JP2008214537A - 油井用セメント組成物および油井用セメントスラリー - Google Patents

油井用セメント組成物および油井用セメントスラリー Download PDF

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Abstract

【課題】 遅硬剤添加量の増加に対してシックニングタイムを正常に遅延できる、すなわちセメントスラリーの硬化時間を遅らせるセメント組成物を提供する。
【解決手段】 リグニン系遅硬剤を含む油井用セメントスラリーに使用する油井用セメント組成物であって、C3S量が48〜65質量%およびC3A量が8質量%以下であり、SO3量(質量%)がC3A量との関係において、0.07×C3A量+1.85≦SO3量≦0.07×C3A量+2.65の範囲を満たし、それにより、リグニン系遅硬剤の添加量に依存してセメントスラリーの硬化を遅延することができることを特徴とする油井用セメント組成物である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、油田およびガス田等の坑井掘削に使用可能な、流動性および強度発現性に優れた油井用セメント組成物およびそれを用いる油井用セメントスラリーに関する。より具体的には、本発明の油井用セメント組成物は、リグニン系遅硬剤を含む油井用セメントスラリーにおいて、リグニン系遅硬剤の添加量の増加とともにセメントスラリーの硬化時間を遅延することができるセメント組成物である。
油田やガス田等の坑井掘削において、坑井内に挿入したケーシングパイプの補強、腐食防止、地下水などの坑井内への流入防止等を目的としてセメントが使用される。この用途に使用されるセメントは、高温・高圧下で使用されるため、スラリー流動性および強度発現性について一般構造用セメントよりも高度な品質が要求される。
一般に、油井やガス井の掘削では、ロータリー掘削方法が採用され、ビットによる掘削−セメンチング作業が繰り返される。この場合、セメンチング条件は、油井が深くなるにつれて温度が上昇し、泥水あるいはセメントスラリー柱圧によって圧力も上昇する。そのため、油田やガス田等の坑井掘削において使用されるセメントは、高温・高圧下での施工性および強度発現性が要求される。
American Petroleum Institute(以下、「API」という)では、油田の坑井掘削時に使用するセメント組成物として、要求性能によってA〜Hの8クラスと、普通タイプ(O)、中程度耐硫酸塩タイプ(MSR)および高程度耐硫酸塩タイプ(HSR)の3グレードが規定されている。
これらの中で、クラスGは油井掘削用として最も一般的に使用されているセメント組成物である。中程度耐硫酸塩タイプ(MSR)は、CS量が48〜58質量%、CA量が8質量%以下、全アルカリ量が0.75質量%以下、MgO量が6.0質量%以下、SO量が3.0質量%以下、強熱減量が3.0質量%以下、不溶残分が0.75質量%以下と規定され、高程度耐硫酸塩タイプ(HSR)は、CS量が48〜65質量%、CA量が3質量%以下、2CA+CAFが24質量%以下、全アルカリ量が0.75質量%以下、MgO量が6.0質量%以下、SO量が3.0質量%以下、強熱減量が3.0質量%以下、不溶残分が0.75質量%以下と規定されている。
実際の油田やガス田等の坑井掘削作業は圧力・温度等が様々な条件下で行われるため、その状況にあわせて作業時間(施工可能時間)を調整することを目的に、セメント組成物に遅硬剤を添加したセメントスラリー組成物を使用することが多い。特に遅硬剤の添加は、高温・高圧の条件下において、長時間経過後のスラリーの粘性を低減し、施工可能時間を確保することを可能とする。
遅硬剤としては、リグニン化合物を含む「リグニン系遅硬剤」が使用されることが多い。この遅硬剤は、セメント粒子表面に吸着し、セメントと水との水和反応を阻害することにより、セメントスラリーの硬化時間を遅らせる。通常、その添加量を増加することで、施工可能時間の指標となるシックニングタイムを遅延し、施工に必要な流動性の保持時間を調整する。
