JP2008253940A - 宗教用有体物の表面浄化方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】宗教用有体物の表面層を形成した化粧層の表面を浄化する場合に、この化粧層が浄化時に用いられる水の浸入により損傷させられる、ということを防止すると共に、この浄化に要する時間が無用に長くならないようにする。
【解決手段】宗教用有体物1の表面層を形成した化粧層3の表面を浄化する宗教用有体物の表面浄化方法である。化粧層3の表面に生じた汚損層6に含有水分が15〜40wt%である溶剤9を注ぎ、次に、アルコールを注いで、化粧層3の表面の濯ぎを行う。
【選択図】図1

Description

本発明は、仏像、仏具など宗教用有体物の表面を溶剤などにより浄化する表面浄化方法に関するものである。
上記宗教用有体物における例えば日本古来の仏像は、一般に、木製の基体と、上記有体物の表面層を形成して上記基体の表面に接合され、この有体物の見栄えを向上させる化粧層とを備えている。この化粧層は、例えば、上記基体の表面に施された金箔と、この金箔の表面に塗布されたニス(ワニス)とで形成される。
上記仏像は、その性質上、塵埃、水蒸気、および点火されたローソクや線香の煙という諸物質に常時晒されるものである。このため、これら物質は、多年の経過に伴い上記仏像の化粧層の表面に次々と付着し、これにより、上記化粧層の表面には汚損層が生じることとされる。この場合、この汚損層により仏像の光沢が失われてその見栄えが低下しがちとなる。
上記汚損層は、具体的には上記塵埃に基づく金属酸化物などの無機物や水蒸気に基づく水垢などであり、また、上記ローソクや線香の原料に基づく油脂分や燃焼により生じた黒煙などによる炭化物である。そして、これらの物質は経時的に樹脂化して互いに結合し、上記化粧層の表面に強固に付着しがちとなる。
ここで、上記化粧層の表面を浄化し,その光沢を復元させることにより、仏像の見栄えを向上させるものとして、下記特許文献1に示した宗教用有体物の表面浄化方法が提案されている。なお、この浄化方法の発明者は、本願発明の発明者と同一である。
上記公報の浄化方法は、いわゆる「泡洗浄」といわれるものである。これによれば、まず、仏像の化粧層の表面に形成された汚損層に、界面活性剤を混入させた洗浄水による泡が付着させられる。そして、特に、泡中の水により、無機分が上記化粧層の表面から離脱させられる。また、泡中の界面活性剤により、水垢、油脂分、および炭化物が上記化粧層の表面から離脱させられる。
次に、上記泡を付着させてから所定時間経過後に、上記化粧層の表面に溶剤が注がれる。これにより、特に、上記水垢、油脂分、および炭化物が上記化粧層の表面から、より確実に離脱させられて、これらは上記無機物や泡と共に洗い流される。その後、上記化粧層の表面が乾燥させられる。このようにして、上記有体物の化粧層の表面に所望の光沢が復元させられる。
上記「泡洗浄」によれば、泡を用いることにより、所要水量が少なく抑制されており、このため、化粧層の内部に対し水が浸入することが防止されている。そして、このような水の浸入の防止により、上記化粧層における金箔などの剥離が防止され、つまり、上記水による仏像の表面の損傷が防止されつつ、有体物の光沢が復元されるようになっている。
特開平5−185051号公報
ところで、上記従来の技術の「泡洗浄」の場合、上記したように、まず、汚損層に泡を付着させて、化粧層の表面から汚損層の各物質を離脱させるが、この汚損層における各物質の合成比率は区々としており、また、汚損層の厚さや性状も一定していない。このため、上記汚損層に泡を付着させた後、化粧層の表面から汚損層が十分に離脱するまでに要する時間は一定しない。しかも、上記泡は不透明である。このため、この泡により上記化粧層から汚損層が離脱する場合に、この離脱の程度を上記泡を通し目視により判断する、ということは困難である。
そこで、上記「泡洗浄」によれば、上記泡を付着させた後、化粧層の表面から汚損層が十分に離脱したものと推定して溶剤を注ぎ始めるが、この注ぎ始めるまでの時間が不足しないよう、この時間は、十分に長く採ることとしている。しかし、これでは、上記汚損層が離脱し易いものである場合に、上記「泡洗浄」に要する時間が無用に長くなりがちとなって合理性に欠け、好ましくない。
