JP2008117969A - 磁性材料、磁性材料の誘導装置及び磁性材料の設計方法 - Google Patents

磁性材料、磁性材料の誘導装置及び磁性材料の設計方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来よりも小型の磁性材料を実現する。
【解決手段】有機化合物または無機化合物から構成され、側鎖の修飾または/及び側鎖間の架橋により磁性を有する。
【選択図】図2

Description

本発明は、磁性材料、磁性材料の誘導装置及び磁性材料の設計方法に関する。
近年、磁気ビーズが免疫学や臨床検査、ガン研究、DNA研究等のバイオテクノロジ分野で使用されている。この磁気ビーズとは、磁性体である酸化鉄(Fe3O4等)の周りを親水性ポリマなどで覆った磁性体微粒子であり、その使用目的に応じてポリマ表面に様々な分子が結合されている。このような磁気ビーズの具体的な使用例としては、分離対象物であるターゲット分子に結合する性質を有するレセプタ分子をポリマ表面に結合させておき、ターゲット分子を磁気ビーズに吸着させた後、磁場誘導によって磁気ビーズを移動させることでターゲット分子を分離・抽出する手法が挙げられる(例えば下記特許文献1参照)。
特開2005−312353号公報
ところで、近年では、細胞膜等のような超微小領域を通過可能な小型磁気ビーズの開発が強く要望されている。しかしながら、従来の磁気ビーズは、磁性体を親水性ポリマ等で覆っているという構造上、その直径が数百μm〜数十nm程度の大きさとなり、小型化が困難であった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも小型の磁性材料を実現することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明では、磁性材料に係る第1の解決手段として、有機化合物または無機化合物から構成され、側鎖の修飾または/及び側鎖間の架橋により磁性を有することを特徴とする
また、本発明では、磁性材料に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記有機化合物は、フォルスコリンであることを特徴とする。
また、本発明では、磁性材料に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記無機化合物は、金属錯体であることを特徴とする。
また、本発明では、磁性材料に係る第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記金属錯体は、鉄錯体であることを特徴とする。
また、本発明では、磁性材料に係る第5の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記金属錯体は、コバルト(Co)錯体であることを特徴とする。
また、本発明では、磁性材料に係る第6の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記金属錯体は、シス幾何異性体であることを特徴とする。
また、本発明では、磁性材料に係る第7の解決手段として、上記第6の解決手段において、前記シス幾何異性体は、シスプラチンであることを特徴とする。
また、本発明では、磁性材料の誘導装置に係る第1の解決手段として、上記第1〜第7のいずれかの解決手段を有する磁性材料を、当該磁性材料の磁性を利用して所定の位置に誘導することを特徴とする。
また、本発明では、磁性材料の設計方法に係る第1の解決手段として、有機化合物または無機化合物における側鎖の修飾または/及び側鎖間の架橋を行った分子モデルを設定し、当該分子モデルについて数値計算により求めたスピン電荷密度分布から前記分子モデルが磁性を有するか否かを判定し、磁性を有すると判定した分子モデルに基づいて磁性材料を設計することを特徴とする。
また、本発明では、磁性材料の設計方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記スピン電荷密度分布に基づいて前記分子モデルが強磁性かフェリ磁性かを判定することを特徴とする。
また、本発明では、磁性材料の設計方法に係る第3の解決手段として、上記第1または
