実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の燃料電池システムの構成を説明するための図である。実施の形態1のシステムは、燃料電池12を有している。燃料電池12は、複数の燃料電池セルを積層して構成される。各燃料電池セルは、電解質膜、アノード、カソード、およびセパレータとから構成される。電解質膜はプロトン伝導性であり、適当な湿潤状態にあると良好な電気特性を発揮する。また、燃料電池のアノードおよびカソードには、それぞれ電極触媒層が備えられている。
図1に示すように、燃料電池12には、アノードガス流路14及びカソードガス流路16が導入されている。アノードガス流路14は、循環ポンプ26、可変調圧弁20、シャットバルブ21を介して、水素タンク18に連通している。水素タンク18内には水素リッチなアノードガスが高圧な状態で貯留されている。
シャットバルブ21を閉じた状態ではアノードガスの供給が停止され、シャットバルブ21を開くことでアノードガスが燃料電池12に供給される。アノードガスの供給中に可変調圧弁20を制御することで、燃料電池12の入口におけるアノードガスの圧力を調圧することができる。また、アノードガス流路14における燃料電池12の入口付近には、圧力センサ22が接続されている。
カソードガス流路16には、ポンプ24が設けられている。ポンプ24の駆動により燃料電池12のカソードへ、酸素を含む酸化ガスとしてのカソードガスが送られる。そして、ポンプ24の動作量を調整することにより、燃料電池12に送られるカソードガスの流量を調整することができる。
このような構成によれば、アノードガス流路14から燃料電池12に送られたアノードガスは、燃料電池12内の各燃料電池セルのアノードに送られる。同様に、カソードガス流路16から燃料電池12に送られたカソードガスは、燃料電池12内の各燃料電池セルのカソードに送られる。なお、以下の説明では、燃料電池12内の各燃料電池セルのアノードを、ひとまとめとして、単に「燃料電池12のアノード」とも呼称する。同様に、燃料電池12内の燃料電池セルのカソードを、ひとまとめとして、単に「燃料電池12のカソード」とも呼称する。
燃料電池12のアノードでは、アノードガスが送り込まれると、このアノードガス中の水素から水素イオンを生成する(H2→2H++2e−)。また、カソードは、カソードガスが送り込まれると、このカソードガス中の酸素から酸素イオンを生成し、燃料電池12内では電力が発生する。また、これと同時にカソードにおいて、上記の水素イオンと酸素イオンとから水(生成水)が生成される((1/2)O2+2H++2e−→H2O)。この水のほとんどは、燃料電池12内で発生する熱を吸収して水蒸気となり、カソードオフガス中に含まれて排出される。
アノードから排出されたアノードオフガスは、アノードオフガス流路46に送られる。アノードオフガス流路46は、その下流で循環ポンプ26に連通している。アノードオフガスは循環ポンプ26の駆動によりアノードガス流路14へ戻され、燃料電池12へと再び供給される。そして、このようなアノードオフガスの再供給と共に、水素タンク18からの水素の補充が行われる。このような構成によれば、アノードオフガスを燃料電池12送ることができ、アノードオフガス中に含まれる未反応の水素を燃料電池12内で反応させることができる。その結果、水素の利用効率を高めることができる。なお、上述したアノードガス流路14→燃料電池12のアノード→アノードオフガス流路46→循環ポンプ26を含む循環流路が、アノードガス循環流路を形成しているとも言うことができる。
燃料電池12のカソードから排出されたカソードオフガスは、図1に示すカソードオフガス流路58に送られる。カソードオフガスは、カソードオフガス流路58を通り、最終的には希釈器60から排出される。カソードオフガス流路58は、エア排圧調整弁62、希釈器60を介して、図示しないエア排気系へと連通している。
エア排圧調整弁62を制御することで、カソードオフガスの圧力を調整することができる。また、カソードオフガス流路58におけるエア排圧調整弁62の上流には、カソードオフガス圧力を検出する圧力センサ64が設けられている。
また、図1のシステムは、燃料電池12を冷却するための冷却液流路70を有している。冷却液流路70は、各燃料電池セルのセパレータに形成される冷却流路に連通している。このような構成によれば、冷却液流路70内で冷却液を循環させることにより、燃料電池セルを冷却することができる。なお、図1のシステムは、図示しない冷却液循環ポンプにより、冷却液の循環量を制御することができる。冷却液の循環量を適切に制御することで、発電に伴う燃料電池12の過度な温度上昇が抑えられ、燃料電池12の温度を最適なものとすることができる。
図1に示すように、本実施形態のシステムはECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40には、システムの運転状態を把握すべく、燃料電池12の出力(電圧値、電流値)、冷却水温などを検出するための各種センサ(不図示)が接続されている。これにより、ECU40は、燃料電池12が備えるそれぞれの燃料電池セルの電圧を検知することができる。
また、ECU40には、上述した圧力センサ22、64、可変調圧弁20、排水弁52、排気弁54、エア排圧調整弁62、冷却液循環ポンプ(図示せず)などが接続されている。ECU40は、燃料電池12の出力、各ガスの圧力、各ガスの流量、冷却液の循環量を制御することで、燃料電池12を所望の運転状態で運転することができる。
また、ECU40は、燃料電池セル内の水分が不足しているか否かを判定する処理(以下、「水不足判定処理」とも呼称する)を記憶している。この処理は、具体的には、燃料電池12の出力、主に電圧値の情報に基づいて、燃料電池12内部の水分の不足が生じているか否かを判定するものである。
上述したように、電解質膜は、適当な湿潤状態にあると良好な電気特性を示す。しかしながら、燃料電池システムの運転状態が変化すると、電解質膜に含まれる水量が変化することがある。このような場合、電解質膜の湿潤状態は燃料電池セルの出力に影響を及ぼすことになる。
すなわち、電解質膜に含まれる水分が減少した場合には、それに付随して燃料電池セルの出力電圧の低下が見られることになる(このような状態は、「ドライアップ」とも呼称される)。実施の形態1では、このような電圧変化を観測することにより、燃料電池の水不足が生じているか否かを判定することとする。なお、このような燃料電池の水不足判定に関する技術は既に公知となっており、例えば、特開2004−127914号公報で開示されているような燃料電池の水分状態診断手法により実現することができる。このため、水不足判定に関する更なる詳細についてはその説明を省略することとする。
[実施の形態1の動作]
(実施の形態1の第1特徴動作「クロスリークに伴う水生成の利用」)
上述したように、実施の形態1の燃料電池システムが発電を行う際には、アノードガスおよびカソードガスがそれぞれ燃料電池12に供給される。そして、燃料電池12の出力が観測されるとともに、燃料電池12内の水不足の判定が継続的に実行されている。
水不足判定処理により燃料電池12内の水分が不足しているとの判定がなされた場合には、水不足を解消するために、燃料電池12に水を供給する必要がある。実施の形態1では、燃料電池12が水不足であると判定された場合、下記の手法を用いて当該水不足を解消することとする。
電解質膜を挟んで両極(アノード極、カソード極)間にガスの分圧差が生じている状況下では、分圧の高い極から分圧の低い極へと電解質膜を介してガスが移動する。このようなガスの移動は、「クロスリーク」とも呼称される。このクロスリークにより、アノードの水素がカソードへと移動すると、当該移動した水素がカソードの酸素と触媒上で反応し、水が生成する。逆に、カソードの酸素がアノードへと移動すると、当該移動した酸素がアノードの水素と触媒上で反応し、水が生成する。そこで、実施の形態1のシステムでは、このようなクロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用することとする。
具体的には、実施の形態1では、水不足判定処理が燃料電池12の水不足の発生を検出した場合、原則として、アノードの圧力を増加してアノードとカソードの水素分圧差を大きくする。アノードとカソードの間の水素分圧差が大きくなると、電解質膜を介してアノードからカソードへと向かう水素の移動量が増加し、カソードの電極触媒層で酸素と反応する水素の量が増加する。その結果、生成水量が増加し、電解質膜へと供給される水量が増加することになる。このようにすることで、燃料電池の水分が不足している場合に、カソードの電極触媒層で生成する水の量を増加し、燃料電池12に水を供給することができる。
なお、実施の形態1は、従来、例えば特開2004−127914号公報に開示されている圧力制御方法とは、次の点において相違している。上記従来の技術では、電解質膜に水を供給すべき状況においては、通常の運転状態に比して、カソード圧をアノード圧よりも高圧にし、高圧の極から低圧の極へと電解質膜を透過して移動する水の量を増加させている。これに対し、本実施形態では、水不足時においては、アノード圧を増加させることで水素分圧差を増加させることとしている点で、上記従来の技術と明確に相違している。
また、上記従来の技術においては、電解質膜への水供給を抑制すべき状況においては、逆に、アノード圧をカソード圧よりも高圧にし、アノードへの水移動を抑制することとしている。電解質膜への水供給を抑制すべき状況においてアノード圧をカソード圧よりも高圧にすると、アノードへの水移動(拡散)は抑制されるものの、アノード圧をカソード圧よりも増加させた結果、水素分圧差が大きくなってクロスリーク量も増加し、カソード触媒層における反応生成水量が増加するという事態が生じうる。本実施形態では、水移動(拡散)の量ではなく、クロスリーク量に着目しているため、上記のような弊害を回避しつつ燃料電池への水供給を行うことができるという優れた特徴を有している。
(実施の形態1の第2特徴動作「水不足状態に応じたガス分圧差の調整」)
実施の形態1の第1特徴動作には、上述したように、クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想が含まれている。更に、実施の形態1では、第1特徴動作で述べた思想に、以下に述べる水不足状態に応じてガス分圧差を調整する思想を加えてシステムを構成するものとする。
燃料電池の水不足(ドライアップ)が生じた際に電圧を低下させる要因としては、次の4つが考えられる。
a.電解質膜のプロトン伝導性の低下
b.触媒層内のプロトン伝導性の低下(ソリューションの乾燥)
c.触媒利用率の低下
d.触媒層内の反応ガスの輸送性の低下
電圧低下の要因がb〜dの要因である場合、すなわち、触媒層における分極が電圧低下の支配要因となっている場合、水分が不足して加湿を必要とする部分は触媒層である。燃料電池はカソードとアノードにそれぞれ触媒層を備えており、燃料電池システムの運転状態によっては、実質的にアノードの触媒層のみが水不足となる場合や、実質的にカソードの触媒層のみが水不足となるという事態が生じうる。
