JP2008226853A - 耐インバータサージ絶縁ワイヤおよびその製造方法 - Google Patents

耐インバータサージ絶縁ワイヤおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】エナメル層の厚膜化を、絶縁ワイヤの導体とエナメル層の接着強度を下げることなく実現できる絶縁ワイヤを提供する。
【解決手段】断面が矩形状である導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼き付け層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層を有し、該断面の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さの少なくとも一方の厚さがエナメル焼き付け層の厚さとの合計で60μm以上であり、エナメル焼き付け層の厚さが50μm以下であり、押出被覆樹脂層が、25℃における引張弾性率が1000MPa以上であり、かつ250℃における引張弾性率が10MPa以上である樹脂材料(ポリエーテルエーテルケトンを除く)からなり、前記断面の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さが、他の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さと異なる耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
【選択図】なし

Description

本発明は、耐インバータサージ絶縁ワイヤに関するものである。
インバータは効率的な可変速制御装置として、多くの電気機器に取り付けられるようになってきている。インバータは数kHz〜数十kHzでスイッチングが行われ、それらのパルス毎にサージ電圧が発生する。インバータサージはその伝搬系内でインピーダンスの不連続点、例えば接続する配線の始端、終端等において反射が発生し、その結果最大でインバータ出力電圧の2倍の電圧が印加される現象である。特に、IGBT等の高速スイッチング素子により発生する出力パルスは電圧俊度が高く、それにより接続ケーブルが短くてもサージ電圧が高く、更にその接続ケーブルによる電圧減衰も小さく、その結果インバータ出力電圧の2倍近い電圧が発生するのである。
インバータ関連機器、例えば高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気機器コイルにはマグネットワイヤとして、主にエナメル線である絶縁ワイヤが用いられている。しかも前述したように、インバータ関連機器ではそのインバータ出力電圧の2倍近い電圧がかかることから、それら電気機器コイルを構成する材料の一つであるエナメル線のインバータサージ劣化を最小限にすることが要求されるようになってきている。
一般に、部分放電劣化は電気絶縁材料がその部分放電で発生した荷電粒子の衝突による分子鎖切断劣化、スパッタリング劣化、局部温度上昇による熱溶融或いは熱分解劣化、放電で発生したオゾンによる化学的劣化等が複雑に起こる現象である。このような訳で、実際の部分放電で劣化した電気絶縁材料では厚さが減少したりすることが見られる。
絶縁ワイヤのインバータサージ劣化も一般の部分放電劣化と同様なメカニズムで進行するものと考えられている。すなわち、エナメル線のインバータサージ劣化は、インバータで発生した波高値の高いサージ電圧により絶縁ワイヤに部分放電が起こり、その部分放電により絶縁ワイヤの塗膜が部分放電劣化を引き起こす現象、つまり高周波部分放電劣化である。
最近の電気機器では、500Vのサージ電圧に耐えうるような絶縁ワイヤが求められるようになってきた。即ち部分放電発生電圧が500V以上であることが必要ということになる。ここで、部分放電発生電圧とは、市販の部分放電試験器と呼ばれる装置で測定する値である。測定温度、用いる交流電圧の周波数、測定感度等は必要に応じて変更するものであるが、上記の値は、25℃、50Hz、10pCにて測定して、部分放電が発生した電圧の実効値である。
部分放電発生電圧を測定する際は、マグネットワイヤとして用いられる場合におけるもっとも過酷な状況を想定し、密着する二本の絶縁ワイヤの間について観測できるような試料形状を作製する方法が用いられる。例えば、断面円形の絶縁ワイヤについては、二本の絶縁ワイヤを螺旋状にねじることで線接触させ、二本の間に電圧をかける。また、断面形状が方形の絶縁ワイヤについては、二本の絶縁ワイヤの長辺である面同士を面接触させ、二本の間に電圧をかけるという方法である。
このような部分放電による、絶縁ワイヤのエナメル層の劣化を防ぐため、部分放電を発生させない、すなわち、部分放電発生電圧が高い絶縁ワイヤを得るには、エナメル層に比誘電率が低い樹脂を用いるか、エナメル層の厚さを厚くするといった方法が考えられる。しかし、常用的に使用される樹脂ワニスの樹脂は、ほとんどが比誘電率は3〜4の間のものであり、比誘電率が特別低いものが無いということと、エナメル層に求められる他の特性(耐熱性、耐溶剤性、可撓性等)をも考慮した場合、必ずしも比誘電率が低い物を選択できるという訳ではないのが現実的である。従って高い部分放電発生電圧を得るためには、エナメル層の厚さを厚くすることが不可欠である。これら比誘電率3〜4の樹脂をエナメル層に用いた場合、部分放電発生電圧を目標の500V以上にするには、経験からエナメル層の厚さは60μm以上必要である。
しかし、エナメル層を厚くするためには、製造工程において焼き付け炉を通す回数が多くなり、導体である銅表面の酸化銅からなる被膜の厚さが成長し、それに起因して導体とエナメル層との接着力が低下する。特に厚さ50μm以上のエナメル層を得る場合、焼き付け炉を通す回数が10回を超える。この10回を超えると、導体とエナメル層との接着力が極端に低下することがわかってきた。
また、焼き付け炉を通す回数を増やさないために、1回の焼き付けで塗布できる厚さを厚くする方法もあるが、この方法では、ワニスの溶媒が蒸発しきれずに、エナメル層の中に気泡として残るという欠点があった。
エナメル線の外側に被覆樹脂を設けることで、特性上の付加価値(部分放電発生電圧以外の特性)を与えるという試みはこれまでにもなされてきた。エナメル層に押出被覆層を設ける構成での従来技術としては、特許文献1〜3等があるが、これらは部分放電発生電圧と導体とエナメル層の密着性を両立させるという観点からはエナメル層や押出被覆の厚さ構成において満足なものではなかった。
また、近年の電気機器では各種性能、例えば耐熱性、機械的特性、化学的特性、電気的特性、信頼性等を従来のものより一段と高度に上げることが要求されるようになってきている。このような中で宇宙用電気機器、航空機用電気機器、原子力用電気機器、エネルギー用電気機器、自動車用電気機器用のマグネットワイヤとして用いられるエナメル線などの絶縁ワイヤには、優れた耐摩耗性、耐熱老化特性、耐溶剤性が要求されるようになってきている。
また、モーターや変圧器に代表される電気機器は近年、これらの機器の小型化及び高性能化が進展し、絶縁電線を非常に狭い部分へ押しこんで使用する様な使い方が多く見られるようになった。具体的には、ステータースロット中に何本の電線を入れられるかにより、そのモーターなどの回転機の性能が決定するといっても過言ではない。その結果、ステータースロット断面積に対する導体の断面積の比率(占積率)が近年非常に高くなってきている。
ステータースロットの内部に、丸断面の電線を細密充填した場合、デッドスペースとなる空隙と絶縁皮膜の断面積が問題となる。このため、ユーザーでは、丸断面の電線が変形するほど、ステータースロットへの電線の押し込みをおこない、少しでも占積率の向上を行おうとしている。しかし、絶縁皮膜の断面積を少なくすることは、その電気的な性能(絶縁破壊など)を犠牲にするため、行われなかった。
