JP2008118985A - 溶菌酵素阻害剤、溶菌抑制剤及びポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤及びポリ−ガンマ−グルタミン酸の製造方法 - Google Patents

溶菌酵素阻害剤、溶菌抑制剤及びポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤及びポリ−ガンマ−グルタミン酸の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】溶菌酵素の細胞壁溶解活性を調節して、微生物の溶菌を抑制する。
【解決手段】溶菌酵素阻害剤及び溶菌抑制剤は、枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質を主成分としている。YoeBタンパク質としては、例えば、枯草菌由来の特定なアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。該遺伝子を組み込んだ形質転換体は高分子量のポリ−ガンマ−グルタミン酸を製造することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、枯草菌に由来する特定の溶菌酵素の溶菌活性を抑制することができる溶菌酵素阻害剤、微生物の溶菌を抑制できる溶菌抑制剤、溶菌が抑制された微生物、ポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤及びポリ−ガンマ−グルタミン酸の製造方法に関する。
枯草菌の溶菌酵素は、細胞分裂や胞子形成期の母細胞の溶解、胞子の発芽等の生活環の中で重要な役割を果たしている。枯草菌においては、細胞分裂過程や胞子形成過程などに応じて特異的に発現する溶菌酵素が異なっている。これら溶菌酵素の多くは、細胞壁に対する結合ドメインと、細胞壁を溶解するための活性ドメインとを有している。枯草菌の対数増殖期に発現する溶菌酵素としてCwlB(非特許文献1及び2を参照)及びCwlG(非特許文献3及び4を参照)が知られている。また、枯草菌の細胞分裂の最終段階に発現する溶菌酵素としてCwlE(非特許文献5及び6を参照)及びCwlF(非特許文献7及び8)が知られている。
しかしながら、これら枯草菌における溶菌酵素の細胞壁に対する作用機序は完全に理解されているわけではなく、溶菌酵素の活性を抑制する方法は確立されていない。仮に、溶菌酵素の活性を抑制することが可能となれば、微生物の溶菌自体を抑制できることになる。
一方、ポリ−ガンマ−グルタミン酸(以下、PGA)は、グルタミン酸のγ位のカルボシキル基とα位のアミノ基がペプチド結合によって結合した高分子化合物である。PGAは、納豆菌(Bacillus subtilis var.natto)が産生する粘性物質として知られており、種々の性質から近年新たな高分子素材として注目されている。特に、素材としての種々の用途を考慮すると、比較的に高分子量のPGAが望まれている。しかしながら、PGA産生能を有する微生物を利用して比較的に高分子量のPGAを製造するための技術は知られていない。
Kuroda, A. and J. Sekiguchi, 1991, "Molecular cloning and sequencing of a major Bacillus subtilis autolysin gene." J. Bacteriol. 173: 7304-7312 Lazarevic, V., P. Margot, B. Sold, and D. Karamata, 1992, "Sequencing and analysis of the Bacillus subtilis lytRABC divergone: a regulatory unit encompassing the structural gene of the N-acetylmuramoyl-L-alanine amidase and its modifier." J. Gen. Microbiol. 138: 1949-1961 Margot, P., C. Mauel, and D. Karamata, 1994, "The gene of the N-acetyl-glucosaminidase, a Bacillus subtilis cell wall hydrase not involved in vegetative cell autolysis." J. Bacteriol. 12: 535-545 Rashid, M. H., M. Mori, and J. Sekiguchi, 1995. "Glucosaminidase of Bacillus subtilis: cloning, regulation, primary structure and biochemicalcharacterrization." Microbiology 141: 2391-2404 Margot, P., M. Pagni, and D. Karamata, 1999. "Bacillus subtilis 168 gene lytF encodes a γ-D-glutamate-meso-diaminopimelate muropeptidase expressed by the alternative vegetative sigma factor, σD." Microbiology 145: 57-65 Ohnishi, R., S. Ishikawa, and J Sekiguchi, 1999. "Peptidoglycan hydrase LytF plays a role in cell separation with LytE during vegetative growth of Bacillus subtilis." J. Bacteriol. 181: 3178-3184 Ishikawa, S.、 Y. Hara, R. Ohnishi, and J. Sekiguchi, 1998. "Regulation of a new cell wall hydrase gene, CwlF, which affects cell separation in Bacillus subtilis." J. Bacteriol. 180: 2549-2555 Margot, P., M. Wahlen, A. Gholamhuseinian, P. Piggot, and D. Karamata, 1998. "The lytE gene of Bacillus subtilis 168 encodes a cell wall hydrase." J. Bacteriol. 80: 749-752
そこで、本発明は、上述したような課題に鑑みて、溶菌酵素の細胞壁溶解活性を調節することができる溶菌酵素阻害剤及び微生物の溶菌を抑制することができる溶菌抑制剤を提供することを目的とし、比較的に高分子量のPGAを製造できるPGAの製造方法及びPGAの分解抑制方法を提供することを目的としている。
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、機能未知の特定の遺伝子産物が溶菌酵素における細胞壁溶解活性を抑制していること、及び当該遺伝子産物がPGAの分解(低分子化)する酵素の酵素活性を抑制することを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明に係る溶菌酵素阻害剤、溶菌抑制剤及びPGAの分解抑制剤は、枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質を主成分としている。
ここで、YoeBタンパク質としては、以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質と定義することができる。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
また、本発明に係る溶菌酵素阻害剤は、特に、CwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質又はYddHタンパク質による溶菌作用を抑制することができる。
ここで、CwlEタンパク質としては、以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質と定義することができる。
(a)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
(c)配列番号4に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
また、CwlFタンパク質としては、以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質と定義することができる。
(a)配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号6に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
(c)配列番号6に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
さらに、本発明に係る溶菌抑制剤は、特に枯草菌の溶菌を抑制することができる。枯草菌としては、野生型の枯草菌に限定されず、例えば少なくとも1種以上の分泌型プロテアーゼを欠損した変異株を挙げることができる。
また、CwlSタンパク質としては、以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質定義することができる。
(a)配列番号55に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号55に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
(c)配列番号55に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
また、CwlOタンパク質としては、以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質と定義することができる。
(a)配列番号57に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号57に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
(c)配列番号57に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
