JP2008520661A - 静電積層自己組織化(ElectrostaticLayer−by−LayerSelfAssembly)による薄膜、コーティング、およびマイクロカプセルの微細製造(nanofabrication)のための、ポリペプチドの設計法 - Google Patents

静電積層自己組織化(ElectrostaticLayer−by−LayerSelfAssembly)による薄膜、コーティング、およびマイクロカプセルの微細製造(nanofabrication)のための、ポリペプチドの設計法 Download PDF

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Abstract

生物医薬およびその他の分野で用いられる、ELBLによる薄膜、コーティング、およびマイクロカプセルの微細製造(nanofabrication)のための、ポリペプチドの設計法である。

Description

本発明は、静電積層自己組織化(ELBL)による、適当な表面上への極薄多層型フィルムの製造に関する。より詳細には、本発明は生物医薬およびその他の分野で用いられる、ELBLによる薄膜、コーティング、およびマイクロカプセルの微細製造のための、ポリペプチドの設計法に関する。
ELBLとは、反対極性に荷電した高分子電解質を交互に吸着させて非常に薄いフィルムを集成させる、確立されたひとつの手法である。この方法では、それぞれの層を堆積した後にフィルムの表面電荷を反転させる。図1に、一般的なELBL法の略線図を示す。反対の極性に荷電したポリイオン(polyion)(カチオンポリイオン10とアニオンポリイオン11)のフィルムが、負に荷電した平面12上に次々と層となって集成する。それぞれの層を堆積後、表面電荷を反転する。所望の厚さのフィルムが形成されるまでこの工程を繰り返す。会合の物理的基本原理は静電気によるもので、重力と核力は全く働いていない。この方法は一般的で比較的簡単であるため、ELBLにより様々な種類の材料を様々な種類の表面に堆積することができる。つまり、夥しい数の材料と表面の有望な組み合わせがある。ELBLの歴史など、その一般的な事柄については、その内容を全て本件に引用して援用する、Yuri Lvov,“Electrostatic Layer-by-Layer Assembly of Protains and Polyions” in Protain Architecture: Interfacial Molecular Assembly and Immobilization Biotechnology, Y. Lvov & H. Mohwald eds.(New York: Marcel Dekker, 1999), pp.125-167 を見よ。
ELBLは、厚さがおよそ1μm未満のフィルムの製造に使用できることから、近年、ナノテクノロジー分野で注目を集めるようになってきている。更にELBLは、フィルム製造工程の制御に非常に優れ、ナノスケールの材料を用いてナノスケールの構造体の改変を行うことができる。それぞれの層は数nm程度以下の厚さを持つため、使用した材料の種類と特定の吸着工程に応じて、正確に繰り返し可能な厚さの多層型組織化物を作ることができる。
Yuri Lvov,"Electrostatic Layer-by-Layer Assembly of Protains and Polyions" in Protain Architecture: Interfacial Molecular Assembly and Immobilization Biotechnology, Y. Lvov & H. Mohwald eds.(New York: Marcel Dekker, 1999), pp.125-167
ELBLの用途には、ナトリウム=ポリ(スチレンスルホナート)(PSS)、ポリ(アリールアミン塩酸塩)(PAH)、ポリ(ジアリールジメチルアンモニウム=クロリド)(PDDA)、ポリ(アクリルアミド−コ−ジアリールジメチルアンモニウム=クロリド)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(アネトールスルホン酸)、ポリ(ビニルスルファート)(PVS)、およびポリ(ビニルスルホン酸)など、多くの合成高分子電解質が用いられている。しかし、このような材料は抗原性または毒性を持つため、一般に生物医薬用としては有用ではない。
イオン化可能基を持つ側鎖を備えたポリマーであるタンパク質は、生物医薬など、様々な用途のためのELBLに使用可能である。ELBLで使用するタンパク質の例としては、シトクロムc、鶏卵白リゾチーム、免疫グロブリンG、ミオグロビン、ヘモグロビン、および血清アルブミンが挙げられる(同書)。しかしこの目的のためにタンパク質を用いるには困難な点がある。例えば、多層型構造体の制御に限界があること(タンパク質の表面は非常に不規則で、一般にタンパク質は規則的なパターンでは表面に吸着しない)、タンパク質の溶解性と構造安定性はpHによって変わるためpHが制約されること、外因性タンパク質を用いた場合に生体適合性がないこと、また、遺伝子がクローン化されていない場合の生産規模拡大のコスト(タンパク質が容易な入手源、例えばウシ中にあるものと同一でない場合、使用を目的とする生物からタンパク質を得なければならないため、タンパク質の大規模生産のコストが著しく高くなる)、などである。
これに比べて、一般にタンパク質より小さく、複雑でないポリペプチドは、ELBL組織化の材料として優れた一群を成し、ELBLで作ったポリペプチドフィルム構造体は、広範囲の用途に有用と考えられる。本発明は、ELBLによる薄膜、コーティング、およびマイクロカプセルの微細製造のためのポリペプチドの設計法を提示する。本発明の方法を用いて設計したポリペプチドは、いくつかの有用な性質、例えば、完全に決定された一次構造、水溶液中における最小限の二次構造、単分散性、完全に制御された単位長さ当たりの実効電荷、必要に応じて架橋が形成できる、架橋の形成を反転することができる、タンパクの場合より組織化された薄膜が生成できる、および、比較的安価な大規模生産コスト(E.coliまたはイーストにおける遺伝子設計、合成、クローニング、およびホスト発現、またはペプチド合成を想定)などを示す(これらに限定するものではない)。
本発明の方法を用いて設計したポリペプチドは、生物医学技術、食品技術、および環境技術での使用を目標または想定した、薄膜構造体のELBLに有用であることがわかった。このようなポリペプチドは、例えば、人工赤血球、ドラッグデリバリーデバイス、および抗菌性フィルムの製造に使用できると考えられる。
本発明は、ELBLに用いるための、中性pHにおいて所定の長さと実効電荷とを持つ“配列モチーフ(sequence motifs)”をアミノ酸配列情報中に同定し、所望の数のモチーフを記録する、新たな方法を提示する。この方法は、(a)特定の生物からペプチドまたはタンパク質に関するアミノ酸配列を入手する工程と、(b)アミノ酸配列中にスターターアミノ酸の位置を定める工程と、(c)スターターアミノ酸とそれに続くn個のアミノ酸とを検査して、特定極性と反対の極性を持つ荷電アミノ酸の数を決定する工程と、(d)特定極性と反対の極性を持つ荷電アミノ酸の数が1以上ならば、工程gから方法を続ける工程と、(e)スターターアミノ酸とそれに続くn個のアミノ酸とを検査して、特定極性を持つ荷電アミノ酸の数を決定する工程と、(f)特定極性を持つ荷電アミノ酸の数がx以上ならば、スターターアミノ酸とそれに続くn個のアミノ酸とを含むアミノ酸配列モチーフを記録する工程と、(g)アミノ酸配列中にもう一つのスターターアミノ酸の位置を定める工程と、(h)所望の数のアミノ酸配列モチーフが同定されるまで、または、アミノ酸配列中の全てのアミノ酸が工程cのスターターアミノ酸として使用されるまで、工程cから始まる方法を繰り返す工程とを含む。このとき、xはnの約半分、または約半分より大きい。
本発明は更に、(a)前記パラグラフに述べた工程を用いて、特定極性の実効電荷を持つ1つ以上のアミノ酸配列モチーフを同定および記録する工程と、(b)複数の前記記録アミノ酸配列モチーフを結合してポリペプチドを生成する工程とを含む、ELBLに用いるためのポリペプチドの新たな設計法を提示する。
本発明はまた、(a)新たに複数のアミノ酸配列モチーフを設計する工程と、(b)前記の複数のアミノ酸配列モチーフを結合する工程とを含み、前記アミノ酸配列モチーフがn個のアミノ酸を含み、その少なくともx個は正に荷電し、負に荷電しているものはなく、あるいは、その少なくともx個は負に荷電し、正に荷電しているものはなく、xがnの約半分、または約半分より大きい、ELBLに用いるためのポリペプチドの新たな設計法を提示する。アミノ酸配列モチーフは、20種の標準アミノ酸または非天然アミノ酸を含むことができ、またアミノ酸は、左手系(L−アミノ酸類)または右手系(D−アミノ酸類)のどちらでも良い。
更に、本発明は薄膜を提示する。この薄膜はポリペプチドの複数の層を含み、ポリペプチドの層は交互の電荷を持っている。ポリペプチドは、n個のアミノ酸を含む少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフを含み、n個のアミノ酸の少なくともx個は正に荷電し、負に荷電しているものはなく、あるいは、n個のアミノ酸の少なくともx個は負に荷電し、正に荷電しているものはなく、xはnの約半分、または約半分より大きい。これらのポリペプチド中のモチーフは、上記の方法のいずれかを用いて選ぶことができる。
本発明はまた、システイン、または他のスルフヒドリル含有アミノ酸型を用いて、ポリペプチドELBLフィルムの層を“ロック(lock)”および“アンロック(unlock)”する、新たな使用法を提示する。この方法により、極端なpHにおいてもフィルムを安定に保ち、設計ポリペプチドから微細製造したフィルムの機械的安定性と拡散性をより大きく制御し、広範囲な用途でのその有用性を増すことができる。
A.用語の説明
以後の記述を容易にするため、以下の用語の説明を適用する。しかし、これらの説明は例示のためであって、本明細中での記述または言及のとおりに用語を制限しようとするものではない。この説明は、本件に記載および主張されているような項目の追加の態様および/または例を全て含むことを意味する。
ここでいう“生体適合性(biocompatibility)”とは、経口摂取、皮膚と接触、または血流へ導入しても健康に悪影響を及ぼさないことを意味する。
ここでいう“免疫反応(immune response)”とは、血流中の物質の存在に対するヒト免疫系の反応を意味する。免疫反応は、例えば、特定の抗原を認識する抗体の数が血流中で増加するなど、多くの特徴を示す(抗体は免疫系によって作られるタンパク質であり、抗原は免疫反応を起こす存在である)。ヒトの体は感染体と戦い、血流中の抗体の数を増やすことで再感染を防ぐ。特異的な免疫反応は個人によって多少異なるが、一般的な反応のパターンは典型的な様相を示す。
ここでいう“エピトープ(epitope)”とは、抗体によって認識されるタンパク質の構造を意味する。通常、エピトープはタンパク質の表面にあると考えられる。“連続エピトープ(continuous epitope)”とは、一列に並んだ数個のアミノ酸を含むものであって、折り畳まれたタンパク質の中で偶然接したアミノ酸残基を含むものではない。
ここでいう“配列モチーフ(sequence motif)”および“モチーフ(motif)”とは、本発明の方法を用いて同定した、所定の数の残基のアミノ酸配列を意味する。望ましい実施の形態では、残基の数は7である。
ここでいう“アミノ酸配列(amino acid sequence)”および“配列(sequence)”とは、少なくとも2個のアミノ残基の長さを持つあらゆる長さのポリペプチド鎖を意味する。
ここでいう“残基(residue)”とは、ポリマー中のアミノ酸を意味し、それからポリマーが生成されたアミノ酸モノマーの残基である。ポリペプチド合成は、脱水(アミノ酸がポリペプチド鎖に付加する際に1個の水分子が“失われる”)を伴う。
ここでいう“設計ポリペプチド(designed polypeptide)”とは、本発明の方法を用いて設計したポリペプチドを意味し、“ペプチド(peptide)”および“ポリペプチド(polypeptide)”の語は、交換して用いても良い。
ここでいう“一次構造(primary structure)”とは、ポリペプチド鎖中のアミノ酸の線状配列を意味し、“二次構造(secondary structure)”とは、非共有相互作用、通常、水素結合によって安定化された(例えば、α−らせん、β−シート、およびβ−ターン(turn)など)、多少規制された様式を意味する。