一方、上述したクロスリークを利用した生成水の増加は、ガスの分圧差を大きくすることにより、電解質膜を介して一方の極から他方の極へと移動する水素または酸素の量を増加させることで実現される。水素分圧差を増加した場合にはアノードからカソードへ移動する水素量が増加し、逆に、酸素分圧差を増加した場合にはカソードからアノードへ移動する酸素量が増加する。従って、水素分圧差を大きくするとカソード触媒層における生成水量が増加し、酸素分圧差を大きくするとアノード触媒層における生成水量が増加する。
そこで、実施の形態1では、燃料電池12が水不足であるとの判定がなされた後、さらに、水不足が実質的にアノードのみで生じている場合または実質的にカソードのみで生じている場合を判別して、それらの場合には水不足が生じている側の触媒層において生成水量が増加するようにする。具体的には、実施の形態1では、水不足の発生が検知されたら、先ず、燃料電池システムの運転状態に基づいて、下記の判断基準を用いて、燃料電池12内部における水不足の状態を推定する。
燃料電池システムが高温高負荷の状態であり、その運転温度時が上昇している状況下では、燃料電池12の内部から持ち去られる水の量が増加する。実施の形態1のようにカソード側で継続的にガスを流通させるシステムでは、カソードを流通するカソードガスにより燃料電池12から持ち去られる水分が増加し、カソードで水不足が生じることになる。そこで、実施の形態1では、このような場合には燃料電池12の水不足が実質的にカソードのみで生じていると判断することにする。
一方、燃料電池が低温低負荷で運転されている状況下では、燃料電池の温度およびその発電性能が低くなっているため、アノードガスからの加湿が少なく、また、カソードから逆拡散してくる水が少なくなる。その結果、このような運転状態にあっては、アノード側の水分が不足しやすくなっている。また、燃料電池が高温運転されている状況下では、カソードの水の持ち去り量が増加する。その結果、アノードからカソードに移動する水の量が増加し、アノード側の水分が不足しやすくなる。
また、燃料電池が高負荷で運転されている状況下では、発電反応中のプロトン(H+)伝導に随伴してアノードからカソードへと移動する水(以下、「随伴水」とも呼称する)の量が増加する。このような状況にあって、かつ、カソード圧が低い状況下では、逆拡散が追いつかず、アノード側の水分が不足しやすい。そこで、実施の形態1では、上記のようなアノードの水分が不足する傾向にあるいくつかの状況で燃料電池が運転されている場合には、燃料電池12の水不足が実質的にアノードのみで生じていると判断することにする。
そして、実施の形態1では、上記の条件のいずれにも当てはまらない場合には、燃料電池12の水不足の状態がアノードのみの水不足とカソードのみの水不足のどちらでもないと判断することにする。
上記の手法により当該水不足が実質的にアノードのみで生じていると判断された場合には、水素分圧差を大きくする。これにより、アノードへの酸素の移動量を増加し、アノード触媒層の生成水量を増加する。また、当該水不足が実質的にカソードのみで生じていると判断された場合には、酸素分圧差を大きくする。これにより、カソードへの水素の移動量を増加し、カソード触媒層における生成水量を増加することとする。
以上の動作によれば、アノードのみで水が不足している場合にはアノードへと直接水を供給し、カソードのみで水が不足している場合にはカソードへと直接水を供給することができる。その結果、アノード若しくはカソードの触媒層の水不足を、確実かつ速やかに解消することができる。また、水不足が生じている側の極で直接水を生成する本手法によれば、本手法とは逆に水不足が生じていない側の極で水を生成する手法に比して、得られる加湿効果が極めて高くなる。加えて、本手法によれば、前述したように効率よく水供給を行うことができるため、MEAに大きな差圧をつける必要がなく、耐久性への影響も抑えることができる。
なお、実施の形態1では、上記のいずれにも該当しない場合、すなわち、アノードのみの水不足やカソードのみの水不足ではない場合(例えば、上述した要因aの場合や、アノードとカソードの両方の触媒層で水不足が生じている場合など)には、上述した第1特徴動作で述べたように水素分圧差を大きくすることとする。これにより、生成水量を増加し、電解質膜および触媒層の水不足を解消することができる。
[実施の形態1の具体的処理]
以下、図2を用いて、実施の形態1のシステムが行う具体的処理を説明する。図2は、実施の形態1においてECU40が実行するルーチンのフローチャートである。図2のルーチンは、実施の形態1のシステムの運転中に実行される。また、図2のルーチンは、上述した実施の形態1の第1特徴動作を実現する処理と、第2特徴動作を実現する処理の双方の処理を含んでいる。
図2に示すルーチンでは、先ず、水不足(ドライアップ)が発生しているか否かが判定される(ステップS100)。具体的には、ECU40に備えられている水不足判定処理により、燃料電池12の出力に基づいて、水不足の判定がなされる。当該ステップS100の条件の成立が認められない場合には、燃料電池12内部に十分な水分が確保されているとの判断がなされ、今回のルーチンが終了する。
ステップS100の条件の成立が認められた場合には、燃料電池12内部の水分が不足しているとの判断がなされる。この場合には、続いて、水不足の状態が、実質的にアノード側のみの水不足の場合と、実質的にカソード側のみの水不足の場合と、そのいずれでもない場合の3つの場合のうちのいずれに該当するかが判別される(ステップS102)。具体的には、ステップS102では、先ず、ECU40が燃料電池システムの運転状態に関する情報を取得する。
そして、予め実験等により上述のアノードおよびカソードの水不足が生じる運転条件(温度、負荷など)の範囲のマップを作成しておき、ECU40が取得した運転状態(温度、負荷など)の情報が、このマップにおける水不足の発生条件範囲内に含まれるか否かの判定を行う。これにより、燃料電池12の水不足の状態が上記いずれの状態に当てはまるかを判別できる。
以下、図2のフローチャートの処理を、アノード側のみで水不足の場合と、カソード側のみで水不足の場合と、それ以外の場合についてそれぞれ説明する。
(実質的にアノード側のみで水不足が生じている場合)
ステップS102において、燃料電池12の水不足の状態が実質的にアノードのみで生じていると判別された場合には、カソードの圧力を増加する処理がなされる(ステップS104)。具体的には、所定の圧力だけカソードの圧力が増加するように、可変調圧弁20が開弁側に制御される。
これにより、アノードとカソードの酸素分圧差が増加し、カソードからアノードへクロスリークする酸素量が増加する。その結果、アノード触媒上で水素と反応する酸素が増加し、生成水量が増加する。これにより、アノードのみで水が不足している場合に、アノードへと直接水を供給することができる。その結果、アノードの電極触媒層の水不足を、確実かつ速やかに解消することができる。
続いて、冷却液量の増加が行われる(ステップS106)。具体的には、冷却液循環ポンプ(不図示)が制御され、冷却液流路70内を流れる冷却液の循環量を増加する処理がなされる。クロスリークにより水素と酸素が反応する際に、当該反応が電極触媒層上で局所的に生じる(或いは、その反応量に偏りが生じる)場合がある。これに起因して、電極触媒層に局所的な高温の部分(ヒートスポットとも呼称される)が生じてしまう場合がある。実施の形態1によれば、クロスリーク量の増加に応じて冷却液の循環量を増加させることとしているので、上述したような状況が生じても、集中している熱を分散することができる。
なお、カソード圧の増加量を大きくするほど冷却液の循環流量を多くしたり、カソード圧の絶対値やカソード圧とアノード圧の差の絶対値に応じて循環流量を設定したりするなどの手法を加えても良い。これにより、クロスリークによる水生成反応の増加に応じて冷却液の循環量を増やすことができ、上述したような状況に、より効果的に対処することが可能となる。
ステップS106の処理が実行されると、次に、水素循環比を増やす処理が行われる(ステップS108)。具体的には、ECU40により、循環ポンプ26の動作量を増加する処理がなされる。上述した水素分圧差の増加に伴ってアノードの生成水量が増加した場合に、アノード内の水分が、燃料電池12の水不足のために必要な量を上回る場合がある。
そのような場合に、いわゆるフラッディングを招来し、燃料電池12の発電に好ましくない影響を及ぼすおそれがある。実施の形態1では、ステップS108の処理によりアノードを流れる水素量を増加することとしているため、アノードを循環することにより持ち去られる水の量を増加することができ、このような弊害が生ずるのを防止することができる。
続いて、ステップS100で検知された水不足(ドライアップ)が解消しているか否かの判定が行われる(ステップS110)。具体的には、燃料電池12のスタック抵抗が、予め実験等により求められた許容範囲内にあるか否かが判定される。算出されたスタック抵抗値が許容範囲内に無ければ、ステップS110の条件の成立は認められず水不足は未だ解消されていないと判断され、ステップS104からの処理が再び実行される。
ステップS110の条件の成立が認められた場合には、水不足が解消したとの判断がなされ、システムの状態を標準運転状態に徐々に戻す処理が実行される(ステップS112)。その後、今回のルーチンが終了する。
(実質的にカソード側のみで水不足が生じている場合)
ステップS102において、燃料電池12の水不足の状態が実質的にカソードのみで生じていると判別された場合には、アノードの圧力を増加する処理がなされる(ステップS114)。具体的には、所定の圧力だけアノードの圧力が増加するように、可変調圧弁20が開弁側に制御される。
これにより、アノードとカソードの水素分圧差が増加し、アノードからカソードへクロスリークする水素量が増加する。その結果、カソード触媒上で反応する水素量が増加し、生成水量が増加する。そして、カソードのみで水が不足している場合に、カソードへと直接水を供給することができるので、カソード電極触媒層の水不足を確実かつ速やかに解消することができる。
続いて、ステップS106と同様に冷却液量の増加が行われ(ステップS116)、その後、ステップS110と同様に水不足(ドライアップ)が解消しているか否かの判定が行われる(ステップS118)。ステップS118の条件の成立が認められない場合には、再びステップS114からの処理が実行される。ステップS118の条件の成立が認められた場合には、水不足が解消したとの判断がなされ、システムの状態を標準運転状態に徐々に戻す処理が実行される(ステップS112)。その後、今回のルーチンが終了する。
(アノードのみの水不足とカソードのみの水不足のどちらでもない場合)
