JP2016148641A - ステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックス - Google Patents

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康 茂里
浩昭 佐藤
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浩昭 佐藤
朋也 絹見
Tomoya Kinumi
朋也 絹見
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【課題】ステロイドホルモンの検出することができる質量分析用マトリックスを提供する。【解決手段】以下を含む40種の化合物またはその塩の少なくとも1種を含むステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックス:(1)ベンゾヒドラジド,(2)アントラニロイルヒドラジド,(3)2-クロロベンゾヒドラジド,(4)2-フルオロベンゾヒドラジド,(5)2-ニトロベンゾヒドラジド,(6)2-ヒドロキシベンゾヒドラジド,(7)3-クロロベンゾヒドラジド,(8)3-ニトロベンゾヒドラジド,(9)3-メトキシベンゾヒドラジド,(10)4-クロロベンゾヒドラジド。【選択図】図1

Description

本発明は、ステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックスに関する。
スポーツの公平性及びアスリートの安全性を保証するために、アスリートのドーピング検査が一般的になっている。このような薬物検査法において、アスリートの尿と血液が採取され、同化剤、ペプチド及び成長因子、β2アゴニスト、ホルモン及び代謝調節剤、利尿剤及びマスキング剤などの禁止物質の潜在的な存在が検査されている[1]。テストステロンと同様な効果を有する筋肉増強剤である同化ステロイドは、禁止物質の代表例であり、それらを迅速かつ定量的に検出する検査法が求められている。
3つの通常の検査法、すなわち特異抗体を用いたイムノアッセイ;ヘプタフルオロ無水酪酸(HFBA)のような誘導体化試薬を用いた同位体希釈(ID)-ガスクロマトグラフィー−質量分析法(GC-MS)[2];及びID-液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC-MS)及び液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレーイオン化(ESI)タンデム質量分析法(LC-MS/MS)がある[3, 4]。
イムノアッセイは迅速で使いやすい方法であるが、抗体の特異性に依存しステロイドホルモン含量が低いサンプルでは定量的な結果を得る能力に欠けている。他方、認証標準物質(同位体ラベルされていてもされていなくてもよい)と組み合わせたGC-MS, LC-MS及びLC-MS/MSは再現性がありかつ定量的な方法である。しかしながら、これらの方法はまた面倒な操作、高価な装置の必要性、比較的大量の有機溶媒の消費などのいくつかの欠点を有する。
マトリックス支援レーザー脱離イオン化法 (MALDI-MS)は質量分析における代表的なソフトイオン化法である[5-7]。ペプチドや蛋白質のような生体分子の分析に適したMALDI-MSは、簡単な操作、多くのサンプルの処理能力、不純物レベルの高いサンプルの適用性などの特徴を有する。
しかしながら、337 nm(窒素レーザー), 349 nm(Nd:YLF レーザー)及び355 nm (Nd:YAG レーザー)などのMALDIレーザーの波長で吸収する化合物であることが必要であり、MALDIマトリックスと測定サンプルが十分に良好な混晶として形成されるべきである。DHB(2,5-ジヒドロキシ安息香酸)とCHCA (α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸)及びシナピン酸のような桂皮酸関連化合物がMALDI-MSの標準的なマトリックスとして開発されたが、それらはマトリックス由来の小さいm/z値(約100-500)のイオンピークを示し、低分子量分子の測定を妨げる[8, 9]。さらに、糖、ステロイドなどのいくつかの生体分子は通常のMALDIマトリックスを用いると低い脱離イオン化効率を示すことが知られている[7, 10]。従って、1990年代初期に開発されたこれら周知のMALDIマトリックスに改良の余地がある。
本発明者は以前にペプチドサンプル及び約13,000化合物を含む多様な化学物質ライブラリーを利用してMALDI-MSの高機能マトリックスを探索した。その結果、マトリックス結晶における電気伝導度の重要性を提案した[11]。スクリーニングプロセスにおいて、本発明者はいくつかのヒドラジド及びヒドラジン試薬が測定サンプルのカルボニル基と反応し、得られた誘導体(ヒドラゾン)及びそのフラグメントが慣用のMALDI-MSマトリックスの添加無しにMALDI-MSで効率よく検出されることを見出した。さらに、本発明者はMALDI-MSによる単一ステップにおいて、ヒドラジド及びヒドラジン試薬が気体状アルデヒド(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びプロピオンアルデヒド)を検出可能であることを見出した[12]。
1. The 2014 prohibited list. International standard. The World Anti-Doping Code. World Anti-Doping Agency. http://www.wada-ama.org/Documents/World_Anti-Doping_Program/WADP-Prohibited-list/2014/WADA-prohibited-list-2014-EN.pdf 2. Choi M, Chung B, Lee W, Lee U, Kim Y (1999) Determination of anabolic steroids by gas chromatography/negative-ion chemical ionization mass spectrometry and gas chromatography/negative-ion chemical ionization tandem mass spectrometry with heptafluorobutyric anhydride derivatization. Rapid Commun Mass Spectrom 