JP2009013320A - 水素の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】無灰炭の触媒ガス化反応による水素の製造方法において、無灰炭として、褐炭又は亜瀝青炭由来の無灰炭を用い、かつガス化温度を600〜650℃とする。触媒が炭酸カリウムである上記記載の水素の製造方法。褐炭がムリア炭であり、亜瀝青炭がパシール炭である上記記載の水素の製造方法。
【選択図】なし
Description
この方法は、触媒の失活を防ぐことができ、触媒の損失が少なく再利用が容易になるため、製造プロセスの長期運転が可能となり、また、触媒の再生プロセスを省略することができるといった多くの利点を有するものである。
しかし、その後の検討によれば、ガス化温度を高温たとえば750℃以上にする必要があり、これより低いガス化温度では、ガス化速度が急激に低下し、650℃程度の低いガス化温度では、単位原料炭の50重量%をガス化するには通常180分程度の長時間を要することを見出した。
そこで、ガス化温度を低温側にシフトしても、適正なガス化速度が維持され、効率的な水素の製造を可能とする手法の研究開発を更に進めたところ、意外にも、ムリア炭などの褐炭やパシール炭などの亜瀝青炭由来の無灰炭がこれらの目的に対して極めて有効であることを知見した。本発明はこれらの知見によりなされたものである。
〈1〉無灰炭の触媒ガス化反応による水素の製造方法において、無灰炭として、褐炭又は亜瀝青炭由来の無灰炭を用い、かつガス化温度を600〜650℃としたことを特徴とする水素の製造方法。
〈2〉触媒が炭酸カリウムであることを特徴とする〈1〉に記載の水素の製造方法。
〈3〉褐炭がムリア炭であることを特徴とする〈1〉又は〈2〉に記載の水素の製造方法。
〈4〉亜瀝青炭がパシール炭であることを特徴とする〈1〉〜〈3〉のいずれかに記載の水素の製造方法。
(2)この種の水素の製造方法においては、商業化、ガス製造コストから、低温でのガス生成速度が必要不可欠であるが、650℃以下の温度では、瀝青炭などの高石炭化度炭では通常ガス化は十分に進行しないが、本発明においては、650℃以下の低い温度でも触媒ガス化を連続して行うことができ、水素および二酸化炭素を効率よく製造することができる。
(3)本発明によれば、触媒劣化が回避され、触媒の損失が少なく再利用が容易になるため、製造プロセスの長期運転が可能となり、触媒の再生プロセスを省略することができる。
(4)本発明は、上記特有な無灰炭を原炭としたことから、たとえば650℃での冷ガス効率を75%以上とすることができる。
ここで、褐炭とは、一般に、可燃分:35〜55%、水分:45〜65%からなる組成を有する低品位炭を意味する。このような褐炭としては、たとえば、ムリア炭、ロイヤング炭, ビューローザップ炭、ヤルーン炭、アダロ炭、ベラウ炭が例示される。
また、亜瀝青炭とは、一般に、可燃分:55〜80%、水分:15〜45%からなる組成を有する低品位炭を意味する。このような亜瀝青炭としては、たとえば、パシール炭、ワイオミング炭, グニュンバヤン炭、MTBU炭、キタディン炭、ビニュンガン炭、ワイオダック炭、ロンコウ炭、K−プリマ炭、タニトハルム炭、マリナウ炭、太平洋炭が例示される。
まず、ムリア褐炭に適当量の溶剤を混合し石炭スラリーを調製する。溶剤としては2環芳香族が好適に用いられ、具体的には、1−メチルナフタレン、粗メチルナフタレン油等が用いられる。この石炭スラリーは80-120℃程度で脱水された後、抽出セルに詰められる。溶剤を送液ポンプで一定流量で流しながら、予熱部で360〜400℃に加熱され、これを抽出セルに1時間流すことにより、一部の石炭が溶剤に溶解する。次いで抽出セルの入口と出口には、平均孔径0.8μmの焼結フィルターが取り付けられており、出口のフィルターで固液分離が行われることにより、抽出物が抽出液として回収される。その後抽出液から溶剤を回収することで、無灰炭が得られる。