ステップS102において、燃料電池12の水不足の状態がアノードのみの水不足とカソードのみの水不足のどちらでもないと判断された場合には、アノードの圧力を増加する処理がなされる(ステップS120)。
具体的には、ステップS104の処理と同様に、所定の圧力だけアノードの圧力が増加するように、可変調圧弁20が開き気味に制御される。その結果、カソード触媒上で酸素と反応する水素量が増加し、生成する水の量が増加する。生成水量が増加することで、燃料電池12内部の水の量が増加することとなり、燃料電池12内の水不足が緩和されることになる。
続いて、ステップS106と同様に冷却液量の増加が行われ(ステップS122)、ステップS100で検知された水不足が改善したか否かが判定される(ステップS126)。具体的には、ECU40が燃料電池12のスタック抵抗を算出し、この値が、予め実験等により求められた通常運転時におけるスタック抵抗の標準値側へと変化しているか否かが判定される。算出されたスタック抵抗値が標準値側へと変化していれば、水不足が改善したとの判断がなされる。また、そのような変化が認められない場合には、水不足の改善が得られていないとの判断がなされる。
ステップS110の条件の成立が認められた場合には、その後、水不足が解消しているか否かの判定が行われる(ステップS128)。具体的には、燃料電池12のスタック抵抗が、予め実験等により求められた許容範囲内にあるか否かが判定される。算出されたスタック抵抗値が許容範囲内に無ければ、ステップS128の条件の成立は認められず水不足は未だ解消されていないと判断され、ステップS120からの処理が再び実行される。
ステップS128の条件の成立が認められた場合には、水不足が解消したとの判断がなされ、システムの状態を標準運転状態に徐々に戻す処理が実行される(ステップS112)。その後、今回のルーチンが終了する。このような一連の処理によれば、アノード圧を増加することによる水不足の改善効果が認められることを確認しつつ、水不足が解消されるまで当該アノード圧の増加を継続することができる。
一方、ステップS126の条件の成立が認められない場合には、カソード圧を増加する処理が実行される(ステップS130)。具体的には、ステップS114の処理と同様に、所定の圧力だけアノードの圧力が増加するように、エア排圧調整弁62が制御される。これにより、アノードとカソードの酸素分圧差が増加し、カソードからアノードへクロスリークする酸素量が増加する。その結果、アノードの生成水量が増加することで、燃料電池12内部の水の量が増加することとなり、燃料電池12内の水不足が緩和されることになる。
続いて、ステップS108と同様に水素循環比を増やす処理が行われ(ステップS131)、その後、ステップS128の処理と同様に、水不足が解消しているか否かの判定が行われる(ステップS132)。水不足が解消しているとの判定が成されない場合には、当該判定が成されるまで、ステップS130からの処理が実行される。水不足の解消が認められた場合には、ステップS112へと移行し、その後、今回のルーチンが終了する。
以上説明した処理によれば、燃料電池12内部で水分が不足している場合に、クロスリークに伴う水生成を利用して、燃料電池12に水を供給することができる。具体的には、実施の形態1では、燃料電池12内の水分の不足時にアノードとカソードの水素分圧差を大きくして、電解質膜を介してカソードへ移動する水素の量を増加させることができる。その結果、電極触媒層で反応する水素量が増加し、燃料電池12内部の生成水量を増加することができる。なお、実施の形態1では水素分圧差を大きくするためにアノード圧を増加しているが、このような手法によれば、水素タンク18に水素が高圧に貯留されている点から、より簡易にかつ効率よく水素分圧差を大きくすることができる。
また、上述した具体的処理によれば、実質的にカソードのみが水不足の状態にある場合を判別したうえで、カソードで水を生成することとしている。その結果、アノードのみで水が不足している場合に、アノードへと直接水を供給することができる。さらに、上述した具体的処理では、水素分圧差を大きくする際に、アノードの圧力を増加させることとしている。これにより、簡易な方法で水素分圧差を大きくすることができる。
また、上述した具体的処理では、実質的にアノードのみが水不足の状態にある場合を判別し、この場合にはアノードへ移動する酸素の量を増加させることができる。これにより、カソードのみで水が不足している場合に、カソードへと直接水を供給することができる。更に、上述した具体的処理では、酸素分圧差を大きくする際にカソードの圧力を増加させるという手法をとることで、簡易な方法で酸素分圧差を大きくすることができる。
また、上述したような水不足が生じている側の極で直接水を生成する本手法によれば、得られる加湿効果が極めて高くなる利点や、効率よく水供給を行うことができるためMEAに大きな差圧をつける必要がないなどの利点がある。
また、上述した具体的処理では、電極触媒層において水素と酸素の反応が局所的に生じ、電極触媒層に局所的な高温の部分(ヒートスポットとも呼称される)が生じても、冷却液の循環量を増加させることで、当該部分に集中している熱を分散することができる。
また、上述した具体的処理によれば、酸素分圧差の増加に伴ってアノードの生成水量が増加した場合に、アノードを循環する水素量を増加することができる。その結果、いわゆるフラッディングを招来するおそれを少なくすることができる。また、実施の形態1のようにクロスリーク量の増加に合わせて水素循環量を増加させることで、クロスリークに伴って生成された水をアノードのガス流路を介して循環させることができ、アノードをより一様に(むらなく)加湿することができる。
尚、上述した実施の形態1では、燃料電池12が前記第1の発明における「燃料電池」に相当し、可変調圧弁20およびエア排圧調整弁62が前記第1の発明の「圧力調整手段」に相当し、上述したルーチンのステップS100、S102の処理が実行されることで、前記第1の発明における「水不足判定手段」が、ステップS120の処理が実行されることで、前記第1の発明における「水素分圧差調整手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1では、その具体的処理において、ステップS102の処理が実行されることで、前記第2の発明における「カソード水不足判別手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1では、冷却液流路70が、前記第4の発明の「冷却液流路」に相当し、上述した具体的処理においてステップS116またはS122の処理が実行されることで、前記第4の発明の「冷却液流量調整手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1では、その具体的処理において、ステップS102の処理が実行されることで、前記第6の発明における「アノード水不足判別手段」が、ステップS104の処理が実行されることにより、前記第6の発明における「アノード水不足時酸素分圧差調整手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1では、冷却液流路70が、前記第8の発明の「冷却液流路」に相当し、その具体的処理において、ステップS106の処理が実行されることで、前記第8の発明の「冷却液流量調整手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1では、アノードガス流路14→燃料電池12のアノード→アノードオフガス流路46→循環ポンプ26を含む循環流路(アノードガス循環流路)が、前記第10の発明の「アノードガス循環流路」に、循環ポンプ26が、前記第10の発明の「循環ポンプ」に、それぞれ相当している。また、上述した実施の形態1の具体的処理において、ステップS108またはS131が実行されることにより、前記第10の発明の「ガス循環量調整手段」が実現されている。
なお、上述のステップS102の処理は、より具体的には、「燃料電池の運転状態が、当該燃料電池の水不足が実質的にカソードのみで発生する第1運転状態と、当該燃料電池の水不足が実質的にアノードのみで発生する第2運転状態と、そのいずれにも該当しない第3運転状態のいずれに該当するかを判別する処理」を行っているともいうことができる。
[実施の形態1の変形例]
(第1変形例)
実施の形態1では、上述した第1特徴動作に含まれる「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」と、第2特徴動作に含まれる「水不足状態に応じてガス分圧差を調整する思想」の双方の思想を応用して、システムを構成した。しかしながら、これらの思想は必ずしも組み合わせて用いられる必要は無く、「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」のみを利用して燃料電池システムを構成することとしてもよい。
具体的には、例えば、実施の形態1のシステムと同様の構成とし、図2のフローチャートを応用して、ECU40に「スタート→水不足判定(ステップS100)→アノード圧増加(S120)→冷却液循環量増加(S122)→水不足解消?(S128)→標準運転状態へ移行(S112)→終了(S128で成立が認められない場合はS120へ戻す)」のルーチンを実行させることとしてもよい。
または、図2のフローチャートから、「水不足状態に応じてガス分圧差を調整する思想」に相当するステップS102〜S110およびステップS114〜S118の処理を除くこととしてもよい。
なお、上述した第1変形例では、ステップS100の処理が実行されることで前記第1の発明の「水不足判定手段」が、ステップS120の処理が実行されることで、前記第1の発明の「水素分圧差調整手段」が、それぞれ実現されている。
(第2変形例)
実施の形態1では、第2特徴動作の「水不足状態に応じてガス分圧差を調整する思想」の思想に基づき、水不足が実質的にアノードのみで生じている場合と、実質的にカソードのみで生じている場合との両方を判別して(図2のルーチンのステップS102)、それぞれの場合に応じて適切なガス分圧差を調整した。しかしながら、上述した水不足状態の判別は、必ずしもアノードとカソードの双方に対して行わなくともよい。必要に応じて、「水不足が実質的にアノードのみで生じている場合を判別する処理」と、「実質的にカソードのみで生じている場合を判別する処理」のどちらか一方のみを備えるシステムとしてもよい。
(第3変形例)
実施の形態1では、アノードとカソードの水素分圧差を大きくする際に、アノードの圧力を増加する手法を用いた。しかしながら、本発明におけるアノードとカソードの水素分圧差を大きくする手法はこれに限られるものではない。アノードとカソードの圧力をそれぞれ適宜調整(増減)することにより、水素分圧差を大きくしてもよい。また、実施の形態1では、アノードとカソードの酸素分圧差を大きくする際に、カソードの圧力を増加する手法を用いた。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。アノードとカソードの圧力をそれぞれ適宜調整(増減)し、酸素分圧差を大きくすることとすればよい。