第2の解決手段において、前記スピン電荷密度分布に基づいて前記分子モデルの磁性の強度を判定することを特徴とする。
本発明によれば、側鎖の修飾または/及び側鎖間の架橋により有機化合物または無機化合物そのものが磁性を有するので、従来の磁気ビーズのように磁性体を親水性ポリマ等の被覆分子で覆う必要がなく、オングストロームオーダ(原子レベル)の直径を有する磁性材料を実現できる。その結果、従来よりも小型の磁性材料を実現することができる。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
まず、第1実施形態として、有機化合物、より具体的にはフォルスコリンを用いて説明する。
図1は、フォルスコリンの基本分子構造モデル図である。この図において、R、R及びR13はフォルスコリンの側鎖を修飾するための原子または分子が結合する位置を示しており、当該位置にどのような原子または分子が結合するかによってフォルスコリンの物性が変化する。この図において、RにH、RにCH、R13にCH=CHが結合したものが、自然界に存在するフォルスコリンであり、人工的に側鎖の構造を変える、つまりR、R及びR13を修飾する原子または分子を変えることで生成されたフォルスコリンをフォルスコリン誘導体という。なお、図1において、C〜C13は、炭素原子(C)を示す。
図2は、磁性(フェリ磁性)を有するフォルスコリン誘導体Aの基本分子構造モデル図である。この図に示すように、フォルスコリン誘導体Aは、上記のような自然界に存在するフォルスコリンのRをCOCHCHNCHに、RをCHに変えると共に、Cに結合している酸素原子(O)と、C13に結合している炭素原子とを架橋したものである。
図3に、第一原理分子動力学法に基づくコンピュータ・シミュレーションにより求めた、上記フォルスコリン誘導体Aの3次元的な分子構造及びスピン電荷密度分布を示す。図3において、領域1は下向きのスピン電荷密度を示し、領域2〜5は上向きのスピン電荷密度を示す。よって、フォルスコリン誘導体Aは、図2に示すような下向きのスピン状態1’と、上向きのスピン状態2’〜5’とが混在するのでフェリ磁性体であることがわかる。
一方、図4は、磁性(強磁性)を有するフォルスコリン誘導体Bの基本分子構造モデル図である。この図に示すように、フォルスコリン誘導体Bは、上記のような自然界に存在するフォルスコリンのRをCOCHCHNCHに、RをCHに、R13をCH−CHに変えると共に、Cに結合している酸素原子と、C13に結合している炭素原子とを架橋したものである。
図5に、上記と同様に、第一原理分子動力学法に基づくコンピュータ・シミュレーションにより求めた、フォルスコリン誘導体Bの3次元的な分子構造及びスピン電荷密度分布を示す。図5において、領域10〜12は上向きのスピン電荷密度を示す。よって、フォルスコリン誘導体Bは、図4に示すような上向きのスピン状態10’〜12’のみが存在するので強磁性体であることがわかる。
このように、フォルスコリンの側鎖を所定の原子または分子で修飾すると共に、所定の箇所に存在する側鎖間を架橋することにより磁性を有するフォルスコリン誘導体、つまり磁性材料を生成することができる。では、このような磁性材料の設計方法について以下説明する。図6は、本磁性材料の設計方法の処理手順を示すフローチャートである。なお、以下で説明する処理は、第一原理分子動力学法に基づくコンピュータ・シミュレーション上で行われるものである。
まず、フォルスコリン誘導体には200以上もの種類があるので、その中から評価対象とするフォルスコリン誘導体を選定し、その化学式をコンピュータ・シミュレーションに入力する(ステップS1)。ここで、フォルスコリン誘導体として上述したフォルスコリン誘導体Aを選定した場合を想定して以下説明する。
続いて、フォルスコリン誘導体Aの化学式に基づいて上向きのスピン(スピンアップ)波動関数Φ(r)、下向きのスピン(スピンダウン)波動関数Φ(r)、スピンアップ有効ポテンシャルV(r)、スピンダウン有効ポテンシャルV(r)、スピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)の初期値を設定する(ステップS2)。なお、rは3次元空間上の座標を示す変数である。
