JP2008306963A - 高速反応性カタラーゼの製造方法 - Google Patents

高速反応性カタラーゼの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】反応速度を向上させたカタラーゼを効率良く製造する方法の提供。
【解決手段】カタラーゼのアミノ酸配列を、1) 特定アミノ酸配列の109位及び167位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれアスパラギン酸及びメチオニンを有するように改変すること、及び/又は2) 該アミノ酸配列の149位及び180位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれロイシン及びイソロイシンを有するように改変すること、を含む、反応速度を向上させた改変カタラーゼの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、高速反応性カタラーゼの製造方法に関する。
過酸化水素は、好気性生物における酸素代謝の副産物として発生するものである。しかし過酸化水素は、細胞に対して、例えば細胞膜を構成する脂質、タンパク質、DNA等への傷害作用を始めとする強い毒性を示す。そのため、ほとんどの好気性動植物細胞は、この過酸化水素を水と酸素に分解する酵素(カタラーゼ)を持っている。
過酸化水素はまた、例えば食品や各種化合物等の脂質酸化等による変性の原因物質であり、半導体工場排水等における有毒な汚染物質でもある。このため、過酸化水素を分解するカタラーゼは、酸化防止剤や過酸化水素を含む廃液処理剤としての効果が有望視されている。牛肝臓カタラーゼやミクロコッカス(Micrococcus luteus (lysodeikticus))のカタラーゼが市販されており、様々な用途に使用されている(非特許文献1)。
近年では、高濃度の過酸化水素を含む工場排水から、過酸化水素に対して耐性を有する新種の菌株がイグジオバクテリウム・オキシドトレランス(Exiguobacterium oxidotolerans)として単離され、その細胞抽出液は他の一般的な微生物のものと比較して遥かに強いカタラーゼ活性を有することが見出されている(特許文献1、非特許文献2)。さらに、そのイグジオバクテリウム・オキシドトレランス菌株から単離されたカタラーゼ遺伝子から生産された組換えカタラーゼが、大腸菌や枯草菌のカタラーゼよりも遥かに強いカタラーゼ活性を有することも見出されている(特許文献2)。
典型的なカタラーゼ分子は、ほぼ同一の4つのサブユニットから構成される4量体構造を取る。その各サブユニットは、活性中心に、ヘムと呼ばれる鉄3価−プロトポルフィリンIX錯体(Por-FeIII)を有している。
これまでのカタラーゼの研究から、カタラーゼの反応は二段階からなることが示されている。一段目の反応では、カタラーゼが過酸化水素によって還元されて複合体Iと呼ばれる反応中間体と水分子が生成する(式1)。続いて、第2の過酸化水素分子が電子供与体として働いて複合体Iを還元し、水分子と酸素分子を同時に生成する(式2)。
カタラーゼと過酸化水素の反応はこのように式1から式2の反応を経由して完結するが、その結果全体としては、式3に示されるような反応系として表される。

酵素(Por-FeIII) + H2O2 → 複合体I(Por+・-FeIV=O) + H2O (式1)

複合体I(Por+・-FeIV=O) + H2O2 → 酵素(Por-FeIII) + H2O + O2 (式2)

2 H2O2 → 2 H2O + O2 (式3)
式1の反応の基質としては、過酸化水素以外にメチルヒドロペルオキシド、過酢酸などの有機過酸があり、一方、式2の反応の基質としては、過酸化水素以外にメタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、蟻酸等がある(非特許文献3)。
しかしながら、カタラーゼの酵素反応機構はまだ完全には解明されていない。上述した高活性のイグジオバクテリウム・オキシドトレランス由来カタラーゼは非常に有用であるが、それと同等又はそれ以上の高活性を示す別のカタラーゼを取得するには、現在でもなお、ランダム変異体から選抜するなどの非常に効率が悪く手間を要する方法が実施されている。
特開2002−253215号公報 特開2005−204559号公報 Murshudov, G.N., et al., (1992) "Three-dimensional structure of catalase from Micrococcus lysodeikticus at 1.5Å resolution." FEBS Lett., 312, p.127-131. Yumoto I. et al., (2004) "Exiguobacterium oxidotolerans sp. nov., a novel alkaliphile exhibiting high catalase activity." Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 54, p.2013-2017 Nicholls, P, and Schonbaum, G.R. (1963) "Catalases in The Enzymes"(Boyer, P.D., Larday, H., Myrback, K.) 8, pp.147-225, Academic Press Inc., New York.
本発明は、様々な高速反応性カタラーゼを製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、カタラーゼの基質導入部位においてボトルネックを形成するアミノ酸残基を特定の組み合わせのものとすることにより、直径が大きなボトルネックを有するカタラーゼを製造できること、及びそのようなカタラーゼは基質、特に分子サイズの大きな基質に対して非常に速い反応速度を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] カタラーゼのアミノ酸配列を、
1) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の109位及び167位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれアスパラギン酸及びメチオニンを有するように改変すること、及び/又は
2) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の149位及び180位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれロイシン及びイソロイシンを有するように改変すること、
を含む、反応速度を向上させた改変カタラーゼの製造方法。
より好ましい態様では、この方法は前記工程1)及び2)の両方を含む。
この方法では、カタラーゼは、単一機能カタラーゼでありうる。
またこの方法では、カタラーゼは細菌カタラーゼであってもよい。
上記のカタラーゼのアミノ酸配列の改変は、例えば、該アミノ酸配列をコードするカタラーゼ遺伝子への部位特異的変異導入により行うことができる。
[2] 下記1)及び/又は2)を特徴とする、改変カタラーゼ:
1) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の109位及び167位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれアスパラギン酸及びメチオニンを有すること、
2) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の149位及び180位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれロイシン及びイソロイシンを有すること。
この改変カタラーゼは、より好ましい態様では、前記1)及び2)の両方を特徴とする。
[3] 上記[2]の改変カタラーゼをコードする遺伝子。
[4] 上記[3]の遺伝子を含有する組換えベクター。
[5] 上記[4]の組換えベクターを含む形質転換体。この形質転換体は微生物でありうる。
本発明の方法によれば、基質(特に、分子サイズの大きな基質)に対する反応速度が顕著に向上した改変カタラーゼを、効率的に製造することができる。本発明の方法で製造された改変カタラーゼは、その基質に対して高い活性を示すことができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.改変カタラーゼ及びその製造
