JP2008285405A - ダイヤモンド薄膜、ダイヤモンド薄膜の改質方法、ダイヤモンド薄膜の改質及び薄膜形成方法、並びにダイヤモンド薄膜の加工方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ダイヤモンド等の黒鉛化を防止できる真空中、不活性ガス、還元性ガス、あるいはこれらの混合ガス等の雰囲気で、ダイヤモンド薄膜に1GHz〜500GHzのマイクロ波を照射して加熱し、たとえば、レーザーなどにより受けた損傷部を回復させるなど、ダイヤモンド薄膜を改質する。ダイヤモンド薄膜の膜厚方向に沿って、0.1μm以上のラマン分光法で評価したダイヤモンドスペクトルの半価幅がほぼ一定である改質された膜厚み領域を有し、その半価幅は膜厚み残部の同最大半価幅の85%以下であるダイヤモンド薄膜が得られる。
【選択図】図6
Description
なお、本明細書中で使用する「ダイヤモンド等の薄膜」は、特に明記する以外、「ダイヤモンド等の自立膜」及び「加工後のダイヤモンド等の薄膜」を含む。
さらに前記I型は薄片状析出の窒素を0.1%以上含むIa型(天然ダイヤの殆ど)と500ppm以上の窒素が炭素と置換しているIb型に分けられる。またII型は高抵抗のIIa型とp型半導体を示すIIb型とに分けることができる。
これらのダイヤモンドは一般に高硬度、低熱膨張率、化学的安定性(不活性)、高熱伝導性、高絶縁性、高赤外線透過率、高反射率、高音速性、Wide band gap 半導体特性、高速キャリヤー、カラーセンター、負電子親和力、生体適応性、優れた音響特性など望ましい物性をたくさん持っている。
これらの特性を利用して切削工具、耐磨耗コーティング材、回路基板、高周波デバイス、ヒートシンク、各種光学部品、半導体や放射線センサー等の電子デバイス部品、表面弾性波フィルター、スピーカー、人工関節等の生体機能部品に利用が検討されており、多くの重要な工業用途をもつ材料である。
基板上に薄膜を形成する手段としてよく知られている方法に気相成長法(CVD)がある。このCVD法を用いたダイヤモンド薄膜を形成する場合にも下記に示すいくつかの手法がある。
例えば、高温(2000°C前後)に加熱したタングステンフィラメントの近傍位置に開口する石英管を配置し、この石英管を通してメタン等の炭化水素ガスと水素との希釈混合ガスを導入し、500°C 〜1100°Cに加熱した基板上にダイヤモンドを前記混合ガスから分解析出させる方法、上記のタングステンフィラメント法に変えて、プラズマ放電を利用した、マイクロ波プラズマCVD法、RF(高周波)プラズマCVD法、DC(直流)アークプラズマジェット法、さらに、大気中で酸素アセチレンの火炎を高速で基板に当て、ダイヤモンドを炭化水素含有ガスから分解析出させる方法がある。
そして、上記の製法の種類によって品質、製造の操作性あるいは製造能力に著しい差があるのみならず、成膜パラメーターである温度、反応ガスの組成、ガス圧、反応ガス流速、基板の種類、基板の温度、成膜装置等の多くの因子に極めて敏感であり、ダイヤモンドを安定かつ再現性よく、かつ効率的に製造するという課題には十分満足できるレベルに至っていないのが現状である。
特に、前記プラズマ放電を利用した、マイクロ波プラズマCVD法やRF(高周波)プラズマCVD法などはプラズマを安定させるための複雑な同調装置を必要とするなど複雑かつ高価な装置となる問題があり、そしてその高価な装置の割りにはダイヤモンド成長が極めて遅く、得られたダイヤモンド膜中には高密度の欠陥や歪みが内在するという欠点があった。
このような歪みの発生は、ダイヤモンド薄膜中の欠陥及び結晶粒界並びに結晶粒界部の不純物によるもののほか、ダイヤモンド薄膜を生成又はコーティングする基板あるいはコーティング素地とダイヤモンドの熱膨張特性の差異に起因するものである。
また、目的とする特性をもつダイヤモンド薄膜を得ようとしても、特性の低い疑似ダイヤモンドやダイヤモンド状炭素薄膜が形成されたり、黒鉛化を生じるなどの品質の低下が起こる。
これらは、上記に述べたように、CVD法が現状では膜状ダイヤモンドを形成する数少ない有効な手段であっても、結果が十分でないことはダイヤモンドを安定かつ再現性よく製造できないということに起因している。
