JP2008152318A - 制御装置および異常判定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】むだ時間の変化を逐次推定し高精度な制御を実施することができる制御装置を提供する。
【解決手段】制御対象を離散数式モデルで表したプラントモデルを用い、該プラントモデルに制御対象への入力を加えた際の出力であるプラントモデル出力と制御対象の実出力との差である同定誤差をゼロに近づけるようにプラントモデルのパラメータを同定する。このとき、同定処理により算出された離散モデルパラメータ、若しくは離散モデルパラメータに基づいて算出されるむだ時間以外のパラメータの変化により、むだ時間の信頼性を判定することで、むだ時間を精度良く算出することが可能となる。
【選択図】図3

Description

本発明は、制御対象を数式モデルで表したプラントモデルを用い、該プラントモデルのパラメータを逐次同定することで制御対象の動特性を自動的に適応させるようにした制御装置および異常判定装置に関する。
従来から、制御対象の動特性を逐次同定する制御装置および異常判定装置が提案されている。この制御装置および異常判定装置は、制御対象を数式で表したプラントモデルを持ち、実際の制御入力をプラントモデルに入力した時のプラントモデル出力と実際の制御対象の出力との誤差をゼロに近づけるようにプラントモデルのパラメータを逐次推定するものである。しかし、制御対象が無視できないむだ時間を含む場合、同定に用いるプラントモデルは、実際の制御対象が持つむだ時間を考慮する必要がある。また、むだ時間を持つ制御対象に対して、同定したモデルパラメータを用いて制御器を設計して制御する場合、高精度な性能を達成するためには、むだ時間を考慮した設計が必要となる。
特許文献1及び特許文献2の技術では、むだ時間の変化を逐次学習することで、高精度な制御を実施可能な制御装置を提案している。より具体的に説明すると、まず、制御対象のむだ時間Lをサンプル回数d、サンプリング周期dt、余むだ時間L1で表し(L=d×dt+L1)、離散化する。次に、離散化により算出された離散パラメータを同定により最適化することで、むだ時間の余むだ時間L1を推定する。このとき、例えば、むだ時間Lが実むだ時間と異なって設定されていると、余むだ時間L1は余むだ時間の上限値付近、または下限値付近で算出される。このため、余むだ時間L1に基づいて、サンプリング回数を更新することで、制御対象のむだ時間を実際のむだ時間に追従させることが可能となり、このように推定された制御対象のむだ時間を逐次学習することで、高い制御精度を維持することができる。また、推定された制御対象のむだ時間を用いて、制御対象の異常診断を行っている。
特開2006−118429号公報 特願2006−111517号明細書
しかし、特許文献1及び特許文献2の技術では、推定したむだ時間が正しく推定されているか否かの判断がなされていなかった。同定による推定は、初期値の設定により最適な値を算出するようにするものであるため、図19に示すように特許文献1及び特許文献2の技術では、例えば、むだ時間の初期値が初期値Aに設定されると、最適値Aにおけるむだ時間を実むだ時間として推定してしまう場合がある。このように、むだ時間を誤って推定した状態でむだ時間を学習すると制御装置の場合、制御性が悪化する虞がある。
また、異常診断装置の場合、むだ時間を誤って推定した状態で、制御対象の異常診断を行うと、誤判定を行う場合がある。
そこで、本願の第1の目的は、推定したむだ時間が正しく推定されているか否かを判定可能な制御装置を提供することにある。また、第2の目的は、推定したむだ時間が正しく推定されているか否かを判定し、その判定結果に基づいて制御対象の異常判定を行う異常判定装置を提供することにある。
そこで、請求項1に係る発明では、制御対象の実むだ時間に基づいて算出された離散モデルパラメータを含む離散化したプラントモデルにおいて、離散プラントモデルに制御対象への入力を入力した時のプラントモデル出力と制御対象の実出力との偏差(以下、「同定誤差」と言う)をゼロに近づけるように、離散モデルパラメータを同定する同定手段と、同定手段により算出された離散モデルパラメータに基づいて算出されるむだ時間を実むだ時間に近づけるように推定するむだ時間推定手段と、同定手段により算出された離散モデルパラメータにより算出されるむだ時間以外のパラメータに基づいて、むだ時間推定手段で推定した推定むだ時間が正しく推定されているか否かを判定する信頼性判定手段を備える。
むだ時間が正しく算出されていないと、離散モデルパラメータにより算出されるむだ時間以外のパラメータの値にも影響を与えるため、このように、離散モデルパラメータにより算出されるむだ時間以外のパラメータに基づいて、推定したむだ時間が正しく算出されているか否かを判定することで、むだ時間を精度良く算出することが可能となる。
ここで、推定むだ時間が正しく推定されていないと、離散モデルパラメータにより算出される遅れ要素に関する定数に影響を与える場合があるため、請求項2に係る発明のように、信頼性判定手段は、同定手段により同定された離散モデルパラメータより算出される、遅れ要素に関する定数に基づいて、推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定すると良い。
また、請求項3に係る発明のように、信頼性判定手段は、同定手段により同定された離散モデルパラメータより算出される遅れ要素に関する定数の値の変化に基づいて、推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定すると良い。
また、請求項4に係る発明のように、信頼性判定手段は、制御対象への入力がステップ的に変化した際の、同定手段により同定された離散モデルパラメータより算出される遅れ要素に関する定数の平均値に基づいて、推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定すると良い。なお、請求項5に係る発明のように、信頼性判定手段は、遅れ要素に関する定数の平均値が下限値から上限値の間にある場合に、推定むだ時間が正しく推定されていると判定すると良い。推定むだ時間が正しく推定されていないと、離散モデルパラメータより算出される遅れ要素に関する定数の平均値が過大または、過小となる場合がある。このため、遅れ要素に関する定数の平均値に下限値と上限値を持たせ、制御対象への入力がステップ的に変化した際の遅れ要素に関する定数の平均値が下限値と上限値の間にある場合に、推定むだ時間が正しく推定されていると判定すると良い。
ここで、推定むだ時間が正しく推定されていないと、離散モデルパラメータにより算出される定常ゲインに影響を与える場合があるため、請求項6に係る発明のように、信頼性判定手段は、同定手段により同定された離散モデルパラメータより算出される定常ゲインに基づいて、推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定すると良い。
また、請求項7に係る発明のように、信頼性判定手段は、同定手段により同定された離散モデルパラメータより算出される定常ゲインの値の変化に基づいて、推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定すると良い。
また、請求項8に係る発明のように、信頼性判定手段は、制御対象への入力がステップ的に変化した際の、同定手段により同定された離散モデルパラメータより算出される定常ゲインの値の平均値に基づいて、推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定すると良い。なお、請求項9に係る発明のように、信頼性判定手段は、定常ゲインの平均値が下限値から上限値の間にある場合に、推定むだ時間が正しく推定されていると判定すると良い。このように、離散モデルパラメータより算出される定常ゲインが下限値から上限値の間にある場合に、推定むだ時間が正しく推定されていると判定しても良い。
また、請求項10に係る発明のように、むだ時間推定手段により推定したむだ時間、及び同定手段により同定された離散モデルパラメータにより算出される遅れ要素に関する定数、若しくは定常ゲイン等のパラメータを学習するか否かを判定する学習可否判定手段を備え、信頼性判定手段により推定むだ時間が正しく推定されていると判定され、且つ学習可否判定手段によりパラメータを学習すると判定された場合に、パラメータを学習すると良い。
このように、推定されたむだ時間が正しく算出されており、且つ学習しても良いと判定されている場合に、学習を行うことによって、むだ時間推定手段により推定したむだ時間、または同定手段により同定された離散モデルパラメータにより算出される遅れ要素に関する定数、若しくは定常ゲイン等のパラメータを、正確に学習することが可能となる。
また、請求項11に係る発明のように、信頼性判定手段により、推定むだ時間が正しく推定されていないと判定されると、推定むだ時間を修正するむだ時間修正手段を備える。このように、推定むだ時間が正しく推定されていないと判定されると、推定むだ時間を修正することで、推定むだ時間を正確に算出することが可能となる。