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、宗教用有体物の表面層を形成した化粧層の表面を浄化する場合に、この化粧層が浄化時に用いられる水の浸入により損傷させられる、ということを防止すると共に、この浄化に要する時間が無用に長くならないようにすることである。
請求項1の発明は、宗教用有体物1の表面層を形成した化粧層3の表面を浄化する宗教用有体物の表面浄化方法であって、
上記化粧層3の表面に生じた汚損層6に含有水分が15〜40wt%である溶剤9を注ぎ、次に、アルコールを注いで、上記化粧層3の表面の濯ぎを行うようにしたことを特徴とする宗教用有体物の表面浄化方法である。
請求項2の発明は、請求項1の発明に加えて、上記化粧層3が、上記有体物1の基体2表面に施された金箔4と、この金箔4の表面に塗布されたニス5とで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の宗教用有体物の表面浄化方法である。
請求項3の発明は、請求項2の発明に加えて、上記アルコールによる濯ぎ後に、このアルコールの蒸発を待って、上記化粧層3の表面に樹脂塗料を塗布してこの化粧層3の表面を仕上げるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の宗教用有体物の表面浄化方法である。
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
本発明による効果は、次の如くである。
請求項1の発明は、宗教用有体物の表面層を形成した化粧層の表面を浄化する宗教用有体物の表面浄化方法であって、
上記化粧層の表面に生じた汚損層に含有水分が15〜40wt%である溶剤を注ぎ、次に、アルコールを注いで、上記化粧層の表面の濯ぎを行うようにしている。
このため、上記汚損層に注がれる溶剤により、上記汚損層は上記化粧層の表面から離脱させられる。ここで、上記溶剤における水の含有量は、従来のそれに比べてかなり少なくされている。よって、上記のように、汚損層に溶剤を注いでこれを離脱させようとするとき、この溶剤に含有される水が化粧層の内部に浸入することは防止され、この水の浸入により化粧層が損傷させられる、ということは防止される。
一方、上記したように、溶剤における水の含有量を少なくすると、この溶剤による汚損層の離脱に時間を要する可能性がある。
しかし、上記溶剤は透明であるため、この溶剤により化粧層の表面から上記汚損層が離脱する場合に、この離脱の程度は上記溶剤を通し目視により容易かつ正確に判断できる。そこで、この目視により、上記化粧層からの汚損層の離脱の程度が所望状態になったとき、上記したように、アルコールを注いで、化粧層の表面の濯ぎを行えばよい。これによれば、化粧層の表面の浄化に要する時間が無用に長くなることは合理的に防止される。
請求項2の発明は、上記化粧層が、上記有体物の基体表面に施された金箔と、この金箔の表面に塗布されたニスとで形成されている。
このため、前記した化粧層からの汚損層の離脱の程度が所望状態に達したことの判断は、この化粧層におけるニスの極めて薄い表面層が上記溶剤のアルコールによって溶かされた状態を基準にすることができる。
よって、上記化粧層からの汚損層の離脱の程度が所望状態に達したことは、上記ニスの表面の状態を目視することにより、より正確に判断でき、このため、この化粧層の表面の浄化に要する時間が無用に長くなることは更に合理的に防止される。
請求項3の発明は、上記アルコールによる濯ぎ後に、このアルコールの蒸発を待って、上記化粧層の表面に樹脂塗料を塗布してこの化粧層の表面を仕上げるようにしている。
ここで、前記したように、ニスの表面層が上記溶剤のアルコールによって溶かされた場合には、上記ニスの視覚的な質が変化するおそれがある。そこで、上記のように樹脂塗料を塗布することとしたのであり、これによれば、上記化粧層の表面の浄化がより確実に達成され、有体物の見栄えがより向上する。