しかし、これは基板の両側に正しく均等にダイヤモンドが形成されるという保証もない(アンバランスな内部歪みが発生しないように均一な膜形成を行なうという願望が記載されているけれども、実際はそのような安定したものではない)し、歪み状態が結晶の中で依然として存在する。
しかも、両面になるべく均等にダイヤモンドが形成されるように、基板の加熱温度や膜形成のためのガスの流れ方向、分解析出を微妙にコントロールしなければ理想通りに実現させることは難しく、装置設計やコントロールの方法が複雑であるという問題がある。
しかし、いずれの方法も歪みを減少させるということでは一定の効果があると思われるが、その量は小さく、また最後尾の提案にあっては一度損傷させ(荒らし)た結晶を回復させることは容易ではないと思われる。いずれにしても、ダイヤモンド格子の残留歪みを減少させる有効な手段とは言えなかった。
特に、CBN膜は高温半導体膜(n型半導体を作成できる可能性があり、p型半導体の特性を有するダイヤモンドとの組合せで、超高速キャリヤーのトランジスターの可能性も示唆されている)として又CN膜はダイヤモンドよりも硬い硬質膜を形成することができると期待されているが、成膜の段階で上記のように歪みや欠陥が多く発生し易いので、実用化の目処がたっていないという問題があった。
1 ダイヤモンド等の薄膜の膜厚方向に沿って、0.1μm以上のラマン分光法で評価したダイヤモンド等のスペクトルの半価幅がほぼ一定である改質された膜厚み領域を有し、その半価幅は膜厚み残部の同最大半価幅の85%以下であることを特徴とするダイヤモンド等の薄膜
2 ダイヤモンド等の薄膜の膜厚方向に沿って改質された膜厚み領域を有し、その改質厚み部の屈折率が非改質膜厚み残部の最小屈折率より0.1%以上大きいことを特徴とするダイヤモンド等の薄膜
3 ダイヤモンド等の薄膜の改質部の少なくとも一部が多結晶若しくは配向性多結晶又は単結晶であることを特徴とする上記1又は2記載のダイヤモンド等の薄膜
4 ダイヤモンド等の薄膜の改質部の少なくとも一部が半導体化していることを特徴とする上記1〜3のそれぞれに記載のダイヤモンド等の薄膜
5 ダイヤモンド等の薄膜の改質部の上にさらに、ダイヤモンド等の多結晶若しくは配向性多結晶又は単結晶膜が形成されていることを特徴とする上記1〜4記載のダイヤモンド等の薄膜
6 ダイヤモンド等の薄膜の少なくとも一部に金属若しくはセラミックス又は導体若しくは絶縁体を被覆したことを特徴とする上記1〜5のそれぞれに記載のダイヤモンド等の薄膜
7 ダイヤモンド等の薄膜に1GHz〜500GHzのマイクロ波を照射して加熱することを特徴とする上記1〜6のそれぞれに記載のダイヤモンド等の薄膜の改質方法
8 マイクロ波照射加熱雰囲気が、真空雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気又はこれらの混合雰囲気であることを特徴とする上記7記載のダイヤモンド等薄膜の改質方法
9 500°C〜3000°Cに加熱することを特徴とする上記7又は8に記載のダイヤモンド等の薄膜の改質方法
10 ダイヤモンド等の薄膜に1GHz〜500GHzのマイクロ波を照射して加熱すると同時に、改質雰囲気に炭素、窒素若しくは硼素源供給源ガス又は半導体化元素を含むガスから選択した1種類以上のガスを導入し、改質と同時にさらに被改質体の上にダイヤモンド等の多結晶薄膜、配向性多結晶薄膜、単結晶薄膜又はこれらの半導体薄膜を形成することを特徴とするダイヤモンド等の薄膜の改質及び薄膜形成方法
11 レーザービーム切断等によるデバイス化の工程で発生した歪み又は損傷をマイクロ波照射によって除去又は減少させたことを特徴とする上記1〜6のそれぞれに記載のダイヤモンド等の薄膜及び上記7〜9のそれぞれに記載のダイヤモンド等の薄膜の改質方法並びに上記10記載のダイヤモンド等の薄膜の改質及び形成方法
12 ダイヤモンド等の成膜工程の後に、該ダイヤモンド等の薄膜、自立膜又は加工膜に1GHz〜500GHzのマイクロ波を照射して加熱し、ダイヤモンド等の薄膜を加工又は形状を付与することを特徴とするダイヤモンド等の薄膜の加工方法
