本発明は、内燃機関と、その内燃機関に相互に動力伝達可能な電動機と、その内燃機関と電動機との間に介装されているダンパとを、備えた車両用動力伝達装置に関し、特に捩れ振動および駆動系から発生するこもり音の抑制を両立させる車両用動力伝達装置に関するものである。
車両において、内燃機関と駆動系との間の動力伝達部に介装されて捩り振動を抑制するトーショナルダンパがよく知られている。一般に、トーショナルダンパは、内燃機関側回転部材と駆動系側回転部材との間にダンパスプリングおよび摩擦係合要素が介装されており内燃機関から発生する回転変動(捩れ振動)を吸収させて駆動系へ伝達される回転変動を低減させている。特許文献1のトーショナルダンパでは、ダンパスプリング内にスプリングの弾性運動を拘束するER流体が充填されたチェンバを設け、そのチェンバ内のER流体に電流を引加することでダンパスプリングの特性(ダンピング係数)を適宜変化させてエンジンの異常トルク変動による捩れ振動を抑制させている。
ところで、内燃機関とその内燃機関に相互に動力伝達可能な電動機と、その内燃機関と電動機との間に介装されているトーショナルダンパとを備えた形式の車両用動力伝達装置がある。このような形式の動力伝達装置では、内燃機関の始動および停止が頻繁に為されるものが多く、この内燃機関の始動および停止の際に発生する共振による捩れ振動と駆動系から発生するこもり音が問題となっている。一般に、内燃機関の始動および停止時の捩れ振動を抑制させるには、トーショナルダンパ内の摩擦係合要素の係合力を大きく設定することで、トーショナルダンパの捩れ振動が収束し易く、内燃機関の始動および停止時においては有効である。ところが、摩擦係合要素の係合力を大きく設定すると、内燃機関の駆動力を使用して走行する場合に、内燃機関のトルク変動がそのまま駆動系に伝達されて駆動系からのこもり音が発生しやすくなる。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、内燃機関に起因する捩れ振動および駆動系から発生するこもり音の抑制を両立することができる車両用動力伝達装置を提供することにある。
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、内燃機関と、その内燃機関の出力を電動機および出力部材へ伝達するトルク合成分配機構と、その内燃機関とトルク合成分配機構との間に介装されているダンパとを、備え、前記ダンパ内に設けられた摩擦係合要素の係合状態を制御することにより、前記内燃機関の運転状態に応じて前記ダンパのヒステリシストルクが調整可能であることを特徴とする。
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、低温時の前記内燃機関の始動時において、その内燃機関の回転速度がその共振域に達すると、前記ダンパのヒステリシストルクを増大させることを特徴とする。
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、所定値以下の回転数変化率で前記内燃機関を停止させる場合に、前記ダンパのヒステリシストルクを増大させることを特徴とする。
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、前記内燃機関のアイドル状態において、前記ダンパのヒステリシストルクを低減させることを特徴とする。
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、前記内燃機関のフューエルカット時において、前記ダンパのヒステリシストルクを低減させることを特徴とする。
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、前記内燃機関の停止直前時において、前記ダンパのヒステリシストルクを低減させることを特徴とする。
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、前記ダンパに大きな駆動力が入力されると、そのダンパのヒステリシストルクを一時的に増大させることを特徴とする。
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、請求項7の車両用動力伝達装置において、前記ダンパのヒステリシストルクの一時的な増大は、前記内燃機関の前記電動機による起動時およびその内燃機関の初爆から内燃機関の回転速度が安定するまでの間の少なくとも一方であることを特徴とする。
また、請求項9にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、車両の定常負荷運転時において、前記内燃機関および駆動系の回転変動に基づいてヒステリシストルクを学習させることを特徴とする。
また、請求項10にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、前記ダンパのヒステリシストルクが増大した状態で故障した際に、前記内燃機関の動作点をトルク変動の小さい動作点に変更させることを特徴とする。
また、請求項11にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、前記ダンパのヒステリシストルクが低減した状態で故障した際に、前記内燃機関の間欠運転を禁止することを特徴とする。
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記ダンパ内に設けられた摩擦係合要素の係合状態を制御することにより、前記内燃機関の運転状態に応じてダンパのヒステリシストルクを調整可能としたため、ダンパのヒステリシストルクを好適に制御することで、ダンパによる捩れ振動の低減と駆動系で発生するこもり音の低減とを両立させることができる。
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、低温時の前記内燃機関の始動時において、その内燃機関の回転速度が共振域に達すると、前記ダンパのヒステリシストルクを増大させることで、共振域で発生する共振振動を低減させることができる。
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、所定値以下の回転数変化率で前記内燃機関を停止させる場合に、前記ダンパのヒステリシストルクを増大させることで、内燃機関が停止の際に通過する共振域での共振振動を低減させることができる。
