[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るインクジェット記録装置1の全体構成を示すものである。このインクジェット記録装置1は、図1に示すように、記録媒体としての用紙9を収容する用紙収容体2と、その用紙9にインクジェット方式による記録を行うインクジェット記録部3とを主に備えている。
図1中の符合10は支持枠材、外装材等で構成される筐体、12は筐体10の一部等を利用して形成された、記録後の用紙9を収容する排出収容部、14は用紙収容体2から記録部3まで用紙9を搬送する給紙搬送路、15は記録部3から排出収容部12まで用紙9を搬送する排紙搬送路、16は両面記録を行うため記録部3で片面に記録を行った後の用紙9を反転させた状態で記録部3に再送するように、排紙搬送路15の途中の分岐部と給紙搬送路14の途中の合流部との間を接続して形成される再送路である。このうち給紙搬送路14、排紙搬送路15及び再送路16はいずれも、複数の搬送ロール対25、図示しない搬送ガイド部材や搬送先切替部材等で構成されている。また、図中の一点鎖線は、上記各搬送路等を搬送されるときの用紙9の経路を示している。
このインクジェット記録装置1による記録が行われる際には、まず用紙収容体2に収容された用紙9が、ロール等を使用した送出装置21により1枚ずつ給紙搬送路14に送り出された後、その給紙搬送路14を通してインクジェット記録部3にむけて送られる。このときの用紙9は、最終的に、その記録部3の手前側の搬送給紙路14部分に設置される送出用ロール対26により、記録部3の記録動作のタイミングに合わせて記録部3に送り込まれる。送り込まれた用紙9には記録部3で所望の画像等が記録される。
記録部3での記録が終了した用紙9は、通常、排紙搬送路15を通して排出収容部12まで送られて収容される。また、両面記録を行う場合には、その片面への記録終了後の用紙9は、排紙搬送路15を搬送される途中で、その搬送方向の後端部側から再送路16側に引き込まれ、その再送路16を通して給紙搬送路14に合流するように送られた後、裏面用の記録動作のタイミングに合わせて送出用ロール対26により記録部3に送り込まれる。以上のようにして記録装置1による記録動作が実行される。
次に、上記インクジェット記録部3について説明する。
インクジェット記録部3は、図1〜図3に示すように、記録部3に供給された用紙9を記録動作に合わせて送る用紙送り装置4と、この用紙送り装置4で送られる用紙9にインクジェット方式による記録を行う記録ヘッド5とで構成されている。
用紙送り装置4は、ベルト搬送方式のものであり、用紙の搬送方向の上流側に配置された駆動ロール41と、その下流側に配置される従動ロール42と、この駆動ロール41及び従動ロール42に架け回される無端状の搬送ベルト43と、この搬送ベルト43の外周面(搬送面)に搬送対象の用紙9を押し付ける押付けロール44とで構成されている。
搬送ベルト43は、駆動ロール41及び従動ロール42の最上部どうしの間で用紙搬送領域としての平坦部分43Fが形成されるとともに、駆動ロール41の回転駆動力により矢印で示す方向に所定の速度で回転させられる。搬送ベルト43は、その幅が少なくとも用紙9の搬送方向の幅よりも広い寸法の搬送領域を確保するものであり、通常は、その搬送領域を確保することができる幅を有する1つのベルトで構成される。しかし、搬送ベルト43は、複数に分割された狭い幅のベルトを用紙の搬送方向にほぼ平行する状態で複数並べてその搬送領域を確保するように配置した構成のものであってもよい。また、搬送ベルト43の上記平坦部分43Fとなる内周面には、そのベルト平坦部分43Fを少なくとも記録ヘッド5を通過する区間内で可及的に平面状に支持する支持板45が設置されている。
このように構成される用紙送り装置4では、給紙搬送路14を通して供給される用紙9を、その搬送ベルト43の平坦部において押付けロール44で押し付けて保持した後に矢印Bで示す方向(搬送方向B)に所定の速度で搬送する。用紙9を搬送ベルト43から剥離させる手段としては、例えば、搬送ベルト43が従動ロール42の周面の曲率で曲がって走行する状態と用紙9自身が有する腰の強さとの関係を利用して用紙9を搬送ベルト43の外周面から自然に剥離させるという構成を採用している。
記録ヘッド5は、その記録可能領域(後述する吐出口列6が形成される領域)が用紙9の搬送方向における幅(搬送方向Bとほぼ直交する方向の寸法)を超えた長さで構成されているいわゆるライン型のものであり、そのインクジェット記録方式に使用するイエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C)及びブラック(B)という4色のインクの色にそれぞれ対応した4つの独立した記録ヘッド部50Y,50M,50C,50Kで構成されている。
このライン型の記録ヘッド5は、その4つの記録ヘッド部50Y,50M,50C,50Kが、用紙送り装置4の搬送ベルト43の前記した平坦部分43Fの上方側位置において、用紙9へのインク吐出による記録を行うときの方向A(この実施形態では、その記録方向Aが用紙9の搬送方向Bと一致している)に後述する所定の間隔dをあけてその上流側から50K,50C,50M,50Yの順番で固定された状態で設置されている。この記録ヘッド部50Y,50M,50C,50Kは、図示しない支持部材によって所定の位置に支持されている。
