ところで、上記検出信号Qsは、1ビットの信号であるため、3相ブラシレスモータのいずれのゼロクロスタイミングであるかを識別することはできない。このため、ブラシレスモータの回転状態に異常が生じたり、端子電圧vu,vv,vw等にノイズが混入したりした場合には、ブラシレスモータの制御性が大きく低下するおそれがある。すなわち、例えばブラシレスモータが逆回転をした場合であっても、検出信号Qsからは逆回転を検出することが困難であるため、検出信号Qsの立ち上がりエッジや立ち下がりエッジからの所要時間の経過時(規定タイミング)におけるスイッチング素子の操作の切り替えが通常時と同様に継続されるおそれがある。この場合、ブラシレスモータを適切に制御することができない。
更に、ブラシレスモータの出力制御やブラシレスモータを流れる電流の制限制御等の目的から、上記規定タイミングに基づき定義されるスイッチング素子のオン操作の許可期間において、スイッチング素子のオン操作及びオフ操作を繰り返す処理を行うことが知られている。ただし、この処理時には、スイッチング素子をオン状態からオフ状態に頻繁に切り替えることに起因して、ダイオードに頻繁に電流が流れ、ひいては、比較信号PU,PV,PWや合成信号PSが頻繁に反転する。そしてこのときには、検出信号Qsをゼロクロスタイミングに同期した適切な信号として生成することが困難であるため、規定タイミングを適切に設定することが困難なものとなる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、多相回転機の誘起電圧と基準電圧との比較に基づき、多相回転機の電気角に関する情報をより高精度に取得することのできる多相回転機の制御装置を提供することにある。
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
請求項1記載の発明は、前記多相回転機の各相のそれぞれについて、その端子電圧と基準電圧との大小関係を各別に比較する比較手段と、前記スイッチング素子の現在の操作状態においてゼロクロスタイミングとなるときに想定される前記比較手段による比較結果と実際の比較結果とについての各相毎の比較に基づき、前記多相回転機の電気角に関する情報を取得する取得手段とを備えることを特徴とする。
いずれの相においてゼロクロスタイミングとなるかは、スイッチング操作状態に依存する。このため、スイッチング操作状態によって、ゼロクロスタイミングとなるときの各相毎の比較手段の比較結果を予め定めておくことができる。上記発明では、この点に着目し、予め定めておいた比較結果(想定される比較結果)と実際の比較結果とを各相毎に比較する。この各相毎の比較によれば、全ての相の比較結果を1ビットに合成した信号を用いる場合と比較して、より詳細な情報を用いることができるため、電気角についての高精度の情報を取得することができる。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記取得手段は、前記想定される比較結果と実際の比較結果とについての少なくとも1相の一致に基づき前記ゼロクロスタイミングを検出する手段を備えることを特徴とする。
上記発明では、想定される比較結果と実際の比較結果との少なくとも1相の一致に基づきゼロクロスタイミングを検出することで、例えば誘起電圧と基準電圧とが一致すると想定される相についての比較結果を選択的に用いること等ができる。このため、全相の比較結果を1ビットに合成した信号の変化時をゼロクロスタイミングとする場合と比較して、ゼロクロスタイミングとするための条件を厳しくすることができる。このため、ゼロクロスタイミングを高精度に検出することができる。
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明は、前記取得手段は、前記想定される比較結果と実際の比較結果とについての全相一致に基づき前記ゼロクロスタイミングを検出する手段を備えることを特徴とする。
上記発明では、想定される比較結果と実際の比較結果との全相一致に基づきゼロクロスタイミングを検出することで、全相の比較結果を1ビットに合成した信号の変化時をゼロクロスタイミングとする場合と比較して、ゼロクロスタイミングとするための条件を厳しくすることができる。特に、端子電圧等にノイズが混入した場合、複数相に影響が及ぶ傾向にあるため、1相がノイズの影響で偶然に一致する場合であっても全相が一致する可能性は低い。このため、ゼロクロスタイミングを高精度に検出することができる。
請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載の発明において、前記ゼロクロスタイミングに基づき、前記スイッチング素子の操作状態の切り替えの基準となる規定タイミングを設定する設定手段を更に備えることを特徴とする。
多相回転機の電気角についての所定周期毎にゼロクロスタイミングが生じる。このため、上記発明では、ゼロクロスタイミングに基づき規定タイミングを適切に設定することができる。
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記規定タイミングと前記ゼロクロスタイミングとが1対1に対応付けられてなることを特徴とする。
上記発明では、規定タイミングとゼロクロスタイミングとが1対1に対応している。このため、スイッチング素子の操作状態とゼロクロスタイミングとも1対1に対応することとなる。したがって、上記発明では、スイッチング素子の現在の操作状態においてゼロクロスタイミングとなるときに想定される比較手段の比較結果を一義的に定めることができる。
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記電力変換回路は、前記スイッチング素子のそれぞれと並列接続される整流手段を備えるものであり、前記基準電圧は、前記多相回転機の中性点電圧及びその相当値のいずれかに設定され、前記規定タイミングによって定まる各スイッチング素子のオン操作許可期間において、前記オン操作許可期間にあるスイッチング素子のオン・オフを繰り返す操作手段を更に備えることを特徴とする。
操作手段による処理がなされるときには、スイッチング素子がオン状態からオフ状態へと切り替えられる相の電圧は、正極電位側又は負極電位側に急激に変化する。詳しくは、整流手段による電圧降下程度、正極電位よりも高いか負極電位よりも低くなる。この際、スイッチング素子がオフ状態とされている相の電圧も、正極電位側又は負極電位側に変化する。このため、基準電圧としての中性点電圧やその相当値は、正極電位よりも高いか負極電位よりも低くなるおそれがある。
そして、基準電圧として中性点電圧等を用いる場合には、スイッチング素子がオフ状態とされている相、すなわち、誘起電圧と端子電圧とが一致し得る相においては、操作手段による処理にかかわらず、ゼロクロスタイミングとなるまで、比較手段の比較結果が変化しないこととなる。ただし、操作手段による処理がなされているときには、少なくともその処理のなされる相においては比較手段の比較結果は頻繁に変化するため、比較手段による比較結果のうちいずれか1つの相の比較結果が変化することに基づきゼロクロスタイミングを検出することはできない。