以上の理由から、占積率を向上させる手段として、ごく最近では導体の形状が四角型(正方形や長方形)に類似した平角線を使用することが試みられている。平角線の使用は、占積率の向上には劇的な効果を示すが、平角導体上に絶縁皮膜を均一に塗布する事が難しく、特に断面積の小さい絶縁電線には絶縁皮膜の厚さの制御が難しいことから、あまり普及していない。
モーターやトランスのコイル巻を行う場合に必要な絶縁皮膜の特性としては、皮膜の耐加工性能がある。これは、前述したコイル加工工程において、電線皮膜に損傷があると電気絶縁性能が低下してしまう事による。
この耐加工性能を電線皮膜に付与する方法は各種の方法が考えられている。それは、皮膜に潤滑性を付与して摩擦係数を下げコイル加工時の外傷を少なくする方法や、皮膜と電気導体間の密着性を向上させてその皮膜が導体から剥離する事を防止して電気絶縁性能を保持させる方法などである。
前者の潤滑性能を付与させる方法は、電線の表面にワックスなどの潤滑剤を塗布する方法や絶縁皮膜中に潤滑剤を添加して、電線の製造時にその潤滑剤を電線表面にブリードアウトさせて潤滑性能を付与させる方法が旧来採られており、その実施例は多い。しかしながら、この潤滑性能を付与させる方法は、電線皮膜自体の強度を向上させる訳ではないので、外傷要因に対しては効果があるように見えるが、実際にはその効果には限界があった。
これらの従来からおこなわれている手段として、まず前述の絶縁皮膜の表面の摩擦係数を小さくする方法については、特許文献4などで、絶縁電線表面にワックス、油、界面活性剤、固体潤滑剤などを塗布することが、また特許文献5などでは、水に乳化可能な鑞と水に乳化可能で加熱により固化する樹脂からなる減摩剤を塗布焼き付けして使用することが、さらには特許文献6などでは、絶縁塗料自体にポリエチレン微粉末を添加し潤滑化をはかること等が提案されている。以上の方法は、絶縁電線の表面潤滑性を向上させ、結果として電線の表面すべりによって外傷から絶縁層を保護しようと考えられたものである。しかしながら、これらの微粉末を添加する方法は、微粉末の添加手法が複雑であり、分散が困難であるため、多くは溶剤に分散させたこれらの微粉末を絶縁塗料中に添加する方法が採られている。
これらの自己潤滑成分は、その潤滑成分によって自己潤滑性能(摩擦係数)の向上は見られるが、耐加工性に起因する往復摩耗などの特性向上は見られない。また、ポリエチレンやポリテトラフルオロエチレンなどの多くの自己潤滑成分が絶縁塗料との比重の差によって、絶縁塗料中で分離してしまい、これらの塗料を使用する時に細心の注意が必要であった。
特開昭59−040409号公報 特許第1998680号(特公平7−031944号)公報 特開昭63−195913号公報 特開昭61−269808号公報 特開昭62−200605号公報 特開昭63−29412号公報
本発明は、部分放電発生電圧の高い耐インバータサージ絶縁ワイヤを提供することを目的とする。本発明はまた、部分放電発生電圧を上げるための絶縁層の厚膜化を、絶縁ワイヤの導体とエナメル層の接着強度を下げることなく実現できる耐インバータサージ絶縁ワイヤを提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、絶縁ワイヤに要求される、耐摩耗性、耐熱老化特性、耐溶剤性に対しても、要求を満足させる耐インバータサージ絶縁ワイヤを提供するものである。また、本発明の別の目的は、部分放電発生電圧を下げることなく、占積率を上げることができる耐インバータサージ絶縁ワイヤを提供するものである。また、本発明の別の目的は、モーター等加工時に挿入性が良好な耐インバータサージ絶縁ワイヤを提供するものである。本発明のさらに別の目的は、小さな半径に曲げ加工した場合でも、その部分においての部分放電発生電圧の低下を防止する耐インバータサージ絶縁ワイヤおよびその製造方法を提供するものである。
本発明者らは、上記の従来技術が有する課題を解決するため鋭意検討した結果、エナメル線のエナメル層の外側に押出被覆樹脂層を設けることにより部分放電発生電圧を高くしうることを見出した。本発明は、この知見に基づきなされたものである。
すなわち、本発明は、
(1)断面が矩形状である導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼き付け層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層を有する絶縁ワイヤであって、該断面の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さと、他の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さの少なくとも一方の厚さが前記エナメル焼き付け層の厚さとの合計で60μm以上であり、前記エナメル焼き付け層の厚さが50μm以下であり、押出被覆樹脂層が、25℃における引張弾性率が1000MPa以上であり、かつ250℃における引張弾性率が10MPa以上である樹脂材料(ポリエーテルエーテルケトンを除く)からなり、前記断面の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さが、他の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さと異なることを特徴とする耐インバータサージ絶縁ワイヤ、
(2)前記エナメル焼き付け層と前記押出被覆樹脂層との間に接着層を有し、該接着層を媒体として、エナメル焼き付け層と押出被覆樹脂層との接着力を強化させたことを特徴とする(1)項に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ、及び
(3)前記エナメル焼き付け層の外周に、ワニス化された樹脂を焼き付けてこれを接着層とし、その後、前記樹脂のガラス転移温度よりも高い温度の溶融状態である押出被覆樹脂と接触させ、エナメル層と押出被覆樹脂層とを熱融着させることを特徴とする(2)項記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤの製造方法
を提供するものである。
本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは「部分放電発生電圧」と「導体/エナメル層の接着強度」の両方を満足し、インバータサージ劣化が起こりにくくなる。
また、エナメル層の厚さを50μm以下とするとで、焼き付け炉を通す回数を減らし、導体とエナメル層との接着力が極端に低下すること防ぐことができる。
また、押出被覆樹脂層が、25℃における引張弾性率が1000MPa以上であり、かつ250℃における引張弾性率が10MPa以上である樹脂材料からなるものとすると、耐摩耗性、耐熱老化特性、耐溶剤性にも優れたものである。
また、放電が起きる方の1対の面の押出被覆樹脂層の厚さが所定の厚さであれば、もう1対の対向する面の厚さがそれより薄くても部分放電発生電圧を維持することができ、さらに占積率を上げることができる。
また、本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは、静摩擦係数が小さく、電線のモーター加工時の挿入性も良好である。
また、エナメル層と押出被覆樹脂層との間に接着機能を有する層を導入して接着強度を高めることで、上記のようなシワの発生を防ぐことができる。