記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yは、そのいずれも全体がほぼ長方体の形状をしたヘッド本体51を有しており、その各ヘッド本体51における搬送ベルト43の平坦部分43Fと対向する部位を、インクを吐出する複数の吐出口(ノズル)が記録可能領域内で線(ライン)状に規則的に並べられた吐出口列6を形成してなるインク吐出面(ノズル面)51aとして構成している。吐出口列6は、記録可能領域の長手方向(用紙の搬送方向Bとほぼ直交する方向)に沿って直線状の列や、千鳥状、マトリクス(碁盤目)状等の列となるように形成される。また、この吐出口列6は、通常、1つの記録ヘッド部50において複数の列で構成されるが、1つの列で構成したものであってもよい。さらに、1つの記録ヘッド部50における吐出口列6を構成する複数の吐出口からは、同じ種類(通常は色)のインクが吐出される。図3中の符合Whは、記録可能領域の記録幅(印字幅)を示す。また、各記録ヘッド部50におけるインクの吐出駆動方式としては、公知のいわゆるピエゾ方式を使用しているが、これに限定されず他の公知の吐出方式(サーマルジェット方式など)を適用してもよい。各記録ヘッド部50の駆動は、図示しない制御装置により制御されている。さらに、この各記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yには、筐体10内に装着されるインクタンク80K,80C,80M,80Yから各色のインク(8)がそれぞれ供給される。
そして、この記録ヘッド5を構成する記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yは、その記録の際に、用紙送り装置4で搬送される用紙9に対し、その配置の順番に相当する「50K,50C,50M,50Y」という順番で各インク吐出面51aの吐出口列6を構成する複数の吐出口からインクをそれぞれ吐出する。すなわち、全色のインクを吐出して記録を行う場合は、搬送される用紙9に対して各記録ヘッド部50で分担する色のインクであるブラックインク、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクをこの順番でそれぞれ吐出するようになっている。
しかも、記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yは、図2及び図3に示すように、その各インク吐出面51aの吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を「d1<d2<d3」という大小関係となる条件で設定している。
ここで、吐出口列6どうしの間隔dとは、図4に示すように、記録ヘッド5の記録方向Aにおいて吐出口列6が複数の列で構成されている場合、以下の内容になる(なお図4に示す例は、すべての記録ヘッド部50が例えば5列の吐出口列6a〜6eで同様に構成されている場合である)。すなわち、インク吐出の順番が記録方向Aの最も上流側に配置される先頭(最上流側)の記録ヘッド部50における複数の吐出口列6のうちの最下流側に配置された吐出口列6eと、その先頭の記録ヘッド部50の直後に配置される後続(下流側)の記録ヘッド50における複数の吐出口列6のうちの最上流側に配置された吐出口列6aとの間のように、最も近い位置関係にある吐出口列どうしの離間距離(記録方向Aに沿う最短の距離)となる。
例えば、ブラックインクの吐出口列6(K)とシアンインクの吐出口列6(C)の間隔:d1は、ブラックインクの記録ヘッド部50Kの記録方向Aにおける最下流側の吐出口列6eと、シアンインクの記録ヘッド部50Cの記録方向Aにおける最上流側の吐出口列6aとの離間距離となる。また、シアンインクの吐出口列6(C)とマゼンタインクの吐出口列6(M)の間隔:d2は、シアンインクの記録ヘッド部50Cの記録方向Aにおける最下流側の吐出口列6eと、マゼンタインクの記録ヘッド部50Mの記録方向Aにおける最上流側の吐出口列6aとの離間距離となる。図4中の符合dHは、各記録ヘッド部50のヘッド本体51における記録方向Aにおける寸法を示す。
なお、この吐出口列6どうしの間隔dについては、各記録ヘッド部50の吐出口列6が直線状の1列で構成される場合又は複数の吐出口列6でもその全列の記録方向Aにおける中心の位置にある吐出口が明らかな場合には、その記録方向Aの前後で隣り合う各記録ヘッド部50における1列の吐出口列6をそれぞれ構成する吐出口どうし間の離間距離や、複数の吐出口列6の全列の中心の位置にある吐出口(図4に示す例では、例えば中央の吐出口列6cを構成する吐出口)どうしの間の離間距離(図4中に示すD1,D2)を代用してもよい。
吐出口列6どうしの間隔を異ならせているのは、次の理由によるものである。
すなわち、インクジェット記録においては、図20に例示するように、記録対象の用紙9に先に吐出された色のインク滴8Q(8R)が、その用紙9に浸透している途中で用紙の表面に一部残っている状態(未浸透の状態)や、用紙の表面で固まらないで残っている状態等にあるときに、そのインク滴8Q(8R)に対して次の色のインク滴8R(8S)が重なり合うように吐出されると、その先の吐出された色のインク8Q(8R)とその後に吐出されて重なり合う色のインク8Rとが互いに液状態のままで混ざり合い、これにより混色、にじみ等が発生してしまうことがある。そこで、このようなインクの混ざり合いに起因した混色等の発生を抑制する対策として、吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を異ならせることにした。
また、吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3については、以下のような観点で設定している。
まず、用紙9の在る領域に先に存在するインクの量が多いほど、あるいはその領域に既に浸透したインクの量が多いほど、その領域に対して後から吐出されるインクが浸透するために要する時間が長くなるため、その各間隔d1,d2,d3を同じ値に設定した場合には、その記録方向Aの下流側に配置される記録ヘッド部50から吐出されるインクほど混色等を発生しやすくなる傾向にある。このため、後から吐出させる色のインクほどその吐出時期を、その前に吐出される色のインクの吐出時期から遅くらせる(経過時間の間隔を長くする)ことにより、その先に吐出された色のインクが用紙9にほぼ浸透(吸収)し終わった後やほぼ固まった状態になった後に、次のインクを吐出させるように構成する必要性がある。
