JP2008541115A - ホルマリン固定組織からのタンパク質の定量的測定 - Google Patents

ホルマリン固定組織からのタンパク質の定量的測定 Download PDF

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Abstract

本発明は、ホルマリン固定生物試料由来のタンパク質を溶液中に移行させおよび後で定量できる方法に関する。本方法は、インタクトの完全長タンパク質を抽出しおよび次いで分析することを可能にする。

Description

本発明は、ホルマリン中で固定された生物試料由来のタンパク質、特にインタクト完全長タンパク質を可溶化できおよび後で定量できる方法に関する。
多くの国で、以降の組織病理検査のために組織をホルマリン中で固定することは、たとえば、疾患組織と健常組織を鑑別するための標準的な手順である。ホルマリン固定およびパラフィン包埋(FFPE)組織は何十年も集められており、および無数の診断研究の起源である。大部分の臓器、さまざまな病気、治療の前/最中/後、その他に由来する組織が入手可能である。FFPE組織は、形態が高度に保持されるという長所を提供する。しかし、架橋のため、高分子(DNA、RNA、タンパク質)はもはや適切に調べることができない。現在の評価によると、ホルマリン固定組織は、タンパク質を以降の定量のために十分な量を日常的におよび高い信頼性で単離するには適しない(たとえばエスピナ(Espina)他2003)。したがって、以降の高分子の定量のために、組織をホルマリン中で固定することの代替法が探られている。ここで引用されるのは、特に、組織の冷凍(凍結切片)、およびたとえば70%エタノールといった現在考察されている実験的固定法である(たとえばアーラム(Ahram)他2003)。凍結材料は実際、高分子の秀れた起源であるが、しかし組織の採取、処理および保存が高額である。実験的固定法は、形態の維持と高分子の完全性との間の良い妥協であるが、しかし、それらは後ろ向き研究で大きな役割を果たしていない。
ヒトゲノムプロジェクトによって同定された候補分子は、タンパク質レベルで、臨床応用可能性について大規模な後ろ向きおよび前向き研究において試験されなければならない。DNAおよびRNA分析は以前は、ホルマリン固定材料を用いては実行可能でないとされていた。今日、そのような分析は、レーザーによる組織顕微解剖後でさえ日常である。同じことはタンパク質分析にも当てはめることができる。核酸の単離のための方法は、タンパク質の単離のための方法とは顕著に異なる。たとえば、タンパク質単離にはプロテアーゼは使用できないが、なぜならそうするとタンパク質が消化されおよびしたがってインタクトでなくなるためである。エクスプレッション・パソロジー社(Expression Pathology)の方法(WO 2004/080579 A2)はまさにこの点に関し、および、タンパク質分解断片すなわちペプチドを単離するために、プロテアーゼを熱の作用と組み合わせて使用する。これらは、以降の段階で質量分析によって分析されうる。エクスプレッション・パソロジー社の方法は、このように、ここで記載される方法とは異なる。ホルマリンによってもたらされたタンパク質架橋は、十分な熱処理によって破壊されうる。
このことの下記の例が知られている。
(1)クロマチン免疫沈降法(ChiP)。ChiPとは、標的タンパク質がin vivoで特定のDNA配列と結合するかどうかを検出することが可能になる手順である。インタクト細胞は、DNA−タンパク質およびタンパク質−タンパク質架橋を誘発するため、ホルマリンで固定される。細胞は次いで溶解され、およびDNAはより小さい断片に分割するために切断される。DNA−タンパク質複合体はその後、標的タンパク質に対する抗体によって免疫沈降される。DNA−タンパク質結合は次いで熱の作用によって分解され、およびタンパク質はプロテアーゼによって破壊される。最後に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で、特定のDNA配列が特異的抗体を用いて同時に免疫沈降されているかどうかが明らかにされる。熱作用はここでは、ホルマリンによって生じた架橋の分解の原理である。