、を提供する。
また、マイクロ波照射の温度、時間、強度、周波数、雰囲気などを調節することにより、被照射体の改質層の厚さを調節したりあるいは一定の深さまで傾斜的に改質を行なうことができるという改質操作に柔軟性があり、改質操作の工程の順序などに制限がない。すなわち改質と同時に、被改質面にさらに新たな高品質若しくは高配向性多結晶膜又は単結晶膜を形成したり、レーザーなどにより損傷を受けた面にマイクロ波を照射してその損傷部を回復させたり、改質と同時にダイヤモンド等の薄膜の面を半導体化するということもできる。このように操作性が非常に優れているという特徴を有する。
この非ダイヤモンド成分の存在と結晶粒界近傍の歪みの存在がダイヤモンドのヘテロエピタキシアル成長を妨げる原因の1つと考えられている。
このようなダイヤモンドの欠陥を調べる方法として、ラマン分光法は、ダイヤモンド薄膜中に含まれる非ダイヤモンド成分の同定や定量、ダイヤモンドの自身結晶性を調べるのに最も有効な分析法と言われている。(東レリサ−チセンタ−THE TRC NEWS No.35(Apr.1991)16〜21「ラマン分光法によるダイヤモンド(状)膜の評価」)
この半価幅が天然ダイヤモンドに近付くにしたがって、格子欠陥や不純物の混入あるいは不均一な歪みが解消され、天然ダイヤモンドの結晶性に近くなる。また、同時にダイヤモンド等薄膜中の欠陥の評価法としてカソード・ルミネセンス発光(CL)像を用いて比較を行なった。
ここで、加熱のために照射するマイクロ波の周波数が1GHz未満ではダイヤモンド薄膜の加熱には不十分であり、ラマン分光で評価したダイヤモンドスペクトルの半価幅にも照射前後で、その変化は認められなかった。また、500GHzを超えるとマイクロ波はダイヤモンド薄膜には殆ど入り込まず改質効果はない。したがって、上記の範囲のマイクロ波を使用することが必要である。
雰囲気はダイヤモンド等の黒鉛化を防止できる真空中、不活性ガス、還元性ガス、あるいはこれらの混合ガス中を使用する。
マイクロ波の照射により直接又はガスの1部がプラズマ化してダイヤモンド等の被照射体が加熱される。
前述のように、従来マイクロ波をプラズマ生成に活用してダイヤモンド薄膜を形成できることは知られているが、直接又はプラズマと併用してマイクロ波そのものをダイヤモンド等に照射して加熱あるいは薄膜を生成する取り組みは行なわれていない。
このような点から、1GHz〜500GHzのマイクロ波がダイヤモンド等の薄膜に存在する欠陥や歪みを減少させる改質に有効であるといことは、以上のことからは想像できないことであった。
また、改質手段として上記に示すように電子ビームあるいはルツボ中でのアニールという手段が提案されてはいるが、効果的にダイヤモンド等の薄膜に存在するの欠陥を減少させるというものではない。
以上のとおり、気相により形成した欠陥や歪みを含むダイヤモンド等の薄膜を、それまでの性質をより優れたものに改質できる効果を有する本発明は斬新性と著しい効果を有するものである。
本実施例において、マイクロ波照射装置の中にダイヤモンド薄膜を配置し1GHz〜500GHzのマイクロ波を照射して加熱する。図1に装置の概略説明図を示す。
該装置のほぼ中央にアルミナファイバー製(Al2O3 fiberboard)の容器を配置し、その中にダイヤモンド自立膜(試料)を置く。マイクロ波はダイヤモンド自立体に45°の角度で照射されるように配置する。
前記アルミナ製の容器にマイクロ波入射方向と直角となる位置に温度計測装置(Thermal Video System)を配置し、ダイヤモンド表面の温度を常時計測する。 図2に試料の配置、マイクロ波の照射方向及び温度計測の拡大した説明図を示す。装置内には1気圧の窒素ガスを流した(N2ガス気流中)。本実施例では6
0GHzのパルスマイクロ波(Pulse wide 5.5msec、Repetition frequency 5Hz)を用いたが、連続波を用いることもできる。