そこで、例えば、記録方向Aの下流側に配置される記録ヘッド部50C,50M,50Yほど、その各上流側に配置される記録ヘッド部50K,50C,50Mとの吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3が広くなる関係(「d1<d2<d3」という大小関係)となるように設定した。ちなみに、このときの設定は、用紙送り装置4により記録ヘッド5を通過するように搬送されるときの用紙9の搬送速度がほぼ一定の設定である(意図的に変動させる設定でない)ことを前提条件として行っている。また、間隔d1,d2,d3の実際の寸法については、各種の用紙にインクを吐出して順次浸透させたときに、その各インクの浸透所要時間などの条件を計測し、その浸透所要時間などの条件を満たすのに必要な間隔(距離)を算出すること等により求めることができる。
また、この記録ヘッド5では、吐出口列6どうしの各間隔d1,d2,d3を異ならせているため、記録方向Aの下流側に配置される記録ヘッド部50C,50M,50Yにおけるインクの吐出時期を調整している。
つまり、例えば、図5に示すように、ブラックインクの記録ヘッド部50Kとその下流側に配置されるシアンインクの記録ヘッド50Cとの(吐出口列どうしの)間隔を「d1」から「d2(>d1)」に変更した場合を例にして説明する。この場合、シアンインクの記録ヘッド50Cのインク吐出時期は、間隔d1のときには、ブラックインクの記録ヘッド部50Kのインク吐出時期から、その両記録ヘッド部50K、50Cの間における用紙9の搬送所要時間t1(用紙9の搬送速度を「Vp」とすれば、t1=d1/Vp)だけ遅らせればよい。このため、間隔d2に変更したときには、シアンインクの記録ヘッド50Cのインク吐出時期は、上記時間t1に、その間隔の増加分Δd(=d2−d1)に必要となる用紙の搬送所要時間Δt(=Δd/Vp)を追加すればよい。
以上のように構成された記録ヘッド5を有するインクジェット記録部3による記録動作は、次のように行われる。
すなわち、用紙送り装置4によりほぼ一定の搬送速度(Va)で搬送される用紙9は、記録ヘッド5の下方を通過する際に、その記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yから各色のインク(K,C,N,C)が前述したようにその配置の順番に従って順次吐出される。各色のインクの吐出は、インクジェット記録装置1に入力される記録情報に応じて決定される記録内容(画像など)を構成する画素の単位で行われる。
この際、記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yの吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3が「d1<d2<d3」という大小関係で設定されているため、その記録方向Aの下流側に配置される記録ヘッド50C,50M,50Yにおけるインクの吐出時期の間隔が、その間隔dの増加分にほぼ正比例して増加する。要するに、1つの記録ヘッド部から次の記録ヘッド部でインクを吐出するまでの時間間隔が、その記録方向Aの下流側に配置される記録ヘッド部になるほど長くなる。
これにより、用紙9に対して記録方向Aの上流側に配置される記録ヘッド部50K,50C,50Mから順次吐出されたブラックインク、シアンインク及びマゼンタインクが、例えば用紙9上で次々とほぼ浸透し終わった後に、その次のインク(シアンインク、マゼンタインク及びマゼンタインク)が吐出されるようになる。
以下、実施例について説明する。
はじめに、次の構成のインクジェット記録装置1などを用いて用紙9に対するインクの浸透所要時間について調べた。
<記録ヘッド5>
・各ヘッド本体51の幅寸法(dH):40mm
・記録幅(Wh):12インチ
・吐出駆動方式:ピエゾ方式
・吐出(駆動)周波数:12kHz
・吐出インク滴量:12pl
・吐出口(ノズル)総数:7200
・ノズル解像度:600dpi(dpi=ドット/インチ)
<インクジェット記録部3>
・用紙搬送速度(Vp):0.51m/秒
・用紙搬送方向の記録解像度:600dpi
・記録速度:90ppm/A4横(ppm=枚/分)
<インク8(K,C,M,Y)>
・種類:水性インク
・色材:顔料
・表面張力:30以上かつ35以下(mN/m)の範囲
・粘土:2.2以上かつ2.5以下(mPa・秒)の範囲
<用紙9の種類>
・普通紙(富士ゼロックスオフィスサプライ社製:C2)
・インクジェット用紙(富士フィルム社製:画彩マット仕上げ)
浸透所要時間の測定は、図6に示すように、記録ヘッド5から上記各用紙(未記録のもの)9に各色のインク(滴)8を12plの滴量で1滴だけ吐出させたとき、そのインク滴8が符合8aで示すように用紙9の表面に着弾(着地)したときから(a)、符合8cで示すように用紙9の表面に残らず用紙9の内部に浸透し終わるまでの所要時間を計測した。この際、インク滴8の浸透の時期については、高速カメラによりインク滴8の浸透時の様子を観察することで判定した。試験環境は、温度が20℃、湿度が50%RHという条件とした。
この結果、普通紙及びインクジェット用紙に対する浸透所要時間は共に、いずれの色(K,C,M,Y)のインクもすべて「0.10秒」であった。この測定結果は、各用紙の異なるロットについて50枚ずつ測定したときに得られた結果の平均値である。
