本発明は、ろう材、ろう付け用複合材およびそれらを用いてろう付け接合されたろう付け構造に関し、特に、ラジエータやガスクーラなどの熱交換器の流路を構成するろう材、ろう付け用複合材およびそれらを用いてろう付け接合されたろう付け構造に関する。
近年、国際的に環境問題への関心が高まっており、その一環として燃料電池やマイクロガスタービンを用いたコージェネレーションシステムが開発され、広く普及している。このコージェネレーションシステムを構成する熱交換器の内部には高温のガスが流れており、このガスの温度は発熱効率を向上させる目的から高温化する傾向にある。このような高温下での厳しい使用環境に耐えることのできる熱交換器用材料として、従来、基材にステンレス鋼を用いるとともに、ろう材にニッケルろう(JIS BNi−1〜7)を用いた材料が知られている。ニッケルろうは、耐酸化性および耐食性に優れている反面、塑性加工し難い材料であるので、一般的に液体急冷凝固法により粉末またはアモルファスリボン(非晶質金属箔帯)の状態で製造される。このため、高価であるという不都合があった。また、粉末状のニッケルろうにバインダを混合してペースト状にしたものを熱交換器の製造工程で基材であるステンレス鋼に塗布するので、ろう付け後に脱バインダの工程が必要であり、製造工程が複雑になるという不都合があった。また、アモルファスリボンのニッケルろうは、幅が狭いので、複数のニッケルろうを配置する必要があり、製造工程が複雑になるという不都合があった。
そこで、従来では、基材と、Ni層、Ti層およびFe−Ni合金層により構成されたろう材層とを備えたろう付け用クラッド材が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示されたろう材層は、Ni層と、Ti層と、Fe−Ni合金層とが基材側から順に積層されている。また、このろう材層を、板状または箔状のNi層、Ti層およびFe−Ni合金層により構成することによって、製造工程が複雑になるのを抑制するとともに、耐食性が低下するのを抑制することが可能である。
しかしながら、上記特許文献1に開示された従来のろう材層は、Crを含んでいないため、ろう付け接合による接合部の表面にCr2O3の酸化皮膜(不働態膜)が生成されない。このため、高い耐酸化性を得るのが困難であるという問題点がある。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、耐酸化性および耐食性の両方を向上させることが可能なろう材、ろう付け用複合材およびそれらを用いてろう付け接合されたろう付け構造を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段および発明の効果
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面によるろう材は、Ti層からなるTiろう付け層と、Cr−Mo−Ni合金層からなるCr−Mo−Niろう付け層との少なくとも2層構造からなる。
この第1の局面によるろう材では、上記のように、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層とによりろう材を構成することによって、ろう付け接合による接合部にTi−Cr−Mo−Ni合金が形成されるので、接合部の表面にCr2O3の酸化皮膜(不働態膜)を形成することができる。これにより、ろう付け接合による接合部の耐酸化性を向上させることができる。また、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層とによりろう材を構成することによって、ろう付け接合による接合部に高い耐食性を有するTi、Cr、MoおよびNiが含まれるので、ろう付け接合による接合部の耐食性を向上させることができる。また、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層とによりろう材を構成することによって、ろう付け層にMoが含まれていることにより、ろう材のろう付け接合時にTi−Cr−Mo−Ni合金のTiとCrとが反応することにより脆いTiCr2が生成されるのを抑制することができるので、ろう付け接合による接合部が脆弱になるのを抑制することができるとともに、接合部の表面にCr2O3の酸化被膜(不働体膜)をより多く形成することができる。また、ろう付け層にMoが含まれていることにより、ろう材のろう付け接合時の融点を低下させることができる。また、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層とにより層状のろう材を構成することによって、粉末状およびアモルファスリボン状のろう材と異なり、ろう材の製造工程が複雑化するのを抑制することができる。また、ろう材が層状になるので、粉末状のろう材を用いる場合に混合するバインダが不要となる。これにより、層状のろう材を用いてろう付け接合を行った場合には、ろう付け接合した後に脱バインダを行う必要がないので、製造工程を簡略化することができる。また、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層との2層によりろう材を構成することによって、ろう材が3層のろう付け層からなる場合と異なり、ろう材が2層のろう付け層からなるので、製造工程が複雑化するのを抑制することができる。
上記第1の局面によるろう材において、好ましくは、Cr−Mo−Ni合金層からなるCr−Mo−Niろう付け層のMoの含有率は、3質量%以上10質量%以下である。このように構成すれば、ろう付け接合による接合部の耐酸化性を、十分かつ効果的に向上させることができる。
上記第1の局面によるろう材において、好ましくは、Cr−Mo−Ni合金層からなるCr−Mo−Niろう付け層のCrの含有率は、20質量%以上40質量%以下である。このように構成すれば、Cr−Mo−Ni合金層のCrの含有率を20質量%以上にすることによって、ろう付け接合による接合部の表面に十分な厚みのCr2O3からなる酸化皮膜(不働態膜)を形成することができるので、高い耐酸化性を得ることができる。また、Cr−Mo−Ni合金層のCrの含有率を40質量%以下にすることによって、Cr−Mo−Ni合金の延性が低下するのを抑制することができるので、冷間圧接などによる基板との接合を容易に行うことができる。
上記第1の局面によるろう材において、好ましくは、Tiろう付け層中のTi量と、Cr−Mo−Niろう付け層中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Niろう付け層中のNi量が21.6質量%以上37.1質量%以下、または、59.5質量%以上69.0質量%以下である。このように構成すれば、約1220℃以下の温度でTiろう付け層中のTiとCr−Mo−Niろう付け層中のNiとを溶融することができるので、約1220℃よりも高い高温を出力させる特別な炉を用いることなく、Tiろう付け層中のTiとCr−Mo−Niろう付け層中のNiとを溶融させることができる。また、Cr−Mo−Niろう付け層中のNi量を37.1質量%以下にすることによって、ろう付け接合による接合部に脆いTi2Niからなる金属間化合物が生成されるのを抑制することができる。その結果、ろう付け接合による接合部が脆弱になるのを抑制することができる。
上記第1の局面によるろう材において、Tiろう付け層の厚みt1と、Tiろう付け層およびCr−Mo−Niろう付け層の厚みt2との比t1/t2は、0.36以上0.46以下、または、0.68以上0.82以下である。このように構成すれば、Niの含有率が64質量%のCr−Mo−Niろう付け層を用いる場合において、Tiろう付け層中のTi量と、Cr−Mo−Niろう付け層中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Niろう付け層中のNi量を21.6質量%以上37.1質量%以下、または、59.5質量%以上69.0質量%以下にすることができる。その結果、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層との厚みの比を0.36以上0.46以下、または、0.68以上0.82以下に設定するだけで、特別な炉を必要としない約1220℃以下の温度でTiろう付け層中のTiとCr−Mo−Niろう付け層中のNiとを溶融させることができるTiとNiとの組成(質量%)比にすることができる。
上記第1の局面によるろう材において、Cr−Mo−Niろう付け層は、第1Cr−Mo−Ni合金層からなる第1Cr−Mo−Niろう付け層と、第2Cr−Mo−Ni合金層からなる第2Cr−Mo−Niろう付け層とを含み、第1Cr−Mo−Niろう付け層と、第2Cr−Mo−Niろう付け層との間に、Tiろう付け層が配置される3層構造からなるようにしてもよい。このように構成すれば、Tiろう付け層が雰囲気に曝されるのを抑制することができるので、ろう材の作製時やろう付け時などの高温時において、雰囲気中に水素および窒素などが含まれている場合にも、Tiろう付け層が脆弱になるのを抑制することができる。