この点、上記発明では、想定される比較結果と実際の比較結果との相毎の比較に基づきゼロクロスタイミングを検出するために、誘起電圧と端子電圧とが一致し得る相における比較手段の比較結果をも用いることができる。このため、操作手段による処理がなされているときであれ、ゼロクロスタイミングを高精度に把握することができる。
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記取得手段は、前記スイッチング素子の現在の操作状態においてゼロクロスタイミングとなるときに想定される前記比較手段の比較結果と実際の比較結果とが少なくとも1つの相において不一致であることに基づき、前記多相回転機の回転状態に異常がある旨判断する異常判断手段を備えることを特徴とする。
多相回転機の回転状態が正常であるときには、想定される比較結果と実際の比較結果とが全相において一致すると考えられる。上記発明では、この点に着目し、想定される比較結果と実際の比較結果とが少なくとも1つの相において不一致であることに基づき、回転機の回転状態に異常がある旨を高精度に判断することができる。
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記異常判断手段は、前記スイッチング素子の操作状態の時系列パターンから想定される前記比較手段の比較結果の時系列パターンを時間に対して反転させたものと実際の時系列パターンとの一致に基づき、前記多相回転機が逆回転する異常がある旨判断する手段を備えることを特徴とする。
スイッチング素子の操作状態から、比較手段の比較結果が定まる。このため、スイッチング素子の操作状態の時系列パターンによって、比較手段の比較結果の時系列パターンを定めることができる。このため、比較結果の時系列パターンを逆にしたものと実際の時系列パターンとが一致する場合には、多相回転機が逆回転していると判断することができる。
請求項9記載の発明は、請求項7又は8記載の発明において、前記多相回転機の回転状態に異常がある旨判断されるとき、前記多相回転機の回転を強制的に停止させる停止手段と、前記停止手段による停止処理の後、前記多相回転機を再起動する起動手段とを更に備えることを特徴とする。
上記発明では、多相回転機の回転状態に異常がある旨判断されるとき、多相回転機の回転を強制的に停止させる処理を行い、その後再起動処理を行う。このため、多相回転機が自然に停止するまで待機した後再起動処理を行う場合と比較して、多相回転機を迅速に正常状態に復帰させることができる。
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明において、前記停止手段は、前記多相回転機の全相を前記正極又は負極のいずれかと導通させることで前記多相回転機の回転を強制的に停止させることを特徴とする。
多相回転機の全相を正極又は負極のいずれか一方と導通状態とする場合、多相回転機の全相が短絡されることとなる。この場合、多相回転機の回転に伴う誘起電圧により多相回転機に電流が流れることとなり、この電流は電流経路内の抵抗等の影響で減衰していく。換言すれば、回転エネルギが減衰していく。上記発明では、この点に着目し、多相回転機の全相を電源の正極又は負極のいずれかと導通させることで多相回転機の回転エネルギを迅速に低減させることができる。
請求項11記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記操作手段による処理がなされる期間において、前記スイッチング素子のうちのオン状態に固定されているスイッチング素子の接続される相についての前記比較手段の比較結果の反転の有無に基づき、前記多相回転機の相ラインの断線の有無を検出する断線検出手段を更に備えることを特徴とする。
上述したように、上記操作手段による処理によってスイッチング素子がオン状態からオフ状態へと切り替えられる相の電圧は、整流手段の電圧降下程度、正極電位よりも高いか負極電位よりも低くなる。このため、基準電圧も正極電位よりも高いか負極電位よりも低くなる。ただし、多相回転機が断線している場合には、基準電圧が正極電位よりも高くなったり負極電位よりも低くなったりすることはないと考えられる。このため、オン状態に固定されている相、すなわち、端子電圧が正極電位又は負極電位に固定されている相の比較手段の比較結果は、多相回転機の断線の有無に応じて相違すると考えられる。上記発明では、この点に鑑み、多相回転機の断線を検出することができる。
請求項12記載の発明は、前記多相回転機の誘起電圧の検出値に基づき、前記多相回転機の回転状態の異常の有無を判断する異常判断手段と、前記異常がある旨判断されるとき、前記多相回転機の全相を前記正極又は負極のいずれれかと導通させることで前記多相回転機の回転を強制的に停止させる停止手段と、前記停止手段による停止処理の後、前記多相回転機を再起動する起動手段とを備えることを特徴とする。
多相回転機の全相を正極又は負極のいずれか一方と導通状態とする場合、多相回転機の全相が短絡されることとなる。この場合、多相回転機の回転に伴う誘起電圧により多相回転機に電流が流れることとなり、この電流は電流経路内の抵抗等の影響で減衰していく。換言すれば、回転エネルギが減衰していく。
上記発明では、この点に着目し、多相回転機の回転状態に異常がある旨判断されるとき、多相回転機の全相を前記正極又は負極のいずれかと導通させることで多相回転機の回転エネルギを迅速に低減させることができる。そして、その後再起動処理を行うことで、多相回転機が自然に停止するまで待機した後再起動処理を行う場合と比較して、多相回転機を迅速に正常状態に復帰させることができる。
なお、異常判断手段は、誘起電圧が基準電圧となるゼロクロスタイミングに基づき上記判断を行うことが望ましい。
請求項13記載の発明は、スイッチング素子及びこれに並列接続される整流手段を備える電力変換回路について、該電力変換回路に接続される多相回転機の相ラインの断線を検出する多相回転機の断線検出装置において、前記多相回転機の各相のそれぞれについて、その端子電圧と、多相回転機の中性点電圧及びその相当値のいずれかからなる基準電圧との大小関係を各別に比較する比較手段と、前記多相回転機の相のうちの単一の相が前記電力変換回路の一対の入力端子のいずれか一方と導通状態とされて且つ前記単一の相以外の少なくとも1相が前記一対の入力端子のいずれか他方と導通状態とされる状況下、前記いずれか一方の入力端子と前記多相回転機とを導通状態とするスイッチング素子をオフ状態とする際の前記少なくとも1つの相に対応する前記比較手段の比較結果の反転の有無に基づき、前記断線の有無を検出する断線検出手段とを備えることを特徴とする。
多相回転機の相のうちの単一の相が電力変換回路の一対の入力端子のいずれか一方と導通状態とされて且つ単一の相以外の少なくとも1相が前記一対の入力端子のいずれか他方と導通状態とされる状況下、いずれか一方の入力端子と前記多相回転機とを導通状態とするスイッチング素子をオフ状態とすると、単一の相には、整流手段を介して電流が流れ続ける。このため、単一の相の電圧は、電源の正極電位よりも高い値に上昇するか、電源の負極電位よりも低い値に低下する。このため、上記基準電圧も、電源の正極電位よりも高い値に上昇するか、電源の負極電位よりも低い値に低下する。