ここでいう“アミノ酸”は、20種の天然アミノ酸に限らない。この語は更に、文脈において許容されるならば、D−アミノ酸、L−アミノ酸、および非天然アミノ酸も指す。
ここでいう“非天然アミノ酸”とは、20種の天然アミノ酸以外のアミノ酸を意味する。
本件では、20種の標準アミノ酸に対して次の3文字の略語を用いる。
Ala = アラニン Cys = システイン Asp = アスパラギン酸
Glu = グルタミン酸 Phe = フェニルアラニン Gly = グリシン
His = ヒスチジン Ile = イソロイシン Lys = リシン
Leu = ロイシン Met = メチオニン Asn = アスパラギン
Pro = プロリン Gln = グルタミン Arg = アルギニン
Ser = セリン Thr = トレオニン Val = バリン
Trp = トリプトファン Tyr = チロシン
B.本発明の記述
本発明は、生物医薬およびその他の分野で用いられる、薄膜、コーティング、およびマイクロカプセルの、ELBLによる微細製造のための、ポリペプチドの設計法を提示する。この方法には、(1)ポリペプチドの静電気的性質、(2)ポリペプチドの物理的構造、(3)ポリペプチドから作ったフィルムの物理的安定性、(4)ポリペプチドおよびフィルムの生体適合性、および(5)ポリペプチドおよびフィルムの生物活性の、5つの主要な設計要件が含まれる。第1の設計要件である静電気的性質は、ELBLの基本であるため最も重要であるといえよう。適当な荷電性がなければポリペプチドは水溶液に溶解せず、フィルムのELBL微細製造に用いることができない。我々は、ELBLに適した静電気的性質を持つアミノ酸配列モチーフを、アミノ酸配列情報中に同定するための新たな方法を考案した。
フィルムの安定性などの物理的性質は、ペプチドの溶液構造がどのようにフィルム内の構造に移し替えられるかによって変わるため、ELBLに用いるポリペプチドの二次構造も重要である。図11は、あるポリペプチドの溶液構造がフィルム組織化にどのように対応するかを示している。図11(a)は、ポリ−L−グルタマートおよびポリ−L−リシンの組織化挙動がpHによってどのように変わるかを示している。β−シートコンホメーションよりもα−らせんコンホメーションの方が、堆積する材料に大きく影響することが明らかである。この挙動の正確な分子的解釈はまだ解明されていない。図11(b)は、これらのペプチドの溶液構造がpHよってどのように変わるかを示している。pH4.2では、ポリ−L−グルタマートは主にα−らせんであり、ポリ−L−リシンもpH10.5において同様である。いずれのポリペプチドも、pH7.3では、主として構造化されていないコイル様コンホメーションとなっている。
残る要件は、ポリペプチドフィルムの用途に関連する。本発明の実施においては、特定の用途に求められる設計に応じて、これらその他の要件にかかる重さは変わる。
本発明の選択法を用いて、適当な荷電特性を持つアミノ酸配列モチーフをアミノ酸配列情報中に同定し、またその他の設計要件を用いて特定のモチーフを選択することで、生物医薬およびその他の分野で用いる、ナノスケールで組織化したフィルムのELBL製造に適したポリペプチドを設計することができる。あるいは、本発明の方法を用いて、ELBLで使用するためのポリペプチドを新たに設計することができる。新たな設計への取り組みは、アミノ酸配列モチーフ中の各残基が、特定生物のゲノムまたはプロテオーム情報中に同定された完全モチーフではなく、実施者によって選定される点を除いて、存在するアミノ酸配列情報中のモチーフの同定と本質的に同じである。新たなポリペプチド設計の場合、本発明に挙げられている基本的なポリペプチド設計原理は、含まれるアミノ酸が20種の天然アミノ酸、非天然アミノ酸、またはこれらの新しい組み合わせであるか否かを問わないことを、特に強調しなければならない。更に、D−アミノ酸およびL−アミノ酸の両方が使用できる。
本発明の設計要件については、以下でより詳しく論じる。
1.静電気的性質
我々は、ELBLに適した静電気的性質を備えたアミノ酸配列モチーフを、アミノ酸配列情報中に同定する新たな方法を考案した。この方法を用いて、ヒトプロテオームデータ中の88,315個の非冗長(non-redundant)アミノ酸配列モチーフを同定した(人体中の公知の全てのタンパク質をエンコードするゲノム部分の翻訳)。この情報は、特に、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト<http://www.ncbi.nlm.nih.gov>より一般に公開されている。このような情報は、ヒトゲノムが更に解析されるに伴い定期的に更新される。このような情報の量は増え続けるため、ELBLに適した静電気的性質を持つとして、本発明の選定法によってヒト配列情報中に同定できるアミノ酸配列モチーフの数も増加する。他の生物についても同じことが言える。一般に容認されている生物化学的および物理的原理と、以下に示す試験結果とは、同定された配列モチーフが、ELBL構造体の微細製造用のポリペプチドの設計に有用であることを示唆している。
鍵となる選定基準は、中性pH(pH7、ヒト血液のpHに近い)における単位長さ当たりの平均電荷である。更に、優先的な構造がいくつか存在する。まず第1に、各アミノ酸配列モチーフは7残基のみから成るものが好ましい。
a.モチーフ中の残基の総数
生体適合性、物理的構造、および利用可能なアミノ酸配列データ中の非冗長配列モチーフの数を最適なものとする作業に、7個のモチーフ長さを選んだ。
以下で論ずるように、各配列モチーフ中のアミノ酸残基の少なくとも半数は荷電していることが望ましい。更に、各モチーフ中の荷電残基の全てが同じ電荷であることが望ましい。この条件を満たせば、各モチーフは、水性溶媒中に十分に溶解し、中性pHにおいて十分な電荷を持つことができるため、ELBLに有用となるであろう。アミノ酸型の比較的僅かな割合しか荷電しないため、所定のアミノ酸配列が長くなると、この配列がELBLに適した荷電されたアミノ酸を十分な割合で含む確率が下がる。電荷が4より少ないとペプチドの溶解性が大きく低下し、ELBLを制御しにくくなるため、7個のモチーフサイズでは最低4個の荷電アミノ酸が望ましい。
生体適合性(以下で更に論ずる)について述べるならば、各同定配列モチーフは、連続エピトープ(設計されたペプチドを導入する生物に起こり得る免疫反応に関連する)を構成するには7残基で十分に長いが、タンパク質の表面とその内部の両方の残基に十分に一致するにはあまり長いとは言えない。必要な電荷があれば、配列モチーフは折り畳まれたタンパク質の表面に生じることができる。荷電した残基を折り畳まれたタンパク質のコア中で生成することはできない。一方、非常に短いモチーフは、ランダム配列、または明らかに“自己”ではないものとして身体に出現し、免疫反応を引き起こすことがある。抗体を生じる典型的なペプチドの長さは議論の余地のあるところであるが、大部分のペプチド抗原の長さは12〜16残基の範囲である。9残基またはそれより短いペプチドは有効な抗原となり、12〜16より長いアミノ酸のペプチドは複数のエピトープを含むことができる(その内容を全て本件に引用する、Angeletti, R.H. (1999) Design of Useful Peptide Antigens, J. Biomol. Tech. 10:2-10)。このように、抗原性を最も小さくするには、12より短い、更には9より短い残基のペプチドが好ましい。
望ましいモチーフはもう一つの理由、二次構造の生成を最も小さくするためにも長すぎてはならない。二次構造は、ポリペプチド(以下を見よ)とそれから作られるフィルムの物理的構造の制御をしにくくする。
更に、非冗長モチーフの最大数は、各モチーフ中の残基の数が7のときに見られる。図6は、利用可能なヒトアミノ酸配列情報中の非冗長配列モチーフの数を示している。正に荷電したモチーフの最大数は5残基長さであるが、負に荷電したモチーフの最大数は7残基長さのときである。正および負に荷電したモチーフの最大数は、5および7の場合とほぼ同じである。このように、モチーフが7残基長さであると非冗長モチーフの数が最大となると考えられる。
上記の理由全てより、ELBLに最も適したポリペプチド設計とするには、7残基長さのモチーフが好ましいが、場合によっては、僅かに短い、または僅かに長いモチーフも同様に用いることができる。例えば、5または6残基長さのモチーフも使用でき、また8〜15残基程度の長さのモチーフも有用と考えられる。
b.荷電残基の数
次に、中性pHにおいては、各7残基モチーフ中に、正に荷電した(塩基性)アミノ酸(Arg、His、またはLys)が少なくとも4個、あるいは負に荷電した(酸性)アミノ酸(GluまたはAsp)が少なくとも4個存在することが好ましい。中性pHにおいて十分高い荷電密度としようとする場合、正電荷と負電荷の組み合わせは歓迎されない。しかし、正と負のアミノ酸両方を含むモチーフをELBLに有益なものとすることは可能である。例えば、僅かに長いモチーフ(9残基を指す)では、6個の正に荷電したアミノ酸と1個の負に荷電したアミノ酸を含むことができる。重要なのは電荷の釣り合いであって、中性pHにおいてペプチド全体が十分に正に荷電しているか、十分に負に荷電していなければならない。しかし、非天然アミノ酸を酸性または塩基性アミノ酸として認めないのであれば、モチーフの望ましい実施の形態は、荷電アミノ酸として、GluまたはAspのみ、あるいは、Arg、His、またはLysのみしか含まないと考えられる(他の非荷電アミノ酸がモチーフの一部を成していても、または通常はそうであるが)。
図5は、適当な静電気的性質を持つアミノ酸配列を同定するための、選定方法に含まれる工程を示す流れ図である。20個の標準アミノ酸のみしか含まないと仮定する。負に荷電したモチーフを探す場合、この方法は、配列データ中にひとつのアミノ酸の位置を定めることから始まる。このアミノ酸は、周囲のアミノ酸を分析するための開始点である(即ち、モチーフを開始する)ため、“スターターアミノ酸(starter amino acid)”と呼ばれる。次に、スターターアミノ酸とそれに続く6残基について、Arg、His、またはLysの出現を調べる。もし、これら7個のアミノ酸中に1つ以上のArg、His、またはLysが配置されていたら、別のスターターアミノ酸から新たにこの工程を始める。Arg、His、またはLysが見つからなければ、7個のアミノ酸を検査して、Gluおよび/またはAspの出現数を求める。7残基中に少なくとも4個のGluおよび/またはAspが出現したら、配列モチーフを目録に載せる。正に荷電したアミノ酸については、GluおよびAspを、Arg、His、およびLysに、Arg、His、およびLysを、GluおよびAspにそれぞれ置き換える以外、選定方法は本質的に同じである。アミノ酸配列(アミノ末端)の始点から操作を始め、終端(カルボキシル末端)へ向かっても、あるいは、ランダムな位置から開始し、配列中の全てのアミノ酸を通るよう、いずれかの方向へランダムまたは系統的に処理を行っても良いことは明らかである。更に、例えば、それぞれの非天然アミノ酸型に対してコードが用いられているならば、非天然アミノ酸を含む配列情報中にモチーフを同定する方法を用いることができる。このような場合、それぞれ、GluおよびAspと、Arg、Lys、およびHisの代わりに、非天然酸性または塩基性アミノ酸を探すこととなる。
残る設計上の要件、すなわち物理的構造、物理的安定性、生体適合性、および生物機能性(biofunctionality)は、主に設計ポリペプチドが用いられる特定の用途に関わるものである。先に挙げたように、特定の用途について求められるペプチドの性質に応じて、設計工程の際にこれらの要件にかかる重さは変わる。
2.物理的構造
