JP2008543312A - 細胞傷害性リボヌクレアーゼ変異株 - Google Patents

細胞傷害性リボヌクレアーゼ変異株 Download PDF

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Abstract

本発明は、RNase・スーパーファミリーの変質された形態のメンバーに関する。RNase Aは、そのアミノ酸配列を変えることにより細胞傷害性になるように修飾することができるので、触媒特性を維持しながらRNase阻害剤により容易に結合されることはない。比較的初期の研究は、細胞傷害性を生じるRNase Aのいくつかの修飾を識別しているが、分子相互作用の分析に関するFADEアルゴリズムを使用すると、修飾の候補になる位置が他にもいくつかあることが分かった。これらいくつかの修飾から細胞傷害性の高いRNase A変異株が得られた。

Description

関連出願の説明
本出願は、2005年6月16日に出願された米国特許仮出願第60/690,970号の優先権を主張している。
連邦政府が後援した研究又は開発に関する説明
本発明は、政府機関である国立衛生研究所により授与された連邦政府の支援CA073808によりなされた。連邦政府は本発明において一定の権利を有する。
リボヌクレアーゼは、RNAの分解を触媒する酵素である。十分に研究されたリボヌクレアーゼは、ウシのリボヌクレアーゼA(RNase A)であり、このリボヌクレアーゼAの生物学的推定機能は、反すう消化器内に蓄積されている大量のRNAを分解することである。RNase A・スーパーファミリーは、RNase Aと同族の酵素として分類された一群のリボヌクレアーゼ酵素である。このスーパーファミリーのメンバーの一部は、抗増殖性、細胞傷害性、胚毒性、精子不形成性、及び抗腫瘍性などの諸活性を含む多数の興味深い生物学的特性を有する。このファミリーの1メンバーは、もともと卵母細胞及びノーザンヒョウガエルであるラナ・ピピーンズの初期の胚から単離されたリボヌクレアーゼAの同族体であり、ノーザンヒョウガエルであるラナ・ピピーンズは、インビトロ及びインビボの両方で抗腫瘍特性を示す分子について使われる名称で、今では、Onconase(登録商標)(ONC)として知られている。RNAを分解する特性は、ONCの細胞傷害性にとって必須である。ONCは、現在、臨床試験において癌治療薬として評価されている。
化学療法剤としてのONCの適合性に関する重大な制約は、用量を限定する腎臓毒性である。ONCは、リボヌクレアーゼ・スーパーファミリーの哺乳類のメンバーよりもはるかに高い濃度で腎臓内に保持される。マウスはONCに対して抗体を産生するが、リボヌクレアーゼAに対しては産生しないので、ONCについてはアレルギーの問題もあるが、ONCはリボヌクレアーゼAとはそのアミノ酸の約30%を共有する。これは、リボヌクレアーゼ・ファミリーの他のメンバーが、ONCに類似した細胞傷害性を持たせることができるならば、臨床治療薬として評価する場合、適切な候補になりうることを示唆している。
体内では、RNase活性のレベルは、リボヌクレアーゼ阻害剤(RI:ribonuclease inhibitor)により調節され、該阻害剤はすべての哺乳類の細胞の細胞質ゾルに存在する50kDaのたんぱく質である。RIはロイシンに富むたんぱく質ファミリーのメンバーであり、蹄鉄型分子内に系統的に配置された15個の交互反復体から構成されている。RIは多数のシスティン残基(ヒトRIでは32)を有し、これは、RIが細胞質ゾルのような還元雰囲気においてのみ、その形状と機能とを保持できることを意味している。RIは、RNase・スーパーファミリーのメンバーに、1つのRIがRNaseの1つの分子に結合するように作用し、そのように結合したときは、酵素の活性部位の立体的な妨害によりリボヌクレアーゼの触媒活性を、RIが完全に阻害する。RNaseに対するRIの結合は、非常にタイトな結合であり、非常に高い結合親和性を有する。
RNase・スーパーファミリーの一部のメンバー、特にONC及びウシの精液リボヌクレアーゼは、RIを避ける特別な能力を有する。RIを避ける特質は、主として、ONC及びウシの精液リボヌクレアーゼの細胞傷害性によるものである。天然細胞傷害性ではないRNase・スーパーファミリーのメンバーは、RIへの結合を阻害するように該メンバーのアミノ酸構成を修飾し、及び特にRIとRNaseとの間の最も近い相互作用点の一つでより小さなアミノ酸をより大きなアミノ酸で置換することにより細胞傷害性にすることができることも判明している。この方法は、細胞傷害性変異株であるG88RRNase Aについて説明している米国特許第5,840,296号に記載されている。G88RRNase Aは、天然のRNase Aに比べてRIに対する親和性は低いが、天然のRNase Aは更にONCよりも細胞傷害性が10倍低い。学名G88Rは、RNase A分子が、アミノ酸位置88のグリシン(G)残基をアルギニン(R)残基で置換することにより変質されたことを意味している。
たんぱく質の3次元構造のモデルを作る方法及びツールは、進化を続けている。2つの分子の間、例えば、RNase AとRIとの間の相互作用を分析する場合、2つの分子の間の相互作用の部位を特定する問題は、現在やっと解決可能になりつつある。分子モデルを作るツールが発達したので、その相互作用の分析をより精巧にすることができるようになっている。
本発明は、RNaseの遺伝子操作されたリボヌクレアーゼにより要約される。少なくとも2つのアミノ酸を有するスーパーファミリーは、その天然の配列から変わる。第1の変化は、ウシの膵臓のRNase Aのアミノ酸残基85〜94の相当する領域におけるアミノ酸置換である。第2の変化は、ウシの膵臓のRNase Aの残基38、39及び67に対応するアミノ酸からなる群から選択された位置における変質(alteration)、置換又はアミノ酸交換(swap)である。
本発明の目的は、遺伝子操作された従来のリボヌクレアーゼに比べて改善された細胞傷害特性を有する遺伝子操作されたリボヌクレアーゼAの意味を明確にすることである。
本発明の他の目的、利点及び特徴は、添付図面に関連して行われた次のような説明から明らかになるであろう。