ただし、多相回転機が断線している場合には、いずれか一方の入力端子と前記多相回転機とを導通状態とするスイッチング素子をオフ状態としても、単一の相の電圧は、電源の正極電位と負極電位との間の値にとどまる。このため、少なくとも1つの相、すなわち、端子電圧が正極電位又は負極電位に固定される相における比較手段の比較結果は、多相回転機の断線の有無に応じて相違することとなる。上記発明では、この点に着目し、断線を検出することができる。
請求項14記載の発明は、請求項13記載の発明において、前記多相回転機の誘起電圧が前記基準電圧と一致するゼロクロスタイミングに基づき、前記スイッチング素子の操作状態の切り替えの基準となる規定タイミングを設定する設定手段と、前記多相回転機の相電流が閾値以上となるとき、前記規定タイミングによって定まる各スイッチング素子のオン操作許可期間において、前記オン操作許可期間にあるスイッチング素子のオン・オフを繰り返す操作手段とを更に備え、前記断線検出手段は、前記操作手段による処理がなされるときに前記検出を行うことを特徴とする。
上記発明では、相電流が閾値未満のときには、規定タイミングに基づきオン・オフ操作が切り替えられる。そしてこの場合には、基準電圧は正極電位及び負極電位間に留まると考えられる。一方、操作手段による操作がなされるときには、多相回転機の相のうちの単一の相が電力変換回路の一対の入力端子のいずれか一方と導通状態とされて且つ単一の相以外の少なくとも1相が前記一対の入力端子のいずれか他方と導通状態とされる状況下、いずれか一方の入力端子と前記多相回転機とを導通状態とするスイッチング素子をオフ状態とする現象が生じ得る。このため、上記請求項13記載の発明を適切に適用することができる。
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる多相回転機の制御装置を車載ブラシレスモータの制御装置に適用した第1の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態にかかるブラシレスモータの制御システムの全体構成を示す。
図示されるブラシレスモータ10は、3相モータであり、自動2輪車に搭載される内燃機関のフューエルポンプのアクチュエータである。ブラシレスモータ10の3つの相(U相、V相、W相)には、インバータ12が接続されている。このインバータ12は、3相インバータであり、バッテリ14側の電圧をブラシレスモータ10の3つの相に適宜印加する。詳しくは、インバータ12は、3つの相のそれぞれとバッテリ14の正極側又は負極側とを導通させるべく、スイッチング素子SW1、SW2(U相アーム)とスイッチング素子SW3,SW4(V相アーム)とスイッチング素子SW5,SW6(W相アーム)との並列接続体を備えて構成されている。そして、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2を直列接続する接続点がブラシレスモータ10のU相と接続されている。また、スイッチング素子SW3及びスイッチング素子SW4を直列接続する接続点がブラシレスモータ10のV相と接続されている。更に、スイッチング素子SW5及びスイッチング素子SW6を直列接続する接続点がブラシレスモータ10のW相と接続されている。そして、これらスイッチング素子SW1〜SW6にはそれぞれ、フライホイールダイオードD1〜D6が並列接続されている。
なお、本実施形態では、上側アームのスイッチング素子SW1、SW3,SW5は、PチャネルMOSトランジスタにて構成され、下側アームのスイッチング素子SW2、SW4,SW6は、NチャネルMOSトランジスタにて構成されている。そして、上記フライホイールダイオードD1〜D6は、上記MOSトランジスタの寄生ダイオードとして構成されている。
制御装置20は、インバータ12を操作することで、ブラシレスモータ10の出力を制御する。詳しくは、制御装置20は、ドライバ22と、電流検出部24と、スイッチング制御部26とを備えている。ここで、電流検出部24は、スイッチング素子SW1〜SW6を流れる電流をそれぞれ検出し、スイッチング制御部26に出力する部分である。詳しくは、本実施形態では、スイッチング素子SW1〜SW6を流れる電流を、これらのオン抵抗に基づき検出する。すなわち、電流検出部24は、スイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれについて、これを流れる電流を検出するための検出用トランジスタを備える。そして、スイッチング素子SW1〜SW6及び対応する検出用トランジスタについて、これらのソース同士及びゲート同士を短絡させることで、カレントミラー回路を構成する。これにより、検出用トランジスタの出力電流に基づきスイッチング素子SW1〜SW6を流れる電流を検出することができる。なお、実際には、電流検出部24は、インバータ12の近傍に形成されることが望ましい。ちなみに、カレントミラー回路を構成することで電流を検出する手法としては、例えば特開平10−256541号公報に記載されている。
スイッチング制御部26は、ドライバ22を介してスイッチング素子SW1〜SW6をオン・オフ操作する。ここでは、基本的には、120°通電方式にてスイッチング制御を行う。詳しくは、ブラシレスモータ10の各相の端子電圧vu,vv,vwについての抵抗体RU,RV,RWによる分圧値である仮想中性点電圧(基準電圧vref)が、ブラシレスモータ10の各相の端子電圧vu,vv,vwと一致するタイミングに基づき、誘起電圧が基準電圧vrefと一致するタイミング(ゼロクロスタイミング)を検出する。そして、ゼロクロスタイミングから所定の電気角度(例えば「30°」)遅角したタイミング(規定タイミング)においてスイッチング素子SW1〜SW6の操作を切り替える。ただし、電流検出部24によって検出される電流が電流制限値を越える際には、ブラシレスモータ10を流れる電流(通電量)を制限すべく、スイッチング素子SW2,SW4,SW6がオン操作される期間を「120°」の期間とする代わりに、この期間内においてPWM制御を行う。
なお、スイッチング制御部26は、論理回路にて構成してもよく、また中央処理装置及びプログラムを記憶する記憶装置によって構成してもよい。
