JP2008266213A - 肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤 - Google Patents

肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤 Download PDF

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Abstract

【課題】 肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤を提供すること、特に、アシドーシス補正に基づく肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤を提供すること。
【解決手段】 肝機能改善作用を有する重炭酸イオンを含有する製剤であって、具体的には輸液の形態をとる肝機能改善剤であり、好ましくは、重炭酸イオンとしての重炭酸ナトリウムを主成分とし、さらに他の電解質、ブドウ糖、アミノ酸を単独若しくは複数種組合せたことを特徴とする、アシドーシス補正に基づく肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、アシドーシス補正に基づく肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤に関する。
本発明者等は先に、周術期(手術中)の患者に対して重炭酸イオンを配合した周術期輸液を使用した場合には、酢酸イオン或いは乳酸イオンを配合した周術期輸液を使用した場合に比較して、麻酔からの覚醒が促進されることを見出し、重炭酸イオン、特に電解質として重炭酸イオンを含有することを特徴とする麻酔覚醒促進剤を提供してきた(特許文献1)。
すなわち、本発明者等は、ラット部分肝切除モデル、ストレプトゾトシン(STZ)誘発ラット糖尿病性ケトアシドーシスモデルを用いたアシドーシスと、麻酔からの覚醒時間に関する検討、及びラット部分腎摘モデルを用いた重炭酸リンゲル液の麻酔後回復(覚醒時間)の検討において、重炭酸リンゲル液は、酢酸リンゲル液や乳酸リンゲル液を投与した場合に比較して、麻酔からの覚醒時間を短縮させていることを明らかにしてきた。
この要因の一つとして、血漿中における麻酔薬濃度の推移、すなわち、肝臓での麻酔薬の代謝速度の相違が考えられ、その相違は、投与するリンゲル液製剤のアシドーシス補正効果における違いが関与していることが示唆された。また、他の要因として、プロポフォールの蛋白結合率の違いが覚醒時間の短縮に関与していることが示唆された。
すなわち、重炭酸リンゲル液は、アルカリ化剤として重炭酸ナトリウムを含有する製剤であり、従来のリンゲル液製剤中のアルカリ化剤である酢酸ナトリウムや乳酸トリウムと異なり、アルカリ化効果の発現に酢酸或いは乳酸の代謝過程を必要としないため、直接的なアシドーシス補正効果を発揮している。
本発明者等が検討してきた各種代謝疾患モデル動物を用いた麻酔からの覚醒時間の検討によれば、麻酔後の覚醒時間と血液pHとの間には負の相関関係が認められ、アシドーシスが重度なほど麻酔からの覚醒が遅延するものであり、したがって、アシドーシスの速やかな補正は、麻酔からの覚醒を速やかにし、その結果患者の術後回復過程に好影響を与えるものであった。
ところで本発明者等は、その検討の過程において、静脈麻酔薬であるプロポフォールを用いた麻酔からの覚醒に関連して、プロポフォールの代謝に関与する肝臓の働きについて検討してきている。プロポフォールは、肝臓で主としてグルクロニル転移酵素の働きによりグルクロン酸抱合によって代謝され、尿中に排泄される麻酔薬であり、また、プロポフォールの代謝物には麻酔作用はなく、活性本体はプロポフォールのみであることが知られている(非特許文献1)。また、プロポフォールは血中において蛋白結合型(非活性型)と遊離型(活性型)で存在しているが、本発明者等がこれまでに行った検討において、プロポフォールの蛋白結合率(非活性型)の割合は、ヒト血清アルブミン含有リン酸緩衝液中において酸性側で低下し、遊離型(活性型)の割合が増加することが明らかとなっている。このことは、アシドーシス状態においてはプロポフォールの麻酔作用が増強される可能性を示唆している。
