JP2008512898A - 録音音響による擬似三次元音響空間生成方法及び装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】中央スピーカとパーソナルヘッドセットスピーカとを使って、各々の受聴者に対して三次元擬似音響空間を生成する。
【解決手段】ヘッドセットのスピーカは、隔離されているわけではないが、受聴者の耳に近接して設置されている。ヘッドセットスピーカは、頂点としての遠方中央スピーカと共に二等辺三角形を形成する。個人制御を伴ったこのスピーカ配置により、擬似三次元音響空間に対して音響平衡の状態を実現することができる。音響信号は映像信号と同期することができ、左右スピーカの音圧レベルを調節して、表示された映像イメージにおいて表わされた視点の変化に従って音響空間内の擬似音源イメージの仮想的な移動からなる受聴者の知覚を制御することができる。
【選択図】図3A

Description

本出願は、その内容の全体が参照によってここに取り込まれる、2004年9月3日に出願された米国特許仮出願番号60/607,358の優先権を主張する。
本発明は、一般に、音響再生成システムに関し、より詳細には、三次元音響空間を生成するためのシステムに関する。
先行技術における音響再生成システムは、音響の第三の次元を仮想化するために、あるいは、マルチチャネル周辺音響形態で没入型音響フィールドを形成するために、洗練された電子技術を適用することによって、三次元的広がりのオーディオ現実感の再生成を試みるものであった。しかしながら、これは、効果が限られる上に高コストであり、そして、音響の三次元の現実感は、何が聞こえるか及び何が聞こえようとしているかについての受聴者の想像力に一部委ねられている。
5.1スピーカ設定のようなマルチスピーカ形態が、没入型の音響空間を生成するものとして良く知られている。しかしながら、多くのスピーカの使用が総合的な音響空間の「混乱」を大きくする。受聴者にとっては、スピーカの数を増加させることは、二次元的な横方向の音響フィールドセグメント数の増加に繋がる。この状況は、欠陥があり混乱したステレオ効果と低い音響透明性とを生み出す傾向がある。いくつかのシステムは、フロントチャネル信号を処理することによって音響ステージを拡大し、耳(脳)を欺いて左右のスピーカの向こうに「聞こえる」音響を作り出す。しかしながら、かかるシステムの最適な効果を経験するために、受聴者は、しばしば、その音響空間内に形成された小さなスイートスポット内の特定の座席位置に拘束されることを要求される。多数のスピーカによって生成される音響パノラマ(soundscape)を聴くためのスイートスポットから移動すると、仮想的な周辺効果は崩壊してしまう。このことは、受聴者が単に自身の頭部を回転させただけでも発生しうる。また、異なる周波数が異なる方向から来るようにみえる欠陥イメージも存在する。
いくつかの音響再生成システムは、バイノーラル音響(binaural sound)を録音及び再生する。バイノーラル録音は、特別なマイクロフォン配置を使用するオーディオ録音方法である。バイノーラル録音は、人間の頭部を複製した人工的又は「擬似」頭部と、その人工的な頭部内の耳道又はその近くに取り付けられた小さな全方向性のマイクロフォンコンデンサとを用いて実施される。一方で、典型的な複数のステレオ録音が、複数の拡声器配置のためにミキシングされ、自然なクロスフィード又は頭部及び耳の音響的形状は要因として考慮されない。
人々は音を三次元的に知覚するが、音の位置は、同じ音源からの音波が左右の耳に到達したとき互いにどのように異なるかに依存する。頭部関連伝達関数(HRTF)は、フィールドにおける受聴者の存在(presence)によって、自由フィールドからの到来音波がどのように修正されるかを記述するもので、受聴者の耳介、頭部及び胴体からの音の散乱を含む。HRTFは、音源から人の鼓室の薄膜(鼓膜)へのインパルス応答のフーリエ変換である。例えば、耳の右側から到来するように思われる音響を生成するためには、右方向から到来する音響に対する人の耳のインパルス応答のHRTFを求める必要がある。HRTFは、音源から鼓室の薄膜(鼓膜)までのものであるので、周波数、方位、及び高度(音が耳まで伝達される経路)、並びに、耳介構造(音が鼓膜内において収集され、反響されるところ)の関数となる。
HRTFは、バイノーラル音響を生成するために使用される。もし、適切に測定及び実施されれば、HRTFは「仮想聴覚環境」を生成することができる。しかしながら、HRTF測定には費用がかかる。典型的な構成においては、無響室及び高品質オーディオ装置が必要である。無響室は、測定反応の初期の反射及び反響の影響を最小にするために使用される。しかしながら、最も注意深く行われた測定でさえ、しばしば「混雑円錐(cone of confusion)」効果及び「頭部内(inside the head)」効果と呼ばれるものによる悪影響を受ける。そして、HRTFは、人によって大きく変動する可能性がある。大衆市場では、汎用HRTFの使用が試みられてきたが、個別化されたHRTFと同じようには作動しない。
深みのない音響フィールドによるこれらの欠点を克服するために設計されたマルチチャネル周辺音響、仮想化、バイノーラル等の現行の形態には問題が多い。実験によれば、事前に録音されたオリジナルの音波状態に近付ける三次元音響空間を再伝搬するために、録音及び再ミキシングについての電子オーディオ、デジタル処理、現行技術の能力と多機能性とに依存することなしに、この問題を解決する独自の手法が必要であるということが示されている。既存の電子再生システム上で再生されたときに、マルチチャネルレコーディングの三次元性を擬似的に形成する再形成によって上記欠陥を改善可能な方法が必要とされている。
本発明は、既存の電子再生システム上で再生されたとき、音楽、テレビ番組、ホーム及び公共シアター、電子ゲーム、コンピュータ等の録音されたマルチチャネル音響から擬似三次元音響空間を生成する方法に関する。また同様に、本発明はまた、ライブパフォーマンス音響ステージへの存在についての受聴者の知覚を変える方法も包含する。
本発明は、電子処理で周辺音響を仮想化するために三次元音響空間及び技術をシミュレートするマルチスピーカを使用することで没入型周辺音響効果を生成する現在の一般的形態と比べ、独自の手法を用いて、録音された音響空間の第三の次元を形成する。現行の形態は、擬似音響イメージを伴った、信頼のおける三次元音響空間を作り出す効果を減少させるという固有の問題を有している。本発明は、現在可能な程度よりも更に正確で明らかな音響空間を、安定した擬似音響イメージと共に生成することができる。
本発明の好適な実施形態における、このスピーカ構成と音圧レベル(SPL)制御手段とは、スピーカ間の継ぎ目、変動、振動数、及び音色変動を除去することによってより安定した一様な音響空間を生成し、頭部関連伝達関数(HRTF)及びスイートスポット感度に関連する問題を除去及び軽減し、擬似三次元音響空間を生成するために必要なスピーカの数を最小化することによってその適切な場所の複雑性を取り除き、受聴者グループの各々の受聴者に対して音圧レベル(SPL)調節を他の受聴者のものを邪魔することなく独立させるのに必要な手段を提供し、各々の受聴者の音響空間を個別化することによって聴衆に利用可能なスイートスポットの数を増加させ、ライブパフォーマンスステージへの存在についての受聴者の知覚を変えるために必要な手段を提供し、そして、録音音響の再ミキシング中に音響イメージとその音響効果とが三次元的に移動される形態を提供する。
また、本発明の好適な実施形態は、各々の受聴者に独立した「手動による」機会を与えて個人的調節を行い、個別化された音響空間を生成できるようにすることによって、音響効果の受聴者の好みに関する「万人に適合させる1つの型」という一般的な概念を取り除き、電子娯楽劇場を音響面で更に「ユーザフレンドリー」体験のものにする。
本発明の一実施形態においては、各々の受聴者は個人的な調節を行って、受聴者に聞こえる総合的な音響効果を損なう個人的なヒアリング不具合を調節することができ、SPL制御手段の使用によって、知覚的に移動して聴衆としての位置を変えることのできる能力をライブパフォーマンスの受聴者に提供する。
本発明は、(a)多数のスピーカを用いて同様の音響コンテンツをもつ2つの音源を形成し、これら2つの音源が受聴者に対して縦方向に整列する状態にし、(b)前記2つの音源のうちの一つを受聴者に近接して配置し、他方の音源をこの受聴者から離れた位置に位置決めし、(c)受聴者にSPL制御手段を提供し、受聴者が音源に対するSPL調節を行うことを可能にし、それによって、2つの音源の間にz-軸を形成して擬似三次元x-y-z軸音響空間を生成することによって、録音された音響が既存の電子生成システム上で再生されたときに、擬似三次元音響空間とその音響イメージと音響効果とを、録音された音響によって生成する方法を含む。