(2)抗原賦活化。抗原はホルマリン固定によってしばしば免疫反応性を失う。多数の抗体を用いる免疫組織学研究は、したがって、限界内だけで可能であった。現在、大部分の抗原の免疫反応性が回復されうる方法(抗体賦活化)が利用可能である。ここでの原理は、組織切片の脱パラフィンおよび再水和後の、水溶液中での組織に対する熱の作用である。しかし、免疫組織化学における反応の定量は限界内だけで可能である。
生物分子溶解物の調製のための方法が、WO 2004/080579 A2から知られており、この方法ではホルマリン固定組織試料が緩衝液系中で再加熱されおよび次いで組織を分解するためにタンパク質分解酵素で処理される。
しかし、現在、ホルマリン固定組織からインタクトタンパク質を高い信頼性で定量的におよび高感度に現代の方法で調べることができる、利用可能な方法は無い。免疫組織化学(IHC)、つまり免疫反応性の測定および組織切片中の各細胞への割り当てが、ホルマリン固定組織上のタンパク質を調べるための現在唯一の方法である。しかし、IHCが定量可能であるのには限界がある。ホルマリン固定は実際、組織の形態を大変良好に維持するが、しかしタンパク質のお互いとのおよび他の高分子、たとえばDNAとの高度な架橋に繋がる。ホルマリン固定組織からタンパク質を単離するための以前の試み(たとえばアーラム(Ahram)他2003)は失敗したが、なぜならそれらは一般にタンパク質を非常に低収量で与え、信頼性が低く、ウェスタンブロット試験のみに限られ(たとえばイケダ(Ikeda)他1998)およびしばしばインタクトタンパク質の検出または定量に結びつかないためである。イケダ(Ikeda)他は、FFPE組織からのタンパク質の単離に実際適するがしかし定量的単離に繋がらない方法を記載する。これの理由は、60℃でのインキュベート段階が明らかに、タンパク質を定量的に単離するには不十分であることである。たとえば生検由来の、最小の固定組織試料中のタンパク質を定量できることが可能でなければならない。そのような試料から、たとえばタンパク質アレイを用いた測定のために、適当な量のタンパク質を単離することは現在の方法では不可能である。したがって、これらの方法は日常診療業務において疾患マーカーを測定するには適さない。ホルマリン固定組織からのタンパク質の定量への需要の増大は、臨床でも研究でも、ウェスタンブロット単独では満たされない。現在、たとえばタンパク質アレイのような高処理量法の開発は、非常に重要になってきている。ホルマリン固定組織由来のインタクトタンパク質は、現在、タンパク質アレイを用いては調べることができないと考えられている。(エスピナ(Espina)他2003)。
本発明の問題はしたがって、ホルマリン固定生物試料からのタンパク質の抽出のための改良された方法を提供する。
問題は、それによって生物試料が緩衝液中でタンパク質を放出するのに適した温度にてインキュベートされ、それによって緩衝液が界面活性剤を含みおよびタンパク質分解活性を有する化合物を含まず、および緩衝液中の生物試料がまず加熱されおよび次いで60℃より高い温度にてさらにインキュベートされる、ホルマリン固定生物試料からのタンパク質の定量的抽出のための方法によって解決される。本発明の別の改良点は各従属請求項から得られる。
ここで記載される本発明は、以降の分析のための、および特に、臨床および実験研究におけるたとえばタンパク質アレイといった現在の高処理量法に適合するタンパク質の定量のための、組織試料といった固定生物試料からのタンパク質抽出の顕著な最適化に関する。さまざまな病期または疾患経過からの試料が、この方法で抗体検出による分析および定量に利用可能である。
驚くべきことに、ホルマリン固定組織からのタンパク質抽出のための本発明に記載の方法は、卓越した結果を提供しおよび先端技術の欠点を回避する。以前に用いられていた方法は明らかに、(a)試料の加熱が短すぎた(たとえば100℃にて50秒だけ;または(b)プロテアーゼが用いられた(単離可能なインタクトタンパク質が無い);または(c)界面活性剤が実際用いられたが、しかしその後に試料の適当な加熱が行われなかった(たとえば60℃以下、したがって低すぎるタンパク質収量)という理由から成功に結びつかなかった。ここに記載される方法の使用、すなわちたとえば(a)プロテアーゼを含まない緩衝液の使用、(b)界面活性剤の使用および(c)より高い加熱(60℃より高温で50秒より長く)によって初めて、思いがけず、以降の正確な定量に十分な量のインタクトタンパク質に繋がった。