さらに、エナメル焼き付け層の外周に、ワニス化された樹脂を焼き付けてこれを接着層とし、その後、該接着層に用いられた樹脂のガラス転移温度よりも高い温度の溶融状態である押出被覆樹脂と接触させ、エナメル焼き付け層と押出被覆樹脂層とを熱融着させることで本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤを好適に製造することができる。
本発明の別の一つの実施態様は、断面が矩形状である導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼き付け層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層を有する絶縁ワイヤであって、該断面の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さと、他の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さの少なくとも一方の厚さがエナメル焼き付け層の厚さとの合計で60μm以上であり、エナメル焼き付け層の厚さが50μm以下であり、押出被覆樹脂層が、25℃における引張弾性率が1000MPa以上であり、かつ250℃における引張弾性率が10MPa以上である樹脂材料からなり、前記断面の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さが、他の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さと異なるなる耐インバータサージ絶縁ワイヤである。上記のエナメル焼き付け層の厚さは、50μm以下であることが好ましい。本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤ(以下、単に「絶縁ワイヤ」という)は耐熱巻線用として好適なものであり、例えば、インバータ関連機器、高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気機器コイルや宇宙用電気機器、航空機用電気機器、原子力用電気機器、エネルギー用電気機器、自動車用電気機器用のマグネットワイヤ等に用いることができる。
モーター等のステータースロット内でおきる部分放電はスロットと電線の間で起きる場合、及び電線と電線の間で起きる場合の2種類ある。そこで、フラット面に設けられた押出被覆樹脂層の厚さが、エッジ面に設けられた押出被覆樹脂層の厚さと異なる絶縁ワイヤを用いることによって、部分放電発生電圧の値を維持しつつ、モーターのスロット内の全断面積に対する導体のトータル断面積の割合(占積率)を向上させることができる。
スロット内に1列にエッジ面とフラット面での厚さが異なる電線を並べるとき、スロットと電線の間で放電が起きる場合はスロットに対して厚膜面が接するように並べ、隣あう電線間の膜厚は薄い方で並べる。膜厚が薄い分より多くの本数を挿入することができ、占積率は向上する。またこの時、部分放電発生電圧の値は維持できる。同様に電線と電線の間で放電が起きやすい場合は膜厚の厚い面を電線と接する面にして、スロットに面する方は薄くすると必要以上にスロットの大きさを大きくしないため占積率は向上する。またこの時、部分放電発生電圧の値は維持できる。
ここで言うフラット面とは平角線の断面が矩形の対の対向する2辺のうち長辺の対をさす。またエッジ面とは対向する2辺のうち短辺の対をさす。
また押出被覆樹脂層の厚さが、該断面の一対の対向する2辺と他の一対の対向する2辺とで異なる場合は、一対の対向する2辺の厚さを1とした時もう1対の対向する2辺の厚さは1.01〜5の範囲のものである。好ましくは1.01〜3の範囲のものである。
(導体)
本発明に用いられる導体としては、従来、絶縁ワイヤで用いられているものを使用することができるが、好ましくは、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅、さらに好ましくは20ppm以下の低酸素銅または無酸素銅の導体である。酸素含有量が30ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。
また、導体はその横断面が所望の形状のものを使用できるが、円以外の形状を有するものを使用するのが好ましく、特に平角形状のものが好ましい。更には、角部からの部分放電を抑制するという点において、4隅に面取り(半径r)を設けた形状であることが望ましい。
(エナメル層)
エナメル焼き付け層(以下、単に「エナメル層」ともいう)については、樹脂ワニスを導体上に複数回塗布、焼付して形成したものである。樹脂ワニスを塗布する方法は常法でよく、たとえば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法や、もし導体断面形状が四角形であるならば、井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いることができる。これらの樹脂ワニスを塗布した導体はやはり常法にて焼付炉で焼き付けされる。具体的な焼き付け条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、およそ5mの自然対流式の竪型炉であれば、400〜500℃にて通過時間を10〜90秒に設定することにより達成することができる。
エナメル層を形成するエナメル樹脂としては、従来用いられているものを使用することができ、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドヒダントイン変性ポリエステル、ポリアミド、ホルマール、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルホルマール、エポキシ、ポリヒダントインが挙げられ、好ましくは耐熱性において優れる、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドヒダントイン変性ポリエステルなどのポリイミド系樹脂である。
また、これらは1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を混合して使用するようにしてもよい。
焼き付け炉を通す回数を減らし、導体とエナメル層との接着力が極端に低下すること防ぐため、エナメル層の厚さは、50μm以下であることが好ましく、40μm以下がさらに好ましい。また、絶縁ワイヤーとしてのエナメル線に必要な特性である、耐電圧特性や、耐熱特性を損なわないためには、エナメル層がある程度の厚さがある方が好ましい。エナメル層の下限の厚さはピンホールが生じない程度の厚さであれば特に制限するものではなく、好ましくは3μm以上、更に好ましくは6μm以上である。
エナメル層は1層であっても複数層であってもよい。
(押出被覆樹脂層)
本発明においては、部分放電発生電圧の高い絶縁ワイヤを得るために、エナメル焼き付け層の外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層を設けるものである。押出被覆法の利点は、製造工程にて焼き付け炉を通す必要が無いため、導体の酸化被膜層の厚さを成長させることなく絶縁層の厚さを厚くすることができるということである。
押出被覆樹脂層に用いる樹脂は、部分放電発生電圧を低くするためには、比誘電率が4.5以下のものが好ましい。例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリアミド(PA)、ポリエステル(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、芳香族ポリエステル、ポリイミド(PI)、脂環式オレフィン、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリメチルペンテン(PMP)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリケトン(PK)、ポリサルホン(PSU)、ポリフェニルサルホン(PPSU)、ポリアセタール(POM)等が挙げられる。比誘電率は4.0以下であることがさらに好ましい。