アミノ酸配列モチーフに関する設計上の要件は、二次構造、特にα−らせんまたはβ−シートを形成するその傾向である。薄膜層の形成を最大限に制御するため、設計ポリペプチドの水性媒体中での二次構造の形成を制御、特に最小とするための方法がいくつか検討されている。第1に、長いモチーフは溶液中で安定な3次元構造を採り易いため、配列モチーフはなるべく短いことが望ましい。第2に、ポリペプチド設計の望ましい実施の形態では、各モチーフの間にグリシン残基を置いた。グリシンは、非常に低いα−らせん傾向と非常に低いβ−シート傾向とを持つため、グリシンとその近傍のアミノ酸が水溶液中で通常の二次構造を形成するのはエネルギー的に非常に不利となる。プロリンはいくつかの点で同様な性質を持ち、モチーフを繋ぐためグリシンの代わりに用いることができる。第3に、合計α−らせん傾向が7.5未満、合計β−シート傾向が8未満であるモチーフに着目することで、設計ポリペプチド自体のα−らせんおよびβ−シート傾向を最小とする方法を検討した(“合計”傾向(summed propensity)とは、モチーフ中の全てのアミノ酸のα−らせんまたはβ−シート傾向の合計を意味する)。しかし、モチーフの間にあるGly(またはPro)残基は、設計ポリペプチド内での安定な二次構造形成の阻害に重要な役割を果たしていると考えられるため、多少高い合計α−らせん傾向および/または合計β−シート傾向を持つアミノ酸配列が、一部の環境下でELBLに適したものとなることは可能である。実際に、薄膜製造の特殊な設計仕様として、ある用途において、ポリペプチドの二次構造を形成する傾向が比較的高いことが好ましいこともあるが、先に論じたように、ELBLの求める必要な静電電荷は満たされなければならない。
好ましい二次構造傾向を備えたアミノ酸配列が選択できるよう、まず、チョウ(Chou)およびファスマン(Fasman)の方法(その内容を全て本件に引用して援用する、P. Chou and G. Fasman, Biochemistry 13:211 (1974) を見よ)を用い、1,800より高い高分解能X線結晶構造(1,334はα−らせんを含み、1,221はβ−ストランドを含む)からの構造情報を使用して、20種のアミノ酸全てについて二次構造傾向を計算した。構造は、(a)構造決定法(X線回折)、(b)分解能(2.0オングストロームより良い)(この文中での“分解能”とは、レイリー基準と同様に、分解可能な構造の最小の大きさを指す)、および(c)構造多様性(様々なアミノ酸のらせんおよびシート傾向の算出に用いたタンパク質結晶構造間の配列同一性が50%未満)に基づいて、タンパク質データバンク(一般公開されているタンパク質構造の保管場所)から選んだ。原則的に、最も信頼性の高い方法で決定した高分解能の構造を選定し、類似した構造を採用することで傾向の算出を偏らせないようにした。次に比較のため、パーソナルコンピュータの乱数発生器を用いて、10万個の非冗長ランダム配列を作成した。次に、先の1.静電気的性質に記載の選定方法を用いて同定した、88,315個のアミノ酸配列(59,385個の非冗長塩基性配列モチーフと、28,930個の非冗長酸性配列モチーフ)について二次構造傾向を計算した。次に、ランダム配列の傾向と選択した配列の傾向とを比較した。図2は、これらの配列モチーフ中の二次構造形成傾向の分布を示している。図2中の矩形は、二次構造傾向に基づいて、少なくとも二次構造を形成する可能性があると認められた配列モチーフを強調したものである。
3.物理的安定性
もう一つの設計上の要件は、ポリペプチドELBLフィルムの安定性の制御である。イオン結合、水素結合、ファンデルワールス相互作用、および疎水性相互作用はELBLフィルムに、比較的限られたものではあるが、多少の安定性を与える。これに対し、共有ジスルフィド結合は、著しく優れた構造強度を与えることができる。我々は、システイン(または、いくつか別の種類のスルフヒドリル含有アミノ酸)を用いて、ポリペプチドELBLフィルムの隣りあう層を“ロック”および“アンロック”する、新たな方法を考案した。この方法により、ポリペプチドの微細製造フィルムは、極端なpHにおいても安定性を保ち、その機械的安定性と拡散性をより大きく制御できるようになる(非ポリペプチド高分子電解質から作った多層型フィルムの多孔性については、いずれもその内容を全て本件に引用して援用する、Caruso, F., Niikura, K., Furlong, N. and Okahata (1997) Langmuir 13:3427、および Caruso, F., Furlong, N., Ariga, K., Ichinose, I., and Kunitake, T. (1998) Langmuir 14:4559 を見よ)。また、設計ポリペプチドの配列モチーフにシステイン(または、いくつか別の種類のスルフヒドリル含有アミノ酸)を加えることで、分子間ジスルフィド結合の形成によって比較的短いペプチドが薄膜製造に使えるようになる。システインを用いないと、一般にこのようなペプチドからは十分に安定なフィルムはできない(図12参照、以下で論ずる)。つまり、システインのこの新たな使用により、予想される用途のかなりの割合で高価な長い設計ポリペプチドを製造する必要がなくなるであろう。これは、カプセル化される材料、例えば、薬物の微小結晶、小さな球状ヘモグロビン結晶、またはヘモグロビンを含む溶液の周囲に薄膜を作る場合に特に有益であると考えられる。
フィルムの物理的安定性が重要な用途のためには、システイン(または、いくつか別の種類のスルフヒドリル含有アミノ酸)を含むアミノ酸配列モチーフを、前述の方法を用いて同定したモチーフのライブラリーから選ぶか、あるいは、上記の原理を用いて新たに設計しても良い。次に、選定または設計したアミノ酸配列モチーフに基づいて、ポリペプチドを設計および製造することができる。ポリペプチドを化学合成、またはホスト生物中で生産したら、ジスルフィド結合の早すぎる形成を防ぐため、還元剤存在下でシステイン含有ペプチドのELBL組織化を行う。組織化の後、還元剤を除いて酸化剤を加える。酸化剤存在下において、システイン残基の間でジスルフィド結合が生成することにより、これを含むポリペプチド層が互いに“ロッキング(locking)”される。
以下の具体的なマイクロカプセル製造の例を用いて、この“ロッキング”法を更に詳しく説明する。まず、システインを含む設計ポリペプチドを用いて、通常、中性pHの水溶液中、ジチオトレイトール(DTT)還元剤の存在下で、適当に荷電した球状面にELBLで多数の層を形成する。次に、濾過、拡散、または当該技術で公知の類似のいくつか別の方法でDTTを除き、システイン側鎖の対からシスチンを生じさせることでフィルムを安定化させる。カプセル化したい材料、例えば結晶性材料を含むコア粒子の上にペプチドの多層を作る場合、製造工程を終えた後、コア粒子を、例えばpHを変えることでカプセル化環境中で溶解するように作ることができる。しかし“ダミー”コア粒子上に多層を作る場合は、このコアを除かなければならない。メラミンホルムアルデヒド(MF)粒子の場合、例えば一般にpHを下げることでコアを溶解する(溶解は酸で促進される)。コアを溶解した後、溶液のpHを4に調節すると、ペプチドポリアニオンの部分的な電荷がマイクロカプセルを半透性とする(その内容を全て本件に引用して援用する、Lvov et al.(2001) Nano Letters 1:125 を参照のこと)。次に、10mMのDTTをマイクロカプセル溶液に加えてシスチンをシステインに還元する。次に、封入すべき材料、例えばタンパク質の濃厚溶液にこのマイクロカプセルを移して、これに“担持(loaded)”させる(同書)。タンパク質は、その濃度勾配に沿って移動してマイクロカプセル内に入り込む。還元剤を除き酸化剤を加えることでジスルフィド結合の再生成を促し、カプセル化したタンパク質を“閉じ込める(locked in)”。
本発明のシステインの“ロッキング”および“アンロッキング(unlocking)”法の略図を図4に示す。システインは、分子内および分子間の両方でジスルフィド結合を形成することができる。更に、ジスルフィド結合は、フィルム中のシステイン含有ペプチドの場所に応じて、同じ層内、または隣接する層内の分子の間で形成することができる。図4(a)を参照するならば、塩基性ポリペプチド2は、塩基性ペプチドがシステインを含む全ての層の中でジスルフィド結合3によってつなぎ合わされている。その間に介在する層(図中では半透明な層4で示されている)の酸性ペプチドはシステインを含んでいない。しかし、もし周囲環境のpHで、酸性および塩基性側鎖が荷電しているならば、交互に配列した層は静電気的に互いに引き寄せられ続ける。図4(b)を参照とするならば、ジスルフィド結合は層の間に見られる。このような構造は、ELBLに用いられる酸性および塩基性ポリペプチドの両方(即ち、交互に並んだポリペプチド層)がシステインを含み、使用した手法がジスルフィド結合の生成に適した場合に形成されると考えられる。図4(c)を参照するならば、還元および酸化反応を用いてジスルフィド結合3をそれぞれ分解および生成し、これによりカプセル壁を通る粒子の拡散を調節することで、カプセル化した化合物5の放出を調整する。
システインの“ロッキング”および“アンロッキング”は、ELBLフィルムの構造完全性と透過性を調節する新たな方法である。当該技術においては、タンパク質の架橋にグルタルアルデヒドが使用できることが知られており、このためこの化学物質はポリペプチドフィルムの安定化にも使用できると考えられる。しかしグルタルアルデヒドによる架橋は不可逆である。これに対し、本発明のシステインの“ロッキング”および“アンロッキング”法は可逆的であり、このため、本発明を用いて製造できるフィルムおよびカプセルの構造体形成と、特に使用を、より良く制御することができる。血液は酸化性の環境である。このため、一部の生物医学的用途、例えば、設計ポリペプチドから製造した人工赤血球またはドラッグデリバリーシステムにおいては、ジスルフィド結合の形成後に、Cys架橋ポリペプチドフィルムを血液や他の酸化性環境に曝しても、これらの結合が壊れることはないと予想される。最後に、非天然アミノ酸を含む用途では、Cysがいくつか他のスルフヒドリル含有アミノ酸型で置き換えられることを明記すべきであろう。例えば、スルフヒドリルを、D、L−β−アミノ−β−シクロヘキシルプロピオン酸、D、L−3−アミノブタン酸、または5−(メチルチオ)−3−アミノペンタン酸などのβ−アミノ酸に加えても良い(http://www.synthatex.com を見よ)。
4.生体適合性
生体適合性は生物医薬的用途においては主要な設計上の要件である。このような用途では、本発明の実施者は、特に、製造または被覆した物体を血流と接触させる場合、“免疫的に不活性な(immune inert)”ポリペプチドが得られるようなゲノムまたはプロテオーム情報の同定をねらいとする。本発明の目的のため、血液タンパクのアミノ酸配列の分析に、先の1.静電気的性質で論じた選定方法を用いることが好ましい。これにより生物の免疫反応を最小とする可能性を最大にできるであろう。
アミノ酸配列の抗原性を予測するためのコンピュータムアルゴリズムが存在する。しかしこのような方法は、当該技術においては最良でもやや信頼できる程度であることが知られている。本発明において、先の1.静電気的性質で論じた選定方法を用いて同定した配列モチーフは非常に極性が高い。このため、モチーフは、配列の一部であるタンパク質の自然状態の表面に生じるものでなくてはならない。“表面(surface)”とは、折り畳まれたタンパク質の、溶媒と接している、または水の粒状の性質のため溶媒が単独では近づきにくい部分である。“内部(interior)”とは、他の理由で溶媒が近づきにくい、折り畳まれたタンパク質の部分である。折り畳まれた球状の可溶性タンパク質は有機結晶に似ており、内部は結晶格子内と同じように密に詰まっており、外部は、溶媒、水と接している。その荷電性のため、本発明の方法を用いて同定したポリペプチド配列モチーフは、殆どが(排他的でなければ)タンパク質の表面に生じる。このため、本発明の選定方法を用いてヒト血液タンパク質中に同定した全ての配列モチーフは、このタンパク質が血液中にある間は、常に免疫系と効果的に接している。水性媒体から誘電率の低いものへの電荷の移動(タンパク質内部で起こるような)はエネルギー的に非常に不利であるため、これは、血流中に存在するようになるタンパク質の全てのコンホメーション(変性状態を含む)について言える。ゆえに、容認された生化学的原理は、本発明の方法を用いて血液タンパク質から設計されたポリペプチドは、免疫反応を誘発しないか、誘発される免疫反応が最小であるかのいずれかであることを示している。同じ理由で、本発明の方法を用いて設計したポリペプチドは生体適合性であると考えられる。本発明の選定方法を用いてゲノムデータから同定した配列モチーフは、血液タンパク質中のものだけでなく、全て生体適合性である。ただし、免疫反応の程度や異なるタイプの生物学的応答は、配列モチーフ特有のディテールに応じて大きく変わると考えられる(モチーフの基となるポリペプチド配列は、それのためにフィルムを作った生物の中に実際に生じているため、このアプローチは、少なくとも原理的にはどのような種類の生物に対しても等しく良好に働く。例えば、このアプローチは獣医学においては非常に価値が高いと考えられる)。免疫反応および生体適合性はいずれも、設計ペプチドを生物医学的用途、例えば、人工赤血球の製造、ドラッグデリバリーシステム、または、生物体に短期間または長期間導入するインプラントを被覆するための生体適合性フィルム製造用のポリペプチド(これらに限定しない)への使用を考える上で重要である。
