JP2008091716A - 半導体レーザ素子、その製造方法、光無線通信用送信装置および光ディスク装置 - Google Patents

半導体レーザ素子、その製造方法、光無線通信用送信装置および光ディスク装置 Download PDF

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Abstract

【課題】低駆動電力かつ高い信頼性を保つことができるように改良された半導体レーザ素子を提供することを主要な目的とする。
【解決手段】活性層105を間に挟んで、上下にp型クラッド層109を含む複数のp型導電型層106〜110,114,115と、n型クラッド層103を含む複数のn型導電型層101〜104とが設けられた半導体レーザ素子において、発振波長が1.0μm以下であり、上記複数のp型導電型層106〜110,114,115のうちのn番目の層をp型導電型層(n)とし、該p型導電型層(n)の光閉じ込め係数をΓ(n)とし、該p型導電型層(n)のドーピング濃度をP(n)としたときのΓ(n)とP(n)の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)] が8.0×1017cm-3 以下であることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、一般的に半導体レーザ素子に関するものであり、より特定的には、該当波長帯で静特性と温度特性を両立させることができるように改良された光無線通信用半導体レーザ素子に関する。この発明は、そのような半導体レーザ素子の製造方法に関する。この発明は、また、そのような半導体レーザ素子を用いた光無線通信用送信装置および光ディスク装置に関する。
近年、IT技術の発達やブロードバンドの普及に従い、音声や映像といった大容量データを、時や場所によらずに扱う機会が増加している。中でも、高速有線インフラと接続された屋内外の固定端末と移動型携帯端末との間で空間を介して大容量データ通信を行うという市場は、今後ますます拡大するものと考えられる。このような無線通信に用いられるキャリアには電波と光があり、後者の信号源には価格面や取り扱いの容易さから現状LEDが使用されている。しかしデータの秘匿性やデータ量の増大による高速化への要請から、半導体レーザ素子を用いた光無線通信技術への期待は高い。このような状況を踏まえ、現在、半導体レーザ素子を用いた新たな高速光無線通信規格の標準化作業が進められている。
この新たな光無線通信規格で用いられる光の波長は、850〜900nmを中心とする波長1.0μm以下の近赤外波長帯である。これは、空間へ光を放射するという使用法に由来する、人体とりわけ目に対する安全性や受光素子の波長依存性によって決まるもので、この波長帯で安定に動作する新たな半導体レーザ素子の開発が必要となる。
しかしながら、この1.0μm以下の近赤外波長帯は、短波長帯光ディスク装置や現状の長波長帯光ファイバ通信で用いられる波長帯のちょうど中間にあたるため、これら従来の波長帯では問題とならなかった半導体レーザ素子の構造パラメータがレーザの特性に大きな影響を与える可能性がある。
そのような構造パラメータのうち、特に半導体レーザ素子の効率に大きな影響を与えるパラメータの一つに、不純物がドーピングされた半導体層内での自由電子吸収αfcがある。
これは自由電子が価電子帯や伝導帯のエネルギーバンド内の同じ谷の中で光を吸収してより高エネルギー側に遷移する現象で、図9の線(a)〜(c)のように、光の波長が長くドーピング濃度が大きいほど、自由電子吸収αfcの値は大きくなる。その関係は理論的に求められており、
Figure 2008091716
と表される。
(式1)で、Nはドーピング濃度、λは光の波長、a〜cは乗数の異なる波長λの係数、τはキャリア緩和時間を表す。最右辺のλの係数であるpは音響/光学フォノンやイオン化不純物による各種の散乱の程度によって異なる値をとり、一般にIII−V系化合物半導体の場合は3〜3.5程度の値となる。
このように自由電子による吸収は波長の3乗程度に比例するため、従来から光ファイバ通信で使用されてきた波長1.3μm以上の長波長帯半導体レーザ素子では非常に問題視されてきた。この問題に対する解決策の一つに、特許文献1に開示の技術がある。この例では、InP系レーザにおいて、キャップ層を除くp型導電型層全層のドーピング濃度を3×1017cm-3〜7×1017cm-3程度という比較的低い値に設定することで自由電子吸収を抑制している。ここで特にp型のドーピング濃度を規定したのは、同じドーピング濃度で比較した場合、p型ドーパントによる自由電子吸収のほうが、n型ドーパントによるものより影響が大きいことによる。
対して光ディスク装置に用いられる短波長帯半導体レーザ素子では、長波長帯半導体レーザ素子とは異なり、自由電子吸収の影響がごく小さいため、p型導電型層のドーピング濃度が5×1018cm-3〜1×1019cm-3程度以下であればあまり問題とされてこなかった。
なおこれらの短波長帯と長波長帯の中間に位置する波長帯の半導体レーザ素子の、自由電子吸収に関する報告もなされている(例えば非特許文献1)。非特許文献1には、n−GaAs基板上に、n−InGaPクラッド層、n−InGaAsP下部光ガイド層、アンドープ量子井戸活性層、p−InGaAsP上部光ガイド層、p−InGaPクラッド層、n−GaAsキャップ層が基板側から順に積層され、その活性層が波長808nm(InGaAsP/InGaAsP量子井戸活性層)もしくは980nm(InGaAs/GaAs量子井戸活性層)で発振するよう設定された、数種のブロードエリア型半導体レーザ素子の記載がある。これらの半導体レーザ素子では、実験的に内部吸収αi=4〜5cm-1程度の値が得られているが、各種の検討により、この内部吸収の値を構成する要因の中に自由電子吸収αfcの影響はほとんど無いと結論づけている。
特許第2699848号公報 Appl.Phys.Lett.Vol.69,No.20,1996
しかし、上で述べた近赤外波長帯半導体レーザ素子の例では、キャップ層を除くp型ドーピング濃度が5×1017cm-3程度と先に述べた長波長帯半導体レーザ素子と同様、比較的低い値に設定されているため、当該波長帯での自由電子吸収の影響については、記載通り根本的に影響がないのか、それともドーピング濃度が低いため自由電子吸収の影響が顕在化していないのか、この例からは確定することができない。
ところで、この近赤外波長帯半導体レーザ素子の例や先述の長波長帯半導体レーザ素子のように、そのp型導電型層のドーピング濃度が5×1017cm-3程度という比較的低い値に設定された半導体レーザ素子では、自由電子吸収の影響が小さくなるのとは逆に、温度特性、素子抵抗、横基本モード発振といった効率以外のレーザの特性に様々な悪影響が生じる。例えば光ガイド層、クラッド層ともにそのp型ドーピング濃度を4×1017cm-3〜6×1017cm-3程度に設定した半導体レーザ素子では、該p型導電型層のキャリアに対する障壁レベルがより高いドーピングがなされた層の障壁レベルよりも低くなるため、レーザの温度特性が悪化する。特に長波長帯に比べ井戸層のエネルギーギャップが大きくキャリアリークが起こり易い近赤外波長帯の半導体レーザ素子の場合、光ガイド層、クラッド層といった活性層以外の層でのキャリアブロック効果の良悪が、より重大な課題となる。
素子抵抗についても、4×1017cm-3〜6×1017cm-3程度という低いドーピング濃度の半導体レーザ素子では、抵抗値の上昇に伴い高駆動電力化するため、特にそのような半導体レーザ素子を発光部品として光無線通信用装置に導入すると、レーザドライバなど装置内の他の構成部品に負荷がかかったり、許容電力の上限が下がり他の回路部品の選択の幅が狭くなりかねない。
またこのような低p型ドーピング濃度下では、キャリアの拡散速度が遅くなるため、空間的ホールバーニングが誘発され発振横モードが不安定化する。このことで半導体レーザ素子の相対雑音強度が上昇し通信時の符号誤り率が増大するため、通信用半導体レーザ素子にとっては大きな問題となる。
以上のことから、波長1.0μm以下の近赤外波長帯で特にp型導電型層のドーピング構造を決定するには、自由電子吸収と、それとトレードオフの関係にある温度特性、素子抵抗、発振横モードの安定性を両立させることが必要となる。特に波長1.0μm以下の近赤外波長帯での自由電子吸収の影響の有無とその程度が不明確であるため、自由電子吸収の影響を受けずに高効率を保ち得る上限のp型ドーパンド濃度を定めることが、該当波長帯のレ−ザ素子を開発する上で必須の課題となる。