(第4変形例)
実施の形態1の具体的処理では、水素分圧差または酸素分圧差が大きいほど、冷却液流路70内の冷却液の流量(循環量)が多くなるようにした。このような冷却液流量の調整に換えて、またはそれと共に、次に述べるような冷却温度調整を行うこととしてもよい。
図3は、実施の形態1のシステムに、付加的に、冷却温度調整手法を組み合わせたシステムを説明するための図である。図3のシステムは、冷却液流路70が冷却系72に置き換えられている点を除いて、図1に示した実施の形態1のシステムとほぼ同様の構成を有している。なお、図1のシステムが備える他の構成に関しては、図示を省略している。
図3のシステムでは、燃料電池12に冷却系72が接続されている。冷却系72は、図1のシステムの冷却液流路70と同様に、系内で冷却液を循環させることにより燃料電池12を冷却することができる。冷却系72は、燃料電池12に連通する管路74を有している。管路74には、燃料電池12内部を冷却した後の冷却液が流出する。また、管路74は切替弁80に連通し、切替弁80は管路76および管路78に連通している。そして、管路76は直接切替弁82に、管路78はラジエータ84を介して切替弁82に連通している。切替弁80、82およびラジエータ84は、ECU40に接続されている。
このような構成において、ECU40が切替弁80、82を制御することで、燃料電池12→管路74→切替弁80→管路76→切替弁82→燃料電池12の経路(以下、「第1冷却経路」とも呼称する)と、燃料電池12→管路74→切替弁80→管路78→ラジエータ84→切替弁82→燃料電池12の経路(以下、「第2冷却経路」とも呼称する)とを、適宜切り替えることができる。
第4変形例では、上記のようなシステム構成において、通常運転時、即ち、水不足が生じていない場合には、冷却系を第1冷却経路に設定する。そして、水不足判定がなされて水素分圧差または酸素分圧差を増加させる際には、冷却系を第2冷却経路に切替るとともに、分圧差の増加量に応じて、ラジエータ84における冷却温度を低く設定する(換言すれば、ラジエータ84による冷却量を増加する)。
このようにすることで、水素分圧差または酸素分圧差を増加させてクロスリーク量が増大したことにより、電極触媒層において水素と酸素の反応が局所的に生じて電極触媒層に局所的な高温の部分(ヒートスポットとも呼称される)が生じた場合でも、冷却温度を低下させることで電極触媒層の過熱を防止することができる。
なお、上記の手法において、第2冷却系への切替えとともに、実施の形態1と同様に、冷却流量を増大させることとしてもよい。また、上述した第4変形例では、ラジエータを含まない経路(第1冷却経路)とラジエータを含む経路(第2冷却経路)とを有し、これらを適宜切り替える構成とした。しかしながら、ラジエータを含む1つの冷却経路のみを有する構成としても良い。
なお、上述した第4変形例では、第2冷却経路が、前記第5の発明または前記第9の発明の「冷却液流路」に、ラジエータ84が、前記第5の発明または前記第9の発明の「冷却液の温度を調節する手段」に、それぞれ相当している。また、上述した第4変形例の中で、分圧差の増加量に応じてラジエータ84における冷却温度を低く設定する手法が、前記第5の発明または前記第9の発明の「冷却温度調整手段」に相当している。
(その他の変形例)
なお、実施の形態1の具体的処理では、水素分圧差または酸素分圧差が大きいほど冷却液流路70内の冷却液の流量(循環量)が多くなるようにした。また、実施の形態1では、循環ポンプ26とアノードガス循環流路とを有するシステムにおいて、酸素分圧差の増加に応じて循環ポンプ26の動作量を増加して、アノードガス循環流路内のガスの循環量を増加することとした。
しかしながら、これらの手法は、「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」を用いる上で、またはそれに加えて「水不足状態に応じてガス分圧差を調整する思想」を用いる上では、必須のものではない。必要に応じて、上記列挙した手法を適宜加えることとすればよい。
すなわち、冷却液の流量増加を行わないシステムや冷却系そのものを有さないシステム、ガス循環量の増加を行わないシステム、アノードの系内でアノードガスを循環させないシステムなどに対しても、「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」と、「水不足状態に応じてガス分圧差を調整する思想」とを用いることができる。
なお、実施の形態1のシステムは、外部の加湿器など加湿モジュールを有さない構成となっている。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。必要に応じ、本発明の水供給の手法と、加湿モジュールとを併用してもよい。なお、加湿モジュールを有する燃料電池システムにあっては、低温始動時には、当該加湿モジュールの加湿能力が低下する。その結果、カソードに供給するガスの加湿量が低下してしまう。
このため、加湿モジュールを有する燃料電池システムに本発明の思想を適用する場合には、上述した具体的処理のステップS102に、「低温始動時に加湿モジュールの加湿能力の低下が予想される場合には実質的にカソード側のみで水不足が生じている」と判別する条件を加えてもよい。
また、上述した実施の形態1では、第2特徴動作における水不足状態の判別条件として、実質的にアノードのみの水不足が生じる運転条件と、実質的にカソードのみの水不足が生じる運転条件とを、それぞれいくつか示した。しかしながら、水不足状態を判別する条件は、上記示したもののみに限られるものではない。運転状態による判別を行う場合には、上記例示した以外にも、適宜、システムの運転状態と水不足状態との相関を把握しておき、これに基づいて判断を行うことができる。
また、上記示した運転条件に基づく判別手法以外にも、水不足状態の判別を実現しうる種々の技術を利用することとすればよい。例えば、アノードオフガス流路46とカソードオフガス流路58にそれぞれ湿度計を設けて、それぞれの極の乾燥状態を判定するような手法を用いても良い。
また、上述した実施の形態1において、水不足が実質的にアノードもしくはカソードのみで生じている場合とは、換言すれば、燃料電池の水不足(ドライアップ)が生じた際に電圧を低下させる要因が、上述した実施の形態1の第2特徴動作で述べたb〜dの要因となっている場合を意味している。すなわち、触媒層における分極が電圧低下の主たる要因となっており、水分が不足して加湿を必要とする部分がアノードもしくはカソードの触媒層である場合を意味している。
実施の形態2.
[実施の形態2の構成および特徴動作]
実施の形態1では、第1特徴動作の説明で述べたように、燃料電池12が水不足状態にある場合には、原則として燃料電池12内の水素分圧差を大きくしている。一方、上述したように、クロスリークを利用した生成水の増加は、水素分圧差を増加してアノードからカソードへ移動する水素量が増加する以外にも、酸素分圧差を増加してカソードからアノードへ移動する酸素量を増加することによっても実現できる。
そこで、実施の形態2では、実施の形態1と同様の構成において、燃料電池12が水不足状態にある場合には、原則として、燃料電池12内の酸素分圧差を大きくすることにする。換言すれば、実施の形態1の第1特徴動作では水素分圧差を大きくしていたところを、実施の形態2では酸素分圧差を大きくすることにする。このようにすることで、アノード触媒層で反応する酸素量が増加し、実施の形態1と同様に、燃料電池12内の生成水量を増加することができる。
[実施の形態2の具体的処理]
実施の形態2は、実施の形態1と同様の構成で、図4のフローチャートに示すルーチンを実行することにより実現される。図4のフローチャートは、図2のフローチャートのステップS120、370をそれぞれステップS170、470に置き換えている点、およびステッS131の処理を削除して新たにステップS171の処理を加えた点を除いて、図2のフローチャートと同様のものである。従って、図2のフローチャートと同様の処理に関しては、その説明を省略または簡略して行う。
また、実施の形態2の具体的処理では、上述した実施の形態2の特徴動作に加え、実施の形態1の第2特徴動作である「水不足状態に応じたガス分圧差の調整」をも含む処理を実行することにする。なお、以下の説明では、実施の形態2の実施の形態1に対する相違点である、ステップS170以降の処理についてのみ説明する。ステップS104以降またはS114以降の処理に関しては、実施の形態1と同様の処理のため、その説明を省略する。
ステップS170では、カソードの圧力を増加することにより、酸素分圧差を大きくする処理が実行される。これにより、クロスリークに伴う燃料電池12内部の生成水量が増加し、燃料電池12の水不足が緩和される。その後、ステップS122の処理が実行される。ステップS122の処理がなされたあとは、酸素分圧差の増大に伴うアノードの生成水量増加に合わせて、ステップS131と同様の目的で、水素の循環量を増加する処理が実行される(ステップS171)。その後、S126の処理が実行される。
ステップS126で水不足の改善が認められた場合には、再度ステップS170からの処理が実行される。また、当該ステップで水不足の改善が認められない場合には、アノード圧を増加して、水素分圧差を大きくする処理が実行される(ステップS180)。その後、ステップS132、S112の処理がなされ、今回のルーチンが終了する。
以上の処理によれば、実施の形態1と同様に、燃料電池12が水不足にある状況下で、クロスリークに伴う水生成を利用して、燃料電池12に水を供給することができる。
尚、上述した実施の形態2では、燃料電池12が前記第17の発明における「燃料電池」に、可変調圧弁20およびエア排圧調整弁62が前記第17の発明の「圧力調整手段」に、それぞれ相当している。また、実施の形態2では、上述したルーチンのステップS100、S102の処理が実行されることで、前記第17の発明における「水不足判定手段」が、ステップS170の処理が実行されることで、前記第17の発明における「酸素分圧差調整手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態2では、その具体的処理において、ステップS102の処理が実行されることで、前記第18の発明における「アノード水不足判別手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態2では、図4のルーチンにおいて、ステップS102の処理が実行されることで、前記第19の発明における「カソード水不足判別手段」が、ステップS114の処理が実行されることにより、前記第19の発明における「カソード水不足時水素分圧差調整手段」が、それぞれ実現されている。
なお、実施の形態2も、実施の形態1と同様に、実施の形態1で述べた種々の変形を加えることができる。
実施の形態3.