また、請求項12に係る発明のように、制御対象の入力を所定の周期で変動させる入力変動手段を備え、信頼性判定手段により、推定むだ時間が所定回数連続して正しく推定されていないと判定されると、入力変動手段により制御対象の入力の周期を所定値若しくは所定割合長くすると良い。このように、制御対象の入力の周期を所定値若しくは所定割合長くすると、むだ時間の推定が容易になるため、制御対象の入力を所定の振幅、所定の周期で変動させているような制御を行っている場合に、推定むだ時間が数回連続して正しく推定されていないと判定されると、制御対象の入力の周期変化させると良い。また、請求項13に係る発明のように、入力変動手段によって、制御対象の入力を所定の振幅で変動させても良い。
また、請求項14に係る発明のように、むだ時間推定手段により推定したむだ時間、及び同定手段により同定された離散モデルパラメータにより算出されるパラメータに基づいて、制御対象の劣化を判定する劣化判定手段を備え、信頼性判定手段により、推定むだ時間が正しく推定されていないと判定されると、劣化判定手段による劣化判定を禁止すると良い。推定したむだ時間が正しく推定されていないにもかかわらず、劣化判定を行うと、誤判定する虞があるため、このように、推定むだ時間が正しく推定されていないと判定されると、劣化判定を防止すると良い。
次に、請求項15に係る発明では、制御対象のむだ時間に基づいて算出された離散モデルパラメータを含む離散化したプラントモデルを有する異常判定装置において、該離散プラントモデルに制御対象への入力を入力した時のプラントモデル出力と制御対象の実出力との偏差(以下、「同定誤差」と言う)をゼロに近づけるように、離散プラントモデルの離散モデルパラメータを同定する同定手段と、同定手段により算出された離散モデルパラメータに基づいて算出されたむだ時間を実むだ時間に近づけるように推定するむだ時間推定手段と、同定手段により算出された離散モデルパラメータにより算出されるむだ時間以外のパラメータに基づいて、むだ時間推定手段で推定した推定むだ時間が正しく推定されているか否かを判定する信頼性判定手段と、信頼性判定手段によりむだ時間が正しく推定されていると判定されたときの、むだ時間推定手段により推定したむだ時間、または同定手段により算出された離散モデルパラメータにより算出されるパラメータに基づいて、制御対象の異常を判定する異常判定手段とを備える。
むだ時間が正しく算出されていないと、離散モデルパラメータにより算出されるむだ時間以外のパラメータの値にも影響を与えるため、このように、離散モデルパラメータにより算出されるむだ時間以外のパラメータに基づいて、推定したむだ時間が正しく算出されているか否かを判定する。また、むだ時間が正しく推定されていると判定されたときに、制御対象の異常判定を行うことで、異常判定の精度を向上させることが可能となる。つまり、従来では、むだ時間が正しく推定されているか否かの判定を行っていなかったので、むだ時間が正しく推定されていないにも係わらず、制御対象の異常判定を行う場合があり、制御対象の異常を判定する際に誤判定する可能性があった。そこで、請求項15の発明のように、むだ時間が正しく推定されていると判定されているときに、制御対象の異常判定を行うことで、制御対象の異常判定の誤判定を防ぐことが可能となる。
ここで、推定むだ時間が正しく推定されていないと、離散モデルパラメータにより算出される遅れ要素に関する定数に影響を与える場合があるため、請求項16に係る発明のように、信頼性判定手段は、同定手段により同定された離散モデルパラメータより算出される、遅れ要素に関する定数に基づいて、推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定すると良い。
ここで、推定むだ時間が正しく推定されていないと、離散モデルパラメータにより算出される定常ゲインに影響を与える場合があるため、請求項17に係る発明のように、信頼性判定手段は、同定手段により同定された離散モデルパラメータより算出される定常ゲインに基づいて、推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定すると良い。
[実施形態1]
以下、本発明を内燃機関の空燃比制御システムに適用して具体化した実施例を説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18には、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられ、各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍に、それぞれ燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒に点火プラグ22が取り付けられ、各点火プラグ22の火花放電によって各気筒内の混合気に着火される。
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、エンジン11のクランク軸27が所定クランク角回転する毎にクランク角信号(パルス信号)を出力するクランク角センサ28が取り付けられている。このクランク角センサ28のクランク角信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
一方、エンジン11の排気管23には、排気ガスを浄化するための2つの触媒25,30が直列に設けられている。各触媒25,30は、例えば、三元触媒、NOx吸蔵型三元触媒等により構成され、上流側の触媒25の上流側と下流側には、それぞれ特定排気ガス濃度(例えば酸素濃度、空燃比等)を検出する上流側排気ガスセンサ31と下流側排気ガスセンサ32とが設けられている。本実施例では、上流側排気ガスセンサ31として空燃比センサを用い、下流側排気ガスセンサ32として酸素センサ(O2センサ)を用いているが、この構成に限定されないことは言うまでもない。
これら各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「ECU」と表記する)29に入力される。このECU29は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁21の燃料噴射量や点火プラグ22の点火時期を制御する。
また、ECU29は、図2に示すように、上流側排気ガスセンサ31で検出した空燃比を上流側触媒25上流側の目標空燃比に一致させるように供給空燃比(燃料噴射量)をフィードバック補正するメインフィードバック制御(以下の説明では「フィードバック」を「F/B」で表記する)を行うメインF/Bコントローラ40と、下流側排気ガスセンサ32の検出電圧(検出空燃比)を目標電圧(上流側触媒25下流側の目標空燃比)に一致させるように上流側触媒25上流側の目標空燃比をF/B補正するサブF/B制御を行うサブF/Bコントローラとして機能する。
メインF/Bコントローラ40は、事前にモデル化して適合したプラントモデル(1次遅れ系+むだ時間のモデル)を基に設計されたものであり、このメインF/Bコントローラ40により上流側排気ガスセンサ31の検出空燃比と上流側触媒25上流側の目標空燃比との偏差を小さくするように空燃比補正係数が演算され、最適な空燃比F/B制御が実現される。
一方、サブF/Bコントローラは、下流側排気ガスセンサ32の検出電圧(検出空燃比)を目標電圧(上流側触媒25下流側の目標空燃比)に一致させるように上流側触媒25上流側の目標空燃比をF/B補正するサブF/B制御を行うように、事前にモデル化して適合したプラントモデル(2次遅れ系+むだ時間のモデル)を基に設計されている。
前述のように、メインF/Bコントローラ40は、事前にモデル化し適合したプラントモデルを基に設計されたものであり、本来はこのメインF/Bコントローラ40により最適な空燃比F/B制御が実現されるが、実際の制御対象(エンジン11、A/Fセンサ31、触媒25等)では個体差や劣化等によってF/B制御誤差が生じる。このため、適応制御と称される制御方式を用い、メインF/Bコントローラ40におけるF/Bゲインを制御対象(プラント)の現時点の動特性に自動的に適応させ、制御系の性能を常に最良の状態に保持するようにしている。すなわち、制御対象を数式モデルで表したプラントモデルを用い、該プラントモデルに制御対象への入力を加えた際の出力であるプラントモデル出力と制御対象の出力(A/Fセンサ31による検出空燃比)との誤差をゼロに近づけるようにしてプラントモデルの可変パラメータを逐次推定する。ここで、プラントモデルは離散時間で表した離散プラントモデルである。
プラントモデルの離散化は以下のように行う。ここで、制御対象が、1次遅れ系のむだ時間を有する場合の例を示す。まず、連続時間伝達関数は、出力をy、入力をuとして次の(1)式で表される。
Figure 2008152318
Tは時定数、Lはむだ時間である。また、むだ時間Lをサンプリング周期dtで除算した商をむだサンプリング回数d、余りを余むだ時間L1とする。
Figure 2008152318