このようなムリア褐炭由来等の無灰炭は、原炭に比べて炭素含有量が高く、酸素および水分含有量が低い。また、灰分は0.02%〜0.1%で、原炭に比べて約1.5倍の熱量を有し、すべて高い燃焼性と流動性を示す。さらには、鉱物質をほとんど含有しないため、触媒ガス化において触媒を被毒することがなく触媒の失活を防ぐことができる。
ここで、触媒ガス化反応とは、原料炭を触媒の存在下で水蒸気を用いて原料炭をガス化する反応をいう。
本発明に用いられる触媒は特に限定されず、石炭の触媒ガス化に用いられる触媒として従来知られているものを好適に用いることができる。このような触媒としては、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム等が例示され、これらのうち、分散性と触媒活性の点からみて、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが好ましく、さらに炭酸カリウムが特に好ましい。また、触媒使用量は、無水無灰ベースの無灰炭量に対して、6〜20%とすることが好ましい。
ガス化温度を600〜650℃を維持する手段は、バッチ式や連続式などの反応方式を考慮することにより、適宜選定されるが、たとえば副生炭(抽出残渣)の燃焼熱などの外部熱源による加熱方法を採用することが好ましい。
また、昇温速度は、特に制限はなく、例えば20〜1000℃/分、反応時間は、例えば10〜90分が好ましい。
なお、前記したように、本発明者等が提案した上記特許公報記載の方法では、ガス化温度を高温たとえば750℃以上にする必要があり、これより低いガス化温度では、ガス化速度が急激に低下し、650℃程度の低いガス化温度では、単位原料炭の50重量%をガス化するにはたとえば180分程度の長時間を必要とし(後記比較例1参照)、本発明の所期の目的を達成することは困難である。
本法は、こうした水素リッチガスを簡便で低廉なプロセスにより効率的に製造し得ることから、新たな石炭ガス化による工業的な水素の製造法として極めて有望なものといえる。また、高濃度での二酸化炭素の生成を可能としたことから、簡便に二酸化炭素を分離回収でき、また貯蔵へのプロセス展開も容易であることから、環境問題の解消や地球温暖化の抑制に貢献するものである。
無灰炭のガス化プロセスの一つとして、種々の方法があるが流動床ガス化システムが好ましく用いられる。このシステムでは、石炭と触媒(事前混合あるいは個別)がガス化炉の中間域から導入される。蒸気はガス化炉下部から導入される。触媒と微量の灰が下部から抜き取られ、加熱水を用いて水に可溶分である触媒と不溶分の灰を分離し、触媒は再利用される。生成ガスはガス化炉上部から排出され、水素と二酸化炭素に分離される。水素はエネルギー源として利用され、二酸化炭素は二酸化炭素回収・貯蔵(CCS)技術により固定化される。
ムリア褐炭を原炭とし、溶剤抽出/脱灰法により、ムリア無灰炭を製造した。つぎに、熱重量測定装置にこのムリア褐炭とムリア無灰炭をそれぞれ別個に投入し、触媒(K2CO3)の有無の条件下で水蒸気ガス反応を行った。そのガス化結果を図1に示す。
図1から、650℃でのガス化において、触媒なしの条件では、MuliaHPC650(ムリア無灰炭)およびMulia650(ムリア褐炭)の両炭種とも極めて低いガス化速度を示した。また、MuliaHPC650(ムリア無灰炭)はMulia650(ムリア褐炭)に比べてガス化速度が劣るものであった。
60分でのガス化転換率は、MuliaHPC650(ムリア無灰炭)では、18%、Mulia650(ムリア褐炭)では、20%であった。
一方、触媒であるK2CO3を6%添加した場合には、Mulia650(ムリア褐炭)のガス転換率は上昇するものの、60分で約65%程度であった(無触媒の場合に対しての増加率45%:60分)。
これに対して、上記触媒共存下でのMuliaHPC650(ムリア無灰炭)のガス化転換率の上昇は著しく、60分で99%にも達した(無触媒の場合に対しての増加率81%:60分)であった。