5.生物活性
ポリペプチド薄膜、コーティング、またはマイクロカプセルの一部の用途において、ポリペプチドの設計を変えて、構造体の一部の層、しばしば最も外側の層で利用する、機能性部位を加えることが好ましい場合がある。ここでいう機能性部位(functional domain)とは、特定の生物機能性を持つタンパク質(例えば、結合性ホスホチロシン)の、独立した熱に安定性な領域である。当該技術において、このような生物機能性と他の機能性とをひとつのマルチドメインタンパク質に統合させることは公知であり、例えば、タンパク質テンシン(tensin)中には、ホスホチロシン結合部位とタンパク質チロシンホスファターゼ部位とが包含されている。設計ポリペプチド中にこのような部位を加えると、特定の配位子の結合、in vivoでのターゲティング、バイオセンシング、または生物触媒作用など(これらに限定しない)、多くの方法で機能することができると考えられる。
C.本発明の方法を用いて設計したポリペプチドの使用
先に言及したように、適当な設計のポリペプチドはELBL用の優れた材料であり、またELBLを用いて形成したポリペプチドフィルム構造体は、多くの様々な種類の用途に有用であると考えられる。本発明の方法を用いて設計したポリペプチドは、生物医学技術、食品技術、および環境技術において予想される用途のためのフィルム構造体のELBLに有用であることが分かった。例えばこのようなポリペプチドは、人工赤血球の製造に用いられよう。
1.人工赤血球
赤血球代替品の開発には、多くの様々な取り組みが成されてきた。その一つは、パーフルオロカーボン類を用いるものである。パーフルオロカーボンエマルションは、酸素と結合してこれを組織に運搬することのできる合成フッ素化炭化水素を含んでいる。しかしこの方法は、細網内皮細胞の破壊を増加させる。パーフルオロカーボン類は細網内皮細胞系に蓄積されて有害な結果を生むことがある。
もう一つの取り組みは抗原カモフラージュに注目したもので、これはポリエチレングリコール(PEG)と呼ばれる生体適合性ポリマーで覆った赤血球を含む。PEG分子は細胞表面に耐久性のある共有結合を形成する。このコーティングは、赤血球表面の抗原性分子を効果的に隠すため、輸血を受けた患者の抗体はこの細胞を異物と認識しない。例えば、A型の血液を持つ健常者の免疫系はB型赤血球表面の抗原を認識する抗体を自然に持っていて、細胞を破壊する。B型赤血球の表面にPEGを付けて細胞表面を“カモフラージュ”すると、その表面の抗原は免疫系によってもはや認識されず、抗原的には異物である赤血球がすぐには分解されなくなる(その内容を全て本件に引用して援用する、Pargaonkar, N.A., G. Sharma, and K.K. Vistakula. (2001) “Artificial Blood: Current Research Report,”を見よ)。
繰り返し輸血の必要な、サラセミアなどの多くの疾病は、“小(minor)”赤血球抗原に対する抗体の発生によってしばしば悪化する。この“アロ感作(allosensitization)”のため、これらの患者は輸血が殆ど不可能になり、命の危険に曝されることがある。in vitro試験では、PEG変性赤血球にアロ感作の誘発は見られず、アロ感作が既に起きている臨床的状況でも有用であった(その内容を全て本件に引用して援用する、Scott, M.D. et al. (1997) “Chemical camouflage of antigenic determinants: Stealth erythrocytes,” Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94 (14): 7566-7571 を見よ)。
他の取り組みは、精製したヘモグロビンを含むものである。変性をしていない無細胞のヘモグロビンには限界があることが知られている。その限界とは、効果的に組織に酸素を与えるには酸素親和力が高すぎる、血管空間内での半減期が臨床に用いるには短すぎる、解離を受けて二量体となる傾向があり、その結果、腎尿細管を傷つけ毒性を及ぼす、などである。これらの限界のため、無細胞赤血球代替品の製造に用いられるヘモグロビンは、変性されていなければならない。多くの変性技術が開発されている。ヘモグロビンは、グルタルアルデヒドなどの試薬を用いて、架橋(化学的変性により、2つの分子の間に共有結合を作る)および重合させることができる。このような変性により、通常のヘモグロビンより高いP50(全ての酸素結合部位の50%が占められているときの酸素分圧)を持つ生成物ができ、血漿中半減期を30時間まで伸ばすことができる。この目的に用いられるヘモグロビンの入手源は、ヒト(期限切れとなった献血血液)、ウシ、またはヒト組換え体であっても良い。変性ヘモグロビン溶液は良く精製したヘモグロビンから調製し、リン脂質、内毒素、およびウィルス性不純物を除くため、様々な生化学的処理を行う(その内容を全て本件に引用して援用する、Nester, T. and Simpson, M. (2000) “Transfusion medicine update,”Blood Substitutes を見よ)。バイオピュア・コーポレーション(Biopure Corporation)(マサチューセッツ州ケンブリッジ)は、その製品(Hemopure)に変性ヘモグロビンを用いている。
変性ヘモグロビン溶液の起こりえる主な悪影響は、全身および肺血管抵抗の増大であって、これは心係数の低下を招く。心係数の低下は最適な酸素供給を損ない、これは酸素を運搬する溶液としての利点よりも重大である(その内容を全て本件に引用して援用する、Kasper S.M. et al. (1998)“The effects of increased doses of bovine hemoglobin on hemodynamics and oxygen transport in patients undergoing preoperative hemodilution for elective abdominal aortic surgery,” Anesth. Analg. 87: 284-91 を見よ)。ある研究では、不安定な外傷患者の急性蘇生期(acute resuscitation phase)におけるこれらの溶液の有効性について検討した。しかしこの研究の計画は不十分で、最終的な患者の転帰への影響におけるこの溶液の役割は不明確であった(その内容を全て本件に引用して援用する、Koenigsberg D. et al. (1999) “The efficacy trial of diaspirin cross-linked hemoglobin in the treatment of severe traumatic hemorrhagic shock,” Acad. Emerg. Med. 6: 379-80 を見よ)。
無細胞ヘモグロビンの問題の多くは、これを人工膜でカプセル化することで解決可能である。血液代替品として用いるため、ヘモグロビンのカプセル化にリポソームを用いる。この取り組みは、ヘモグロビンを調製しなければならないだけでなく、比較的高い濃度と収率でカプセル化しなければならないため、技術的には難題である。最終生成物は滅菌されなければならず、またリポソームは比較的均一な大きさでなければならない。
カプセル化ヘモグロビンには無細胞ヘモグロビンを超えるいくつかの長所がある。第1に、人工細胞膜は、血漿中の分解および酸化力からヘモグロビンを保護する。第2に、この膜は、血管内皮をヘモグロビンの毒性から守る。これらは、ヘムの損失、O遊離基の生成、およびNO結合の血管収縮効果に関係する。第3に、カプセル化によってヘモグロビンの循環残存率(circulating persistence)が著しく大きくなる。更に、カプセル化ヘモグロビンは、貯蔵に便利なように凍結乾燥することができる。
リポソームによるカプセル化では、細胞膜と同様にリン脂質を用いる。しかしリポソームカプセル化に伴う大きな問題の一つは、リポソームの平均粒径と分布の調節が非常に難しいことである。もう一つの問題は、赤血球とは異なり、リポソームは一般に組織化された細胞骨格を持たないため、あまり安定とはいえない点である。更にもう一つの問題は、リポソームが多くの場合、リン脂質の多数の層から成る点である。(血液代替品の開発に関する最近の概要については、その内容を全て本件に引用して援用する、Stowell et al.(2001) Progress in the development of RBC substitutes, Transfusion 41:287-299 に示されている。更に、その内容を全て本件に引用して援用する、Chang, T. 1998 “Modified hemoglobin-based blood substitutes: cross linked, recombinant and encapsulated hemoglobin,”Artificial Cell 74 Suppl 2:233-41 を見よ。)
本発明の方法を用いて設計したポリペプチドを採用した赤血球代替品は、当該技術で公知の赤血球代替品開発の取り組みを上回る、いくつかの長所、例えば、優れた酸素および二酸化炭素結合機能、低い生産コスト(ペプチドの大量生産に細菌が使用ができ、またペプチドのELBLは自動化できるため、大規模な、またそれにより低コストの生産が可能である)、ELBL用テンプレートとして、ヘモグロビンの適当な調製物の使用が可能 、ポリペプチドの生分解性、血液タンパク質構造に基づいて設計したポリペプチドの免疫“不活性性”、および、設計ポリペプチドフィルムの示すリポソームを超える構造安定性、など(これらに限らない)を示す。ポリペプチドのELBL組織化によって半多孔性フィルムが得られ、カプセル化の手段の製造に必要な材料の量を最小とし、また、グルコース、酸素、二酸化炭素、および様々な代謝産物を脂質2分子膜と同様に自由にフィルムを通して拡散させることができる。これに対し、この目的に適する可能性を持つ他のポリマー類は、好ましくない副作用を持つ。例えば、ポリラクチド(polylactide)は分解して筋肉痙攣を起こす物質である酪酸を生じ、ポリ(スチレンスルホナート)は生体適合性ではない。
赤血球代替品として働くヘモグロビンのカプセル化のため、設計ポリペプチドのマイクロカプセルを作ることができる。ヘモグロビンポリペプチドマイクロカプセルは更に、赤血球の機能として一般に重要な、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、およびメトヘモグロビンレダクターゼなどの酵素を含むよう工夫することができる。更に、微小製造したマイクロカプセルは脱水可能であると予想される。つまり、特に、ヘモグロビンは凍結乾燥(lyophilize、すなわちfreeze-dry)可能でその機能を失うことなく再構成でき、またポリイオンフィルムは脱水に対して安定であるため、本件に記載のように作られた人工赤血球は、その機能を失うことなく脱水できると考えられる。これは、血液代替品の長期貯蔵、輸送、戦場での使用(特に遠隔地)、また宇宙探査において重要と考えられる。
本発明の方法を用いて設計したポリペプチドは、ドラッグデリバリーにも使用できる。
2.ドラッグデリバリー
“微小結晶”状の適当な治療用材料のミクロンサイズの“コア”を、設計ポリペプチドでカプセル化し、生成したマイクロカプセルをドラッグデリバリーに用いることができる。このコアは、一部の条件下、例えば、高pHまたは低温においては不溶で、制御放出が起こる条件下では可溶でなければならない。結晶の表面電荷は、ζ−電位測定(液状媒体中のコロイド粒子上の電荷を、静電単位で求めるために用いる)によって求めることができる。マイクロカプセルの内部から周囲環境へマイクロカプセルの中身が放出される速度は、カプセル化しているシェル(殻:shell)の厚さ、シェルに用いたポリペプチド、ジスルフィド結合の存在、ペプチドの架橋の程度、温度、イオン強度、およびペプチドの組織化に用いた方法など、多くの要因によって変わるであろう。一般に、カプセルが厚いと放出時間は長くなり、その原理はゲル濾過クロマトグラフィに似ている。