むだ時間Lがサンプリング周期dtで割り切れない場合、余むだ時間L1は0〜dtの正の値をとる。上記(1)式を拡張z変換すると次の(3)式となる。ただしkは整数であり、k×dt⇒kと略記するものとする。拡張z変換は、例えば「ディジタル制御システム−解析と設計(日刊工業新聞社)」において公知である。
Figure 2008152318
上記(3)式の離散時間表現モデルのパラメータ(以下、離散パラメータとする)を、上記(1)式の連続時間表現モデルのパラメータ(以下、連続パラメータとする)で表現すると以下の関係式となる(「実むだ時間に基づいて算出された離散モデルパラメータ」に相当)。
Figure 2008152318
以下、上記(4)式の変換(T,L1→a1,b1,b2)をモデルパラメータの離散化と呼ぶ。また、この逆変換(a1,b1,b2→T,L1)をモデルパラメータの連続化と呼び、その変換式を次の(5)式で表す。
Figure 2008152318
上記(4),(5)式に関して、実際はオンボードで演算可能にするため近似演算を用いる。例えば2次までテイラー展開+誤差大の範囲はテーブルでもつものとする。
さて、上記(4)式で表したように、拡張z変換により離散化すると離散パラメータ(b1)に余むだ時間L1が含まれる。このことが拡張z変換の特徴であり、一般的なz変換による離散化ではあらわれないものである。同定器により同定するのは、離散パラメータθ(θ=[a1,b1,b2]T:上付きTは転置を表す)であり(b2はa1,b1より算出可)、同定値θ_hat(x_hatはxの同定値もしくは推定値を表すものとする、以下同様)より前記(5)式の連続化を用いて連続パラメータの推定値T_hat,L1_hatが算出可能となっている。この余むだ時間の推定値L1_hatを用いることでむだ時間L(むだサンプリング回数d)を推定することが可能となる。
以下、離散パラメータを同定する同定処理について説明する。本同定処理では、同定誤差(制御対象の実出力と離散プラントモデル出力との偏差)をゼロにするように、離散モデルのパラメータを逐次最小二乗法により推定する。また、制御対象が、高次遅れ系のむだ時間を有する場合には、特願2006−111517号明細書に示すように、高次の遅れ系を複数の1次遅れ系に分割して離散化した後結合して近似すると良い。以下、図2を基に詳細に説明する。
離散プラントモデルは前述のように数式モデルであり、離散パラメータθ(θ=[a1,b1,b2]T)は適応機構により逐次推定される。適応機構は、前述したように同定誤差をゼロに近づけるように離散パラメータθを推定するものである。同定誤差は、離散プラントモデルに実際の制御入力uを加えたときのモデル出力y_hatと制御対象の実出力yとの誤差である。なお、離散プラントモデルに加えられる制御入力uや制御対象の実出力y(検出空燃比)には、不要な直流成分やノイズ成分などが含まれる。それ故に、制御入力uは、低周波成分除去手段としてのHPF(ハイパスフィルタ)により直流成分が除去される。また、制御対象の実出力yにおいて、メインF/Bコントローラ40での空燃比F/B用の出力yは、高周波成分除去手段としてのLPF(ローパスフィルタ)によりノイズ成分が除去され、パラメータ同定用の出力yは、HPFとLPFとを組み合わせたBPF(バンドパスフィルタ)により直流成分とノイズ成分とが除去される。
また、同定誤差eには必要に応じてフィルタ処理(LPF)や不感帯処理が施される。このとき、フィルタ処理により同定パラメータの振動が抑制され、不感帯処理により過同定が抑制される。
まず、上記(3)式を線形パラメトリックな自己回帰モデルとして表現しなおす。
Figure 2008152318
ここで、θ_hat(k)=[a1_hat(k),b1_hat(k),b2_hat(k)]T,ζ(k)=[y(k),u(k−d),u(k−d−1)]Tである。同定誤差eは次の(7)式で求められる。
Figure 2008152318
次に、適応機構において、同定誤差eをゼロにするように離散パラメータの推定値θ_hatを算出するパラメータ調整則は、本実施の形態では重み付き最小二乗法の原理に基づいて導出される。次の(8)式に示す同定誤差eの2乗和を評価関数として考える。
Figure 2008152318
ここで、λは忘却係数とも呼ばれる重み係数である。上記(8)式の評価関数が最小となるような調整則は次式のように与えられる。
Figure 2008152318
上記(9)式において、同定誤差eに乗算する行列ゲイン及びスカラゲインγは次式のようになる。
Figure 2008152318
本実施の形態では、離散パラメータのノミナル値θmからの誤差分Δθ_hatのみをパラメータ調整則で推定する形としており、上記(9)式は次の(11)式のように修正される。ノミナル値θmの算出方法は、後述する。
Figure 2008152318
そして、上記(11)式で求められた離散パラメータの推定値θ_hat(=Δθ_hat+θm)が離散プラントモデルに反映される。
なお、パラメータ調整則は上記以外に、例えば固定ゲイン則、漸減ゲイン則、可変ゲイン則、固定トレース則等であってもよい。
ここで、離散パラメータのノミナル値θmは図3のようにして算出される。すなわち、あらかじめ設定したノミナルモデルスケジューラを用い、その都度のエンジン運転状態(本実施の形態では回転速度と負荷)に基づいて時定数、むだ時間、むだサンプリング回数及び余むだ時間のノミナル値(Tm,Lm,dm,L1m)が算出される。このとき、エンジン運転状態を表す回転速度信号及び負荷信号にはLPF等のフィルタ処理が施され、該フィルタ処理後の信号を基に各ノミナル値が算出される。これにより、回転速度信号や負荷信号に含まれる高周波振動が除去され、ひいてはむだサンプリング回数dm等の変動が抑制されるようになっている。また、上記(4)式を用いた離散化処理にて、離散パラメータのノミナル値θmが算出される。
また、図2において、上記パラメータ調整則に従い推定された離散パラメータθ_hatは上記(5)式により連続化され、これにより連続パラメータ(時定数、余むだ時間の推定値T_hat,L1_hat)が算出される。更に、推定値T_hat,L1_hatについてノミナル値Tm,L1mからの誤差分ΔT_hat,ΔL1_hatが算出される。そして、これら誤差分に対してフィルタ処理やリミット処理が適宜施されると共に、むだ時間更新処理が施される(「同定手段」に相当)。
また、それら各処理後の誤差分を基に学習値が更新され、その学習値がスタンバイRAM等に格納される(「学習手段」に相当)。この学習値はスタンバイRAMより適時読み出され、ノミナル値Tm,L1mとの加算により連続パラメータが算出される。更に、該連続パラメータが離散化されて離散パラメータθcが算出され、メインF/Bコントローラ40において離散パラメータθcを用いて制御対象への入力(ここでは空燃比補正係数FAF)の算出が行われる。この際、制御対象の実出力が所定の目標値となるように、制御対象への入力を算出する。例えば、目標値を空燃比が理想空燃比(λ=1)となるようにしたい場合は、離散パラメータθcを用いて制御対象への入力(空燃比補正係数FAF)を算出し、この入力に対して、燃料噴射量を修正することで、制御対象の出力である空燃比を理想空燃比に制御することができる。
一方、連続パラメータの誤差分ΔT_hat,ΔL1_hatにノミナル値Tm,L1mが加算されることで修正後連続パラメータTtmp,L1tmpが算出され、その修正後連続パラメータTtmpを用いて故障診断処理(OBD)等が適宜実施される。この故障診断は、連続パラメータの時定数Ttmpが或る基準値よりも大きい場合、応答遅れが生じていると考えられるため、例えば、空燃比センサの劣化等が考えられる。このため、連続パラメータの時定数Ttmpが或る基準値よりも大きい場合は、制御対象の異常と判定しても良い。
また、修正後連続パラメータTtmpが離散化され、それにより修正後離散パラメータθtmpが算出される。そして、プラントモデルにおいて、修正後離散パラメータθtmpを用いてモデル出力y_hatが算出される。
次に、むだ時間更新処理について説明する。むだ時間Lを持つ連続系は、次の(12)式で表される。
Figure 2008152318
そして、上記(12)式を拡張z変換により離散化することで、次の(13)式が得られる。
Figure 2008152318
但しこの場合、上記(12),(13)式において、y(k)=x(k)である。
ここで、図17は、kdt≦t<(k+1)dtにおける出力y(k+1)に影響を与える制御入力u(むだ時間分だけ正の方向にずらした制御入力u)の変化を表すタイムチャートである。図17において、むだ時間Lがサンプリング周期dtで割り切れない場合、入力u(τ−L)は、τ=kdt〜(k+1)dtの期間内で一度だけ値が変わり、当該期間ではd回前の入力uの影響とd+1回前の入力uの影響とを受ける。なお、上記(13)式では、右辺の第2項によりd回前の入力uの影響を表し、同第3項によりd+1回前の入力uの影響を表す。