ここで、比誘電率とは市販の誘電率測定装置で測定することができる。測定温度、周波数については、必要に応じて変更するものであるが、本発明においては、特に記載の無い限り、25℃、50Hzにおいて測定した値のことを意味する。
そして、部分放電発生電圧が500V以上という要求を満たすためには、エナメル層と押出被覆樹脂層の厚さの合計は60μm以上を必要とする。即ち、エナメル層厚さが50μm以下、厚さの合計が60μm以上のものであれば、「部分放電発生電圧」と「導体/エナメル層の接着強度」の両方を満足できるので好ましい。
本発明において、導体とエナメル層の接着強度は、例えば、JIS C 3003エナメル線試験方法の、8.密着性、8.1b)ねじり法と同じ要領で行い、被膜の浮きが生じるまでの回転数で評価することができる。断面方形の平角線においても、同様に行うことができる。この場合、被膜の浮きが生じるまでの回転数が15回転以上であるものを密着性の良いものとする。
また、本発明においては、押出被覆樹脂層が、25℃における引張弾性率が1000MPa以上であり、かつ250℃における引張弾性率が10MPa以上である樹脂材料からなるものである。25℃における引張弾性率は2000MPa以上であることがさらに好ましい。また、250℃における引張弾性率は100MPa以上であることがさらに好ましい。
本発明の絶縁ワイヤは、昨今絶縁ワイヤに要求されている、耐摩耗性、耐熱老化特性、耐溶剤性にも、対応可能なものとする。耐摩耗性は、絶縁ワイヤをモーター等へ加工した場合にうける傷の度合いの指標になり静摩擦係数は挿入しやすさの度合いになる。また、熱老化特性は、高温の環境で使用されても長時間信頼性を保つための指標になる。耐溶剤性も使用環境や組立工程の多様化から必要とされている。
本発明において、耐摩耗性の評価は、例えば、JIS C 3003エナメル線試験方法の、9.耐摩耗(丸線)と同じ要領で行うことができる。断面方形の平角線の場合は、四隅のコーナーについて行う。2000g以上で非常に優れたものと評価できる。
また、本発明において、熱老化特性の評価は、例えば、JIS C 3003エナメル線試験方法の、7.可撓性に従って巻き付けたものを、180℃高温槽へ300時間(h)静置した後の、エナメル層または押出被覆樹脂層にき裂がないか目視にて調べて行うことができる。この場合、異常が無いと非常に優れたものと評価できる。
また、本発明において、耐溶剤性の評価は、例えば、JIS C 3003エナメル線試験方法の、7.可撓性に従って巻き付けたものを、溶剤に10秒間浸漬後、エナメル層または押出被覆樹脂層の表面を目視にて確認して行うことができる。この場合、溶剤としてはアセトン、キシレン、スチレンの3種類によって行い、温度は常温と150℃(試料を150℃×30分加熱後に熱い状態で溶剤へ浸漬する)の2水準によって行い、何れも異常無いと非常に優れたものと評価できる。
本発明者らは、数々の実験の結果、耐摩耗性、耐熱老化特性、耐溶剤性と、引張弾性率とのある相関を発見した。即ち、25℃での引張弾性率が1000MPa以上であれば、常温で行われる耐摩耗特性が2000g以上(質量)を達成させることができる。また、250℃での引張弾性率が、10MPa以上であれば、180℃で行われる熱老化特性が300hを達成することができるということである。また、前記の二項目を満足させる樹脂であれば、残る必要特性である耐溶剤性も常温および150℃において良好な結果を達成できることも導き出した。
ここで、引張弾性率とは、市販の粘弾性測定装置で測定した値であり、測定時の制御モード、周波数、歪み量、測定温度等は必要に応じて変えられるものである。本発明においては、特に記載の無い限り、引張モード、周波数1Hz、歪み量1/1000にて行い、測定温度は昇温速度5℃/分で変えながら測定した値を意味する。
25℃における引張弾性率が1000MPa以上であり、かつ250℃における引張弾性率が10MPa以上である樹脂材料は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフェニルサルホン(PPSU)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等が挙げられ、PPSがさらに好ましい。また、引張弾性率が上記の範囲から外れない程度であれば、これらの樹脂に他の樹脂やエラストマー等をブレンドしたものでもよい。さらには、引張弾性率が上記の範囲から外れない程度であれば、他のモノマーとのブロック共重合体を用いることも可能である。
また、本発明の別の好ましい態様は、エナメル焼き付け層と押出被覆樹脂層との間に接着層を有し、接着層を媒体として、エナメル焼き付け層と押出被覆樹脂層との接着力を強化させた絶縁ワイヤである。
また、本発明のさらに別の好ましい態様は、エナメル焼き付け層の外周に、ワニス化された樹脂を焼き付けてこれを接着層とし、その後の押出被覆工程において、接着層に用いられる樹脂のガラス転移温度よりも高い温度の溶融状態である押出被覆樹脂と接触させることで、エナメル層と押出被覆樹脂層とを熱融着させる絶縁ワイヤの製造方法である。
押出被覆樹脂層とエナメル焼き付け層の間の接着力が十分でない場合、過酷な加工条件例えば小さな半径に曲げ加工される場合には、曲げの円弧内側に、押出被覆樹脂層のシワが発生する場合がある。このようなシワが発生すると、エナメル層と押出被覆樹脂層との間に空間が生じることから、部分放電発生電圧が、低下するという現象につながる場合がある。
この部分放電発生電圧の低下を防止するためには、曲げの円弧内側にシワが生じないようにする必要があり、エナメル層と押出被覆樹脂層との間に接着機能を有する層を導入して接着強度を高めることで、上記のようなシワの発生を防ぐことができる。
絶縁ワイヤの曲がり部分の部分放電発生電圧の測定装置や測定条件については、前述の部分放電試験器による測定と同様であるが、もっとも過酷な状況を想定して、試料形状として、二本の絶縁ワイヤを密着させるのではなく、一本の絶縁ワイヤの曲がり部分を金属箔(アルミ等)で覆ったものを用い、ワイヤ導体と金属箔との間に電圧をかけて測定するものである。この測定法での測定値は、密着させた二本の絶縁ワイヤに電圧をかけた場合とは値が異なるため、正常部分と不良部分との相対比較で議論する。
接着層は熱融着可能な樹脂であればいずれの樹脂を用いても良いが、ワニス化する必要性があることから、溶剤に溶けやすい非結晶性樹脂であることが好ましい。さらには、絶縁ワイヤとしての耐熱性を低下させないためにも、耐熱性に優れる樹脂であることが好ましい。これらのことを考慮すると好ましい樹脂としてはポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニルサルホン(PPSU)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等が挙げられ、PESおよびPPSUがさらに好ましい。
また、ワニス化に用いる溶剤は、選択した樹脂を溶解させ得る溶剤であればいずれでも良いが、エナメル層へ焼き付ける際に下地となるエナメル層との接着性を良くするためには、下地となるエナメル層を焼き付ける際に用いたものと同一の溶剤が好ましい。
