しかしながら、上述のような従来の自動変速機の調整方法および調整システムにあっては、製造段階での自動変速機やその油圧制御装置の単位での総合的な特性をある程度調整することはできるが、出荷後の車両の修理を行う段階で、油圧制御装置内のリニアソレノイドバルブ等を交換したり、クラッチやブレーキ等の摩擦係合要素の摩擦材等を交換したりする場合には、迅速で効果的な調整を行うことが容易でなかった。
すなわち、修理段階で使用する交換専用部品に製造段階と同様な特性値データを個々に添付したり、個々の交換部品の特性値データを管理するデータベースにアクセス可能な設備を多様な修理工程に確実に配備したりすることは、コスト的に困難であった。また、修理工場での簡単な計測によって交換部品の特性値を製造段階と同程度の計測精度で計測することは困難であり、新たに設定された特性値が不適切であったり、特性値の書き換えがなされなかったりする可能性があった。
そのため、例えば自動変速機の製造工程においては、部品のばらつき特性の計測情報を基に油圧制御のための電流指令信号を適当な補正値を用いて調整し、各自動変速機のクラッチ係合力のばらつきを抑えるといったことができるが、その後、油圧制御装置内のリニアソレノイドを交換したり、クラッチやブレーキ等の摩擦係合要素の部品交換を行ったりした場合には、不適切な特性値が設定されたり特性値の書き換えがなされなかったりすることで補正値が適当な値でなくなり、部品交換前には感じられなかった変速ショックが生じてしまうことがあった。
そればかりか、電子制御式の自動変速機では、クラッチ係合油圧の制御指令信号を好ましい変速特性に近付けるような学習制御が可能であるが、その場合に何らかの不具合で過度な補正がされてしまうのを抑制するために設定されるガード値を、油圧制御装置や自動変速機の総合特性が修理による部品交換で大きくばらついてしまうとことをも考慮して緩い設定値とする必要があった。そのため、修理の必要がない新しい車両において学習制御の精度が低下することを回避できなかった。
本発明は、上述のような従来技術の未解決の課題に鑑みてなされたもので、油圧制御バルブや摩擦係合要素の部品交換等のような修理を行った場合に、迅速で効果的な調整を行うことができる自動変速機の調整方法および調整システムを提供することを目的とし、併せて、それらに好適な自動変速機の電子制御装置を提供することを目的とする。
本発明の自動変速機の調整方法は、上記目的達成のため、(1)自動変速機の油圧式の摩擦係合要素および油圧制御装置を構成する複数の部品についての個体毎の特性誤差を示す第1の特性情報と前記油圧制御装置に供給される制御信号を前記複数の部品の特性誤差に応じて補正する補正値とを記憶手段にそれぞれ記憶させる記憶段階と、前記複数の部品のうち前記油圧制御装置を構成する何れかの部品を所定の許容誤差内に作製された交換部品に交換する際、前記記憶手段に記憶された該何れかの部品の前記第1の特性情報を特性誤差ゼロを示す第2の特性情報に更新する特性情報更新段階と、前記複数の部品のうち未交換の部品について前記記憶手段に記憶された前記第1の特性情報と前記第2の特性情報とに基づいて新たな補正値を算出し、前記記憶手段に記憶されていた前記補正値を該算出した新たな補正値に更新する補正値更新段階と、を含むものである。
この方法では、自動変速機の油圧式の摩擦係合要素および油圧制御装置を構成する複数の部品についての特性情報と摩擦係合要素の係合特性を調整する制御信号の補正値とを予め自動変速機内の記憶手段に記憶させておき、油圧制御装置を構成する何れかの部品を許容誤差内に作製された交換部品に交換する際には、記憶手段に記憶されたその何れかの部品の第1の特性情報を特性誤差ゼロを示す第2の特性情報に更新し、前記何れかの部品以外の未交換部品の既存の特性情報と前記第2の特性情報とに基づいて新たな補正値を算出して、補正値を更新することになる。したがって、交換部品の特性情報を不適当に更新したり部品交換前の特性情報を用いたりすることによって制御信号の補正値が不適当な値となることや、それに起因して変速ショックが生じることを防止することができるとともに、修理段階での困難な特性値計測作業をなくすことができ、迅速で効果的な調整を行うことができる。
上記(1)の構成を有する本発明の自動変速機の調整方法においては、(2)前記何れかの部品が前記油圧制御装置を構成する何れかのソレノイドバルブであり、前記第2の特性情報が該何れかのソレノイドバルブの設計上の特性を示すものであるのが好ましい。
この場合、特性値計測作業が困難で測定精度不足となり易いソレノイドバルブの特性情報を不適当に更新したり部品交換前の特性情報を用いたりすることが確実に防止される。
また、上記(1)または(2)の構成を有する自動変速機の調整方法においては、(3)前記油圧制御装置を構成する前記何れかの部品の故障の有無を判定する第1の判定段階と、前記摩擦係合要素を構成するピストンおよび摩擦材のうち少なくとも一方の部品の故障の有無を判定する第2の判定段階と、をさらに含み、前記第1の判定段階で前記何れかの部品の故障が有ると判定されたとき、前記特性情報更新段階での前記何れかの部品の特性情報の更新と前記補正値更新段階での前記補正値の更新とを実行し、前記第2の判定段階で前記摩擦係合要素を構成する前記少なくとも一方の部品の故障が有ると判定されたとき、前記少なくとも一方の部品をその所定の交換部品に交換した摩擦係合要素の、解放状態から摩擦係合開始までの前記ピストンのストローク値と、前記複数の部品のうち未交換の部品について前記記憶手段に記憶された前記第1の特性情報とに基づいて新たな補正値を算出し、前記記憶手段に記憶されていた前記補正値を該算出した新たな補正値に更新するのが好ましい。
これにより、油圧制御装置を構成する何れかの部品の故障が有るときには、特性情報更新段階でのその何れかの部品の特性情報更新と補正値更新段階での補正値更新とを実行し、摩擦係合要素を構成するピストンおよび摩擦材のうち少なくとも一方の部品の故障が有るときには、その少なくとも一方の部品をその製造時と同等の誤差内に調整可能な交換部品に交換し、その摩擦係合要素の摩擦係合開始までのピストンストローク値の測定値と未交換の部品についての特性情報とに基づいて補正値を更新することになる。したがって、摩擦係合要素の摩擦材等の交換時にはピストンストローク値を公差内に設定して、その際に既知となる部品交換後のピストンストローク値に基づいて補正値を的確に算出し、更新することができる。
さらに、上記(3)の構成を有する自動変速機の調整方法においては、(4)前記ピストンのストローク値を前記記憶手段に記憶させ、前記補正値更新段階で前記補正値を算出する際、前記記憶手段に記憶された前記ピストンのストローク値と、前記複数の部品のうち未交換の部品について前記記憶手段に記憶された前記第1の特性情報とに基づいて、前記新たな補正値を算出するようにしてもよい。
この場合、摩擦係合要素の部品交換時に摩擦係合時の油圧やピストンエンド荷重を調整するため、摩擦係合開始時までのピストンのストローク値は、通常の修理手順に従ってノギスやゲージ等で測定されて公差内に調整されるものであって既知の値となるので、このピストンストローク値を記憶手段に更新記憶させることで、更新されたピストンストローク値と、未交換部品の第1の特性情報とに基づいて、新たな補正値を迅速に精度良く算出することができる。
上記(3)または(4)の自動変速機の調整方法においては、(5)前記記憶段階で前記摩擦係合要素を構成するリターンスプリングの諸元値を前記記憶手段に記憶させておき、前記補正値更新段階で、前記ピストンのストローク値と前記リターンスプリングの諸元値とに基づいて前記摩擦係合要素の係合側のピストンエンド荷重を算出するとともに、前記ピストンエンド荷重に基づいて前記補正値を算出するのがよい。
