との差が、500Hz以上となるように、第二の共振周波数fn2が、係止部13の形状の寸法の調整によって調整される。
本実施形態のアンバランス修正装置1においては、第二の共振周波数についての係数として0.8が、第一の共振周波数についての係数として1.5が、それぞれ採用される。つまりこの場合、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に、次式(7)の関係が成り立つ。
0.8fn2−1.5fn1≧500(Hz) ・・・(7)
第二の共振周波数についての係数としての0.8、および第一の共振周波数についての係数としての1.5は、本実施形態のアンバランス修正装置1において、前述したようなハンマリング試験による実験結果等に基づいて求められた、各係数についての好適な値である。
つまり、本実施形態のアンバランス修正装置1においては、第二の共振周波数についての係数として0.8が、第一の共振周波数についての係数として1.5が、それぞれ用いられることにより、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間において500Hz以上の領域にわたって、共振による振動加速度の値が十分に小さい領域が確保されることとなる。そして、この第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間の500Hz以上の領域における略中央部分に、アンバランス修正回転数が設定される状態となる。
このように、アンバランス修正装置1の振動特性において、共振による振動加速度の値が十分に小さい領域が所定の範囲で確保されることにより、本体系による共振についての第一の共振周波数fn1と爪系による共振についての第二の共振周波数fn2との間に振動特性の安定領域を形成することができる。これにより、振動特性を、前述した好ましい振動特性により近付けることができ、振動特性について共振による影響が少なく安定した領域を確保することができ、アンバランス修正についての精度を向上することができる。
また、本実施形態のアンバランス修正装置1においては、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間隔が広げられて振動特性の安定領域が形成されるに際し、第二の共振周波数fn2、つまり各爪構造体10の固有振動数を上げるため、次のような手法が用いられる。
すなわち、爪構造体10における少なくとも係止部13を構成する部分が、総合剛性の総合質量に対する比の値が比較的高い材料により構成されている。
つまり、爪構造体10において、少なくとも係止部13を構成する部分である爪部11について、それを構成する材料として、爪構造体10における総合剛性kall/総合質量mallが、比較的大きくなる材料が用いられる。これにより、前述した固有振動数fの式から、各爪構造体10の固有振動数、つまり第二の共振周波数fn2を上げることができる。
具体的には、爪構造体10が有する爪部11、あるいは爪部11およびロッド部12を構成する材料として、(剛性/質量)の値の比較的高い材料が用いられる。
このような材料の具体例としては、チタン(Ti)が挙げられる。チタンは、鉄系の材料等と比べて、(剛性/質量)の値が比較的高い材料となる。
このように、爪構造体10を構成する材料の選定によっても、本体系による共振についての第一の共振周波数fn1と爪系による共振についての第二の共振周波数fn2との間に振動特性の安定領域を形成することができる。
ところで、アンバランス修正装置1においては、その構造上、装置本体の固有振動数に対応する第一の共振周波数fn1と、爪構造体10の固有振動数に対応する第二の共振周波数fn2とを十分に離すことができない場合がある。つまり、前述したように、第二の共振周波数fn2を調整することによって、本体系による共振の第一の共振周波数fn1と爪系による共振の第二の共振周波数fn2との間に振動特性の安定領域を形成することができない場合がある。
また、アンバランス修正装置1においては、ワーク20(ターボチャージャ2)が備えられるエンジンが搭載される車種の違いで、アンバランス修正回転数が大きく異なる場合がある。つまりこの場合は、前述したように第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に形成される振動特性の安定領域が、その異なるアンバランス修正回転数について共通に適用することが困難な場合となる。
そこで、これらの場合に対応して、アンバランス修正装置1においては、次のような方策がとられる。
すなわち、アンバランス修正装置1において、装置本体の質量の調整、および三つの爪構造体10のうちいずれか一つの所定の爪構造体10の総合質量の調整により、前記所定の爪構造体10が、装置本体に対する動吸振器として、前記所定の爪構造体10の固有振動数が装置本体の固有振動数に最適同調するように構成される。
ここでは、図14に示すように、便宜上、前記所定の爪構造体10として、前述したようにモデル化されたアンバランス修正装置1において、三つの爪構造体10のうち第二爪構造体10bを用いて説明する。
図14に示すように、床面7に対して、バネ定数k0のバネ40aおよび減衰係数c0のダンパ40bを介して接続された状態となる質量m0の本体マス40に対して、バネ定数k2のバネ42aおよび減衰係数c2のダンパ42bを介して接続された状態となる質量m2の第二爪マス42は、動吸振器として機能させることができる。
すなわち、動吸振器とは、外力の作用によって振動する物体を制振対象(主振動系)として、これに付加的に取り付けられる振動系(副振動系)であり、主振動系とともに相互作用することによって、主振動系の振動を抑えるためのものである。
そして、アンバランス修正装置1においては、装置本体(本体マス40)が、ワーク回転部の回転にともなう外力が作用して振動する主振動系となり、この主振動系に対して、第二爪構造体10b(第二爪マス42)が、1自由度振動系として取り付けられた状態の副振動系となる減衰型の動吸振器となる。
このように、副振動系である第二爪マス42が主振動系である本体マス40に対して動吸振器として機能する構成においては、動吸振器の基本原理として、主振動系(本体マス40)の固有振動数と、副振動系(第二爪マス42)の固有振動数との関係について、主振動系に対する制振効果(動吸振効果)が最も高くなるための条件が存在することが知られている。かかる条件は、主振動系の固有振動数(角振動数)をωn0、副振動系の固有振動数をωn2、主振動系と副振動系の質量比をμとすると、次式で表される。
ここで、ωn0=√(k0/m0)、ωn2=√(k2/m2)、μ=m2/m0である。
つまり、主振動系の固有振動数と副振動系の固有振動数との関係について、これらの固有振動数比ωn2/ωn0が最適値となる条件として、式(8)で表される関係が存在する。このように、主振動系と副振動系との固有振動数比ωn2/ωn0が最適値となること(式(8)が満たされること)が、第二爪構造体10bの固有振動数ωn2が装置本体の固有振動数ωn0に最適同調することとなる。
このように、第二爪構造体10bの固有振動数が装置本体の固有振動数に最適同調することが、装置本体の質量の調整、および第二爪構造体10bの総合質量mallの調整により行われる。
具体的には、アンバランス修正装置1において次のような調整が行われる。
装置本体の質量の調整としては、アンバランス修正回転数についての角振動数(以下「アンバランス修正振動数」という。)ωuが、主振動系の固有振動数ωn0と一致するように、本体マス40の質量m0が調整される。これは、動吸振器の設計に際しては、外力の振動数(ワーク回転部の回転にともなう振動)と主振動系の固有振動数ωn0とが一致する共振周波数のところで振動が抑制されることに基づく。
また、第二爪構造体10bの総合質量mallの調整としては、第二爪マス42の質量m2が、式(8)が満たされるように調整される。ここで、本体マス40のバネ定数k0および第二爪マス42のバネ定数k2は、ハンマリング試験等の実験により導出される。
第二爪構造体10bにおける総合質量の調整は、爪部11およびロッド部12の少なくともいずれかの質量が調整されることにより行われる。爪部11およびロッド部12の質量の調整は、例えば、各部の形状や大きさ(寸法)の調整、あるいは各部を構成する材料の選定等により行われる。
