ところで、上記シールリングは、背圧空間を高圧空間と低圧空間とに区画すべく、可動スクロールの背面と摺接している。その結果、可動スクロールが偏心回転すると、該可動スクロールとシールリングとの間に摩擦力が作用し、その摩擦力による機械損失(所謂、スラスト損失)が発生してしまう。つまり、背圧空間を高圧空間と低圧空間とに確実に区画することだけを追求して、シールリングの可動スクロールの背面に対するスラスト力を大きくすると、その摺接部で機械損失が過大になってしまう。また、シールリングをハウジング側に設けて、シールリングと可動スクロールとを摺接させる構成以外にも、シールリングを可動スクロール側に設けて、シールリングとハウジングとを摺接させる構成が考えられる。かかる構成の場合にも、該ハウジングとシールリングとの間に摩擦力が作用し、その摩擦力による機械損失(所謂、スラスト損失)が発生してしまう。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シールリングの摺接部における機械損失を低減することにある。
本発明は、シールリングの他面側の受圧面の、シールリングの摺接面と平行な平面に対する投影面積を該摺接面の面積との関係で調整することによって、シールリングに作用する押し付け力を調整するようにしたものである。
第1の発明は、可動部材(60,270,370)が固定部材(40,250,360)に対して偏心回転して該固定部材(40,250,360)と該可動部材(60,270,370)との間に形成された圧縮室(C)の容積を変化させることで、該圧縮室(C)内の流体を圧縮する回転式圧縮機が対象である。そして、可動部材(60,270,370)の背面側に設けられて該可動部材(60,270,370)との間に背圧空間(57,257,357)を形成するハウジング(50,240,317)と、上記背圧空間(57,257,357)に設けられて該背圧空間(57,257,357)を高圧空間(58,258,358)と低圧空間(59,259,359)とに区画するシールリング(82,281,382)とを備え、上記シールリング(82,281,382)は、その一面(82a,281a,382a)が上記可動部材(60,270,370)の背面(61a,277a,371a)又は上記ハウジング(50,240,317)の前面(51a,241a,317d)に摺接する摺接面となる一方、該一面(82a,281a,382a)と対向する他面(82b,281b,382b)に設けられた受圧面(82c,281c,382c)に上記高圧空間(58,258,358)の高圧が作用することで該可動部材(60,270,370)又は該ハウジング(50,240,317)へ押し付けられており、上記シールリング(82,281,382)の受圧面(82c,281c,382c)は、上記摺接面(82a,281a,382a)と平行な平面に対する投影面積(A2)が、該摺接面(82a,281a,382a)の面積(A1)よりも小さくなっているものとする。
上記の構成の場合、上記シールリング(82,281,382)の他面側に位置する受圧面(82c,281c,382c)に上記高圧空間(58,258,358)の高圧が作用することで、該シールリング(82,281,382)には、上記可動部材(60,270,370)又は上記ハウジング(50,240,317)に押し付ける方向へ力が作用している。
上記シールリング(82,281,382)が上記可動部材(60,270,370)に摺接する構成について、まず説明すると、上記シールリング(82,281,382)の摺接面(82a,281a,382a)には、可動部材(60,270,370)が摺接しているものの、可動部材(60,270,370)がシールリング(82,281,382)に対して摺動する際にシールリング(82,281,382)の摺接面(82a,281a,382a)と可動部材(60,270,370)との間を高圧空間(58,258,358)の流体が低圧空間(59,259,359)へ漏れるため、該シールリング(82,281,382)の摺接面(82a,281a,382a)には高圧空間(58,258,358)の高圧及び低圧空間(59,259,359)の低圧が作用する。具体的には、該摺接面(82a,281a,382a)のうち高圧空間(58,258,358)側の部分には高圧空間(58,258,358)の高圧が作用する一方、該摺接面(82a,281a,382a)のうち低圧空間(59,259,359)側の部分には低圧空間(59,259,359)の低圧が作用する。該摺接面(82a,281a,382a)のうち高圧空間(58,258,358)側の部分と低圧空間(59,259,359)側の部分との間の部分には、高圧空間(58,258,358)側の部分から低圧空間(59,259,359)側の部分へ向かって、次第に高圧から低圧へ変化する圧力分布を持った圧力が作用している。すなわち、該シールリング(82,281,382)の摺接面(82a,281a,382a)に高圧空間(58,258,358)の高圧から低圧空間(59,259,359)の低圧までの圧力分布を持った圧力が作用することで、該シールリング(82,281,382)には、上記可動部材(60,270,370)から引き離す方向へ力が作用している。
つまり、シールリング(82,281,382)には、上記受圧面(82c,281c,382c)に作用する高圧空間(58,258,358)の高圧に起因する力と上記摺接面(82a,281a,382a)に作用する高圧空間(58,258,358)の高圧及び低圧空間(59,259,359)の低圧に起因する力との合力が作用している。ここで、上記特許文献1に係るシールリング(82,281,382)のように、受圧面(82c,281c,382c)の、上記摺接面(82a,281a,382a)と平行な平面に対する投影面積(以下、単に、受圧面(82c,281c,382c)の投影面積ともいう)(A2)と摺接面(82a,281a,382a)の面積(A1)が同じであるとすれば、受圧面(82c,281c,382c)には高圧空間(58,258,358)の高圧が一様に作用しているのに対し、摺接面(82a,281a,382a)には高圧空間(58,258,358)の高圧から低圧空間(59,259,359)の低圧までの圧力分布を持った圧力が作用しているため、該受圧面(82c,281c,382c)に作用する力の方が大きく、シールリング(82,281,382)を可動部材(60,270,370)に押し付ける力が過大となる。つまり、可動部材(60,270,370)とシールリング(82,281,382)との摺接部において大きな機械損失が生じてしまう。
それに対して、本発明では、上記受圧面(82c,281c,382c)の投影面積(A2)を上記摺接面(82a,281a,382a)の面積(A1)よりも小さくしていることによって、受圧面(82c,281c,382c)に作用する可動部材(60,270,370)に押し付ける方向の力と摺接面(82a,281a,382a)に作用する可動部材(60,270,370)から引き離す方向の力との差を低減することができ、シールリング(82,281,382)と可動部材(60,270,370)との間の機械損失を低減することができる。
以上、シールリング(82,281,382)が上記可動部材(60,270,370)に摺接する構成について説明してきたが、シールリング(82,281,382)が上記ハウジング(50,240,317)に摺接する構成においても同様に、上記受圧面(82c,281c,382c)の投影面積(A2)を上記摺接面(82a,281a,382a)の面積(A1)よりも小さくしていることによって、受圧面(82c,281c,382c)に作用するハウジング(50,240,317)に押し付ける方向の力と摺接面(82a,281a,382a)に作用するハウジング(50,240,317)から引き離す方向の力との差を低減することができ、シールリング(82,281,382)とハウジング(50,240,317)との間の機械損失を低減することができる。
第2の発明は、第1の発明において、上記シールリング(82,281,382)の摺接面(82a,281a,382a)の面積をA1[mm2]、上記受圧面(82c,281c,382c)の上記投影面積をA2[mm2]、該摺接面(82a,281a,382a)の外周径をr1[mm]、該摺接面(82a,281a,382a)の内周径をr2[mm]、X=r2/r1とすると、該摺接面(82a,281a,382a)と該受圧面(82c,281c,382c)との面積比A2/A1は、下記数式(a)を満足するものとする。
上記の構成の場合、上記シールリング(82,281,382)の受圧面(82c,281c,382c)の投影面積を摺接面(82a,281a,382a)の面積よりも小さくする構成において、少なくとも該受圧面(82c,281c,382c)に作用する力が該摺接面(82a,281a,382a)に作用する力未満とならないように、該受圧面(82c,281c,382c)の投影面積(A2)が設定される。つまり、上記受圧面(82c,281c,382c)の投影面積(A2)と摺接面(82a,281a,382a)の面積(A1)との面積比A2/A1を数式(a)を満足するように設定することによって、シールリング(82,281,382)が可動部材(60,270,370)又はハウジング(50,240,317)から離れたり、可動部材(60,270,370)又はハウジング(50,240,317)に対して過度な押し付け力で摺接したりすることを防止して、該シールリング(82,281,382)を可動部材(60,270,370)又はハウジング(50,240,317)に対して適度な押し付け力で摺接させることができる。その結果、シールリング(82,281,382)と可動部材(60,270,370)又はハウジング(50,240,317)との間の機械損失を低減させることができると共に、背圧空間(57,257,357)を高圧空間(58,258,358)と低圧空間(59,259,359)とに仕切ることができる。
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記シールリング(82,382)の他面(82b,382b)側には、該シールリング(82,382)の全周に亘って該シールリング(82,382)の他面(82b,382b)と上記ハウジング(50,317)又は上記可動部材(60,370)とにそれぞれ当接するリング部材(81,381)が配設されており、上記シールリング(82,382)の他面(82b,382b)のうち、上記リング部材(81,381)が当接する部分よりも上記高圧空間(58,358)側の部分が該高圧空間(58,358)の高圧が作用する受圧面(82c,382c)となっているものとする。
上記の構成の場合、上記可動部材(270)の背面(277a)とハウジング(50,317)との間には、上記シールリング(82,382)と上記リング部材(81,381)とが並んで設けられており、上記背圧空間は、該シールリング(82,382)及びリング部材(81,381)によってに高圧空間(58,358)と低圧空間とに区画されている。そして、シールリング(82,382)の他面(82b,382b)のうちリング部材(81,381)が当接する部分よりも高圧空間(58,358)側の部分に高圧空間(58,358)の高圧が作用することになる。つまり、該シールリング(82,382)の他面(82b,382b)の全面を高圧空間(58,358)の高圧が作用する受圧面(82c,382c)とするのではなく、シールリング(82,382)とハウジング(50,317)との間に該シールリング(82,382)の他面(82b,382b)及び該ハウジング(50,317)又は可動部材(60,370)のそれぞれに当接するリング部材(81,381)を介設することによって、該他面(82b,382b)の一部(詳しくは、リング部材(81,381)が当接する部分よりも高圧空間(58,358)側の部分)だけを受圧面(82c,382c)とすることができる。すなわち、リング部材(81,381)を介設することで、シールリング(82,382)の受圧面(82c,382c)の面積、ひいてはその投影面積(A2)を小さくすることができる。また、リング部材(81,381)の径や形状を変えることで該リング部材(81,381)とシールリング(82,382)との当接する部分を変えることができ、その結果、シールリング(82,382)の受圧面(82c,382c)の投影面積(A2)を所望の値に設定することができる。
第4の発明は、第3の発明において、上記ハウジング(50,317)又は上記可動部材(60,370)には、平面視で環状の凹溝(56,319)が形成されており、上記シールリング(82,382)及び上記リング部材(81,381)は、上記凹溝(56,319)内に配設されており、上記リング部材(81,381)は、上記凹溝(56,319)の底面(56a,319a)と上記シールリング(82,382)の他面(82b,382b)とにそれぞれ当接しているものとする。
上記の構成の場合、上記シールリング(82,382)及びリング部材(81,381)を上記凹溝(56,319)内に配設することによって、該シールリング(82,382)及びリング部材(81,381)を上記背圧空間(57,357)において位置決めすることができる。