この場合、摩擦係合要素の部品交換による影響を補正値の更新に的確に反映させることができ、しかも、部品交換後の摩擦係合要素のピストンエンド荷重を迅速・的確に算出することができる。
また、上記(5)の構成を有する自動変速機の調整方法においては、(6)前記摩擦係合要素のピストンエンド荷重の算出と、前記ピストンエンド荷重と前記記憶手段に記憶された前記未交換の部品の特性値とに基づく前記補正値の算出とを、前記自動変速機の電子制御装置を用いて実行するようにしてもよい。
この場合、部品交換時に記憶手段内の特性情報を更新するだけで、自動変速機の電子制御装置によって確実に補正値を算出させることができる。
上記(1)〜(6)の何れかの構成を有する自動変速機の調整方法においては、(7)前記特性情報更新段階での前記何れかの部品の特性情報の更新と前記補正値更新段階での前記補正値の更新とのうち少なくとも前記特性情報の更新を、前記記憶手段にアクセス可能な状態で前記自動変速機に接続されるサービスツールを用いて実行するのが好ましい。
この場合、記憶手段にアクセス可能な自動変速機外部のサービスツールによって、交換部品の特性情報の更新がなされ、あるいは更に補正値の更新がなされるので、例えばEEPROMの書き換えが可能なロムライタ程度の簡単な手段で特性情報や補正値の更新が可能となる。
一方、本発明に係る自動変速機の調整システムは、上記目的達成のため、(8)自動変速機の油圧式の摩擦係合要素および油圧制御装置を構成する複数の部品についての個体毎の特性誤差を示す第1の特性情報と前記油圧制御装置に供給される制御信号を前記複数の部品の特性誤差に応じて補正する補正値とをそれぞれ書き換え可能に記憶する記憶手段と、前記複数の部品のうち前記油圧制御装置を構成する何れかの部品が所定の許容誤差内に作製された交換部品に交換されたとき、前記記憶手段に記憶された該何れかの部品の前記第1の特性情報を特性誤差ゼロを示す第2の特性情報に更新する特性情報更新手段と、前記何れかの部品が前記交換部品に交換されたとき、前記複数の部品のうち未交換の部品について前記記憶手段に記憶された前記第1の特性情報と前記交換部品についての前記第2の特性情報とに基づいて新たな補正値を算出し、前記記憶手段に記憶されていた前記補正値を該算出した新たな補正値に更新する補正値更新手段と、を備えたものである。
この構成により、自動変速機の油圧式の摩擦係合要素および油圧制御装置を構成する複数の部品についての特性情報と摩擦係合要素の係合特性を調整する制御信号の補正値とが予め自動変速機内の記憶手段に記憶され、油圧制御装置を構成する何れかの部品が許容誤差内に作製された交換部品に交換されるとき、記憶手段に記憶されたその何れかの部品の特性情報が特性誤差ゼロを示す第2の特性情報に更新されることで、その何れかの部品以外の未交換部品の既存の特性情報と前記第2の特性情報とに基づいて新たな補正値が算出され、補正値が更新される。したがって、交換部品の特性情報が不適当に更新されたり部品交換前の特性情報が使用されたりすることがなくなり、補正値の不適当な設定に起因して変速ショックが生じるようなことが防止されるとともに、修理段階での困難な特性値計測作業をなくすことができ、迅速で効果的な調整を行うことが可能となる。
また、上記(8)の構成を有する自動変速機の調整システムにおいては、(9)前記油圧制御装置を構成する前記何れかの部品の故障の有無を判定する第1の判定手段と、前記摩擦係合要素を構成するピストンおよび摩擦材のうち少なくとも一方の部品の故障の有無を判定する第2の判定手段と、を備え、前記補正値更新手段が、前記第1の判定手段で前記何れかの部品の故障が有ると判定された場合には、前記特性情報更新手段での前記何れかの部品の特性情報の更新と前記補正値更新手段での前記補正値の更新とを実行させ、前記第2の判定手段で前記摩擦係合要素を構成する前記少なくとも一方の部品の故障が有ると判定された場合には、前記少なくとも一方の部品が交換された摩擦係合要素の解放状態から摩擦係合開始までの前記ピストンのストローク値が入力されたとき、前記複数の部品のうち未交換の部品について前記記憶手段に記憶された前記第1の特性情報と前記ストローク値とに基づいて新たな補正値を算出し、前記記憶手段に記憶されていた前記補正値を該算出した新たな補正値に更新するようにするのが好ましい。
この構成により、油圧制御装置を構成する何れかの部品の故障が有るときには、特性情報更新段階でのその何れかの部品の特性情報更新と補正値更新段階での補正値更新とが実行され、摩擦係合要素を構成するピストンおよび摩擦材のうち少なくとも一方の部品の故障が有るときには、その少なくとも一方の部品をその製造時と同等の誤差内に調整可能な交換部品に交換する作業がなされ、そのときに摩擦係合要素の摩擦係合開始までのピストンストローク値の測定作業がなされることとなり、そのピストンストローク値と未交換の部品についての特性情報とに基づいて補正値が更新される。したがって、摩擦係合要素の摩擦材等の交換時に公差内に設定されるピストンストローク値に基づいて補正値を的確に算出し、更新することができる。
上記(9)の構成を有する自動変速機の調整システムにおいては、(10)前記補正値更新手段が、前記ピストンのストローク値と前記摩擦係合要素を構成するリターンスプリングの諸元値とに基づいて前記摩擦係合要素の係合側のピストンエンド荷重を算出するとともに、前記ピストンエンド荷重に基づいて前記補正値を算出するようにするのが好ましい。
この場合、摩擦係合要素の部品交換による影響を補正値の更新に的確に反映させることができ、しかも、部品交換後の摩擦係合要素のピストンエンド荷重を迅速・的確に算出することができる。
上記(8)〜(10)の何れかの構成を有する自動変速機の調整システムにおいては、(11)前記特性情報更新手段および前記補正値更新手段のうち少なくとも前記特性情報更新手段が、前記記憶手段にアクセス可能な状態で前記自動変速機に接続されるサービスツールで構成されるのが望ましい。
この場合、記憶手段にアクセス可能な自動変速機外部のサービスツールによって、交換部品の特性情報の更新がなされ、あるいは更に補正値の更新がなされるので、修理段階でも、例えばEEPROMの書き換えが可能なロムライタ程度の簡単な手段で特性情報や補正値の更新が可能となる。
さらに、上記(8)〜(11)の何れかの構成を有する自動変速機の調整システムにおいては、(12)前記補正値更新手段が前記自動変速機の電子制御装置を含んで構成されるようにしてもよい。
この場合、部品交換時に記憶手段内の特性情報を更新するだけで、自動変速機の電子制御装置によって確実に補正値を算出させることができる。
本発明に係る自動変速機の電子制御装置は、上記目的達成のため、(13)自動変速機の油圧式の摩擦係合要素の係合特性を調整するよう前記自動変速機の油圧制御装置に供給する制御信号を補正する自動変速機の電子制御装置であって、前記摩擦係合要素および油圧制御装置を構成する複数の部品についての個体毎の特性誤差を示す第1の特性情報と前記制御信号を前記複数の部品の特性誤差に応じて補正する補正値とをそれぞれ書き換え可能に記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された前記第1の特性情報のうち前記油圧制御装置を構成する何れかの部品の特性情報が特性誤差ゼロを示す第2の特性情報に書き換えられたとき、前記複数の部品のうち未交換の部品について前記記憶手段に記憶された前記第1の特性情報と前記第2の特性情報とに基づいて新たな補正値を算出し、前記記憶手段に記憶されていた前記補正値を該算出した新たな補正値に更新する補正値更新手段と、を備えたものである。