カタラーゼには非常に多数の種類が知られており、そのかなりの種類についてアミノ酸配列や生化学的特性が報告されてきている。それらの情報に基づき、カタラーゼは主に3つのカテゴリーに分類されている。すなわち、ヘム含有カタラーゼである単一機能カタラーゼ(monofunctional catalase)及びカタラーゼ−ペルオキシダーゼ(catalase-peroxidase)、並びにヘムを含まないマンガンカタラーゼ(nonheme catalase)である。
このうち単一機能カタラーゼに分類されるカタラーゼは、典型的なカタラーゼと呼ばれるものであり、一般的には主にカタラーゼ活性を示し、ペルオキシダーゼ活性は無いか微弱である。単一機能カタラーゼは、非常に多くの動物、植物、真菌、細菌等での生産が報告されている。単一機能カタラーゼは、さらにその保存コア領域の系統学的解析により3つのクレード(クレードI、II、III)に分類されている(Klotz, M.G. et al., (1997) Mol. Biol. Evol. 14, p.951-958;Nicholls, P. et al., (2001) Adv. Inorg. Chem. 51, p.51-106)。クレードIカタラーゼは主に植物由来のカタラーゼであるが、藻類カタラーゼや細菌カタラーゼも含まれる。クレードIIカタラーゼは主に細菌、古細菌、及び真菌に由来するカタラーゼである。クレードIIIカタラーゼは細菌、古細菌、及び真核生物に由来するカタラーゼである。クレードIIのカタラーゼは熱やタンパク質分解による変性に対して強い耐性を有する。クレードIとIIIのカタラーゼの間には顕著な機能的な差異は認められていない。
単一機能カタラーゼに属する少なくとも11種類のカタラーゼについて、結晶構造が明らかになっている。単一機能カタラーゼに属する牛肝臓由来のカタラーゼ(牛肝臓カタラーゼ)の結晶構造が最初に決定されたが、その構造はほぼ同等の4つのサブユニットからなる4量体(ホモテトラマー)であり、それぞれの単量体はその活性中心にヘム1分子を含有していることが確認されている。カタラーゼの阻害剤として知られている3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(3-AT)は、カタラーゼの反応中間体である複合体Iと共有結合し、カタラーゼ活性を阻害することが知られている。現在までに、単一機能カタラーゼがコードされている100種類以上の遺伝子がクローニングされ、それらの塩基配列が決定され報告されている。
カタラーゼは、基質との間で複合体Iと呼ばれる反応中間体を形成して反応を進める。この反応において基質は、カタラーゼの基質導入部位を通って活性部位に到達する。カタラーゼの基質導入部位は、タンパク質表面からヘム平面まで続く約25〜55Åの長さのメインチャネル(main channel)構造を有する。この基質導入部位内のヘム平面から約0〜15Å離れた位置にはボトルネック(通路が狭くなった部分)が形成され、そのボトルネックを入口として狭いチャネル(narrow channel)が活性部位まで続く。
本発明は、本発明者らによって見出された知見、すなわち、基質(特に、過酸化水素よりも分子サイズの大きな基質)に対する反応速度が顕著に向上しているイグジオバクテリウム・オキシドトレランス(Exiguobacterium oxidotolerans)T-2-2T 株のカタラーゼ(EKTAカタラーゼ)が、その各サブユニットにおいて基質導入部位内で直径の拡張されたボトルネックを有すること;さらに、その拡張されたボトルネックが、109位に位置するアスパラギン酸と167位に位置するメチオニンとの組み合わせ、及び149位に位置するロイシンと180位に位置するイソロイシンとの組み合わせによって形成されること(ここで、各アミノ酸残基の番号は配列番号1で示されるEKTAカタラーゼのアミノ酸配列の1番目のアミノ酸(メチオニン)を1位として数える);そしてそのボトルネックを形成するアミノ酸残基の組み合わせによってボトルネックが拡張された結果として基質に対する反応速度が向上することに基づくものである。
なおイグジオバクテリウム・オキシドトレランス(Exiguobacterium oxidotolerans)T-2-2T 株は、平成13年2月13日付(受託日)で、現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、受託番号FERM P-18203として寄託されている(本菌株は、イグジオバクテリウム・オキシドトレリカム(Exiguobacterium oxidotolericum)T-2-2株という菌株名で寄託され、特許文献1及び2にその名称で記載された菌株と同一の菌株である)。
本発明では、上記のような任意のカタラーゼのアミノ酸配列について、その基質導入部位内のボトルネックを形成するアミノ酸残基を、EKTAカタラーゼにおいてボトルネックを形成するアミノ酸残基の組み合わせに適合するように改変することにより、反応速度を向上させた改変カタラーゼを製造することができる。本発明は、そのような改変カタラーゼの製造方法及びそれにより得られる改変カタラーゼを提供する。
より具体的には本発明では、改変すべき任意のカタラーゼのアミノ酸配列を基準(ベース)とし、そのアミノ酸配列について、
1) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の109位及び167位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれアスパラギン酸及びメチオニンを有するように改変すること、及び/又は
2) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の149位及び180位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれロイシン及びイソロイシンを有するように改変すること、
により、反応速度を向上させた改変カタラーゼを製造する。
本発明のより好ましい態様では、改変すべきカタラーゼのアミノ酸配列について、
1) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の109位及び167位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれアスパラギン酸及びメチオニンを有するように改変すること、及び
2) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の149位及び180位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれロイシン及びイソロイシンを有するように改変すること、
の両方の改変を行うことにより、反応速度を向上させた改変カタラーゼを製造する。
本明細書において、上記「配列番号“X”で示されるアミノ酸配列の“Y”位に相当する位置」という表現は、配列番号“X”で示されるカタラーゼのアミノ酸配列(例えば配列番号1で示されるイグジオバクテリウム・オキシドトレランスのカタラーゼ(EKTAカタラーゼ)のアミノ酸配列)を参照配列として、任意のカタラーゼのアミノ酸配列中の所定のアミノ酸残基の位置を指定するために使用される。例えば「配列番号“X”で示されるアミノ酸配列の“Y”位に相当する位置のアミノ酸残基」とは、配列番号“X”で示されるアミノ酸配列については、その配列の1番目のアミノ酸残基から数えてY番目に出現するアミノ酸残基を意味する。一方、配列番号“X”以外のカタラーゼのアミノ酸配列(“Z”)については、「配列番号“X"で示されるアミノ酸配列の“Y”位に相当する位置のアミノ酸残基」は、そのアミノ酸配列“Z”を配列番号“X”のアミノ酸配列とアラインメントしたときに、配列番号“X”のアミノ酸配列の1番目のアミノ酸残基から数えてY番目のアミノ酸残基に対してアラインされる(すなわち、アラインメントにおいて同じ縦列に整列される)、アミノ酸配列“Z”中のアミノ酸残基を意味する。