第5の発明は、第4の発明において、上記背圧空間(57,357)は、上記シールリング(82,382)の径方向内側が高圧空間(58,358)となる一方、上記シールリング(82,382)の径方向外側が低圧空間(59,359)となり、上記凹溝(56,319)内において、該凹溝(56,319)の上記高圧空間(58,358)側の側面(56c,319c)と上記シールリング(82,382)との間には、隙間が形成されているものとする。
上記の構成の場合、上記シールリング(82,382)は上記凹溝(56,319)内に該凹溝(56,319)に蓋をするようにして配設されるため、該シールリング(82,382)の他面(82b,382b)(受圧面(82c,382c)を含む)がシールリング(82,382)と凹溝(56,319)とで形成される概略閉空間内に位置することになる。しかしながら、該シールリング(82,382)と凹溝(56,319)の上記高圧空間(58,358)側の側面(56c,319c)との間に隙間を設けることによって、該シールリング(82,382)と凹溝(56,319)とで形成される概略閉空間内に高圧空間(58,358)の高圧を作用させることができ、その結果、シールリング(82,382)の受圧面(82c,382c)に高圧を作用させることができる。
第6の発明は、第1又は第2の発明において、上記シールリング(281)には、その他面(281b)側に突出する周壁部(281e)が設けられており、上記シールリング(281)の他面(281b)側には、該シールリング(281)の全周に亘って上記周壁部(281e)の上記高圧空間側の壁面(281f)と上記ハウジング(240)又は上記可動部材(270)とにそれぞれ当接するリング部材(282)が配設されており、上記シールリング(281)の他面(281b)側において上記周壁部(281e)よりも高圧空間側の部分が上記受圧面(281c)となるものとする。
上記の構成の場合、上記可動部材(270)の背面(277a)とハウジング(240)との間には、上記シールリング(281)と上記リング部材(282)とが重ねて設けられており、上記背圧空間(257)は、該シールリング(281)及びリング部材(282)によって高圧空間(258)と低圧空間(259)とに仕切られている。
つまり、シールリング(281)の他面(281b)側の全面を受圧面とするのではなく、高圧空間側の部分に受圧面(281c)を形成する一方、低圧空間(259)側の部分に周壁部(281e)を突設することで、受圧面(281c)の面積、ひいてはその投影面積(A2)を小さくすることができる。そして、該シールリング(281)の全周に亘って上記周壁部(281e)の高圧空間側の壁面(281f)及び該ハウジング(240)のそれぞれに当接するリング部材(282)を設けることによって、該周壁部(281e)における高圧空間側の壁面(281f)よりも低圧側の部分には高圧空間(258)の高圧が作用することを防止しつつ、可動部材(270)の背面(277a)とハウジング(240)との間をシールして背圧空間(257)を高圧空間(258)と低圧空間(259)とに仕切ることができる。
第7の発明は、第6の発明において、上記ハウジング(240)又は上記可動部材(270)には、平面視で環状の凹溝(246)が形成されており、上記シールリング(281)及び上記リング部材(282)は、上記凹溝(246)内に配設されており、上記リング部材(282)は、上記凹溝(246)の底面(246a)及び上記周壁部(281e)の上記高圧空間側の壁面(281f)にそれぞれ当接しているものとする。
上記の構成の場合、上記シールリング(281)及びリング部材(282)を上記凹溝(246)内に配設することによって、該シールリング(281)及びリング部材(282)を上記背圧空間(257)において位置決めすることができる。
第8の発明は、第7の発明において、上記背圧空間(257)は、上記シールリング(281)の径方向内側が高圧空間(258)となる一方、上記シールリング(281)の径方向外側が低圧空間(259)となり、上記凹溝(246)内において、該凹溝(246)の上記高圧空間(258)側の側面と上記シールリング(281)との間には、隙間を有しているものとする。
上記の構成の場合、上記シールリング(281)は上記凹溝(246)内に該凹溝(246)に蓋をするようにして配設されるため、該シールリング(281)の背面(281b)(受圧面(281c)を含む)がシールリング(281)と凹溝(246)とで形成される概略閉空間内に位置することになる。しかしながら、該シールリング(281)と凹溝(246)の上記高圧空間(258)側の側面との間に隙間を設けることによって、該シールリング(281)と凹溝(246)とで形成される概略閉空間内に高圧空間(258)の高圧を作用させることができ、その結果、シールリング(281)の受圧面(281c)に高圧を作用させることができる。
第9の発明は、第8の発明において、上記リング部材(282)は、径方向外方に変形可能に構成されていて、上記高圧空間(258)の高圧によって径方向外方に広がることで上記周壁部(281e)の上記高圧空間(258)側の壁面(281f)に当接するものとする。
上記の構成の場合、上記回転式圧縮機の組立時等、上記高圧空間(258)に高圧が作用していないときには、上記シールリング(281)とリング部材(282)とを径方向に隙間を有する状態で配設することができるため、組立性を向上させることができる。そして、上記回転式圧縮機の運転状態において上記高圧空間(258)に高圧が作用すると、上記リング部材(282)は径方向外方に広がるように変形して上記シールリング(281)の周壁部(281e)と当接することによって、上記背圧空間(257)を高圧空間(258)と低圧空間(259)とに確実に仕切ることができる。
第10の発明は、第1〜第9の何れか1つの発明において、上記回転式圧縮機は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続されて、該冷媒回路に冷媒として充填された二酸化炭素を圧縮させるものとする。
上記の構成の場合、該冷凍サイクルの高圧は、通常は二酸化炭素の臨界圧力よりも高い値に設定される。つまり、二酸化炭素流を冷媒とする構成では、高圧空間(58,258,358)の内圧が比較的高圧となるため、シールリング(82,281,382)に付与されるスラスト力が大きく設定される傾向がある。したがって、シールリング(82,281,382)のスラスト力を調整して機械損失を低減させる本発明がより有効となる。
本発明によれば、上記シールリング(82,281,382)の他面(82b,281b,382b)側に高圧空間(58,258,358)の高圧が作用する受圧面(82c,281c,382c)を設けると共に該受圧面(82c,281c,382c)の投影面積(A2)を該シールリング(82,281,382)の摺接面(82a,281a,382a)の面積(A1)よりも小さくすることによって、該受圧面(82c,281c,382c)に作用するシールリング(82,281,382)を可動部材(60,270,370)又はハウジング(50,240,317)に押し付ける方向への力を小さくすることができ、該シールリング(82,281,382)と可動部材(60,270,370)又はハウジング(50,240,317)との間の機械損失を低減することができる。
第2の発明によれば、シールリング(82,281,382)の受圧面(82c,281c,382c)の投影面積(A2)と摺接面(82a,281a,382a)の面積(A1)との面積比A2/A1が上記数式(a)を満足するように設定することによって、該シールリング(82,281,382)と可動部材(60,270,370)又はハウジング(50,240,317)との間の機械損失を低減させつつ、上記背圧空間(57,257,357)を高圧空間(58,258,358)と低圧空間(59,259,359)とに確実に仕切ることができる。
第3の発明によれば、上記シールリング(82,382)とハウジング(50,317)との間には、該シールリング(82,382)の全周に亘って該シールリング(82,382)の他面(82b,382b)及び該ハウジング(50,317)のそれぞれに当接するリング部材(81,381)を介設することによって、背圧空間を高圧空間(58,358)と低圧空間とに仕切ることができると共に、該シールリング(82,382)の他面(82b,382b)のうち上記高圧空間(58,358)の高圧が作用する受圧面(82c,382c)の面積を小さくすることができる。
第4の発明によれば、上記シールリング(82,382)及びリング部材(81,381)を上記凹溝(56,319)内に配設することによって、該シールリング(82,382)及びリング部材(81,381)を上記背圧空間(57,357)において位置決めすることができる。
第5の発明によれば、上記シールリング(82,382)と上記凹溝(56,319)の高圧空間(58,358)側の側面(56c,319c)との間に隙間を設けることによって、上記シールリング(82,382)を凹溝(56,319)内に配設する構成であってもシールリング(82,382)の受圧面(82c,382c)に高圧空間(58,358)の高圧を作用させることができる。
第6の発明によれば、上記シールリング(281)の他面側において、上記高圧空間(258)側に受圧面(281c)を上記低圧空間側に該受圧面(281c)よりもハウジング側に突出する周壁部(281e)を設けると共に、該シールリング(281)とハウジング(240)との間には、該シールリング(281)の全周に亘って該周壁部(281e)の高圧空間(258)側の壁面(281f)及び該ハウジング(240)のそれぞれに当接するリング部材(282)を介設することによって、背圧空間(257)を高圧空間(258)と低圧空間とに仕切ることができると共に、該シールリング(281)の他面(281b)のうち上記高圧空間(258)の高圧が作用する受圧面(281c)の面積を小さくすることができる。
第7の発明によれば、上記シールリング(281)及びリング部材(282)を上記凹溝(246)内に配設することによって、該シールリング(281)及びリング部材(282)を上記背圧空間(257)において位置決めすることができる。
第8の発明によれば、上記シールリング(281)と上記凹溝(246)の高圧空間(258)側の側面との間に隙間を設けることによって、上記シールリング(281)を凹溝(246)内に配設する構成であってもシールリング(281)の受圧面(281c)に高圧空間(258)の高圧を作用させることができる。
第9の発明によれば、上記リング部材(282)を、径方向外方に変形可能に構成すると共に、上記高圧空間(258)の高圧によって径方向外方に広がることで上記周壁部(281e)の高圧空間(258)側の壁面(281f)に当接するように構成することによって、上記リング部材(282)及びシールリング(281)の組立性を向上させることができると共に、背圧空間(257)を高圧空間(258)と低圧空間とに確実に仕切ることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。
本実施形態の回転式圧縮機(1)は、例えば、冷媒として二酸化炭素が充填された冷凍機の冷媒回路に設けられて、冷媒としての二酸化炭素を圧縮するために利用される。
図1に示すように、本実施形態の回転式圧縮機(1)は、いわゆる全密閉型に構成されている。この回転式圧縮機(1)は、縦長の密閉容器状に形成されたケーシング(10)を備えている。このケーシング(10)は、縦長の円筒状に形成された円筒部(11)と、椀状に形成されて円筒部(11)の両端を塞ぐ一対の端板部(12,12)とによって構成されている。そして、円筒部(11)には貫通する吸入管(14)が設けられ、上側の端板部(12)には貫通する吐出管(15)が設けられている。
ケーシング(10)の内部には、下から上へ向かって順に、圧縮機構(20)と電動機(30)とが配置されている。また、ケーシング(10)の内部には、上下方向に延びる駆動軸部(33)が設けられている。そして、上記圧縮機構(20)と電動機(30)は、駆動軸部(33)を介して連結されている。本実施形態の回転式圧縮機(1)は、圧縮機構(20)で圧縮された冷媒がケーシング(10)の内部空間へ吐出され、その後に吐出管(15)を通ってケーシング(10)から送り出される、いわゆる高圧ドーム型となっている。つまり、ケーシング(10)内は高圧空間(19)となっている。
駆動軸部(33)は、主軸部(33a)と偏心部(33b)とを備えている。駆動軸部(33)は、上記電動機(30)によって主軸部(33a)の軸心である回転軸(X)回りに回転駆動される。偏心部(33b)は、駆動軸部(33)の下端寄りの位置に設けられ、主軸部(33a)よりも大径の円柱状に形成されている。この偏心部(33b)は、その軸心が主軸部(33a)の回転軸(X)から所定量だけ偏心している。駆動軸部(33)の内部には、図示しないが、駆動軸部(33)の下端から上方へ延びる給油通路が形成されている。この給油通路の下端部は、いわゆる遠心ポンプを構成している。ケーシング(10)の底に溜まった潤滑油は、この給油通路を通って圧縮機構(20)の各摺動部へ供給される。
