JP2008261825A - 液体マトリックスを用いた高感度maldi質量分析法 - Google Patents

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Abstract

【課題】比較的均質な試料−マトリックス混合物の調製が可能で、且つ、感度の高い、MALDI質量分析法を提供する。
【解決手段】 解析すべき試料と、マトリックスとしてのイオン性液体とを溶媒中に含む混合液であって、前記混合液中の前記イオン性液体の濃度が20pM〜40mMである混合液の液滴を、ターゲットプレート上に形成する工程と、前記混合液の液滴から前記溶媒を除去して、前記液滴の体積の減少とともに、前記ターゲットプレートと前記混合液の液滴とが接する面積を縮小させることによって、前記混合液中に含まれる前記解析すべき試料と前記イオン性液体とを前記面積の一部へ集め、前記解析すべき試料と前記イオン性液体とを含む混合物のフォーカススポットを得る工程と、前記混合物のフォーカススポットをMALDI質量分析測定に供する工程とを含む、液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
【選択図】図1

Description

本発明は、液体マトリックスを用いたMALDI質量分析法に関する。
これまでMALDI質量分析法においては、主として固体マトリックスが使用されている。固体マトリックスを用いて質量分析を行う場合、試料−マトリックス混合結晶をサンプルプレート(ターゲットプレート)上に作成する。試料−マトリックス混合結晶の大きさは試料量及びマトリックス量で殆ど変化はないが、結晶状態としては、使用するマトリックス及び混合結晶の作成方法に応じて特徴的で、これまで様々な結晶状態が報告されている。これらは一般に不均質であり、レーザー照射される結晶の場所ごとに得られるスペクトルが異なる。すなわち、試料イオンが得られるのは、不均質な混合結晶の限られた一部に特徴的に形成されるごく微量の試料の含まれる場所(sweet spot)のみであるため、結晶の場所によってイオン化の偏りが生じる。
固体マトリックスを使用して高感度の計測を行うためには、適切な組み合わせを有する試料とマトリックスとの混合結晶において、sweet spotを探して計測しなければならない。計測を行うためには、計測者にある程度の知識や技術(習熟度)が要求される。なぜなら、マトリックスの組み合わせ方や結晶作成方法でイオンピークの出方が変わるため、それらの不均質な結晶中で試料イオンの出るパターンを見つけなければならないためである。
固体マトリックスの中で最も均一な結晶状態を作ることで知られているのがα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸 (CHCA)だが、それでも結晶(固体)状態であるが故の不均質性は免れない。
このような不均質性は、MALDI分析法における計測の一般化の難しさ、及び、スペクトルの再現性や自動分析及び定量分析を困難にする原因の一つとなっている。
また、固体マトリックスを用いたMALDI質量分析による硫酸化糖鎖分析では、イオン生成時に硫酸基の脱離が起こることが知られている。同様に、固体マトリックスを用いたMALDI質量分析によるシアル酸化糖鎖分析では、イオン生成時にシアル酸の脱離が起こることが知られている。
さらに、固体マトリックスを用いたMALDI質量分析による糖タンパク質及び糖ペプチドの構造解析法が、例えばJMSSJ. 2004, 52, 323-338(非特許文献1)、及び特開2005−300420号公報(特許文献1)に報告されている。すなわちこれらの文献においては、MS分析で得られたスペクトルから、分子量関連イオンとして、糖タンパク質又は糖ペプチドのプロトン付加体及び金属付加体をプリカーサとして選択し、それぞれについてMSn分析を行い解析することで、プロトン付加体からは糖鎖部位の情報、金属付加体からはペプチド部位の情報を得る方法が報告されている。
一方、イオン性液体は、いくつかの化学的用途に用いられているが、J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 14247-14254(非特許文献2)には、殆どのイオン性液体が、類似の極性をもつにも関わらず、有機合成反応の溶媒、MALDI質量分析におけるマトリックス、液−液抽出における液相、及びガスクロマトグラフィーにおける固定相として用いられる際に、まったく異なる挙動を示すことがあると記載されている。非特許文献2においては、MALDI質量分析におけるマトリックスとして、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸のイオンやシナピン酸のイオンを構成イオンとして含むイオン性液体が記載されている。
MALDI質量分析におけるマトリックスとして用いられるイオン性液体、すなわち液体マトリックスは、サンプルプレート上で比較的均質な試料−マトリックス混合液滴を作成することができる。すなわち、イオン化の偏りを少なくすることができる。このことから、液体マトリックスを用いることによる、計測のし易さ及び定量分析への適用性が注目されている。液体マトリックスは、従来の固体マトリックスに比べると未だ研究段階であり適用例も少ないが、液体マトリックスを用いたMALDI質量分析について、いくつか報告がされている。
例えば、Anal. Chem., 2006, 78, 1774-1779(非特許文献3)及びAnal. Chem., 2007, 79, 1604-1610(非特許文献4)には、特定の液体マトリックスを用いることにより、硫酸基の脱離の抑制とともに硫酸化糖鎖のMALDI質量分析が行われたことが報告されている。たとえば上記非特許文献4では、そのような液体マトリックスとして、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸のグアニジウム塩が報告されている。