実施の形態3の燃料電池システムは、上述した実施の形態1と同様に、「クロスリークに伴う水生成の利用」の思想を応用している。しかしながら、実施の形態3では、実施の形態1の第2特徴動作の「水不足状態に応じたガス分圧差の調整」の思想が用いられておらず、これに換えて、後述する「クロスリーク量に基づく水不足判定」の思想および「ストイキ比に基づく水不足判定」の思想が応用されている点で、実施の形態1と主に相違している。
[実施の形態3の構成]
図5は、本発明の実施の形態3に係る燃料電池システム10の構成を示す模式図である。燃料電池システム210は、例えば燃料電池自動車に搭載されるものである。燃料電池システム210は燃料電池212を備えている。本実施形態において、燃料電池(FC)212は固体高分子分離膜を備えた燃料電池(PEMFC)であり、2つの燃料電池スタック(スタック212aとスタック212b)から構成されている。
各スタック212a,212bは、電解質膜、アノード、カソード、およびセパレータとから構成される燃料電池セル(以下、「単位セル」とも呼称する)を複数積層して構成される。図5及び図6において、矢印Aは単位セルの積層方向を示している。本実施形態において、スタック212a,122bのそれぞれは200個の単位セルを備えている。隣接する単位セル同士は、一方のセルのアノードと他方のセルのカソードがセパレータを介して対向した状態で積層されている。
図5に示すように、燃料電池212には、アノードガス流路214及びカソードガス流路216が導入されている。アノードガス流路214は高圧の水素タンク218と接続されており、水素タンク218から各スタック212a,212b内のアノードへ水素リッチなアノードガスが送られる。アノードガス流路214には、水素タンク218の下流にレギュレータ220が設けられている。レギュレータ220は、燃料電池212の入口におけるアノードガスの圧力を要求される適正圧力に調圧するものである。また、アノードガス流路214には、レギュレータ220の下流に圧力センサ222が接続されている。
カソードガス流路216にはポンプ224が設けられており、ポンプ224の駆動により各スタック212a,212b内のカソードへ酸素を含む酸化ガスとしてのカソードガスが送られる。
図6は、アノードガス流路214、カソードガス流路216と各スタック212a,212bとの接続部を詳細に示す模式図である。ここで、図6(A)は、アノードガス流路214と各スタック212a,212bとの接続部を示している。図6(A)に示すように、アノードガス流路214は分配管226を介して各スタック212a,212bと接続されている。分配管226は、アノードガス流路214から送られたアノードガスをスタック212aとスタック212bに分配する機能を有している。
図6(B)は、カソードガス流路216と各スタック212a,212bとの接続部を示している。図6(B)に示すように、カソードガス流路216は分配管228を介して各スタック212a,212bと接続されている。分配管228は、カソードガス流路216から送られたカソードガスをスタック212aとスタック212bに分配する機能を有している。
また、図6は、各スタック212a,212bが備える400個の単位セルの配置を示している。図6(A)及び図6(B)に示すように、スタック212aにはセル番号#1〜#200のセルが設けられており、スタック212bにはセル番号#201〜#400のセルが設けられている。スタック212aにおいては、セル番号#1のセルは分配管226,228が接続された端部の反対側に配置され、分配管226,228に近づくほどセル番号は増加し、最も分配管226,228に近接したセルの番号は#200となる。一方、スタック212bにおいては、セル番号#201のセルは分配管226,228が接続された端部側に配置され、分配管226,228から離れるほどセル番号は増加し、最も分配管226,228から離れたセルの番号は#400となる。
図7は、各単位セルとその周辺の平面構成を示す模式図であって、単位セルの積層方向から各スタック212a,212bの内部を見た状態を模式的に示している。すなわち、図7は、セルの積層方向と直交する方向に沿った断面を模式的に示したものであり、例えば図6(A)中の一点鎖線I−I’に沿った断面に対応している。
図7に示すように、各単位セルには、アノードガスの流路230とカソードガスの流路232が設けられている。流路230,232は単位セルの積層方向に沿って重なるように設けられているため、図7では各流路230,232を破線で略式に示している。図7に示すように、各流路230,232はセルの一端から他端に向けて直線状に延在している。
各流路230,232の両端には、各流路230,232のそれぞれと個別に接続される分配部234,235が単位セルの積層方向に重なるように設けられている。分配部234,235の更に外側には、マニホールド236,238,242,244が設けられている。マニホールド236は分配部234を介してアノードガスの流路230と接続されている。また、マニホールド238は分配部235を介してカソードガスの流路232と接続されている。マニホールド236,238及び後述するマニホールド242,244は、単位セルの積層方向に貫通する孔として設けられている。マニホールド236の端部は分配管226と接続され、マニホールド238の端部は分配管228と接続されている。
また、燃料電池212の各単位セルには冷却液が循環している。これにより、発電に伴う燃料電池212の過度な温度上昇が抑えられ、燃料電池212の温度が最適値に設定される。この冷却液は燃料電池212外部に備えられる冷却系(不図示)を通って流れており、冷却液循環ポンプ(不図示)によってその循環量が制御されている。
このような構成によれば、アノードガス流路214から分配管226を経由して各スタック212a,212bに送られたアノードガスは、マニホールド236に送られ、マニホールド236から分配部234および流路230を経由して各単位セルのアノードに送られる。同様に、カソードガス流路216から分配管228を経由して各スタック212a,212bに送られたカソードガスは、マニホールド238に送られ、マニホールド238から分配部235および流路232を経由して各単位セルのカソードに送られる。
燃料電池212のアノードでは、アノードガスが送り込まれると、このアノードガス中の水素から水素イオンを生成し(H2→2H++2e−)、カソードは、カソードガスが送り込まれると、このカソードガス中の酸素から酸素イオンを生成し、燃料電池212内では電力が発生する。また、これと同時にカソードにおいて、上記の水素イオンと酸素イオンとから水(生成水)が生成される((1/2)O2+2H++2e−→H2O)。この水のほとんどは、燃料電池212内で発生する熱を吸収して水蒸気となり、カソードオフガス中に含まれて排出される。
アノードから排出されたアノードオフガスは、図7に示すマニホールド242に送られ、マニホールド242を経由して図5に示すアノードオフガス流路246に送られる。アノードオフガス流路246にはポンプ248が設けられており、アノードオフガスは、ポンプ248の駆動により再びアノードガス流路214へ戻される。アノードガス流路214に戻されたアノードオフガスは、水素タンク218からの水素の補充を受けて、再度燃料電池212へ送られる。アノードオフガスを燃料電池212へ送ることで、アノードオフガス中に含まれる未反応の水素を燃料電池212内で反応させることができ、水素の利用効率を高めることができる。なお、上述したアノードガス流路214→燃料電池212のアノード→アノードオフガス流路246→ポンプ226を含む循環流路が、アノードガス循環流路を形成しているとも言うことができる。
アノードオフガス流路246には、アノードオフガス中の水分を捕集する気液分離器250が設けられている。ポンプ248の下流において、アノードオフガス流路246には排気弁254が接続されている。アノードオフガス流路246→アノードガス流路214→燃料電池212の経路からなるアノード循環系に窒素(N2)等の不純物成分が多く含まれる場合は、排気弁254を間欠的に開くことでパージを行い、これらの成分を排出する。
また、排気弁254が接続された箇所の下流には、逆止弁256が設けられている。逆止弁256は、アノードガス流路214からポンプ248へ向かう流れを阻止する機能を有している。
一方、各単位セルのカソードから排出されたカソードオフガスは、図7に示すマニホールド244に送られ、マニホールド244から図5に示すカソードオフガス流路258に送られる。カソードオフガスは、カソードオフガス流路258を通り、排出される。カソードオフガス流路258には、カソードオフガスの圧力を調整する制御弁262、および制御弁262の上流におけるカソードオフガス圧力を検出する圧力センサ264が設けられている。制御弁262によれば、燃料電池212から排出されるカソードオフガスの圧力を制御することができる。また、燃料電池212に送られるカソードガスの流量はポンプ224により制御することができる。
また、カソードオフガス流路258には加湿器266が設けられている。加湿器266にはカソードガス流路216が導入されている。加湿器266は、燃料電池212内で生成されてカソードオフガスに含まれる水分を吸収し、吸収した水分によりカソードガス流路216中のカソードガスを加湿する機能を有している。
図5に示すように、本実施形態のシステムはECU(Electronic Control Unit)240を備えている。ECU240には、システムの運転状態を把握すべく、燃料電池212の出力(電圧値、電流値)、冷却水温などを検出するための各種センサ(不図示)が接続されており、ECU240は、燃料電池212が備える400個の単位セルのそれぞれのセル電圧を検知することができる。また、ECU240には、上述した圧力センサ222,264、レギュレータ220、排気弁254、制御弁262、冷却液循環ポンプ(不図示)などが接続されている。ECU240は、燃料電池212の出力、各ガスの圧力、各ガスの流量、冷却液の循環量を制御することで、燃料電池212を所望の運転状態で運転することができる。
また、ECU240は、実施の形態3のECU40と同様に、燃料電池212内の水分の不足が生じているか否かを判定する水不足判定処理を実行できるように構成されている。
[実施の形態3の動作]
(実施の形態3の第1特徴動作「クロスリークに伴う水生成の利用」)
実施の形態3においても、実施の形態1と同様に、燃料電池212が水不足であるとの判定がなされた場合には、クロスリークに伴う水生成を燃料電池212への水供給に利用することとする。具体的には、実施の形態1と同じく、水不足判定処理が燃料電池12の水不足の発生を検出した場合、原則として、アノードの圧力を増加してアノードとカソードの水素分圧差を大きくする。その結果、実施の形態1と同様に、カソードの電極触媒層で生成する水の量を増加し、燃料電池12に水を供給することができる。
(実施の形態3の第2特徴動作「クロスリーク量に基づく水不足判定」)
実施の形態3では、更に、上述した水不足の判定を効率よく行う目的で、クロスリーク量に基づいて、個々の燃料電池セルのうち水不足が発生し易い燃料電池セルを特定することとする。具体的には、実施の形態3ではクロスリーク量が相対的に少ないセルを特定して、当該セルに対して水不足判定処理を行うこととする。
図8は、各単位セルのクロスリーク量を算出するための手法を説明する図である。図8には、単位セルの初期の電圧値に対して、カソードとアノードの間で差圧をつけた場合と、カソードとアノードを同圧とした場合とのそれぞれについて生ずる電圧低下が示されている。図に示すように、差圧をかけたときには電圧降下が大きく、同圧とした時には差圧時に比して電圧降下の程度が小さくなっている。