配列番号“X”のアミノ酸配列と他のアミノ酸配列とのアラインメントは、手作業で行うこともできるし、例えばClustal W マルチプルアラインメントプログラム(Thompson, J.D. et al, (1994) Nucleic Acids Res. 22, p.4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより作成することもできる。Clustal Wは、例えば、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ、http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)や欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute : EBI、http://www.ebi.ac.uk/index.html)のウェブサイトから利用することができる。当業者であれば、得られたアラインメントを、必要に応じて最適なアラインメントとなるように更に微調整することできる。そのような最適アラインメントは、挿入されるギャップの頻度やアミノ酸配列の類似性等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニン及びリジン;グルタミン酸及びアスパラギン酸;セリン及びトレオニン;グルタミン及びアスパラギン;バリン、ロイシン及びイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の方法において、改変すべきカタラーゼは、単一機能カタラーゼであることが好ましい。改変すべきカタラーゼとしては、単一機能カタラーゼのうちクレードI又はクレードIIIに属するカタラーゼがより好ましい。改変すべきカタラーゼは、任意の生物種に由来するものであってよく、例えば動物、植物、真菌、又は細菌に由来するものでありうるが、細菌カタラーゼは特に好ましい。但し本発明では、改変すべきカタラーゼのボトルネックを形成するアミノ酸残基を、配列番号1に示したアミノ酸配列からなるイグジオバクテリウム・オキシドトレランスのカタラーゼ(EKTAカタラーゼ)のボトルネックを形成するアミノ酸残基に一致させることに基づくものであるため、配列番号1に示したアミノ酸配列からなるEKTAカタラーゼは改変すべきカタラーゼには含まれない。改変すべきカタラーゼとして、立体構造が既に報告されているカタラーゼを用いれば、ボトルネック構造の変化をより詳しく分析することができて有利である。立体構造が既知のカタラーゼとしては、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)のカタラーゼ(PSCF)、ペニシリウム・ビテール(Penicillium vitale)のカタラーゼ(PVC)、大腸菌(Escherichia coli)カタラーゼ、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)のカタラーゼ(NCC-1)、牛肝臓カタラーゼ(BLC)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)のカタラーゼ(MLC)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)のカタラーゼ(PMC)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のカタラーゼ(SCC-A)、ヒト赤血球カタラーゼ(HEC)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)のカタラーゼ(HPC)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)のカタラーゼ(EFC)が挙げられる。本発明の方法において改変すべきカタラーゼとして用いるのに好適な例としては、ビブリオ・ルモイエンシス(Vibrio rumoiensis)のカタラーゼ(配列番号2)、ビブリオ・フィシャリ(Vibrio fischeri)のカタラーゼ(配列番号3)、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)のカタラーゼ(配列番号4)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、牛肝臓カタラーゼ(BLC)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来カタラーゼ(MLC)、好熱性真菌サーモアスクス・オーランティアクス(Thermoascus aurantiacus)のカタラーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のカタラーゼ等のカタラーゼが挙げられる。
改変すべきカタラーゼのアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列は、GenBank/EMBL/DDBJデータベース等の生物情報データベースから容易に入手して用いることができる。しかしながら、そのような既知のカタラーゼだけでなく、さらに変異を有するカタラーゼも、本発明において改変すべきカタラーゼとして用いることができる。例えば、既知カタラーゼのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異カタラーゼも、本発明では改変すべきカタラーゼとして用いうる。改変すべき変異カタラーゼは、カタラーゼ活性を保持していることが好ましい。
本発明に係る改変カタラーゼは、当技術分野で公知の各種の変異導入技術を使用して製造することができる。例えば、本発明に係る改変カタラーゼは、改変すべきカタラーゼのアミノ酸配列(すなわち基準アミノ酸配列)をコードするカタラーゼ遺伝子(基準カタラーゼ遺伝子)内の改変対象(置換対象)のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、改変後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列に変異させ、さらにその変異遺伝子から改変カタラーゼを発現させることにより、製造することができる。
基準カタラーゼ遺伝子への目的の変異導入は、基本的には基準カタラーゼ遺伝子を鋳型DNAとして用いるPCR増幅に基づき、当業者には周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法など(村松ら編、「改訂第4版 新 遺伝子工学ハンドブック」、羊土社、p.82-88)の任意の手法により行うことができる。必要に応じてStratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等の各種の市販の部位特異的変異導入用キットを使用することもできる。本発明ではまた、導入すべきヌクレオチド変異を含む相補的な2つの変異プライマーを別々に用いて変異部位の上流側及び下流側をそれぞれ増幅したDNA断片を、SOE(splicing by overlap extension)-PCR(Horton R.M. et al., Gene (1989) 77(1), p.61-68)により1つに連結する方法を用いることもできる。このSOE-PCR法を用いた変異導入手順については、後述の実施例にも詳述している。
基準カタラーゼ遺伝子を含む鋳型DNAは、改変すべきカタラーゼを産生する生物から、常法により、ゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって調製することができる。改変すべきカタラーゼを産生する生物は、動物(例えば、ヒト、ウシ、ラット、マウス等)、植物、真菌、細菌等、非常に多数のものが知られている。基準カタラーゼ遺伝子の塩基配列は、上述の通り、GenBank/EMBL/DDBJデータベースやpfamデータベース等の生物情報データベースから容易に入手することができる。
基準カタラーゼ遺伝子への部位特異的変異導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異プライマーを用いて行うことができる。そのような変異プライマーは、基準カタラーゼ遺伝子内の改変対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、かつその改変対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて改変後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有する塩基配列を含むように設計すればよい。改変対象及び改変後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)は、当業者であれば通常の教科書等に基づいて適宜認識し選択することができる。例えば、通常は、アスパラギン酸をコードするコドンとしてはGAT又はGACが選択され、メチオニンをコードするコドンとしてはATGが選択される。ロイシンをコードするコドンとしてはTTA、TTG、CTT、CTC、CTA、又はCTGが選択され、イソロイシンをコードするコドンとしてはATT、ATC、又はATAが選択される。但し特殊な遺伝暗号を用いる宿主生物を用いて組換え生産を行う場合には、その生物において目的のアミノ酸残基をコードするコドンへと改変すればよく、列挙したコドンには限定されない。