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記内燃機関のアイドル状態において、前記ダンパのヒステリシストルクを低減させることで、内燃機関の不定期なトルク変動をダンパによって効果的に吸収させることができ、駆動系に伝達されるトルク変動が低減されて駆動系で発生する振動を低減させることができる。
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記内燃機関のフューエルカット時において、前記ダンパのヒステリシストルクを低減させることで、フューエルカット時のトルク変動をダンパによって効果的に吸収することができる。これにより駆動系に伝達されるトルク変動が低減されて駆動系で発生する振動を低減させることができる。
また、請求項6にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記内燃機関の停止直前時において、前記ダンパのヒステリシストルクを低減させることで、内燃機関停止時に発生するポンピングトルクによるトルク変動をダンパによって効果的に吸収させることができ、トルク変動による振動やこもり音を低減させることができる。
また、請求項7にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記ダンパに大きな駆動力が入力されると、そのダンパのヒステリシストルクを一時的に増大させることで、トルクの入力状態に応じて振動を効果的に低減させることができる。
また、請求項8にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記ダンパのヒステリシストルクの一時的な増大は、前記内燃機関の前記電動機による起動時およびその内燃機関の初爆から内燃機関の回転速度が安定するまでの間の少なくとも一方であることで、内燃機関の初爆時の車両振動の低減および/または初爆後の内燃機関の爆発一次振動を低減させることができる。
また、請求項9にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、車両の定常負荷運転時において、前記内燃機関および駆動系の回転変動に基づいてヒステリシストルクを学習させることで、内燃機関のトルク変動やダンパのヒステリシストルクの経時変化等に対して最適なヒステリシストルクの設定が可能となる。
また、請求項10にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記ダンパのヒステリシストルクが増大した状態で故障した際に、前記内燃機関の動作点をトルク変動の小さい動作点に変更させることで、大きなトルク変動が駆動系に伝達されることを防止することができる。
また、請求項11にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記ダンパのヒステリシストルクが低減した状態で故障した際に、前記内燃機関の間欠運転を禁止することで、内燃機関始動時および停止時の共振振動を回避することができる。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が好適に適用されたハイブリッド駆動装置10を説明する図である。図1に示すように、ハイブリッド駆動装置10では、車両において、主駆動源である第1駆動源12の駆動力が出力部材として機能する出力部材14に伝達され、その出力部材14から差動歯車装置16を介して左右一対の駆動輪18に伝達されるようになっている。また、このハイブリッド駆動装置10には、走行のために駆動力を出力する駆動制御或いはエネルギを回収するための回生制御を実行可能な第2駆動源20が設けられている。なお、本実施例のハイブリッド駆動装置10が、本発明の車両用動力伝達装置に対応している。
上記第1駆動源12は、エンジン24と、エンジン24の出力を第1電動機MG1および出力部材14へ伝達するトルク合成分配機構として機能する遊星歯車装置26と、その遊星歯車装置26と第1電動機MG1との間に介装されているトーショナルダンパ22とから主に構成されている。上記エンジン24は、ガソリンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置28によってスロットル開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期などの運転状態が電気的に制御される。上記電子制御装置28には、アクセルペダル27の操作量を検出するアクセル開度センサAS、ブレーキペダル29の操作量を検出するためのブレーキセンサBS、シフトレバー35の操作位置を検出するための操作位置センサSS等からの検出信号が供給されている。なお、本実施例のエンジン24が、本発明の内燃機関に対応している。
第1電動機MG1は、例えば同期電動機であって、駆動トルクを発生させる電動機としての機能と発電機としての機能とを選択的に生じるように構成され、インバータ30を介してバッテリー、コンデンサなどの蓄電装置32に接続されている。そして、電子制御装置28によってそのインバータ30が制御されることにより、第1電動機MG1の出力トルク或いは回生トルクが調整或いは設定されるようになっている。なお、本実施例の第1電動機MG1が、本発明の電動機に対応している。
遊星歯車装置26は、サンギヤS0、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0、およびこれらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合うピニオンギヤP0を自転および公転可能に支持するキャリヤC0の三つの回転要素を備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車装置である。遊星歯車装置26は、エンジン24に同心に設けられている。なお、本実施例の遊星歯車装置26が、本発明のトルク合成分配機構に対応している。また、遊星歯車装置26は、回転軸に対して対称的に構成されているため、図1ではその下半分は省略されている。
本実施例では、エンジン24のクランク軸36は、捩れ振動を吸収するためのトーショナルダンパ22を介して遊星歯車装置26のキャリヤC0に連結されている。これに対してサンギヤS0には第1電動機MG1が連結され、リングギヤR0には出力部材14が連結されている。これより、キャリヤC0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
