JP2008138262A - ショットピーニング加工面の形成方法 - Google Patents
ショットピーニング加工面の形成方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2008138262A JP2008138262A JP2006326685A JP2006326685A JP2008138262A JP 2008138262 A JP2008138262 A JP 2008138262A JP 2006326685 A JP2006326685 A JP 2006326685A JP 2006326685 A JP2006326685 A JP 2006326685A JP 2008138262 A JP2008138262 A JP 2008138262A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- shot
- rolling device
- shot peening
- rolling
- peening
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Landscapes
- Rolling Contact Bearings (AREA)
- Heat Treatment Of Articles (AREA)
Abstract
【課題】素材コストや加工コストの上昇を招くことなく転動装置部品の表面にショットピーニング加工面を形成することのできるショットピーニング加工面の形成方法を提供する。
【解決手段】ショットピーニング加工面が形成される転動装置部品の素材として、炭素含有量が0.95質量%以上1.1質量%以下の軸受鋼を用いる。また、転動装置部品の焼戻し温度より低く且つ373Kより高い温度に転動装置部品を加熱した状態でショットピーニングを施す。
【選択図】なし
【解決手段】ショットピーニング加工面が形成される転動装置部品の素材として、炭素含有量が0.95質量%以上1.1質量%以下の軸受鋼を用いる。また、転動装置部品の焼戻し温度より低く且つ373Kより高い温度に転動装置部品を加熱した状態でショットピーニングを施す。
【選択図】なし
Description
本発明は、転がり軸受、ボールねじ、直動案内装置等の転動装置の転動装置部品表面にショットピーニング加工面を形成する方法に関する。
一般に、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下で玉軸受等の転がり軸受を使用すると、潤滑剤に混入した異物が転動体と軌道輪との間に噛み込まれることによって圧痕が転動体や軌道輪の表面に発生し、転動体や軌道輪の表面に発生した圧痕が疲労破壊の起点となる。このため、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下では、転がり軸受の寿命が短くなりやすい。
また、軌道輪と転動体との間に油膜を形成する潤滑剤が不足すると、軌道輪と転動体が金属接触することによって金属表面の疲労破壊が進行する。このため、潤滑剤が不足しやすい環境下では、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下と同様に、転がり軸受の寿命が短くなりやすい。
このような軸受寿命の低下を抑制する方策としては、従来、種々のものが提案されている。たとえば、軌道輪、転動体等の軸受部品に浸炭処理、浸炭窒化処理等の熱処理を施して圧縮残留応力を軸受部品の表面に付与する方法や、軌道輪、転動体等の軸受部品にショットピーニングを施して軸受部品の表面にショットピーニング加工面を形成する方法(例えば、特許文献1参照)などが知られている。
特許第294794号公報
このような軸受寿命の低下を抑制する方策としては、従来、種々のものが提案されている。たとえば、軌道輪、転動体等の軸受部品に浸炭処理、浸炭窒化処理等の熱処理を施して圧縮残留応力を軸受部品の表面に付与する方法や、軌道輪、転動体等の軸受部品にショットピーニングを施して軸受部品の表面にショットピーニング加工面を形成する方法(例えば、特許文献1参照)などが知られている。
しかしながら、前者の方法では軌道輪や転動体の素材として一般的に用いられる軸受鋼ではなく、肌焼鋼を用いる必要があり、しかも浸炭あるいは浸炭窒化に要する熱処理時間も長いため、コストアップを招くという問題がある。
一方、後者の方法は、ショットピーニングが施される軸受部品の素材として軸受鋼を用いると、ショットピーニングによる塑性変形が生じ難くなる。このため、軸受部品の表面にショットピーニング加工面を形成するのに時間がかかり、軸受部品の表面にショットピーニング加工面を形成する際の加工コストが上昇するという問題がある。