スピンアップ波動関数Φ(r)の初期値は、フォルスコリン誘導体Aを構成する各原子が孤立原子として3次元空間上に存在する場合のスピンアップ波動関数Φ(r)を各原子毎に求め、このように求めたスピンアップ波動関数Φ(r)を全て加算したものである。同様に、スピンダウン波動関数Φ(r)の初期値は、各原子が孤立原子として3次元空間上に存在する場合のスピンダウン波動関数Φ(r)を各原子毎に求め、全て加算したものである。また、スピンアップ有効ポテンシャルV(r)の初期値は、フォルスコリン誘導体Aを構成する各原子が孤立原子として3次元空間上に存在する場合のスピンアップ波動関数Φ(r)に基づいてスピンアップ有効ポテンシャルV(r)を各原子毎に求め、当該各原子毎に求めたスピンアップ有効ポテンシャルV(r)を全て加算したものである。同様に、有効ポテンシャルV(r)の初期値は、各原子が孤立原子として3次元空間上に存在する場合のスピンダウン波動関数Φ(r)に基づいてスピンダウン有効ポテンシャルV(r)を各原子毎に求め、当該各原子毎に求めたスピンダウン有効ポテンシャルV(r)を全て加算したものである。また、スピンアップ電荷密度ρ(r)の初期値は、上記のように各原子毎に求めたスピンアップ波動関数Φ(r)を下記演算式(1)に代入することによって求める。また、スピンダウン電荷密度ρ(r)の初期値は、各原子毎に求めたスピンダウン波動関数Φ(r)を下記演算式(2)に代入することによって求める。なお、下記演算式(1)において、Φ (r)は、スピンアップ波動関数Φ(r)の共役複素数であり、下記演算式(2)において、Φ (r)は、スピンダウン波動関数Φ(r)の共役複素数である。
Figure 2008117969
次に、上記スピンアップ有効ポテンシャルV(r)及びスピンダウン有効ポテンシャルV(r)の初期値と、スピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)の初期値に基づいて下記Kohn Sham方程式(3)、(4)を解くことにより、フォルスコリン誘導体Aのスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φ(r)と、スピンアップエネルギ固有値ε及びスピンダウンエネルギ固有値εを算出する(ステップS3)。
Figure 2008117969
そして、ステップS3で求めたフォルスコリン誘導体Aのスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φに基づいてフォルスコリン誘導体Aのスピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)と、スピンアップ有効ポテンシャルV(r)及びスピンダウン有効ポテンシャルV(r)とを算出し(ステップS4)、このスピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)と当該スピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)の前回値、つまりここでは初期値とが等しいか否かを判断する(ステップS5)。このステップS5において、「NO」、すなわちスピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)の前回値(初期値)と、ステップS4で求めた今回値とが等しくないと判断された場合、ステップS4で求めたスピンアップ有効ポテンシャルV(r)及びスピンダウン有効ポテンシャルV(r)と、スピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)とを新たな初期値と設定し(ステップS6)、ステップS3に移行して、再度Kohn Sham方程式(3)、(4)を解くことにより、新たなスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φと、スピンアップエネルギ固有値ε及びスピンダウンエネルギ固有値εとを算出する。すなわち、ステップS5において、スピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)の前回値と今回値とが等しくなるまでステップS3〜S6の処理を繰り返すことにより、Kohn Sham方程式(3)、(4)を満足するスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φ(r)と、スピンアップエネルギ固有値ε及びスピンダウンエネルギ固有値ε(r)とが求まる。