また、接着層の厚さは2〜20μmが好ましく、5〜10μmが更に好ましい。接着層と押出被覆樹脂層を十分に熱融着させるためには、押出被覆工程における樹脂温度は、接着層に選んだ樹脂のTg(ガラス転移温度)以上である必要があり、好ましくはTgよりも30℃以上高い温度、更に好ましくはTgよりも50℃以上高い温度が良い。
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例のうち、実施例7及び比較例14は絶縁ワイヤの静摩擦係数とコイル挿入性の効果を示すものである。
[参考例1]
1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を準備した。エナメル層の形成に際しては、導体の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂ワニス(日立化成(株)製 商品名 HI406)を導体へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させ、この1回の焼き付け工程で厚さ5μmのエナメルを形成した。これを繰り返し4回行うことで厚さ20μmのエナメル層を形成し、被膜厚さ20μmのエナメル線を得た。
得られたエナメル線を心線とし、押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。材料はポリエーテルイミド(PEI)(GEプラスチック:ウルテム1000)を用い、押出温度条件は表1に従い行った。押出ダイを用いて樹脂の押出被覆を行い、エナメル層の外側に厚さ40μmの押出被覆樹脂層を形成し、トータル厚さ(エナメル層と押出被覆樹脂層の厚さの合計)60μmのPEI押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
[参考例2]
エナメル層の焼き付け回数を8回とし、厚さ40μmのエナメル層を形成し、その上に厚さ60μmの押出被覆層を形成したこと以外は参考例1と同様にして、トータル厚さ100μmのPEI押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温度条件は表1に従った。
[参考例3]
エナメル層の焼き付け回数を4回とし、厚さ20μmのエナメル層を形成し、その上に厚さ80μmの押出被覆層を形成したこと以外は参考例1と同様にして、トータル厚さ100μmのPEI押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温度条件は表1に従った。
[参考例4]
押出被覆樹脂にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)を用いたこと以外は参考例2と同様にして、トータル厚さ100μmのETFE押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温度条件は表1に従った。
[比較例1]
1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を準備した。エナメル層の形成に際しては、導体の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂ワニス(日立化成(株)製商品名HI406)を導体へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させ、この1回の焼き付け工程で厚さ5μmのエナメルを形成した。これを繰り返し8回行うことで厚さ40μmのエナメル層を形成し、被膜厚さ40μmのエナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
[比較例2]
エナメル層の焼き付け工程を12回とし、厚さ60μmのエナメル層を形成したこと以外は、比較例1と同様にして、被覆厚さ60μmのエナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
[比較例3]
エナメル層の焼き付け工程を20回とし、厚さ100μmのエナメル層を形成したこと以外は、比較例2と同様にして、被覆厚さ100μmのエナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
参考例1〜4および比較例1〜3について以下の評価を行った。
(部分放電発生電圧)
部分放電発生電圧の測定には、菊水電子工業製の部分放電試験機「KPD1050」を用いた。断面形状が方形の絶縁ワイヤを、二本の絶縁ワイヤの長編となる面同士を長さ150mmに亘って隙間が無いように密着させた試料を作製した。この二本の導体間に電極をつなぎ、温度は25℃にて、50Hzの交流電圧かけながら連続的に昇圧していき、10pCの部分放電が発生した時点の電圧を実行値で読みとった。500V以上を合格とした。
(導体とエナメル層の接着性)
導体とエナメル層の接着強度を、JIS C 3003エナメル線試験方法の、8.密着性、8.1b)ねじり法と同じ要領で行い、被膜の浮きが生じるまでの回転数により測定した。15回以上を合格とした。
結果を表1に示す。
Figure 2008226853
表1から解るように、参考例1〜4、比較例1〜3の部分放電開始電圧については、エナメル層と押出被覆層のトータル厚さが60μmの参考例1、比較例2はそれぞれ580V、570Vであり、トータル厚さが100μmの参考例2、3、4、比較例3はそれぞれ、780V、790V、810V、770Vであった。部分放電開始電圧の要求値500Vに対しては、トータル厚さが60μmあれば十分であることがわかる。また、同じトータル厚さの試料間でも部分放電開始電圧が微妙に異なるのは、構成する材料の比誘電率の違いから生じたものと考えられる。比較例1はトータル厚さが40μmと小さいため部分放電開始電圧は305Vとなり、要求の500Vには達しなかった。
つぎに、導体とエナメル層の接着性について見てみると、参考例1、参考例3は20μmのエナメル層を形成するため、焼き付け回数が4回であった。そのため、導体表面の酸化銅からなる被膜の厚さの成長を防ぐことができたと考えられ、導体とエナメル層の接着性はともに22で、要求値である15を大きく上回った。参考例2、4、比較例1は、40μmのエナメル層を形成するために8回の焼き付け回数を経ているため、接着性は19と、参考例1、3よりは劣るものの、要求値である15を上回った。比較例2、3はそれぞれ60μm、100μmのエナメル層を形成するため、それぞれ12回、20回の焼き付け回数を経ている。従って導体表面の酸化銅被膜厚さも成長したものと考えられ、接着性が13、11と悪いものであった。
このように、部分放電発生電圧が要求の500Vに達するためにはトータル厚さ60μmが必要で、接着性が要求の15に達するためには、エナメル層の厚さが40μm以下であれば十分であった。
[参考例5]
1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を準備した。エナメル層の形成に際しては、導体の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂ワニス(日立化成(株)製 商品名 HI406)を導体へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させ、この1回の焼き付け工程で厚さ5μmのエナメルを形成した。これを繰り返し5回行うことで厚さ25μmのエナメル層を形成し、被膜厚さ25μmのエナメル線を得た。
