しかし上で述べた近赤外波長帯半導体レーザ素子の例では、キャップ層を除くp型ドーピング濃度が5×1017cm−3程度と先に述べた長波長帯半導体レーザ素子と同様、比較的低い値に設定されているため、当該波長帯での自由電子吸収の影響については、記載通り根本的に影響がないのか、それともドーピング濃度が低いため自由電子吸収の影響が顕在化していないのか、この例からは確定することができない。
ところで、この近赤外波長帯半導体レーザ素子の例や先述の長波長帯半導体レーザ素子のようにそのp型導電型層のドーピング濃度が5×1017cm−3程度という比較的低い値に設定された半導体レーザ素子では、自由電子吸収の影響が小さくなるのとは逆に、温度特性、素子抵抗、横基本モード発振といった効率以外のレーザの特性に様々な悪影響が生じる。例えば光ガイド層、クラッド層ともにそのp型ドーピング濃度を4×1017cm−3〜6×1017cm−3程度に設定した半導体レーザ素子では、該p型導電型層のキャリアに対する障壁レベルがより高いドーピングがなされた層の障壁レベルよりも低くなるため、レーザの温度特性が悪化する。特に長波長帯に比べ井戸層のエネルギーギャップが大きくキャリアリークが起こり易い近赤外波長帯の半導体レーザ素子の場合、光ガイド層、クラッド層といった活性層以外の層でのキャリアブロック効果の良悪が、より重大な課題となる。
素子抵抗についても、4×1017cm−3〜6×1017cm−3程度という低いドーピング濃度の半導体レーザ素子では、抵抗値の上昇に伴い高駆動電力化するため、特にそのような半導体レーザ素子を発光部品として光無線通信用装置に導入すると、レーザドライバなど装置内の他の構成部品に負荷がかかったり、許容電力の上限が下がり他の回路部品の選択の幅が狭くなりかねない。
また、このような低p型ドーピング濃度下では、キャリアの拡散速度が遅くなるため空間的ホールバーニングが誘発され発振横モードが不安定化する。このことで半導体レーザ素子の相対雑音強度が上昇し通信時の符号誤り率が増大するため、通信用半導体レーザ素子にとっては大きな問題となる。
以上のことから、波長1.0μm以下の近赤外波長帯で特にp型導電型層のドーピング構造を決定するには、自由電子吸収の抑制と、それとトレードオフの関係にある温度特性、素子抵抗、発振横モードの安定性を両立させることが必要となる。特に波長1.0μm以下の近赤外波長帯での自由電子吸収の影響の有無とその程度が不明確であるため、自由電子吸収の影響を受けずに高効率を保ち得る上限のp型ドーパンド濃度を定めることが、該当波長帯のレ−ザ素子を開発する上で必須の課題となる。
本発明はこれらの問題を解決することを目的にしたもので、特に波長1.0μm以下の近赤外波長帯で発振する半導体レーザ素子のp型導電型半導体各層のドーピング濃度を光閉じ込め係数との積の値と共に規定したものであり、効率の向上と温度特性/抵抗値などの向上というドーピング濃度に対してトレードオフの関係にある諸特性の両立をはかることで、低駆動電力かつ高い信頼性を保つ該波長帯半導体レーザ素子とその製造方法を提供するものである。さらに発光素子として該波長帯でこのような利点をもつ半導体レーザ素子を搭載することで、従来、実現し得なかった新たな規格の高速光無線通信用送信装置を提供し、また高速化競争の続く光ディスク分野で高速読み書きを可能にした光ディスク装置を提供するものである。
本発明の第1の側面に係る半導体レーザ素子は、基板上に、n型クラッド層と、p型クラッド層を含む複数のp型導電型層m(ここで、m=1、2…k、但し、kは自然数)と、上記n型クラッド層と上記p型クラッド層との間に位置する活性層とを備え、
発振波長が1.0μm以下であり、上記基板上の全ての層に存在する光量の総和に対する上記p型導電型層mに存在する光量の割合を光閉じ込め係数Γ(m)とし、該p型導電型層mのドーピング濃度をP(m)(cm
−3)としたとき、Γ(m)とP(m)の積の総和
が8.0×10
17cm
−3 以下であることを特徴としている。
この半導体レーザ素子は、従来自由電子吸収の影響が不明確だった波長1.0μm以下の近赤外波長帯で自由電子吸収の影響による一部静特性の悪化、具体的には発振しきい値電流と効率の悪化を回避することで、必要とされる光出力での駆動電流の値を低減することができる。なお本明細書中でいう『効率』とは、半導体レーザ素子の静特性の一つであり、発振しきい値電流をIth(A),ある光出力Pop(W)を得る為に必要な駆動電流値をIop(A)とすると、Pop/(Iop−Ith)で定義される、半導体レーザ素子の基本的な静特性の一つである。
本発明者らは、波長1.0μm以下の近赤外波長帯で自由電子吸収を回避できるp型ドーピング構造の“上限の値”を決定するため、実際に波長900nm程度で発振する半導体レーザ素子でp型ドーピング濃度Pや同じ層の光閉じ込め係数Γの組み合わせが異なる数種類の素子を作製し、効率の値と、効率に直接影響を与える内部吸収αiの値を算出した。
その結果、p型ド−ピング各層m(m=1、2…k、但し、kは自然数)の光閉じ込め係数Γ(m)とそのドーピング濃度P(m)(cm
−3、以下省略)との積の総和
(以下、単にΣ{Γ(m)×P(m)}とも表す。)と、半導体レーザ素子の効率の値を決定する内部吸収αiとの間に図8のような関係があることがわかった。この結果では、内部吸収αiの値は、p型導電型層mの光閉じ込め係数Γ(m)と該p型層ドーピング濃度P(m)との積の総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値が8.0×10
17cm
−3を越えると急激に増加している。半導体レーザ素子の内部吸収αiは自由電子吸収αfcとその他の吸収αoからなるが、その他の吸収αoの値は一般にドーピング濃度に依存せず、また通常4〜5cm
−1未満であり、半導体レーザ素子への影響が小さい。図8では、p型ドーピング濃度に依存しないその他の吸収αoが3cm
−1程度あり、これにp型ドーピングに由来する自由電子吸収αfcが加わり、半導体レーザ素子の内部吸収αiとなることがわかる。これらのことから、p型導電型層mの光閉じ込め係数Γ(m)と該p型層ドーピング濃度P(m)との積の総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値を8.0×10
17cm
−3以下の範囲に設定すれば、内部吸収αiのうち、ドーピング濃度に依存する自由電子吸収αfcの急激な増加を抑制できることがわかる。
さらに、図8から、総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値が6.0×1017cm−3以下では内部吸収αiの値がほとんど変化しないことから、この総和の値が6.0×1017cm−3以下となるようなp型ドーピング層構造では内部吸収αiに対する自由電子吸収αfcの影響をほとんど排除できることもわかる。
これらの事実は、1.0μm以下の近赤外波長帯では自由電子吸収の影響はないとする従来の認識を覆すものであり、該波長帯でも構造によっては自由電子吸収による静特性、特に効率の悪化という影響を被り得ることがわかった。また、p型ドーピング濃度に加えp型導電型層の光閉じ込め係数も同時に考慮することで、自由電子吸収の増大につながる比較的高いp型ドーピング濃度でも良好な特性を確保できることもわかった。その結果、自由電子吸収の抑制による効率の改善とはトレードオフの関係にある温度特性や抵抗値の改善を目的に、p型ドーピング濃度を従来の近赤外波長帯の半導体レーザ素子よりも高い値に設定することが可能となった。