本発明はこれらの問題を解決するためになされたもので、低駆動電力かつ高い信頼性を保つことができるように改良された半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
この発明の他の目的は、そのような半導体レーザ素子の製造方法を提供することにある。
この発明のさらに他の目的は、発光素子として該波長帯で上述のような利点をもつ半導体レーザ素子を搭載した高速光無線通信用送信装置を提供することにある。
この発明のさらに他の目的は、そのような半導体レーザ素子を搭載した、高速化競争の続く光ディスク分野で高速読み書きを可能にした光ディスク装置を提供することにある。
この発明にかかる半導体レーザ素子は、活性層を間に挟んで、少なくとも、上下にp型クラッド層を含む複数のp型導電型層とn型クラッド層を含む複数のn型導電型層が設けられた半導体レーザ素子に係り、発振波長が1.0μm以下であり、上記複数のp型導電型層のうちのn番目の層をp型導電型層(n)とし、該p型導電型層(n)の光閉じ込め係数をΓ(n)とし、該p型導電型層(n)のドーピング濃度をP(n)としたときのΓ(n)とP(n)の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)] が8.0×1017cm-3 以下であることを特徴とする。
ここで、光閉じ込め係数は、基板に垂直な方向の光量の総和に対してある層n内に存在する光量の割合である。ここでは、単純に「光の量」という意味で「光量」という言葉を用いる。光閉じ込め係数は、半導体層各層の層厚と組成(屈折率)や上部の電極構造(金属材料種や層厚)、発振する光の波長が決まれば、等価屈折率法をいう計算手法を用いて、各層に存在する光の割合=各層の光閉じ込め係数が一意に決まる。「基板に垂直な方向の層構造」を全層確定した上で計算を行なうと、各層の光閉じ込め係数(垂直方向の光量の総和を1としたときの各層に存在する光量の割合)が一意に決まる。この光閉じ込め係数という概念を説明するために、ある特定の層の光閉じ込め係数を狙いの値にする場合、その層で狙いの値になるよう全層の構造(層厚、組成等)を決定するという手法をとる。
この発明によれば、従来自由電子吸収の影響が不明確だった波長1.0μm以下の近赤外波長帯で自由電子吸収の影響による静特性の悪化を回避することで高い効率の値を得ることができる。
本発明者らは波長1.0μm以下の近赤外波長帯で自由電子吸収を回避できるp型ドーピング構造の“上限の値”を決定するため、実際に波長900nmで発振する半導体レーザ素子でp型ドーピング濃度Pや同じ層の光閉じ込め係数Γの組み合わせが異なる数種類の素子を作製し、効率の値と、効率に直接影響を与える内部吸収αiの値を算出した。
その結果、p型ド−ピング各層(n)の光閉じ込め係数Γ(n)とそのドーピング濃度P(n)との積の総和Σと、半導体レーザ素子の内部吸収αiとの間に図10のような関係があることがわかった。この結果から、自由電子吸収αfcを含む内部吸収αiの値は、p型導電型層(n)の光閉じ込め係数Γ(n)と該p型層ドーピング濃度P(n)との積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)] の値が8.0×1017cm-3を越えると急激に増加することがわかる。
さらに図10によると、総和Σの値が6.0×1017cm-3以下では内部吸収αiの値がほとんど変化しないことから、この数値以下となるp型ドーピング層構造では内部吸収αiに対する自由電子吸収αfcの影響はほとんど無いこともわかった。
これらの事実は、1.0μm以下の近赤外波長帯では自由電子吸収の影響はないとする従来の認識を覆すものであり、該波長帯でも構造によっては自由電子吸収による静特性、特に効率の悪化という影響を蒙り得ることがわかった。また、p型ドーピング濃度に加えp型導電型層の光閉じ込め係数も同時に考慮することで、自由電子吸収の増大につながる比較的高いp型ドーピング濃度でも良好な特性を確保できることもわかった。その結果、自由電子吸収の抑制による効率の改善とはトレードオフの関係にある温度特性や抵抗値の改善を目的に、p型ドーピング濃度を従来の近赤外波長帯の半導体レーザ素子よりも高い値に設定することが可能となった。
なお半導体レーザ素子の内部吸収αiの値は小さいほどよいが、特に10cm-1を越えるとレーザの効率に顕著な影響があり、効率0.96W/A以上という高速無線通信で必要とされる効率値を得られなくなるため、内部吸収の値は10cm-1以下、より好ましくは5cm-1以下であることが望ましい。
この発明の好ましい実施態様によれば、上述の半導体レーザ素子で、p型ドーピング濃度が1.0×1018cm-3以上であるp型導電型層の層厚の合計が、p型導電型層全体の層厚の合計の80%以上を占めることを特徴とする。
その作用は次の通りである。先に述べたように、主なp型導電型層のドーピング濃度を1017cm-3台という比較的低い値に設定した場合、温度特性、素子抵抗、発振横モードといった効率以外のレーザ特性に好ましくない影響が現れる。この影響は、自由電子吸収の場合とは逆で、p型ドーピング濃度が低いほど半導体レーザ素子にとって悪影響となって現れる。これら3種のレーザ特性について、p型ドーピングの影響を調べるため、該当波長帯で半導体レーザ素子を作製しその影響を確認したところ、p型ドーピング濃度を、p型導電型層全体の80%以上の厚さの層で、1×1018cm-3以上とすることで回避できることがわかった。以上のことから、p型ドーピング濃度を従来の近赤外波長帯の半導体レーザ素子での値よりも高く設定することで、自由電子吸収の回避とはトレードオフの関係にある高温度特性、低消費電力、安定した発振横モードを保った波長1.0μm以下の近赤外帯半導体レーザ素子を得ることができる。
この発明のさらに好ましい実施態様によれば、上記半導体レーザ素子において、発振波長が900nm以下であることを特徴とする。
その作用は、発振波長が900nm以下の領域では、図9に示すように、自由電子吸収を表した(式1)のうち波長λの係数pの値が小さくなるため、自由電子吸収による効率の悪化をより効果的に回避することができる。
この発明の他の態様にかかる半導体レーザ素子によれば、上述の半導体レーザ素子において、発振波長が700nm以上であることを特徴とする。
その作用は次の通りである。短波長帯では、自由電子吸収のうちエネルギーバンド内の谷間遷移による吸収の影響が大きくなるといわれる。これは波長に反比例する成分を含む現象だが、特に発明者らは、700nm以下の波長で、自由電子吸収αfcの値が10cm-1を越えることを見出した。このため、本発明のように、700nm以上になるよう発振波長を設定すると、波長に反比例する自由電子吸収成分の影響を蒙ることなく、高効率の半導体レーザ素子を得ることができる。
この発明のさらに好ましい実施態様によれば、上述の半導体レーザ素子において、上記活性層の上下の一方の側には、上記活性層に対して水平方向に光を閉じ込める光閉じ込め構造が設けられており、上記光閉じ込め構造の光が閉じ込められた領域を構成する層の導電型がp型であり、上記光閉じ込め構造のある側の各層の光閉じ込め係数の総和が、該光閉じ込め構造のない側の各層の光閉じ込め係数の総和よりも小さいことを特徴とする。
その作用は次の通りである。本発明の半導体レーザ素子では水平方向の光のモードを安定化するために、特に活性層を挟んで、光閉じ込め構造を含む側の層の光閉じ込め係数を逆側よりも低くしている。一般に同じドーピング濃度で比較すると、p型ドーパントの自由電子吸収係数のほうがn型での値よりも大きいため、光閉じ込め係数を含む側の層をp型としたほうが逆の場合よりも自由電子吸収の影響が小さくなり、効率の値の改善につながる。
この発明のさらに好ましい実施態様によれば、上述の半導体レーザ素子において、電流注入領域と非電流注入領域からなり、活性層に対して水平方向に電流を狭窄する電流狭窄構造を有し、該電流注入領域はp型導電型層からなり、該p型導電型層のドーピング濃度が2.0×1018cm-3以上であることを特徴とする。