本発明は、新しいレベルの細胞傷害性を有するように遺伝子操作されたRNase Aのスーパーファミリーの変質したリボヌクレアーゼに関する。これは、分子相互作用の新しいモデルを作るツールである、高速原子密度評価(FADE:Fast Atomic Density Evaluation)アルゴリズムを用いて達成することもできる。このアルゴリズムを用いて、RNase Aとリボヌクレアーゼ阻害剤との間の分子接触の位置のモデルを作った。このモデルに基づいて、RNase Aのアミノ酸配列の変異株をデザインし、立体障害によりRIを避けることができる新規なRNase A変異株を創ることができた。これらの変異株は、リボ核酸分解活性及び細胞傷害性についてもテストした。その場合、従来知られているRNase A変異株よりも細胞傷害性の強い変異株を識別することができる。
分析は、RNase AとRI分子との間の相互作用の研究により開始された。たんぱく質間の界面には、総表面積、非極性表面積、充填密度、及び極性相互作用を含む、錯体の安定性に寄与しうる多くの特性がある。pRI・RNase A(RNase A)錯体形成時に埋もれた溶媒が接近できる2,550Å2の表面積は、酵素・阻害剤錯体の場合比較的大きく、プロテアーゼ・阻害剤錯体の場合に典型的な1600Å2よりもかなり大きい。一般に、たんぱく質の界面は、溶媒に曝されたたんぱく質表面の化学的特性に類似しており、溶媒に曝されたたんぱく質表面は、約57%の非極性残基、24%の中性極性の残基、及び19%の荷電アミノ酸残基から構成されている。しかし、典型的なたんぱく質間の界面は、溶媒に曝されたたんぱく質表面よりも荷電残基の含有量が少なく、中性極性の残基を多く含む。このような傾向とは異なり、pRI・RNase A界面は、49%の非極性残基、27%の中性極性の残基、及び24%の荷電残基を有し、かなり多く荷電している。実際に、細胞質pHにおいて塩基性RNase A(pI9.3)と酸性RIたんぱく質(pI4.7)との間で形成された錯体では、静電力が重要な役割を果たしているように思われる。
pRI・RNase A錯体内では電荷間の相互作用の役割が比較的大きいのに対して、2つの表面の間の形状補完性の度合いが平均値より低い。形状相関統計、Sc、は、2つの表面の調和の仕方をよく説明し、値が1.0の場合は完璧な適合、0.0の場合は2つの表面が無関係であることを意味している。典型的なプロテアーゼ・阻害剤錯体の場合の値が0.70−0.76、典型的な抗体・抗原錯体の場合の値が0.64−0.68であるのに比べて、pRI・RNase A界面は、Sc値が0.58と比較的低い。pRI・RNase A界面における原子の充填も、典型的なたんぱく質の内部又はたんぱく質間の界面よりも緻密さが低い。大量の埋もれた表面積が比較的低い形状補完性を補い、RIとRNase Aとの間の非常に安定な相互作用を生じている。
本明細書に記載した研究を行う前は、以前産生された変異株の中で、K7A/K41R/G88RRNase Aが最もRI回避的であった。やはり、ここで使われた学名の下では、G88Rは、アミノ酸位置88においてグリシン(G)残基をアルギニン残基(R)が置換することによりRNase A分子が変質され、K47A/K41R/G88Rの蓄積は、3つすべての置換は同じRNase A変異株(variant)についてなされたことを意味している。この変異株が、G88RRNase AのKd値よりほぼ100倍大きい、47nMのKd値を有するpRIと錯体を形成した。なお、K7A/K41R/G88RRNase Aは、その活性部位であるリジンをアルギニンで置換したため生じたリボ核酸分解活性が大幅に100倍低下したために、強力な細胞毒素ではない。したがって、細胞傷害剤として有効であるためには、変異株は、RNaseとして有効な触媒活性を維持しながら親和性を下げてRIに結合しなければならない。
FADEアルゴリズムは、図1及び2に図示され、表1に示された部位特異的突然変異生成により破壊されたためにpRI・RNase A錯体に新しい「つまみ」及び「穴」があることを明らかにした。この研究で創られたRNase A変異株において、D38R/R39D交換及びN67R置換がRIに対する親和性を最大限に低下させた。これら各々の置換のみにより、pRI・RNase A錯体の安定性を損なうが、これはG88R置換の不安定化とほぼ等しい。最も破壊的なFADEにより呼び起こされた置換を併用すると、RI回避性がK7A/K41R/G88RRNase Aよりも30倍高くなるだけでなく、ほぼ野生型の触媒活性も保持されるリボヌクレアーゼが得られた(下の表2を参照のこと)。その上、D38R/R39D/G88R、D38R/R39D/N67R/G88R、及びK31A/D38R/R39D/N67R/G88Rの各変異株は、すべて、ONCよりもK−562細胞に対して細胞傷害性が強かった(図3を参照のこと)。
したがって、RNase AとRIとの相互作用にFADEアルゴリズムを適用すると、図1及び2に示した2つの分子の構造の間の相互作用のモデルが得られる。この分析は、ウシのRNase A及びブタのリボヌクレアーゼ阻害剤(pRI:porcine ribonuclease inhibitor)を用いて行った。これらの図で、FADE幾何学的補完性マーカーは、固体球として示している。これらの球は原子を表すものではない。代わりに、これらの球は、その近くで局所的補完性が最も重要である分子界面における点を表している。特定の残基内のあらゆる原子の2Å内の補完性マーカーを合計すると、表1に載せたクラスターのサイズを決めることができる。最も多数の補完性マーカーに近接し、RNase Aの酵素活性部位から遠位にあるRNase Aの残基が、破壊の標的になった。