この場合、制御対象の実むだ時間は未知であるが、拡張z変換により離散化した離散パラメータには余むだ時間L1の情報が含まれており(上記(4)式参照)、この余むだ時間L1を用いることによりむだ時間Lの推定が可能となる。本実施の形態では、離散パラメータの推定値θ_hatの連続化により算出される余むだ時間の推定値L1_hatの変化に基づき、制御対象の実むだ時間に近づけるようにしてむだ時間(むだサンプリング回数d)を更新し、該更新したむだ時間(むだサンプリング回数d)を離散プラントモデルでのプラントモデル出力の算出に反映させるようにしている。
より具体的には、余むだ時間の推定値L1_hatが、サンプリング周期dtで規定される上限値近傍又は下限値近傍にあることを判定する。なお、推定値L1_hatの上限値はdt、下限値は0であり、微小な正の定数ε1により上限値近傍を「dt−ε1〜dtの範囲」、下限値近傍を「0〜0+ε1の範囲」として規定する。この場合、余むだ時間の推定値L1_hatが上限値近傍(dt−ε1〜dt)に変化しその状態が所定時間継続した場合に、むだサンプリング回数dを一つ繰り上げると共に該余むだ時間の推定値L1_hatを下限値近傍の所定値(但し下限値=0以上)とする。また、余むだ時間の推定値L1_hatが下限値近傍(0〜0+ε1)に変化しその状態が所定時間継続した場合に、むだサンプリング回数dを一つ繰り下げると共に該余むだ時間の推定値L1_hatを上限値近傍の所定値(但し上限値=dt以下)とする。
その概要を図18のタイムチャートを用いて説明する。図18では(a)に示すように、ある入力に対するノミナルむだ時間と実むだ時間とに図示のような誤差が生じている場合を想定する。サンプリングタイミング(d・dt)を超えた部分が余むだ時間L1である。
この場合、同定が逐次行われることにより、(b)に示すように余むだ時間の推定値L1_hatが変化し、dt近傍(上述したdt−ε1〜dtの範囲)まで増加する。そして、余むだ時間の推定値L1_hatがdt近傍で所定時間以上留まっている場合に、(c)に示すように、むだサンプリング回数の推定値d_hatが1つ繰り上げられ(d_hat←d+1)、更に余むだ時間の推定値L1_hatがゼロ近傍の値に更新される。
そしてその後、同定が逐次行われることにより、(d)に示すように余むだ時間の推定値L1_hatが増加し、それに伴いむだ時間の推定値が実むだ時間に収束する。この場合、ノミナルむだ時間と実むだ時間との誤差がサンプリング周期の2倍以上であっても、上記更新を繰り返すことによりむだ時間の推定値が実むだ時間に収束する。また、実むだ時間に収束後、劣化等により実むだ時間の変動がある場合にも、上記更新を実行することにより常にむだ時間の推定値を実むだ時間に収束させることができる。
なお図18では、余むだ時間の推定値L1_hatが増加する場合を例示し、それに伴いむだサンプリング回数の推定値d_hatが1つ繰り上げられる様子を説明したが、これとは逆に、余むだ時間の推定値L1_hatが減少する場合には、それに伴いむだサンプリング回数の推定値d_hatが1つ繰り下げられる。そして、余むだ時間の推定値L1_hatがdt近傍の値に更新される。(「むだ時間推定手段」に相当)
以上説明した適応制御処理等は、エンジンECUにあらかじめ格納された演算プログラムに従い実行される。また、説明した適応制御処理は、事前にモデル化して適合したメインF/Bコントローラ40のプラントモデル(1次遅れ系+むだ時間のモデル)を基に設計されたものであるが、サブF/Bコントローラの場合には、サブF/Bコントローラのプラントモデル(2次遅れ系+むだ時間のモデル)を用いても良い(特願2006−111517号明細書)。参考までにサブF/Bコントローラは、下流側排気ガスセンサ32の検出電圧(検出空燃比)を目標電圧(上流側触媒25下流側の目標空燃比)に一致させるように上流側触媒25上流側の目標空燃比をF/B補正するサブF/B制御を行うように、事前にモデル化して適合したプラントモデルを基に設計されている。
次に、本発明の特徴部分について説明する。図4は、後述する図11のステップS310で実行される学習処理のフローチャートである。この学習処理が実行されると、むだ時間の信頼判定に基づいて、時定数やむだ時間の学習の可否判定、または、むだ時間の補正を実行する。
図4において、ステップS10では、むだ時間信頼性判定を実行する。この判定処理では、時定数の連続パラメータT_hat(Tm+ΔT_hat)に基づいてむだ時間L(d_hat×dt+L1_hat(式5参照))の信頼性が「高い」(HIGH)か否かを判断する。つまり、むだ時間Lが正確に推定されているか否かを判断する(詳細は後述する)。次に、ステップS11で、ステップS10のむだ時間信頼性判定の結果に基づいて、むだ時間の信頼性が「高い」(HIGH)であるか否かを判断して、むだ時間の信頼性が「高い」(HIGH)の場合には、ステップS12に進み、学習可否判定を行う。この学習可否判定では、同定誤差がゼロ付近で収束していることを条件に、時定数やむだ時間の学習値Ta,Laが算出され、その実施状況に応じて学習フラグが操作される(詳細は後述する)。そして、ステップS13で学習フラグが「ON」と判別されると、ステップS14では学習値の更新処理を実行する。ステップS13で学習フラグが「OFF」の場合は、このフローチャートを終了する。
また、ステップS11でむだ時間Lの信頼性が「高い」(HIGH)と判定されない場合は、ステップS15に進み、ステップS10のむだ時間信頼性判定の結果に基づいて、むだ時間を補正する。より具体的には、ステップS10のむだ時間信頼性判定では、むだ時間を修正する際に時定数に基づいてむだ時間を長くするか、短くするかを判定しており、むだ時間を長くする場合には「延長要求」を、むだ時間を短くする場合には「短縮要求」を行う。
このため、ステップS15では、ステップS10のむだ時間信頼性判定に基づいて、「延長要求」であるか「短縮要求」であるかを判断し、「延長要求」であると判断されると、ステップS16に進み、むだ時間を長くする処理を実行する。ここで、むだ時間を長くする処理とは、例えば、むだサンプリング回数を多くするように変更することで、むだ時間を変更すると良い。このむだサンプリング回数の変更は、予め設定した所定値をむだサンプリング回数の推定値d_hatに加算しても良いし、空燃比が所定周期で変動している場合、その周期の4分の1をむだサンプリング回数の推定値d_hatに加算しても良い。
また、ステップS15で「短縮要求」であると判断されると、ステップS17に進み、むだ時間を短くする処理を実行する。むだ時間を短くする処理とは、例えば、むだサンプリング回数を減少するように変更することで、むだ時間を変更すると良い。むだサンプリング回数の変更は、予め設定した所定値をむだサンプリング回数の推定値d_hatに減算しても良いし、空燃比が所定周期で変動している場合、その周期の4分の1をむだサンプリング回数の推定値d_hatに減算しても良い。
次に、ステップS10で実行されるむだ時間信頼性判定処理について図5のフローチャートを用いて説明する。このむだ時間信頼性判定処理が実行されると、時定数のパラメータに基づいてむだ時間が正しく推定されているか否かを判定し、むだ時間が正しく算出されていないと判定された場合には、時定数に基づいてむだ時間を修正する要求を行う。
このプローチャートが実行されると、ステップS20では、時定数T_hatを所定期間算出し、その平均値Tmeanを算出する。次に、ステップS21では制御対象の実出力の立ち上がりから所定期間経過しているか否かを判定する。ここで、所定期間経過していないと判定されると、ステップS20に戻り、制御対象の実出力の立ち上がりから所定時間経過するまでの時定数の平均値を算出する。
次に、ステップS21で所定期間経過したと判定されると、ステップS22に進み、時定数の平均値Tmeanが所定値k1以上であるか否かを判定する。ここで、むだ時間Lが正確に推定されていない場合には、時定数の平均値Tmeanは、正確に推定されている場合の時定数に比べ、過大または、過小になる。より具体的には、推定したむだ時間が実際のむだ時間よりも長く推定されている場合には、時定数の平均値は小さくなり、推定したむだ時間が実際のむだ時間よりも短く推定されている場合には、時定数の平均値は大きくなる傾向がある。
このため、ステップS22では、時定数の平均値Tmeanが所定値k1以上であるか否かの判断を行い、時定数の平均値Tmeanが所定値k1以上であると判断されると、ステップS23に進み、むだ時間の「短縮要求」を行う。また、ステップS22で所定値k1未満である場合には、ステップS24に進み、時定数の平均値Tmeanが所定値k2以下であるかと判断する(k1>k2とする)。ステップS24で、平均値Tmeanが所定値k2以下であると判断されると、ステップS25に進み、むだ時間の「延長要求」を行う。また、ステップS24で、平均値Tmeanが所定値k2よりも大きいと判断されると、ステップS26に進み、むだ時間Lの信頼性が「高い」(HIGH)と判定する。