そのほかにも、液体マトリックスを用いたMALDI質量分析として、以下が報告されている。
例えば、Anal. Chem., 2004, 76, 2938-2950(非特許文献5)には、ターゲットプレート上で、液体マトリックス(具体的には2,5−ジヒドロキシ安息香酸のブチルアミン塩)水溶液中での3’−シアリルラクトースの酵素的脱シアル化をモニタリングし、3’−シアリルラクトースから、シアル酸とラクトースとが生成したことを、MALDI−MS分析で確認したことが報告されている。
そして、特表2005−536759号公報(特許文献2)には、液体マトリックスの使用例として、MALDIサンプルプレート上での糖タンパク質の脱グリコシル化反応の過程及び進行を、液体マトリックス(具体的にはα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸のブチルアミン塩、又は2,5−ジヒドロキシ安息香酸のブチルアミン塩)中で調べることが報告されている。
Rapid Commun. Mass Spectrom. 2006; 20: 1761-1768(非特許文献6)には、アディティブとしてリン酸を使用して液体マトリックス(2,5−ジヒドロキシ安息香酸のピリジン塩あるいはブチルアミン塩)を用いたリン酸化ペプチドのMALDI質量分析が記載されている。
Rapid Commun. Mass Spectrom. 2003; 17: 553-560(非特許文献7)には、3−ヒドロキシピコリン酸や2,5−ジヒドロキシ安息香酸のイオンを構成イオンとして含む液体マトリックスを用いたDNAオリゴマーのMALDI質量分析が記載されている。
Rapid Commun. Mass Spectrom. 2004; 18: 141-148(非特許文献8)やAnal. Bioanal. Chem., 2006, 386: 24-37(非特許文献9)には、シナピン酸、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、又は2,5−ジヒドロキシ安息香酸のイオンを構成イオンとして含む液体マトリックスを用いた、アミノ酸、糖、及びビタミンなどの低分子量化合物のMALDI質量分析が記載されている。非特許文献9には、そのような液体マトリックスの、プロテオーム解析、定量のためのMALDI MSの使用、及びMALDIイメージング分野へのアプリケーションが記載されている。
Anal. Bioanal. Chem., 2006, 384: 215-224(非特許文献10)には、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を構成イオンとして含むピリジンベースの液体マトリックスによるペプチドマスフィンガープリンティングが記載されている。
ジャーナル・オブ・ザ・マス・スペクトロメトリ・ソサイエティ・オブ・ジャパン(Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan)、2004年、第52巻、p.323−338 ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(Journal of American Chemical Society)、2002年、第124巻、p.14247−14254 アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、2006年、第78巻、p.1774−1779 アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、2007年、第79巻、p.1604−1610 アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、2004年、第76巻、p.2938−2950 ラピッド・コミュニケーションズ・イン・マス・スペクトロメトリ(Rapid Communications in Mass Spectrometry)、2006年、第20巻、p.1761−1768 ラピッド・コミュニケーションズ・イン・マス・スペクトロメトリ(Rapid Communications in Mass Spectrometry)、2003年、第17巻、p.553−560 ラピッド・コミュニケーションズ・イン・マス・スペクトロメトリ(Rapid Communications in Mass Spectrometry)、2004年、第18巻、p.141−148 アナリティカル・アンド・バイオアナリティカル・ケミストリ(Analytical & Bioanalytical Chemistry)、2006年、第386巻、p.24−37 アナリティカル・アンド・バイオアナリティカル・ケミストリ(Analytical & Bioanalytical Chemistry)、2006年、第384巻、p.215−224 特開2005−300420号公報 特表2005−536759号公報
まず、上記非特許文献1及び上記特許文献1に記載の方法を含め、固体マトリックスを使用する方法は、不均質な試料−マトリックス混合結晶が得られることとなり、したがって、結晶の場所によってイオン化の偏りが生じる。
また、上記非特許文献2〜10及び上記特許文献2の方法においては、液体マトリックスを用いたMALDI質量分析についての記載があるが、いずれにおいても、液体マトリックスは高い濃度で使用されている。