また、本発明の一実施形態に基づく方法は、擬似形成における録音された音響イメージを使用することを含み、これらは、録音される以前の実三次元音響空間に存在していたかのように形成された擬似音響空間内で、停止又は移動させることができ、ここでは、録音された擬似音響イメージは、スピーカのSPLを変化させることによって、そのように形成された擬似音響空間内の何れの地点へも移動することができ、これによって、優先順位のハース原則と受聴者の位置に関するスピーカの適切な幾何学的な配置とに従って、音響イメージを移動させることができる。
本発明の一実施の形態による方法においては、2つの音源を形成するスピーカは、その3つの頂点の各々に少なくとも1つのスピーカを伴う形態で、二等辺三角形状レイアウトで配列される。三角形の基底に配置された2つのスピーカは、受聴者に近接して位置させられ、第3のスピーカは三角形の遠い方の頂点に位置させられる。三角形の基底にある2つのスピーカは、正面横方向の左から右にわたる音響フィールドにおける擬似音響イメージを、これらスピーカの間に形成するよう位置させられる。三角形の基底にある2つのスピーカと、三角形の離れた頂点にあるスピーカとは、2つの分離した音源間の縦方向の前後音響空間において擬似音響イメージを形成する。各々のスピーカは、増幅器に接続されるSPL制御手段に有線又は無線手段によって接続され、受聴者がスピーカに対して個別に或は同時にSPL調節を行えるようにして、スピーカ間のSPL平衡状態を確立する。したがって、2つの音響フィールドは、一般には、互いにほぼ垂直方向に整列するように形成される。
本発明の一実施形態による方法においては、(a)1つの耳にスピーカが1つずつ、受聴者の耳に近接するように配置された2つのスピーカから成る近接音源を、各々の受聴者に提供し、(b)少なくとも1つのスピーカである第2の音源を、受聴者のグループから縦方向に離れた二等辺三角形の頂点上に位置するように設けて、共用音源として全ての受聴者によって共有されるようにし、(c)各々の受聴者に、近接スピーカの2つのスピーカの各々を同時にSPL調節することができる独立したSPL制御手段を提供して、遠方音源の最適にプリセットされたSPLに等しくし、近接音源と遠方音源との間の個別化されたSPL平衡の状態を確立し、それによって音響空間のz-軸に沿った縦方向のy-z音響フィールドを形成することによって、擬似三次元音響空間が、録音された同じ音響を聴いている他の受聴者とは無関係に、各々の受聴者に対して二等辺三角形の形状で個別化される。
本発明の一実施形態による方法においては、受聴者の耳に近接した1対のスピーカは、ヘッドバンド又は同様の手段とともにヘッドホンデバイスの形態で定位置に保持され、それぞれの耳から等しく離れて配置された1対のスピーカを有し、耳とスピーカとの間には空隙を与え、そして、適切な距離及び角度で耳道への各々の入り口で、スピーカ又はイヤホンタイプのスピーカからの音波をある角度で又は直接に各耳道に回折させるために、各々のスピーカには彼らの各耳の耳介に対して等しい角度を持たせ、耳道を塞がないようにし、あるいは外部のハウジング上に目打ちを伴ったヘッドフォンを使用して、そのような部屋の周囲の反響と遠方音源からの直接音響とが耳道に自由に入ることができるようにし、SPL制御手段の補助によって左右ステレオ均衡が確立されたときに2つのスピーカ間に擬似音響イメージを形成し、そして、それによって、前面x-y軸フィールドにおいて擬似音響イメージを形成する。音源に近接した2つのスピーカのSPLは、別のSPL制御手段と同時に増減することができ、2つの音源間のSPL平衡状態を確立するために、遠方音源の最適なプリセットSPLと等しくすることができ、それによって、音響空間のz-軸に沿った完全な縦方向y-z軸音響フィールドを形成する。そのように形成された縦方向のy-z音響フィールドは、この縦方向のy-z軸音響フィールドにおける音響イメージが音響空間のz-軸に沿った部分に存在する場合を除いて、x-y軸横方向音響フィールドと同一の音響イメージを包含する。このSPL制御手段の補助によって、受聴者は、遠方音源に対する受聴者の位置に関する2つの音源間のSPL平衡状態を確立することができ、このポイントでは、横方向のx-y軸音響フィールドが縦方向のy-z軸音響フィールドと融合し、それによって、擬似的性質のx-y-z三次元音響空間を生成する。
本発明の一実施形態による方法においては、各々の受聴者は、独立したSPL制御手段によって、(a)近接した音源の左又は右の何れのSPLをも増加又は減少させることができ、それによって、正面x-y軸音響フィールドとその音響イメージとを、優先順位の法則に従って以前の位置の左又は右へ変化させることができ、(b)別々のSPL制御手段により、近接した1対のスピーカ音源のSPLを同時に増加又は減少させて、優先順位の法則に従って、z-軸に沿って、正面x-y軸音響フィールドとその音響イメージとを受聴者に向かうか或は受聴者から遠ざかる縦方向に移動することができ、かつ、(c)かかる二重のSPL制御手段によって、音響フィールドの幾何学的なx-z座標のポイントを、横方向、縦方向、対角方向、或は、環状に移動させることができ、それによって、優先順位の原則に従って音響イメージを音響空間内の何れのポイントへも移動させることができる。
本発明の一実施形態による方法においては、音響空間内で音響イメージを移動させる処理は、各々の受聴者の要求に合致させるために手動で設定する必要があるような、近接音源を構成する1対のスピーカ間の左右ステレオバランスを調節する場合を除き、初期録音ステージの間、又は、事後の再ミキシング処理の間連続的に、各々のスピーカのそれぞれの音響トラックのSPL変動を記録媒体にエンコードすることによって、上述したような手動に替わり、デジタル電子処理方法を用いて、非常に迅速に及び効率的に成し遂げられる。デジタル電子処理はオーディオ信号をエンコードして、(a)近接音源を構成する1対のスピーカにおける左右スピーカの何れかのSPLを非手動式に増加又は減少させて、それによって、優先順位の原則に従って幾何学的なx-y音響フィールドを以前の位置の左右に移動させることができ、(b)近接音源の両方のスピーカの振幅を同時に増加又は減少させて、それによって、優先順位の原則に従って近接音源と遠方音源との間に形成されたz-軸に沿って受聴者に対して縦方向に向かうか或は遠ざかる音響イメージの幾何学的なx-z軸座標ポイントを移動させることができ、かつ(c)それとともに、x-軸及びz-軸の座標ポイントは、電子的にプログラムされた手段で迅速にプロットされて、三次元音響空間内において音響イメージを横方向、縦方向、或は、環状に移動させることができる。この音響空間内の音響イメージの移動は、2地点間で非常に効果的及び迅速に移動させることができ、デジタル電子処理を用いてズーミング(zooming)又はジッピング(zipping)音波効果を迅速に生成することができる。
このように生成されたズーミング音波効果は、遠くから近くへ、或は、近くから遠くへのズーミング映像シーンに組み込まれて同期し、かかるオーディオ/ビデオ状況を表わす視覚的なシナリオに大きな現実感を与える。さらに、このように生成されたジッピング音波効果は、例えば、弾丸、ミサイル等の高速音波効果が音響空間内の2地点間でのジッピング音波効果を要求するような移動を表わす映像シーンに組み込まれて同期し、かかる音波効果がシナリオにとって不可欠な部分であるようなシーンに大きな現実感を与える。
電子的にプログラムされた手段を用いると、映像シーンの通常より大きい音響を遠方音源によって生成すると同時に、受聴者の耳に近接した2つのスピーカによって、受聴者の耳への直接的なささやきの穏やかな会話と少量の可聴音とを生成することができる。さらに、電子的にプログラムされた手段を用いると、周辺環境の音響が遠方音源で通常の聴力レベルに維持されている状態で、受聴者の耳に近接した2つのスピーカが、受聴者に不快感又は不安感をもたらすような、大きな驚きと恐怖感を生じさせる音響を生成することができる。上述したような反対の音響効果を適用させると、映像シーンは音響的に劇的な変化を起こし、付随の映像活動に対する視聴者の反応に影響を与える。
本発明のこれら及び他の側面及び利点は、本発明の実施形態を例として示す添付図面に関連する以下の一層詳細な説明から明らかになるであろう。
音響空間は、全ての自然界の三次元空間と同様に、幅、高さ、及び、深さの次元から構成され、一般的には、x軸(幅)成分、y軸(高さ)成分、z軸(深さ)成分といった幾何学的用語で表わされる。これらの次元成分については、特に、x-y軸20に沿った音響フィールドと、音響空間のy-z軸22とが、図1Aに図式的に例示されている。三次元音響空間における実験は、米国特許第6,434,250号明細書(その内容は、その全部の参照によってここに取り込まれている)に記載されているヘッドフォンを用いて実施され、深さ次元で大きな空間的音響フィールドを生成し、その能力を他の関連用途に適用している。
ここに使用されているように、三次元音響空間という用語は、幅と高さと深さとで音波的に知覚できる空間を形成する基本的なx、y、及びz軸の次元から成る空間の容量を意味する。この深さは、近接及び遠方の音源の間の距離といった物理的に測定可能な次元である。音響空間に対する音響フィールドという用語は、例えば幅及び高さといったように、x及びy軸の2つの次元のみを有する面領域である。音源という用語は、スピーカと呼ぶこともできる。音源イメージは、人又は器具などの特定の音響を生成する物体を含んでいる。スピーカは、多くの音響イメージを生成する音源である。添付の例示に関しては、視覚的明瞭のために、x-軸及びz-軸の二次元音響フィールドのみが図において例示される。
