JP2008101030A - 低着色ポリグリコール酸、およびその製造方法 - Google Patents

低着色ポリグリコール酸、およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来のポリグリコール酸製造で実現し得なかった、十分な物性を有し、安全かつ安価で、着色が少ないポリグリコール酸の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】式(1)
Figure 2008101030

で表されるグリコール酸からポリグリコール酸の重合反応において[第一工程] グリコール酸水溶液を100℃以上160℃以下で、常圧若しくは減圧下で脱水し、重量平均分子量が1000以上1万以下とするオリゴマー工程、[第二工程] 第一工程で得られたオリゴマーを20℃以上90℃以下の水またはアルカリ水に浸漬する工程、[第三工程] 第二工程で得られたオリゴマーを気中乾燥後、不活性ガス気流下、180℃以上230℃以下で、重量平均分子量3万以上に固相重合する工程、の3段階の工程を含んでなる、着色の少ないポリグリコール酸の新規な製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、着色が少ないポリグリコール酸、およびその新規な製造方法に関する。詳しくは、厚さ50μmの非晶性フィルムにおいて、波長300nm以上の領域で光線透過率が70%以上であるポリグリコール酸、およびグリコール酸の水溶液から、粗脱水、重縮合してオリゴマーとした後、固相重合することによって着色が少ないポリグリコール酸を得る新規な製造方法に関する。
近年、プラスチック廃棄物の処理がクローズアップされている。包装材料のようなプラスチック成形物は、使用された後焼却処理されるか、または埋め立て等により処分されていた。しかし、プラスチック廃棄物を焼却処分した場合、燃焼熱が高いため、焼却炉の耐久性が問題となる。また、ポリ塩化ビニルのような樹脂は、焼却により有害物質を発生させるため、環境汚染の一因となることがある。一方、埋め立て処理の場合には、プラスチック成形物が分解せずに半永久的に残るため、これもまた環境破壊の原因となっていた。
このような状況下、自然環境下で完全に分解され、自然的副産物である炭酸ガス、水などに分解する種々の生分解性プラスチックが開発され、実用レベルの段階に入っている。例えば、脂肪族ポリエステルであるポリグリコール酸は、生分解性ポリマーとして知られており、自然環境下で加水分解され、最終的には微生物によって水と炭酸ガスになる。この特性を利用し、縫合糸等の医療用材料として実用化されている。更に近年は、上記のような各種プラスッチックの廃棄物問題を解決し得る汎用樹脂代替物として注目され、一方実用面からも、高ガスバリア性を有する樹脂として、包装用材料用途への展開も期待されている。
しかしながら、原料であるグリコール酸は比較的安価にも係らず、ポリグリコール酸の安価な製造方法は未だ確立していないため、樹脂としては非常に高価なものであった。安価であり、安全であり、なお且つ高分子量であるポリグリコール酸を工業的に得ることは困難であった。
ポリグリコール酸は、比較的古い時代から知られた樹脂であり、これまでにもポリグリコール酸の工業的製造方法として、種々提案されている。
例えば、特許文献1には、99.5〜100%の高純度グリコール酸から85%以上の脱水重縮合による生成水を留去することによるポリグリコール酸の製造方法が記載されている。その中には無触媒、リン酸、p−トルエンスルホン酸等の酸触媒存在下で初期脱水縮合を促進する旨の記載がある。しかしながら、実施例に記載された製法によるポリグリコール酸は、着色が著しく、かつ十分な分子量を有しておらず(後述の比較例で実証)、紡糸或いはフィルム化等の加工に十分なポリマーであるとは言えない。また、該引例で用いられているグリコール酸種は、99.5%以上の粉体高純度品であり、価格的に高価であることは否めない。更に、一般的に安価に入手可能なグリコール酸水溶液に対して、該技術が適応可能か否か明らかではない。
また、特許文献2には、三酸化アンチモン触媒およびトリフェニルフォスファイト存在下、グリコール酸を脱水重縮合するポリグリコール酸の製造方法の記載がある。また、特許文献3には、三フッ化アンチモン触媒およびトリフェニルフォスファイト存在下、グリコール酸を脱水重縮合するポリグリコール酸の製造方法の記載がある。しかしながら、いずれの技術も180℃以上の高温条件下に溶融状態のポリグリコール酸を長時間曝さねばならず、着色や熱分解による副生物の生成を招くため、好ましい製造方法とはいえない。また、アンチモン等の金属触媒を使用するため、製造物質の安全性を求める近年の市場ニーズに合致した方法であるとは言い難い。