一方、ステップS5において、「YES」、すなわちスピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)の前回値と今回値とが等しいと判断された場合、上記のようにKohn Sham方程式(3)、(4)を満足するスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φ(r)と、スピンアップエネルギ固有値ε及びスピンダウンエネルギ固有値ε(r)とに基づいて各原子に働く原子間力を算出すると共に、フォルスコリン誘導体Aの構造の最適化を行う(ステップS7)。つまり、ステップS3〜S6の繰り返しによって求めたスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φ(r)等は、あくまで図2に示すような2次元平面上のモデルにおいて最適な値であって、実際には3次元空間上におけるフォルスコリン誘導体Aの構造を考慮する必要がある。
具体的には、ステップS7では、フォルスコリン誘導体Aを構成する各原子を、3次元空間上においてスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φ(r)から推測される最適な方向に所定の距離だけ移動させ、その時の各原子に働く原子間力を算出する。この時の原子間力が0になり、各原子が動かなくなった場合にフォルスコリン誘導体Aの構造が最適化されたと判断できる。よって、移動後の各原子に働く原子間力を算出し、該原子間力が0になったか否かを判断する(ステップS8)。このステップS8において、「NO」、すなわち原子間力が0ではなく、構造が最適化されていない場合、各原子の移動後の構造におけるスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φ(r)を求めると共に、当該スピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φ(r)から求めたスピンアップ有効ポテンシャルV(r)及びスピンダウン有効ポテンシャルV(r)と、スピンアップ電荷密度ρ(r)及びスピンダウン電荷密度ρ(r)とを新たな初期値と設定し(ステップS9)、ステップS3〜S8の処理を繰り返す。ここで、ステップS3に戻るのは、各原子の移動後の構造変化によってスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φ(r)が変化するためである。また、各原子の移動後の構造は記憶されており、再度ステップS7を行う時には、前回の構造から各原子を再び所定の距離だけ移動させることになる。
このようなフォルスコリン誘導体Aの構造を最適化する際に、図2に示すように、Cに結合している酸素原子と、C13に結合している炭素原子とを架橋させるように、強制的に3次元構造を変化させる。なお、このような架橋させるために選択する原子は任意に変更可能である。
一方、このステップS8において、「YES」、すなわち各原子に働く原子間力が0になり、フォルスコリン誘導体Aの構造が最適化された場合、その最適化された構造におけるスピンアップ波動関数Φ(r)及びスピンダウン波動関数Φ(r)に基づいて、図3に示すようなスピン電荷密度分布を求める(ステップS10)。
ここで、評価対象として選定したフォルスコリン誘導体によっては、図3に示す領域1〜5のようなスピン電荷密度分布が生じない、若しくはスピン電荷密度分布は生じるが、そのスピン電荷密度の大きさ(つまり磁性の強度)が非常に小さいものが存在する。このようなフォルスコリン誘導体は、磁性を有するとは判定することができない。従って、スピン電荷密度分布に基づいて、まず評価対象として選定したフォルスコリン誘導体が磁性を有するか否かを判断する(ステップS11)。