しかしながら、高温・高圧の過酷な条件下では、セメントの特性によっては、遅硬剤の添加量を増加してもシックニングタイムが遅延しないか、あるいはシックニングタイムが逆に短縮するといった異常な現象、すなわちシックニングタイムの短縮現象(あるいは逆転現象)を生じることがあり、坑井施工に著しい悪影響を及ぼすことがあった。そのため、遅硬剤の効果を損なうことがなく、遅硬剤添加量の増加に対してシックニングタイムを正常に遅延できる、すなわちセメントスラリーの硬化時間を遅らせるセメント組成物が望まれていた。
Specification for Cements and Materials for Well Cementing API Specification 10A Twenty-third Edition, April 2002
本発明の目的は、油田およびガス田等の坑井掘削に使用するセメント組成物において、高温・高圧下においてリグニン系遅硬剤を使用する場合に、遅硬剤添加量の増加に対してシックニングタイムの短縮現象(あるいは逆転現象)を生じない、遅硬剤の効果を最大限に発揮することができる油井用セメント組成物および油井用セメントスラリー組成物を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、リグニン系遅硬剤を含む油井用セメントスラリーに使用する油井用セメント組成物であって、CS量が48〜65質量%およびCA量が8質量%以下であり、SO量(質量%)がC3A量との関係において、0.07×CA量+1.85≦SO量≦0.07×CA量+2.65を満たし、それにより、リグニン系遅硬剤の添加量に依存してセメントスラリーの硬化を遅延することができる油井用セメント組成物を知見して本発明を完成するに至った。これにより、油井用セメントスラリーにリグニン系遅硬剤の添加量を増加した場合にも、シックニングタイムの短縮現象(逆転現象)を生じず、遅硬剤添加量の増加によって施工可能時間を長時間に渡って保持できる。
本発明は、セメント組成物のCS量が55〜65質量%およびCA量が0〜3質量%であることがより好ましい。また、SO量(質量%)がC3A量との関係において、0.1×CA量+1.85≦SO量≦0.07×CA量+2.65を満たすことがより好ましい。
セメント組成物中のSOは、石膏由来のものとクリンカー由来のものに大別され、前者は二水石膏、半水石膏およびII型無水石膏として、後者は主に硫酸アルカリ(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等)として存在する。本発明においては、セメント組成物中のSOの存在形態は石膏由来のものが主であること、すなわち石膏由来のSO量が70質量%以上であることがより好ましい。さらに、石膏は二水石膏および半水石膏であり、セメント組成物中の二水石膏および半水石膏から由来するSO量が70質量%以上であることが最も好ましい。
さらに、本発明は、上記した本発明の油井用セメント組成物と水とリグニン系遅硬剤とを含み、リグニン系遅硬剤の添加量に依存してセメントスラリーの硬化時間を遅延することができる油井用セメントスラリー組成物である。
本発明の油井用セメント組成物を安定的に製造するには、開回路式チューブボールミルを使用して粉砕することがより効果的である。また、粉砕助剤を使用せずに粉砕すると、45μm篩残分をより効率良く増加できるので、更に好ましい品質のセメント組成物を得ることができる。
本発明によれば、高深度で高温・高圧の条件に曝される油田やガス田等の坑井掘削において、坑井内に挿入するケーシングパイプの補強、腐食防止、地下水などの坑井内への流入防止等を目的として、本発明の油井用コンクリート組成物を使用した場合に、リグニン系の遅硬剤の添加量増加に対してシックニングタイムの短縮現象(逆転現象)を生じず、遅硬剤添加量の調整によって施工に必要な流動性を長時間にわたって保持できるため、坑井掘削の作業を効率良く安定して行うことが可能である。