また、特許文献4には、無触媒又は塩化第二錫等の金属触媒存在下、グリコール酸アルキルエステルと該エステルを加水分解させて得たグリコール酸の混合物を重縮合し結晶性のプレポリマーを生成させた後、固相重合することによりポリグリコール酸を得る方法が記載されている。しかし、モノマーであるグリコール酸アルキルエステルを得るためには、グリコール酸にアルキルアルコールを用いてエステル化反応した後、蒸留等の精製操作を行う必要がある。更に、該エステル加水分解させ、再びグリコール酸に戻す必要があるためモノマー製造工程が極めて煩雑となる。それ故、安価なポリグリコール酸の製造方法とは言い難い。更に金属触媒の使用に関しては前述の通りである。
一般的な手法としては、特許文献5に記載されているように、グリコール酸の環状二量体であるグリコライドあるいは乳酸の環状二量体であるラクタイドをアンチモン化合物等の触媒存在下で溶融開環重合させるポリグリコール酸共重合物の製造方法が記載されている。この方法によれば、高分子量のポリグリコール酸共重合物が得られる。しかし、モノマーであるグリコライドを得るためにはグリコール酸をまずオリゴマー化した後、高温条件で解重合させ、高純度グリコライドを捕集することにより製造する。重合、解重合を繰り返すことから、反応工程は極めて煩雑なものとなり、グリコライドは極めて高価なモノマーとなる。また、この製造法によって得られたポリマーは溶融重合時に着色することが多い。
このようにこれまで種々ポリグリコール酸製造方法の検討がなされてきたが、十分な物性を有し、安全かつ安価で、更に着色の少ないポリグリコール酸を工業的に製造し得る技術はほとんど見当たらないのが現状である。
英国特許550837号 米国特許2676945号 米国特許2585427号 特開平11−130847号公報 米国特許2668162号
本発明の解決課題は、上記の問題に鑑み、十分な物性を有し、安全かつ安価で、着色が少ないポリグリコール酸、およびその新規な製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の問題を解決するために鋭意検討した結果、原料にグリコール酸水溶液を用い、粗脱水オリゴマー工程、水またはアルカリ水浸漬工程、固相重合工程の3段階工程を経ることにより、物性的に十分で、安全かつ安価で、着色が少ないポリグリコール酸を製造する方法を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、厚さ50μmの非晶性フィルムにおいて、波長300nm以上の領域で光線透過率が70%以上である、着色が少ないポリグリコール酸を提供する。
式(1)
Figure 2008101030
で表されるグリコール酸からポリグリコール酸の重合反応において
[第一工程] グリコール酸水溶液を100℃以上160℃以下で、常圧若しくは減圧下で脱水し、重量平均分子量が1000以上1万以下とするオリゴマー工程、
[第二工程] 第一工程で得られたオリゴマーを20℃以上90℃以下の水またはアルカリ水に浸漬する工程、
[第三工程] 第二工程で得られたオリゴマーを気中乾燥後、不活性ガス気流下、180℃以上230℃以下で、重量平均分子量3万以上に固相重合する工程、
の3段階の工程を含んでなる、前記着色が少ないポリグリコール酸の製造方法は本発明の好ましい形態である。
第一工程において使用するグリコール酸水溶液のグリコール酸濃度が、50重量%以上、90重量%以下である前記着色が少ないポリグリコール酸の製造方法は本発明の好ましい形態である。
第二工程において使用する水またはアルカリ水のpH値が、7以上12以下である前記着色が少ないポリグリコール酸の製造方法は本発明の好ましい形態である。
第三工程において使用する不活性ガスの流量が、比速度(オリゴマー又はポリマー単位重量、単位時間当りの流通ガス量、以下Svと記載)にして50以上5000ml/hr/gである前記着色が少ないポリグリコール酸の製造方法は本発明の好ましい形態である。