電動機(30)は、ステータ(31)とロータ(32)とを備えている。ステータ(31)は、ケーシング(10)の円筒部(11)の内壁に固定されている。ロータ(32)は、ステータ(31)の内側に配置されて駆動軸部(33)の主軸部(33a)と連結されている。
圧縮機構(20)は、上部ハウジング(40)と、下部ハウジング(50)と、ピストン(60)とを備えている。この圧縮機構(20)では、上部ハウジング(40)と下部ハウジング(50)とで囲まれた空間にピストン(60)が収容されている。これら上部ハウジング(40)が固定部材を、下部ハウジング(50)がハウジングを、ピストン(60)が可動部材を構成する。
上記上部ハウジング(40)は、シリンダ側鏡板部(41)とシリンダ(70)とを有している。
シリンダ側鏡板部(41)は、円板状に形成されていて、外径がケーシング(10)の内径とほぼ等しくなっている。このシリンダ側鏡板部(41)は、溶接等によってケーシング(10)の円筒部(11)に固定されている。また、シリンダ側鏡板部(41)の中央部には、駆動軸部(33)の主軸部(33a)を支持する軸受部(42)が貫通形成されている。この軸受部(42)には、主軸部(33a)が回転自在に挿通されている。
シリンダ(70)は、円筒状の外側及び内側シリンダ部(71,72)を有している。外側シリンダ部(71)の内径は、内側シリンダ部(72)の外径よりも大きくなっており、外側シリンダ部(71)の内方に内側シリンダ部(72)が位置している。外側及び内側シリンダ部(71,72)の基端部は、上記シリンダ側鏡板部(41)と一体的に形成されている。これら外側及び内側シリンダ部(71,72)は、その軸心が駆動軸部(33)の主軸部(33a)の軸心(即ち、軸受部(42)の軸心)と一致するように設けられている。
外側シリンダ部(71)と内側シリンダ部(72)との間には、図2に示すように、シリンダ室(C)が形成されている。このシリンダ室(C)は、横断面(即ち、シリンダ(70)の軸方向と直交する断面)の形状が環状となっている。
また外側シリンダ部(71)と内側シリンダ部(72)との間には、シリンダ室(C)を横断して延びるブレード(73)が設けられている。詳しくは、ブレード(73)は、外側シリンダ部(71)の内周面から内側シリンダ部(72)の外周面まで外側及び内側シリンダ部(71,72)の半径方向に延びる平板状に形成され、外側及び内側シリンダ部(71,72)と一体的に形成されている。また、ブレード(73)は、シリンダ側鏡板部(41)の前面(外側及び内側シリンダ部(71,72)が設けられている面)から突出した状態となっており、該シリンダ側鏡板部(41)とも一体的に形成されている。
また、外側シリンダ部(71)には、その径方向へ貫通する吸入口(74)が形成されており、この吸入口(74)に吸入管(14)(図2,3では省略)が挿入されている。つまり、吸入管(14)とシリンダ室(C)とは連通している。
さらに、内側シリンダ部(72)の内側空間(77)には、上記駆動軸部(33)の偏心部(33b)が位置している。
上記下部ハウジング(50)は、平板部(51)と周壁部(52)とを有している。
平板部(51)は、円板状に形成されていて、外径がケーシング(10)の内径よりもやや小さくなっている。この下部ハウジング(50)は、上部ハウジング(40)にボルト等で連結されている。平板部(51)の中央部には、駆動軸部(33)の主軸部(33a)を支持する軸受部(53)が貫通形成されている。この軸受部(53)に、主軸部(33a)が回転自在に挿通されている。また、平板部(51)の前面(可動部材であるピストン(60)と対向する面)(51a)には、図3に示すように、上部ハウジング(40)側に突出する平面視環状の環状台部(54)が軸受部(53)を囲むようにして設けられている。この環状台部(54)には、全周に亘って凹溝(56)が形成されている。この凹溝(56)には、後述するシール機構(80)が配設されている。尚、環状台部(54)及び凹溝(56)は、軸受部(53)(駆動軸部(33)の主軸部(33a)の回転軸(X))と同心状には設けられておらず、軸受部(53)に対して、後述する圧縮行程終盤の高圧室(C1-Hp,C2-Hp)(図4参照)の方向に偏心して設けられている。
周壁部(52)は、平板部(51)の周縁部から上部ハウジング(40)側に延びる円筒状に形成されている。周壁部(52)の内径は、上記外側シリンダ部(71)の内径よりも大きくなっている。つまり、下部ハウジング(50)が上部ハウジング(40)に連結された状態において、外側シリンダ部(71)の内周縁部が周壁部(52)の半径方向内方にはみ出している。
上記ピストン(60)は、円筒状であって、その基端側(図1における下面側)にはピストン側鏡板部(61)が一体的に形成されている。このピストン(60)は、その内径が上記内側シリンダ部(72)の外径よりも大きく、その外径が上記外側シリンダ部(71)の内径よりも小さく設定されている。また、ピストン(60)は、図2に示すように、平面視において円筒の一部が分断部(63)によって分断されたC字形状をしている。この分断部(63)には、詳しくは後述する揺動ブッシュ(64)が回転自在に支持されている。
ピストン側鏡板部(61)は、円板状に形成されていて、その外周縁部がピストン(60)よりも径方向外方にはみ出して形成されている。このピストン側鏡板部(61)の外径は、上記外側シリンダ部(71)の内径よりも大きく、ピストン(60)が上記シリンダ室(C)内を偏心回転しても、該外側シリンダ部(71)の先端面(図1における下面)と常に摺接する程度の大きさに設定されている。
また、上記ピストン側鏡板部(61)の中央部には、駆動軸部(33)の偏心部(33b)に回転自在に嵌合する軸受部(62)が貫通形成されている。上記ピストン(60)は、その軸心が駆動軸部(33)の偏心部(33b)の軸心(即ち、軸受部(62)の軸心)と一致するように設けられている。
このように構成されたピストン(60)は、軸受部(62)が駆動軸部(33)の偏心部(33b)に嵌合された状態において、該軸受部(62)が上記内側シリンダ部(72)の内側空間(77)内に収容され且つ、ピストン(60)が上記シリンダ室(C)内に収容される。このとき、ピストン(60)の先端面(シリンダ側鏡板部(41)と対向する面)はシリンダ側鏡板部(41)に摺接する一方、内側及び外側シリンダ部(71,72)の先端面(ピストン側鏡板部(61)と対向する面)はピストン側鏡板部(61)に摺接している。その結果、シリンダ室(C)は、シリンダ側鏡板部(41)、ピストン側鏡板部(61)、外側シリンダ部(71)及びピストン(60)で囲まれた外側シリンダ室(C1)と、シリンダ側鏡板部(41)、ピストン側鏡板部(61)、ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)で囲まれた内側シリンダ室(C2)とに区画される。
このピストン(60)は、図2に示すように、外周面が外側シリンダ部(71)の内周面と1箇所で摺接すると共に、内周面が内側シリンダ部(72)の外周面と1箇所で摺接している。ピストン(60)と外側シリンダ部(71)の摺接箇所は、ピストン(60)と内側シリンダ部(72)の摺接箇所に対し、ピストン(60)の軸心(即ち、偏心部(33b)の軸心)を挟んだ反対側、即ち位相が180°ずれた箇所に位置している。
また、ピストン(60)がシリンダ室(C)に収容された状態において、上記ブレード(73)は、該ピストン(60)の分断部(63)に挿通されている。この分断部(63)には、前述の如く、揺動ブッシュ(64)が挿入されている。揺動ブッシュ(64)は一対のブッシュ片(64a,64a)で構成されている。このブッシュ片(64a,64a)は、外側面が円弧面に形成され、内側面が平面に形成された小片である。ピストン(60)の分断部(63)の端面は、円弧面となっていてブッシュ片(64a,64a)の外側面と摺接する。つまり、一対のブッシュ片(64a,64a)は、互いの内側面が対向するように分断部(63)内に配置されている。そして、両ブッシュ片(64a,64a)の対向する内側面の間のスペースにブレード(73)が挿通されており、両ブッシュ片(64a,64a)の内側面とブレード(73)とが摺接する。
つまり、揺動ブッシュ(64)は、ブレード(73)を挟んだ状態で該ブレード(73)の内側面方向に自在に進退できるように構成されている。それに加えて、ピストン(60)は、分断部(63)を介して揺動ブッシュ(64)に対して自在に揺動できるように構成されている。つまり、ピストン(60)は、揺動ブッシュ(64)と係合していて、この揺動ブッシュ(64)によって支持されている。
上記外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)は、ブレード(73)によってそれぞれが高圧室(C1-Hp,C2-Hp)と低圧室(C1-Lp,C2-Lp)とに区画されている。
外側シリンダ部(71)に形成された上記吸入口(74)は、ブレード(73)近傍の低圧室(C1-Lp)に開口するように形成されている。そして、ピストン(60)における、該吸入口(74)に対応する位置には、外側シリンダ室(C1)の低圧室(C1-Lp)と内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)とを連通させる貫通孔(65)が貫通形成されている。すなわち、吸入口(74)を介して上記吸入管(14)から外側シリンダ室(C1)の低圧室(C1-Lp)に流入した冷媒は、貫通孔(65)を介して内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)にも流入する。
一方、上部ハウジング(40)には、図2に示すように、圧縮した冷媒を吐出する外側吐出口(43)と内側吐出口(44)とが形成されている。外側吐出口(43)はブレード(73)近傍において外側シリンダ室(C1)の高圧室(C1-Hp)に開口するように、内側吐出口(44)はブレード(73)近傍において内側シリンダ室(C2)の高圧室(C2-Hp)に開口するようにシリンダ側鏡板部(41)を貫通して形成されている。これら外側及び内側吐出口(43,44)の下流端には、該外側及び内側吐出口(43,44)を開閉する吐出弁(図示省略)としてリード弁が設けられている。
上部ハウジング(40)の、下部ハウジング(50)と反対側(即ち、電動機(30)側)には、マフラ(45)が取り付けられている。このマフラ(45)は、上部ハウジング(40)を下部ハウジング(50)と反対側から覆うように設けられ、上部ハウジング(40)との間に吐出空間(46)を形成している。上記外側及び内側吐出口(43,44)から吐出された冷媒は、この吐出空間(46)に一旦吐出され、マフラ(45)と軸受部(42)との隙間を通ってケーシング(10)内の高圧空間(19)内に流出する。つまり、マフラ(45)は、圧縮機構(20)から吐出される吐出ガスの消音機能を有している。
−運転動作−
次に、この圧縮機(1)の運転動作について説明する。
電動機(30)を駆動すると、ロータ(32)の回転が駆動軸部(33)を介して圧縮機構(20)のピストン(60)に伝達される。そうすると、揺動ブッシュ(64)がブレード(73)に沿って進退運動(往復動作)を行い、かつ、ピストン(60)が揺動ブッシュ(64)に対して揺動動作を行う。その際、揺動ブッシュ(64)は、ピストン(60)及びブレード(73)に対して実質的に面接触をする。そして、ピストン(60)が外側シリンダ部(71)及び内側シリンダ部(72)に対して揺動しながら駆動軸部(33)に対して偏心回転し、圧縮機構(20)が所定の圧縮動作を行う。
ピストン(60)の偏心回転角度は、平面視において、駆動軸部(33)の回転軸(X)から半径方向に延びて揺動ブッシュ(64)の揺動中心を通る直線上にピストン(60)の軸心(偏心部(33b)の軸心)が位置する(即ち、回転軸(X)と揺動ブッシュ(64)とを結ぶ線分上にピストン(60)の軸心が位置する)時点における偏心回転角度を0°とする。(A)図はピストン(60)の偏心回転角度が0°又は360°の状態を、(B)図はピストン(60)の偏心回転角度が90°の状態を、(C)図はピストン(60)の偏心回転角度が180°の状態を、(D)図はピストン(60)の偏心回転角度が270°の状態をそれぞれ示している。
具体的に、外側シリンダ室(C1)では、図4(B)の状態で低圧室(C1-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸部(33)が図の時計回りに回転して図4(C)〜図4(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(C1-Lp)の容積が増大するときに、冷媒が、吸入管(14)及び吸入口(74)を通って該低圧室(C1-Lp)に吸入される。