単離されたインタクトタンパク質のための他の検出法は次に、たとえば、ウェスタンブロット、タンパク質アレイ、免疫沈降法、SELDI−TOF質量分析、ELISAおよび2−Dゲル電気泳動でありうる。
下記で本発明は実施例に基づいてさらに説明される。
一つのインタクトタンパク質またはいくつかのインタクトタンパク質が、本方法を用いて検出および定量されうる。全く異なる細胞区画、たとえば細胞核、細胞質または細胞膜に由来するタンパク質が、高い信頼性で単離でき、および定量的に測定できる。単離されたインタクトタンパク質は希釈されうる、すなわち希釈系列およびそのようにして内部標準曲線が作製されうる。このようにして、タンパク質の検出および定量が直線領域で起こることが確実になる。必要な場合は、タンパク質は、たとえば抗体といった使用される検出剤の交差反応が生じない(ウェスタンブロットにおいて正しいサイズの一つだけの特異的バンド)ことを確実にするため、ウェスタンブロットによって予め調査されうる。ここに記載の方法によって単離された、定量可能なインタクトタンパク質は、日常臨床業務で既に実施されている免疫組織化学分析からの結果を最適な形で補足する。このように、初めてインタクトタンパク質の正確なおよび高感度な定量(本発明の問題)およびタンパク質の細胞割り付け(免疫組織化学)が固定組織において可能である。既知の疾患マーカー、たとえば乳がん患者におけるHer2/neuは、以前には知られていなかった精度で現在臨床的に測定されうる。さらに、新規の疾患マーカーが、単離されたインタクトタンパク質がたとえば質量分析といった従来のタンパク質の方法で分析される本方法によって、健常組織と疾患組織との間で比較によって特定されうる。動物組織もまた本方法を用いて研究されうる。動物モデルは、既に多数のヒト疾患、たとえば腫瘍疾患について利用可能である。動物組織は典型的にはホルマリン中で固定され、パラフィンに包埋され、および組織病理学的に検査される。タンパク質単離のための本方法は、たとえばタンパク質アレイによる、このモデルにおける既知のおよび新規の疾患マーカーの、正確な、高感度のおよび効率的な定量のために使用されうる。本発明の別の問題は、組織といったホルマリン固定されたヒトまたは動物の生物試料からインタクトタンパク質が高い信頼性でおよび高収量で単離されうる使用パック(「キット」)を提供することである。この使用パックの構成成分は、たとえば、少なくとも(a)プロテアーゼを含まない緩衝液系および(b)界面活性剤である。ホルマリン固定組織からのタンパク質単離のための詳細な手順が使用パックに含まれうる。
本方法は、臨床研究および基礎方向の研究の両方に使用されうる。さらにより重要なのは、ホルマリン固定組織からのタンパク質の単離のためのここに記載される方法は、日常の臨床定型業務に最適に組み込まれうる点である。このようにして、顕著により正確な診断法および治療法が使用されうる。
図1は、定型的にホルマリン固定された組織に由来するインタクトタンパク質の臨床応用の例を示す。この方法で、たとえばリン酸化またはグリコシル化タンパク質といった化学修飾されたタンパク質でさえ検出されうる。これまで、ホルマリン固定材料についてのタンパク質研究には臨床的には免疫組織化学だけが使用されている。タンパク質定量の本方法は、臨床定型業務において今は未知の精度で、既知のおよび新規の疾患マーカーの発現に関して補足情報を提供する。
タンパク質アレイの構築によって、定量的プロテオーム試験は臨床定型業務の一部となりつつある。しかし、ホルマリン固定組織試料は、タンパク質収量の低さのため、現在はこれらの高処理量法では試験できない。本方法はこの欠点を取り除く。タンパク質を検出するためのマイクロアレイの、本方法に組み込まれうる3種類の典型的な戦略がここで記載される。1.いわゆるサンドイッチイムノアレイ(抗体アレイI)。この形式のアレイでは、タンパク質結合分子、たとえば抗体が、固相表面に結合される。記載の方法にしたがって単離されたタンパク質(抗原)は、抗体によって特異的に結合され、および、検出用にタグ化されている別の特異的抗原結合抗体を用いて検出されうる。2.抗原捕捉アレイ(抗体アレイII)。ここでもまた、タンパク質結合分子、たとえば抗体が、固相表面に結合される。本方法にしたがって単離されたタンパク質は、たとえば蛍光色素といった検出剤と結合され、および次いでまず抗体によって特異的に結合される。