図8において、差圧時電圧と同圧時電圧との電圧差(電圧低下1)の絶対値に相当する量がクロスリークに由来する電圧低下を意味し、同圧時における電圧低下2はクロスリーク以外の要因に由来するものである。このように、差圧時および同圧時における電圧差から、各単位セルの電圧低下要因を分析することができる。そして、当該分析から、各単位セルのクロスリーク量(ガス透過量)を算出することができる。
このような分析によって得られた各単位セルのガス透過量を比較することで、クロスリーク量が少ない燃料電池セルを特定することができる。なお、上記のようなクロスリーク量の算出を行う技術は、特開2005−251482号公報にも開示されている。従って、より具体的かつ詳細な手法に関しては、その説明を省略する。
燃料電池212の各単位セルが発電する過程で、アノードとカソードの間でガスの分圧差が生じている状況下では、当該単位セル内で水素及び酸素がそれぞれ電解質膜を介してクロスリークしている。単位セル毎にそのクロスリーク量が相違する場合には、通常運転状態においてクロスリークしている水素および酸素の量も単位セル毎に相違することになる。
クロスリーク量が少ない場合には、クロスリークに起因する生成水の量も当然に少なくなる。このため、クロスリークが相対的に少ない単位セルでは、通常運転時において内部に存在する水の量も少なくなる。その結果、クロスリーク量が少ないセルは、他の単位セルと比較して、より水不足を生じ易い状態にあることになる。
そこで、実施の形態3の第2特徴動作では、クロスリーク量が少ないセルを判別して、当該セルに対して水不足の判定を行うこととする。これにより、燃料電池212内で生ずる水不足を確実かつ迅速に発見することができる。
(実施の形態3の第3特徴動作「ストイキ比に基づく水不足判定」)
実施の形態3では、上述した水不足への対処を効果的に行う目的で、更に、ストイキ比に基づいて、個々の燃料電池セルのうち水不足が発生し易い燃料電池セルを特定することとする。具体的には、実施の形態3では、ストイキ比が相対的に大きいセルの特定を行い、当該セルに対して水不足の判定を行うこととする。先ず、以下に、セル電圧の変化率に基づいて各単位セルの供給ガス量を求める方法を詳細に説明する。なお、以下の説明では、各単位セルへのカソードガス供給量を求める方法を説明するが、アノードガスの供給量についても同様の方法で求めることができる。
図9は、燃料電池212に供給されるカソードガスのストイキ比と、燃料電池212の出力との関係を示す特性図であって、燃料電池212の定常運転中に実測して得られた特性を示している。図9の特性は、燃料電池212の単体状態で取得しても良いし、燃料電池システム210を燃料電池自動車に搭載した状態で取得しても良い。
図9において、横軸は、カソードガス流路216を流れるカソードガスのストイキ比を示している。このストイキ比は、カソードガス流量の理論値に対する実際のカソードガス流量の比率である。カソードガス流量の理論値は、燃料電池212の駆動負荷に基づいて算出される値である。通常、高電流密度域でのカソードガスのストイキ比は1.2〜1.5程度の値とされ、理論値よりも実際のカソードガス流量を多くすることで、燃料電池212を安定して運転することができる。
また、図9の縦軸は、燃料電池212が備える全ての単位セルのセル電圧値の平均値(平均セル電圧)を示している。上述したようにECU240は各単位セルのセル電圧を検出することができ、これらのセル電圧を平均することで平均セル電圧が求まる。
図9の特性を取得する際には、アノードガス流路214におけるアノードガスの流量は一定値に固定されている。図9の特性を取得する際には、先ず、ストイキ比を基準ストイキ比S0に設定した状態で平均セル電圧(基準電圧V0)を検出する。ここで、基準ストイキ比S0は、通常運転時のストイキ比SAよりも大きな値に設定されている。その後、ストイキ比を基準ストイキ比S0から減少させ、各ストイキ比S1,S2,S3毎に平均セル電圧を検出する。
基準ストイキ比S0からストイキ比を減少させていくと、カソードガスの流量が低下し、燃料電池212内での反応量が低下するため、平均セル電圧は基準電圧V0から低下していく。図9に示すように、ストイキ比がS0からS1に低下すると平均セル電圧はV1となり、基準電圧V0からの平均セル電圧の変化量ΔV1は(V0−V1)となる。同様に、ストイキ比がS0からS2に低下すると平均セル電圧はV2となり、平均セル電圧の変化量はΔV2(=V0−V2)となる。また、ストイキ比がS0からS3に低下すると平均セル電圧はV3となり、平均セル電圧の変化量はΔV3(=V0−V3)となる。このように、平均セル電圧の変化量は、ストイキ比が基準ストイキ比S0から低下するほど増加する。
図10は、平均セル電圧の変化率とストイキ比との関係を示す特性図(近似式)であって、図9の特性に基づいて得られるものである。図10において、横軸は平均セル電圧の変化率を示している。平均セル電圧の変化率は、例えば図9に示す各ストイキ比S1,S2,S3において、平均セル電圧の変化量ΔV1,ΔV2,ΔV3をそれぞれ基準電圧V0で除算することにより求めることができる。すなわち、ストイキ比S1における電圧変化率はΔV1/V0となり、ストイキ比S2における電圧変化率はΔV2/V0となり、ストイキ比S3における電圧変化率はΔV3/V0となる。図10の近似式は、各ストイキ比S1,S2,S3において電圧変化率をプロットし、近似曲線(直線)で結ぶことにより得られたものである。
図10の特性によれば、単位セルの電圧変化率とカソードガスのストイキ比との関係が明らかになる。従って、各単位セルにおいて、セル電圧の変化率が求まれば、電圧変化率に基づいて各単位セルのストイキ比を求めることが可能になる。
各単位セルにおけるセル電圧は、燃料電池212に供給されるカソードガスのストイキ比を可変することで変化する。従って、ストイキ比を可変した際の各単位セルのセル電圧の変化量から、セル電圧の電圧変化率を求めることができる。
以下、各単位セルにおいてセル電圧の変化率を求める方法を説明する。各単位セルの電圧変化率を求める際には、先ずカソードガス流路216におけるカソードガスのストイキ比を図9で説明した基準ストイキ比S0に設定し、この状態で各単位セルにおいて基準電圧V0(n)を求める。その後、カソードガス流路16におけるストイキ比を基準ストイキ比S0から通常運転時のストイキ比SAまで低下させる。そして、ストイキ比をSAとした状態で、各単位セルにおいてセル電圧VA(n)を求める。これにより、ストイキ比がS0からSAに変化した際のセル電圧の変化量(V0(n)−VA(n))が求まり、変化量(V0(n)−VA(n))を基準電圧V0(n)で除算することで、各単位セルのセル電圧の変化率P(n)を求めることができる。すなわち、電圧変化率P(n)は以下の式から求められる。
P(n)=(V0(n)−VA(n))/V0(n)
但し、上式において、nはセル番号である。
このようにして求められた各単位セルのセル電圧の変化率P(n)は、図10の特性(横軸)に当てはめられる。これにより、各単位セルにおいてカソードガスのストイキ比を求めることが可能になる。
上述したように、燃料電池212が必要とするカソードガス流量の理論値は、燃料電池212の負荷に基づいて算出され、これに基づいて各単位セルにおけるカソードガス流量の理論値が算出される。従って、図10の特性から各単位セルにおける実際のストイキ比が求まると、これを各単位セルにおけるカソードガス流量の理論値に乗算することで、各単位セルにおける実際のカソードガス流量を求めることが可能となる。
なお、全ての単位セルに均等にカソードガスを供給することを想定した場合、各単位セルにおけるカソードガス流量の理論値は、燃料電池212全体へのカソードガス供給量の理論値をセル数で除算した値となる。
このように、本実施形態の手法によれば、各単位セルのセル電圧の変化率に基づいて、各単位セルにおけるストイキ比、及びカソードガス流量を求めることができる。従って、各単位セルのそれぞれに対してカソードガスの供給が良好に行われているか否かを判定することが可能になる。
また、本実施形態の手法では、セル電圧の変化率は基準電圧V0からの電圧変化量を基準電圧V0で除算することにより算出されるため、ガスの供給量以外の要因、例えば電解質膜、アノード、カソードを構成する触媒層、拡散層などの劣化、短絡、流路への異物混入などの要因でセル電圧が変動した場合であっても、その影響が及ぶことはない。従って、本実施形態の手法によれば、これらの要因を排除した状態で各単位セルにおけるストイキ比、カソードガス流量を正確に求めることができる。
図11は、燃料電池212の各単位セル(#1〜#400)において、上述した方法でストイキ比(カソードガス流量)を算出した結果を示す模式図である。図11において、横軸はセル番号を、縦軸はストイキ比(カソードガス流量)を示している。このような手法により、ストイキ比が相対的に大きくなっているセル番号を特定することができる。
ストイキ比の大きい単位セルでは、内部から持ち去られる水の量が多くなる傾向にある。従って、ストイキ比が大きいほど、内部の水分が不足しやすい状況にある。そこで、実施の形態3の第3特徴動作では、上記の手法によりストイキ比が大きいセルを特定し、当該セルに対して水不足判定処理を行うこととする。これにより、燃料電池212内で生ずる水不足を確実かつ迅速に発見することができる。
[実施の形態3の具体的処理]
以下、図12を用いて、実施の形態3のシステムが行う具体的処理を説明する。図12は、実施の形態3においてECU240が実行するルーチンのフローチャートである。図12のルーチンは、実施の形態3のシステムの運転中に実行される。また、図12のルーチンは、上述した実施の形態3の第1〜3特徴動作を実現する処理となっている。
図12のルーチンが開始されると、先ず、燃料電池212の冷却水の温度が測定される(ステップS300)。この処理では、ECU240が冷却系の冷却液温度の情報を取得して、燃料電池212の温度を検知する。
次に、水不足し易いセルの特定ができているか否かが判別される(ステップS302)。ここでは、ECU40が、セル特定済フラグがON状態となっているか否かを判別する。実施の形態3のルーチンでは、水不足し易いセルの特定が前回のルーチン等によりなされており、当該特定結果が有効に利用できると判断できている間は、セル特定済フラグをONとすることとする。当該セルの特定が未だなされていない場合や、前回の結果が有効に利用できない状況にある場合には、セル特定済フラグをOFF状態とする。
ステップS302でセルの特定ができていないと判別された場合には、先ず、ガス透過量の小さいセルを特定する処理が実行される(ステップS304)。この処理では、上記の実施の形態3の第2特徴動作にある思想に基づき、先ず、電流密度を一定とした条件下で、#1〜#400の単位セルのそれぞれのガス透過量(クロスリーク量)が算出される。
実施の形態3では、予め実験などにより、クロスリーク量と水不足の発生し易さとの間の相関を求めておき、所定の閾値を定めておく。そして、クロスリーク量がこの閾値以下のセルは、水不足し易いセルと判断することとする。ステップS304では、#1〜#400のそれぞれのセルについて、クロスリーク量を閾値と比較し、閾値以下となっているセルの番号を保持する。
続いて、ストイキ比が多いセルを算出する処理が実行される(ステップS306)。具体的には、上記の実施の形態3の第3特徴動作にある思想に基づき、先ず、カソードガス流量を一定とした条件下で、#1〜#400の単位セルのそれぞれのストイキ比の値が算出される(図11参照)。実施の形態3では、予め実験などにより、ストイキ比と水不足の発生し易さとの間の相関を求めておき、所定の閾値を定めておく、そして、ストイキ比がこの閾値以下のセルは、水不足し易いセルと判断することにする。ステップS306では、#1〜#400のそれぞれのセルについて、ストイキ比を閾値と比較し、閾値以下となっているセルの番号を保持する。