ELBLマイクロカプセルからの持続放出に関する研究がいくつか成されている(その内容を全て本件に引用して援用する、Antipov, A., Sukhorukov, G.B., Donath, E., and Mohwald, H. (2001) J. Phys.Chem. B, 105:2281-2284 および Freemantle, M. (2002) Polyelectrolyte multilayers, Chem. Eng. News, 80: 44-48 を見よ)。使用されている高分子電解質は、PSS、PAH、PAA、PVS、PEI、およびPDDAである。
本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドは、マイクロカプセルの物理的、化学的、および生物学的特性を制御する;カプセルを注入に適したものとする、直径1mm未満のカプセルを作ることが可能;免疫反応を誘発するおそれが低い;カプセルの生体適合性が一般に高い;層の厚さを変え、また以下で論ずるようにシステインを用いてマイクロカプセルの拡散性を制御する;システイン中の反応性の高いスルフヒドリル基を用いたマイクロカプセル表面の変性により(当該技術で公知のように、遊離スルフヒドリル基、遊離アミノ基、および遊離カルボキシル基は、特定のターゲティングのための分子が結合できる部位である)、あるいは、特定の機能性領域をポリペプチドの設計に組み込むことにより、特定位置を狙うことができる;エンドサイトーシスまたはピノサイトーシスのいずれかを利用して細胞に取り込まれる微小構造体が可能、など(これらに限らない)、ドラッグデリバリーに関わる多くの長所を示すものである。
また、本発明の方法を用いて設計したポリペプチドは、抗菌性コーティングにも用いられる。
3.抗菌性コーティング
本発明の方法は、抗菌性ペプチドを包含するフィルムの製造に用いることができる。例えば、ある適当な配列は、ヒトに生じる、Histatin 5である。
Asp Ser His Ala Lys Arg His His Gly Tyr Lys Arg Lys His Glu
Lys His His Ser His Arg Gly Tyr (配列番号8)
僅かに塩基性のpHにおいて正電荷が優勢であると、この配列は非常にELBLに適したものとなる。本発明の方法を用いて設計したペプチドは、ELBLでの使用に適した抗菌性ペプチドとなるとも言える。このペプチドは生物付着防止用コーティングとして使える。例えば、このペプチドを用いて、インプラント用デバイス上にコーティングを形成することができる。
本発明の方法を用いて設計したポリペプチドには有用と思われる分野がまだ多くある。
4.その他の使用法
本発明の方法を用いて設計したペプチドのその他可能な使用法としては、食品用カバー、ラップ、およびセパレーション層;食品包装、パウチ、バッグ、およびラベル;食品用コーティング;食品成分マイクロカプセル;薬物コーティング、カプセル、およびマイクロカプセル;使い捨ての食品サービス用品(プレート、カップ、カトラリー);ゴミ袋;肥料および農薬用水溶性バッグ;肥料および農薬用マイクロカプセル;農業用マルチ;紙用コーティング;ルーズフィル(loose-fill)包装;使い捨て医療用製品(例えば、手袋、ガウン);使い捨ておむつなどが挙げられる(これらに限らない)。
D.製造
先に1.静電気的性質で論じた方法を用いて同定した、または新たに設計したものからアミノ酸配列モチーフを選定した後、固体相合成およびF-moc化学、または異形発現を伴う遺伝子クローニングおよび転換など、当該技術で公知の方法を用いて、設計ポリペプチドを合成する。設計ポリペプチドは、ペプチド合成会社、例えば、SynPep Corp.(カリフォルニア州ダブリン)で合成され、研究機関では、ペプチド合成器を用いて製造、または組み換え法で製造することができる。
ある実施の形態において、設計ポリペプチドは、直列型に結合した個々のアミノ酸配列モチーフから成るものである。ELBL用のポリペプチドを設計する場合、同じモチーフを繰り返しても、あるいは異なるモチーフを結合しても良い。更に、前述のように機能性領域を加えても良い。ポリペプチドに望む性質に応じて、グリシン以外の他のアミノ酸を用いて配列モチーフを繋いでも、20種の標準アミノ酸以外のアミノ酸をモチーフ自体の中に加えても良い。他の性質も同様に、当該技術で公知の方法を用いて、設計の要望に応じて指定できる。例えば、プロリンは、ターンフォーメーション(turn formation)のため、グリシンは鎖の可撓性のため、ヒスチジンは中性pH付近でpHに鋭敏な荷電性とするために加えられる。“疎水性”アミノ酸も加えることができる。疎水性残基の添加は組織化挙動に影響し、球状タンパク質の疎水性安定化に似た方法で層の安定性に寄与する。
製造したポリペプチドは、少なくとも15アミノ酸長さであることが望ましいが、より望ましくは、製造ポリペプチドは少なくとも32アミノ酸長さである。その理由は、短いポリマーでは、分子当たりのエントロピー損失が熱力学的に非常に不利で、ポリペプチドが単位長さ当たり1の電荷を持っていても、反対極性に荷電された表面への吸着が阻害されるためである。長い高分子電解質は短いものより良く吸着する。これを図12に示す。長さ依存性試験に用いたペプチドの平均分子量は、1,500〜3,000ドルトン(ポリ−L−グルタマート、“小”)、3,800ドルトン(ポリ−L−リシン、“小”)、17,000ドルトン(ポリ−L−グルタマート、“中”)、48,100ドルトン(ポリ−L−リシン、“中”)、50,300ドルトン(ポリ−L−グルタマート、“大”)、および222,400ドルトン(ポリ−L−リシン、“大”)であった。図12に示されたデータは、ELBLがペプチドの長さに依存することを明らかに示している。スルフヒドリル基は、ポリペプチド間のジスルフィド架橋の形成に使用できるため、Cysを加えると、比較的小さなペプチドのELBLでの使用が可能となる。
E.実験
(実施例1)
<ヒト血液タンパク質配列に基づくポリペプチドの設計と、ポリペプチドフィルムの製造におけるその使用>
この作業のため、先の1.静電気的性質に記載の方法を用いてアミノ酸配列を選択して、ヒト血液タンパク質の一次構造中に配列モチーフを同定した。補体C3(gi|68766)はアニオン配列モチーフ源であり、ラクトトランスフェリン(gi|4505043)はカチオン配列モチーフ源であった。先に論じたように、ポリペプチドを含むデバイス(例えば、人工赤血球など)を導入する患者の免疫反応を最小とするために、血液タンパク質配列を用いた。原則として、この取り組み方法は、ヒトに限らず、免疫系を持つ全ての生物に適用可能である。ポリペプチドは、SynPep Corp.(カリフォルニア州ダブリン)で合成した。ポリペプチド配列は以下のとおりであった。
Tyr Glu Glu Asp Glu Cys Gln Asp Gly Glu Glu Asp Glu Cys
Gln Asp Gly Glu Glu Asp Glu Cys Gln Asp Gly Glu Glu Asp
Glu Cys Gln Asp (配列番号2)

Tyr Arg Arg Arg Arg Ser Val Gln Gly Arg Arg Arg Arg Ser
Val Gln Gly Arg Arg Arg Arg Ser Val Gln Gly Arg Arg Arg
Arg Ser Val Gln (配列番号1)

Tyr Glu Glu Asp Glu Cys Gln Asp Gly Glu Glu Asp Glu Cys
Gln Asp Gly Glu Glu Asp Glu Cys Gln Asp Gly Glu Glu Asp
Glu Cys Gln Asp Gly Glu Glu Asp Glu Cys Gln Asp Gly Glu
Glu Asp Glu Cys Gln Asp (配列番号4)

Tyr Arg Arg Arg Arg Ser Val Gln Gly Arg Arg Arg Arg Ser
Val Gln Gly Arg Arg Arg Arg Ser Val Gln Gly Arg Arg Arg
Arg Ser Val Gln Gly Arg Arg Arg Arg Ser Val Gln Gly Arg
Arg Arg Arg Ser Val Gln (配列番号3)
アミノ酸残基は、先に示した3文字コードで表記される。7残基モチーフ毎に1個のグリシンを導入して二次構造の生成を抑えた。グリシンは、二面角の組み合わせにおいて最も多様性に富み(その内容を全て本件に引用して援用する、Ramachandran, G.N. and Saisekharan, V. (1968), Adv. Protain Chemistry, 23:283 を見よ)、低いらせん傾向(0.677)と低いシート傾向(0.766)とを持つため、この目的のために用いた。あるいは、算出した構造傾向に基づいて、モチーフ間のグリシンをプロリンに代えても良い。更に280nmにおけるUV吸収で濃度を求めるため、各ペプチドのN末端に1個のチロシンを加えた。
ポリペプチドをそれぞれ、SN(short negative)1(配列番号2)、SP2(short positive)(配列番号1)、LN(long negative)3(配列番号4)、およびLP(long positive)4(配列番号3)と名づけた。これらの配列は、ポリリシン(ポリカチオンとして当該技術で一般に用いられる)およびポリグルタマート(ポリアニオンとして当該技術で一般に用いられる)とは全く異なっている。ポリリシンおよびポリグルタマートは、市販品として安価に入手できるが、極端でないpH条件下では高いα−らせん傾向を持ち、決定的なことに免疫反応性である。中性pHにおける、設計ペプチド上の算出された単位長さ当たりの電荷は、SPおよびLPについては0.5静電単位、SNおよびLNについては0.6静電単位である。正に荷電したペプチドは、バリンと、アルギニンの長い炭化水素側鎖があるため、負に荷電したものより幾分疎水性である。(先に述べたように、ポリペプチド層間の疎水性相互作用は、ある程度フィルムを安定化させることができる。)この長さは、ELBLに適するには、ポリイオンは20個より多い荷電基(即ち、アスパラギン酸およびグルタミン酸;リシン、アルギニン、およびヒスチジン)を持たなければならないことを示している、公表済みの研究(いずれもその内容を全て本件に引用して援用する、Kabanov, V. and Zezin, A. (1984) Pure Appl. Chem. 56:343、および Kabanov, V. (1994) Polym. Sci. 36:143 を見よ)と矛盾しない。
a.実験的証明
i.材料
銀蒸気で被覆したQCM電極(USI−システム、日本国)は、それぞれの側の表面積0.16±0.01cm、共鳴振動数9MHz(AT−カット(cut))、および長期安定性±2Hzを持つものであった。ポリペプチドの分子量はエレクトロスプレー質量分析法で求めた。ペプチドの純度は70%より高かった。ポリペプチドの緩衝液は、10mMリン酸ナトリウムまたは10mM Tris−HCl、1mM DTT、0.1mMアジ化ナトリウム、pH7.4であった。ポリペプチド以外の全ての化学薬品は、シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)(米国)より購入した。
ii.手法
実験は、一方を負に、もう一方を正に荷電した設計ポリペプチドの対を用いて行った。先に示したSP2、SN1、LP4、およびLN3の少なくとも5つの二分子層から成る多層型フィルムを、標準的なELBL法を用いてQCM共振器上に堆積させた(ひとつの二分子層は、1層のポリカチオンと1層のポリアニオンとから成る)。層の吸着に用いたポリペプチドの濃度は2mg/mLであった。ポリイオン層の厚さは、高分子電解質の濃度にあまり依存しないことが知られており(その内容を全て本件に引用して援用する、Lvov, Y. and Decher, G. (1994) Crystallog. Rep. 39:628 を見よ)、0.1〜5mg/mLの濃度範囲において、二分子層の厚さはPSS/PAHの濃度とはほぼ独立していた。比べてみると、ポリペプチド薄膜は、高分子量のPSS/PAHを用いて製造したものより明らかに薄かった(質量は、公知のSauerbrey方程式を用いてΔfデータより算出した)(Lvov, Y. and Decher, G. (1994) Crystallog. Rep. 39:628 を見よ)。これは、タンパク質に関する分野で通常行われているように、堆積された質量に基づいてフィルムの厚さを計算した結果である。図3(c)に示す設計ポリペプチド組織化物について算出した厚さは、フィルムの製造に用いたペプチドの端から端までの長さより大きい。ジスルフィド結合の生成を抑えるため、DTTを1mM加えた。吸着時間は20分間であった。