本発明で用いるプライマーは、ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids Research, 17, 7059-7071, 1989)等の周知のオリゴヌクレオチド合成法により作製することができる。そのようなプライマー合成は、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成装置(ABI社製など)を用いて作製することもできる。変異プライマーを含むプライマー・セットを使用し、基準カタラーゼ遺伝子を鋳型DNAとして上記のような部位特異的変異導入を行うことにより、目的の変異が導入された改変カタラーゼ遺伝子を得ることができる。本発明はこのようにして得られる改変カタラーゼ遺伝子にも関する。なお本発明において「改変カタラーゼ遺伝子」とは、改変カタラーゼのアミノ酸配列をコードする任意の核酸断片(DNA、mRNA、及び人工核酸等を含む)を意味する。本発明に係る「遺伝子」は、オープンリーディングフレームに加えて非翻訳領域(UTR)などの他の塩基配列を含んでもよい。
得られた改変カタラーゼ遺伝子を常法により任意のベクター中に挿入し連結することにより、組換えベクターを作製することができる。本発明で用いるベクターは特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクター等の任意のベクターであってよい。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)等を用いることもできる。改変カタラーゼを組換え生産する目的では、ベクターは発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターは、転写プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位などの宿主生物における発現に必須な各種エレメントの他、選択マーカー遺伝子やポリリンカー、エンハンサーなどのシスエレメント、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等の有用な配列を必要に応じて含みうる。
改変カタラーゼ遺伝子を含む組換えベクターを用いて、形質転換体を作製することができる。本発明では、本発明に係る改変カタラーゼ遺伝子を含む組換えベクター(具体的には組換え発現ベクター)を宿主細胞に導入することにより形質転換体(形質転換細胞)を作製し、それを組換えタンパク質の発現が誘導される条件下で培養することにより、改変カタラーゼを産生させることができる。本発明は、そのようにして作製された形質転換体にも関する。組換えベクターを導入する宿主細胞としては、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞を始めとする微生物の他、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等の任意の細胞を使用することができる。
形質転換には、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等の周知の形質転換技術を適用することができる。
組換えタンパク質生産のための上記形質転換体の培養は、当業者には一般的な方法に従って行うことができる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物宿主に基づく形質転換体を培養する培地としては、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培地には、薬剤選択マーカーの種類に対応してアンピシリンやテトラサイクリン等を添加してもよい。プロモーターとして誘導性のものを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した細菌等を培養するときにはイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加することができる。培養条件は特に限定されないが、好ましくは形質転換に用いる宿主生物に適した条件下で行われる。
本発明に係る改変カタラーゼは、無細胞翻訳系を使用して改変カタラーゼ遺伝子又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸等の試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
発現された改変カタラーゼは、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、培養液、細胞破砕液、又は無細胞翻訳系から取得することができる。しかし遠心分離や限外濾過型フィルター等を用いて分離又は濃縮したその培養上清や溶菌液上清等の溶液は、粗酵素液としてそのまま使用することもできる。発現された改変カタラーゼが細胞内から分泌されない場合には、その細胞を破砕してからタンパク質の分離精製を行えばよい。
こうして得られる改変カタラーゼは、具体的には、下記1)及び/又は2):
1) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の109位及び167位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれアスパラギン酸及びメチオニンを有すること、
2) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の149位及び180位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれロイシン及びイソロイシンを有すること、
を特徴とするタンパク質である。より好ましい態様では、この改変カタラーゼは、1) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の109位及び167位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれアスパラギン酸及びメチオニンを有すること、及び2) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の149位及び180位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれロイシン及びイソロイシンを有すること、の両方を特徴とする。そして、これら改変カタラーゼも本発明の範囲に含まれる。なお、配列番号1で示すアミノ酸配列からなるイグジオバクテリウム・オキシドトレランス(E. oxidotolerans)のカタラーゼは、改変せずとも上記のようなアミノ酸配列を有するため、本発明に係る改変カタラーゼの範囲には含まれない。
以上のようにして製造した改変カタラーゼについては、後述の実施例に記載したようにしてカタラーゼの基質との反応中間体生成速度を測定することにより、その基質に対するカタラーゼの反応速度の向上を確認することができる。反応速度の向上は、限定するものではないが、例えば過酢酸を基質とした場合には5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは50倍以上、さらに好ましくは100倍以上の上昇でありうる。
本発明に係る改変カタラーゼとの反応において、反応速度の向上が認められる基質はカタラーゼの任意の基質でありうる。本発明に係る改変カタラーゼは通常は、過酸化水素よりも大きい分子サイズを有する基質に対し、反応速度の向上を示す。ここで「分子サイズ」とは分子の嵩高さをいうが、これは便宜上、分子量を基準として判断するものとする。なお過酸化水素の分子量は34.01である。そのような反応速度の向上が認められる基質としては、一般的には、R-OOHのR部分がtert-ブチルより小さい任意の水溶性の過酸が挙げられる。そのような基質の具体例としては、メチルハイドロパーオキシド、過酢酸、tert-ブチルハイドロパーオキシド、エチルハイドロパーオキシド、過蟻酸等が挙げられる。
