JP2008106365A - 耐腐食疲労強度を向上させたばね - Google Patents

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Abstract

【課題】 耐腐食疲労強度を向上させることにより、実使用環境において高い耐久性を有し、また、従来と同等以上の耐へたり性を有するばねを提供する。
【解決手段】 重量比にしてC:0.35〜0.55%、Si:1.60〜3.00%、Mn:0.20〜1.50%、S:0.010%以下、Ni:0.40〜3.00%、Cr:0.10〜1.50%、V:0.05〜0.50%を含有するとともに残部実質的にFeよりなる鋼を材料とし、硬さがHRC50.5〜55.0となるように熱処理を行なった後、表面下0.2mmの位置で−600MPa以上の残留応力が発生するように温間でショットピーニングを施す。なお、ショットピーニング時のばねの温度は100〜300℃が望ましく、ショットピーニングの際のショット球の硬さはHv450〜600が望ましい。
【選択図】 図7

Description

本発明は、耐腐食疲労強度を向上させたばねに関する。
環境保護及び資源保護の観点より、自動車に対しては排出ガス中の有害物質の低減及び燃費の向上が強く要請されている。これらに対して大きく寄与するのが車体の軽量化であるため、車体を構成する各部品について軽量化への努力がたゆまず続けられている。自動車の懸架用ばね等においては、使用応力(設計応力)を高めることが軽量化に直結するが、使用応力上昇により問題となるのが疲労とへたりである。また、自動車に限らず、各種機械の要素として用いられるばねについても同様の問題がある。
そこで、耐疲労性(耐久性)、耐へたり性を高めるために種々の合金元素を添加したばね材料が従来数多く提案されている。例えば、特開平3−2354号公報には、炭素量を低減し、Ni、Crを添加し、そしてN(窒素)を従来よりも多量に添加したばね鋼が提案されている。また、これらに加え、Nb、V、Moの1種又は2種以上を添加することも提案されている。
へたりについては、一般的に、材料の硬さを上げることにより、へたりを有効に減少させることができる。また、理想的な状態の下では、限度はあるものの、材料の硬さの上昇が耐疲労性の向上につながる。しかし、例えば自動車懸架用のばねは自動車の車体の中でも最も水・泥等が付着しやすい箇所に装着されるものであるため、実際の使用を考慮すると、腐食の問題を第一に考えなければならない。腐食はばねの表面にピット(微小穴)を形成し、これを起点とした疲労破壊を引き起こすためである。
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、耐腐食疲労強度を向上させることにより、実使用環境において高い耐久性を有し、また、従来と同等以上の耐へたり性を有するばねを提供することにある。
上記課題を解決するために成された本発明に係るばねは、
a)重量比にしてC:0.35〜0.55%、Si:1.60〜3.00%、Mn:0.20〜1.50%、S:0.010%以下、Ni:0.40〜3.00%、Cr:0.10〜1.50%、V:0.05〜0.50%を含有するとともに残部実質的にFeよりなる鋼を材料とし、
b)硬さがHRC50.5〜55.0となるように熱処理を行なった後、
c)表面下0.2mmの位置で−600MPa以上の残留応力が発生するように温間でショットピーニングを施した、
ことを特徴とするものである。
ここで、上記材料のP含有量を0.010%以下とすることにより、更に良好な効果を得ることができる。
温間ショットピーニングとは、ばねを室温以上の温度に上昇させた状態でショットピーニングを施すことを意味するが、上記熱処理硬さが低下しないように、当然、熱処理(焼もどし)の温度よりは低温としなければならない。本発明者の実験によると、ショットピーニング時のばねの温度を100〜300℃とすることにより、最も良好な腐食疲労強度が得られることが確かめられた。この温度は、更に望ましくは200〜250℃とするとよい。
上記硬さに調製したばねに温間ショットピーニングを施して上記のような残留応力状態を得るためには、硬さHv450〜600のショット球を用いることが推奨される。この硬さは、更に望ましくはHv500〜550とするとよい。