13: 376-380 3. Mazzarini M, de la Torre X, Botre F (2008) A screening method for the simultaneous detection of glucocorticoids, diuretics, stimulants, anti-oestrogens, beta-adrenergic drugs and anabolic steroids in human urine by LC-ESI-MS/MS. Anal Bioanal Chem 392: 681-698 4. Auchus R (2014) Steroid assays and endocrinology: best practices for basic scientists. Endocrinology 155: 2049-2051 5. Tanaka K, Waki H, Ido Y, Akita S, Yoshida Y, Yoshida T (1988) Protein and polymer analyses up to m/z 100000 by laser ionization time-of flight mass spectrometry. Rapid Commun Mass Spectrom 2: 151-153 6. Karas M, Hillenkamp F (1988) Laser desorption ionization of proteins with molecular masses exceeding 10000 daltons. Anal Chem 60: 2299-2301 7. Dreisewerd K (2003) The desorption process in MALDI. Chem Rev 103: 395-426 8. Beavis R, Chait B (1989) Cinnamic acid derivatives as matrices for ultraviolet laser desorption mass spectrometry of proteins. Rapid Commun Mass Spectrom 3: 432-435 9. Strupat K, Karas M, Hillenkamp F (1991) 2,5-Dihydroxybenzoic acid: a new matrix for laser desorption-ionization mass spectrometry. Int J Mass Spectrom 111: 89-102 10. Dreisewerd K (2014) Recent methodological advances in MALDI mass spectrometry. Anal Bioanal Chem 406: 2261-2278 11. Yasuda A, Ishimaru T, Nishihara S, Sakai M, Kawasaki H, Arakawa R, Shigeri Y (2013) A thiophene-containing compound as a matrix for matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry and the electrical conductivity of matrix crystals. Eur J Mass Spectrom 19: 29-37 12. Shigeri Y, Ikeda S, Yasuda A, Ando M, Sato H, Kinumi T (2014) Hydrazide and hydrazine reagents as reactive matrices for MALDI-MS to detect gaseous aldehydes. J Mass Spectrom 49: 742-749
本発明は、ステロイドホルモンを検出することができる質量分析用マトリックスを提供することを目的とする。
本発明において、本発明者は37個のヒドラジド試薬及び14個のヒドラジン試薬を検討し、それらの中で1つのヒドラジド(3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド)がカルボニル基を含むステロイドと最も効率よく反応し、MALDI-MSの反応性マトリックスとして機能することを見出した。このヒドラジド試薬を利用することでMALDI-MSの単一ステップによりヒト唾液中のコルチゾン及びコルチゾールを検出できる。さらに、このヒドラジド試薬とCHCAを組み合わせると唾液及び血清のような生体サンプル中のカルボニル基を有するステロイドが効果的に検出できることを見出した。
本発明は、以下のステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックスを提供するものである。
項1. 以下の40種の化合物またはその塩の少なくとも1種を含むステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックス:
(1) ベンゾヒドラジド,
(2) アントラニロイルヒドラジド
(3) 2-クロロベンゾヒドラジド,
(4) 2-フルオロベンゾヒドラジド,
(5) 2-ニトロベンゾヒドラジド,
(6) 2-ヒドロキシベンゾヒドラジド,
(7) 3-クロロベンゾヒドラジド,
(8) 3-ニトロベンゾヒドラジド,
(9) 3-メトキシベンゾヒドラジド,
(10) 4-クロロベンゾヒドラジド,
(11) 4-ニトロベンゾヒドラジド,
(12) 4-メトキシベンゾヒドラジド,
(13) 4-tert-ブチルベンゾヒドラジド,
(14) 4-アミノベンゾヒドラジド,
(15) 4-ヒドロキシベンゾヒドラジド,
(16) テレフタル酸ジヒドラジド
(17) イソフタル酸ジヒドラジド
(18) ピコリン酸ヒドラジド
(19) ニコチン酸ヒドラジド,
(20) イソニコチン酸ヒドラジド,
(21) 2-チオフェンカルボン酸ヒドラジド,
(22) 1-ナフトエ酸ヒドラジド,
(23) 2-ナフトエ酸ヒドラジド,
(24) 1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド,
(25) 3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド,
(26) 6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド,
(27) L-チロシンヒドラジド,