トルク合成分配機構として機能するシングルピニオン型の遊星歯車装置26の各回転要素の相対的関係は、図2の共線図により示される。この共線図において、縦軸S、縦軸C、および縦軸Rは、サンギヤS0、キャリヤC0、およびリングギヤR0の回転速度をそれぞれ表す軸であり、縦軸S、縦軸C、および縦軸Rの相互の間隔は、縦軸Sと縦軸Cとの間隔を1としたとき、縦軸Cと縦軸Rとの間隔がρ(サンギヤS0の歯数ZS/リングギヤR0の歯数ZR)となるように設定されたものである。
遊星歯車装置26において、キャリヤC0に入力されるエンジン24の出力トルクに対して、第1電動機MG1による反力トルクがサンギヤS0に入力されると、出力要素となっているリングギヤR0には、エンジン24から入力されたトルクよりも大きいトルクが現れるので、第1電動機MG1は発電機として機能する。また、リングギヤR0の回転速度(出力軸回転速度)が一定であるとき、第1電動機MG1の回転速度を上下に変化させることにより、エンジン24の回転速度NEを連続的に変化させることができる。図2の破線は、第1電動機MG1の回転速度を実線に示す値から下げたときにエンジン24の回転速度NEが低下する状態を示している。すなわち、エンジン24の回転速度NEを例えば燃費が最もよい回転速度に設定する制御を、第1電動機MG1を制御することによって実行させることができる。
第2駆動源20は、電子制御装置28によりインバータ40を介して制御されることにより、アシスト用出力トルク或いは回生トルクが調整或いは設定される電動機である第2電動機MG2から構成されており、出力部材14に連結されている。
図3は、図1のトーショナルダンパ22の構造を説明するための断面図である。トーショナルダンパ22は、キャリヤC0に連結された伝達軸44とエンジン24のクランク軸36との間に介装されている。なお、本実施例のトーショナルダンパ22が、本発明のダンパに対応している。
トーショナルダンパ22は、エンジン24の駆動力が伝達されるダンパ入力部材42および遊星歯車装置26のキャリヤC0に連結された伝達軸44に動力を伝達するダンパ出力部材46の2つの部材に大別され、このダンパ入力部材42とダンパ出力部材46との間には、コイル上のダンパスプリング48および摩擦機構50が介装されている。なお、本実施例の摩擦機構50が、本発明の摩擦係合要素に対応している。
ダンパ入力部材42は、その外周部がボルト52によってフライホイール38の外周部と接続されることで、フライホイール38と一体的に回転させられる。また、このダンパ入力部材42の内周側は、リベット54によって連結されている一対の円板状のドライブプレート56によって構成されている。
ダンパ出力部材46は、内周部が伝達軸44にスプライン嵌合されることで一体的に回転させられるハブ部材58によって主に構成されている。ハブ部材58は伝達軸44に相対回転不能にスプライン嵌合されている筒状の基部60と、その基部60から径方向外側に向かって伸びる円板状のツバ部62とで構成されている。ツバ部62の径方向外側には等角度間隔に複数個の空間が形成されていると共に、ダンパ入力部材42の一対のドライブプレート56においてもツバ部62に形成されている空間に対応する位置に空間が形成されており、このそれぞれの空間内にダンパスプリング48が介装されている。これにより、ダンパ入力部材42およびダンパ出力部材46はダンパスプリング48の弾性変形に応じて所定の相対移動が可能となっている。
ダンパ入力部材42である一対のドライブプレート56は、ダンパ出力部材46であるハブ部材58の基部60近傍まで径方向内側に伸びており、この一対のドライブプレート56とダンパ出力部材46のツバ部62の軸心方向両側との間には、それぞれ円板状の摩擦材64が介装されている。
ここで、摩擦材64はツバ部62内に軸心方向に摺動可能に嵌め付けられている一対のピストン66によって押圧される構造となっている。一対のピストン66は互いにスプリング68によって連結されており、それぞれ所定の押圧力で摩擦材64を押圧している。また、ピストン66とツバ部62との摺動面は油密となっており、この一対のピストン66の間には油室70が形成されている。この油室70には、電子制御装置28により制御可能な図示しないリニアソレノイドバルブなどによって調圧された作動油が供給され、この作動油が供給されると、ピストン66がスプリング68の弾性力に抗って摩擦材64を押圧する。図示しないリニアソレノイドバルブによって調圧された作動油は、伝達軸44に形成されている大径油路72に供給され、大径油路72から径方向に形成されている小径由路74を通って、この小径油路74と連通するハブ部材58の連通油路76を介して油室70に供給される。ここで、このピストン66による摩擦機構50の押圧力すなわち係合力は、リニアソレノイドバルブによって油圧を制御することで制御可能となっている。このように、摩擦機構50の係合力は、車両の走行状態に応じて電子制御装置28よって制御可能となっている。
図4は、本実施例のハイブリッド駆動装置10を制御するための電子制御装置28に入力される信号及びその電子制御装置28から出力される信号を例示している。この電子制御装置28は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン24、第1、第2電動機MG1、MG2に関するハイブリッド駆動制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置28には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバーのシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン24の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動状態A/Cを表す信号、出力軸の回転速度(以下、出力軸回転速度)NOUTに対応する車速Vを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機MG1の回転速度NM1を表す信号、第2電動機MG2の回転速度NM2を表す信号、蓄電装置32の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