ダイヤモンド自立膜は例えばMo基板にプラズマ放電を利用した前記DC(直流)アークプラズマCVD法により薄膜を形成し、形成されたダイヤモンド膜を基板から加熱剥離(温度膨張の差を利用して剥離する)又は化学的手段により溶解除去してダイヤモンド自立膜とする。このようにして得た500μmの膜(自立膜)を2枚積層し試料として用いた。
前記ダイヤモンド自立膜はすでに知られた他のマイクロ波プラズマCVD法やRF(高周波)プラズマCVD法あるいは酸素アセチレン火炎法によって作製されたものでもよい。
本発明の実施例としては、ダイヤモンド自立膜の試料を多数個準備し、前記60GHzのパルスマイクロ波を用いてダイヤモンド自立膜の試料に45°の角度から照射し、800°C、1300°C、1500°C、1800°C、2200°C、2500°Cにそれぞれ加熱した(それぞれ加熱到達温度である)。
比較例として、天然の良好なダイヤモンド及び前記ダイヤモンド自立膜の試料にマイクロ波を一切照射しないものを準備した。以上の結果を次に示す。
まず、カソード・ルミネセンス発光(CL)像による比較である。
ダイヤモンド気相成長させた同一の試料について、図3は本発明の実施例で上記60GHzのパルスマイクロ波を用いて最終成長表面を1500°C(到達温度)に加熱し、さらに該照射面を表面から〜50μmの厚みだけ除去加工した面のカソード・ルミネセンス像(×20)を示す。
図4は比較例として単にダイヤモンド気相成長させたままの最終成長表面から〜50μmの厚みだけ除去加工した面のカソード・ルミネセンス像、すなわち未照射の試料(×30)を示す。
このカソード・ルミネセンス像の対比から明らかなように、図3に示す本発明の実施例でのCL発光は、図4に示すマイクロ波を照射していない比較例である未処理に比べ、極めて増大していることが分かる。すなわち、天然の良好なダイヤモンドに近似するCL発光をもっていることが分かる。
これはダイヤモンド気相成長面及びその厚み方向に分布する欠陥や歪みが減少したことに起因すると推定される。いずれにしても、マイクロ波照射による加熱がダイヤモンド気相成長膜の改質に有効であることが分かる。
次に、天然ダイヤモンド、60GHzのパルスマイクロ波を用いてダイヤモンド自立膜の試料に45°の角度から照射し800°C、1300°C、1500°C、1800°C、2200°C、2500°Cまでそれぞれ加熱した本発明の実施例のダイヤモンド薄膜の試料と、マイクロ波を照射していない気相成長ダイヤモンドの試料のラマンパラメーターの半価幅(cm-1)を対比する。 天然ダイヤモンドのラマンパラメーターの半価幅(cm-1)を図5に示す。
同図には、天然ダイヤモンドとしてライトイエロー(111)面からブラウン(100)面まで6種類の半価幅があるが、約3.5〜4.5cm-1の範囲にある。
図6にマイクロ波を照射し上記の温度にそれぞれ加熱した本発明の実施例とマイクロ波を照射していないラマンパラメーターの半価幅(cm-1)の比較例を示す。左端はマイクロ波を照射していない比較例であり、約8〜10cm-1の半価幅にある。
これに対し、本発明の実施例の中でマイクロ波を照射し1300°Cに加熱したものは、約7〜7.5cm-1の半価幅を持ち、さらにマイクロ波を照射し1500°Cまで加熱したものは、5〜6cm-1の半価幅となり、さらに2200°C〜2500°Cの高温まで照射加熱することにより、4〜5cm-1の半価幅となっている。このように、天然のダイヤモンドの半価幅に近似した値をもつことが確認された。また、この結果は上記カソード・ルミネセンス像の結果とよく一致している。
歪み回復の途中にある段階でむしろ見かけ上半価幅が増大する傾向を示したものと推測されるが、その明確な理由は不明である。しかし、改質効果は500°C付近から存在するとみてよい。
その後加熱温度の上昇と共に急速に半価幅の減少を示した。これは、マイクロ波の照射がダイヤモンドの結晶中の歪み、欠陥等の改質に極めて有効であることが分かる。
実施例においては、60GHzのマイクロ波を用いたが、1GHz以上のマイクロ波で改質効果が確認された。マイクロ波の周波数を上昇させ、500GHzを超える照射を実施したが、このような高い周波数ではマイクロ波は殆どダイヤモンド膜に入り込まず、改質効果は確認できなかった。したがって、1GHz以上500GHz以下のマイクロ波が改質効果に有効であることが分かる。