その作用は次の通りである。一般的に発振横モードを安定させるため、この電流注入領域は数μm程度という狭い幅に設定されており、さらにその層厚はp型導電型層の大半を占めるため、電流注入領域を形成するp型導電型層の素子抵抗への寄与は極めて大きい。このため、これらの層のドーピング濃度を2.0×1018cm-3以上となるよう設定することにより、より効果的に自由電子吸収による特性の悪化を回避した上で素子の低抵抗化をも実現することができる。
この発明の他の好ましい実施態様によれば、上述の半導体レーザ素子において、電流注入領域と非電流注入領域からなり、上記活性層に対して水平方向に電流を狭窄する電流狭窄構造と、上記活性層に対して水平方向に光を閉じ込める光閉じ込め構造とを有し、上記電流狭窄構造と上記光閉じ込め構造は同じ層構成からなり、両構造の、上記活性層の水平方向の幅を規定する部分であって、該活性層に最も近い部分における幅が2.2μm以上であることを特徴とする。
ここで、同じ層構成という概念は、電流狭窄構造と光閉じ込め構造の双方ともに、同じ上部第二クラッド層、第1キャップ層、第1、第2、第3埋め込み層で形成され、さらに「リッジ幅」も同じことを意味する。
その作用は次の通りである。水平方向に電流狭窄構造/光閉じ込め構造を構成する境界部分の幅が数μmであり横基本モード発振する半導体レーザ素子では、その幅を少し変えると、ニアフィールドパターン(NFP)径は、その変化以上に急激に変化する。このため、この幅が狭いほど、幅に対するニアフィールドパターン(NFP)径が大きくなり、埋め込み層への光の漏れが大きくなる。埋め込み層は、非電流注入領域とするために高濃度にドーピングされており、漏れた光は、その量に応じて、埋め込み層での自由電子吸収の増加に直結する。この境界部分の幅が2.2μm以上の場合、ニアフィールドパターン(NFP)径が境界部分の幅より狭くなるため、埋め込み層への光の漏れによる自由電子吸収の増加を抑制することができる。
上述の半導体レーザ素子において、p型導電型層のうち、活性層に最も近い層のドーピング濃度が2.0×1017cm-3以上であることを特徴とする。
その作用は次の通りである。1.0μm以下の近赤外波長帯の半導体レーザ素子は、長波長帯半導体レーザ素子に比べ、井戸層−障壁層間の伝導体側エネルギーギャップΔEc
が小さいため、アンドープ層に隣接し活性層に最も近いp型導電型層のドーピング濃度を2.0×1017cm-3以上に設定することで、活性層からのキャリアリークに対する障壁層として十分にその役割を果たし、高い温度特性を確保することができる。なお、ここでいう「アンドープ層」とは、層の成長を行う際に設定したドーピング濃度の値が0cm-3であるが、該当層を成長した後、ほかのp型導電型層からドーパントの拡散が起こり、最終的にドーピング濃度が0cm-3ではなくなった可能性のある層のドーピングの状態をいい、そのようなドーピング状態の層を「アンドープ層」としている。
この発明の他の局面に従う半導体レーザ素子は、上述の半導体レーザ素子において、上記活性層と上記p型クラッド層との間にp型光ガイド層が設けられ、上記p型光ガイド層は積層方向に異なるドーピング濃度を有する2層以上の層からなり、2層以上の層からなる上記p型光ガイド層のうち上記活性層に最も近い層のドーピング濃度が、他のp型光ガイド層のドーピング濃度よりも小さいことを特徴とする。
その作用は次の通りである。p型光ガイド層を層の積層方向に2層に分け、活性層に近い側すなわち光閉じ込め係数の大きい側の層のドーピング濃度を遠い側の層での値よりも小さく設定しているため、上記で説明した自由電子吸収の回避と温度特性の改善をより効果的に行うことができる。また活性層に近い部分のドーピング濃度を低くしたためドーピング濃度に比例する拡散速度を小さくすることができ、活性層へのドーパントの拡散を抑制し信頼性の高い半導体レーザ素子を得ることができる。
この発明の好ましい実施態様によれば、上述の半導体レーザ素子において、光閉じ込め係数Γが1.0×10−4以上となるp型導電型層のドーピング濃度が8.0×10-18cm-3以下であることを特徴とする。
その作用は次の通りである。一般に半導体に高濃度ドーピングを行うと層の屈折率が大きくなるが、AlGaAs系材料では8.0×1018cm-3を越えるとこの傾向が顕著となり、該当層の光閉じ込め係数Γが設定値よりも大きくなる。このことは光閉じ込め係数とドーピング濃度の積の総和Σを増大させるため、効率の低下につながる。ただし光閉じ込め係数が1.0×10-4より小さい層では、存在する光の量が極めて少ないため、層の屈折率が増大したとしても、素子全体の光の形状を変えるまでには至らない。本発明では、p型導電型層全層のうち、層の光閉じ込め係数が1.0×10-4以上となる層のドーピング濃度の上限を8.0×1018cm-3以下になるよう設定したため、当初設定の光分布形状を維持することができ、目的通りの高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を得ることができる。
上述の半導体レーザ素子において、p型クラッド層の上部にp型キャップ層を有し、該キャップ層の光閉じ込め係数が5.0×10-5以下であるのが好ましい。
その作用は次の通りである。一般的にキャップ層は低オーミック抵抗とするため1018cm-3から1020cm-3台という非常に高濃度のドーピングがなされており、これらの層に光が存在すると多大な吸収を蒙る。またキャップ層の材料には、コンタクト抵抗を低減するため、小さなエネルギーギャップをもつ半導体材料が用いられるため、周囲の層に比べて屈折率が高くまた発振波長に対して透明な層となる。このため光閉じ込め係数の値で5.0×10-5を越える光が存在すると、キャップ層が導波層となり、活性層を導波する本来の導波光と干渉を起こす。この干渉は電流−光出力特性にキンクを誘発するため、通信用半導体レーザ素子として用いた場合、符号誤り率などの通信品質を劣化させることとなる。本発明ではこれらの影響を回避し、高効率かつ安定に通信動作させうる半導体レーザ素子を得ることができる。
この発明の他の局面に従う方法は、上述の半導体レーザ素子の製造方法であって、各層を有機金属化学気相成長法を用いて積層する方法において、上記活性層の成長温度をその他の層の成長温度よりも低くし、かつ成長温度が変化する境界で成長を一旦中断することを特徴とする。
その作用は次の通りである。もしこの成長温度変更界面で一旦中断せずに連続成長した場合、温度が変化した直後に雰囲気温度のオーバーシュートが生じる。ドーピング量は、ドーパント材料ガスの濃度と被導電型層の材料、成長時の温度で決まるため、雰囲気温度のオーバーシュートのため当初設定の温度とは異なる温度で成長を行った層では、設定通りのドーピング濃度の素子が得られないことになる。本発明ではこの界面で一旦成長を中断して再開するという方法を用いたため、このようなオーバーシュートを起こすことなく、設定通りのp型ドーピング構造を得ることができ、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を製造することができる。
本発明の他の局面に従う光無線通信用送信装置は、上述の半導体レーザ素子を搭載した光無線通信用送信装置に係る。
その作用は次の通りである。第1の発明の半導体レーザ素子は先に説明したように、高効率かつ高温度特性、低消費電力を実現した半導体レーザ素子である。このような特性の半導体レーザ素子を用いることで、今後の高速光無線通信で必要とされる1.0μm以下の波長の光を低駆動電力/電圧で発生させることができるため、レーザドライバの設計の自由度をあげることができる。また半導体レーザ素子自体の寿命が延びるため、装置の信頼性が向上する。
本発明の他の局面に従う光ディスク装置は、上述の半導体レーザ素子を搭載した光ディスク装置に係る。
その作用は次の通りである。上述の半導体レーザ素子は先に説明したように、1.0μm以下の近赤外波長における自由電子吸収の影響を考慮して、高効率かつ高温度特性、低消費電力を実現した半導体レーザ素子である。このような特性の半導体レーザ素子を該装置に適用することで、該当波長帯で高出力化競争が続く光ディスク装置のディスク回転数を従来よりも高速化することができるようになった。このため、特にCD−R/RWなどへの書き込み時に問題となっていたディスクへのアクセス時間が従来の半導体レーザ素子を用いた装置よりも格段に短くなり、より快適な操作を実現した光ディスク装置を提供することができる。