なお、式(8)が満たされるように行われる第二爪構造体10bにおける総合質量の調整に際しては、所定の範囲(例えば、±5%程度)の誤差が許容される。つまり、第二爪構造体10bにおける総合質量の調整によって式(8)が満たされることには、調整される値について所定の範囲の誤差が存在する場合も含まれる。
このように、所定の一つの爪構造体10が、その総合質量の調整によって、装置本体に対して動吸振器として最適同調することにより、ワーク回転部の回転にともなう振動特性について、アンバランス修正回転数付近での振動特性の安定化を図ることができる。
これにより、アンバランス修正装置1において、前述したように、第二の共振周波数fn2を調整することによって第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に振動特性の安定領域を形成することができない場合や、ワーク20(ターボチャージャ2)が備えられるエンジンが搭載される車種の違いでアンバランス修正回転数が大きく異なる場合において、アンバランス修正に際し、ワーク回転部のアンバランスによる振動を正確に測定することが可能となる。
前述したように、第二爪構造体10bが、装置本体に対して動吸振器として最適同調することによる効果について、図15を用いて説明する。図15は動吸振器として機能する爪構造体による効果を説明するための装置本体の振幅曲線を示す図である。
図15に示すグラフにおいて、横軸は、外力の振動数(ワーク回転部の回転数についての角振動数)ωと主振動系の固有振動数ωn0との振動数比(ω/ωn0)、縦軸は、主振動系の振幅|X1|(ここで、主振動系の変位x1=X1cosωn0t)である。
図15(a)は、第二爪構造体10bが装置本体に対して動吸振器として最適同調しない場合の主振動系の振幅曲線の一例である。
この場合、外力の振動数ωが、前記のとおり主振動系の固有振動数ωn0と一致するアンバランス修正振動数ωuである状態(ω/ωn0=1の状態)における主振動系の振幅|X1|の値は、その周波数付近(振動数比付近)で略極小の値となる。そして、外力の振動数ωがアンバランス修正振動数ωu付近(振動数比の値が1付近)での、主振動系の振幅|X1|の値の変化が比較的急となる。
図15(b)は、第二爪構造体10bが装置本体に対して動吸振器として最適同調する場合の主振動系の振幅曲線の一例である。
この場合、外力の振動数ωが、前記のとおり主振動系の固有振動数ωn0と一致するアンバランス修正振動数ωuである状態(ω/ωn0=1の状態)における主振動系の振幅の値|X1|は、図15(a)に示す場合と同様、その周波数付近(振動数比付近)で略極小の値となる。しかし、この場合、ω/ωn0=1の状態における主振動系の振幅の値|X1|は、図15(a)に示す場合と比べて大きくなるものの(矢印G1に対する矢印G2参照)、外力の振動数ωがアンバランス修正振動数ωu付近(振動数比の値が1付近)における主振動系の振幅の値|X1|の変化は、図15(a)に示す場合と比べてなだらかとなる。
すなわち、第二爪構造体10bが装置本体に対して動吸振器として最適同調することにより、アンバランス修正振動数ωuについて高いロバスト性が得られ、前述したようにアンバランス修正回転数付近での振動特性の安定化を図ることができる。これにより、アンバランス修正が行われている状態で、アンバランス修正回転数が外乱等によって変動することによって主振動系の振幅が急激に大きくなることを防止することができ、アンバランス修正についての精度を向上することができる。
以上の説明においては、前記所定の爪構造体10として、第二爪構造体10bを用いて説明したが、これに限定されない。つまり、前述した第二爪構造体10bの場合と同様に、第一爪構造体10aまたは第三爪構造体10cの総合質量の調整により、その爪構造体10(10aまたは10c)が、装置本体に対する動吸振器として最適同調するように構成されてもよい。
したがって、第一爪構造体10aが、前記所定の爪構造体10として用いられる場合は、主振動系である本体マス40に対して、第一爪マス41が副振動系となる。そして、次式を満たすように、第一爪マス41の質量m1(第一爪構造体10aの総合質量)の調整が行われる。
ここで、ωn0=√(k0/m0)、ωn1=√(k1/m1)、μ=m1/m0である。
また、第三爪構造体10cが、前記所定の爪構造体10として用いられる場合は、主振動系である本体マス40に対して、第三爪マス43が副振動系となる。そして、次式を満たすように、第三爪マス43の質量m3(第三爪構造体10cの総合質量)の調整が行われる。
ここで、ωn0=√(k0/m0)、ωn3=√(k3/m3)、μ=m3/m0である。
また、前述したように第二爪構造体10bが装置本体に対して動吸振器として最適同調するように第二爪構造体10b(第二爪マス42)の質量m2が調整されている状態においては、他の二つの爪構造体10、つまり第一爪構造体10a(第一爪マス41)の質量m1および第三爪構造体10c(第三爪マス43)の質量m3は、上記式(2)に従う値となる。
したがって、第二爪構造体10bが動吸振器として最適同調するように質量m2が調整される場合、第一爪構造体10aおよび第三爪構造体10cは、それぞれの質量m1、m3がm2と異なる場合は、動吸振器として最適同調しない場合(式(9)または式(10)を満たさない場合)がある。しかし、このような場合であっても、第一爪構造体10aおよび第三爪構造体10cは、第二爪構造体10bに対して近似的に装置本体に対して動吸振器として機能し、主振動系の振動を抑制する役割を果たすと考えられる。
また、爪構造体10を装置本体に対して動吸振器として機能させるに際しては、次のような手法を用いることもできる。なお、既に説明した内容と重複する部分については、適宜その説明を省略する。
すなわち、アンバランス修正装置1において、装置本体の質量の調整、ならびに爪構造体10の総合質量および総合剛性の少なくともいずれかの調整により、各爪構造体10が、装置本体に対する動吸振器として、各爪構造体10の固有振動数が装置本体の固有振動数に最適同調するように構成される。
ここでは、三つの爪構造体10それぞれの総合質量および総合剛性の少なくともいずれかが調整されることで、三つの爪構造体10それぞれが、主振動系である本体マス40に対する動吸振器として最適同調するように構成される。
つまり、第一爪構造体10aについては、式(9)を満たすように、総合質量(第一爪マス41の質量m1)および総合剛性(第一爪マス41のバネ定数k1)の少なくともいずれかが調整される。また、第二爪構造体10bについては、式(8)を満たすように、総合質量(第二爪マス42の質量m2)および総合剛性(第二爪マス42のバネ定数k2)の少なくともいずれかが調整される。また、第三爪構造体10cについては、式(10)を満たすように、総合質量(第三爪マス43の質量m3)および総合剛性(第三爪マス43のバネ定数k3)の少なくともいずれかが調整される。
ただし、これら各爪構造体10についての総合質量および総合剛性の調整は、式(2)の条件のもとで行われる。
各爪構造体10における総合剛性の調整は、爪構造体10が有する爪部11の剛性、ロッド部12の剛性、およびクランプ剛性の少なくともいずれかが調整されることにより行われる。爪部11およびロッド部12の剛性の調整は、例えば、各部の形状や大きさ(寸法)の調整、あるいは各部を構成する材料の選定等により行われる。また、クランプ剛性の調整は、爪構造体10がシリンダ機構30により付勢される力(係止部13からの押圧力)の大きさの調整等により行われる。
なお、式(8)、式(9)および式(10)が満たされるように行われる各爪構造体10における総合質量および総合剛性の調整に際しては、所定の範囲(例えば、±5%程度)の誤差が許容される。つまり、各爪構造体10における総合質量および総合剛性の調整によって式(8)、式(9)および式(10)が満たされることには、調整される値について所定の範囲の誤差が存在する場合も含まれる。
このように、各爪構造体10が、その総合質量および総合剛性の少なくともいずれかの調整によって、装置本体に対して動吸振器として最適同調することによっても、ワーク回転部の回転にともなう振動特性について、アンバランス修正回転数付近での振動特性の安定化を図ることができる。
以上のように、本実施形態のアンバランス修正装置1は、ワーク回転部の回転にともなう振動特性を好ましい振動特性にするための構成を備えることにより、アンバランス修正精度の向上が図られている。
一方で、アンバランス修正装置1においては、ワーク回転部の回転にともなう振動についての伝達性、つまり回転するワーク回転部から振動加速度を検出する加速度ピックアップ4への振動伝達性の面からも、アンバランス修正精度の向上を図ることができる。