(28) フェニルヒドラジン,
(29) o-トリルヒドラジン,
(30) 2-ニトロフェニルヒドラジン,
(31) m-トリルヒドラジン,
(32) 3-ニトロフェニルヒドラジン,
(33) 4-メトキシフェニルヒドラジン,
(34) 4-ニトロフェニルヒドラジン,
(35) 4-クロルフェニルヒドラジン,
(36) 2,4-ジクロロフェニルヒドラジン,
(37) 1-ナフチルヒドラジン,
(38) 2-ヒドラジノピリジン,
(39) 2-ヒドラジノキノリン,
(40) 2-ヒドラジノベンゾチアゾール。
項2. 3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドまたはその塩を含む請求項1に記載のステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックス
項3. さらにα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)を含む、請求項1又は2に記載のステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックス。
本発明によれば、質量分析用の既存の他のマトリックスを質量分析測定の際に添加する必要がなく、ステロイドホルモンをMALDI-MS等の質量分析を使用して、ワンステップで検出することを可能にする。
ヒドラジド(A)及びヒドラジン(B)試薬とステロイド(テストステロン)の縮合反応 3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドとテストステロン(100 pmol)及びメチルテストステロン(100 pmol)の縮合反応及びMALDI-MSスペクトル。アスタリスク(**)を付したプロトン化イオンは3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドとテストステロン(100 pmol)又はメチルテストステロン(100 pmol)の反応後のヒドラゾンに由来する。アスタリスク(*)を付したプロトン化イオンは3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドとテストステロン(100 pmol)又はメチルテストステロン(100 pmol)の反応後のヒドラゾンのフラグメントに由来する。 ヒドラゾン(A)、ヒドラゾンのフラグメント(B)及びテストステロン(C)の化学構造。 本発明で使用したヒドラジド試薬の化学構造 本発明で使用したヒドラジド試薬の化学構造 本発明で使用したヒドラジン試薬の化学構造 実施例で使用したカルボニル基を有する7種のステロイドの化学構造。(i) aldosterone, (ii) androstenedione, (iii) corticosterone, (iv) cortisol, (v) 17-hydroxyprogesterone, (vi) progesterone and (vii) testosterone 7種の異なるステロイド(2.5 pmol) と3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの混合物のMALDI-MSスペクトル。 (i) aldosterone, (ii) androstenedione, (iii) corticosterone, (iv) cortisol, (v) 17-hydroxyprogesterone, (vi) progesterone and (vii) testosterone. (F), (D)及び(2D)は各々ヒドラゾンのフラグメント、ヒドラゾン及びヒドラゾンのビス誘導体に由来する。 ヒト血清中の添加されたコルチゾール(1.93 ng)と3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドのMALDI-MSスペクトル。アスタリスク(*)を付したプロトン化イオンピークは、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドとコルチゾールの反応後に得られたヒドラゾンに対応する。 午前中(A)及び午後(B)に各々採集したヒト唾液と3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドのMALDI-MSスペクトル。アスタリスク(*)及び(**)を付したプロトン化イオンピークは、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドとコルチゾン及びコルチゾールの反応後に得られたヒドラゾンに対応する。 ヒト血清中の添加されたコルチゾール(1.93 ng)と、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド(4.76 mg/ml) (A)並びに3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドとCHCA (10 mg/ml)の混合物 (4 : 1, v/v) (B)のMALDI-MSスペクトル。アスタリスク(*)及び(**)を付したプロトン化イオンピークは、ヒト血清中に添加されたコルチゾールと3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの反応後のヒドラゾンのフラグメント及びヒドラゾン自体に由来する。 午後に採集したヒト唾液とCHCA (10 mg/ml) (A),3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド(4.76 mg/ml) (B)及び3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドとCHCAの混合物 (4 : 1, v/v)(C)のMALDI-MSスペクトル。アスタリスク(*)及び(**)を付したプロトン化イオンピークは、午後に採集したヒト唾液と3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの反応後のヒドラゾンのフラグメント及びヒドラゾン自体に由来する。実体顕微鏡を用いた結晶の観察:結晶CHCA (A), 3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド(B)及び3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドとCHCAの混合物 (4 : 1, v/v) (C).