このようにして、結合したタンパク質が直接に検出されうる。たとえば腫瘍組織および正常組織といった異なる組織から単離されたタンパク質の比較によって、目的タンパク質の相対量が、異なる蛍光色素(たとえばCy−3およびCy−5)の使用によって比較で表されうる。3.直接タンパク質アレイ(逆相タンパク質アレイ)。この方法では、記載の方法にしたがって単離されたタンパク質は、たとえばニトロセルロースまたはPVDFといった適当な表面上に直接滴下され、および結合タンパク質が直接的にまたは間接的に、特異的抗体(第二の検出抗体と共に)を用いて検出される。シグナル増幅法(たとえばDAKO社のCSA)は、溶液中のタンパク質の非常に高感度でおよび特異的な検出を可能にする。この方法は公知のドットブロットと大変似通っている。
本発明は、ホルマリン固定組織試料からのタンパク質の定量のための方法を提供する。この方法は、臨床に近い条件下で組織試料中の疾患マーカーの正確な測定を初めて可能にする。以前は不成功であった方法の組み合わせが、小組織試料(たとえば生検)の試験に必要な固定組織からのインタクトタンパク質の高収量に極めて重要であることが、予測されない形で明らかになった。以前の方法では、組織試料は、たとえばまず100℃に加熱され、次いで60℃でのより長期間の加熱が行われた。60℃での試料の長時間加熱は、タンパク質の高収量を得るには不十分であることが発見された。試料を60℃より高温、たとえば80℃に加熱することは、有意に高い量の溶解タンパク質に繋がった(図2)。本発明に記載の方法は、相応して下記の段階から構成されうる:
(a)ホルマリン固定およびパラフィン包埋組織試料のブロックが切断される;
(b)切片がパラフィンを除去される;
(c)試験すべき組織範囲が、組織切片から手でまたはレーザー顕微解剖によって切り出される(随意的に組織全体が試験されうる);
(d)切り出された組織片が、界面活性剤を含みおよびタンパク質分解活性を有する化合物を含まない緩衝液へ移される。タンパク質の完全性を確実にするため、たとえばトリプシンまたはプロテイナーゼKといったプロテアーゼは使用してはならない;
(e)緩衝液中の試料はまず加熱される(95℃から100℃へ)。インキュベート時間は、たとえば5分間ないし40分間と変化しうる。加熱の時間は、たとえば、試料のサイズに依存しうる;
(f)試料は次いで60℃を上回る温度(たとえば80℃)にてインキュベートされる。60℃を上回るインキュベート時間は、たとえば1時間ないし6時間と変化しうる。60℃より高温での最大インキュベート時間は、しかし、16時間未満とすべきである;
(g)インタクトタンパク質はここで十分な量で溶液中に存在し、および、たとえば定量されうる。
本発明に記載の方法の別の好ましい一実施形態では、DTTを含む抽出緩衝液が使用される。還元剤としてのDTTの使用は、特に、単離されたインタクトタンパク質の有利な収量に繋がったことが照明された。この実施形態の長所は、特に、得られた溶解物がバイオラッド(BioRad)DC(登録商標)またはピアース社(Pierce)のBCAアッセイ(登録商標)といった当業者に公知の市販のタンパク質定量検定法を用いて直接におよび特に良好に定量でき、および以降の分析に使用できる点である。試料の希釈は無しですますことができ、そのようにして測定の不正確さを回避し、および以降の分析(たとえばウェスタンブロット)において同量のタンパク質が使用されることを確実にする。
図1は、本発明に記載の方法の臨床応用の一例を示す。ホルマリン固定組織からのインタクトタンパク質の高収量は、定型的に得られる生検または解剖材料に関して、組織学、免疫組織学および定量的タンパク質発現の統合を初めて可能にする。本方法は、たとえば、異なる病期(前がん、浸潤)または治療前および後におけるタンパク質アレイによる疾患マーカーの正確な試験を可能にする。
図2は、一例として、60℃より高温での組織試料のインキュベートによるタンパク質収量の改善を示す。アルファ−チューブリン(インタクトタンパク質、50kDa)の収量を、60℃(左)での試料のインキュベート後のウェスタンブロットによって、本発明に記載の方法(>60℃、たとえば80℃、右)と比較して示す。