本発明において用いるmRNAの調製、cDNAの作製、PCR、RT-PCR、ライブラリーの作製、ベクター中へのライゲーション、細胞の形質転換、DNAの塩基配列の決定、核酸化学合成、タンパク質のN末端側のアミノ酸配列決定、突然変異誘発、タンパク質の抽出等の実験は、通常の実験書に記載の方法によって行うことができる。そのような実験書としては、例えば、SambrookらのMolecular Cloning, A laboratory manual, (2001) 3rd Ed., Sambrook, J. & Russell, DW. Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)イグジオバクテリウム・オキシドトレランス(Exiguobacterium oxidotolerans)のカタラーゼ(EKTAカタラーゼ)の精製及び特性解析
イグジオバクテリウム・オキシドトレランス(E. oxidotolerans)T-2-2T 細胞(受託番号FERM P-18203)は、8.0gのポリペプトン(日本製薬)、3.0gのイーストエクストラクト(極東)及び5.0gのNaCl(以上、培地に加えた脱イオン水1L当たりの量)を加えたPYS-2培地(pH 7.5)中で27℃にて好気的に初期静止期まで培養し、さらに20Lステンレス製培養槽中、同組成の培地15Lにて100rpmの速度で攪拌しながら培養を継続した。その培養細胞を、4℃にて10,000gで20分遠心分離に供することにより回収した。
こうして得られたイグジオバクテリウム・オキシドトレランスT-2-2T 細胞(細胞湿重量で約25g)を、1mM EDTA及び10μM フェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)を添加した10 mM Tris-HClバッファー(pH 8.0)(バッファーA)400 mL中に懸濁した。次いで、0.35 mgのリゾチーム及び2000ユニットのDNase Iをその懸濁液に添加し、25℃で1時間かけて穏やかに攪拌して細胞溶解液を調製した。その細胞溶解液を、フレンチプレス細胞破砕機French Pressure Cell(SLM-Aminco Instruments社、USA)を用いて18,000 Ib/in.2にて処理し、14,000gで30分間の遠心分離を行って非破砕細胞を除去した。そうして得られた上清を105,000gで2時間にわたり再び遠心分離し、可溶性画分を取得した。可溶性画分は、バッファーAで希釈し、バッファーAで平衡化したQ-Sepharose Fast Flowカラム(5 cm x 15 cm)上での第1のクロマトグラフィーに供した。カタラーゼ酵素は、2LのバッファーAに基づくNaCl濃度の直線勾配(0〜0.6 M)を用いてカラムから溶出させた。カタラーゼを含むそれら溶出液を1つに混合し、10 mM Tris-HClバッファー(pH 8.0)で希釈し、続いてそれを、0.25 M NaClを加えた10 mM Tris-HClバッファー(pH 8.0)(バッファーB)で平衡化したQ-Sepharose Fast Flowカラム(2.5 cm x 20 cm)上での第2のクロマトグラフィーに供した。カラムに吸着されたカタラーゼは、2LのバッファーBに基づくNaCl濃度の直線勾配(0.25〜0.5 M)を用いて溶出させた。その溶出液を、Amicon Ultra-15を用いて濃縮し、それを、バッファーBで平衡化したゲル濾過カラム(Sephacryl S-300 High Resolution, 2.5 cm x 90 cm)に通過させて、精製カタラーゼを含む濾液を取得した。
得られた濾液のタンパク質含量は、ビシンコニン酸(BCA)法(Smith, P.K. et al., Anal. Biochem., (1985) 150, p.76-85)により、BCAプロテインアッセイ試薬キット(Pierce社)と標準サンプルとしてのウシ血清アルブミンとを用いて測定した。得られたEKTAカタラーゼのSoret帯(ヘムタンパク質に特有の吸収帯)におけるモル吸光係数は、557 nmでの吸光係数34.4 mM-1cm-1に基づき、ピリジンフェロヘモクロム法によって測定した。
本発明では、このような二段階の陰イオン交換クロマトグラフィーと一段階のゲル濾過クロマトグラフィーからなる三段階精製法により、イグジオバクテリウム・オキシドトレランスT-2-2T 細胞からカタラーゼを成功裡に精製することができた。この方法により得られたEKTAカタラーゼの収率は56%と高く、精製度はおよそ15倍に向上した。精製EKTAカタラーゼは、30 mM H2O2を加えた50 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.0)中、25℃の比活性でタンパク質1mg当たり430,000ユニットを示した。
続いて、カタラーゼの分子量の確認を行った。まず、Laemmliの方法(Laemmli, U.K. Nature (1970) 227, p.680-685)に従い、得られた精製EKTAカタラーゼを、10〜20%勾配ゲル(PAGEL, ATTO)上でのドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供することにより、カタラーゼを変性させて得られるそのサブユニットの分子量を測定した。SDS-PAGEに使用した分子量マーカーであるベンチマークタンパク質ラダー(BenchMark Protein Ladder)は、Invitrogen社から購入した。さらに、会合体である非変性カタラーゼの分子量を、0.1 Mリン酸カリウムバッファー(pH 7.0)で平衡化した7.8 mm x 300 mm x 2のカラム(Protein PAK 300 (Waters))を用いるゲル濾過によって測定した。分子質量標準としては、チログロブリン(669 kDa)、アポフェリチン(443 kDa)、αアミラーゼ(200 kDa)、アルコールデヒドロゲナーゼ(150 kDa)、ウシ血清アルブミン(66.2 kDa)、及び炭酸脱水酵素(29 kDa)を用いた。
その結果、SDS-PAGEにより、変性EKTAカタラーゼの分子量として約64 kDaに位置する単一バンドが示された。またゲル濾過分析により、会合体である非変性カタラーゼについて約240 kDaの分子量が示された。従って上記のように精製されたEKTAカタラーゼが4つの同一のサブユニットからなることが確認された。
さらに、精製EKTAカタラーゼのN末端アミノ酸配列の配列決定を行った。上記で得た精製EKTAカタラーゼを、YMC-Pack Pro C-4逆相カラム(4.6 mm x 100 mm)を備えたHPLCシステム(Tosoh社)に供し、0.1%トリフルオロ酢酸水溶液から80%アセトニトリルを含む0.1%トリフルオロ酢酸水溶液までの勾配を用いて0.8 mL/分の流速で120分間かけて溶出させた。EKTAカタラーゼを含む溶出液は、214 nmでの吸光度をモニタリングしながら回収した。そのEKTAカタラーゼのN末端アミノ酸配列は、エドマン分解法によりプロテインシークエンサー(Applied Biosystems, model 491)を用いて解析した。その結果、精製EKTAカタラーゼについて決定されたN末端アミノ酸配列は、既報の配列(配列番号1)のN末端と一致していたことから、上記で精製されたタンパク質がEKTAカタラーゼであることがさらに確認された。