図4(A)の状態になると、上記低圧室(C1-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C1-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C1-Hp)となり、再び図4(B)の状態になると、ブレード(73)を隔てて新たな低圧室(C1-Lp)が形成される。駆動軸部(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C1-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C1-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C1-Hp)で冷媒が圧縮される。高圧室(C1-Hp)の圧力が所定値となって吐出空間(46)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(C1-Hp)の高圧冷媒によって吐出弁が開き、高圧冷媒が吐出空間(46)へ吐出され、マフラ(45)からケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出する。
内側シリンダ室(C2)では、図4(D)の状態で低圧室(C2-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸部(33)が図の時計回りに回転して図4(A)〜図4(C)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(C2-Lp)の容積が増大するときに、冷媒が、吸入管(14)、吸入口(74)、及び貫通孔(65)を通って内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)へ吸入される。
図4(C)の状態になると、上記低圧室(C2-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C2-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C2-Hp)となり、再び図4(D)の状態になると、ブレード(73)を隔てて新たな低圧室(C2-Lp)が形成される。駆動軸部(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C2-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C2-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C2-Hp)で冷媒が圧縮される。高圧室(C2-Hp)の圧力が所定値となって吐出空間(46)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(C2-Hp)の高圧冷媒によって吐出弁が開き、高圧冷媒が吐出空間(46)へ吐出され、マフラ(45)からケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出する。
外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)で圧縮されてケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出した高圧の冷媒は吐出管(15)から吐出され、冷媒回路で凝縮行程、膨張行程、及び蒸発行程を経た後、再度圧縮機(1)に吸入される。
−シール機構−
続いて、上記シール機構(80)について詳しく説明する。
シール機構(80)は、図5に示すように、Oリング(81)とシールリング(82)とを有している。これらシールリング(82)及びOリング(81)は、下部ハウジング(50)に形成された凹溝(56)内において、該凹溝(56)の底面(56a)からOリング(81)、シールリング(82)の順で重ねて配設されている。
Oリング(81)は、ゴム製であって平面視環状に形成されており、その断面形状は略円形となっている。Oリング(81)は、その外径が凹溝(56)の外径と略同じである一方、その内径が凹溝(56)の内径よりも大きくなっている。このOリング(81)は、凹溝(56)内に配設された状態において、該Oリング(81)の全周に亘って、凹溝(56)の底面(56a)と当接していると共に、凹溝(56)の外周面(56b)と当接している。このOリング(81)がリング部材を構成している。
シールリング(82)は、鋳鉄製であって平面視で環状に形成されており、その断面形状は略方形となっている。このシールリング(82)は、その外径が凹溝(56)の外径よりも小さく、その内径が凹溝(56)の内径よりも大きくなっている。すなわち、シールリング(82)は、凹溝(56)内に配設された状態において、該凹溝(56)の外周面(56b)及び内周面(56c)と若干の隙間を有するようになっている。また、シールリング(82)の前面(ピストン(60)と対向する面)(82a)と背面(下部ハウジング(50)と対向する、即ち、凹溝(56)の底面(56a)と対向する面)(82b)とは、互いに平行に形成されている。尚、シールリング(82)の前面(82a)の内周側縁部と外周側縁部とには面取加工が施されている。このシールリング(82)は、凹溝(56)内に配設された状態において、シールリング(82)の全周に亘って、その前面(82a)がピストン側鏡板部(61)の背面(下部ハウジング(50)と対向する面)(61a)と当接している一方、その背面(82b)がOリング(81)と当接している。この前面(82a)が一面を構成する一方、背面(82b)が他面を構成する。また、この前面(82a)のうち、面取加工がされていない面が摺接面を構成し、以下、前面(82a)と称する面は、面取加工が施されていない、ピストン側鏡板部(61)と当接する面を表すものとする。
こうして、Oリング(81)及びシールリング(82)が凹溝(56)内に配設された状態においては、Oリング(81)は僅かに圧縮変形しており、その弾性力によってシールリング(82)を押し上げてピストン側鏡板部(61)に当接させている。尚、このOリング(81)によって付与される弾性力は、該シールリング(82)とピストン側鏡板部(61)の背面(61a)との当接状態を維持できる程度の大きさである。
つまり、ピストン(60)がシリンダ室(C)に収容された状態において、ピストン側鏡板部(61)の背面(61a)には、シールリング(82)の前面(82a)が当接し、このシールリング(82)の背面(82b)にはOリング(81)が当接している。そして、このOリング(81)は凹溝(56)の底面(56a)に当接していると共に、凹溝(56)の外周面(56b)と当接している。こうして、下部ハウジング(50)とピストン側鏡板部(61)との間に形成される背圧空間(57)は、シール機構(80)よりも内側の高圧空間(58)と、シール機構(80)よりも外側の低圧空間(59)とに仕切られている。
圧縮機(1)の運転状態においては、高圧空間(58)は、駆動軸部(33)の給油通路を通じて供給された高圧状態の潤滑油で満たされているため、高圧空間(58)の内圧は圧縮機構(20)から吐出された冷媒の圧力(吐出圧力)とほぼ同じになる。また、低圧空間(59)は吸入口(74)と連通路(図示省略)を介して連通している。詳しくは、連通路には、吐出圧力よりも低く且つ圧縮機構(20)へ吸入される冷媒の圧力(吸入圧力)よりも高い所定の中間圧力で開閉する弁機構(例えば、ボール弁とバネとで構成されている)が設けられている。低圧空間(59)は、シール機構(80)によって高圧空間(58)と仕切られているが、シールリング(82)とピストン側鏡板部(61)との隙間等から高圧状態の潤滑油が漏れる場合もあり、その内圧が上昇する。低圧空間(59)の内圧が所定の圧力になると、上記弁機構が開いて、低圧空間(59)と吸入口(74)とが連通する。こうして、低圧空間(59)は、吐出圧力よりも低く且つ吸入圧力よりも高い所定の中間圧力となっている。つまり、高圧空間(58)は、その内圧が吐出圧力と略等しい高圧空間となっており、低圧空間(59)は、その内圧が高圧空間(58)の内圧よりも低い低圧空間となっている。
こうして、シール機構(80)によって背圧空間(57)を高圧空間(58)と低圧空間(59)とに仕切る構成においては、該シール機構(80)に該高圧空間(58)及び低圧空間(59)の内圧が作用している。
詳しくは、Oリング(81)及びシールリング(82)の背面(82b)等は凹溝(56)内に配設されているが、シールリング(82)と凹溝(56)の外周面(56b)及び内周面(56c)との間には隙間が設けられているため、凹溝(56)内に高圧空間(58)及び低圧空間(59)の内圧が導入され、該内圧が該Oリング(81)及びシールリング(82)の背面(82b)等に作用する。尚、シールリング(82)と凹溝(56)の内周面(56c)との隙間の方が、シールリング(82)と凹溝(56)の外周面(56b)との隙間よりも大きく設けられているため、凹溝(56)内には高圧空間(58)の高圧が確実に導入されるようになっている。
そして、低圧空間(59)の低圧を基準とした差圧で考えると、シールリング(82)の背面(82b)のうち、Oリング(81)が当接している箇所よりも高圧空間(58)側の部分には、高圧空間(58)の高圧P2と低圧空間(59)の低圧P1との差圧P2−P1が一様に作用している。すなわち、背面(82b)におけるOリング(81)が当接している箇所よりも高圧空間(58)側の部分は、高圧が作用する受圧面(82c)となっている。尚、背面(82b)におけるOリング(81)が当接している箇所よりも低圧空間(59)側の部分は低圧空間(59)に臨むため、該部分に作用する差圧は零である。
ここで、該受圧面(82c)に作用する差圧に基づいて該受圧面(82c)に作用する、シールリング(82)をピストン側鏡板部(61)へ押し付ける方向の力(Fp)の大きさは、該差圧の大きさと、受圧面(82c)(詳しくは、受圧面(82c)のうち前面(82a)側の面取部分と対向する部分を除いた部分)の、前面(82a)に平行な面に対する投影面積A2とで決まる(尚、図5は縦断面図であるため、面積A1,A2,A2’を線分で表している)。本実施形態では、受圧面(82c)はピストン側鏡板部(61)の背面(61a)と平行であるため、該受圧面(82c)の投影面積A2は、該受圧面(82c)の面積A2’そのものである。すなわち、該受圧面(82c)に作用する差圧は、ピストン側鏡板部(61)の背面(61a)と直交する方向に作用しているため、該差圧の全成分がシールリング(82)をピストン側鏡板部(61)へ押し付ける方向の力(Fp)となる。
一方、シールリング(82)の前面(82a)は、ピストン側鏡板部(61)の背面(61a)と摺接しているものの、該前面(82a)と背面(61a)との間を通って、高圧空間(58)から低圧空間(59)へ潤滑油が漏れるため、該前面(82a)にも高圧空間(58)及び低圧空間(59)の内圧が作用している。具体的には、該前面(82a)には、図6に示すような、圧力分布で差圧が作用している。すなわち、前面(82a)の内周側端部は高圧空間(58)に隣接するため、該内周側端部には、高圧空間(58)と低圧空間(59)との差圧P2−P1が作用している。一方、前面(82a)の外周側端部は低圧空間(59)に隣接するため、該該外周側端部に作用する差圧は零になる。そして、シールリング(82)の前面(82a)とピストン側鏡板部(61)の背面(61a)との間の流れはポアズイユ流れであるため、前面(82a)に作用する差圧は、内周側端部から外周側端部に向かってP2−P1から零まで線形的に変化していく。
ここで、該前面(82a)に作用する差圧に基づいて該前面(82a)に作用する、シールリング(82)をピストン側鏡板部(61)から引き離す方向の力(Fr)の大きさは、該差圧の大きさと、前面(82a)の、ピストン側鏡板部(61)の背面(61a)に平行な面に対する投影面積とで決まる。前面(82a)はピストン側鏡板部(61)の背面(61a)と摺接していて該背面(61a)と平行であるため、該前面(82a)の投影面積は、該前面(82a)の面積A1そのものである。すなわち、該前面(82a)に作用する差圧は、ピストン側鏡板部(61)の背面(61a)と直交する方向に作用しているため、該差圧の全成分がシールリング(82)をピストン側鏡板部(61)から引き離す方向の力(Fr)となる。
尚、シールリング(82)の内周面(82d)にも高圧空間(58)の高圧が作用するが、該内周面(82d)はピストン側鏡板部(61)の背面(61a)に対して垂直であるため、該内周面(82d)に作用する差圧はシールリング(82)をピストン側鏡板部(61)側又は下部ハウジング(50)側へ押圧する力を生じさせない。また、シールリング(82)の前面側の面取部分と、背面側の該面取部分と対向する部分にも高圧空間(58)の高圧が作用するが、両者は均圧しているため、シールリング(82)をピストン側鏡板部(61)側又は下部ハウジング(50)側へ押圧する力を生じさせない。
ここで、仮に、シールリング(82)の受圧面(82c)と前面(82a)とが同じ面積である場合には、受圧面(82c)に作用する力(Fp)の方が前面(82a)に作用する力(Fr)よりも大きくなり、結果として、シールリング(82)をピストン側鏡板部(61)へ押し付けるスラスト力(Fp-Fr)が過大になる。