したがって、血漿中におけるプロポフォールの濃度推移は、そのまま肝臓の代謝機能を反映するものであって、乳酸リンゲル液を投与した場合の血漿中プロポフォール濃度は、重炭酸リンゲル液及び酢酸リンゲル液を投与した場合と比較して、高値で推移し、血中半減期も遅延することが確認されている(特許文献1)。
すなわち、肝切除モデル動物では、肝の切除により乳酸代謝障害が生じている。そのため、乳酸リンゲル液を投与しても乳酸代謝が速やかに行われず、アシドーシスは補正されることなく、乳酸の蓄積によって更にアシドーシスが悪化することとなる。
さらに、血液pHの低下は血中プロポフォールの蛋白結合率を低下させ、遊離体率を上昇させることにより、麻酔作用が増強されることとなる。すなわち、肝切除ラット、STZ誘発糖尿病性ケトアシドーシスラットにおいては、乳酸代謝障害及び酢酸代謝障害によりアシドーシスが補正されることなく、プロポフォールの蛋白結合率が低下した状態となる。
これらのことから、アシドーシスでは肝機能が低下し、麻酔薬の代謝に影響を及ぼし、その結果、血中プロポフォール濃度、さらにはプロポフォールの作用部位である脳中プロポフォール濃度が高値となり、これによって麻酔からの覚醒の遅延が生じているものと考えられた。また、アシドーシスではプロポフォールの遊離体率の上昇により麻酔作用が増強され、これによって麻酔からの覚醒遅延が生じているものと考えられた。
すなわち、アシドーシスの補正は、肝機能の改善及びプロポフォールの蛋白結合率の低下抑制を積極的に推進させるものと考えられる。
かかる観点に立脚し、本発明者等は、アシドーシスの補正効果と肝臓の解毒・排泄機能との関係を明らかにすることを目的に、ラット部分肝切除モデルにおける肝臓の解毒・排泄能を、肝機能測定試薬(色素)であるインドシアニングリーン(ICG)を用いて、重炭酸リンゲル液と、リンゲル液並びに乳酸リンゲル液との比較を検討した。また,プロポフォールの作用部位である脳における脳中プロポフォール濃度について、ラット部分肝切除モデルを用いて重炭酸リンゲル液と乳酸リンゲル液を比較した。さらに、本発明者等は、STZ誘発ラット糖尿病性ケトアシドーシスラットの血漿及び正常ラットの血漿を用いて、プロポフォールの蛋白結合率の違いについて比較検討した。
その結果、血漿中ICG濃度は重炭酸リンゲル群が最も速やかに低下し、乳酸リンゲル群では血漿中ICG消失の著明な遅延が認められた。また、脳中プロポフォール濃度は重炭酸リンゲル群が乳酸リンゲル群と比較して低値傾向を示した。さらに、STZ誘発ラット糖尿病性ケトアシドーシスラット血漿におけるプロポフォール蛋白結合率は正常ラット血漿と比較して低く、遊離体(活性型)の割合が高いことが明らかとなった。
すなわち重炭酸リンゲル液製剤の投与は、他の酢酸リンゲル液製剤或いは乳酸リンゲル液製剤の投与に比較して、肝機能の改善効果やプロポフォールの蛋白結合率の低下抑制作用が優れているものであることを確認し、本発明を完成させるに至った。
医薬品インタビューフォーム「1%ディプリバン注・1%ディプリバン注−キット」(2006年8月) PCT/JP2006/310671
したがって本発明は、肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤を提供すること、特に、アシドーシス補正に基づく肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤を提供することを課題とする。
すなわち、本発明は、その態様として、以下の構成からなる。
(1)重炭酸イオンを含有することを特徴とする肝機能改善剤;
(2)重炭酸イオンを含有することを特徴とする麻酔作用増強抑制剤;
(3)電解質として重炭酸イオンを含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤;
(4)重炭酸イオンとしての重炭酸ナトリウムを主成分とし、さらに他の電解質、ブドウ糖、アミノ酸を単独若しくは複数種組合せたことを特徴とする上記(1)〜(3)に記載の肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤;