続いて、4色のインクを次々と重ねた状態で吐出したときに、その2番目以降に吐出する色(C,M,Y)のインクの浸透所要時間について測定した。その測定は、2番目以降の色(C,M,Y)のインクを、その各色のインクよりも前にそれぞれ吐出される色(K,C,M)のインクが用紙9に浸透し終わった直後にその前に吐出された色のインクと同じ用紙の位置にそれぞれ吐出し、その後から吐出する色(C,M,Y)のインクの着弾時から浸透し終わるまでの所要時間を計測することで行った。例えば、シアンインクの浸透の所要時間についての測定は、用紙9にブラックインク滴を12plの滴量で1滴だけ吐出してそのインク滴が浸透し終わったと観察された直後に、そのブラックインクが浸透した用紙部分にシアンインク滴を12plの滴量で1滴だけ吐出することにより、その浸透の所要時間を計測することで行った。この測定は、普通紙とインクジェット用紙の2種類の用紙9の異なるロットについて50枚ずつ使用して行った。このときの測定結果を、図7に示す。
最後に、この測定結果を利用して上記構成の記録ヘッド5における各色の記録ヘッド部50(K,C,M,Y)の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3について設定した。
このインクジェット記録部3では、用紙9が一定の搬送速度Vp(0.51m/秒)で搬送されて各記録ヘッド部50(K,C,M,Y)を通過するので、その吐出口列6どうしの間隔d(d1,d2,d3)は、その搬送速度で各記録ヘッド部を通過する所要時間T(TC,TM,TY)がその各色のインクの浸透所要時間t(tC,tM,tY)と同等またはそれ以上の値(T=d/Vp≧t)となるよう設定することが理想的である。この観点からすると、その吐出口列6どうしの間隔dは、少なくとも「d≧Vp・t」の関係を満たす値に設定すればよいことになる。ただし、この実施例では、その間隔dの決定に際し、記録開始時の1枚目の用紙が供給されて記録後に排出されるまでの所要時間が短くなるようにすることも考慮し、上記条件式を満たす間隔となる値のうちで最も小さい(短い)値を選定した。また、浸透所要時間の測定結果については、後から吐出する色(C,M,Y)のインクになるほど多くの浸透所要時間tを必要とする普通紙を使用した場合のものを利用した。
この実施例では、普通紙を使用して記録を行った際の混色等の発生を抑制するために、各色間の吐出口列6どうしの間隔dについて「d1=6cm、d2=8cm、d3=10.5cm」とした。また、用紙9としてインクジェット用紙を使用する場合における各色間の吐出口列6どうしの間隔dについて例示すると、「d1=6cm、d2=6cm、d3=8cm」となる。
なお、第1の実施形態では、各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3が、インクの吐出する順番で後ろになる間隔であるほど、すなわち記録方向Aの下流側に位置する間隔になるほど増大する値に設定したが、特にこれに限定されない。つまり、インクの浸透所要時間や吐出する順番(記録ヘッド部50の配置の順番に相当する)等の条件の違いにより、その上流側になる間隔がその下流側になる間隔と同じ値か又はそれよりも大きい値に設定される場合を含むことがあってもよい。
また、第1の実施形態では、各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を、用紙9の種類と温度及び湿度に応じたインクの浸透所要時間に基づいて決定した場合について説明したが、その以外の情報に基づいて設定することも可能である。例えば、第2の実施形態で例示するような情報(混ざり合いの発生要因の情報)を利用して決定するようにしてもよい。
[第2の実施形態]
図8〜図10は、第2の実施形態に係るインクジェット記録装置の要部(インクジェット記録部30)を示すものであり、図8はその要部の全体構成を示し、図9はその要部の一部を示し、図10はその要部を上方からみた状態を示すものである。
この第2の実施形態におけるインクジェット記録部30は、記録ヘッド5における各吐出口どうしの間隔を変更して異ならせる間隔変更装置7を追加した以外は第1の実施形態に係るインクジェット記録装1(インクジェット記録部3)と同じ構成を有するものである。このため図中やこれ以降においては、第1の実施形態におけるインクジェット記録部3と同じ構成部分については、同じ符号を付すとともに、その説明を必要なとき以外は省略している。
間隔変更装置7は、間隔dの変更に関係する3つの記録ヘッド部50(C,M,Y)を記録方向Aの前後に移動させる移動機構部70と、その移動機構部70の動作を制御する制御部78と、この制御部78の制御のために必要な情報を検出する検出部79を有している。
移動機構部70は、記録ヘッド部50(K,C,M,Y)を支持する支持部材11に対して、3つの記録ヘッド部50(C,M,Y)を記録方向Aの上流側及び下流側の方向(両矢印Dの方向)に移動できるようにスライドレール、車輪等の移動支持材71を介して支持している。ブラックインクの記録ヘッド部50Kは、支持部材11に固定している。また、その記録ヘッド部50(C,M,Y)のヘッド本体51に移動動作用の電動モータ(ステッピングモータなど)72を設置するとともに、その電動モータ72に取り付ける回転伝達機構の歯車73を噛み合わせるための板状歯車(ラック)74を支持部材11に対し記録方向Aに沿った状態で設置している。さらに、支持部材11の記録方向Aに沿って直線状の位置検出板(リニアエンコーダ板)75を設置するとともに、移動対象の記録ヘッド50(C,M,Y)に位置検出板75を検出する検出センサ76を設置して、その検出情報を電動モータ72の駆動制御にフィードバックしている。これにより、記録ヘッド50(C,M,Y)の正確な移動を確保している。