得られたエナメル線を心線とし、参考例1と同じ要領で、押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。材料はポリアミドイミド(PAI)(ソルベイアドバンストポリマー:トーロン4203)を用い、押出温条件は表2に従って行った。押出ダイを用いて樹脂の押出被覆を行い、エナメル層の外側に厚さ75μmの押出被覆樹脂層を形成し、トータル厚さ(エナメル層と押出被覆樹脂層の厚さの合計)100μmのPAI押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
[参考例6]
押出被覆樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチクス:フォートロン0220A9)を用いたこと以外は、参考例5と同様にしてトータル厚さ100μmのPPS押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温条件は表2に従って行った。
[比較例4]
押出被覆樹脂としてテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)(旭硝子:アフロンPFAP−63P)を用いたこと以外は、参考例5と同様にしてトータル厚さ100μmのPFA押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温条件は表2に従って行った。
[比較例5]
押出被覆樹脂としてテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)(旭硝子:ネオフロンFEPNP−120)を用いたこと以外は、参考例5と同様にしてトータル厚さ100μmのFEP押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温条件は表2に従って行った。
[比較例6]
押出被覆樹脂としてテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)(旭硝子:アフロンETFEC55AXP)を用いたこと以外は、参考例5と同様にしてトータル厚さ100μmのETFE押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温条件は表2に従って行った。
[比較例7]
押出被覆樹脂としてポリメチルペンテンテン(PMP)(三井化学:TPXMX004)を用いたこと以外は、参考例5と同様にしてトータル厚さ100μmのPMP押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温条件は表2に従って行った。
[比較例8]
押出被覆樹脂としてシンジオタクチックポリスチレン(SPS)(出光石油化学:ザレックS101)を用いたこと以外は、参考例5と同様にしてトータル厚さ100μmのSPS押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温条件は表2に従って行った。
[比較例9]
押出被覆樹脂としてポリエーテルイミド(PEI)(GEプラスチックス:ウルテム1000)を用いたこと以外は、参考例5と同様にしてトータル厚さ100μmのPEI押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温条件は表2に従って行った。
[比較例10]
押出被覆樹脂としてポリエーテルサルホン(PES)(ソルベイアドバンストポリマー:レーデルA300)を用いたこと以外は、参考例5と同様にしてトータル厚さ100μmのPES押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温条件は表2に従って行った。
参考例5〜6および比較例4〜10における押出被覆樹脂の引張弾性率の測定には、予め作製しておいた長さ20mm、幅10mm、厚さ0.2mmのシートサンプルを用いた。セイコーインスツルメンツ製の粘弾性スペクトロメーター「DMS200」を用いて、測定モードは引張モード、周波数1Hz、歪み量1/1000にて行い、測定温度は昇温速度5℃/分で変えながら測定し、25℃と250℃での引張弾性率を記録した。
参考例5〜6および比較例4〜10について以下の評価を行った。
(耐磨耗性(常温))
耐摩耗性を、JIS C 3003エナメル線試験方法の、9.耐摩耗(丸線)と同じ要領で、平角線の四隅のコーナーについて測定した。2000g以上を合格とした。
(耐熱老化特性(180℃))
熱老化特性を、JIS C 3003エナメル線試験方法の、7.可撓性に従って巻き付けたものを、180℃高温槽へ300h静置した後の、エナメル層または押出被覆樹脂層にき裂の有無を目視にて調べた。異常なしであるものを合格とした。
(耐溶剤性)
耐溶剤性を、JIS C 3003エナメル線試験方法の、7.可撓性に従って巻き付けたものを、溶剤に10秒間浸漬後、エナメル層または押出被覆樹脂層の表面を目視にて、クラックやクレージングの有無を確認した。溶剤としてはアセトン、キシレン、スチレンの3種類によって行い、温度は常温と150℃(試料を150℃×30分加熱後に熱い状態で溶剤へ浸漬する)の2水準について行った。異常なしであるものを合格とした。
結果を表2に示す。
Figure 2008226853
参考例5、6、比較例8、9、10は何れも25℃での引張弾性率が1000MPaを上回るものである。そしてこれらは、常温で評価する耐摩耗性が2000g以上であり、耐磨耗性が非常に優れるものであった。一方、比較例4、5、6、7は何れも25℃での引張弾性率が1000MPaを下回るものである。そしてこれらは、耐摩耗特性が参考例5、6に比べやや劣るものとなった。これらの結果より、常温での剛性が高いことが、摩耗を防止する効果につながっているものと考えられる。
また、参考例5、6、比較例4、5、6は、250℃での引張弾性率が10MPaを上回るものである。そしてこれらは、180℃で評価した耐熱老化特性が非常に優れるものであった。一方比較例7、8、9、10は、250℃での引張弾性率が10MPaを下回るものである。そしてこれらの耐熱老化特性評価結果は、参考例5、6に比べやや劣るものとなった。これらの結果より、耐熱老化特性は耐熱性の一種であり、高温、例えば250℃における引張弾性率との相関が得られたと言える。
また、これらの条件を満足する参考例5、6は、常温や150℃で評価する耐溶剤性に対しても非常に優れた特性を持つことも確認された。
即ち、引張弾性率が常温で1000MPa以上、250℃で10MPa以上の樹脂材料であれば、耐摩耗性、耐熱老化特性、耐溶剤性の3つの特性について非常に優れたものとなることがわかった。
[参考例7]
1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を準備した。エナメル層の形成に際しては、導体の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂ワニス(日立化成(株)製 商品名 HI406)を導体へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させ、この1回の焼き付け工程で厚さ5μmのエナメルを形成した。これを繰り返し5回行うことで厚さ25μmのエナメル層を形成し、エナメル線を得た。
次に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にポリフェニルサルホン樹脂(PPSU)(ソルベイアドバンストポリマー:レーデルR5800)を溶解させ、20wt%溶液とした樹脂ワニスを、導体の形状と相似形のダイスを使用して、前記エナメル線へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させ、これを繰り返し2回行うことで厚さ10μmの接着層を形成し(1回の焼き付け工程で形成される厚さは5μm)、厚さ35μmの接着層付きエナメル線を得た。