多様な構成における他のスピーカとの組み合わせにおいて、実験は、米国特許第6,434,250号明細書に記載されたヘッドフォンを用いて、多様な構成における他のスピーカとの組み合わせにおいて実施された。もし、スピーカが耳に対して平坦に置かれないようにスピーカに角度を持たせるよう変更されるならば、各々のスピーカについて左/右ステレオバランス制御を内蔵している、RADIO SHACK社のモデル33−1176といった他のヘッドフォンが使用される。加えて、SONYのDVD モデルDAV−S300又はRADIO SHACK社の統合ステレオ増幅器 モデルS−155などの周辺音響レコーダを使用してヘッドフォンの音の強さを制御することができる。本発明のこの実施形態においては、かかる既存の再生システムを使用することができ、音響効果に対する特別な信号処理は要求されない。
実験では、x-y左/右軸横方向音響フィールドと、y-z正面/背面軸縦方向音響フィールドとの両方が、録音された音響に存在することが実証されたが、しかし、音響イメージそれ自体が位置することができ又は移動することができる三次元音響空間のx、y、及び、z軸を生成するよう要求される受聴者の位置に関するSPL平衡状態を確立するために、スピーカの間でスピーカが間違って構成され、又は、それらのSPLが適切に調節できないときには、その音響効果において、聞こえてくる音響は平坦で、二次元的で、深みのないものとなる。
音響効果の振る舞いは、音響物理の法則又は原則、特に、第1ウェーブフロントの法則及び優先順位のハース原則によって支配されている。第1ウェーブフロントの法則及び優先順位のハース原則は、2つの音源からの音響が同じ強さを伴って同様の音響内容を含んでおり、かつ、2つの音源が受聴者と共に正三角形を形成するよう配置されたときには、受聴者に対する音響効果は、その受聴者の横方向の左/右軸に沿った加法定位(summing localization)の結果としての、2つの現実の音源の中間の、擬似的な性質を持ったもう一つの音源の生成であるということを推測するものである。この推測は、三次元音響空間の正面/背面のz-軸に沿って縦方向に配置された、ヘッドフォンなどの2つの音源にも適用される。
三次元音響空間のx、y、及び、z軸の生成に含まれる他の要素は、最小数のスピーカの適正な幾何学構成を含み、スピーカに対する受聴者の位置に関するスピーカ間のSPL平衡状態を確立するために適正なSPL調節を生成するSPL制御手段の使用を含む。立体の擬似三次元音響空間は、上記の推測と心理音響学とに基づいて、そこから生成される音の強さに対する適切な調節を伴ったスピーカの適正な配置によって生成される。
第1ウェーブフロントの法則及び優先順位のハース原則;適正なスピーカ配置;そして、SPL制御手段の使用;は、相互に関係している。これらの相互に関係している要素を使用して、横方向の左/右x-y軸音響フィールドと縦方向の前面/背面y-z軸音響フィールドとを作り出してx-y-z三次元音響空間を創出することができ、これらを互いに混成して、擬似音響イメージそれ自体が三次元内を浮遊し又は動き回ることができる三次元音響空間を形成することができる。専用の信号処理を使用して擬似三次元空間を生成することもできるが、それは本発明の好適な実施形態において必要ではない。
本発明の好適な実施形態は、受聴者に近接して位置させられるヘッドフォンスピーカと、受聴者から比較的遠方に位置させられる中央スピーカとを使用する。この形態は、近接音源(CP)及び遠方音源(DS)を使用するものであり、この形態は、ここでは簡略目的のために、CP/DSS形態と呼ぶこととする。
このスピーカ構成は、聴衆における各々の受聴者に対する安定した独立の三次元スイートスポットを生成する少なくとも3つのスピーカから成る音響空間の個別化されたウェッジ(wedge)を形成することによって、リスニング聴衆に利用可能なスイートスポットの数を増加させる。他のマルチスピーカ周辺音響形態は、少数のスイートスポットを伴った、1つの大きな音響空間を生成する。大規模な一般的聴衆においては、ほんの僅かの受聴者が、一般的な音響空間のこれら限られたオーディオスイートスポットからの恩恵を受けるに過ぎない。かかる形態は、本発明の個別化された音響空間を生成しない。
CP/DSS形態は、縦方向のy-z軸音響フィールド22を作り出すための2つの音源を生成する最小数のスピーカを使用して、擬似三次元音響空間を生成する。3つのスピーカ10、12、及び14が、2つの音源を形成する。2つのヘッドセットスピーカ12及び14から成る1つの音源は、受聴者に近接して位置させられる。他の音源は、受聴者から離れて位置させられた中央スピーカ10である。これは、一般的に、図1B及び2に例示されている。スピーカ10、12、及び14は、好ましくは、非バイノーラル音響信号によって駆動される。好ましくは、左右のヘッドセットスピーカ12及び14を駆動する信号は、中央スピーカ10を駆動する信号に関して遅延する。必ずというわけではないが、250Hzを下回る音響についての信号は、ヘッドセットスピーカに送信可能である。また、受聴者の聴衆に低周波音響を伝達するよう別のサブウーファーを供給して、部屋の何れの位置に配置してもよい。ヘッドセットスピーカ12及び14は、好ましくは受聴者の耳の数センチ以内もしくは更に近付けて位置させられ、同時に、中央スピーカは、好ましくは受聴者から数メートル又はそれ以上離れて位置させられる。中央スピーカ10は、全ての受聴者によって共通に共有される共用音源として用いられる。図2に例示したように、3つのスピーカ10、12、及び14は、各個別の受聴者18に専用化された二等辺形状の三角形の音響空間を形成するよう配置される。
個別のSPL制御手段16によって、各々の受聴者18は、スピーカ間のSPL平衡状態を確立して個別化された音響空間を作り出すことができる。図3A及び3Bに例示したように、SPL制御ノブ24は、受聴者に近接した2つのスピーカ間のステレオバランスを確立するために使用される。また、図3A及び3Bに例示されたSPL制御ノブ24は、聞き取り不足による受聴者の両耳間の聴力の相違を補償するよう調節するために使用することもできる。SPL制御ノブ24は、x-軸に横方向に沿った存在に関する個々の受聴者の知覚を変えるために使用することができる。ヘッド若しくはネックバンド、或はイヤー環、又は他の手段は、受聴者18による身体的な移動に関わらず受聴者18に対するスイートスポットを一定に維持する近接した位置に2つのスピーカ12及び14を保持するために使用される。図3Aに例示したように、別の中央ボックス16を各々の受聴者のために供給し、z-軸に沿った縦方向の音響フィールドについての左/右ステレオバランスと移動との両方を、ノブ24と26とをそれぞれ使用して制御することができる。図3Bに示したように、選択的に、SPL制御ノブ24は、ヘッドスピーカ12及び14の中に組み込むことができ、これによって受聴者は左右のヘッドセットスピーカ12及び14の音の強さを手動で制御及び調節することができる。
図3Aに、SPL制御手段16の一実施形態を例示する。左/右ステレオバランス制御ノブ24は、ヘッドセットスピーカ12及び14を調節するために使用される。正面/背面z-軸制御ノブ26は、スピーカ12及び14のSPLを同時に調節するために使用される。図3Bに例示された代替の実施形態においては、SPL制御ノブ24は、ヘッドセットスピーカ12及び14のSPL調節のためにヘッドセット自体に組み入れることもできる。正面/背面z-軸制御ノブ26は、スピーカ12及び14のSPLを同時に調節するために別のSPL制御ボックス上に与えることができる。
また、音響イメージは、事後録音ミキシング段階の間、三次元空間において移動させることもできる。かかる音響効果は、受聴者の手動の相互作用なしに与えられる。本発明の好適な実施形態では、頭部反応伝達関数(HRTF)、又は、クロストーク相殺を使用する必要はない。スピーカは、好ましくは、非バイノーラル音響信号によって駆動される。
CP/DSS手法によって生成された全音響空間は、バイノーラルと比較して、近接音源の近傍フィールド音響特性と、離れた音源の反響音響フィールドの音響特性とが、2つの音源間のSPL平衡状態で融合するときにバイソニック(bisonic)音響空間が生成されるという点で、バイソニック性(bisonic nature)を有するものと言うことができる。異なる属性を伴った2つの音響フィールドが結合すると、他の一般的な周辺音響又は仮想化形態には起こり得ない特有の音響品質をもたらす両方の音響特性を含む、音響空間の結合物(amalgam)を形成する。