次に、EKTAカタラーゼ遺伝子を含むゲノムDNAのクローニングを行った。イグジオバクテリウム・オキシドトレランスT-2-2T 細胞から、Marmurの方法(Marmur, J. (1961) J. Mol. Biol. 3, p.208-218)に従って染色体DNAを分離した。EKTAカタラーゼの部分塩基配列を取得するため、上記で決定したN末端アミノ酸配列、及び他の相同カタラーゼタンパク質中の保存領域に基づいて、2つのPCRプライマー:縮重センスプライマーP-N1 5'-ATGAAYGARAAYGARAARAA-'3と縮重アンチセンスプライマーP-S1 5'-TCSIRISTIGCRTGGTTRAA-3'(Y、R、S、Iは、それぞれA/T、A/G、C/G、イノシンである)を設計し、PCRに用いた。約700 bpのPCR断片を増幅することができ、それをpT7Blue Tベクター(Novagen)中にサブクローニングしその挿入断片の693 bpのDNA配列を決定した。インバースPCR法(Ochman, H., et al., Genetics, (1988) 120, p.621-623)を実施するため、EKTAカタラーゼ遺伝子の内部配列から4つのPCRプライマー(P-N3: 5'-GATGTTTGTCCGTGGATCTGG-3'、P-N4: 5'-AGTGTGTACCATGAATGACGG-3'、P-S3: 5'-CGCTACTGGGATTTCATGACAC-3'、P-S4: 5'-CCGTAAAATGCGTGGTTCTTC-3')を設計した。イグジオバクテリウム・オキシドトレランスT-2-2TのゲノムDNAをXbaIで37℃にて4時間かけて消化し、得られたDNA断片を分子内ライゲーションによって環状化することにより、鋳型DNAを調製した。その4.5 kbのDNA断片を、第1のPCRではP-N3とP-S3のプライマー・セットを用いて増幅した。さらにそれを、第2のPCRにおいてP-N4とP-S4のプライマー・セットを用いて増幅して、4.5 kbのPCR産物がEKTAカタラーゼの内部DNA配列を含むかどうかを確認した。これにより、EKTAカタラーゼ全体の塩基配列を含む1546bpのDNA増幅断片が得られた。得られた増幅断片については常法により塩基配列決定を行った。
その1546bpの増幅断片の配列には、491個のアミノ酸残基を含むタンパク質がコードされており、そのタンパク質の計算上の分子量は56487.7 Daであった。該アミノ酸配列(配列番号1)及びそれをコードするオープンリーディングフレームの塩基配列(開始コドン〜終止コドン;配列番号6)は、既知EKTAカタラーゼのアミノ酸配列及びその遺伝子の塩基配列と一致した。
こうして確認されたEKTAカタラーゼのアミノ酸配列については、GenBank等のデータベースから入手可能な他のカタラーゼ(EktA、VktA、VFCA、PSCF、HktE、BLC、MLC等)のアミノ酸配列に対してアラインメントを作成し、比較を行った。比較の結果、カタラーゼの酵素活性に重要なアミノ酸残基は、カタラーゼ間でよく保存されていた。アラインメントの一例を図1に示す。図1中、黒又は灰色の背景で示したアミノ酸残基は、基質導入部位の狭いチャネルを構成する残基である。番号を付記したアミノ酸残基は、後述するEKTAカタラーゼのボトルネック形成アミノ酸残基を示す。図1の「EKTA」はイグジオバクテリウム・オキシドトレランスのカタラーゼ(配列番号1)、「VktA」はビブリオ・ルモイエンシス(Vibrio rumoiensis)のカタラーゼ(配列番号2)、「VFCA」はビブリオ・フィシャリ(Vibrio fischeri)のカタラーゼ(配列番号3)、「PSCF」はシュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)のカタラーゼ(配列番号4)、「HktE」はインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)のカタラーゼ(配列番号5)を示す。
(実施例2)イグジオバクテリウム・オキシドトレランスのカタラーゼの反応速度の測定
上記で得られたイグジオバクテリウム・オキシドトレランスの精製カタラーゼ(EKTAカタラーゼ)(終濃度0.5 M)を、過酸化水素、メチルハイドロパーオキシド、過酢酸、及びtert-ブチルハイドロパーオキシドのうちいずれかの反応基質と、50 mMリン酸バッファー(pH 7.0)中、5℃で混合し、反応させた。カタラーゼ反応系では、基質がカタラーゼの活性中心に侵入すると、カタラーゼと基質との間で反応中間体(複合体I)が形成される。従って反応中間体生成速度は、カタラーゼと基質の反応速度に相当し、基質がカタラーゼの活性中心にたどり着くまでの速さを表す。そこで上記反応系について、Unisoku RSP-1000ストップトフロー分光器を用いて240nmでの吸光度を測定し、その反応中の吸収スペクトルの変化に基づいて、分光学的に反応中間体生成速度を算出した。また対照実験として、EKTAカタラーゼの代わりに牛肝臓カタラーゼ(BLC)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus (lysodeikticus))由来カタラーゼ(MLC)を用いて同様の実験を行った。なお牛肝臓カタラーゼは、Sigma社から購入し(C-3155)、精製して用いた。またミクロコッカス・ルテウス由来カタラーゼはナガセケムテックス社から購入し、精製して用いた。
得られた反応中間体生成速度の測定値(平均±標準誤差)を表1に示す。
Figure 2008306963
表1に示される通り、イグジオバクテリウム・オキシドトレランスのカタラーゼ(EKTA)の反応中間体生成速度は、牛肝臓カタラーゼ(BLC)やミクロコッカス・ルテウス由来カタラーゼ(MLC)と比較して大きかった。特に、過酸化水素よりも分子サイズがずっと大きなカタラーゼ基質であるメチルハイドロパーオキシド、過酢酸、及びtert-ブチルハイドロパーオキシドを使用した場合には、EKTAカタラーゼの反応中間体生成速度が他のカタラーゼと比較して顕著に大きくなることが示された。
具体的には例えば、過酸化水素を基質とした場合、EKTAカタラーゼによる反応中間体生成速度は、牛肝臓カタラーゼ及びミクロコッカス・ルテウス由来カタラーゼの同速度のそれぞれ3.18倍及び1.03倍であった。これに対しEKTAカタラーゼによる反応中間体生成速度は、過酸化水素よりもかなり大きな分子量の基質であるメチルハイドロパーオキシドを基質とした場合には、BLCカタラーゼ及びMLCカタラーゼの同速度のそれぞれ12.21倍及び37.57倍、過酢酸を基質とした場合はそれぞれ76.88倍及び1186.36倍、tert-ブチルハイドロパーオキシドを基質とした場合はそれぞれ11.03倍及び71.65倍であった。
従ってEKTAカタラーゼは、基質(特に、過酸化水素よりも分子サイズが大きな基質)に対し、他のカタラーゼと比べて非常に高速に反応でき、すなわち高活性を有することが示された。
(実施例3)イグジオバクテリウム・オキシドトレランスのカタラーゼの立体構造解析
実施例2において、イグジオバクテリウム・オキシドトレランスのカタラーゼ(EKTAカタラーゼ)がより大きな基質分子に対して示した高速反応性の原因を明らかにするため、以下のように、該カタラーゼの立体構造の解析を行い、その構造機能相関を検討した。
まず、イグジオバクテリウム・オキシドトレランスのカタラーゼ(EKTAカタラーゼ)の結晶化を行った。EKTAカタラーゼの結晶化は、24穴のVDXプレート(商標登録)(Hampton Research社)を用い、ハンギングドロップ蒸気拡散法によって行なった。結晶化条件の探索には、市販の結晶化条件スクリーニングキットであるCrystal Screen(商標登録)(Hampton Research社)、Wizard I(商標登録)、Wizard II(商標登録)、Cryo I(商標登録)及びCryo II Screen(商標登録)(Emerald BioSystems社)を用いた。結晶化には30mg/mlの濃度のカタラーゼ溶液を用いた。結晶化の液滴(ハンギングドロップ)は1μlのカタラーゼ溶液と1μlの結晶化溶液を混合して作成した。すべての結晶化は20℃にて行なった。このスクリーニングで得られた条件に対し、pHと沈殿剤の濃度についてさらに詳しく条件を検討し、最終的な結晶化条件を決定した。最終的なEKTAカタラーゼの結晶化条件は以下のものであった。すなわちハンギングドロップ蒸気拡散法において、100 mM MES緩衝液(pH 6.0)、12〜13%(w/v)のポリエチレングリコール10,000、5%(w/v)のポリエチレングリコール400、20%(w/v)のグリセロールを沈殿剤として使用し、約1ヶ月間かけて結晶を成長させることにより、結晶構造解析に適したEKTAカタラーゼ結晶を得ることができた。得られたEKTAカタラーゼ結晶の大きさは約0.5 x 0.3 x 0.1 mmであった。この結晶は単斜晶系の空間群P21に属し、格子定数は、a=94.3Å、b=131.9Å、c=110.6Å、β=107.6°であった。