得られた接着層付きエナメル線を心線とし、参考例1と同じ要領で、押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。材料はポリエーテルイミド(PEI)(GEプラスチック:ウルテム1000)を用い、押出温度条件は表3のとおりである。押出ダイを用いて樹脂の押出被覆を行い、接着層の外側に厚さ65μmの押出被覆樹脂層を形成し、トータル厚さ(エナメル層と接着層と押出被覆樹脂層の厚さの合計)100μmの接着層付きPEI押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
[参考例8]
押出被覆樹脂にPPSを用いたこと以外は参考例7と同様にして、トータル厚さ100μmの接着層付きPPS押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温度条件は表3のとおりである。
[参考例9]
樹脂ワニスとして用いた樹脂をPESにしたこと以外は、参考例7と同様にして、トータル厚さ100μmの接着層付きPEI押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
押出温度条件は表3のとおりである。
[参考例10]
押出被覆樹脂にPPSを用いたこと以外は参考例9と同様にして、トータル厚さ100μmの接着層付きPPS押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温度条件は表3のとおりである。
[比較例11]
1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を準備した。エナメル層の形成に際しては、導体の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂ワニス(日立化成(株)製商品名HI406)を導体へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させ、この1回の焼き付け工程で厚さ5μmのエナメルを形成した。これを繰り返し5回行うことで厚さ25μmのエナメル層を形成し、エナメル線を得た。得られたエナメル線を心線とし、実施例1と同じ要領で、押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。材料はポリエーテルイミド(PEI)(GEプラスチック:ウルテム1000)を用い、押出温度条件は表3のとおりである。押出ダイを用いて樹脂の押出被覆を行い、接着層の外側に厚さ75μmの押出被覆樹脂層を形成し、トータル厚さ100μmの接着層付きPEI押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
[比較例12]
押出被覆樹脂にPPSを用いたこと以外は比較例11と同様にして、100μmのPPS押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温度条件は表3のとおりである。
参考例7〜10、比較例11〜12について以下の評価を行った。
曲げ評価を、曲げ半径1、2、3、4、5mmのエッジワイズ曲げを行い、曲げ円弧の内側にシワが無いかどうか目視で判定した。
また、曲げ部分の部分放電発生電圧を、菊水電子工業製の部分放電試験機「KPD1050」を用いて測定した。絶縁ワイヤの曲がり部分を金属箔(アルミ等)で覆い、温度は25℃にて、ワイヤ導体と金属箔との間に、50Hzの交流電圧かけながら連続的に昇圧していき、10pCの部分放電が発生した時点の電圧を実効値で読みとった。
Figure 2008226853
なお、上記の表1〜3の押出温度条件において、C1、C2、C3は押出機のシリンダー部分における温度制御を分けて行っている3ゾーンを材料投入側から順に示したものである。また、Hは押出機のシリンダーの後ろにあるヘッドを示す。また、Dはヘッドの先にあるダイを示す。
曲げ評価結果について見てみると、参考例7〜10は何れも接着層を有する試料で、それぞれ、接着層として用いる樹脂と押出被覆樹脂層として用いる樹脂の組み合わせを変えたものであるが、どの例を見ても、最も厳しい曲げ半径1mmにおいてもシワは確認されなかった。また、比較例11、12は参考例7〜10と同じ押出被覆樹脂であるが、接着層を有しない試料であるため、曲げ半径が厳しくなるにつれ、シワが発生した。これはエナメル層と押出被覆層の接着強度に起因するものと考えられ、接着層を有する試料と有しない試料との差が明確に出ている。
次に、曲げ部分の部分放電発生電圧について見てみると、参考例7〜10は曲げ半径に関わらず何れも480Vであった。これは曲げ加工する前の直線状態の試料についての測定値と全く同じであり、曲げ加工によってもシワが発生しなかったことから、部分放電発生電圧にも影響が無かったものと考えられる。また比較例11、12の結果を見ると、曲げ半径が小さく、シワが発生した試料については、部分放電発生電圧が480Vを下回り、更に曲げ半径が小さくなるほど低下量が顕著に現れていることから、押出被覆層のシワが部分放電発生電圧に影響したものと考えられる。このように接着層を有する参考例7〜10の試料では非常に過酷な条件下においても、曲げ性に優れたものとなった。
[実施例1]
1.8×2.5(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を準備した。エナメル層の形成に際しては、導体の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂ワニス(日立化成(株)製商品名H1406 )を銅体へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼付時間15秒となる速度で通過させ、この1回の焼付け工程で厚さ5μmのエナメルを形成した。これを繰り返し4回行なうことで厚さ20μmのエナメル層を形成し、被膜厚さ20μmのエナメル線を得た。得られたエナメル線を心線として、押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20,圧縮比3を用いた。材料はポリフェニレンスルフィド(PPS)(大日本インキ株式会社製商品名ML−320P)を用い、押出温度条件は表4に従い行なった。押出ダイを用いて導体に対してフラット面がエッジ面より厚いダイスを用いて樹脂の押出被覆を行い、エナメル層の外側にフラット面が75μm、エッジ面が40μmの押出被覆樹脂を形成し、トータル厚さ(エナメル層と押出被覆樹脂層の厚さの合計)がフラット面で100μm、エッジ面で65μmのPPS押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。ここで言うフラット面とは該断面が矩形の対の対向する2辺のうち長辺の対をさす。またエッジ面とは対向する2辺のうち短辺の対をさす。
[実施例2]
押出ダイを用いて導体に対してエッジ面がフラット面より厚いダイスを用いて樹脂の押
出被覆を行ったこと以外は実施例1と同様にして、エナメル層の外側にフラット面が40μm、エッジ面が75μmの押出被覆樹脂を形成し、トータル厚さ(エナメル層と押出被覆樹脂層の厚さの合計)がフラット面で65μm、エッジ面で100μmのPPS押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温度条件は表4の通りである。
[比較例13]