(5)リンゲル液の形態にある上記(1)〜(4)に記載の肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤;
(6)重炭酸イオンを含有することを特徴とするアシドーシス補正に基づく肝機能改善および麻酔作用増強抑制剤;
である。
本発明が提供する肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤は、基本的には、重炭酸イオンを含有するものであって、より具体的には電解質として重炭酸イオンとなる炭酸水素ナトリウムを主成分として含有する輸液であり、アシドーシスを速やかに補正し、血液pH及び組織pHを正常値もしくは正常値に近い値に維持することができる。したがって、速やかなアシドーシスの補正により肝機能を改善し、血中及び脳中プロポフォール濃度を速やかに低下させ、さらには麻酔作用の増強を抑制するものであり、特に優れたものである
また、肝機能を改善することにより代謝機能の回復を促進させ、組織・臓器の機能維持が早期に行われ、その結果、生体防御反応の遅れ、免疫力の低下などによる合併症を引き起こす危険性を回避し得るものである。
本発明が提供する肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤は、上記した如く、アシドーシスを早期に補正する作用を有する重炭酸イオンを含有することを特徴とする。より具体的には、電解質として重炭酸イオンとしての重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)を主成分とし、さらに他の電解質、ブドウ糖、アミノ酸を単独若しくは複数種組合せて配合した製剤であり、好ましくは輸液であって、リンゲル液、維持液、開始液、脱水補正液、更には術後回復液の形態にある肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤であり、特にリンゲル液の形態にある肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤である。
この場合において、本発明で提供する重炭酸イオンを含有する肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤が、細胞外液補充液であるリンゲル液製剤の形態であるならば、重炭酸イオン濃度として20〜40mEq/L、より好ましくは22〜30mEq/L配合した輸液であり、同時に他の電解質として、ナトリウムイオン130〜145mEq/L、カリウムイオン2〜5mEq/L、塩素イオン90〜130mEq/L、カルシウムイオン2〜5mEq/L、マグネシウムイオン0.5〜2.5mEq/Lであり、クエン酸イオン0〜7mEq/L、及びブドウ糖0〜5g/Lを含有することが好ましい。
また、本発明で提供する重炭酸イオンを含有する肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤が維持液の形態であるならば、重炭酸イオン濃度として15〜30mEq/L、より好ましくは18〜25mEq/L配合した輸液であり、同時に他の電解質として、ナトリウムイオン30〜40mEq/L、カリウムイオン15〜25mEq/L、塩素イオン30〜40mEq/Lであり、ブドウ糖40〜80g/Lを含有することが好ましい。
また、本発明で提供する重炭酸イオンを含有する肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤が開始液、脱水補正液又は術後の回復液の形態にあるならば、それぞれ目的とする重炭酸イオン濃度と、各種電解質成分が配合される。
具体的には、開始液であるならば、ナトリウムイオン30〜90mEq/L、塩素イオン35〜80mEq/L、重炭酸イオン20〜30mEq/L、ブドウ糖25〜40g/Lを含有することが望ましい。また、脱水補正液であるならば、ナトリウムイオン60〜90mEq/L、カリウムイオン20〜30mEq/L、マグネシウムイオン0〜5mEq/L、塩素イオン45〜70mEq/L、リン5〜10mmol/L、重炭酸イオン20〜50mEq/L、ブドウ糖10〜35g/Lを含有することが望ましい。さらにまた術後回復液であるならば、ナトリウムイオン30mEq/L、カリウムイオン5〜10mEq/L、塩素イオン20〜30mEq/L、重炭酸イオン10〜20mEq/L、ブドウ糖30〜50g/Lを含有することが望ましい。