得られたEKTAカタラーゼの結晶のX線回折データは、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所 放射光科学研究施設(Photon Factory)のビームラインNW12にて測定した。まず、上記の通り生成させたEKTAカタラーゼ結晶をハンギングドロップ法によって成長した結晶をナイロン繊維製のループに載せ、液体窒素に浸漬した後に、100Kの窒素気流中にて冷却し、測定を行なった。ビームラインNW12での測定には波長1.000ÅのX線を用い、回折像をADSC社Quantum 4R CCD検出器によって取得した。回折データの処理はプログラムHKL2000(HKL社)及びプログラムパッケージCCP4(Collaborative Computational Project, Number 4 (1994) Acta Cryst. D50, p.760-763; http://www.ccp4.ac.uk/main.htmlより入手可)を用いて行なった。
EKTAカタラーゼの結晶構造はCCP4パッケージのプログラムMOLREPを用いた分子置換法によって決定した。サーチモデルの構造座標は立体構造既知である牛肝臓由来カタラーゼ(BLC)の構造(Fita, I. and Rossmann, M.G., (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82, p.1604-1608;PDBエントリ8CAT)を用いた。分子置換法によって得られたカタラーゼ構造の精密化を分解能20-2.4Åの回折データを用いプログラムCNS(Bruenger, A. T., et al, (1998) Acta Cryst., D54, p.905-921)及びプログラムREFMAC(Murshudov, G.N., et al., (1997) Acta Cryst., D53, p.240-255)によって行った。精密化後のR因子は19.9%、フリーR因子は23.0%であった。基質導入部分の分子空隙の解析にはプログラムVOIDOO(Williams, M.A. et al., Protein Sci.,(1994) 3, p.1224-1235)を用いた。
以上の結晶構造解析により得られた(A)EKTAカタラーゼの全体構造の立体像、及び(B)電子密度マップで示すEKTAカタラーゼのメインチャネル構造の立体像を図2に示す。EKTAカタラーゼの全体構造は、それが他のカタラーゼと同様に4つのサブユニットからなる四量体であることを示している。特に、EKTAカタラーゼのヘム周辺の立体構造は、他生物種由来のカタラーゼとの間で互いによく類似していた。
上記解析により、EKTAカタラーゼのヘム平面から14〜15Å離れた基質導入部位にボトルネック構造が認められた。基質導入部位内の狭いチャネル(narrow channel)の入口に相当するボトルネックの直径は、基質との反応速度を決める重要な要因になることが考えられる。この点に関し、最小プローブを用いて決定されたEKTAカタラーゼの各サブユニットにおけるボトルネックの直径は、サブユニット間の平均で2.74Åであった。一方、同様に決定した牛肝臓カタラーゼ(BLC)、ミクロコッカス・ルテウス由来カタラーゼ(MLC)のボトルネック直径は、それぞれ2.34Å、2.12Åであった。そこで、実施例2で測定した各基質との反応速度(反応中間体生成速度)と、各カタラーゼのボトルネック直径との関係をグラフ化し、図3に示した。図3中、白抜き丸は過酸化水素、白抜き四角はメチルハイドロパーオキシド、白抜き三角は過酢酸、白抜きの菱形はtert-ブチルハイドロパーオキシドを示す。過酸化水素よりも分子サイズが大きいメチルハイドロパーオキシド、過酢酸、及びtert-ブチルハイドロパーオキシドでは、ボトルネック直径の増大に伴って、指数関数的に反応速度が上昇することが示された。
さらに上記解析により、EKTAカタラーゼのボトルネックを形成すると考えられるアミノ酸残基として、Met167、Asp109、Leu149、Ile180(各アミノ酸に付したナンバリングは、配列番号1に示すEKTAカタラーゼのアミノ酸配列に基づく)が同定された。そこでこれら4つのアミノ酸残基について、2組のアミノ酸残基対間の原子間距離を測定したところ、EKTAカタラーゼのAsp109-Met167及びLeu149-Ile180の原子間距離は、サブユニット間の平均でそれぞれ9.03Å及び7.24Åであることが示された。これに対し、BLCカタラーゼにおいてその2組のアミノ酸残基対に対応するAsp127-Trp185及びGln167-Leu198の原子間距離は、サブユニット間の平均でそれぞれ7.55Å及び5.69Åであった。またMLCカタラーゼにおいてその2組のアミノ酸残基対に対応するAsp109-Met167及びLeu149-Ile180の原子間距離は、サブユニット間の平均でそれぞれ7.64Å及び5.67Åであった。従って、EKTAカタラーゼのボトルネック構造においては、Asp109-Met167及びLeu149-Ile180の原子間距離が他のカタラーゼの場合と比べて非常に大きいことから、これらのアミノ酸残基がEKTAカタラーゼのボトルネックの大きさを規定していることが示された。
次いでpfamデータベース(http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/)から得た432種のカタラーゼ遺伝子にコードされるアミノ酸配列について、EKTAカタラーゼのAsp109-Met167とLeu149-Ile180に相当する位置のアミノ酸残基を、EKTAカタラーゼのアミノ酸配列(配列番号1)との比較により調べた。その結果、EKTAカタラーゼのAsp109-Met167及びLeu149-Ile180に対応するアミノ酸残基の組み合わせは、他のカタラーゼ(432種)においては見出だされず、EKTAカタラーゼに特有であることが判明した。
以上の解析結果は、EKTAカタラーゼが、ボトルネックを形成するアミノ酸残基としてAsp109及びMet167、そしてLeu149及びIle180の組み合わせを有することにより、とりわけ大きな直径を有するボトルネックを形成すること、さらにその結果として、より大きな分子サイズを有する基質に対して非常に速い反応速度を示すことができることを示している。
(実施例4)ボトルネック形成アミノ酸残基の組み合わせの変化が反応中間体生成速度に及ぼす影響
本実施例では、EKTAカタラーゼのボトルネックを形成するアミノ酸残基(ボトルネック形成アミノ酸残基)であるAsp109及びMet167、そしてLeu149及びIle180の変化がカタラーゼの反応中間体生成速度に及ぼす影響を検討した。
シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)のタイプIカタラーゼ(PSCF)(配列番号4)は、ボトルネックから活性中心に至る狭いチャネル構造を構成するアミノ酸残基として、EKTAカタラーゼとほぼ同じアミノ酸残基を有するが、EKTAカタラーゼのボトルネック形成アミノ酸残基のうちMet167、Leu149、及びIle180に相当する位置には異なるアミノ酸残基を有するカタラーゼである。具体的には、EKTAカタラーゼの狭いチャネル構造を構成するアミノ酸残基のうち、Val55、His56、Val97、Asp109、Pro110、Asn129、Phe134、Phe135、Phe142、Met145、Val146の位置にはPSCFカタラーゼでも同じアミノ酸残基が存在するが、EKTAカタラーゼのMet167、Leu149、及びIle180に相当する位置だけはPSCFカタラーゼではそれぞれアミノ酸残基Phe188、Phe170、Leu201を有している(図1を参照)。一方、PSCFカタラーゼについて報告されている立体構造からは、PSCFカタラーゼのボトルネックの直径がEKTAカタラーゼよりも小さいことが示されている(文献:Carpena, X., Soriano, M., Klotz, M.G., Duckworth, H.W., Donald, L.J., Melik-Adamyan, W., Fita, I., and Loewen, P.C. (2003) "Structure of the clade 1 catalase, catF of Pseudomonas syringae, at 1.8Å resolution." Proteins 50, p423-436.;PDB:1M7S)。従って、PSCFカタラーゼにおけるボトルネックの直径がEKTAカタラーゼよりも小さいのは、PSCFカタラーゼにおけるボトルネック形成アミノ酸残基の組み合わせがEKTAカタラーゼの該組み合わせから変化していることに起因するものと考えられる。
そこで本実施例では、PSCFカタラーゼを、EKTAカタラーゼのボトルネック形成アミノ酸残基の組み合わせであるAsp109-Met167及びLeu149-Ile180を変化させた改変カタラーゼのモデル系として用いて、PSCFカタラーゼの反応中間体生成速度を調べた。PSCFカタラーゼでは、EKTAカタラーゼと比較して、分子サイズの大きな基質に対する反応速度が顕著に遅くなることが予測された。