近接音源は、1つのスピーカは左チャネルの音響を生成し、かつ、他のスピーカは右チャネルの音響を生成する、電子再生システムの1対のスピーカから構成される。両方のスピーカは受聴者の個々の両耳に近接して位置させられるが、各々の各耳は隔離されていないので外部音響は各耳の耳介上に作用しうる。図2に示したように、好ましくは、左右のヘッドセットスピーカ12及び14は、各々の各耳の耳介に対して等しい角度で定位置に保たれる。第3のスピーカは、受聴者から離れたところに位置させられて、同一の再生システムの中央チャネルの音響を生成する。
2つのヘッドセットスピーカ12及び14は、二等辺三角形の基底を形成するように配置され、併せて、第3のスピーカ10は、該二等辺三角形の頂点に位置させられる。三角形の基底上の2つのスピーカ12及び14は、ヘッドフォンのようなデバイスで受聴者の耳に近接する位置に配置され、かつ、第3のスピーカ10は、この1対の近接スピーカ12及び14から適切な距離を隔てた三角形の頂点上に位置させられている。3つのスピーカ10、12、及び14は、縦方向に受聴者と直線上にそろうように配置され、一般的な二等辺三角形を形成する。3つのスピーカ10、12、及び14は、ヘッドセットスピーカ12及び14が1つの音源として機能することで、3つの別々のスピーカではなく2つの音源として機能する。
説明されたこの構成における3つのスピーカの配置は、2音源からの同種の音響コンテンツの音響特性の2つの異なる状態を含む音響空間の創出にとって重要である。ここで、1対の近接スピーカは、近傍フィールドリスニングに関する音響明瞭性と細部とを生成し、遠方スピーカは、周囲の部屋の反響、反射、エコーの寄与とその部屋の他の音響要素とを含む遠方音源の全ての音響特性を提供し、これらの全ては、事前に録音された音響空間に存在するような、更に正確で透明性のある音響空間の生成に最も重要である。
5つ又はそれより多いスピーカの通常の周辺音響形態、及び、従来の2スピーカ正三角形ステレオセットアップ(ここでは、受聴者だけが三角形の頂点に位置し、オーディオスイートスポットは受聴者から離れたところに定められる。)とは対照的に、図2に例示した本発明の好適な実施形態は、各々の受聴者に対して少なくとも3つのスピーカを用いる。図2に示したように、3つのスピーカは、スピーカがその3つの頂点の各々に位置することで、二等辺形状三角形レイアウトに構成されている。2つのスピーカ12及び14を伴った三角形の基底は受聴者に近接して位置させられ、第3のスピーカ10は更に離れた頂点に位置しており、従来の2スピーカ等辺ステレオ三角形の反転となっている。
スピーカの配置を反転し、トライアングルに第3のスピーカを追加することの理由は、深さ次元の基本的なz-軸を作り出すための、CP/DSS形態の能力への手段となるからである。受聴者の耳に近接して位置させられている三角形の基底の2つのスピーカと、その頂点に位置させられて縦方向に受聴者と直線上にある第3のスピーカとを伴って、このスピーカ構成は、2つの音源を提供しており、その間には、加法定位が作り出されて、遠方音源への受聴者の位置に関するこれらの間のSPL平衡状態の確立によって、z-軸に沿った縦方向の音響フィールドを形成する。この2つの音源間のSPL平衡状態の欠如により、これらは独立した音響フィールドとして個別に維持される。これらが互いに融合しない限り、深さ次元に対するz-軸は全音響空間には存在しない。
正三角形ステレオ形態の2つのスピーカ間のような第1ウェーブフロントの法則及び優先順位効果に従って加法定位の横方向のポイントを生成するという同じ原則に基づいて、加法定位の縦方向の正面/背面ポイントは、SPL制御手段の補助によって近接及び遠方音源の間で作り出すことができ、これらの間で必要なSPL平衡状態を確立することができる。
3つのスピーカの配置を反転し、遠方の音源に対してただ一つのスピーカを用いることの他の重要な理由は、スピーカ間のクロストークジレンマを取り除き、HRTFと既存の2つのステレオ構成で普及しているスイートスポット感度とに関連する問題を取り除くためである。3つのスピーカのうちの2つを受聴者の耳に近接して設置し、これらをヘッド又はネックバンドあるいは他の適当な手段によって固定することによって、これらの間に形成されたx-軸に沿った横方向の加法定位のポイントは、受聴者の偶発的な身体的移動に関わらず一定に保たれ、音響物理の法則及び原則による望ましくない音響効果を最小化し、この構成にある程度の機動性を与える。適切なヘッドセットスピーカの構成例は、米国特許第6,434,250号明細書に記載されている。
第3のスピーカを設け、その存在を二等辺三角形の離れた頂点に適合させる理由は、次の3つである。第1に、中央チャネルの音響信号を再生成させ、更に、主要な音響活動を生じる遠方音源として機能させ、かつ、近接音源で一斉に動作させて三次元音響空間のz-軸を作り出すことである。他のスピーカは特別な効果を生成するよう用いられるにも関わらず複数のスピーカではなく1つのスピーカのみを遠方音響として使用する第2の理由は、スピーカ間のクロストーク混乱及びスキップ効果と同様に、スイートスポット感度の突発的変動を除去するためであり、音響空間の品質及び完全性を害する可能性のあるマルチスピーカ周辺音響形態に共通するものである。第3の理由は、実行ステージとして機能させ、特定位置での主要な音響活動を固定し、併せて、全ての受聴者によって共有される共用音源として作用させるためである。
CP/DSS形態は、信頼性のある擬似音響空間を作り出すのに使用される好適なスピーカ数に関して、マルチスピーカ周辺音響形態のものと正反対の性質を有する。マルチスピーカ形態は、5(例えば、5.1形態)、6、7、そして10(ことによると、10.2形態の10スピーカより多い場合さえある)から用いられるスピーカの数を最大化する。5つのスピーカを有する5.1音響システム構成は、受聴者が位置していない限定されたオーディオスイートスポットを形成する。対照的に、CP/DSS形態は、スピーカ数を3つに最小化する。これは、音響物理の適切な法則及び原則の理由により、そして、この形態に対する機能的な理由において、理にかなった数である。没入型音響空間の形成におけるような多くのスピーカを使用は、受聴者に、不十分で混乱を招くステレオ効果と低い音響透明性とを生成する傾向のある状況におけるスピーカ数と同じくらい多くの2次元横方向の音響フィールドセグメントを課すことになるので、その全体の音響空間の「混乱」を増大する。耳(脳)の能力は、多くの形態のうちのどの2つの音響フィールドが最適なステレオ効果を形成するかを決定するために混乱を受け、受聴者はどの2つのスピーカを聞いているのか、或は、聞くべきなのかについて疑念を抱くこととなる。受聴者は、自身の想像を補おうとするが、第3の次元が本当に存在するのかどうか疑問に感じる。CP/DSS形態は、受聴者に想像を作り上げることを要求せず、適切に配置されて音波の透明性を伴って安定性のある明瞭なスイートスポットを作り出すたった3つのスピーカの使用と共にただ2つの音源を用いることによって、この「混乱」を取り除く。CP/DSS形態では、擬似形成ではあるが音響空間の第3の次元が存在する。CP/DSS形態は、マルチスピーカ形態では生成不可能な、基本的なz-軸音響フィールドを生成することができる。
擬似三次元音響空間を生成するためのこのCP/DSS形態の能力は、他のマルチスピーカシステムと比較すると、その概念は、音響物理の教義、つまり、第1ウェーブフロントの法則及び優先順位の原則に主として基づいている。実験は、本発明の概念を学習するために実施され、スピーカが、受聴者と縦方向及び横方向に整列された2つの音源を供給すべきことが示され;最小数の3つのスピーカは一般的な三角形の構成に配置されて近接及び遠方音源を生成し;そして、各々の受聴者はSPL制御手段を提供し、3つのスピーカ間の独立したSPL調節を可能とし、各々の受聴者に対する個別の三次元音響空間を生成する。これにより、受聴者は、適切なSPL制御手段の補助によって横方向のx-y軸音響フィールドと縦方向のy-z軸音響フィールドとの両方を生成し、共に融合することができる。ヘッドフォン及びSPL制御手段は、個別の音響空間を作り出し、個人の好み及び必要性に対する音響効果をカスタマイズするために、各々の受聴者にとって有益である。各々の受聴者は、音響ステージに対する存在の知覚の個々の選択を変更することができるよう、SPL制御手段の使用が与えられる。
本発明の好適な実施形態においては、最小数のスピーカが用いられて、2つの別々の音源が生成され、1つは受聴者に近接し、他の音源は受聴者から遠く離れるよう配置される。これらの要求に合致するよう実施された実験に基づく、最も適切で効果的な手法は、3つの頂点の各々に1つのスピーカが設置された、一般的な二等辺形状三角形レイアウトに最小数の3つのスピーカを配置することである。この三角形の基底の2つのスピーカは同時に作動して1つの音源として機能し、かつ、第3のスピーカは三角形の頂点に位置させられて第2の音源として作用する。三角形の基底の2つのスピーカは、受聴者の耳に近接して位置させられ、第3のスピーカは、三角形の更に離れた頂点上に位置させられるという効用により、受聴者と縦方向に一直線上にそろえられる。全ての周辺音響形態において実施されるように、この第3のスピーカは共用音源として全ての受聴者によって共有される。