制御部78は、例えば演算処理手段、記憶手段、入出力手段等を組み合わせたマイクロコンピュータで構成されている。また、この制御部78は、記憶手段に格納されているプログラム及び所要のデータに基づいて制御動作を実行するが、移動機構部70の動作についての制御と、各記録ヘッド部50(K,C,M,Y)のインク吐出駆動の動作(移動機構部70により間隔dが変更された記録ヘッドのインク吐出時期の調整を含む)の制御も行うようになっている。制御部78は、移動機構部70の動作量、すなわち吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3の変更量について、用紙9に先に吐出された色のインクとその後に吐出されて重なり合う色のインクとの混ざり合いを起こす要因の情報に基づいて予め設定した値を選択するようにしている。
検出部79は、上記インクの混ざり合いを起こす要因の情報(混ざり合いの発生要因の情報)を検出する手段で構成されている。混ざり合いの発生要因の情報としては、例えば、用紙9の種類と、インクの用紙への浸透所要時間と、記録装置1の設置環境の温度及び湿度を利用する。
用紙9の種類の検出は、記録装置1に入力される利用者からの記録情報に含まれる用紙の種類の選択設定情報を判別する手段で行われる。用紙9の種類としては、例えば、普通紙(紙を構成する繊維がインクを吸収する類の用紙)と、インクジェット用紙(表面にインクを吸収しやすい処理を施した(例えばシリカ、アルミナなどを含むインク受容層を塗布した)用紙であり、膨潤タイプや多孔タイプのものがある)が挙げられる。用紙9の種類の検出については、用紙収容体2や給紙搬送路14に用紙9の表面状態(光沢度など)を光学的に検出する用紙表面検出器を設置しておき、その検出器の検出結果を用いて行うことも可能である。設置環境の温度及び湿度の検出は、記録装置1の筐体10の内部に設置する温度及び湿度の測定器で行われる。
インクの浸透所要時間の検出は、予め使用する可能性のある種類の用紙に対するインクの浸透所要時間を設置環境の温度及び湿度の区分域に応じてそれぞれ測定した結果を制御参照データ(ルックアップテーブル)として用意して制御部78の記憶手段に格納しておき、それを用紙の種類と温度及び湿度の条件に応じて読み出す手段で行われる。制御参照データは、第1の実施形態の実施例で行ったインク浸透所要時間の測定を、温度及び湿度の区分(例えば、温度について10〜40℃の範囲を10℃未満、10℃以上20℃未満等のように10℃おきの単位で区分し、湿度について50%RH未満と50%RH以上の範囲に区分する)ごとに行い、そのときの結果を用紙の種類と温度及び湿度の条件ごとに分類して作成したものが使用される。
制御参照データには、その条件ごとに、吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3として、第1の実施形態の実施例で説明した観点と同様の観点で決定した値を予め設定して対応付けしておく。また、吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3の初期値として同じ値(dn)を用意しておき、制御参照データから選定される間隔の値がその初期値(dn)と異なる場合を「間隔の変更が必要である」と判定するようにしておけばよい。初期値(dn)としては、各色のインクを単独で(複数の色のインクを重ね合わせることなく)吐出したときの浸透所要時間のうち最も大きい値に設定することができる。これにより、各色の記録ヘッド部50は、平常時には、その吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3がいずれも初期値となる位置(初期位置)で停止するように設定されている。この他、変更する間隔に応じてインクの吐出時期について、第1の実施形態におけるインク吐出時期の調整方法と同じ手法で予め変更間隔ごとに調整すべき時期情報を設定しておく。
次に、この間隔変更装置6を追加したインクジェット記録部30を有するインクジェット記録装置1の動作について説明する。
記録装置1が記録開始の指示を受けると、図11に示すように、間隔変更装置7を構成する検出部79によりインクの混ざり合い発生要因の情報(用紙の種類、温度及び湿度)が検出され(ステップ10:S10)、その検出情報に基づき間隔変更装置7を構成する制御部78において吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を変更する必要があるか否かが判定される(S11〜S12)。この判定は、用紙の種類と温度及び湿度の条件に対応する制御参照データから予め設定された間隔(d1,d2,d3)の値を読み出し、その読み出した各間隔の値が初期値(dn)と異なるものが1つでもある場合には間隔変更が必要であると判断し、初期値と異なるもがない場合には間隔変更が不要であると判断することで行われる。
間隔d(d1,d2,d3の少なくとも1つ)の変更が必要である場合には、制御部78において、その変更すべき間隔dが制御参照データから読み出されて決定されとともに、その間隔の変更に伴い必要となるインク吐出時期の調整が行われる(S13)。
続いて、制御部78から間隔変更装置7を構成する移動機構部71に対して、その変更する間隔dの値に基づく制御信号が送られることで移動機構部71が作動し、これにより所定の記録ヘッド部50が間隔dの変更のために移動させられる(S14)。すなわち、変更すべき間隔に関係する記録ヘッド部50における電動モータ72が変更の間隔に応じて所定量だけ回転駆動することにより、その記録ヘッド部50(50C,50M,50Yの少なくとも1つ)が初期位置から記録方向Aの下流側(場合によっては上流側になることもある)に所定の距離移動させられた後に停止する。
これにより、記録ヘッド5における各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3が所定の値に変更される。例えば、用紙9として普通紙を使用し、20℃、50%RHという条件で記録を行う場合は、第1の実施形態の実施例で示したように間隔d1,d2,d3が「d1=6.0cm、d2=8.0cm、d3=10.5cm」に設定される。この場合、間隔dの初期値が例えば「6.0cm」に設定されていたとすれば、2つの記録ヘッド部50M,50Yが記録方向Aの下流側に移動させられることにより、所要の間隔の変更が行われることになる。