そのような濃度の液体マトリックスを使用して調製された試料−液体マトリックス混合物は、ターゲットプレート上に薄く広がった形状を有するという点で、固体マトリックスを使用した調製された試料−固体マトリックス混合結晶と同じである。例えば非特許文献9の図3に示されているように、試料−液体マトリックス混合物(当該文献図3のb、d、及びf)と試料−固体マトリックス混合結晶(当該文献の図3のa、c、及びe)とは、いずれにおいても、ターゲットプレートのウェル内の大部分の領域を占めるように薄く広がった状態のものが調製される。
同様に、非特許文献5の図1における試料−液体マトリックス混合物(当該文献図1のA)と試料−固体マトリックス混合結晶(当該文献の図1のB)は、いずれも、ターゲットプレートのウェル内の大部分の領域を占めるように薄く広がった状態のものが調製されている。
そして、測定感度の観点からみた場合は、例えば硫酸基の脱離を抑制する液体マトリックスが紹介された非特許文献4を挙げると、測定された試料の量は10 pmol以上/ウェルであるように、測定感度としては低い。
そこで本発明の目的は、比較的均質な試料−マトリックス混合物の調製が可能で、且つ、感度の高い、MALDI質量分析法を提供することにある。
また本発明の目的は、酸性糖鎖を測定対象とした場合に酸性基あるいは酸性糖の脱離が抑制される高感度のMALDI質量分析法を提供することにある。特に、硫酸化糖鎖を測定対象とした場合に、硫酸基の脱離が抑制される高感度のMALDI質量分析法を提供することにある。
本発明は、以下の発明を含む。
(1)
解析すべき試料と、マトリックスとしてのイオン性液体とを溶媒中に含む混合液であって、前記混合液中の前記イオン性液体の濃度が20pM〜40mMである混合液の液滴を、ターゲットプレート上に形成する工程と、
前記混合液の液滴から前記溶媒を除去して、前記液滴の体積の減少とともに、前記ターゲットプレートと前記混合液の液滴とが接する面積を縮小させることによって、前記混合液中に含まれる前記解析すべき試料と前記イオン性液体とを前記面積の一部へ集め、前記解析すべき試料と前記イオン性液体とを含む混合物のフォーカススポットを得る工程と、
前記混合物のフォーカススポットをMALDI質量分析測定に供する工程と、
を含む、液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
「イオン性液体」は、室温で液体の状態で存在し、その実体は塩である物質をいう。本明細書において、「マトリックスとしてのイオン性液体」と、「液体マトリックス」とは、同じ意味で記載する。
「前記解析すべき試料と前記イオン性液体とを含む混合物」は、MALDI質量分析に供されるべき調製物、すなわちレーザー光を照射する対象物である。
「混合物」中は、「解析すべき試料」と「マトリックスとしてのイオン性液体」とが均質性良く混在しうる。
「解析すべき試料」と、「イオン性液体」と、「溶媒」とを含む「混合液」から、「溶媒」が除去されて残る残渣を「混合物」として得る。
「イオン性液体の濃度」は、従来から用いられてきた濃度に比べ低く設定されたものである。「イオン性液体の濃度」を低く設定しているため、「前記混合液の液滴から前記溶媒を除去して、前記液滴の体積の減少とともに、前記ターゲットプレートと前記混合液の液滴とが接する面積を縮小させること」によって、「前記混合液中に含まれる前記解析すべき試料と前記イオン性液体とを前記面積の一部へ集め」ることが可能になる。
「前記混合液の液滴から前記溶媒を除去」することに伴う「前記液滴の体積の減少」は、前記混合液が濃縮されること、すなわち混合液中の「前記解析すべき試料と前記イオン性液体」の濃度が高くなることを意味する。本発明では、当該濃縮が、「前記ターゲットプレートと前記混合液の液滴とが接する面積を縮小させること」とともに起こる(この現象を「フォーカス現象」と記載することがある)ため、「前記混合液中に含まれる前記解析すべき試料と前記イオン性液体とを前記面積の一部へ集め」ることができる。混合液中の溶媒の大部分ないしは全てが除去されれば、残渣として、「前記面積の一部」に、前記「混合物のフォーカススポット」が得られる。
「混合物のフォーカススポット」(フォーカススポット:focused spot)は、混合液中に含まれる解析すべき試料とイオン性液体とが、前記広がり面積領域の一部を占める微小な面積領域(すなわち下記(2)における「混合物のフォーカススポットとターゲットプレートとが接する面積」に相当する領域)へ集積されることによって形成されたものである。すなわち、混合物が広がり面積領域の一部において盛り上がった微小な塊状の形態で存在するものである。
(2)
前記混合物のフォーカススポットと前記ターゲットプレートとが接する面積は、形成された直後の前記混合液の液滴と前記ターゲットプレートが接する面積の80%以下に縮小される、(1)に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
上記の縮小率(80%以下)について、その下限値としては特に限定されるものではないが、例えば0.001%である。
(3)
好ましくは、前記溶媒は水を含む、(1)又は(2)に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
上記(3)のように、溶媒中に水が含まれることは、上記のフォーカス現象をより効果的に起こすことができる点、より再現性良く混合物を調製することができるという点などから好ましい。
(4)前記混合物のフォーカススポット1個に含まれる前記イオン性液体の量は、10fmol〜20nmolである、(1)〜(3)のいずれかに記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
(5)
前記イオン性液体は、アミンのイオンと酸性基含有有機物質のイオンとを含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