この発明の第2の局面によるろう付け用複合材は、鉄鋼により形成された基板と、基板の表面に圧延接合され、Ti層からなるTiろう付け層と、Cr−Mo−Ni合金層からなるCr−Mo−Niろう付け層との少なくとも2層構造からなるろう材とを備える。
この第2の局面によるろう付け用複合材では、上記のように、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層とにより構成されるろう材を備えることによって、ろう付け接合による接合部にTi−Cr−Mo−Ni合金が形成されるので、接合部の表面にCr2O3の酸化皮膜(不働態膜)を形成することができる。これにより、ろう付け接合による接合部の耐酸化性を向上させることができる。また、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層とにより構成されるろう材を備えることによって、ろう付け接合による接合部に高い耐食性を有するTi、Cr、MoおよびNiが含まれるので、ろう付け接合による接合部の耐食性を向上させることができる。また、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層とにより構成されるろう材を備えることによって、ろう付け層にMoが含まれていることにより、ろう材のろう付け接合時にTi−Cr−Mo−Ni合金のTiとCrとが反応することにより脆いTiCr2が生成されるのを抑制することができるので、ろう付け接合による接合部が脆弱になるのを抑制することができるとともに、接合部の表面にCr2O3の酸化被膜(不働体膜)をより多く形成することができる。また、ろう付け層にMoが含まれていることにより、ろう材のろう付け接合時の融点を低下させることができる。
また、第2の局面では、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層との2層構造からなる層状のろう材を基板に圧延接合することによりろう付け用複合材を形成することによって、液体急冷凝固法により形成した粉末状またはアモルファスリボン状のろう材を用いる場合と異なり、ろう材の製造工程が複雑化するのを抑制することができる。これにより、ろう付け用複合材の製造工程が複雑化するのを抑制することができる。また、ろう材が層状になるので、粉末状のろう材を用いる場合に混合するバインダが不要となる。これにより、層状のろう材を用いてろう付け接合を行った場合には、ろう付け接合した後に脱バインダを行う必要がないので、製造工程を簡略化することができる。また、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層との2層構造からなる層状のろう材を基板に圧延接合することによりろう付け用複合材を形成することによって、ろう材が3層のろう付け層からなる場合と異なり、ろう材が2層のろう付け層からなるので、製造工程が複雑化するのを抑制することができる。
上記第2の局面によるろう付け用複合材において、好ましくは、Cr−Mo−Ni合金層からなるCr−Mo−Niろう付け層のMoの含有率は、3質量%以上10質量%以下である。このように構成すれば、ろう付け接合による接合部の耐酸化性を、十分かつ効果的に向上させることができる。
上記第2の局面によるろう付け用複合材において、好ましくは、Cr−Mo−Ni合金層からなるCr−Mo−Niろう付け層のCrの含有率は、20質量%以上40質量%以下である。このように構成すれば、Cr−Mo−Ni合金層のCrの含有率を20質量%以上にすることによって、ろう付け接合による接合部の表面に十分な厚みのCr2O3からなる酸化皮膜(不働態膜)を形成することができるので、高い耐酸化性を得ることができる。また、Cr−Mo−Ni合金層のCrの含有率を40質量%以下にすることによって、Cr−Mo−Ni合金の延性が低下するのを抑制することができるので、冷間圧接などによる基板との接合を容易に行うことができる。
上記第2の局面によるろう付け用複合材において、好ましくは、Tiろう付け層中のTi量と、Cr−Mo−Niろう付け層中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Niろう付け層中のNi量が21.6質量%以上37.1質量%以下、または、59.5質量%以上69.0質量%以下である。このように構成すれば、約1220℃以下の温度でTiろう付け層中のTiとCr−Mo−Niろう付け層中のNiとを溶融することができるので、約1220℃よりも高い高温を出力させる特別な炉を用いることなく、Tiろう付け層中のTiとCr−Mo−Niろう付け層中のNiとを溶融させることができる。また、Cr−Mo−Niろう付け層中のNi量を37.1質量%以下にすることによって、ろう付け接合による接合部に脆いTi2Niからなる金属間化合物が生成されるのを抑制することができる。その結果、ろう付け接合による接合部が脆弱になるのを抑制することができる。
上記第2の局面によるろう付け用複合材において、Tiろう付け層の厚みt1と、Tiろう付け層およびCr−Mo−Niろう付け層の厚みt2との比t1/t2は、0.36以上0.46以下、または、0.68以上0.82以下である。このように構成すれば、Niの含有率が64質量%のCr−Mo−Niろう付け層を用いる場合において、Tiろう付け層中のTi量と、Cr−Mo−Niろう付け層中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Tiろう付け層中のTi量に対するCr−Mo−Niろう付け層中のNi量を21.6質量%以上37.1質量%以下、または、59.5質量%以上69.0質量%以下にすることができる。その結果、Tiろう付け層と、Cr−Mo−Niろう付け層との厚みの比を0.36以上0.46以下、または、0.68以上0.82以下に設定するだけで、特別な炉を必要としない約1220℃以下の温度でTiろう付け層中のTiとCr−Mo−Niろう付け層中のNiとを溶融させることができるTiとNiとの組成(質量%)比にすることができる。
この発明の第3の局面によるろう付け構造は、鉄鋼により形成された基板と、基板の表面に圧延接合され、Ti層からなるTiろう付け層およびCr−Mo−Ni合金層からなるCr−Mo−Niろう付け層の少なくとも2層構造からなるろう材とを備えたろう付け用複合材を用いてろう付け接合されることにより形成されるのが好ましい。
この第3の局面によるろう付け構造において、好ましくは、少なくともろう付け接合された部分にTi−Cr−Mo−Ni合金を含む。このように構成すれば、ろう付け接合された部分の表面にCr2O3の酸化皮膜(不働態膜)を形成することができるので、ろう付け接合された部分の耐酸化性を向上させることができる。また、ろう付け接合された部分にTi−Cr−Mo−Ni合金を含むことによって、ろう付け接合された部分に高い耐食性を有するTi、Cr、MoおよびNiが含まれるので、ろう付け接合された部分の耐食性を向上させることができる。また、ろう付け接合された部分にMoを含むことによって、ろう材のろう付け接合時にTi−Cr−Mo−Ni合金のTiとCrとが反応することにより脆いTiCr2が生成されるのを抑制することができるので、ろう付け接合された部分が脆弱になるのを抑制することができるとともに、ろう付け接合された部分の表面にCr2O3の酸化被膜(不働体膜)をより多く形成することができる。また、ろう付け接合された部分にMoを含むことによって、ろう付け接合された部分がTi−Cr−Ni合金により形成されている場合に比べて、ろう材のろう付け接合時の融点を低下させることができる。また、ろう付け接合された部分にMoを含むことによって、鉄鋼により形成された基板に圧延接合されたろう材を用いてろう付け接合する際に、鉄鋼により形成された基板からろう付け接合される部分にFeおよびCrをより拡散させることができる。これにより、ろう付け接合された部分の組成が鉄鋼に近くなるので、ろう付け接合された部分の耐食性および耐酸化性をより向上することができるとともに、ろう付け接合された部分の融点をろう付け接合される前のろう材に比べて向上させることができる。
上記Ti−Cr−Mo−Ni合金を含むろう付け構造において、好ましくは、Ti−Cr−Mo−Ni合金のMo含有率は、1.1質量%以上である。このように構成すれば、ろう付け接合された部分の耐酸化性を十分に向上させることができる。
上記Ti−Cr−Mo−Ni合金を含むろう付け構造において、好ましくは、Ti−Cr−Mo−Ni合金のCr含有率は、6.6質量%以上である。このように構成すれば、Ti−Cr−Mo−Ni合金に十分な量のCrが含まれるので、ろう付け接合された部分の表面に十分な厚みを有するCr2O3の酸化皮膜(不働態膜)を生成することができる。これにより、ろう付け接合された部分の耐酸化性をより向上させることができる。
