JP2008198873A - 電磁波吸収シートおよびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】簡便で安価な方法を用いて、形状に制限を受けることなく電磁波の吸収効率を上昇させ、かつ電磁波の反射効率を低減させた電磁波吸収シートを提供すること。
【解決手段】本発明の電磁波吸収シート10は、磁性体微粒子3によって電磁波を吸収するために、該磁性体微粒子3が分散されている高分子材料7からなる第1の磁性層1bと、該第1の磁性層1b上に形成されており、高分子材料7からなる非磁性層5と、該非磁性層5上に形成されており、該磁性体微粒子3が分散されている高分子材料7からなる第2の磁性層1aとを備えており、該第1の磁性層1bにおける磁化容易軸方向11bが、該第2の磁性層1aにおける磁化容易軸方向11aと異なっている。
【選択図】図1

Description

本発明は、電子機器において輻射されるノイズを抑制することに関する。より詳細には、電子機器において輻射される電磁波を吸収する電磁波吸収シ−トおよびその製造方法とに関する。
近年、携帯電話機器、テレビ、パソコンなどに代表される電子機器の小型化、軽量化および/または処理速度の高速化が加速度的に進んでいる。電子機器の小型化、軽量化および/または処理速度の高速化に伴い、電子機器本体から輻射される電磁波によって、他の電子機器や人体への悪影響を引き起こす。このため、電子機器から輻射される電磁波を抑制するためのノイズ対策が重要である。
電子機器の小型化、軽量化および/または処理速度の高速化に起因する電磁波の影響は、電子機器本体から外部に輻射される電磁波に限ったことではなく、機器内部の部品から輻射された電磁波によって電子機器自体の動作にも悪影響を与える。
電子機器の小型化、軽量化および/または処理速度の高速化のために、電子機器内部においてさまざまな信号(情報)処理を行っている集積回路が小型化および高密度化される傾向にある。集積回路の小型化および高密度化を実現するために、集積回路上に形成された電子部品、伝送線路が高い密度で集積化されている。集積化された電子部品や伝送線路同士の物理的な距離が縮小することによって、電子部品や伝送線路同士の相互干渉(輻射された電磁波)の影響が大きくなる。電子部品や伝送線路から輻射された電磁波は、電子機器の誤動作を引き起こす。上記電磁波による誤作動を防止するために、コンデンサやフィルタを用いたノイズ対策が行われている。
しかし、高集積化によって、機器内部のスペースの縮小、電磁波による影響の増大、および輻射される電磁波の高周波数化など問題が重大化し、ノイズ対策のための部品に対してさまざまな性質が要求され、その要求は高まる一方である。ノイズ対策の部品に要求される性質とは、例えば、サイズの縮小化、効率的な電磁波の吸収性および高周波数の電磁波に対応した吸収性などである。
ノイズ対策の部品に要求される上記性質を有するものとして、電磁波吸収シートを筐体、電子部品および伝送線路等に配置する技術が注目されている。電磁波吸収シートは、高分子材料、酸化物または窒化物などの絶縁体に磁性体微粒子を分散させた複合磁性体シート(薄膜)である。ノイズとして輻射される電磁波を吸収することができるため、電磁波吸収シートを用いることは、上記ノイズ対策のための有効な手段である。
高分子材料から構成された絶縁体に磁性体微粒子を分散させた電磁波吸収シートが特許文献1に開示されている。特許文献1の電磁波吸収シートは、GHz帯の電磁波吸収特性に優れたノイズ抑制シートであるが、厚さが1mm以上のシートでしかその特性が確認されていない。このような電磁波吸収シートは、電磁波の輻射源(素子や伝送線路)の近傍に配置することによって、回路基板や部品から輻射される電磁波を吸収する。このため、厚さが1mmもあるシートを、内部構成が高度に集積化された機器へ適用すると、機器の小型化の妨げとなる。
上述のような電磁波吸収シートは、シート内部に分散させた磁性体微粒子の磁気損失によって電磁波を吸収する。また、磁性体の磁気損失を利用した電磁波吸収シートは、電磁波の輻射源またはその伝送線路に対して等価的な抵抗成分が付与されることによって、電磁波を吸収することが知られている。ここで、電磁波吸収シート(複合磁性体シート(薄膜))の面積が一定の場合、等価的な抵抗成分の大きさは、磁性体を分散させた電磁波吸収シートが有する磁気損失(または複素透磁率の虚数部)(μ’’)の大きさ、および電磁波吸収シートの厚さにおおよそ比例する。すなわち、電磁波吸収シートの電磁波の吸収効率を高めるためには、シートの膜厚を大きくする、または大きなμ’’を有する磁性体を用いればよい。
上述のように、シートの膜厚を大きくすることは、機器の小型化の妨げであり、さらに磁気損失によって発生した熱を放出することが困難になるため、機器の動作に悪影響を及ぼす。このため、大きなμ’’を有する磁性体を用いて薄膜化した、より有用な電磁波吸収シートを開発することが一般的である。
大きなμ’’を有する磁性体を用いた電磁波吸収シートとしては、グラニュラー磁性体(薄膜)が挙げられる。グラニュラー磁性体とは、窒化物や酸化物といった非磁性体中に強磁性体微粒子を分散させた軟磁性薄膜である。
ここで、μ’’の大きさは電磁波の周波数に対して分散分布を示し、その分散分布のピークは電磁波吸収シートが有する共鳴周波数付近に存在する。電磁波吸収シートに所望の電磁波を効率的に吸収させるためには、所望の該電磁波が有する周波数に合わせて電磁波吸収シートが有するμ’’の周波数プロファイル(共鳴周波数)を調整する必要がある。通常、電磁波吸収シートが有する共鳴周波数の調整は、シートに分散させた磁性体に対して一定方向を向いた磁気異方性(一軸磁気異方性)を付与し、付与した一軸磁気異方性の大きさを調整することによって行われる。つまり、電磁波吸収シートの電磁波吸収特性(共鳴周波数)を吸収したい電磁波の周波数付近にシフトさせる。上述のように、電子機器の処理の高速化によって高周波数の電磁波が輻射される。電磁波吸収シートの共鳴周波数の調整は、高周波数の電磁波を効率的に吸収するために行われる。
しかし、一軸磁気異方性を付与した電磁波吸収シートを伝送線路から輻射される電磁波の吸収に用いた場合、シートに付与された一軸磁気異方性の方向(磁化容易軸方向)と伝送線路を流れる高周波電流の方向とが直交する(伝送線路から輻射される磁界の方向とが平行になる)とき、μ’’が非常に小さくなってしまう。よって、一軸磁気異方性を付与した電磁波吸収シートを、μ’’が非常に小さくなるような配置にしてしまうと、電磁波吸収シートによる電磁波の吸収効率が低下する。つまり、電磁波吸収シートに一軸磁気異方性を付与した場合、電磁波吸収シートの電磁波吸収特性に異方性が現れる。
上述のような問題を解決した薄型の電磁雑音抑制体(電磁波吸収シート)であって、効率的に高周波数の電磁波を吸収し、かつ電磁波の反射を抑制する電磁雑音抑制体が特許文献2に開示されている。特許文献2において、電磁雑音抑制体として大きなμ’’を有するグラニュラー磁性体を用いている。
グラニュラー磁性体は、優れた電磁波の抑制作用を有しているが、強磁性体微粒子を酸化物、窒化物またはふっ化物などに分散させても電気比抵抗が十分に大きくならない。すなわち、グラニュラー磁性体を用いた電磁波吸収シートが導電体として作用するため、輻射された電磁波を反射してしまう。反射された電磁波は、輻射源に対して2次的な動作障害などをもたらす。輻射源からの電磁波の抑制作用とは、電磁波の吸収および反射という2つの異なる現象に分けることができる。電磁波吸収シートの電磁波の吸収効率を上昇させ、かつ電磁波の反射効率を低減させるためには、磁性体が有するμ’’を増大し、かつ磁性層の電気比抵抗を大きくする必要がある。電磁波吸収シートとしてグラニュラー磁性体用いた場合、これらを同時に達成するのは困難である。
特許文献2の電磁雑音抑制体は、電磁波の上記反射を抑制するために、輻射源である信号伝送線路の線路幅と略同等ないしそれよりも狭幅な形状を有している。さらに、上記グラニュラー磁性体は、磁化困難軸方向(一軸磁気異方性の方向と直交する方向)が上記信号伝送線路の幅方向に対して略平行になるように配置されている。特許文献2の電磁雑音抑制体は、上記構成を有しているため、電磁波の反射を抑制し、かつ効果的に高周波数の電磁波を吸収する。