本発明は半導体レーザ素子に関する発明であり、その効果は、波長1.0μm以下の近赤外波長帯で自由電子吸収の影響による静特性の悪化を回避しながら高い濃度のp型ドーピングを行うことができるため、該波長帯で、高い効率と、それとトレードオフの関係にある高温度特性、低消費電力化を両立した半導体レーザ素子を実現することができた。また、本発明によれば、新規光無線通信用の送信装置に用いる波長850〜900nm帯半導体レーザ素子において、活性層の光閉じ込め係数を0.018〜0.025に規定することができ、該当波長帯で静特性と温度特性を両立させることができた。
本発明は半導体レーザ素子の製造方法に関する発明であり、その効果はp型ドーピング濃度を所望の値に設定した半導体レーザ素子を製造する際、有機金属化学気相成長法において起こりうる製造時の雰囲気温度のオーバーシュートを回避することができ、成長時の温度に従って変動する各導電型層のドーピング濃度を設定通りの値になるよう半導体レーザ素子を作製することができ、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を現実に製造することを可能にした。
本発明は半導体レーザ素子を用いた光無線通信用送信装置に関するもので、その効果は1.0μm以下の近赤外波長帯の波長を用いた光無線通信用装置の信頼性を向上させることができ、またレーザドライバの設計の自由度も上げることができた。
本発明は半導体レーザ素子を用いた光ディスク装置に関するもので、その効果は、ディスクの回転数を従来よりも高速化することができ、デ−タの読み書き速度を上げることができた。
〈第1実施形態〉
図1を用いて、本発明の第1の実施形態について説明する。図1はそれぞれ本実施形態にかかる半導体レーザ素子の構造を示す模式的断面図である。なおこの後の全実施形態において、n型の導電型層を「n−」と表し、p型の導電型層を「p−」で表す。また層の名称中の「下部」「上部」とは、活性層を挟んでそれぞれ「基板側」、「基板とは逆側」、に位置することを意味する。
n−GaAs基板101上に、n−GaAsバッファ層102(0.5μm厚)、n−Al0.452Ga0.548As下部クラッド層103(1.8μm厚)、n−Al0.4Ga0.6As下部光ガイド層104(95nm厚)、2層の0.08%圧縮歪In0.06Ga0.94As量子井戸層(4.5nm厚)と3層の無歪Al0.15Ga0.85As障壁層(3層のうち基板側から第1、第3番目の障壁層の層厚21.5nm、第2番目は8nm厚)を交互に積層したアンドープ多重量子井戸活性層105(発振波長0.87μm)、p−Al0.4Ga0.6As上部光ガイド層106(90nm厚)、p−Al0.5Ga0.5As上部第一クラッド層107(0.15μm厚)、p−GaAsエッチングストップ層108(4nm厚)、p−Al0.53Ga0.48As上部第二クラッド層109(1.28μm厚)、p−GaAs第一キャップ層110(0.75μm厚)がこの順に基板側から積層され、リッジの最下部がエッチングストップ層108直上となるリッジストライプ構造を形成している。このリッジストライプ構造は高さが約2μm、幅がエッチングストップ層108層直上で約3.1μmである。この幅をリッジ幅とする。
リッジストライプ構造の両側には、その側面を埋め込む形で、n−Al0.7Ga0.3As第一埋め込み層111(0.6μm厚)、n−GaAs第二埋め込み層112(0.7μm厚)、p−GaAs第三埋め込み層113(0.7μm厚)が積層され、主にリッジストライプ部直下にのみ電流が流れる電流狭窄構造をなしている。さらに リッジストライプ部、埋め込み部の上全面にp−GaAs第二キャップ層114(0.95μm厚)、p−GaAs第三キャップ層115(0.3μm厚)が積層されている。
次に、図2を用いて本実施形態にかかる半導体レーザ素子の製造方法を説明する。層の構成材料や層厚は、上述の通りであるので、ここでは省略している。
図2(a)を参照して、n−基板101上に、n−バッファ層102、n−下部クラッド層103、n−下部光ガイド層104、2層の井戸層と3層の障壁層からなる量子井戸活性層105、p−上部光ガイド層106、p−上部第一クラッド層107、p−エッチングストップ層108、p−上部第二クラッド層109、p−第一キャップ層110を有機金属化学気相成長法(MOCVD法)を用いて、この順に積層する。成長温度については、量子井戸活性層で690℃、それ以外の層では713℃としており、両温度の境界では一旦成長を止めて温度を変えそれが安定した後、再度成長を行った。
その後、図2(b)を参照して、絶縁膜121をマスクとしたエッチング法を用いて、高さが約2μm、幅が最下部で約3.1μmとなるようリッジストライプ構造を作製する。エッチングは硫酸と過酸化水素水の混合水溶液及びフッ酸を用いて、p−GaAsエッチングストップ層108の直上まで行う。次に再度MOCVD法を用いて、リッジストライプ構造の両側にその側面を埋め込む形でn−第一埋め込み層111、n−第二埋め込み層112、p−第三埋め込み層113を順次積層する。このときリッジストライプ構造の上面には、SiO2などの絶縁膜121があるため、リッジストライプ上には各埋め込み層の成長は起こらず、リッジストライプの両側部のみに埋め込み層111〜113を積層することができる。
その後、図2(b)と(c)を参照して、絶縁膜121を除去し、再びMOCVD法を用いて、p−第二キャップ層114、p−第三キャップ層115を積層する。以後図示はしないが、p側n側両表面に各々Ti/Pt/Au、AuGe/Niといった材料で構成されるオーミック電極を蒸着した後、通常のウエハプロセスを経ることで、ストライプ方向に光を出射する共振器長500μmの埋め込みリッジ型半導体レーザ素子を得る。本実施形態ではドーパント用不純物材料として、n型にシリコンSi、p型に亜鉛Znを用いている。
図3を参照して、上下の電極間に電流を通ずると、図中矢印で示す方向に、光出力する。
なお、光出力の水平方向の幅(光閉じ込め構造で決まる幅)については、図3のようにおおよそ上部第二クラッド層109の下幅に相当するが、正確には「上部第二クラッド層109、第1キャップ層110」「第1、第2、第3埋め込み層111,112,113」「リッジ幅(109の下幅)」の関係で決まる。
本実施形態では、第三キャップ層115側である図3の上方から、基板側である図3の下方へ向かって、電流が流れるが、このとき各層の導電型が上に述べたような構造となっているため、第一、第二、第三埋め込み層111,112,113が非電流注入領域となり、電流は、第三キャップ層115から電流注入領域であるリッジストライプ部を通って、活性層105を含む、エッチングストップ層108より下方の層へと流れる電流狭窄構造を形成している。
また本実施形態における活性層水平方向の光閉じ込め構造は、リッジストライプ部を構成する層の一つである上部第二クラッド層109と、非電流注入領域を構成する層の一つである第一埋め込み層111との屈折率の違いにより形成されており、本構造での水平方向の電流狭窄構造と光閉じ込め構造はともにリッジ構造により形づくられている。
本実施形態の半導体レーザ素子の、p型導電型層のドーピング濃度と光閉じ込め係数Γの値は、それぞれ、上部光ガイド層106で(1.35×1018cm-3、0.167)、上部第一クラッド層107で(1.35×1018cm-3、0.118)、上部第二クラッド層109で(2.4×1018cm-3、0.049)、GaAsキャップ層については、第一キャップ層110で(3.0×1018cm-3、1.0×10-6)、第二キャップ層114で(3.0×1018cm-3、1.0×10-7未満)、第三キャップ層115で(1.0×1020cm-3、1.0×10-7未満)とし、p型導電型層(n)の光閉じ込め係数Γ(n)とドーピング濃度P(n)の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)]の値が5.02×1017cm-3となるように設定している。また電流狭窄構造のうち非電流注入部となる埋め込み層のドーピング濃度は、n−第一埋め込み層111で2.0×1018cm-3、n−第二埋め込み層112で3.0×1018cm-3、p−第三埋め込み層113で2.0×1018cm-3とした。
なお、ここで、光閉じ込め係数を記載しているのは、上部光ガイド層106より上の層のみである。基板と垂直な方向にはこれらの層以外にも、基板101、バッファ層102、下部クラッド層103、下部光ガイド層104、量子井戸活性層105と多くの層がある。これらの光閉じ込め係数を足し合わせると、総和は1となる。