興味深い1つの発見は、RNase A変異株の一部について認められたブタとヒトのRI同族体の親和性の違いである。一般に、RNase A変異株は、hRIよりはpRIによりタイトに結合された(データは下の表2に提示した)。RNase Aに対するpRIのこのように高い親和性は、平衡解離定数を、pRI(Kd=6.7×10-14M)及びhRI(Kd=4.4×10-14M)と野生型RNase Aとの錯体について最初に測定した場合は認められなかった。RNase Aと接触する28のpRI残基の内、25はhRIの場合と同一である。RNase A結合残基の中で違いのある3つは、pRIのグルタミン残基によるpRIのHis6、アラニンによるAsp228、及びロイシンによるVal405の各置換である。これら3つのpRI残基は、すべて、FADEにより識別されたRNase A残基ともっぱら原子間の接触を行う。His6はRNase AのLys31と3つの接触を行い、Asp228はSer89と2つの接触を行い、Val405はAsn67と3つの接触を行う。これら3つの変化が、RNase A変異株に対するpRIとhRIとの親和性の違いに寄与するようである。
Figure 2008543312
したがって、これらの残基は有望な修飾のための標的であった。位置Gly88における変異株は、米国特許第5,840,296号に記載されているようにすでに検討されているので、我々は他の変質を、単独又はG88Rと併せて考えたことに留意すること。RI−RNase A錯体の破壊は、一般に、RNase A中の小さな中性又はアニオン性残基をアルギニンにより置換することにより最高の結果が得られると、我々は判断した。最も極性で2番目に大きいアミノ酸であるアルギニンが、細胞の内面化を高めることが知られている正味の正電荷を高めながら、静電反発及び立体歪みを生じられるか、疑わしいと我々は思っている。更に、我々はRNase Aのリジン残基をアラニンで置換し、不完全な中性側鎖を創り、それにより錯体の好ましい相互作用を排除した。
したがって、次のような置換は、研究として有望であることが確認された。
D38R/R39Dの交換(図2C)。Arg39は、FADEアルゴリズムにより、RNase Aのあらゆる残基の補完性マーカーの最大数に近いことが確認された(表1)。pRIに対して14の原子間接触を行う、Arg39はRNase Aのあらゆる残基よりも多くの接触をRIと行う。ただし、やはり14の接触を行うGlu111という例外がある。RNase AのAsp38及びArg39はともに、それぞれ、pRIのArg453及びGlu397、並びに2座形式でGlu397と相互作用するArg39と3つの水素結合を形成する。更に、これら2つのRNase A残基は、RIのGlu426、Val428、Tyr430、及びIle455とファンデルワールス接触を行う。FADE分析では明確に確認できなかったが、Asp38はArg39と入れ替えることにより、pRI・RNase A界面において3つの好ましい相互作用を同時に壊せると、我々は判断した。その上、D38R/R39Dの交換は、局所的アミノ酸含有量を維持するという点において、保存的であった。
β4−β5ループ(図2D)。RNase Aの4つの表面ループは、RIに接触する24の残基の内16の残基に寄与する。残基87−96を含むRNase Aのβ4−β5ループは、3つのトリプトファン残基、Trp257、Trp259及びTrp314により画定されたpRIの特に疎水性領域に向かって充填する。このループ内の3つのRNase A残基である、Gly88、Ser89及びLys91は、RIにより形状補完性を仲介する場合に重要であることがFADEにより確認された。RI回避性RNase Aを創るための初期の試みが、アルギニン残基を用いたGly88(FADEクラスター・サイズ5)の置換は、立体的歪み及び静電歪みを導入してpRI・RNase A錯体のKd値をほぼ4桁上げる場合に非常に有効であることを証明した。したがって、残基Ser89及びLys91は、FADEアルゴリズムにより大きな補完性クラスターに近いことが確認されたが、我々は、この錯体のこの領域はG88R置換により最大限に破壊されるべきで、このループを更に変質させることはできないと見なした。
N67R置換(図2A)。Asn67は、Arg39及びRNase Aのβ4−β5ループの残基に次いで、補完性マーカーの中で3番目に大きなクラスターに近かった。Asn67は、Val405の主鎖酸素との水素結合を含む、pRIの残基である、Cys404、Val405、Gly406及びTyr433と6つの接触を行う。RNase AのAsn67と接触するpRIのTyr433は、どちらのたんぱく質のあらゆる残基の補完性マーカーの最大数に近いことが確認されたことは、注目に値する。したがって、RIのTyr433及びRNase AのAsn67は、pRI・RNase A錯体の「アンカー残基」として他者により確認された。
他のFADEにより識別された残基。Lys7(図2B)は、補完性クラスター・サイズが2でRNase Aの内スコアが最低の残基であった。それにも関わらず、Lys7はpRIのSer456と、いくつかの水素結合を含む、7つの原子間接触を行う。以前の研究によりこの残基が錯体の安定性にかなり寄与していることが証明されていた。我々も、Asn24及びLys31について調べた。これは、それぞれ、5と2に近いクラスター・サイズに位置し、7と4の原子間接触を行う。Asn24は、RIのAsp89及びAsp117と7つのファンデルワールス接触及び2つの水素結合を行い、Lys31はpRIのHis6と3つの原子間接触及びAsp31と1つの接触を行う。
これら特定のアミノ酸配置が、ウシの膵臓のリボヌクレアーゼAの特定配列に関連して識別されていれば、酵素のリボヌクレアーゼA・スーパーファミリーの中には、この情報が適用できる多数のメンバーがあることは明らかである。今日当業者は、配列アラインメントを行う方法を理解し、更に、このスーパーファミリーのメンバーについて、これに密接に関連したこれらの酵素のファミリーの他のメンバーにおける対応するアミノ酸位置を識別する方法を決める。
我々が想定した目的を成功させるためには、RNase A変異株は、RIに対する親和性を下げ、更に、かなりの触媒活性を保持しなければならない。うまくいけば、RIに対する低い親和性と触媒活性を併用すると、変異株を細胞傷害性を有する株にすることになり、おそらく以前のG88RRNase A変異株よりも細胞傷害性が強くなるであろう。そこで、上で識別された位置の各々における酵素の修飾を試み、その結果は下の実施例に提示した。この研究は、これらの変異株の一部が細胞傷害性の増加を示すことを確認した。特に、変異株D38R/R39D/G88R及びD38R/R39D/N67R/G88Rの両方が、RIに対する低い親和性と高レベルの触媒活性とを示し、更に、下の表2及び3に提示されたデータにより実証されたように細胞傷害性が上がっていることが判明した。