「アミンのイオンと酸性基含有有機物質のイオンとを含む」イオン性液体は、アミンのイオンと酸性基含有有機物質のイオンとから構成される。
(6)
前記酸性基含有有機物質はp−クマル酸である、(5)に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
「p−クマル酸」は、すなわちtrans−4−ヒドロキシケイ皮酸である。
(7)
前記アミンは、テトラメチルグアニジンである、(5)又は(6)に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
(8)
前記解析すべき試料は、糖及び糖を含む分子からなる群から選ばれる分子である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
前記「糖及び糖を含む分子からなる群から選ばれる分子」には、糖鎖、糖鎖を含む分子
も含まれる。
(9)
前記糖を含む分子は、硫酸化糖鎖である、(8)に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
本発明によると、比較的均質な試料−マトリックス混合物の調製が可能で、且つ、感度の高いMALDI質量分析が可能になる。
また本発明によると、硫酸化糖鎖を測定対象とした場合に、硫酸基の脱離が抑制される高感度のMALDI質量分析が可能になる。また、シアロ糖鎖を測定対象とした場合に、シアル酸の脱離が抑制される高感度のMALDI質量分析が可能になる。
本発明は、解析すべき試料と低濃度の液体マトリックスとを含む混合液の液滴を、ターゲットプレート上に形成し、混合液中の溶媒を除去して、特徴のある形状を有する試料−液体マトリックス混合物を調製し、MALDI質量分析測定を行うことによって当該試料の解析を行う。
[1.解析すべき試料と液体マトリックスとを含む混合液]
[1−1.液体マトリックス]
本発明においては、マトリックスとしてイオン性液体を用いる。イオン性液体は、室温で液体の状態で存在し、その実態は塩である物質をいう。このようなイオン性液体は、特に限定されず、当業者が適宜選択することができる。
例えば、液体マトリックスとしては、アミンのイオンと酸性基含有有機物質のイオンとから構成されるイオン性液体を用いることができる。これらのアミンもしくは酸性基含有有機物質のいずれかは、紫外から可視領域から選ばれる波長を有するレーザー光を吸収する。前記アミンとしては、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、n-ブチルアミン、エチルアミン、N,N-ジエチルアミン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジエチルメチルアミン、ジエチルベンゼンアミン、N,N-ジメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、エタノールアミン、ポリエーテルテールドトリエチルアミン、ポリエステルテールドトリエチルアミン、ニトロフェノール、アニリン、2,4-ジニトロアニリン、2-ニトロフェニルオクチルエーテル、ピリジン、2-アミノ-4-メチル-5-ニトロピリジン、3-アミノキノリン、3-ヒドロキシピリジン、1-メチルイミダゾール、1-ブチル-3-メチルイミダゾール、1-(1-ヒドロキシプロピル)-3-メチルイミダゾール、1,3-ジメチルイミダゾール、1,5-ジアミノナフタレン、6-アザ-2-チオチミン、クマリン、6,7-ジヒドロキシクマリン、1,8-ジヒドロキシ-9[10H]-アントラセノン、カルボリン類(ノルハルマン、ハルマン、ハルミン、ハルモル、ハルマリン、ハルマロールなど)などから選択することができる。好ましくは、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンが選択される。
一方、前記の酸性基含有有機物質としては、p−クマル酸、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、α−シアノ−3−ヒドロキシケイ皮酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシフェニルピルビン酸、3-ヒドロキシピコリン酸、3,5-ジメソキシ-4-ヒドロキシケイ皮酸(シナピン酸)、4-ヒドロキシ-3-メソキシケイ皮酸(フェルラ酸)、カフェイン酸(3,4-ジヒドロキシケイ皮酸)、5-メソキシサリチル酸、2-(4-ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、ニコチン酸、ピコリン酸、3-アミノピコリン酸、3-ヒドロキシピコリン酸、2-アミノ安息香酸、3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸、6-アザ-2-チオチミン、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン、1,4-ジヒドロ-2-ナフトエ酸、3-インドールアクリル酸、インドール-2-カルボン酸、チオグリコール酸などから選択される。好ましくは、p−クマル酸が選択される。
通常、液体マトリックスの使用形態は、固体マトリックスの使用形態に準じる。例えば、液体マトリックスにおける酸性基含有有機物質のイオンとしては、固体マトリックスとして用いられている酸性基含有有機物質のイオンが採用されることが多い。
しかしながら上記のイオン性液体のうち、p−クマル酸イオンを構成イオンとして含むイオン性液体は、本発明者らによって発明された新規のものである。p−クマル酸自体は、従来の固体マトリックスとしても用いられてこなかった物質である。このため、p−クマル酸を含むイオン性液体は、全く新しい観点からのアプローチによって見いだされたという点で、非常に重要な意義を有するマトリックスである。しかも、p−クマル酸を含むイオン性液体は、感度の点からみても優れたマトリックスであることが本発明者らによって確認されている。