一方、後者の方法は、ショットピーニングが施される軸受部品の素材として軸受鋼を用いると、ショットピーニングによる塑性変形が生じ難くなる。このため、軸受部品の表面にショットピーニング加工面を形成するのに時間がかかり、軸受部品の表面にショットピーニング加工面を形成する際の加工コストが上昇するという問題がある。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、素材コストや加工コストの上昇を招くことなく転動装置部品の表面にショットピーニング加工面を形成することのできるショットピーニング加工面の形成方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下や潤滑剤が不足しやすい環境下で使用する場合に好適な転動装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下や潤滑剤が不足しやすい環境下で使用する場合に好適な転動装置を提供することにある。
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明に係るショットピーニング加工面の形成方法は、転動装置部品にショットピーニングを施してショットピーニング加工面を形成するに際して、前記転動装置部品の素材として炭素含有量が0.95質量%以上1.1質量%以下の軸受鋼を用い、前記転動装置部品の焼戻し温度より低く且つ373Kより高い温度に転動装置部品を加熱した状態でショットピーニングを施すことを特徴とする。
請求項2記載の発明に係るショットピーニング加工面の形成方法は、請求項1記載のショットピーニング加工面の形成方法において、前記ショットピーニング加工面の硬さがHV800以上HV900以下となるようにショットピーニングを施すことを特徴とする。
請求項3記載の発明に係るショットピーニング加工面の形成方法は、請求項1または2記載のショットピーニング加工面の形成方法において、前記ショットピーニング加工面から深さ100μmの表層部における圧縮残留応力が500MPa以上1000MPa以下となるようにショットピーニングを施すことを特徴とする。
請求項3記載の発明に係るショットピーニング加工面の形成方法は、請求項1または2記載のショットピーニング加工面の形成方法において、前記ショットピーニング加工面から深さ100μmの表層部における圧縮残留応力が500MPa以上1000MPa以下となるようにショットピーニングを施すことを特徴とする。
請求項4記載の発明に係る転動装置は、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法によりショットピーニング加工面が形成された転動装置部品を備えたことを特徴とする。
[作用]
転がり軸受のような転動装置は、軌道輪と転動体の接触点に高面圧が発生するため、それに耐え得る高硬度が必要である。しかし、軸受鋼の炭素含有量が0.95質量%未満であると、焼入れ焼戻し後の硬度を安定的に得ることができない。また、軸受鋼の炭素含有量が1.1質量%を超えると、加工性が低下する。しかしながら、転動装置部品は非常に高硬度であり、塑性変形が生じ難いため、浸炭などの表面硬化熱処理を用いない場合には、表面下の深い領域にまで大きな圧縮残留応力を付与することは困難である。したがって、表面下の深い領域に大きな圧縮残留応力を付与するためには、ショットピーニングを長時間行うか、あるいはショット粒を被加工物に強く当てる必要があり、表面の靭性を低下させる場合がある。
[作用]
転がり軸受のような転動装置は、軌道輪と転動体の接触点に高面圧が発生するため、それに耐え得る高硬度が必要である。しかし、軸受鋼の炭素含有量が0.95質量%未満であると、焼入れ焼戻し後の硬度を安定的に得ることができない。また、軸受鋼の炭素含有量が1.1質量%を超えると、加工性が低下する。しかしながら、転動装置部品は非常に高硬度であり、塑性変形が生じ難いため、浸炭などの表面硬化熱処理を用いない場合には、表面下の深い領域にまで大きな圧縮残留応力を付与することは困難である。したがって、表面下の深い領域に大きな圧縮残留応力を付与するためには、ショットピーニングを長時間行うか、あるいはショット粒を被加工物に強く当てる必要があり、表面の靭性を低下させる場合がある。
本発明では、転動装置部品を加熱した状態でショットピーニングを行なうため、下記のような効果がある。