また、マイクロ波照射による加熱温度はダイヤモンド薄膜の性状にもよるが、500°C〜3000°Cの範囲で改質効果があることが確認された。
厚さ100μmの多結晶部及び配向性多結晶部を有し、最終成長面の凹凸を平坦加工した500μm膜厚みのダイヤモンド自立膜を準備し、この自立膜に60GHzのマイクロ波を最終成長面側から照射加熱した。改質雰囲気はAr気流中であり、加熱温度は800°Cである。
表1及び表2は、マイクロ波照射加熱をマイクロ波の出力を一定として2回繰り返して照射した照射条件と到達温度の関係(ダイヤモンド薄膜加熱温度の推移)を示している。
1回目のマイクロ波照射で800°Cまで加熱したダイヤモンド薄膜を、更に同一条件で2回目のマイクロ波の照射を行なった場合、到達温度が低下することが分かる(表1から表2に)。なお、これ以上の照射による到達温度の低下は殆どみられない。
以上で得られたダイヤモンド薄膜のマイクロ波照射面の屈折率を計測し、さらにこの面を順次機械加工により膜厚みを低減させ、マイクロ波照射面から深さ方向の屈折率を計測した。この深さ方向への屈折率の測定で、マイクロ波照射面から膜厚み方向に沿って屈折率が一定となっている領域が生成していることが確認でき、また同時に自立膜のマイクロ波を照射していない側、すなわち反対側の面よりも高い屈折率を有していることが確認できた。
屈折率特性は誘電率との間には、[誘電率=(屈折率)1/2 ]の関係がある。この誘電損失特性をマイクロ波未照射の同一構造ダイヤモンド薄膜と比較した結果、本発明のマイクロ波照射薄膜では10%を超す高周波誘電損失の低減が確認された。
屈折率との関係でみれば、マイクロ波照射改質部の屈折率が非改質部の最小屈折率よりも0.1%以上大きくなると、前記高周波誘電損失の低減効果が大きくなり、特に有効である。
なお、マイクロ波によらず、通常の加熱でも効果があるかどうかのテストを実施したが、1600°Cに至まで段階的に加熱してその結果をみたが、全く効果がなかった。
このように、マイクロ波照射による500°C以上の加熱は高周波誘電損失の低減効果に極めて有効であることが確認できた。
次に、ダイヤモンド等の薄膜に1GHz〜500GHzのマイクロ波を照射して加熱する同時に、改質雰囲気に炭素、窒素若しくは硼素源供給源ガス又は半導体化元素を含むガスから選択した1種類以上のガスを導入し、改質と同時にさらに被改質体の上にダイヤモンド等の多結晶薄膜、配向性多結晶薄膜、単結晶薄膜又はこれらの半導体薄膜を形成する例を説明する。
ダイヤモンド膜の気相合成過程では、上記のようにダイヤモンド成分の生成とともに、不可避的に非ダイヤモンド成分の生成が避けられないが、この非ダイヤモンド成分の低減にはプラズマ中で生成される炭素供給源(炭化水素系)ガスが解離、活性化して生成した原子状水素のエッチング作用が効果的であることが分かっている。
このため、現状の技術では多結晶ダイヤモンド薄膜を高品質化する試みの中で、炭素供給源ガス中の炭素濃度を低減させ、薄膜生成速度を低下させて原子状水素による非ダイヤモンド成分のエッチング効果を高めようとしている。
ところが、このエッチング作用はダイヤモンド薄膜中に種々の格子欠陥の生成を誘発するため、生成されるダイヤモンド膜中には多量の引っ張り歪み、圧縮歪みが蓄積することとなる。
このようなことから、従来は膜中の歪みが低減された結晶性の高い多結晶ダイヤモンド膜、配向性の高い同多結晶膜、さらにシリコンにかわるワイドバンドギャップ半導体生成に不可欠な単結晶膜は実現していなかった。
この基板付ダイヤモンド薄膜を、実施例1と同じくマイクロ波照射装置に挿入し、1GHz以上のマイクロ波をダイヤモンド薄膜に照射して加熱すると同時に、改質雰囲気に炭素供給源ガスを導入し、新たにダイヤモンド薄膜を成膜した。そして、得られた薄膜の構造をラマン分光法で評価した。
この結果、ラマン分光法で評価したダイヤモンドスペクトルの半価幅が膜厚み残部の同最大半価幅値の85%以下である改質された配向性多結晶膜及び、さらにマイクロ周波数の選択により、その上部に単結晶構造を有する膜層のダイヤモンド薄膜が得られた。この構造はSEM及びX線回折でも同様に確認できた。