なお、半導体レーザ素子の内部吸収αiの値は小さいほどよいが、一般的に10cm−1を越えるとレーザの効率に顕著な影響があり、効率0.96W/A以上という高速無線通信で必要とされる効率値を得られなくなるため、半導体レーザ素子がこのような光無線通信用送信装置に搭載される場合には、内部吸収の値は10cm−1以下、より好ましくは5cm−1以下であることが望ましい。
一実施形態では、p型ドーピング濃度が1.0×1018cm−3以上であるp型導電型層の層厚の合計がp型導電型層全体の層厚の合計の80%以上を占めている。
なお、ここで規定するp型導電型層とは、半導体レーザ素子がリッジ埋め込み型の場合には、リッジおよびリッジの上下に連なる箇所に存在するp型導電型層であって、埋め込み部のみに存在するp型導電型層は含まないものとする。
上記構成による作用は次の通りである。主なp型導電型層のドーピング濃度を1017cm−3台という比較的低い値に設定した場合、温度特性、素子抵抗、発振横モードといった、効率以外のレーザ特性に好ましくない影響が現れる。この影響は、自由電子吸収の場合とは逆で、p型ドーピング濃度が低いほど半導体レーザ素子にとって悪影響となってあらわれる。これら3種のレーザ特性についてp型ドーピングの影響を調べるため、該当波長帯で半導体レーザ素子を作製し、その影響を確認したところ、p型ドーピング濃度をp型導電型層全体の80%以上の厚さの層で1×1018cm−3以上とすることで回避できることがわかった。以上のことから、p型ドーピング濃度を従来の近赤外波長帯の半導体レーザ素子での値よりも高く設定することで、自由電子吸収の回避とはトレードオフの関係にある高温度特性、低消費電力、安定した発振横モードを保った波長1.0μm以下の近赤外帯半導体レーザ素子を得ることができる。
一実施形態では、上記半導体レーザ素子の発振波長が900nm以下である。
発振波長が900nm以下の領域では、自由電子吸収を表した上記式(1)において波長λの指数pの値が小さくなるため、図9に示すように、自由電子吸収による効率の悪化をより効果的に回避することができる。
一実施形態においては、発振波長が700nm以上である。
短波長帯では自由電子吸収のうちエネルギーバンド内の谷間遷移による吸収の影響が大きくなると言われている。これは波長に反比例する成分を含む現象だが、特に発明者らは700nm未満の波長領域で自由電子吸収αfcの値が10cm−1を越えることを見出した。本実施形態では、700nm以上になるよう発振波長を設定しているため、波長に反比例する自由電子吸収成分の影響を被ることなく、高効率の半導体レーザ素子を得ることができる。
一実施形態では、上記活性層と平行な方向に光を閉じ込める光閉じ込め構造を有し、上記活性層に関して、該光閉じ込め構造のある側の層の光閉じ込め係数の総和が、上記光閉じ込め構造のない側の層の光閉じ込め係数の総和よりも小さく、上記光閉じ込め構造のうち光が閉じ込められる領域は上記p型導電型層の少なくとも1つからなる。
この実施形態では、水平方向つまり活性層と平行な方向の光のモードを安定化するために、特に活性層を挟んで光閉じ込め構造を含む側の層の光閉じ込め係数を逆側よりも低くしている。一般に同じドーピング濃度で比較すると、p型ドーパントの自由電子吸収係数のほうがn型ドーパントでの値よりも大きいため、光閉じ込め構造を含む側の層をp型としたほうが逆の場合よりも自由電子吸収の影響が小さくなり、効率の値の改善につながる。
一実施形態では、上記半導体レーザ素子は、電流注入領域と非電流注入領域からなり、上記活性層と平行な方向に電流を狭窄する電流狭窄構造を有し、上記電流注入領域は上記p型導電型層の少なくとも1つからなり、該電流注入領域のp型導電型層のドーピング濃度は1.0×1018cm−3以上である。
発振横モードを安定させるため、電流狭窄構造の電流注入領域は、一般的に、数μm程度という狭い幅に設定されており、さらにその層厚はp型導電型層の大半を占める。したがって、電流注入領域を形成するp型導電型層の素子抵抗への寄与は極めて大きい。このため、この実施形態では、これらの層のドーピング濃度を1.0×1018cm−3以上となるよう設定することにより、より効果的に自由電子吸収による特性の悪化を回避した上で、素子の低抵抗化をも実現することができる。
本発明の半導体レーザ素子は、上記光閉じ込め構造と上記電流狭窄構造を同時に備えていてもよい。この場合、電流狭窄構造の電流注入領域は、一般的に、光閉じ込め構造の光が閉じ込められる領域に合致するように形成される。
一実施形態では、上記半導体レーザ素子は、電流注入領域と非電流注入領域からなり上記活性層と平行な方向に電流を狭窄する電流狭窄構造と、上記電流狭窄構造の一部からなり上記活性層と平行な方向に光を閉じ込める光閉じ込め構造とを備え、上記光閉じ込め構造のうち光が閉じ込められる領域を画定する2つの境界面は、上記電流狭窄構造内の電流注入領域を画定する2つの境界面と一致しており、上記2つの境界面間の距離は、上記活性層に最も近い部分で2.2μm以上である。
この構成による作用は次の通りである。一般に電流狭窄構造/光閉じ込め構造の水平方向に離間した2つの境界面間の距離、すなわち電流狭窄構造のうち電流注入領域(光閉じ込め構造においては、光が閉じ込められる領域)の幅(リッジ構造の場合には、リッジ幅)が数μmで、横基本モード発振する半導体レーザ素子では、その幅を少し変えると、ニアフィールドパターン(NFP)径はその変化以上に急激に変化する。このため、この幅が狭いほど、この幅に対するNFP径が大きくなり、電流狭窄構造の非電流注入領域内の層への光の漏れが大きくなる。非電流注入領域内の層は高濃度にドーピングされており、漏れた光はその量に応じて、非電流注入領域内の層での自由電子吸収の増加に直結する。これに対して、この実施形態では、上記境界面間の距離つまり電流注入領域の幅が2.2μm以上であるから、この幅よりもNFP径の方が狭くなる。したがって、非電流注入領域内の層への光の漏れによる自由電子吸収の増加を抑制することができる。
一実施形態では、上記p型導電型層のうち上記活性層に最も近い層のドーピング濃度が2.0×1017cm−3以上である。
1.0μm以下の近赤外波長帯の半導体レーザ素子は、長波長帯半導体レーザ素子に比べ活性層における井戸層−障壁層間の伝導体側エネルギーギャップΔEcが小さいため、活性層からのキャリアリークが生じ易い。しかし、この実施形態では、活性層に最も近いp型導電型層のドーピング濃度を2.0×1017cm−3以上に設定することで、活性層からのキャリアリークに対する障壁層として十分にその役割を果たし、高い温度特性を確保することができる。なお、活性層に最も近いp型導電型層とは、意図的にp型ドーパントが添加されたp型導電型層であり、元々はアンドープ層であったものが、隣接したp型導電型層からドーパントが拡散した結果としてp型導電型層となった層は除く。
一実施形態では、上記p型導電型層は、上記活性層と上記p型クラッド層との間に位置するp型光ガイド層を含んでおり、上記p型光ガイド層は積層方向に異なるドーピング濃度を有する2層以上からなり、これら2層以上のp型光ガイド層のうち、上記活性層に最も近い層のドーピング濃度が他のp型光ガイド層のドーピング濃度よりも小さい。