以上の結果から、650℃という極めて低いガス化温度においても、触媒を併用することにより、MuliaHPC650(ムリア無灰炭)は極めて高いガス化速度と転化率を示すことが明らかとなった。
パシール亜瀝青炭を原炭とし、溶剤抽出/脱灰法により、パシール無灰炭を製造した。つぎに、熱重量測定装置に、このパシール亜瀝青炭とパシール無灰炭をそれぞれ別個に投入し、実施例1と同じ触媒(K2CO3)の存在下で水蒸気ガス反応を行った。そのガス化結果を図2に示す。
図2から、触媒であるK2CO3を6%添加した場合には、Pasir650(パシール亜瀝青炭)のガス転換率は、60分で60%程度であった。
これに対して、上記触媒共存下でのPasirHPC650(パシール無灰炭)のガス化転換率の上昇は著しく、60分でほぼ100%にも達した。
以上の結果から、650℃という極めて低いガス化温度においても、触媒を併用することにより、PasirHPC650(ムリア無灰炭)は極めて高いガス化転化効率を示すことが明らかとなった。
実施例1のガス化温度を600℃として以外は実施例1と同様に触媒共存下でのガス化反応を行った。その結果、MuliaHPC650(ムリア無灰炭)の60分でのガス化転換率は、50%であった。
実施例2のガス化温度を600℃として以外は実施例1と同様に触媒共存下でのガス化反応を行った。その結果、PasirHPC650(ムリア無灰炭)の60分でのガス化転換率は、43%であった。
実施例1の各種ガス化反応で得られた生成ガス組成をマイクロガスクロマトグラフAgilent 3000Aにより分析した。その結果を図3に示す。
図3から、触媒無しでは、Mulia650(ムリア褐炭)のガス生成量は少なく、水素:18mol/kg、二酸化炭素:20mol/kg、一酸化炭素:9mol/kgであり、全体ガスに対するそれぞれのガスの占める割合は、水素39%、一酸化炭素19%、二酸化炭素41%であった。
一方、触媒添加をした場合、Mulia650(ムリア褐炭)ではガス生成量の増加がみられ、水素:41mol/kg、二酸化炭素:37mol/kg、一酸化炭素:4mol/kgであり、全体ガスに対するそれぞれのガスの占める割合は、水素50%、一酸化炭素4.5%、二酸化炭素45%であった。
これに対して、MuliaHPC650(ムリア無灰炭)では、更に大幅なガス生成量の増加が見られ、水素:57mol/kg、二酸化炭素:43mol/kg、一酸化炭素:3.8mol/kgであり、全体ガスに対するそれぞれのガスの占める割合は、水素54%、一酸化炭素3.6%、二酸化炭素41%であった。
これらの結果は、650℃という極めて低い温度下におけるガス化反応においても、MuliaHPC650(ムリア無灰炭)を用いた場合には、高収率で水素が生成されることを示している。さらに、ガス組成の97%が水素と二酸化炭素であることが分かった。こうした高濃度での二酸化炭素の生成により、後段での効率的な二酸化炭素回収と貯蔵へのプロセス展開が期待できる。
実施例2の各種ガス化反応で得られたガス組成をマイクロガスクロマトグラフ,Agilent 3000Aにより分析した。その結果を図4に示す。
図4から、触媒無しでは、Pasir650(パシール亜瀝青炭)のガス生成量は少なく、水素:15.8mol/kg、二酸化炭素:9.6mol/kg、一酸化炭素:9mol/kgであり、全体ガスに対するそれぞれのガスの占める割合は、水素45%、一酸化炭素26%、二酸化炭素27%であった。
一方、触媒を添加した場合、Pasir650(パシール亜瀝青炭)ではガス生成量の増加がみられ、水素:61mol/kg、二酸化炭素:31mol/kg、一酸化炭素:3.3mol/kgであり、全体ガスに対するそれぞれのガスの占める割合は、水素63%、一酸化炭素3.5%、二酸化炭素33%であった。
これに対して、PasirHPC650(パシール無灰炭)では、更に大幅なガス生成量の増加が見られ、水素:78mol/kg、二酸化炭素:41mol/kg、一酸化炭素:3.6mol/kgであり、全体ガスに対するそれぞれのガスの占める割合は、水素63%、一酸化炭素3.0%、二酸化炭素33%であった。