ステップS11において、「NO」、すなわち、評価対象として選定したフォルスコリン誘導体が磁性を有しない場合、ステップS1に移行し、他のフォルスコリン誘導体を新たに選定して再度磁性評価を行う。一方、ステップS11において、「YES」、すなわち評価対象として選定したフォルスコリン誘導体が磁性を有する場合、スピン電荷密度分布に基づいて強磁性かフェリ磁性かを判断する(ステップS12)。上述したように、スピン電荷密度分布は、スピンアップ電荷密度とスピンダウン電荷密度との分布を示すものであるので、これらスピンアップ電荷密度及びスピンダウン電荷密度が混在している場合は、フェリ磁性を有すると判断でき、スピンアップ電荷密度またはスピンダウン電荷密度のどちらか一方のみが存在する場合は、強磁性を有すると判断することができる。
フォルスコリン誘導体Aは、図3に示すようにスピンアップ電荷密度(領域2〜5)及びスピンダウン電荷密度(領域1)が混在するので、フェリ磁性フォルスコリン誘導体と判定する(ステップS13)。一方、例えば選定したフォルスコリン誘導体がフォルスコリン誘導体Bであれば、図5に示すように、スピンアップ電荷密度(領域10〜12)のみが存在するので、強磁性フォルスコリン誘導体と判定する(ステップS14)。なお、スピン電荷密度分布に基づいて磁性の強度を求めることも可能である。
以上のように、本磁性材料の設計方法によれば、様々な原子または分子で側鎖を修飾し、さらに側鎖間を任意に架橋したフォルスコリン誘導体の磁性を判定することができ、磁性を有すると判定された分子モデルを基にフォルスコリン誘導体を生成することにより、オングストロームオーダ(原子レベル)の直径を有する磁性材料を製造することができる。よって、従来の磁気ビーズのように磁性体を親水性ポリマ等の被覆分子で覆う必要がなく、
細胞膜等のような超微小領域を通過可能な磁性材料を実現することができる。
なお、上記第1実施形態では、フォルスコリン誘導体A及びB共に、Cに結合している酸素原子と、C13に結合している炭素原子とを架橋させるように、強制的に3次元構造を変化させたが、これに限らず、架橋させる原子は他を選択しても良い。また、架橋を行なわず、側鎖を修飾する原子または分子を変更するだけで磁性を有するか否かを判定しても良い。また、上記第1実施形態では、有機化合物としてフォルスコリンを用いて説明したがが、これに限らず、他の有機化合物を用いても良い。
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態として、無機化合物、より具体的には金属錯体であるシスプラチンを用いて説明する。
図7は、標準組成のシスプラチンの基本分子構造モデル図である。第1実施形態で説明した磁性材料の設計方法におけるコンピュータ・シミュレーションによって、この標準組成のシスプラチンは磁性を有していないことが確認された。一方、図8(a)は標準組成のシスプラチンに側鎖修飾を施したシスプラチン誘導体(Cis-Pt-a3)の基本分子構造モデル図であり、図8(b)は上記コンピュータ・シミュレーションにより求めた、シスプラチン誘導体(Cis-Pt-a3)の3次元的な分子構造及びスピン電荷密度分布を示すものである。
図8(b)において、領域30〜32は上向きのスピン電荷密度を示している。よって、シスプラチン誘導体(Cis-Pt-a3)は、図8(a)に示すような上向きのスピン状態30’〜32’が存在する強磁性体であることがわかる。すなわち、本磁性材料の設計方法におけるコンピュータ・シミュレーションによって、シスプラチン誘導体(Cis-Pt-a3)が磁性を有することが確認された。
ところで、上述したように、これらの磁性材料は非常に小型であるため、効果的に磁場誘導を行うには、磁性強度が強ければ強い程良い。本願発明者は、本磁性材料の設計方法におけるコンピュータ・シミュレーションによって、種々のシスプラチン誘導体について磁性強度の解析を行なった。以下、その解析結果について説明する。なお、磁性強度はスピン電荷密度と比例関係にあるため、本実施形態では種々のシスプラチン誘導体におけるスピン電荷密度の解析を行なった。
まず、リファレンスとして、マグネタイト(Fe3O4)の結晶から総原子数101個、一辺8Å程度の微粒子を切り出したものを分子モデルに設定し、上記コンピュータ・シミュレーションによって、電子状態と構造の最適化を行なった後、スピン電荷密度解析を行なった。そして、上記マグネタイトのスピン電荷密度を基準にし、種々のシスプラチン誘導体について同様にスピン電荷密度の解析を行なった。