本発明のCP/DSS形態の好適な実施形態は、左/右ステレオバランスを設定して2つのヘッドスピーカの間に横方向の擬似音響イメージを形成するために、受聴者のグループにおける各々の受聴者に対して、受聴者の耳に近接した2つのスピーカについての独立したSPL調節を行うためのSPL制御手段を提供することである。両方のスピーカのSPLを同時に調節してSPLが最適化レベルで好適にプリセットされた遠方の第3のスピーカのものを伴ったSPL平衡状態を確立するために、受聴者に別々のSPL制御手段が提供される。SPL平衡状態が3つのスピーカ間で確立されたとき、個別化された二等辺形状三角形音響空間は、各々の受聴者に対して形成される。
本発明の好適な実施形態においては、横方向のx-y軸及び縦方向のy-z軸音響フィールドの両方が形成され、これらは、それぞれの擬似音響イメージを含み、両方の音響フィールドを三次元音響空間の個別化されたx-y-z軸の中に融合することを含む。このCP/DSS形態を伴った実験は、横方向のx-y,左/右,軸音響フィールドと、縦方向の正面-背面y-z軸音響フィールドとの両方は、レコーディングの全体の音響フィールドに存在し、適切に再伝搬して元の事前録音状態の場合のように信頼性のある三次元音響空間を生成するということを示した。現在の周辺音響と他の形態には、このような能力はない。この形態は、適当に間隔を空けられ、縦方向に受聴者と直線上に配列される同種の音響コンテンツを伴った2つの独立した音源と個別に割り当てられたSPL制御手段の使用とによって、上記問題を解決するものである。
上述したように、2つの基本的な音源を生成するためのこの形態の解決法は、二等辺形状三角形レイアウトに3つのスピーカを配置することであり、ここでは、三角形の基底の2つのスピーカは1つの音源として機能し、第3のスピーカはその離れた頂点に配置されて第2の音源として作動する。このスピーカの二等辺三角形レイアウトの重要性は、受聴者の耳に近接する三角形の基底に2つのスピーカを配置し、第3のスピーカをそこから更に離れた頂点に配置することによって、受聴者及び近接したスピーカをこの頂点上のスピーカと縦方向の直線上に自動的にそろえ、そうして適当な距離をもって隔離された2つの個別化された音源を形成することにある。
隔離された2つの音源とこれらの間のSPL平衡の欠如とによって、これらの間には、音波が十分に存在しているにも関わらず、擬似イメージが存在しない空っぽの空間(vacant space)が存在する。この理由は、同種の音響コンテンツを伴った2つの音源の音響と特有の部屋の寄与とがSPL平衡ポイントで合致したとき擬似イメージが生成されるからであり、そこでは、加法定位の現象が発生し、この形態においては、もし現行が遅延手段又は他の適当な方法で修正され得るとしてそれらの間に位相時間差がないならば、遠方の音源に対する受聴者の位置と各々の音源の音響レベルとに依存する。このことは、受聴者が、優先順位の原則に従って、近接音源の音響又は遠方音源の音響の何れかを、2つの音響のうちの何れが大きいかに依存して聞くことになるということを意味する。
しかしながら、もし、両方の音源のSPLが、遠方の音源に対する受聴者の位置に関連して等しくなるように与えられたならば、SPL平衡の状態は、第1ウェーブフロントの法則及び優先順位効果に従って作り出され、このポイントでは、近接音源と遠方音源との間のz-軸に沿った縦方向の音響フィールドにおいて擬似音響イメージが形成される。z-軸に沿った2つの音源の間の縦方向の音響フィールドにおける擬似イメージの創出は、2つの音源がx-軸ではなくz-軸に沿って直線上にそろえられたために擬似イメージが縦方向の音響フィールドにおいて形成された場合を除いた二等辺三角形ステレオ構成と同様に、正面横方向に位置させられた2つの音源の間の擬似イメージ生成の原則に一致する。3つのスピーカのこの形態のCP/DSS配列とSPL制御手段の使用とによって、横方向のx-y軸音響フィールド及び縦方向のy-z軸音響フィールドの両方を形成するための基本原理は明確に示された。
このCP/DSS形態の特徴の1つは、同じ録音音響を聞いている受聴者グループにおける各々の受聴者に対して個別化された三次元リスニング音響空間を生成するために、ヘッドフォン又はイヤーフォン或は同種の形態のリスニングデバイスを使用することである。図4Aに、受聴者の聴衆18に対する本発明の好適な実施形態を図式的に示す。各々の受聴者は、ヘッドセットスピーカ12及び14からなる個人用セットと、各々の個別化されたヘッドセットスピーカ12及び14の組に対するSPL制御のための個別化されたSPL制御手段とを有する。本発明のこの好適な実施形態は、更に、テレビジョン30或は他の映像ディスプレイに接続されたDVDプレーヤといった、オーディオ/ビデオ再生機28を含む。また、低周波音響を再生するためのサブウーファー32も与えられる。サブウーファースピーカの位置決めは重要ではなく、部屋の何れにも配置することができる。先にも述べたように、全ての受聴者に共有される共用音源であるところの遠方の音源と組み合わせてヘッドフォンを使用することで、個別化された音響空間は、図2及び4Bに図式的に例示するように、二等辺三角形状の音響空間の狭いウェッジ(wedge)を形成する受聴者の耳に近接する音源と遠方音源との2つのスピーカによって形成された空間内に固定される。全てのリスニング聴衆の個別化された音響空間の総数は、マルチスピーカ周辺形態の場合のような全ての受聴者が共有する1つの音響空間全体ではなく、図4Bに例示したようなヘッドフォンを伴った受聴者の数と同数の音響空間ウェッジから構成される。
リスニング音響空間の個別化されたウェッジを形成するために、各々の受聴者18は、音響SPL制御手段16を使用して左/右ステレオバランスを確立し、近接した2つのスピーカ間の横方向の音響フィールドにおいて擬似イメージを形成し、両方の近接スピーカのSPLを同時に増加又は減少させ、遠方音源のプリセット音響レベルに等しくし、これらの間にSPL平衡状態を作り出し、このポイントに個別化された擬似三次元音響空間を形成する。
本発明の好適な実施形態は、映像イメージを表示する映像信号を受信するための映像信号デコーダを更に含む。音響信号は、映像信号と同期するので、左右スピーカの音圧レベルは、表示された映像イメージが受聴者の視野から見てズームインしたときは増大する。この映像信号及び音響信号はまた、表示された映像イメージが受聴者の視点からズームアウト又は離れたときには左右スピーカの音圧レベルが減少するよう同期することもできる。中央スピーカに関連する左右スピーカの音圧レベルは、自動的に調節されて表示された映像イメージに表わされた視点の変化に従って擬似三次元音響空間を実現する。
ヘッドフォンの使用
耳に対して平坦に押し付けられないでカプセル化された、少なくとも2つのスピーカを伴ったヘッドフォン又は同種のリスニングデバイスは、CP/DSS形態の有効性の点で重要である。二等辺三角形を形成するよう適切な位置に配列された3つのスピーカを用いて、要求された擬似音響イメージの創出は、米国特許第6,434,250号明細書に記載されているような角度をもったスピーカを伴ったヘッドフォンセット(その内容は、その全部の参照によってここに組み込まれる。)の使用によって、あるいは、外部音源からの音響の自由な侵入を許容して耳道に入る前に耳の耳介上に作用する何れかの形式のヘッドフォンによって、好適に成し遂げられる。かかるヘッドセットスピーカユニットは、耳を包み込むことなしに、覆い隠すことなしに、受聴者の耳の耳介に隣接して設置される。これらの様式のヘッドフォンによって外耳が各々の音源と部屋の環境要素とからの音響周波数の変調に影響されることとなり、耳道に入る前の元の状態への再構成を促進する。スピーカは、耳道に対して如何なる角度で方向付けることもでき(頭部の後ろからでさえも)、頭部の中央におけるイメージを含む擬似音響イメージを作り出す。
ヘッドセットスピーカアセンブリは、既存のヘッドセットデザインにおいて一般的に見られたように、アセンブリが受聴者の耳の上に配置されたときに通常これらと共に一列になるというのではなく、耳道から間隔を置いて角度をつけて方向付けられる。このスピーカユニットは、音響波が耳道の中に回折するよう受聴者の耳道に関する最適な発生角度で設置することができる。スピーカユニットから受聴者の耳へ最適な角度でステレオ音響波を放射することにより、イメージ現実を高めることができる。受聴者の耳に関するスピーカユニットの角度を増減させることによって、ステレオ音響の水平空間次元は、狭くなったり広くなったりする。また、スピーカアセンブリと受聴者の耳との間に十分な距離を取ることによって、音響及びイメージの精度を高めることもできる。
耳とスピーカとの間の空隙、或は、耳の耳介上へ作用する外部音響の自由入射の何れかの形状は、この形態の重要な必要条件である。なぜなら、この空間では、ヘッドフォンに関する近くのフィールドリスニングの音響明瞭度、及び、反響する音響フィールドの音響要素と同様の遠方のスピーカからの拡散した直接音響が再構成されて、耳道に入ってくる前に総合的な再形成音響を形成するからである。