また、YddHタンパク質としては、以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質と定義することができる。
(a)配列番号59に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号59に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
(c)配列番号59に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
なお、本発明に係るPGAの分解抑制剤は、上記溶菌酵素のうちCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質又はCwlOタンパク質によるポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解を抑制することができる。なお、上記溶菌酵素のうちYddHタンパク質は、CwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質及びCwlOタンパク質とは異なりPGAの分解活性を示さない。
さらにまた、本発明に係る微生物は、枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子を発現誘導型プロモーターの制御下に発現することで溶菌が抑制されたものである。特に本発明に係る微生物は、少なくとも1種以上の分泌型プロテアーゼを欠損していることが好ましい。
また、本発明に係る微生物は、PGA産生能を有することが好ましい。本発明に係る微生物においては、Yoebタンパク質によって上記溶菌酵素のPGA分解活性を抑制することができる。ここで、PGA分解活性を抑制する溶菌酵素としては、例えば枯草菌由来のCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質及び前記タンパク質と機能的に等価なタンパク質を挙げることができる。
一方、本発明に係るPGAの製造方法は、PGA産生能を有する微生物を、枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質の存在下に培養し、培地に産生されたPGAを回収するものである。本発明に係るPGAの製造方法は、枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子を発現誘導型プロモーターの制御下に発現する微生物を使用するものであっても良いし、培地にYoeBタンパク質を添加するものであってもよい。本発明に係るPGAの製造方法においては、Yoebタンパク質によってPGA分解酵素におけるPGA分解活性が抑制された状態で上記微生物がPGAを産生する。
本発明によれば、例えば枯草菌由来の溶菌酵素の活性を効果的に抑制することができる新規な溶菌酵素阻害剤、及び、例えば枯草菌の溶菌を抑制することができる溶菌抑制剤を提供することができる。すなわち、本発明に係る溶菌酵素阻害剤は、枯草菌由来の溶菌酵素をはじめとして、各種の溶菌酵素の溶菌活性を阻害することができる。また、本発明に係る溶菌抑制剤は、枯草菌をはじめとして各種の微生物の溶菌を抑制することができる。
また、本発明によれば、溶菌酵素の作用による溶菌が抑制された微生物を提供することができる。本発明に係る微生物によれば、溶菌が抑制されているため、例えば物質生産の宿主として使用することによって当該物質の生産性を向上させることができる。
さらに、本発明によれば、溶菌酵素の作用によるPGAの分解を抑制するPGAの分解抑制剤を提供することができる。また、本発明によれば、野生株と比較して高分子量のPGAを製造する方法を提供することができる。
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
本発明に係る溶菌酵素阻害剤、溶菌抑制剤及びPGAの分解抑制剤は、枯草菌YoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質を主成分としている。
枯草菌YoeB遺伝子の塩基配列の一例を配列番号1に示し、配列番号1に示す塩基配列によってコードされるYoeBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。なお、枯草菌YoeB遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質としては、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに限定されず、配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するポリペプチド(以下、変異型ポリペプチドと称する)であってもよい。ここで、置換、欠失、付加又は挿入するアミノ酸は、例えば1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個とすることができる。また、1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入される領域としては、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列において24〜181番目の領域を除く領域を挙げることができる。この24〜181番目の領域は、溶菌酵素に結合する領域と考えられるため、当該領域を除く領域であれば1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたとしても、溶菌酵素の溶菌活性に対する抑制活性を保持できるものと考えられる。
また、枯草菌YoeB遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質としては、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに限定されず、配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性、好ましくは80%以上の相同性、より好ましくは90%以上の相同性、最も好ましくは95%以上の相同性を有するポリペプチドからなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するポリペプチド(以下、同様に、変異型ポリペプチドと称する)であってもよい。ここで、相同性の値は、複数のアミノ酸配列間の相同性を演算するソフトウェア(例えば、DANASYSやBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を意味する。
また、枯草菌YoeB遺伝子としては、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドに限定されず、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、変異型ポリヌクレオチドと称する)も含まれる。変異型ポリヌクレオチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するポリペプチド(以下、変異型ポリペプチドと称する)をコードすることとなる。
ここでストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。ストリンジェントな条件下としては、例えば、相同性が高いDNA同士(例えば50%以上の相同性を有するDNA同士)がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件を挙げることができる。具体的に、ストリンジェントな条件としては、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。変異型ポリヌクレオチドは、枯草菌に由来する野生型のYoeB遺伝子に対して所定の突然変異を導入することによって取得することができる。突然変異を導入する手法は、特に限定されないが、いわゆる部位特異的突然変異導入方法を適用することができる。
また、上述した各種の変異型ポリペプチドが溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するか否かは、以下のようにして判別することができる。すなわち、変異型ポリペプチドをコードする遺伝子を、野生型YoeB遺伝子と置換した変異株又は野生型YoeB遺伝子を破壊するとともに変異型ポリペプチドをコードする遺伝子を導入した変異株を作製する。この変異株を培養して形態観察する。変異型ポリペプチドが溶菌酵素の溶菌活性に対する抑制活性を有する場合には、変異株の形態が野生型に比較して丸くなる。一方、変異型ポリペプチドが溶菌酵素の溶菌活性に対する抑制活性を有しない場合には、変異株の形態が野生型と同様に桿状となる。このように、変異型ポリペプチドをコードする遺伝子を発現する変異株の形態を観察することによって、変異型ポリペプチドが溶菌酵素の溶菌活性を抑制する活性を有するか否か判別することができる。
一方、本発明に係る溶菌酵素阻害剤、溶菌抑制剤及びPGAの分解抑制剤は、枯草菌由来のYoeB遺伝子がコードするタンパク質に限定されず、枯草菌とは異なる微生物から単離された、枯草菌YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質を主成分とするものであってもよい。枯草菌以外の微生物としては、例えば、Bacillus licheniformis等の微生物を挙げることができる。
以下、これら枯草菌以外の微生物からYoeB遺伝子の相同遺伝子を単離する一手法を説明する。しかしながら、当業者は、以下の手法に限定されず、定法に従って目的とする相同遺伝子を単離することができる。
先ず、塩基配列情報を格納したデータベースを用いて、配列番号1に示す塩基配列をクエリー配列として相同性の高い遺伝子を特定する。次に、特定した遺伝子を特異的に増幅するためのプライマーを設計するとともに化学的に合成する。次に、対象の微生物から定法に従ってゲノムDNAを抽出する。抽出したゲノムDNAを鋳型として上記プライマーを用いてPCRによって、目的とするYoeB遺伝子の相同遺伝子を増幅し、単離することができる。
単離したYoeB遺伝子の相同遺伝子がYoeBタンパク質と同様な機能を有するか否かは、単離したYoeB遺伝子の相同遺伝子を組み込んだ発現ベクターを調製し、対象の微生物に形質転換し、上記相同遺伝子が発現する条件下で形質転換微生物を培養したときの形態を観察することによって確認することができる。単離したYoeB遺伝子の相同遺伝子がYoeBタンパク質と同様な機能を有する場合には、上記形質転換微生物が野生型と比較して丸くなる。一方、単離したYoeB遺伝子の相同遺伝子がYoeBタンパク質と同様な機能を有する場合には、上記形質転換微生物が野生型と同等な形態を示す。