この構成により、自動変速機の油圧制御装置を構成する複数の部品のうち何れかの部品が許容誤差内の交換部品に交換されたとき、その部品の特性情報が特性誤差ゼロを示す第2の特性情報に書き換えられることから、交換部品のばらつき特性による誤差をさらに拡げるような補正値が設定されてしまう事態を回避することができ、それに起因して不適当な補正値が設定され、変速ショックが生じるのを防止することができる。しかも、部品交換時に記憶手段内の特性情報を更新するだけで、自動変速機の電子制御装置内で確実に補正値を算出させることができる。
また、本発明に係る別の自動変速機の電子制御装置は、(14)自動変速機の油圧式の摩擦係合要素の係合特性を調整するよう前記自動変速機の油圧制御装置に供給する制御信号を補正する自動変速機の電子制御装置であって、前記摩擦係合要素および油圧制御装置を構成する複数の部品についての個体毎の特性誤差を示す第1の特性情報と前記制御信号を前記複数の部品の特性誤差に応じて補正する補正値とをそれぞれ書き換え可能に記憶する記憶手段と、前記摩擦係合要素を構成するピストンの、前記摩擦係合要素の解放状態から前記摩擦係合要素の摩擦係合開始までのストローク値が入力されたとき、前記複数の部品のうち未交換の部品について前記記憶手段に記憶された前記第1の特性情報と前記ストローク値とに基づいて新たな補正値を算出し、前記記憶手段に記憶されていた前記補正値を該算出した新たな補正値に更新する補正値更新手段と、を備えたものである。
この構成により、摩擦係合要素の部品交換による影響を補正値の更新に的確に反映させることができ、しかも、部品交換後の摩擦係合要素のピストンエンド荷重を迅速・的確に算出することができる。
本発明によれば、自動変速機を制御するソレノイドバルブや摩擦係合要素の部品交換等のような修理を行った場合に、交換部品の特性情報を不適当に更新したり交換前の部品の特性情報を用いたりすることによって変速ショックが生じるのを防止することができるとともに、修理段階での困難な特性値計測作業をなくすことができ、迅速で効果的な調整を行うことができる自動変速機の調整方法および調整システムを提供することができる。
さらに、部品交換時に記憶手段内の特性情報を更新するだけで、内部のコンピュータによって迅速・確実に交換部品に対する制御信号の補正値を算出できる自動変速機の電子制御装置を提供することもできる。
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面に基づいて説明する。
(第1の実施の形態)
図1から図4は、本発明に係る自動変速機の調整システムの第1の実施の形態を示す図であり、図1にその自動変速機を搭載した車両の概略構成を示している。
まず、その構成について説明すると、図1に概略ブロック図で示す車両は、原動機である例えば多気筒内燃機関からなるエンジン10と、このエンジン10を電子制御するエンジンECU(エンジン電子制御ユニット)15と、エンジン10からの動力を駆動輪110側に伝達する変速可能な動力伝達装置としての自動変速機20と、エンジンECU15との間でエンジン10の運転状態や変速制御に関わる制御情報を交信するとともにドライバからの要求操作や車両の運転状態に応じて自動変速機20を制御するトランスミッションECU(トランスミッション電子制御ユニット)30とを搭載しており、自動変速機20は、例えば図示しないトルクコンバータと、油圧制御装置40と、変速機本体50(ギヤトレーン)とによって構成されている。
トルクコンバータは、例えばエンジン10に連結されたポンプインペラ(入力側部材)と、このポンプインペラに対向するとともに変速機本体50の入力軸に連結されたタービンランナと、ポンプインペラ及びタービンランナの間に位置するステータとを含んで構成されており、エンジン10により駆動される入力側のポンプインペラの回転(回転数N1)によって作動油の流れが生じるとき、タービンランナがその流れの慣性力を受けて変速機本体50の入力軸を回転させるようになっている。トルクコンバータには、また、入力側のポンプインペラ及びシェルカバーと出力側のタービンランナとを選択的に相互に拘束可能なロックアップクラッチが設けられており、機械式クラッチを併用することでトルク伝達効率を高めることができるようになっている。
変速機本体50は、複数、例えば大流量のリニアソレノイドバルブ41および図示しない他の3つの大流量のリニアソレノイドバルブ(以下、リニアソレノイドバルブ41等という)によって変速操作される遊星歯車式のギヤトレーンで構成されたもので、タービンランナからの回転を入力する入力軸と、前進用クラッチ(例えばC1クラッチ)により入力軸に選択的に連結される回転軸と、その回転軸の軸方向に隣り合うように配置された複数のプラネタリギヤとを備えている。
複数のプラネタリギヤは、それぞれ公知のものであり、その1つのプラネタリギヤは、例えば変速機入力軸を取り囲む円筒状の回転軸に固定されたサンギヤと、ブレーキ(例えばB2ブレーキ)の係合によって変速機ケースに係止されるリングギヤと、これらサンギヤおよびリングギヤに噛合するピニオンと、ワンウェイクラッチを介して変速機ケースに一方向回転可能に支持されるとともにピニオンを回転自在に保持し、ブレーキ(例えばB3ブレーキ)の係合によって変速機ケースに係止されるキャリアとによって構成されている。
ここにいうクラッチやブレーキは、変速機本体50で形成すべき変速段に応じて、油圧制御装置40によりそれぞれの係合状態と解放状態とを切り換えられる油圧式の摩擦係合要素である。
また、その変速段は主として車速とスロットル開度をパラメータとする変速制御パターンに従って、トランスミッションECU30により決定される。また、変速機本体50の変速機出力軸の回転(回転数N2)は、図示しないディファレンシャルギヤを介して駆動輪110側に伝達される。
油圧制御装置40は、大流量のリニアソレノイドバルブ41等と、リニアソレノイドバルブ41を通る油路42および他の各リニアソレノイドバルブを通る油路(図示していない)を形成したバルブボディ本体43とを含んで構成されており、各リニアソレノイドバルブ41等の出力圧に応じて変速機本体50内のクラッチあるいはブレーキとなる複数、例えば4つの摩擦係合要素51等(1つのみ図示している摩擦係合要素51および図示しない他の3つの摩擦係合要素)の作動油圧をそれぞれ直接的に制御することで、変速機本体50の変速段を切り換えることができるようになっている。
摩擦係合要素51は、例えば図2に模式的に示すように、外側の筒状要素71にスプライン結合した複数の摩擦材プレート72と、外側の筒状要素71に係止されて複数の摩擦材プレート72の軸方向一方側(同図中の右側)への移動を規制するストッパ73と、複数の摩擦材プレート72の間に位置するよう内側の筒状要素75にスプライン結合した複数の摩擦材プレート76と、リニアソレノイドバルブ41の出力圧に加圧された作動油の油圧を軸方向一方側への油圧として受圧することにより複数の摩擦材プレート72、76をストッパ73側に押圧するピストン77と、ピストン77を軸方向他方側に復帰させるリターンスプリング78と、ピストン77を収納するケース(図示していない)を有している。
ここで、複数のリニアソレノイドバルブ41等は、それぞれ要求変速段に応じた所定の組合せで指示電流を供給されるようになっており、トランスミッションECU30によるそれらソレノイドバルブ41等への供給電流Idの制御によって、例えばオイルポンプ13からの供給圧が各ソレノイドバルブ41により供給電流Idに応じた出力圧Pvに調圧されて摩擦係合要素51に供給され、他のソレノイドバルブでも供給電流に応じた出力圧が調圧されて、変速機本体50内の複数のクラッチおよびブレーキが所定のシフトパターンに即した最適な変速段を形成するように制御されるようになっている。