本実施形態のアンバランス修正装置1における振動伝達性について、図16を用いて説明する。図16は本発明の一実施形態に係るアンバランス修正装置における振動伝達経路を示す説明図である。
本実施形態のアンバランス修正装置1において、三つの爪構造体10によってワーク20がクランプされた状態での、ワーク回転部から加速度ピックアップ4への振動伝達経路(以下単に「振動伝達経路」という。)は、主に次の二つの経路がある。
すなわち、一つめの振動伝達経路は、図16において矢印H1で示すように、回転するワーク回転部の振動が、その支持されるセンターハウジング24を介して、センターハウジング24が固定されるタービンハウジング部3に伝達され、タービンハウジング部3に設けられる加速度ピックアップ4に伝達されるという直接的な経路である。
二つめの振動伝達経路は、図16において矢印H2で示すように、回転するワーク回転部の振動が、その支持されるセンターハウジング24を介して、センターハウジング24をタービンハウジング部3に固定する三つの爪構造体10、および爪構造体10を移動可能に支持するシリンダ機構30等を経て、タービンハウジング部3に伝達され、タービンハウジング部3に設けられる加速度ピックアップ4に伝達されるという間接的な経路である。
具体的には、二つめの振動伝達経路においては、回転するワーク回転部の振動が、軸受を介してセンターハウジング24に伝達され、センターハウジング24のフランジ部24aを介して、各爪構造体10の係止部13に伝達される。係止部13に伝達された振動は、爪構造体10において爪部11における本体部11aを介してロッド部12に伝達される。ロッド部12に伝達された振動は、ロッド部12のピストン部14を介してシリンダ機構30のシリンダケース31に伝達される。シリンダケース31に伝達された振動は、シリンダケース31が支持固定されるシリンダプレート9を経て、このシリンダプレート9が固定されるタービンハウジング部3に伝達され、タービンハウジング部3から加速度ピックアップ4に伝達される。
このように、本実施形態のアンバランス修正装置1においては、その振動伝達経路として、主に二つの経路が存在する。そして、これら二つの振動伝達経路のうち、図16において矢印H1で示す直接的な振動伝達経路(以下「第一経路」という。)は、必要な振動伝達経路であり、図16において矢印H2で示す間接的な振動伝達経路(以下「第二経路」という。)は、不要な振動伝達経路であるといえる。
つまり、アンバランス修正装置1において、第一経路と第二経路との二つの振動伝達経路が同等に併存することは、加速度ピックアップ4に対する振動伝達性の面から好ましくない。そして、第一経路の方が、第二経路よりも、ワーク回転部の振動の伝達性が加速度ピックアップ4に対してより直接的であるため、アンバランス修正に際し、ワーク回転部の振動を検出する上で好ましい。
すなわち、アンバランス修正装置1においては、第二経路が遮断されることにより、振動伝達経路として第一経路が用いられるとともに、その第一経路において良好な振動伝達性が得られることが、アンバランス修正に際し、ワーク回転部の振動を検出する上で好ましい。ここで、第二経路が遮断されることとは、ワーク回転部の回転にともなって第二経路を介して加速度ピックアップ4に伝達される振動が低減することを意味する。したがって、第二経路が遮断されることには、ワーク回転部の回転にともない、第二経路を形成する部材自体の振動が抑制されること、および第二経路を形成する部材間の振動伝達が抑制されることが含まれる。
そこで、アンバランス修正装置1は、第二経路を遮断するための構成と、第一経路における振動伝達性を向上させるための構成とを備える。以下、これらの構成について説明する。
まず、アンバランス修正装置1が備える、第二経路を遮断するための構成について説明する。
アンバランス修正装置1は、第二経路を遮断するための構成として、爪構造体10において次のような構成を備える。
すなわち、爪構造体10は、ワーク回転部の回転にともなう爪構造体10のワーク固定方向を含む方向の振動を吸収するためのダンパ機構50を有する。
図17に示すように、ダンパ機構50は、爪構造体10において爪部11の内部に設けられる。つまり、ダンパ機構50は、爪部11の内部に設けられる空洞部11b内に構成される。ダンパ機構50は、本実施形態のアンバランス修正装置1が備える三つの爪構造体10それぞれに設けられる。
ダンパ機構50は、ワーク回転部の回転にともなう爪構造体10の振動を吸収して減衰させる。ダンパ機構50は、爪構造体10の振動について、前述したように爪構造体10がシリンダ機構により付勢される方向であるワーク固定方向を含む方向、つまり本実施形態ではワーク回転部の回転軸線の方向に対して略平行方向(矢印J1参照、以下「横方向」という。)の振動を吸収する。
ダンパ機構50は、爪部11とロッド部12とが一体的に構成された爪構造体10に対し、比較的小さな振動体として構成される。爪構造体10に対する振動体であるダンパ機構50は、マス部材としての球状マス51と、弾性要素であるバネ52と、減衰要素であるダンパ53とを有する。
球状マス51は、爪部11の空洞部11bに対して横方向に移動可能となるように設けられる。球状マス51は、質量mdを有する。球状マス51は、その質量mdが、爪構造体10の総合質量に対して比較的小さくなるように構成される。球状マス51は、爪部11の空洞部11b内において、横方向にバネ定数kd、減衰係数cdで振動するように設けられる。
球状マス51としては、例えば鉄鋼等の金属材により構成される鉄球等が用いられる。ただし、ダンパ機構50を構成するマス部材としては、その形状や材質は特に限定されるものではない。
バネ52は、球状マス51に対して、その振動方向である横方向についてバネ定数kdの弾性を付与する。図示では、バネ52は、球状マス51に対して横方向両側に設けられる。つまり、バネ52は、球状マス51の横方向両側において、空洞部11bを形成する壁面に対して球状マス51を接続した状態で設けられている。したがって、これら二つのバネ52について合成されたバネ定数(二つのバネ52のバネ定数の和)がバネ定数kdに対応する。なお、バネ52は、球状マス51に対して横方向一側に設けられる構成であってもよい。
バネ52としては、例えばコイルバネや板バネ等の弾性部材が用いられる。
ダンパ53は、球状マス51に対して、その振動方向である横方向について減衰係数cdの減衰を付与する。ダンパ53は、球状マス51の横方向一側(図17では右側)において、空洞部11bを形成する壁面に対して球状マス51を接続した状態で設けられる。
ダンパ53としては、例えばエアダンパやオイルダンパや磁気ダンパ等の減衰部材が用いられる。また、ダンパ53は、ダンパ機構50を構成する減衰要素として、爪部11の空洞部11b内に充填されたオイル等によっても代替可能である。
このような構成を備えるダンパ機構50においては、球状マス51が、バネ52およびダンパ53を介して接続される爪部11を介して、爪構造体10に対して、横方向にバネ定数kd、減衰係数cdで振動する。
そして、ダンパ機構50においては、球状マス51が、横方向の爪構造体10の振動に対して、爪構造体10の固有振動数、つまり第二の共振周波数fn2と同じ周波数であって、かつ逆位相で横方向に振動するように、質量md、バネ定数kd、および減衰係数cdが設定される。
すなわち、ダンパ機構50における球状マス51の振動についての周波数が、爪構造体10の固有振動数(第二の共振周波数fn2)と一致するように、球状マス51の質量mdおよびバネ52のバネ定数kdが設定される。そして、これら質量mdおよびバネ定数kdが設定に加えて、ダンパ機構50における球状マス51の振動についての位相が、横方向の爪構造体10の振動に対して、逆位相となるように、ダンパ53の減衰係数cdが設定される。
なお、ダンパ機構50における質量md、バネ定数kd、および減衰係数cdの設定に際しては、前記のとおり周波数が爪構造体10の固有振動数(第二の共振周波数fn2)と一致すること、および位相が横方向の爪構造体10の振動に対して逆位相となることに対して、所定の範囲の誤差が許容される。つまり、前記のとおり周波数が爪構造体10の固有振動数(第二の共振周波数fn2)と一致することには、略一致する場合が含まれ、位相が横方向の爪構造体10の振動に対して逆位相となることには、略逆位相となる場合が含まれる。