図3は、ホルマリン固定組織からの抽出後の、2種類のタンパク質(E−カドヘリン、アルファ−チューブリン)の相関を示す。2種類のタンパク質のシグナル強度は互いに非常に良く相関し、すなわちホルマリン固定組織からの単離後にインタクトタンパク質は互いに相関させることができる(定量)。正常大腸組織由来のタンパク質溶解物の異なる希釈(1:2から1:16)がウェスタンブロットによって分析される。例として組織をスライドから掻き取る前後を示す(矢印)。Unverd.=未希釈試料。
図4は、ウェスタンブロット(タンパク質の完全性の測定、抗体特異性の実証)と最も単純な形の逆相タンパク質アレイ(ドットブロット)との間の相関を示す。正常大腸組織由来のタンパク質溶解物の異なる希釈(1:2から1:64)が、ウェスタンブロットおよびドットブロットで試験される。各例で、濃度測定についてパーセンテージ値が未希釈試料と相対的にプロットされる(下)(未希釈試料=100%)。陰性、陰性対照(抽出緩衝液);陽性対照(深凍結大腸組織由来タンパク質溶解物)。
図5は、異なる還元剤を含む緩衝液を用いてFFPE切片から抽出後のベータ−アクチンの相関を示す。(A)インタクトタンパク質が正常脳組織から、2種類の抽出緩衝液EB(β−メルカプトエタノールを含む)およびEB2(DTTを含む)を用いて単離された。タンパク質溶解物の希釈物が、ドットブロットでβ−アクチン免疫呈色によって分析された。シグナル強度は非常に良く相関する。(B)抽出緩衝液EB2を用いて調製されたタンパク質溶解物のタンパク質濃度が、市販のタンパク質定量キットを用いて測定された。(C)タンパク質定量キットを用いたタンパク質定量およびドットブロットでの相関に基づき、2種類のタンパク質溶解物各20μgがSDS−PAGEで分離され、およびβ−アクチンの量がウェスタンブロットで測定された。2種類の試料からのシグナル強度は良好に相関し、および定量されうる。
本発明の意味における緩衝液または緩衝液系は、1.0から9.0の範囲内の特定のpH値を有する緩衝液に関する。
当業者に公知でありおよび細胞溶解に適するすべての界面活性剤が、本発明に記載の方法のための界面活性剤として使用されうる。特にSDS、デオキシコール酸ナトリウム、CHAPS、トリトン(Triton)X100、ノニデット(Nonidet)P40またはツイーン(Tween)20が界面活性剤として用いられる。
界面活性剤の濃度は、たとえば、0.1〜10%でありうる。特に好ましくは、濃度範囲は約1〜5%である。
さらに、緩衝液は、1,4−ジチオ−DL−スレイトール、DTE、TCEPまたはMEAといった追加の還元試薬を含みうる。
本発明の意味におけるタンパク質分解活性を有する化合物とは、たとえばプロテアーゼ、特にトリプシン、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、プロナーゼおよびエンドプロテイナーゼLys−Cといったタンパク質分解酵素のような、すべてのタンパク質切断化合物を含むと理解される。さらに、本発明の意味におけるタンパク質分解活性を有する化合物とはまた、たとえば臭化シアンといった、タンパク質を切断するのに適した非酵素物質でもある。
本発明の意味における生物試料とは、生物全体、組織切片、組織試料、体液、細胞材料またはウイルス材料でありうる。好ましくは、本発明に記載の方法は、組織試料および/または培養細胞を用いて使用される。試料はヒトまたは動物の生物試料でありうるが、しかしまた細菌、ウイルスまたは単細胞生物由来の試料でありうる。
生物試料は、好ましくはホルマリン中で固定されるか、および/またはホルマリン中で固定されおよびパラフィンに包埋される。
本発明はこのように、それによって生物試料が緩衝液中でタンパク質を放出するのに適した温度にてインキュベートされ、それによって緩衝液が界面活性剤を含みおよびタンパク質分解活性を有する化合物を含まず、および緩衝液中の生物試料がまず加熱されおよび次いで60℃より高い温度にてさらにインキュベートされる、ホルマリン固定生物試料からのタンパク質の抽出のための方法を記載する。
生物試料は好ましくは緩衝液中でfor5から40分間加熱される。特に好ましくは、生物試料は20分間から16時間の期間インキュベートされる。
本発明の特別な長所は、放出されたタンパク質が本質的にインタクトであることである。
界面活性剤は、好ましくはSDS、デオキシコール酸ナトリウム、CHAPS、トリトン(Triton)X100、ノニデット(Nonidet)P40またはツイーン(Tween)20である。