上述した枯草菌YoeB遺伝子及び当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子を用いることによって、本発明に係る溶菌酵素阻害剤及び溶菌抑制剤の主成分となるYoeBタンパク質を調製することができる。上述した枯草菌YoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子を用いたYoeBタンパク質の生産は、宿主菌体内で複製維持が可能であり、該酵素を安定に発現させることができ、該遺伝子を安定に保持できるベクターに当該遺伝子を組込み、得られた組換えベクターを用いて宿主菌を形質転換することにより行えばよい。
ベクターとしては大腸菌を宿主とする場合、特に限定されないが、pUC18、pBR322、pHY300PLK(ヤクルト本社)等を使用することができる。また、枯草菌を宿主にする場合、特に限定されないが、pUB110、pHSP64(Sumitomoら、Biosci. Biotechnol,Biocem., 59,2172-2175, 1995)あるいはpHY300PLK等を使用することができる。
宿主菌を形質転換するにはプロトプラスト法、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法等を用いて行うことができる。宿主菌としては特に制限されないがバチルス属(枯草菌)等のグラム陽性菌、大腸菌等のグラム陰性菌、ストレプトマイセス属等の放線菌、サッカロマイセス属等の酵母あるいはアスペルギルス属等のカビが挙げられる。
得られた形質転換体は、資化しうる炭素源、窒素源、金属塩、ビタミン等を含む培地を用いて適当な条件下で培養すればよい。かくして得られた培養液から、一般的な方法によって酵素の分取や精製を行い、限外ろ過濃縮、凍結乾燥、噴霧乾燥、結晶化等によって、溶菌酵素の溶菌活性を抑制する活性を有するかたちでYoeBタンパク質を得ることができる。
本発明に係る溶菌酵素阻害剤及び溶菌抑制剤は、微生物を培養している培地又は微生物を懸濁した緩衝液に添加されると、当該微生物が発現した溶菌酵素の活性を低下させることができ、当該微生物の溶菌を抑制することができる。本発明に係る溶菌酵素阻害剤が阻害する溶菌酵素としては、特に限定されないが、細胞周期に依存して発現する溶菌酵素、細胞周期に非依存的に発現する溶菌酵素を挙げることができる。特に本発明に係る溶菌酵素阻害剤は、枯草菌における溶菌酵素であるCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質及びYddHタンパク質による溶菌作用を抑制することができる。CwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質及びYddHタンパク質は、枯草菌の細胞分裂の最終段階に、細胞分裂面及び菌体の両極に発現する溶菌酵素であることが知られている。CwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質及びYddHタンパク質は、それぞれN末端側から順にシグナルペプチド、細胞壁結合ドメイン及び細胞壁溶解活性ドメイン(D,L-エンドペプチダーゼ・ドメイン)を有している。本発明に係る溶菌酵素阻害剤及び溶菌抑制剤は、これらCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質及びYddHタンパク質における細胞壁溶解活性ドメインに結合して、CwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質及びYddHタンパク質の細胞壁溶解活性を抑制することで溶菌を抑制することができる。
また、本発明に係るPGAの分解抑制剤は、PGA産生能を有する微生物を培養する際に添加されると、PGAの分解活性を有する溶菌酵素のPGA分解活性を低下させることがき、当該微生物が産生するPGAの低分子量化を防止することができる。本発明に係るPGAの分解抑制剤が阻害する溶菌酵素としては、例えば、CwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質及びCwlOタンパク質を挙げることができる。これら溶菌酵素によるPGA分解活性を低下させることによって、比較的に高分子量のPGAを製造することができる。
CwlEタンパク質をコードする遺伝子(CwlE遺伝子)の塩基配列を配列番号3に示し、CwlEタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。また、CwlFタンパク質をコードする遺伝子(CwlF遺伝子)の塩基配列を配列番号5に示し、CwlFタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。CwlSタンパク質をコードする遺伝子(CwlS遺伝子)の塩基配列を配列番号54に示し、CwlSタンパク質のアミノ酸配列を配列番号55に示す。CwlOタンパク質をコードする遺伝子(CwlO遺伝子)の塩基配列を配列番号56に示し、CwlOタンパク質のアミノ酸配列を配列番号57に示す。YddHタンパク質をコードする遺伝子(YddH遺伝子)の塩基配列を配列番号58に示し、YddHタンパク質のアミノ酸配列を配列番号59に示す。
枯草菌由来のCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質又はYddHタンパク質と機能的に等価なタンパク質とは、配列番号4、6、55、57又は59に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質や、配列番号4、6、55、57又は59に示すアミノ酸配列に対して70%以上、80%以上または、90%以上の相同性を有するタンパク質、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、特に好ましくは97%以上、より特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質を意味する。本発明に係る溶菌酵素阻害剤は、これらのタンパク質に対しても作用することができる。
ここで、置換、欠失、付加又は挿入するアミノ酸は、例えば1〜40個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個とすることができる。また、1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入される領域としては、例えば、配列番号4に示すアミノ酸配列において371〜488番目の領域、配列番号6に示すアミノ酸配列において218〜334番目の領域、配列番号55に示すアミノ酸配列において1〜290番目の領域、配列番号57に示すアミノ酸配列において1〜343番目の領域、配列番号59に示すアミノ酸配列において1〜206番目の領域を除く領域を挙げることができる。この配列番号4に示すアミノ酸配列における371〜488番目の領域、配列番号6に示すアミノ酸配列における218〜334番目の領域、配列番号55に示すアミノ酸配列において1〜290番目の領域、配列番号57に示すアミノ酸配列において1〜343番目の領域、配列番号59に示すアミノ酸配列において1〜260番目の領域は、本発明に係る溶菌酵素阻害剤が結合する領域と考えられるため、当該領域を除く領域であれば1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたとしても、本発明に係る溶菌酵素阻害剤における抑制活性を保持できるものと考えられる。
以上説明したように、本発明に係る溶菌酵素阻害剤及び溶菌抑制剤によれば、YoeBタンパク質がCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質又はYddHタンパク質といった溶菌酵素の細胞壁溶解活性ドメインに結合することによって、当該溶菌酵素の細胞壁溶解活性を抑制することができる。これにより、上記溶菌酵素を発現する微生物は、溶菌が抑えられ比較的に長時間の培養が可能となる。例えば、枯草菌などの微生物を用いて物質生産を行う場合、個々の菌体の培養時間を長くできれば、物質の生産量も向上するといえる。所望の物質を生産する微生物を培養する際に、本発明に係る溶菌酵素阻害剤を添加することによって、当該物質の生産効率の向上を期待することができる。
本発明に係る溶菌抑制剤は、広く微生物に適用することができるが、特に、枯草菌等のBacillus属に属する細菌に対して適用することが好ましい。本発明に係る溶菌抑制剤が対象とする微生物は、野生型の微生物に限定されず、例えば種々の突然変異を有する変異株を対象とすることもできる。本発明に係る溶菌抑制剤が対象とする微生物の一例としては、少なくとも1種以上の分泌型プロテアーゼを欠損した変異株を挙げることができる。この変異株は、分泌型プロテアーゼを欠損しているので、有用タンパク質等の物質を菌体外に産生する宿主として好適である。この変異株を用いて当該物質を生産する系において、本発明に係る溶菌抑制剤を添加することによって変異株の溶菌を抑制することができ、比較的長期に亘って変異株を培養することができる。その結果、当該物質の生産効率を向上させることができ、物質の製造コストを低減することができる。
また、本発明に係る溶菌酵素阻害剤及び溶菌抑制剤の添加量は、特に限定されず、CwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質又はYddHタンパク質といった溶菌酵素の細胞壁溶解活性ドメインに結合しうる範囲で適宜規定することができる。
また、以上説明したように、本発明に係るPGAの分解抑制剤によれば、YoeBタンパク質がCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質又はCwlOタンパク質といったPGAの分解活性を有する溶菌酵素の細胞壁溶解活性ドメインに結合することによって、当該溶菌酵素によるPGA分解活性を抑制することができる。これにより、PGA産生能を有し、上記溶菌酵素を発現する微生物は、PGAの分解抑制剤の存在下において培養されると、比較的に高分子量のPGAを産生することができる。ここで、比較的に高分子量のPGAとは、本発明に係るPGAの分解抑制剤の非存在下において微生物が産生したPGAの平均分子量と比較して有意に高分子量であることを意味する。また、本発明に係るPGAの分解抑制剤は、上述したように微生物の溶菌を抑制することもできるため、比較的に高分子量のPGAを長時間に亘って産生することができる。