以下、本発明に係る油井用セメント組成物の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の油井用セメント組成物は、セメント組成物のCS量が48〜65質量%およびCA量が8質量%以下のセメント組成物において、SO量が0.07×CA量+1.85≦SO量≦0.07×CA量+2.65を満たし、それにより、リグニン系遅硬剤を含む油井用セメントスラリーにおいて遅硬剤添加量の増加に対してシックニングタイムの短縮現象(逆転現象)を生じない。
また、本発明の油井用セメント組成物は、CS量が56〜65質量%、CA量が0〜3質量%であることがより好ましい。さらに、CA量は、0.1〜2質量%であることが最も好ましい。
なお、本発明の油井用セメント組成物中のSOの存在形態は、石膏由来のものが主であり、セメント組成物のSO量に占める石膏由来のSO量が70質量%以上であることがより好ましい。さらに、石膏は二水石膏および半水石膏であり、これらに由来するSO量が70質量%以上であることが最も好ましい。
また、本発明の油井用セメント組成物は、ブレーン比表面積が2500〜3700cm2/g、45μm篩残分が15質量%以上であることが好ましい。ブレーン比表面積および45μm篩残分をこの範囲とすることで、十分な流動性と強度発現性を得ることができる。
さらに、本発明の油井用セメント組成物を製造するには、セメントクリンカーと石膏とを、開回路式チューブボールミルを用いて粉砕することが好ましい。開回路式チューブボールミルの使用により、確実にかつ安定して本発明の油井用セメント組成物を製造することができる。さらに、粉砕助剤を使用せずに粉砕すると、より効率良く45μm篩残分を増加することができるので好ましい。
また、本発明のセメント組成物と併用する遅硬剤としては、リグニンスルホン酸塩を主成分とする遅硬剤が好ましく、スルホン酸塩を主成分とする分散剤(粘性低減剤)や、硅石粉やフライアッシュ等のシリカ粉末、塩化カルシウムや塩化ナトリウム等を含む速硬剤、ベントナイトや珪藻土等の低比重化材、バライトやヘマタイト等の高比重化材と併用して、スラリー組成物として使用しても良い。
リグニン系遅硬剤としては、HALLIBURTON社の商品名:HR−12、HR−7およびHR−4のように、リグニンスルホン酸塩を60質量%以上含有するものが挙げられ、CFR−2やCFR−3のようなスルホン酸塩を60質量%以上含むスラリー粘性低減剤を併用することもできる。その他にも、リグニン系遅硬剤としてDAWELL社の商品名:D−13およびD−60、テルナイト社のTR−8等が使用することもできる。
本発明のセメント組成物は、以下のようにして製造することができる。
まず、セメントクリンカーは、石灰石、粘土源原料(粘土、石炭灰、建設発生土、下水汚泥、高炉スラグ等)、鉄源原料(銅からみ、鉄精鉱等)および硅石等の各原料中の成分割合に応じてその使用比率を制御し、次いで、ボーグ式算定の鉱物組成を調整することにより製造することができる。
また、セメント組成物は、上記のように製造したセメントクリンカーと石膏とを粉砕装置に投入し、セメントクリンカーのCA量を確認しながら石膏添加量を制御してセメント組成物中のSO量を前記の範囲になるように調整する。
セメント組成物のブレーン比表面積は、投入するセメントクリンカーおよび石膏の合量(挽入量)を制御して調整する。例えば、ブレーン比表面積を高める(粒度を細かくする)には挽入量を減少し、ブレーン比表面積を減少させる(粒度を大きくする)には挽入量を増加して調整する。
45μm篩残分を増加させるには、粉砕助剤を使用せずに粉砕することに加え、開回路式チューブボールミルを使用するか、若しくは閉回路式チューブボールミルを使用して循環率およびセパレータの回転数等を調整することにより、粒度分布を調整して行う。
なお、粉砕装置としては、(1)粉砕時の滞留時間が短くエアレーション(微風化)を起こし難い、(2)ミル出口セメント温度が上昇し難い、(3)粉砕物の粒度分布が広いといった特徴を持つものを使用することが好ましい。例えば、散水装置を付属した開回路式チューブボールミルの使用が好ましいが、閉回路式チューブボールミルでも、セパレータの性能やミルの大きさを制御することで同様の性能を得ることが可能である。