緩衝液は、好ましくは1,4−ジチオ−DL−スレイトール、DTE、TCEP または MEAといった追加の還元剤を含む。
生物試料がホルマリン中で固定されおよびパラフィンに包埋された試料である場合、生物試料はタンパク質抽出前に脱パラフィンされる。
本発明に記載の方法の長所は、抽出されたタンパク質がさらに分画されうることである。
特に、抽出されたタンパク質は、一またはいくつかの段階で分画されうる。
別の長所は、タンパク質が後で定量されうることである。
タンパク質の定量は、好ましくはローリー(Lowry)の方法またはBCAによって実施され、それによって他の定量法、特にタンパク質アレイもまた使用されうる。
抽出されたタンパク質は次いで、トリプシン、キモトリプシン、プロテイナーゼK、パパイン、ペプシン、プロナーゼ、エンドプロテイナーゼLys−C、エンドプロテイナーゼGlu−Cといったタンパク質分解酵素、またはエンドグリコシダーゼH、N−グリコシダーゼF、ノイラミニダーゼ)といったグリコシダーゼ、またはホスファターゼによってさらに処理されうる。
タンパク質が少なくとも 一つの生化学検定法に使用されうることは長所である。
たとえば、好ましい生化学検定法は、マイクロアレイ、特にサンドイッチイムノアレイ、抗原捕捉アレイまたは直接タンパク質アレイといったタンパク質アレイである。
生化学検定法は、好ましくは一またはいくつかの診断上または臨床上関連するマーカータンパク質の測定に役立ちうる。
それによって、少なくとも2つの生物試料に由来するマーカータンパク質が、互いに比較されうる。このようにして、たとえば、疾患および健常が鑑別されうる。さらに、検定法はまた、一つ以上の関連するマーカーを分析するために、より高度な多重レベルで実施されうる。
特に好ましくは、生物試料は、組織試料、たとえばパラフィン包埋されたホルマリン固定試料である。
特に好ましくは、緩衝液は、タンパク質分解活性を有する化合物としてプロテアーゼを含まない。
さらに、本発明は、
(a)タンパク質分解活性を有する化合物を含まない緩衝液系、および
(b)界面活性剤
を含む、ホルマリン固定生物試料からのインタクトタンパク質の定量的抽出のためのキットを提供する。
好ましくはキットは界面活性剤としてSDS、デオキシコール酸ナトリウム、CHAPS、トリトン(Triton)X100、ノニデット(Nonidet)P40またはツイーン(Tween)20を含む。
特に好ましくは、緩衝液は、タンパク質分解活性を有する化合物としてプロテアーゼを含まない。
実施例1:ホルマリン固定組織からのタンパク質抽出
下記で、本方法に記載の典型的なタンパク質抽出が詳細に記載される。標準的方法と比較したこの方法の顕著な改善(高いタンパク質収量)が図2に図示される。実験者は、手順のうちどれかの段階をいくらか改変しうる。いくらか異なる組成およびpH値を有する緩衝液が使用されうる。たとえばSDSといった界面活性剤の使用、95℃から100℃での試料の加熱、および以降の60℃より高温(たとえば80℃)でのインキュベートは、しかし、極めて重要である;さらに、プロテアーゼを使用してはならない。各熱処理の時間および緩衝液の量は変化しうる。同じく変化しうるのは、組織の手動破砕である。破砕は機械的に(たとえば乳棒を用いて)または、たとえば、超音波を用いて実施されうる。典型的な時間および量をここに列記する。ホルマリン固定組織由来の2種類のタンパク質の相関の結果を図3に示す。ホルマリン固定組織由来のインタクトタンパク質を用いた最初のタンパク質アレイを図4に示す(逆相タンパク質アレイ、ドットブロット)。
典型的な手順:
1.同一のパラフィンブロックから2x10μm切片を作製する
2.切片を脱パラフィンする
2.1.10分間キシレン、2回繰り返し
2.2.10分間100%エタノール
2.3.10分間96%エタノール
2.4.10分間70%エタノール
2.5.切片を蒸留水へ移す
3.切片を蒸留水から取り出し、短時間乾燥させる(しかし完全に乾燥させない)
4.組織範囲をカニューレで掻き取る
5.カニューレの切り取った組織を抽出緩衝液(EB)* 100μlへ移す(1.5ml反応容器当たり2切片からの組織)
6.抽出緩衝液中でテフロン乳棒を用いてよく磨砕し、氷上に保持する
7.ボルテックスにかけ、氷上に保持する
8.段階6から7を1回繰り返し