これらの電解質成分は、必要に応じて、特に制限なく使用することができる。例えば、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸二カリウム、酢酸カリウム、クエン酸カリウム、乳酸カリウム、グリセロリン酸カリウム、リンゴ酸カリウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リンゴ酸カルシウム、塩化マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、グリセロリン酸マグネシウム等を用いることができる。
特に好ましい成分としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ブドウ糖等である。
本発明が提供する重炭酸イオンを含有する肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤としての輸液において、細胞外液の酸塩基平衡を司る重要な塩基である重炭酸イオンの供給源である炭酸水素ナトリウムは、カルシウムやマグネシウムと反応し、不溶性の炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムを析出すること、また、炭酸水素ナトリウム水溶液を放置または加熱すると炭酸ガスを放出してpHが上昇する性質を有していること等から、製剤的には安定な炭酸水素ナトリウムイオン含有製剤を得ることは困難なものであった。したがって、本発明の重炭酸イオンを含有する輸液は、用時調製、または炭酸水素ナトリウム液と電解質液との2剤の組み合わせ、またはこれらを二室容器に充填した製剤等であってもよいが、特に一液化されたものが、使用時の利便性から好ましいものである。
本発明が提供する重炭酸イオンを含有する肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤としての輸液は、製剤的も安定なものであり、アシドーシスにより肝機能が低下した患者に投与することにより、他の酢酸を配合した輸液や乳酸を配合した輸液に比較して早期にアシドーシスを補正し、肝機能の改善を促進させるものである。また、全身麻酔を施す外科的手術時に用いられた場合は、アシドーシスを速やかに補正することにより、麻酔からの覚醒を促進するものである。
また、保存安定性試験において、空間部の炭酸ガス濃度においても保存前後で変化は認められず、成分の分解も、沈殿もなく、安定なものであった。
本発明が提供する重炭酸イオンを含有する肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤としての輸液は、特に周術期の患者で肝機能が低下した患者に対して投与すること、すなわち周術期輸液として投与することにより、アシドーシスを補正し、肝機能改善を促進し、麻酔からの覚醒も促進する。具体的には、周術期輸液のうち、リンゲル液として投与する場合には、具体的には、以下のようして使用される。
すなわち、患者に対して手術時に細胞外補充液である血液補充輸液として投与される。そして術前〜術後において適宜この補充液を投与することにより、低下した肝機能を改善させ、麻酔からの覚醒を促進するものである。
本発明の肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤は、アシドーシス補正効果が優れており、したがって血液pHを正常値もしくは正常値に近い値に維持し、その結果、低下した肝機能の改善を促進し、さらに麻酔からの覚醒を促進させることとなる。
本発明の重炭酸イオンを含有する肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤のアシドーシス補正効果と肝臓の解毒・排泄機能との関係について明らかにするために、インドシアニングリーン(以下、ICG)を用いて、肝臓の解毒・排泄能を重炭酸リンゲル液と他のリンゲル液製剤とで比較検討した。また、ラット肝切除モデルを用いて脳中プロポフォール濃度の違いを重炭酸リンゲル液と乳酸リンゲル液で比較検討した。