なお、リニアソレノイドバルブ41は、例えば図1および図2に示すように、供給圧ポート41p、フィードバックポート41b、ドレーンポート41dおよび出力ポート41cが形成されたスリーブ状のバルブハウジング41hと、バルブハウジング41h内に摺動可能に保持されたスプール41sと、スプール41sを軸方向一方側に付勢する圧縮コイルばね41kと、供給される電流に応じて圧縮コイルばね41kの付勢力に抗してスプール41sを軸方向他方側に変位させる吸引力を発生する駆動ソレノイド部41mとを備えている。この第1リニアソレノイドバルブ41においては、スプール41sが駆動ソレノイド部41mへの供給電流に応じた軸方向他方側への推力を駆動ソレノイド部41mのプランジャ41gから受け、圧縮コイルばね41kを圧縮しながら変位する。なお、スプール41sは、フィードバックポート41bを通し出力ポート41cからの出力圧Pvが導入されるフィードバック圧室41f内において図2中の右方側(軸方向一方側)の受圧面が左方側の受圧面よりも受圧面積差Sfbだけ広くなるように、フィードバック圧室41fの両側のランド部直径を異ならせたもので、フィードバック圧室41f内の圧力(出力圧)に応じた付勢力(出力圧Pv×受圧面積差Sfb)よっても軸方向一方側に付勢されるようになっている。
このリニアソレノイドバルブ41は、駆動ソレノイド部41mへの供給電流が最小値となるときに出力圧Pvが最小となり、供給電流が最大値のときに出力圧が最大となる常閉型(ノーマルクローズタイプ)のものであり、駆動ソレノイド部41mへの供給電流に応じて出力圧(出力流量)を増加させるようになっている。なお、リニアソレノイドバルブ41は、常開型(ノーマルオープンタイプ)であってもよい。その場合、駆動ソレノイド部41mへの供給電流が最大値となるときに出力圧Pvが最小となり、供給電流が最小値のときに出力圧が最大となるが、駆動ソレノイド部41mへの供給電流に応じて出力圧が変化する特性となる。
一方、本実施形態のトランスミッションECU30は、例えば自動変速機20内にエンジンECU15と一体の制御ユニットとして構成されており、例えばアクセルペダルの踏込み量を検知するアクセル開度センサ、スロットルバルブの開度TVOを検出するスロットル開度センサ、エンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ、エアフローメータ等の吸入空気量センサ、所定角度毎のクランク回転を検出可能なクランク角センサからなるエンジン回転数センサ等からのセンサ情報、および、ブレーキペダルの踏込み量を検出するブレーキペダルセンサからの検知情報がそれぞれ取り込まれるようになっている。また、このトランスミッションECU30には、車室内に設けられたシフトレバーのアップ・ダウン操作を検出するシフト位置センサ、トルクコンバータの出力側でタービンランナの回転数(回転速度)を検出するタービン回転数センサ、および、変速機本体50の出力側で変速機出力軸の回転速度を検出する車速センサからの検知情報もそれぞれ取り込まれるようになっている。
エンジンECU15と一体のトランスミッションECU30は、機能的には、センサ情報に基づいて演算処理を実行する演算部31と、後述する制御プラグラムや変速マップ、各種設定値等を記憶して演算部31での演算に供するメモリ32と、リニアソレノイドバルブ41等および図示しないアクチュエータ類への駆動電流出力を制御する信号出力部33とを有している。
このトランスミッションECU30は、具体的なハードウェア構成を図示しないが、CPU、ROM、RAM、バッテリをバックアップ電源とするバックアップRAM、書き換え可能な不揮発性メモリであるEEPROM、入力インターフェース回路、出力インターフェース回路、定電圧電源及び通信IC等を含んで構成されており、CPUで構成される演算部31により出力インターフェース回路を含む信号出力部33からの信号出力を制御することで油圧制御装置40内の複数のリニアソレノイドバルブ41等のバルブ切換え位置を制御する。これにより、トランスミッションECU30は、シフト位置、車速、スロットル開度及び車両の走行状態に応じて、変速機本体50の変速点制御やトルクコンバータのロックアップ制御等を実行するとともに、エンジン発生トルクに応じて最適なライン油圧になるよう自動変速機20のライン油圧制御を実行するようになっている。このような自動変速のための制御自体は、公知のものと同様である。
メモリ32はEEPROM32aを有しており、このEEPROM32a(バックアップRAMでもよい)は、摩擦係合要素51等およびその油圧制御装置40を構成する複数の部品41、43および71〜78等についての固体毎の特性誤差を示す第1の特性情報と、リターンスプリング78を含む一部の部品の部品仕様を示す諸元値と、摩擦係合要素51の係合特性を調整するよう油圧制御装置40に供給される制御信号を補正する補正値とを、それぞれ書き換え可能に記憶する記憶手段となっている。
また、信号出力部33は、リニアソレノイドバルブ41等を駆動するための駆動回路33a、33b、33cおよび33dを含んでいる。
ここにいう第1の特性情報とは、各部品の個体毎の特性上のばらつき誤差に対応するデータで、例えば信号出力部33からリニアソレノイドバルブ41(交換される部品)に供給される制御信号としての基準入力電流Idaに対し、リニアソレノイドバルブ41が発生する出力圧(油圧)が、その供給電流Idaで指示される制御指示値Pvから個体毎のばらつき誤差ΔPvに起因して出力油圧Pv´となるとき、そのばらつき誤差ΔPv、あるいはPv´/Pvで表わされるばらつき特性Bv(Bv=Pv´/Pv)として与えられる。なお、基準入力電流Idaは少なくとも1つの電流値で規定され、ばらつき誤差ΔPvやばらつき特性Bvはその基準電流値に対応して個々の部品(個体)毎に少なくとも1つ設定される。
本実施形態では、リニアソレノイドバルブ41は、組立て時の部品としても交換専用の部品としても、基準入力電流Idaに対する基準出力油圧をPvとするときの実出力圧Pv´が所定の許容誤差+Ev1、-Ev2で規定される公差内のばらつき範囲、すなわち、Pv-Ev2以上、Pv+Ev1以下となるように作製されており、その油圧出力特性は、例えば図3(b)のように示すことができる。なお、交換専用の部品は、+Ev1、-Ev2で規定される公差範囲が組立て時の誤差範囲より狭く設定されているのがよい。
また、メモリ32には、予めリニアソレノイドバルブ41等の駆動回路としての信号出力部33における信号出力特性が特性情報として記憶されている。この信号出力部33の特性情報は、演算部31からの基準入力電流値Ioaに対して、実際に信号出力部33から出力される電流値が、その基準入力電流値Ioaで指示される基準出力電流Idから駆動回路33a〜33dの個体毎のばらつき誤差、例えば駆動回路33cのばらつき誤差ΔIdだけ外れて電流値Id´で出力されるとき、そのばらつき誤差ΔId、あるいはId´/Idで表わされるばらつき特性Bd(Bd=Id´/Id)として与えられるもので、信号出力部33の信号出力特性は、例えば図3(a)のように示すことができる。
一方、本実施形態の自動変速機の調整システムは、メモリ32にアクセス可能な自動変速機20の外部の更新手段として、所定のサービスツール80を有している。
このサービスツール80は、マイクロコンピュータ81やメモリ82(ROM、RAM)、ロムライタ83、操作入力部84および表示画面85等を含んで構成されており、摩擦係合要素51等およびその油圧制御装置40を構成する複数の部品41、43、71〜78等のうち油圧制御装置40を構成する何れかの部品、例えばリニアソレノイドバルブ41が所定の許容誤差内に作製された交換部品に交換されたとき、EEPROM32aに記憶されたそのリニアソレノイドバルブ41の特性情報ΔPvまたはBvを、特性誤差ゼロを示す第2の特性情報に書き換えて更新する、すなわちばらつき誤差ΔPvをゼロにクリアする特性情報更新手段の機能を有している。