上記Ti−Cr−Mo−Ni合金を含むろう付け構造において、好ましくは、Ti−Cr−Mo−Ni合金中のTi量とNi量との合計を100質量%とした場合に、Ti−Cr−Mo−Ni合金中のNi量が21.6質量%以上37.1質量%以下、または、59.5質量%以上69.0質量%以下である。このように構成すれば、第3の局面のろう付け構造を形成する際に、約1220℃以下の温度でTi−Cr−Mo−Ni合金を溶融することができる。これにより、約1220℃よりも高い高温を出力させる特別な炉を用いることなく、第3の局面のろう付け構造を形成することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるろう材の構成を示した断面図である。まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態によるろう材1の構成について説明する。
第1実施形態によるろう材1は、図1に示すように、Ti層2と、Ti層2の一方面側に配置されるCr−Mo−Ni合金層3aと、Ti層2の他方面側に配置されるCr−Mo−Ni合金層3bとを有している。また、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3bは、Ti層2に圧延接合されている。また、圧延接合として、たとえば、熱間圧接、冷間圧接および真空圧接などを用いることが可能である。なお、Ti層2は、本発明の「Tiろう付け層」の一例である。また、Cr−Mo−Ni合金層3aは、本発明の「Cr−Mo−Niろう付け層」および「第1Cr−Mo−Niろう付け層」の一例であり、Cr−Mo−Ni合金層3bは、本発明の「Cr−Mo−Niろう付け層」および「第2Cr−Mo−Niろう付け層」の一例である。
また、Ti層2は、純Tiのみから構成されている。また、Ti層2は、t1の厚みを有している。また、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3bは、Cr、MoおよびNiのみから構成されている。このCr−Mo−Ni合金層3aおよび3bは、Crの含有率が約20質量%以上約40質量%以下であり、好ましくは、約30質量%である。また、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3bは、Moの含有率が約3質量%以上約10質量%以下であり、好ましくは、約6質量%である。また、ろう材1(Ti層2、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b)は、t2の厚みを有している。
ここで、第1実施形態では、Ti層2中のTi量と、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b中のNi量が約21.6質量%以上約37.1質量%以下、または、約59.5質量%以上約69.0質量%以下であり、好ましくは、約28.3質量%、または、約65.2質量%である。また、Ti層2の厚みt1と、ろう材1の厚みt2との比t1/t2は、約0.36以上約0.46以下、または、約0.68以上約0.82以下であり、好ましくは、約0.40または約0.76である。
図2および図3は、図1に示した第1実施形態によるろう材を用いて形成された熱交換器を部分的に示した断面図である。次に、図2および図3を参照して、本発明の第1実施形態によるろう材1を用いて形成された熱交換器100の構成について説明する。なお、第1実施形態では、本発明のろう付け構造を、熱交換器100に適用した例について説明する。
第1実施形態によるろう材1を用いて形成された熱交換器100は、図2および図3に示すように、ステンレス鋼により形成された一対のプレート11と、ステンレス鋼により形成された6つの波形状のフィン12と、ステンレス鋼により形成された5つのプレート13とを備えている。なお、プレート11および13は、本発明の「基板」の一例である。また、ステンレス鋼として、フェライト系ステンレス鋼であるSUS410およびSUS430やオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304およびSUS316などを用いることが可能である。一対のプレート11は、熱交換器100の外枠を構成している。また、6つのフィン12および5つのプレート13は、一対のプレート11の間に交互に積層するように配置されている。熱交換器100の内部は、5つのプレート13により6つの層に分割されており、6つの層の中を排ガスと水とが一層おきに交互に流れるように構成されている。また、フィン12は、6つの層の中を流れる排ガスおよび水の流速を遅くするために設けられている。
ここで、第1実施形態では、熱交換器100は、図2に示すように、フィン12とプレート13および11との間に、後述するろう付け接合により形成されたTi−Cr−Mo−Ni合金1aを含んでいる。つまり、隣り合うフィン12の間には、プレート13および一対のTi−Cr−Mo−Ni合金1aが形成されるとともに、プレート11とフィン12との間には、Ti−Cr−Mo−Ni合金1aが形成されている。このTi−Cr−Mo−Ni合金1aは、図3に示すように、フィン12の屈曲部の外周面と、プレート13および11とを接合するための機能を有している。なお、Ti−Cr−Mo−Ni合金1aのCrの含有率は、約6.6質量%以上であり、好ましくは、約11.5質量%または約22.4質量%である。また、Ti−Cr−Mo−Ni合金1aのMoの含有率は、約1.1質量%以上であり、好ましくは、約2.3質量%または約4.5質量%である。また、Ti−Cr−Mo−Ni合金1a中のTi量とNi量との合計を100質量%とした場合に、Ti−Cr−Mo−Ni合金1a中のNi量は、約21.6質量%以上約37.1質量%以下、または、約59.5質量%以上約69.0質量%以下であり、好ましくは、約28.3質量%、または、約65.2質量%である。また、第1実施形態では、熱交換器100の内部を流れる排ガスの温度は約700℃である。そして、熱交換器100の内部に形成された6つの層の中を一層おきに交互に流れる排ガスと水とが、プレート13および一対のTi−Cr−Mo−Ni合金1aを介して熱交換を行うことにより、排ガスの熱が水に伝達されるので、水が暖められて温水になる。
図4および図5は、図2に示した第1実施形態による熱交換器を形成する際のろう付け接合の工程を説明するための断面図である。図1〜図5を参照して、本発明の第1実施形態によるろう材1を用いて行われるろう付け接合について説明する。
まず、プレート11(図2参照)とフィン12(図2参照)との間にろう材1(図1参照)を配置するとともに、図4に示すように、フィン12とプレート13との間にろう材1を配置する。このとき、フィン12の屈曲部の外周面と、ろう材1を構成するCr−Mo−Ni合金層3aとが接触しているとともに、プレート13と、ろう材1を構成するCr−Mo−Ni合金層3bとが接触している。この状態から、不活性ガス中または真空中で約10分間加熱される。なお、Ti層2中のTi量と、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b中のNi量が約21.6質量%以上約37.1質量%以下であるろう材1を用いる場合には、約960℃以上約1150℃以下に加熱する。また、Ti層2中のTi量と、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b中のNi量が約59.5質量%以上約69.0質量%以下であるろう材1を用いる場合には、約1100℃以上約1220℃以下に加熱する。
この際、図5に示すように、ろう材1(図1および図4参照)を構成するTi層2と、Cr−Mo−Ni合金層3a(Cr−Mo−Ni合金層3b)とが固相状態から液相状態に変化してTi−Cr−Mo−Ni液相1bが形成される。このとき、フィン12、プレート13および11がステンレス鋼により形成されていることに起因して、Ti−Cr−Mo−Ni液相1bにフィン12、プレート13および11からFeおよびCrが拡散する。そして、ろう付け後に温度が低下することによって、Ti−Cr−Mo−Ni液相1bの温度が低下すると、Ti−Cr−Mo−Ni液相1bが液相状態から固相状態であるTi−Cr−Mo−Ni合金1a(図2および図3参照)に変化する。その結果、フィン12の屈曲部の外周面とプレート13および11とが、Ti−Cr−Mo−Ni合金1aによりろう付け接合されるので、図2に示した熱交換器100が形成される。
第1実施形態では、上記のように、Ti層2と、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3bとによりろう材1を構成することによって、ろう付け接合による接合部にTi−Cr−Mo−Ni合金1aが形成されるので、接合部の表面にCr2O3の酸化皮膜(不働態膜)を形成することができる。これにより、ろう付け接合による接合部の耐酸化性を向上させることができる。
また、第1実施形態では、Ti層2と、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3bとによりろう材1を構成することによって、ろう付け接合による接合部に高い耐食性を有するTi、Cr、MoおよびNiが含まれるので、ろう付け接合による接合部の耐食性を向上させることができる。