また、上記電子制御装置28からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置への制御信号例えばエンジン24の吸気管に備えられた電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号や燃料噴射装置による吸気管或いはエンジン24の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置によるエンジン24の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機MG1およびMG2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号、パーキングロック駆動モータを駆動するための信号等が、それぞれ出力される。
ここで、前記ダンパスプリング48は、主にエンジン24のトルク変動を吸収して遊星歯車装置26や差動歯車装置16などの駆動系で発生するこもり音を低減するために機能し、摩擦機構50は、ダンパスプリング48の機能を抑制して主に共振等の現象を抑制する所謂ヒステリシス機構として機能する。これより、摩擦機構50の係合力を強くするすなわちヒステリシス機構のヒステリシストルクを大きくすると、トーショナルダンパ22の捩れ振動抑制に有効となるが、エンジン24の燃焼室内の爆発などによるトルク変動が駆動系に伝達されやすく、駆動系においてこもり音が発生しやすくなる。特に、本実施例のようなハイブリッド駆動装置10においては、エンジン24の始動、停止が頻繁に為されるため、このエンジン24の始動、停止時の振動抑制とこもり音抑制の両立が問題なっている。本実施例では、摩擦機構50の係合力、すなわちヒステリシス機構のヒステリシストルクをエンジン24の運転状態に応じて好適に制御することで捩り振動およびこもり音を車両の走行状態に応じて好適に抑制させている。
図5は、電子制御装置28の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、ハイブリッド駆動制御手段100は、例えばキーがキースロットに挿入された後、ブレーキペダルが操作された状態でパワースイッチが操作されることにより制御が起動されると、アクセル操作量に基づいて運転者の要求出力を算出し、低燃費で排ガス量の少ない運転となるようにエンジン24および/または第2電動機MG2から要求出力を発生させる。例えばエンジン24を停止し専ら第2電動機MG2を駆動源とするモータ走行モード、エンジン24の動力で発電を行い第2電動機MG2を駆動源として走行する走行モード、エンジン24の動力を機械的に駆動輪18に伝えて走行するエンジン走行モードを、車両の走行状態に応じて切り換える。
上記ハイブリッド駆動制御手段100は、エンジン24を駆動する場合であっても、第1電動機MG1によって最適燃費曲線上で作動するようにエンジン24の回転速度を制御する。また、コースト走行時には車両の有する慣性エネルギで第1電動機MG1或いは第2電動機MG2を回転駆動することにより電力として回生し、蓄電装置32にその電力を蓄える。
ダンパヒス制御手段102は、車両の走行状態に応じて摩擦機構50の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御することで捩り振動およびこもり音をバランスよく抑制するものである。具体的には、エンジン24に設けられているエンジン回転速度NEを検出するエンジン回転速度センサ80、第1電動機MG1の回転速度NM1を検出する第1電動機回転速度センサ82、および第2電動機MG2の回転速度NM2を検出する第2電動機回転速度センサ84などから電子制御装置28に供給される各回転速度に基づいて好適な摩擦機構50によるヒステリシストルクを決定し、そのヒステリシストルクが発生するように油室70の油圧を調圧するリニアソレノイドバルブを制御する。このように、トーショナルダンパ22の摩擦機構50の係合状態を制御することにより、エンジン24の運転状態に応じてトーショナルダンパ22のヒステリシストルクが調整可能となっている。なお、ヒステリシストルクの制御において、ヒステリシストルクの増大は、実質的にはトーショナルダンパ22の摩擦機構50の係合力を増大させることを意味しており、ヒステリシストルクの低減は、実質的にはトーショナルダンパ22の摩擦機構50の係合力を低減させることを意味している。
図6は、電子制御装置28の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパ22の摩擦機構50の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するダンパヒス制御手段102に対応するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図7は、図6のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。ここで、図6のフローチャートは、エンジン24の低温時において適用されるエンジン始動時の制御作動を示すものである。エンジン始動時は、第1電動機MG1を駆動させることでエンジン24を起動させるが、エンジン24の低回転領域では捩り共振域が存在する。特に低温時においてはこの捩り共振発生域からエンジン始動までの間に時間を要するため、図6のフローチャートによって捩り共振を抑制させる。
先ず、ステップS1(以下、ステップを省略する)では、エンジン24の回転数NEが共振周波数域内か否かを判定する。S1が否定されるすなわちエンジン回転速度NEが共振回転数域でなければ本ルーチンは終了させられる。一方、S1が肯定され、エンジン回転速度NEが共振回転数域に達したと判定されるとS2に進み、摩擦機構50の係合力、すなわちヒステリシストルクをH1に増大させて、捩れ共振を抑制させる。なお、共振回転数域に対応するエンジン回転速度(N1からN2)およびヒステリシストルクの増大値H1などは、予め実験などによって好適な値に設定されており、電子制御装置28のROMに記憶されている。
本ルーチンを図7のタイムチャートを用いて説明すると、エンジン24を第1電動機MG1によって起動させて、エンジン回転速度NEを増大し回転速度N1に達すると共振振動が発生する。これに対して、ヒステリシストルクを所定値H1に増大させて共振振動を低減させている。そしてエンジン回転速度NEが回転速度N2に達すると共振振動が収束するに従い、ヒステリシストルクを所定の値まで低減させる。