次の吸着サイクルとの間に、共振器を純水中で1分間濯ぎ(弱く吸着した物質の約10〜15%が除かれると考えられる)、N気流中で乾燥した。次に、堆積したペプチドの質量を、QCMにより間接的に測定した。質量測定値は、乾燥しても少量の水を含み、またK、Na、およびClなどの質量の小さいイオンを含んでいる。隣接するペプチドの層が部分的に浸透し合うことも可能である(Decher, G. (1997) Science 227:1232; Schmitt et al. (1993) Macromolecules 26:7058; および Korneev et al. (1995) Physica B 214:954 を見よ)。これは、ジスルフィド“ロッキング”の有効性に重要と考えられる。
iii.結果
ポリペプチドを吸着させて、QCM共振器を濯ぎおよび乾燥した後、共振器の共鳴振動数を測定した。これにより、吸着による振動数のシフトと、吸着した質量の変化の算出が可能となる。振動数の減少は、吸着質量の増加を示している。この結果を図3(a)および図3(b)に示す。図3(a)は、異なる緩衝液(10mMリン酸ナトリウム、pH7.4、1mM DTT、および10mM Tris−HCl、pH7.4、1mM DTT)中での、LP4およびLN3に関する吸着データの比較を示している。これらのデータから、吸着は、用いた緩衝液固有の性質よりも、ペプチドの性質に依存することが明らかである。図3(b)は、10mMリン酸ナトリウム、pH7.4、および1mM DTT中での、SP2、SN1、LP4、およびLN3の異なる組み合わせ(即ち、SP2/SN1、SP2/LN3、LP4/SN1、およびLP4/LN3)について、吸着層に対する共振器振動数を示している(実線は実験データの点を単に繋いだだけである)。これらの組み合わせのそれぞれは、ELBLで必要とされるように、1個の負に荷電したポリペプチドと1個の正に荷電したポリペプチドとを含んでいる。図3(c)は、SN1およびLP4について、10mM Tris−HCl、pH7.4、および1mM DTT中での、層の数に対する算出された吸着質量のグラフを示している(Sauerbrey方程式を用いて、実験データから算出)。総吸着質量(約5μg)は、1nmolのペプチドにほぼ相当する。この計算に用いた方程式は、Δm=−0.87×10−9Δf、式中、mは質量(g)、fは振動数(Hz)である(いずれもその内容を全て本件に引用して援用する、Lvov, Y., Ariga, K., Ichinose, I., and Kunitake, T. (1995) J. Am. Chem. Soc. 117:6117 および Sauerbrey, G. (1959) Z. Physik 155:206 を見よ)。薄膜の厚さ(d)は、d=−0.016Δfと推定され、式中、dはnmである(その内容を全て本件に引用して援用する、Yuri Lvov, “Electrostatic Layer-by-Layer Assembly of Proteins and Polyions” in Protein Architecture: Interfacial Molecular Assembly and Immobilization Biotechnology, (Y. Lvov & H. Moehwald eds., 2000) (New York: Dekker, 2000) pp. 125-167 を見よ)。図3(c)中の実線は、実験データの点と直線的に合致する。データの直線性は、吸着の際の正確で規則的な組織化と、各吸着層中のポリペプチドの密度がほぼ均一であることの適当な指標である。吸着が起きると、−610±60Hz(カチオン)または−380±40Hz(アニオン)の振動数シフトを伴う。堆積ポリペプチド質量の直線的な増加は、組織化処理の早い時期からの吸着工程の繰り返し性と、多層製造法の全体的な成功を示している。
iv.結論
上記の結果は、pH7.4において単位長さ当たり1個の電荷を持つ可撓性のホモポリマーであるPSSとPAHとは質的に著しく異なっているにも拘わらず、本発明の方法を用いて設計したポリペプチドはELBLに適していることを示している。ポリ−L−リシンおよびポリ−L−グルタミン酸上の単位長さ当たりの電荷は、PSSおよびPAHと同じく、pH7.4において1である。しかし、これらのポリペプチドはいずれも、様々な条件下でα−らせん構造を形成する著しい傾向を持つため、薄膜構造体全体の制御が望まれる多層組織化にはあまり好ましくない。しかし、本発明の単分散ポリペプチドは、その材料の構造がまさにELBLでの使用に向いていることが実施者には分かるであろう。更に、通常の商業的に生産されているポリ−L−リシンおよびポリ−L−グルタミン酸は多分散性で、ポリ−L−リシン、ポリ−L−グルタミン酸、PSS、およびPAHは、ヒトに免疫反応を引き起こす(即ち、免疫原性である)。
実験で証明されたように、設計ポリペプチドは反対極性に荷電された表面に容易に吸着されるため、“前駆物質(precursor)”層を用いる必要がない。当該技術で知られるように、吸着性の悪い物質の吸着を高めるため、基材に“前駆物質”層を塗布する。前駆物質として通常用いられるポリマー類は免疫原性であり、あるいは、設計ポリペプチドよりもポリマー構造体または薄膜構造体の正確な制御に劣るため、前駆物質層がないほうがポリイオンフィルムの生体適合性は向上する。
設計ポリペプチドの多層はヒト血液のpH(7.4)で安定であった。つまり、この多層は広汎な生物学的用途に有用と考えられる。それぞれの電荷が残基当たり1未満である設計ポリペプチドの吸着は、2mg/mLおよび低イオン強度において、本質的に10分以内に完了した。これは、これらのポリペプチドを用いて、素早く比較的簡単に多層型フィルムを製造できることを意味している。各層を堆積した後のN(気体)を用いたペプチドフィルムの乾燥は、組織化物を損なうことはなかった。乾燥は、正確なQCM振動数の測定値を得るために行ったのであって、組織化に必要なわけではない。
フィルム組織化実験は血液よりも低いイオン強度で行ったが、この方法はより高いイオン強度でも質的に同じ結果を与える。主な違いは、吸着層当たりに堆積されるペプチドの量であって、イオン強度が高いと堆積されるペプチドの量が多くなる。これを図7のグラフに示す。これは堆積される材料の量をイオン強度の関数として示しており、使用されたペプチドは、ポリ−L−グルタミン酸とポリ−L−リシンであった。QCM共鳴振動数を吸着層に対してプロットした。ポリ−L−グルタマートの平均分子量は84,600ドルトン、ポリリシンは84,000ドルトンであった。組織化に用いたペプチド濃度は2mg/mLであった。このデータは、塩濃度(溶液のイオン強度)が薄膜の組織化に影響することを示している。一般に、層当たりに堆積される材料の量は、0〜100mM NaClの範囲ではイオン強度と共に増大する。設計ポリペプチドを用いたELBLの最も重要な特性として、単位長さ当たりの実効電荷が比較的高くイオン強度の低い条件下では、緩衝液の選択に依存しないことが明らかであろう。ヒト血液のイオン強度においては、質的に同じ結果が期待される。このように、緩衝液の選択は基本的にその目標とする環境中での多層の安定性を変えることはない。しかし、たとえ緩衝液の選択が多層の安定性に影響するとしても、カプセルを安定化させる設計の特徴として“ロッキング”メカニズムが利用できよう。
pH7.4において、正に荷電したポリペプチドの堆積が負に荷電したものより明らかに多いのは、正に荷電したポリペプチド上の単位長さ当たりの電荷の方が高いためと考えられる。それぞれの層に堆積される材料は、下に引かれた層の表面電荷の中和に必要な量にほぼ相当する。更に疎水性相互作用も、この吸着挙動の特徴を説明する助けとなろう。
タンパク質およびその他のポリマーの通常の薄膜の厚さの算出方法は、短いポリペプチドに関しては実効性がないと考えられる(計算された厚さは60〜90nmであるが、10個のポリペプチドの合計長さは約120nm)。これは恐らく、比較的短いポリペプチドの吸着表面上での充填密度が高いためであろう。この結果はまた、フィルムの厚さがイオン強度と共に変化するという発見とも矛盾せず、ポリマーの構造的性質に変化が生じ、またイオンによる電荷の遮蔽が吸着ペプチド間の層内電荷斥力を減少させるためと考えられる。ここで論じている設計ポリペプチド薄膜の厚さは20〜50nmと推定される。
設計および製造サイクルの多くの面は自動化できると考えられる。例えば、コンピュータアルゴリズムを用いて、予想したペプチドの性質と、観測された物理的性質、例えば、溶液中の構造、吸着挙動、および極端なpHでのフィルムの安定性などとを比較することで、ELBL用ペプチドの一次構造を最適化できるであろう。更に、様々な工程の詳細が十分に決定されれば、ポリペプチドフィルムの組織化作業を機械化することができる。
(実施例2)
<システインを含む新たに設計したポリペプチドに関わる実験>
a.ポリペプチド
使用したポリペプチドは以下のとおりである。
Tyr Lys Cys Lys Gly Lys Val Lys Val Lys Cys Lys Gly Lys
Val Lys Val Lys Cys Lys Gly Lys Val Lys Val Lys Cys Lys
Gly Lys Val Lys (配列番号5)

Tyr Glu Cys Glu Gly Glu Val Glu Val Glu Cys Glu Gly Glu
Val Glu Val Glu Cys Glu Gly Glu Val Glu Val Glu Cys Glu
Gly Glu Val Glu (配列番号6)
本件に記載の実験で使用した他のポリペプチドとは異なり、これら2つはヒトゲノム情報を用いて設計したものではない。これらは、ジスルフィド結合の生成がポリペプチドフィルムの安定化に果たす役割を評価することのみを目的として設計したものである。
b.手法
実験は全て周囲温度で行った。
QCMを用いた全ての組織化実験は、酸化される試料を、窒素ガスの代わりに空気を用いて乾燥する以外、同じ条件下で行った。組織化条件は、10mM Tris−HCl、10mM DTT、pH7.4であった。ペプチドの公称濃度は2mg/mLであった。生成した層の数は14であった。
酸化用試料のためのジスルフィドロッキング条件は、10mM Tris−HCl、1%DMSO、空気飽和水、pH7.5であった。“ロッキング”工程の時間は6時間であった。還元用試料のための条件は、10mM Tris−HCl、1mM DTT、窒素飽和水、pH7.5であった。この工程の時間は6時間であった。
QCMを用いた全ての分解実験は、酸化用試料を、窒素の代わりに空気を用いて乾燥する以外、同じ条件下で行った。分解条件は、10mM KCl、pH2.0であった。試料は、乾燥前に脱イオン水で30秒間濯いだ。
3つの異なる種類の実験を行った。(1)還元−無処理:組織化後すぐに分解を行った。(2)還元−6時間、上記の還元用試料に同じ。(3)酸化−6時間、上記の酸化用試料に同じ。
c.結果
結果を図10に示す。最初の2つの実験(いずれも還元)では堆積した材料の全て(100%)が50分以内に分解した。これに対し、酸化試験では、ペプチドフィルムを被覆したQCM共振器をpH2で5時間、十分に培養した後も、相当量の材料が残っていた。酸性pHでのポリペプチドフィルムの安定性は組織化の状態で求めた。このように、フィルムまたはカプセルの安定性は、ポリペプチドをELBL用の高分子電解質として使うことで可能となる設計の特徴である。
d.結論
設計ポリペプチドの反対極性に荷電した層を共に保持する上で、静電気力は重要な役割を果たしている。酸性pHでは、ひとつのペプチド上の実効電荷は中和され、静電斥力のためポリペプチドフィルムは分解する。還元状態はジスルフィド結合の形成を妨げる。このため、このような条件下では、層の間の静電引力が層を安定化させる唯一の結合力である。これに対し、酸化状態ではジスルフィド結合が生成される。酸性pHでは、ジスルフィド結合がフィルムの分解を抑える。この結果は、酸性pHにおける層の安定性が、層内および/または層間ジスルフィド結合(即ち、同じ層中の分子の間、隣接する層中の分子の間、またはその両方)の生成に直接影響されることを示している。これは、図10に示す結果で説明される。ジスルフィドロッキングにより、比較的低いイオン強度での静電斥力にも関わらず、酸性pHでフィルムの30%より多くが安定に残っていた。より多くのシステイン残基を含むペプチドは、ジスルフィドロッキング効率が更に向上すると予想される。更に、ペプチド組織化条件の調整も、所望の物理的性質と、更に化学的および生物学的性質を持つフィルムを作る上で重要な態様であろう。