また本実施形態の半導体レーザ素子の特性は、効率の値で0.99W/A、内部吸収αiの値として4.0cm-1が得られた。また温度特性も120K以上と良好な値が得られ、p型ドーピング濃度減少による抵抗値の上昇も見られなかった。横モードの不安定化によるキンクの発生もなく直線的な電流−光出力特性が得られた。
本実施形態の半導体レーザ素子では、波長870nmという波長1.0μm以下の近赤外の波長帯で発振し、基板に垂直な方向の光量の総和に対してある層n内に存在する光量の割合を光閉じ込め係数Γ(n)とすると、特にp型導電型層の光閉じ込め係数Γ(n)とドーピング濃度P(n)の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)]の値を5.02×1017cm-3という、8.0×1017cm-3以下の値に設定することで、該当波長帯で自由電子吸収の影響による静特性の悪化を回避することができ、効率0.99W/Aという高い値を得ることができた。
またp型ドーピング濃度と光閉じ込め係数の積の総和を定めると同時に、p型導電型層各層の層厚とドーピング濃度をそれぞれ、上部光ガイド層106で(90nm、1.35×1018cm-3)、上部第一クラッド層107で(0.15μm、1.35×1018cm-3)、上部第二クラッド層109で(1.28μm、2.4×1018cm-3)、第一キャップ層110で(0.75μm、3.0×1018cm-3)、第二キャップ層114で(0.95μm、3.0×1018cm-3)、第三キャップ層115で(0.3μm、1.0×1020cm-3)として、p型導電型層のうち層厚で80%以上にあたる層で、ドーピング濃度が1.0×1018cm-3となるように設定している。
従来技術の項で述べたように、主なp型導電型層のドーピング濃度を1017cm-3台という比較的低い値に設定した場合、温度特性、素子抵抗、発振横モードといった効率以外のレーザ特性に好ましくない影響が現れる。この影響は、自由電子吸収の場合とは逆に、p型ドーピング濃度が低いほどレーザ特性にとっては悪影響となる。このことを踏まえて実際に近赤外波長帯の半導体レーザ素子を作製し、これらのレーザ特性について調べたところ、p型導電型層の全層厚に対し80%以上の厚さの層で、p型ドーピング濃度を1×1018cm-3以上と設定することで、この影響を回避できることがわかった。
本実施形態では、この条件に合うようp型導電型層のドーピング濃度と層厚を定めたことで、該当波長帯で自由電子吸収の影響による静特性の悪化を回避しながら、温度特性120K以上など、その他の特性も良好な値を確保することができた。そして高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を得ることができた。
また本実施形態では、光閉じ込め構造を形成するリッジ部分(上部第二クラッド層109、第一キャップ層110)の導電型をp型としたため、これをn型にした場合に比べて自由電子吸収を抑制でき、より高い効率で発振する半導体レーザ素子を得ることができた。
本実施形態の半導体レーザ素子では活性層水平方向の発振横モードを安定化するために、リッジ部にエネルギーギャップの小さい材料を用いて、エッチングストップ層108より上方の層の光閉じ込め係数を低くしている。その結果、活性層105より下部のn型導電型層の光閉じ込め係数は、活性層105を挟んで等距離にあるp型導電型層のそれよりも大きな値となる。一般に同じドーピング濃度で比較すると、p型ドーパントの自由電子吸収係数はn型の値よりも大きいため、光閉じ込め構造含む側の層をp型としたほうが逆の場合よりも自由電子吸収の影響が小さくでき、効率の向上につながる。
さらに本実施形態では、上部第二クラッド層109、第一〜第三キャップ層110,114,115のドーピング濃度を各々2.4×1018cm-3以上、3.0×1018cm-3、3.0×1018cm-3、1.0×1020cm-3と、全て2.0×1018-3以上となるよう設定している。これらの層は、電流狭窄構造のうち、数μmという狭いリッジ幅でその幅が決まる電流注入領域を構成する層であり、またその層厚の合計が3.28μmとp型導電型層全体の90%以上を占めるため、これらの層の素子抵抗への寄与は極めて大きい。このため、これらの層のドーピング濃度を1.0×1018-3以上となるよう設定することにより、自由電子吸収による特性の悪化を回避すると同時に素子の低抵抗化をも実現することができた。
また本実施形態では第一〜第三キャップ層110,114,115の光閉じ込め係数を合わせて5.0×10-6程度と非常に小さな値になるよう設定している。一般にキャップ層は低オーミック抵抗とするために、1018cm−3〜1020cm-3という非常に高濃度のドーピングがなされており、ここに光が存在すると多大な吸収を蒙る。またキャップ層の材料にはコンタクト抵抗を低減するため、小さなエネルギーギャップをもつ半導体材料が用いられる。本実施形態の場合GaAsを用いているが、この場合、周囲の層に比べて屈折率が高く、また発振波長に対して透明な層となる。このため、光閉じ込め係数で5.0×10-5を越える光が存在すると、このキャップ層が導波層となり、活性層を導波する本来の導波光と干渉を起こす。この干渉は電流−光出力特性に複数のキンクを引き起こすため、符号誤り率などの通信品質を劣化させることとなる。本実施形態ではキャップ層の光閉じ込め係数を、5.0×10-6程度と、5.0×10-5以下になるように設定したため、これらの影響を受けることなく、高効率かつ安定に通信動作させうる半導体レーザ素子を得ることができた。
さらに本実施形態では、光閉じ込め構造と電流狭窄構造の活性層水平方向の幅を規定するリッジ幅を2.2μm以上の値となるようにしており、埋め込み層での自由電子吸収を抑制することができた。リッジ幅数μmで横基本モード発振する半導体レーザ素子の、リッジ幅に対するニアフィールドパターン(NFP)径の変化を調べると、図4のように前者の変化を1とすると、後者は0.11程度と非常に小さいことがわかる。このためリッジ幅が狭いほど、リッジ幅に対するニアフィールドパターン(NFP)径は大きくなり、結果として埋め込み層への光の漏れが大きくなる。埋め込み層は、非電流注入部とするために、高濃度にドーピングされているため、埋め込み層に漏れた光はその量に応じた自由電子吸収の増加に直結することとなる。リッジ幅が2.2μm以上の場合、図4のようにニアフィールドパターン(NFP)の幅がリッジ幅より狭くなるため、埋め込み層への光の漏れによる自由電子吸収の増加を抑制することができる。
ただしリッジ幅が4.0μm以上となると、いわゆる横高次カットオフ周波数を越えて横モードが不安定化する場合が多く、またたとえ基本モードを維持できたとしても、スペクトルホールバーニングにより、これもキンクの発生原因となる。本実施形態ではリッジ幅を4.0μmよりも狭い幅に設定したため、安定に横基本モード発振する半導体レーザ素子を得ることができた。
ところで本実施形態では、このような構造をもつ半導体レーザ素子を有機金属化学気相成長法を用いて作製するにあたり、特に下部光ガイド層104から量子井戸活性層105、さらに量子井戸活性層105から上部光ガイド層106を成長する際、量子井戸活性層成長温度の690℃と活性層以外の層の成長温度713℃の間の温度不連続界面で、ガスの流入を一旦中断し、温度が安定した後に再開するという成長方法を用いている。もしこの界面で一旦中断せず、連続して成長した場合、温度が変化した直後に温度のオーバーシュートが起こる。ドーピング量はドーパント材料ガスの濃度や被導電型層の材料、成長時の温度で決まるため、温度のオーバーシュートが起こり、設定した温度とは異なる温度で成長された層のドーピング濃度は、現実には設定とは異なる値となる。
本実施形態では、該当界面で一旦成長を中断して再開するという方法を用いたため、このようなオーバーシュートが起こらず、各導電型層とも、設定通りのドーピングプロファイルを得ることができ、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を得ることができた。