本発明の製造方法で得られるポリグリコール酸は、少なくとも重量平均分子量が3万以上の高分子量物であり、かつ従来知られているポリグリコール酸に比べ、樹脂の着色が少ない。また、重合反応に金属触媒を使用しなくてもよいため、従来技術に比べて安全性が高く、更に安価な原料であるグリコール酸の水溶液を使用するため、従来のポリグリコール酸に比べて安価に製造することが可能である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で使用される必須原料であるグリコール酸は、従来から市販されているグリコール酸水溶液を用いることができる。通常、広く流通しているグリコール酸の水溶液は70重量%であるが、グリコール酸の濃度は特に限定されるものではなく、広い濃度範囲で使用することが可能である。しかしながら、製造における効率を考慮した場合、グリコール酸濃度50〜90重量%程度が適当であり、より好ましくは60〜80重量%程度と考えられる。尚、高濃度であると常温でグリコール酸が析出することがあり、取り扱いが難しくなる。
このグリコール酸水溶液中には、グリコール酸の他、類似化合物としてグリコリルオキシグリコール酸(グリコール酸二量体)、グリコリルオキシグリコリルオキシグリコール酸(グリコール酸三量体)、等のグリコール酸縮合物を含有する。これらについては、ポリグリコール酸重合において有効成分であり、グリコール酸種として包括的に取り扱うことができる。
このグリコール酸水溶液には、微量成分としてギ酸、ジグリコール酸、グリオギザル酸、シュウ酸等の化合物も含有している場合がある。これらの成分は、重合反応を阻害、すなわち分子の末端を封止するものが多い。従って、その含有量は0.5重量%未満であることが好ましい。但し、その組成は製造方法や精製方法によって異なるため一概には言えないが、多くの場合、活性炭等の吸着処理や、減圧蒸留やストリッピングにより除去することができる。更に、本発明の第一工程である、粗脱水オリゴマー工程では、水の留出に同伴して、これら重合阻害物を反応系外に留去することも可能である。
本発明の用いることができる容易に入手可能なグリコール酸水溶液の例としては、デュポン社製の工業用70%グリコール酸やGLYPURE70、大塚化学社製の70%グリコール酸等が挙げられる。好ましく用いられるグリコール酸水溶液はデュポン社製GLYPURE70である。
本発明にかかるポリグリコール酸の製造方法は特に限定されないが、好ましい製造方法としては以下の方法である。以下、工程ごとに説明する。
第一工程のオリゴマー化は、上記のグリコール酸水溶液から、含有される水および一部の縮合水を反応系外に留去することによって行う(この工程を粗脱水と表記することがある)。この時の反応温度は100℃以上160℃以下で、圧力は常圧若しくは減圧下である。反応温度が100℃未満では水および縮合水の留去が困難であり、かつグリコール酸モノマーからオリゴマーへの縮合が進み難い。同じく160℃を超えるとグリコール酸モノマーが反応系外に飛散してしまう。また、圧力については、反応温度が100℃以上であれば常圧でも比較的容易に水および縮合水を系外に留去することが可能であるが、オリゴマー化が進み系の粘性が上昇してきた場合は減圧にすることで反応を促進させることができる。減圧にする場合、望ましい圧力は常圧未満、5kPa以上である。
上記の条件によって得られるポリグリコール酸オリゴマーの分子量は、重量平均分子量で1000以上1万以下、好ましくは3000以上8000以下である。尚、ここで言う重量平均分子量とはゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC)法により測定した値であり、リファレンス検量線としてPMMAを用いている。重量平均分子量(以下、単に分子量と記す)が1000未満の場合は、続く第二・第三工程で分子量が上がらない等の問題を生じる。一方、分子量が1万を超える場合は、反応系内でオリゴマーが析出・固化するために反応系外へ抜出すことが困難となる。
反応における雰囲気は、可能な限り酸素を除去したほうが良い。酸素の存在下でオリゴマー化した場合、最終的に固相重合・ポリマー化した際の着色の原因となる。そのため第一工程においては、初期に窒素等の不活性ガスに置換する必要がある。 第一工程においては、液体状態からポリマーの融液まで、反応系内の粘度が大きく変化する。従って、反応系内の粘度変化に対応して、高粘度流体を攪拌することが可能な反応装置を用いることが望ましい。