図5(a)および(b)は、特許文献2の電磁雑音抑制体における一軸磁気異方性の方向と信号伝送線路における高周波電流の伝送方向(または高周波磁界の方向)について説明した図である。
図5(a)に示すように、電磁雑音抑制体100は、その長辺方向(Y軸方向)が伝送線路51aの高周波電流の伝送方向52a(Y軸方向)と平行になるように、伝送線路51a上に配置されている。電磁雑音抑制体100は、一軸磁気異方性の方向54(磁化容易軸方向)がY軸方向と平行になるように、一軸磁気異方性が付与されている。高周波電流が伝送線路51a内をY軸方向に流れるため、伝送線路51aから輻射される高周波磁界53aはX軸に平行である。電磁雑音抑制体100に付与された一軸磁気異方性の方向54が高周波磁界53aと直行するため、電磁雑音抑制体100の磁化に対して高周波磁界53aが有効に作用するので、μ’’が大きくなる。よって、電磁雑音抑制体100を用いて、伝送線路51aから輻射される電磁波を効率的に吸収することができる。
次に、伝送線路が分岐している場合について図5(b)を用いて説明する。
図5(b)に示すように、伝送線路51bは、直線状の線路ではなく、1箇所において直角に分岐している。図5(a)の場合と同様に、電磁雑音抑制体100は、その長辺方向がY軸と平行になるように、伝送線路51b上に配置されている。このため、伝送線路51bから輻射される高周波磁界53aと平行な電磁波は効率的に吸収される。
しかし、X軸方向に分岐した伝送線路51bには、伝送方向52bに高周波電流が流れる。伝送方向52bに流れる高周波電流から輻射される高周波磁界53bは、Y軸方向に平行である。すなわち、電磁雑音抑制体100の一軸磁気異方性の方向54と高周波磁界53bとが平行である、または一軸磁気異方性の方向54と伝送線路を流れる高周波電流の方向とが直交する。このとき、電磁雑音抑制体100の磁化に対して高周波磁界53bが有効に作用することができないので、μ’’が小さくなる。よって、電磁雑音抑制体100は、伝送線路52bの分岐部分における電磁波をあまり吸収することができない。
実際の高集積化された回路基板において、伝送線路は分岐を有するだけでなく直角に曲げて配置されることが多い。電磁雑音抑制体100を用いて高周波電流が流れる方向が直交する伝送線路から輻射される電磁波を吸収するためには、図6に示すような配置を行う必要がある。
図6は、直角に曲がった部分を有する伝送線路から輻射される電磁波を吸収するための、電磁雑音抑制体200の配置を模式的に示した平面図である。
図6に示すように、伝送線路51cは、X軸方向に伸びている部分とY軸方向に伸びている部分とを有し、それらの交点は直角をなしている。伝送線路51cを流れる高周波電流は、X軸方向に伸びている部分においてX軸と平行に、Y軸方向に伸びている部分においてはY軸と平行に流れている。伝送線路51c上には、2つの電磁雑音抑制体200が配置されている。2つの電磁雑音抑制体200は、それぞれが有する一軸磁気異方性の方向54aおよび54bと配置した伝送線路51cを流れる高周波電流方向22aまたは高周波電流方向22bとが平行になるように配置されている。また、伝送線路51cが直角に曲がっている箇所において、2つの電磁雑音抑制体200は、重なるように配置されている。
上記構成によって、伝送線路51cが直角に曲がっている箇所においても効率的に電磁波を吸収することができる。しかし、上述したように、実際の高集積化された回路基板において伝送線路は、分岐や折れ曲がりを数多く有している。伝送線路が有する分岐や折れ曲がりの数だけ、幅や長さを伝送線路に合わせた電磁雑音抑制体を形成し、かつ電磁雑音抑制体の配置を行わなければならないため、製造工程が増加する。結果として、量産性の低下およびコストの増大に繋がる。
一軸磁気異方性を有する電磁雑音抑制体の上記課題を解決するためには、μ’’の大きさが等方的である(あらゆる方向に対して大きさの等しいμ’’を有している)電磁波吸収シートを用いればよい。特許文献3には、各磁性層の磁化容易軸方向が磁性層のそれぞれにおいて任意角度のずれを有している非晶質軟磁性多層薄膜が開示されている。
特許文献3の非晶質軟磁性多層薄膜は、複数の非晶質磁性層のそれぞれが異なる方向に対して磁化容易軸方向(一軸磁気異方性)を有しており、非晶質磁性層と絶縁層とが交互に積層された構造を有している。つまり、上記非晶質軟磁性多層薄膜は、共鳴周波数付近に大きなμ’’を有し、かつμ’’の大きさが異方性を有していない(等方性を有している)。
このため、特許文献3の非晶質軟磁性多層薄膜を電磁波吸収シートとして利用した場合、さまざまな方向に輻射される電磁波を一枚の電磁波吸収シートによって吸収することができる。一方、上記非晶質軟磁性多層薄膜の非晶質磁性層が強磁性体から構成され、かつ絶縁層が酸化物から構成されているため、上述したように、電磁波の反射を起こす可能性がある。さらに、上記非晶質軟磁性多層薄膜は、インダクタ、トランスを構成する高透磁率材料(磁芯材料)を提供することを目的としたものであり、特許文献3において電磁波の反射を抑制する方法について何ら考慮されていない。
実際、特許文献3には、透磁率の実数部(μ’)の大きさについての記載はあるが、μ’’の大きさについては記載がない。各磁性層における一軸磁気異方性のそれぞれがずれを生じるように形成されているため、μ’’の大きさが等方性を有していることが十分予測できるが、上記非晶質軟磁性多層薄膜は、有する電気抵抗の大きさの観点から電磁波吸収シートとして用いることは非常に困難である。
特許文献4には、電磁波の反射を抑制した電磁雑音抑制体であって、大きなμ’’を有し、かつμ’’の大きさについて異方性を有していない電磁雑音抑制体が開示されている。特許文献4の電磁雑音抑制体は、特許文献2の電磁雑音抑制体を積層したものであり、積層された複数の層のそれぞれが異なる方向に対して一軸磁気異方性を有している。上記電磁雑音抑制体を用いることによって、伝送線路が有する分岐や折れ曲がり箇所において効果的に電磁波を吸収することができる。
特開平11−298187号公報(平成11年10月29日公開) 特開2002−151916号公報(平成14年5月24日公開) 特開平5−47555号公報(平成5年2月26日公開) 特開2003−197410号公報(平成15年7月11日公開)
しかし、特許文献4の電磁雑音抑制体は、特許文献2の電磁雑音抑制体と同様、グラニュラー磁性体から構成されている。よって、特許文献4の電磁雑音抑制体は、電磁波の反射を抑制するために、配置する伝送線路の幅と同じかそれ以下の幅に形成されている(特許文献4の図1、図3および図4を参照のこと)。従って、特許文献4の電磁雑音抑制体は、配置する伝送線路の形状に合わせて形成する必要がある。例えば、シート状の電磁雑音抑制体を形成した後、配置する伝送線路の形状に合わせて切断するなどの工程を必要とする。
図7を用いてシート状の電磁雑音抑制体を切断した場合の一軸磁気異方性の変化について説明する。図7(a)は、矩形に形成したシート状の電磁雑音抑制体を、その一辺と平行な方向に切断した電磁雑音抑制体を示す立体図であり、図7(b)は、矩形に形成したシート状の電磁雑音抑制体を、その一辺と平行および直角に切断した電磁雑音抑制体を示す立体図である。
図7(a)に示すように、シート状の電磁雑音抑制体200は、グラニュラー磁性体からなる第1層71aおよび第2層71bから構成されている。第1層71aには、Y軸方向に平行な一軸磁気異方性77aが付与されており、第2層71bには、X軸方向に平行な一軸磁気異方性77bが付与されている。シート状の電磁雑音抑制体200に、その一辺に平行なY軸方向にスリット75を入れることによって、複数の縦長の電磁雑音抑制体73が形成される。第1層71aおよび第2層71bがそれぞれ有する磁化容易軸方向のμ’’の大きさはほぼ同じである。
縦長の電磁雑音抑制体73を形成した場合、第1層71aに付与された一軸磁気異方性77aは強められ、第2層71bに付与された一軸磁気異方性77bは、Y軸方向に一軸磁気異方性が誘導されることによって弱められる。これは、静磁エネルギーを最小にするために、反磁場係数が最小の方向に磁化方向が向くという性質によるものであり、磁性体の形状に基づいて誘導される形状磁気異方性と呼ばれる。