この吐出口列6どうしの間隔dを変更する移動動作が終了した場合又はステップS12においてその間隔dの変更が不要であると判断された場合には、指示された記録動作が実行される(S15)。このときの記録動作は、第1の実施形態で説明した記録動作と同じものである。特に間隔dの変更が行われた場合は、その変更された間隔dに応じた異なる間隔の時期でインクの吐出動作がそれぞれ行われるようになり、これにより、インクの混ざり合いに起因した混色等の発生が抑制される。
この記録動作は指示された枚数の記録動作が終了するまで続行された後に、その指示された内容の記録動作がすべて終了すると、間隔変更装置7により間隔変更のために移動させられた記録ヘッド部50が初期位置に復帰するように移動させられるとともに、調整させられたインクの吐出時期が初期値に復元させられる(S16〜S17)。以上により、記録動作が終了する。
なお、第2の実施形態では、混ざり合いの発生要因の情報として、使用する用紙9の含水状態を適用するこができる。
用紙9の含水状態は、インクの浸透所要時間に影響を与える要因になるため、インクの混ざり合いの発生要因にもなる。このため、特に用紙9の含水割合が多い状態にあるほど、含水割合がそれよりも少ない場合に比べて、その用紙に対するインクの浸透速度が遅くなり、そのときの浸透所要時間も多くなるので、各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を広げる方向に変更する必要がある。
この用紙9の含水状態を検出する場合には、間隔変更装置7を構成する検出部79として、例えば、用紙収容体2の用紙収容空間の湿度を計測する湿度検出器を設置し、その計測される湿度から収容されている用紙9の湿度割合を推定する(例えば湿度が高いほど用紙が吸水して含水割合が多いと推定する)ように構成したものを適用すればよい。この他にも、図12に示すように、給紙搬送路14における搬送ロール対25の一部として、その一対のロール表面に電極としての導電性層25aを用紙9と接触する状態で形成したものを使用して、その電極付きの搬送ロール対25Aを通過する用紙9の電気抵抗値を計測し、その計測された電気抵抗値から搬送される用紙9の含水割合(含水率)を推定する(例えば電気抵抗値が低いほど用紙の含水割合が多いと推定する)ように構成したものを適用してもよい。電気抵抗値は、図12に示すように、電極付きの搬送ロール対25Aにおけるすべての一対の導電性層25aに電源26から計測用の一定電圧をそれぞれ印加した状態において用紙9が通過したときに流れる電流値を電流計27でそれぞれ計測し、その電圧値及び電流値から算出することで(平均値として)求められる。
また、第2の実施形態では、混ざり合いの発生要因の情報として、記録速度を支配する用紙搬送速度や、インク吐出量を支配する記録ヘッドのインク吐出に係わる駆動周波数を適用することもできる。インクジェット記録部3の用紙送り装置4として用紙搬送速度を変更できる構成のものを使用する場合や、その記録部3の記録ヘッド5として駆動周波数を変更できる構成のものを使用する場合に、各色間の吐出口列6どうしの間隔の変更が必要になることがあるので有効である。
用紙搬送速度(Vp)は、用紙9が記録ヘッド5の各記録ヘッド部50を通過する所要時間に影響を与えて、インクの浸透状況等に影響を与える要因になるため、インクの混ざり合いの発生要因にもなる。このため、特に用紙の搬送速度を速くするほど、その搬送速度がそれよりも遅い場合に比べて、その速度で搬送される用紙に対するインクの浸透の進行状況が遅くなり、先に吐出されたインクが浸透し終わらないうちに次の色のインクが吐出されることになるので、各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を広げる方向に変更する必要がある。
一方の駆動周波数は、吐出口列6から吐出されるインクの量が変更されて、インクの浸透所要時間に影響を与える要因になるため、インクの混ざり合いの発生要因にもなる。このため、特に駆動周波数を高くするほど、その周波数がそれよりも低い場合に比べて、同じ吐出口列6から吐出されるインクの量が増えてインクの浸透速度が遅くなり、先に吐出されたインクが浸透し終わらないうちに次の色のインクが吐出されることになるので、各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を広げる方向に変更する必要がある。
また、第2の実施形態では、混ざり合いの発生要因の情報として、処理液を使用したときのインクの浸透所要時間を適用することもできる。
処理液を使用したインクジェット記録は、例えば、図13に示すように、前記4色(K,C,M,Y)のインクを吐出するに先立って処理液吐出ヘッド53から処理液を用紙9の所定箇所に吐出して記録を行う方式のインクジェット記録部3A(30A)を適用した場合の記録である。この場合、処理液吐出ヘッド53は、ブラックインクの記録ヘッド部50Bの手前側に所定の間隔d0で設置される。また、処理液は、吐出ヘッド53で吐出させるものでなく、塗布ロールで用紙9に塗布するもので付与する構成であっても構わない。
この処理液を使用したインクジェット記録では、用紙9上でインクが処理液と触れると、そのインクの溶媒が用紙に浸透する一方で、処理液がインク中の色材(顔料又は染料)と反応して、その色材を凝集固化させて用紙9の主に表面に保持させて濃度を高めたりあるいは混色の発生を抑制することになる。しかし、その一方で、この記録の場合には、処理液と反応し始めたインクに対して次の色のインクが重なり合うように吐出されると、そのインクの溶媒が用紙に浸透する速度が低下するとともに、処理液との接触が少なくなって色材の処理液との反応が遅くなる。また、その反応の遅れを防止するため処理液を多量に吐出させた場合には、処理液が水性溶媒を含むため、その多量の吐出はインクの浸透速度を更に低下させてしまうことになるので適切ではない。