また、第1実施形態では、Ti層2と、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3bとによりろう材1を構成することによって、ろう付け接合による接合部にMoが含まれていることにより、ろう材1のろう付け接合時にTi−Cr−Mo−Ni合金1aのTiとCrとが反応することにより脆いTiCr2が生成されるのを抑制することができるので、ろう付け接合による接合部が脆弱になるのを抑制することができるとともに、接合部の表面にCr2O3の酸化被膜(不働体膜)をより多く形成することができる。また、ろう付け接合による接合部にMoが含まれていることにより、ろう付け接合による接合部がTi−Cr−Ni合金により形成されている場合に比べて、ろう材1のろう付け接合時の融点を低下させることができる。また、ろう付け接合による接合部にMoが含まれていることにより、ろう付け接合する際に、ステンレス鋼により形成されたフィン12とプレート13および11とからろう付け接合される部分にFeおよびCrをより拡散させることができる。これにより、ろう付け接合された部分の組成がステンレス鋼に近くなるので、ろう付け接合された部分の耐食性および耐酸化性をより向上することができるとともに、ろう付け接合された部分の融点をろう付け接合される前のろう材1に比べて向上させることができる。
また、第1実施形態では、Ti層2のTi量と、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b中のNi量を約21.6質量%以上約37.1質量%以下、または、約59.5質量%以上約69.0質量%以下にすることによって、約1220℃以下の温度でTi層2と、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3bとを溶融することができる。これにより、約1220℃よりも高い高温を出力させる特別な炉を用いることなく、Ti層2中のTiと、Cr−Mo−Ni合金層3aおよび3b中のNiとを溶融させることができる。また、Ni量を約37.1質量%以下にすることによって、ろう付け接合による接合部に脆いTi2Niからなる金属間化合物が生成されるのを抑制することができる。その結果、ろう付け接合による接合部の強度が低下するのを抑制することができる。
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態によるろう付け用複合材の構成を示した断面図である。図7は、図6に示した第2実施形態によるろう付け用複合材を用いたろう付け接合の工程を説明するための断面図である。図2、図3および図5〜図7を参照して、この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、2層構造からなるろう材51がプレート13に圧延接合されたろう付け用複合材50について説明する。
本発明の第2実施形態によるろう付け用複合材50は、図6に示すように、ステンレス鋼により形成されたプレート13と、プレート13の一方面および他方面に圧延接合された一対のろう材51とを備えている。
ここで、第2実施形態では、一対のろう材51は、それぞれ、プレート13に圧延接合されたTi層2およびCr−Mo−Ni合金層3の2層構造により構成されている。また、Ti層2中のTi量と、Cr−Mo−Ni合金層3中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Ni合金層3中のNi量が約21.6質量%以上約37.1質量%以下、または、約59.5質量%以上約69.0質量%以下であり、好ましくは、約28.3質量%、または、約65.2質量%である。ここで、Ti層2中のTi量と、Cr−Mo−Ni合金層3中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Ni合金層3中のNi量が約21.6質量%以上約37.1質量%以下であるろう材51を用いる場合には、ろう材51の融点が約960℃〜約1150℃であり、Ti層2中のTi量と、Cr−Mo−Ni合金層3中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Ni合金層3中のNi量が約59.5質量%以上約69.0質量%以下であるろう材51を用いる場合には、ろう材51の融点が約1100℃〜約1220℃である。また、オーステナイト系のステンレス鋼であるSUS304やSUS316のプレート13にろう材51を圧延接合する場合には、オーステナイト系ステンレス鋼にシグマ脆性(脆化現象)が生じないように、約1050℃以上で焼鈍する必要がある。したがって、オーステナイト系ステンレス鋼をプレート13として用いる場合には、Ti層2中のTi量と、Cr−Mo−Ni合金層3中のNi量との合計を100質量%とした場合に、Cr−Mo−Ni合金層3中のNi量が約59.5質量%以上約69.0質量%以下であるろう材51を用いることが好ましい。
そして、第2実施形態によるろう材51を用いて熱交換器100(図2参照)を形成するには、図7に示すように、フィン12の屈曲部に接するようにろう付け用複合材50を配置する。そして、上記第1実施形態で行われたろう付け接合と同様の条件下でろう付け接合を行う。この際、図5に示すように、ろう材51を構成するTi層2とCr−Mo−Ni合金層3とが固相状態から液相状態に変化してTi−Cr−Mo−Ni液相1bが形成される。このとき、フィン12、プレート13および11がステンレス鋼により形成されていることに起因して、Ti−Cr−Mo−Ni液相1bにフィン12、プレート13および11からFeおよびCrが拡散する。そして、ろう付け後に温度が低下することによって、Ti−Cr−Mo−Ni液相1bの温度が低下すると、Ti−Cr−Mo−Ni液相1bが液相状態から固相状態であるTi−Cr−Mo−Ni合金1a(図2および図3参照)に変化する。その結果、フィン12の屈曲部の外周面とプレート13および11とが、Ti−Cr−Mo−Ni合金1aによりろう付け接合されるので、図2に示した熱交換器100が形成される。
なお、第2実施形態の効果は、上記した第1実施形態と同様である。
次に、上記した本発明の第1実施形態の効果(ろう付け接合による接合部の耐酸化性向上効果)を確認するために行った比較実験について説明する。この比較実験では、純Ti層と、純Ti層の一方面および他方面に圧延接合されたCr−Mo−Ni合金層とからなる3層構造のろう材を用いて形成した上記第1実施形態に対応する実施例1〜16によるクラッド材の反応層(ろう付け接合による接合部)と、上記実施例1〜16とは異なりMoを含有しないろう材を用いて形成した比較例1および2によるクラッド材の反応層(ろう付け接合による接合部)との組成を比較した。また、実施例1〜16、比較例1および2によるクラッド材の反応層(ろう付け接合による接合部)の酸化増量を算出して比較することにより、実施例1〜16、比較例1および2によるクラッド材の反応層(ろう付け接合による接合部)の耐酸化性を評価した。以下、詳細に説明する。
[ろう材の作製]
(実施例1)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とMoを6質量%とNiを64質量%とを含む30Cr−6Mo−Ni合金層とを用いた。そして、純Ti層の一方面および他方面にそれぞれ30Cr−6Mo−Ni合金層を圧延接合した後、アルゴン雰囲気下で800℃の温度で1分間拡散焼鈍を施した。そして、仕上げ圧延および焼鈍を行って、純Ti層および30Cr−6Mo−Ni合金層の板厚をそれぞれ0.036mmおよび0.032mmに調整した。これにより、30Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例1によるろう材を作製した。このようにして、ろう材に対する純Ti層の板厚比が0.36になるようにした。
(実施例2)
仕上げ圧延および焼鈍を行うことにより、純Ti層および30Cr−6Mo−Ni合金層の板厚をそれぞれ0.040mmおよび0.030mmに調整したこと以外は、上記実施例1と同様にして30Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例2によるろう材を作製した。このようにして、ろう材に対する純Ti層の板厚比が0.40になるようにした。
(実施例3)
仕上げ圧延および焼鈍を行うことにより、純Ti層および30Cr−6Mo−Ni合金層の板厚をそれぞれ0.046mmおよび0.027mmに調整したこと以外は、上記実施例1と同様にして30Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例3によるろう材を作製した。このようにして、ろう材に対する純Ti層の板厚比が0.46になるようにした。
(実施例4)