本発明に係るPGAの分解抑制剤は、PGA産生能を有する微生物に広く利用することができる。ここで、PGA産生能を有する微生物としては、Bacillus subtilis var.natto、Bacillus licheniformis、Bacillus megaterium、Bacillus anthracis、Bacillus haloduransや、Natrialba aegyptiaca、Hydra等を挙げることができる。
一方、本発明によれば、上述した溶菌酵素阻害剤或いは溶菌抑制剤をコードする遺伝子が発現誘導型プロモーターの制御下に発現するように改変した微生物を提供することができる。本発明に係る微生物を発現誘導条件下で培養することによって、上述した溶菌抑制剤が培地中に分泌される結果、比較的に長期間に亘って溶菌を抑制することができる。
したがって、このように構成された本発明に係る微生物を利用して、有用タンパク質等の物質を生産することによって当該物質の生産効率を高めることができる。特に、本発明に係る微生物は、少なくとも1種以上の分泌型プロテアーゼを欠損した変異株を宿主とし、上述した溶菌酵素阻害剤或いは溶菌抑制剤をコードする遺伝子が発現誘導型プロモーターの制御下に発現するように改変したものであることが好ましい。このように構成することによって、生産対象の有用タンパク質等の分解を防止することができ、より優れた生産効率を達成することができる。
ここで発現誘導型プロモーターとは、所定の物質の存在を条件として下流に位置する遺伝子の発現を亢進する機能を有するプロモーターを意味する。本発明に係る微生物において、発現誘導型プロモーターとしては、特に限定されず、一例としてlacオペロンのリプレッサーであるlaclによって制御されIPTGの存在下で下流遺伝子の発現誘導するプロモーター(Pspac)を挙げることができる。
特に、本発明に係る微生物としては、PGA産生能を有する微生物に対して、上述したPGAの分解抑制剤をコードする遺伝子が発現誘導型プロモーターの制御下に発現するように改変されたものであることが好ましい。この微生物を培地に培養することによって、比較的に高分子量のPGAを製造することができる。なお、この微生物を培地に培養して高分子量のPGAを製造するに際して、当該培地に対して別途準備したPGAの分解抑制剤を添加しても良い。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕YoeBタンパク質と溶菌酵素との相互作用検討
本実施例では、YoeB遺伝子(配列番号1)によりコードされるYoeBタンパク質(配列番号2)と、CwlE遺伝子(配列番号3)によりコードされるCwlEタンパク質との相互作用を検討した。
具体的には、先ず、YoeB-3×FLAGタンパク質をIPTGによる誘導によって発現するWE1YoeB3FL株と、CwlE-3×FLAGタンパク質をIPTGによる誘導によって発現するWE1E3FL株とを構築した。WE1YoeB3FL株及びWE1E3FL株は、WE1株(Yamamoto, H. et al., 2003 "Localization of the vegetative cell wall hydrases LytC, LytE, LytF on the Bacillus subtilis cell surface and stability of these enzymes to cell wall-bound or extracellular proteases." J. Becteriol. 185:6666-6677)を用いて作製した。このWE1株は、minor extracellular serine protease であるepr遺伝子をテトラサイクリン耐性遺伝子を挿入することで欠損するとともにcell wall associate protease であるwprA遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子を挿入することで欠損した遺伝子型を有している。
WE1YoeB3FL株は、IPTG誘導型プロモーターの下流にYoeB-3×FLAGタンパク質をコードする遺伝子を配したベクターpCA3FLYoeBをWE1株に形質転換することによって作製した。WE1E3FL株は、IPTG誘導型プロモーターの下流にCwlE-3×FLAGタンパク質をコードする遺伝子を配したベクターpCA3FLCEをWE1株に形質転換することによって作製した。なお、3×FLAGと融合されたタンパク質は、sigma社製のanti-FLAG M2 monoclonal antibodyによって検出することができる。
次に、構築したWE1YoeB3FL株及びWE1E3FL株からそれぞれ表層タンパク質を抽出した。具体的には、各株をそれぞれLB寒天培地に植菌し、37℃で12時間前々培養を行った後、得られたシングルコロニーを5mlのLB液体培地に植菌して30℃で10時間前培養を行った。前培養後、50mlのLB液体培地にOD600の値が0.01となるように植菌し、OD600の値が2.0になるまで本培養を行った。培養終了後、培養液を10000rpmで10分間の条件で遠心分離した。上清を取り除き、25mM Tris-HCl(pH7.2)で洗浄した。洗浄後の沈殿を10μl/ODとなるように3M LiCl(25mM Tris-HCl、pH7.2)に懸濁し、氷上に20分間静置した。その後、4℃、10000rpmで10分間の条件で遠心分離した。上清を回収し、終濃度が5%となるようにTCA(トリクロロ酢酸)を加えてよく懸濁し、氷上に60分間静置した。その後、4℃、15000rpmで5分間の条件で遠心分離を行った。上清を取り除き、沈殿を70%エタノールでリンスをしてTCAを充分に除去した。以上のようにして、WE1YoeB3FL株及びWE1E3FL株から表層タンパク質をそれぞれ抽出した。
次に、TBSバッファー(50mM Tris-HCl、150mM NaCl(pH7.4))に置換したアフィニティーゲル(Anti-FLAG M2 Affinity Gel Freezer-Safe (Sigma社製))を200μl加えて混合した。4℃で1時間緩やかに(8rpm)撹拌した。その後、5000rpmで1分間の条件で遠心分離した。沈殿したゲルを吸引しないように留意ながら、上清を除去した。その後、TBSバッファーを500μl加えて懸濁した。その後、ゲルをSpin Column(Micro Bio Spin Chromatography Columns (BIO RAD社製))に移し、1000gで30秒間の条件で遠心してゲルをトラップさせた。その後、500μlのTBSバッファーで3回洗浄した。次に、Glycine HCl elution buffer(0.1M glycine-HCl)を100μlずつ加え、よく撹拌した。1分後、1000gで30秒間で溶出し、これを2回繰り返したものを併せて溶出溶液を得た。
次に、得られた溶出溶液についてSDS-PAGEを用いてバンドパターンを調べた。なお、電気泳動には、菌体OD600=200から抽出した量に相当するタンパク質を各レーンにチャージした。結果を図1Aに示す。図1Aにおいて、レーン1はWE1YoeB3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質であり、レーン2はWE1E3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質である。
図1Aのレーン1から判るように、WE1YoeB3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質には、CwlEタンパク質、CwlFタンパク質及びYojLタンパク質の位置にバンドが検出された。このときの積算値とその比率とを表1に示した。
Figure 2008118985
この結果より、菌体菌体OD600が2.0の時にYoeBタンパク質は、CwlEタンパク質、CwlFタンパク質及びYojLタンパク質と結合していることが示された。なお、YojLタンパク質は、peptidoglycan hydrolase(DL-endopeptidase II family)として知られている成分である。また、図1Aのレーン2から判るように、WE1E3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質には、YoeBタンパク質の位置にバンドが検出された。
また、YoeBタンパク質と相互作用しているタンパク質がCwlEタンパク質であることを確認するため、基質として細胞壁成分を使用したザイモグラフを行った。細胞壁成分は以下のように調製した。すなわち、先ず、枯草菌168株を4Lの系で培養して集菌した後、菌体を4M LiCl溶液に懸濁し、15分間煮沸した。室温まで冷却した後、溶液にガラスビーズ(φ0.1mm)を加え、ホモジェナイザーを用いて1時間破砕し、続いて超音波を用いて30分間破砕した。得られた破砕液を静置して上清のみを回収した。3000rmpで5分間遠心分離した後の上清を回収することで、ガラスビーズを完全に除去した。次に、13000rpmで10分間遠心分離することで沈殿画分に細胞壁成分を回収した。次に、4%(w/v)のSDS溶液に沈殿画分を懸濁し、15分間煮沸した。室温まで冷却した後、SDSを完全に除去できるまでイオン交換水で洗浄した。得られた溶液を細胞壁成分溶液とした。なお、細胞壁成分溶液の濃度は、細胞壁成分溶液の540nmにおけるODを測定し、OD540の値が1.0のとき1.1mg/mlとして算出した。
ザイモグラフィは以下のように行った。先ず、SDS-PAGEを行う際に、separation gelに終濃度0.05%となるように上述した細胞壁成分を加えた。泳動終了後、37℃で1〜16時間の条件でゲルをRenaturation Buffer(25mM Tris-HCl(pH7.2)、1%Triton-X100)内で緩やかに振とうした。その後、染色液(0.01% methylene blue、0.01%KOH)に浸して室温で穏やかに振とうし、イオン交換水で活性バンドが目視できるまで脱色した。
結果を図1Bに示す。図1Bにおいて、レーン1はWE1YoeB3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質であり、レーン2は基質として細胞壁成分を加えたザイモグラフである。図1Bのレーン2に示すように、YoeBタンパク質と相互作用していたタンパク質として、CwlEタンパク質を同じ位置にほぼ同じ強度でバンドが検出された。
以上、図1A及びBの結果から、YoeBタンパク質とCwlEタンパク質が結合することが示された。