以上のことから、処理液を使用するインクジェト記録は、特に処理液の存在によりインクの浸透所要時間に影響を与える要因が増えるため、インクの混ざり合いの発生要因にもなる。このため、処理液を使用するインクジェト記録を行う場合にも、そのインクの浸透所要時間を把握し、その浸透所要時間が増える場合には各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を広げる方向に変更する必要がある。
また、第2の実施形態では、混ざり合い発生要因の情報として、インクの乾燥時間を適用することもできる。
このインクの乾燥時間を考慮する必要のあるインクジェット記録は、例えば、図14に示すように、用紙送り装置4の搬送ベルト43の搬送領域43Fを平坦に支持する支持板45に発熱体等で構成される乾燥手段46を設置し、インクを用紙9に浸透させるよりも乾燥させることでインクを用紙9やその他の記録媒体に固着させることで記録を行う方式のインクジェット記録部3B(30B)を適用した場合の記録である。このような乾燥手段46を設置するインクジェット記録では、インクとして水性溶媒でなく、揮発性溶媒(例えばシクロヘキサノール、エステル系ラクテート)を含むものを使用し、その揮発性溶媒を乾燥手段46の加熱作用により揮発させてインクを乾燥させるようにしている。また、記録媒体としては、インクを浸透させる紙類でなく、インクを浸透させない合成樹脂フィルム、金属板などのインク非浸透性媒体が使用される。
このインクを乾燥させるインクジェット記録では、インクにより乾燥するまでに要する時間(乾燥時間)が異なり、特に前に吐出されたインクが乾燥し終われないうちに後から別の色のインクが吐出されるおそれもあるので、インクの混ざり合いの発生要因にもなる。このため、このインクジェット記録を行う場合にも、そのインクの乾燥時間を把握し、その乾燥時間が増える場合には各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を広げる方向に変更する必要がある。
さらに、第2の実施形態では、混ざり合い発生要因の情報として、インクの硬化(又は固化)時間を適用することもできる。
このインクの硬化時間を考慮する必要のあるインクジェット記録は、例えば、インクとして固形インク(常温で固体であり、記録時に加熱して液体として使用するもの。相変化インクともいう。)を使用し、そのインクを液体として吐出させた後に用紙9上で固化されることで記録を行う方式のインクジェット記録部を適用した場合の記録である。この他、図15に示すように、インクとして紫外線硬化性インクを使用し、また、各記録ヘッド部50(K,C,M,Y)に紫外線照射器54を設置し、各記録ヘッド部50から紫外線硬化性インクを用紙9に吐出させた直後に紫外線を照射してインクを硬化させることで記録を行う方式のインクジェット記録部3D(30D)を適用した場合の記録である。
このインクを硬化(固化)させるインクジェット記録では、インクにより硬化(固化)するまでに要する時間(硬化時間)が異なり、特に前に吐出されたインクが硬化し終われないうちに後から別の色のインクが吐出されるおそれもあるので、インクの混ざり合いの発生要因にもなる。このため、このインクジェット記録を行う場合にも、そのインクの硬化時間を把握し、その硬化時間が増える場合には各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を広げる方向に変更する必要がある。
[他の実施形態]
第1及び第2の実施形態では、インクジェット記録部3としてライン型の記録ヘッド5を適用したインクジェット記録装置1について説明したが、そのインクジェット記録部3としては、図16に示すように、用紙9の搬送方向Bに対しほぼ直交する方向(例えば90°±5°の角度範囲で交差する方向)に往復移動して記録を行う、いわゆるシリアル型の記録ヘッド55を使用する記録部3を適用することができる。
このシリアル型の記録ヘッド55は、そのヘッド55を支持する支持枠体56の一部56aが、用紙送り装置4の搬送ベルト43の平坦部分の上方において搬送方向Bに対しほぼ直交する方向に固定して設置される棒状の直線ガイド部材57に移動自在に取り付けられるとともに、その直線ガイド部材57とほぼ平行する状態で駆動ロール58a及び従動ロール58bにかけ回されて記録ヘッド55の移動方向に合わせて両方向に回転する無端状の移動ベルト59の一部分に連結されている。これにより、記録ヘッド55は、用紙9の搬送方向Bに対してほぼ直交する方向A1及びA2に往復移動するようになっている。この直交方向A1及びA2は、後述するように記録ヘッド55の記録方向となり、このため、このシルアル型記録ヘッドにおける記録方向Aは用紙9の搬送方向Bとほぼ直交した関係になる。
また、この記録ヘッド55は、図17及び図18に示すように、上記直交方向A1及びA2に対し2つの支持領域として2分割された支持枠体56b,56cに搭載した第1記録ヘッド55Aと第2記録ヘッド55Bとで構成されている。この第1記録ヘッド55Aと第2記録ヘッド55Bはいずれも、第1の実施形態における4色の記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yを有している。第1記録ヘッド55Aは、直交方向A1に移動する際(往路時)に記録を行うものであり、このため、記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yをこの順番で直交方向A1の下流側から配置している。また、第2記録ヘッド55Bは、直交方向A2に移動する際(復路時)に記録を行うものであり、このため、記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yをこの順番で直交方向A2の下流側から配置している。