図2に、120°通電制御時におけるスイッチング制御部26によるスイッチング制御態様を示す。詳しくは、図2(a)に、実線にて端子電圧vu,vv,vwの推移を示し、1点鎖線にて基準電圧vrefを示す(本実施形態では、基準電圧vrefとして仮想中性点電圧を用いるため、基準電圧vrefは実際には変動するが、ここでは便宜上、一定値としている)。図2(b)に、端子電圧vu,vv,vwと基準電圧vrefとのそれぞれの大小関係の比較結果(比較信号PU,PV,PW)の推移を示し、図2(c)に、比較信号PU,PV,PWの論理合成信号PSの推移を示す。図2(d)に、スイッチング素子SW1〜SW6の操作状態においてゼロクロスタイミングとなるときに想定される比較信号PU,PV,PWの論理合成信号(期待信号)の推移を示す。図2(e)は、立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジがゼロクロスタイミングに同期した信号であるゼロクロスタイミングの検出信号Qsの推移を示す。図2(f)に、各種カウンタの推移を示し、図2(g)に、スイッチング素子SW1〜SW6の操作信号の推移を示す。なお、図2(g)に示す操作信号は、上側アームのスイッチング素子SW1、SW3,SW5の操作信号U+、V+、W+と、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6の操作信号U−、V−、W−とを示している。そして、上側アームのスイッチング素子SW1、SW3,SW5は、Pチャネルトランジスタであるため、これらの操作信号U+、V+、W+が論理「L」となる期間がオン状態となる期間となる。
上記合成信号PSは、3ビットの信号であり、比較信号PU、PV,PWのそれぞれの論理値がそれぞれ最上位ビット、中間ビット、及び最下位ビットの論理値と一致している。すなわち、比較信号PUが論理「H」であるときには最上位ビットが「1」となり、比較信号PUが論理「L」であるときには最上位ビットが「0」となる。このため、例えば比較信号PU,PV,PWがそれぞれ「H」、「L」、「H」であるときには、合成信号PSは、2進数表記で「101」、10進数表記で「5」となる。ちなみに、図2では、合成信号PS及び期待信号ともに、10進数表記にて記している。
図2(f)に実線にて示されるのは、互いに隣接するゼロクロスタイミングの間隔を計時する計測カウンタの値を示している。図示されるように、計測カウンタは、ゼロクロスタイミングとなる度に初期化され、新たに計時動作を再開する。ここで、互いに隣接するゼロクロスタイミングの間隔は、回転速度と相関を有する。このため、初期化される直前の計測カウンタの値(計測カウンタの最大値)は、回転速度と相関を有するパラメータとなる。
一方、図2(f)に1点鎖線にて示されるのは、ゼロクロスタイミングから規定タイミングとなるまでの所要時間をカウントすることで規定タイミングを設定する規定タイミング設定カウンタの値を示している。規定タイミング設定カウンタは、ゼロクロスタイミングにおいて、計測カウンタの初期化前の値を初期値として、これをデクリメントしていくことでゼロとなるタイミングを規定タイミングとして設定するものである。この際、例えばゼロクロスタイミング及び規定タイミング間の間隔が「30°」である場合には、デクリメントのスピードを、計測カウンタのインクリメントのスピードの2倍とする。互いに隣接するゼロクロスタイミングの間隔が「60°」であることに鑑みれば、こうした設定により、規定タイミング設定カウンタが「0」となるタイミングを、ゼロクロスタイミングから「30°」遅角したタイミングとすることができると考えられる。
また、図2(f)に2点鎖線にて示されるのは、端子電圧vu,vv,vwと基準電圧vrefとの大小比較に基づくゼロクロスタイミングの検出を禁止(無効化)する期間(マスキング期間)を定めるマスキング期間カウンタの値を示す。このカウンタは、ダイオードD1〜D6を電流が流れる期間において端子電圧vu,vv,vwが基準電圧vrefと一致することでゼロクロスタイミングであると誤判断することを回避するためのものである。このカウンタも、ゼロクロスタイミングにおいて、計測カウンタの初期化前の値を初期値として、これをデクリメントしていき、ゼロとなる前の期間をマスキング期間として設定する。ここで例えば、マスキング期間をゼロクロスタイミングから「45°」の期間とするなら、デクリメントのスピードを、計測カウンタのインクリメントのスピードの「3/2」倍とすればよい。
上記マスキング期間カウンタがゼロとなることで比較信号PU,PV,PWや合成信号PSが有効とされ、この期間において合成信号PSが期待信号と一致することで検出信号Qsが反転する。そして、検出信号Qsの反転するゼロクロスタイミングから規定タイミング設定カウンタのデクリメントが開始され、その値がゼロとなることでスイッチング素子SW1〜SW6の操作が切り替えられる。
図示されるように、各スイッチング素子SW1〜SW6をオン状態に切り替える規定タイミングとゼロクロスタイミングとは1対1に対応している。このため、スイッチング素子SW1〜SW6の操作状態に応じて、各相の端子電圧vu,vv,vwの挙動は一義的に定まっている。このため、上記期待信号を一義的に定めることができる。
以下、図3及び図4を用いて、本実施形態にかかる120°通電制御の処理手順について更に説明する。図3は、上記3つのカウンタのカウンタ値の設定処理についての手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、マスキング期間カウンタが「0」であるか否かを判断する。そしてゼロであると判断されると、ステップS12において、比較信号PU,PV,PWの合成信号PSが変化したか否かを判断する。そして、ステップS12において合成信号PSが変化したと判断されるときには、ステップS14において、合成信号PSと期待信号とが一致するか否かを判断する。この処理は、端子電圧vu、vv、vwと基準電圧vrefとの大小関係の変化が、スイッチング素子SW1〜SW6の操作状態から想定される変化と一致するか否かを判断するものである。そして、合成信号PSと期待信号とが一致すると判断されるときには、反転許可フラグがオンとなっているか否かを判断する。ここで、反転許可フラグは、マスキング期間カウンタがゼロとなってから上記検出信号Qsを未だ反転していないときにオンとなるフラグである。このため、マスキング期間カウンタがゼロとなってから合成信号PSと期待信号とが初めて一致するときには、反転許可フラグがオンとなっている。
そして、反転許可フラグがオンとなっているときには、ステップS18において検出信号Qsを反転させる。そして、ステップS20において反転許可フラグをオフとする。続くステップS22では、規定タイミング設定カウンタ及びマスキング期間カウンタの値を計測カウンタの値とする。そして、ステップS24においては、計測カウンタを初期化する。
一方、ステップS10において否定判断されるときには、ステップS26において、計測カウンタをインクリメントする。続くステップS28おいては、規定タイミング設定カウンタがゼロであるか否かを判断する。そして、規定タイミング設定カウンタがゼロであるときには、ステップS30において上記反転許可カウンタをオンとする。一方、規定タイミング設定カウンタがゼロでないときには、ステップS32において規定タイミング設定カウンタをデクリメントする。
そして、上記ステップS30、S32の処理が完了するときには、ステップS34において、マスキング期間カウンタがゼロであるか否かを判断する。そして、マスキング期間カウンタがゼロでないときには、ステップS36において、マスキング期間カウンタをデクリメントする。