(1)ショットピーニングの際に転動装置部品を加熱すると、転動装置部品表面の変形抵抗が下がるため、ショットピーニングによる塑性変形が転動装置部品表面に発生しやすくなる。したがって、より大きな値で、かつ表面下の深い領域まで圧縮残留応力を付与することができる。
(1)ショットピーニングの際に転動装置部品を加熱すると、転動装置部品表面の変形抵抗が下がるため、ショットピーニングによる塑性変形が転動装置部品表面に発生しやすくなる。したがって、より大きな値で、かつ表面下の深い領域まで圧縮残留応力を付与することができる。
(2)ショットピーニングを室温で行った場合には、ショット粒の衝撃によって微小な亀裂が転動装置部品の表面に発生し、転動装置部品の強度を低下させる場合があるが、ショットピーニングの際に転動装置部品を加熱すると転動装置部品素材(軸受鋼)の靭性が高くなり、ショット粒の衝撃による微小亀裂が転動装置部品の表面に発生し難くなるので、転動装置の寿命を安定的に延ばすことができる。
(3)ショットピーニングの際に転動装置部品を加熱すると、転動装置部品全体が熱膨張した状態でショット粒が転動装置部品の表面に当たり、転動装置部品の表面付近に塑性変形が生じる。そして、転動装置部品にショットピーニングを施した後、転動装置部品の温度が下がると、それまで熱膨張していた転動装置部品が収縮するが、転動装置部品の表面付近は熱膨張した状態に合わせて塑性変形しているため、表面付近と内部の変形量の差が大きくなり、表面付近の圧縮残留応力が大きくなる。
ここで、373K未満の温度でショットピーニングを行うと、上記の効果が小さくなり、転がり疲労の長寿命化への寄与が小さい。また、軸受鋼の焼戻し温度(通常、420K〜600Kの範囲内)を超えた温度でショットピーニングを行うと、転動装置部品全体の硬さが低下するため、転がり疲労が低下する。
本発明者らは、表面からの疲労亀裂の発生および伝播を抑制し、転動装置部品の転動寿命を延ばすためには、表面下深さ100μmの位置での圧縮残留応力を所定の値にすることが効果的であるという知見を得た。本発明の方法でショットピーニングを行うことによって、表面下深さ100μmの位置で500MPa以上の圧縮残留応力を得ることが可能であり、転がり疲労寿命を向上させることができる。ただし、圧縮残留応力が1000MPaを超えると、転動装置部品素材の靭性が低下する場合があるので、1000MPa以下が好ましい。
本発明者らは、表面からの疲労亀裂の発生および伝播を抑制し、転動装置部品の転動寿命を延ばすためには、表面下深さ100μmの位置での圧縮残留応力を所定の値にすることが効果的であるという知見を得た。本発明の方法でショットピーニングを行うことによって、表面下深さ100μmの位置で500MPa以上の圧縮残留応力を得ることが可能であり、転がり疲労寿命を向上させることができる。ただし、圧縮残留応力が1000MPaを超えると、転動装置部品素材の靭性が低下する場合があるので、1000MPa以下が好ましい。
また、本発明の加工方法でショットピーニングを行い、転動装置部品の表面硬さをHV800以上にすることで、転動装置部品表面の耐圧痕性が向上し、転がり疲労寿命が向上する。しかし、転動装置部品の表面硬さがHV900を超えると靭性が低下する場合がある。
請求項1記載の発明に係るショットピーニング加工面の形成方法によれば、373Kより高く且つ焼戻し温度より低い温度に転動装置部品を加熱すると、転動装置部品表面の変形抵抗が低下し、転動装置部品の表面にショットピーニング加工面を比較的時間で形成しやすくなる。したがって、加工コストの上昇を招くことなく転動装置部品の表面にショットピーニング加工面を形成することができる。また、ショットピーニング加工面が形成される転動装置部品の素材として肌焼鋼を用いる必要がなく、軸受鋼を用いることができるので、素材コストの上昇を抑えることができる。
請求項2記載の発明によれば、上述した効果に加え、転動装置部品の転がり疲労寿命を低下させる疲労破壊が転動装置部品の表面に生じ難くなる。したがって、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下や潤滑剤が不足しやすい環境下で使用する場合でも好適に使用することができる。
請求項3記載の発明によれば、上述した効果に加え、転動装置部品の転がり疲労寿命を低下させる疲労破壊が転動装置部品の表層部に生じ難くなる。したがって、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下や潤滑剤が不足しやすい環境下で使用する場合でも好適に使用することができる。