本発明に係るばねでは、合金元素含有量を適切に設計することにより材料自体に十分な強度、靭性、耐腐食性を付与するとともに、熱処理後の硬さ、温間ショットピーニング処理及びそれによる残留応力値を規定したことにより、従来よりも高応力で使用しても従来と同等若しくはそれ以上の耐へたり性、耐腐食疲労強度を確保することができる。従って、本発明に係るばねを使用することにより、従来通りの性能を確保しつつ、設計応力を高め、ばねの重量を低減することができる。
腐食疲労による破壊の主な原因としては、(1)鋼の遅れ破壊現象、(2)腐食による表面ピット(微小穴)の生成、及び、(3)長期間の使用による残留応力値の低下、が考えられる。
遅れ破壊は高強度鋼に特有の現象であり、鋼に応力が付加されている際、表面に付着した水分や大気中の水蒸気から鋼中に水素が侵入し、結晶粒界や析出物と素地との境界等の不規則部分に集積して圧力を高め、ミクロな亀裂から最終的に破断に至るというものである。各種ばねに用いられる材料は近年特に高強度化が進んでおり、使用時には従来よりも高い応力が負荷されるようになっている上、上述の通り水分等が付着しやすい環境で使用されるため、腐食疲労強度の向上には材料の遅れ破壊特性を十分考慮する必要がある。
腐食による表面ピットは応力集中源となり、疲労強度を著しく低下させる。これに対しては、腐食ピットをできるだけ生成させない、或いは、生成しても応力集中がなるべく少なくなるような形態で生成させるようにすることが一方の方策であり、他方には、腐食ピットが存在しても、そこから亀裂が生じにくいように材料側で対策を施しておくことが重要である。
ばねの場合、残留応力はショットピーニングにより付与されるものであるが、それを詳しく説明すると、ショットピーニングにより表面が塑性変形すると、それよりも下層の塑性変形しない部分との間で変形度に差異が生じ、それによる歪が表面に圧縮の残留応力を生成するものである。従って、腐食により表面層が除去され、或いは表面に微小亀裂が生じると、歪が小さくなり、残留応力値が減少する。
現在、ばねの材料としては、JIS−SUP7鋼、或いはそれにNb、Vを添加したものが多く用いられているが、本発明に係るばねの材料としては、それらよりも更に高応力用として開発された上記特開平3−2354号公報に記載された鋼とほぼ同じものを用いることとした。各成分含有量の上限及び下限設定理由は次の通りである。なお、参考のために、JIS−SUP7鋼と、本発明のばねで用いる材料の各成分含有量を表1に対比して示す。
Figure 2008106365
まず、C含有量をJIS−SUP7鋼(以下、従来鋼と呼ぶ)よりも低い範囲に設定した。これは、硬さ(強度)を同じにした場合、C含有量を多くするよりも、C含有量を低下させて合金元素の含有量を増加した方が靭性が向上するためである。靭性の向上は、腐食ピットからの疲労亀裂の生成及び進展速度を低下させることにより、本発明が目的とする腐食疲労強度の向上に大きく寄与する。なお、C含有量の下限を0.35%としたのは、これ以下では、他の合金元素を最大限添加したとしても、熱処理後上記の硬さを得ることが難しいためである。また、上限を0.55%としたのは、これ以上含有させると材料の靭性が著しく劣化するためである。
Siは耐へたり性向上に効果を有することが知られている。従って、耐へたり性をより向上させるために、本発明ではSi含有量の上限を従来鋼よりも高い値とした。ただし、Siは鋼の表面脱炭を助長する元素であり、3.00%を超えて含有させると、熱処理時の脱炭が無視し得ないものとなる。この場合、表面において上記硬さや残留応力値を得ることが困難となるため、上限をこのように規定した。
Mnは焼入性向上に効果を有する元素である。ばねの中心まで十分な焼入・焼もどしを行なうのは、下記Ni等の合金元素による材料の靭性向上効果を十全に発揮させる上で必須の条件である。Mnが0.2%未満では大径のばねの場合、中心まで十分な焼入が得られないため、下限を0.2%とした。しかし、1.5%を超えて含有させても、通常用いられる大きさのばねにおいては焼入性向上効果が飽和するとともに、靭性の劣化が問題となるため、上限を1.5%とした。
Sは鋼中でMnと結合して鋼に不溶のMnSとなる。MnSは塑性変形しやすいため、圧延等により延伸して衝撃・疲労等による破壊の起点となりやすい。そこで、本発明ではSの上限を0.010%とすることにより、硬さが上昇したときの靭性及び耐疲労性が従来並みとなるようにした。