なお、ステップS34において肯定判断されるときや、ステップS12〜S16において否定判断されるとき、ステップS36の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
図4に、上記規定タイミング設定カウンタに基づく120°通電制御時のスイッチング素子SW1〜SW6の操作の切り替え処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS40において、規定タイミング設定カウンタがゼロとなったか否かを判断する。この処理は、スイッチング素子SW1〜SW6の操作の切り替えのタイミングであるか否かを判断するものである。そして、規定タイミング設定カウンタがゼロとなったと判断されるときには、ステップS42において、スイッチング素子SW1〜SW6の操作パターン(スイッチングパターン)に基づき、スイッチング素子SW1〜SW6の操作を切り替える。すなわち、先の図2に示したように、スイッチング素子SW1〜SW6の操作パターンは、電気角度で「60°」毎に変化するものであるものの、「360°」周期の周期性を有している。このため、現在のスイッチング素子SW1〜SW6の操作状態から次回の操作状態が一義的に定まっている。このため、この一義的な関係に基づき、スイッチング素子SW1〜SW6の操作を切り替える。
続くステップS44においては、期待信号を更新する。すなわち、スイッチング素子SW1〜SW6の操作状態が変化することで、その操作状態が維持される期間においてゼロクロスタイミングが一度生じると考えられる。そして、このゼロクロスタイミングにおける比較信号PU,PV,PWの値は、操作状態から一義的に定まる。このため、今回の操作状態に応じた値へと期待信号を更新する。具体的には、前回の期待信号が「1」である場合には今回の期待信号を「5」とし、前回の期待信号が「5」である場合には今回の期待信号を「4」とし、前回の期待信号が「4」である場合には今回の期待信号を「6」とし、前回の期待信号が「6」である場合には今回の期待信号を「2」とし、前回の期待信号が「2」である場合には今回の期待信号を「3」とし、前回の期待信号が「3」である場合には今回の期待信号を「1」とする。
なお、上記ステップS40において否定判断されるときや、ステップS44の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
上記処理によれば、120°通電制御を適切に行うことができる。
図5に、上述したPWM制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS50において、先の図1に示した電流検出部24により、ブラシレスモータ10の各相を流れる電流のうちの最大値が閾値を超えるか否かを判断する。この閾値は、例えばスイッチング素子SW1〜SW6に許容される電流の最大値に基づき設定すればよい。そして、閾値を超えると判断されるときには、ステップS52において、インバータ12の下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6について、上記規定タイミングによって定まるオン期間(オン許可期間)内でオン・オフを繰り返すPWM処理を行う。なお、上記ステップS50において否定判断されるときや、ステップS52の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
上記PWM制御がなされるときには、端子電圧vu,vv,vwが頻繁に変化する。しかし、先の図3に示した処理によれば、この場合であっても、ゼロクロスタイミングを高精度に検出することができる。図6に、PWM制御時のスイッチング制御態様を示す。なお、図6(a)〜図6(e)は、先の図2(a)〜図2(e)と対応している。
図では、U相の下側アームのスイッチング素子SW2のオン操作許可期間(120°通電制御時におけるオン状態の期間)において、PWM制御を行っているときを示している。図示されるように、スイッチング素子SW2をオン状態からオフ状態へ切り替える度に、U相の端子電圧vuがバッテリ14の正極電圧VBよりも上昇する。これは、ブラシレスモータ10のインダクタンス成分により、スイッチング素子SW2がオン状態からオフ状態へと切り替わる際、オン状態であったときにU相に流れていた電流を流し続けようとする電圧が生じるためである。この際、U相のスイッチング素子SW1、SW2の双方ともオフ状態となっているため、ダイオードD1を介してU相に電流が流れることとなる。このため、U相の端子電圧vuは、バッテリ14の正極電圧VBよりもダイオードD1の電圧降下量程度高くなる。
このとき、W相のスイッチング素子SW5,SW6は双方ともオフ状態であるため、W相はハイインピーダンス状態となる。このときのW相の端子電圧vwは、スイッチング素子SW3がオン状態とされることでバッテリ14の正極電圧VBと等しくなっているV相の端子電圧vvと、U相の端子電圧vuとによって引き上げられるため、バッテリ14の正極電圧VBよりも高くなる。このため、スイッチング素子SW2がオフ状態に切り替えられる度に、仮想中性点によって設定されている基準電圧vrefもバッテリ14の正極電圧VBよりも高くなる。そして、基準電圧vrefは、スイッチング素子SW2がオフ状態に切り替えられる際のU相の端子電圧vuよりは低いが、そのときのW相の端子電圧vwよりも高くなる。このため、W相の端子電圧vwは、W相の誘起電圧が基準電圧vref以上となるまで基準電圧vrefよりも低いままとなる。
これにより、比較信号PWは、ゼロクロスタイミングとなることで初めて論理「H」となる。したがって、先の図3に示したように、合成信号PSが期待信号と初めて一致するときに検出信号Qsを反転させることで、検出信号Qsの反転タイミングとゼロクロスタイミングとを1対1に対応付けることができる。ちなみに、スイッチング素子SW2がオフ状態に切り替えられる際のW相の端子電圧vwが、基準電圧vrefよりも高い値と低い値とを交互に取る現象も生じ得るが、この場合であっても、合成信号PSと期待信号とが初めて一致するタイミングをゼロクロスタイミングとすることはできる。これは、この場合には、図中、合成信号「4」の代わりに「5」となるのみであるためである。
これに対し、先の図12に示したように、比較信号PU,PV,PWから1ビットの合成信号を生成する場合には、PWM制御時においては、合成信号が頻繁に反転することから、ゼロクロスタイミングを検出することができない。
なお、実際には、スイッチング素子SW1〜SW6の操作の切り替えに伴うリンギングノイズのために、ゼロクロスタイミングとなる以前に比較信号PWが瞬間的に論理「H」となることがある。ただし、この場合、比較信号PUの論理値も図6に示したものとは異なることとなる傾向にあるため、3ビットの合成信号PSと期待信号とがゼロクロスタイミングの前において一致する可能性は低く抑えられる。