上述のように、本実施例によれば、トーショナルダンパ22に設けられた摩擦機構50の係合状態を制御することにより、エンジン24の運転状態に応じてトーショナルダンパ22のヒステリシストルクを調整可能としたため、トーショナルダンパ22のヒステリシストルクを好適に制御することで、トーショナルダンパ22による捩れ振動の低減と駆動系で発生するこもり音の低減とを両立させることができる。
また、前述の実施例によれば、低温時のエンジン24の始動時において、そのエンジン24の回転速度が共振域に達すると、トーショナルダンパ22のヒステリシストルクを増大させることで、共振域で発生する共振振動を低減させることができる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図8は、本発明の他の実施例である電子制御装置28の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパ22の摩擦機構50の係合力すなわちトーショナルダンパ22のヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図9は、図8のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。なお、本実施例のトーショナルダンパ22等の構成は、前述の実施例と同様となっているためその説明を省略する。ここで、図8のフローチャートはダンパヒス制御手段102に対応するものであり、エンジン24の始動時に適用されるエンジン始動の際の制御作動を示すものである。
先ず、図8に示すS11において第1電動機MG1を駆動させることでエンジン24を起動させる。この第1電動機MG1の駆動開始時は、図9において時間T1に対応している。次いで、S12では、S11の第1電動機MG1によるエンジン24の回転上昇に従って、ヒステリシストルクをH2まで増大させて捩れ振動を低減させる。S13ではエンジン回転速度NEを所定時間だけ一定値とする。このS13は、図9の時間T2からT3の間に対応しており、この間は図9に示すように、ヒステリシストルクを低減させている。S14では、エンジンの初爆、すなわち非常に大きな駆動力がトーショナルダンパ22に入力されたか否かが判断される。エンジントルクの増大は、例えばエンジン回転速度NEの時間当たりの増加が所定値以上となったときなどにエンジン24の初爆が判定される。S14が否定されると、もう一度S14が判定され、エンジン24の初爆が判定されるまで繰り返し実行される。S14が肯定されると、S15に進み、図9の時間T3においてヒステリシストルクをH3まで増大させて捩れ振動を低減させる。そして時間T4になると、エンジン24のエンジン回転速度NEが安定し、ヒステリシストルクを所定の値に低減させる。なお、制御するヒステリシストルクの増大値H2、H3、並びにヒステリシストルクを増大させる時間などは、予め実験などによって好適な値に設定されており、電子制御装置28のROMに記憶されている。
上述のように、本実施例によれば、トーショナルダンパ22に大きな駆動力が入力されると、そのトーショナルダンパ22のヒステリシストルクを一時的に増大させることで、トルクの入力状態に応じて振動を効果的に低減させることができる。特に、エンジン24の第1電動機MG1による起動時およびそのエンジン24の初爆からの回転速度が安定するまでの間にヒステリシストルクを増大させることで、効果的に捩れ振動を低減させることができる。
図10は、本発明のさらに他の実施例である電子制御装置28の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパ22の摩擦係合機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図11は、図10のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。なお、本実施例のトーショナルダンパ22等の構成は、前述の実施例と同様となっているためその説明を省略する。ここで、図10のフローチャートはダンパヒス制御手段102に対応するものであり、エンジン24の自立運転時すなわちエンジン24に負荷がかかっていないアイドル状態に適用される制御作動を示すものである。
先ず、S21において、エンジン24がアイドル状態か否かが判定される。エンジン24のアイドル状態の判定は、例えば電子制御装置28に供給される電子スロットル弁の電子スロットル弁開度θTHやアクセル開度Accを表す信号などによって判定される。例えば電子スロットル弁開度θTHが所定値を下回る場合などにはアイドル状態と判定される。S21が否定されると、S22に進み、ヒステリシストルクが所定の値に維持されて本ルーチンは終了させられる。一方、S22が肯定されると、S23に進み、図11に示すようにヒステリシストルクを非常に低い値H4まで低減させて本ルーチンは終了させる。図11のタイムチャートを用いて表現すると、時間T1においてアイドル状態となり、ヒステリシストルクをH4まで低減させる。これにより、ダンパスプリング48によってトルク変動を効果的に吸収させて駆動系に伝達される振動を低減させている。そして、時間T2において通常の負荷運転状態に復帰すると、ヒステリシストルクを基の状態とする。このように、アイドル状態においてヒステリシストルクを低減させることで、駆動系に伝達される捩れ振動を低減させて、駆動系で発生するこもり音を低減させている。なお、制御するヒステリシストルクの低減値H4などは、予め実験などによって好適な値に設定されており、電子制御装置28のROMに記憶されている。
上述のように、本実施例によれば、エンジン24のアイドル運転状態において、トーショナルダンパ22のヒステリシストルクを低減させることで、エンジン24の不定期なトルク変動をトーショナルダンパ22によって効果的に吸収させることができ、駆動系に伝達されるトルク変動が低減されて駆動系で発生する振動を低減させることができる。
図12は、本発明のさらに他の実施例である電子制御装置28の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパ22の摩擦機構50の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図13は、図12のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。なお、本実施例のトーショナルダンパ22等の構成は、前述の実施例と同様となっているためその説明を省略する。ここで、図12のフローチャートはダンパヒス制御手段102に対応しており、エンジン24の停止時において、第1電動機MG1によって迅速にエンジン回転数NEの引き下げを実施しない場合すなわち所定値以下の遅い回転変化率でエンジン24を回転停止させる場合に適用されるものであり、前述したトーショナルダンパ22の共振発生域で発生する共振振動を低減させる際の制御作動を示したものである。