我々はFADEアルゴリズムを用いて、高度の形状補完性を示すpRI・RNase A錯体内のRNase A残基を迅速且つ客観的に識別した。FADEアルゴリズムにより識別したいくつかの残基は、pRI・RNase A錯体に対してかなりの量の結合エネルギーで寄与し、又は突然変異形成による破壊の優れた標的になることが実験的に証明されている。FADEアルゴリズムがこれらの領域の重要性を予測することに成功していることが、このアルゴリズムの有用性の証拠となり、FADEにより識別された追加のRNase A残基に関する我々のその後の分析を正当化した。類似の残基リストが3次元構造を注意深く調べることにより確認されているが、FADEの利点は高い補完性の領域を迅速に識別できることにある。更に、コンピュータによるアルゴリズムは客観的であり、ヒューマン・エラーや偏りを排除することができる。
あらゆる薬剤の重要な特性は該薬剤の治療指数であり、この指数は薬剤の有効用量に対するその毒性用量の比である。ヒトでは、ONCは癌の化学療法剤として非常に好ましい治療指数を示し、その薬剤のフェーズIII臨床試験へ進むことを可能にしている。哺乳類のリボヌクレアーゼはONCよりも一層大きな治療指数を示すことがある。例えば、Hen−3B肝臓癌細胞系は、本明細書でテストしたすべてのリボヌクレアーゼの攻撃を最もを受けやすい(表3)。ONCは、ここでIC50 NmuMG/IC50 Hep-3Bとして定義された31という治療指数(TI:therapeutic index)を有する。対照的に、RNase AのD38R/R39D/N67R/G88R、D38R/R39D/G88R及びG88R変異株は、それぞれ、>323、>500、及び>118のTI値を有する。リボヌクレアーゼ(両生類又は哺乳類)の治療指数に関する生化学的説明をするには更に実験を行う必要がある。
実験プロトコル及び結果
可能性のあるRNase A変異株のどれが成功する可能性があるかを検討するために、発現ベクターを作り、上で提案された変質の各々についてRNase A変異株を産生した。その後これらの変異株は、触媒活性、RIに対する親和性、安定性及び細胞傷害性についてテストされた。
触媒活性
リボヌクレアーゼは、細胞傷害性であるためにはその触媒活性を保持しなければならない。したがって、各リボヌクレアーゼの触媒活性は、もしあるならば、アミノ酸置換のどれが、RNAを分解する酵素の能力を低減することにより細胞傷害性を弱めることができるかを決めるためにアッセイを行った。野性型RNase A、その変異株、及びONCのKcat/KMの値を、この分析の結果をまとめている表2に示す。野生型RNase A、G88RRNase A、K7A/G88RRNase A、及びONCのKcat/KMの値は、それぞれ、5.2×107、7.4×107、5.3×106、及び2.2×105-1-1であり、これらは以前に報告された値とよく一致している。RNase Aの交換残基38と39とでは酵素による触媒への影響が比較的小さかった。D38R/R39DRNase AのKcat/KMの値は、1.8×107-1-1であり、これはリボ核酸分解活性が3倍低下したにすぎないことを意味している。同様に、D38R/R39D/G88R変異株でも小さな影響が見られ、3.1×107-1-1のそのKcat/KMの値は、G88RRNase Aの値の2.5倍低かった。興味深いことに、G88R置換との関連で単一のR39D置換を行った場合は、リボ核酸分解活性に対する影響はより明白で、G88RRNase AのKcat/KMの値は17倍低く4.3×106-1-1になる。このような低下は、この領域における負の電荷を上げ、おそらく酵素とそのアニオン性基質との間の生産的衝突数を下げることにより生じるのであろう。
Lys7を含むRNase AのP2基質結合部位は、RNase Aによる触媒作用において重要な役割を果たす。以前の結果と一致して、K7A/G88RRNase Aは、リボ核酸分解活性をほぼ10倍低下させ、5.3×106-1-1のKcat/KMの値を有する。触媒作用へのこのような逆の寄与は、活性を低下させる他のアミノ酸置換と併用した場合加法的であり、D38R/R39D交換(Kcat/KMを3倍下げる)は、K7A置換(Kcat/KMを10倍下げる)と併用すると、野生型のRNase Aより30倍低い1.6×106-1-1の活性を有するK7A/D38R/R39D変異株を生じた。更に、四重変異株K7A/D38R/R39D/G88RRNase Aの活性を1.6×106-1-1に下げる、D38R/R39D/G88RRNase Aの活性が15倍下がる原因はK7A置換にあった。
FADEで呼び起こされた大部分の置換は、リボ核酸分解活性に対して大きな影響はなかった。N67R、K31A及びN24R置換は、個別にG88R置換と併用した場合、G88RRNase A自身の触媒活性とほぼ同等の触媒活性を有する酵素を産生した。これら3つの変異株のKcat/KMの値は、それぞれ、9.2×107、5.2×107、及び7.8×107-1-1であった。したがって、これら多くの置換(K31A/D38R/R39D/N67R/G88RRNase A及びD38R/R39D/N67R/G88RRNase Aなど)を併用するRNase A変異株は、野生型酵素とほぼ同じKcat/KMの値を有した(それぞれ、4.8×107及び3.8×107-1-1)。要するに、酵素活性はこれらの変異株の制限パラメータであるとは思われない。
Figure 2008543312
NDは測定していないことを意味している。
aRNase A及びその変異株のTmの値(±2℃)は紫外分光法によりPBS中で 測定した。
bRNase A及びその変異株のKcat/KMの値(±SE)は、NaCl(0.10 M)を含むpH6.0における0.10MのMES−NaOH緩衝液(OVSフリー)中( 23±2)℃における6−FAM−dArU(dA)2−6−TAMRA開裂の触媒作用に 関するものである。ONCのKcat/KMの値(±SE)は、NaCl(0.010M)を 含むpH6.0における0.020MのMES−NaOH緩衝液(OVSフリー)中(23 ±2)℃における6−FAM−dArU(dA)2−6−TAMRA開裂の触媒作用に関す るものである。