ただし、リンギングノイズの影響によるゼロクロスタイミングの誤判断をより確実に回避するためには、合成信号PSの値のうち継続時間が所定以下である値は期待信号との比較対象としないことが望ましい。この処理は、例えば高速のサンプリング周期で合成信号PSをサンプリングし、隣接するサンプリング周期で2度以上同一の値を有しない値は、ノイズの影響として除去することで実現することができる。また、仮想中性点によって生成される基準電圧vrefをわずかにオフセット補正する処理を行うことによっても、上記誤判断をより確実に回避することができる。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)スイッチング素子SW1〜SW6の現在の操作状態においてゼロクロスタイミングとなるときに想定される比較信号PU,PV,PWの合成信号(期待信号)と実際の合成信号PSとについての各相毎の比較に基づき、ブラシレスモータ10の電気角に関する情報を取得した。これにより、比較信号PU,PV,PWの1ビットの合成信号を用いる場合と比較して、より詳細な情報を用いることができるため、電気角についての高精度の情報を取得することができる。
(2)想定される比較信号PU,PV,PWの値と実際の値とについての全相一致に基づき、換言すれば、3ビットの合成信号PSと期待信号との全ビットの一致に基づき、ゼロクロスタイミングを検出した。これにより、全相の比較結果を1ビットに合成した信号の変化時をゼロクロスタイミングとする場合と比較して、ゼロクロスタイミングとするための条件を厳しくすることができる。このため、ゼロクロスタイミングを高精度に検出することができる。
(3)ゼロクロスタイミングに基づき、スイッチング素子SW1〜SW6の操作状態の切り替えの基準となる規定タイミングを設定した。これにより、規定タイミングを適切に設定することができる。
(4)規定タイミングとゼロクロスタイミングとを1対1に対応付けた。これにより、スイッチング素子SW1〜SW6の操作状態もゼロクロスタイミングと1対1に対応することとなる。したがって、スイッチング素子SW1〜SW6の現在の操作状態においてゼロクロスタイミングとなるときに想定される比較信号PU,PV,PW(期待信号)を一義的に定めることができる。
(5)ブラシレスモータ10の仮想中性点電圧によって基準電圧vrefを設定し、ブラシレスモータ10を流れる電流が過度に大きいとき、規定タイミングによって定まる各スイッチング素子SW2、SW4,SW6のオン操作許可期間において、オン操作及びオフ操作を切り替えるPWM制御を行った。この場合、比較信号PU,PV,PWの1ビットの論理合成信号によっては、ゼロクロスタイミングを検出することはできない。これに対し、本実施形態によれば、互いに3ビット信号である期待信号と合成信号PSとの比較に基づき、ゼロクロスタイミングを高精度に把握することができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
バッテリ14及びインバータ12の接続状態が不十分であるとき等においては、車両の振動がバッテリ14に伝わることなどにより、バッテリ14とインバータ12とが瞬間的に導通状態から遮断状態となり再度導通状態に復帰する現象が生じるおそれがある。この際、ブラシレスモータ10への電力供給が一時的に中断されると、ブラシレスモータ10の回転速度が低下する。この際、フューエルポンプにより燃料タンク側から上流側へと吐出された燃料が逆流することで、ブラシレスモータ10に逆回転側の力が及ぼされ、ひいては逆回転が生じることがある。こうした状況下にあっては、スイッチング素子SW1〜SW6を通常時と同様に操作したのでは、ブラシレスモータ10が正回転及び逆回転を繰り返す発振現象が生じる等、ブラシレスモータ10を適切な回転状態に制御することが困難となる。
ここで、ブラシレスモータ10が逆回転していることは、3ビットからなる上記合成信号PSに基づき適切に判断することができる。すなわち、図7に示すように、ブラシレスモータ10が正回転している場合には、合成信号PSの時系列データは、期待信号の時系列データと一致するはずである。これに対し、ブラシレスモータ10が逆回転している場合には、合成信号PSの時系列データは、期待信号の時系列データを時間反転させたデータと一致するはずである。このため、合成信号PSに基づき、ブラシレスモータ10の逆回転を判断することができる。
ここで、ブラシレスモータ10の回転状態が異常となることでスイッチング素子SW1〜SW6の全てをオフし、ブラシレスモータ10が停止するまで待機し、停止後に再起動する技術がある。ただし、この場合には、ブラシレスモータ10を正常な状態に復帰させるまでに長時間を要することとなる。
そこで本実施形態では、ブラシレスモータ10が逆回転していることを検出すると、ブラシレスモータ10の回転を強制的に停止させる処理を行い、その後、再起動処理を行う。以下、これについて詳述する。図8に、本実施形態にかかるブラシレスモータ10の再起動にかかる処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS60において、マスキング期間カウンタがゼロであるか否かを判断する。そして、マスキング期間カウンタがゼロであると判断されるときには、ステップS62において、比較信号PU,PV,PWの合成信号PSが変化したか否かを判断する。この処理は、ゼロクロスタイミングであるか否かを判断するものである。そして、合成信号PSが変化したと判断されると、ステップS64において、今回の合成信号が前々回の期待信号と一致するか否かを判断する。この処理は、ブラシレスモータ10が逆回転している状態にあるか否かを判断するものである。すなわち、先の図7に示したように、ブラシレスモータ10が逆回転している場合には、合成信号PSの時系列データが反転するために、今回の合成信号PSは、前々回の期待信号と一致すると考えられる。そして、今回の合成信号PSが前々回の期待信号と一致する場合には、ステップS66において、ブラシレスモータ10が逆回転していると判断する。
続くステップS68においては、ブラシレスモータ10の回転を強制的に停止させる処理を行う。具体的には、スイッチング素子SW1、SW3,SW5又はスイッチング素子SW2,SW4,SW6を全てオン状態とすることで、ブラシレスモータ10の全相を短絡させる。これにより、ブラシレスモータ10の回転に伴い生じる誘起電圧のみによってブラシレスモータ10に電流が流れ、この電流は、電流の流通経路の抵抗等によって速やかに減衰する。これにより、ブラシレスモータ10の回転エネルギは、電気エネルギに変換された後、減衰されることとなる。このため、ブラシレスモータ10を迅速に停止させることができる。
そして、ブラシレスモータ10の回転速度が略ゼロとなるときには(ステップS70:YES)、ステップS72において、再起動処理を行う。ちなみに、ブラシレスモータ10の回転速度は、隣接するゼロクロスタイミング間の間隔に基づき算出される。これは、計測カウンタの最大値を用いることで行うことができる。
なお、ステップS60〜S64において否定判断されるときや、ステップS72の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(6)スイッチング素子SW1〜SW6の現在の操作状態においてゼロクロスタイミングとなるときに想定される合成信号PSと期待信号との不一致に基づき、ブラシレスモータ10の回転状態に異常がある旨判断した。このように、3ビットの合成信号PSと3ビットの期待信号とを用いることで、異常の有無を適切に判断することができる。