次に、YoeBタンパク質がCwlEタンパク質のどのドメインに結合しているのかを調べた。なお、CwlEタンパク質は、N末端から順にシグナルペプチド、細胞壁結合ドメイン及び活性ドメインを有している。そこで、活性ドメインを有しない、N末端から順にシグナルペプチド、細胞壁結合ドメイン及びFLAGタグからなる変異型CwlE-3×FLAGタンパク質をIPTGによる誘導によって発現するWE15xLysM3FL株を構築した。
そして、上述したWE1E3FL株及びWE15xLysM3FL株を用いて上述した実験と同様にして、抗FLAG抗体を用いて表層タンパク質を精製し、SDS-PAGEを用いてバンドパターンを調べた。なお、電気泳動に際しては、WE1E3FL株の場合には菌体OD600=200から抽出した量に相当するタンパク質を、WE15xLysM3FL株の場合には菌体OD600=2000から抽出した量に相当するタンパク質を各レーンにチャージした。
結果を図2Aに示す。図2Aのレーン1はWE1E3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質であり、レーン2はWE15xLysM3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質である。図2Aから判るように、レーン1ではYoeBタンパク質のバンドが検出されているがレーン2では検出されていない。この結果から、YoeBタンパク質は、CwlEタンパク質における活性ドメインに結合していることが明かとなった。
一方、図1Aに示したように、YoeBタンパク質はCwlFタンパク質とも結合していることが明かとなった。そこで、CwlFタンパク質についても、YoeBタンパク質との相互作用部位を検討した。なお、CwlFタンパク質は、枯草菌における主要な細胞壁溶解酵素であり、CwlEタンパク質と同様な局在パターン(すなわち、分裂面及び両極)を示すことが知られている。
本実験では、CwlF-3×FLAGタンパク質をIPTGによる誘導によって発現するWE1F3FL株と、活性ドメインを有しない、N末端から順にシグナルペプチド、細胞壁結合ドメイン及びFLAGタグからなる変異型CwlF-3×FLAGタンパク質をIPTGによる誘導によって発現するWE13xLysM3FL株を構築した。これらWE1F3FL株及びWE13xLysM3FL株を用いて、上述した実験と同様にして、抗FLAG抗体を用いて表層タンパク質を精製し、SDS-PAGEを用いてバンドパターンを調べた。
結果を図2Bに示す。図2Bのレーン1はWE1F3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質であり、レーン2はWE13xLysM3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質である。図2Bから判るように、レーン1ではYoeBタンパク質のバンドが検出されているがレーン2では検出されていない。この結果から、YoeBタンパク質は、CwlFタンパク質に対してもCwlEタンパク質と同様に、活性ドメインに結合していることが明かとなった。
〔実施例2〕溶菌酵素活性に対するYoeBタンパク質の抑制作用1
本実施例では、溶菌酵素のもつ細胞壁溶解活性に対してYoeBタンパク質がどのように作用するのかを、液体中における活性測定により調べた。本実施例では、実施例1と同様にして調製した細胞壁成分を基質として、YoeBタンパク質の存在下又は非存在下でCwlEのC末端側活性ドメイン(CwlECTD)の細胞壁溶解活性を測定した。
本実施例において、細胞壁溶解活性測定には、全て20mM MES buffer(pH6.5)を用いた。この測定用bufferで、OD540=0.6に相当する量の細胞壁成分を洗浄し、遠心分離して細胞壁を沈澱させた。上清を取り除き、沈澱に2mlの測定用bufferを加えて懸濁し、最終的にOD540=0.3となるように細胞壁成分を調整し、基質溶液とした。
活性測定に際しては、His-tagを融合させたCwlEのC末端側活性ドメイン(His-CwlECTD)を基質溶液に作用させ、基質溶液の濁度を測定した。すなわち、His-CwlECTDによる細胞壁溶解活性を濁度の減少率として評価した。基質溶液の濁度は、V-560型紫外可視分光光度計(日本分光社製)を用いて測定した。濁度の減少率は、測定開始後0分のOD540値を100%とし、5、10、20及び30分後のOD540値から算出した。
本実施例では、基質溶液に2nmol(29μg)のHis-CwlECTDを加えたサンプル、基質溶液に2nmol(29μg)のHis-CwlECTD及び2nmol(38.1μg)のHis-YoeBを加えたサンプル、並びに基質溶液に2nmol(29μg)のHis-CwlECTD及び4nmol(76.1μg)のHis-YoeBを加えたサンプルについて測定した。
反応時間と濁度の減少率との関係を図3に示す。図3から判るように、基質溶液にHis-CwlECTDを加えたサンプルでは、測定開始直後からOD540値が著しく減少したことから、His-CwlECTDが細胞壁に対して強い溶解活性を持つことが分かった。これに対して、基質溶液に等モル量でHis-CwlECTD及びHis-YoeBを加えたサンプルでは、測定開始直後からOD540値の減少はみられるが、His-CwlECTDのみを加えたサンプルと比べて緩やかな曲線が得られたことから、等モル量のHis-YoeBを加えたことによりHis-CwlECTDの活性が抑制されたといえる。さらに、His-CwlECTDとHis-YoeBとを1:2のモル比で加えたサンプルの場合、測定開始直後からOD540値の減少はほとんどみられず、ほぼ一定であった。このことから、His-CwlECTDに対して2倍のモル量のHis-YoeBを加えることにより、His-CwlECTDの活性はほぼ100%阻害されることが分かった。
〔実施例3〕溶菌酵素活性に対するYoeBタンパク質の抑制作用2
本実施例では、実施例1と同様にして調製した細胞壁成分を基質として、YoeBタンパク質の存在下又は非存在下でCwlS、CwlO及びYddHのC末端側活性ドメインの細胞壁溶解活性を測定した。
<CwlSのC末端側活性ドメインの調整>
DL-エンドペプチダーゼ・ドメイン(第290番目から終止コドンおよび61bpの転写終結様配列を含む)に相当するcwlS遺伝子の3'末端DNA配列を、プライマーBF-YOJL(gcgcggatcctcaaacattcaaataggttcg:配列番号60)及びKR-YOJL(gcgcggtaccggtcaatcattgtctggta:配列番号61)を用いて、枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、PCRにて増幅した。なお、上記プライマーBF-YOJL及びKR-YOJLにおける下線の塩基配列は、それぞれBamHI及びKpnI制限酵素認識配列を示す。PCRによる増幅後、得られたPCR産物を制限酵素BamHI及びKpnIで処理し、インサートを得た。
次いで、プラスミドpQE30をBamHI及びKpnIで処理し、上記のインサートと連結し、プラスミドpQEΔojLを構築した。なお、プラスミドpQE30は、大腸菌においてHisタグ融合タンパク質を発現させるために開発されたプラスミドである。
インサート部分のDNA配列が正しく挿入されたか否かをシーケンスにより確認した。正しく挿入されたことを確認できたプラスミドpQEΔojLを、コンピテント法により大腸菌JM109株に導入した。以後、プラスミドpQEΔojLが導入された大腸菌M13(pREP4)株を「M13 (pQEΔojL)」と呼ぶ。
M13(pQEΔojL)を、100μg/mlのアンピシリン、25μg/mlのカナマイシン、2%のグルコースを含むLB培地(200ml)にて、37℃で培養した。培養液のOD600が1.0のとき、最終濃度が1mMになるようにIPTG(isopropyl 1-thio-β-D-galactoside)を培地に添加し、さらに5時間培養した。培養後、培養物を遠心分離(8000rpm, 10分, 4℃)に供することで集菌し、菌体を開始バッファー(5ml;10mM imidazoleを含む1×リン酸バッファー(pH7.0))に懸濁した。
次いで、超音波破砕(on:0.5秒、off:1秒/on:30秒、off:30秒、計10分)に供した後、さらに遠心分離(12,000rpm、10分、4℃)に供した。得られた上清を0.45μmフィルターにて濾過した。濾過により抽出したh-ΔCwlSタンパク質の精製は、GEヘルスケアバイオサイエンス社のHis-Trapカラム精製の定法に従い行った。精製したh-ΔCwlSタンパク質溶液を20mMのリン酸バッファー(pH 7.0)でさらに透析し、h-ΔCwlSタンパク質溶液を調製した。
<CwlOのC末端側活性ドメインの調整>
DL-エンドペプチダーゼ・ドメイン(第343番目から終止コドンおよび84bpの転写終結様配列を含む)に相当するcwlO遺伝子の3'末端DNA配列を、プライマーBF-YVCE(gcgcggatccgaaggcgcgatcagcgtt:配列番号62)及びKR-YVCE(gcgcggtaccgctcaacacgattaaatgtat:配列番号63)を用いて、枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、PCRにて増幅した。なお、上記プライマーBF-YVCE及びKR-YVCEにおける下線の塩基配列は、それぞれBamHI及びKpnI制限酵素認識配列を示す。
得られたPCR産物を用いて、上記<CwlSのC末端側活性ドメインの調整>と同様な方法によってプラスミドpQEVCEを作製し、pQEVCEを導入した大腸菌M13 (pQEVCE)を得た。得られたM13 (pQEVCE)を用いて、上記<CwlSのC末端側活性ドメインの調整>と同様な方法によって同様にして6His-C-CwlOタンパク質溶液を調製した。
<YddHのC末端側活性ドメインの調整>
DL-エンドペプチダーゼ・ドメイン(第206番目から終止コドンおよび9bpの非翻訳領域を含む)に相当するYddH遺伝子の3'末端DNA配列を、プライマーBF-YDDH(gcgcggatccgatttctatgaaacggtcatg:配列番号64)及びKR-YDDH(gcgcggtacccactcctagttatttaatgcg:配列番号65)を用いて、枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、PCRにて増幅した。なお、上記プライマーBF-YDDH及びKR-YDDHにおける下線の塩基配列は、それぞれBamHI及びKpnI制限酵素認識配列を示す。