図5に、ヘッドバンド部36を有し、受聴者の頭部上に一般的に適合するようスライド調節可能なヘッドセット34を示す。ヘッドバンド部36は、各々の側の耳介と頭部との間で受聴者の頭部上の耳に適合するよう設計された1対の一般的な前方及び後方アーム38に接続されている。ヘッドセットスピーカユニット12及び14は、受聴者の耳の平面(この平面は、受聴者の頭部を対象的に半分に二等分する仮想的な垂直平面と平行である)に関して角度θでヘッドセットの前方アームに取り付けられている。ヘッドセットスピーカユニット12及び14が位置ずれしないよう保持するために、スライド可能な摩擦ホルダーといった保持要素を使用することができる。
この形態に対するヘッドフォンの使用は、遠方スピーカに関連してこの使用が基本的なスピーカ構成を与えて各々の受聴者に対する個別化された音響空間を形成するという点で、マルチスピーカ周辺音響レイアウトの形態からの進展である。個別化された音響空間を形成するためにヘッドセットスピーカを使用する能力は、図4Bに図式的に例示したように、同一の録音音響を聞く聴衆に利用可能なスイートスポット数の多くが折り重なることによって増大する。ヘッドフォンの使用はまた、SPL制御手段の補助によって、受聴者が、もし修正されなければ受聴者の望む音響効果を損なう欠陥が聞こえるのを補償するために何れかのスピーカに対して矯正的な調節を行うことができる、という点で有利である。
受聴者の頭部に対して位置固定されていることによって、そして、SPL制御手段の補助によって、このヘッドフォンは、身体的な動きに関わらず、受聴者の耳に近接した2つのスピーカ間の擬似イメージを一定に保持することにおける重要な役割を果たし、それゆえ、スイートスポット感度の問題を軽減する。この能力は、受聴者に対し、正三角形ステレオ配置よりも身体的移動についての更に大きな自由度を与え、同時に、他のマルチスピーカ形態では不可能な場所における擬似イメージを、なお維持する。擬似イメージが消滅するという望ましくない状況は、2-スピーカ正三角形ステレオレイアウトの原則に基づいた、いくつかの離れた定位置音源のうちの2つの間にその擬似イメージを生成するマルチスピーカ周辺音響形態に共通である。定位置の遠方スピーカのみの形態は、繊細な(sensitive)スイートスポットであり、それゆえ、全てのリスニング聴衆に利用可能なスイートスポットの数が制限され、そのスイートスポット領域から外れたところに位置する者には不公平となる。
CP/DSS形態とは対照的に、定位置遠方スピーカのみの形態は、リスニング聴衆の各位置における各々の受聴者を調節する多数のスイートスポットを生成するための十分な数の定常スピーカが存在しないので、スイートスポットが繊細(sensitive)である。その上、各々の受聴者にとっては、多くのスピーカ間において適切な音響レベル調節を行って定位置遠方スピーカのみの周辺音響形態で個別化された音響空間を生成することは不可能である。これに対して、CP/DSS形態は、必要な2つの近接スピーカと第3のスピーカと共用音源とを聴衆における各々の受聴者に与えて個別化されたスイートスポットを生成し、独立したSPL制御手段の使用によって近接及び遠方の音源間の基本的なSPL平行状態を作り出す。
耳に対してスピーカを一定不変の距離及び角度で保持可能にすることによって、ヘッドフォンの使用は、第1ウェーブフロントの法則及び優先順位効果の遵守を保証し、聴衆の各々の位置における各々の受聴者に対する左右チャネル間のステレオ効果のバランスを一定に維持する。これは、マルチスピーカ周辺音響形態においては不可能であり、つまり、聴衆の各メンバーは意図された同一の音響効果を意図されたようには聞けないということを意味する。
これまでの説明から分かるように、ヘッドフォンの使用、又はヒヤリング装置と同様の様式は、CP/DSSの概念の有効性に対して重要な要素となる。
この形態に対してヘッドフォンを使用することの概念はまた、z-軸音響フィールドが本質的に存在するライブパフォーマンスに対してさえ、有利に適用することができる。録音音響再生システムの場合のように優先順位の法則及び原則を適用することによって、そして、受聴者のヘッドフォンにオンステージ音響活動を無線又は有線手段によって音響を直接伝達する電気的伝送デバイスの追加によって、受聴者は、先に述べたようなSPL制御手段の補助による優先順位の原則を適用することにより、聴衆におけるライブステージ又は位置の存在についての受聴者自身の感覚を変えることができる。
CP/DSS形態におけるヘッドフォンの適用はまた、他の録音状況下では認識することのできない、近傍フィールドの明瞭度及び詳細についての音のニュアンスを与えることよって、録音の間又は録音再ミキシング段階の間のレコーディング工学にも有益である。さらに、CP/DSS形態の原理の利用は、他の録音方法で可能であったよりも、更なる細部と三次元空間精度を伴った音響効果とを録音された全体の音響空間に組み込むことの大きな可能性をレコーディング技術者に対して与える。
三次元音響空間を生成するために使用されることに加えて、ヘッドフォンは、受聴者の耳への近接に依存する近傍フィールド明瞭度と音響詳細とを生成する。これは、静かで密接な対話とより聞きとりにくい音響とを、聴衆における各々の受聴者に対して生成及び指向して、かかる映画シーンの出演者と視聴者との間の1対1の関係をもたらすのにも有益である。
かかる静かな音響効果とは反対の、大きさ、驚き、恐れを誘発する音響は、CP/DSS形態のヘッドフォンの使用によって受聴者の耳に直接向けることもできる。両方の場合において、音響空間の他の音は、遠方音源によって通常のレベルで生成される。
両方の音響効果の様式は、適切にプログラムされた電子手段によって生成され、近接及び遠方音源の間の必要なSPL変動を生み出す。これら2つの正反対の音響効果を生成するためのCP/DSS形態の能力は、そのバイソニック性(bisonic nature)と、他の形態では不可能な音響効果を生成するヘッドフォンの利用とを示している。
実験
先に言及したように、CP/DSS形態は、主として、良く定義され、十分に理解され、避けることのできない、第1ウェーブフロントの法則及び優先順位の原則に依存している。それゆえ、実施された実験は、この形態を機能的かつ実践的にする他の必要条件に向けられたものである。
実験は、擬似三次元音響空間が適切な数のスピーカの正しい幾何学的配置に関連して音響物理の法則及び原則の正確な適用を必要とし、かつ、各々スピーカの音響レベルを操作してスピーカ間の適切な平衡を作り出すためのSPL制御手段の必要性を要求する、ということを証明している。これらの厳密な要求は、定義上は三次元音響空間ではない没入型の音響空間を生成することが目的であるマルチスピーカ周辺音響音響における比較的曖昧な要求とはかなり異なる。没入型の音響フィールドは、必須のz-軸縦方向音響フィールドを欠く横方向の二次元x-y軸音響フィールドの密集体から成り、そこにその欠陥の原因が横たわっている。
CP/DSS形態に対して実験された、多様なスピーカコンビネーション及び構成の中の1つの実験は、予期しない、しかしながら、否定し難い三次元音響効果の証拠を生み出した。
この1つの実験的なスピーカの組み合わせは、ワイヤによってラジオに接続されたラジオスピーカ及びヘッドフォンの両方の音響を同時に生成するよう変更された、ポータブルラジオテーププレーヤーステレオセットの様式における第1の音源で実施されたものである。ヘッドフォンは、SPL制御手段を与えられて2つのスピーカと別のSPL制御手段との間の左/右ステレオバランスを確立し、それらの音響レベルを同時に増加又は減少させる。この組み合わせは、どの効果が期待できるかの知識ではなく、結果として生じる音響効果が何であるかについての好奇心に基づくものであり、予期しない発見である。
受聴者の耳に近接した1つの音源の組み合わせの試験方法において、ヘッドフォン、第2の音源、ラジオは、約10フィートほどの遠い距離をおいて設置され、非常に変わった音響効果が聞き取れる。ヘッドフォンの音響レベルはラジオスピーカが一定レベルに保持されている間に変化したので、音響ステージ、ラジオに対する存在効果は、何れかの音源の優勢な音量に従って受聴者の位置に向かって前進し、或は、受聴者の位置から後退する。これは、優先順位のハース原則の作用の明らかな証拠である。この発見の顕著な事実は、両方の音源の音響レベルが平衡状態を達成するポイントでは、完全な縦方向の音響フィールドが2つの音源間のz-軸に沿って作り出され、加法定位が生じ、擬似音響イメージが形成されるということである。この加法定位は、この場合には加算がz-軸に沿って生じるという点を除いて、正三角形ステレオ配置の2つのスピーカ間で作り出されるものに類似する。z-軸に沿った縦方向の音響フィールドを生成するためのCP/DSS形態の能力は、録音された音響で信頼性のある擬似三次元音響空間の創出に対して求められている「失われた環(missing link)」である。