そこで、本実施形態においては、シールリング(82)と凹溝(56)の底面(56a)との間にOリング(81)を介設することによって、シールリング(82)の背面(82b)における受圧面(82c)の面積A2’[mm2]、即ち投影面積A2[mm2]を前面(82a)の面積A1[mm2]よりも小さくしている。こうすることで、シールリング(82)に作用するスラスト力(Fp-Fr)を小さくしている。
ただし、スラスト力(Fp-Fr)を小さくし過ぎて、受圧面(82c)に作用する力(Fp)の方が前面(82a)に作用する力(Fr)よりも小さくなると、シールリング(82)の前面(82a)がピストン側鏡板部(61)の背面(61a)から離れて背圧空間(57)を高圧空間(58)と低圧空間(59)とに仕切れなくなるため、シールリング(82)の受圧面(82c)の投影面積A2[mm2]と前面(82a)の面積A1[mm2]との面積比A2/A1が、所定の範囲内に収まるように、受圧面(82c)の投影面積A2[mm2]が設定されている。
詳しくは、シールリング(82)の前面(82a)に作用する差圧の圧力分布P(r)[MPa]は、シールリング(82)の前面(82a)とピストン側鏡板部(61)の背面(61a)との間の流れをポアズイユ流れとすると、
で表される。ここで、ΔP[MPa]は高圧空間(58)と低圧空間(59)との差圧であり、
ΔP=P2-P1 ・・・(c)
で表される。このような圧力分布でシールリング(82)の前面(82a)に差圧が作用すると、該前面(82a)に作用する力Frは、
となる。ここで、前面(82a)の外周径をr1[mm]、前面(82a)の内周径をr2[mm]とすると、A1=π(r1
2-r2
2)で表される。
一方、シールリング(82)の背面(82b)には、差圧(P2−P1)[MPa]が一様に作用しており、該背面(82b)に作用する力Fpは、
Fp=ΔP・A2 ・・・(e)
となる。
ここで、該前面(82a)に作用する力Frと該受圧面(82c)に作用する力Fpとが等しくなるときの面積比A2/A1は、
で表される。ここで、X=r2/r1である。
つまり、該面積比A2/A1が上記数式(f)を満足するときには、シールリング(82)において、前面(82a)に作用する力Frと受圧面(82c)に作用する力Fpとが相殺する。したがって、シールリング(82)の前面(82a)がピストン側鏡板部(61)の背面(61a)から離れないためには、受圧面(82c)に作用する力Fpが前面(82a)に作用する力Frよりも大きい必要があり、即ち、シールリング(82)の受圧面(82c)の投影面積A2と前面(82a)の面積A1との面積比A2/A1が数式(f)で表された値よりも大きくなければならない。したがって、シールリング(82)の受圧面(82c)の投影面積A2と前面(82a)の面積A1との面積比A2/A1は、以下の数式(g)を満足することが好ましい。
ただし、シールリング(82)とピストン側鏡板部(61)との間のスラスト力(Fp-Fr)は小さい方が好ましいため、シールリング(82)の受圧面(82c)の投影面積A2と前面(82a)の面積A1との面積比A2/A1は、以下の数式(h)を満足することがより好ましい。
一方、高圧空間(58)の高圧は、凹溝(56)内のOリング(81)の内周側部分にも一様に作用している。その結果、Oリング(81)は径方向外方に押圧されて弾性変形して、凹溝(56)の外周面(56b)と確実に当接するようになっている。
−実施形態1の効果−
したがって、上記実施形態1によれば、シールリング(82)と凹溝(56)の底面(56a)との間にOリング(81)を介設することによって、シールリング(82)の背面(82b)における受圧面(82c)の面積A2’、即ち、受圧面(82c)の投影面積A2を小さくすることができ、シールリング(82)の背面(82b)に作用するシールリング(82)をピストン側鏡板部(61)へ押し付ける力(Fp)と、シールリング(82)の前面(82a)に作用するシールリング(82)をピストン側鏡板部(61)から引き離す力(Fr)との差を小さくすることができる。その結果、シールリング(82)をピストン側鏡板部(61)に押し付けるスラスト力(Fp-Fr)を小さくすることができ、シールリング(82)の前面(82a)とピストン側鏡板部(61)の背面(61a)との間のスラスト損失を低減することができる。
また、Oリング(81)は、シールリング(82)の背面(82b)だけでなく、凹溝(56)の底面(56a)とも当接するため、シールリング(82)の背面(82b)における受圧面(82c)の面積を制限するだけでなく、シールリング(82)の背面(82b)と凹溝(56)の底面(56a)との隙間を封止することもできる。つまり、ピストン側鏡板部(61)と下部ハウジング(50)との間においてシールリング(82)とOリング(81)とを重ねて設けることによって、シールリング(82)の背面(82b)に占める受圧面(82c)の面積A2を小さくすることができると共に、背圧空間(57)を高圧空間(58)と低圧空間(59)とに仕切ることができる。
さらに、これらシールリング(82)及びOリング(81)を下部ハウジング(50)に形成された凹溝(56)内に配設することによって、背圧空間(57)における該シールリング(82)及びOリング(81)の位置決めを行うことができる。
さらにまた、上記ピストンは、圧縮機(1)の停止時には高圧空間(58)に高圧が作用していないため、下部ハウジング(50)側に少し沈み込む場合がある。そこで、シールリング(82)と凹溝(56)の底面(56a)との間に介設するリング部材として弾性変形するOリング(81)を採用することによって、ピストン(60)が若干浮き沈みする構成であっても、該Oリング(81)が弾性変形することで、シールリング(82)の前面(82a)がピストン側鏡板部(61)の背面(61a)と当接し、シールリング(82)の背面(82b)がOリング(81)と当接し、Oリング(81)が凹溝(56)の底面(56a)と当接した状態を維持することができる。
また、Oリング(81)は弾性変形可能であるため、高圧空間(58)の高圧が作用したときに径方向外側に広がって凹溝(56)の外周面(56b)と当接するように構成することができ、背圧空間(57)を高圧空間(58)と低圧空間(59)とにさらに確実に仕切ることができる。
また、シールリング(82)の受圧面(82c)の投影面積A2とシールリング(82)の前面(82a)の面積A1との面積比A2/A1が上記数式(h)を満たすように、受圧面(82c)の面積A2を設定することによって、シールリング(82)とピストン側鏡板部(61)との間のスラスト損失を低減させることができると共に、シールリング(82)の前面(82a)がピストン側鏡板部(61)の背面(61a)から離れることを防止して背圧空間(57)を高圧空間(58)と低圧空間(59)とに確実に仕切ることができる。
尚、Oリング(81)のサイズ、形状を変更することによって、シールリング(82)の背面(82b)におけるOリング(81)との当接部分を変更することができ、その結果、受圧面(82c)の面積A2’、即ち投影面積A2を所望の値に変更することができる。
さらに、シールリング(82)及びOリング(81)を凹溝(56)内に配設した状態において、該シールリング(82)及びOリング(81)と凹溝(56)の内周面(56c)との間に隙間を設けることによって、凹溝(56)内に高圧空間(58)の高圧を確実に導入させることができ、該凹溝(56)内に位置するシールリング(82)の受圧面(82c)やOリング(81)に高圧空間(58)の高圧を作用させることができる。
尚、上記実施形態1では、シールリング(82)と凹溝(56)の底面(56a)との間に介設するリング部材として弾性変形するOリング(81)を採用しているが、シールリング(82)の全周に亘って、該シールリング(82)の背面(82b)と下部ハウジング(50)とにそれぞれ当接する部材であれば、例えば、樹脂製のシールリング(断面形状を円形状に限られない)等、任意の部材を採用することができる。ただし、上述の如く、背圧空間(57)を高圧空間(58)と低圧空間(59)とに確実に仕切るためには、弾性変形する部材が好ましい。
《発明の実施形態2》
次に、本発明の実施形態2について説明する。
実施形態2に係る圧縮機(201)は、ピストンではなく、シリンダが偏心回転する点で実施形態1と異なる。つまり、圧縮機構(220)の構成が、実施形態1に係る圧縮機構(20)と異なる。そこで、以下では、主として圧縮機構(220)の構成について説明する。尚、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
圧縮機構(220)は、図7に示すように、上部ハウジング(240)と、下部ハウジング(250)と、シリンダ(270)とを備えている。この圧縮機構(220)では、上部ハウジング(240)と下部ハウジング(250)で囲まれた空間にシリンダ(270)が収容されている。この上部ハウジング(240)がハウジングを、下部ハウジング(250)が固定部材を、シリンダ(270)が可動部材を構成する。
上記上部ハウジング(240)は、平板部(241)と周壁部(242)とを有している。
平板部(241)は、円板状に形成されていて、外径がケーシング(10)の内径とほぼ等しくなっている。この平板部(241)は、溶接等によってケーシング(10)の円筒部(11)に固定されている。平板部(241)の中央部には、駆動軸部(33)の主軸部(33a)を支持する軸受部(243)が貫通形成されている。この軸受部(243)に、主軸部(33a)が回転自在に挿通されている。また、平板部(241)の前面(可動部材であるシリンダ(270)と対向する面)(241a)には、軸受部(243)を囲むようにして環状の凹溝(246)が形成され、この凹溝(246)には、後述するシール機構(280)が配設されている。尚、凹溝(246)は、実施形態1と同様に、軸受部(243)(駆動軸部(33)の主軸部(33a)の回転軸(X))と同心状には設けられておらず、軸受部(243)に対して、後述する圧縮行程終盤の高圧室(C1-Hp,C2-Hp)(図8参照)の方向に偏心して設けられている。
周壁部(242)は、平板部(241)の周縁部から下部ハウジング(250)側に延びる円筒状に形成されている。周壁部(242)には該周壁部(242)を径方向へ貫通する吸入ポート(244)が形成されており、この吸入ポート(244)に吸入管(14)が挿入されている(図示省略)。
上記下部ハウジング(250)は、ピストン側鏡板部(261)とピストン(260)とを有している。
ピストン側鏡板部(261)は、円板状に形成されており、外径がケーシング(10)の内径よりもやや小さくなっている。このピストン側鏡板部(261)は、上部ハウジング(240)にボルト等で連結されている。ピストン側鏡板部(261)の中央部には、駆動軸部(33)の主軸部(33a)を支持する軸受部(262)が貫通形成されている。この軸受部(262)には、主軸部(33a)が回転自在に挿通されている。
ピストン(260)は、円筒状であって、その基端部がピストン側鏡板部(261)と一体的に形成されている。このピストン(260)は、その軸心が駆動軸部(33)の主軸部(33a)の回転軸(X)(即ち、軸受部(262)の軸心)と一致するように設けられている。また、ピストン(260)は、半径方向において上記上部ハウジング(240)の吸入ポート(244)と対向する位置には、貫通孔(265)が貫通形成されている。
上記シリンダ(270)は、円筒状の外側及び内側シリンダ部(271,272)を有している。外側シリンダ部(271)の内径は、ピストン(260)の外径よりも大きく、内側シリンダ部(272)の外径は、ピストン(260)の内径よりも小さくなっている。外側及び内側シリンダ部(271,272)は同心状に配設されており、その基端部はシリンダ側鏡板部(277)と一体的に形成されている。内側シリンダ部(272)の内側空間は、シリンダ側鏡板部(277)の中央部を貫通していて、駆動軸部(33)の偏心部(33b)に回転自在に嵌合する軸受部としても機能する。
尚、実施形態1と同様に、ピストン(260)は、図8に示すように、平面視において円筒の一部が分断部によって分断されたC字形状をしており、その分断部には揺動ブッシュ(264)が支持されている。また、シリンダ(270)においては、外側シリンダ部(271)と内側シリンダ部(272)との間にシリンダ室(C)が形成されており、外側シリンダ部(271)と内側シリンダ部(272)との間にはシリンダ室(C)を横断して延びるブレード(273)が設けられている(図2参照)。
このように構成されたシリンダ(270)は、内側シリンダ部(272)が駆動軸部(33)の偏心部(33b)に嵌合された状態において、上部ハウジング(240)と下部ハウジング(250)とで囲まれた空間内に、上記ピストン(260)がシリンダ室(C)内に位置するようにして収容される。このとき、ピストン(260)の先端面(シリンダ側鏡板部(277)と対向する面)はシリンダ側鏡板部(277)に摺接する一方、内側及び外側シリンダ部(271,272)の先端面(ピストン側鏡板部(261)と対向する面)はピストン側鏡板部(261)に摺接している。その結果、シリンダ室(C)は、シリンダ側鏡板部(277)、ピストン側鏡板部(261)、外側シリンダ部(271)及びピストン(260)で囲まれた外側シリンダ室(C1)と、シリンダ側鏡板部(277)、ピストン側鏡板部(261)、ピストン(260)及び内側シリンダ部(272)で囲まれた内側シリンダ室(C2)とに区画される。