本発明のマトリックスは、ステロイドホルモンと反応し、その生成物の質量分析を行うことで、ステロイドホルモンを分析することができる。
ステロイドホルモンは、図6に示される7種のホルモンを包含するが、ステロイド骨格及びカルボニル基を有するホルモンであれば広く包含される。
本発明のマトリックスとステロイドホルモンの反応様式を図1に示す(図1中、Rは芳香族基又はヘテロ芳香族基を示す)。
哺乳動物(ヒト、サル、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、ウシ、ブタ、ウマなど)、好ましくはヒトの検体(唾液、血液、血清、血漿、尿、涙液など)中のステロイドホルモンを検出することができる。
芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基及びL-チロシン由来の2-(4-ヒドロキシフェニル)-1-アミノエチル基などが挙げられ、ヘテロ芳香族基としては、ピリジル基、キノリル基、ベンゾチアゾリル基などが挙げられる。
本発明でマトリックスとして使用する化合物は、脂肪族、芳香族またはヘテロ芳香族化合物であって、ヒドラジド基(−CO−NHNH)またはヒドラジン基(−NHNH)を有する化合物である。好ましい化合物を図4-1、図4-2、図5に示す。
本発明の、芳香族/ヘテロ芳香族のヒドラジド/ヒドラジン化合物は、ステロイドと反応し、かつ、MALDI-MSなどの質量分析のマトリックスとしての機能を有する。
ステロイドとヒドラジド又はヒドラジンの縮合生成物は図1に示されるようなヒドラゾンであるが、これらの化合物は、質量分析の測定中にヒドラジド/ヒドラジンの隣接する2つの窒素原子の間で切断され、図3に示されるようなフラグメントが生成され得る。
ヒドラジド化合物はカルボニル基との反応性を有するように塩を形成しない遊離の化合物が挙げられ、ヒドラジン化合物は、塩の形態が好ましい。塩としては、フッ酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、トリフルオロ酢酸塩などが挙げられ、塩酸塩が好ましい。
本発明のマトリックスは、上記の芳香族/ヘテロ芳香族のヒドラジド/ヒドラジン化合物を溶媒に溶解した液滴を質量分析用プレート上滴下し、溶媒を蒸発させることで、レーザーが照射されるべき質量分析用スポットが形成される。
溶媒としては、従来より用いられてきた溶媒を用いることができ、特に限定されないが、例えば、水、アセトニトリル、メタノール、エタノールなどが挙げられ、好ましくは水とアセトニトリル、メタノール、エタノール等の有機溶媒の混合溶媒が挙げられる。
1個の質量分析用スポットを得るために使用する混合溶液の液滴の量は、特に限定されないが、例えば0.1〜10μLが挙げられる。
質量分析用プレートとしては、通常MALDI-MSに使用されるステンレス鋼ターゲットプレートなどや、化学的或いは物理的に表面処理がなされたターゲットプレートなど、様々なものを使用することができる。例えば、研磨処理や鏡面仕上げなど、処理プレート表面の表面粗さを所望の程度にする物理的表面処理がなされたものを用いることができる。
本発明のマトリックスを用いて使用される質量分析装置としては、MALDIイオン源と組み合わされたものであれば特に限定されない。例えば、MALDI-IT(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−イオントラップ)型質量分析装置、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間)型質量分析装置、MALDI-IT-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−イオントラップ−飛行時間)型質量分析装置、MALDI-QIT-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-四重極イオントラップ-飛行時間)型質量分析装置、MALDI-FTICR(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)型質量分析装置などが挙げられる。
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
実施例1
実験に用いた下記の37種のヒドラジド試薬及び14種のヒドラジン試薬等は東京化成工業株式会社、和光純薬工業株式会社、ナカライテスク社から購入した。
37 hydrazide reagents (benzohydrazide, anthraniloyl hydrazine, 2-chlorobenzohydrazide, 2-fluorobenzohydrazide, 2-nitrobenzohydrazide, 2-hydroxybenzohydrazide, 3-chlorobenzohydrazide, 3-nitrobenzohydrazide, 3-methoxybenzohydrazide, 4-chlorobenzohydrazide, 4-nitrobenzohydrazide, 4-methoxybenzohydrazide, 4-tert-buthylbenzohydrazide, 4-aminobenzohydrazide, 4-hydroxybenzohydrazide, terephthalic dihydrazide, isophthalic dihydrazide, picolinohydrazide, nicotinic acid hydrazide, isonicotinic acid hydrazide, 2-thiophenecarbohydrazide, 1-naphthohydrazide, 2-naphthohydrazide, 1-hydroxy-2-naphthoic acid hydrazide, 3-hydroxy-2-naphthoic acid hydrazide, 6-hydroxy-2-naphthoic acid hydrazide, 3-methoxy-2-naphthoic acid hydrazide, 6-bromo-2-naphthohydrazide, L-tyrosine hydrazide, 1-acetyl-2-phenylhydrazine, phthalic hydrazide, maleic hydrazide, methylmaleic hydrazide, 6-methyl-3(2H)-pyridazinone, 