得られたPCR産物を用いて、上記<CwlSのC末端側活性ドメインの調整>と同様な方法によってプラスミドpQEDDHを作製し、pQEDDHを導入した大腸菌M13 (pQEDDH)を得た。得られたM13 (pQEDDH)を用いて、上記<CwlSのC末端側活性ドメインの調整>と同様な方法によって同様にして6His-C-YddHタンパク質溶液を調製した。
<細胞壁溶解活性を測定及び結果>
細胞壁溶解活性の測定は、実施例2に記載した方法に準じて行った。なお、本実施例では、h-ΔCwlSタンパク質、6His-C-CwlOタンパク質又は6His-C-YddHタンパク質に対してHis-YoeBタンパク質を2倍のモル比で加えた。CwlSタンパク質による細胞壁溶解活性を測定した結果を図4に示し、CwlOタンパク質による細胞壁溶解活性を測定した結果を図5に示し、YddHタンパク質による細胞壁溶解活性を測定した結果を図6に示す。
図4〜6に示すように、YoeBタンパク質は、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質及びYddHタンパク質といった溶菌酵素における細胞壁溶解活性も抑制できることが明らかになった。特に、2倍のモル比でYoeBタンパク質を作用させることによって、これら溶菌酵素の細胞壁溶解活性はほぼ100%阻害されることが明かとなった。
〔実施例4〕溶菌酵素活性に対するYoeBタンパク質の抑制作用3
本実施例では、8種類の分泌型プロテアーゼを欠損する枯草菌変異株Dpr8(Δepr/ΔwprA/Δmpr/ΔnprB/Δbpr/ΔnprE/Δvpr/ΔaprEにおいて、YoeBタンパク質を過剰に発現させた場合における溶菌抑制効果を検討した。なお、Dpr8株は、既知分泌型プロテアーゼ8種類を欠失しているため野生型と比較して溶菌しやすいといった特徴を有している。
Dpr8株は以下のように構築した。Dpr8株の構築に際して使用したプライマーの一覧を表2に示す。
Figure 2008118985
また、各遺伝子の欠損用に使用したプライマーを表3に纏めた。
Figure 2008118985
先ず、野生型である枯草菌168株からepr遺伝子を欠損させる方法を説明する。枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、表2に示したeprfw1とeprUpr、及びeprDNfとeprrv-repの各プライマーセットを用いて、ゲノム上のepr遺伝子の上流に隣接する0.6kb断片(A)、及び下流に隣接する0.5kb断片(B)をそれぞれ調製した。また別途プラスミドpC194(J. Bacteriol. 150 (2), 815 (1982))由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子の上流にプラスミドpUB110(Plasmid 15, 93 (1986))由来のrepU遺伝子のプロモーター領域(Nucleic Acids Res. 17, 4410 (1989))を連結した1.2kb断片(C)を調製した。次に、得られた(A)(B)(C)3断片を混合して鋳型とし、表2のプライマーeprfw2とCmrv2を用いたSOE-PCRを行うことによって、3断片を(A)(B)(C)の順になる様に結合させ、2.2kbのDNA断片を得た。このDNA断片の末端を平滑化及び5’-リン酸化し、プラスミドpUC118(Methods Enzymol. 153, 3 (1987))のSmaI制限酵素部位に挿入してepr遺伝子欠失用プラスミドpUC118-CmrΔeprを構築した。なお、上記1.2kb断片(C)は、repUfwとrepUr-Cmのプライマーセット(表2)及び鋳型としてプラスミドpUB110を用いて調製したrepU遺伝子プロモーター領域を含む0.4kb断片(D)と、CmUf-repとCmrv1のプライマーセット及び鋳型としてプラスミドpC194を用いて調製したクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む0.8kb断片(E)とを混合して鋳型とし、表2に示したプライマーrepUfwとCmrv1を用いたSOE-PCRを行なうことによって調製した。
次に、上述のように作製したepr遺伝子欠失用プラスミドpUC118-CmrΔeprをコンピテントセル形質転換法(J. Bacteriol. 93, 1925 (1967))によって枯草菌168株に導入し、epr遺伝子上流領域、或いは下流領域の相当する領域間での1重交差の相同組換えによりゲノムDNAと融合した形質転換株を、クロラムフェニコール耐性を指標に取得した。得られた形質転換株をLB培地に接種し、37℃にて2時間培養後、再度、コンピテンス誘導操作を行うことにより、ゲノム上で重複して存在するepr遺伝子上流領域、或いは下流領域の間におけるゲノム内相同組換えを誘導した。プラスミド導入の際と異なる領域で、ゲノム内相同組換えが起こった場合には、プラスミドに由来するクロラムフェニコール耐性遺伝子及びpUC118ベクター領域の脱落に伴ってepr遺伝子が欠失することになる。次に、クロラムフェニコール感受性となった株の存在比率を高める為、以下の要領でアンピシリン濃縮操作を行なった。コンピテントセル誘導後の培養液を終濃度5ppmのクロラムフェニコール及び終濃度100ppmのアンピシリンナトリウムを含むLB培地1mLに600nmにおける濁度(OD600)が0.003になるように接種した。37℃にて5時間培養後、10,000ppmのアンピシリンナトリウム水溶液を10μL添加して更に3時間培養した。培養終了後、2%塩化ナトリウム水溶液にて菌体を遠心洗浄した後、1mLの2%塩化ナトリウム水溶液に懸濁し、懸濁液100μLをLB寒天培地に塗沫した。37℃にて約15時間インキュベーションし、生育した菌株のうち、プラスミド領域の脱落に伴ってクロラムフェニコール感受性となったものを選抜した。選抜した菌株のゲノムDNAを鋳型とし、表2に示すプライマーeprfw2とeprrv-repを用いたPCRを行なうことによりepr遺伝子欠失の確認を行ない、epr遺伝子欠失株を取得した。
次に、得られたepr遺伝子欠失株に対し、次の欠失としてwprA遺伝子の欠失をepr遺伝子欠失と同様に行なった。すなわち、同様にしてwprA遺伝子欠失用プラスミドpUC118-CmrΔwprAを構築し、構築したプラスミドのゲノムDNAへの導入とそれに続くゲノム内相同組換えによるwprA遺伝子の欠失によりepr遺伝子とwprA遺伝子の2重欠失株を取得した。以降同様の操作を繰り返すことにより、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprEの各遺伝子を順次欠失させ、最終的に8種類のプロテアーゼ遺伝子が欠失したプロテアーゼ8重欠失株を構築し、Dpr8株と命名した。
一方、Dpr8株に導入するyoeB大量発現用プラスミドpDG148YBは以下のように作製した。先ず、yoeB遺伝子増幅用プライマーyoeBSal-F-2 (5’-GCGCAGATCTGTCGACTAAGAGAAAGAGATTTTGAAGG(配列番号52))及びyoeBSph-R (5’-GCGCGCATGCTTATATAACTGCGTCAAATTG(配列番号53))を用いて枯草菌野生株染色体DNAを鋳型としてPCR増幅した。得られた増幅断片(595 bp)をSalI及びSphIで制限酵素処理した。この断片を、同様にSalI及びSphIで制限酵素処理したプラスミドpUC118にライゲーションし、pU8YBを得た。挿入断片の塩基配列を確認後、pU8YBをSalI及びSphIで制限酵素処理した。切り出されたyoeB遺伝子断片(575 bp)を、同様にSalI及びSphIで制限酵素処理したpDG148にライゲーションし、目的とするpDG148YBを得た。なお、pDG148は、IPTGにより発現誘導されるプロモーターを有するマルチコピープラスミドであり、Bacillus Genetic Stock Centerから入手することができる。
以上のように作製したpDG148YBをDpr8株に導入し、以下の実験を行なった。前培養はLB培地で30℃、15時間培養した。前培養液600μlを7.5%マルトース、7.5μg/ml MnSO4および10μg/mlのカナマイシンを含む30 mlの2×L培地添加し、本培養を開始した。yoeBの大量発現を誘導するため、培養開始0、8、20時間後にそれぞれ終濃度1 mMとなるように本培養液にIPTGを添加した。またIPTGを加えないサンプルをコントロールとした。OD600にて培養液濁度を経時的に測定し、溶菌抑制効果を検討した。
結果を図7に示す。図7から判るように、IPTGを加えないサンプルにおいては、培養開始30時間を超えたあたりから濁度の減少、すなわちDpr8株の溶菌が観察された。これに対して、IPTG添加によってYoeBタンパク質を大量に発現させたサンプルにおいては、培養開始30時間を超えても濁度の減少は観察されなかった。これにより、YoeBタンパク質を大量発現したDpr8株においては、溶菌が抑制されていることが明かとなった。
〔実施例5〕YoeBタンパク質におけるPGA分解抑制活性
本実施例では、YoeB遺伝子(配列番号1)によりコードされるYoeBタンパク質(配列番号2)によるPGA分解抑制効果を検討した。具体的には、所定の範囲の分子量をもつPGAに対して各種溶菌酵素を作用させたときのPGAの分解(低分子化)を、YoeBタンパク質の存在下或いは非存在下で比較した。なお、本実施例で使用した各種溶菌酵素及びYoeBタンパク質は、実施例2及び3で使用したものを用いた。
また、本実施例において、PGAとしては、平均分子量が4,000kDa〜6,000kDaである製品(和光:No.168-21413)を用いた。PGAの分解反応は、10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)中で1nmolの溶菌酵素と2mgのPGAを用いた。YoeBタンパク質を添加する場合には2nmolとした。反応温度は37℃とした。所定の反応時間が経過した後、100℃で5分間煮沸することによって反応を停止した。反応停止後のサンプルを14%SDS-ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動に供し、メチレンブルー染色によりPGAの分解を確認した。
詳細に、CwlEタンパク質については、下記表4に示す組成の反応溶液を調整した。CwlEタンパク質によるPGA分解活性を検討した結果を図8に示す。
Figure 2008118985
CwlFタンパク質については、下記表5に示す組成の反応溶液を調整した。CwlFタンパク質によるPGA分解活性を検討した結果を図9に示す。
Figure 2008118985