次に第二工程について説明する。上記第一工程で得られたオリゴマーは、粉砕によって、ペレットもしくは顆粒状にしておくことが望ましい(以下、ペレットとして記載する)。粒径については、0.5mm以上5.0mm以下が適当である。より好ましい粒径は1.0mm以上3.0mm以下である。
第二工程の水もしくはアルカリ水に上記オリゴマーを浸漬させることによって、固相重合時のペレットの着色を低減することが可能である。この時使用する水もしくはアルカリ水はpHによって管理され、その範囲は7≦pH≦12である。ここで使用されるアルカリ性物質については特に限定されないが、実用面から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等、工業的に用いられるものは何れでも良い。pH値が7未満の酸性領域では上記の効果が無く、またpHが12を超えると強アルカリのためオリゴマーの加水分解が促進されてしまう。また、浸漬の温度は20℃以上90℃以下である。望ましくは50℃以上80℃以下である。更に、浸漬に要する時間は30分以上、2時間以下で十分であり、浸漬の濃度はオリゴマー重量が10重量%以上50重量%以下程度が望ましい。浸漬処理の後、通常の濾過によって、オリゴマーペレットを回収する。尚、この第二工程における分子量の低下はほとんど無く、オリゴマー分子量値に対して10%以下の低減である。
続いて第三工程について説明する。上記第二工程で得られたオリゴマーペレットは、窒素雰囲気下で乾燥し、固相重合工程に供する。固相重合は常圧、静置・不活性ガス気流下によって行われる。反応温度は180℃以上230℃以下で行うが、オリゴマーの融点(Tm)によって、その最適温度を決定する。通常、融点Tmのピークトップより10℃程度低い温度で実施し、融点の上昇に伴って適宜変更する。ポリグリコール酸の融点は、最高240℃付近にあることから、固相重合の最高温度は230℃が適当である。
固相重合時に流通させる不活性ガスは、縮合水の除去および未反応物の除去の作用がある。ここで使用する不活性ガスとはヘリウム、窒素、アルゴン等通常知られている不活性ガスであれば何れでも良いが、コスト等を考慮した場合、窒素を用いることが最も望ましい。また、反応の特性上、極力含有水分が除かれたものが必要である。不活性ガスの流量は、比速度(Sv)、すなわちオリゴマー又はポリマー単位重量、単位時間当りの流通ガス量で表され、50以上5000ml/hr/g以下である。望ましくは、100以上500ml/hr/gである。
固相重合の装置は、ペレットが静置可能であり、不活性ガスの流通および反応温度をコントロールできるものであればどのような容器でも構わないが、一般的には筒状・カラム状の容器が使用される。
第三工程の固相重合反応によって得られるポリグリコール酸の分子量は、少なくとも3万以上である。好ましくは5万以上50万以下、更に好ましくは7万以上40万以下である。
本発明のポリグリコール酸の重合反応においては、触媒なしでも、あるいは従来エステル化反応に用いられている触媒を用いることも可能である。触媒を用いることによって、特に第一工程のオリゴマー化の反応速度を上げることが可能である。従来から知られているエステル化触媒としては金属触媒およびその塩もしくは酸化物、特にスズ系、アンチモン系、チタン系、等多数知られているが、金属系触媒は重合反応終了後も樹脂中に残留することから、近年の製品安全性を求める環境下ではあまり望ましくない。非金属系のエステル化触媒としては有機スルホン系触媒が知られているが、本発明のポリグリコール酸の重合においても、該有機スルホン酸系の触媒を使用することが可能である。ここで用いられる有機スルホン酸触媒とは、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等を挙げることができる。好ましくはベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸が挙げられる。これらの触媒を用いる場合、単独、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機スルホン酸系の触媒を用いる場合、ポリグリコール酸の固相重合が進むに従い、反応温度を上昇させるため、最終的には触媒を揮散させることが可能であり、触媒の残留を極力低減させることができる。
触媒を使用する場合、その添加量はグリコール酸100重量部に対して0.001〜1重量部、好ましくは0.002〜0.5重量部である。