以上説明したフローチャートでは、時定数に基づいて、むだ時間の信頼性が「高い」(HIGH)か否かを判断したが、空燃比フィードバック制御の定常ゲインにより、むだ時間が正しく推定されているかか否かを判断しても良い。この場合、推定したむだ時間が実際のむだ時間よりも長い場合には、定常ゲインの平均値は大きくなり、推定したむだ時間が実際のむだ時間よりも短い場合には、定常ゲインの平均値は小さくなる傾向がある。また、時定数、定常ゲインの変化を検出し、その変化に基づいてむだ時間が正しく推定されているか否かを判断しても良い。なお、高次遅れ系においても、同様に時定数、定常ゲイン等の情報に基づいて、むだ時間が正しく推定されているか否かを判断すると良い。
次に、前述した図4のステップS14で実行される学習可否判定処理を示すフローチャートについて説明する。このフローチャートが実行されることによって、時定数の学習値Taとむだ時間Laの学習値を更新するか否かの判定を行う。
図6において、ステップS351では、今現在、各種燃料増量や燃料カットが実施されていないか否かを判別する。このとき、燃料増量等の実施中であればステップS352に進み、フラグjfg、カウンタjcntを共に0にクリアする、プラントモデルの可変パラメータθpとしてその時の同定値θ_hatを設定する、プラントモデルのむだサンプリング回数dpとしてdadpを設定する、学習フラグを「OFF」にするといった初期化処理を実行する。
また、各種燃料増量や燃料カットが実施されていなければ、ステップS353でフラグjfgが「1」であるか否かを判別し、フラグjfgが「0」の場合には更にステップS354で同定誤差e_tildeの絶対値が所定値ε3よりも小さいか否かを判別する。ここで、同定誤差e_tildeとは、制御対象の実出力yに対するモデル出力y_hatの誤差である。そして、|e_tilde|≧ε3であればそのままステップS359に進み、学習フラグを「OFF」にする。また、|e_tilde|<ε3であれば、ステップS355でフラグjfgに「1」をセットすると共にカウンタjcntを「0」にクリアする。すなわち、同定誤差e_tildeが所定範囲内に収束していることでフラグjfgが「1」にセットされる。なお、ステップS354の条件が所定時間継続して満たされない場合には所定値ε3を大きくし、同条件が満たされたらε3を初期値に戻す構成であっても良い。
その後、ステップS356では、後述するリミット処理後のΔT_hatを基に算出した連続パラメータT_hat(=ΔT_hat+ノミナル値Tm)を修正後連続パラメータTtmpとし、更に後述する図13,11のむだ時間更新処理で算出した余むだ時間L1adpとむだサンプリング回数dadpとをそれぞれ修正余むだ時間L1tmp、修正むだサンプリング回数dtmpとする。続くステップS357では、S356で算出した時定数Ttmp、余むだ時間L1adpの連続パラメータを離散化して修正後離散パラメータθtmpを算出する。そして、ステップS358では、修正後離散パラメータθtmpをプラントモデルの可変パラメータθpとして設定すると共に、修正むだサンプリング回数dtmpをプラントモデルのむだサンプリング回数dpとして設定する。これにより、プラントモデルにおいて、修正後離散パラメータθtmpと修正むだサンプリング回数dtmpを用いてモデル出力が算出される。これらパラメータは、図1に示すように、故障診断処理(OBD)や、離散化プラントモデルに反映させて、モデル出力y_hatが算出される。ステップS359では、学習フラグを「OFF」にする。
一方、フラグjfgに「1」がセットされた後は、ステップS353からステップS360に進み、ステップS360では、同定誤差e_tildeの絶対値が所定値ε4よりも小さいか否かを判別する。このとき、ε4≦ε3である。そして、|e_tilde|<ε4であれば、ステップS363でカウンタjcntの加算処理を実行し、続くステップS364ではjcnt≧Nであるか否かを判別する。jcnt≧Nとなる前は、そのまま処理を終了する。
そして、jcnt≧Nになると、ステップS365でフラグjfgを「0」にクリアし、ステップS366では、プラントモデルの可変パラメータθpをその時の同定値θ_hatにすると共に、プラントモデルのむだサンプリング回数dpをdadpとする。また、ステップS367では、連続パラメータT_hatを時定数の学習用パラメータTaとすると共に、修正むだサンプリング回数dtmpと修正余むだ時間L1_hatとを用いて算出したむだ時間(=dtmp*dt+L1_hat)をむだ時間の学習用パラメータLaとする。ステップS368では、学習フラグを「ON」にする。
また、jcnt≧Nとなる前に|e_tilde|≧ε4となる場合(すなわちステップS360が「NO」となる場合)には、ステップS361でフラグjfgを「0」にクリアすると共に、ステップS362でプラントモデルの可変パラメータθpをその時の同定値θ_hatに戻すと共に、プラントモデルのむだサンプリング回数dpをdadpとする。ステップS362で、各パラメータを更新すると、このフローチャートを終了する。
以上説明した本実施形態の特徴部分によれば、むだ時間の信頼性判定により、むだ時間が正しく推定されているか否かを判定した。より具体的には、むだ時間の信頼性を、時定数や定常ゲイン等のパラメータに基づいて判定し、信頼性が「高い」(HIGH)と判定されると、むだ時間が正しく推定されていると判断し、むだ時間等のパラメータを学習するか否かの判定を実行した。これにより、学習の精度を向上することが可能となり、むだ時間の誤学習による制御性の悪化を防ぐことが可能となる。また、推定したむだ時間の信頼性が「高い」(HIGH)と判定されないと、むだ時間が正しく推定されていないと判断し、時定数や定常ゲインの情報に基づいてむだ時間を補正する処理を実行した。これにより、正確なむだ時間を算出することが可能となる。
また、制御対象の入力(実空燃比)を所定振幅、所定周期で変動させる制御を実行している際に、前述した信頼性判定で連続して信頼性が「高い」(HIGH)と判定されないと、制御対象の入力のこの周期を変更する制御を実行した。より具体的には、燃料噴射量や吸入空気量を変動させて、空燃比をリッチ/リーンに所定の周期・振幅で変動させる制御を実行している際に、連続して推定されたむだ時間が正しく推定されていないと判定されると、空燃比をリッチ/リーンに切換える周期を所定値、または所定割合長くする制御を実行した。このように、周期を変更することで、むだ時間を推定し易くなる。また、信頼性が「高い」(HIGH)と判定されない場合、つまり、むだ時間が正しく推定されていないと判断した場合には、推定した時定数、むだ時間に基づいて行われる触媒等の劣化判定を禁止した。これにより、触媒等の劣化判定の際に、誤診断することを防止することが可能となる。
以下、特徴部分以外のエンジンECUの処理内容について説明する。
図9において、先ずステップS101では、例えば基本噴射量マップ等を用い、その都度のエンジン回転数や負荷等の運転状態パラメータに基づいて基本噴射量TPを算出する。続くステップS102では、空燃比F/B制御の実行条件判定を実施する。実行条件判定処理を詳しく説明すれば、図8に示すように、ステップS111では、A/Fセンサ31が使用可能な状態であるか否かを判別する。具体的には、A/Fセンサ31が活性化していること、フェイルしていないこと等を判別する。また、ステップS112では、エンジン水温が所定温度(例えば70℃)以上であるか否かを判別する。そして、A/Fセンサ31が使用可能であり且つエンジン水温が所定温度以上であれば、ステップS113に進む。ステップS113,S114では、回転速度とエンジン負荷(例えば吸気管負圧)とをパラメータとする運転領域マップを参照し、今現在のエンジン運転状態がF/B実行領域にあるかどうかを判定する。そして、F/B実行領域にあれば、ステップS115で実行フラグを「ON」し、実行領域になければ、ステップS116で実行フラグを「OFF」する。その後本処理を終了する。
図9の説明に戻り、ステップS103では実行フラグがONであるか否かを判別する。実行フラグがOFFであればステップS104に進み、空燃比補正係数FAFを1.0とする。この場合、空燃比F/Bは行われないこととなる。また、実行フラグがONであればステップS105に進み、空燃比補正係数FAFの算出処理を実行する。最後に、ステップS106では、空燃比補正係数FAFやその他各種の補正係数(例えば冷却水温補正係数、学習補正係数、加減速時の補正係数等)により基本噴射量TPを補正し、最終の燃料噴射量TAUを算出する。
次に、前記ステップS105で実行される空燃比補正係数FAFの算出サブルーチンを図7のフローチャートを基に説明する。
図7において、ステップS210では、同定実行条件の判定処理を実行する。本実施の形態では、エンジン排気管に設けた触媒の劣化検出処理が実行されていること、又はエンジン運転状態が定常状態であることを同定実行条件としている。ここで、触媒の劣化検出手法は種々提案されているが、その劣化検出に際し所定周期で空燃比を強制的に振幅させることを要件とするものであれば、任意の検出手法が適用できる。例えば、理論空燃比を中心にして空燃比を所定周期で振幅させ、その時の触媒下流側の空燃比変化(応答周期など)をモニタする。そしてそのモニタ結果から触媒劣化状態を判定する。こうした触媒の劣化検出は、空燃比を振幅させてもエミッション悪化が生じにくい運転状態下で実施されるのが通常である。故に、エミッションを良好に維持するには、触媒の劣化検出に合わせて同定を行うのが望ましい。