このように、従来実現できなかった膜中の歪みが少なく結晶性の高い多結晶ダイヤモンド膜、配向性の高い同多結晶膜及び単結晶膜が本発明により容易に製造できることが分かった。
特に、単結晶構造を有するダイヤモンド薄膜はワイドバンドギャップ半導体材料あるいは高熱伝導性ヒートシンクとして有用である。
次に、改質部の一部が半導体特性を備えたダイヤモンド製電子デバイスの製造例を説明する。
上記実施例3と同様に、基板付ダイヤモンド薄膜をマイクロ波照射装置に挿入し、マイクロ波をダイヤモンド薄膜に照射して加熱すると同時に、改質雰囲気に炭素供給源ガスとBを半導体元素として含むガスを導入し、ダイヤモンド薄膜上にp型ダイヤモンド多結晶薄膜、配向性ダイヤモンド薄膜、さらには単結晶膜を成膜した。
得られた半導体薄膜の特性はマイクロ波照射の改質効果により飛躍的に向上していることが確認できた。なお、上記においては基板に形成したダイヤモンド薄膜の例を示したが、自立膜でも同様な結果が得られた。
次に、ダイヤモンド薄膜を例えばヒートシンクとして利用する場合の例を説明する。
被冷却部品をダイヤモンド薄膜上に固定して放熱性を向上させたり、被冷却部品の電気的接触を確保したり、デバイス機能確保のため、ダイヤモンド薄膜にメタライズ層等を形成することが不可欠である。
本実施例では、上記のようにダイヤモンド薄膜にマイクロ波を照射して加熱し改質したダイヤモンド薄膜にスパッタリングによりTi、Pt、Auの0.5μm厚のメタライズ層を形成した。なお、この場合に使用したダイヤモンド薄膜は0.1μm以上のラマン分光法で評価したダイヤモンドスペクトルの半価幅が膜厚み残部の同最大半価幅値の85%以下である改質部を備えている。
一方比較のために改質部をもたないダイヤモンド薄膜に同様にメタライズ層を形成して、これらの放熱性を対比した。
この結果、ダイヤモンドの厚さ及び改質部の厚みにもよるが、改質したメタライズダイヤモンドヒートシンクでは熱伝導率が向上し放熱性が少なくとも20%向上した。このように、マイクロ波照射加熱によるダイヤモンドの改質は、メタライズ層を施したデバイスとしての性能を向上させることができる。
上記においては、ヒートシンクについて説明したが、その外セラミックス膜等の絶縁膜、セラミック導電膜等を形成したダイヤモンド薄膜においても、それらの特性の向上が確認された。
一般に、ダイヤモンド薄膜は最終成長面の凹凸を加工により除去し、平滑面として使用される。このような平滑加工は基板に付着している状態で行なわれ、その平滑化加工面の要求される加工仕様も年々向上している。例えば、表面粗さでは数nmであり、平坦度は表面弾性波フイルターでは20nm以下が要求されつつある。
ダイヤモンド薄膜を成膜する基板としてはSi単結晶、Mo、W、Pt、SiC、SiO2 、AlN等が使用されるが、これらはダイヤモンドと比較すると熱膨張係数が極めて大きく、ダイヤモンド成膜温度である800〜1000°Cの高温から基板温度を冷却する時に大きな歪み(成膜側に圧縮歪み、基板側に引っ張り歪み)がダイヤモンドにかかることは避けられない。
また、上述のようにダイヤモンド成膜中にも多数の結晶欠陥や歪みが導入されているので、ダイヤモンド薄膜の平坦加工において、形状のゆがみが避けられなかった。特殊な3次元形状の自立膜の製造が必要な場合、特に問題となる。
次に、このダイヤモンド薄膜をダイヤモンド砥石で平滑化加工を行なった。加工後の平坦度は10nm以下であり、優れた平坦度が達成された。また同時に、ダイヤモンド薄膜の耐破壊信頼性も大幅に向上した。
さらに、薄膜の最終成長面を平坦化加工し、基板を除去した300μm厚みのダイヤモンド自立膜を用い、ダイヤモンドの最終成長表面側をマイクロ波の照射面として1GHz以上のマイクロ波を照射加熱した。
前記基板を除去した後のダイヤモンド薄膜は基板からの圧縮歪みが解放されるため、わずかながら凹型に変形することが多いが、これに適度なマイクロ波照射加熱を行なうことにより、前記凹型の変形が修復され極めて平坦性の良く、強度も向上した自立膜を得ることができた。