ICGは、臨床的に使用されている肝・循環器能検査薬であり、投与された場合には血中から選択的に肝臓に取り込まれ、腸肝循環や腎臓からの排泄もなく、肝臓から速やかに胆汁中に排泄され、特に、肝臓の解毒・排泄能を評価する目的で使用される検査薬(色素)である。
その結果、本発明の肝機能改善剤である重炭酸リンゲル液製剤は、乳酸リンゲル液製剤に比較してICGの血中半減期は顕著に短縮させ、肝臓の解毒・排泄能が良好に保たれていることが確認された。また、脳中プロポフォール濃度は、重炭酸リンゲル群が乳酸リンゲル群と比較して低値傾向を示した。すなわち、重炭酸ナトリウムは、酢酸ナトリウムや乳酸ナトリウムと異なり代謝を介さずに重炭酸イオンを供給出来るため、代謝障害や臓器障害があった場合においてもアルカリ化効果を発揮することが可能であり、他のリンゲル液を使用した場合と比較して、アシドーシス補正効果に優れたものであり、血液pHを高値に保つことが出来る。
このことは、本発明者らが別途検討した「ウサギ部分肝切除モデルを用いた重炭酸リンゲル液のアシドーシス補正効果」に関する検討において、重炭酸リンゲル群のアシドーシス補正効果が酢酸リンゲル液や乳酸リンゲル液と比較して優れており、乳酸リンゲル液のアシドーシス補正効果はアルカリ化剤を含まないリンゲル液と同程度であった事実からも明らかである。
したがって、本発明の肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤は、特に肝機能の低下した周術期(手術中)患者に投与することによって、アシドーシスの補正により、効果的に肝機能を改善させ、これにより血中及び脳中プロポフォールが速やかに低下し、麻酔からの覚醒が促進されることとなる。
以下に本発明を、実施例をあげてさらに詳細に説明する。
実施例1:保存安定性
重炭酸イオン(HCO )濃度を20.0、22.5、25.0、27.5及び30.0mEq/Lとなるリンゲル液を調製した。
すなわち、下記表1に記載の処方に従って、輸液製剤を調整した。各配合成分を水に溶かして10Lとし(pH実測値:8.0)、炭酸ガスをバブリングしてpH6.5に調整した後、濾過後500mL宛ガラスバイアル瓶に充填した。これを115℃で15分間高圧蒸気滅菌し、これにより重炭酸イオン(HCO )濃度が、20.0、22.5、25.0、27.5及び30.0mEq/Lに調整された5種類のリンゲル液を調製した。
Figure 2008266213
これらの輸液(リンゲル液)を、開始時と室温3ヶ月保存後のpH、不溶性異物検査、不溶性粒子数、各成分含量、空間部の炭酸ガス濃度を測定した。これらの結果を下記表2及び表3に示した。表中の結果から明らかなように、本発明のリンゲル液は、保存前後で変化は認められず、保存後においても成分の分解、沈殿もなく安定な輸液であることが確認された。
Figure 2008266213
Figure 2008266213
実施例2:ICGによる肝機能評価試験
[試験方法]
7週齢のSD系雄性ラットを用いた。
(1)投薬用カテーテル挿入手術
検疫馴化終了日(実験日の2日前)に、ラットをペントバルビタールナトリウム[ネンブタール(登録商標):大日本住友製薬社製]麻酔下に頚部右側及び背中上部(肩甲骨周辺)を除毛した後、イソジン液(登録商標)[明治製菓社製]で消毒し、Steiger等の方法(Arch. Surg., 104:330-332, 1972)に従って右外頚静脈から右上大静脈起始部にカテーテルを留置した。カテーテル留置後、保温マットにて動物を保温して覚醒したことを確認したのち、ケージに戻して実験日まで飼育した。
(2)ICGによる肝機能評価
約16時間絶食したラットに、右上大静脈起始部に留置したカテーテルより試験輸液を20mL/kg/hrで投与を開始し、プロポフォール(導入:15mg/kg、維持量45mg/kg)も同時に投与開始した。投与開始後30分の時点において肝切除を行った。すなわち、ラットの腹部を正中腺に沿って約4cm開腹し、肝臓の約75%(外側右葉、外側左葉及び内側左葉)を切除し、閉腹した。