先ず、図12に示すS31においてエンジン停止開始状態か否かが判定される。エンジン停止開始条件は、例えばフットブレーキ操作を表す信号やアクセル開度Accなどの信号に基づいて判定される。S31が否定されると本ルーチンは終了させられる。一方、S31が肯定されると、S32でエンジン24の回転速度NEが共振回転数域か否かが判定される。この共振回転数域は図13のタイムチャートにおいて、エンジン回転速度NEが回転速度N3からN4の間で発生し、予め実験などによって求められて、電子制御装置28のROMに記憶されている。S32が否定されるすなわちエンジン回転速度NEが共振回転数域でなければ本ルーチンは終了させられる。一方、S32が肯定され、エンジン回転速度NEが共振回転数域(N3からN4の間)と判定されると、S33に進み、図13に示すようにヒステリシストルクを所定値H5まで増大させて、捩り共振を抑制させる。また、エンジン回転速度NEがさらに低下し、エンジン回転速度NEが回転速度N3よりも低くなると、共振振動が収束するため、ヒステリシストルクが所定の値に低減させられる。なお、制御するヒステリシストルクの低減値H5などは、予め実験などによって好適な値に設定されており、電子制御装置28のROMに記憶されている。
上述のように、本実施例によれば、第1電動機MG1を使用せず、所定値以下の回転数変化率でエンジン24を停止させる場合に、トーショナルダンパ22のヒステリシストルクを増大させることで、エンジン24が停止の際に通過する共振域での共振振動を低減させることができる。
図14は、本発明のさらに他の実施例である電子制御装置28の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパ22の摩擦係合機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図15は、図14のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。なお、本実施例のトーショナルダンパ22等の構成は、前述の実施例と同様となっているためその説明を省略する。ここで、図14のフローチャートはダンパヒス制御手段102に対応し、エンジン停止時直前時に適用されるものであり、エンジン停止直前に発生するトルク変動を低減させる際の制御作動を示したものである。
先ず、S41において、エンジン24の回転速度NEがエンジン停止直前の回転速度N5以下か否かが判定される。回転速度N5以下の領域においては、図15に示すように、エンジン24のトルク変動(ポンピングトルク)によってエンジン回転速度NEが逆転することもある。この回転速度N5は、実験などによって予め好適な値に設定されており、電子制御装置28のROMに記憶されている。S41が否定されると、本ルーチンは終了させられる。一方、S41が肯定されて、エンジン回転速度NEがN5以下となると、S42によってヒステリシストルクが所定値H6まで低減させる。このヒステリシストルクが低減されることで、ダンパスプリング48によってトルク変動が効果的に吸収され、トルク変動による捩れ振動を低減させることができる。
上述のように、本実施例によれば、エンジン24の停止直前時において、トーショナルダンパ22のヒステリシストルクを低減させることで、エンジン24の停止時に発生するトルク変動をダンパスプリング48によって効果的に吸収させることができ、トルク変動による振動や駆動系のこもり音を低減させることができる。
図16は、本発明のさらに他の実施例である電子制御装置28の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパ22の摩擦係合機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図17は、図16のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。なお、本実施例のトーショナルダンパ22等の構成は、前述の実施例と同様となっているためその説明を省略する。ここで、図16のダンパヒス制御手段102に対応するフローチャートは、エンジン24のフューエルカット時に適用されるものであり、フューエルカット時においてエンジン24から駆動系に伝達されるトルク変動を低減させるための制御作動を示したものである。
図16において、先ずS51では、エンジン24のフューエルカット状態か否かが判定される。フューエルカット状態は、例えば燃料噴射装置による吸気管或いはエンジン24の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号などから燃料供給量が検出されることで、フューエルカット状態が判定される。S51が否定されると、燃料が供給されている状態と判定されて本ルーチンは終了させられる。一方、S51が肯定されてフューエルカット状態と判定されると、S52においてヒステリシストルクが所定値H7に低減させられる。また、エンジン24のエンジントルクが第1電動機MG1によって一定値に制御されると、ヒステリシストルクが元の状態に復帰される。このように、フューエルカット状態では、ヒステリシストルクを一時的に低減させることで、エンジン24のトルク変動をダンパスプリング48によって効果的に吸収し、駆動系に伝達されるトルク変動を低減させ、駆動系で発生するこもり音などを低減させている。なお、ヒステリシストルクの所定値H7などは、実験などによって予め好適な値に設定されており、電子制御装置28のROMに記憶されている。
本ルーチンを図17に示すタイムチャートを用いて表現すると、時間T1においてエンジン24のフューエルカットが開始されると、エンジン24が駆動系によって回転させられる状態となり、エンジントルクが負の状態に変動する。このとき発生するトルク変動をヒステリシストルクをH7に低減させることで、ダンパスプリング48の効果を高めて効果的に吸収する。次に、エンジン24を第1電動機MG1を駆動させてエンジン24のエンジントルクを一定の値に保持させることで、エンジン24のトルク変動を抑制させている。そして、トルク変動が抑制されることで、駆動系へ伝達されるトルク変動が抑制され、ヒステリシストルクが所定の値に復帰させられる。