(7)スイッチング素子SW1〜SW6の操作状態の時系列パターンから想定される合成信号PSの時系列パターンを時間に対して反転させたものと実際の時系列パターンとの一致に基づき、ブラシレスモータ10が逆回転する異常がある旨判断した。これにより、ブラシレスモータ10が逆回転している旨適切に判断することができる。
(8)ブラシレスモータ10が逆回転していると判断されるとき、ブラシレスモータ10を強制的に停止させる処理を行い、その後、ブラシレスモータ10を再起動した。これにより、ブラシレスモータ10を迅速に正常状態に復帰させることができる。
(9)ブラシレスモータ10の全相を正極又は負極のいずれかと導通させることでブラシレスモータ10を強制的に停止させた。これにより、ブラシレスモータ10の回転エネルギを迅速に低減させることができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
ブラシレスモータ10のいずれかの相ラインが断線すると、インバータ12によりブラシレスモータ10の断線のしていない相に電圧が印加されるものの、電流の流れが妨げられ、ブラシレスモータ10に過度の負荷が加わるおそれがある。これに対し、例えば特開平2−290191号公報に見られるように、シャント抵抗を用いて相電流が流れるか否かを判断し、これにより断線の有無を検出することも提案されている。ただし、この場合、シャント抵抗の電圧降下量をセンシングする部材等が必要となり、制御装置20の回路規模が増大するおそれがある。
そこで本実施形態では、比較信号PU,PV,PWの挙動を利用して断線の有無を検出する。これら比較信号PU,PV,PWは、スイッチング素子SW1〜SW6の操作に用いるべく制御装置20に取り込まれるものであるため、これらを用いて断線検出をすることで、回路規模の増大を回避することができる。以下ではまず、比較信号PU,PV,PWを用いた断線検出の原理について説明する。
先の図6には、PWM制御時の比較信号PU,PV,PWの推移を示した。ここでは、PWM制御の対象となるスイッチング素子がオン状態からオフ状態へと切り替えられる際に、基準電圧vrefがバッテリ14の正極電圧VBを超えるために、スイッチング素子がオン状態で固定される相の比較信号が論理反転した。しかし、ブラシレスモータ10が断線している場合には、図9に示すように、比較信号が論理反転しない。ここで、図9(a)、図9(b)は、先の図6(a)、図6(b)に対応し、ブラシレスモータ10のW相の相ラインが、抵抗体RWとの接続点よりもブラシレスモータ10側で断線した場合を示している。
図示されるように、この場合、W相の端子電圧vwはバッテリ14の負極電圧程度まで低下する。これは、図9に示す例では、W相はハイインピーダンス状態にあるのであるが、スイッチング素子SW6のゲート及びドレイン間の寄生容量等の影響でW相の電位がバッテリ14の負極電位側へと低下するためである。この場合、スイッチング素子SW2をオフ状態からオン状態へと切り替える際、ダイオードD1を介して電流が流れることでU相の端子電圧vuはバッテリ14の正極電圧VBよりも上昇するものの、基準電圧vrefはバッテリ14の正極電圧VBよりも低くなる。これは、断線によりW相の端子電圧vwが低下しているためである。
このため、スイッチング素子SW2の状態にかかわらず、基準電圧vrefは、バッテリ14の正極電圧VB側に固定されているV相の端子電圧vuよりも低いままである。これにより、図9(b)に示すように、V相の比較信号PVは、常時「H」となり、先の図6(b)に示した現象とは相違する。したがって、これら現象の相違に基づきブラシレスモータ10の断線の有無を検出することができる。
なお、図9では上側アーム及び下側アームの双方のスイッチング素子がオフされる相(ハイインピーダンス状態とされる相)が断線している場合を例示したが、PWM制御の対象となる相(図9では、U相)が断線している場合であっても、同様に比較信号PVを用いて断線検出をすることができる。これは、この場合、U相の端子電圧vuがバッテリ14の負極電圧側に張り付くため、基準電圧vrefがバッテリ14の正極電圧VBを超えることがないためである。
図10に、本実施形態にかかる断線検出処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS80において、先の図5のステップS52の処理であるPWM制御がなされているか否かを判断する。そして、PWM制御時であると判断されるときには、ステップS82において、上側アームのスイッチング素子SW1、SW3、SW5のうちオン操作許可期間にあるものに対応する相を特定する。この処理によって、先の図9の例では、V相が特定される。続くステップS84においては、特定される相のオン許可期間内か否かを判断する。この処理は、断線検出に用いるのに適切な相の端子電圧が変化しない期間を特定するためのものである。
ステップS84においてオン操作許可期間内であると判断されると、ステップS86において、上記ステップS82にて特定される相の比較信号の論理値が「L」であるか否かを判断する。この処理は、断線の有無を判断するものである。そして、ステップS86において肯定判断されるときには、ステップS88において、論理値が「L」になったことを示すL検出フラグをオンとする。この処理は、制御装置20内のレジスタ値を変更する処理として行うことができる。
上記ステップS88の処理が完了するときや、ステップS86において否定判断されるときには、ステップS84に戻る。これに対し、ステップS84において否定判断されるときには、ステップS90に移行する。ステップS90においては、L検出フラグがオン状態であるか否かを判断する。この処理は、断線の有無を判断するためのものである。すなわち、上記ステップS82において特定される相のオン許可期間においてその比較信号が論理「L」とならないなら、先の図9(b)に示した現象が生じていると考えられるため、この場合には、断線が生じていると判断できる。このため、ステップS90において否定判断されるときには、ステップS92において断線を検出した旨を制御装置から外部に通知する。そして、ステップS92の処理が完了するときや、ステップS80,S90において否定判断されるときには、ステップS94においてL検出フラグをオフとする。
なお、ステップS94の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(10)ブラシレスモータ10の単一の相がバッテリ14の負極端子と導通状態とされて且つそれ以外の1相がバッテリ14の正極端子と導通状態とされる状況下、負極端子とブラシレスモータ10とを導通状態とするスイッチング素子をオフ状態とする際の上記それ以外の1相の比較信号の反転の有無に基づき、ブラシレスモータ10の断線の有無を検出した。これにより、ブラシレスモータ10の断線を検出することができる。