(実施例3)
<システインを含む設計ポリペプチドに関する実験>
a.材料
本実験の必須要素は、石英結晶ミクロバランス装置、銀被覆共振器(共鳴振動数9MHz)、負に荷電した48残基ペプチド(LN3)(配列番号4)、および、正に荷電した48残基ペプチド(SP5、以下の配列を持つ)であった。
Tyr Lys Gly Lys Lys Ser Cys His Gly Lys Gly Lys Lys Ser Cys
His Gly Lys Gly Lys Lys Ser Cys His Gly Lys Gly Lys Lys Ser
Cys His (配列番号7)
先の実施例1で論じた他の設計ペプチドと同様に、ヒト血液タンパク質、ラクトトランスフェリン(gi|4505043)のアミノ酸配列を分析するため、先の1.静電気的性質に記述の方法を用いてSP5を設計した。ELBL緩衝液は10mM Tris、pH7.4、10mM NaCl、および1mM DTTであった。分解緩衝液は、10mM KCl、pH2であった。SP5およびLN3について、各ペプチド4mgを上記の緩衝液2mLに加え、それぞれの溶液のpHを7.4に調整して2mLのペプチド溶液を調製した。ペプチド濃度は2mg/mLであった。
b.QCM共振器上のポリペプチド層の組織化を測定するための手順
還元方法は次のとおりであった。(1)ペプチドを吸着させる前に共振器の振動数を測定および記録した。(2)共振器をSP5ペプチド溶液に20分間浸した。(3)共振器をSP5濯ぎ溶液に30秒間浸した。(4)共振器を濯ぎ液から引き上げ、窒素ガスを用いて乾燥した。(5)共振器のQCM共鳴振動数を記録した。(6)共振器をLN3ペプチド溶液に20分間浸した。(7)共振器をLN3濯ぎ液に30秒間浸した。(8)共振器を濯ぎ液から引き上げ、窒素ガスを用いて乾燥した。(9)共振器のQCM共鳴振動数を記録した。(10)共振器上に16層が吸着するまで工程2〜9を繰り返した。
酸化方法は、共振器を、それぞれの測定の前に、SP5緩衝液またはLN3緩衝液の代わりに脱イオン水で濯ぎ、窒素の代わりに空気で乾燥する以外は還元方法と同じであった。
c.ロッキング方法
還元方法は次のとおりであった。共振器を、1mM DTTを含む水溶液中に6時間置いた。DTT(還元剤)はジスルフィド結合の生成を妨げた。
酸化方法は次のとおりであった。共振器を、1%のDMSOを含む空気飽和水中に6時間置いた。DMSO(酸化剤)はジスルフィド結合の生成を促進した。
d.共振器の分解
i.溶液
還元条件は次のとおりであった。10mM KCl、1mM DTT、pH2。
酸化条件は次のとおりであった。10mM KCl、20%DMSO、pH2。
ii.分解方法
還元方法は以下のとおりであった。(1)共振器の初期共鳴振動数をQCMで測定し、記録した。(2)共振器を還元分解液に5分間浸した。(3)共振器を還元緩衝液中で30秒間濯いだ。(4)共振器をNガスで乾燥した。(5)共振器の共鳴振動数をQCMで測定し、記録した。(6)5、10、15、20、30、60、および90分の読み取り時間について、工程2〜5を繰り返した。
酸化方法は、共振器の濯ぎを、還元緩衝液の代わりに空気飽和脱イオン水で行う以外は、還元方法と同じであった。
e.結果
図8は、SP5およびLN3の薄膜構造化の間に堆積される質量がほぼ直線的に増加することを示している。2つの共振器は、構造化条件が異なっていても、構造化工程の間の堆積量は殆ど同じであることを示している。
図9は、フィルムの分解の間に残留する材料の割合を示している。酸化状態に置かれた層は、酸性pHにおいて、最も少ない材料の損失を示し、ほぼ90〜95%の質量を保持していた。これに対し、還元状態に置かれた層は、酸性pHに曝露された最初の5分間に殆ど全てのフィルム材料を失った。
f.結論
この結果は、酸性のpHにおいて、ジスルフィド結合は層の劣化を防ぎ、層を互いにしっかりと保持していることを示している。酸性pHでの層の安定性は、層内および/または層間ジスルフィド結合の生成に直接的に影響される。ジスルフィド結合の生成は、システイン残基の濃度と互いの近さに依存する。このためポリペプチドの単位鎖長さ当たりの濃度の上昇は、ジスルフィド結合の生成と薄膜安定性に直接影響する。フィルム構造化に用いる緩衝液のイオン強度の増加は、吸着サイクル当たりの材料堆積量と各層の厚さを増すことで、フィルム中のシステインの濃度に影響する。ひとつの層中のシステインアミノ酸の数が増えると、このように生成されるジスルフィド結合の数が増え、酸化するとフィルムの安定性が増す。
本発明の他の実施の形態も可能であり、本発明の意図および範囲から外れることなく変形を行っても良い。ゆえに、上記の詳細な記述は本発明を制限しようとするものではない。むしろ本発明の範囲は、添付の請求項により定義される。
一般的なELBL法の略線図である。 本発明の方法を用いて、ヒトアミノ酸配列情報中に同定したアミノ酸配列モチーフの累積二次構造傾向を、10個のランダムなアミノ酸配列の構造傾向の分布と比較したグラフである。 (a)本発明に従って設計したアミノ酸配列の組み合わせについて、石英結晶ミクロバランス法(quartz crystal microbalance technique:QCM)で測定した吸着データを示すグラフである。(b)本発明に従って設計したアミノ酸配列の異なる組み合わせについて、QCMで測定した吸着データの比較を示すグラフである。(c)本発明に従って設計および製造したアミノ酸配列について、層の数に対する吸着量(ng)を示すグラフである。 (a)本発明のシステインロッキング(locking)法による、層内ジスルフィド結合を示す図である。(b)本発明のシステインロッキング法による、層間ジスルフィド結合を示す図である。(c)本発明の方法に従って設計したポリペプチドから製造したマイクロカプセル中での、ジスルフィド結合の酸化と還元を示す図である。 ELBLに適した静電気的性質を持つアミノ酸配列モチーフを、存在するアミノ酸配列情報中に同定するために用いる、本発明の選択方法の略図である。 利用可能なヒトアミノ酸配列データ中に同定した、非冗長(non-redundant)配列モチーフの数を示すグラフである。 イオン強度の関数として、水性媒体からのポリ−L−グルタマートおよびポリ−L−リシンのELBL吸着を示すグラフである。 ジスルフィド結合の生成効果の確認実験における、本発明の方法に従って設計したポリペプチドの吸着を示すグラフである。 図8を参照として論じたものと同じ、酸性pHでの薄膜の分解の間に残留する材料の割合を示すグラフである。 新たに設計したシステイン含有ポリペプチドを含む実験の酸性pH分解工程の間に失われる材料の割合を示すグラフである。 ポリ−L−グルタマートおよびポリ−L−リシンの組織化挙動がpHによってどのように変わるかを示す、フィルム組織化におけるペプチドの溶液構造の役割を示すグラフである。吸着層に対してQCM共鳴振動数をプロットした。ポリ−L−グルタマートの平均分子量は84,600ドルトン、ポリ−L−リシンは84,000ドルトンであった。数字はpH値を示している。E=Glu、K=Lysである。組織化に用いたペプチドの濃度は2mg/mLであった。 ポリ−L−グルタマートおよびポリ−L−リシンの溶液構造がpHによってどのように変わるかを示す、フィルム組織化におけるペプチドの溶液構造の役割を示すグラフである。平均モル残基楕円率(mean molar residue ellipticity)をpHの関数としてプロットした。ペプチドの濃度は0.05mg/mLであった。 長さの異なる高分子電解質の吸着データを示すグラフである。長い高分子電解質は短いものより良く吸着することを示している。

Claims (65)

  1. 静電積層自己組織化(electrostatic layer-by-layer self assembly)に用いるための、所定の長さと特定極性の実効電荷とを持つ、所望の数のアミノ酸配列モチーフを、アミノ酸配列情報中に同定および記録する方法であって、
    前記方法は、
    a.特定の生物からペプチドまたはタンパク質に関するアミノ酸配列を入手する工程と、
    b.前記アミノ酸配列中にスターター(starter)アミノ酸の位置を定める工程と、
    c.前記スターターアミノ酸とそれに続くn個のアミノ酸とを検査して、前記特定極性と反対の極性を持つ荷電アミノ酸の数を決定する工程と、
    d.前記特定極性と反対の極性を持つ前記荷電アミノ酸の数が1以上ならば、工程gから方法を続ける工程と、
    e.前記スターターアミノ酸とそれに続くn個のアミノ酸とを検査して、前記特定極性を持つ荷電アミノ酸の数を決定する工程と、
    f.前記特定極性を持つ荷電アミノ酸の数がx以上ならば、前記スターターアミノ酸とそれに続くn個のアミノ酸とを含むアミノ酸配列モチーフを記録する工程と、
    g.前記アミノ酸配列中にもう一つのスターターアミノ酸の位置を定める工程と、
    h.所望の数のアミノ酸配列モチーフが同定されるまで、または、前記アミノ酸配列中の全てのアミノ酸が工程cの前記スターターアミノ酸として使用されるまで、工程cから始まる方法を繰り返す工程と、
    を含み、
    xはnの約半分、または約半分より大きい、
    ことを特徴とする方法。
  2. 請求項1に記載の方法であって、
    nは、3以上、11以下であることを特徴とする方法。
  3. 請求項1に記載の方法であって、
    n=8、x=5であることを特徴とする方法。
  4. 請求項1に記載の方法であって、
    n=6、x=4であることを特徴とする方法。
  5. 請求項1に記載の方法であって、
    前記記録アミノ酸配列モチーフの少なくとも1つはシステインを含むことを特徴とする方法。
  6. 静電積層自己組織化に用いるためのポリペプチドの設計法であって、
    前記方法は、
    a.所定の長さと特定極性の実効電荷とを持つ、1つ以上のアミノ酸配列モチーフを、アミノ酸配列情報中に同定および記録する工程と、
    b.複数の前記記録アミノ酸配列モチーフを結合してポリペプチドを生成する工程と、
    を含み、
    前記工程aは、
    i.特定の生物からペプチドまたはタンパク質に関するアミノ酸配列を入手する工程と、
    ii.前記アミノ酸配列中にスターターアミノ酸の位置を定める工程と、
    iii.前記スターターアミノ酸とそれに続くn個のアミノ酸とを検査して、前記特定極性と反対の極性を持つ荷電アミノ酸の数を決定する工程と、
    iv.前記特定極性と反対の極性を持つ前記荷電アミノ酸の数が1以上ならば、工程viiから方法を続ける工程と、
    v.前記スターターアミノ酸とそれに続くn個のアミノ酸とを検査して、前記特定極性を持つ荷電アミノ酸の数を決定する工程と、
    vi.前記特定極性を持つ荷電アミノ酸の数がx以上ならば、前記スターターアミノ酸とそれに続くn個のアミノ酸とを含むアミノ酸配列モチーフを記録する工程と、
    vii.前記アミノ酸配列中にもう一つのスターターアミノ酸の位置を定める工程と、
    viii.所望の数のアミノ酸配列モチーフが同定されるまで、または、前記アミノ酸配列中の全てのアミノ酸が工程iiiの前記スターターアミノ酸として使用されるまで、工程iiiから始まる方法を繰り返す工程と、
    を含み、
    xはnの約半分、または約半分より大きい、
    ことを特徴とする方法。
  7. 請求項6に記載の方法であって、
    nは、3以上、11以下であることを特徴とする方法。
  8. 請求項6に記載の方法であって、
    n=8、x=5であることを特徴とする方法。
  9. 請求項6に記載の方法であって、
    n=6、x=4であることを特徴とする方法。
  10. 請求項6に記載の方法であって、
    前記の結合した複数のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つはシステインを含むことを特徴とする方法。
  11. 請求項6に記載の方法であって、