本発明は、ポリグリコール酸ホモポリマーの製造方法に関するが、ポリグリコール酸ホモポリマーの特徴を阻害しない範囲内で、他のモノマー、即ちヒドロキシカルボン酸成分、ジオールおよびジカルボン酸成分を共重合化することも可能である。ここで、阻害してはならないポリグリコール酸ホモポリマーの特徴として、最も重要な要因は結晶性である。即ち、共重合化に伴い結晶性を崩すことで融点Tmが消失するため、第三工程の固相重合が困難となる。共重合化可能な他モノマーの量については、モノマー種によって変るが、目安としてグリコール酸100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下である。
本発明で得られるポリグリコール酸の特徴としては、ポリマーペレットあるいはフィルムの着色が少ないことにある。ポリマーの着色については、熱プレスにより得られる非晶性フィルムの光線透過率によって判断する。光線透過率は波長200〜900nmの紫外〜可視領域で測定した。ここで、本発明にかかるポリグリコール酸から得られる非晶性フィルムのフィルム厚50μm相当で、波長300〜700nmの領域において光線透過率が70〜100%のものをいい、好ましくは72〜100%、より好ましくは74〜100%、である。本発明の製造方法では、ポリグリコール酸の無色透明性を更に向上させるため、適宜還元剤を添加することができる。還元剤は、本発明で得られるポリグリコール酸の着色を抑制または防止する効果を有すること、あるいは原料および溶媒中に混入する酸素を吸着する効果があれば、その種類に特に制限はない。還元剤を単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。それらの中でも食品添加物に指定されているものが望ましいが、それに制限されるものではない。還元剤の使用量は、原料の種類、量比や製造条件によって異なり、特に制限されるものではない。還元剤の添加時期は、特に制限はないが、最も現実的な添加は第一工程のオリゴマー化反応時である。
本発明で得られるポリグリコール酸の用途、使用形態については特に制限は無く、汎用用途から医療具等の特殊用途まで広い範囲で使用することが可能である。また、使用形態については、射出成形体、フィルム・シート状物、繊維等何れの形態でも良い。特にポリグリコール酸の特質である高ガスバリア性を利用するのであれば、フィルム・シート状で使用することが望ましい。また、従来のポリグリコール酸が広く利用されている縫合糸分野においても使用することが可能である。
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
尚、本発明の主な物性は、下記の方法にて測定した。
[融点(Tm)]
島津製作所製 示差熱分析計DSC−60シリーズを用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで測定した。
[重量平均分子量]
ゲルパーミッションクロマトグラフ法(GPC)により測定した。使用した装置は、島津製作所製 CLASS−VPシステムを用い、PMMAによる通常の検量線法により換算した。
[フィルムの光線透過率]
島津製作所製 UV−2450を用い、波長900〜200nmの可視−紫外領域を測定した。
(実施例1)
[第一工程]
攪拌装置、温度計、脱水管および底抜きコックを装着した4つ口フラスコにデュポン社製70%グリコール酸水溶液(GLYPURE70)500.0gおよび触媒としてベンゼンスルホン酸一水和物1.5gを装入した。尚、ここで使用したグリコール酸水溶液の組成は次の通りである。分析はガスクロマトグラフ法によって行った。
グリコール酸 58.4重量%
グリコール酸二量体 9.9重量%
シュウ酸 0.01重量%
水 29.8重量%
攪拌しながら、脱気・窒素置換を3回繰り返した後、常圧下で室温から140℃まで2時間かけて昇温してグリコール酸水溶液に含有される水分を粗脱水した。その後140℃、常圧下で1時間熟成し、続けて、140℃で常圧から70kPaまで徐々に減圧することで残りの水分と縮合水を除去した。この段階で系内の溶液粘度がやや上昇してきた。更に、140℃、70kPaで30分間熟成した後、常圧に戻し、反応フラスコの底抜きコックより内容物を抜出した。抜出し、急冷することにより、内容物は白色の結晶固体のオリゴマーとなった。得られた白色結晶固体オリゴマーの収量は267.8gで、全留出液量は219.4gであった。この段階で、ポリグリコール酸オリゴマーの分子量は重量平均分子量(Mw)で4000、融点は166℃であった。