また、本実施形態では、ダンパ機構50は、爪構造体10に対して、爪部11の内部に設けられるが、これに限定されるものではない。つまり、ダンパ機構50は、爪構造体10において、爪部11の外部やロッド部12等の他の部分に設けられてもよい。
以上のように、ダンパ機構50は、爪構造体10の総合質量よりも比較的小さい質量であって、爪構造体10の固有振動数(第二の共振周波数fn2)と同じ周波数、かつ逆位相で、横方向に振動する振動体として構成される。
このように、爪構造体10にダンパ機構50を設けることにより、第二経路を形成する部材である爪構造体10の振動を減衰させて抑制することができ、第二経路を遮断することができる。つまり、ワーク回転部の回転にともなう振動が、センターハウジング24等を介して伝達されることで生じる爪構造体10の振動を抑制することができ、第二経路を遮断することができる。
また、爪構造体10にダンパ機構50が設けられることで、爪構造体10の横方向の振動が抑制されることから、その横方向のうちの一方向(ワーク固定方向)に爪構造体10によって押し付けられることでタービンハウジング部3に対して固定されるワーク20のガタツキが抑制される。これにより、第一経路における振動伝達性が向上する。つまり、爪構造体10にダンパ機構50が設けられることは、第一経路における振動伝達性の向上にも寄与する。
また、アンバランス修正装置1は、第二経路を遮断するための構成として、爪構造体10を支持するとともにワーク固定方向に付勢する付勢手段であるシリンダ機構30において、次のような構成を備える。
すなわち、シリンダ機構30において、爪構造体10のロッド部12をシリンダロッドとして収容するシリンダケース31が、振動についての減衰性が比較的高い制振部材により構成されている。
本実施形態では、シリンダケース31は、制振部材として、アルミニウムとガラス繊維との組み合わせによる複合材が用いられて構成されている。
図18に示すように、シリンダケース31は、全体として略直方体状(略柱状)に構成される。シリンダケース31は、その外層部としてアルミニウムを材料として構成されるアルミ層32を有する。また、シリンダケース31は、アルミ層32に対する内層部として、ガラス繊維を材料として構成されるガラス繊維層33を有する。これらアルミ層32とガラス繊維層33とを有する複合材により、略直方体状の外形を有するシリンダケース31が構成される。
このように、本実施形態のシリンダ機構30においては、シリンダケース31が、制振部材としてアルミニウムとガラス繊維とからなる複合材が用いられて構成される。そして、シリンダ機構30においては、シリンダケース31の内層部であるガラス繊維層33の内側に形成される空間に、爪構造体10のロッド部12が移動可能に収容される。
ここで、ガラス繊維層33とロッド部12との間には、ロッド部12のピストン部14を摺動させる内壁を形成するためのライナ部材(図示略)が介装される。したがって、ライナ部材は、その外形形状として、ガラス繊維層33の内周面形状に沿う形状を有する。また、ライナ部材は、その内周面形状として、ピストン部14が摺動可能となるようにピストン部14の外周面形状に沿う形状を有する。例えば、図18に示すように、ガラス繊維層33の内周面形状がシリンダケース31の外形形状と同様に略直方体状であり、ピストン部14の外周面形状が円筒形状である場合、前記ライナ部材は、略直方体状の外形形状を有するとともに、円筒形状の内周面を有することとなる。
また、前記ライナ部材は、ピストン部14の摺動に対してガラス繊維層33よりも耐摩耗性を有する材料、例えば鉄系金属等により構成される。
なお、本実施形態では、シリンダケース31を構成する制振部材として、アルミニウムとガラス繊維とからなる複合材が用いられているが、これに限定されるものではない。すなわち、シリンダケース31を構成する制振部材としては、ワーク回転部が回転することで爪構造体10を介してシリンダケース31に伝達される振動について、その周波数領域での振動を減衰することができる特性を有するものであればよい。
シリンダケース31を構成する制振部材としては、前記アルミ層32を構成する材料であるアルミニウムに代えて鉄やステンレスや制振合金等を有するとともに、前記ガラス繊維層33を構成する材料であるガラス繊維に代えてカーボン繊維やアラミド繊維等を有する複合材や、ねずみ鋳鉄や制振合金等の減衰性を有する金属材や、ゴムや合成樹脂やアスファルト等を含む部材等、種々の部材を用いることができる。
このように、シリンダ機構30のシリンダケース31を制振部材により構成することにより、第二経路を形成する部材であるシリンダケース31の振動を減衰させて抑制することができ、第二経路を遮断することができる。つまり、ワーク回転部の回転にともなう振動が、爪構造体10等を介して伝達されることで生じるシリンダケース31の振動を抑制することができ、第二経路を遮断することができる。
また、シリンダ機構30においては、第二経路を遮断するための構成として、次のような構成を備えることができる。本実施形態のシリンダ機構30についての別構成であるシリンダ機構60について説明する。
本構成のシリンダ機構60においては、シリンダケース61内の流体として、前述したようなエアに代えて、高粘度流体が用いられる。つまり、本構成のシリンダ機構60は、爪構造体10に対して流体圧を付与する流体圧シリンダとして構成されるとともに、その流体として、粘性(粘性率)が比較的高い流体である高粘度流体をシリンダケース61内に有する。
本構成では、シリンダ機構60において、シリンダケース61内の高粘度流体として、高粘度オイルが用いられている。
図19に示すように、シリンダケース61は、全体として略直方体状(略柱状)に構成される。このシリンダケース61内に、流体として高粘度オイル62が充填される。
このように、本構成のシリンダ機構60においては、シリンダケース61内に充填される高粘度流体として、高粘度オイル62が用いられる。そして、この高粘度オイル62が充填されたシリンダケース61の内部空間に、爪構造体10のロッド部12が移動可能に収容される。つまり、本構成のシリンダ機構60は、高粘度オイル62による油圧シリンダとして構成される。
また、本構成のシリンダ機構60においては、高粘度オイル62を冷却するための冷却機構が設けられることが好ましい。
本構成のシリンダ機構60は、高粘度オイル62を冷却するための冷却機構として、冷却水ジャケットを有する。冷却水ジャケットは、図19に示すように、シリンダケース61に設けられる冷却水通路63に、冷却水64が流通することにより構成される。本構成のシリンダ機構60においては、シリンダケース61が、所定の間隔を隔てて形成される外層部65と内層部66とを有する二重構造とされることにより、冷却水通路63が形成される。つまり、シリンダケース61において、その外層部65と内層部66との間にて層状の冷却水通路63が形成され、この冷却水通路63内に冷却水64が満たされた状態となる。そして、内層部66の内側に形成される空間が、高粘度オイル62が充填されて爪構造体10のロッド部12が収容される空間となる。
冷却水ジャケットの冷却水通路63に対しては、シリンダケース61における所定の位置に形成される流入口67と流出口68とが設けられる。流入口67および流出口68は、冷却水通路63と連通するとともに、図示せぬ配管等を介して冷却水タンク(図示略)に接続される。かかる構成において、図示せぬ冷却水ポンプ等によって、冷却水タンクからの冷却水が流入口67を介して冷却水通路63内に流入し(矢印K1参照)、冷却水通路63内の冷却水が流出口68を介して流出し(矢印K2参照)、冷却水タンク等に戻される。このようにして、冷却水通路63内に供給される冷却水が循環する。
そして、シリンダケース61内の高粘度オイル62が、冷却水通路63内を循環する冷却水によって内層部66を介して冷却される。冷却水通路63に対して循環する冷却水の温度としては、常温(例えば25℃)よりも低い温度(例えば10℃程度)に一定制御される。これにより、高粘度オイル62の温度が、所定の冷却温度に保たれる。
このように、シリンダ機構60が高粘度オイル62を冷却するための冷却機構を有することにより、高粘度オイル62の粘度を比較的高粘度に保つことができる。つまり、液体の粘性率は、一般に温度の低下とともに増加するため、高粘度オイル62の温度が所定の冷却温度に保たれることで、高粘度オイル62を比較的高粘度に安定させることができる。