以下、実施例により本発明の構成および効果を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)セメントの試製
セメント組成物は、実機NSPキルンを用いて焼成したセメントクリンカーと石膏とを、実機粉砕装置(開回路式チューブボールミル)を用いて粉砕して、表1に記す14種類のセメントを試製した。なお、石膏はタイ産天然石膏を使用した。
実施例1〜3は、実機NSPキルンを用いて焼成したCS量が53〜55質量%、CA量が4.6〜5.0質量%のセメントクリンカーを用いて、石膏添加量を変化させてセメントのSO量を2.40〜3.00質量%の間で変化させ、ブレーン比表面積を2700〜2960cm/g、45μm篩残分を15質量%以上となるように開回路式チューブボールミルを使用して粉砕したセメントである。
比較例1〜4は、実機NSPキルンを用いて焼成したCS量が53〜56質量%、CA量が4.0〜5.0質量%のセメントクリンカーを用いて、石膏添加量を変化させてセメントのSO量を1.35〜2.05質量%の間で変化させ、ブレーン比表面積を2690〜2780cm/g、45μm篩残分を15質量%以上となるように開回路式チューブボールミルを使用して粉砕したセメントである。
実施例4〜8は、実機NSPキルンを用いて焼成したCS量が58〜64質量%、CA量が0.2〜1.2質量%のセメントクリンカーを用いて、石膏添加量を変化させてセメントのSO量を1.91〜2.40質量%の間で変化させ、ブレーン比表面積を3050〜3410cm/g、45μm篩残分を15質量%以上となるように開回路式チューブボールミルを使用して粉砕したセメントである。
比較例5〜6は、実機NSPキルンを用いて焼成したCS量が59〜62質量%、CA量が0.4〜1.2質量%のセメントクリンカーを用いて、石膏添加量を変化させてセメントのSO量を1.79〜1.84質量%の間で変化させ、ブレーン比表面積を3100および3140cm/g、45μm篩残分を15質量%以上となるように開回路式チューブボールミルを使用して粉砕したセメントである。
なお、いずれのセメント組成物も、粉砕温度(ミル出口セメント温度)を70〜120℃の範囲で制御し、その結果、石膏由来のSO量のうち、半水石膏に由来するSO量の割合は20〜80質量%とした。なお、ブレーン比表面積および45μm篩残分は挽入量を調整し、半水石膏割合はミル出口温度を調整して、各々を適正な範囲に制御した。
(2)セメントのキャラクタリゼーション
(2-1)鉱物組成および少量成分含有量
セメントの鉱物組成は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準拠して定量したCaO、SiO、Al、FeおよびSO量を用いて下記の式により算出した。
S量(質量%)=(4.07×CaO)−(7.60×SiO
−(6.72×Al)−(1.43×Fe)−2.85×SO
S量(質量%)=(2.87×SiO)−(0.754×CS)
A量(質量%)=(2.65×Al)−(1.69×Fe
AF量(質量%)=3.04×Fe
また、セメントのSO、NaOおよびKO量は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準拠して定量した。また、全アルカリ量(RO)は下記の式によりNaO換算量として算出した。
O=NaO+0.658×K
(2-2)石膏由来のSO
セメント組成物中の石膏由来のSO量は、以下の方法より求めた。
まず、半水石膏量および二水石膏量を、示差熱重量分析(TG−DTA)によって定量した。具体的には、示差熱熱重量分析装置TG−DTA6200(セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて、直径20μmの孔を有する容量30μLのセル(アルミ製)に、試料を約30mg入れ、昇温速度5℃/minで室温から300℃まで昇温した。図4に示すように、まず、重量減少曲線(図4のTG)を微分した曲線(図4のDTG)から、DTGピークAの立ち上がり温度(約125℃)、半水石膏の脱水に伴うDTGピークBの立ち上がり温度(約155℃)、ピークBの終局点(約195℃)を求めた。次に、二水石膏の脱水に伴う125〜155℃付近の減量(a質量%)と、半水石膏の脱水に伴う155〜195℃附近の減量(b質量%)を求め、式(1)および式(2)を用いて、セメントの石膏中の二水石膏量(SO換算質量%)および半水石膏量(SO換算質量%)を算出した。これらより、石膏絶対量(SO換算質量%)を式(3)を用いて算出し、さらにセメントのSO量に占める石膏由来のSO量の割合を(4)式により算出した。なお、リファレンスとして、アルミ板を用いた。