この実施形態では、自由電子吸収の回避と温度特性の改善を極めて効果的に行うことができる。例えば活性層に近い側の光ガイド層のp型ドーピング濃度をP1、遠い側の光ガイド層のp型ドーピング濃度をP2とし、近い側の光ガイド層の光閉じ込め係数をΓ1、遠い側の光ガイド層の光閉じ込め係数をΓ2とすると、一般に活性層に近い側のガ光イド層の光閉じ込め係数のほうが遠い側での値よりも大きいため(Γ1>Γ2)、本実施形態のように活性層に近い側の光ガイド層のドーピング濃度を遠い側の光ガイド層での値よりも小さく設定(P1<P2)とすることで、本発明を構成するパラメータであるp型導電型層mの光閉じ込め係数Γ(m)と該p型層ドーピング濃度P(m)との積の総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値のうち、光ガイド層に関する部分(Γ1×P1+Γ2×P2)を、逆に設定した場合(P1>P2)に比べて小さくすることができる。したがって、他のp型導電型層の層構造が同じなら、より総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値を小さくできるため、自由電子吸収の影響を抑制することができる。または、総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値を一定に設定した場合には、他のp型導電型層のドーピング濃度や光閉じ込め係数に対する設定の自由を増すことができる。
また、活性層に近い部分のドーピング濃度を低くしたため、ドーピング濃度に比例する拡散速度を小さくすることができ、活性層へのドーパントの拡散を抑制し信頼性の高い半導体レーザ素子を得ることができる。
一実施形態では、光閉じ込め係数Γが1.0×10−4以上となるp型導電型層のドーピング濃度が8.0×10−18cm−3以下である。
一般に半導体に高濃度ドーピングを行うと層の屈折率が大きくなるが、AlGaAs系材料では8.0×1018cm−3を越えるとこの傾向が顕著となり、該当層の光閉じ込め係数Γが設定値よりも大きくなる。この場合、上記総和Σ{Γ(m)×P(m)}を本発明に従って8.0×1017cm−3 以下としたとしても、8.0×1018cm−3以上と高ドーピング濃度である該当層での自由電子吸収の影響は大きく、狙い通りの効率の低下という効果を得ることができない。また設計の自由度も低下する。この実施形態は、このような不都合を回避するものである。
一実施形態では、上記p型導電型層は、上記p型クラッド層の上部に位置するp型キャップ層を含んでおり、上記キャップ層の光閉じ込め係数Γが5.0×10−5以下である。
一般的に、キャップ層は低オーミック抵抗とするために、1018cm−3から1020cm−3台という非常に高濃度のドーピングがなされており、このような層に光が存在すると多大な吸収を被る。また、キャップ層には、コンタクト抵抗を低減するために、小さなエネルギーギャップをもつ半導体材料が用いられるので、キャップ層は、周囲の層に比べて屈折率が高くまた発振波長に対して透明な層となる。このため、光閉じ込め係数の値で5.0×10−5を越える光が存在すると、キャップ層が導波層となり、活性層を通る本来の導波光と干渉を起こす。この干渉は電流−光出力特性にキンクを誘発するため、通信用半導体レーザ素子として用いた場合、符号誤り率などの通信品質を劣化させることとなる。本実施形態ではこれらの影響を回避し、高効率かつ安定に通信動作させ得る半導体レーザ素子を得ることができる。
本発明の第2の側面に係る半導体レーザ素子の製造方法は、上記いずれかの構成を有する半導体レーザ素子の製造方法であって、有機金属化学気相成長法を用いて上記活性層およびその活性層に隣接する層を成長すると共に、上記活性層の成長温度を上記隣接する層の成長温度よりも低くし、かつ成長温度が変化する境界面で成長を一旦中断することを特徴としている。
もし、上記成長温度が変化する境界面で一旦中断せずに連続成長した場合、温度が変化した直後に雰囲気温度のオーバーシュートが生じる。ドーピング量はドーパント材料ガスの濃度とドープされる導電型層の材料、成長時の温度で決まるため、雰囲気温度のオーバーシュートにより当初設定の温度とは異なる温度で成長を行った層では、設定通りのドーピング濃度の素子が得られないことになる。本発明ではこの温度変更界面で一旦成長を中断して再開するという方法を用いたため、このようなオーバーシュートを起こすことなく、設定通りのp型ドーピング構造を得ることができ、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を製造することができる。
本発明の第3の側面に係る光無線通信用送信装置は、本発明の上記いずれかの構成を有する半導体レーザ素子を搭載している。
本発明の半導体レーザ素子は、先に説明したように、1.0μm以下の近赤外波長における自由電子吸収の影響を考慮して、高効率かつ高温度特性、低消費電力を実現した半導体レーザ素子である。このような特性の半導体レーザ素子を用いることで、今後の高速光無線通信で必要とされる1.0μm以下の波長の光を低駆動電力/電圧で発生させることができるため、レーザドライバの設計の自由度を上げることができる。また半導体レーザ素子自体の寿命が延びるため、装置の信頼性が向上する。
本発明の第4の側面に係る光ディスク装置は、本発明の上記いずれかの構成を有する半導体レーザ素子を搭載している。
この発明によると、搭載している半導体レーザ素子が高効率かつ高温度特性、低消費電力を実現したものであるので、高出力化競争が続いている1.0μm以下の近赤外波長帯の光ディスク装置において、ディスク回転数を従来よりも高速化することができる。特にCD−R/RWなどへの書き込み時に問題となっていたディスクへのアクセス時間が従来の半導体レーザ素子を用いた装置よりも格段に短くなり、より快適な操作を実現した光ディスク装置を提供することができる。
本発明の第1の側面によると、波長1.0μm以下の近赤外波長帯で自由電子吸収の影響による静特性の悪化を回避しながら高い濃度のp型ドーピングを行うことができるため、該波長帯で、高い効率と、それとトレードオフの関係にある高温度特性、低消費電力化を両立した半導体レーザ素子を実現することができる。
また、本発明の第2の側面によると、p型ドーピング濃度を所望の値に設定した半導体レーザ素子を製造する際、有機金属化学気相成長法において起こりうる製造時の雰囲気温度のオーバーシュートを回避することができ、成長時の温度に従って変動する各導電型層のドーピング濃度を設定通りの値になるよう半導体レーザ素子を作製することができ、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を現実に製造することができる。
また、本発明の第3の側面によると、1.0μm以下の近赤外波長帯の波長を用いた光無線通信用装置の信頼性を向上させることができ、またレーザドライバの設計の自由度も上げることができる。
また、本発明の第4の側面によると、光ディスク装置において、ディスクの回転数を従来よりも高速化することができ、デ−タの読み書き速度を上げることができる。
〈第1実施形態〉
図1、図2を用いて、本発明の第1の実施形態について説明する。図1、図2はそれぞれ本実施形態の構造、製造方法を示す模式的断面図である。初めに図1を用いて本実施形態の構造を説明する。なおこの後の全実施形態において、n型の導電型層を「n−」と表し、p型の導電型層を「p−」で表す。また層の名称中の「下部」「上部」とは、活性層を挟んでそれぞれ「基板側」、「基板とは逆側」、に位置することを意味する。