なお、本構成では、シリンダケース61内の高粘度流体として、高粘度オイルが用いられているが、これに限定されるものではない。すなわち、シリンダケース61内の高粘度流体としては、ワーク回転部が回転することで爪構造体10を介してシリンダケース61に伝達される振動について、その周波数領域での振動を減衰することができる特性を有するものであればよい。
シリンダケース61内の高粘度流体としては、高粘度オイル62のほか、液体樹脂等を用いることができる。
このように、シリンダ機構60のシリンダケース61内の流体として高粘度流体を用いることにより、第二経路を形成する部材となるシリンダケース61の振動を減衰させて抑制することができ、第二経路を遮断することができる。つまり、高粘度流体によって爪構造体10の振動を吸収することができるので、ワーク回転部の回転にともなう振動が、爪構造体10からシリンダケース61に伝達されること(爪構造体10とシリンダケース61との間の振動伝達)を抑制することができ、第二経路を遮断することができる。
また、アンバランス修正装置1は、第二経路を遮断するための構成として、次のような構成を備える。
すなわち、アンバランス修正装置1は、第二経路を形成する部材間に介装される制振部材と、係止部13がワーク20に対して係止した状態での、爪構造体10のタービンハウジング部3に対する位置決めを行う位置決め手段とを備える。
図20および図21に示すように、本実施形態のアンバランス修正装置1は、前記制振部材として、シリンダプレート9とタービンハウジング部3との間に介装される制振材70を備える。
制振材70は、制振材料により構成される板状の部材である。板状の部材である制振材70は、シリンダプレート9とタービンハウジング部3との間に挟まれた状態で介装される。つまり、前述したように板状の部材であるシリンダプレート9が、タービンハウジング部3における支持面3aと反対側に固定される構成において、タービンハウジング部3における支持面3aと反対側の面部となる背面部3dと、シリンダプレート9におけるタービンハウジング部3側(シリンダケース31が固定される側と反対側)の板面部9cとの間に、板状の制振材70が介装される。制振材70は、タービンハウジング部3とシリンダプレート9との合わせ面に対して略全面にわたる大きさを有する。
制振材70を構成する制振材料は、第二経路において、ワーク回転部の回転にともない、ワーク20のセンターハウジング24、爪構造体10、およびシリンダケース31を介してシリンダプレート9に伝達される振動について、その周波数領域での振動を減衰することができる特性を有するものであれば、特に限定されるものではない。つまり、制振材70を構成する制振材料としては、ワーク回転部の回転にともない第二経路によってタービンハウジング部3を介して加速度ピックアップ4に伝達される振動を吸収することができる特性を有するものであればよい。
制振材70を構成する制振材料としては、制振合金や制振鋼板等の金属系の制振材料や、プラスチック系の制振材料や、金属や木材やコンクリート等の構造部材(基材)に、アスファルト系やゴム系や塗料系や接着剤系や金属系等の粘弾性材料が貼付された制振材料等、種々の制振材料が適用可能である。
なお、本実施形態のアンバランス修正装置1では、制振材70は、第二経路を形成する部材間として、シリンダプレート9とタービンハウジング部3との間に介装されているが、これに限定されるものではない。アンバランス修正装置1が備える制振部材としては、シリンダプレート9とタービンハウジング部3との間に介装される制振材70に加え、あるいはこれに代えて、例えば第二経路を形成する部材間であるシリンダプレート9とこれに支持固定される各シリンダケース31との間等に介装されてもよい。これにより、ワーク回転部の回転にともない第二経路において伝達される振動を、いずれかの部材間にて減衰させることができる。
このように、アンバランス修正装置1において第二経路に制振材70が設けられることにより、シリンダプレート9からタービンハウジング部3に伝達される振動を吸収して抑制することができ、第二経路を遮断することができる。つまり、制振材70によってシリンダプレート9の振動を吸収することができるので、ワーク回転部の回転にともなう振動が、爪構造体10等を介してシリンダプレート9からタービンハウジング部3に伝達されること(シリンダプレート9とタービンハウジング部3との間の振動伝達)を抑制することができ、第二経路を遮断することができる。
一方で、第二経路を形成する部材間(本実施形態ではシリンダプレート9とタービンハウジング部3との間)に制振部材(制振材70)が介装されることにより、これら部材同士の剛性(支持剛性)が低くなる場合がある。つまり、制振部材は、第二経路を形成する他の部材に比べて剛性が低い部材となることから、制振部材が介装される部材同士の支持剛性が低くなる場合がある。
第二経路において、制振部材が介装される部材同士の支持剛性が低くなると、タービンハウジング部3に対してシリンダプレート9およびシリンダケース31を介して支持される爪構造体10の、タービンハウジング部3に対する位置にバラツキが生じる。爪構造体10のタービンハウジング部3に対する位置にバラツキが生じるということは、タービンハウジング部3に支持されるワーク20に対する爪構造体10の位置、つまり爪構造体10の係止部13によるワーク20(フランジ部24a)に対する係止位置(クランプ位置)にバラツキが生じることとなる。係止部13によるワーク20に対する係止位置にバラツキが生じると、ワーク回転部の回転にともなうワーク20の振動についてもバラツキが生じ、アンバランス修正についての精度が低下する場合がある。
そこで、アンバランス修正装置1は、前記のとおり係止部13がワーク20に対して係止した状態での、爪構造体10のタービンハウジング部3に対する位置決めを行う位置決め手段を備える。
図20および図21に示すように、本実施形態のアンバランス修正装置1は、前記位置決め手段として、爪構造体10に対するガイドピン71を備える。
ガイドピン71は、タービンハウジング部3に設けられる。ガイドピン71は、棒状の部材であり、タービンハウジング部3において支持面3a側から、爪構造体10の移動方向に沿う方向(図21において右方向)に突出するように設けられる。ガイドピン71は、タービンハウジング部3に設けられる穴部3eに圧入されることにより、タービンハウジング部3に対して固定される。なお、ガイドピン71のタービンハウジング部3に対する固定方法は特に限定されるものではない。ガイドピン71のタービンハウジング部3に対する固定に際しては、例えば、溶接やボルト固定等の方法が用いられてもよい。
ガイドピン71に対しては、爪構造体10において、ガイドピン71に対応して係合するガイド孔72が設けられる。ガイド孔72は、ガイドピン71の突出方向に対応する方向に貫通する孔部であり、ガイドピン71を挿通させることでガイドピン71に係合する。
本実施形態では、ガイド孔72は、爪構造体10における爪部11の係止部13に設けられる。つまり、ガイド孔72は、爪構造体10の移動方向に対して略垂直方向に突出する板状の部分である係止部13において、その係止部13を爪構造体10の移動方向に貫通するように設けられる。
ガイドピン71は、ガイド孔72に対してほぼ隙間なく挿通した状態となる。したがって、ガイド孔72は、その孔径が、ガイドピン71が挿入可能な程度にガイドピン71の外径と略同一となるように形成される。
ガイドピン71およびガイド孔72は、ワーク20の支持面3aに対する支持、および係止部13のワーク20に対する係止(押圧面13aのフランジ部24aに対する接触)を妨げることのない位置であって、爪構造体10の移動方向について互いに対応する位置(互いに係合可能な位置)にそれぞれ設けられる。そして、爪構造体10の係止部13が、ワーク20に対して係止した状態で、ガイドピン71とガイド孔72とが互いに係合した状態(ガイドピン71がガイド孔72に挿通した状態)となる。したがって、ガイドピン71は、係止部13がワーク20に対して係止した状態で、ガイド孔72に挿通可能な突出長さを有する。
ガイドピン71およびガイド孔72は、三つの爪構造体10それぞれについて設けられる。つまり、本実施形態のアンバランス修正装置1においては、ガイドピン71は、各爪構造体10に対応するように三箇所に設けられ、各ガイドピン71に対応するガイド孔72が、各爪構造体10に設けられる。
なお、図21においては、便宜上、一つの爪構造体10(第一爪構造体10a)についてのガイドピン71およびこれに対応するガイド孔72のみを示している。