仕上げ圧延および焼鈍を行うことにより、純Ti層および30Cr−6Mo−Ni合金層の板厚をそれぞれ0.068mmおよび0.016mmに調整したこと以外は、上記実施例1と同様にして30Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例4によるろう材を作製した。このようにして、ろう材に対する純Ti層の板厚比が0.68になるようにした。
(実施例5)
仕上げ圧延および焼鈍を行うことにより、純Ti層および30Cr−6Mo−Ni合金層の板厚をそれぞれ0.076mmおよび0.012mmに調整したこと以外は、上記実施例1と同様にして30Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例5によるろう材を作製した。このようにして、ろう材に対する純Ti層の板厚比が0.76になるようにした。
(実施例6)
仕上げ圧延および焼鈍を行うことにより、純Ti層および30Cr−6Mo−Ni合金層の板厚をそれぞれ0.082mmおよび0.009mmに調整したこと以外は、上記実施例1と同様にして30Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例6によるろう材を作製した。このようにして、ろう材に対する純Ti層の板厚比が0.82になるようにした。
(実施例7)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とMoを1質量%とNiを69質量%とを含む30Cr−1Mo−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例2と同様にして30Cr−1Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−1Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例7によるろう材を作製した。
(実施例8)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とMoを1質量%とNiを69質量%とを含む30Cr−1Mo−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例5と同様にして30Cr−1Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−1Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例8によるろう材を作製した。
(実施例9)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とMoを3質量%とNiを67質量%とを含む30Cr−3Mo−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例2と同様にして30Cr−3Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−3Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例9によるろう材を作製した。
(実施例10)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とMoを3質量%とNiを67質量%とを含む30Cr−3Mo−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例5と同様にして30Cr−3Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−3Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例10によるろう材を作製した。
(実施例11)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とMoを10質量%とNiを60質量%とを含む30Cr−10Mo−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例2と同様にして30Cr−10Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−10Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例11によるろう材を作製した。
(実施例12)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とMoを10質量%とNiを60質量%とを含む30Cr−10Mo−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例5と同様にして30Cr−10Mo−Ni合金層/純Ti層/30Cr−10Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例12によるろう材を作製した。
(実施例13)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを20質量%とMoを6質量%とNiを74質量%とを含む20Cr−6Mo−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例2と同様にして20Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/20Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例13によるろう材を作製した。
(実施例14)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを20質量%とMoを6質量%とNiを74質量%とを含む20Cr−6Mo−Ni合金層を用いるとともに、仕上げ圧延および焼鈍を行うことにより、純Ti層および20Cr−6Mo−Ni合金層のそれぞれの板厚を、0.080mmおよび0.010mmに調整したこと以外は、上記実施例1と同様にして20Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/20Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例14によるろう材を作製した。このようにして、ろう材に対する純Ti層の板厚比が0.80になるようにした。
(実施例15)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを40質量%とMoを6質量%とNiを54質量%とを含む40Cr−6Mo−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例2と同様にして40Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/40Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例15によるろう材を作製した。
(実施例16)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを40質量%とMoを6質量%とNiを54質量%とを含む40Cr−6Mo−Ni合金層を用いるとともに、仕上げ圧延および焼鈍を行うことにより、純Ti層および40Cr−6Mo−Ni合金層のそれぞれの板厚を、0.078mmおよび0.011mmに調整したこと以外は、上記実施例1と同様にして40Cr−6Mo−Ni合金層/純Ti層/40Cr−6Mo−Ni合金層の3層構造を有する実施例16によるろう材を作製した。このようにして、ろう材に対する純Ti層の板厚比が0.78になるようにした。
(比較例1)
ろう材の原料として、純Ti層と、Moを含まずにCrを30質量%とNiを70質量%とを含む30Cr−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例2と同様にして30Cr−Ni合金層/純Ti層/30Cr−Ni合金層の3層構造を有する比較例1によるろう材を作製した。
(比較例2)
ろう材の原料として、純Ti層と、Moを含まずにCrを30質量%とNiを70質量%とを含む30Cr−Ni合金層とを用いること以外は、上記実施例5と同様にして30Cr−Ni合金層/純Ti層/30Cr−Ni合金層の3層構造を有する比較例2によるろう材を作製した。
ここで、上記したろう材の各層の板厚(mm)と、ろう材に対する純Ti層の板厚比との対応関係を以下の表1〜表7に示す。なお、表1に示す実施例1〜6では、30Cr−6Mo−Ni合金層を用いた。また、表2に示す実施例7および8では、30Cr−1Mo−Ni合金層、表3に示す実施例9および10では、30Cr−3Mo−Ni合金層、表4に示す実施例11および12では、30Cr−10Mo−Ni合金層を用いた。また、表5に示す実施例13および14では、20Cr−6Mo−Ni合金層、表6に示す実施例15および16では、40Cr−6Mo−Ni合金層を用いた。また、表7中の比較例1および2では、Moを含まない30Cr−Ni合金層を用いた。