さらに、第1層71aの一軸磁気方性77aが強められると、共鳴周波数が高周波数側にシフトする。一方、第1層71bにおいては一軸磁気方性77bが弱められるため、共鳴周波数が低周波数側にシフトする。つまり、縦長の電磁雑音抑制体73は、X軸方向に平行な電磁波およびY軸方向に平行な電磁波に対して、共鳴周波数(周波数に対するμ’’の分散分布のピーク)が大きく異なる。
また、snoek限界によって、縦長の電磁雑音抑制体73におけるX軸方向に平行な電磁波に対するμ’’よりもY軸方向に平行な電磁波に対するμ’’が小さくなる。つまり、Y軸方向に平行な(X軸方向に流れる高周波電流から輻射される)電磁波の吸収効率が低くなる。
以上のことから、縦長の電磁雑音抑制体73は、特定の周波数を有する電磁波を等方的かつ効率的に吸収することができない。
図7(b)に示すように、シート状の電磁雑音抑制体200は、グラニュラー磁性体からなる第1層71aおよび第2層71bから構成されている。第1層71aには、Y軸方向に平行な一軸磁気異方性77aが付与されており、第2層71bには、X軸方向に平行な一軸磁気異方性77bが付与されている。上面から見た形状が正方形の電磁雑音抑制体79を形成するために、シート状の電磁雑音抑制体200にはX軸方向およびY軸方向のそれぞれに平行なスリット75が入れられている。第1層71aおよび第2層71bがそれぞれ有する磁化容易軸方向のμ’’の大きさはほぼ同じである。
正方形の電磁雑音抑制体79を形成した場合、一軸磁気異方性77aおよび一軸磁気異方性77bが、上記形状磁気異方性の誘導によって弱められる。磁性体を正方形にした場合、Z軸方向に対して形状磁気異方性が誘導される。アスペクト比(正方形の辺の長さ/厚さ)が十分に大きい(例えば10以上)場合、Z軸方向に対して誘導される形状磁気異方性はさほど問題にはならない。しかし、配置する伝送線路が微細化することによって、アスペクト比を十分確保できなくなった場合、全ての方向に対するμ’’が小さくなるため、伝送線路から輻射された電磁波の吸収効率が低下する。
以上のように、特許文献4に記載の技術では、グラニュラー薄膜に分散された強磁性体が導電体として作用するので、電磁波の反射を抑制するためには電磁波吸収シートの形状が制限される。電磁波の輻射源がさらに微小化された場合、電磁波の反射を抑制し得る形状に形成することによって電磁波の吸収効率を低下させるおそれがある。
また、縦長の電磁雑音抑制体73および正方形の電磁雑音抑制体79に共通した問題点として、電磁雑音抑制体200の切断工程や輻射源に対して配置する工程など、輻射源の微細化に従って要求される精度が向上し続ける、煩雑な工程を含んでいることである。
さらに、特許文献2、特許文献3および特許文献4に記載の電磁波吸収シートはいずれも、スパッタ装置などの高価であり、かつ使用に際して高エネルギーを要する真空装置を用いて作製されている。このため、設備投資を要するだけでなくランニングコストも高い。よって、電磁波吸収シートのコストが高くなる。
本発明は上記問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便で安価な方法を用いて、形状に制限を受けることなく電磁波の吸収効率を上昇させ、かつ電磁波の反射効率を低減させた電磁波吸収シートおよびその製造方法を提供することである。
上記課題を解決するために、本発明の電磁波吸収シートは、磁性体微粒子によって電磁波を吸収するために、該磁性体微粒子が分散されている高分子材料からなる第1の磁性層と、該第1の磁性層上に形成されており、高分子材料からなる非磁性層と、該非磁性層上に形成されており、該磁性体微粒子が分散されている高分子材料からなる第2の磁性層とを備えており、該第1の磁性層における磁化容易軸方向が、該第2の磁性層における磁化容易軸方向と異なっている。
上記のように、本発明の電磁波吸収シートは、第1の磁性層、非磁性層および第2の磁性層からなる3層構造を備えており、第1の磁性層の磁化容易軸方向と第2の磁性層の磁化容易軸方向が異なっている。このため、例えば、第1の磁性層によって効率的に吸収できないような方向(磁性層の面と平行で磁化容易軸方向に対して直角をなす方向)を有する電磁波が輻射されたとしても、第1の磁性層とは異なる磁化容易軸方向を有する第2の磁性層によって該電磁波を効率的に吸収することができる。逆に、第2の磁性層で効率的に吸収できない電磁波は、第1の磁性層によって効率的に吸収できる。すなわち、上記電磁波吸収シートは、等方的なμ’’の大きさを有しているため、あらゆる方向を有する電磁波を効率的に吸収することができる。
さらに、第1および第2の磁性層が非磁性層を介して形成されているため、第1の磁性層と第2の磁性層とは、磁気的結合を形成することができる。第1の磁性層と第2の磁性層とが形成している磁気的結合の強度は、電磁波吸収シートが効率的に吸収することができる電磁波の周波数に影響を与える。例えば、上記磁気的結合の強度を高めると、より高い周波数の電磁波を効率的に吸収できる。さらに、上記磁気的結合の強度は、非磁性層の厚さを変えることによって調節することができる。例えば、非磁性層を薄くすると、上記磁気的結合の強度が高まる。つまり、非磁性層の厚さを変えて第1の磁性層と第2の磁性層とが形成している磁気的結合の強度を調節することによって、所望の周波数を有する電磁波を特異的に効率よく吸収することができる。
上記構成において、磁性体微粒子を高分子材料に分散させているため、酸化物や窒化物に磁性体微粒子を分散させたグラニュラー磁性体のように、磁性体微粒子が導電体として作用しない。これは、酸化物や窒化物と比較して、高分子材料の電気比抵抗が高いためである。磁性層における磁性体微粒子が導電体として作用する場合、伝送線路から輻射された電磁波(電磁雑音)の一部を、吸収せずに輻射源(ここでは、伝送線路)に反射してしまう。輻射源に反射された電磁波は、輻射源の動作に異常を来たす。
従来、上記グラニュラー磁性体を用いて電磁波の輻射を抑制する場合、上記反射を抑制する必要があった。上記反射を抑制する方法としては、例えば、伝送線路の幅よりもグラニュラー磁性体の幅を小さくして配置する方法が採用されていた。この場合、電磁波の反射は抑制できるものの、伝送線路の形状に合わせて細線化すること、または伝送線路の交差や折れ曲がりに合わせて正方形に形成することによって、その形状に起因して発現する形状磁気異方性の影響を受ける。形状磁気異方性の影響を受けることによって、様々な方向から効率的に電磁波を吸収するために複数の方向に対して付与した一軸磁気異方性が、全体的にまたはある方向において弱まる。このように、従来の方法では形状に制限を受けてしまうため、電磁波の反射を抑制し、かつ電磁雑音を効率的に抑制することができなかった。
本発明の電磁波吸収シートは、上述のように、電気比抵抗の高い高分子材料に磁性体微粒子を分散させているため、形状に制限を受けずに電磁波の反射を抑制し得る。形状に制限を受けないため、複数の磁性層に付与した、異なる方向を向いている一軸磁気異方性が弱まることがない。このため、電磁波吸収シートが有するμ’’の大きさの等方性を維持することができる。つまり、反射を抑制し、かつ効率的に様々な方向から輻射された電磁波を吸収することができる。
さらに、輻射源の形状に合わせて電磁波吸収シートを形成する必要がない。特に、回路基板上に形成される伝送線路や素子が微細化するに従って、精密な形状に形成しなければならない。このため、製造工程が煩雑化する。精密な形状を有する磁性体吸収シートの形成だけでなく、形成物の配置もより精密に行う必要がある。このように、本発明の電磁波吸収シートは、輻射源の形状に厳密に形状を合わせる必要がないので、その製造において、煩雑な工程を省略することができる。
また、さらに、従来のグラニュラー磁性体は、通常、スパッタ装置を用いて形成されていた。スパッタ装置は、装置自体が高価な上に、作動させるのに高エネルギーを要する。よって、設備費およびランニングコストが高い。
一方、本発明に係る磁性体微粒子を高分子材料の層に分散させた磁性層は、簡便かつ低コストな方法で形成することができる。例えば、高分子材料の層をアルカリ溶液に浸し、磁性体微粒子を構成する金属イオンを含んだ溶液をアルカリ溶液に浸した高分子材料の層の一面を接触させることによって、該金属イオンを高分子材料の層に取り込ませる。金属イオンを取り込ませた高分子材料の層を、一定方向に対して磁場を印加しながら還元ガスで処理することによって、磁性体微粒子を高分子材料の層に対して均一に分散させることができる。このように、アルカリ溶液、金属イオンを含む溶液、還元ガスといった安価で取り扱いが容易な材料を用いることができるため、処理に必要な設備も低コストである。