請求項3記載の発明によれば、上述した効果に加え、転動装置部品の転がり疲労寿命を低下させる疲労破壊が転動装置部品の表層部に生じ難くなる。したがって、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下や潤滑剤が不足しやすい環境下で使用する場合でも好適に使用することができる。
本発明者は、潤滑剤に混入した異物による転がり疲労寿命の低下の度合いを調べるために、表1に示す鋼種A,B,Cのいずれかを用いて軌道輪を作製した。そして、作製した軌道輪をスラスト玉軸受(呼び番号:51305)の上レース及び下レースとして用い、アキシアル荷重:7800N、回転数:1000min−1、潤滑油:VG68(異物として、300ppmのFe3C粉末を混入)の条件でスラスト玉軸受の転がり疲労試験を実施して累積破損確率50%に対応するスラスト玉軸受の寿命(以下「L50寿命」という)を求めた。その結果を表2に示す。
表2において、試験例1,2,4,5,7,8は図1(a)に示す方法で作製された軌道輪、すなわち鍛造工程、切削工程、焼入れ工程、焼戻し工程、ショットピーニング工程及び研削工程を経て作製された軌道輪を上レース及び下レースとするスラスト玉軸受を示し、試験例3及び試験例6は図1(b)に示す方法で作製された軌道輪、すなわち鍛造工程、切削工程、焼入れ工程、焼戻し工程、第1の研削工程、ショットピーニング工程及び第2の研削工程を経て作製された軌道輪を上レース及び下レースとするスラスト玉軸受を示している。
また、表2において、試験例1−7の加熱温度は図1に示すショットピーニング工程で軌道輪にショットピーニングを施すときの軌道輪の加熱温度を示し、試験例1−7のショットピーニング加工面硬さは軌道輪の表面に形成されたショットピーニング加工面の硬さを転がり疲労試験を実施する前にビッカース硬度計で測定した測定値を示している。さらに、試験例1−7の圧縮残留応力はショットピーニング加工面から深さ100μmの表層部における圧縮残留応力を測定した測定値を示している。
また、図1に示すショットピーニング工程では、ショットピーニング装置として図2に示す構成のものを用い、ショット粒平均粒径:0.72mm、ショット粒材質:平均硬さHRC61の鋼球、ショット粒投射速度:32〜120m/secの条件でショットピーニングを行った。
なお、図2中31はショット粒、32はショット粒31が充填された加圧タンク、33は加圧タンク32に加圧空気を供給する加圧空気供給管、34は加圧タンク32内に供給された空気を排気する排気管、35は加圧空気供給管33の分岐管、36は分岐管35からの圧縮空気とショット粒31とを混合するミキサ、37は被処理物表面にショット粒31を先端のノズル38から投射するホース、41は加圧タンク32内にシャッタ40を介してショット粒31を供給するホッパ、42はショット粒31の投射速度を調整するための空気圧を調整可能なバルブを示している。
なお、図2中31はショット粒、32はショット粒31が充填された加圧タンク、33は加圧タンク32に加圧空気を供給する加圧空気供給管、34は加圧タンク32内に供給された空気を排気する排気管、35は加圧空気供給管33の分岐管、36は分岐管35からの圧縮空気とショット粒31とを混合するミキサ、37は被処理物表面にショット粒31を先端のノズル38から投射するホース、41は加圧タンク32内にシャッタ40を介してショット粒31を供給するホッパ、42はショット粒31の投射速度を調整するための空気圧を調整可能なバルブを示している。
試験例1−4と試験例8とを比較すると、試験例1−4はL50寿命が2.8以上であるのに対し、試験例8はL50寿命が0.8であった。これは、試験例1−4は軌道輪素材が鋼種Aまたは鋼種Bであるのに対し、試験例8は軌道輪素材が鋼種Cのためであり、炭素含有量の値が十分でないためである。
このことから、軌道輪の表面にショットピーニング加工面を形成してスラスト玉軸受の転がり疲労寿命を高めるためには、軌道輪素材として炭素含有量が0.95質量%以上1.1質量%以下の軸受鋼を用いることが好ましく、軌道輪素材として肌焼鋼を用いる必要がない。したがって、素材コストの上昇を招くことなく軌道輪の表面にショットピーニング加工面を形成することができる。
このことから、軌道輪の表面にショットピーニング加工面を形成してスラスト玉軸受の転がり疲労寿命を高めるためには、軌道輪素材として炭素含有量が0.95質量%以上1.1質量%以下の軸受鋼を用いることが好ましく、軌道輪素材として肌焼鋼を用いる必要がない。したがって、素材コストの上昇を招くことなく軌道輪の表面にショットピーニング加工面を形成することができる。