また、サービスツール80は、リニアソレノイドバルブ41が所定の許容誤差内に作製された交換部品に交換されたとき、リニアソレノイドバルブ41以外の未交換部品についてメモリ32に記憶されたそれぞれの第1の特性情報とリニアソレノイドバルブ41の第2の特性情報と基づいて、信号出力部33から交換後のリニアソレノイドバルブ41に出力される供給電流を補正する新たな補正値k(摩擦係合要素51の係合特性を調整するよう油圧制御装置40に供給される制御信号を補正する補正値;図2参照)を算出し、メモリ32中のEEPROM32aに記憶されていた交換前のリニアソレノイドバルブ41に対応する補正値kaを、ここで算出した新たな補正値kbに書き換えて補正値kを更新する補正値更新手段の機能を有している。なお、ここでのka、kbは補正値kの個々の設定値の意である。
ここで、第2の特性情報とは、自動変速機の組立て段階(製造ライン)でメモリ32に書き込まれた実装品のリニアソレノイドバルブ41等のばらつき特性Bvの値ではなく、設計基準通りの場合に予定される特性、すなわち、特性誤差ゼロに対応するものである。したがって、特性値が基準出力値に対する実出力値の比Bvで表わされる場合には第2の特性情報は1であり、誤差ΔPvで表わされる場合には第2の特性情報は0(ゼロ)となる。なお、ここにいう特性誤差ゼロは指示入力に対する出力値が設計値と実質的に一致しているノミナル状態であり、それを示す第2の特性情報は許容誤差(公差)範囲の中心値であるが、この中心値に対応する特性自体は設計公差の中心とは限らない。
また、サービスツール80は、修理作業者等によって操作される図示しない操作入力部を有しており、その操作入力部からの故障コードや故障箇所の識別情報の入力等に基づいて、交換される何れかの部品、例えばリニアソレノイドバルブ41および他のリニアソレノイドバルブの何れかに故障が有るか無いかを判定する第1の判定手段、および、各摩擦係合要素51等のピストンおよび摩擦材のうち何れかの部品の故障の有無を判定する第2の判定手段としても機能するようにプログラムされている。もっとも、サービスツール80自体によっては、故障の特定は基本的には電子部品のみであり、摩擦係合要素51のピストン故障等はリニアソレノイドバルブ41の故障と明確に分離できないので、実際には作業者が分解して故障の有無を確認し、その結果を入力することで、故障判定がなされることになる。
さらに、補正値更新手段としてのサービスツール80は、第1の判定手段としての機能により何れかの部品、例えばリニアソレノイドバルブ41の故障が有ると判定した場合には、特性情報更新手段としての機能によってその部品の特性情報の更新と、補正値更新手段としての機能による補正値の更新の処理とを実行するようになっている。また、補正値更新手段としてのサービスツール80は、第2の判定手段としての機能によって摩擦係合要素51を構成する何れかの部品の故障が有ると判定した場合には、その何れかの部品が交換された摩擦係合要素、例えば摩擦係合要素51の解放状態から摩擦係合開始までのピストン77のストローク値s´(図3(c)参照)が入力されたとき、前記何れかの部品(例えば摩擦材プレート72、76)以外の未交換部品についてメモリ32に記憶された特性情報と入力されたストローク値s´とに基づいて、新たな補正値k=kbを算出し、メモリ32に記憶されていた制御信号の補正値k=kaをここで算出した新たな補正値kbに書き換えるようになっている。
図3(c)に斜めの実線で示すように、リターンスプリング78の特性が、ピストン77の解放側(同図中の左端側)のストロークエンドで所定の与圧を与え、ピストン77のストロークに応じてその撓み及び荷重を増すとき、ピストン77のストローク値がsとなる位置で組立て時の実装品の摩擦材プレート72、76の間の有効な摩擦係合が開始していたのに対し、一部または全部が交換された摩擦材プレート72、76については、ピストン77のストローク値がs´となる位置で有効な摩擦係合が開始するとすれば、クラッチ締結状態となる締結側のストロークエンドで発生すべき係合トルクを公差内にするためには、ピストン77に供給すべき油圧が部品交換前とは異なることになり、ピストン77への供給油圧を制御するリニアソレノイドバルブ41の出力圧Pvを変化させる必要が生じる。また、摩擦係合要素51等の係合・締結時の油圧Pcによるピストン荷重(以下、ピストンエンド荷重という)のうち、この係合側のピストンエンドでのリターンスプリング78の反力と相殺する荷重分は、クラッチの有効係合圧に寄与しないから、係合開始点のピストンストローク値sとリターンスプリング78の諸元に基づいてリターンスプリング78の反力を算出するとともに必要な有効係合圧を設定すれば、ピストン受圧面積×有効係合圧で求められる有効な油圧荷重と、リターンスプリングのピストンエンドでの反力相当分として求められる荷重とから、ピストンエンド荷重Fpが算出できる。
また、例えば部品交換前の信号出力部33から摩擦係合要素51までの各部品のばらつき特性情報、例えば信号出力部33のばらつき特性値Bd、リニアソレノイドバルブ41のばらつき特性値Bv、バルブボディ(油路)のばらつき特性値Bc、摩擦係合要素51の係合開始点のピストンストロークsに有効圧分のストロークを加えたクラッチ係合時の油圧荷重(ピストンエンド荷重)Fp2のばらつき特性値Bpによって、部品交換前の信号出力部33から摩擦係合要素51までの総合ばらつき特性Bが各部品のばらつき特性値の積(Bd・Bv・Bc・Bp)で表わされるとき、全体の総合ばらつき(B=Bd・Bv・Bc・Bp)に対して、リニアソレノイドバルブ41への供給電流に対応する指示電流の補正値kは、その設計基準通りの指示電流とする場合に対して総合ばらつきBとは逆の特性を与える値(1/B)もしくはそれに近い値として設定することができる。
なお、ここにいうばらつき特性値Bcは、基準入力油圧Pvaに対してバルブボディ(油路)の基準出口圧がPcであるとするとき、Bc=Pc´(実際の出口圧)/Pcで表わされるものであり、ばらつき特性値Bpは、基準の係合開始点ストロークsaに対して基準の油圧Pvが供給されるときのクラッチ係合時の油圧荷重Fpが実際の係合開始点ストロークs´に対応するクラッチ係合時の油圧荷重Fp´になったとき、Bp=Fp´/Fpで表わされるものである。また、ここでは摩擦材プレート72、76の摩擦係数は所定範囲内に公差管理されているものとする。
このように、サービスツール80は、補正値更新手段としての機能によって、係合開始点のピストンストローク値s´と摩擦係合要素51を構成するリターンスプリング78の諸元値とに基づいて摩擦係合要素51のピストンエンド荷重Fp´を算出し、さらに、そのピストンエンド荷重Fp´(それに対応するBp)とメモリ32に記憶された何れかの部品、例えばリニアソレノイドバルブ41のばらつき特性値Bvとに基づいて、リニアソレノイドバルブ41への供給電流Idに対応する指示電流Ioの補正値kを、総合ばらつき特性Bを考慮して算出するようになっている。この補正値は、リニアソレノイドバルブ41以外の他のリニアソレノイドバルブについてもそれぞれ同様な方法で設定される。