また、エンジン回転速度の単位時間当たりの変化量が所定値以下であること、及び負荷の単位時間当たりの変化量が所定値以下であることからエンジン運転状態が定常であるかどうかを判別する。
すなわち、図10に示すように、ステップS211では、今現在触媒の劣化検出処理が実行されているか否かを判別し、続くステップS212,S213では、今現在のエンジン運転状態を判定して定常状態にあるか否かを判別する。そして、触媒の劣化検出処理が実行されている場合、又はエンジン運転状態が定常である場合に、ステップS214に進んで同定フラグを「ON」にする。またそれ以外の場合、ステップS215に進んで同定フラグを「OFF」にする。
但し、同定実行条件を、触媒劣化検出の実行時であることのみとしたり、逆に触媒劣化検出の実行時であることを条件から外したりすることも可能である。また、エンジンの定常判定処理において、所定時間以上の間、定常判定が行われない場合に、エンジン回転速度や負荷変化量の定常境界値を拡張側に変更してもよい。
図7の説明に戻り、ステップS220では、同定フラグ=「ON」であるか否かを判別し、同定フラグ=「ON」であることを条件にステップS230,S240を実行する。すなわち、ステップS230では、同定実行時の目標空燃比の設定を行う。このとき、同定実行時の目標空燃比設定は、元々の目標空燃比に振幅±0.05、周期1.4secの矩形波又は正弦波を加算するものとする。但し、振幅や周期といった信号の性質は他のものでも良く、設定したプラントパラメータ数の1/2のPE(persistently exciting)性を有する信号であればよい。振幅はSN比を良くするため、可能な限り大きく設定する。ここで、パラメータの逐次同定を可能にするためには、制御対象の動特性を十分に励起する入力uを与える必要があり、同定すべきパラメータの個数がp個の場合において、入力u(t)がp/2個以上の周波数成分を含むようにする。これにより、パラメータの推定値が真値に収束する。その後、ステップS240では、同定処理を実行する。ステップS250では、制御量算出処理を実行する。
図11は、前記図7のステップS240で実行される同定処理サブルーチンを示すフローチャートである。
図11において、ステップS301では、同定用入出力の直流成分(トレンド)の除去処理及び同定出力用のノイズ除去処理を実施する。具体的には、メインF/Bコントローラ40にて算出されるFAFやA/Fセンサ13の検出空燃比に対してトレンド除去処理が実施される。この除去処理は、直流成分除去が可能なものであれば任意で良く、例えば移動平均処理などが実施される。また、A/Fセンサ31の検出空燃比に対してなまし処理(LPF処理)が実施される。
ステップS302では、制御対象の実出力と離散プラントモデルの出力とから同定誤差eを算出する。その後、ステップS303,S304では、同定誤差eに対してなまし処理(LPF処理)と不感帯処理とを実行する。これにより、同定誤差e_tildeが算出される。
ステップS305では、ノミナルパラメータの算出を実行する。その手順を簡単に記述すれば、まずその都度のエンジン運転情報(回転速度信号、負荷信号)に対してLPF処理を施し、該LPF後の運転情報を基に、ノミナルパラメータマップを参照してノミナルパラメータ(時定数、余むだ時間のノミナル値Tm,L1m)を算出する。更に、該算出したノミナルパラメータ(連続時間ノミナルパラメータ)に対して離散化処理を施し、離散パラメータのノミナル値θmを算出する。
そして、ステップS306では、上記(11)式等で規定したパラメータ調整則に従い、パラメータ適応処理を実行する。これにより、制御対象の実出力と離散プラントモデルの出力との誤差をゼロに近づけるようにして離散パラメータの推定値θ_hatが算出される。
その後、ステップS307では、前記算出した離散パラメータの推定値θ_hatに対して上記(5)式により連続化の処理を実行し、連続パラメータ(時定数の推定値T_hat、むだ時間の推定値L1_hat)を算出する。そして続くステップS308では、連続パラメータのノミナル値Tmからの誤差分ΔT_hatに対してリミット処理を実行する。更に、ステップS309では、むだ時間更新処理を実行し、ステップS310では、時定数の学習値Ta,むだ時間の学習値Laの学習処理を実行する。
図12は、前記図11のステップS308で実行されるリミット処理を示すフローチャートである。このフローチャートが実行されると、時定数の推定値T_hatからノミナル値Tmを減算した誤差分ΔT_hatがガード値δp、−δmに張り付いている場合に、このガード値を更新する。
図12において、ステップS311では、連続パラメータである時定数の推定値T_hatからノミナル値Tmを減算して誤差分ΔT_hatを算出する。ノミナル値Tmは、マップ等を参照して算出されるパラメータマップ値であり、特にその都度のエンジン運転状態に基づいて算出される。続くステップS312では、誤差分ΔT_hatに対してLPF処理を実行する。なお、ΔT_hatに対するLPF処理は、他のタイミングで実施されても良く、例えば当該ΔT_hatにガードをかけた後に実施されても良い。
ステップS313では、誤差分ΔT_hatが正側のガード値δpよりも大きいか否か、又は誤差分ΔT_hatが負側のガード値−δmよりも小さいか否かを判別する。ΔT_hat≦δpで且つΔT_hat≧−δmの場合、ステップS314に進み、カウンタpcnt,mcntを0にクリアする。更に、ステップS315では、ガード値δp,δmを変更せずに終了する。
また、ΔT_hat>δpであるか、又はΔT_hat<−δmであれば、ステップS316に進み、誤差分ΔT_hatをガード値δp,δmでガードする。このとき、ΔT_hat>δpの場合にはΔT_hat=δpとし、ΔT_hat<−δmの場合にはΔT_hat=−δmとする。
その後、ステップS317では、カウンタpcnt,mcntの加算処理を実行する。このとき、ΔT_hat>δpの場合にはカウンタpcntを加算し、ΔT_hat<−δmの場合にはカウンタmcntを加算する。ステップS318では、pcnt>Nであるか、又はmcnt>Nであるかを判別する。そしてYESであればステップS319に進み、ガード値δp,δmを増加側に変更する。このとき、pcnt>Nの場合にはガード値δpにΔδpを加算し(δp=δp+Δδp)、mcnt>Nの場合にはガード値δmにΔδmを加算する(δm=δm+Δδm)。つまり、所定時間継続してΔT_hatがガード値に張り付いている場合にガード値が拡げられる。これにより、この更新されたガード値に基づいて、時定数T_hatを算出することが可能となる。
なお、所定時間継続してΔT_hatがガード値に張り付いている場合、又はΔT_hatがガード値に対して絶対値で所定値以上大きい場合に、適応機構をリセット(初期化Δθ=0)するものとしてもよい。また、ΔT_hatの所定回数前と現在の値との差が所定値以上である場合に、適応機構をリセット(初期化Δθ=0)するものとしてもよい。
図13,図14は、前記図11のステップS309で実行されるむだ時間更新処理を示すフローチャートである。このフローチャートが実行されると、余むだ時間L1_hatに基づいて、サンプリングタイミング(d・dt)のむだサンプリング回数d(むだサンプリング回数の推定値d_hat)の算出を行う。なお、本処理で用いる微小な正の定数ε1,ε2,δ1,δ2は、δ1<ε1<ε2<δ2の関係にあるとしている。
図13において、ステップS321では、前記図11のステップS307で算出した余むだ時間の推定値L1_hatが所定の判定値「0+ε1」よりも小さいか否かを判別する。すなわち、余むだ時間の推定値L1_hatが余むだ時間の下限値近傍(0〜0+ε1)にあるか否かを判別する。そして、L1_hat≧0+ε1であれば、ステップS322でカウンタcntAを0にクリアする。また、L1_hat<0+ε1であれば(L1_hatが下限値近傍にあれば)ステップS323に進み、カウンタcntAを1加算する。
その後、ステップS324では、カウンタcntAの値が所定値N1以上であり且つ余むだ時間の推定値L1_hatが微小な正の定数δ1よりも小さいこと、又は、カウンタcntAの値が所定値N2以上であることの何れかが成立するか否かを判別する。ここで、N1<N2である。なお、ステップS324の判別条件を、カウンタcntAの値が所定値N1以上であり且つ余むだ時間の推定値L1_hatが微小な正の定数δ1よりも小さいことだけとしたり、カウンタcntAの値が所定値以上であることだけとしたりすることも可能である。そして、ステップS324が満たされない場合は、S326へ進む。
また、ステップS324が満たされた場合、ステップS325に進む。ステップS325では、余むだ時間L1adp=dt−δ2、むだサンプリング回数更新値Δdadp=−1、カウンタcntA=0といった各処理を実施する。