3-methyl-5-pyrazolone, Girard’s Reagent P, Girard’s Reagent T), 14 hydrazine reagents (phenylhydrazine hydrochloride, o-tolylhydrazine hydrochloride, 2-nitrophenylhydrazine hydrochloride, m-tolylhydrazine hydrochloride, 3-nitrophenylhydrazine hydrochloride, 4-methoxyphenylhydrazine hydrochloride, 4-nitrophenylhydrazine hydrochloride, 4-chlorphenylhydrazine hydrochloride, 2,4-dichlorophenylhydrazine hydrochloride, 1-naphthylhydrazine hydrochloride, 2-hydrazinopyridine, 2-hydrazinoquinoline, 2-hydrazinobenzothiazole and DNPH), Triton X-100, polyethylene glycol 200 (PEG 200) and polyethylene glycol 400 (PEG 400). 8種のステロイド(aldosterone, androstenedione, corticosterone, cortisol, 17-hydroxyprogesterone, methyltestosterone, progesterone and testosterone)は、東京化成工業株式会社、和光純薬工業株式会社、ナカライテスク社及びSteraloids 社(Newport, Rhode Island, USA)から購入した。DMSOに10 mMで溶解した12,383化合物を含む多様な化合物ライブラリーは、東京大学の創薬オープンイノベーションセンターから得た。
1.2.MALDI-MS分析
MALDI-MSにおけるステロイドの反応及び検出は、以下のようにして行った。0.1% TFAを含む50% アセトニトリルを用いてヒドラジド (10 mg/ml) 及びヒドラジン試薬溶液(10 mg/ml)を調製した。3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド及びDNPHの場合、4.76 (mg/ml)及び1.67 (mg/ml) 飽和溶液を各々使用した。ヒドラジド又はヒドラジン溶液(1μl)及びテストステロン (100 pmol)とメチルテストステロン (100 pmol)を含む混合物 (1 μl)をステンレス-鋼サンプルプレートに適用し、室温で乾燥した。The MALDI-MS 分析をパルス窒素レーザー (337 nm) を備えたMicroflexAI (Bruker Daltonics, Bremen, Germany)上でリニアー陽イオンモード及び100 レーザショットで行った。正確な質量測定の場合, パルスNd:YLF レーザー (349 nm)を備えたJMS-S3000 Spiral-TOF (JEOL, Tokyo, Japan)を用いた。Triton X-100, PEG 200及びPEG 400をサンプルの校正に使用した。サンプルプレート上の結晶は実体顕微鏡 (Nikon, SMZ800, Tokyo, Japan)で直接観察した。
1.3.分光分析
ヒドラジド及びヒドラジン試薬の分光分析は、DU800 UV/可視分光光度計 (Beckman Coulter, CA, USA)を用いて200 nm〜800 nmの波長で行った。これら試薬の337 nm (MALDI 窒素レーザーの波長)でのモル吸光係数を計算した。
1.4.電気化学測定
使い捨ての小型カーボン印刷電極(DEP-SP-N)をBioDevice Technology, Co. (Ishikawa, Japan)から購入した。0.1% TFA 含有50%アセトニトリル溶液中の4.76 (mg/ml)の3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド溶液又は4.76(mg/ml)の3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドと10 (mg/ml) CHCAの溶液をDEPチップ上に滴下し、真空下で乾燥した。この操作を少なくとも5回繰り返した。得られた DEPチップをKeithley 2400 SourceMeterに接続し、結晶の電気伝導度を既報のように測定した[非特許文献11]。
1.5. MALDI-MSでコルチゾールを検出するためのヒト血清及び唾液の調製
NMIJ CRM6401-a (レベル5,ヒト血清中193.0 μg/l コルチゾールを添加)をNational Metrology Institute of Japan (NMIJ, AIST) から得た[13, 14]。200 μlのジエチルエーテルを100 μl NMIJ CRM6401-aに加え、撹拌した。遠心分離後、ジエチルエーテル画分を集め、この抽出プロセスを5回繰り返した。次いで, ジエチルエーテル画分を乾燥し、0.1% TFA含有50%アセトニトリル(10 μl)に溶解した。約1.93 ngコルチゾールを含む1μl抽出溶液及び1μlの3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド溶液 (4.76 mg/ml)をステンレス-鋼サンプルプレートに適用し、室温で乾燥し、MALDI測定した。
起床時及び午後に健常被験者から唾液サンプルを採取した。このサンプル(1000μl)を約100μlになるまでエバポレータで濃縮し、その後200 μlのジエチルエーテルを撹拌しながら加えた。遠心分離後、ジエチルエーテルフラクションを集め、この抽出プロセスを5回繰り返した。その後、ジエチルエーテルフラクションを乾燥し、0.1% TFA含有50%アセトニトリル(10 μl)に溶解した。1 μlの抽出溶液及び1μlの3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド溶液(4.76 mg/ml)をステンレス-鋼サンプルプレートに一緒に適用し、次いで、室温で乾燥し、MALDI-MS測定した。この研究は、独立行政法人産業技術総合研究所(AIST)のヒト由来試料実験のガイドラインに従い行った。
2.結果・考察