なお、トランスミッションECU30の演算部31は、車両に装備された各種センサ情報にもとづいて、自動変速機20の変速特性を、低燃費でエンジン10の高出力を引き出し、かつ変速ショックを抑えるように、各速からのアップシフト、ダウンシフトにおけるクラッチ、ブレーキ等の摩擦係合要素51等の制御条件を学習し、摩擦係合要素51等に制御油圧を供給するリニアソレノイドバルブ41等への供給電流Idの指示値に学習補正係数をかけて操作する公知の学習制御手段31aを内蔵しており、その学習制御手段は予め設定された上限および下限のガード値で規定される制御範囲内でその学習補正係数を設定するようになっている。
次に、上記構成を有する自動変速機の調整システムの作用について説明するとともに、本発明に係る自動変速機の調整方法の一実施形態について説明する。
まず、自動変速機20の製造段階または車両の組み立て段階において、自動変速機20の摩擦係合要素51およびその油圧制御装置40を構成する複数の部品についての特性情報Bd、Bv、Bc、Bpと、摩擦係合要素51の係合特性を調整する制御信号の補正値、例えばリニアソレノイドバルブ41への供給電流Idに対応する指示電流Ioの総合的な補正値kとを、自動変速機20内のメモリ32に記憶させておく。このときのメモリ32への書き込みは、組立て時の自動変速機20の特性調整のために使用される。
この自動変速機20を搭載した車両が使用され、何らかの理由で修理が必要になり、油圧制御装置40を構成する何れかの部品、例えばリニアソレノイドバルブ41をその許容誤差内に作製された交換部品に交換する場合は、その交換作業と共に、メモリ32に記憶されたその何れかの部品の特性情報ΔPvまたはBvを特性誤差ゼロを示す第2の特性情報であるΔPv=0(またはBv=Pv´/Pv=1)に更新し、その第2の特性情報と未交換部品の既存の特性情報ΔId、ΔPc、ΔFp(またはBd、Bc、Bp)とに基づいて、リニアソレノイドバルブ41への供給電流Idに対応する指示電流Ioの総合的な補正値を総合ばらつき特性Bを考慮して算出し、メモリ32内の補正値kを更新する。
すなわち、本実施形態の調整方法では、予めEEPROM32aに記憶した信号出力部33の特性情報ΔIdまたはBdに加え、自動変速機20の摩擦係合要素51およびその油圧制御装置40を構成する複数の部品41、43、71〜78等についての特性情報Bv、Bc、Bpと、摩擦係合要素51の係合特性を調整するよう油圧制御装置40に供給される制御信号である供給電流Idを補正する補正値kとを、自動変速機20内のメモリ32にそれぞれ書き換え可能に記憶させる記憶段階と、複数の部品41、43、71〜78等のうち油圧制御装置40を構成するリニアソレノイドバルブ41(複数の部品のうち何れかの部品)を所定の許容誤差内に作製された交換部品に交換する際、メモリ32に記憶されたそのリニアソレノイドバルブ41の特性情報を特性誤差ゼロを示す第2の特性情報(ばらつき誤差ΔPv=0、あるいは、Bv=Pv´/Pv=1)に書き換えて更新する特性情報更新段階と、その第2の特性情報とリニアソレノイドバルブ41以外の未交換部品についてメモリ32に記憶された既存の特性情報ΔId、ΔPc、ΔFp(またはBd、Bc、Bp)とに基づいて新たな補正値k=kbを算出し、メモリ32に記憶されていた組立て・製造段階の補正値k=kaを算出した新たな補正値kbに書き換えて、その補正値kを更新する補正値更新段階とを含んでいる。
したがって、従来のようにリニアソレノイドバルブ41や他のリニアソレノイドバルブの特性情報を不適当に更新したりその部品交換前の特性情報を用いたりすることによって補正値が不適当に設定され、それに起因して変速ショックが生じるのを防止することができる。さらに、修理段階での困難な特性値計測作業をなくすことができ、迅速で効果的な調整を行うことができる。
より具体的には、次のような方法で自動変速機の修理時における調整がなされる。
図4は、本発明の自動変速機の調整方法の一実施形態の作業手順を示すフローチャートであり、各摩擦係合要素51等の制御系統毎に設定される補正値(記憶値)をその故障系統について更新する処理を示している。
まず、サービスツール80により、自動変速機20内のメモリ32のうちEEPROM32a(書き換え可能な不揮発性メモリ)に記憶された既存の補正値情報が読み出される(ステップS11)。
次いで、リニアソレノイドバルブ41等のうち何れかに故障があるか否かが判別される(ステップS12;第1の判定段階)。なお、自動変速機20の修理時には、修理作業者によってサービスツール80に故障コードあるいは故障箇所の識別情報等が入力され、それによってこの故障判定ができる。
このとき、リニアソレノイドバルブ41等のうち何れかに故障があると(ステップS12でYESの場合)、次に、摩擦係合要素51等のうち何れかの摩擦材プレート72、76に故障があるか否かが判別される(ステップS13;第2の判定段階)。
そして、このとき摩擦係合要素51等のうち何れにも故障がなければ(ステップS13でNOの場合)、今回の故障は、リニアソレノイドバルブ41等のうち何れかの故障のみであると判定し、作業者に故障したリニアソレノイドバルブ41の組み換え交換を促すとともに、特性情報の記憶値ΔPvをクリアする旨を表示して、メモリ32のEEPROM32aに記憶されたリニアソレノイドバルブ41の特性情報を特性誤差ゼロを示す第2の特性情報、すなわちΔPv=0、またはBv=Pv´/Pv=1にセットする(ステップS14;補正値更新段階)。なお、このとき、摩擦係合要素51等(図4中ではピストンパックと記す)の故障はないので、係合開始点のピストンストローク値sの記憶値は、例えば既存値がβであれば、そのままの値(s=β)が流用される。
一方、摩擦係合要素51等のうち何れかに故障があれば(ステップS13でYESの場合)、今回の故障は、リニアソレノイドバルブ41等のうち何れかの故障と、摩擦係合要素51等のうち何れかの故障との両方であると判定し、例えば作業者に故障したリニアソレノイドバルブ41およびの摩擦係合要素51の組み換え交換を促すとともに、上述と同様に、特性情報の記憶値、例えばばらつき誤差ΔPvまたはばらつき特性Bvをクリアする旨およびクラッチ係合開始点のピストンストローク値sの入力を促すプロンプト表示等を実行し、さらに、メモリ32のEEPROM32aに記憶されたリニアソレノイドバルブ41の特性情報を特性誤差ゼロを示す第2の特性情報にセットする。そして、例えばわずかに厚さの異なる数種類の交換品の摩擦材から公差内のピストンストロークsを満たす摩擦材プレート72、76が選択され、クラッチ係合開始点のピストンストローク値sが作業者により測定され入力されると、メモリ32のEEPROM32aに記憶されたストローク値を新たなピストンストローク値、例えばs=αに書き換えて更新する(ステップS15、補正値更新段階)。
なお、摩擦係合要素51の摩擦材プレート72、76の摩擦係数のばらつき特性(Bf=実摩擦係数μ´/設計基準値の摩擦係数μ)を特性情報としてメモリ32のEEPROM32aに記憶させることもできるが、その場合には、作業者に組み換えと更新値入力を促す表示の際に、既存の記憶値をクリアする旨を表示して、メモリ32のEEPROM32aに記憶された摩擦材プレート72、76の特性情報を特性誤差に対応する第2の特性情報(ばらつき誤差Δμ=0あるいはBf=1)に更新する。
また、最初の故障判定段階(ステップS12)でリニアソレノイドバルブ41等の何れにも故障がないと判別されると(ステップS12でNOの場合)、次に、摩擦係合要素51等のうち何れかの摩擦材プレート72、76に故障があるか否かが判別される(ステップS16;第2の判定段階)。