具体的にはまず、カタラーゼ欠損株である大腸菌(Escherichia coli)UM2株(Loewenより入手;Mulvey M. R., Sorby, P.A., Triggs-Raine, B.L., and Loewen, P. C. (1988) "Cloning and physical characterization of katE and katF required for catalase HPII expression in Escherichia coli" Gene 73, p337-345)に、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)のタイプIカタラーゼ(PSCF)遺伝子(GenBankアクセッション番号: AF001355)を組み込んだプラスミドpEC3E56を常法により形質導入した株を、20 LのLB培地で27℃にて22時間培養した後、集菌した。得られた菌体をフレンチプレスで破壊後、低速遠心で未破壊の菌体を取り除き、その後さらに超遠心して上清を採取し、それを陰イオン交換クロマトグラフィーであるQ-Sepharose Fast Flow、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーであるPhyeny Sephoarose High Performanceに順次かけて、精製PSCFカタラーゼを得た。
基本的に実施例2と同様にして、精製PSCFカタラーゼを、過酢酸(過酸化水素よりも分子サイズが大きい)と、50 mMリン酸バッファー(pH 7.0)中、5℃で反応させ、その反応系における240nmでの吸光度をUnisoku RSP-1000ストップトフロー分光器を用いて測定し、その吸収スペクトルの変化に基づいてPSCFカタラーゼと過酢酸との間での反応中間体生成速度を算出した。
その結果、PSCFカタラーゼが過酢酸を基質とした場合の反応中間体生成速度は、33,000 M-1 s-1であった。これに対し、実施例2で算出したEKTAカタラーゼが過酢酸を基質とした場合の反応中間体生成速度は522,000 M-1 s-1であったことから、PSCFカタラーゼの反応中間体生成速度がEKTAカタラーゼと比較して著しく遅い(約1/16の速度)ことが実証された。
以上の結果は、カタラーゼの各サブユニットに含まれるボトルネック形成アミノ酸残基の組み合わせが変化することにより、カタラーゼの反応中間体生成速度(特に分子サイズがより大きい基質に対する反応速度)に大きな変動が生じることを示している。特にカタラーゼが、ボトルネック形成アミノ酸残基として、EKTAカタラーゼで見られるそのアミノ酸残基の組み合わせ(Asp109及びMet167、並びにLeu149及びIle180)を有する場合、それはカタラーゼの通常の基質、特に過酸化水素よりも分子サイズが大きい基質に対し、顕著に速い反応速度を示す。
そこで次に、EKTAカタラーゼのボトルネック形成アミノ酸残基に相当するPSCFカタラーゼのAsp114、Phe171、Phe189、及びLeu202について、PSCFカタラーゼがEKTAカタラーゼと同じボトルネック形成アミノ酸残基(Asp109、Met167、Leu149、及びIle180)を有することとなるように、Phe171、Phe189及びLeu202のアミノ酸置換を導入し、改変EKTAカタラーゼを得る。そのため、まず、PSCFカタラーゼ遺伝子のPhe171、Phe189、及びLeu202をコードする塩基配列を部位特異的変異導入により改変し、それぞれMet、Leu、及びIleをコードする配列となるようにした改変PSCFカタラーゼ遺伝子を作製する。得られた改変PSCFカタラーゼ遺伝子を常法によりベクター中にクローン化し、細胞に導入して形質転換体を作製し、その形質転換体の破砕液から組換えタンパク質を採取することにより、上記ボトルネック形成アミノ酸残基の位置にAsp、Met、Leu、及びIleをそれぞれ有する改変PSCFカタラーゼを取得できる。この改変PSCFカタラーゼにおいては、改変前と比較し、反応中間体生成速度(特に分子サイズがより大きい基質に対する反応速度)が上昇する。
本発明の方法は、任意のカタラーゼから、基質(特に分子サイズの大きな基質)に対する反応速度を向上させたカタラーゼを製造するために用いることができる。そのようにして製造された改変カタラーゼは、例えば産業排水のように、過酸化水素以外にも様々なカタラーゼ基質を含む材料に対して広く適用することができる。
EKTAカタラーゼと他のカタラーゼのアミノ酸配列のマルチプルアラインメント(前半)を示す図である。 EKTAカタラーゼと他のカタラーゼのアミノ酸配列のマルチプルアラインメント(後半)を示す図である。 結晶構造解析により得られた(A)EKTAカタラーゼ、及び(B)EKTAカタラーゼのメインチャネル構造の立体構造を画像化した図である。平行法で見ることにより立体的な図として視認することができる。 各種カタラーゼのボトルネック直径と各種基質に対する反応中間体生成速度との関係を示す図である。
配列番号7〜12はプライマーを示す。

Claims (11)

  1. カタラーゼのアミノ酸配列を、
    1) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の109位及び167位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれアスパラギン酸及びメチオニンを有するように改変すること、及び/又は
    2) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の149位及び180位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれロイシン及びイソロイシンを有するように改変すること、
    を含む、反応速度を向上させた改変カタラーゼの製造方法。
  2. 前記工程1)及び2)の両方を含む、請求項1に記載の方法。
  3. カタラーゼが、単一機能カタラーゼである、請求項1又は2に記載の方法。
  4. カタラーゼが、細菌カタラーゼである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. カタラーゼのアミノ酸配列の改変が、該アミノ酸配列をコードするカタラーゼ遺伝子への部位特異的変異導入により行うものである、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
  6. 下記1)及び/又は2)を特徴とする、改変カタラーゼ:
    1) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の109位及び167位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれアスパラギン酸及びメチオニンを有すること、
    2) 配列番号1で示されるアミノ酸配列の149位及び180位に相当する位置のアミノ酸残基として、それぞれロイシン及びイソロイシンを有すること。
  7. 前記1)及び2)の両方を特徴とする、請求項6に記載の改変カタラーゼ。
  8. 請求項6又は7に記載の改変カタラーゼをコードする遺伝子。
  9. 請求項8に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  10. 請求項9に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
  11. 微生物である、請求項10に記載の形質転換体。
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JP2001275669A (ja) * 2000-03-29 2001-10-09 Toyobo Co Ltd 新規カタラーゼ遺伝子及び該遺伝子を用いた新規カタラーゼの製造方法
JP2005204559A (ja) * 2004-01-22 2005-08-04 National Institute Of Advanced Industrial & Technology 過酸化水素耐性微生物のカタラーゼ遺伝子

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