このように構成される位置決め手段を備えるアンバランス修正装置1においては、ワーク20がタービンハウジング部3の支持面3aに支持された状態において、爪構造体10がワーク固定方向に移動し、係止部13がワークに係止した状態となることにより、ガイドピン71がガイド孔72に挿通して係合した状態となる。
このようにして、アンバランス修正装置1が備える位置決め手段により、係止部13がワーク20に対して係止した状態での、爪構造体10のタービンハウジング部3に対する位置決めが行われる。
なお、アンバランス修正装置1が備える位置決め手段は、係止部13がワーク20に対して係止した状態での、爪構造体10のタービンハウジング部3に対する位置決めが行われる構成であれば、本実施形態に限定されるものではない。
アンバランス修正装置1が備える位置決め手段としては、例えば、ガイドピン71がガイド孔72に対して嵌合することで係合する構成であったり、各爪構造体10に対して複数のガイドピン71(およびこれに対応する複数のガイド孔72)が設けられる構成であったりしてもよい。
このように、アンバランス修正装置1が位置決め手段を備えることにより、前述したように第二経路を形成する部材間に制振部材(制振材70)が介装されることでその部材同士の支持剛性が低下することに起因して生じる、係止部13によるワーク20に対する係止位置(クランプ位置)のバラツキを防止することができる。
つまり、アンバランス修正装置1は、第二経路を形成する部材間に制振部材を備えるとともに、爪構造体10のタービンハウジング部3に対する位置決め手段を備えることにより、係止部13によるクランプ位置のバラツキを生じさせることなく、第二経路を遮断することができる。
なお、アンバランス修正装置1が備える制振部材が介装されるのは、アンバランス修正装置1における第二経路を形成する部材間に限定されるものではない。アンバランス修正装置1において、制振部材が介装されるのは、次のような振動伝達経路を形成する部材間であればよい。すなわち、ワーク回転部の回転にともなう振動をワーク20から爪構造体10を介してタービンハウジング部3に対してこのタービンハウジング部3のワーク20を支持する側(支持面3a側)と異なる側から伝達する振動伝達経路である。言い換えると、前述したように直接的な振動伝達経路である第一経路に対して、これと異なる間接的な振動伝達経路である。
つまり、本実施形態のアンバランス修正装置1における第二経路は、前記のような第一経路と異なる間接的な振動伝達経路の一例である。したがって、アンバランス修正装置1において、第二経路以外に、第一経路と異なる間接的な振動伝達経路が存在する場合は、その間接的な振動伝達経路を形成する部材間に、前述のような制振部材が介装されてもよい。
以上のように、アンバランス修正装置1において、第二経路が遮断されることにより、ワーク回転部の回転にともなう振動の検出に際してその検出精度を向上することができ、アンバランス修正についての精度を向上することができる。
具体的には、図22(a)に示すように、アンバランス修正装置1が、前述したような第二経路を遮断するための構成を備えない場合は、振動特性のグラフにおいて、爪系による共振のピーク(第二の共振周波数fn2をピークとする山形状の部分)が比較的はっきりと存在する。つまり、アンバランス修正装置1が第二経路を遮断するための構成を備えない場合は、振動特性のグラフにおいて、前述したように爪系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf2と本体系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf1との差が500Hz以上とされること等により、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に振動特性の安定領域が形成された状態においても、爪系による共振のピークが比較的はっきりと存在する。
一方、アンバランス修正装置1が、前述したような第二経路を遮断するための構成を備えることにより、図22(b)に示すように、アンバランス修正装置1の振動特性において、爪系による共振による影響を低減することができる。つまり、振動特性のグラフにおいては、爪系による共振のピークが小さくなり(矢印L1参照)、第二の共振周波数fn2をピークとする山形状の部分がなだらかとなる。
これにより、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に形成される振動特性の安定領域について、その振動特性をさらに安定することができる。結果として、振動特性の安定領域に対応する回転周波数をアンバランス修正回転数として行われるアンバランス修正において、ワーク回転部の回転にともなう振動の検出に際してその検出精度を向上することができ、アンバランス修正の精度を向上することができる。
次に、アンバランス修正装置1が備える、第一経路における振動伝達性を向上させるための構成について説明する。
ここでまず、ワーク20のタービンハウジング部3に対する支持構成について、図23を用いて具体的に説明する。図23はワークのタービンハウジング部に対する支持構成を示す説明図である。図23において、(a)はワーク20がタービンハウジング部3に対して離間した状態を示す図、(b)はワーク20がタービンハウジング部3に対して支持された状態を示す図である。
ワーク20が支持される支持面3aは、前述したように、タービンハウジング部3において、ワーク20を支持する側に形成される支持凹部3bの底側(奥側(図23において左側))の面として形成される。したがって、図23に示すように、支持凹部3bは、支持面3aと、この支持面3aの周囲に形成される周壁面3cとを有する。つまり、周壁面3cは、円周状の内壁面となる(図26参照)。したがって、支持凹部3bとフランジ部24aとの嵌合形状は円周形状となる。また、支持面3aは、ワーク20のタービンロータ22のタービンハウジング部3内への収容を許容するため、円環状の面部となる。
タービンハウジング部3において支持面3aを形成する支持凹部3bに対し、センターハウジング24のフランジ部24aが嵌合した状態となることで、ワーク20がタービンハウジング部3に対して支持された状態となる(図23(b)参照)。そして、ワーク20がタービンハウジング部3に対して支持された状態においては、ワーク20におけるセンターハウジング24のフランジ部24aが、タービンハウジング部3の支持面3aに接触した状態となる。つまり、センターハウジング24のフランジ部24aの一側(タービンロータ22側)の面が、支持面3aに接触する面であって、タービンハウジング部3に対する当たり面となる平面状の接触面24bとなる。したがって、フランジ部24aの接触面24bは、支持面3aの形状に対応して円環状の面部となる(図24参照)。
このように、アンバランス修正装置1におけるワーク20のタービンハウジング部3に対する支持構成においては、ワーク20は、タービンハウジング部3に支持された状態でこのタービンハウジング部3に対する当たり面となる平面状の接触面24bを有する。また、タービンハウジング部3は、このタービンハウジング部3にワーク20が支持された状態で前記接触面24bに接触する面(ワーク20に対する当たり面)となる支持面3aを有する。
そして、アンバランス修正装置1は、第一経路における振動伝達性を向上させるための構成として、タービンハウジング部3の支持面3aにおいて次のような構成を備える。
すなわち、ワーク20に対する支持面3aは、平面状の平面部80と、この平面部80に対してわずかに盛り上がった部分である隆起部81とを有する。
図24および図25に示すように、円環状である支持面3aにおいて、その円周方向の一部が、平面状である他の部分(平面部80)に対して、わずかに盛り上がった部分となる隆起部81が設けられている(図24の薄墨部分参照)。
隆起部81の隆起形状としては、本実施形態では、図25に示すように、円環状である支持面3aの円周方向に沿って90°程度の角度範囲で隆起する山形の形状となる。また、隆起部81の隆起形状については、円環状である支持面3aの径方向についても山形の形状となる。なお、図25は、図24におけるM1−M2線に沿う、支持面3aの円周方向についての形状を示すための展開図である。ここで、回転軸線方向視となる図24において、ワーク回転部の回転軸線の位置(以下「回転軸心位置」という。)Cpを中心とする円形状について回転軸心位置Cpから右方向の半径方向の角度位置を基準(M1:0°、M2:360°)に、反時計方向(左回り)に角度が進むこととする。ただし、便宜上、図示では角度位置M1と角度位置M2とは異なる位置として示している。