そして、このとき摩擦係合要素51等のうち何れかに故障があれば(ステップS16でYESの場合)、今回の故障は、摩擦係合要素51等のうち何れかの故障のみであると判定し、作業者に故障した摩擦係合要素、例えば摩擦係合要素51の摩擦材プレート72、76の組み換え交換を促すとともに、クラッチ係合開始点のピストンストローク値sの入力を促す表示を実行し、クラッチ係合開始点のピストンストローク値sが作業者により測定され入力されると、メモリ32に記憶されたストローク値を新たなピストンストローク値s´、例えばs=αに書き換えて更新する(ステップS17、補正値更新段階)。なお、このとき、リニアソレノイドバルブ41等の故障はないので、メモリ32に記憶されたリニアソレノイドバルブ41の特性情報は、交換前の値、例えばΔPv=γが流用される。
一方、摩擦係合要素51等のうち何れにも故障がなければ(ステップS16でNOの場合)、今回の故障は、リニアソレノイドバルブ41等のうち何れかの故障でも摩擦係合要素51等のうち何れかの故障でもなかったと判定し、次いで、リニアソレノイドバルブ41等の故障はないので、メモリ32に記憶されたリニアソレノイドバルブ41の特性情報を、交換前の値、例えばΔPv=γを流用し、摩擦係合要素51等の故障はないので、係合開始点のピストンストローク値sの記憶値、例えば既存値βをそのまま流用するものと判定し、これらの部品についてメモリ32に記憶された特性情報の更新はされない(ステップS18)。
ステップS14、S15またはS17での記憶値の更新後、あるいは、ステップS18での記憶値の流用判定後、故障修理系統の摩擦係合要素51についてメモリ32に記憶されたリターンスプリング78の諸元データと、交換後の係合開始点のピストンストローク値sの値に基づいて、基準信号入力Idに対応するクラッチ締結時のピストンエンド荷重Fp´を算出する(ステップS19)。
次いで、このピストンエンド荷重Fp´(ばらつき特性値Bp=Fp´/Fp)と同一の故障修理系統のリニアソレノイドバルブ41のばらつき誤差ΔPv(ばらつき特性Bv)とに基づき、既知の信号出力部33のばらつき特性Bdを考慮して、この故障修理系統全体の総合ばらつき特性値B(B=Bd・Bv・Bc・Bp)を算出し、その総合ばらつき特性による摩擦係合要素51の締結係合時の油圧のばらつき誤差ΔPをゼロにするように、リニアソレノイドバルブ41への供給電流Idを制御するための補正値k(=1/B)を算出して(ステップS20)、メモリ32のEEPROM32aに記憶されていた既存の補正値を新たに算出した補正値kに書き換える書き込み処理を行う(ステップS21)。
このように、本実施形態では、自動変速機20を電子制御するトランスミッションECU30のメモリ32にアクセス可能なサービスツール80を用いて、摩擦係合要素51等および油圧制御装置40を構成する複数の部品41、43、71〜78等のうち何れかの部品の故障の有無を判定する第1の判定段階と、摩擦係合要素51を構成するピストン77および摩擦材プレート72、76のうち何れかの部品の故障の有無を判定する第2の判定段階と、第1の判定段階で油圧制御装置を構成する何れかの部品の故障が有ると判定されたとき、特性情報更新段階でのその何れかの部品、例えばリニアソレノイドバルブ41についての特性情報ΔPvの更新と、補正値更新段階での補正値kの更新とを実行する。
また、第2の判定段階で摩擦係合要素51等を構成する何れかの部品、例えば摩擦係合要素51の摩擦材プレート72、76の故障が有ると判定されたとき、その摩擦材プレート72、76をその製造時と同等の誤差範囲内に調整可能な交換部品に交換するとともに、その交換後の摩擦係合要素51の解放状態から摩擦係合開始までのピストン77のストローク値sを測定し、そのストローク値s=αと摩擦材プレート72、76以外の部品についてメモリ32に記憶された特性情報とに基づいて新たな補正値kを算出し、メモリ32に記憶されていた既存の補正値を算出した新たな補正値kに書き換えて更新する。
これによって、油圧制御装置40を構成する何れかの部品、例えばリニアソレノイドバルブ41の故障が有るときには、特性情報更新段階でのその特性情報の更新と補正値更新段階での補正値の更新とを実行し、各摩擦係合要素51等を構成するピストンおよび摩擦材のうち少なくとも一方の部品、例えば摩擦係合要素51の摩擦材プレート72、76の故障が有るときには、その摩擦材プレート72、76をその製造時と同等の誤差範囲内に調整可能な交換部品に交換し、摩擦係合要素51の摩擦係合開始までのピストンストローク値sの測定値s=αと摩擦材プレート72、76以外の未交換部品についての特性情報とに基づいて補正値kを更新することになる。
したがって、摩擦係合要素の摩擦材交換時にはピストンストローク値sを公差内に設定する際に既知となる測定値s=αを用い、その部品交換後のピストンストローク値の測定値s=αに基づいて補正値kを的確にかつ迅速に算出し、更新することができる。すなわち、摩擦係合要素51等の部品交換時に摩擦係合時の油圧Pcやピストンエンド荷重Fp´を調整するため、摩擦係合開始時までのピストン77のストローク値s´は、通常の修理手順に従ってノギスやゲージ等で管理され公差内に調整されるもので、その調整段階で測定され既知の値となる。そして、このピストンストローク値をメモリ32に更新記憶させることで、更新されたピストンストローク値sと、交換された部品の第2の特性情報と、その部品以外の部品の特性情報とに基づいて、新たな補正値kを迅速に算出することができる。
また、油圧制御装置40を構成する何れかの部品がリニアソレノイドバルブ41等のソレノイドバルブであり、その交換直後の特性情報となる第2の特性情報が、そのソレノイドバルブの設計通りの特性値であるので、修理工程での特性値計測作業の困難さや測定精度不足からソレノイドバルブの特性値を不適当に更新したり部品交換前の特性値を用いたりすることが確実に防止される。
したがって、学習制御手段31aで設定されるガード値を従来のように修理品の調整を可能にするために部品未交換の自動変速機20では作動しない範囲にまで緩く設定するといったことが必要でなくなり、部品交換の有無にかかわらず自動変速機20できめ細かな学習制御を可能にするような学習制御手段31aでのガード値を設定し、変速ショックを低減させることができる。
また、メモリ32のEEPROM32aにアクセス可能な外部の更新手段としてEEPROM32aの書き換えが可能なロムライタ等を有するサービスツール80を準備するだけで、交換対象の何れかの部品、例えばリニアソレノイドバルブ41の特性値の更新がなされ、あるいは更に補正値kの更新がなされるので、簡単な手段で特性情報や補正値の更新が可能となる。
さらに、故障修理系統について、補正値更新段階で、係合開始点のピストンストローク値sと摩擦係合要素51を構成するリターンスプリング78の諸元値とに基づいて摩擦係合要素51のピストンエンド荷重Fp´を算出するとともに、そのピストンエンド荷重Fp´とメモリ32に記憶されたリニアソレノイドバルブ41の特性情報ΔPv(またはBv)とに基づいて補正値kを算出するので、摩擦係合要素51の部品交換による影響を補正値kの更新に的確に反映させることができ、しかも、部品交換後の摩擦係合要素51のピストンエンド荷重を迅速・的確に算出することができる。
(第2の実施の形態)
図5は、本発明に係る自動変速機の調整システムの第2の実施の形態を示す図であり、その一部が修理工場等に通信接続される外部のデータベース200によって構成される場合を示している。なお、以下の実施形態の説明においては、上述の第1の実施形態と同様の構成についてはその符号を用いることとし、第1の実施形態との相違点について述べる。
上述の実施形態においては図4に示す各ステップの処理を専用のサービスツール80を用いて行うものとしたが、本実施形態では、図5に示すように、そのサービスツール80に、データ通信モジュール88(例えば公知の「G−Book」(登録商標)用データ通信モジュール)を装着し、外部のサービスセンター等に装備されたデータベース200との間でのデータ通信を可能にしたものである。