以上のように、簡便で安価な方法を用いて、形状に制限を受けることなく電磁波の吸収効率を上昇させ、かつ電磁波の反射効率を低減させた電磁波吸収シートを実現できるという効果を奏する。
また、本発明の電磁波吸収シートは、高分子材料からなる1枚の高分子シートから構成されており、該高分子シートおいて対向する第1面および第2面のうち、第1面に上記第1の磁性層が形成され、第2面に上記第2の磁性層が形成されている。
上記構成を有する電磁波吸収シートを製造するためには、例えば、磁性体微粒子は1枚の高分子シートの両面から分散させればよい。よって、第1の磁性層、第2の磁性層および非磁性層を別個の高分子シートから作製する必要がない。そして、第1の磁性層、第2の磁性層および非磁性層を積層する工程を省略することができるので、高分子シートの両面から磁性微粒子を分散させる装置を使用すれば、上記電磁波吸収シートを作製することができる。
すなわち、優れた性能を有する電磁波吸収シートを簡便かつ低コストで製造することができる。
また、本発明の電磁波吸収シートにおいて、上記第1の磁性層における磁化容易軸方向と上記第2の磁性層における磁化容易軸方向とが、90°異なっていることが好ましい。
磁化容易軸方向が90°異なっているとは、電磁波吸収シートとして形成した状態において、2つの磁性層のそれぞれがシート面に平行な磁化容易軸方向を有し、かつその2つの磁化容易軸同士が、90°の角度をなしているということである。
ここで、1つの磁化容易軸方向と直交する方向は、磁化困難軸方向である。磁性層が有する磁化困難軸方向と伝送線路の高周波電流方向とが一致するとき、該伝送線路から輻射される電磁波のほとんどを該磁性層によって吸収することができない。例えば、1つの磁性層の磁化容易軸方向にと伝送線路ある箇所の高周波電流方向とを一致させた場合、伝送線路が分岐、交差および/または折れ曲がりを有していると、方向が変わった後の高周波電流から輻射される電磁波のほとんどを吸収することができなくなる。
上記構成を有することによって、1つの電磁波吸収シートは、直交した2つの磁化容易軸方向を有している。このため、2つの磁化容易軸方向のいずれか一方と伝送線路の高周波電流方向とを一致させれば、該高周波電流から輻射される電磁波を非常に高い効率で吸収することができる。そして、上記伝送線路が分岐、交差および/または折れ曲がりを有していても、上記高周波電流方向と直交する高周波電流から輻射される電磁も同様に高い効率で吸収することができる。
実際の回路基板上において、伝送線路を流れる高周波電流の方向は、90°変化することが多い。例えば、伝送線路の分岐、交差および折れ曲がりなどである。つまり、2層の磁性層が有する磁化容易軸方向が90°異なっていることによって、等方的な電磁波の吸収を実現することができる。
また、本発明の電磁波吸収シートにおいて、上記磁性体微粒子は、Fe、Co、Niまたはこれらの組み合わせから構成された軟磁性体微粒子であることが好ましい。
Fe、Co、Niまたはこれらの組み合わせから構成された磁性体微粒子は、強磁性体である。強磁性体は、大きな磁気損失(または複素透磁率の虚数部)(μ’’)を有している。μ’’の大きさに比例して、伝送線路または輻射源に対する等価的な抵抗成分が大きくなる。等価的な抵抗成分が伝送線路や輻射源に対して付与されることによって、電磁波を吸収する。すなわち、μ’’の大きさは、電磁波の吸収効率の高さと言い換えることができる。
大きなμ’’を有する磁性体微粒子を分散させた磁性層を備える電磁波吸収シートは、その電磁波の吸収効率が高いので、一層の薄型化を行ったとしても十分に電磁波を吸収することができる。よって、伝送線路などの輻射源の微細化および回路の省スペース化に対応した薄型化が可能な電磁波吸収シートを実現できる。
また、本発明の電磁波吸収シートにおいて、上記磁性体微粒子の体積が、上記磁性層の体積の15%〜60%を占めていることが好ましい。
磁性層の体積に対する磁性体微粒子の体積比が15%を下回ると、磁性体微粒子同士の磁気的結合が弱まる。磁性体微粒子のそれぞれは、磁性層中において、原子レベルで磁気的な結合を形成することによって、安定した軟磁性を発揮する。高分子材料を増やすと、さらに電磁波の反射を抑制できるが、磁性体微粒子間の磁気的結合を極端に弱めてしまい、磁性体微粒子のそれぞれが孤立する。磁性体微粒子のそれぞれが孤立すると、熱かく乱によって容易に軟磁性を失ってしまう。さらに、磁性体微粒子のそれぞれが孤立した状態では、磁性層に一軸磁気異方性を付与し、その一軸磁気異方性を維持させることが困難である。よって、電磁波の吸収効率を低下させる。
磁性層の体積に対する磁性体微粒子の体積比が60%を上回ると、逆に磁性体微粒子同士が物理的に接触する割合が大きくなり過ぎる。当然、磁性体微粒子同士の磁気的結合の強さが極端に大きくなる。このため、電気比抵抗の大きな高分子材料に分散させた場合であっても、電磁波の反射の影響を無視できなくなる。
すなわち、上記磁性体微粒子の体積が、上記磁性層の体積の15%〜60%を占めている場合、輻射源への電磁波の反射を抑制し、かつ輻射源からの電磁波を効率的に吸収することができる。
また、本発明の電磁波吸収シートにおいて、上記非磁性層の厚さが、20nm〜200nmであることが好ましい。
非磁性層を薄く形成すればするほど、1つの非磁性層を挟む2つの磁性層同士が形成する磁気的結合の強度を向上させることができる。2つの磁性層同士が形成する磁気的結合を強くすることによって、磁性層が有するμ’’の周波数に対する分散分布のピーク(共鳴周波数)を、より高い周波数側へシフトさせることができる。つまり、非磁性層の厚さを変化させることによって、電磁波吸収シートが電磁波を効率的に吸収することができる周波数域を変化させることができる。よって、所望の周波数の電磁波を効率的に吸収することができる。さらに、今後使用が予想される高周波数の高周波電流から輻射される電磁波への対応も可能である。
ただし、非磁性層の厚さを20nm未満に形成することは非常に困難であり、再現性よく同程度の厚さを有する非磁性層を形成することができない。つまり、安定した性能を備えている電磁波吸収シートを提供することが困難になる。一方、非磁性層を、200nmを超える厚さに形成すると、2つの磁性層同士が形成する磁気的結合が弱くなりすぎるため、磁性層が有する共鳴周波数をより高い周波数側へシフトさせる作用が弱まってしまう。つまり、非磁性層が上記範囲の厚さを有することによって、効率的な電磁波の吸収を安定して実現できる電磁波吸収シートを提供することができる。
また、本発明の電磁波吸収シートにおいて、上記第1の磁性層および上記第2の磁性層は、約10μΩcmの大きさの電気比抵抗を有していることが好ましい。
従来の強磁性体を用いた磁性層は十分に電気比抵抗が高くないため、導電体として作用する。例えば、グラニュラー磁性体が有する電気比抵抗は、10〜10μΩcm程度であり、グラニュラー磁性体は十分に高い電気比抵抗を有しているとは言えない。電磁波吸収シートの電気比抵抗が十分に高くない場合、上述したように、輻射源に対して電磁波を反射してしまう。
高分子材料に強磁性体を分散させることによって、磁性層が有する電気比抵抗を十分に高めた上記構成を実現する(磁性層が有する電気比抵抗を約10μΩcm程度に設定する)ことができる。よって、輻射源への電磁波の反射を効率的に抑制することができる。
上記課題を解決するために、本発明の電磁波吸収シートの製造方法は、高分子材料からなる高分子シートにおいて対向する第1面および第2面に、それぞれ金属イオンを導入する工程;該第1面に第1方向から磁場を印加しながら、該第1面に導入した金属イオンを還元することによって、該第1面に金属微粒子を分散させる工程;ならびに該第2面に該第1方向とは異なる第2方向から磁場を印加しながら、該第2面に導入した金属イオンを還元することによって、該第2面に金属微粒子を分散させる工程を包含する。