層構造は、基板101上に、バッファ層102、下部クラッド層103、下部光ガイド層104、量子井戸層と障壁層からなる多重量子井戸活性層105、上部光ガイド層106、上部第一クラッド層107、エッチングストップ層108、上部第二クラッド層109、第一キャップ層110がこの順に基板側から積層され、上部第二クラッド層109と第一キャップ層110とでリッジの最下部がエッチングストップ層直上となるリッジストライプ構造(リッジストライプ部R)を形成している。さらに、リッジストライプ部Rの両側にはその側面を埋め込む形で第一埋め込み層111、第二埋め込み層112、第三埋め込み層113(これらをまとめて埋め込み部Fと言う。)が積層され、この埋め込み部Fとリッジストライプ部Rとで、主にリッジストライプ部R直下にのみ電流が流れる電流狭窄構造をなしている。さらに、リッジストライプ部Rと埋め込み部Fの上全面に第二キャップ層114、第三キャップ層115が積層されている。
第1実施形態の一具体例では、n−GaAs基板101上に、n−GaAsバッファ層102(0.5μm厚)、n−Al0.452Ga0.548As下部クラッド層103(1.8μm厚)、n−Al0.4Ga0.6As下部光ガイド層104(95nm厚)、2層の0.08%圧縮歪In0.06Ga0.94As量子井戸層(4.5nm厚)と3層の無歪Al0.15Ga0.85As障壁層(3層のうち基板側から第1、第3番目の障壁層の層厚21.5nm、第2番目は8nm厚)を交互に積層したアンドープ多重量子井戸活性層105(発振波長0.87μm)、p−Al0.4Ga0.6As上部光ガイド層106(90nm厚)、p−Al0.5Ga0.5As上部第一クラッド層107(0.15μm厚)、p−GaAsエッチングストップ層108(4nm厚) p−Al0.53Ga0.47As上部第二クラッド層109(1.28μm厚)、p−GaAs第一キャップ層110(0.75μm厚)がこの順に基板側から積層され、上部第二クラッド層109と第一キャップ層110とでリッジの最下部がエッチングストップ層直上となるリッジストライプ部Rを形成している。
リッジストライプ部Rは高さが約2μm、幅(つまり、リッジストライプ部Rを画定している2つの境界面間の距離)がエッチングストップ層108層直上の最も広いところで約3.1μmである。ここでリッジストライプ部Rの高さとは、後に述べるエッチング法を用いて削除される、上部第二クラッド層109と第一キャップ層110の層厚の和をいう。
さらに、リッジストライプ部Rの両側にはその側面を埋め込む形でn−Al0.7Ga0.3As第一埋め込み層111(0.6μm厚)、n−GaAs第二埋め込み層112(0.7μm厚)、p−GaAs第三埋め込み層113(0.7μm厚)が積層され、この埋め込み部Fとリッジストライプ部Rとで、主にリッジストライプ部R直下にのみ電流が流れる電流狭窄構造をなしている。さらに リッジストライプ部Rと埋め込み部Fの上全面にp−GaAs第二キャップ層114(0.95μm厚)、p−GaAs第三キャップ層115(0.3μm厚)が積層されている。
次に、図2A−2Cを用いて本実施形態の製造方法を説明する。層の構成材料や層厚は上で示しているので、ここでは省略している。
まず、図2Aに示すように、n−基板101上にn−バッファ層102、n−下部クラッド層103、n−下部光ガイド層104、2層の井戸層と3層の障壁層からなる量子井戸活性層105、p−上部光ガイド層106、p−上部第一クラッド層107、p−エッチングストップ層108、p−上部第二クラッド層109、p−第一キャップ層110を有機金属化学気相成長法(MOCVD法)を用いてこの順に積層する。成長温度については、量子井戸活性層で690℃、それ以外の層では713℃としており、両温度の境界では一旦成長を止めて温度を変えそれが安定した後、再度成長を行った。
その後、図2Bに示すように、一例としてSiO2からなる絶縁膜121をマスクとしたエッチング法を用いて、高さが約2μm、幅が最下部で約3.1μmとなるようリッジストライプ部Rを作製する。エッチングは、硫酸と過酸化水素水の混合水溶液及びフッ酸を用いて、p−GaAsエッチングストップ層108の直上まで行う。
次に、図2Cに示すように、再度MOCVD法を用いて、リッジストライプ部Rの両側にその側面を埋め込む形でn−第一埋め込み層111、n−第二埋め込み層112、p−第三埋め込み層113を順次積層する。このとき、リッジストライプ部Rの上面には絶縁膜121があるため、リッジストライプ部R上には各埋め込み層の成長は起こらず、リッジストライプ部Rの両側部のみに埋め込み層111〜113を積層することができる。その後、絶縁膜121を除去し、再びMOCVD法を用いてp−第二キャップ層114、p−第三キャップ層115を積層する。
以後、p側、n側の両表面に、それぞれ、一例としてTi/Pt/Au、AuGe/Niで構成されるオーミック電極を蒸着した後、通常のウエハプロセス(劈開によるウェハーのバー分割、端面コーティングによる反射膜形成、チップ分割)を経ることで、ストライプ方向に光を出射する共振器長500μmの埋め込みリッジ型半導体レーザ素子を得る。本実施形態ではドーパント用不純物材料として、n型にシリコンSi、p型に亜鉛Znを用いている。
本実施形態では、第三キャップ層側である図1の上方から基板側である図1の下方へ向かって電流が流れるが、このとき各層の導電型が上に述べたような構造となっているため、第一、第二、第三埋め込み層111,112,113が非電流注入領域となり、電流は、第三キャップ層115から電流注入領域であるリッジストライプ部Rを通って、活性層105を含むエッチングストップ層108より下方の層へと流れる電流狭窄構造を形成している。
また、本実施形態における活性層と平行な方向に光を閉じ込めるための光閉じ込め構造は、リッジストライプ部Rを構成する層の一つである上部第二クラッド層109と、非電流注入領域を構成する層の一つである第一埋め込み層111との屈折率の違いにより形成されている。つまり、光閉じ込め構造は、これらの層109、111を電流狭窄構造と共有していることになる。
本実施形態の半導体レーザ素子のp型導電型層のドーピング濃度Pと光閉じ込め係数Γの値はそれぞれ、上部光ガイド層106で1.35×1018cm−3、0.167、上部第一クラッド層107で1.35×1018cm−3、0.118、上部第二クラッド層109で2.4×1018cm−3、0.049、GaAsキャップ層については、第一キャップ層110で3.0×1018cm−3、1.0×10−6、第二キャップ層114で3.0×1018cm−3、1.0×10−7未満、第三キャップ層115で1.0×1020cm−3、1.0×10−7未満とし、活性層105に隣接する上部光ガイド層106からリッジストライプ部Rを通って第三キャップ層115までのp型導電型層m(本実施形態では、m=1、2…7)の光閉じ込め係数Γ(m)とドーピング濃度P(m)の積の総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値が略5.02×1017cm−3となるように設定している。ここで、p型導電型層mの光閉じ込め係数Γ(m)とは、前述したように、基板上の全ての層に存在する光量の総和に対する層m内に存在する光量の割合のことを言う。
なお、p−エッチングストップ層108については、その層厚が他のp型導電型層に比して極端に小さく、したがってその光量、より詳しくは光閉じ込め係数は上記総和値に影響を与えることのない無視可能な値であるため、考慮の対象から外している。以降に述べる実施形態でもp−エッチングストップ層は同様に取り扱われている。