cdの値(±SE)は、(23±2)℃におけるpRIとの錯体に関するものである。ON CのKdの値は(Wu et al.,(1993)J.Biol.Chem.268,1 0686−10693)からの推定値である。
dΔΔGの値は、式:ΔΔG=−RTln(Kd 野生型/Kd 変異株)を用いて計算した。
edの値(±SE)は、(23±2)℃におけるhRIとの錯体に関するものである。
f(Kcat/KMcytoの値は、式1及びhRIとの錯体に関するKdの値を用いて計算した 。
gIC50の値(±SE)は、リボヌクレアーゼに対して露出したK−562細胞のDNA内へ の[メチル−3H]チミジンの組み込みに関するものであり、式3を用いて計算した。
h(Vicentini et al.,Biochemistry29,8827−883 4)から。
i(Leland et al.,(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.U SA95,10407−10412)から。
j(Abel et al.,(2002)Anal.Biochem.306,100−1 07)から。
kフルオレセインで標識を付けたG88RRNase Aに関する。
l(Haigis et al.,(2002)J.Biol.Chem.277,1157 6−11581)から。
m(Leland et al.,(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.U SA95,10407−10412)から及び円偏光二色性分光法により測定した。
リボヌクレアーゼ阻害剤に対する親和性
pRI及びhRIのアミノ酸配列はよく似ている(同一性77%)。その上、RNase Aと接触するpRI中の28の残基の内、hRIでは2つだけが類似していない残基により置換されている。これら2つの阻害剤たんぱく質は、RNase A変異株に対して似た親和性を有すると仮定したが、我々はpRI及びhRIとの錯体のKdの値を測定し、これらのKdの値を上の表2に示す。
たんぱく質間の相互作用にとって重要な残基を識別する場合のFADEアルゴリズムの有用性に関する厳密なテストとして、我々はpRIとの錯体中のFADEにより呼び起こされた変異株のKd値を測定した。pRIとの錯体中のG88RRNase A及びK7A/G88RRNase Aについて得られた0.57及び17nMのKd値は、以前に測定した値とよく一致していた。RNase Aに対するpRIの親和性を低下させない唯一の変化はN24R置換であった。実際に、0.27nMのKd値を有するN24R/G88RRNase Aは、G88RRNase Aよりも、pRIとわずかにタイトな錯体を形成するように思われた。Kd値の最も顕著な増加は、D38R/R39D交換及びN67R置換の場合に認められ、これらの錯体はそれぞれ0.30及び0.36nMのKd値を示した。これらのアミノ酸変化は、Kd値が、それぞれ、4,500倍及び5,400倍に増加した原因であった。K7A/D38R/R39D、N67R/G88R及びD38R/R39D/G88R変異株はpRIと錯体を形成し、これらの錯体は、それぞれ、3.5、45及び8.0nMのKd値を有する。
複数置換を併用すると、RNase Aの最もRI回避的な変異株を産生した。留意すべきは、K7A/D38R/R39D/G88R及びD38R/R39D/N67R/G88R変異株であり、これらは、それぞれ、0.12及び1.4μMのKd値を有するpRIとの錯体を形成した。とりわけ、D38R/R39D/N67R/G88RRNase Aは、ミクロモルのKd値を有するpRIとの錯体を形成することが認められた最初のRNase A変異株である。RNase A中の124の残基から4つのみを変えることにより、pRI・RNase A錯体のKd値は、D38R/R39D/N67R/G88R変異株の場合、2000万倍に上がった。
RNase A変異株とpRIとの錯体のKd値は、形状補完性マーカーを識別するFADEアルゴリズムの能力を評価するのに理想的である。しかし、化学療法剤としては、細胞傷害性リボヌクレアーゼはヒトRIを回避することができねばならない。このために、Kd値は、RNase A変異株とhRI錯体についても測定した。N67R/G88RRNase A(Kd=44nM)という例外はあるが、hRI錯体のKd値は、pRIの場合に得られた値よりも大きく、その差は2倍から230倍の範囲にある。hRIとの錯体の場合に認められた最高のKd値は、27μMにおけるK7A/D38R/R39D/G88RRNase AのKd値であり、それはhRIに対する親和性が4億倍に低下することを意味する。
重要なことは、錯体に対するこれらの置換の不安定化作用は完全に加法的ではないことで、これはpRI・RNase A界面が可塑的であることを示している。結合界面の順応性は、ΔΔG値を比較すると知ることができる(表2)。例えば、G88R及びN67Rの置換は、錯体を各々約5kcal/molだけ不安定化した。しかし、N67R/G88Rの二重変異株は、これら2つの置換が空間的には分離しているにも関わらず、結合自由エネルギーのロスは8kcal/molに止まった。
安定性
リボヌクレアーゼの立体的安定性は、細胞傷害性を含む生物学的機能にとって必要である。したがって、各RNase A変異株のTm値を測定し、表2に示す。N67R置換は最も不安定化する置換であり、野生型RNase AのTm値を57℃へ7℃も下げる。立体的安定性のこのようなロスは、N67Rを含むすべての変異株において認められている追加置換によって回復することはなかった。N67R/G88R及びD38R/R39D/N67R/G88Rの変異株は、それぞれ、58及び56CのTm値を有する。K31A/D38R/R39D/N67R/G88RRNase Aは、54℃の最低Tm値を有し、この温度は野生型酵素のTm値より約10C低い。更に、このTm値は生理的温度よりもかなり高い。他のアミノ酸置換には、Tm値を数度以上下げられるものはない。
細胞傷害性