上記方法は、磁性層を形成するための1工程において、高分子シートの両面に対して金属イオンを導入する。さらに、磁性層を形成するための1工程において、高分子シートの両面に対して導入した金属イオンを還元することによって、高分子シートに金属微粒子を分散させる。このように、スパッタ装置を用いることなく、磁性体微粒子を高分子シートに分散させることができる。すなわち、安価かつ簡便な方法を用いて、上述の電磁波吸収シートを製造することができる。さらに、1つの高分子シートを用いて上述の電磁波吸収シートを製造することができる。
さらに、磁性層を形成するための1工程において、第1面には、第1方向から磁場を印加しながら金属微粒子を分散させる。そして、第2面には、第1方向とは異なる第2方向から磁場を印加しながら金属微粒子を分散させる。このため、1つの電磁波吸収シートの両面に形成された磁性層のそれぞれに対して、異なる方向を向いている磁化容易軸方向を付与することができる。このため、上記方法によって製造された電磁波吸収シートは異方性のないμ’’(等方性を有するμ’’)の大きさを有している。このため、上記電磁波吸収シートは、異方性のない(等方性の)電磁波の吸収を実現することができる。
例えば、非磁性層の厚さは、第1面および第2面から金属イオンを導入する時間を調節することによって、調節することができる。このため、磁性層を所望の厚さに形成することが容易である。磁性層の膜厚を調整することによって、該非磁性層を挟む2つの磁性層間に生じる磁気的結合の強度を調整することができる。上述のように、2つの磁性層間に生じる磁気的結合の強度を変化させることによって、磁性層が有する共鳴周波数(μ’’の周波数に対する分散分布のピーク)を変化させることができる。μ’’の周波数に対する分散分布のピークは、磁性層が効率的に吸収し得る電磁波の周波数と一致する。
つまり、非磁性層の厚さを調整することによって、所望の周波数の電磁波を特異的に吸収し得る電磁波吸収シートを、より簡便な手法を用いて製造することができる。
また、本発明の電磁波吸収シートにおいて、金属イオンを取り込ませる上記工程が、上記高分子材料からなる層または上記非磁性層に対するアルカリ溶液の処理;およびアルカリ溶液で処理した高分子材料からなる該層または非磁性層に対する金属イオンを含む溶液の処理を含んでいてもよい。
アルカリ溶液としては、例えば、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウム溶液を用いることができる。高分子材料の層をアルカリ溶液で処理することによって、該高分子材料の層にカルボキシル基を形成させることができる。カルボキシル基は、金属イオンと陽イオン交換反応を起こすことができる。アルカリ溶液で処理した高分子材料の層を所望の金属イオンを含む溶液に浸すことによって、高分子材料の層に対して所望の金属イオンを容易に導入することができる。
高分子材料の層に導入された金属イオンを還元させる(高分子材料の層を還元ガスで処理する)ことによって、該高分子材料の層に磁性体微粒子を分散させることができる。
このように、安価な材料を用いて、簡便に所望の磁性体微粒子を高分子材料の層に分散させることができる。
上記金属イオンが、Feイオン、Coイオン、Niイオンまたはこれらの組み合わせから構成されていることが好ましい。
上記構成を有することによって、還元されることでFe、Co、Niまたはこれらを組み合わせた合金から構成される強磁性体を、高分子材料の層に分散させることができる。Feイオン、Coイオン、Niイオンまたはこれらを組み合わせたイオンは、従来公知の化合物を用いて得ることができる。
よって、入手が容易な材料を用いて、形状に制限を受けることなく電磁波の吸収効率を上昇させ、かつ電磁波の反射を抑制することができる。
以上のように、本発明の電磁波吸収シートは、磁性体微粒子によって電磁波を吸収する電磁波吸収シートであって、該磁性体微粒子が分散されている高分子材料からなる第1の磁性層と、該第1の磁性層上に形成されており、高分子材料からなる非磁性層と、該非磁性層上に形成されており、該磁性体微粒子が分散されている高分子材料からなる第2の磁性層とを備えており、該第1の磁性層における磁化容易軸方向が、該第2の磁性層における磁化容易軸方向と異なっている。このため、簡便で安価な方法を用いて、形状に制限を受けることなく電磁波の吸収効率を上昇させ、かつ電磁波の反射効率を低減させた電磁波吸収シートを実現できるという効果を奏する。
本発明に係る実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。以下の説明において同一の部材および構成要素のそれぞれには、同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同様である。従ってそれらについての詳細な説明は繰り返さない。
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態である電磁波吸収シート10の構成について図1〜図3を用いて以下に説明する。図1は、一実施形態の電磁波吸収シート10の構造を示す立体図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電磁波吸収シート10は、2つの磁性層1a、1bおよび高分子材料から構成された非磁性層である高分子層5を備えている。つまり、電磁波吸収シート10は3つの層から構成されている。電磁波吸収シート10を3層構造として形成する場合、1つの高分子シートの両面(Z軸方向およびZ軸の反対方向)から磁性体微粒子3(の材料)を該高分子シートに分散させることによって、電磁波吸収シート10を製造することができる。この方法については、実施の形態2において詳述する。
第2の磁性層1aおよび第1の磁性層1bは、高分子マトリックス7に磁性体微粒子3を分散させた層である。さらに、磁性層1aはY軸方向に平行な一軸磁気異方性の方向(磁化容易軸方向11a)を有しており、磁性層1bはX軸方向に平行な一軸磁気異方性(磁化容易軸方向11b)を有している。磁化容易軸方向11aと磁化容易軸方向11bとをZ軸方向から見ると、直角に交差している。高分子層5は、第2の磁性層1aおよび第1の磁性層1bに挟まれている。
磁化容易軸方向に直交する方向は、磁化困難軸方向である。磁性体にとって、磁化困難軸方向に平行な伝送線路の高周波電流から輻射される電磁波の吸収効率は最小である。このため、上述のように磁化容易軸方向11aと磁化容易軸方向11bとが平行ではないとき、第2の磁性層1aおよび第1の磁性層1bのそれぞれが有する磁化困難軸方向も平行にはならない。よって、電磁波の吸収効率の極端な低下を避けることができる。さらに、磁化容易軸方向11aと磁化容易軸方向11bとが90°をなしているので、第2の磁性層1aによる電磁波の吸収効率が最小になる角度は、第1の磁性層1bによる電磁波の吸収効率が最大になる角度である。このような場合、互いに低い吸収効率を補い合うことができるため、電磁波吸収シート10は、あらゆる角度を有する電磁波を、異方性のない(等方性の)吸収を行うことができる。
さらに、従来の電磁波吸収シートにおいては、一軸磁気異方性の大きさを調節することによって、電磁波の周波数に対するμ’’の分散分布におけるピーク(μ’’の周波数プロファイル)を調整している。例えば、磁性層に付与する一軸磁気異方性を大きくすることによって、磁性層1の共鳴周波数(μ’’の分散分布におけるピーク)を高周波側にシフトさせることができる。よって、より高周波を有する電磁波の抑制(ノイズ対策)を行うことができる。
従来と同様に、本発明に係る電磁波吸収シート10においても、第1の磁性層1bおよび第2の磁性層1aのそれぞれが有する磁化容易軸方向11bおよび11aの一軸磁気異方性の大きさを調整することによって、磁性層1の共鳴周波数を高周波側にシフトさせることができる。
さらに、本発明に係る電磁波吸収シート10は、磁化容易軸方向11bおよび11aの一軸磁気異方性の大きさを調整する方法に加えて、磁性層1の共鳴周波数を調整する方法を採用することができる。上述のように本発明に係る電磁波吸収シート10は、2つの磁性層1を有している。このため、第2の磁性層1aと第1の磁性層1bとの間に磁気的相互作用が働いている(磁気的な結合が形成されている)。上記磁気的相互作用を増強させることによって、磁性層1の共鳴周波数を高周波側にシフトさせることができる。よって、従来の電磁波吸収シートと比較して、本発明に係る電磁波吸収シート10は、より高い周波数を有する電磁波を吸収することができる。