また、電流狭窄構造のうち非電流注入部となる埋め込み層のドーピング濃度は、n−第一埋め込み層111で2.0×1018cm−3、n−第二埋め込み層112で3.0×1018cm−3、p−第三埋め込み層113で2.0×1018cm−3とした。
本実施形態の半導体レーザ素子の特性は、効率の値で0.99W/A、内部吸収αiの値として4.0cm−1が得られた。また温度特性も120K以上と良好な値が得られ、p型ドーピング濃度減少による抵抗値の上昇もみられなかった。横モードの不安定化によるキンクの発生もなく、直線的な電流−光出力特性が得られた。
上述の如く、本実施形態では、波長870nmという波長1.0μm以下の近赤外の波長帯で発振する半導体レーザ素子において、特にp型導電型層mの光閉じ込め係数Γ(m)とドーピング濃度P(m)の積の総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値を5.02×1017cm−3という、8.0×1017cm−3以下の値に設定することで、該当波長帯で自由電子吸収の影響による静特性の悪化を回避することができ、効率0.99W/Aという高い値を得ることができた。
また、p型ドーピング濃度と光閉じ込め係数の積の総和を定めると同時に、全p型導電型層のうち、層厚でこれらのp型導電型層の80%以上にあたる層でドーピング濃度が1.0×1018cm−3となるように設定している。具体的には、層厚とドーピング濃度をそれぞれ、上部光ガイド層106で90nm、1.35×1018cm−3、上部第一クラッド層107で0.15μm、1.35×1018cm−3、エッチングストップ層108で4nm、8.2×1017cm−3、上部第二クラッド層109で1.28μm、2.4×1018cm−3、第一キャップ層110で0.75μm、3.0×1018cm−3、第二キャップ層114で0.95μm、3.0×1018cm−3、第三キャップ層115で0.3μm、1.0×1020cm−3として、これらのp型導電型層のうち層厚で実質的に100パーセントにあたる層でドーピング濃度が1.0×1018cm−3となるように設定している。
従来技術の項で述べたように、主なp型導電型層のドーピング濃度を1017cm−3台という比較的低い値に設定した場合、温度特性、素子抵抗、発振横モードといった効率以外のレーザ特性に好ましくない影響が現れる。この影響は、自由電子吸収の場合とは逆に、p型ドーピング濃度が低いほどレーザ特性にとっては悪影響となる。このことを踏まえて実際に近赤外波長帯の半導体レーザ素子を作製し、これらのレーザ特性について調べたところ、p型導電型層の全層厚に対し80%以上の厚さの層でp型ドーピング濃度を1×1018cm−3以上と設定することで、この影響を回避できることがわかった。本実施形態では、この条件に合うようp型導電型層のドーピング濃度と層厚を定めたことで、該当波長帯で自由電子吸収の影響による静特性の悪化を回避しながら、温度特性120K以上など、その他の特性も良好な値を確保することができた。そして高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を得ることができた。
また本実施形態では、光閉じ込め構造を形成するリッジストライプ部R(上部第二クラッド層109および第一キャップ層110)の導電型をp型としたため、これをn型にした場合に比べて自由電子吸収を抑制でき、より高い効率で発振する半導体レーザ素子を得ることができた。本実施形態の半導体レーザ素子では活性層と平行な方向の発振横モードを安定化するために、リッジストライプ部にエネルギーギャップの小さい材料を用いて、エッチングストップ層108より上方の層の光閉じ込め係数を低くしている。その結果、活性層105より下部のn型導電型層の光閉じ込め係数は、活性層105を挟んで等距離にあるp型導電型層のそれよりも大きな値となる。一般に同じドーピング濃度で比較すると、p型ドーパントの自由電子吸収係数はn型ドーパントの値よりも大きいため、光閉じ込め構造を含む側の層をp型とした方が、逆の場合よりも自由電子吸収の影響が小さくでき、効率の向上につながる。
さらに本実施形態では、上部第二クラッド層109、第一〜第三キャップ層110、114、115のドーピング濃度を各々2.4×1018cm−3、3.0×1018cm−3、3.0×1018cm−3、1.0×1020cm−3と、全て1.0×1018cm−3以上となるよう設定している。これらの層は電流狭窄構造のうち数μmという狭いリッジ幅でその幅が決まる電流注入領域を構成する層であり、またその層厚の合計が3.28μmとp型導電型層全体の約90%という80%以上の値を占めるため、これらの層の素子抵抗への寄与は極めて大きい。このため、これらの層のドーピング濃度を1.0×1018cm−3以上となるよう設定することにより、自由電子吸収による特性の悪化を回避すると同時に素子の低抵抗化をも実現することができた。
また本実施形態では、第一〜第三キャップ層110、114、115の光閉じ込め係数を合わせて5.0×10−6程度と非常に小さな値になるよう設定している。一般にキャップ層は低オーミック抵抗とするために1.0×1018cm−3〜1.0×1020cm−3という非常に高濃度のドーピングがなされており、ここに光が存在すると多大な吸収を被る。また、キャップ層には、コンタクト抵抗を低減するために、小さなエネルギーギャップをもつ半導体材料が用いられる。本実施形態ではGaAsを用いているが、この場合、周囲の層に比べて屈折率が高く、また発振波長に対して透明な層となる。このため、光閉じ込め係数で5.0×10−5を越える光が存在すると、このキャップ層が導波層となり、活性層を通る本来の導波光と干渉を起こす。この干渉は電流−光出力特性に複数のキンクを引き起こすため、符号誤り率などの通信品質を劣化させることとなる。本実施形態ではキャップ層の光閉じ込め係数を5.0×10−6程度と5.0×10−5以下になるように設定したため、これらの影響を受けることなく、高効率かつ安定に通信動作させ得る半導体レーザ素子を得ることができた。
さらに本実施形態では、光閉じ込め構造と電流狭窄構造の活性層と平行な方向の幅を規定するリッジ幅(リッジ最下部の幅を言う。)を2.2μm以上の値となるようにしており、埋め込み層111〜113での自由電子吸収を抑制することができた。リッジ幅数μmで横基本モード発振する半導体レーザ素子の、リッジ幅に対するニアフィールドパターン(NFP)径の変化を調べると、図3に実線で示す結果が得られた。図3中、破線は比較のために示したNFP径が等しい場合の線である。この図から、リッジ幅の変化を1とすると、NFP径の変化は0.11程度と非常に小さいことがわかる。このため、リッジ幅が狭いほど、リッジ幅に対するNFP径は大きくなり、結果として、埋め込み層111〜113への光の漏れが大きくなる。埋め込み層111〜113は非電流注入部とするために高濃度にドーピングされているため、埋め込み層111〜113に漏れた光はその量に応じた自由電子吸収の増加に直結することとなる。しかし、リッジ幅が2.2μm以上の場合、図3に示すようにNFP径がリッジ幅より狭くなるため、埋め込み層への光の漏れによる自由電子吸収の増加を抑制することができる。