本発明の宗教用有体物の表面浄化方法に関し、宗教用有体物の表面層を形成した化粧層の表面を浄化する場合に、この化粧層が浄化時に用いられる水の浸入により損傷させられる、ということを防止すると共に、この浄化に要する時間が無用に長くならないようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
即ち、宗教用有体物の表面層を形成した化粧層の表面を浄化する宗教用有体物の表面浄化方法であって、
上記化粧層の表面に生じた汚損層に含有水分が15〜40wt%である溶剤を注ぎ、次に、アルコールを注いで、上記化粧層の表面の濯ぎを行うようにしている。
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
図中符号1は、仏像で例示される宗教用有体物である。
上記有体物1は、木製の基体2と、上記有体物1の表面層を形成して、上記基体2の表面に接合され、この有体物1の見栄えを向上させる化粧層3とを備えている。また、この化粧層3は、上記基体2の表面に施された金箔4と、この金箔4の表面に塗布されたニス5とで形成されている。このニス5は、樹脂などアルコールで溶かしたものである。このニス5は上記金箔4の表面に塗布された後、乾燥させられたもので、これにより、上記金箔4が上記基体2の表面から剥がれようとすることが防止される。
上記有体物1の化粧層3の表面には、この有体物1の多年の経過に伴い汚損層6が生じる。この汚損層6は、塵埃に基づく金属酸化物などの無機物や水蒸気に基づく水垢などの物質であり、また、ローソクや線香の原料に基づく油脂分や燃焼により生じた黒煙などによる炭化物などの物質である。
上記有体物1の化粧層3の表面から上記汚損層6を除去するための有体物1の表面浄化方法につき説明する。
まず、上記有体物1の表面に生じた汚損層6にスプレーガン8により溶剤9が噴霧して注がれる。この溶剤9には、質量%(wt%)として、水が15〜40、界面活性剤が4〜6、アルコールが40〜80、リモネンが4〜6、およびアミンなどその他の物質が4〜6含有されている。上記溶剤9は柑橘溶剤といわれるもので、水の含有量は、従来の水の含有量(通常、50wt%以上)に比べてかなり少なくされている。また、上記アルコールは、イソプロピルアルコール(IPA)である。
そして、特に、上記溶剤9における水により、上記汚損層6における無機物が上記化粧層3の表面から離脱させられる。また、特に、上記溶剤9における界面活性剤とアルコールとにより、上記汚損層6における水垢、油脂分、および炭化物が上記化粧層3の表面から離脱させられる。なお,この際、ブラシや布等で、上記化粧層3の表面を軽く掃くようにして浄化してもよい。
ここで、上記水の含有量を15〜40としたのは、次の理由による。即ち、水の含有量を15wt%未満にすると、この水による化粧層3の表面からの無機物の離脱に長時間を要するからである。一方、上記水の含有量が40wt%を越えると、化粧層3の内部に対する水の浸入の可能性が高くなり、つまり、上記水により化粧層3が損傷させられるおそれが生じるからである。なお、上記理由において、水の含有量は20〜35であることが好ましく、20〜30であることが、更に好ましい。また、上記溶剤9の液温は25〜35℃であることが好ましい。
上記溶剤9により、上記化粧層3の表面から汚損層6が離脱することが進行する。この場合、上記溶剤9は透明(半透明含む)であるため、上記汚損層6の離脱の程度を上記溶剤9を通し目視により判断することは、従来の「泡洗浄」によることに比べ、より容易かつ正確にできる。
そこで、上記目視により、上記化粧層3からの汚損層6の離脱の程度が所望状態になったときには、次に、上記化粧層3の表面から離脱した汚損層6に向けて不図示のスプレーガンによりアルコールが噴霧により注がれる。上記化粧層3からの汚損層6の離脱の程度が所望状態に達したことの判断は、例えば、この化粧層3におけるニス5の極めて薄い表面層が上記溶剤9の含有アルコールによって溶かされた状態を基準としている。
上記アルコールもIPAであって、その液温は25〜35℃であることが好ましい。そして、このアルコールにより、特に、上記水垢、油脂分。および炭化物が上記化粧層3の表面から、より確実に離脱させられて、これらは上記無機物と共に洗い流され、つまり、上記化粧層3の表面がアルコールにより濯がれる。その後、上記化粧層3の表面が自然、もしくは、強制的に乾燥させられて、上記アルコールが蒸発させられる。このようにして、上記有体物1の化粧層3の表面に所望の光沢が復元される。