本発明者は約12,383化合物を含む多様な化学ライブラリー(1μl, DMSO に10 mM濃度で溶解、東京大学創薬オープンイノベーションセンターから供与)及びテストステロン(100 pmol, モノアイソトピック質量: 288.2089) とメチルテストステロン (100 pmol, モノアイソトピック質量: 302.2246)を含む測定サンプル混合物 (1μl)を用い、潜在的ドーピング検査用のMALDI-MSにおける低分子量化合物の検出にどのマトリックスが最もよいかについて探索した。テストステロンとメチルテストステロンは, 代表的な同化ステロイドであり、その構造類似性のためにマトリックススクリーニングの測定サンプルとして利用した。様々なノイズ等に由来する測定ピークと、テストステロン及びメチルテストステロンに真に由来するピークを区別するために行った。本発明のスクリーニングプロセスにおいて、いくつかのヒドラジド試薬とヒドラジン試薬がMALDI-MS 用の反応性マトリックスとして機能し、脱離イオン化効率を高める能力を有する誘導体化試薬としての役割を果たすことを見出した。ヒドラジド試薬とヒドラジン試薬は、一般にカルボニル化合物と反応し、縮合及び誘導体化反応を促進し、ヒドラゾンを生成する(図1)。
ヒドラジドの1種である3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド及びテストステロンとメチルテストステロンを含む混合物を用いたMALDI-MSスペクトルを図2に示す。得られた誘導体(ヒドラゾン) (**及び **, [MD+H]+)由来のプロトン化イオンに対応する2つのイオンピークとそのナトリウム付加イオンピーク([MD+Na]+)に加えて、約m/z = 300 (* 及び*)の2つのイオンピークが検出された(図2)。これらのイオンピークを詳細に解析するために、飛行距離(約17 m)を有するJMS-S3000 Spiral-TOF, MALDI-TOF MSを用いて正確な分子量を測定した[15]。テストステロンと3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの反応の場合、m/z 288.2309及び473.2792のイオンピークがヒドラゾンのプロトン化フラグメント及びヒドラゾン自体([MD+H]+)に対応して検出された(図2, 3A及び3B)。2003年にBrombacherらは、カルボニル基の周知の誘導体化試薬であるDNPHが15〜25 ngの濃度の7種のコルチコステロイドの誘導体化及びイオン化の両方について,反応性MALDIマトリックスとして機能することを既に報告している[16]。Micromass MALDI-TOFを用い、彼らはリフレクトロン陽イオンモードでステロイドのラジカルカチオン([M]+・) とナトリウム付加イオン([M+Na]+)及びプロトン化ヒドラゾン([MD+H]+)の検出について記載した。ヒドラゾンのプロトン化フラグメントの代わりにステロイドのラジカルカチオン([M]+・)又はナトリウム付加イオン([M+Na]+)が、発明者らの方法で検出されない点については、いくつかの可能性が考えられる。第1に、Brombacherら(2003)はMicromass MALDI-TOF機器を使用したが、本発明者はJMS-S3000 Spiral-TOFを使用してヒドラゾンのフラグメント及びヒドラゾンの質量を正確に同定した。MALDI測定において、リフレクトロンモードで校正が十分に行われたとしても、m/z 値の1程度の測定誤差はしばしば観測される。それゆえ本発明者は同じMALDIイオン化法を利用し、飛行距離が17mもの長さを有するJMS-S3000 Spiral-TOFを使用して、MALDI-MS測定の分解能及び正確さを向上した[15]。第2に、ナトリウム付加イオンに関し、実験用ガラス器具、異なる測定サンプル(ステロイド)及び誘導体化試薬(DNPH)などの外部からのナトリウムイオンのコンタミネーションが問題になり得る。第3に、DNPH及び3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドがMALDI-MSにおける反応性マトリックスとして異なる活性を有すると考えられ得る。しかしながら、本発明者はDNPHと3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの場合にヒドラゾンのプロトン化フラグメントとヒドラゾン自体のピークを検出することができた(データは示さない)。この知見における矛盾の正確な理由は依然として謎のままである。
本発明者はさらに市販の37種のヒドラジド試薬及び14種のヒドラジン試薬をテストステロン及びメチルテストステロンのMALDI-MS における反応性マトリックスとして機能するかについて調べた(図4-1, 4-2及び5)。 結果としてほとんどのヒドラジド及びヒドラジン試薬はヒドラゾン及びヒドラゾンのフラグメントに対応するプロトン化イオンピークを示したが(表1,2及び3)、代表的なヒドラジド試薬であるGirard’s Reagent P及びGirard’s Reagent Tは結晶を形成せず、反応性マトリックスとして機能しなかった。
テストされた試薬の中で、337 nmで1458 mol-1cm-1Lのモル吸光係数を有する3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド(飽和溶液, 4.76 mg/ml)はテストステロン及びメチルテストステロンの両方と最も効率的に反応し、1 pmolの濃度のテストステロン及びメチルテストステロンでも反応した。他方、カルボニル基を有しないグルコース、カフェイン、DNAヌクレオシド(デオキシアデノシン, デオキシシチジン, デオキシグアノシン及びチミジン)及びDNAプライマー(5’-ATCTGGTTGATCCTGCCAGT-3’)は全て、α-シクロデキストリン([M+Na]+ 及び[M+K]+)を除き、100 pmolでさえMALDI-MS で3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドにより検出できなかった(データは示さない)。本発明者はマトリックス結晶の電気伝導度がMALDI-MSの感度を高めるための重要な因子であることを既に報告した[非特許文献11]。3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドは、20Vの定電圧下においてCHCA (100-200 pA)及びシナピン酸(100-200 pA)と同様に有意な電流を示した(28 +10 pA, mean +SD, n=4)[非特許文献11]。