隆起部81の隆起高さは、10μm程度となる。つまり、図25に示すように、平面部80を基準とする隆起部81の頂点部の高さが、10μm程度となる。
なお、隆起部81の隆起高さは、10μm程度に限定されるものではない。つまり、支持面3aにおいて平面部80に対してわずかに盛り上がった部分である隆起部81の隆起高さは、支持面3aに対するワーク20の支持やワーク20が支持された状態でのワーク回転部の回転の妨げにならない範囲で、ワーク20側において平面状である接触面24bについての平面度の公差値等に基づいて定められる。隆起部81の隆起高さは、ワーク20の接触面24bの平面度の公差値に対して比較的大きい値となるように定められる。言い換えると、隆起部81は、接触面24bの平面度の公差値に対して比較的大きくなるように、平面部80に対してわずかに盛り上がった部分となる。
このような隆起部81が、タービンハウジング部3の支持面3aの加工に際して、平面部80とともに形成される。
このように、平面部80とこれに対して盛り上がった部分である隆起部81とを有する支持面3aに対して、ワーク20側における接触面24bが接触する。つまり、タービンハウジング部3における支持凹部3bに、ワーク20のセンターハウジング24のフランジ部24aが嵌合した状態となることで、タービンハウジング部3の支持面3aとワーク20の接触面24bとが接触する。これにより、ワーク20がタービンハウジング部3に支持された状態となる。
以上のように、ワーク20側が有する平面状の接触面24bに対するタービンハウジング部3側の支持面3aが、平面部80と隆起部81とを有することにより、ワーク20がタービンハウジング部3に対して爪構造体10によって固定された状態において、ワーク20とタービンハウジング部3との当たりついて常に決まった位置(部分)における当たりを強くすることができる。つまり、タービンハウジング部3にワーク20が固定された状態で、タービンハウジング部3の支持面3aとワーク20の接触面24bとの接触部において、互いの当たりが強くなる位置(部分)が、支持面3aの隆起部81が設けられる位置(部分)として常に決まった位置(部分)とすることができる。
すなわち、タービンハウジング部3の支持面3aが全体的に平面状に形成される場合(隆起部81を有しない場合)、タービンハウジング部3が複数のワーク20に対して共通の治具として用いられて行われるアンバランス修正に際し、ワーク20側の接触面24bの平面度の公差に起因して、タービンハウジング部3とワーク20との当たり方にバラツキが生じる。つまりこの場合、複数のワーク20についてのアンバランス修正の成行きによっては、支持面3aと接触面24bとの接触部において、タービンハウジング部3とワーク20との当たりが強くなる位置(部分)を制御することができないこととなる。
このように、タービンハウジング部3とワーク20との当たり方のバラツキは、第一経路によって加速度ピックアップ4に伝達される振動の大きさについてバラツキが生じる原因となる。
そこで、複数のワーク20に対して共通の治具であるタービンハウジング部3において、その支持面3aに前述したような隆起部81が設けられることにより、異なるワーク20について、タービンハウジング部3に対して常に同じ位置(部分)での当たりを強くすることができる。
これにより、タービンハウジング部3とワーク20との当たり方のバラツキを低減することができ、第一経路によって加速度ピックアップ4に伝達される振動の大きさについてバラツキが生じることを抑制することができる。つまり、ワーク回転部の回転にともなう振動について、ワーク20(センターハウジング24)からタービンハウジング部3に対する振動伝達性を向上することができ、第一経路における振動伝達性を向上させることができる。結果として、アンバランス修正についての精度を向上することができる。
また、支持面3aが有する隆起部81は、回転軸心位置Cpを基準として、加速度ピックアップ4が位置する側に設けられることが好ましい。
すなわち、回転軸線方向視である図24に示すように、回転軸心位置Cpを中心とする円環状に形成される支持面3aにおいて、加速度ピックアップ4が設けられる側に、隆起部81が設けられることが好ましい。
本実施形態では、加速度ピックアップ4は、図24に示すように、前述した角度位置M1を基準とする角度位置で、略180°の角度位置(図24において回転軸心位置Cpを中心とする円形状について回転軸心位置Cpから左方向の半径方向の角度位置)に位置する。
そして、前記のとおり円環状である支持面3aの円周方向に沿って山形の形状となる隆起部81が、その円周方向に沿う山形の形状の中心位置(最も高くなる位置)が角度位置M1を基準とする角度位置で略180°の角度位置となるように設けられる。
このように、支持面3aが有する隆起部81を、回転軸心位置Cpを基準として、加速度ピックアップ4が位置する側に設けることにより、タービンハウジング部3とワーク20との間で当たりが強くなる位置(部分)を、加速度ピックアップ4に対して近付けることができる。これにより、ワーク回転部の回転にともない、ワーク20からタービンハウジング部に伝達される振動を、加速度ピックアップ4に対してより直接的に伝達させることができる。結果として、第一経路における振動伝達性をより効果的に向上させることができる。
また、アンバランス修正装置1は、第一経路における振動伝達性を向上させるための構成として、次のような構成を備える。
前述したように、アンバランス修正装置1におけるワーク20のタービンハウジング部3に対する支持構成においては、ワーク20は、そのフランジ部24aを介して、タービンハウジング部3に支持された状態で、支持面3aとこの支持面3aの周囲に形成される周壁面3cとを有する支持凹部3bに嵌合した状態となる。
そして、アンバランス修正装置1は、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20を、ワーク回転部の回転軸線に対する垂直方向であって加速度ピックアップ4が位置する側に向かう方向に、周壁面3cに対して押し付けるための押圧手段を備える。
すなわち、図26に示すように、タービンハウジング部3の支持凹部3bに対してワーク20のフランジ部24aが嵌合した状態においては、支持凹部3bとフランジ部24aとの間、具体的には支持凹部3bの周壁面3cとフランジ部24aの外周面24cとの間に、わずかな嵌合隙間(例えば数十μm程度の隙間)が存在する。
そこで、前記嵌合隙間において加速度ピックアップ4側の部分の隙間が埋まるように、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20を押し付けるための押圧手段が、アンバランス修正装置1において備えられる。
本実施形態では、アンバランス修正装置1は、前記押圧手段として、図26に示すように、アクチュエータ90を備える。
アクチュエータ90は、ワーク20を、ワーク回転部の回転軸線に対する垂直方向であって加速度ピックアップ4が位置する側に向かう方向(以下「検出側方向」という。)に押し付ける。ここで、検出側方向について、ワーク回転部の回転軸線に対する垂直方向とは、ワーク回転部の回転軸線の方向が垂直方向となる面に沿う方向である。また、同じく検出方向について、加速度ピックアップ4が位置する側に向かう方向とは、図26で示す回転軸線方向視で、支持凹部3bとフランジ部24aとの嵌合形状である円周形状において加速度ピックアップ4が位置する側に向かう方向である。
したがって、本実施形態では、アクチュエータ90は、図26に示す回転軸線方向視で左側に向かう方向にワーク20を押し付けることとなる(矢印N1参照)。
アクチュエータ90は、ワーク20の押付けに際して、押圧部91を有する。つまり、アクチュエータ90は、押圧部91がワーク20における所定の部分に接触した状態で、ワーク20を押し付ける。押圧部91がワーク20に対して接触する部分は、特に限定されるものではない。押圧部91がワーク20に対して接触する部分は、ワーク20におけるワーク回転部以外の部分となる。具体的には、例えば、押圧部91は、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20において、支持凹部3bに嵌合した状態のフランジ部24aのうち支持凹部3bから露出している部分に対して接触する。