また、マイクロ波照射の温度、時間、強度、周波数、雰囲気などを調節することにより、被照射体の改質層の厚さを調節したりあるいは一定の深さまで傾斜的に改質を行なうことができる。
被照射体であるダイヤモンド等の膜の改質できる膜の厚さには特に制限はないが、0.01μm以上の膜厚を有していれば改質可能である。
上記のように、気相合成ダイヤモンド等の気相成長面に直接、切断加工又はバイス化のための研削加工や研磨加工等の最終仕上げ加工した面に、本発明のマイクロ波照射による改質を行なうことができる。
また、上記では理解を容易にするために実施例及び比較例についてダイヤモンド薄膜を中心に説明したが、CBN、BCN若しくはCN薄膜にも同等に適用できるものであり、それによる効果も同様であることが確認できた。
また、上記改質と同時に、ダイヤモンド薄膜等を半導体化しようとする場合には、半導体化元素を含む反応性ガスを単独で又は炭素供給源ガスと共に雰囲気ガスに導入し、ダイヤモンドの少なくとも一部を半導体化することができる。
さらに、上記の改質と同時に、被改質面であるダイヤモンド等の薄膜上に、さらに高品質若しくは高配向性多結晶膜又は単結晶膜を形成することもできる。
特に、マイクロ波照射により歪みを減少させダイヤモンド等の膜自体の強度を増大させるだけでなく、例えば膜自体の歪みの減少により基板との面の整合性を向上させ、基板上に形成された膜の付着強度を増加させることもできる。
さらに、本発明のマイクロ波照射により、多結晶あるいは配向性の膜品質が向上した配向性膜又は単結晶質の一段優れた膜特性をもつダイヤモンド等に、また例えばデバイス化のためにYAGレーザーなどにより切断した面あるいは損傷を受けた面をマイクロ波照射によりその損傷部を回復させ、それ以外の部と殆ど変わらないダイヤモンド等の薄膜に形成することができる。
また、マイクロ波照射の温度、時間、強度、周波数、雰囲気などを調節することにより、被照射体の改質層の厚さを調節したりあるいは一定の深さまで傾斜的に改質を行なうことができるという改質操作に柔軟性があり、改質操作の工程の順序などに制限がない。すなわち改質と同時に、被改質面にさらに新たな高品質若しくは高配向性多結晶膜又は単結晶膜を形成したり、レーザーなどにより損傷を受けた面にマイクロ波を照射してその損傷部を回復させたり、改質と同時にダイヤモンド等の薄膜の面を半導体化するということもできる。このように操作性が非常に優れているという特徴を有する。
本発明により改質を受けたダイヤモンド等は、歪み、欠陥などの劣化因子を除去または低減することができ、高硬度、低摩擦摺動性、低熱膨張率、高温かつ化学的安定性(不活性)、高熱伝導性、高絶縁性、高赤外線透過率、高反射率、高音速性、ワイドバンドギャップ半導体特性、高速キャリヤー、カラーセンター、負電子親和力、生体適応性、優れた音響特性などダイヤモンド等がもつ望ましい特性を一層向上させ、特性の安定性と破壊信頼性も著しく向上させ、上記のような広範囲なダイヤモンド等の用途に全て適用できるものである。
2 温度計測装置
3 アルミナファイバーボード
4 試料
5 アルゴンガス導入孔
6 リーク孔
Claims (12)
- ダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の膜厚方向に沿って、0.1μm以上のラマン分光法で評価したダイヤモンド等のスペクトルの半価幅がほぼ一定である改質された膜厚み領域を有し、その半価幅は膜厚み残部の同最大半価幅の85%以下であることを特徴とするダイヤモンド、CBN、BCN又はCN薄膜。
- ダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の膜厚方向に沿って改質された膜厚み領域を有し、その改質厚み部の屈折率が非改質膜厚み残部の最小屈折率より0.1%以上大きいことを特徴とするダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜。
- ダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜における改質部の少なくとも一部が多結晶若しくは配向性多結晶又は単結晶であることを特徴とする請求項1又は2記載のダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜。
- ダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の改質部の少なくとも一部が半導体化していることを特徴とする請求項1〜3のそれぞれに記載のダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜。
- ダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の改質部の上にさらに、同多結晶若しくは配向性多結晶又は単結晶膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜4記載のダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜。
- ダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の少なくとも一部に金属若しくはセラミックス又は導体若しくは絶縁体を被覆したことを特徴とする請求項1〜5のそれぞれに記載のダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜。
- ダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜に1GHz〜500GHzのマイクロ波を照射して加熱することを特徴とする請求項1〜6のそれぞれに記載のダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の改質方法。
- マイクロ波照射加熱雰囲気が、真空雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気又はこれらの混合雰囲気であることを特徴とする請求項6記載のダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の改質方法。
- 500°C〜3000°Cに加熱することを特徴とする請求項7又は8に記載のダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の改質方法。
- ダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜に1GHz〜500GHzのマイクロ波を照射して加熱すると同時に、改質雰囲気に炭素、窒素若しくは硼素源供給源ガス又は半導体化元素を含むガスから選択した1種類以上のガスを導入し、改質と同時にさらに被改質体の上にダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCNの多結晶薄膜、配向性多結晶薄膜、単結晶薄膜又はこれらの半導体薄膜を形成することを特徴とするダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の改質及び薄膜形成方法。
- レーザービーム切断等によるデバイス化の工程で発生した歪み又は損傷をマイクロ波照射によって除去又は減少させたことを特徴とする請求項1〜6のそれぞれに記載のダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜及び請求項7〜9のそれぞれに記載の同薄膜の改質方法並びに請求項10記載の同薄膜の改質及び形成方法。
- ダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCNの成膜工程の後に、同薄膜、自立膜又は加工膜に1GHz〜500GHzのマイクロ波を照射して加熱し、同薄膜を加工又は形状を付与することを特徴とするダイヤモンド薄膜又はCBN、BCN若しくはCN薄膜の加工方法。
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