各リボヌクレアーゼの毒性は、K−562ヒト白血病細胞系を用いて測定した。図3のデータ(12の細胞傷害性RNaseの場合、h=1.43±0.02)に式3(下で説明している)を適用して導かれたIC50値を用いて、細胞傷害性が大きくなる順番で表2にRNaseを示す。ONC、G88RRNase A、及びK7A/G88RRNase Aは、以前に報告された値と類似のIC50値を示した。D38R/R39DRNase A(図3A)及びN67RRNase A(図3C)は、25μMの濃度においてさえも細胞傷害活性を示さなかった。後の2つの変異株がG88R置換との関連で示した細胞傷害性の大きな増加を考えると、これら2つの変異株に細胞傷害性がないことは興味深いことである。
D38R/R39D/G88R変異株内にK7A置換を組み込むと、この変異株のhRIに対する親和性が40倍に低下するが、これはhRIのC末端セリン残基とリジン側鎖との間の好ましい相互作用が失われることと一致している。この比較的大きなKd値は触媒活性のロスに伴って起きたもので、IC50値をD38R/R39D/G88RRNase AのIC50値のほぼ2倍にする。Asp38はFADE分析では明確に識別されなかったが、保存的D38R/R39D交換におけるAsp38の重要性は、R39D/G88RRNase AのIC50値(IC50=0.69μM)を、D38R/R39D/G88RRNase AのIC50値(IC50=0.22μM)と比較すると明らかである。
この研究で発見されたRNase Aの内最も細胞傷害性の強い2つの変異株、D38R/R39D/G88R及びD38R/R39D/N67R/G88R、並びにONC、野生型RNase A、及びG88RRNase Aは、10種類の細胞系に対する細胞傷害活性について選別した。これらのリボヌクレアーゼについて得られたIC50値を、表3に示す。すべての細胞系は、マウスの乳房の正常な上皮細胞系であるNmuMGを除いてヒトに由来するものである。Hep3B細胞系は例外であるが、ヒトの白血病のK−562系のように、すべてのヒト癌細胞系は、新規な抗癌薬を研究している国立癌研究所(the National Cancer Institute)により選別された60の細胞系に含まれている。
細胞系を、倍増期間が長くなる順番に表3に示す。倍増期間と以前に報告されたRNase Aに対する感度との間には直接的な相関関係はないようである。一般に、RNase A変異株の中の細胞傷害性の傾向は、K−562細胞系で見られた傾向を反映し、即ち、D38R/R39D/N67R/G88R>D38R/R39D/G88R>G88R>野生型RNase Aの順番であり、D38R/R39D/N67R/G88R変異株は常に最低のIC50値を有する。HCT−116、A549、及びSF268細胞系は、すべて、G88RRNase Aよりも野生型RNase Aに対して敏感であったので、この一般的傾向の例外であった。我々が一部の細胞系が野生型RNase Aに対して感受性があることを見出したように、他者も野生型ヒト膵臓リボヌクレアーゼ(RNase 1)が一部の細胞系に対して毒性があることを報告している。これら3つの細胞系は、それぞれ、3種類のタイプの組織、即ち、結腸、肺、及びCNSから導かれた。
この研究の目的は、ONCの細胞傷害性よりも大きいか同等の細胞傷害性を有するRNase A変異株を識別することであった。この目的は、K−562、Du145、Hep−3B、及びSF268細胞系において、D38R/R39D/N67R/G88R変異株により達成された。残りの6つの細胞系では、ONCはRNase A変異株よりも3倍から30倍大きい細胞傷害性を示した。興味深いことに、この選別でテストしたRNase A誘導変異株の中で、テストした最大濃度において正常な細胞系NmuMGに対して毒性を示したものはなかった。この区別は、正常なマウス細胞系の場合1.62μMのIC50値を有したONCでは認められなかった。









Figure 2008543312
方法及び物質
物質
大腸菌BL21(DE3)細胞及びpET22b(+)及びpET27b(+)プラスミドは、ウィスコンシン州マジソン(Madison)のノバゲン(Novagen)から得た。K−562細胞は、バージニア州マナサス(Manassas)のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(The American Type Culture Collection)から入手した慢性のヒト骨髄性白血病系から連続的に誘導された。細胞培養媒体及び助剤は、カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad)のインビトロゲン(Invitrogen)から得た。[メチル−3H]チミジン(6.7Ci/mmol)は、マサチューセッツ州ボストン(Boston)のパーキンエルマー(Perkin Elmer)から得た。酵素は、ウィスコンシン州マジソン(Madison)のプロメガ(Promega)又はマサチューセッツ州ベバーリー(Beverly)のニューイングランド・バイオラブス(New England Biolabs)から得た。リボヌクレアーゼ基質6−FAM−dArUdAdA−6−TAMRA及び6−FAMdArUdGdA〜6−TAMRAは、アイオワ州コラルビル(Coralville)のインテグレーテッドDNAテクノロジーズ(Integrated DNA Technologies)から得た。用いた他のすべての化学物質は市販の試薬級又はそれ以上の品質のもので精製せずにそのまま用いた。
テリフィック・ブロス(TB:Terrific Broth)は、1.00Lにつき、トリプトン(12g)、酵母エキス(24g)、グリセロール(4mL)、KH2PO4(2.31g)、及びK2HPO4(12.54g)を含む。ホスフェート緩衝食塩水(PBS:phosphate−buffered saline)は、1.00Lにつき、NaCl(8.0g)、KCl(2.0g)、Na2HPO4・7H2O(1.15g)、KH2PO4(2.0g)、及びNaN3(0.10g)を含み、pH7.4を有する。
装置