[クラッド材の反応層の組成分析]
(実施例1〜16、比較例1および2に共通)
次に、上記のようにして作製した実施例1〜16、比較例1および2によるろう材を反応させて得られたクラッド材の反応層の組成およびろう材の融点を分析した。具体的には、実施例1〜16、比較例1および2によるろう材を所定の条件(温度:約1220℃、時間:10分)で反応させた。そして、上記反応により得られたクラッド材の反応層を上記第1実施形態によるろう付け接合による接合部と見なし、その反応層の断面を樹脂で埋め込んだ後、研磨を行った。そして、反応層の断面におけるNi、Cr、MoおよびTiの含有率(質量%)を、EPMA(電子線マイクロアナリシス)を用いて分析した。さらに、実験によって得られたクラッド材の反応層のNiとTiとの組成(質量%)比を分析した。その結果を以下の表8に示す。
上記表8に示すように、実施例1によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが49.7質量%、Crが23.3質量%、Moが4.7質量%、Tiが22.3質量%であった。また、実施例1による反応層のNiとTiとの組成比は、69.0質量%:31.0質量%であり、融点は、1220℃であった。また、実施例2によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが47.7質量%、Crが22.4質量%、Moが4.5質量%、Tiが25.4質量%であった。また、実施例2による反応層のNiとTiとの組成比は、65.2質量%:34.8質量%であり、融点は、1100℃であった。また、実施例3によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが44.6質量%、Crが20.9質量%、Moが4.2質量%、Tiが30.3質量%であった。また、実施例3による反応層のNiとTiとの組成比は、59.5質量%:40.5質量%であり、融点は、1150℃であった。また、実施例4によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが30.7質量%、Crが14.3質量%、Moが2.9質量%、Tiが52.1質量%であった。また、実施例4による反応層のNiとTiとの組成比は、37.1質量%:62.9質量%であり、融点は約1150℃であった。また、実施例5によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが24.4質量%、Crが11.5質量%、Moが2.3質量%、Tiが61.8質量%であった。また、実施例5による反応層のNiとTiとの組成比は、28.3質量%:71.7質量%であり、融点は、960℃であった。また、実施例6によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが19.2質量%、Crが9.0質量%、Moが1.8質量%、Tiが70.0質量%であった。また、実施例6による反応層のNiとTiとの組成比は、21.6質量%:78.4質量%であり、融点は、1100℃であった。
また、実施例7によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが51.5質量%、Crが22.4質量%、Moが0.7質量%、Tiが25.4質量%であった。また、実施例7による反応層のNiとTiとの組成比は、66.9質量%:33.1質量%であり、融点は、1125℃であった。また、実施例8によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが26.3質量%、Crが11.5質量%、Moが0.4質量%、Tiが61.8質量%であった。また、実施例8による反応層のNiとTiとの組成比は、29.9質量%:70.1質量%であり、融点は、985℃であった。
また、実施例9によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが50.0質量%、Crが22.4質量%、Moが2.2質量%、Tiが25.4質量%であった。また、実施例9による反応層のNiとTiとの組成比は、66.3質量%:33.7質量%であり、融点は、1120℃であった。また、実施例10によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが25.6質量%、Crが11.5質量%、Moが1.1質量%、Tiが61.8質量%であった。また、実施例10による反応層のNiとTiとの組成比は、29.3質量%:70.7質量%であり、融点は、980℃であった。
また、上記表8に示すように、実施例11によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが44.7質量%、Crが22.4質量%、Moが7.5質量%、Tiが25.4質量%であった。また、実施例11による反応層のNiとTiとの組成比は、63.8質量%:36.2質量%であり、融点は、1125℃であった。また、実施例12によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが22.9質量%、Crが11.5質量%、Moが3.8質量%、Tiが61.8質量%であった。また、実施例12による反応層のNiとTiとの組成比は、27.0質量%:73.0質量%であり、融点は、990℃であった。
また、実施例13によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが55.2質量%、Crが14.9質量%、Moが4.5質量%、Tiが25.4質量%であった。また、実施例13による反応層のNiとTiとの組成比は、68.5質量%:31.5質量%であり、融点は、1110℃であった。また、実施例14によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが24.3質量%、Crが6.5質量%、Moが2.0質量%、Tiが67.2質量%であった。また、実施例14による反応層のNiとTiとの組成比は、26.6質量%:73.4質量%であり、融点は、970℃であった。
また、実施例15によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが40.3質量%、Crが29.8質量%、Moが4.5質量%、Tiが25.4質量%であった。また、実施例15による反応層のNiとTiとの組成比は、61.3質量%:38.7質量%であり、融点は、1120℃であった。また、実施例16によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが18.5質量%、Crが13.7質量%、Moが2.0質量%、Tiが65.8質量%であった。また、実施例16による反応層のNiとTiとの組成比は、21.9質量%:78.1質量%であり、融点は、980℃であった。
上記のように、実施例1〜16によるろう材を反応させて得られた反応層の組成から、反応層はNi−Cr−Mo−Ti合金からなることが判明した。
また、上記表8に示すように、比較例1によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが52.2質量%、Crが22.4質量%、Moが0.0質量%、Tiが25.4質量%であった。また、比較例1による反応層のNiとTiとの組成比は、67.2質量%:32.8質量%であり、融点は、1130℃であった。また、比較例2によるろう材を反応させて得られた反応層の組成(質量%)比は、Niが26.7質量%、Crが11.5質量%、Moが0.0質量%、Tiが61.8質量%であった。また、比較例2による反応層のNiとTiとの組成比は、30.2質量%:69.8質量%であり、融点は、990℃であった。上記のように、比較例1および2によるろう材を反応させて得られる反応層は、Ni−Cr−Ti合金からなることが判明した。
また、以上の結果から、NiとTiとの組成比がNi−Ti合金の共晶点の組成比(64.4(Ni):35.6(Ti))の近傍である実施例2、7、9および比較例1によるろう材の融点、および、NiとTiとの組成比がNi−Ti合金の共晶点の組成比(28.3(Ni):71.7(Ti))の近傍である実施例5、8、10および比較例2によるろう材の融点をそれぞれ比較すると、反応層へのMoの添加量を増加させるにしたがって、ろう材の融点が低下することが判明した。なお、実施例11および12によるろう材の融点が高いのは、Moの添加量が多いことに起因してNiの含有量が少なくなるので、NiとTiとの組成比がNi−Ti合金の共晶点の組成比(64.4(Ni):35.6(Ti)および28.3(Ni):71.7(Ti))から遠くなるためであると考えられる。また、実施例1〜3によるろう材の融点を比較すると、実施例1および3によるろう材の融点は、実施例2によるろう材の融点よりも高くなることが判明した。これは、実施例1および3によるろう材のNiとTiとの組成比が実施例2によるろう材のNiとTiとの組成比に比べて、Ni−Ti合金の共晶点の組成比(64.4(Ni):35.6(Ti))から遠くなるためであると考えられる。また、実施例4〜6によるろう材の融点を比較すると、実施例4および6によるろう材の融点は、実施例5によるろう材の融点よりも高くなることが判明した。これは、実施例4および6によるろう材のNiとTiとの組成比が実施例5によるろう材のNiとTiとの組成比に比べて、Ni−Ti合金の共晶点の組成比(64.4(Ni):35.6(Ti))から遠くなるためであると考えられる。