さらに、シスプラチン誘導体の他に、白金(Pt)をパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、金(Au)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、銅(Cu)、コバルト(Co)に置換した各種誘導体についても同様にスピン電荷密度の解析を行なった。
図9は、マグネタイトのスピン電荷密度を「1」に規格化した場合における、各種シスプラチン誘導体、及びシスプラチン誘導体の白金(Pt)をパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、金(Au)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、銅(Cu)、コバルト(Co)に置換した各種誘導体のスピン電荷密度の解析結果を示すものである。
この図9に示すように、シスプラチン誘導体の内、NK121がマグネタイトと比較して約60%のスピン電荷密度を有しており、他のシスプラチン誘導体と比べて磁性材料として有効であることがわかった。なお、図10にシスプラチン誘導体NK121の基本分子構造モデル図を示す。この図に示すように、シスプラチン誘導体NK121は、上向きのスピン状態40’〜42’が存在する強磁性体である。
また、シスプラチン誘導体の白金(Pt)をパラジウム(Pd)に置換した誘導体もある程度のスピン電荷密度を有し、磁性材料であることが確認された。また、シスプラチン誘導体の白金(Pt)をロジウム(Rh)に置換した誘導体の内、Cis-Rh-a3がマグネタイトと比較して約50%のスピン電荷密度を有しており、磁性材料として有効であることがわかった。また、シスプラチン誘導体の白金(Pt)をイリジウム(Ir)に置換した誘導体は、スピン電荷密度が非常に小さく、磁性材料として大きな効果はないことが確認された。また、シスプラチン誘導体の白金(Pt)を金(Au)に置換した誘導体もある程度のスピン電荷密度を有し、磁性材料であることが確認された。
また、シスプラチン誘導体の白金(Pt)をニッケル(Ni)に置換した誘導体は、全般的にマグネタイトと比較して約50%前後のスピン電荷密度を有しており、磁性材料として有効であることがわかった。また、シスプラチン誘導体の白金(Pt)を銀(Ag)に置換した誘導体もある程度のスピン電荷密度を有し、磁性材料であることが確認された。また、シスプラチン誘導体の白金(Pt)を銅(Cu)に置換した誘導体もある程度のスピン電荷密度を有し、磁性材料であることが確認された。さらに、シスプラチン誘導体の白金(Pt)をコバルト(Co)に置換した誘導体は、マグネタイトと比較して高いもので約95%、全般的にみても非常に高いスピン電荷密度を有しており、磁性材料として非常に有効であることがわかった。
また、図11(a)〜(e)は、鉄錯体にそれぞれ側鎖修飾を施した鉄錯体誘導体の分子構造モデル図である。これらの鉄錯体誘導体は、文献「Sylvain Routier, Herve Vezin, Eric Lamour, Jean-Luc Bernier, Jean-Pierre Catteau and Christian Bailly, Nucleic Acids Research, 27 (1999) 4160-4166」に記載されているものである。
図12(a)及び(b)は、コバルト錯体に側鎖修飾を施したコバルト錯体誘導体の分子構造モデル図である。図12(a)は、〔Co(NH3)2Cl2〕のシス幾何異性体であり、図12(b)は、〔Co(NH3)2Cl2〕のトランス幾何異性体である。これらのコバルト錯体誘導体は、文献「M. D. Astudillo, M. V. Alvarez and G. Pinillos, Arch Farmac Toxicol, 6 (1980) 265-276」に記載されているものである。
これら図11及び図12に示す鉄錯体誘導体及びコバルト錯体誘導体について同様にスピン電荷密度の解析を行った。その結果、図11(a)に示す鉄錯体誘導体は、マグネタイトと比較して約40.2%(マグネタイトのスピン電荷密度を100%とする)のスピン電荷密度を有していた。また、図11(b)に示す鉄錯体誘導体は、マグネタイトと比較して約0%のスピン電荷密度を有していた。また、図11(c)に示す鉄錯体誘導体は、マグネタイトと比較して約68.6%のスピン電荷密度を有していた。また、図11(d)に示す鉄錯体誘導体は、マグネタイトと比較して約82.2%のスピン電荷密度を有していた。さらに、図11(e)に示す鉄錯体誘導体は、マグネタイトと比較して約69.7%のスピン電荷密度を有していた。一方、図12(a)に示すコバルト錯体誘導体は、マグネタイトと比較して約118.5%のスピン電荷密度を有していた。また、図12(b)に示すコバルト錯体誘導体は、マグネタイトと比較して約118.1%のスピン電荷密度を有していた。