このとき、上記シリンダ(270)のブレード(273)がピストン(260)の揺動ブッシュ(264)に支持されている。こうして、シリンダ(270)は、ブレード(273)を介して揺動ブッシュ(264)の内側面に沿って自在に進退できると共に、揺動ブッシュ(264)を介して分断部を中心に自在に揺動できるように構成されている。つまり、シリンダ(270)は、揺動ブッシュ(264)と係合していて、この揺動ブッシュ(264)により支持されている。
また、上記外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)は、シリンダ(270)のブレード(273)によってそれぞれが高圧室(C1-Hp,C2-Hp)と低圧室(C1-Lp,C2-Lp)とに区画されている(図8参照)。
また、シリンダ(270)が上部ハウジング(240)と下部ハウジング(250)とで囲まれた空間に収容された状態において、シリンダ(270)と上部ハウジング(240)との間には背圧空間(257)が形成されている。この背圧空間(257)は、吸入ポート(244)を介して吸入管(14)と連通している。
外側シリンダ部(271)における、上記吸入ポート(244)と対向する部分には、吸入口(274)が貫通形成されている。すなわち、吸入ポート(244)を介して上記吸入管(14)から背圧空間(257)に流入した冷媒は、外側シリンダ部(271)の吸入口(274)を介して該外側シリンダ室(C1)内の低圧室(C1-Lp)に流入する。そして、低圧室(C1-Lp)に流入した冷媒は、ピストン(260)の貫通孔(265)を介して内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)にも流入する。
一方、ピストン側鏡板部(261)には、図8に示すように、圧縮した冷媒を吐出する外側吐出口(251)と内側吐出口(252)とが形成されている。外側吐出口(251)はブレード(273)近傍において外側シリンダ室(C1)の高圧室(C1-Hp)に開口するように、内側吐出口(252)はブレード(273)近傍において内側シリンダ室(C2)の高圧室(C2-Hp)に開口するようにピストン側鏡板部(261)を貫通して形成されている。これら外側及び内側吐出口(251,252)の下流端には、該外側及び内側吐出口(251,252)を開閉する吐出弁としてリード弁(図示省略)が設けられている。
下部ハウジング(250)の、上部ハウジング(240)と反対側には、マフラ(253)が取り付けられている。このマフラ(253)は、下部ハウジング(250)を上部ハウジング(240)と反対側から覆うように設けられ、下部ハウジング(250)との間に吐出空間(254)を形成している。下部ハウジング(250)のピストン側鏡板部(261)には、吐出空間(254)に開口する下側連通路(268)が貫通形成されている。また、上部ハウジング(240)の周壁部(242)には、該下側連通路(268)と連通し且つ高圧空間(19)に開口する上側連通路(245)が貫通形成されている。上記外側及び内側吐出口(251,252)から吐出された冷媒は、この吐出空間(254)に一旦吐出され、上記下側及び上側連通路(268,245)を介してケーシング(10)内の高圧空間(19)内に流出する。つまり、マフラ(253)は、圧縮機構(220)から吐出される吐出ガスの消音機能を有している。
−運転動作−
次に、この圧縮機(201)の運転動作について説明する。
電動機(30)を駆動すると、ロータ(32)の回転が駆動軸部(33)を介して圧縮機構(220)のシリンダ(270)に伝達される。そうすると、ブレード(273)が揺動ブッシュ(264)に沿って進退運動(往復動作)を行い、かつ、シリンダ(270)が揺動ブッシュ(264)に対して揺動動作を行う。その際、揺動ブッシュ(264)は、ピストン(260)及びブレード(273)に対して実質的に面接触をする。そして、シリンダ(270)がピストン(260)に対して揺動しながら駆動軸部(33)に対して偏心回転し、圧縮機構(220)が所定の圧縮動作を行う。
シリンダ(270)の偏心回転角度は、平面視において、駆動軸部(33)の回転軸(X)から半径方向に延びて揺動ブッシュ(264)の揺動中心を通る直線上にシリンダ(270)の軸心(偏心部(33b)の軸心)が位置する(即ち、回転軸(X)と揺動ブッシュ(264)とを結ぶ線分上にシリンダ(270)の軸心が位置する)時点における偏心回転角度を0°とする。(A)図はシリンダ(270)の偏心回転角度が0°又は360°の状態を、(B)図はシリンダ(270)の偏心回転角度が90°の状態を、(C)図はシリンダ(270)の偏心回転角度が180°の状態を、(D)図はシリンダ(270)の偏心回転角度が270°の状態をそれぞれ示している。
具体的に、外側シリンダ室(C1)では、図8(D)の状態で低圧室(C1-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸部(33)が図の時計回りに回転して図8(A)〜図8(C)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(C1-Lp)の容積が増大するときに、冷媒が、吸入管(14)及び吸入口(274)を通って該低圧室(C1-Lp)に吸入される。
図8(C)の状態になると、上記低圧室(C1-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C1-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C1-Hp)となり、再び図8(D)の状態になると、ブレード(273)を隔てて新たな低圧室(C1-Lp)が形成される。駆動軸部(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C1-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C1-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C1-Hp)で冷媒が圧縮される。高圧室(C1-Hp)の圧力が所定値となって吐出空間(254)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(C1-Hp)の高圧冷媒によって吐出弁が開き、高圧冷媒が吐出空間(254)へ吐出され、マフラ(253)からケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出する。
内側シリンダ室(C2)では、図8(B)の状態で低圧室(C2-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸部(33)が図の時計回りに回転して図8(C)〜図8(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(C2-Lp)の容積が増大するときに、冷媒が、吸入管(14)、吸入空間(256)、吸入口(274)、及び貫通孔(265)を通って内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)へ吸入される。
図8(A)の状態になると、上記低圧室(C2-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C2-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C2-Hp)となり、再び図8(B)になると、ブレード(273)を隔てて新たな低圧室(C2-Lp)が形成される。駆動軸部(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C2-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C2-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C2-Hp)で冷媒が圧縮される。高圧室(C2-Hp)の圧力が所定値となって吐出空間(254)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(C2-Hp)の高圧冷媒によって吐出弁が開き、高圧冷媒が吐出空間(254)へ吐出され、マフラ(253)からケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出する。
外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)で圧縮されてケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出した高圧の冷媒は吐出管(15)から吐出され、冷媒回路で凝縮行程、膨張行程、及び蒸発行程を経た後、再度圧縮機(201)に吸入される。
−シール機構−
続いて、上記シール機構(280)について詳しく説明する。
シール機構(280)は、図9に示すように、第1シールリング(281)と、第2シールリング(282)と、ウェーブワッシャ(283)とを有している。これら第1シールリング(281)、第2シールリング(282)及びウェーブワッシャ(283)は、上部ハウジング(240)に形成された凹溝(246)内において、該凹溝(246)の底面(246a)から順に第2シールリング(282)、ウェーブワッシャ(283)、第1シールリング(281)の順で重ねて配設されている。これら第1シールリング(281)がシールリングを、第2シールリング(282)がリング部材を構成している。
第1シールリング(281)は、鋳鉄製であって平面視で環状に形成されている。この第1シールリング(281)は、その前面(281a)がシリンダ側鏡板部(277)の背面(上部ハウジング(240)と対向する面)(277a)に当接している。また、第1シールリング(281)の背面(281b)には、径方向外側(外周側)において上部ハウジング(240)側に垂直に突出する筒状の周壁部(281e)が形成されている。第1シールリング(281)の前面(281a)と背面(281b)とは互いに平行に形成されている。この第1シールリング(281)の内外径は、該第1シールリング(281)が凹溝(246)内に配設された状態において、該凹溝(246)の外周面(246b)及び内周面(246c)と若干の隙間を有する程度の寸法となっている。また、第1シールリング(281)の高さは、シリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)と凹溝(246)の底面(246a)との距離よりも小さな寸法となっている。尚、第1シールリング(281)の前面(281a)の外周側縁部には面取加工が施されている。この前面(281a)が一面を構成し、背面(281b)が他面を構成する。また、この前面(281a)のうち、面取加工が施されていない部分が摺接面を構成し、以下、前面(281a)と称する面は、面取加工が施されていない、シリンダ側鏡板部(277)と当接する面を表すものとする。
ウェーブワッシャ(283)は、金属製であって平面視で環状に形成されている。このウェーブワッシャ(283)は、その周方向全周に亘って波打つように形成されている。また、ウェーブワッシャ(283)は、その内径が凹溝(246)の内径よりも大きく、その外径が第1シールリング(281)の周壁部(281e)の内径よりも小さく形成されている。このウェーブワッシャ(283)は、凹溝(246)内において、第1シールリング(281)の背面(281b)上であって周壁部(281e)寄りの位置に載置されている。
第2シールリング(282)は、樹脂製であって、平面視で環状に形成されている。その断面形状が、略長方形となっている。第2シールリング(282)は、その内径が凹溝(246)の内径よりも大きく、その外径が第1シールリング(281)の周壁部(281e)の内径よりも若干小さく(第2シールリング(282)の外周面(282c)と第1シールリング(281)の周壁部(281e)が略接触する程度に)形成されている。また、第2シールリング(282)は、図10に示すように、その周方向の1箇所に階段状の切り込み部(282e)が形成されており、径方向外方に広がるように変形可能に構成されている。この第2シールリング(282)は、その前面(282a)がウェーブワッシャ(283)と当接する一方、その背面(282b)が凹溝(246)の底面(246a)と当接するようにして、凹溝(246)内に配設されている。