次に、試験例1−4と試験例5とを比較すると、試験例1−4はL50寿命が2.8以上であるのに対し、試験例5はL50寿命が1.0であった。これは、試験例1−4は軌道輪にショットピーニングを施すときの軌道輪の加熱温度が373K以上443K以下であるのに対し、試験例5は軌道輪にショットピーニングを施すときの軌道輪の温度が293Kであり、軌道輪を加熱しない状態でショットピーニングを行ったためである。
このことから、軌道輪の表面にショットピーニング加工面を形成してスラスト玉軸受の転がり疲労寿命を高めるためには、軌道輪の焼戻し温度(420K〜600K)より低く且つ373Kより高い温度に軌道輪を加熱した状態でショットピーニングを軌道輪に施すことが好ましく、上記の温度に軌道輪を加熱すると軌道輪表面の変形抵抗が低下し、軌道輪の表面にショットピーニング加工面を比較的時間で形成しやすくなる。したがって、加工コストの上昇を招くことなく軌道輪の表面にショットピーニング加工面を形成することができる。
次に、試験例1−4と試験例7とを比較すると、試験例1−4はL50寿命が2.8以上であるのに対し、試験例7はL50寿命が1.4であった。これは、試験例1−4はショットピーニング加工面の硬さがHV800以上HV900以下であるのに対し、試験例7はショットピーニング加工面の硬さがHV780のためであり、ショットピーニング加工面の硬さが十分でないためである。
このことから、軌道輪の表面にショットピーニング加工面を形成してスラスト玉軸受の転がり疲労寿命を高めるためには、ショットピーニング加工面の硬さをHV800以上HV900以下にすることが好ましく、スラスト玉軸受の転がり疲労寿命を低下させる疲労破壊が軌道輪の表面に生じ難くなる。したがって、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下や潤滑剤が不足しやすい環境下で使用する場合でも好適に使用することができる。
次に、試験例1−4と試験例6とを比較すると、試験例1−4はL50寿命が2.8以上であるのに対し、試験例6はL50寿命が1.3であった。これは、試験例1−4は圧縮残留応力が500MPa以上1000MPa以下であるのに対し、試験例6は圧縮残留応力が200MPaのためであり、ショットピーニング加工面から深さ100μmの表層部における圧縮残留応力の値が十分でないためである。
このことから、軌道輪の表面にショットピーニング加工面を形成してスラスト玉軸受の転がり疲労寿命を高めるためには、ショットピーニング加工面から深さ100μmの表層部における圧縮残留応力を500MPa以上1000MPa以下にすることが好ましく、スラスト玉軸受の転がり疲労寿命を低下させる疲労破壊が軌道輪の表層部に生じ難くなる。したがって、潤滑剤に異物が混入しやすい環境下や潤滑剤が不足しやすい環境下で使用する場合でも好適に使用することができる。
なお、上述した転がり疲労試験では試験軸受としてスラスト玉軸受を用いたが、ラジアル玉軸受、フランジを有する車輪支持用転がり軸受、ころ軸受等の転がり軸受を試験軸受として用いても同様の試験結果を得ることができる。
また、ショットピーニング加工面が形成される表面は軌道輪の表面に限られるものではなく、転がり軸受、ボールねじ、直動案内装置等の転動装置の転動装置部品表面に適用可能である。
また、ショットピーニング加工面が形成される表面は軌道輪の表面に限られるものではなく、転がり軸受、ボールねじ、直動案内装置等の転動装置の転動装置部品表面に適用可能である。
また、図1に示すショットピーニング工程で軌道輪を加熱する方法としては、大気炉、ガス雰囲気炉、真空炉などの各種の加熱炉で軌道輪を加熱する方法を用いることができる。この場合、軌道輪を加熱炉から直ちに取り出してショットピーニングを行ってもよいし、加熱炉の中にショットピーニング装置のノズル38を挿入して加熱炉の中でショットピーニングを行ってもよい。
さらに、表1に示した鋼種A,B,Cにおいて、Si,Mn,P,S,Ni,Cr,Cu及びOの含有量を表1に示す数値とした理由は以下の通りである。
Crは、素材あるいは鍛造後に球状化焼鈍をする際に、セメンタイトの球状化を促進すると共に焼入れ時の焼入れ性を向上させるため、1.0質量%以上添加することが好ましい。しかし、6.0質量%を超えて添加すると、加工性が低下する場合があるため、鋼種A,B,CではCr含有量を1.0−1.4質量%の範囲内とした。
Crは、素材あるいは鍛造後に球状化焼鈍をする際に、セメンタイトの球状化を促進すると共に焼入れ時の焼入れ性を向上させるため、1.0質量%以上添加することが好ましい。しかし、6.0質量%を超えて添加すると、加工性が低下する場合があるため、鋼種A,B,CではCr含有量を1.0−1.4質量%の範囲内とした。