またその後、図14のステップS326では、余むだ時間の推定値L1_hatが所定の判定値「dt−ε1」以上であるか否かを判別する。すなわち、余むだ時間の推定値L1_hatが余むだ時間の上限値近傍(dt−ε1〜dt)にあるか否かを判別する。そして、L1_hat<dt−ε1であれば、ステップS327でカウンタcntBを0にクリアする。また、L1_hat≧dt−ε1であれば(L1_hatが上限値近傍にあれば)ステップS328に進み、カウンタcntBを1加算する。
その後、ステップS329では、カウンタcntBの値が所定値N1以上であり且つ余むだ時間の推定値L1_hatが上限値から微小な正の定数δ1だけ小さい値(dt−δ1)よりも大きいこと、又は、カウンタcntBの値が所定値N2以上であることの何れかが成立するか否かを判別する。なお、ステップS329の判別条件を、カウンタcntBの値が所定値N1以上であり且つ余むだ時間の推定値L1_hatが(dt−δ1)よりも大きいことだけとしたり、カウンタcntBの値が所定値以上であることだけとしたりすることも可能である。そして、ステップS329が満たされない場合は、ステップS331に進む。
また、ステップS329が満たされた場合、ステップS330に進む。ステップS330では、余むだ時間L1adp=δ2とする、むだサンプリング回数更新値Δdadp=+1とする、カウンタcntB=0とする、といった各処理を実施する。
最後にステップS331では、むだサンプリング回数のノミナル値dmとΔdadpの積算値からむだサンプリング回数dadpを算出する(dadp=dm+Δdadp)。図15は、前記図8のステップS250で実行される制御量算出処理を示すフローチャートである。
図15において、ステップS401では、ノミナルパラメータマップを参照し、現在のエンジン運転状態(負荷と回転数)に基づいてノミナルパラメータ(時定数、余むだ時間のノミナル値Tm,L1m)を算出する。また、ステップS402では、スタンバイRAM内に格納されている学習値ΔTn,ΔLnを読み出すと共に、前記ノミナルパラメータを加算して連続パラメータ(時定数、余むだ時間)を算出する。このとき、現在のエンジン運転状態(負荷かかる場合、ステップS343の学習値更新処理では、前述した図6の学習可否判定処理において算出された時定数の学習用パラメータTaとノミナル値Tmとの偏差ΔTが算出され、そのΔT値が、スタンバイRAM内に既に記憶されている前回学習値に書き換えられて格納される。また、同じく図6の学習可否判定処理において算出されたむだ時間の学習用パラメータLaとノミナル値Lmとの偏差ΔLが算出され、そのΔL値が、スタンバイRAM内に既に記憶されている前回学習値に書き換えられて格納される。
例えば、図16の(a)に示すように、エンジン負荷と回転数を測定可能な所定範囲内で各々4分割して合計16個の領域を設け、それらの領域毎に時定数の学習値ΔTを割り当てる。また、図16の(b)に示すように、エンジン負荷と回転数を測定可能な所定範囲内で各々4分割して合計16個の領域を設け、それらの領域毎にむだ時間の学習値ΔLを割り当てる。図中、学習値ΔT,ΔLに付した添え字は領域番号である。なお、エンジン負荷と回転数とをパラメータとする各スタンバイRAM領域は各々均等に分割されていても良いが、不等分割されていても良い。
以上説明した本実施形態によれば、推定したむだ時間が正しく推定されているか否かの信頼判定を、時定数や定常ゲインのに基づいて判定し、信頼性が「高い」(HIGH)と判定される、つまり、むだ時間が正しく算出されていると判定されると、むだ時間等のパラメータを学習する制御を実行する。これにより、学習の精度を向上することが可能となり、むだ時間の誤学習による制御性の悪化を防ぐことが可能となる。また、推定したむだ時間の信頼性が「高い」(HIGH)と判定されない、つまり、むだ時間が正しく算出されていないと判定されると、むだ時間等のパラメータの学習を禁止し、時定数や定常ゲインの情報に基づいてむだ時間を補正する。これにより、正確なむだ時間を算出することが可能となる。
また、推定したむだ時間が連続して正しく推定されていないと判定されると(前述した信頼性判定で信頼性が連続して「高い」(HIGH)と判定されないと)、例えば、制御対象の入力(実空燃比)を所定振幅、所定周期で変動させる場合には、この周期を変更すると良い。より具体的には、実空燃比を燃料噴射量や吸入空気量を変動させて、リッチ/リーンに所定の周期・振幅で変動させる場合には、その周期を所定値、または所定割合長くすることによって、変動を検出しやすくすることが可能となり、むだ時間が推定し易くなる。
また、推定したむだ時間が正しく推定されていない場合に、むだ時間等のパラメータに基づいて劣化判定を行うと誤判定する虞があるため、推定したむだ時間が正しく推定されていないと判定された場合には(信頼性が「高い」(HIGH)と判定されない場合には)、推定した時定数、むだ時間に基づいて行われる触媒等の劣化判定を禁止すると良い。
また、本実施形態のむだ時間の信頼性判定とは、推定されたむだ時間が正確に算出されているか否かを判断するものである。ここで、信頼性判定により信頼性が「高い」(HIGH)と判定された場合には、推定されたむだ時間が正しく設定されていることを示し、信頼性判定により信頼性が「高い」(HIGH)と判定されない場合には、推定されたむだ時間が正しく設定されていないことを示している。
本実施形態では、むだ時間の信頼性判定を実行してから学習可否判定を行ったが、学習可否判定を先に行い、学習可否判定で学習する(学習フラグ=「ON」)とした場合のむだ時間に対して信頼性判定を行っても良い。より具体的には、学習可否判定で学習値を更新する(学習フラグ=「ON」)とした場合に、信頼性判定を行い、この信頼性判定で信頼性が「高い」(HIGH)と判定された場合に、むだ時間や時定数の学習値を更新する。また、この信頼性判定で信頼性が「高い」(HIGH)と判定されない場合には、むだ時間の初期値の設定を変更し、再度同定処理を行いむだ時間や時定数を算出するといった処理を行う。このように、学習可否判定と信頼性判定との処理の順序を代えても良い。
また、本実施形態では、制御対象が、1次遅れ系のむだ時間を有する場合について説明したが、高次遅れ系のむだ時間を有する場合においても適用すると良い。また、制御対象としてエンジン以外に適用しても良い。
[実施形態2]
次に、本発明を内燃機関の空燃比制御システムの異常判定に適用して具体化した実施例を説明する。なお、実施形態1では、メインF/Bコントローラ40または、サブF/Bコントローラは、事前にモデル化し適合したプラントモデルを基に設計されたものであり、本来はこのメインF/Bコントローラ40またはサブF/Bコントローラにより最適な空燃比F/B制御が実現されるが、実際の制御対象(エンジン11、A/Fセンサ31、触媒25等)では個体差や劣化等によってF/B制御誤差が生じる。このため、適応制御と称される制御方式を用い、メインF/Bコントローラ40またはサブF/BコントローラにおけるF/Bゲインを制御対象(プラント)の現時点の動特性に自動的に適応させ、制御系の性能を常に最良の状態に保持するようにしている。つまり、実施形態1では、プラントモデルを用いることにより、最適な空燃比F/B制御が実現される。
一方、本実施形態2では、プラントモデルは、制御対象の異常を判定するために用いられる。以下、実施形態2について図20を用いて説明する。
図20において、推定された離散パラメータθ_hatは連続化され、これにより連続パラメータ(時定数、余むだ時間の推定値T_hat,L1_hat)が算出される(詳細は、実施形態1を参照)。更に、推定値T_hat,L1_hatについてノミナル値Tm,L1mからの誤差分ΔT_hat,ΔL1_hatが算出される。そして、これら誤差分に対してフィルタ処理やリミット処理が適宜施されると共に、むだ時間更新処理が施される(「同定手段」「むだ時間推定手段」に相当)。ここで、推定されたむだ時間は、離散パラメータより算出されたむだ時間以外のパラメータ(例えば、時定数、定常ゲイン)に基づいて、正しく推定されているか否かが判定される。
ここで、むだ時間が正しく推定されていると判定されると、連続パラメータの誤差分ΔT_hat,ΔL1_hatにノミナル値Tm,L1mが加算されることで修正後連続パラメータTtmp,L1tmpが算出され、その修正後連続パラメータの時定数Ttmp、むだ時間L1tmpを用いて故障診断処理(OBD)等が適宜実施される。この故障診断は、連続パラメータの時定数Ttmpが或る基準値よりも大きい場合、応答遅れが生じていると考えられるため、例えば、空燃比センサの劣化等が考えられる。このため、連続パラメータの時定数Ttmpが或る基準値よりも大きい場合は、制御対象の異常と判定しても良い。
また、制御対象に触媒の前後に設置された空燃比センサを含み、むだ時間を、触媒の前後に設置された空燃比センサに生じるむだ時間とした場合には、連続パラメータのむだ時間が或る基準値よりも小さいと、例えば、触媒の劣化等が考えられる。このため、連続パラメータのむだ時間が或る基準値よりも小さい場合には、制御対象に異常が生じていると判定すると良い。