但し、リッジ幅が4.0μm以上となると、いわゆる横高次カットオフ周波数を越えて横モードが不安定化する場合が多く、また、たとえ基本モードを維持できたとしてもスペクトルホールバーニングにより、キンクの発生原因となる。本実施形態ではリッジ幅を4.0μmよりも狭い幅に設定したため、安定して横基本モード発振する半導体レーザ素子を得ることができた。
ところで、本実施形態では、このような構造を有する半導体レーザ素子を有機金属化学気相成長法を用いて作製するにあたり、特に下部光ガイド層104から量子井戸活性層105、さらに量子井戸活性層105から上部光ガイド層106を成長する際、量子井戸活性層成長温度の690℃と活性層以外の層の成長温度713℃の間の温度不連続界面でガスの流入を一旦中断し、温度が安定した後に再開するという成長方法を用いている。もしこの界面で一旦中断せず連続して成長した場合、温度が変化した直後に温度のオーバーシュートが起こる。ドーピング量はドーパント材料ガスの濃度やドープされる導電型層の材料、成長時の温度で決まるため、温度のオーバーシュートにより設定した温度とは異なる温度で成長された層のドーピング濃度は、現実には設定とは異なる値となる。本実施形態では、該当界面で一旦成長を中断して再開するという方法を用いたため、このようなオーバーシュートが起こらず、各導電型層とも、設定通りのドーピングプロファイルを得ることができ、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子を得ることができた。
なお、量子井戸活性層105を構成する井戸/障壁層の歪の定義については、GaAs基板の格子定数をa(GaAs)、井戸層または障壁層の格子定数をaとして、{a−a(GaAs)}/a(GaAs)で定義され、その符号が正の場合を圧縮歪、負の場合を引っ張り歪としている。また、歪の大きさは圧縮/引っ張り歪とも絶対値で表現している。
〈第2実施形態〉
本発明の第2実施形態の半導体レーザ素子について、図4を用いてその構造を説明する。
層構造は、基板201上に、バッファ層202、下部第一クラッド層203a、下部第二クラッド層203b、下部光ガイド層204、量子井戸層と障壁層からなる多重量子井戸活性層205、上部光ガイド層206、上部第一クラッド層207、エッチングストップ層208、上部第二クラッド層209、第一キャップ層210がこの順に基板側から積層され、上部第二クラッド層209と第一キャップ層210とでリッジの最下部がエッチングストップ層直上となるリッジストライプ構造(リッジストライプ部R)を形成している。リッジストライプ部Rの両側にはその側面を埋め込む形で第一埋め込み層211、第二埋め込み層212、第三埋め込み層213(これらをまとめて埋め込め部F)が積層され、この埋め込み部Fとリッジストライプ部Rとで、主にリッジストライプ部R直下にのみ電流が流れる電流狭窄構造をなしている。さらに リッジストライプ部Rと埋め込み部Fの上全面に第二キャップ層214、第三キャップ層215が積層されている。なお、216,217はそれぞれp型電極、n型電極である。
第2実施形態の一具体例では、n−GaAs基板201上に、n−GaAsバッファ層202(0.5μm厚)、n−Al0.45Ga0.55As下部第一クラッド層203a(3.0μm厚)、n−Al0.47Ga0.53As下部第二クラッド層203b(0.24μm厚)、n−Al0.43Ga0.57As下部光ガイド層204(103nm厚)、2層の0.4%圧縮歪In0.21Ga0.79As0.62P0.38量子井戸層(7.5nm厚)と3層の0.8%引っ張り歪In0.09Ga0.91As0.4P0.6障壁層(3層のうち基板側から第1、第3番目の障壁層の層厚10nm、第2番目は5nm厚)を交互に積層したアンドープ多重量子井戸活性層205(発振波長0.75μm)、p−Al0.43Ga0.57As上部光ガイド層206 (53nm厚)、p−Al0.49Ga0.51As上部第一クラッド層207(0.177μm厚)、p−GaAsエッチングストップ層208(3nm厚)、p−Al0.49Ga0.51As上部第二クラッド層209(1.28μm厚)、p−GaAs第一キャップ層 210(0.75μm厚)がこの順に基板側から積層され、上部第二クラッド層209と第一キャップ層210とでリッジの最下部がエッチングストップ層直上となるリッジストライプ部Rを形成している。このリッジストライプ部Rは高さが約2μm、幅がエッチングストップ層208層直上の最も広いところで約2.8μmである。
リッジストライプ部Rの両側にはその側面を埋め込む形でn−Al0.7Ga0.3As第一埋め込み層211(0.6μm厚)、n−GaAs第二埋め込み層212(0.7μm厚)、p−GaAs第三埋め込み層213(0.7μm厚)が積層され、埋め込み部Fとリッジストライプ部Rとで、主にリッジストライプ部R直下にのみ電流が流れる電流狭窄構造をなしている。さらに リッジストライプ部Rと埋め込み部Fの上全面にp−GaAs第二キャップ層214(0.95μm厚)、p−GaAs第三キャップ層215(0.3μm厚)が積層されている。
本実施形態の半導体レーザ素子を有機金属化学気相成長法を用いて作製する際の成長温度や中断といった成長プロファイルは、先の第1実施形態に準ずる。また端面出射型半導体レーザ素子とするまでのプロセスについても、第1実施形態と同じである。
本実施形態の半導体レーザ素子の、p型導電型層のドーピング濃度Pと光閉じ込め係数Γの値はそれぞれ、上部光ガイド層206で2.0×1018cm−3、0.086、上部第一クラッド層207で2.0×1018cm−3、0.146、上部第二クラッド層209で5.0×1018cm−3、0.062、GaAsキャップ層については、第一キャップ層210で3.0×1018cm−3、5.0×10−6、第二キャップ層214で3.0×1018cm−3、1.0×10−7未満、第三キャップ層215で1.0×1020cm−3、1.0×10−7未満とし、活性層205に隣接する上部光ガイド層206からリッジストライプ部Rを通って第3キャップ層215までのp型導電型層m(本実施形態では、m=1、2…7)の光閉じ込め係数Γ(m)とドーピング濃度P(m)の積の総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値が略7.77×1017cm−3となるように設定している。
また電流狭窄構造のうち非電流注入部となる埋め込み層のドーピング濃度は、n−第一埋め込み層211で3.0×1018cm−3、n−第二埋め込み層212で3.0×1018cm−3、p−第三埋め込み層213で5.0×1018cm−3とした。
本実施形態の半導体レーザ素子の特性は、効率の値で0.97W/A、内部吸収αiの値として5cm−1が得られた。また温度特性も120K以上と良好な値が得られ、p型ドーピング濃度減少による抵抗値の上昇もみられなかった。横モードの不安定化によるキンクの発生もなく、直線的な電流−光出力特性が得られた。
このように、本実施形態においても、第1実施形態と同じように、自由電子吸収の影響を受けることなく、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した、波長1.0μm以下の近赤外の波長帯で発振する半導体レーザ素子を得ることができた。本第2実施形態では、p型導電型層の各個別の層の光閉じ込め係数やドーピング濃度の値も第1実施形態と同様、高効率と高温度特性/低消費電力を両立すべき値の範囲となるよう設定している。