なお量子井戸活性層を構成する井戸/障壁層の歪の定義については、GaAs基板の格子定数をa(GaAs)、井戸層または障壁層の格子定数をaとして、[a−a(GaAs)] /a(GaAs)で定義され、その符号が正の場合を圧縮歪、負の場合を引っ張り歪としている。また歪の大きさは圧縮/引っ張り歪とも絶対値で表現している。
〈第2実施形態〉
本発明の第2実施形態の半導体レーザ素子について、図5を用いてその構造を説明する。
n−GaAs基板201上に、n−GaAsバッファ層202(0.5μm厚)、n−Al0.45Ga0.55As下部第一クラッド層203a(3.0μm厚)、n−Al0.47Ga0.53As下部第二クラッド層203b(0.24μm厚)、n−Al0.43Ga0.57As下部光ガイド層204(103nm厚)、2層の0.4%圧縮歪In0.21Ga0.79As0.620.38量子井戸層(7.5nm厚)と3層の0.8%引っ張り歪In0.09Ga0.91As0.40.6障壁層(3層のうち基板側から第1、第3番目の障壁層の層厚10nm、第2番目は5nm厚)を交互に積層したアンドープ多重量子井戸活性層205(発振波長0.75μm)、p−Al0.43Ga0.57As上部光ガイド層206 (53nm厚)、p−Al0.49Ga0.51As上部第一クラッド層207(0.177μm厚)、p−GaAsエッチングストップ層208(3nm厚)、p−Al0.49Ga0.51As上部第二クラッド層209(1.28μm厚)、p−GaAsキャップ層 210(0.75μm厚)がこの順に基板側から積層され、リッジの最下部がエッチングストップ層直上となるリッジストライプ構造を形成している。
このリッジストライプ構造は、高さが約2μm、幅がエッチングストップ層208層直上の最も広いところで約2.8μmである。リッジストライプ構造の両側には、その側面を埋め込む形で、n−Al0.7Ga0.3As第一埋め込み層211(0.6μm厚)、n−GaAs第二埋め込み層212(0.7μm厚)、p−GaAs第三埋め込み層213(0.7μm厚)が積層され、主にリッジストライプ部直下にのみ電流が流れる電流狭窄構造をなしている。
さらに、リッジストライプ部、埋め込み部の上全面にp−GaAs第二キャップ層214(0.95μm厚)、p−GaAs第三キャップ層215(0.3μm厚)が積層されている。本実施形態の半導体レーザ素子を有機金属化学気相成長法を用いて作製する際の成長温度や中断といった成長プロファイルは、先の第1実施形態に準ずる。また端面出射型半導体レーザ素子とするまでのプロセスについても、第1実施形態と同じであるため省略した。
本実施形態の半導体レーザ素子の、p型導電型層のドーピング濃度と光閉じ込め係数Γの値は、それぞれ、上部光ガイド層206で(2.0×1018cm-3、0.086)、上部第一クラッド層207で(2.0×1018cm-3、0.146)、上部第二クラッド層209で(4.0×1018cm-3、0.062)、GaAsキャップ層については、第一キャップ層210で(3.0×1018cm-3、5.0×10-6)、第二キャップ層214で(3.0×1018cm-3、1.0×10-7未満)、第三キャップ層215で(1.0×1020cm-3、1.0×10-7未満)とし、p型導電型層(n)の光閉じ込め係数Γ(n)とドーピング濃度P(n)の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)] の値が7.77×1017cm-3となるように設定している。また電流狭窄構造のうち非電流注入部となる埋め込み層のドーピング濃度は、n−第一埋め込み層211で3.0×1018cm-3、n−第二埋め込み層212で3.0×1018cm-3、p−第三埋め込み層213で5.0×1018cm-3とした。
また本実施形態の半導体レーザ素子は、効率の値で0.97W/A、内部吸収αiの値として5cm−1が得られた。また温度特性も120K以上と良好な値が得られ、p型ドーピング濃度減少による抵抗値の上昇もみられなかった。横モードの不安定化によるキンクの発生もなく直線的な電流−光出力特性が得られた。
本実施形態の半導体レーザ素子では、第1実施形態と同じように、波長750nmという波長1.0μm以下の近赤外の波長帯で発振し、基板に垂直な方向の光量の総和に対してある層(n)内に存在する光量の割合を光閉じ込め係数Γ(n)とすると、特にp型導電型層の光閉じ込め係数Γ(n)と該層ドーピング濃度P(n)の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)] を7.14×1017cm-3という、8.0×1017cm-3以下の値に設定し、またp型導電型層のうち層厚で80%以上にあたる層で、そのドーピング濃度を1.0×1017cm-3にすることで、自由電子吸収の影響を受けることなく、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を得ることができた。p型導電型層の各個別の層の光閉じ込め係数やドーピング濃度の値も、第1実施形態と同様、高効率と高温度特性/低消費電力を両立すべき値の範囲となるよう設定している。
また本実施形態では、特に発振波長を750nmという第1実施形態よりも短い波長で発振する半導体レーザ素子に本発明を適用している。短波長では、自由電子吸収のうちエネルギーバンド内の谷の間での遷移による吸収の影響が大きくなるといわれる。これは波長に反比例する成分を持つが、特に700nm以下の波長では、自由電子吸収αfcの値で10cm−1を越えることを見出した。これを踏まえて、本実施形態では750nmと、比較的短い近赤外波長帯の中でも700nm以上となるよう設定したため、上述の波長に反比例する自由電子吸収成分による吸収の影響を蒙ることなく、0.97W/Aという比較的高い効率の半導体レーザ素子を得ることができた。
さらに本実施形態では、第1実施形態と同様、第一〜第三キャップ層の光閉じ込め係数を合わせて1.0×10-5程度と1.0×10-5以下となるよう設定した上で、p型の導電型全層のうち、層の光閉じ込め係数が1.0×10-4以上の層のドーピング濃度を、上部光ガイド層で2.0×1018cm-3、上部第一クラッド層で2.0×1018cm-3、上部第二クラッド層で5.0×1018cm-3と全て8.0×1018cm-3以下となるように設定している。
一般に半導体に高濃度ドーピングを行うと層の屈折率が大きくなるが、AlGaAs系材料では8.0×1018cm-3を越えるとこの傾向が顕著となり、この影響で、該当層の光閉じ込め係数Γが設定値よりも大きくなる。このため、光閉じ込め係数とドーピング濃度の積の総和 Σが増大し、効率が低下することになる。ただし光閉じ込め係数が1.0×10-4より小さい層では、存在する光の量が極めて小さいため、該当層の屈折率が増大したとしても、レーザ素子全体の光の形状を変えるまでには至らない。本実施形態ではp型導電型層全層のうち光閉じ込め係数が1.0×10-4以上の層のドーピング濃度の上限を5.0×1018cm-3と8.0×1018cm-3以下になるよう設定したため、設定の光分布形状を維持することができ、目的の通りの高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子が得られた。
〈第3実施形態〉
本発明の第3の実施形態の半導体レーザ素子について、図6を用いて、その構造を説明する。
n−GaAs基板301上に、n−GaAsバッファ層302(0.5μm厚)、n−Al0.56Ga0.44As下部第一クラッド層303a(2μm厚)、n−Al0.3Ga0.7As下部第二クラッド層303b(0.05μm厚)、n−Al0.41Ga0.59As下部光ガイド層304a(100nm厚)、2層の0.14%圧縮歪 In0.12Ga0.88As量子井戸層(4.8nm厚)と3層の無歪Al0.15Ga0.85As障壁層(3層のうち基板側から第1、第3番目の障壁層の層厚22nm、第2番目は8nm厚)を交互に積層したアンドープ多重量子井戸活性層305(発振波長0.89μm)、p−Al0.4Ga0.6As上部第一光ガイド層306a(50nm厚)、p−Al0.4Ga0.6As上部第二光ガイド層306b(50nm厚)、p−Al0.47Ga0.53As上部第一クラッド層307(0.4μm厚)、p−InGaAsPエッチングストップ層308(15nm厚)、p−Al0.5Ga0.5As上部第二クラッド層309(1.28μm厚)、p−GaAs第一キャップ層310(1.7μm厚)、p−GaAs第二キャップ層311(0.3μm厚)がこの順に基板側から積層され、リッジの最下部がエッチングストップ層308直上であるリッジストライプ構造を形成している。