[第二工程]
上記で得られたポリグリコール酸オリゴマー固体を粉砕・分級して、粒径2.36〜1.00mmのペレットとした。このペレット65gを、70℃に加温したpH11の水酸化ナトリウム水溶液260gに浸漬した。微攪拌しながら1時間浸漬処理した後、濾過回収し、蒸留水100mlで2回洗浄した。その後、窒素雰囲気下60℃で4時間、100℃で1時間乾燥し、白色のオリゴマーペレット45gを得た。この段階でポリグリコール酸オリゴマーの分子量はMwで3900であった。
[第三工程]
上記の第二工程で得られたオリゴマーペレット40gを、窒素流通可能な内容量100ccのSUS製カラムに充填した。このカラムをイナートオーブン内に固定して、窒素流量、すなわち比速度(以下Sv)にして100ml/hr/gの条件下で60℃から150℃まで段階的に加熱して結晶を成長させた。この段階で、オリゴマーの融点は183℃および210℃であった。この後、180℃から230℃まで10℃刻みで各20時間ずつ段階的に固相重合した。尚、この時180℃、190℃では窒素流量をSv100ml/hr/g、200℃以上ではSv300ml/hr/gとした。最終の230℃固相重合後、ポリグリコール酸のペレットは殆ど着色が無く、ほぼ白色であり、分子量はMwで10万、融点は242℃であった。
ここで得られたポリグリコール酸のペレットを、熱プレス機で250℃/7分間溶融・プレスし、液体窒素にて急冷することにより、非晶質、透明のフィルムを得た。このフィルムは厚みが35μmで、ほぼ無色透明であった。このフィルムの光線透過率を900〜200nmの領域で測定したところ、波長300nmで透過率(T%)75.9%、波長400nm以上の領域で透過率が80%以上であった(フィルム厚を50μmに換算)。各波長での光線透過率を表1、および透過率の実測チャートを図1に示す。
(比較例1)
実施例1の第一工程において得られたオリゴマーペレットを、第二工程のアルカリ水に浸漬処理することなく、第三工程の固相重合工程に進めた。固相重合条件は前記実施例1に同じである。その結果、最終230℃の固相重合において得られたポリグリコール酸のペレットは灰褐色に着色しており、その分子量はMwで8.9万、融点は241℃であった。
実施例1と同様に、得られたポリグリコール酸のペレットを熱プレスすることにより厚さ44μmのフィルムとした。このフィルムは透明ではあるがやや灰褐色を呈しており、その光線透過率は波長300nmで56.0%、400〜500nmの領域でも透過率80%未満であった(フィルム厚を50μmに換算)。各波長での光線透過率ならびに透過率の実測チャートを、実施例1の結果と併せ、表1と図1に示す。
(実施例2)
[第一工程]
実施例1と同様の装置にデュポン社製70%グリコール酸水溶液(工業用グレード)500.0gおよび触媒としてベンゼンスルホン酸一水和物1.5gを装入した。尚、ここで使用したグリコール酸水溶液の組成は次の通りである。
グリコール酸 55.6重量%
グリコール酸二量体 9.2重量%
グリオキサル酸 0.2重量%
ギ酸 1.5重量%
シュウ酸 0.01重量%
水 29.7重量%
実施例1の[第一工程]と同様の手順により乳白色結晶オリゴマー267.2gを得えた。尚、この時の全留出液量は218.7gであり、この中にはポリマーの末端封止剤となりうるギ酸が2.0%含有されていた。従って、初期グリコール酸水溶液中に含有されていたギ酸のうち約6割が留出水中に含まれていることになる。ここで得られた乳白色結晶オリゴマーの分子量はMwで5300、融点は170℃であった。
[第二工程]
上記で得られたオリゴマーを粉砕・分級した後、実施例1と同様の手順により、オリゴマーペレットのアルカリ水浸漬処理を行った。ここで得られたオリゴマーペレットの分子量は、Mwで4700であった。
[第三工程]
上記第二工程で得られたオリゴマーペレットについて、実施例1と同様の手順により固相重合を行った。最終230℃の固相重合により得られたポリグリコール酸のペレットはやや黄褐色であり、分子量はMwで8.7万、融点は241℃であった。尚、このポリグリコール酸ペレットを熱プレスしてフィルム状としたところ、フィルム厚は33μmで、僅かに黄褐色で、波長300nmにおける光線透過率は71.1%であった(フィルム厚を50μmに換算)。
(比較例2)