二水石膏量(SO換算質量%)=減量a(質量%)×80(SOの分子量)÷
(1.5×18(HOの分子量)) (1)
半水石膏量(SO換算質量%)=(減量b(質量%)−減量a(質量%)÷3)×
80(SOの分子量)÷(0.5×18(HOの分子量)) (2)
石膏由来のSO量(SO換算質量%)=半水石膏量+二水石膏量 (3)
セメントのSO量に占める石膏由来のSO量の割合=石膏由来のSO量÷
セメントのSO量×100% (4)
なお、石膏由来のSO量のうち、半水石膏に由来するSO量の割合は(5)式により求めた。
半水石膏量(SO換算量)÷石膏由来のSO量(SO換算量)×100% (5)
(2-3)ブレーン比表面積および45μm篩残分
ポルトランドセメントのブレーン比表面積および45μm篩残分は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。
(3)セメントの物性評価
(3-1)スラリー調製
セメントスラリーの調製はAPI Spec. 10A:2002(クラスGの試験方法)に準拠した。水セメント比を44質量%となるように、水道水(23℃)とセメントとを混合し、API Spec. 10Aに適合するミキサーに投入し、回転翼の回転数4000rpmにて15秒間、次いで12000rpmにて35秒間混練し、供試スラリーとした。
(3-2)遊離水、圧縮強さ、コンシステンシー、初期粘度およびシックニングタイム試験
遊離水、圧縮強さ、初期粘度およびシックニングタイム、コンシステンシー試験は、セメントスラリーの調製と同様にAPI Spec. 10A:2002(クラスGの試験方法)に準拠した。
遊離水は、(3-1)で調製したスラリーをAPI規格記載のハリバートン・コンシストメーターに入れ、27℃で20分間攪拌した後、スラリー760gを500mlの三角フラスコに入れ、表面水(浮き水)をスポイドで採取し、重量を測定した。なお、遊離水は質量%にて表示した。
コンシステンシーは、(3-1)で調製したスラリーをAPI規格記載のハリバートン・コンシストメーターに入れ、攪拌時のコンシストメータの読み(BC)を0、5、20分後に測定した。
シックニングタイムは、(3-1)で調製したスラリーをAPI規定の高温高圧シックニングタイムテスターに入れ、温度・圧力の履歴は前記規格に記載のスケジュール5として、スラリーのコンシステンシーを測定し、100BCとなる時間をシックニングタイムとした。また、本試験において最初の15〜30分間におけるコンシステンシーの最大値を初期粘度とした。
(3-3)遅硬剤添加時のシックニングタイム試験
遅硬剤としては、ハリバートン社製のHR−7を使用し、添加量はセメントに対して0.2および0.4質量%の範囲で変化させて試験した。分散剤として、ハリバートン社製のCFR−3を0.75質量%添加した。なお、HR−7はリグニンスルホン酸塩を60質量%以上含み、CFR−3はスルホン酸塩の分散効果を有する成分を60質量%以上含むことを特徴とする。
シックニングタイムの測定は、API Spec.10Aに記載されるシックニングタイムテスターを用いて、表4に示す温度および圧力のスケジュールで1.20℃/分の昇温速度で昇温および加圧を行い、その後80℃および10200psiの条件に保持し、スラリー粘性が100BCとなる時間をシックニングタイムとした。
この温度・圧力履歴は、API Spec.10 THIRD EDITION, JULY 1, 1986記載のCATING-CEMENTING WELL-SIMULATION TESTS SCHEDULE 7gにおいて、最高温度74℃と85℃のスケジュール条件の平均値に設定した。なお、この温度・圧力履歴は、実施工において坑井の深度が12000ft(3660m)に相当する。