このリッジストライプ構造は、高さが約3μm、幅がエッチングストップ層308直上の最も広いところで約2.5μmである。リッジストライプ構造の側面及びその両側には絶縁膜322としてSiO2膜が積層され、リッジストライプ部直下にのみ電流が流れる電流狭窄構造をなしている。本実施形態の半導体レーザ素子を有機金属化学気相成長法を用いて作製する際の成長温度や中断といった成長プロファイルは、先の第1、第2実施形態に準ずる。また、端面出射型半導体レーザ素子とするまでのプロセスについても、先の実施形態と同じであるため省略した。
本実施形態の半導体レーザ素子の、p型導電型層のドーピング濃度と光閉じ込め係数Γの値は、それぞれ、上部第一光ガイド層306aで(3.0×1017cm-3、0.135)、上部第二光ガイド層306bで(8×1017cm-3、0.06)、上部第一クラッド層307で(1.35×1018cm-3、0.219)、上部第二クラッド層309で(3.0×1018cm-3、0.011)、GaAsキャップ層については、p−第一キャップ層を(5.0×1018cm-3、1.0×10-6)、p−第二キャップ層を(1.0×1020cm-3、1.0×10-7未満)とし、p型導電型層(n)の光閉じ込め係数Γ(n)とドーピング濃度P(n)の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)] の値が4.16×1017cm-3となるように設定している。また電流狭窄構造のうち、非電流注入部となる埋め込み層のドーピング濃度は、n−第一埋め込み層111で3.0×1018cm-3、n−第二埋め込み層112で3.0×1018cm-3、p−第三埋め込み層113で5.0×1018cm-3とした。
また本実施形態の半導体レーザ素子の静特性は、効率の値で1.0W/A、内部吸収αiの値として3.5cm-1が得られた。また温度特性も130K以上と良好な値が得られ、p型ドーピング濃度減少による抵抗値の上昇もみられなかった横モードの不安定化によるキンクの発生もなく直線的な電流−光出力特性が得られた。
本実施形態の半導体レーザ素子では、第1、第2実施形態と同じように、波長750nmという波長1.0μm以下の近赤外の波長帯で発振し、基板に垂直な方向の光量の総和に対してある層n内に存在する光量の割合を光閉じ込め係数Γ(n)とすると、特にp型の導電型を有する層の光閉じ込め係数Γ(n)と該層ドーピング濃度P(n)の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)] を4.38×1017cm-3という、8.0×1017cm-3以下の値に設定し、p型導電型層のうち層厚で80%以上の層でそのドーピング濃度を1.0×1018cm-3とすることで、自由電子吸収の影響を受けることなく、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を得ることができた。
特に本実施形態ではp型導電型各層の光閉じ込め係数とドーピング濃度の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)] を、実施形態1、2よりも小さくなるよう設定している。図10のように、特に上記の総和 Σの値を5.0×1017cm-3以下に設定すると、p型導電型層での自由電子吸収による特性の悪化を、ほぼ完全に防ぐことができる。
また特に本実施形態の半導体レーザ素子では、波長890nmという、波長900nmを越えない波長となるよう、発振波長を設定している。発振波長900nm以下では、図9のように自由電子吸収式(1)の波長λの係数pの値が小さくなるため、特に自由電子吸収による効率の悪化を抑制することができる。
さらに本実施形態では、第1第2実施形態と同様、p型導電型各層の光閉じ込め係数とドーピング濃度の積の総和 Σの値を規定するとともに、活性層を含むアンドープ層に隣接するp型導電型層のドーピング濃度を2.0×1017cm-3以上となるように設定した。本実施形態の半導体レーザ素子は長波長帯半導体レーザ素子に比べ井戸層のエネルギーギャップが大きい分、井戸層−障壁層間の伝導体側エネルギーギャップΔEcが小さく、活性層直近のドーピング濃度を2.0×1017cm-3未満とした場合、キャリアリークが急激に増加して、半導体レーザ素子の温度特性が悪化する。本実施形態では、これを3.0×1017cm-3に設定したため、活性層を含むアンドープ層からのキャリアのリークに対する障壁層としての役割を十分果たすことができ、130K以上という第1、第2実施形態と同等以上の温度特性を確保することができた。
そして本実施形態では、p型導電型各層の光閉じ込め係数とドーピング濃度の積の総和Σの値などを規定するとともに、p型上部光ガイド層を層の積層方向に2層に分け、活性層に近い側すなわち光閉じ込め係数の大きい側の層である上部第一光ガイド層のドーピング濃度を、3.0×1017cm-3と、遠い側のp型上部第二光ガイド層の値8.0×1017cm-3よりも小さく設定している。このことにより自由電子吸収の抑制と温度特性の改善をより効果的に行うことができた。同時に活性層へのドーパントの拡散も抑制することができ、信頼性の高い半導体レーザ素子を得ることができた。
以上3種の実施形態では、波長750nm、900nm弱程度の半導体レーザ素子について記述したが、本発明の骨子は、従来自由電子吸収を問題としていなかった波長1.0μm以下の波長帯で自由電子吸収の影響の程度を把握し、p型導電型層のドーピング濃度と光閉じ込め係数との積の総和を規定することで、当該波長帯での自由電子吸収の影響の回避と温度特性や素子抵抗の値を維持もしくは改善の両立を図るものであるため、p型導電型層をもつ波長1.0μm以下で発振する半導体レーザ素子全てに適用され得るものである。
また全実施形態で、p型クラッド層がエッチングストップ層によって二分される構造となっているが、先に述べた本発明の骨子からすると、層を構成する材料の混晶比で規定されるクラッド層の分類については、一部の場合を除き本発明の内容とは直接の関係はない。例えばエッチングストップ層がなくクラッド層1層で構成されるBH構造型の半導体レーザ素子や、他の目的のためクラッド層が3層以上の複数層で構成された半導体レーザ素子に対しても、本発明の内容は適用され得るものである。
〈第4実施形態〉
図7を用いて本発明の第4の実施形態である光無線通信用送信装置について説明する。これは、第1実施形態の半導体レーザ素子401を用いて空間的に離れた場所にある受信装置に信号光を送信するための装置である。具体的には、信号発生源402と送信用回路403とレーザドライバ404と電気信号を光に変えて空間に放射する半導体レーザ素子401を備えており、信号発生源402から発せられる電気信号を送信用回路403を通じてレーザドライバに入力し、この電気信号を半導体レーザ素子401を用いてE/O変換し、外部空間への放射光405とする。このとき半導体レーザ素子外部には、人体、特に眼への安全基準を満たすよう光を拡散する樹脂モールドが備えつけられており、半導体レーザ素子401からでた光は、安全基準を満たす程度に非コヒーレント化され、外部放射光405とされている。
このように第1実施形態の高効率かつ高温度特性/低消費電力の半導体レーザ素子を用いることで、今後の高速光無線通信で必要とされる1.0μm以下の近赤外波長帯の光を低い駆動電力/電圧で発生させることができるため、レーザドライバや他の回路構成部品の消費電力に余裕ができ、ドライバや回路を設計する際の自由度を上げることができる。また高効率、高温度特性から駆動電流を低くすることができるため、半導体レーザ素子の寿命が延び、装置の信頼性が向上する。
〈第5実施形態〉
図8を用いて、本発明の第5の実施形態である光ディスク記録再生装置について説明する。これは光ディスク501にデ−タを書き込んだり、書き込まれたデ−タを再生するための装置であり、その際用いられる発光素子として、先に説明した本発明第2の実施形態の半導体レーザ素子502を備えている。この光ディスク記録再生装置についてその作用を説明する。まず書き込みの際には、半導体レーザ素子502から出射された信号光がコリメ−トレンズ503により平行光とされ、ビ−ムスプリッタ504を透過しλ/4偏光板505で偏光状態が調節された後、対物レンズ506で集光され光ディスク501に照射される。