K−562ゲノムDNA中への[メチル−3H]チミジンの組み込みは、マサチューセッツ州ウエルズリー(Wellesley)のパーキンエルマー(Perkin Elmer)のミクロベータ・トリルックス(Microbeta Trilux)液体シンチレーション及びルミネッセンス計数器を用いたシンチレーション計数により定量した。各たんぱく質変異株の質量は、カリフォルニア州フォスターシティー(Foster City)のアプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)のボイジャー・ド・プロ・バイオスペクトロメトリ・ワークステーション(Voyager−DE−PRO Biospectrometry Workstation)を用いたマルディトフ(MALDI−TOF)質量分光法により確認した。蛍光測定は、ニュージャージー州サウス・ブルンスウイック(South Brunthwick)のフォトン・テクノロジー・インターナショナル(Photon Technology International)の試料撹拌付きクアンタマスター1(QuantaMaster1)光子計数蛍光計を用いて行った。熱変性データは、カリフォルニア州パロアルト(Palo Alto)のバリアン(Varian)のケアリー(Cary)温度調節器を備えたケアリー3ダブルビーム分光光度計を用いて得た。
リボヌクレアーゼA変異株のデザイン
高速原子密度評価装置(FADE)プログラムにより、複雑な界面におけるたんぱく質の形状補完性マーカーを計算する。原子密度は、以前に説明した方法に基づいてフーリエ変換アルゴリズムを用いて測定する。結晶性pRI・RNase A錯体の構造を用いて(PDB入口1DFJ)、形状補完性マーカーの大きなクラスターに近接している必須のRNase A残基を識別し、上の表1に示す。最大の静電又は立体的矛盾を創り、好ましいクーロン又は短距離の相互作用を排除するように、アミノ酸置換を選択した。
この研究を開始した時に公知であったRNase Aの内最も細胞傷害性の強い変異株はK7A/G88RRNase Aであった。FADE分析により呼び起こされたその後のアミノ酸置換は、回避性に寄与するものが何か追加されることを期待して、最初は確立されたこれらの変化を背景にして作られた。ここで論議したように、K7A置換に伴って起きる酵素活性のロスが妥協して細胞傷害性の問題を解決し、このため、後者の置換はG88R置換のみを背景にしてなされたことを我々は見出した。G88Rの背景が細胞傷害性及びRI回避の基準をうまく特徴づけ、これらのことから我々は自身が確立した試験法を用いて改善を識別することができる。G88Rを背景にして成功した置換は、RI及び細胞傷害性の回避に対するこれら個々の寄与を評価するためにのみなされた。
リボヌクレアーゼの産生
RNase A変異株を符号化するcDNA分子は、pET22b(+)又はpET27b(+)プラスミドを用いてオリゴヌクレオチドが仲介した部位特異的突然変異生成により創られ、該プラスミドは、それぞれ、野生型RNase A又はそのG88R変異株を符号化するcDNAを含む。ONC、野生型RNase A、及びRNase A変異株は、次のような例外があるが、ハイジスら(Haigis et al.),(2002)ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J Biol Chem)277,11576−11581において以前に記載されたとおりに産生された。大腸菌からの封入体は、グアニジン−HCl(7M)、DTT(0.1M)、及びEDTA(10mM)を含む、20mMトリス−HCl緩衝液中pH8.0において、完全に溶解するまで撹拌した。リボヌクレアーゼは、NaCl(0.1M)、還元グルタチオン(1.0mM)、及び酸化グルタチオン(0.2mM)を含む、0.1Mトリス−HCl緩衝液中に、pH8.0において、ゆっくりと希釈した後室温で1晩再び放置した。精製後、たんぱく質はPBSに対して透析し、生化学アッセイで使用する前に0.2μmシリンジを用いてろ過した。たんぱく質濃度は、RNase A及びその変異株についてはε278=0.72mg・ml-1cm-1、ONCについてはε280=0.87mg・ml-1cm-1の吸収係数を用いて紫外分光法により測定した。
リボヌクレアーゼ阻害剤の産生
ブタのリボヌクレアーゼ阻害剤(pRI)は、クリンクら(Klink et al.),(2001)プロテイン・イクスプレッション・アンド・ピュリフィケーション(Protein Expr.Purif.)22,174−179に記載されたとおりに調製した。新たに調製したpRIは、野生型のRNase Aのリボ核酸分解活性を上げる能力により100%活性であることを確認した。
ヒトのリボヌクレアーゼ阻害剤(hRI)は、hRIのNdeIとSalI部位との間でhRIを符号化するcDNAを含むpET22b(+)プラスミドを用いて変換した大腸菌BL21(DE3)細胞中で産生した。TBの培養液(1.0L)に、1晩おいた培養液から600nmにおけるODが0.005になるように37Cで植菌した。この培養液を、600nmにおけるODが1.8−2.0になるように増殖させた。最終濃度が0.5mMになるようにIPTGを加え、18Cで1晩誘導させた。可溶性たんぱく質のその後の精製及びhRIの活性測定は、pRIの場合と同様に行った。両RIの純度及びサイズは、電気泳動及び質量分光法により確認した。
リボヌクレアーゼ阻害剤の結合アッセイ
pRI及びhRI両方のRNase A変異株への親和性をアベルら(Abel et al.),(2002)アナリティカル・バイオケミストリー(Anal.Biochem.)306,100−107において以前に報告された競合アッセイを少し変えた方法を用いて測定した。要するに、フルオレセインで標識を付けたG88RRNase A(最終濃度:50nM)及び標識をつけていない種々の濃度のリボヌクレアーゼの両方を、DTT(5mM)を含む2.0mlのPBSに加えた。(23±2)℃で15分培養後、光から保護し、フルオレセインで標識を付けた結合していないG88RRNase Aの最初の蛍光強度を3分間監視した(励起:493nm,発光:515nm)。次いで、pRIを加え(最終濃度は50nMで、これは標識を付けない競合者がない場合は、フルオレセインで標識を付けたG88RRNase Aの90%を結合するのに十分な濃度である)、最終蛍光強度を測定した。競合アッセイはhRIの場合と同様に行った。ただし、hRIの場合は、親和性が低いので、フルオレセインで標識を付けたG88RRNase Aの90%を結合するには、pRIの場合より多くのhRIを必要とした(最終濃度115nM)。フルオレセインで標識を付けたG88RRNase Aに対するhRIの親和性は、hRIの量を0.5−1000nMの範囲で変えて、フルオレセインで標識を付けたG88RRNase Aを50nMに上げ、結合して低下した蛍光を記録して測定した。Kd値は7.8nMであることが判明した。