Siは、製綱時の脱落のために必要な元素であり、さらに焼戻し軟化抵抗を高め、転がり疲労寿命を向上させるため、0.15質量%以上添加することが好ましい。しかし、2.0質量%を超えて添加すると、加工性が低下する場合があるため、鋼種A,B,CではSi含有量を0.18−0.25質量%の範囲内とした。
Mnは、焼入れ性を高め、転動部材の硬さを安定的に得るために必要が元素であり、0.2質量%以上添加することが好ましい。しかし、1.0質量%を超えて添加しても、その効果は飽和するため、鋼種A,B,CではMn含有量を0.36−0.72質量%の範囲内とした。
Mnは、焼入れ性を高め、転動部材の硬さを安定的に得るために必要が元素であり、0.2質量%以上添加することが好ましい。しかし、1.0質量%を超えて添加しても、その効果は飽和するため、鋼種A,B,CではMn含有量を0.36−0.72質量%の範囲内とした。
Oは、鋼中で非金属介在物を形成し、転がり疲労寿命に非常に有害な元素であるため、15ppm以下にすることが好ましい。より好ましくは、転がり疲労寿命の安定性のために、10ppm以下にすることが望ましく、鋼種A,B,Cでは0含有量を0.0006−0.0009質量%の範囲内とした。
Pは、結晶粒界などに偏析し、鋼の靭性を低下させる元素である。このため、鋼種A,B,CではP含有量を0.013−0.0015質量%の範囲内とした。
Pは、結晶粒界などに偏析し、鋼の靭性を低下させる元素である。このため、鋼種A,B,CではP含有量を0.013−0.0015質量%の範囲内とした。
Sは、結晶粒界などに偏析し、鋼の靭性を低下させる元素であるため、0.02質量%以下にすることが好ましい。しかし、0.01質量%未満になると切削性が低下する場合があるため、鋼種A,B,CではS含有量を0.006−0.015質量%の範囲内とした。
CuおよびNiは、鋼の原材料となるスクラップに混入する元素であり、それぞれ0.3質量%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイト量が多くなり、寸法安定性が低下する場合がある。このため、鋼種A,B,CではCu含有量を0.12−0.15質量%の範囲内とし、Ni含有量を0.15−0.20質量%の範囲内とした。
CuおよびNiは、鋼の原材料となるスクラップに混入する元素であり、それぞれ0.3質量%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイト量が多くなり、寸法安定性が低下する場合がある。このため、鋼種A,B,CではCu含有量を0.12−0.15質量%の範囲内とし、Ni含有量を0.15−0.20質量%の範囲内とした。
Claims (4)
- 転動装置部品にショットピーニングを施してショットピーニング加工面を形成するに際して、前記転動装置部品の素材として炭素含有量が0.95質量%以上1.1質量%以下の軸受鋼を用い、前記転動装置部品の焼戻し温度より低く且つ373Kより高い温度に転動装置部品を加熱した状態でショットピーニングを施すことを特徴とするショットピーニング加工面の形成方法。
- 前記ショットピーニング加工面の硬さがHV800以上HV900以下となるようにショットピーニングを施すことを特徴とする請求項1記載のショットピーニング加工面の形成方法。
- 前記ショットピーニング加工面から深さ100μmの表層部における圧縮残留応力が500MPa以上1000MPa以下となるようにショットピーニングを施すことを特徴とする請求項1または2記載のショットピーニング加工面の形成方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項記載の方法によりショットピーニング加工面が形成された転動装置部品を備えたことを特徴とする転動装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2006326685A JP2008138262A (ja) | 2006-12-04 | 2006-12-04 | ショットピーニング加工面の形成方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2006326685A JP2008138262A (ja) | 2006-12-04 | 2006-12-04 | ショットピーニング加工面の形成方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2008138262A true JP2008138262A (ja) | 2008-06-19 |