液体マトリックスの調製方法としては特に限定されるものではない。具体的な調製方法としては従来からのイオン性液体の調製法に準じることができる。
例えば、本発明者らによって新規に見出されたp−クマル酸イオンを含むイオン性液体の場合は、p−クマル酸イオンを構成イオンとしてイオン性液体が生じるように、当業者が適宜調製法を決定することができる。もっとも簡便な調製法の一つとしては、アミンイオンの由来元となるアミン類と、p−クマル酸イオンの由来元となるp−クマル酸とを混合して反応させる方法が挙げられる。
双方の物質を反応させるためには、p−クマル酸をアミン類に加えても良いし、アミン類をp−クマル酸に加えても良い。当該双方の物質の反応は、溶媒中で行うことができる。そのため、p−クマル酸及びアミン類の少なくとも一方を予め溶液として調製して、p−クマル酸をアミン類に加えても良いし、アミン類をp−クマル酸に加えても良い。或いは、溶媒にp−クマル酸及びアミン類を同時に加えても良い。
互いに反応させるべきアミン類とp−クマル酸との比は、モル比で表して1:0.1〜1:10、好ましくは1:1〜1:4と設定することができる。溶媒中どのような濃度で双方の物質を反応させるかについては、当業者が適宜決定すればよい。
溶媒中で反応させた場合は、反応後、溶媒を除去することができる。溶媒の除去は、留去、好ましくは減圧下における留去によって行うことができる。溶媒の除去を行った後、液状の物質をイオン性液体として得ることができる。
本発明では、液体マトリックスが用いられるため、試料−液体マトリックス混合物中で、試料と液体マトリクスとを均質性良く混在させることができる。このため、固体マトリックス使用時のように、質量分析測定に付される試料上の場所によるイオン化の偏りの問題が生じることがなく、したがって測定が容易になる。
[1−2.解析すべき試料]
本発明において、解析すべき試料としては特に制限されない。例えば、糖及び糖を含む分子からなる群から選ばれる分子が挙げられる。糖及び糖を含む分子からなる群から選ばれる分子には、糖鎖、糖鎖を含む分子も含まれる。このような分子としては、硫酸化糖鎖やシアル化糖鎖(シアロ糖鎖)などの酸性糖鎖、中性糖鎖、その他の糖類、糖タンパク質、糖ペプチドなどが挙げられる。またその他にも、タンパク質、ペプチド、その他の生体分子、合成分子を解析対象とすることができる。さらに、上記例示の分子の混合物も解析対象とすることができる。
本発明では、解析すべき試料を硫酸化糖鎖とした場合、特定の液体マトリックスと組み合わせることによって特に有用な解析を行うことが可能である。このような液体マトリックスとしては、次のマトリックスを用いることができる。
例えば、上述の本発明者らによって発明されたp−クマル酸イオンを構成イオンとして含むイオン性液体(すなわちアミンイオンとp−クマル酸のイオンから構成されるイオン性液体)が挙げられる。この中でも特に、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンイオンとp−クマル酸イオンから構成されるイオン性液体を液体マトリックスとして用いることが好ましい。これらのマトリックスは、硫酸基の脱離を抑制することができることが、本発明者らによって確認されている。
従って、本発明者らによって発明されたp−クマル酸イオンを含む液体マトリックスは、上述のように感度の観点から優れていることに加え、硫酸基の脱離を抑制するという硫酸化糖鎖の解析目的の観点からも、優れたマトリックスであるといえる。
同様に、本発明者らによって発明されたp−クマル酸イオンを含む液体マトリックスは、解析すべき試料をシアロ糖鎖とした場合、シアル酸の脱離を抑制することができることが、本発明者らによって確認されている。
また、硫酸基の脱離を抑制することができるマトリックスとしては、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンイオンとα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸イオンとから構成されるイオン性液体など、Anal. Chem., 2006, 78, 1774-1779(非特許文献3)やAnal. Chem., 2007, 79, 1604-1610(非特許文献4)記載の液体マトリックスを用いても良い。
[1−3.その他の物質]
解析すべき試料と液体マトリックスとを含む混合液は、当該解析すべき試料及び液体マトリックス以外に、混合液調製時に混在しうる物質、及び液体マトリックスの作用を助けるためのアディティブなどのいかなるものをさらに含んで良い。
[2.試料−液体マトリックス混合物の形状]
本発明において、試料−液体マトリックス混合物は、塊状の形状を有する。ここで塊状とは、従来の試料−液体マトリックス混合物が有する扁平な形状に比べ、厚さがより大きく(すなわちターゲットプレート面からの高さがより高く)、面がより狭い(すなわちターゲットプレートとの接触面積がより小さい)形状、すなわちより盛り上がった形状をいう。例えばターゲットプレート上に調製される場合は、ターゲットプレートのウェル内のより狭い面積領域において、当該混合物が、集積或いは堆積したように盛り上がった微小な塊の状態で調製される。この微小な塊状の混合物を、混合物のフォーカススポットと記載することがある。
[3.試料−液体マトリックス混合物の調製]
試料−液体マトリックス混合物は、解析すべき試料と、液体マトリックスとを溶媒中に含む混合液の液滴をターゲットプレート上に形成する工程と、形成された前記混合液の液滴から前記溶媒を除去し、前記混合液中の不揮発分(すなわち少なくとも試料と液体マトリックス)を残渣として得る工程とによって得ることができる。