上述のように、本実施例によれば、エンジン24のフューエルカット時において、トーショナルダンパ22のヒステリシストルクを低減させることで、フューエルカット時のトルク変動をダンパスプリング48によって効果的に吸収させることができる。これにより駆動系に伝達されるトルク変動が低減されて駆動系で発生する振動やこもり音を低減させることができる。
図18は、本発明のさらに他の実施例である電子制御装置28の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパ22の摩擦係合機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。なお、本実施例のトーショナルダンパ22等の構成は、前述の実施例と同様となっているためその説明を省略する。ここで、図16のダンパヒス制御手段102に対応するフローチャートは、定常負荷運転時すなわち通常の前進或いは後進走行時のエンジン24から駆動系へ伝達される回転変動を検出することで、最適なヒステリシストルクを推定する際に適用されるものである。
図18において、先ずS61では、駆動系の回転変動およびエンジン24の回転変動を算出し、その比を算出する。そして、その比がしきい値Aを越えるか否かを判定する。なお、駆動系の回転変動とエンジン24の回転変動の比は、エンジン24から駆動系へ伝達される捩れ振動の伝達比を示しており、この伝達比が大きくなると、駆動系へ伝達される捩れ振動が大きくなる。また、しきい値Aは予め実験などによって最適な値に設定されており、具体的には、駆動系へ伝達される捩れ振動が大きくならないような値に設定されている。S61が肯定されるとS62に進み、一定量だけトーショナルダンパ22のヒステリシストルクを増加する。これにより、エンジン24から駆動系へ伝達される捩れ振動が抑制されて伝達比が小さくなる。そして、S61に戻り同様の判定が為され、伝達比がしきい値Aを下回るまで繰り返し実行される。S61が否定されると、S63に進み、その時の最適なヒステリシストルクを書き換え可能な記憶媒体に書き換えて学習させる。そして、これ以降の同様の運転状態ではその書き換えられた新しいヒステリシストルクが負荷される。
上述のように、本実施例によれば、車両の定常負荷運転時において、エンジン24および駆動系の回転変動に基づいてヒステリシストルクを学習させることで、エンジン24のトルク変動やトーショナルダンパ22のヒステリシストルクの経時変化等に対して最適なヒステリシストルクの設定が可能となる。このように、ヒステリシストルクを学習制御させることで、トーショナルダンパ22などの装置のバラツキなどを考慮することがなくなり、車両の運転状態に応じて最適な運動性能とNV(ノイズ・振動)性能を得ることができる。
図19は、本発明のさらに他の実施例である電子制御装置28の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパ22の摩擦係合機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図20は、図19のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。なお、本実施例のトーショナルダンパ22等の構成は、前述の実施例と同様となっているためその説明を省略する。ここで、図19のダンパヒス制御手段102に対応するフローチャートは、トーショナルダンパ22が例えば摩擦機構50のピストン66の固着など、何らかの故障でヒステリシストルクが増大した状態で固定された場合に適用されるものであり、このような故障時の駆動系の振動およびこもり音を低減させるための制御作動を示したものである。
図19において、先ずS71では、駆動系の回転変動を検出し、その回転変動がしきい値Bを越えるか否かを判定する。S71が否定されると、摩擦機構50は正常に作動すると判定されて本ルーチンは終了させられる。一方、S71が肯定されると、摩擦機構50がヒステリシストルクの増大側に固着されたと判定し、S72に進む。S72では、エンジン24の動作点を低トルク側に変更させて駆動系へ伝達される振動およびこもり音を低減する。
本ルーチンを図20に示すタイムチャートを用いて表現すると、時間T1において摩擦機構50のヒステリシストルクが増大側に固着されると、駆動系の回転変動が増大し、しきい値Bを越える状態となる。そして、前述したS71の判定に基づいて時間T2において、エンジントルクが低減される。これに伴って、駆動系の回転変動が低減させられる。
上述のように、本実施例によれば、トーショナルダンパ22のヒステリシストルクが増大した状態で故障した際に、エンジン24の動作点をトルク変動の小さい動作点に変更させることで、大きなトルク変動が駆動系に伝達されることを防止することができる。
図21は、本発明のさらに他の実施例である電子制御装置28の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパ22の摩擦係合機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図22は、図21のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。なお、本実施例のトーショナルダンパ22等の構成は、前述の実施例と同様となっているためその説明を省略する。ここで、図21のダンパヒス制御手段102に対応するフローチャートは、トーショナルダンパ22が例えば摩擦機構50のピストン66の固着など、何らかの故障でヒステリシストルクが低減した状態で固定された場合に適用されるものであり、このような故障時の駆動系の捩れ振動を抑制させるための制御作動を示したものである。
図21において、先ずS81では、エンジン始動時において駆動系の回転速度の振幅を検出する。そして、その振幅がしきい値Cを越えるか否かを判定する。なお、このしきい値Cは予め実験などによって好適な値に設定されており、上記振幅がしきい値を越えるすなわち非常に大きな振動が駆動系で発生している状態であると、摩擦機構50が故障しヒステリシストルクが小さな状態で固定されたと判定される。S81が否定されると、摩擦機構50は正常に作動すると判定されて本ルーチンは終了させられる。一方、S81が肯定されてヒステリシストルクが小さな状態で固定されていると判定されると、S82に進みエンジン24の間欠運転を禁止する。これにより、エンジン24の始動および停止時の共振域での運転が回避され、駆動系の捩れ振動が低減される。