押出ダイの形状が導体断面形状の相似形ダイを使ったこと以外は実施例1と同様にしてトータル厚さエッジ面、フラット面ともに100μmのPPS押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温度条件は表4の通りである。
実施例1〜2および比較例13について以下の評価を行なった。
部分放電発生電圧の測定には、菊水電子工業製の部分放電試験機「KPD1050」を用いた。断面形状が方形の絶縁ワイヤを、二本の絶縁ワイヤの長辺となる面同士を長さ150mmに亘って隙間が無いように密着させた試料を作製した。この二本の導体間に電極をつなぎ、温度は25℃にて、50Hzの交流電圧かけながら連続的に昇圧していき、10pCの部分放電が発生した時点の電圧を実効値で読みとった。500V以上を合格とした。
また、占積率とは、本発明のワイヤ複数本をフラット面同士を密着させてなる総合的な断面形状に対し、過不足ない断面を提供できる寸法の、断面方形のモーターのスロットを想定し、そのスロット断面積に対する、導体のトータル面積の割合をいう。
具体的には、フラット側外寸法a、エッジ側外寸法bを持つワイヤについて、そのワイヤ二本をそのフラット面同士を密着させて得られる集合体の方形の断面積を(2ab)とした場合、これに占める、元の二本のワイヤの断面の、導体面積(二本分の合計)をパーセント表示した値である。
結果を表4に示す。
Figure 2008226853
表4から明らかなように、実施例1〜2、比較例13の部分放電開始電圧に関しては、実施例1〜2、比較例13ともに900Vであった。放電が起きる方の1対の面の膜の厚さが所定の厚さであれば、もう1対の対向する面の厚さがそれより薄くても部分放電発生電圧は維持できた。
つぎに占積率をみてみると実施例1〜2は占積率は86%であり、比較例13は83%であった。部分放電を小さくしようとすると被覆膜が厚くするため、占積率が小さくなるという問題があったが、実施例のように膜厚の構成を変えることで部分放電開始電圧を維持しながら占積率を上げられることができた。
[参考例11]
1.8×2.5(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を準備した。エナメル層の形成に際しては、導体の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂ワニス(日立化成(株)製商品名H1406)を銅体へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼付時間15秒となる速度で通貨させ、この1回の焼付け工程で厚さ5μmのエナメルを形成した。これを繰り返し5回行なうことで厚さ5μmのエナメル層を形成し、被膜厚さ25μmのエナメル線を得た。得られたエナメル線を心線として、押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20,圧縮比3を用いた。材料はポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチクス:フォートロン0220A9)を用い、押出温度条件は表5に従い行なった。押出ダイを用いて導体に対して樹脂の押出被覆を行い、エナメル層の外側に75μmのPPS押出被覆樹脂を形成し、トータル厚さ(エナメル層と押出被覆樹脂層の厚さの合計)が100μmのPPS押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
[参考例12]
押出被覆樹脂層にポリエーテルイミド(PEI)(GEプラスチック社製:商品名ウルテム1000)を用いたこと以外は参考例11と同様にして、トータル厚さ100μmのPEI押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。押出温度は表5に従った。
[比較例14]
1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を準備した。エナメル層の形成に際しては、導体の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂ワニス(日立化成(株)製商品名HI406)を導体へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させ、この1回の焼き付け工程で厚さ5μmのエナメルを形成した。これを繰り返し20回行うことで厚さ100μmのエナメル層を形成し、被膜厚さ100μmのエナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
参考例11〜12および比較例14について以下の評価を行なった。
静摩擦係数の評価は、エナメル線同士間の静摩擦係数を測定するものであり、その測定方法は、台上に予め0.5%伸長した電線2本を平行に張り渡しその両端はホルダーピンで止め、この上に電線を2本平行に張り渡した荷重をこの2本の電線と交差するように上に乗せ荷重から滑車を介して結び付けられた受け皿に徐々におもりを乗せていき荷重がすべり始める時の重さを読み取った。なお荷重は100gである。
Figure 2008226853
表5から明らかなように参考例11〜12の静摩擦係数は0.19,0.17であり、比較例14では0.25である。参考例11〜12の外層は押出被覆樹脂であり比較例はエナメル焼付け層であり、押出被覆樹脂の電線では静摩擦係数が小さく、電線のモーター加工時の挿入性も良好である。

Claims (3)

  1. 断面が矩形状である導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼き付け層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層を有する絶縁ワイヤであって、該断面の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さと、他の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さの少なくとも一方の厚さが前記エナメル焼き付け層の厚さとの合計で60μm以上であり、前記エナメル焼き付け層の厚さが50μm以下であり、押出被覆樹脂層が、25℃における引張弾性率が1000MPa以上であり、かつ250℃における引張弾性率が10MPa以上である樹脂材料(ポリエーテルエーテルケトンを除く)からなり、前記断面の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さが、他の一対の対向する2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さと異なることを特徴とする耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
  2. 前記エナメル焼き付け層と前記押出被覆樹脂層との間に接着層を有し、該接着層を媒体として、エナメル焼き付け層と押出被覆樹脂層との接着力を強化させたことを特徴とする請求項1に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
  3. 前記エナメル焼き付け層の外周に、ワニス化された樹脂を焼き付けてこれを接着層とし、その後、該接着層に用いられた樹脂のガラス転移温度よりも高い温度の溶融状態である押出被覆樹脂と接触させ、エナメル焼き付け層と押出被覆樹脂層とを熱融着させることを特徴とする請求項2に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤの製造方法。
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