また、上記アルコールによる化粧層3の表面の濯ぎ後に、このアルコールの蒸発を待って、上記化粧層3の表面に透明溶剤であるアクリル系合成樹脂塗料を噴霧することにより塗布して有体物1の表面を仕上げることとされている。
上記構成によれば、化粧層3の表面に生じた汚損層6に含有水分が15〜40wt%である溶剤9を注ぎ、次に、アルコールを注いで、上記化粧層3の表面の濯ぎを行うようにしている。
このため、上記汚損層6に注がれる溶剤9により、上記汚損層6は上記化粧層3の表面から離脱させられる。ここで、上記溶剤9における水の含有量は、従来のそれに比べてかなり少なくされている。よって、上記のように、汚損層6に溶剤9を注いでこれを離脱させようとするとき、この溶剤9に含有される水が化粧層3の内部に浸入することは防止され、この水の浸入により化粧層3が損傷させられる、ということは防止される。
一方、上記したように、溶剤9における水の含有量を少なくすると、この溶剤9による汚損層6の離脱に時間を要する可能性がある。
しかし、上記溶剤9は透明であるため、この溶剤9により化粧層3の表面から上記汚損層6が離脱する場合に、この離脱の程度は上記溶剤9を通し目視により容易かつ正確に判断できる。そこで、この目視により、上記化粧層3からの汚損層6の離脱の程度が所望状態になったとき、上記したように、アルコールを注いで、化粧層3の表面の濯ぎを行えばよい。これによれば、化粧層3の表面の浄化に要する時間が無用に長くなることは合理的に防止される。
また、前記したように、化粧層3が、上記有体物1の基体2表面に施された金箔4と、この金箔4の表面に塗布されたニス5とで形成されている。
このため、前記した化粧層3からの汚損層6の離脱の程度が所望状態に達したことの判断は、この化粧層3におけるニス5の極めて薄い表面層が上記溶剤9のアルコールによって溶かされた状態を基準にすることができる。
よって、上記化粧層3からの汚損層6の離脱の程度が所望状態に達したことは、上記ニス5の表面の状態を目視することにより、より正確に判断でき、このため、この化粧層3の表面の浄化に要する時間が無用に長くなることは更に合理的に防止される。
また、前記したように、アルコールによる濯ぎ後に、このアルコールの蒸発を待って、上記化粧層3の表面に樹脂塗料を塗布してこの化粧層3の表面を仕上げるようにしている。
ここで、前記したように、ニス5の表面層が上記溶剤9のアルコールによって溶かされた場合には、上記ニス5の視覚的な質が変化するおそれがある。そこで、上記のように樹脂塗料を塗布することとしたのであり、これによれば、上記化粧層3の表面の浄化がより確実に達成され、有体物1の見栄えがより向上する。
なお、以上は図示の例によるが、上記有体物1は、仏具、仏閣であってもよく、また、神像など神に係るものであってもよい。また、上記化粧層3は漆であってもよい。
有体物の図である。
符号の説明
1 有体物
2 基体
3 化粧層
4 金箔
5 ニス
6 汚損層
9 溶剤

Claims (3)

  1. 宗教用有体物の表面層を形成した化粧層の表面を浄化する宗教用有体物の表面浄化方法であって、
    上記化粧層の表面に生じた汚損層に含有水分が15〜40wt%である溶剤を注ぎ、次に、アルコールを注いで、上記化粧層の表面の濯ぎを行うようにしたことを特徴とする宗教用有体物の表面浄化方法。
  2. 上記化粧層が、上記有体物の基体表面に施された金箔と、この金箔の表面に塗布されたニスとで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の宗教用有体物の表面浄化方法。
  3. 上記アルコールによる濯ぎ後に、このアルコールの蒸発を待って、上記化粧層の表面に樹脂塗料を塗布してこの化粧層の表面を仕上げるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の宗教用有体物の表面浄化方法。
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