Niは鋼の靭性向上に効果を有するとともに、鋼の腐食を抑制する効果を有する。腐食の抑制は、上記の通り、腐食ピット生成の防止と、残留応力の減少の防止という両面からばねの腐食疲労強度を向上させる。このようなNiの効果は0.4%以上含有させないと得ることができない。しかし、3%を超えて含有させても、靭性向上効果は飽和する一方、逆に、オーステナイト安定化元素であることから、焼入時にオーステナイトを残留させ、マルテンサイトへの変態を不完全にするおそれがある。また、高価であるため、ばねのコストを大きく押し上げる要因ともなる。従って、上限を3%とした。
CrはMn同様、焼入性向上に効果を有するとともに、表面脱炭を抑制する効果を有する。0.1%未満ではこのような効果が殆ど期待できないため、下限を0.1%とした。しかし、1.5%を超えて含有させてもこのような効果が飽和してしまう上、焼もどし組織を不均一にするという弊害が生ずる。このため上限を1.5%とした。
Vは、Cと結合して微細なVC(炭化バナジウム)として鋼中に析出し、結晶粒を微細化させて鋼の靭性を高める。また、このような微細炭化物を鋼中に多数分散させることにより、外部から侵入したH(水素)が集積する場所を分散させ、上記遅れ破壊の生成を抑制することができる。このような効果を得るためには、Vを0.05%以上含有させる必要がある。しかし、0.5%を超えて含有させると、VCの析出サイトの数が増加することなく、VCが肥大化するだけとなってしまい、そのような効果が得られなくなる。従って上限を0.5%とした。
Pは、鋼の靭性を低下させる。従って、その含有量を0.010%以下とすることにより、材料の靭性を向上させ、ひいては本発明に係るばねの腐食疲労強度を向上させる効果が得られる。特に、本発明に係るばねは従来よりも高硬度で使用するものであるため、靭性の向上は特に重要なものとなる。
次に、本発明に係るばねでは、熱処理(焼入・焼もどし)後の硬さを、従来のばねの一般的な硬さ範囲であるHRC49〜52よりも高くして、HRC50.5〜55.0とした。これは、使用応力(設計応力)の向上に対応してへたりを同等以上に抑えつつ、疲労強度を高めるためであるが、このように硬さを高めても、上記の各種合金元素添加により、材料自体の靭性が向上しているため、疲労強度の低下を生ずることはない。
また、表面下0.2mmの位置における残留応力値を−600MPa以上と規定したが、これは、上記硬さの鋼を適切な条件で温間ショットピーニング処理することにより、十分に得ることができる。最表面ではなく、それよりも0.2mm下の位置における残留応力をこのようにしておくことにより、表面が腐食した場合の表面残留応力の低下を効果的に防止し、腐食疲労強度の低下を最小限に抑えることができる。
[材料試験結果]
耐腐食性、耐遅れ破壊性、及び靭性に関して、本発明ばねの材料自体の特性を従来ばね用材料であるSUP7との対比で試験した。使用した材料の化学組成を表2に示す。表2において、本発明ばね用材料Aは、上記成分範囲内でV含有量を低くしたものであり、材料CはC(炭素)含有量及びS(イオウ)含有量を低くしたものである。また、材料DはP(リン)含有量を低くしたものである。各材料の硬さは、それぞれの使用状態を考慮して、本発明ばね用の材料はいずれもHRC53.5となるように、SUP7はHRC51となるように、それぞれの焼もどし温度を調整した。
Figure 2008106365
(1)遅れ破壊
ノッチを付けた試験片に、電解処理により各材料に積極的に水素を注入し、50〜120kgf/mmの各種応力を負荷させた状態で放置した。各材料において、100時間放置しても遅れ破壊が生じない最大の負荷応力をσ100とし、水素を注入しない場合のσ100Nと水素を注入した場合のσ100Hとの比RH
RH=σ100H/σ100N
により耐遅れ破壊特性を評価した。
結果は図1に示す通りであり、本発明ばね用材料は、V含有量が下限に近い材料Aでも、従来鋼であるSUP7よりも30%以上高い強度比を有していることがわかった。
(2)靭性
各材料のシャルピー衝撃試験を行なった結果は図2に示す通り、C(炭素)、S(イオウ)含有量が上限に近い材料Bでも、本発明ばね用材料は硬さの低い従来鋼SUP7よりも15%近く高い靭性値を有していることがわかった。
[ばね試験結果]
以下は、表3に示すような工程で製造した、表4に示すような諸元を有するばねについて試験をした結果である。
Figure 2008106365
Figure 2008106365
なお、表3における「成形加工」には、熱間成形加工と冷間成形加工の2種が含まれる。
(3)腐食