混合液の液滴をターゲットプレート上に形成する具体的方法としては特に限定されない。たとえば、試料溶液と液体マトリックス溶液とを別々に調製し、両溶液を混合させて混合液を得て、得られた混合液をターゲットプレート上に滴下することによって、混合液の液滴を形成することができる。また、試料溶液と液体マトリックス溶液とを別々に調製し、試料溶液をターゲットプレート上に滴下して試料溶液の液滴を形成し、形成された試料溶液の液滴に液体マトリックス溶液を滴下することによってターゲットプレート上で両溶液を混合し、混合液の液滴を形成することができる。またこの場合、試料溶液と液体マトリックス溶液との滴下順序を逆にしても良い。
形成されたターゲットプレート上の混合液液滴は、ある程度の広がり面積をもってターゲットプレートと接している。以下、液滴とターゲットプレートとが接する面積を、液滴の広がり面積と記載することがある。
本発明の塊状の混合物は、以下のような過程を経て形成される。
ターゲットプレート上の混合液の液滴から溶媒が除去されるに伴い、液滴の体積が減少する。溶媒の除去としては、溶媒の自然蒸発を含む。これにより、混合液中の不揮発分(試料及び液体マトリックスが少なくとも含まれる)の濃度が高くなる。すなわち混合液液滴が濃縮される。それに伴い、混合液液滴の広がり面積を縮小させる。混合液液滴の濃縮と混合液液滴の広がり面積の縮小とが相伴って起こるため、濃縮がより進行すれば、当該広がり面積領域のより小さい面積領域へ、混合液中の不揮発分がより濃い濃度で集められる。混合液中の溶媒の大部分ないしは全てが除去されることによって濃縮が完了すれば、残渣として、試料−液体マトリックス混合物の微小な濃縮スポットが当該広がり面積の一部に残る。この状態は、室温下及び真空下でも維持される。
本発明においては、混合液液滴の濃縮とともに混合液液滴の広がり面積の縮小が起きる現象を、混合液中に含まれる不揮発分が、混合液液滴の広がり面積の一部へ集まることから、フォーカス現象と呼ぶ。フォーカス現象を利用することの利点は、試料−液体マトリックス混合物を非常に小さい面積領域に集中させることができることにある。混合物が非常に小さい面積領域に集中することは、レーザーを照射するポイントに存在する試料を密にすることであるため、高感度計測を可能にする。しかも、そのようにして得られた塊状混合物の表面は比較的均質な状態で保たれているため、混合物スポットの場所によるイオン化の偏りがほとんどないコンディションで計測を行うことが可能である。
フォーカス現象によってターゲットプレート上の液滴がどの程度縮小するかに関する具体的な量としては特に限定されるものではない。例えば、混合物のフォーカススポットとターゲットプレートとが接する面積が、形成された直後の混合液の液滴とターゲットプレートが接する面積の80%以下、好ましくは50%以下、更に好ましくは10%以下に縮小されれば、当該フォーカス効果は特に効果的に得られたといえる。当該縮小率の下限値としては特に限定されるものではないが、例えば0.001%である。
すでに述べたように、フォーカス現象によって、試料−液体マトリックス混合物が非常に小さい面積領域に集中するため、レーザーを照射するポイントに存在する試料が密になり、従って高感度計測をおこなうことが可能になる。
このため、形成された直後の混合液の液滴の広がり面積がフォーカス現象によってより小さい面積に縮小すると(すなわちより大きいフォーカス効果を得ると)、より密に凝集した試料−液体マトリックス混合物が得られる。このことは、高感度計測の点から好ましい。本発明における所望のフォーカス効果を得るためには、後述のように、試料及び液体マトリックスを含む混合液中の液体マトリックス濃度を考慮する。フォーカス効果をより効果的に得るためには、例えば後述のように、使用する溶媒の種類やターゲットプレートの表面の状態などをさらに考慮すると良い。
[3−3.液体マトリックスの量]
[3−3−1.混合液中の液体マトリックスの量]
従来法において通常に用いられていた濃度の液体マトリックスは、過剰に高い濃度を有しているため、本発明において必要なフォーカス現象は起こらない。この場合は、通常、薄く広がった形状の混合物が得られる。
本発明においては、フォーカス現象を利用して、微小な混合物の濃縮スポット(フォーカススポット)を得る。本発明における所望のフォーカス効果を得るため、混合液中の液体マトリックスの濃度を通常用いられていた濃度より低く設定する。
混合液中の液体マトリックスの量は、フォーカス現象を起こすことができる程度に少なく、且つ液体マトリックスがMALDI質量分析のマトリックスとして作用する程度に十分な量である。そのような量は、混合液中の不揮発分として含まれる物質の種類や、当該不揮発分の総量などの要因によって変動しうるものであるが、本発明においては、20pM〜40mM、好ましくは20μM〜20mM、更に好ましくは20μM〜11mMとする。このような範囲とすることによって、本発明における所望のフォーカス効果を得ることができる。
[3−3−2.フォーカススポット中の液体マトリックスの量]
本発明においては、最終的に形成された試料−液体マトリックス混合物のフォーカススポット1個あたりの液体マトリックスの量を、10 fmol〜20 nmol、好ましくは10 pmol〜10 nmol、更に好ましくは10 pmol〜6 nmolとすることができる。例えば、混合液の濃度を上記のように20pM〜40mM、好ましくは20μM〜20mM、更に好ましくは20μM〜11mMとした場合に、フォーカススポット1個あたりの液体マトリックスの量が上記範囲内に収まるように、混合液の液滴を形成することができる。
[3−4.解析すべき試料の量]