(11)120°通電制御時には、基準電圧vrefがバッテリ14の正極電圧を越えることがないため、このときには比較信号に基づく断線検出ができないことに鑑み、PWM制御時において断線検出を行った。これにより、断線検出を適切に行うことができる。
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図11に、本実施形態にかかるブラシレスモータ10の制御システムの全体構成を示す。なお、図11において、先の図1に示した部材と対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるブラシレスモータ10aは、2相モータである。本実施形態では、2相モータにおいて、先の第3の実施形態に示した要領にて断線の有無を検出すべく、インバータ12aにおいて、スイッチング素子SW1、SW2の直列接続体とスイッチング素子SW3,SW4の直列接続体とに並列に、ダイオードD5,D6の直列接続体を接続する。そして、これらダイオードD5及びD6の接続点を、ブラシレスモータ10aの中性点と接続する。これにより、スイッチング素子SW1,SW2の接続点に接続される相をU相とし、スイッチング素子SW3,SW4の接続点に接続される相をV相とし、ダイオードD5,D6の接続点に接続されるラインをW相として、先の第3の実施形態の要領で断線検出をすることができる。
すなわち、端子電圧vuと基準電圧vrefとの比較器Cuによる比較信号PUと、端子電圧vvと基準電圧vrefとの比較器Cvによる比較信号PVと、端子電圧vwと基準電圧vrefとの比較器Cwによる比較信号PWとに基づき、先の図10に示した処理と同様の処理によって、断線検出を行うことができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記実施形態では、計測カウンタのインクリメントスピードに対する規定タイミング設定カウンタのデクリメントスピードを調節することで、規定タイミングを設定したが、これに限らない。例えば双方のカウントスピードを同一としつつ、計測カウンタの初期化前の値(最大値)に応じて、規定タイミング設定カウンタの初期値を設定するようにしてもよい。ここで、例えば規定タイミングをゼロクロスタイミングから「30°」遅角したタイミングとする場合、規定タイミング設定カウンタの初期値を計測カウンタ最大値の「1/2」とすればよい。
・上記実施形態では、計測カウンタのインクリメントスピードに対するマスキング期間カウンタのデクリメントスピードを調節することで、マスキング期間を設定したが、これに限らない。例えば双方のカウントスピードを同一としつつ、計測カウンタの初期化前の値(最大値)に応じて、マスキング期間カウンタの初期値を設定するようにしてもよい。ここで、例えばマスキング期間をゼロクロスタイミングから「45°」の角度領域とする場合、マスキング期間カウンタの初期値を計測カウンタ最大値の「3/4」とすればよい。
・上記第1の実施形態では、合成信号PSと期待信号との全てのビットの一致に基づき、ゼロクロスタイミングを検出したが、これに限らない。例えばPWM制御時において、誘起電圧と基準電圧vrefとがゼロクロスする相と対応するビット同士の一致に基づきゼロクロスタイミングを検出してもよい。
・上記第2の実施形態では、ブラシレスモータ10を強制的に停止させるべく、ブラシレスモータ10の全相を短絡させる処理を行ったが、これに代えて、現在の回転を停止させるトルクを生成するようにスイッチング素子SW1〜SW6のスイッチング制御を行ってもよい。
・上記第2の実施形態においては、合成信号PSが前々回の期待信号と一致することを条件に逆回転であると判断したが、この条件に加えて更に、次の合成信号PSが前々回の期待信号の前の期待信号と一致したときに逆回転と判断してもよい。
・ブラシレスモータ10の回転状態の異常としては、上記逆回転に限らない。要は、合成信号PSが期待信号と一致しない場合には、回転状態に異常があると判断すればよい。
・上記各実施形態では、ブラシレスモータ10の相電流が閾値を超えるときにPWM制御を行ったがこれに限らない。例えば、電流が閾値を超える間のみ、オン許可期間にある下側アームのスイッチング素子を強制的にオフとしてもよい。これによっても、オン許可期間内にあるスイッチング素子のオン・オフを繰り返す操作手段を構成することができる。
また、操作手段としては、下側アームのスイッチング素子を操作対象とするものに限らず、上側アームのスイッチング素子を操作対象としてもよい。ただし、この場合、先の第3、第4の実施形態においては、下側アームのスイッチング素子がオン状態で固定されている相の比較信号の反転の有無に基づき断線の有無を検出する。
・基準電圧vrefとしては、端子電圧vu,vv,vwに基づき生成される仮想の中性点電圧(仮想中性点電圧)に限らず、ブラシレスモータ10の中性点電圧であってもよい。この場合であっても、上記第1の実施形態に準じた効果を得ることができる。また、基準電圧vrefをバッテリ14の電圧の「1/2」としても、3ビットの合成信号と3ビットの期待信号とを用いることで、回転状態の異常を高精度に判断したり、120°通電制御時のゼロクロスタイミングの検出精度を向上させたりすることはできる。また、ブラシレスモータ10の相ラインのうち抵抗体RU,RV,RWとの接続点よりもインバータ12側の相ラインが断線する場合等には、基準電圧vrefとして中性点電圧を用いても、先の第3の実施形態と同様の現象を利用して断線を検出することができる。
・アーム上側のスイッチング素子SW1,SW3,SW5を、NチャネルMOSトランジスタにて構成してもよい。
・ブラシレスモータ10と接続される電源としては、バッテリ14に限らず、発電機であってもよい。
・ブラシレスモータ10としては、車載燃料ポンプのアクチュエータに限らず、車載冷却ファンのアクチュエータであってもよい。
・多相回転機としては、3相のブラシレスモータに限らず、複数相の電動機であればよい。更に、電動機に限らず、発電機であってもよい。なお、第3の実施形態において回転機の相の数をN(>3)に変更しても、PWM制御時において、下側アームの単一の相のスイッチング素子のみがオン許可期間にある場合には、上記第3の実施形態の要領で断線検出をすることができる。すなわち、上記単一の相のスイッチング素子をオン状態からオフ状態へと移行させると、基準電圧vrefは、ダイオードの閾値電圧Vfを用いると「(N−1)・VB/N+Vf」程度となり、相数Nが過度に大きくならない限り、バッテリ14の正極電圧VBよりも低いままとなる。これに対し、断線がない場合には、上記単一の相のスイッチング素子をオン状態からオフ状態へと移行させると、基準電圧vrefは、バッテリ14の正極電圧VBよりも高くなる。このため、上側アームのスイッチング素子のうちのオン状態で固定されるものに対応する相の比較信号の論理反転の有無に基づき断線検出をすることができる。
10…ブラシレスモータ、12…インバータ(電力変換回路の一実施形態)、14…バッテリ(電源の一実施形態)、20…制御装置、SW1〜SW6…スイッチング素子。