この場合、図4に示した調整作業のうちステップS12、S13およびS16における故障判定の処理をトランスミッションECU30の出力情報やサービスツール80の計測データ等に基づいてサービスセンター側で実行したり、ステップS14〜S18における流用する特性情報の決定や必要入力データを促すための表示を、サービスセンター側からの送信情報に基づいて実行したりすることができる。
勿論、さらに、ステップS19およびS20の算出処理もサービスセンター側で車種毎に異なるより細かい条件に従って迅速に実行させ、サービスツール80に算出結果の補正値kのみを送信したり、さらに、手動で設定した補正値kの適否をサービスセンター側で判定し、その判定結果がOKであれば、補正値の書き込みを行うといったことも可能である。
このようにサービスツール80と外部のデータベース200等との連携による上述のような調整方法を採用すると、外部のデータベース200によって修理・交換履歴を正確にかつ確実に保存することができ、データベース200側で履歴管理を行うことで、修理が2回目以降になった場合でも製造段階の部品の特性値を確実に把握できるので、上述の実施形態と同様な効果に加えて、補正値kの算出精度を良好に維持することができるという効果がある。
また、部品特性値を必ずしもトランスミッションECU30内のメモリ32にすべて記憶させる必要はないので、各部品種別毎に、個体の特性情報としてより細かい特性値(複数の指示電流に対する出力値に基づく指示値レベルごとの特性値)を設定することができ、補正の精度をより向上させることができるという利点がある。
(第3の実施の形態)
図6は、本発明に係る自動変速機の調整システムの第3の実施の形態を示す図であり、その一部が車両の自動変速機内に設けられる電子制御装置に設けられる調整システムの一例を示している。
図6にブロック図で示すように、本実施形態においては、自動変速機20がその内部に設けられたトランスミッションECU30(自動変速機の電子制御装置;コンピュータ)を含んでいるので、サービスツール80に備えるものとした補正値更新手段の機能、例えば摩擦係合要素51のピストンエンド荷重Fp´の算出や、ピストンエンド荷重Fp´とメモリ32に記憶された何れかのバルブ部品の特性情報ΔPv(またはBv)とに基づく補正値の算出等を実行する補正値更新手段31bとしての制御プログラムを、トランスミッションECU30の演算部31のROMに搭載し、ピストンエンド荷重と補正値の算出とをトランスミッションECU30を用いて実行するようにするようにしたものである。なお、ここではEEPROM32aに代えて、バッテリをバックアップ電源とするバックアップRAM32bに複数の部品の特性値を書き換え可能に記憶させるようになっている。
この場合の自動変速機の調整方法は、故障修理系統の摩擦係合要素51のピストンエンド荷重Fp´の算出と、ピストンエンド荷重Fp´とメモリ32に記憶された複数の部品の特性値とに基づく補正値kの算出とを、自動変速機20の電子制御装置であるトランスミッションECU30を用いて実行することになり、部品交換時にメモリ32のバックアップRAM32b内の特性情報を更新するだけで、自動変速機20の内部で確実に修理後の補正値kを算出させることができる。
すなわち、本実施形態のトランスミッションECU30(自動変速機の電子制御装置)は、自動変速機20の摩擦係合要素51等の係合特性を調整するよう油圧制御装置40に供給する制御信号を補正するようにしたものであり、摩擦係合要素51等および油圧制御装置40を構成する複数の部品についての個体毎の特性誤差を示す第1の特性情報ΔId、ΔPv、ΔPc、ΔFp(またはBd、Bv、Bc、Bp)と、制御信号の指示電流値を補正する補正値kとをそれぞれ書き換え可能に記憶するバックアップRAM32bを含むメモリ32を備えている。
また、演算部31は、メモリ32に記憶された特性値のうち油圧制御装置40を構成する何れかの部品の特性情報が特性誤差ゼロを示す第2の特性情報に書き換えられたとき、その第2の特性情報と前記何れかの部品以外の未交換部品についてメモリ32に記憶された第1の特性情報とに基づいて新たな補正値k=kbを算出し、メモリ32に記憶されていた既存の補正値k=kaを算出した新たな補正値kbに書き換えて更新する補正値更新手段の機能を有している。
これにより、自動変速機20の摩擦係合要素51等および油圧制御装置40を構成する複数の部品のうち何れかの部品、例えばリニアソレノイドバルブ41がその許容誤差内の交換部品に交換されたとき、その特性情報が特性誤差ゼロを示す第2の特性情報に書き換えられる、すなわち、ばらつき誤差ΔPvの値が0にクリアされることから、交換部品のばらつき特性による誤差をさらに拡げるような補正値が設定されてしまうようなことがなく、部品交換に伴う特性値の変更が交換部品から大きくずれてしまうような事態を回避することができる。したがって、不適当な補正値が設定されることで変速ショックが生じるのを防止することができ、しかも、部品交換時にメモリ32内の特性情報を更新するだけで、自動変速機20のトランスミッションECU30内で確実に補正値kを算出させることができる。
さらに、本実施形態では、トランスミッションECU30内で、故障修理系統の摩擦係合要素51を構成するピストン77の、摩擦係合要素51の解放状態から摩擦係合開始点までのストローク値sが入力されたとき、そのストローク値s=αと、複数の部品のうち未交換の部品についてバックアップRAM32bに記憶された第1の特性情報とに基づいて新たな補正値を算出するようになっていることから、摩擦係合要素51の部品交換による影響を補正値kの更新に的確に反映させることができ、しかも、部品交換後の摩擦係合要素51のピストンエンド荷重Fp´を迅速・的確に算出することができる。
なお、上述の実施形態では、油圧制御装置40内に複数、例えば圧力制御可能な大流量の4つのリニアソレノイドバルブが配置されるものとしたが、リニアソレノイドと油圧摩擦係合要素との間にパイロット圧に応動する圧力制御バルブを別に設ける場合や、on、off制御される流量または圧力制御用のソレノイドバルブが何らかの油圧アクチュエータとの間に介在する場合であっても、そのアクチュエータへの制御信号を調整するための方法は上述の発明と同様な観点で行うことができる。また、特性値をクリアするだけで制御プログラムによる交換部品の第2の特性情報の把握が可能である場合には必要ないが、特性値の設定によっては、部品毎の第2の特性情報をばらつき特性にかかわる特性値と併せて書き換え可能な不揮発性のメモリに記憶させておくことも考えられる。さらに、本発明の自動変速機の調整方法において、故障の有無の判定やそれに応じた特性情報の更新、流用の選択等の工程を作業者が行ってもよいことはいうまでもない。
以上説明したように、本発明は、自動変速機を制御するバルブや摩擦係合要素の部品交換等のような修理を行った場合に、その部品の特性情報を不適当に更新したりその部品交換前の特性情報を用いたりすることによって変速ショックが生じるのを防止することができるとともに、修理段階での困難な特性値計測作業をなくすことができ、迅速で効果的な調整を行うことができる自動変速機の調整方法および調整システムを提供することができ、さらに、部品交換時に記憶手段内の特性情報を更新するだけで、自動変速機の電子制御装置内で迅速・確実に補正値を算出し更新させるようにすることもできるという効果を奏するものであり、車両に搭載される電子制御式の自動変速機を調整する自動変速機の調整方法および調整システム、ならびに、これらによる自動変速機の調整に好適な自動変速機の電子制御装置全般に有用である。