本ルーチンを図22に示すタイムチャートを用いて表現すると、時間T1においてエンジン24の共振域での運転状態となる。ここで、摩擦機構50の故障によりヒステリシストルクが小さな状態で固定されると駆動系の回転速度の振幅が大きくなり、しきい値Cを越える状態となる。この故障状態を前述したS81で検出し、間欠運転を禁止する。
上述のように、本実施例によれば、トーショナルダンパ22のヒステリシストルクが低減した状態で故障した際に、エンジン24の間欠運転を禁止することで、エンジン始動時および停止時の共振振動を回避することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の各実施例の制御作動は、それぞれ独立して説明されているが、これら各実施例の制御同士を自由に組み合わせて実施することができる。
また、前述の実施例の制御作動において、各条件の判定方法は主にエンジン24および駆動系の回転速度および回転変動に基づいて判定されているが、これらはあくまでも一例であり、各実施例の条件が判定可能な限りにおいて、他の方法で判定を実施しても構わない。
また、前述の実施例のトーショナルダンパ22の摩擦機構50の係合力は、油圧を制御することで制御されているが、例えば電磁ソレノイドを用いて電気的に摩擦機構50を制御するなど、他の方法で摩擦機構50の係合力を制御するものであっても構わない。
また、前述の各実施例のヒステリシストルクの所定値H1乃至H7などは、予め実験によって好適な値に設定されているが、これらの所定値H1乃至H7などを学習制御させて随時好適な値に変更するものであっても構わない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
本発明が好適に適用されたハイブリッド駆動装置を説明する図である。
トルク合成分配機構として機能する図1の遊星歯車装置の各回転要素の相対的な関係を示す共線図である。
図1のトーショナルダンパの構成を説明するための断面図である。
ハイブリッド駆動装置を制御するための電子制御装置に入力される信号およびその電子制御装置から出力される信号を例示したものである。
電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
電子制御装置の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパの摩擦機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートである。
図6のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
本発明の他の実施例である電子制御装置の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパの摩擦機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートである。
図8のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
本発明の更に他の実施例である電子制御装置の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパの摩擦機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートである。
図10のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
本発明の更に他の実施例である電子制御装置の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパの摩擦機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートである。
図12のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
本発明の更に他の実施例である電子制御装置の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパの摩擦機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートである。
図14のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
本発明の更に他の実施例である電子制御装置の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパの摩擦機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートである。
図16のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
本発明の更に他の実施例である電子制御装置の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパの摩擦機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートである。
本発明の更に他の実施例である電子制御装置の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパの摩擦機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートである。
図19のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
本発明の更に他の実施例である電子制御装置の制御機能の要部すなわちトーショナルダンパの摩擦機構の係合力すなわちヒステリシストルクを好適に制御する制御作動を説明するフローチャートである。
図21のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
符号の説明
10:ハイブリッド駆動装置(車両用動力伝達装置) 14:出力部材 22:トーショナルダンパ(ダンパ) 26:遊星歯車装置(トルク合成分配機構) 50:摩擦機構(摩擦係合要素) MG1:第1電動機(電動機)