(4)評価結果
(4-1)API試験による評価
APIの品質規格に準拠して評価したセメント組成物の物性評価結果を表2に示す。
初期粘度(I.V.)、コンシステンシーは、スラリーの流動性を表す指標であり、いずれも値が大きいと流動性が悪く、セメンチングの際の施工に悪影響が生じる。いずれのセメント組成物もAPI規格値よりも大幅に小さい値を示し、これらセメント組成物が流動性に優れることがわかる。
シックニングタイム(T.T.)は、高温高圧下の坑井内におけるセメントスラリーの凝結時間に関するものである。セメンチング作業の面から、スラリー粘性(コンシステンシー)が100BCを超えると作業が出来なくなり、安定した油井用ベースセメントとしてはシックニングタイムを90〜120分が規定されている。表1のセメントは、このシックニングタイムが90〜120分となるようにブレーン比表面積を変化して調整したものであり、API規格値を全て満足している。
圧縮強さは、掘削作業の面で硬化待ち時間8時間の間に、次の掘削作業を続けるのに十分な強さを示さなくてはならない。API規格では38℃で2.1N/mm2以上、60℃で10.3N/mm2以上と規定されるが、実際にはこれよりも高い圧縮強さを有することが望まれる。試製したセメント組成物はすべて、API規格値よりも大幅に高い強度発現性を有している。この高い強度発現性は、開回路式チューブボールミルを使用して粉砕した結果、セメント組成物の45μm篩残分が15質量%以上と多いことに起因する。これにより硬化体の空隙構造をより密にすることが可能である。
(4-2)遅硬剤添加時のシックニングタイム
表3に、遅硬剤をセメント組成物に対して0.2および0.4質量%添加した場合のシックニングタイムの測定結果を示す。
表3からわかるように、CS量が53〜56質量%、CA量が4.3〜5.0質量%のセメントクリンカーを用いたセメント組成物(実施例1〜3、比較例1〜4)においては、比較例1〜4は、遅硬剤0.2%添加時のT.T.が104〜250分であるのに対し、0.4%添加時のT.T.は30〜172分と、ほとんど変わらない結果であり短縮現象(逆転現象)が生じていることがわかる。言い換えれば、遅硬剤を使用しても、これらセメント組成物では、作業時間を104〜250分程度しか保持できないということになる。これに対して、実施例1〜3は、遅硬剤0.2%添加時のT.T.が195〜200分であるのに対し、0.4%に添加量を増加するとT.T.は275〜333分まで著しく延び、遅硬剤の効果が長時間に渡って持続されることがわかる。
また、これらの結果を、図1に示すように、セメントのSO量とT.T.との関係で整理すると、SO量が2.3質量%以上の領域で、逆転現象が生じなくなることがわかった。
一方、CS量が61〜64質量%、CA量が0.2〜0.7質量%のセメントクリンカーを用いたセメント組成物(実施例4〜8、比較例5〜6)においては、比較例5〜6は、遅硬剤0.2%添加時のT.T.が203〜257分であるのに対し、0.4%添加時のT.T.は105〜255分であり、ほとんど変わらない結果でありシックニングタイムの短縮現象(逆転現象)が生じていることがわかる。言い換えれば、遅硬剤を使用しても、これらセメント組成物では作業時間を105〜255分程度しか保持できないということになる。これに対して、実施例4〜8は、遅硬剤0.2%添加時のT.T.が238〜289分であるのに対し、0.4%に添加量を増加するとT.T.は400〜480分まで著しく延び、遅硬剤の効果が長時間に渡って持続されることがわかる。言い換えれば、作業時間が延びた場合でも遅硬剤の添加量によって480分まで幅広く調整可能であるということになる。
また、これらの結果を、図2に示すように、セメントのSO量とT.T.との関係で整理すると、SO量が1.85質量%以上の領域で、逆転現象が生じなくなることがわかった。