これらの結果より、図11(b)に示す鉄錯体誘導体は、スピン電荷密度(つまり磁性強度)が非常に小さく、磁性材料として大きな効果はないことが確認された。また、他の鉄錯体誘導体は、マグネタイトと比較して約40%以上のスピン電荷密度を有しており、磁性材料として有効であることが確認された。特に図11(d)に示す鉄錯体誘導体は、マグネタイトと比較して約80%以上ものスピン電荷密度を有しており、磁性材料として非常に有効であることがわかった。一方、図12(a)及び(b)に示すコバルト錯体誘導体は、どちらもマグネタイト以上の磁性強度を有しており、磁性材料として非常に有効であることがわかった。
次に、図11(a)に示す鉄錯体誘導体の試料を用意し、当該試料の磁性測定を行なった。磁性測定は測定対象物に磁場を印加し、その測定対象物の周囲に磁場が発生するかどうかを測定する。一般的に磁性測定には、力学的方法、電磁誘導法、あるいは磁気共鳴法、超伝導の量子効果などの方法が考えられる。本実施形態では、そのうち最も精度が高い超伝導量子干渉素子(SQUID: Superconducting Quantum Interference Devices)を使用した。このSQUIDは高感度の磁化測定装置であり、試料を動かしたときに生じる、Josephson接合を持った超伝導ループ素子を貫く磁束の微弱な変化を、接合を通るトンネル電流の変化として測定し試料の磁化の値を求める。この方法により最大7テスラ(T)の強磁場と高精度(1 x 10-8emu)の条件で温度と磁性の関係についての測定が可能になる。
図13は、上記SQUIDによって測定した、図11(a)に示す鉄錯体誘導体の試料の磁化−磁場特性曲線である。図13(b)は、図13(a)の特性曲線におけるヒステリシス部分を拡大した図である。なお、測定温度は310K、つまりほぼ体温に近い温度である。この図13に示すように、体温に近い温度下で、図11(a)に示す鉄錯体誘導体は磁性を有し、さらにヒステリシスが生じるので強磁性体であることが確認された。
また、図11(a)に示す鉄錯体誘導体の試料と1テスラの永久磁石を用いて簡易磁場誘導実験を行なった。まず、試料を薬包紙にのせて下から永久磁石で磁場誘導したところ試料が磁場誘導されることを確認した。次に、水を入れたビーカーに試料を混入し、ビーカーの下から永久磁石で磁場誘導したところ試料が磁場誘導できたことを確認した。
以上のように、本実施形態における磁性材料の設計方法によれば、有機化合物のみならず無機化合物についても、その分子モデルから磁性を有するか否かを解析することができ、磁性強度の高い磁性材料を事前に調査することにより、有効な磁性材料を非常に効率良く設計することが可能となる。
なお、上記で説明したシスプラチン誘導体や、シスプラチン誘導体の白金を他の金属元素に置換した誘導体はシス幾何異性体であるが、トランス幾何異性体からなる金属錯体、または他の無機化合物であっても、磁性を有するか否かを解析することが可能である。従って、トランス幾何異性体からなる金属錯体、または他の無機化合物からなる磁性材料を設計することも可能である。
以上のような本磁性材料は、バイオテクノロジ分野のみならず、磁性薬として使用することにより医療分野に応用することができ、また、一般産業界への応用として、従来ではγ酸化鉄などの磁性粉体を混入して作られていた磁気テープやディスクに、本磁性材料を適用することで均一性・集積度を向上させることも考えられる。通常、上記の磁気テープやディスクは、磁性体である無機物(添加物)をポリマ(高分子)に混ぜ込んで、テープ、ディスクを合成しているが、無機物とポリマが一体として磁性体になればそれらの均一性、集積度が確実に向上するはずである。また、本磁性材料の元となる有機化合物や無機化合物の性質により、白色(透明)の磁性材料が得られ透明な磁気テープの作製が可能になる。さらに本磁性材料を塗料に混ぜて電波吸収剤を合成することも可能である。磁場によって分子の性質(構造、電気抵抗等)を変えることで、分子集合系の磁気的性質を制御・変調するデバイス的応用、アクチュエータへの適用、あるいは光―磁気、熱―磁気などの変換・変調素子、分子メモリへの適用も考えられる。したがって、本磁性材料は様々な分野に貢献が可能であると考えられる。