読み出しの際には、デ−タ信号が載っていないレ−ザ光が書き込み時と同じ経路をたどって光ディスク501に照射される。このレ−ザ光がデ−タが記録された光ディスク501の表面で反射され、レ−ザ光照射用対物レンズ506、λ/4波長板505を経た後、ビ−ムスプリッタ504で反射され90度角度を変えた後、再生光用対物レンズ507で集光され、信号検出用受光素子508に入射する。信号検出用受光素子内で入射したレ−ザ光の強弱によって記録されたデ−タ信号が電気信号に変換され、信号光再生回路509において元の信号に再生される。
本実施形態の光ディスク装置は、従来よりも高い光出力で動作する半導体レーザ素子を用いているため、ディスクの回転数を従来よりも高速化してもデ−タの読み書きが可能となった。従って特にCD−R/RWなどへの書き込み時に問題となっていたディスクへのアクセス時間が従来の半導体レーザ素子を用いた装置よりも格段に短くなり、より快適な操作を実現した光ディスク装置を提供することができた。
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明によれば、該当波長帯で静特性と温度特性を両立させることができる半導体レーザ素子が得られる。
本発明第1の実施形態の半導体レーザ素子の構造を示す模式的断面図である。 (a) 本発明第1の実施形態の半導体レーザ素子の製造方法を表す一連の模式的断面図のうち、基板から第一キャップ層まで積層した状態を表す模式的断面図である。 (b)本発明第1の実施形態の半導体レーザ素子の製造方法を表す一連の模式的断面図のうち、エッチング工程が終了した状態を表す模式的断面図である。 (c)本発明第1の実施形態の半導体レーザ素子の製造方法を表す一連の模式的断面図のうち、第三キャップ層まで積層した状態を表す模式的断面図である。 本発明第1の実施形態の半導体レーザ素子の光出力の様子を示す図である。 リッジ幅と半導体レーザ素子のニアフィールドパターン(NFP)径の関係を示す実験結果を示す図である。 本発明の第2の実施形態の半導体レーザ素子の構造を示す模式的断面図である。 本発明の第3の実施形態の半導体レーザ素子の構造を示す模式的断面図である。 本発明の第4の実施形態の光無線通信用送信装置の概念図である。 本発明の第5の実施形態の光ディスク記録再生装置の概念図である。 自由電子吸収と波長の関係を表した模式図である。 半導体レーザ素子の内部吸収αiの値とp型半導体層のドーピング濃度と光閉じ込め係数の積の総和の関係を表した実験結果を示す図である。
符号の説明
101、201、301 基板
102、202、302、402 バッファ層
103、203a、203b、303a、303b 下部クラッド層
104a、104b、204、304a、304b 下部光ガイド層
105、205、305 活性層
106a、106b、206、306a、306b 上部光ガイド層
107、207、307 上部第一クラッド層
108、208、308 エッチングストップ層
109、209、309 上部第二クラッド層
110、210、310 第一キャップ層
114、214、311 第二キャップ層
115、215 第三キャップ層
111、211 第一埋め込み層
112、212 第二埋め込み層
113、213 第三埋め込み層
121 選択エッチング用絶縁膜
313 電流狭窄用絶縁膜
401 第1実施形態の半導体レーザ素子
402 信号発生源
403 送信用回路
404 半導体レーザ素子駆動用ドライバ
405 外部空間への放射光
501 光ディスク
502 第2実施形態の半導体レーザ素子
503 コリメ−トレンズ
504 ビ−ムスプリッタ
505 λ/4偏光板
506 レ−ザ光照射用対物レンズ
507 再生光用対物レンズ
508 信号光検出用受光素子
509 信号再生回路

Claims (14)

  1. 活性層を間に挟んで上下に、少なくとも、p型クラッド層を含む複数のp型導電型層と、n型クラッド層を含む複数のn型導電型層とが設けられた半導体レーザ素子において、
    発振波長が1.0μm以下であり、
    前記複数のp型導電型層のうちのn番目の層をp型導電型層(n)とし、該p型導電型層(n)の光閉じ込め係数をΓ(n)とし、該p型導電型層(n)のドーピング濃度をP(n)としたときのΓ(n)とP(n)の積の総和 Σ[Γ(n)×P(n)] が8.0×1017cm-3 以下であることを特徴とする半導体レーザ素子。
  2. 前記複数のp型導電型層のうちの、ドーピング濃度が1.0×1018cm-3以上であるp型導電型層の層厚の合計が、p型導電型層全体の層厚の合計の80%以上を占めることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  3. 発振波長が900nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  4. 発振波長が700nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  5. 前記活性層の上下の一方の側には、前記活性層に対して水平方向に光を閉じ込める光閉じ込め構造が設けられており、
    前記光閉じ込め構造の光が閉じ込められた領域を構成する層の導電型がp型であり、
    前記光閉じ込め構造のある側の各層の光閉じ込め係数の総和が、該光閉じ込め構造のない側の各層の光閉じ込め係数の総和よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  6. 電流注入領域と非電流注入領域からなり、前記活性層に対して水平方向に電流を狭窄する電流狭窄構造を有し、
    前記電流注入領域はp型導電型層からなり、該p型導電型層のドーピング濃度が2.0×1018cm-3以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  7. 電流注入領域と非電流注入領域からなり、前記活性層に対して水平方向に電流を狭窄する電流狭窄構造と、
    前記活性層に対して水平方向に光を閉じ込める光閉じ込め構造とを有し、
    前記電流狭窄構造と前記光閉じ込め構造は同じ層構成からなり、
    両構造の、前記活性層の水平方向の幅を規定する部分であって、該活性層に最も近い部分における幅が2.2μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  8. 前記複数のp型導電型層のうち、活性層に最も近い層のドーピング濃度が2.0×1017cm-3以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  9. 前記活性層と前記p型クラッド層との間にp型光ガイド層が設けられ、
    前記p型光ガイド層は積層方向に異なるドーピング濃度を有する2層以上の層からなり、 2層以上の層からなる前記p型光ガイド層のうち前記活性層に最も近い層のドーピング濃度が、他のp型光ガイド層のドーピング濃度よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  10. 前記複数のp型導電型層のうち、光閉じ込め係数Γが1.0×10-4以上となるp型導電型層のドーピング濃度が、8.0×1018cm-3以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
  11. 前記p型クラッド層の上部にp型キャップ層を有し、該p型キャップ層の光閉じ込め係数が5.0×10-5以下であることを特徴とする請求項5に記載の半導体レーザ素子。
  12. 請求項1〜11に記載の半導体レーザ素子の製造方法であって、
    各層を有機金属化学気相成長法を用いて積層する方法において、前記活性層の成長温度をその他の層の成長温度よりも低くし、かつ成長温度が変化する境界で成長を一旦中断することを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
  13. 請求項1〜11に記載の半導体レーザ素子を搭載した光無線通信用送信装置。
  14. 請求項1〜11に記載の半導体レーザ素子を搭載した光ディスク装置。
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