次に、積層セル中の水不足し易いセルを特定する処理が実行される(ステップS308)。この処理では、ステップS304で特定されたセルとステップS306で特定されたセルの中で、最も水不足を生じ易いセルが特定される。具体的には、実施の形態3では、ステップS304の結果を水不足の発生し易さのパラメータDAに換算し、ステップS306の結果を水不足の発生し易さのパラメータDBに換算し、DAとDBの合計値が最も大きいセルを特定する。このように、ステップS304〜S308の処理が実行されることで、燃料電池212中で最も水不足を発生し易いセルを特定することができる。
ステップS308の処理が実行された後、または、ステップS302において水不足し易いセルが特定できているとの判断がなされた後は、続いて、燃料電池212が高温運転状態にあるか否かが判別される(ステップS310)。実施の形態3では、予め所定の閾値温度を定めておき、ステップS300で検知された温度が当該閾値を超えているか否かによって、燃料電池212が高温運転状態にあるか否かを判断することとする。この条件の成立が認められない場合には、後述するステップS318へと移行する。
ステップS310の条件の成立が認められた場合には、次に、セル電圧が低下しているか否かが判別される(ステップS312)。具体的には、ECU40が取得する燃料電池212の出力電圧の情報に基づいて、燃料電池212で水不足が生じていると判断されうるような電圧低下が生じているか否かが判別される。なお、電圧値に基づいて水不足発生を判定する技術は、例えば、特開2004−127914に開示されているように、既に公知となっている技術である。従って、その詳細な説明は省略する。この条件の成立が認められない場合には、後述するステップS318へと移行する。
ステップS312の条件の成立が認められた場合には、次に、水不足し易いセルの状態が確認される(ステップS314)。具体的には、ステップS308において特定されたセル、または、ステップS302で特定されているセルで、水不足の発生が認められる電圧低下が生じているか否かが判断される。この条件の成立が認められない場合には、後述するステップS318へと移行する。
ステップS314の条件の成立が認められた場合には、アノードの圧力を増加する処理が実行される(ステップS316)。具体的には、ECU240が、レギュレータ220を所定の量だけ開弁側に制御する。その結果、カソード触媒上で酸素と反応する水素量が増加し、生成する水の量が増加する。生成水量が増加することで、燃料電池212内部の水の量が増加することとなり、燃料電池212内の水不足が緩和されることになる。
ステップS314の処理の実行後、または、前述したステップS310,312,314の判定条件が不成立であった場合には、続いて、システムの運転が継続されるか否かが判別される(ステップS318)。このルーチンでは、ECU40が、燃料電池システム210の停止の要求が成されているか否かを検出する。燃料電池システム210が車両等に搭載されている場合には、イグニションキーの状態などからこの判別を行うことが可能である。
当該条件成立が認められない場合には、燃料電池システム210は未だ運転を継続すべき状態にあると判断され、ステップS310からの処理が実行される。これにより、水不足の判定(S310〜S314)およびその対処(S316)を行いつつ、運転が継続される。運転停止要求があった場合には、運転を停止すべき状況にあると判断され、今回のルーチンが終了する。
以上の処理によれば、単位セルのなかで最も水不足が生じ易いセルを特定して、このセルについて水不足が生じているか否かを判定することで、燃料電池212の水不足を効率よく、確実に検知することができる。そして、当該水不足の発生時にはアノードの圧力を増加することにより、水素分圧差を大きくして、水素のクロスリーク量を増加することができる。その結果、クロスリークに伴う水生成の機能を利用して、燃料電池212内部に水を供給し、水不足を緩和することができる。
尚、上述した実施の形態3では、燃料電池212が、前記第1の発明における「燃料電池」に相当し、レギュレータ220および制御弁262が前記第1の発明の「圧力調整手段」に相当し、上述したルーチンのステップS300〜S314の処理が実行されることで、前記第1の発明における「水不足判定手段」が、ステップS316の処理が実行されることで、前記第1の発明における「水素分圧差調整手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態3では、燃料電池212を構成する各燃料電池セル(単位セル)が、前記第11の発明の「燃料電池セル」に相当している。また、上述した具体的処理において、ステップS302〜S308の処理が実行されることで、前記第11の発明の「水分少量セル特定手段」が、ステップS310〜S314の処理が実行されることで、前記第11の発明の「特定セル水不足判定手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態3の具体的処理において、ステップS304の処理が実行されることで、前記第12の発明の「各セルのクロスリーク量を検知する手段」が、ステップS308の処理が実行されることで、前記第12の発明の「前記複数の燃料電池セルのうちクロスリーク量が相対的に少ない燃料電池セルを前記水分が相対的に少ない燃料電池セルと特定する」という処理が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態3の具体的処理において、ステップS306の処理が実行されることで、前記第13の発明の「各セルのストイキ比を算出する手段」が、ステップS308の処理が実行されることで、前記第13の発明の「前記複数の燃料電池のうちストイキ比が相対的に大きい燃料電池セルを前記水分が相対的に少ない燃料電池セルと特定する」という処理が、それぞれ実現されている。
[実施の形態3の変形例]
(第1変形例)
実施の形態3では、上述した実施の形態3の第1特徴動作に含まれる「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」と、実施の形態3の第2特徴動作に含まれる「クロスリーク量に基づいて水不足判定を行う思想」と、実施の形態3の第3特徴動作に含まれる「ストイキ比に基づいて水不足判定を行う思想」の全てを応用して、システムを構成した。しかしながら、これらの思想は必ずしも組み合わせて用いられる必要は無く、「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」のみを利用して燃料電池システムを構成することとしてもよい。
具体的には、例えば、実施の形態3のシステムと同様の構成とし、図12のフローチャートを応用して、ECU240に「スタート→水不足判定(ステップS310、312)→アノード圧増加(S316)→運転継続?(S318)→終了(S318で成立が認められない場合はS310へ戻す)」のルーチンを実行させることとしてもよい。
なお、上述した実施の形態3の第1変形例では、ステップS310、312の処理が実行されることで前記第1の発明の「水不足判定手段」が、ステップS316の処理が実行されることで、前記第1の発明の「水素分圧差調整手段」が、それぞれ実現されている。
(第2変形例)
実施の形態3では、実施の形態3の第2特徴動作に含まれる「クロスリーク量に基づく水不足判定」の思想と、実施の形態3の第3特徴動作に含まれる「ストイキ比に基づく水不足判定」の思想の両方を用いて、水不足が発生し易いセルを特定した。しかしながら、これらの思想は必ずしも組み合わせて用いられる必要は無く、どちらか一方のみの思想を利用して燃料電池システムを構成することとしてもよい。
前述したように、電解質膜を介したガスのクロスリーク量が少ないセルほど、水不足を発生し易い。そこで、実施の形態3の第3変形例では、上述した「クロスリーク量に基づいて水不足判定を行う思想」のみを用いて、クロスリーク量が相対的に少ないセルを特定して、当該セルの電圧の挙動に基づいて、水不足の判定を行うこととする。具体的には、本変形例では、クロスリーク量が所定の閾値以下のセルを複数個特定して、これら複数のセルを総合的に観察して水不足の判定を行うこととする。
具体的には、第2変形例では、実施の形態3のシステムと同様の構成とし、図12のフローチャートを応用して、ECU240に「スタート→冷却水温度測定(ステップS300)→水不足し易いセルは特定済みか?(ステップS302)→クロスリーク量の少ないセルの特定(S304)→水不足判定(ステップS310、312、314)→アノード圧増加(S316)→運転継続?(S318)→終了(S318で成立が認められない場合はS310へ戻す)」のルーチンを実行させることとする。
(第3変形例)
また、前述したように、ストイキ比が大きいセルほど水不足を発生し易い。そこで、第3変形例では、上述した「ストイキ比に基づいて水不足判定を行う思想」のみを用いて、ストイキ比が相対的に大きいセルを特定して、当該セルの電圧の挙動に基づいて、水不足の判定を行うこととする。具体的には、本変形例では、ストイキ比が所定の閾値以上のセルを複数特定して、これら複数のセルを総合的に観察して水不足の判定を行うこととする。
具体的には、第3変形例では、実施の形態3のシステムと同様の構成とし、図12のフローチャートを応用して、ECU240に「スタート→冷却水温度測定(ステップS300)→水不足し易いセルは特定済みか?(ステップS302)→ストイキ比が相対的に大きいセルの特定(S306)→水不足判定(ステップS310、312、314)→アノード圧増加(S316)→運転継続?(S318)→終了(S318で成立が認められない場合はS310へ戻す)」のルーチンを実行させることとすればよい。
(第4変形例「フラッディングし易いセルへの対処」)
上述したように、電解質膜を介したガスのクロスリーク量が少ない燃料電池セル(単位セル)では、通常運転時において内部に存在する水の量が相対的に少なくなる。すなわち、逆に、クロスリーク量が多いセルでは、通常運転時において内部に存在する水の量が相対的に多くなることになる。また、上述したように、ストイキ比が大きいほど、燃料電池セル(単位セル)内部がより乾燥しやすい状態にある。換言すれば、ストイキ比が小さいほど、通常運転時において内部に存在する水の量が相対的に多くなることになる。
燃料電池セル内部の水の量が多いセルでは、いわゆるフラッディングがより発生しやすくなる。そこで第4変形例では、先ず、単位セルの中でクロスリーク量が相対的に多く、かつストイキ比が相対的に小さいセルを特定する。続いて、当該特定されたセルにおいて、フラッディングが生じているか否かを判別する。そして、当該セルのフラッディングの発生を検知したら、アノードとカソードの水素分圧差(あるいは酸素分圧差)を小さくすることとする。
両極間の水素分圧差(あるいは酸素分圧差)を小さくすると、クロスリーク量が抑制される。その結果、クロスリークに伴う水生成の機能が抑制され、セル面内の水量を減少させることができる。このように、第4変形例によれば、フラッディングの発生を効率よく、かつ的確に検知し、フラッディング発生時にクロスリークによる生成水量を減少させることができる。
また、フラッディングを生じているセルでは、電圧の挙動が不安定になる傾向にある。そこで、第4変形例では、上述した分圧差の減少後に電圧の安定化が認められたら、セル面内の水が減少してフラッディングが解消されているものと判断し、通常の運転状態に戻すことにする。このようにすることで、フラッディングが解消されているにもかかわらず水生成が抑制されるような事態が生ずるのを、回避することができる。