9.溶液をシリンジを通じて数回注意深く吸引する
10.ボルテックスにかけ、氷上に保持する
11.ボルテックスにかけ、氷上に保持する(泡が多ければ:短時間遠心分離)
12.20分間100℃(水浴)
13.2時間80℃(振とう機、750rpm)
14.15分間遠心分離、4℃、12500rpm
15.上清を新しい1.5ml反応容器へ→準備完了したタンパク質溶解物
*抽出緩衝液(EB)の調製:T−PER(登録商標)(ピアース社(Pierce))/レムリ(Laemmli)1:2
a.5xレムリ緩衝液ストック(ブロモフェノールブルーを含まない)10mlバッチ
2.5 ml 1.25Mトリス/HCl(pH6.8)
4.5 ml グリセロール
2.8 ml ベータ−メルカプトエタノール
1 g SDS
蒸留水で10mlとする
[1Mトリスは121.14gに相当;1.25Mは151.43gに相当
1000ml−−151.43g;50ml−−7.6g;濃HClでpH6.8に調整]
b.2xレムリ(Laemmli)緩衝液:5xレムリ緩衝液1000μl+蒸留水1500μl
c.5ml抽出緩衝液用:
2.5 ml T−PER(登録商標)(ピアース社(Pierce))
+ 2.5 ml 2xレムリ(Laemmli)緩衝液
+1/2 コンプリートミニプロテアーゼインヒビター錠(バイエル社(Bayer))
分注標本を−20℃にて凍結する。
実施例2:代替の抽出緩衝液EB2を用いたFFPE組織からのタンパク質抽出
本発明に記載の方法の別の一実施形態では、DTT(1,4−ジチオ−DL−スレイトール)が用いられる。DTTは好ましくは、単離されたタンパク質の、たとえばバイオラッド社(BioRad)のDCプロテインアッセイキット(登録商標)またはピアース社(Pierce)のマイクロBCAアッセイキット(登録商標)を用いた定量に用いられる(図5)
SDS濃度および、100℃および80℃での対応するインキュベート時間は変更されなかった。この実施形態の長所は、準備完了したタンパク質溶解物の濃度が、検定法に干渉する成分(ここでは特別の還元剤)無しで市販のタンパク質定量キットを用いて直接に測定されうる点である。タンパク質濃度は直線領域でよりよく測定でき、必要に応じてそのため試料は高いタンパク質含量のためだけに希釈されなければならない。このようにして、さらにより正確な測定結果が得られ、およびしたがってタンパク質のそれぞれの量が下流の用途で使用されうる。
1.同一のパラフィンブロックから2x10μm切片を切り出し、および反応容器へ移す
2.切片を脱パラフィンする
2.1.10分間キシレン、2回繰り返し
2.2.10分間100%エタノール
2.3.10分間96%エタノール
2.4.10分間70%エタノール
3.抽出緩衝液(EB2)*100μlを加える
4.ボルテックスにかけ、氷上に保持する
5.溶液をピペットを通じて数回注意深く吸引する
6.ボルテックスにかけ、氷上に保持する(泡が多ければ:短時間遠心分離)
7.20分間100℃(水浴)
8.2時間80℃(振とう機、750rpm)
9.15分間遠心分離、4℃、12500rpm
10.上清を新しい1.5ml反応容器へ移す→準備完了したタンパク質溶解物
11.市販のタンパク質定量キットによって定量
代替の抽出緩衝液2(EB2)
90mMトリス/HCl(pH6.8)
20%グリセロール
2%SDS
1mM DTT(1,4−ジチオ−DL−スレイトール)
分注標本を−20℃にて凍結する。
図1は、本発明に記載の方法の臨床応用の例を示す。 図2は、一例として、60℃より高温での組織試料のインキュベートによるタンパク質収量の改善を示す。アルファ−チューブリン(インタクトタンパク質、50kDa)の収量を、60℃(左)での試料のインキュベート後のウェスタンブロットによって、本発明に記載の方法(>60℃、たとえば80℃、右)と比較して示す。 図3は、ホルマリン固定組織からの抽出後の、2種類のタンパク質(E−カドヘリン、アルファ−チューブリン)の相関を示す。 図4は、ウェスタンブロット(タンパク質のインタクトさの検出、抗体特異性の実証)と最も単純な形の逆相タンパク質アレイ(ドットブロット)との間の相関を示す。 図5は、異なる還元剤を含む緩衝液を用いてFFPE切片から抽出後のベータ−アクチンの相関を示す。

Claims (21)