実施例2の第一工程において得られたオリゴマーペレットを、第二工程のアルカリ水に浸漬処理することなく、第三工程の固相重合工程に進めた。固相重合条件は前記実施例1に同じである。その結果、最終230℃の固相重合において得られたポリグリコール酸のペレットは黒褐色に着色しており、その分子量はMwで7.0万、融点は240℃であった。
実施例1と同様に、得られたポリグリコール酸のペレットを熱プレスすることにより厚さ23μmのフィルムとした。このフィルムは透明ではあるが茶褐色を呈しており、その光線透過率は波長300nmで9.2%、700nmにおいても透過率57.5%未満であった(フィルム厚を50μmに換算)。
(比較例3)
先行特許文献英国特許550837号の実施例2に従い、デュポン社製99%グリコール酸500gを実施例1と同様の反応装置に装入し、攪拌、加熱溶解しながら220℃まで昇温した。220℃、常圧で30分間保持した後、3kPaまで減圧し30分間保持、更に250℃まで急激に昇温して溶融状態とした。この後、250℃、3kPaで30分間熟成し、系外に排出固化させた。ここで得られたポリグリコール酸の固体は褐色に着色しており、その分子量は2.3万、融点は215℃であった。尚、ここで得られたポリグリコール酸を熱プレスしてもフィルム状にすることができなかった。
(比較例4)
攪拌装置、温度計を装着した底抜きコック付きの3つ口フラスコに大和化成社製のグリコライド250gおよび触媒としてオクタン酸スズ30ppm、開始剤としてラウリルアルコール3000ppmを装入し、窒素置換の後、室温から210℃まで2時間かけて昇温した。その際、80℃付近にてグリコライドが溶融した。更に、210℃で30分間保持すると急激に系内の粘度が上昇し始めた。その後230℃まで昇温し、1時間保持した後に、底抜きのコックより内容物を排出した。ここで得られたポリグリコール酸は、分子量がMwで14.0万、融点が221℃であった。
実施例1と同様に、得られたポリグリコール酸のペレットを熱プレスすることにより厚さ49μmのフィルムとした。このフィルムは透明ではあるがやや茶褐色を呈しており、その光線透過率は波長300nmで67.1%であった(フィルム厚を50μmに換算)。

表2に各実施例、比較例の値を併せて示す。
Figure 2008101030


Figure 2008101030





本発明の製造方法によって得られるポリグリコール酸は、自然界において分解性を有し、廃棄されても産業廃棄物、家庭廃棄物等として蓄積される恐れがない。また、従来の製法によるポリグリコール酸と比較して着色が極めて少ないことから、食品、電子、医療、薬品、化粧品等の各種包装用フィルムとして広範囲に使用することが可能である。更に、現在実用化されている生体吸収性の縫合糸分野においても問題なく使用できる。
フィルムの透過率の波長依存性を示した。(実施例1および比較例1)

Claims (5)

  1. 厚さ50μmの非晶性フィルムにおいて、波長300nm以上の領域で光線透過率が70%以上である、着色が少ないポリグリコール酸。
  2. 式(1)
    Figure 2008101030


    で表されるグリコール酸からポリグリコール酸の重合反応において
    [第一工程] グリコール酸水溶液を100℃以上160℃以下で、常圧若しくは減圧下で脱水し、重量平均分子量が1000以上1万以下とするオリゴマー工程、
    [第二工程] 第一工程で得られたオリゴマーを20℃以上90℃以下の水またはアルカリ水に浸漬する工程、
    [第三工程] 第二工程で得られたオリゴマーを気中乾燥後、不活性ガス気流下、180℃以上230℃以下で、重量平均分子量3万以上に固相重合する工程、
    の3段階の工程からなる、請求項1記載の着色が少ないポリグリコール酸の製造方法。
  3. 第一工程において使用するグリコール酸水溶液のグリコール酸濃度が、50重量%以上、90重量%以下である請求項2記載の着色が少ないポリグリコール酸の製造方法。
  4. 第二工程において使用する水またはアルカリ水のpH値が、7以上12以下である請求項2記載の着色が少ないポリグリコール酸の製造方法。
  5. 第三工程において使用する不活性ガスの流量が、比速度(オリゴマー又はポリマー単位重量、単位時間当りの流通ガス量、以下Svと記載)にして50以上5000ml/hr/gである請求項2記載の着色が少ないポリグリコール酸の製造方法。
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