具体的処理としては、例えば、図12のルーチンの実行と独立して、「スタート→フラッディングし易いセルの特定(第1ステップ)→当該セルでフラッディングが生じているか否かの判定(第2ステップ)→フラッディングが生じている場合には分圧差を小さくし、フラッディングが生じていない場合には分圧差変化させず(第3ステップ)→今回のルーチン終了」というルーチンを実行させることができる。
尚、上述した第4変形例では、上述した第1ステップが、前記第14の発明の「水分多量セル特定手段」に、第2ステップが、前記第14の発明の「セル水分過剰判定手段」に、第3ステップが、前記第14の発明の「水分過剰時水素分圧差調整手段」に、それぞれ相当している。
また、上述した第1ステップが含む「単位セルの中でクロスリーク量が相対的に多く、かつストイキ比が相対的に小さいセルを特定する」処理が、前記第15の発明の「前記複数の燃料電池のうちクロスリーク量が相対的に多い燃料電池セルを前記水分が相対的に多い燃料電池セルと特定する」処理および前記第16の発明の「前記複数の燃料電池セルのうちストイキ比が相対的に小さい燃料電池セルを前記水分が相対的に多い燃料電池セルと特定する」処理にそれぞれ相当している。
なお、第4変形例においては、単位セルの中でクロスリーク量が相対的に多く、かつストイキ比が相対的に小さいセルについて、フラッディングが生じているか否かを判別する手法を用いた。しかしながら、必ずしもクロスリーク量とストイキ比との両方の情報をフラッディングの判定に用いなくともよく、例えば、クロスリーク量が相対的に多いセルのみについてフラッディングの判定を行うことにしても、或いは、ストイキ比が相対的に小さいセルのみについてフラッディングの判定を行うことにしてもよい。
(その他の変形例)
電解質膜を介してクロスリークするガスの量は、膜の構造(分子構造、膜厚など)によって変化する。図13は、電解質膜の膜厚に対する水素の初期透過量の傾向を説明する図である。この図にあるように、膜厚が増加するほど、初期透過量が少なくなる傾向にあることがわかる。そこで、このような傾向を把握しておき、電解質膜の膜厚が大きい場合には水不足が生じ易くなるなどの条件を、水不足判定の条件に加えることができる。また、膜厚が大きいほど差圧をつけた際のクロスリーク量が少なくなることから、このような傾向を、水不足時の水素分圧差(および酸素分圧差)の増加量に反映(例えば、膜厚に応じたパラメータを設定するなど)させることとしてもよい。
また、燃料電池システムが車両に搭載されている場合には、図14に示すように、走行距離が長くなるほどクロスリーク量が増加する傾向がある。これに起因して、水不足の発生のし易さや、差圧を大きくした場合のクロスリーク量の増加具合などが、走行距離に応じて変化すると考えられる。そこで、このような傾向を予め実験などにより把握しておき、走行距離の情報を、水不足の判定や水素分圧差(および酸素分圧差)の増加量に反映(例えば、パラメータを走行距離に応じて変化させる)させることとしてもよい。
なお、本実施の形態を、次に述べるような場合に適用することもできる。燃料電池システムが車両等に搭載されている場合に、燃費を上昇させる(走行距離を伸ばす)目的などで、アイドル時にカソードガス或いはアノードガスを供給するポンプ(実施の形態3では、ポンプ224、248)を間欠的に停止しつつ、燃料電池の発電を行うことがある(間欠運転)。このような間欠運転の際には、本実施形態における圧力制御を、間欠運転時の通常の圧力制御に、以下のように組み合わせることができる。
図15は、燃料電池の運転状態が通常運転(通常走行)と間欠運転とで切り替わる前後における、燃料電池内の圧力制御の様子を説明するための図である。図15では、間欠運転時に回路を開放状態(OC:Open circuit)とした場合の様子を示している。 図15(a)に示す矢印は、運転状態が通常運転から間欠運転に切り替わる様子を示している。
また、図15(b)は、間欠運転へ切り替わる際に実行される通常の圧力制御の一例を示している。図15(c)は、図15(b)と同様に運転状態が切り替わる場合であって、かつ、燃料電池が水不足と判定された場合において、「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」に基づく圧力制御が実行されている様子を示している。
図15(b)に示す圧力制御方法おいては、通常運転時には、アノード圧力が増加傾向に制御される。そして、間欠運転時には、アノード圧力が所定値に達したらポンプの運転が停止される。このような状態で回路が開放状態とされていれば、発電によるガスの消費はなされない。しかしながら、前述したクロスリークにより水素および酸素の移動が生じ、実際にはアノード圧力が徐々に減少することになる(図15(b)の点線)。
そこで、本実施の形態では、図15(c)の圧力制御の際に、間欠運転時のクロスリークに起因して生ずる圧力低下分を考慮して、アノード圧を制御することにする。具体的には、本実施の形態では、通常の間欠運転の際にクロスリークに伴って生ずるアノード圧の減少の傾向を把握しておく。そして、燃料電池内の水不足が生じている場合の間欠運転時には、アノード圧を増加させると共に、クロスリークによる圧力低下分を見込んで、アノード圧の増加分を若干過剰にする。
このようにすることで、間欠運転時においても、水不足に対処するためのアノード圧力の増加を適切に行い、クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用することができる。
なお、実施の形態3も、実施の形態1および2と同様に、実施の形態1および2で述べた種々の変形を加えることができる。具体的には、例えば、実施の形態3に対して、実施の形態1の具体的処理で行ったのと同様に、水素分圧差または酸素分圧差が大きいほど冷却系内の冷却液の流量(循環量)が多くなるようにしてもよい。また、ラジエータを含む冷却系を備える構成とし、水素分圧差または酸素分圧差が大きいほど、冷却系における冷却温度を低くすることにしてもよい。また、酸素分圧差の増加に応じてポンプ226の動作量を増加して、アノードガス循環流路内のガスの循環量を増加することとしてもよい。
実施の形態4.
実施の形態1では、「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」と、「水不足状態に応じてガス分圧差を調整する思想」とを組み合わせて用いた。また、実施の形態3では、「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」と、「クロスリーク量に基づいて水不足判定を行う思想」と、「ストイキ比に基づいて水不足判定を行う思想」とを、組み合わせて用いた。これらの思想を、更に組み合わせて用いることもできる。
実施の形態4では、「クロスリークに伴う水生成を燃料電池への水供給に利用する思想」と、「水不足状態に応じてガス分圧差を調整する思想」と、「クロスリーク量に基づいて水不足判定を行う思想」と、「ストイキ比に基づいて水不足判定を行う思想」の4つの思想を組み合わせて用いることとしている。換言すれば、実施の形態4のシステムは、実施の形態1と実施の形態3の思想を組み合わせた形態となっている。
図16は、実施の形態4の燃料電池システムが実行するルーチンのフローチャートである。図16のフローチャートは、図2のフローチャートにおいて、ステップS400、S410の処理を加えるとともに、ステップS100をステップS420に置き換えたものである。実施の形態4は、図16のフローチャートを、実施の形態3と同様の構成(即ち、図5〜7に示す構成)で実行することにより実現される。
図16のルーチンが実行されると、先ず、水不足が発生し易い燃料電池セルの特定ができているか否かが判別される(ステップS400)。ステップS400の処理は、実施の形態3の具体的処理におけるステップS302の処理に相当しており、その処理を同様に実行することで実現できるため、説明は省略する。
ステップS400の条件の成立が認められなかった場合には、水不足が生じ易い燃料電池セルの特定が行われる(ステップS410)。ステップS410の処理は、実施の形態3の具体的処理におけるステップS304〜S308の処理に相当しており、それらの処理を同様に実行することで実現されるため、説明は省略する。
ステップS400の条件の成立が認められた場合、または、ステップS410の処理の実行後には、燃料電池212で水不足が生じているか否かが判別される(ステップS420)。ステップS420の処理では、実施の形態3で述べたように、燃料電池212が高温運転状態にあるか否か(図12のルーチンのステップS310に相当)、燃料電池212の出力電圧の情報に基づき燃料電池212で水不足が生じていると判断されうるような電圧低下が生じているか否か(ステップS314に相当)、特定されたセルで水不足の発生が認められる電圧低下が生じているか否か(ステップS314に相当)について、それぞれ判別が行われる。これらの条件を全て満たしている場合には燃料電池212内で水不足が生じていると判断される。
ステップS420の条件の成立が認められた場合には、実施の形態1と同様に、ステップS102以降の処理が実行される。ステップS420の条件の成立が認められない場合には、燃料電池212では水不足が生じていないと判断され、今回のルーチンが終了する。
以上説明した処理によれば、実施の形態1の利点と実施の形態3の利点とを併せて享受することができる。
なお、実施の形態4で実行した図16のフローチャートは、図2のフローチャートにおいて、ステップS400、S410の処理を加えるとともに、ステップS100をステップS420に置き換えたものである。これに対し、実施の形態2で実行した図4のフローチャートに対して、ステップS400、S410の処理を加えるとともに、ステップS100をステップS420に置き換えることとしてもよい。この場合には、実施の形態2と実施の形態3とを組み合わせた処理が実行されることになり、実施の形態2の利点と実施の形態3の利点とをあわせて享受することができる。
なお、実施の形態4も、実施の形態1乃至3と同様に、実施の形態1乃至3で述べた種々の変形を加えることができる。
なお、上述したように、クロスリーク量は、電解質膜を挟んだ二つの極におけるガスの分圧差によって生ずる。このため、ガスの分圧差が変化すれば、これに応じてクロスリーク量が変化する。水素分圧差はアノードの圧力(以下、アノード圧とも呼称)の増加に応じて、酸素分圧差はカソードの圧力(以下カソード圧とも呼称)の増加に応じて、それぞれ増大する。しかしながら、この場合において、水素分圧差の増加の際に必ずアノード圧がカソード圧よりも大きくなることが求められたり、逆に、酸素分圧差の増加の際に必ずカソード圧がアノード圧よりも大きくなることが求められるということではない。また、酸素または水素の分圧差を増大する際に、必ずしも差圧を増大させることが要求されるものではない。
例えば、アノード圧がカソード圧よりも大きい状況においてカソード圧を増加して、それらを同圧に近づけた場合には、原理的には、酸素分圧差が増大する効果が得られる。また、これと反対の状況下においてアノード圧を同様に増加することにより、原理的には、水素分圧差が増大する効果が得られる。アノードとカソードの差圧が過大となると、電解質膜への負担が増加し、好ましくない。よって、この点を考慮してそれぞれの極の圧力値を調整し、差圧が過大となるのを避けつつ酸素または水素の分圧差を増大することにより、そのような差圧の過大を避けることもできる。具体的には、例えば、アノードの圧力以下の範囲でカソードの圧力を増加して、酸素分圧差を増大するような圧力制御を行うことができる。