[耐酸化性評価試験]
(実施例1〜16、比較例1および2に共通)
また、上記実施例1〜16、比較例1および2によるろう材を反応させて得られた反応層(ろう付け接合による接合部)の耐酸化性を評価するための酸化試験を行った。具体的には、実施例1〜16、比較例1および2によるろう材を反応させて得られた反応層を50mm×50mm角に切り出し、酸化試験前の反応層の重量を測定した後、大気中で900℃の温度で100時間加熱した。そして、酸化試験後の反応層の重量を測定し、酸化試験前後における反応層の重量の変化から反応層の酸化増量を算出するとともに、反応層の耐酸化性を評価した。その結果を以下の表9に示す。
上記表9を参照して、実施例1によるろう材を反応させて得られたNiを49.7質量%、Crを23.3質量%、Moを4.7質量%、Tiを22.3質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.09mg/mm
2であった。また、実施例2によるろう材を反応させて得られたNiを47.7質量%、Crを22.4質量%、Moを4.5質量%、Tiを25.4質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.09mg/mm
2であった。また、実施例3によるろう材を反応させて得られたNiを44.6質量%、Crを20.9質量%、Moを4.2質量%、Tiを30.3質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.10mg/mm
2であった。また、実施例4によるろう材を反応させて得られたNiを30.7質量%、Crを14.3質量%、Moを2.9質量%、Tiを52.1質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.20mg/mm
2であった。また、実施例5によるろう材を反応させて得られたNiを24.4質量%、Crを11.5質量%、Moを2.3質量%、Tiを61.8質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.21mg/mm
2であった。また、実施例6によるろう材を反応させて得られたNiを19.2質量%、Crを9.0質量%、Moを1.8質量%、Tiを70.0質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.22mg/mm
2であった。
また、実施例7によるろう材を反応させて得られたNiを51.5質量%、Crを22.4質量%、Moを0.7質量%、Tiを25.4質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.31mg/mm2であった。また、実施例8によるろう材を反応させて得られたNiを26.3質量%、Crを11.5質量%、Moを0.4質量%、Tiを61.8質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.32mg/mm2であった。また、実施例9によるろう材を反応させて得られたNiを50.0質量%、Crを22.4質量%、Moを2.2質量%、Tiを25.4質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.09mg/mm2であった。また、実施例10によるろう材を反応させて得られたNiを25.6質量%、Crを11.5質量%、Moを1.1質量%、Tiを61.8質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.22mg/mm2であった。また、実施例11によるろう材を反応させて得られたNiを44.7質量%、Crを22.4質量%、Moを7.5質量%、Tiを25.4質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.08mg/mm2であった。また、実施例12によるろう材を反応させて得られたNiを22.9質量%、Crを11.5質量%、Moを3.8質量%、Tiを61.8質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.20mg/mm2であった。また、実施例13によるろう材を反応させて得られたNiを55.2質量%、Crを14.9質量%、Moを4.5質量%、Tiを25.4質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.19mg/mm2であった。また、実施例14によるろう材を反応させて得られたNiを24.3質量%、Crを6.5質量%、Moを2.0質量%、Tiを67.2質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.24mg/mm2であった。また、実施例15によるろう材を反応させて得られたNiを40.3質量%、Crを29.8質量%、Moを4.5質量%、Tiを25.4質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.08mg/mm2であった。また、実施例16によるろう材を反応させて得られたNiを18.5質量%、Crを13.7質量%、Moを2.0質量%、Tiを65.8質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.21mg/mm2であった。
また、比較例1によるろう材を反応させて得られたNiを52.2質量%、Crを22.4質量%、Moを0.0質量%、Tiを25.4質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.33mg/mm2であった。また、比較例2によるろう材を反応させて得られたNiを26.7質量%、Crを11.5質量%、Moを0.0質量%、Tiを61.8質量%の割合で含有する反応層の酸化試験前後における酸化増量は、0.38mg/mm2であった。
以上の結果から、実施例1〜16、比較例1および2によるろう材を反応させて得られた反応層の酸化増量を比較すると、実施例1〜16によるろう材を反応させて得られた反応層の酸化増量(0.09mg/mm2、0.09mg/mm2、0.10mg/mm2、0.20mg/mm2、0.21mg/mm2、0.22mg/mm2、0.31mg/mm2、0.32mg/mm2、0.09mg/mm2、0.22mg/mm2、0.08mg/mm2、0.20mg/mm2、0.19mg/mm2、0.24mg/mm2、0.08mg/mm2および0.21mg/mm2)は、比較例1および2によるろう材を反応させて得られた反応層の酸化増量(0.33mg/mm2および0.38mg/mm2)よりも小さく、耐酸化性が高いことが判明した。これは、比較例1および2によるろう材を反応させて得られた反応層にはMoが含有されていないのに対して、実施例1〜16によるろう材を反応させて得られた反応層にはMoが含有されているので、実施例1〜16によるろう材を反応させて得られた反応層の表面にCr2O3の酸化皮膜が十分に形成されたためであると考えられる。
また、Crを30質量%含むCr−Mo−Ni合金層を用いて形成され、NiとTiとの組成比がNi−Ti合金の共晶点の組成比(64.4(Ni):35.6(Ti))の近傍である実施例1〜3、7、9、11および比較例1によるろう材を反応させて得られた反応層の酸化増量、および、Crを30質量%含むCr−Mo−Ni合金層を用いて形成され、NiとTiとの組成比がNi−Ti合金の共晶点の組成比(28.3(Ni):71.7(Ti))の近傍である実施例4〜6、8、10、12および比較例2によるろう材を反応させて得られた反応層の酸化増量をそれぞれ比較すると、反応層へのMoの添加量を増加させるにしたがって、反応層の酸化増量が減少することが判明した。すなわち、反応層へのMoの添加量を増加させるにしたがって、反応層の耐酸化性を向上させることが可能であることが判明した。