第1シールリング(281)、第2シールリング(282)及びウェーブワッシャ(283)が凹溝(246)内に配設された状態においては、ウェーブワッシャ(283)がその軸方向(即ち、シリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)と直交する方向)に僅かに圧縮変形しており、その弾性力によって第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)に、第2シールリング(282)を凹溝(246)の底面(246a)に当接させている。尚、このウェーブワッシャ(283)によって付与される弾性力は、該第1シールリング(281)とシリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)との当接状態および該第2シールリング(282)と凹溝(246)の底面(246a)との当接状態を維持できる程度の大きさである。
こうして、シリンダ(270)がそのシリンダ室(C)内にピストン(260)を収容するように配設された状態において、シリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)には、第1シールリング(281)の前面(281a)が当接していると共に、凹溝(246)の底面(246a)には、第2シールリング(282)の背面(282b)が当接している。そして、詳しくは後述するが、高圧空間(258)の高圧が第2シールリング(282)に作用することによって、該第2シールリング(282)の外周面(282c)が第1シールリング(281)の周壁部(281e)の内周面(281f)に当接する。この内周面(281f)が周壁部(281e)の高圧空間側の壁面を構成する。こうして、上部ハウジング(240)とシリンダ側鏡板部(277)との間に形成される背圧空間(257)は、シール機構(280)よりも内側の高圧空間(258)と、シール機構(280)よりも外側の低圧空間(259)とに仕切られている。
圧縮機(201)の運転状態においては、高圧空間(258)は、駆動軸部(33)の給油通路を通じて供給された高圧状態の潤滑油で満たされているため、高圧空間(258)の内圧は圧縮機構(220)から吐出された冷媒の圧力(吐出圧力)とほぼ同じになる。また、低圧空間(259)には吸入ポート(244)を介して外部から冷媒が吸入されているため、低圧空間(259)の内圧は、圧縮機構(220)へ吸入される冷媒の圧力(吸入圧力)とほぼ同じである。つまり、高圧空間(258)は、その内圧が吐出圧力と略等しい高圧空間となっており、低圧空間(259)は、その内圧が高圧空間(258)の内圧よりも低い低圧空間となっている。
こうして、シール機構(280)によって背圧空間(257)を高圧空間(258)と低圧空間(259)とを仕切る構成においては、該シール機構(280)に高圧空間(258)及び低圧空間(259)の内圧が作用している。
詳しくは、第2シールリング(282)及び第1シールリング(281)の背面(281b)等は凹溝(246)内に配設されているが、第1シールリング(281)と凹溝(246)の外周面(246b)及び内周面(246c)との間には隙間が設けられているため、凹溝(246)内に高圧空間(258)及び低圧空間(259)の内圧が導入され、該内圧が該第2シールリング(282)及び第1シールリング(281)の背面(281b)等に作用する。尚、第1シールリング(281)と凹溝(246)の内周面(246c)との隙間の方が、第1シールリング(281)と凹溝(246)の外周面(246b)との隙間よりも大きく設けられているため、凹溝(246)内には高圧空間(258)の高圧が確実に導入されるようになっている。
そして、低圧空間(259)の背圧を基準とした差圧で考えると、第1シールリング(281)の背面(281b)には、高圧空間(258)の高圧P2と低圧空間(59)の低圧P1との差圧P2−P1が一様に作用している。すなわち、この背面(281b)は、高圧が作用する受圧面(281c)となっている。
ここで、該受圧面(281c)に作用する差圧に基づいて該受圧面(281c)に作用する、第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)へ押し付ける方向の力(Fp)の大きさは、該差圧の大きさと、受圧面(281c)の、前面(281a)に平行な面に対する投影面積A2とで決まる(尚、図9は縦断面図であるため、面積A1,A2,A2’を線分で表している)。本実施形態では、受圧面(281c)はシリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)と平行であるため、該受圧面(281c)の投影面積A2は、該受圧面(281c)の面積A2’そのものである。すなわち、該受圧面(281c)に作用する差圧は、シリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)と直交する方向に作用しているため、該差圧の全成分が第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)へ押し付ける方向の力(Fp)となる。
一方、第1シールリング(281)の前面(281a)は、シリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)と摺接しているものの、該前面(281a)と背面(277a)との間を通って、高圧空間(258)から低圧空間(259)へ潤滑油が漏れるため、該前面(281a)にも高圧空間(258)及び低圧空間(259)の内圧が作用している。具体的には、実施形態1と同様に、前面(281a)の内周側端部から外周側端部へ向けて、高圧空間(258)と低圧空間(259)との差圧P2−P1から零まで線形的に変化する圧力分布(図6参照)の差圧が作用している。
ここで、該前面(281a)に作用する差圧に基づいて該前面(281a)に作用する、第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)から引き離す方向の力(Fr)の大きさは、該差圧の大きさと、前面(281a)の、シリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)に平行な面に対する投影面積とで決まる。前面(281a)はシリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)と摺接していて該背面(277a)と平行であるため、該前面(281a)の投影面積は、該前面(281a)の面積A1そのものである。すなわち、該前面(281a)に作用する差圧は、シリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)と直交する方向に作用しているため、該差圧の全成分が第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)から引き離す方向の力(Fr)となる。
尚、第1シールリング(281)の内周面(281d)及び周壁部(281e)の内周面(281f)にも高圧空間(258)の高圧が作用するが、該内周面(281d)及び内周面(281f)はシリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)に対して垂直であるため、該内周面(281d)及び内周面(281f)に作用する差圧は第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)側又は上部ハウジング(240)側へ押圧する力を生じさせない。
こうして、第1シールリング(281)に高圧空間(258)と低圧空間(259)との差圧が作用する結果、該第1シールリング(281)には、シリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)に直交する方向について、第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)へ押し付ける方向の力(Fp)と第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)から引き離す方向の力(Fr)との合力がスラスト力(Fp-Fr)として、該第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)へ当接させるように作用している。ここで、第1シールリング(281)の受圧面(281c)の投影面積A2を前面(281a)の面積A1よりも小さく、具体的には、上記数式(h)を満たすように設定することによって、第1シールリング(281)とシリンダ側鏡板部(277)との間に、該第1シールリング(281)とシリンダ側鏡板部(277)との摺接状態が維持できる程度のスラスト力(Fp-Fr)を生じさせると共に、該スラスト力(Fp-Fr)を可及的に抑制して第1シールリング(281)とシリンダ側鏡板部(277)との間のスラスト損失を抑制している。
一方、高圧空間(258)の高圧は、第2シールリング(282)の前面(282a)及び内周面(282d)にも一様に作用している。その結果、第2シールリング(282)は、凹溝(246)の底面(246a)方向に押圧されて該底面(246a)と確実に当接すると共に、第1シールリング(281)の周壁部(281e)の内周面(281f)方向に押圧されて該内周面(281f)と確実に当接する。尚、第2シールリング(282)は、上記切り込み部(282e)が設けられているため、圧縮機(201)が停止状態において第1シールリング(281)の周壁部(281e)の内周面(281f)と当接していなくても、高圧空間(258)の高圧が作用することで径方向外方に広がるように変形して、第1シールリング(281)の周壁部(281e)の内周面(281f)と確実に当接するようになっている。
−実施形態2の効果−
したがって、上記実施形態2によれば、第1シールリング(281)の背面(281b)において外周側部分から上部ハウジング(240)側に突出する周壁部(281e)を設けることによって、背面側において高圧空間(258)の高圧が作用する受圧面(281c)の面積を前面(281a)に対して小さくすることができ、第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)へ押し付ける方向の力(Fp)とシリンダ側鏡板部(277)から引き離す方向の力(Fr)との差を小さくすることができる。その結果、第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)へ押し付けるスラスト力(Fp-Fr)を小さくすることができ、第1シールリング(281)の前面(281a)とシリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)との間のスラスト損失を低減することができる。
また、第1シールリング(281)の周壁部(281e)の内周面(281f)と凹溝(246)の底面(246a)とにそれぞれ当接する第2シールリング(282)を設けることによって、第1シールリング(281)と凹溝(246)の底面(246a)との間の隙間を封止して、高圧空間(258)と低圧空間(259)とに仕切ることができると共に、第1シールリング(281)における周壁部(281e)の内周面(281f)よりも径方向外側に位置する部分に高圧空間の高圧が作用しないようにして、第1シールリング(281)をシリンダ側鏡板部(277)へ押し付ける方向の力(Fp)を抑制することができる。
さらに、上記第2シールリング(282)に切り込み部(282e)を設けることによって、圧縮機(201)の組立時等、圧縮機(201)の停止時においては、該第2シールリング(282)と第1シールリング(281)の周壁部(281e)の内周面(281f)との間に僅かに隙間が形成される一方、圧縮機(201)の運転時においては、該第2シールリング(282)が径方向外方に広がって第1シールリング(281)の周壁部(281e)の内周面(281f)と当接するように構成することができ、その結果、圧縮機(201)の組立性を向上させることができると共に、高圧空間(258)と低圧空間(259)とを確実に仕切ることができる。
さらに、第1シールリング(281)と第2シールリング(282)との間にウェーブワッシャ(283)を介設することによって、高圧空間(258)の高圧が作用していない状態においても、第1シールリング(281)の前面(281a)をシリンダ側鏡板部(277)の背面(277a)に当接させると共に、第2シールリング(282)の背面(282b)を凹溝(246)の底面(246a)に当接させることができる。
《発明の実施形態3》
次に、本発明の実施形態3について説明する。
実施形態3に係る圧縮機(301)は、固定スクロールと可動スクロールとで流体室を形成するスクロール圧縮機である点で、シリンダとピストンとで圧縮室を形成する実施形態1、2に係る圧縮機と異なる。そこで、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