ここで、第2の磁性層1aおよび第1の磁性層1bに挟まれた高分子層5の厚さが、第2の磁性層1aおよび第1の磁性層1b間の磁気的相互作用の強度に影響を与えている。高分子層5が薄い(第2の磁性層1aと第1の磁性層1bと距離が短い)ほど第2磁性層1aおよび第1の磁性層1b間の磁気的相互作用の強度を向上させる。従って、高分子層5を薄膜化することによって、2つの磁性層1の共鳴周波数を高周波側へシフトさせることができる。よって、本発明に係る電磁波吸収シート10は、より高い周波数を有する電磁波を吸収(ノイズ対策を)することができる。
非磁層5の厚さを変更することによって、所望の周波数の電磁波を特異的に吸収することができる電磁波吸収シート10を形成することができる。さらに、上述のように、磁性層1が有する磁化容易軸方向11の一軸磁気異方性の大きさを調整することによって、同様に所望の周波数の電磁波を特異的に吸収することができる。
また、第2の磁性層1aおよび第1の磁性層1bに分散している磁性体微粒子3の材料としては、Fe、Ni、Coまたはそれらの合金が挙げられる。上記材料から構成された磁性体微粒子3を含む電磁波吸収シート1は、大きな磁気損失(または複素透磁率の虚数部(μ’’))を示す。上述のように、本発明の電磁波吸収シート10は、電子機器、機器内部の回路基板または機器内部の部品から輻射された電磁波を、磁性体微粒子3の磁気損失によって吸収する。磁気損失を利用した電磁波吸収特性は、電磁波吸収シート10の面積が一定の場合、電磁波吸収シート10のμ’’の大きさおよび厚さにおおよそ比例する。従って、大きなμ’’を示す本発明に係る電磁波吸収シート10は、高い電磁波吸収特性を示す。
また、磁性層1における高分子マトリックス7の体積と磁性体微粒子3の体積の比は、15%〜60%であることが好ましい。上記体積の比が15%を下回ると磁性体微粒子同士の磁気的結合が弱まる。磁性体微粒子のそれぞれは、磁性層中において、原子レベルで磁気的な結合を形成することによって、その安定な軟磁性を発揮している。高分子材料を増やすと、さらに電磁波の反射を抑制できるが、磁性体微粒子間の磁気的結合を極端に弱めてしまい、磁性体微粒子のそれぞれが孤立する。磁性体微粒子のそれぞれが孤立すると、熱かく乱によって容易に軟磁性を失ってしまう。さらに、磁性体微粒子のそれぞれが孤立した状態では、磁性層に一軸磁気異方性を付与しても、その一軸磁気異方性を維持させることが困難である。以上のことから、上記体積の比が15%を下回ると、電磁波の吸収効率が低下する。
磁性層の体積に対する磁性体微粒子の体積比が60%を上回ると、逆に磁性体微粒子同士が物理的に接触する割合が大きくなり過ぎる。当然、磁性体微粒子同士の磁気的結合の強さが極端に大きくなる。このため、電気比抵抗の大きな高分子材料に分散させた場合であっても、電磁波の反射の影響を無視できなくなる。
従って、第2の磁性層1aおよび第1の磁性層1bに磁化容易軸方向11bおよび11aを付与し、かつ大きな電気比抵抗を有する磁性層1を実現することによって反射による2次障害を防止するためには、高分子マトリックス7と磁性体微粒子3との体積比を、15%〜60%に設定すること好ましい。なお、本実施形態における電磁波吸収シート10は、高分子マトリックス7と磁性体微粒子3との体積比が40%になるように、作製した。
次に、図2を用いて本発明に係る電磁波吸収シート10における、磁性層1の周波数特性(共鳴周波数)について説明する。図2は、本発明に係る電磁波吸収シート10における、磁性層1の周波数特性について説明するためグラフである。図2(a)は、本発明に係る電磁波吸収シート10の磁性層1の周波数特性を示すグラフであり、(b)は、従来の磁性層を1つだけ備えている電磁波吸収シート100(図5を参照のこと)における磁性層1の周波数特性を示すグラフである。
図2(a)に示すように、本発明に係る磁性層1の周波数特性は、図1の電磁波吸収シート10のX軸方向およびY軸方向どちらに高周波磁界を印加しても、大きなμ’’を示した。すなわち、磁性層1のμ’’の大きさが等方性を有していることがわかった。
一方、図2(b)において示すように、従来の電磁波吸収シート100は、一軸磁気異方性を有する方向(磁化容易軸方向)に対して垂直に高周波磁界を印加すると、大きなμ’’を示す。一軸磁気異方性の方向に対して平行に高周波磁界を印加すると、非常に小さなμ’’を示す。
さらに、図2(a)および図2(b)を比較すると、電磁波の周波数に対するμ’’の分散分布のピークは、本発明に係る電磁波吸収シート10において、より高い周波数側に存在していることが分かる。従来の電磁波吸収シート100は、一軸磁気異方性の強度を調節することによって共鳴周波数を調節(大きく)することができる。これに対し、本発明に係る電磁波吸収シート10は、一軸磁気異方性の強度の調節に加え、第2の磁性層1aおよび第1の磁性層1b間における磁気的相互作用の影響によって、より高周波側に共鳴周波数がシフトしている。
次に、L形状を有する伝送線路(輻射源)の近傍に電磁波吸収シート10を配置した場合における、電磁波吸収シート10による伝送線路からの電磁波の輻射の抑制について図3を用いて説明する。
図3は輻射源の近傍に配置した図1の電磁波吸収シート10を示す平面図である。図3は、ノイズ対策として、直角に曲がった伝送線路21上に電磁波吸収シート10を貼り付けた場合を示している。また、右下には、電磁波吸収シート10の第2の磁性層1aと第1の磁性層1bの磁化容易軸方向11bおよび11aの方向が示されている。
図3に示すように、伝送線路21の高周波電流22aの流れる方向がY方向と平行な箇所(伝送線路がY方向に伸びている箇所)から輻射される高周波磁界23aと、第2の磁性層1aの一軸磁気異方性の方向(磁化容易軸方向11a)とが直行する。よって、高周波磁界23aが、電磁波吸収シート10の第2の磁性層1a(図1を参照のこと)の磁化に対して有効的に作用する。高周波磁界23aは、第2の磁性層1aにおいて効率的に吸収(抑制)される。なお、第1の磁性層1bの磁化容易軸方向11bは、高周波磁界23aと平行になるため、第1の磁性層1bは高周波磁界23aの吸収にほとんど寄与しない。
また、伝送線路21の高周波電流22bの流れる方向がX方向と平行な箇所(伝送線路がX方向に伸びている箇所)から輻射される高周波磁界23bと、第1の磁性膜1bの一軸磁気異方性の方向(磁化容易軸方向11b)とが直行する。よって、高周波磁界23bが、電磁波吸収シート10の第1の磁性膜1b(図1を参照のこと)の磁化に対して有効的に作用する。高周波磁界23bは、第1の磁性膜1bにおいて効率的に吸収(抑制)される。なお、第2の磁性層1aの磁化容易軸方向11aは、高周波磁界23bと平行になるため、第2の磁性層1aは高周波磁界23bの吸収にほとんど寄与しない。
このように、本発明に係る電磁波吸収シート10は、基板上に形成された伝送線路21のパターンに関わらず、等方性の電磁波の吸収能を有している。
以上において説明したように、本発明に係る電磁波吸収シート10は、磁性体微粒子3によって電磁波を吸収するために、磁性体微粒子3が分散されている高分子材料7からなる第1の磁性層1bと、第1の磁性層1b上に形成されており、高分子材料からなる高分子層5と、高分子層5上に形成されており、磁性体微粒子3が分散されている高分子材料7からなる第2の磁性層1aとを備えており、第1の磁性層1bにおける磁化容易軸方向11bが、第2の磁性層1aにおける磁化容易軸方向11aと異なっている。
上記構成において、第1の磁性層1bおよび第2の磁性層1aのそれぞれが有する磁化容易軸方向11bおよび磁化容易軸方向11aが異なる方向(例えば、90°異なる方向)を向いている。よって、第1の磁性層1bおよび第2の磁性層1aは、互いに磁化容易軸方向と平行に輻射された電磁波に対する低い吸収効率を補い合うことができる。よって、電磁波吸収シート10は、あらゆる角度を有する電磁波を、異方性のない(等方性の)吸収を行うことができる。電磁波吸収シート10は、等方性の電磁波吸収特性を有すると言い換えることができる。
また、磁性層1において、磁性体微粒子3は高分子マトリックス7(高分子材料)中に分散している。高分子マトリックス7は電気比抵抗が高いので、強磁性体からなる磁性体微粒子3を用いても、電磁波の反射を抑制することができる。つまり、電磁波の反射を抑制するために、電磁波吸収シート10の形状を、輻射源の形状に合わせる必要がない。さらに、電磁波の反射が生じないような配置を過度に考慮する必要がない。よって、煩雑な工程行わなくてもよい。すなわち、製品の量産化より容易になる。