なお、混合液中の解析すべき試料の量としては、特に限定されるものではない。例えば、液体マトリックス5 nmolに対し、試料の量は、10pmol〜数fmolの広い範囲で許容される。
[3−5.液滴の体積]
1個のフォーカススポットを形成する混合液の液滴の体積としては、特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。
ターゲットプレート上にウェルが設けられている場合、混合液の液滴は、ウェル内に形成することができる。この場合、液滴は、当該ウェル内に収まる程度の体積をもって形成される。具体的には、10nL〜10μl程度、例えば0.5μl程度の液滴を形成することができる。
[3−6.溶媒]
混合液中に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、当業者が適宜決定することができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルムなどの有機溶媒、及び水から適宜選択して用いることができる。例えば、メタノール−水系が好ましい。
溶媒中には水が含まれていることが好ましい。例えば、溶媒全体の10〜100体積%、好ましくは30〜100体積%を占めるように、水を含ませることができる。溶媒中に水が含まれることは、上記のフォーカス効果を特に効果的に得ることができる点、より再現性良く混合物を調製することができるという点などから好ましい。
[3−7.ターゲットプレート]
ターゲットプレートとしては、特に限定されない。通常MALDI質量分析に使用されるステンレス鋼ターゲットプレートなどや、化学的或いは物理的に表面処理がなされたターゲットプレートなど、さまざまなものを使用することができる。
特にターゲットプレート表面の表面粗さがより小さいものは、上記のフォーカス現象をより効果的に起こすという観点から好ましい。すなわち、ターゲットプレート表面が研磨などによってよりなめらかな状態としたものを用いたほうが、より大きいフォーカス効果が得られる。例えば、鏡面仕上げされたターゲットプレートを用いることは、フォーカス効果を特に効果的に得ることができる点で好ましい。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実験例1:試料−液体マトリックス混合物の調製]
以下のようにして、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンイオンとα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸イオンとから構成されるイオン性液体(G2CHCA)を調製した。
0.05 mmol (9.45 mg)のα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸をメタノール500μLに溶かし、0.1 mmol(12.5 μL)の1,1,3,3−テトラメチルグアニジンを加えて、手動及び自動振動器でしっかりと混合した。得られた混合溶液に対し、スピードバックを用いて約2時間減圧乾燥を行った。これをデシケータに入れて、一晩真空引きを行った。
このようにして得られたイオン性液体を液体マトリックスとして用いた。
以下の液体マトリックス溶液a〜dを調製した。
液体マトリックスG2CHCAを9 mg/0.1 mLでメタノールに溶かして調製したものを液体マトリックス溶液aとし;液体マトリックス溶液aをメタノールで10倍希釈して調製したものを液体マトリックス溶液bとし;液体マトリックス溶液aをメタノールで100倍希釈して調製したものを液体マトリックス溶液cとし;及び液体マトリックス溶液aをメタノールで1000倍希釈して調製したものを液体マトリックス溶液dとした。
試料(ここでは硫酸化糖鎖Neocarratetraose-41, 3-di-O-sulfate sodium salt (FW 834.6))を100 fmol/μLで水に溶かして、試料水溶液を調製した。上記の4種の液体マトリックス溶液を、それぞれ、試料水溶液と1:1(v/v)で混合した。得られた混合液を0.5 μLずつサンプルターゲット上に滴下し、自然に溶媒を蒸発させることにより、4種の試料−液体マトリックス混合物を得た。ここで用いられたサンプルターゲットは、その表面に鏡面処理がなされ、且つ2mmの内径を有するウェルが設けられている。
0.5 μLの混合液をサンプルターゲット上に滴下した瞬間、混合液の液滴はこのウェルの2mm径の円いっぱいに広がる。その状態から溶媒が蒸発することによって得られた試料−液体マトリックス混合物の実体顕微鏡写真を図1(a)〜図1(d)に示す。すなわち、液体マトリックス溶液aを用いて得られた試料−液体マトリックス混合物の実体顕微鏡写真を図1(a)に;溶液bを用いて得られた混合物の写真を図1(b)に;溶液cを用いて得られた混合物の写真を図1(c)に;及び溶液dを用いて得られた混合物の写真を図1(d)に示す。
それぞれの試料−液体マトリックス混合物の直径は、図1(a)では0.86mm、図1(b)では0.36mm、図1(c)では0.21mm、図1(d)では0.04mmであった。
図1(a)においては、多少のフォーカス効果は得られている。これは、鏡面仕上げのターゲットプレートを用いたことによるものである。一方、図1(b)〜図1(d)においては、本発明における所望のフォーカス効果が得られており、その効果はマトリックス濃度が薄くなるほど大きい。
また、他の液体マトリックス(例えば下記実施例1における、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンイオンとp−クマル酸イオンとから構成されるイオン性液体(GCA))を用いた場合も、図1と同様の結果が得られたことが本発明者らによって確認された。