CwlSタンパク質については、下記表6に示す組成の反応溶液を調整した。CwlSタンパク質によるPGA分解活性を検討した結果を図10に示す。
Figure 2008118985
CwlOタンパク質については、下記表7に示す組成の反応溶液を調整した。CwlOタンパク質によるPGA分解活性を検討した結果を図11に示す。
Figure 2008118985
なお、図9において、レーン1はサンプルNo.1の反応溶液であり、レーン2〜5は反応時間をそれぞれ0.5時間、1.0時間、2.0時間及び4.0時間としたサンプルNo.2の反応溶液であり、レーン6〜10は反応時間をそれぞれ0時間、0.5時間、1.0時間、2.0時間及び4.0時間としたサンプルNo.3の反応溶液である。また、図10〜11において、レーン1はサンプルNo.1の反応溶液であり、レーン2〜6は反応時間をそれぞれ0.5時間、1.0時間、2.0時間、4.0時間及び6.0時間としたサンプルNo.2の反応溶液であり、レーン7〜12は反応時間をそれぞれ0時間、0.5時間、1.0時間、2.0時間、4.0時間及び6.0時間としたサンプルNo.3の反応溶液である。
図9〜11に示すように、YoeBタンパク質の非存在下において、CwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質及びCwlOタンパク質は、全てPGAを分解して低分子化する活性を有することが判る。また、これらCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質及びCwlOタンパク質におけるPGA分解活性は、YoeBタンパク質の存在下において阻害され、PGAは分解されず所定範囲の分子量を維持することが明らかとなった。本実施例により、YoeBタンパク質には、溶菌酵素によるPGA分解活性を抑制する新規な作用があることが明らかとなった。
また、比較のため、細胞壁の分解活性を有しないが、PGAの分解活性を有することが知られているYwtDタンパク質についても、YoeBタンパク質によるPGA分解抑制効果がみられるか検討した。YwtD遺伝子の塩基配列を配列番号66に示し、YwtDタンパク質のアミノ酸配列を配列番号67に示した。
YwtDタンパク質については、実施例3の<CwlSのC末端側活性ドメインの調整>と同様な方法によって取得した。すなわち、DL-エンドペプチダーゼ・ドメインを含むYwtD遺伝子のDNA配列を、プライマーYwtD-FL-Fw(gcgcggtaccgatacatcatcagaattgatt:配列番号68)及びYwtD-FL-Rv(gcgcctgcagttattgcacccgtatacttc:配列番号69)を用いて、枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、PCRにて増幅した。なお、上記プライマーYwtD-FL-Fw及びYwtD-FL-Rvにおける下線の塩基配列は、それぞれKpnI及びPstI制限酵素認識配列を示す。
得られたPCR産物を用いて、上記<CwlSのC末端側活性ドメインの調整>と同様な方法によってプラスミドpQEYwtDを作製し、pQEYwtDを導入した大腸菌M13(pREP4,pQEYwtD)を得た。得られたM13(pREP4,pQEYwtD)を用いて、上記<CwlSのC末端側活性ドメインの調整>と同様な方法によって同様にしてh-YwtDタンパク質溶液を調製した。得られたYwtDタンパク質を用いたPGA分解反応は、下記表8に示す組成の反応溶液を調整して、上述した方法と同様にして行った。
Figure 2008118985
その結果を図12に示す。なお図12においてレーン1はサンプルNo.1の反応溶液であり、レーン2〜5は反応時間をそれぞれ0.5時間、1.0時間、2.0時間及び4.0時間としたサンプルNo.2の反応溶液であり、レーン6〜10は反応時間をそれぞれ0時間、0.5時間、1.0時間、2.0時間及び4.0時間としたサンプルNo.3の反応溶液である。図12から判るように、YoeBタンパク質の存在下及び非存在下のいずれにおいても、YwtDタンパク質によるPGA分解活性に変化は見られなかった。すなわち、YoeBタンパク質は、YwtDタンパク質におけるPGA分解活性を阻害しないことが明らかとなった。
以上の結果から、YoeBタンパク質は、細胞壁溶解活性を有する溶菌酵素によるPGA分解活性を阻害し、細胞壁溶解活性を有しないPGA分解酵素によるPGA分解活性を阻害しないことが明らかとなった。
(A)はWE1YoeB3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質(レーン1)及びWE1E3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質(レーン2)をSDS-PAGEで解析した結果を示す写真であり、(B)はWE1YoeB3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質(レーン1)をSDS-PAGEで解析した結果及び基質として細胞壁成分を加えたザイモグラフ(レーン2)の結果を示す写真である。 (A)はWE1E3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質(レーン1)及びWE15xLysM3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質(レーン2)をSDS-PAGEで解析した結果を示す写真であり、(B)はWE1F3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質(レーン1)及びWE13xLysM3FL株から抽出した抗FLAG抗体で精製した表層タンパク質(レーン2)をSDS-PAGEで解析した結果を示す写真である。 細胞壁成分を基質としたときの、His-CwlECTDを加えたサンプル、His-CwlECTD及びHis-YoeBを1;1で加えたサンプル、His-CwlECTD及びHis-YoeBを1:2で加えたサンプルにおける反応時間と濁度の減少率との関係を示す特性図である。 細胞壁成分を基質としたときの、h-ΔCwlSタンパク質を加えたサンプル、h-ΔCwlSタンパク質及びHis-YoeBを1:2で加えたサンプルにおける反応時間と濁度の減少率との関係を示す特性図である。 細胞壁成分を基質としたときの、6His-C-CwlOタンパク質を加えたサンプル、6His-C-CwlOタンパク質及びHis-YoeBを1:2で加えたサンプルにおける反応時間と濁度の減少率との関係を示す特性図である。 細胞壁成分を基質としたときの、6His-C-YddHタンパク質を加えたサンプル、6His-C-YddHタンパク質及びHis-YoeBを1:2で加えたサンプルにおける反応時間と濁度の減少率との関係を示す特性図である。 YoeBタンパク質を大量発現させた際の分泌型プロテアーゼ欠損株Dpr8における溶菌抑制作用を示す特性図である。 CwlEタンパク質によるPGA分解活性を、YoeBタンパク質の存在下又は非存在下で比較検討した結果を示すSDS-ポリアクリルアミド電気泳動写真である。 CwlFタンパク質によるPGA分解活性を、YoeBタンパク質の存在下又は非存在下で比較検討した結果を示すSDS-ポリアクリルアミド電気泳動写真である。 CwlSタンパク質によるPGA分解活性を、YoeBタンパク質の存在下又は非存在下で比較検討した結果を示すSDS-ポリアクリルアミド電気泳動写真である。 CwlOタンパク質によるPGA分解活性を、YoeBタンパク質の存在下又は非存在下で比較検討した結果を示すSDS-ポリアクリルアミド電気泳動写真である。 YwtDタンパク質によるPGA分解活性を、YoeBタンパク質の存在下又は非存在下で比較検討した結果を示すSDS-ポリアクリルアミド電気泳動写真である。

Claims (33)

  1. 枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質を主成分とする、溶菌酵素阻害剤。
  2. 上記YoeBタンパク質は以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項1記載の溶菌酵素阻害剤。
    (a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
  3. 枯草菌由来のCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質、YddHタンパク質及び前記タンパク質と機能的に等価なタンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一種の溶菌酵素の溶菌活性を阻害することを特徴とする請求項1又は2記載の溶菌酵素阻害剤。
  4. 上記CwlEタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項3記載の溶菌酵素阻害剤。
    (a)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号4に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  5. 上記CwlFタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項3記載の溶菌酵素阻害剤。
    (a)配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号6に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号6に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  6. 上記CwlSタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項3記載の溶菌酵素阻害剤。
    (a)配列番号55に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号55に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号55に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  7. 上記CwlOタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項3記載の溶菌酵素阻害剤。