Family
ID=39600036
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2006326685A Pending JP2008138262A (ja) | 2006-12-04 | 2006-12-04 | ショットピーニング加工面の形成方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2008138262A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010037616A (ja) * | 2008-08-07 | 2010-02-18 | Air Water Inc | 鋼材の表面処理方法およびそれによって得られた鋼材ならびに金型 |
JP2020105618A (ja) * | 2018-12-28 | 2020-07-09 | 日本製鉄株式会社 | 転がり軸受部品及びその製造方法 |
-
2006
- 2006-12-04 JP JP2006326685A patent/JP2008138262A/ja active Pending
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010037616A (ja) * | 2008-08-07 | 2010-02-18 | Air Water Inc | 鋼材の表面処理方法およびそれによって得られた鋼材ならびに金型 |
JP2020105618A (ja) * | 2018-12-28 | 2020-07-09 | 日本製鉄株式会社 | 転がり軸受部品及びその製造方法 |
JP7163770B2 (ja) | 2018-12-28 | 2022-11-01 | 日本製鉄株式会社 | 転がり軸受部品及びその製造方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP5958652B2 (ja) | 面疲労強度に優れる軟窒化高周波焼入れ鋼部品 | |
JPWO2009054530A1 (ja) | 高温での面圧疲労強度に優れた浸炭窒化高周波焼入れ鋼部品及びその製造方法 | |
JP5895493B2 (ja) | 転がり軸受の製造方法、高周波熱処理装置 | |
JP2011208250A (ja) | 窒化高周波焼入れ用鋼及び窒化高周波焼入れ部品 | |
JP5260032B2 (ja) | 冷間加工性に優れた高周波焼入用鋼、該鋼からなる転動部材および転動部材を用いた直線運動装置 | |
JP2010255099A (ja) | 異物環境下での転動疲労特性に優れた軸受部品の製造方法 | |
JP5298683B2 (ja) | 転がり軸受及びその製造方法 | |
JP3975314B2 (ja) | 軸受部品素材及び転がり軸受の軌道輪の製作方法 | |
JP2004339575A (ja) | 転動装置部品の製造方法 | |
JP2006241480A (ja) | 転がり支持装置、転がり支持装置の転動部材の製造方法、鋼の熱処理方法 | |
JP2949794B2 (ja) | 転がり軸受 | |
JP2010025311A (ja) | 転がり軸受及びその製造方法 | |
JP2007182926A (ja) | 針状ころ軸受用軌道部材の製造方法、針状ころ軸受用軌道部材および針状ころ軸受 | |
JP2007113027A (ja) | 鋼の熱処理方法、転がり支持装置の製造方法、転がり支持装置 | |
JP2006038167A (ja) | 転がり軸受 | |
JP2015531029A (ja) | 鋼コンポーネントを熱処理する方法及び鋼コンポーネント | |
JP2008138262A (ja) | ショットピーニング加工面の形成方法 | |
CN106103777B (zh) | 真空渗碳用钢材及其制造方法 | |
JP2007186760A (ja) | 転がり軸受用軌道輪の製造方法及び転がり軸受 | |
JP2003213380A (ja) | 転動装置 | |
JP2011105998A (ja) | 鋼材の処理方法 | |
JP2006328514A (ja) | 転がり支持装置 | |
JP2004011737A (ja) | 自動調心ころ軸受 | |
JP2007182603A (ja) | 転動部材の製造方法、転動部材および転がり軸受 | |
JP2007177288A (ja) | 転がり支持装置及びその転動部材の製造方法 |