また、第1の磁性層1bおよび第2の磁性層1aのそれぞれに対して一軸磁気異方性が付与されている。第1の磁性層1bおよび第2の磁性層1aに付与した一軸磁気異方性の強さを調節することによって、電磁波吸収シート10の、電磁波の周波数に対するμ’’を高周波数側にシフトさせることができる。さらに、第1の磁性層1bと第2の磁性層1aとの間には、磁気的結合が形成される。第1の磁性層1bと第2の磁性層1aとの間の距離(高分子層5の厚さ)を小さくすることによって、電磁波の周波数に対するμ’’をより高周波数側にシフトさせることができる。
また、磁性体微粒子3は、Fe、Ni、Coまたはそれらの合金から形成構成されていることが好ましい。これによって、大きなμ’’を有する電磁吸収シート10を実現することができる。さらに、電磁波の吸収効率を維持した状態で、電磁吸収シート10を薄型化することもできる。
また、磁性層1における高分子マトリックス7の体積と磁性体微粒子3の体積の比は、15%〜60%であることが好ましい。これによって、輻射源への電磁波の反射を抑制し、かつ輻射源からの電磁波を効率的に吸収することができる。
〔実施の形態2〕
以下において、図4を用いて本発明に係る電磁波吸収シート10の製造方法について説明する。図4は、本発明に係る電磁波吸収シート10の製造工程を説明する立体図である。
まず、高分子シートとしてポリイミドシート9を用意する(S1)。高分子シートの材料としては、非磁性体5を形成し、かつ高い電気比抵抗を有する材料であればよく、従来公知の種々の材料を用いることができる。
次に、ポリイミドシート9の対向する第1面および第2面をアルカリ溶液で処理することによって、表面改質層1a’および表面改質層1b’を形成する(S2)。
処理に用いるアルカリ溶液としては、水酸化カリウム(KOH)および水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ水溶液が挙げられる。ポリイミドシート9の第1面および第2面を、40〜60℃で3〜7mol/lのアルカリ水溶液に浸漬する。アルカリ溶液への浸漬時間を長くすると、形成される表面改質層1a’および表面改質層1b’の厚さが増す。表面改質層1a’および表面改質層1b’の厚さは、ほぼ第1の磁性膜1bおよび第2の磁性膜1aの厚さに等しい。つまり、ポリイミドシート9のアルカリ溶液絵の浸漬時間によって、高分子層5の厚さもほぼ決まる。
このため、この工程を行うに際して、予め、高分子シートの条件(例えば、材料、厚さおよび形成方法など)、磁性膜1および高分子層5の厚さ、ならびにアルカリ溶液の条件(溶液の種類、温度など)に応じて、所望の厚さの表面改質層1a’および表面改質層1b’(または高分子層5)を形成するための条件を決定しておくことが好ましい。なお、ポリイミドシート9に対するアルカリ溶液の浸漬時間を調節することによって、表面改質層1a’および表面改質層1b’の厚さを、約20nm単位で調節することができる。
表面改質層1a’および表面改質層1b’をアルカリ水溶液に浸漬すると、アルカリ水溶液によってポリイミドシート9のイミド環が加水分解を受ける。上記加水分解によってポリイミドシート9に含まれるイミド環が開環する。イミド環の開環によってカルボキシル基が露出する。すなわち、表面改質層1a’および表面改質層1b’は、その内部にカルボキシル基を含む層である。
また、ポリイミドシート9の内、アルカリ溶液の処理で改質を受けなかった部分は、高分子層5になる。実施の形態1において説明したように、高分子層5の厚さは、2つの磁性層1間の磁気的結合に影響を与える。高分子層5が薄いほど、上記磁気的結合の強度が向上するので、高分子層5は薄く形成されることが好ましい。
ここで、高分子層5の厚さは、20nm〜200nmであることが好ましい。上記方法を用いた場合、表面改質層の厚さを制御できる限界が約20nmであるため、厚さ20nm未満の高分子層5を形成することが困難である。一方、高分子層5の厚さが200nmを上回ると、2つの磁性層1間における磁気的結合の強度が小さくなりすぎるので、電磁波吸収シートが有する共鳴周波数への影響をほとんど失ってしまう。
高分子層5の厚さは、50nm程度であることがさらに好ましい。50nm程度の厚さを有する高分子層5であれば、上記方法を用いて再現性よく形成することができ、かつ2つの磁性層1を十分に近づけることができる。よって、本実施の形態においては、高分子層5の厚さが50nm程度となるように表面改質層1a’および表面改質層1b’の厚さを調節している。
次に、表面改質層1a’および表面改質層1bを形成したポリイミドシート9を、金属イオン1’を含有する溶液に浸漬する(S3)。
上述のように、表面改質層1a’および表面改質層1b’にカルボキシル基が形成されているため、金属イオン3’と表面改質層1a’および表面改質層1b’とを接触させることによって、金属イオン3’がドープされる。これは、カルボキシル基と金属イオン3’を含有する溶液との間で、陽イオン交換反応が起こるためである。
金属イオン3’を含有する溶液に含まれる金属イオンとしては、Niイオン、Feイオン、Coイオンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。上述のような金属イオン3’を還元することによって磁性体微粒子3(強磁性体)が形成される。溶媒に溶解させることによってNiイオンが電離する化合物としては、塩化ニッケル、硫酸ニッケルおよび硝酸ニッケルなどが挙げられる。上述のような金属イオン3’イオンを含有する溶液で表面改質層1a’および表面改質層1b’を処理することによって、ポリイミドシート9に所望の金属イオン3’を導入することができる。ポリイミドシート9の両面に導入された金属イオン3’は、以下に述べる還元反応によって、単一の金属または合金からなる磁性体微粒子3をポリイミドシート9に分散させることができる。
次に、金属イオン3’をドープした表面改質層1a’’を、一定方向に磁場を印加しながら、還元性ガス中で加熱処理する(S4)。還元性ガスとしてH2ガスを用い、X軸方向に磁場を印加しながら、表面改質層1a’’の加熱処理(320℃)を行う。
S3において、金属イオン3’をドープしたポリイミドシート9の表面改質層1b’’側の面をホルダ32に密着固定する。これは、表面改質層1a’’選択的に対して還元性ガスを接触させることによって、表面改質層1a’’にドープされた金属イオン3’を選択的に還元するためである。金属イオン3’を還元することによって、ポリイミドシート9に磁性体微粒子3が分散している磁性層1aを形成することができる。このとき、X軸方向に磁場が印加されているため、磁性層1aにX軸方向に平行な一軸磁気異方性が付与される。なお、還元性ガス中で加熱処理すると、表面改質層1a’’において開環していたイミド環は脱水縮合反応を起こして閉環する。
次に、ポリイミドシート9を上下反転させ、金属イオン3’をドープした表面改質層1b’’を、一定方向に磁場を印加しながら、還元性ガス中で加熱処理する(S5)。加熱処理の条件は、磁場の印加方向を除いて同様である。また、ポリイミドシート9の反転は、磁性層1aの一軸磁気異方性の方向がX軸方向と平行な状態を維持するように行う。
磁性層1a側の面をホルダ32に固定する。このとき、特に密着固定を行う必要はない。Y軸方向に磁場を印加しながら、上記条件で加熱処理を行う。この操作によって、磁性層1bが形成される。
S1〜S5の工程を実施することによって、本発明に係る電磁波吸収シート10を製造することができる。このように、本発明に係る電磁波吸収シートの製造方法は、高価で動作に高エネルギーを要するスパッタ装置を用いることなく、安価かつ簡便な化学的手法を用いて電磁波吸収シート10を製造することができる。
以上において説明したように、本発明に係る電磁波吸収シートの製造方法は、高分子材料からなる高分子シート(例えば、ポリイミドシート9)において対向する第1面および第2面に、それぞれ金属イオン3’を導入する工程;該第1面1a’’に第1方向33aから磁場を印加しながら、該第1面1a’’に導入した金属イオン3’を還元することによって、該第1面1a’’に金属微粒子(磁性体微粒子3)を分散させる工程;ならびに該第2面1b’’に該第1方向33aとは異なる第2方向33bから磁場を印加しながら、該第2面1b’’に導入した金属イオン3’を還元することによって、該第2面1b’’に金属微粒子(磁性体微粒子3)を分散させる工程を包含する。