既に述べたように、これらの実験は、擬似三次元音響空間の生成において最も効果的な方法が、音響物理の法則及び原則の遵守に加えて、最小の3つのスピーカを配置して近接音源と遠方音源とを形成し、これらを縦方向に受聴者と直線上にそろえることであるということを示している。また、両方の音響を形成し、これらを縦方向に受聴者と直線上にそろえるための最も効果的で機能的な方法は、最小の3つのスピーカを、その3つの頂点の各々に位置させられたスピーカを受聴者に向けて、一般的な二等辺形状の三角形レイアウトに配置することであることも示している。三角形の基底にある2つのスピーカは、ヘッドフォンの場合のように、受聴者の耳に近接して位置させられ、第3のスピーカは、より遠方の頂点に設置される。三角形の基底で受聴者に取り付けたヘッドフォンと、その頂点に位置する遠方のスピーカとを持たせることによって、これら2つの音源は縦方向に受聴者と直線上にそろえられ、これによって、図2に例示したように、3つのポイントである受聴者と近接音源と遠方音源とが自動的に直線上にそろうこことなる。
実験で実施されたように、近接音源の音響と、ヘッドフォンセットと、遠方音源の音響と、その頂点にあるスピーカとは、SPL制御手段の適切な使用によりSPL平衡状態を作り出すことによって融合される。両方の音源の音響フィールドを融合することによって、近接音源の横方向のx-y音響フィールドと、縦方向のy-z音響フィールドと、x-y-z音響空間とが形成される。既に述べたように、図1Bに、x-y軸20及びy-z軸22に沿った音響フィールドの形成を図式的に例示する。
また、実験は、この3-スピーカ形態が音響空間の正面第1及び第2象限において発生する音響活動を伴って最もよく作動するということを示している。もし、背面第3及び第4象限における音響効果が必要であれば、追加のスピーカを受聴者の背後で使用することができる。確かに、特別な効果のために他のスピーカが用いられる。例えば、図6に示したような、中央スピーカ10の上に配置された追加スピーカ40は、y-軸に沿った音響イメージの高さを増加させることによって音響効果を変えるよう使用することができる。しかしながら、二等辺形状の三角形レイアウトを形成する基本の3つのスピーカは、CP/DSSスピーカレイアウトの重要な要素である。
音響イメージの動きのプロット
近接音源の2つのスピーカ間のステレオバランスは、優先順位の原則に従って、正面x-軸に沿って受聴者の左又は右に動揺させることができ、同様に、近接音源と遠方音源との間の縦方向のz-軸に沿って近づいたり遠ざかったりすることができる。この特有の及び重要な動きの組み合わせによって、録音の再ミキシング段階の間、音響フィールド及びその音響イメージを正面擬似音響空間におけるポイントからポイントへどこでも移動させることができるようになる。
再ミキシング処理においてz-軸が存在しない場合には、ミキサは音響フィールドの深さに対する参照ポイントを持たず、しばしば、三次元における音響イメージの位置の特定を誤る。この状況は、録音を二次元で聞く場合には気付かれないが、同じ録音を三次元で聞く場合には非常に認識されやすい。
擬似音響空間内で音響フィールドとその音響イメージとを移動させるためのCP/DSSバイソニック形態の能力は、図7に示したような幾何学的数学的関係において例示することができる。幾何学的座標ポイントの原理をグリッドに適用することによって、音響イメージの動きを容易にプロットすることができる。この例示では、z-軸は、x-y-z三次元音響空間のx-軸に対してプロットされている。既に述べたように、デシベル強さは1から10までの尺度で表わされ、10は最大音量の強さ又は音圧を表わしている。図7のデシベルへの参照は、ただ音圧レベルの強さを例示する目的に過ぎないものと理解されるべきである。
既に述べたように、擬似三次元音響空間を生成するためのこの形態の効果の基本原則は、主として優先順位のハースの原則に基づいている。また、この優先順位の原則は、1つのスピーカのSPLを個別に変えることによって、又は、他のスピーカとの組み合わせにおいてSPLを変えることによって、ある位置から別の位置へ、音響空間内の音響フィールドとそのイメージとを移動させるためにこの形態に対して重要である。このSPL変動は、手動で行われ、あるいは、電子的にプログラムされた手段により行われ、あるいは、録音又は再ミキシング処理中の録音媒体の音響トラックにおけるスピーカの音の強さの変化を組み込むことによって行われる。図7に、優先順位の原則に従って3つのスピーカ間の既述の関係を変化させることによって、音響空間内の音響フィールド及びそのイメージが、どのように何れかのポイントへ幾何学的に横方向、縦方向、環状、又は斜方向に移動するかを示す。
図7のグラフは、近接音源の左右スピーカのデシベルがそれぞれ1デシベルのときに、ステレオ左右バランスが確立され、スイートスポットがx-軸音響フィールドに対して形成されることを示している。また、音響フィールド及びそのイメージは、2つのスピーカのうちどちらがより大きな音の強さを有するかに依存して、以前の位置から左又は右へ音響フィールド及びそのイメージが移動することも示している。これは、優先順位効果に従うのものである。図7におけるデシベルの参照は、ただ音圧レベルの強さを例示する目的に過ぎないものと理解されるべきである。
また、この原則は、近接音源と遠方音源との間の音響空間のz-軸に縦方向に沿った、音響フィールド及びそのイメージの移動にも適用できる。この場合、遠方音源は共用音源であり、全ての受聴者に共有されており、そのSPLは全ての受聴者の便宜のために最適レベルに好適に事前調節されているので、近接音源の2つのスピーカの音の強さを同時に増加又は減少させることによって、音響フィールド及びそのイメージは、z-軸に沿って受聴者に対して近づいたり遠ざかったりして好適に移動する。z-軸音響フィールドとそのイメージと共に、x-軸音響フィールドとそのイメージの移動性を統合することによって、図7のグラフには、優先順位の原則に従って3つのスピーカのデシベル関係を変化させることにより、録音された音響イメージを擬似三次元音響空間における何れのポイントへも効果的に移動させることができることが示されている。擬似音響空間における音響イメージ移動に対するこの能力は、この近接/遠方音源、CP/DSS、バイソニック形態の独自性を説明している。
CP/DSS形態のバイソニック性は、受聴者に対し、音響効果及び明瞭性の選択を提供する。左/右ヘッドセットスピーカ12及び14と遠方の中央スピーカ10との理論的なSPL平衡ポイントは、図7の参照ポイント50によって図式的に例示されている。受聴者は、参照ポイント60によって図式的に例示された近接音響を最小化又はミュートする(つまり、遠方音源が優勢である)ことによって、遠方音源単独の反響する音響フィールドを聞くことができる。代替的に、受聴者は、優先順位の原則の適用によって、遠方音源のものを越えた近接音源10の優勢なSPLによりオーバーライド(override)することによって、近接音響フィールドを聞くことができる。これは、参照ポイント70によって図式的に例示されている。あるいは、既に述べたように、受聴者は、両方の音源のSPL平衡によって形成された音響の結合物(amalgam)を選択することができる。ここで、座標プロットにおいてx-軸及びz-軸に沿ったデシベル強さが1〜10の尺度で表わされており、10が最大音量の強さ又は音圧レベルであるところの図7におけるデシベルへの参照は、ただ音圧レベルの強さを例示する目的に過ぎないことを理解すべきである。
CP/DSSの概念を用いた実験は、電子オーディオ及びデジタル処理のそれら自体の利点を通しての能力では、求められている録音された音響からの擬似三次元音響空間を作り出すことはできないということを示している。また、この結果は、録音された音響の三次元性は、自然界の音響がそうであるように、音響物理の法則及び原則に従うものであり、それは、それらの要求を無視又は回避しようとすることが、受聴者の混合のための想像力に大きく依存する音響空間の欠陥のある見せかけの方式に終わることを意味している。これは、マルチスピーカ周辺と仮想化形態との両方に直面するジレンマである。
本発明は、受聴者の聴衆において、受聴者に、自身のリスニング音響空間を生成する能力を与えることができ、そして、音響効果をカスタマイズできることは、他の形態が提供できることを越えるものである。この形態の各々のユーザに、自分自身の個別化された擬似三次元音響空間の生成における「実践的な」関与を個別に絡ませる機会を与えることは、この近接/遠方音源、つまり、CP/DSS形態の本質的な独自の特徴である。
本発明の特定の様式が、例示され、かつ、既述されたが、本発明の開示された実施形態に対する修正は、添付の特許請求の範囲によって規定されるように、本発明の趣旨と範囲とを逸脱せずになしうるものと理解されるべきである。