そして、この第1記録ヘッド55Aと第2記録ヘッド55Bにおいても、その各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を例えば第1の実施形態の場合と同様に「d1<d2<d3」という大小関係となる条件で設定している。
このようなシリアル型の記録ヘッド55を備えたインクジェット記録部3による記録は、以下のように行われる。
まず、用紙9がその記録ヘッド55の往復移動の時期に連動して用紙送り装置4により間欠的に矢印B方向に搬送される。このように搬送される用紙9に対して、例えば、その用紙搬送方向Bと直交する方向A1に記録ヘッド55が移動する際(往路時)には、第1記録ヘッド55Aによるインクジェット記録が行われる。すなわち、図17に示すように、第1記録ヘッド55Aがその直交方向A1に移動する際に、その記録ヘッド55Aにおける記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yからこの順番で各色のインクが用紙9にそれぞれ吐出されることによって記録がなされる。一方、用紙搬送方向Bと直交する方向A2に記録ヘッド55が移動する際(復路時)には、第1記録ヘッド55Aによる記録が終了した分だけ用紙9が搬送方向Bに搬送されて停止した後、第2記録ヘッド55Bによるインクジェット記録が行われる。すなわち、図18に示すように、第2記録ヘッド55Bがその直交方向A2に移動する際に、その記録ヘッド55Bにおける記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yからこの順番で各色のインクが用紙9にそれぞれ吐出されることで記録がなされる。
そして、この記録に際しては、その第1記録ヘッド55Aと第2記録ヘッド55Bにおける各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3をいずれも前記した関係で異なせているため、その異なった各間隔dに応じた異なる間隔の時期にインクの吐出動作がそれぞれ行われるようになり、これにより、インクの混ざり合いに起因した混色等の発生が抑制される。
このようなシリアル型の記録ヘッド55を備えたインクジェット記録部3においては、その各記録ヘッド55A,55Bに第2の実施形態における間隔変動装置7を設置することも可能である。また、その用紙送り装置4として、搬送ベルト43を使用する構成のものに代えて、搬送ロール対を使用する構成のものを適用することも可能である。
また、第1及び第2の実施形態では、インクジェット記録部3の用紙送り装置4として用紙9を搬送ベルト43により記録ヘッド5に対して平面状にかつ一過性で搬送するタイプのものを適用したインクジェット記録装置1について説明したが、そのインクジェット記録部3としては、図19に示すように、用紙9を円筒状の用紙保持搬送ドラム47を使用する循環搬送可能な用紙送り装置40を使用する記録部3を適用することができる。
この循環搬送可能な用紙送り装置40は、用紙保持搬送ドラム47として円筒状の回転支持体の周面に用紙9を静電的に吸着させるフィルム等の保持部材を貼り付けたものを使用し、矢印方向に回転する用紙保持搬送ドラム47の外周面に対し、給紙搬送路14から供給される用紙9を押付けロール48で押付けて静電的に吸着させた後、ライン型の記録ヘッド5の真下を通過させるように搬送するものである。この場合、用紙保持搬送ドラム47の回転方向が用紙6の搬送方向Bになる。また、この用紙送り装置40では、記録ヘッド5による記録が終了した後の用紙9を剥離つめ等の剥離部材49により用紙保持搬送ドラム47から剥離して排紙搬送路15に送り出すようになっている。
また、ライン型の記録ヘッド5は、用紙保持搬送ドラム47に保持されて搬送される用紙9がそのドラムの外周面に追従した曲面状の状態で記録ヘッド5の真下を通過するため、その記録ヘッド5を構成する記録ヘッド部50K,50C,50M,50Yの吐出面51aが用紙保持搬送ドラム47の外周面とほぼ同じ間隔をあけて対向するように取付け位置の調整がなされている。また、この記録ヘッド5においても、その各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3を例えば第1の実施形態の場合と同様に「d1<d2<d3」という大小関係となる条件で設定している。
このような循環搬送可能な用紙送り装置40とライン型の記録ヘッド5を備えたインクジェット記録部3による記録に際しては、その記録ヘッド5における各色間の吐出口列6どうしの間隔d1,d2,d3が前記した関係で異なっているため、用紙保持搬送ドラム47に保持されて搬送される用紙9に対しても、その異なった各間隔dに応じた異なる間隔の時期でインクの吐出動作がそれぞれ行われるようになる。これにより、インクの混ざり合いに起因した混色等の発生が抑制されるようになる。
この循環搬送可能な用紙送り装置40とライン型の記録ヘッド5を備えたインクジェット記録部3においては、その各記録ヘッド55A,55Bに第2の実施形態における間隔変動装置7を設置することも可能である。
さらに、インクジェット記録装置1による記録を行う対象の記録媒体としては、第1の実施形態等で説明した用紙9に限らず、種々の用紙が適用可能である。この他にも、記録面が平坦な記録媒体であれば適用可能であり、例えば、前述した樹脂フィルムや金属板であっても適用することができるが、さらには布等の素材も適用することができる。
1…インクジェット記録装置、5,55…記録ヘッド、6…吐出口列、7…間隔変更装置、8…インク、9…用紙(記録媒体)、50K,50C,50M,50Y…記録ヘッド部、A…記録方向、d1,d2,d3…吐出口どうしの間隔。