    前記の結合した複数のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つは、7.5未満の合計α−らせん傾向(summed α-helix propensity)と、8未満の合計β−シート傾向(summed β−sheet propensity)とを持つことを特徴とする方法。
  12. 請求項6に記載の方法であって、
    前記ポリペプチド内に機能性部位を加える工程を更に含むことを特徴とする方法。
  13. 請求項6に記載の方法であって、
    前記アミノ酸配列は前記生物のプロテオームに由来することを特徴とする方法。
  14. 請求項13に記載の方法であって、
    前記アミノ酸配列は前記生物の血液タンパク質に由来することを特徴とする方法。
  15. 請求項14に記載の方法であって、
    前記生物はヒトであることを特徴とする方法。
  16. 請求項14に記載の方法であって、
    前記の結合した複数のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つは、配列番号1に記載の配列を含むことを特徴とする方法。
  17. 請求項14に記載の方法であって、
    前記の結合した複数のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つは、配列番号2に記載の配列を含むことを特徴とする方法。
  18. 請求項14に記載の方法であって、
    前記の結合した複数のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つは、配列番号3に記載の配列を含むことを特徴とする方法。
  19. 請求項14に記載の方法であって、
    前記の結合した複数のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つは、配列番号4に記載の配列を含むことを特徴とする方法。
  20. 請求項14に記載の方法であって、
    前記の結合した複数のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つは、配列番号7に記載の配列を含むことを特徴とする方法。
  21. 薄膜であって、
    前記薄膜は、ポリペプチドの複数の層を含み、
    前記のポリペプチドの層は、交互の電荷を持ち、
    前記ポリペプチドの少なくとも1つは、n個のアミノ酸を含む1つ以上のアミノ酸配列モチーフを含み、
    前記のn個のアミノ酸の少なくともx個は正に荷電し、負に荷電しているものはなく、
    あるいは、前記のn個のアミノ酸の少なくともx個は負に荷電し、正に荷電しているものはなく、
    xはnの約半分、または約半分より大きい、
    ことを特徴とする薄膜。
  22. 請求項21に記載の薄膜であって、
    前記ポリペプチドの少なくとも1つは、非天然アミノ酸を含むことを特徴とする薄膜。
  23. 請求項21に記載の薄膜であって、
    前記薄膜は少なくとも1つの抗菌性ポリペプチドを更に含むことを特徴とする薄膜。
  24. 請求項23に記載の薄膜であって、
    前記抗菌性ポリペプチドは配列番号8に記載の配列を含むことを特徴とする薄膜。
  25. 請求項21に記載の薄膜であって、
    前記ポリペプチドの少なくとも1つは、機能性部位を含むことを特徴とする薄膜。
  26. 請求項21に記載の薄膜であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは、
    a.特定の生物からペプチドまたはタンパク質に関するアミノ酸配列を入手する工程と、
    b.前記アミノ酸配列中にスターターアミノ酸の位置を定める工程と、
    c.前記スターターアミノ酸とそれに続くn−1個のアミノ酸とを検査して、前記特定極性と反対の極性を持つ荷電アミノ酸の数を決定する工程と、
    d.前記特定極性と反対の極性を持つ前記荷電アミノ酸の数が1以上ならば、工程gから方法を続ける工程と、
    e.前記スターターアミノ酸とそれに続くn−1個のアミノ酸とを検査して、前記特定極性を持つ荷電アミノ酸の数を決定する工程と、
    f.前記特定極性を持つ荷電アミノ酸の数がx以上ならば、前記スターターアミノ酸とそれに続くn−1個のアミノ酸とを含むアミノ酸配列モチーフを記録する工程と、
    g.前記アミノ酸配列中にもう一つのスターターアミノ酸の位置を定める工程と、
    h.所望の数のアミノ酸配列モチーフが同定されるまで、または、前記アミノ酸配列中の全てのアミノ酸が工程iiiの前記スターターアミノ酸として使用されるまで、工程cから始まる方法を繰り返す工程と、
    を含む方法によって同定され、
    xはnの約半分、または約半分より大きい、
    ことを特徴とする薄膜。
  27. 請求項26に記載の薄膜であって、
    nは、4以上、12以下であることを特徴とする薄膜。
  28. 請求項26に記載の薄膜であって、
    n=9、x=5であることを特徴とする薄膜。
  29. 請求項26に記載の薄膜であって、
    n=7、x=4であることを特徴とする薄膜。
  30. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフはシステインを含むことを特徴とする薄膜。
  31. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは、7.5未満の合計α−らせん傾向と、8未満の合計β−シート傾向とを持つことを特徴とする薄膜。
  32. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは、ヒト血液タンパクを含むことを特徴とする薄膜。
  33. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは、配列番号1に記載の配列を含むことを特徴とする薄膜。
  34. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは、配列番号2に記載の配列を含むことを特徴とする薄膜。
  35. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは、配列番号3に記載の配列を含むことを特徴とする薄膜。
  36. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは、配列番号4に記載の配列を含むことを特徴とする薄膜。
  37. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは、配列番号7に記載の配列を含むことを特徴とする薄膜。
  38. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記薄膜はマイクロカプセルを形成することを特徴とする薄膜。
  39. 請求項38に記載の薄膜であって、
    前記マイクロカプセルはコアを含み、
    前記コアはヘモグロビンを含む、
    ことを特徴とする薄膜。
  40. 請求項39に記載の薄膜であって、
    前記ヘモグロビンは結晶状であることを特徴とする薄膜。
  41. 請求項39に記載の薄膜であって、
    前記ヘモグロビンは液状であることを特徴とする薄膜。
  42. 請求項38に記載の薄膜であって、
    前記マイクロカプセルはコアを含み、
    前記コアは治療用薬物を含む、
    ことを特徴とする薄膜。
  43. 請求項42に記載の薄膜であって、
    前記治療用薬物は結晶状であることを特徴とする薄膜。
  44. 請求項42に記載の薄膜であって、
    前記治療用薬物は液状であることを特徴とする薄膜。
  45. 請求項26に記載の薄膜であって、
    前記薄膜は、固体基材上に形成することを特徴とする薄膜。
  46. 請求項45に記載の薄膜であって、
    前記固体基材は微小粒子であることを特徴とする薄膜。
  47. 請求項45に記載の薄膜であって、
    前記基材は医療用インプラントであることを特徴とする薄膜。
  48. 静電積層自己組織化に用いるためのポリペプチドの設計法であって、
    前記方法は、
    a.新たに複数のアミノ酸配列モチーフを設計する工程と、
    b.前記の複数の前記アミノ酸配列モチーフを結合してポリペプチドを生成する工程と、
    を含み、
    前記アミノ酸配列モチーフの少なくとも1つはn個のアミノ酸を含み、
    前記のn個のアミノ酸の少なくともx個は正に荷電し、負に荷電しているものはなく、
    あるいは、前記のn個のアミノ酸の少なくともx個は負に荷電し、正に荷電しているものはなく、
    xはnの約半分、または約半分より大きい、
    ことを特徴とするポリペプチドの設計法。
  49. 請求項48に記載の方法であって、
    nは、4以上、12以下であることを特徴とする方法。
  50. 請求項48に記載の方法であって、
    n=9、x=5であることを特徴とする方法。
  51. 請求項48に記載の方法であって、
    n=6、x=4であることを特徴とする方法。
  52. 請求項48に記載の方法であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは、7.5未満の合計α−らせん傾向と、8未満の合計β−シート傾向とを持つことを特徴とする方法。
  53. 請求項48に記載の方法であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは1つ以上の非天然アミノ酸を含むことを特徴とする方法。
  54. 請求項48に記載の方法であって、
    前記の少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフは右手型(right-handed)アミノ酸を含むことを特徴とする方法。
  55. 請求項48に記載の方法であって、
    前記の複数のアミノ酸配列モチーフに、少なくとも1つの抗菌性ペプチドを結合する工程を更に含むことを特徴とする方法。
  56. 請求項55に記載の方法であって、
    前記の少なくとも1つの抗菌性ペプチドは、配列番号8に記載の配列を含むことを特徴とする方法。
  57. 請求項48に記載の方法であって、
    生成する前記ポリペプチド内に機能性部位を加える工程を更に含むことを特徴とする方法。
  58. 多層型薄膜の機械的安定性および多孔性を制御する方法であって、
    前記方法は、多層型薄膜を製造する工程を含み、
    前記薄膜は、ポリペプチドの複数の層を含み、
    前記のポリペプチドの層は、交互の電荷を持ち、
    前記のポリペプチドの層の少なくとも1つは、1つ以上の遊離形スルフヒドリル含有アミノ酸を含む、
    ことを特徴とする方法。
  59. 請求項58に記載の方法であって、
    前記の1つ以上の遊離形スルフヒドリル含有アミノ酸はシステインであることを特徴とする方法。
  60. 請求項59に記載の方法であって、
    ポリペプチドの少なくとも一組の隣接する層はシステインを含むことを特徴とする方法。
  61. 請求項58に記載の方法であって、
    前記のポリペプチドの層の少なくとも1つは非天然アミノ酸を含むことを特徴とする方法。
  62. 請求項58に記載の方法であって、
    前記のポリペプチドの層の少なくとも1つは、抗菌性ペプチドを含むことを特徴とする方法。
  63. 請求項62に記載の方法であって、
    前記抗菌性ペプチドは、配列番号8に記載の配列を含むことを特徴とする方法。
  64. 請求項58に記載の方法であって、
    前記のポリペプチドの層の少なくとも1つは、機能性部位を含むことを特徴とする方法。
  65. 請求項58に記載の方法であって、
    前記ポリペプチドは、n個のアミノ酸を含む少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフを含み、
    前記のn個のアミノ酸の少なくともx個は正に荷電し、負に荷電しているものはなく、
    あるいは、前記のn個のアミノ酸の少なくともx個は負に荷電し、正に荷電しているものはなく、
    xはnの約半分、または約半分より大きい、
    ことを特徴とする方法。
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