アクチュエータ90は、押圧部91による検出側方向へのワーク20に対する押圧作用が得られるものであれば、特に限定されるものではない。アクチュエータ90としては、エアシリンダや油圧シリンダ等のシリンダ機構や、ソレノイドアクチュエータや、ネジ機構等、種々のアクチュエータを用いることができる。
また、ワーク20を押し付けるための押圧手段は、アクチュエータ90に限定されるものではない。つまり、ワーク20を押し付けるための押圧手段は、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20を、検出側方向に、周壁面3cに対して押し付けるための手段であれば特に限定されるものではない。
このように、アンバランス修正装置1が、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20を支持凹部3bの周壁面3cに対して押し付けるためのアクチュエータ90を備えることにより、検出側方向における支持凹部3bの周壁面3cとフランジ部24aの外周面24cとの接触を確実にすることができる。これにより、ワーク回転部の回転にともなう振動について、ワーク20のセンターハウジング24からタービンハウジング部3を介する振動伝達性を向上することができ、第一経路における振動伝達性を向上させることができる。
また、加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の方向が、アクチュエータ90によるワーク20の押付け方向である検出側方向を含む方向(図26における左右方向)である場合、第一経路における振動伝達性をより効果的に向上させることができる。
すなわち、前記のとおり加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の方向が検出側方向を含む方向(以下「振動検出方向」という。)である場合において、ワーク20が周壁面3cに対して押し付けられていない状態では、ワーク回転部の回転にともない生じるワーク20の振動検出方向の振動は、主に支持面3aおよび接触面24bを介してワーク回転部の回転軸線の方向に伝達されることとなる。言い換えると、X−Y直交座標系において、振動検出方向をX方向(図26における左右方向)、ワーク回転部の回転軸線の方向をY方向(図23における左右方向、図26における紙面に垂直方向)とすると、加速度ピックアップ4において検出されるX方向の振動が、タービンハウジング部3とワーク20とのY方向の当たり面で伝達されることとなる。
そこで、アクチュエータ90により、タービンハウジング部3に支持された状態のワーク20が検出側方向に押し付けられることによって、振動検出方向(X方向)におけるタービンハウジング部3とワーク20との接触(周壁面3cと外周面24cとの接触)が確実となり、加速度ピックアップ4に対してその振動検出方向の振動伝達性を向上することができる。これにより、第一経路における振動伝達性をより効果的に向上させることができる。
以上のように、アンバランス修正装置1において、第一経路における振動伝達性が向上することにより、ワーク回転部の回転にともなう振動の検出に際してその検出精度を向上することができ、アンバランス修正についての精度を向上することができる。
具体的には、図27(a)に示すように、アンバランス修正装置1が、前述したような第一経路における振動伝達性を向上させるための構成を備えない場合は、例えばアンバランス修正回転数fuにおける振動加速度について見ると、加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の値Guにおける第一経路による振動伝達分(矢印P1参照)と第二経路による振動伝達分(矢印P2参照)との割合について、矢印P2で示す第二経路による振動伝達分の割合が、振動加速度の全体の大きさ(値Gu)に対して比較的大きくなる。つまり、アンバランス修正装置1が第一経路における振動伝達性を向上させるための構成を備えない場合は、前述したように第二経路を遮断するための構成を備えることにより、振動特性の安定領域についてその振動特性が安定した状態においても、矢印P2で示す第二経路による振動伝達分の割合が、振動加速度の全体の大きさ(値Gu)に対して比較的大きくなる。
このように、加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の値について、第二経路による振動伝達分が大きくなることは、加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の値全体に対する第一経路による振動伝達分が不足することとなるため、アンバランス修正についての精度の低下の原因となる。つまり、第一経路は、前述したようにアンバランス修正装置1における振動伝達経路のうち直接的な振動伝達経路であるため、この第一経路による振動伝達分の割合が十分に得られることが、アンバランス修正についての精度を向上するうえで好ましい。
なお、ここでは便宜上、ワーク回転部の回転にともなう振動が、第一経路および第二経路のいずれかの経路によって加速度ピックアップ4に伝達されることとしている。つまり、加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の値が、第一経路による伝達分と第二経路による伝達分とに分けられることとしている。
一方、アンバランス修正装置1が、前述したような第一経路における振動伝達性を向上させるための構成を備えることにより、図27(b)に示すように、加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の値Guにおける第一経路による振動伝達分(矢印P3参照)と第二経路による振動伝達分(矢印P4参照)との割合について、矢印P4で示す第二経路による振動伝達分の割合を、振動加速度の全体の大きさ(値Gu)に対して比較的小さくすることができる。つまり、アンバランス修正装置1が第一経路における振動伝達性を向上させるための構成を備えることにより、加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の値について、第一経路による振動伝達分を大きくすることができ(矢印P1に対する矢印P3)、その分、第二経路による振動伝達分を小さくすることができる(矢印P2に対する矢印P4)。
これにより、加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の値全体に対する第一経路による振動伝達分について、十分な割合を得ることができる。結果として、ワーク回転部の回転にともなう振動の検出に際してその検出精度を向上することができ、アンバランス修正についての精度を向上することができる。
以上の構成を備えるアンバランス修正装置1における振動特性の向上をまとめると、次のようになる。
すなわち、アンバランス修正装置1において、図10に示すように、爪構造体10の総合質量の調整によって各爪構造体10の固有振動数を一致させることにより、アンバランス修正装置1の振動特性のグラフにおいて、爪系による共振のピークを一つにすることができる。
次に、図13に示すように、振動特性のグラフにおいて、爪系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf2と本体系による共振の減衰性に基づく回転周波数Nf1との差が500Hz以上とされること等により、爪系による共振のピークが一つになった状態から、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に振動特性の安定領域を形成することができる。
続いて、図22に示すように、アンバランス修正装置1が第二経路を遮断するための構成を備えることにより、第一の共振周波数fn1と第二の共振周波数fn2との間に振動特性の安定領域が形成された状態から、爪系による共振のピークを小さくすることができる。
そして、図27に示すように、アンバランス修正装置1が第一経路における振動伝達性を向上させるための構成を備えることにより、加速度ピックアップ4によって検出される振動加速度の値全体に対する第一経路による振動伝達分について、十分な割合を得ることができる。
なお、爪系による共振のピークを一つにするための構成、第二経路を遮断するための構成、および第一経路における振動伝達性を向上させるための構成は、それぞれの構成について独立した効果を得ることができる。つまり、これらの構成のうちいずれかの構成がアンバランス修正装置1に備えられることにより、前述した対策前の振動特性(図7参照)に対して振動特性を向上させることができる。