また本実施形態では、特に発振波長を750nmという第1実施形態よりも短い波長で発振する半導体レーザ素子に本発明を適用している。前述したように、短波長帯では自由電子吸収のうちエネルギーバンド内の谷の間での遷移による吸収の影響が大きくなると言われる。これは波長に反比例する成分を持つが、特に700nm以下の波長では、自由電子吸収αfcの値で10cm−1を越えることを本発明者は見出した。これを踏まえて、本実施形態ではレーザ発振波長を750nmとしたため、上述の波長に反比例する自由電子吸収成分による吸収の影響を被ることなく、0.97W/Aという比較的高い効率の半導体レーザ素子を得ることができた。
さらに、本実施形態では、第1実施形態と同様、第一〜第三キャップ層210、214、215の光閉じ込め係数を合わせて1.0×10−5程度と、1.0×10−5以下となるよう設定した上で、上部光ガイド層206からリッジストライプ部Rを通って第三キャップ層215までのp型導電型全層のうち層の光閉じ込め係数が1.0×10−4以上の層のドーピング濃度を、上部光ガイド層で2.0×1018cm−3、上部第一クラッド層で2.0×1018cm−3、上部第二クラッド層で5.0×1018cm−3と全て8.0×1018cm−3以下となるように設定している。一般に半導体に高濃度ドーピングを行うと層の屈折率が大きくなるが、AlGaAs系材料ではドーピング濃度が8.0×1018cm−3を越えるとこの傾向が顕著となり、この影響で該当層の光閉じ込め係数Γが設定値よりも大きくなる。このため、光閉じ込め係数とドーピング濃度の積の総和Σが増大し、効率が低下することになる。但し、光閉じ込め係数が1.0×10−4より小さい層では存在する光の量が極めて小さいため、該当層の屈折率が増大したとしてもレーザ素子全体の光の形状を変えるまでには至らない。本実施形態では、p型導電型層全層のうち光閉じ込め係数が1.0×10−4以上の層のドーピング濃度の上限を5.0×1018cm−3と、8.0×1018cm−3以下になるよう設定したため、設定の光分布形状を維持することができ、目的の通りの高効率と高温度特性/低消費電力を両立した半導体レーザ素子が得られた。
〈第3実施形態〉
本発明の第3の実施形態の半導体レーザ素子について、図5を用いてその構造を説明する。
その層構造は、基板301上に、バッファ層302、下部第一クラッド層303a、下部第二クラッド層303b、下部光ガイド層304、量子井戸層と障壁層からなる多重量子井戸活性層305、上部第一光ガイド層306a、上部第二光ガイド層306b、上部第一クラッド層307、エッチングストップ層308、上部第二クラッド層309、第一キャップ層310、第二キャップ層311がこの順に基板側から積層され、上部第二クラッド層309と第一、第二キャップ層310、311とでリッジの最下部がエッチングストップ層308直上であるリッジストライプ構造(リッジストライプ部R)を形成している。リッジストライプ部Rの側面及びその両側には絶縁膜322が積層され、この絶縁膜322とリッジストライプ部Rとで、リッジストライプ部直下にのみ電流が流れる電流狭窄構造をなしている。
第3実施形態の一具体例では、n−GaAs基板301上に、n−GaAsバッファ層302(0.5μm厚)、n−Al0.56Ga0.44As下部第一クラッド層303a(2μm厚)、n−Al0.3Ga0.7As下部第二クラッド層303b(0.05μm厚)、n−Al0.41Ga0.59As下部光ガイド層304(100nm厚)、2層の0.14%圧縮歪 In0.12Ga0.88As量子井戸層(4.8nm厚)と3層の無歪Al0.15Ga0.85As障壁層(3層のうち基板側から第1、第3番目の障壁層の層厚22nm、第2番目は8nm厚)を交互に積層したアンドープ多重量子井戸活性層305(発振波長0.89μm)、p−Al0.4Ga0.6As上部第一光ガイド層306a(50nm厚)、p−Al0.4Ga0.6As上部第二光ガイド層306b(50nm厚)、p−Al0.47Ga0.53As上部第一クラッド層307(0.4μm厚)、p−InGaAsPエッチングストップ層308(15nm厚)、p−Al0.5Ga0.5As上部第二クラッド層309(1.28μm厚)、p−GaAs第一キャップ層310(1.7μm厚)、 p−GaAs第二キャップ層311(0.3μm厚)がこの順に基板側から積層され、上部第二クラッド層309と第一、第二キャップ層310、311とでリッジの最下部がエッチングストップ層308直上であるリッジストライプ構造(リッジストライプ部R)を形成している。
このリッジストライプ部Rは、高さが約3μm、幅がエッチングストップ層308直上の最も広いところで約2.5μmである。リッジストライプ部Rの側面及びその両側には絶縁膜322としてSiO2膜が積層され、リッジストライプ部直下にのみ電流が流れる電流狭窄構造をなしている。
また、絶縁膜322と第二キャップ層311上にはp型電極316が、そして基板301の裏面にはn型電極317が形成されている。
先の第1および第2実施形態の半導体レーザ素子がリッジ埋め込み型半導体レーザ素子であったのに対して、本実施形態の半導体レーザ素子は、リッジ導波型半導体レーザ素子である。
本実施形態の半導体レーザ素子の製造工程では、リッジストライプ部Rを形成した後、絶縁膜322をウェハ全面に形成し、その後、第2キャップ層322上の絶縁膜部分をフォトリソグラフィー技術を用いて除去して電流通路を形成している。この点を除いては、本実施形態の半導体レーザ素子の製造工程は先の2つの実施形態における製造工程と略同様であり、有機金属化学気相成長法を用いて結晶を成長する際の成長温度や中断といった成長プロファイルは、先の第1、第2実施形態に準ずる。また、電極形成後の端面出射型半導体レーザ素子とするまでのプロセスについても、先の実施形態と同じである。
本実施形態の半導体レーザ素子のp型導電型層のドーピング濃度Pと光閉じ込め係数Γの値はそれぞれ、上部第一光ガイド層306aで3.0×1017cm−3、0.135、上部第二光ガイド層306bで8×1017cm−3、0.06、上部第一クラッド層307で1.35×1018cm−3、0.219、上部第二クラッド層309で3.0×1018cm−3、0.011、GaAsキャップ層については、p−第一キャップ層310を5.0×1018cm−3、1.0×10−6、p−第二キャップ層311を1.0×1020cm−3、1.0×10−7未満とし、活性層305に隣接する上部第一光ガイド層306aからリッジストライプ部Rを通って第二キャップ層311までのp型導電型層m(本実施形態では、m=1、2…7)の光閉じ込め係数Γ(m)とドーピング濃度P(m)の積の総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値が4.17×1017cm−3となるように設定している。
本実施形態の半導体レーザ素子の静特性は、効率の値で1.0W/A、内部吸収αiの値として3.5cm−1が得られた。また温度特性も130K以上と良好な値が得られ、p型ドーピング濃度減少による抵抗値の上昇も見られなかった。横モードの不安定化によるキンクの発生もなく、直線的な電流−光出力特性が得られた。
本実施形態でも、自由電子吸収の影響を受けることなく、高効率と高温度特性/低消費電力を両立した、波長1.0μm以下の近赤外の波長帯で発振する半導体レーザ素子を得ることができた。