これらの結果は、650℃という極めて低い温度下におけるガス化反応においても、PasirHPC650(パシール無灰炭)を用いた場合には、高収率で水素が生成されることを示している。さらに、ガス組成の97%が水素と二酸化炭素であることが分かった。こうした高濃度での二酸化炭素の生成により、後段での効率的な二酸化炭素回収と貯蔵へのプロセス展開が期待できる。
実施例3のガス化反応で得られたガス組成をマイクロガスクロマトグラフ,Agilent 3000Aにより分析した。その結果、水素:58mol/kg、二酸化炭素:38mol/kg、一酸化炭素:4mol/kgであり、全体ガスに対するそれぞれのガスの占める割合は、水素57%、一酸化炭素4%、二酸化炭素37%であった。
実施例4のガス化反応で得られたガス組成をマイクロガスクロマトグラフ,Agilent 3000Aにより分析した。その結果、水素:73mol/kg、二酸化炭素:35mol/kg、一酸化炭素:(4.4mol/kg)であり、全体ガスに対するそれぞれのガスの占める割合は、水素63%、一酸化炭素4%、二酸化炭素30%であった。
実施例1と2における、Mulia650(ムリア褐炭)、MuliaHPC650(ムリア無灰炭)、Pasir650(パシール亜瀝青炭)及びPasirHPC650(パシール無灰炭)の650℃での冷ガス効率を、以下の式により算出した。その結果を図5に示す。
冷ガス効率=ガスとして利用出来るエネルギー/原料の保有するエネルギー
図5から、触媒なしのMulia650(ムリア褐炭)およびMuliaHPC650(ムリア無灰炭)の冷ガス効率はそれぞれ33%と31%であった。
一方、触媒添加により、それらは65%と75%に向上するが、さらにMuliaHPC650(ムリア無灰炭)およびPasirHPC650(パシール無灰炭)といった、特有な無灰炭を利用すると、その冷ガス効率が更に77%と81%に増大し、極めて高い冷ガス効率が得られることが判った。
この結果、650℃という低い温度で、褐炭や亜瀝青炭からの無灰炭を用いた触媒ガス化により、75%の冷ガス効率を達成されることが判った。
実施例1において、触媒繰り返し使用の考察を行った。その結果を図6に示す。Mulia650(ムリア褐炭)の場合、1回目の触媒使用後にガス化速度は減少し、触媒が失活していることを示している。一方、MuliaHPC650(ムリア無灰炭)では、2回目の触媒使用でも1回目と同様のガス化を維持し、650℃において触媒の繰り返し利用が可能であることが判った。
実施例1において、原料炭を特開2006−143971号記載の瀝青炭由来の無灰炭(Oaky CreekHPC)に代え、650℃でK2CO3の存在下でガス化反応を行った。その結果を図7に示す。
なお、比較のため、図7には、本発明の対象とするMuliaHPC650(ムリア無灰炭)およびPasirHPC650(パシール無灰炭)を用いた場合の結果も併記した。
また、650℃において、原料炭の50重量%をガス化するために要する時間を比較した。その結果を表1に示す。
Claims (4)
- 無灰炭の触媒ガス化反応による水素の製造方法において、無灰炭として、褐炭又は亜瀝青炭由来の無灰炭を用い、かつガス化温度を600〜650℃としたことを特徴とする水素の製造方法。
- 触媒が炭酸カリウムであることを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
- 褐炭がムリア炭であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素の製造方法。
- 亜瀝青炭がパシール炭であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素の製造方法。
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