次に、本発明者はカルボニル基を有する7種の異なるステロイド (アルドステロン, アンドロステンジオン, コルチコステロン, コルチゾール, 17-ヒドロキシプロゲステロン, プロゲステロン及びテストステロン,図6参照)の各2.5 pmolのサンプルを用い、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドを用いてMALDI-MS 分析を行った。結果として、コルチコステロン, 17-ヒドロキシプロゲステロン及びプロゲステロンから誘導体化された全てのヒドラゾンのプロトン化フラグメント(i-F~vii-F), プロトン化ヒドラゾン(i-D~vii-D)及びプロトン化ビス-誘導体化ヒドラゾン(iii-2D, v-2D及びvi-2D)に相当する3つのイオンピークが検出された(図7)。全ての7種のステロイドはC-3 位置にカルボニル基を有し、一方、アルドステロン, アンドロステンジオン及び他の4種のステロイド (コルチコステロン, コルチゾール, 17-ヒドロキシプロゲステロン及びプロゲステロン)はさらに2つのカルボニル(C-18, C-20), 1つのカルボニル(C-17)及び1つのカルボニル基(C-20)を各々有する(図6)。これらの結果は、ステロイドと3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの縮合反応及びMALDI-MSの脱離イオン化効率はステロイド中のカルボニル基の位置及び数に影響されることを示唆する。
副腎皮質より分泌されるステロイドホルモンの一種であるコルチゾールは慢性ストレスと密接に関係し、唾液ストレスマーカーの1つとしての役割を果たす[17]。唾液中のコルチゾール濃度の最大値は、1日のうち起床後の最初の30分に観察される[18]。その濃度は数十nMレベルであり、通常はSalimetrics LLC (https://www.salimetrics.com/, Carlsbad, USA)などのELISAキットにより分析可能である。そこで、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドのMALDI-MSでの信頼性や適用可能性を確認するために、本発明者はコルチゾールを添加したヒト血清認証標準物質(NMIJ CRM6401-a, レベル5, ヒト血清に193.0 μg/l コルチゾールを添加した物) [13, 14]及び午前と午後に採取されたヒト唾液を測定用の生体サンプルとして利用した。最初に、予めジエチルエーテルで抽出されたコルチゾールを添加した認証標準物質(NMIJ CRM6401-a, 1.93 ng)を3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドと反応させ、次いでMALDI-MS測定を行った。図8に示されるように、m/z = 547.4に相当する、ヒドラゾンの大きなプロトン化イオンピークが観測された。他方、午前中に採取されたヒト唾液の場合、各々コルチゾン及びコルチゾールが反応して得られたヒドラゾンに対応するm/z = 545 (* 及び **)付近の2つのイオンピークが観測されたが(図9A)、午後に採取されたヒト唾液では、コルチゾン由来のヒドラゾンに対応する1つのイオンピークのみが検出された(図9B)。3つ全てのケースで、ヒドラゾンのプロトン化フラグメントのイオンピークは観測されなかった。
2つのマトリックスの組み合わせが、プロテオミクスのシーケンスカバレッジの向上、化学ノイズの低減、ショットごとの再現性および塩と不純物に対する耐性により、MALDI-MSにおけるスペクトルの質を向上することが報告されている[19, 20]。午後に採取されたヒト唾液におけるコルチゾール含量が午前に採取されたものより低いので、本発明者は、CHCAと3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの混合物を調製し、コルチゾールを添加したヒト血清認証標準物質及び午後に採取されたヒト唾液を用いてMALDI-MS測定を行った。CHCA (10 mg/ml)の3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド(4.76 mg/ml)への添加が、特に3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド : CHCA = 4 : 1, v/v組成物においてスペクトルの質を有意に向上させた。図10Aに示されるように、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドを用いると、m/z = 547.4での得られたヒドラゾンのプロトン化イオンピークのみがコルチゾールを添加したヒト血清認証標準物質の場合に検出された(図8をさらに参照のこと)。CHCAを3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドに添加(3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド:CHCA = 4 : 1, v/v)した場合, プロトン化ヒドラゾンフラグメントの強い分子ピーク(*)が観測され、得られたヒドラゾンの分子ピーク(**)も同様に観測された(図10B)。午後に採取されたヒト唾液サンプルの場合、CHCA (10 mg/ml)はコルチゾン又はコルチゾールをプロトン付加イオンとして検出できなかった(Fig. 11A)。3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド(4.76 mg/ml)を用いると、低濃度のコルチゾン由来のヒドラゾンに起因する単一ピークのみが検出された(**) (図11B)。一方、CHCAと3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの混合物を使用した時には、コルチゾンとコルチゾール由来のヒドラゾンに起因したプロトン化ピーク(*)と、ヒドラゾンのプロトン化フラグメントピーク(*)が、共に観測された(図11C)。CHCAと3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの混合物を利用した際には、hypertensin ([Asn1, Val5]-angiotensin II)のようなペプチドサンプル並びにカルボニル基を有するステロイドを同時に検出することができた(データは示さない)。