以上、説明したように、むだ時間が正しく推定されていると判定されると、推定したむだ時間、または離散モデルパラメータにより算出されるパラメータ(例えば、時定数)に基づいて、制御対象の異常を判定することで、制御対象の異常診断を精度良く行うことができる。つまり、従来では、むだ時間が正しく推定されているか否かの判定を行っていなかったので、むだ時間が正しく推定されていないにも係わらず、それらパラメータに基づいて、制御対象の異常判定を行う場合があった。そこで、むだ時間が正しく推定されていると判定されているときに、制御対象の異常判定を行うことで、制御対象の異常を判定する際に誤判定を防ぐことが可能となる。
本実施形態の構成図である。 本実施形態におけるエンジン制御システム概略図である。 ノミナルモデルスケジューラと離散化処理の概要を示すブロック図である。 学習処理を示すフローチャートである。 むだ時間信頼判定処理を示すフローチャートである。 学習可否判定処理を示すフローチャートである。 空燃比補正係数の算出処理を示すフローチャートである。 空燃比フィードバック制御を実行する際のフローチャートである。 燃料噴射制御処理を示すフローチャートである。 同定処理を実行する際の条件判定フローチャートである。 同定処理を示すフローチャートである。 リミット処理を示すフローチャートである。 むだ時間の更新処理を示すフローチャートである。 むだ時間の更新処理を示すフローチャートである(図4の続き)。 制御量の算出処理を示すフローチャートである。 学習値のマップデータを示す図である。 制御入力uの変化を表すタイムチャートである。 むだ時間変更処理の概要を具体的に示すタイムチャートである。 同定処理におけるむだ時間と評価関数との相関関係図である。 本実施形態におけるエンジン制御システムの異常判定の概略図である。
符号の説明
11 エンジン
25 三元触媒
29 ECU
31 上流側排ガスセンサ(A/Fセンサ)
32 下流側排気ガスセンサ(O2センサ)

Claims (17)

  1. 制御対象のむだ時間に基づいて算出された離散モデルパラメータを含む離散化したプラントモデルを有し、前記制御対象の実出力が所定の目標値となるように前記制御対象への入力を制御する制御装置において、
    該離散プラントモデルに前記制御対象への入力を入力した時のプラントモデル出力と前記制御対象の実出力との偏差(以下、「同定誤差」と言う)をゼロに近づけるように、前記離散プラントモデルの前記離散モデルパラメータを同定する同定手段と、
    前記同定手段により算出された前記離散モデルパラメータに基づいて算出された前記むだ時間を実むだ時間に近づけるように推定するむだ時間推定手段と、
    前記同定手段により算出された前記離散モデルパラメータにより算出される前記むだ時間以外のパラメータに基づいて、前記むだ時間推定手段で推定した推定むだ時間が正しく推定されているか否かを判定する信頼性判定手段を備えることを特徴とする制御装置。
  2. 前記信頼性判定手段は、前記同定手段により同定された前記離散モデルパラメータより算出される、遅れ要素に関する定数に基づいて、前記推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
  3. 前記信頼性判定手段は、前記同定手段により同定された前記離散モデルパラメータより算出される、前記遅れ要素に関する定数の変化に基づいて、前記推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
  4. 前記信頼性判定手段は、前記制御対象への入力がステップ的に変化した際の、前記同定手段により同定された前記離散モデルパラメータより算出される、前記遅れ要素に関する定数の平均値に基づいて、前記推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
  5. 前記信頼性判定手段は、前記遅れ要素に関する定数の平均値が下限値から上限値の間にある場合に、推定むだ時間が正しく推定されていると判定することを特徴とする請求項4記載の制御装置。
  6. 前記信頼性判定手段は、前記同定手段により同定された前記離散モデルパラメータより算出される定常ゲインに基づいて、前記推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の制御装置。
  7. 前記信頼性判定手段は、前記同定手段により同定された前記離散モデルパラメータより算出される、前記定常ゲインの変化に基づいて、前記推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定することを特徴とする請求項6に記載の制御装置。
  8. 前記信頼性判定手段は、前記制御対象への入力がステップ的に変化した際の、前記同定手段により同定された前記離散モデルパラメータより算出される、前記定常ゲインの平均値に基づいて、前記推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定することを特徴とする請求項6に記載の制御装置。
  9. 前記信頼性判定手段は、前記定常ゲインの平均値が下限値から上限値の間にある場合に、推定むだ時間が正しく推定されていると判定することを特徴とする請求項8に記載の制御装置。
  10. 前記むだ時間推定手段により推定した前記むだ時間、及び前記同定手段により同定された前記離散モデルパラメータにより算出される、遅れ要素に関する定数、若しくは定常ゲイン等のパラメータを学習するか否かを判定する学習可否判定手段と、
    前記信頼性判定手段により前記推定むだ時間が正しく推定されていると判定され、且つ前記学習可否判定手段により前記パラメータを学習すると判定された場合に、前記パラメータを学習する学習手段とを備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1つに記載の制御装置。
  11. 前記信頼性判定手段により、前記推定むだ時間が正しく推定されていないと判定されると、前記推定むだ時間を修正するむだ時間修正手段を備えることを特徴する請求項1乃至10のいずれか1つに記載の制御装置。
  12. 前記制御対象の入力を所定の周期で変動させる入力変動手段を備え、
    前記信頼性判定手段により、前記推定むだ時間が所定回数連続して正しく推定されていないと判定されると、前記入力変動手段により前記制御対象の入力の周期を所定値若しくは所定割合長くすることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1つに記載の制御装置。
  13. 前記入力変動手段は、前記制御対象の入力を所定の振幅で変動させることを特徴とする請求項12記載の制御装置。
  14. 前記むだ時間推定手段により推定した前記むだ時間、または前記同定手段により算出された前記離散モデルパラメータにより算出されるパラメータに基づいて、前記制御対象の劣化を判定する劣化判定手段を備え、
    前記信頼性判定手段により、前記推定むだ時間が正しく推定されていないと判定されると、前記劣化判定手段による劣化判定を禁止することを特徴とする請求項1乃至13いずれか1つに記載の制御装置。
  15. 制御対象のむだ時間に基づいて算出された離散モデルパラメータを含む離散化したプラントモデルを有し、前記制御対象の異常を判定する異常判定装置において、
    該離散プラントモデルに前記制御対象への入力を入力した時のプラントモデル出力と前記制御対象の実出力との偏差(以下、「同定誤差」と言う)をゼロに近づけるように、前記離散プラントモデルの前記離散モデルパラメータを同定する同定手段と、
    前記同定手段により算出された前記離散モデルパラメータに基づいて算出された前記むだ時間を実むだ時間に近づけるように推定するむだ時間推定手段と、
    前記同定手段により算出された前記離散モデルパラメータにより算出される前記むだ時間以外のパラメータに基づいて、前記むだ時間推定手段で推定した推定むだ時間が正しく推定されているか否かを判定する信頼性判定手段と、
    前記信頼性判定手段により前記むだ時間が正しく推定されていると判定されたときの、前記むだ時間推定手段により推定した前記むだ時間、または前記同定手段により算出された前記離散モデルパラメータにより算出されるパラメータに基づいて、前記制御対象の異常を判定する異常判定手段を備えたことを特徴とする異常判定装置。
  16. 前記信頼性判定手段は、前記同定手段により同定された前記離散モデルパラメータより算出される、遅れ要素に関する定数に基づいて、前記推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定することを特徴とする請求項15に記載の異常判定装置。
  17. 前記信頼性判定手段は、前記同定手段により同定された前記離散モデルパラメータより算出される定常ゲインに基づいて、前記推定むだ時間が正しく推定されているか否か判定することを特徴とする請求項15または16に記載の異常判定装置。
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