[実施例1]
以下のようにして、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンイオンとp−クマル酸イオンとから構成されるイオン性液体(GCA)を調製した。0.05 mmol(8.2 mg)のp−クマル酸をメタノール500μLに溶かし、0.15 mmol(18.75 μL)の1,1,3,3−テトラメチルグアニジンを加えて、手動及び自動振動器でしっかり混合した。得られた混合溶液に対し、スピードバックを用いて約2時間減圧乾燥を行った。これをデシケータに入れ、一晩真空引きを行った。このようにして得られたイオン性液体を液体マトリックスとして用いた。
GCAは9 mg/0.1 mLでメタノールに溶かし、さらにメタノールによって、1/20(v/v)に希釈し、液体マトリックス溶液を得た。一方、硫酸化糖鎖Neocarratetraose-41, 3-di-O-sulfate sodium salt (FW 834.6) を水に溶かし、硫酸化糖鎖溶液を得た。液体マトリックス溶液と硫酸化糖鎖溶液とを1:1(v/v)で混合した。得られた混合溶液を0.5 μLずつ鏡面仕上げされたサンプルターゲット上に滴下し、自然に溶媒を蒸発させ、小さく濃縮(凝縮)された硫酸化糖鎖−液体マトリックス混合物を得た。
質量分析装置としてMALDI-QIT-TOF型質量分析装置(島津製作所製AXIMA-QIT)を用い、サンプルターゲット上に調製した混合物について計測を行った。計測は、ポジティブモード及びネガティブモードの両方によって行った。
その結果、ポジティブモードでは、硫酸化糖鎖は、硫酸基の脱離を抑制しながら、10 fmol/ウェルまで[M+Na]+として検出された(図2)。一方ネガティブモードでは、硫酸化糖鎖は、硫酸基の脱離を抑制しながら、 5 fmol/ウェルまで[M-Na]-として検出された(図3)。さらに、検出限界濃度(すなわちS/Nは低いがイオン化は確認できた濃度)としては、ポジティブモードで5 fmol/ウェル、ネガティブモードで1 fmol/ウェルであった。
またこれらのイオンは、試料−マトリックスの混合物の表面上で比較的均一に得ることができたことを確認した。
実験例1において得られた、異なる濃度の液体マトリックス溶液から調製された4種の試料−液体マトリックス混合物の実体顕微鏡写真(a)〜(d)である。 実施例1において、液体マトリックスGCAを用いて、10 fmol/ウェルの硫酸化糖鎖Neocarratetraose-41, 3-di-O-sulfate sodium salt (FW 834.6)に対して、ポジティブモード測定により得られたマススペクトルである。横軸は質量/電荷、縦軸はイオンの相対強度を表す。 実施例1において、液体マトリックスGCAを用いて、5 fmol/ウェルの硫酸化糖鎖Neocarratetraose-41, 3-di-O-sulfate sodium salt (FW 834.6)に対して、ネガティブモード測定により得られたマススペクトルである。横軸は質量/電荷、縦軸はイオンの相対強度を表す。

Claims (9)

  1. 解析すべき試料と、マトリックスとしてのイオン性液体とを溶媒中に含む混合液であって、前記混合液中の前記イオン性液体の濃度が20pM〜40mMである混合液の液滴を、ターゲットプレート上に形成する工程と、
    前記混合液の液滴から前記溶媒を除去して、前記液滴の体積の減少とともに、前記ターゲットプレートと前記混合液の液滴とが接する面積を縮小させることによって、前記混合液中に含まれる前記解析すべき試料と前記イオン性液体とを前記面積の一部へ集め、前記解析すべき試料と前記イオン性液体とを含む混合物のフォーカススポットを得る工程と、
    前記混合物のフォーカススポットをMALDI質量分析測定に供する工程と、
    を含む、液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
  2. 前記混合物のフォーカススポットと前記ターゲットプレートとが接する面積は、形成された直後の前記混合液の液滴と前記ターゲットプレートが接する面積の80%以下に縮小される、請求項1に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
  3. 前記溶媒は水を含む、請求項1又は2に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
  4. 前記混合物のフォーカススポット1個に含まれる前記イオン性液体の量は、10fmol〜20nmolである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
  5. 前記イオン性液体は、アミンのイオンと酸性基含有有機物質のイオンとを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
  6. 前記酸性基含有有機物質はp−クマル酸である、請求項5に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
  7. 前記アミンは、テトラメチルグアニジンである、請求項5又は6に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
  8. 前記解析すべき試料は、糖及び糖を含む分子からなる群から選ばれる分子である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
  9. 前記糖を含む分子は、硫酸化糖鎖である、請求項8に記載の液体マトリックスを用いた高感度MALDI質量分析法。
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