触媒活性アッセイ
RNase A及びその変異株のリボ核酸分解活性は、過敏な蛍光発生基質6−FAM〜dArUdAdA〜6−TAMRA(50nM)を開裂させるこれらの能力をアッセイして測定した。該基質は開裂すると蛍光(励起:493nm,発光:515nm)を180倍に上げる。アッセイは、NaCl(0.10M)を含むpH6.0における2.0mlの0.10MのMES−NaOH緩衝液中(23±2)℃にて行った。この緩衝液の調製に用いたMESは、微量のオリゴマー性ビニルスルホン酸を除去するためにアニオン交換クロマトグラフィにより精製した。該スルホン酸は、市販の緩衝液を合成する際の副産物であり、RNase Aの強力な阻害剤であることが分かっている。Kcat/KMの値は次式により得られた。



Figure 2008543312
式中、ΔI/Δtは、液体試料保存容器にRNaseを加えた時に6−FAM−dArUdAdA−6−TAMRA基質の開裂により生じた初期反応速度を表し、Io及びImaxは、それぞれ、酵素添加前及び過剰の野生型RNase Aによる基質の完全開裂後の蛍光強度である。ONCの活性値は、基質6−FAM〜dArUdGdA〜6−TAMRA(50nM)を用いてNaCl(0.010M)を含むpH6.0における2.0mlのOVSフリーの20mMのMES−NaOH緩衝液中(23±2)℃において測定した。
細胞傷害性アッセイ
RNase A、その変異株及びONCのIC50値は、リボヌクレアーゼの存在下でK−562細胞の細胞DNA内への[メチル−3H]チミジンの組み込みを測定して決めた。細胞傷害性アッセイはすべて、三重に少なくとも3度繰り返した。各データ点は、3又はそれ以上の実験値の平均(±SE)を表す。IC50値は、非線形回帰を用いた曲線を次式に用いたシグモイド用量反応曲線へ合致させて計算した。
Figure 2008543312
式3では、yは4−h[メチル−3H]チミジン・パルスに続くDNAの総合成であり、hは曲線の勾配である。
K−562細胞を用いて行われたもの以外の細胞傷害性アッセイは、ケック(Keck)−UWCCC小分子選別設備で行われた。これらのアッセイは、広い範囲の組織からの10の細胞系を用いた。リボヌクレアーゼを用いた72時間の培養後、IC50値は、オレゴン州ユージーン(Eugene)のモレキュラープローブス(Molecular Probes)の蛍光プローブ寄りのカルセインAMの生細胞におけるカルセインへの酵素変換を測定して決めた。変動係数及びZ値は、内部対照としてドキソルビシンを用いて各細胞系について決めた。すべての細胞傷害性アッセイは、三重に3度行った。IC50値は、次式を用いて計算した。
Figure 2008543312
式中、低い%及び高い%は、阻害率50%をひとくくりにしている、2つの濃度[リボヌクレアーゼ]低い及び[リボヌクレアーゼ]高いによる阻害率を指している。
前述の発明は、明確に理解するために説明図及び実施例によりかなり詳細に説明されているが、本発明の特定の適応は当業者にとって通常の最適化の問題であり、本発明の意図又は添付された特許請求の範囲から逸脱することなく実行することができることは明らかである。
リボヌクレアーゼA及びリボヌクレアーゼ阻害剤の3次元構造を表した図である。 リボヌクレアーゼAを修飾する場合の標的部位を示している、リボヌクレアーゼA及びリボヌクレアーゼ阻害剤の3次元構造の間の相互作用を表した図である。 K−562細胞の増殖に対するリボヌクレアーゼの効果を示している上の実施例からのグラフのデータを示した図である。これらのデータ点は、各々が3通りに行われた少なくとも3つの実験の平均値である。これらの曲線は、各々が、RNase Aの対応する変異株で標識を付けられている。

Claims (11)

  1. リボヌクレアーゼの天然のアミノ酸配列から少なくとも2つのアミノ酸変化を有するRNase A・スーパーファミリーの遺伝子操作されたリボヌクレアーゼであって、前記第1の変化は、ウシの膵臓のRNase Aのアミノ酸残基85〜94に対応する領域におけるアミノ酸置換であり、前記第2の変化は、ウシの膵臓のRNase Aの残基38、39及び67に対応するアミノ酸からなる群から選択された位置における変質、置換又はアミノ酸交換であり、前記遺伝子操作されたリボヌクレアーゼは、アミノ酸残基85〜94に対応する前記領域においてのみ修飾を有する対応する前記遺伝子操作されたリボヌクレアーゼと比較して高い細胞傷害活性を有する遺伝子操作されたリボヌクレアーゼ。
  2. 前記第2の変化が、残基38のアスパラギン酸と残基39のアルギニンとを交換することである、請求項1に記載の遺伝子操作されたリボヌクレアーゼ。
  3. 前記第2の変化が、残基67におけるアルギニンに対するアスパラギンによる置換である、請求項1に記載の遺伝子操作されたリボヌクレアーゼ。
  4. 前記第1の変化が、残基88におけるグリシンに対するアルギニンによる置換である、請求項1に記載の遺伝子操作されたリボヌクレアーゼ。
  5. 請求項1の遺伝子操作されたリボヌクレアーゼの発現を符号化するDNA構成体。
  6. 請求項5のDNA構成体の宿主を務める細胞。
  7. 請求項1に記載の遺伝子操作されたリボヌクレアーゼAを前記細胞に供給する工程を含む細胞傷害活性を細胞に供給する方法。
  8. 遺伝子操作されたウシの膵臓のリボヌクレアーゼAであるD38R/R39D/G88R。
  9. 請求項8のリボヌクレアーゼを符号化するDNA構成体。
  10. 遺伝子操作された前記ウシの膵臓のリボヌクレアーゼAであるD38R/R39D/N67R/G88R。
  11. 請求項10の前記リボヌクレアーゼを符号化するDNA構成体。
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