下記腐食サイクルを最高35回繰り返した場合の、各繰り返し回数におけるばねの最大腐食深さを調査した。
腐食サイクル:(塩水噴霧3時間+乾燥21時間)
腐食サイクルの回数と最大腐食深さの関係を図3に示す。10回以上の腐食サイクルを繰り返した後は、本発明ばねは明らかに従来ばねよりも腐食の進行が遅いことがわかる。従って、例えば自動車の懸架ばねとして使用した場合、本発明に係るばねは、長期間使用した後の疲労強度の低下が特に抑制される。
(4)残留応力
焼もどし後のばねを250℃に加熱して温間ショットピーニングを施し、室温に戻した後の表面からの残留応力分布をX線法により測定した。なお、ショット球は硬さHv520のものを用いた。その結果、図4に示すように、本発明ばねは全般的に従来ばねよりも高い内部残留応力値を有することが分かった。特に、表面から0.2mm(200μm)の深さに着目すると、従来ばねでは430MPa程度まで下がっているのに対し、本発明ばねでは未だ800MPaという高い値を保持している。これにより、表面からの腐食による残留応力の減少が、従来鋼よりも遥かに小さく抑えられる。
また、温間ショットピーニングの効果をより明らかにするため、ショットピーニングを施す際のばねの温度を常温と200〜300℃に変化させた場合の残留応力分布の関係を調査した。その結果、図5に示すように、温間でショットピーニングを施すことにより、表面の圧縮残留応力の値及び最大圧縮残留応力の値が増加するほか、特に、表面よりやや深い部分での残留応力の値が大きくなることが明かとなっている。これは、腐食後の疲労強度の向上に大きく寄与しているものと考えられる。
(5)耐へたり性
この試験は、焼もどし温度を変化させることによりばねの硬さを種々に変えて行なった。なお、本発明ばねの方が使用応力(設計応力)が高くなることを考慮して、締め付け応力は、従来ばねがτ=1000MPaであるのに対して本発明ばねはτ=1200MPaとした。また、へたりを加速させるために、試験条件は80℃×96時間とした。結果は図6に示すとおり、本発明ばねは高応力で締め付けられたにも拘らず、へたり量(残留剪断歪)は従来ばねの約半分となっている。
(6)腐食疲労
同様に各種硬さに調製したばねについて、塗装を施さない状態での腐食疲労試験を行なった。ここでも、使用応力(設計応力)の違いを考慮して、試験応力は、従来ばねではτ=490±294MPaと低く抑え、本発明ばねはτ=588±353MPaと高くした。その結果、図7に示す通り、本発明ばねは全体として平均応力及び応力振幅が大きいにも拘らず、従来ばねと同等程度の腐食疲労寿命を有することがわかった。特に、P含有量を低下させた材料Dを用いた本発明ばねは、高い疲労強度特性を示している。また、本発明ばねの腐食疲労強度は、その成形方法(冷間・熱間)に拘らず良好であることも明かとなっている。温間ショットピーニングは耐腐食疲労性の向上をねらった手法であるが、耐久性が必要な場合には2段目のショットピーニングを常温にて行う。それにより表面粗さが小さくなり、耐久性が向上する。
遅れ破壊試験結果のグラフ。 シャルピー衝撃試験結果のグラフ。 腐食試験結果のグラフ。 表面からの深さと残留応力の関係を示すグラフ。 温間ショットピーニング時の温度と残留応力の関係を示すグラフ。 へたり試験結果のグラフ。 腐食疲労試験結果のグラフ。

Claims (6)

  1. 重量比にしてC:0.35〜0.55%、Si:1.60〜3.00%、Mn:0.20〜1.50%、S:0.010%以下、Ni:0.40〜3.00%、Cr:0.10〜1.50%、V:0.05〜0.50%を含有するとともに残部実質的にFeよりなる鋼を材料とし、硬さがHRC50.5〜55.0となるように熱処理を行なった後、表面下0.2mmの位置で−600MPa以上の残留応力が発生するように温間でショットピーニングを施したことを特徴とするばね。
  2. 上記材料のP含有量を0.010%以下とした請求項1記載のばね。
  3. 熱間でばねの成形を行う請求項1又は2に記載のばね。
  4. 冷間でばねの成形を行う請求項1又は2に記載のばね。
  5. ショットピーニング時のばねの温度を100〜300℃とした請求項1〜4のいずれかに記載のばね。
  6. 硬さHv450〜600のショット球を用いてショットピーニングを施す請求項1〜5のいずれかに記載のばね。
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