幅成分(x)、高さ成分(y)、及び、深さ成分(z)を有する三次元音響空間の表現を示す図である。 本発明の実施形態に従って、中央スピーカとヘッドセットスピーカとによって生成された幅成分(x)、高さ成分(y)、及び、深さ成分(z)を有する三次元音響空間の表現を示す図である。 本発明の実施形態に従った、2つのヘッドセットと遠方の中央スピーカとの配置の概略図である。 本発明の一実施形態におけるSPL制御手段の概略図である。 本発明の他の実施形態におけるSPL制御手段の概略図である。 本発明の実施形態に従った、受聴者の聴衆に対する複数対のヘッドセットスピーカと、遠方の中央スピーカと、サブウーファースピーカとの配置の概略図である。 本発明の実施形態に従った、受聴者の聴衆に対する複数対のヘッドセットスピーカと、遠方の中央スピーカと、サブウーファースピーカとによって生成された音響空間の概略図である。 本発明の実施形態において使用されるヘッドセットスピーカの斜視図である。 本発明の実施形態に基づいて中央スピーカと第2の高架のスピーカとヘッドセットスピーカとによって生成された、幅成分(x)、高さ成分(y)、及び、深さ成分(z)を有する三次元音響空間の表現を示す図である。 本発明の実施形態に基づいて生成された音響空間においてプロットされた音響イメージの構成及び移動の幾何学的座標図である。

Claims (21)

  1. 受聴者に三次元音響空間を提供する方法であって、
    音響信号を供給し、
    前記受聴者の左耳が隔離されておらず、外部音響が前記左耳の耳介に当たることができる状態で前記受聴者の左耳に近接して位置する左スピーカを、前記音響信号によって駆動し、
    前記受聴者の右耳が隔離されておらず、外部音響が前記右耳の耳介に当たることができる状態で前記受聴者の右耳に近接して位置する右スピーカを、前記音響信号によって駆動し、
    前記受聴者から比較的離れた位置にあり、前記左スピーカと前記右スピーカとの間で二等辺三角形を形成し、前記二等辺三角形の頂点を成している中央スピーカを、前記音響信号によって駆動し、
    前記受聴者が、前記中央スピーカに対して前記左右のスピーカの音圧レベルを個別に調節できるようにして、前記中央及び左右スピーカによって生成された擬似三次元音響空間を実現し、前記左右のスピーカの音圧レベルを調節することにより、前記中央スピーカ及び前記左右スピーカによって生成された音響空間内における擬似音源イメージの仮想的な移動に対する受聴者の知覚を制御する
    ことを特徴とする方法。
  2. 請求項1に記載の方法において、前記中央スピーカは、第1の中央スピーカと、前記第1の中央スピーカよりも高い位置に配置された第2の中央スピーカとを更に含み、前記擬似三次元音響空間のy-軸に沿った音響イメージの高さを増大させることを特徴とする方法。
  3. 請求項1に記載の方法であって、
    前記音響信号に同期する映像信号を供給し、
    前記映像信号に基づいた映像イメージを表示し、
    前記中央スピーカに関する前記左右のスピーカの前記音圧レベルは自動的に調節されて前記表示された映像イメージに表わされた視点の変化に従って擬似三次元音響空間を実現する
    ことを更に含む方法。
  4. 請求項3に記載の方法において、前記左右のスピーカの音圧レベルは、前記表示された映像イメージが前記受聴者の視点に接近したとき増大することを特徴とする方法。
  5. 請求項3に記載の方法において、前記左右のスピーカの音圧レベルは、前記表示された映像イメージが前記受聴者の視点から遠ざかったとき減少することを特徴とする方法。
  6. 請求項1に記載の方法において、前記左右のスピーカの前記音圧レベルは、同時に調節されて前記中央及び左右のスピーカによって生成された三次元音響空間内で前記z-軸に沿った音源イメージの前記仮想的な移動の前記受聴者の知覚を制御することを特徴とする方法。
  7. 請求項1に記載の方法において、前記音響信号は非バイノーラル音響信号であることを特徴とする方法。
  8. 受聴者に三次元音響空間を提供する方法であって、
    映像信号と前記映像信号に同期する音響信号とを含む信号を供給し、
    前記映像信号に基づいた映像イメージを表示し、
    前記受聴者の左耳が隔離されておらず、外部音響が前記左耳の耳介に当たることができる状態で前記受聴者の左耳に近接して位置する左スピーカを、前記音響信号によって駆動し、
    前記受聴者の右耳が隔離されておらず、外部音響が前記右耳の耳介に当たることができる状態で前記受聴者の右耳に近接して位置する右スピーカを、前記音響信号によって駆動し、
    前記受聴者から比較的離れた位置にあり、前記左スピーカと前記右スピーカとの間で二等辺三角形を形成し、前記二等辺三角形の頂点を成している中央スピーカを、前記音響信号によって駆動し、
    前記中央スピーカに関する前記左右のスピーカの音圧レベルを自動的に調節して擬似三次元音響空間を実現する、
    ことからなり、前記左右のスピーカの音圧レベルは、前記中央スピーカ及び前記左右のスピーカによって生成された音響空間内における擬似音響イメージの仮想的な移動に対する前記受聴者の知覚を、前記表示された映像イメージに表わされた視点の変化に従って制御するように、調節されることを特徴とする方法。
  9. 請求項8に記載の方法において、前記左右のスピーカの音圧レベルは、前記表示された映像イメージが前記受聴者の視点に接近したとき増大することを特徴とする方法。
  10. 請求項8に記載の方法において、前記左右のスピーカの音圧レベルは、前記表示された映像イメージが前記受聴者の視点から遠ざかったとき減少することを特徴とする方法。
  11. 請求項8に記載の方法において、前記左右のスピーカの音圧レベルは、前記中央スピーカの音圧レベルに関して同時に調節され、前記中央及び左右のスピーカによって生成された前記三次元音響空間内の前記z-軸に沿った前記音響空間内で擬似音響イメージの前記仮想的な移動の前記受聴者の知覚を制御することを特徴とする方法。
  12. 請求項8に記載の方法において、前記中央スピーカは、第1の中央スピーカと、前記第1の中央スピーカよりも高い位置に配置された第2の中央スピーカとを更に含み、前記擬似三次元音響空間のy-軸に沿った音響イメージの高さを増大させることを特徴とする方法。
  13. 請求項8に記載の方法において、前記音響信号は非バイノーラル音響信号であることを特徴とする方法。
  14. 複数の受聴者に三次元音響空間を提供する装置であって、
    音響信号を、少なくとも第1の音響チャネルと第2の音響チャネルと第3の音響チャネルとに分離する音響信号デコーダと、
    前記受聴者の左耳が隔離されておらず、外部音響が前記左耳の耳介に当たることができる状態で前記受聴者の左耳に近接して位置し、前記音響信号からの前記第1の音響チャネルによって駆動されるようになった複数の左スピーカと、
    前記受聴者の右耳が隔離されておらず、外部音響が前記右耳の耳介に当たることができる状態で前記受聴者の右耳に近接して位置し、前記音響信号からの前記第2の音響チャネルによって駆動されるようになった複数の右スピーカと、
    前記受聴者から比較的離れた位置にあり、前記左スピーカと前記右スピーカとの間で二等辺三角形を形成し、前記二等辺三角形の頂点を成しており、前記音響信号からの前記第3の音響チャネルによって駆動されるようになった中央スピーカと、
    音圧レベルコントローラと、
    を備え、前記音圧レベルコントローラは、各個別の受聴者が前記中央スピーカから独立して前記受聴者の左右スピーカの音圧レベルを調節して、前記中央及び左右のスピーカによって生成された擬似三次元音響空間を実現し、前記左右スピーカの音圧レベルの調節により各々の受聴者が前記中央及び左右スピーカによって生成された音響空間内における擬似音響イメージの仮想的な移動に対する前記受聴者の知覚を制御可能とする、
    ことを特徴とする装置。
  15. 請求項14に記載の装置において、前記中央スピーカは、第1の中央スピーカと前記第1の中央スピーカより高い位置に配置された第2の中央スピーカとを更に含み、前記擬似三次元音響空間のy-軸に沿って音響イメージの高さを増大させることを特徴とする装置。
  16. 請求項14に記載の装置であって、映像イメージを表示するための映像信号を受信する映像信号デコーダを更に含み、前記音響信号は、前記表示された映像イメージが前記受聴者の視野に接近したときに前記左右のスピーカの音圧レベルが増大するよう、前記映像信号と同期することを特徴とする装置。
  17. 請求項14に記載の装置であって、映像イメージを表示するための映像信号を受信する映像信号デコーダを更に含み、前記音響信号は、前記表示された映像イメージが前記受聴者の視点から遠ざかったときに前記左右のスピーカの音圧レベルが減少するよう、前記映像信号と同期することを特徴とする装置。
  18. 請求項14に記載の装置であって、前記左スピーカ及び前記右スピーカを有するヘッドセットデバイスを更に含み、前記ヘッドセットは各々の耳の耳介に対して等しい角度となる位置に前記左スピーカと右のスピーカとを保持していることを特徴とする装置。
  19. 請求項14に記載の装置であって、前記音響信号デコーダは、頭部反応伝達関数を使用しないことを特徴とする装置。
  20. 請求項14に記載の装置であって、前記音響信号デコーダは、クロストーク相殺を使用しないことを特徴とする装置。
  21. 請求項14に記載の装置であって、前記音響信号は非バイノーラル音響信号であることを特徴等する装置。
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