  1. 生物試料が緩衝液中でタンパク質を放出するのに適した温度にてインキュベートされる、ホルマリン固定生物試料からのタンパク質の抽出のための方法であって、
    前記緩衝液が界面活性剤を含み、およびタンパク質分解活性を有する化合物を含まず、および緩衝液中の生物試料がまず加熱され、および次いで60℃より高い温度にてさらにインキュベートされる点で特徴づけられる、方法。
  2. 生物試料が緩衝液中で5から40分間加熱される、請求項1に記載の方法。
  3. 生物試料が20分間から16時間の期間インキュベートされる、請求項1または2に記載の方法。
  4. 放出されるタンパク質がインタクトである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  5. 界面活性剤がSDS、デオキシコール酸ナトリウム、CHAPS、トリトン(Triton)X100、ノニデット(Nonidet)P40またはツイーン(Tween)20である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
  6. 緩衝液がさらに1,4−ジチオ−DL−スレイトール、DTE、TCEPまたはMEAといった還元剤を含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
  7. 生物試料がパラフィンに包埋されたホルマリン固定試料である場合、生物試料がタンパク質抽出前に脱パラフィンされる、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
  8. 抽出後にタンパク質がさらに分画される、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
  9. 抽出されたタンパク質が一またはいくつかの方法段階を用いて分画される、請求項8に記載の方法。
  10. 抽出されたタンパク質が後で定量される、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
  11. タンパク質の定量がローリー(Lowry)法またはBCAによって実施される、請求項10に記載の方法。
  12. 抽出されたタンパク質が、トリプシン、キモトリプシン、プロテイナーゼK、パパイン、ペプシン、プロナーゼ、エンドプロテイナーゼLys−C、エンドプロテイナーゼglu−Cといったタンパク質分解酵素、またはエンドグリコシダーゼH、N−グリコシダーゼF、ノイラミニダーゼといったグリコシダーゼ、またはホスファターゼで処理される、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
  13. タンパク質が少なくとも一つの生化学検定法に用いられる、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
  14. 生化学検定法が、マイクロアレイ、特にサンドイッチイムノアレイ、抗原捕捉アレイまたは直接タンパク質アレイといったタンパク質アレイである、請求項13に記載の方法。
  15. 生化学検定法が、一つ以上の診断上または臨床上関連するマーカータンパク質の測定に役立つ、請求項13または14に記載の方法。
  16. 少なくとも2つの生物試料に由来するマーカータンパク質が互いに比較される、請求項15に記載の方法。
  17. 生物試料が組織試料である、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
  18. タンパク質分解活性を有する化合物がプロテアーゼである、請求項1から17のいずれかに記載の方法。
  19. (a)タンパク質分解活性を有する化合物を含まない緩衝液系、および
    (b)界面活性剤
    を含む、ホルマリン固定生物試料からのインタクトタンパク質の定量的抽出のためのキット。
  20. 界面活性剤がSDS、デオキシコール酸ナトリウム、CHAPS、トリトン(Triton)X100、ノニデット(Nonidet)P40またはツイーン(Tween)20である、請求項19に記載のキット。
  21. タンパク質分解活性を有する化合物がプロテアーゼである、請求項20に記載のキット。
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