図11に示すように、スクロール型圧縮機(301)は、密閉ドーム型の圧力容器により構成されたケーシング(10)を備えている。このケーシング(10)の内部には、上方寄り順に、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構(320)と、この圧縮機構(320)を駆動する電動機(30)と、下部軸受(335)が収容されている。上記圧縮機構(320)と電動機(30)とは、上下方向に延在する駆動軸部(33)で連結されている。
上記ケーシング(10)には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(320)に導く吸入管(14)と、ケーシング(10)内の冷媒をケーシング(10)外に吐出させる吐出管(15)とが接合されている。上記吸入管(14)は、圧縮機構(320)の後述する圧縮室(C)に開口している。一方、上記吐出管(15)は、ケーシング(10)内の高圧空間(19)に開口している。
上記駆動軸部(33)は、主軸部(33a)と偏心部(33b)とを備え、該主軸部(33a)が上記下部軸受(335)及び後述するハウジング(317)に回転自在に支持されている。偏心部(33b)は、駆動軸部(33)の上端に形成されている。この偏心部(33b)は、駆動軸部(33)の軸心(回転軸(X))から所定量偏心している。一方、駆動軸部(33)の下端には、ケーシング(10)の底部に溜まった冷凍機油を汲み上げる給油ポンプ(34)が設けられている。この給油ポンプ(34)は、駆動軸部(33)の上下方向に貫通形成された給油路(35)を経由して冷凍機油を圧縮機構(320)の各摺動部などに供給する。
上記圧縮機構(320)は、固定スクロール(360)と、可動スクロール(370)と、ハウジング(317)とを備えている。この圧縮機構(320)では、固定スクロール(360)の固定側ラップ(363)と、可動スクロール(370)の可動側ラップ(372)とが噛み合わされることにより、流体室である圧縮室(C)が形成されている。固定スクロール(360)が固定部材を、可動スクロール(370)が可動部材を、ハウジング(317)がハウジングを構成する。
上記固定スクロール(360)は、固定側鏡板部(361)と外周筒部(362)と固定側ラップ(363)とを備え、ケーシング(10)の上側端板部(12)に固定されている。
固定側鏡板部(361)は、円板状に形成されており、その中央部には、吸入口(図示省略)が貫通形成されている。
外周筒部(362)は、固定側鏡板部(361)の周縁部から下方(可動スクロール(370)側)へ向かって延びる円筒状に形成されている。
固定側ラップ(363)は、上記外周筒部(362)で囲まれた空間内において、固定側鏡板部(361)の前面(可動スクロール(370)と対向する面)側に立設され、固定側鏡板部(361)と一体に形成されている。この固定側ラップ(363)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。
上記可動スクロール(370)は、可動側鏡板部(371)と可動側ラップ(372)と突出筒部(373)とを備えている。
可動側鏡板部(371)は、円板状に形成されている。この可動側鏡板部(371)では、その前面(固定スクロール(360)と対向する面)に可動側ラップ(372)が立設され、その背面(ハウジング(317)と対向する面)(371a)に突出筒部(373)が立設されている。
可動側ラップ(372)は、可動側鏡板部(371)と一体に形成されている。この可動側ラップ(372)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。
突出筒部(373)は、円筒状に形成されており、可動側鏡板部(371)の背面(371a)のほぼ中央に配置されている。この突出筒部(373)には、駆動軸部(33)の偏心部(33b)が回転自在に嵌め込まれている。つまり、可動スクロール(370)には、駆動軸部(33)の偏心部(33b)が係合している。駆動軸部(33)が回転すると、偏心部(33b)と係合した可動スクロール(370)は、回転軸(X)を中心として偏心回転する。その際、可動スクロール(370)の回転半径は、偏心部(33b)の軸心と駆動軸部(33)の回転軸(X)との距離、即ち偏心部(33b)の偏心量と一致する。
上記ハウジング(317)は、ケーシング(10)の円筒部(11)に固定されている。このハウジング(317)は、上段部(317a)と中段部(317b)と下段部(317c)とによって構成されている。上段部(317a)は、皿状に形成されている。中段部(317b)は、上段部(317a)よりも小径の円筒状に形成され、上段部(317a)の下面から下方へ突出している。下段部(317c)は、中段部(317b)よりも小径の円筒状に形成され、中段部(317b)の下面から下方へ突出している。この上段部(317a)には、自転防止機構であるオルダムリング(318)が設けられている。また、上段部(317a)の前面(可動部材である可動スクロール(370)と対向する面)(317d)の内周端部には、凹溝(319)が形成され、該凹溝(319)内には、シール機構(380)が配設されている。さらに、下段部(317c)には、上記駆動軸部(33)の主軸部(33a)が挿通されており、この下段部(317c)が駆動軸部(33)を支持する滑り軸受けとなっている。また、駆動軸部(33)の偏心部(33b)は、中段部(317b)の内側に位置している。
このように構成された圧縮機構(320)では、固定スクロール(360)とハウジング(317)に囲まれた空間内に可動スクロール(370)が収納される。このとき、可動側ラップ(472)と固定側ラップ(363)は、互いに噛み合わされて複数の圧縮室(C)を形成している。また、可動スクロール(370)は、オルダムリング(318)を介してハウジング(317)の上段部(317a)に載置されている。そして、ハウジング(317)と可動スクロール(370)とで区画された背圧空間(357)は、シール機構(380)よりも径方向内側の高圧空間(358)とシール機構(380)よりも径方向外側の低圧空間(359)とに区画されている。
−シール機構−
続いて、上記シール機構(380)について説明する。
シール機構(380)は、実施形態1に係るシール機構(80)とほとんど同じ構成をしている。このシール機構(380)は、図12に示すように、Oリング(381)とシールリング(382)とを有している。これらシールリング(382)及びOリング(381)は、ハウジング(317)に形成された凹溝(319)内において、該凹溝(319)の底面(319a)からOリング(381)、シールリング(382)の順で重ねて配設されている。
そして、該シールリング(382)の背面(382b)が前面(382a)(即ち、可動側鏡板部(371)の背面(371a))に対して平行でなく傾斜している点で、実施形態1と異なる。その他の点については、実施形態1に係るシールリング(82)と同じである。
一方、Oリング(381)は、シールリング(382)の背面(382b)と凹溝(319)の底面(319a)とに当接するだけで、凹溝(319)の外周面(319b)と当接していない点で、実施形態1と異なる。その他の点については、実施形態1に係るOリング(81)と同じである。このOリング(381)がリング部材を構成する。
つまり、実施形態3では、シールリング(382)の受圧面(背面(382b)におけるOリング(381)が当接する箇所よりも高圧空間(358)側の部分)(382c)に作用する差圧の全成分が、該シールリング(382)を可動側鏡板部(371)に押し付ける方向の力(Fp)となるのではなく、該受圧面(382c)に作用する差圧のうち、可動側鏡板部(371)の背面(371a)と直交する方向の成分のみがシールリング(382)を可動側鏡板部(371)に押し付ける方向の力(Fp)となる。つまり、受圧面(382c)(詳しくは、受圧面(382c)のうち前面(382a)側の面取部分と対向する部分を除いた部分)の、前面(382a)と平行な面に対する投影面積A2(尚、図12は縦断面図であるため、面積A1,A2,A2’を線分で表している)が上記数式(h)を満たすように、受圧面(382c)の面積A2’を設定することによって、シールリング(82)と可動側鏡板部(371)との間のスラスト力(Fp-Fr)を小さく且つ、シールリング(82)と可動側鏡板部(371)との摺接状態を維持できる程度の大きさにする設定することができる。尚、受圧面(382c)の面積A2’は、Oリング(381)の形状又はサイズを変更することによって所望の値に設定することができる。
−実施形態3の効果−
したがって、シールリング(382)の受圧面(382c)が可動側鏡板部(371)の背面(371a)に対して傾斜している構成であっても、シールリング(382)の背面(382b)とハウジング(317)との間にOリング(381)を介設することによって、受圧面(382c)の投影面積A2を小さくすることができ、シールリング(382)の背面(382b)に作用するシールリング(382)を可動側鏡板部(371)へ押し付ける力(Fp)と、シールリング(382)の前面(382a)に作用するシールリング(382)を可動側鏡板部(371)から引き離す力(Fr)との差を小さくすることができる。その結果、シールリング(382)の前面(382a)と可動側鏡板部(371)の背面(371a)との間のスラスト損失を低減することができる。
また、シールリング(382)及びOリング(381)を凹溝(319)内に配設した状態において、該シールリング(382)及びOリング(381)と凹溝(319)の内周面(319c)との間に隙間を設けることによって、凹溝(319)内に高圧空間(358)の高圧を確実に導入させることができ、該凹溝(319)内に位置するシールリング(382)の受圧面(382c)やOリング(381)に高圧空間(358)の高圧を作用させることができる。
さらに、Oリング(381)は、凹溝(319)の外周面(319b)と当接していないが、シールリング(382)の背面(382b)と凹溝(319)の底面(319a)とにそれぞれ当接することによって、シールリング(382)の背面(382b)と凹溝(319)の底面(319a)との間の隙間を封止して、高圧空間(358)と低圧空間(359)とに仕切ることができる。尚、このことは、Oリング(381)が凹溝(319)の外周面(319b)と当接することを排除するものではなく、シールリング(382)の背面(382b)の傾斜角度やOリング(381)の形状及びサイズによっては、Oリング(381)が凹溝(319)の外周面(319b)と当接する場合もあり得る。
その他、実施形態1と同様の作用・効果を奏することができる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
すなわち、上記実施形態1〜3では、3種類の圧縮機と3種類のシール機構について説明したが、圧縮機(1,201,301)とシール機構(80,280,380)とは各実施形態に記載された組合せに限られるものではない。例えば、実施形態1に係る圧縮機(1)と実施形態2に係るシール機構(280)とを組み合わせる構成であってもよく、任意の組み合わせを採用することができる。また、圧縮機(1,201,301)は上記の構成に限られるものではなく、可動部材が固定部材に対して偏心回転して該固定部材と該可動部材との間に形成された圧縮室の容積を変化させることで、該圧縮室内の流体を圧縮する回転式圧縮機であれば、任意の圧縮機を採用することができる。さらに、シール機構(80,280,380)についても上記の構成に限られるものではなく、背圧空間を高圧空間と低圧空間とに仕切ると共に、シールリングの受圧面の投影面積がシールリングの前面の面積よりも小さい構成であれば、任意のシール機構を採用することができる。
また、上記シールリング(82,382)及び第1シールリング(281)は、その周方向において切り込み部を設けていない構成であったが、これに限られるものではない。すなわち、実施形態2に係る第2シールリング(282)のように、周方向の一部に切り込み部を設け、径方向外方に広がるように弾性変形することができる構成であってもよい。こうすることで、高圧空間の高圧が作用したときに凹溝の外周面と当接することができ、高圧空間と低圧空間とをさらに確実に仕切ることができる。
さらに、上記実施形態では、ハウジングに凹溝を設け、該凹溝にシール機構を配設する構成について説明したが、これに限られるものではない。すなわち、該ハウジングに対向する可動部材に凹溝を形成して、該凹溝内にシール機構を配設する構成であってもよい。具体的には、実施形態1であれば、シールリング(82)は下部ハウジング(50)と摺接する一方、シールリング(82)とピストン(60)に形成された凹溝との間にOリング(81)が配設される。実施形態2であれば、第1シールリング(281)は上部ハウジング(240)と摺接する一方、第1シールリング(281)とシリンダ(270)に形成された凹溝との間に第2シールリング(282)が配設される。実施形態3であれば、シールリング(382)はハウジング(317)と摺接する一方、及びシールリング(382)と可動スクロール(370)に形成された凹溝との間にOリング(381)が配設される。
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。