    (a)配列番号57に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号57に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号57に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  8. 上記YddHタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項3記載の溶菌酵素阻害剤。
    (a)配列番号59に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号59に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号59に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  9. 枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質を主成分とする、溶菌抑制剤。
  10. 上記YoeBタンパク質は以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項9記載の溶菌抑制剤。
    (a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
  11. 枯草菌の溶菌を抑制することを特徴とする請求項9又は10記載の溶菌抑制剤。
  12. 上記枯草菌は、少なくとも1種以上の分泌型プロテアーゼを欠損した変異株であることを特徴とする請求項11記載の溶菌抑制剤。
  13. 枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質を主成分とする、ポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤。
  14. 上記YoeBタンパク質は以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項13記載のポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤。
    (a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
  15. 上記YoeBタンパク質によって、枯草菌由来のCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質及び前記タンパク質と機能的に等価なタンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一種の溶菌酵素の溶菌活性を阻害することで、ポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解を抑制することを特徴とする請求項13又は14記載のポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤。
  16. 上記CwlEタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項15記載のポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤。
    (a)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号4に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  17. 上記CwlFタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項15記載のポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤。
    (a)配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号6に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号6に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  18. 上記CwlSタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項15記載のポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤。
    (a)配列番号55に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号55に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号55に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  19. 上記CwlOタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項15記載のポリ−ガンマ−グルタミン酸の分解抑制剤。
    (a)配列番号57に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号57に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号57に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  20. 枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子を発現誘導型プロモーターの制御下に発現することで溶菌が抑制された微生物。
  21. 上記YoeB遺伝子は以下の(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質をコードするものであることを特徴とする請求項20記載の微生物。
    (a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌由来の溶菌酵素に結合し、当該溶菌酵素による溶菌活性を抑制する活性を有するタンパク質
  22. 少なくとも1種以上の分泌型プロテアーゼを欠損している請求項20又は21記載の微生物。
  23. 枯草菌由来の株であることを特徴とする請求項20乃至22いずれか1項記載の微生物。
  24. ポリ−ガンマ−グルタミン酸産生能を有することを特徴とする請求項20乃至23いずれか1項記載の微生物。
  25. 上記YoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質によって、枯草菌由来のCwlEタンパク質、CwlFタンパク質、CwlSタンパク質、CwlOタンパク質及び前記タンパク質と機能的に等価なタンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一種の溶菌酵素の溶菌活性を阻害することで、ポリ−ガンマ−グルタミン酸の低分子化を抑制することを特徴とする請求項24記載の微生物。
  26. 上記CwlEタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項25記載の微生物。
    (a)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号4に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  27. 上記CwlFタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項25記載の微生物。
    (a)配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号6に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号6に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  28. 上記CwlSタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項25記載の微生物。
    (a)配列番号55に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号55に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号55に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  29. 上記CwlOタンパク質は(a)乃至(c)いずれかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項25記載の微生物。
    (a)配列番号57に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号57に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加或いは挿入されたアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
    (c)配列番号57に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、枯草菌の細胞壁を溶解する活性を有するタンパク質
  30. ポリ−ガンマ−グルタミン酸産生能を有する微生物を、枯草菌由来のYoeB遺伝子又は当該YoeB遺伝子に対応する相同遺伝子によりコードされるYoeBタンパク質の存在下に培養し、培地に産生されたポリ−ガンマ−グルタミン酸を回収することを特徴とする、ポリ−ガンマ−グルタミン酸の製造方法。
  31. 上記ポリ−ガンマ−グルタミン酸は、上記YoeBタンパク質の非存在下で産生されるポリ−ガンマ−グルタミン酸と比較して高分子量であることを特徴とする請求項30記載のポリ−ガンマ−グルタミン酸の製造方法。
  32. 上記微生物は、請求項24乃至29いずれか1項記載の微生物であることを特徴とする請求項30又は31記載のポリ−ガンマ−グルタミン酸の製造方法。
  33. 上記YoeBタンパク質を培地に添加することを特徴とする請求項30乃至32いずれか1項記載のポリ−ガンマ−グルタミン酸の製造方法。
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