特に本実施形態では、p型導電型各層の光閉じ込め係数とドーピング濃度の積の総和Σ{Γ(m)×P(m)}を実施形態1、2よりも小さくなるよう設定している。図8はΣ{Γ(m)×P(m)}と内部吸収αiの関係を示したグラフを示しているが、この図から、特に上記の総和Σ{Γ(m)×P(m)}の値を6.0×1017cm−3以下に設定すると、p型導電型層での自由電子吸収による特性の悪化をほぼ完全に防ぐことができることがわかる。
また、特に本実施形態の半導体レーザ素子では、波長890nmという、波長900nmを越えない波長となるよう、発振波長を設定している。発振波長900nm以下では、自由電子吸収を求める上記式(1)において波長λの指数pの値が小さくなるため、図9に示すように、特に自由電子吸収による効率の悪化を抑制することができる。
さらに本実施形態では、第1第2実施形態と同様、p型導電型各層の光閉じ込め係数とドーピング濃度の積の総和の値を規定するとともに、活性層を含むアンドープ層に隣接するp型導電型層のドーピング濃度を2.0×1017cm−3以上となるように設定した。本実施形態の半導体レーザ素子は、長波長帯半導体レーザ素子に比べ、井戸層のエネルギーギャップが大きい分、井戸層−障壁層間の伝導体側エネルギーギャップΔEcが小さく、活性層直近のドーピング濃度を2.0×1017cm−3未満とした場合、活性層を含むアンドープ層からのキャリアリークが急激に増加して半導体レーザ素子の温度特性が悪化する。本実施形態では、活性層直近のドーピング濃度を3.0×1017cm−3に設定したため、上記キャリアリークに対する障壁層としての役割を十分果たすことができ、130K以上という第1、第2実施形態と同等以上の温度特性を確保することができた。
そして、本実施形態では、p型導電型各層の光閉じ込め係数とドーピング濃度の積の総和Σの値などを規定するとともに、p型上部光ガイド層を層の積層方向に2層306a,306bに分け、活性層に近い側すなわち光閉じ込め係数の大きい側の層である上部第一光ガイド層306aのドーピング濃度を3.0×1017cm−3と、遠い側のp型上部第二光ガイド層306bの値8.0×1017cm−3よりも小さく設定している。このことにより自由電子吸収の抑制と温度特性の改善をより効果的に行うことができた。同時に活性層へのドーパントの拡散も抑制することができ、信頼性の高い半導体レーザ素子を得ることができた。
以上3種の実施形態では、波長750nm、900nm弱程度の半導体レーザ素子について記述したが、本発明の骨子は、従来自由電子吸収を問題としていなかった波長1.0μm以下の近赤外波長帯で自由電子吸収の影響の程度を把握し、電流注入領域にあるp型導電型層のドーピング濃度と光閉じ込め係数との積の総和を規定することで、当該波長帯での自由電子吸収の影響の回避と温度特性や素子抵抗の値の維持もしくは改善との両立をはかるものであるため、p型導電型層をもつ波長1.0μm以下、そして好ましくは700nm以上で発振する近赤外波長帯半導体レーザ素子全てに適用され得るものである。
また、上記全実施形態ではp型クラッド層がエッチングストップ層によって二分される構造となっているが、先に述べた本特許の骨子からすると、層を構成する材料の混晶比で規定されるクラッド層の分類については、本発明の本質とは直接の関係はない。例えばエッチングストップ層がなくクラッド層1層で構成されるBH(埋め込みヘテロ)構造型の半導体レーザ素子や、他の目的のためクラッド層が3層以上の複数層で構成された半導体レーザ素子に対しても、本特許の内容は適用され得るものである。
さらに、上記全実施形態において、GaAs基板を用い、かつ被ドーピング層の層材料を全てAlGaAs系の材料としているが、III−V族系の化合物半導体であればp型ドーピング濃度と光閉じ込め係数の積の総和の自由電子吸収αfcへの寄与はほとんど同じであるため、本発明を構成する要件を満たせば、他のIII−V族系の化合物半導体材料、例えばInGaP、InGaAlPなどで構成された半導体レーザ素子全てに適用され得るものである。
また導電型についても、全実施形態で活性層より基板に近い側をn型、遠い側をp型としているが、上記実施形態と逆の導電型すなわち活性層より基板に近い側がp型、遠い側がn型という構成に対しても、本発明は適用し得るものである。
〈第4実施形態〉
図6を用いて本発明の第4の実施形態である光無線通信用送信装置について説明する。これは、第1実施形態の半導体レーザ素子401を用いて空間的に離れた場所にある受信装置に信号光を送信するための装置である。
具体的には、信号発生源402と送信用回路403とレーザドライバ404と電気信号を光に変えて空間に放射する半導体レーザ素子401を備えており、信号発生源402から発せられる電気信号を送信用回路403を通じてレーザドライバ404に入力し、この電気信号を半導体レーザ素子401を用いてE/O(電気/光)変換し、外部空間への放射光405とする。このとき半導体レーザ素子外部には、人体、特に眼への安全基準を満たすよう光を拡散する樹脂モールドが備えつけられており、半導体レーザ素子401から出た光は安全基準を満たす程度に非コヒーレント化され、外部放射光405とされている。
このように、第1実施形態の高効率かつ高温度特性/低消費電力の半導体レーザ素子を用いることで、今後の高速光無線通信で必要とされる1.0μm以下の近赤外波長帯の光を低い駆動電力/電圧で発生させることができるため、レーザドライバや他の回路構成部品の消費電力に余裕ができ、ドライバや回路を設計する際の自由度を上げることができる。また高効率、高温度特性から駆動電流を低くすることができるため、半導体レーザ素子の寿命が延び、装置の信頼性が向上する。
〈第5実施形態〉
図7を用いて本発明の第5の実施形態である光ディスク記録再生装置について説明する。これは光ディスク501にデ−タを書き込んだり、書き込まれたデ−タを再生するための装置であり、発光素子502,コリメ−トレンズ503,ビ−ムスプリッタ504,λ/4偏光板504,レ−ザ光照射用対物レンズ506、再生光用対物レンズ507、信号光検出用受光素子508、信号再生回路509を備えている。そして、発光素子502として、先に説明した本発明第2の実施形態の半導体レーザ素子が用いられている。この光ディスク記録再生装置についてその作用を以下に説明する。
まず書き込みの際には、半導体レーザ素子502から出射された信号光がコリメ−トレンズ503により平行光とされ、ビ−ムスプリッタ504を透過しλ/4偏光板505で偏光状態が調節された後、対物レンズ506で集光されて光ディスク501に照射される。これに対して、読み出しの際には、デ−タ信号がのっていないレ−ザ光が書き込み時と同じ経路をたどって光ディスク501に照射される。このレ−ザ光がデ−タが記録された光ディスク501の表面で反射され、レ−ザ光照射用対物レンズ506、λ/4波長板505を経た後、ビ−ムスプリッタ504で反射されて90度角度を変えた後、再生光用対物レンズ507で集光され、信号検出用受光素子508に入射する。信号検出用受光素子508内で、入射したレ−ザ光の強弱によって、記録されたデ−タ信号が電気信号に変換され、信号光再生回路509において元の信号に再生される。
本実施形態の光ディスク装置は従来よりも高い光出力で動作する半導体レーザ素子を用いているため、ディスクの回転数を従来よりも高速化してもデ−タの読み書きが可能となった。したがって、特にCD−R/RWなどへの書き込み時に問題となっていたディスクへのアクセス時間が従来の半導体レーザ素子を用いた装置よりも格段に短くなり、より快適な操作を実現した光ディスク装置を提供することができた。