上記構成によって、実施の形態1の電磁波吸収シート10を製造することができる。電磁波吸収シート10が有する構成によって奏する作用および効果の詳細については、実施の形態1を参照のこと。
また、本発明に係る電磁波吸収シートの製造方法は、高価で動作に高エネルギーを要するスパッタ装置を用いることなく、安価かつ簡便な化学的手法を用いて、優れた上記効果を奏する電磁波吸収シート10を製造することができる。
〔その他の構成〕
本発明は、以下の構成であっても実現可能である。
(第1の構成)
高分子材料中に分散した磁性体微粒子によって電磁波を吸収する電磁波吸収シートにおいて、
高分子層と前記高分子層を挟んで高分子材料中に磁性体微粒子が分散している磁性層とからなる3層構造を有し、
前記磁性層の磁化容易軸方向が層ごとに異なっている電磁波吸収シート。
(第2の構成)
前記高分子層と前記高分子層を挟んで前記高分子材料中に磁性体微粒子が分散している磁性層とからなる3層構造は、前記磁性体微粒子を高分子シートの両面より、分散させることにより形成されている第1の構成に係る電磁波吸収シート。
(第3の構成)
前記高分子材料中に磁性体微粒子が分散している一方の磁性層の磁化容易軸方向は、他層と90°異なる第1または第2の構成に係る電磁波吸収シート。
(第4の構成)
前記磁性体微粒子は、Fe、Co、Niのいずれか、もしくは、それらの合金からなる軟磁性材料である第1〜第3のいずれか1つの構成に係る電磁波吸収シート。
(第5の構成)
前記高分子材料中に磁性体微粒子が分散している磁性層における、前記磁性体微粒子の体積充填率は、15%以上60%以下である第1〜第4のいずれか1つの構成に係る電磁波吸収シート。
(第6の構成)
前記高分子層の厚みを制御することにより、前記高分子材料中に磁性体微粒子が分散している各磁性層を磁気的に結合させる第1〜第5のいずれか1つに係る電磁波吸収シート。
(第7の構成)
高分子層と前記高分子層を挟んで前記高分子材料中に磁性体微粒子が分散している磁性層の3層構造を有し、前記高分子材料中に磁性体微粒子が分散している層の磁化容易軸方向が層ごとに異なっていることを特徴とする電磁波吸収シートの製造方法であって、
前記製造方法は、高分子シートの両面に磁性体イオンを導入する第1の工程と、
前記磁性体イオンの導入された前記高分子シートの片方の面を磁場印加しながら還元析出する第2の工程と、
前記第2の工程において還元析出した面と反対方向の面の前記磁性体イオンを、前記第2の工程と異なる方向から磁場印加しながら還元析出する第3の工程とからなる電磁波吸収シートの製造方法。
(第8の構成)
前記高分子シートの両面に磁性体イオンを導入する工程は、前記高分子シートの両面をアルカリ溶液を用いて改質し、磁性体イオン含有液と接触させることにより行う第7の構成に係る電磁波吸収シートの製造方法。
(第9の構成)
前記高分子シートの両面に導入される前記磁性体イオンは、Fe、Co、Niの磁性体イオンであることを特徴とする第7または第8の構成に係る電磁波吸収シートの製造方法。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明によれば、電子機器、機器内部の回路基板または部品から輻射される電磁波を抑制することができるため、電子機器全般に適用することができる。特に、高集積化され、かつ駆動電流の周波数が高い電子機器における電磁波の輻射を抑制する電磁波吸収シートとして適用することができる。
本発明に係る電磁波吸収シートの構造を示す立体図である。 (a)は、本発明に係る電磁波吸収シートの共鳴周波数および磁気損失を示すグラフであり、(b)は、従来の電磁波吸収シートの共鳴周波数および磁気損失を示すグラフである。 輻射源の近傍に配置した図1の電磁波吸収シートを示す平面図である。 本発明に係る電磁波吸収シートの製造方法を説明する立体図である。 (a)は、直線状の輻射源の近傍に配置した従来の電磁波吸収シートを示す立体図であり、(b)は、分岐を有する輻射源の近傍に配置した従来の電磁波吸収シートを示す立体図である。 折れ曲がりを有する輻射源の近傍に配置した従来の電磁波吸収シートを示す平面図である。 (a)は、従来の電磁波吸収シートを縦長に切断した状態を説明する立体図であり、(b)は、従来の電磁波吸収シートを正方形に切断した状態を説明する立体図である。
符号の説明
1 磁性層
1a 第2の磁性層
1b 第1の磁性層
3 磁性体微粒子
5 高分子層(非磁性層)
7 高分子マトリックス(高分子材料)
9 ポリイミドシート(高分子シート)
10 電磁波吸収シート
11a 磁化容易軸方向
11b 磁化容易軸方向
31 金属イオン
33a 磁場の印加方向(第1方向)
33b 磁場の印加方向(第2方向)

Claims (10)

  1. 磁性体微粒子によって電磁波を吸収する電磁波吸収シートであって、
    該磁性体微粒子が分散されている高分子材料からなる第1の磁性層と、
    該第1の磁性層上に形成されており、高分子材料からなる非磁性層と、
    該非磁性層上に形成されており、該磁性体微粒子が分散されている高分子材料からなる第2の磁性層とを備えており、
    該第1の磁性層における磁化容易軸方向が、該第2の磁性層における磁化容易軸方向と異なっていることを特徴とする電磁波吸収シート。
  2. 電磁波吸収シートは、高分子材料からなる1枚の高分子シートから構成されており、
    該高分子シートおいて対向する第1面および第2面のうち、第1面に上記第1の磁性層が形成され、第2面に上記第2の磁性層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波吸収シート。
  3. 上記第1の磁性層における磁化容易軸方向と上記第2の磁性層における磁化容易軸方向とが、90°異なっていることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波吸収シート。
  4. 上記磁性体微粒子は、Fe、Co、Niまたはこれらの組み合わせから構成された軟磁性体微粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁波吸収シート。
  5. 上記磁性体微粒子の体積が、上記磁性層の体積の15%〜60%を占めていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電磁波吸収シート。
  6. 上記非磁性層の厚さが、20nm〜200nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波吸収シート。
  7. 上記第1の磁性層および上記第2の磁性層が、約10μΩcmの大きさの電気比抵抗を有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電磁波吸収シート。
  8. 高分子材料からなる高分子シートにおいて対向する第1面および第2面に、それぞれ金属イオンを導入する工程;
    該第1面に第1方向から磁場を印加しながら、該第1面に導入した金属イオンを還元することによって、該第1面に金属微粒子を分散させる工程;ならびに
    該第2面に該第1方向とは異なる第2方向から磁場を印加しながら、該第2面に導入した金属イオンを還元することによって、該第2面に金属微粒子を分散させる工程を包含する
    ことを特徴とする電磁波吸収シートの製造方法。
  9. 金属イオンを導入する上記工程が、
    上記第1面および上記第2面に対するアルカリ溶液の処理;および
    アルカリ溶液で処理した該第1面および該第2面に対する金属イオンを含む溶液の処理
    を含むことを特徴とする請求項8に記載の電磁波吸収シートの製造方法。
  10. 上記金属イオンが、Feイオン、Coイオン、Niイオンまたはこれらの組み合わせから構成されていることを特徴とする請求項8または9に記載の電磁波吸収シートの製造方法。
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