輸液及び麻酔の投与は90分間投与した。麻酔終了後、直ちに尾静脈よりICG(1mg/kg/mL)をbolus投与し、ICG投与後30、60、90及び120分後の時点でカテーテルより血液を約300μL採取し、これを遠心分離して血漿を得た。得られた血漿は測定まで一時冷蔵保存したのち吸光度(800nm)を測定し、血漿中ICG濃度の変化及び吸光度の値からICGの血中半減期を算出した。
試験輸液は、下記表4に記載の組成からなる本発明のリンゲル液、及び対照として乳酸リンゲル液及び局方リンゲル液を用い試験した。
各群の例数は以下のとおりである。
本発明のリンゲル液投与群=5例
乳酸リンゲル液投与群=5例
局方リンゲル液投与群=5例
Figure 2008266213
[結果]
図1に血漿中ICG濃度の推移を示した。
図中に示した結果からも判明するように、血漿中のICG濃度は、投与後60分までは全ての群で装用の推移を示したが、60分以降において、ICG濃度推移に試験群間での相違が認められ、本発明のリンゲル液(重炭酸リンゲル液)投与群の血漿中ICGの消失が最も速やかであった。
また、各試験群におけるICGの血中半減期及び消失速度定数(K)を下記表5に示した。
Figure 2008266213
各試験群におけるICGの血中半減期は、本発明のリンゲル液(重炭酸リンゲル液)投与群で8.79分であり、局方リンゲル液投与群で12.41分であり、乳酸リンゲル投与群で27.74分であり、乳酸リンゲル投与群において血漿中ICG消失の顕著な遅延が認められた。
以上の結果から、ラット部分肝切除モデルを用いた検討において、本発明の重炭酸リンゲル液投与群では肝臓の解毒・排泄能が他の群と比較して良好に保たれていることが示された。このことから、本発明の肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤は、アシド−シスを速やかに補正し、その結果、肝臓の機能を良好に保ち、肝臓の解毒・排泄機能を良好ならしめていることが明らかである。
実施例3:ラット部分肝切除モデルを用いた血漿中及び脳中プロポフォール濃度の検討
(1)カテーテル留置術
検疫馴化終了日(実験日の2日前又は3日前)に、ラットをペントバルビタールナトリウム[ネンブタール(登録商標);大日本住友製薬社製]麻酔下にて頚部右側及び背中上部(肩甲骨周辺)を除毛したのち、イソジン液(登録商標)[明治製菓社製]で消毒し、Steiger等の方法(Arch. Surg., 104:330-332, 1972)に従って右外頚静脈から右上大静脈起始部にカテーテルを留置した。カテーテル留置後、保温マットにて動物を保温して覚醒したことを確認したのち、ケージに戻して実験日まで飼育した。
(2)血漿中及び脳中プロポフォール濃度に関する検討
約16時間絶食にしたラットに、右上大静脈起始部に留置したカテーテルより、試験輸液を20mL/kg/hrで投与を開始した。試験輸液投与開始30分後の時点より、麻酔の投与(導入:15mg/kg、維持量:45mg/kg/hr)を開始した。麻酔開始と同時にラットの腹部を正中腺に沿って約4cm開腹し、麻酔投与開始15分後の時点において肝臓の約75%(外側右葉、外側左葉及び内側左葉)を切除し、麻酔投与終了と同時に閉腹した。麻酔の投与は手術中30分間とし、試験輸液は麻酔投与終了30分後までの計90分間投与した。採血及び脳採取は、麻酔投与終了後5分、30分及び60分の時点で行い、血漿中及び脳中プロポフォール濃度の測定に供した。
(3)結果
血漿中プロポフォール濃度は、麻酔投与終了5分後では重炭酸リンゲル群と乳酸リンゲル群で同程度であったが、麻酔投与終了30分後及び60分後では重炭酸リンゲル群が低値を示し、30分後においては群間で有意差が認められた(p<0.01)。
脳中プロポフォール濃度は、麻酔投与終了5分後では重炭酸リンゲル群と乳酸リンゲル群で同程度であり、麻酔投与終了30分後及び60分後では重炭酸リンゲル群が有意差はないものの、低値傾向にあった。
血漿中プロポフォール濃度及び脳中プロポフォール濃度を、下記表6及び7にまとめて示した。
Figure 2008266213
*:p<0.01 vs. 重炭酸リンゲル液
Figure 2008266213