また、Moを6質量%含むCr−Mo−Ni合金層を用いて形成され、NiとTiとの組成比がNi−Ti合金の共晶点の組成比(64.4(Ni):35.6(Ti))の近傍である実施例1〜3、13および15によるろう材を反応させて得られた反応層の酸化増量、および、Moを6質量%含むCr−Mo−Ni合金層を用いて形成され、NiとTiとの組成比がNi−Ti合金の共晶点の組成比(28.3(Ni):71.7(Ti))の近傍である実施例4〜6、14および16によるろう材を反応させて得られた反応層の酸化増量をそれぞれ比較すると、反応層へのCrの添加量を増加させるにしたがって、反応層の酸化増量が減少することが判明した。すなわち、反応層へのCrの添加量を増加させるにしたがって、反応層の耐酸化性を向上させることが可能であることが判明した。
次に、上記したMo添加によるステンレス鋼からのFeおよびCrの拡散を確認するために行った比較実験について説明する。この比較実験では、純Ti層と、純Ti層の一方面および他方面に圧延接合されたCr−Mo−Ni合金層とからなる3層構造のろう材を、SUS304からなる基板に圧延接合した実施例17〜22によるろう付け用複合材のろう材層と、上記実施例17〜22とは異なりMoを含有しないろう材を用いて形成した比較例3〜5によるろう付け用複合材のろう材層とのFeの拡散を比較した。以下、詳細に説明する。
[ろう付け用複合材の作製]
(実施例17〜19)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とMoを6質量%とNiを64質量%とを含む30Cr−6Mo−Ni合金層とを用いた。そして、純Ti層の一方面および他方面にそれぞれ30Cr−6Mo−Ni合金層を圧延接合した後、アルゴン雰囲気下で800℃の温度で1分間拡散焼鈍を施した。そして、仕上げ圧延および焼鈍を行って、純Ti層および30Cr−6Mo−Ni合金層の板厚をそれぞれ0.040mmおよび0.030mmに調整した。その後、ろう材をSUS304からなる基板に圧延接合した後、アルゴン雰囲気下で800℃の温度で1分間拡散焼鈍を施した。そして、仕上げ圧延および焼鈍を行って実施例17〜19によるろう付け用複合材を作製した。
(実施例20〜22)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とMoを3質量%とNiを67質量%とを含む30Cr−3Mo−Ni合金層とを用いたこと以外は、それぞれ、上記実施例17〜19と同様にして実施例20〜22によるろう付け用複合材を作製した。
(比較例3〜5)
ろう材の原料として、純Ti層と、Crを30質量%とNiを70質量%とを含む30Cr−Ni合金層とを用いたこと以外は、それぞれ、上記実施例17〜19と同様にして比較例3〜5によるろう付け用複合材を作製した。
[Feの拡散評価]
(実施例17、20および比較例3に共通)
次に、上記のようにして作製した実施例17、20および比較例3によるろう付け用複合材を反応させて得られたろう材層のFeの拡散評価を行った。具体的には、実施例17、20および比較例3によるろう付け用複合材を所定の条件(温度:約1120℃、時間:10分)で反応させた。その結果を図8〜図10に示す。
図8に示した比較例3によるろう付け用複合材のろう材層のFeの濃度は、約10質量%であった。これに対して、図9に示した実施例20によるろう付け用複合材のろう材層のFeの濃度は、約15質量%であり、図10に示した実施例17によるろう付け用複合材のろう材層のFeの濃度は、約20質量%であった。
(実施例18、21および比較例4に共通)
次に、上記のようにして作製した実施例18、21および比較例4によるろう付け用複合材を反応させて得られたろう材層のFeの拡散評価を行った。具体的には、実施例18、21および比較例4によるろう付け用複合材を所定の条件(温度:約1150℃、時間:10分)で反応させた。その結果を図11〜図13に示す。
図11に示した比較例4によるろう付け用複合材のろう材層のFeの濃度は、約20質量%であった。これに対して、図12に示した実施例21によるろう付け用複合材のろう材層のFeの濃度は、約40質量%であり、図13に示した実施例18によるろう付け用複合材のろう材層のFeの濃度は、約42質量%であった。
(実施例19、22および比較例5に共通)
次に、上記のようにして作製した実施例19、22および比較例5によるろう付け用複合材を反応させて得られたろう材層のFeの拡散評価を行った。具体的には、実施例19、22および比較例4によるろう付け用複合材を所定の条件(温度:約1180℃、時間:10分)で反応させた。その結果を図14〜図16に示す。
図14に示した比較例5によるろう付け用複合材のろう材層のFeの濃度は、約17質量%であった。これに対して、図15に示した実施例22によるろう付け用複合材のろう材層のFeの濃度は、約55質量%であり、図16に示した実施例19によるろう付け用複合材のろう材層のFeの濃度は、約60質量%であった。
以上の結果から、約1120℃の温度で反応させた実施例17、20および比較例3によるろう付け用複合材を反応させて得られたろう材層のFeの拡散量、約1150℃の温度で反応させた実施例18、21および比較例4によるろう付け用複合材を反応させて得られたろう材層のFeの拡散量、および、約1180℃の温度で反応させた実施例19、22および比較例5によるろう付け用複合材を反応させて得られたろう材層のFeの拡散量をそれぞれ比較すると、ろう材へのMoの添加量を増加させるにしたがって、ろう材層へのFeの拡散量が多くなることが判明した。
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1および第2実施形態では、本発明のろう付け構造を熱交換器に適用する例について説明したが、本発明はこれに限らず、本発明のろう付け構造を高温の排ガスが流れることにより高い耐酸化性が求められる熱交換器以外のろう付け構造物にも適用可能である。
また、上記第2実施形態では、ろう付け用複合材を構成するプレートとしてステンレス鋼を用いる例を示したが、本発明はこれに限らず、ろう付け用複合材を構成するプレートとして、ステンレス鋼以外のハステロイ(登録商標)やインコネル(登録商標)などのNi基耐熱合金を含む鉄鋼を用いてもよい。
また、上記第1および第2実施形態では、ろう材として純TiのみからなるTi層を用いる例を示したが、本発明はこれに限らず、ろう材として純Tiを85%以上の割合で含有するTi合金層を用いてもよい。このような純Tiを主成分とするTi合金として、たとえば、Ti−5Al−2.5Snなどのα相(最密六方相)を有するα合金や、Ti−6Al−4Vなどのα相(最密六方相)およびβ相(体心立方相)を有するα+β合金が挙げられる。
また、上記第2実施形態では、図6に示したように、Cr−Mo−Ni合金層3がTi層2の表面に圧延接合される状態の2層構造のろう材51がプレート13に圧延接合されたろう付け用複合材を用いてろう付け接合を行う例を示したが、本発明はこれに限らず、図17に示すように、プレート13の一方面にTi層20aを圧延接合したクラッド材と、プレート13の他方面にCr−Mo−Ni合金層30aを圧延接合したクラッド材とを個別に準備するようにしてもよい。
本発明の第1実施形態によるろう材の構成を示した断面図である。
図1に示した第1実施形態によるろう材を用いて形成された熱交換器を部分的に示した断面図である。
図2に示した第1実施形態による熱交換器の接合部を示した拡大断面図である。
図2に示した第1実施形態による熱交換器を形成する際のろう付け接合の工程を説明するための断面図である。
図2に示した第1実施形態による熱交換器を形成する際のろう付け接合の工程を説明するための断面図である。
本発明の第2実施形態によるろう付け用複合材の構成を示した断面図である。
図6に示した第2実施形態によるろう付け用複合材を用いたろう付け接合の工程を説明するための断面図である。
SUS304、拡散層およびろう材層のFeの濃度を示したラインプロファイルである。
SUS304、拡散層およびろう材層のFeの濃度を示したラインプロファイルである。
SUS304、拡散層およびろう材層のFeの濃度を示したラインプロファイルである。
SUS304、拡散層およびろう材層のFeの濃度を示したラインプロファイルである。
SUS304、拡散層およびろう材層のFeの濃度を示したラインプロファイルである。
SUS304、拡散層およびろう材層のFeの濃度を示したラインプロファイルである。
SUS304、拡散層およびろう材層のFeの濃度を示したラインプロファイルである。
SUS304、拡散層およびろう材層のFeの濃度を示したラインプロファイルである。
SUS304、拡散層およびろう材層のFeの濃度を示したラインプロファイルである。
本発明の第2実施形態の変形例によるろう付け用複合材の構成を示した断面図である。
符号の説明
1、51 ろう材
2、20a Ti層(Tiろう付け層)
3、30a Cr−Mo−Ni合金層(Cr−Mo−Niろう付け層)
3a Cr−Mo−Ni合金層(Cr−Mo−Niろう付け層、第1Cr−Mo−Niろう付け層)
3b Cr−Mo−Ni合金層(Cr−Mo−Niろう付け層、第2Cr−Mo−Niろう付け層)
11、13 プレート(基板)
50 ろう付け用複合材
100 熱交換器(ろう付け構造)