続いて、上述したような本磁性材料を、所定の位置に誘導する誘導装置について説明する。この誘導装置は、磁場を発生するものであれば良く、様々な形態の装置が考えられる。例えば、その一例として、磁気共鳴画像診断装置(MRI:Magnetic Resonance Imaging)の応用が考えられ、磁場を磁性材料に放射し、当該磁場を磁性材料が所定の位置に誘導されるようにコントロールするような構成にすれば良い。
本発明の一実施形態におけるフォルスコリンの基本分子構造モデル図である。 本発明の一実施形態におけるフェリ磁性を持つフォルスコリン誘導体Aの分子構造モデル図である。 本発明の一実施形態におけるフォルスコリン誘導体Aの3次元的分子構造モデル及びスピン電荷密度分布を示す図である。 本発明の一実施形態における強磁性を持つフォルスコリン誘導体Bの分子構造モデル図である。 本発明の一実施形態におけるフォルスコリン誘導体Bの3次元的分子構造モデル及びスピン電荷密度分布を示す図である。 本発明の一実施形態における薬の設計方法のフローチャートである。 本発明の一実施形態におけるシスプラチンの基本分子構造モデル図である。 本発明の一実施形態におけるシスプラチン誘導体(Cis-Pt-a3)基本分子構造モデル図、及び3次元的な分子構造モデル及びスピン電荷密度分布である。 本発明の一実施形態におけるシスプラチン誘導体、及びシスプラチン誘導体の白金を他の金属元素に置換した誘導体のスピン電荷密度の解析結果である。 本発明の一実施形態におけるシスプラチン誘導体NK121の基本分子構造モデル図、及び3次元的な分子構造モデル及びスピン電荷密度分布である。 本発明の一実施形態における鉄錯体誘導体の分子構造モデル図である。 本発明の一実施形態におけるコバルト錯体誘導体の分子構造モデル図である。 本発明の一実施形態における鉄錯体誘導体の磁性測定結果である。
符号の説明
A、B…フォルスコリン誘導体

Claims (11)

  1. 有機化合物または無機化合物から構成され、側鎖の修飾または/及び側鎖間の架橋により磁性を有することを特徴とする磁性材料。
  2. 前記有機化合物は、フォルスコリンであることを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
  3. 前記無機化合物は、金属錯体であることを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
  4. 前記金属錯体は、鉄錯体であることを特徴とする請求項3記載の磁性材料。
  5. 前記金属錯体は、コバルト(Co)錯体であることを特徴とする請求項3記載の磁性材料。
  6. 前記金属錯体は、シス幾何異性体であることを特徴とする請求項3記載の磁性材料。
  7. 前記シス幾何異性体は、シスプラチンであることを特徴とする請求項6記載の磁性材料。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の磁性材料を、当該磁性材料の磁性を利用して所定の位置に誘導することを特徴とする磁性材料の誘導装置。
  9. 有機化合物または無機化合物において側鎖の修飾または/及び側鎖間の架橋を行った分子モデルを設定し、当該分子モデルについて数値計算により求めたスピン電荷密度分布から前記分子モデルが磁性を有するか否かを判定し、磁性を有すると判定した分子モデルに基づいて磁性材料を設計することを特徴とする磁性材料の設計方法。
  10. 前記スピン電荷密度分布に基づいて前記分子モデルが強磁性かフェリ磁性かを判定することを特徴とする請求項9記載の磁性材料の設計方法。
  11. 前記スピン電荷密度分布に基づいて前記分子モデルの磁性の強度を判定することを特徴
    とする請求項9または10記載の磁性材料の設計方法。
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