肝切除ラットにおける血漿中プロポフォール濃度は、重炭酸リンゲル群が乳酸リンゲル群と比較して有意に低値を示し、プロポフォールの作用部位である脳中プロポフォール濃度も重炭酸リンゲル群が低値傾向を示した。肝切除ラットでは、乳酸代謝障害により乳酸リンゲル液のアシドーシス補正効果はほとんど発揮されないと考えられる。このため、肝切除ラットの肝機能は重炭酸リンゲル群が乳酸リンゲル群より良好に保たれ、これにより、乳酸リンゲル群では血漿中及び脳中プロポフォール濃度が重炭酸リンゲル群と比較して高く、その結果,麻酔効果が増大して麻酔後の覚醒に影響を与えるものと推察された。
実施例4:STZ誘発ラット糖尿病性ケトアシドーシスラット血漿におけるプロポフォールの蛋白結合率
[試験方法]
STZをクエン酸緩衝液に100mg/mLとなるように溶解し、ラットに100mg/kgで静脈内投与し、48時間後に血液を採取した。遠心分離して得た血漿にプロポフォールを5μg/mLとなるように添加し、37℃で30分間インキュベーションした後、得られた上清中の遊離プロポフォール濃度を測定し、遊離体分率を算出した。正常ラットにはクエン酸緩衝液のみを投与した。
[結果]
STZ投与48時間後の血液pH(平均値)は7.35であり、正常ラットの血液pH(平均値)の7.45と比較して有意に低値であった(p<0.01)。
また、プロポフォールの遊離体分率は、STZ投与群が15.0%であり、正常群の9.7%に比較して、STZ投与群の遊離体分率は高値を示した。
以上の結果から、糖尿病性ケトアシドーシスラット血漿におけるプロポフォールの遊離体分率は、正常ラット血漿と比較して高値を示した。本発明者らの以前の検討によれば、ヒト血清アルブミン含有リン酸緩衝液中におけるプロポフォールの蛋白結合率は酸性側で低下し、遊離体分率が上昇することが明らかとなっている。このことから、アシドーシスでは血漿中のプロポフォールの遊離体分率が正常の場合と比較して高いため、これにより麻酔作用が増強される可能性が示唆された。
また、糖尿病性ケトアシドーシスラットでは、重炭酸リンゲルのアシドーシス補正効果が酢酸リンゲルと比較して優れており、麻酔後の覚醒は重炭酸リンゲル群が酢酸リンゲル群やリンゲル群と比較して有意に早いことが明らかとなっている。これらのことから、重炭酸リンゲル液による麻酔後覚醒の促進は,重炭酸リンゲル液による速やかなアシドーシス補正効果によって血液pHが速やかに改善し、これにより血漿中プロポフォールの蛋白結合率が上昇(遊離体分率の低下)することにより、麻酔作用の増強が抑制されることが要因のひとつであると推察された。
以上記載のように、本発明は、肝機能の低下した患者やアシドーシスを呈する患者に対して、血液の代用として補充する細胞外液補充液(リンゲル液)のなかでも重炭酸イオンを含有するリンゲル液を使用して、アシドーシスを補正することにより肝機能を改善し、プロポフォールの蛋白結合率の低下を抑制し、麻酔作用の増強を抑制するものである。これにより組織・臓器の機能維持が早期に行われ、その結果、生体防御反応の遅れ、免疫力の低下などによる合併症を引き起こす危険性を回避し得る点で、その医療上の効果は多大なものである。さらに肝機能の改善は麻酔薬を速やかに代謝させ、麻酔からの覚醒を速やかにさせる。麻酔からの覚醒遅延は術後も生体機能の回復を遅延させことから、麻酔からの覚醒促進は医療上大きなメリットがある。
実施例2における血漿中ICG濃度の推移を示した図である。

Claims (6)

  1. 重炭酸イオンを含有することを特徴とする肝機能改善剤。
  2. 重炭酸イオンを含有することを特徴とする麻酔作用増強抑制剤。
  3. 電解質として重炭酸イオンを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤。
  4. 重炭酸イオンとしての重炭酸ナトリウムを主成分とし、さらに他の電解質、ブドウ糖、アミノ酸を単独若しくは複数種組合せたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤。
  5. リンゲル液の形態にある請求項1、2、3又は4に記載の肝機能改善及び麻酔作用増強抑制剤。
  6. 重炭酸イオンを含有することを特徴とするアシドーシス補正に基づく肝機能改善および麻酔作用増強抑制剤。
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