次に、本発明者は実体顕微鏡によりMALDIサンプルプレート上でこれらの結晶状態を観察した。3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの結晶は凹凸を有する表面を示すが(図11B), CHCAと3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの結晶性混合物はより均質な形状を示した(図11C)。つまり、MALD-MS測定の際の感度上昇の1つの理由は、マトリックスとサンプル混晶のより良好な状態であろう。マトリックス結晶における電気伝導度の有無はMALD-MS測定の際の重要な用件の一つである[11]。CHCAと3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドの混合物由来のマトリックス結晶の電気伝導度は、20 Vの定電圧下で46±6 pA (平均±SD, n=3)であった。
今日まで、MALDI-MSにおいて同化ステロイドを含むステロイド類を検出するためのいくつかのアプローチが報告されてきた。本発明者を含む1つのアプローチは誘導体化試薬とMALDIマトリックスの能力を有するDNPH及び3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドのようなMALDI-MSの反応性マトリックスを利用することである[16]。他のアプローチは、サンプル誘導体化ステップをGirard’s Reagent Tのような誘導体化試薬を予め用いて行い、次いでMALDI-MS測定を通常のMALDI マトリックスを用いて行うものである[21]。これらの中で、本発明のシステムの1つの利点は、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド及びCHCAの混合物を使用したMALDI-MSにより単一ステップでカルボニル基を有するステロイドとペプチドのような他のサンプルが同時にかつ効率的に検出できることである。本発明による検出の定量性をさらに改良し、実際のドーピング検査に適用することが今後必要である。
3.結論
本明細書では、誘導体化試薬である3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドが, MALDI-MSの反応性マトリックスとして機能し、脱離イオン化効率を向上させることが明らかになった。3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドはコルチゾールを添加したヒト血清認証標準物質だけでなく、生体サンプルの一つであるヒト唾液中のコルチゾンとコルチゾールを検出することができた。CHCAのような通常のMALDI マトリックスを組み合わせることで、カルボニル基を有するステロイドと他の生体分子(ペプチド、蛋白質など)を同時に検出することができる。
4.引用文献
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Claims (3)

  1. 以下の40種の化合物またはその塩の少なくとも1種を含むステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックス:
    (1) ベンゾヒドラジド,
    (2) アントラニロイルヒドラジド
    (3) 2-クロロベンゾヒドラジド,
    (4) 2-フルオロベンゾヒドラジド,
    (5) 2-ニトロベンゾヒドラジド,
    (6) 2-ヒドロキシベンゾヒドラジド,
    (7) 3-クロロベンゾヒドラジド,
    (8) 3-ニトロベンゾヒドラジド,
    (9) 3-メトキシベンゾヒドラジド,
    (10) 4-クロロベンゾヒドラジド,
    (11) 4-ニトロベンゾヒドラジド,
    (12) 4-メトキシベンゾヒドラジド,
    (13) 4-tert-ブチルベンゾヒドラジド,
    (14) 4-アミノベンゾヒドラジド,
    (15) 4-ヒドロキシベンゾヒドラジド,
    (16) テレフタル酸ジヒドラジド
    (17) イソフタル酸ジヒドラジド
    (18) ピコリン酸ヒドラジド
    (19) ニコチン酸ヒドラジド,
    (20) イソニコチン酸ヒドラジド,
    (21) 2-チオフェンカルボン酸ヒドラジド,
    (22) 1-ナフトエ酸ヒドラジド,
    (23) 2-ナフトエ酸ヒドラジド,
    (24) 1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド,
    (25) 3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド,
    (26) 6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド,
    (27) L-チロシンヒドラジド,
    (28) フェニルヒドラジン,
    (29) o-トリルヒドラジン,
    (30) 2-ニトロフェニルヒドラジン,
    (31) m-トリルヒドラジン,
    (32) 3-ニトロフェニルヒドラジン,
    (33) 4-メトキシフェニルヒドラジン,
    (34) 4-ニトロフェニルヒドラジン,
    (35) 4-クロルフェニルヒドラジン,
    (36) 2,4-ジクロロフェニルヒドラジン,
    (37) 1-ナフチルヒドラジン,
    (38) 2-ヒドラジノピリジン,
    (39) 2-ヒドラジノキノリン,
    (40) 2-ヒドラジノベンゾチアゾール。
  2. 3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドまたはその塩を含む請求項1に記載のステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックス
  3. さらにα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)を含む、請求項1又は2に記載のステロイドホルモン検出用質量分析用マトリックス。
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