なお、この現象はセメントのSO量を調整するために添加した石膏の増加による効果と考えられるため、クリンカーのSO量が増加し、同等のSO量でも石膏添加量が少なくなる場合には効果が小さくなる可能性がある。そのため、セメントのSO量に対する石膏由来のSO量の割合、好ましくは二水石膏および半水石膏から由来するSO量の割合が70質量%以上であることが好ましい。
さらに、クリンカー鉱物量によってセメントのSO量の最適値が異なるのは主にCAとのバランスによるものである。図3に示すように、シックニングタイムの逆転現象が生じない、すなわち遅硬剤の添加量とともにその効果が長時間に渡って持続される条件をCA量に対してセメントのSO量の最適な範囲として図示すると、SO量は、0.07×CA量+1.85以上、好ましくは0.1×CA量+1.85以上であり、かつ、0.07×CA量+2.65以下となるようにセメントのSO量を調整する必要がある。
なお、実施例1〜3(図1)と実施例4〜8(図2)を比較するとわかるように、CS量が56を超え65質量%以下およびCA量3質量%以下の範囲にあるセメント組成物(実施例4〜8)は、CS量48〜56質量%およびCA量3質量%超えの範囲にあるセメント組成物(実施例1〜3)に比べて、少量のSO量でシックニングタイムの短縮現象を生じず、SO量のより広範囲にわたって安定的にシックニングタイムの制御が可能であることがわかる。
以上のように、セメントSO量をCA量に応じて好適な範囲に調整することにより、リグニン系遅硬剤の添加量を増加してもシックニングタイムの短縮現象(逆転現象)が生じず、遅硬剤の添加量の調整によって長時間に渡って施工可能時間を保持できる坑井掘削用の油井用セメント組成物を提供することができる。
なお、本発明のセメント組成物は、API Spec. 10A:2002に規定されるクラスHとしても使用可能である。
さらに、本発明のセメント組成物と、水と、リグニン系の遅硬剤とを含むセメントスラリー組成物は、高深度で高温・高圧の条件に曝される油田やガス田等の坑井掘削において、坑井内に挿入したケーシングパイプの補強、腐食防止、地下水などの坑井内への流入防止等を目的として使用した場合に、遅硬剤添加量の調整により、最大480分まで施工可能時間を延ばすことができる。
S量が48〜56質量%およびCA量が3質量%を超えるセメントクリンカーを用いたセメント組成物のSO量とシックニングタイムとの関係を示した図である。 S量が56を超え65質量%以下およびCA量が3質量%以下のセメントクリンカーを用いたセメント組成物のSO量とシックニングタイムとの関係を示した図である。 A量に応じたセメントSO量の最適な範囲を示した図である。 示差熱重量分析(TG−DTA)を用い、セメント組成物中の石膏由来のSO量を測定した例を示す図である。

Claims (5)

  1. リグニン系遅硬剤を含む油井用セメントスラリーに使用する油井用セメント組成物であって、C3S量が48〜65質量%およびC3A量が8質量%以下であり、SO3量(質量%)がC3A量との関係において、0.07×C3A量+1.85≦SO3量≦0.07×C3A量+2.65を満たし、それにより、リグニン系遅硬剤の添加量に依存してセメントスラリーの硬化を遅延することができることを特徴とする油井用セメント組成物。
  2. 3S量が56〜65質量%およびC3A量が0〜3質量%である、請求項1記載の油井用セメント組成物。
  3. SO3量(質量%)がC3A量との関係において、0.1×C3A量+1.85≦SO3量≦0.07×C3A量+2.65を満たす、請求項1または2記載の油井用セメント組成物。
  4. セメント組成物中のSO3量に占める石膏由来のSO3量の割合が70質量%以上である、請求項1〜3のいずれか1項記載の油井用セメント組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項記載のセメント組成物と、水と、リグニン系の遅硬剤とを含み、リグニン系遅硬剤の添加量に依存してセメントスラリーの硬化時間を遅延することができる油井用セメントスラリー組成物。
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