JP2008056497A - 溝付きガラス基板およびその製造方法ならびにマイクロ化学チップの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】
ガラス板主表面にフッ酸をエッチャントとするエッチング法で溝を形成すると、溝とガラス表面の境にエッチピットが生じ、平滑な壁面を有する溝を形成できなかった。
【解決手段】
ガラス板表面を研削により所定厚みにし、その後精密研磨により研削面を平滑化するに際して、片面当たりの精密研磨取り代を25μm以上として、研削により生じたガラス表面残留歪みを除去する。これによりガラス表面に最終的に残る歪みは、精密研磨のみになり、この歪みを除去するアニール温度をガラスの歪み点以下にすることができる。ガラス基板の平坦性を損なうことなく溝形成時にエッチピットが生じないガラス基板とすることができる。
【選択図】 図1
Description
本発明は、ガラス板表面の一部を化学エッチングして所定形状の溝を形成する溝付きガラス基板の製造方法に関する。またこの溝付きガラス基板の製造方法により得られるガラス基板を用いるマイクロ化学チップの製造方法に関する。
化学反応を高速に行う観点から、また化学反応を微少量の試料で行う観点から、試料を微小流路内に導入して化学反応を行うマイクロ化学技術が注目されている。すなわち試料液中に含まれる溶質の混合、反応、分離、抽出、検出、定量等の化学反応や化学分析をマイクロ化学チップの内部に設けた微小流路内で行う研究が活発に行われている。
マイクロ化学チップは、溝が形成されたガラス基板とその溝に対応する位置に試料液の注入孔及び排出孔が設けられた他のガラス基板を接合したものをいい、接合により溝の部分に微小流路が内蔵されたものである。
マイクロ化学チップを構成する2枚のガラス基板の一方のガラス基板に、微小流路となる所定形状の溝を形成する方法が、非特許文献1に開示されている。非特許文献1には、パイレックス(登録商標)ガラス板を光学研磨により平均粗さ50nm程度に精密研磨し、その後ガラス表面近傍に存在する残留応力を除去するために、ガラスの徐冷点近傍で熱処理することが記載されている。そしてこのガラス板主表面にCrとAuの金属積層膜をマスキング膜として被覆し、フッ化水素酸を用いるエッチングにより溝を形成する方法が記載されている。
シーエムシー出版「インテグレーテッド ケミストリー」−マイクロ化学チップが拓す科学と技術−第4章マイクロ加工技術の4.2.2項 チップ作製工程(書籍番号ISBN 4−88231−436−3)
また、マイクロ化学チップを構成する2枚のガラス基板の接合方法としては、特開平15−215140号公報に開示されているように熱融着により接合する方法が知られている。
上記の非特許文献1には、ガラス板を精密研磨するとガラス板表面に精密研磨による残留応力が発生すること、この残留応力を除去するためにガラスの徐冷点近傍、すなわちガラスの転移点近傍まで加熱する必要があることが記載されている。
しかしながら、ガラス板をガラスの徐冷点まで加熱してその温度に一定時間維持するアニール処理(熱処理)を行うと、ガラス板表面に精密研磨により生じた残留歪みを除去または小さくすることができるが、ガラス板に反りが発生(平坦度が低下)する恐れがあるという新たな課題が生じる。ガラス板に反りが生じると、熱融着によりガラス板を貼り合わせてマイクロ化学チップを作製するとき、ガラス板全面に亘って2枚のガラス板を確実に融着接合させることができず、未融着個所が貼り合わせ面に生じるという問題があった。
このような未融着個所が微小流路の部分に生じると、微小流路の貼り合わせ部に隙間が生じるので、試料液がその部分で滞留するなどマイクロ化学チップの使用上問題が生じる。また、未融着部分はマイクロ化学チップの外観品質を低下させる。
上記のガラスの反りの発生を解消するために、アルカリ処理によりガラス表面に融着層を形成して、より低い温度でガラスを融着接合する方法が特許文献1に開示されているが、貼り合わせ面となるガラス表面に融着層を形成できるか否かは、ガラスの成分組成に大きく依存し、特定の組成を有するガラス種に限定されるという問題があった。
また、ガラス表面に残留歪みが存在すると、マスキング材を用いるフォトリソグラフ法による化学エッチングで所定形状の溝を形成する工程で、溝の断面頭頂部にエッチピット(表面凹凸)が発生し、スムースな壁面を有する微小流路を内蔵するマイクロ化学チップを作製することができないという問題点があった。
本発明は、上記の化学エッチングで溝を形成するときのエッチピットの発生を抑制しまたは無くする溝付きガラス基板の製造方法を提供することを第1の目的とする。また本発明は、ガラスの反りを抑制する溝付きガラス基板の製造方法を提供することを第2の目的とする。また、本発明は、これらの溝付きガラス基板を用いてガラス板の反りを発生させることなくマイクロ化学チップを製造する方法を提供することを第3の目的とする。
マイクロ化学チップは、板厚みが所定の厚みに規制され、その表面が平滑化されたガラス板の貼り合わせ体である。貼り合わせるガラス基板を効率よく所定の厚みに調整するために、通常ガラス板はラッピング(研削)により薄く加工され、その後精密研磨により平滑化される。
本発明者は、精密研磨に先立って行われるラッピング(研削)工程において、ガラスの表面からある深さまで歪み(ラッピング歪み層)が発生すること、このラッピング歪み層を精密研磨により除去したかどうかが、次工程の化学エッチングで溝を形成するときの溝壁面形状(エッチピット発生不良)に影響を及ぼすことを見出し、本発明をするに至った。
本発明の請求項1は、ガラス板の表面を、ラッピング(研削)により所定厚みに薄くした後ガラス板片面あたりの取り代を25μm以上とする精密研磨により平滑化し、その後アニール処理をし、しかる後酸を含有するエッチング液により化学エッチングして、平滑化した面に所定形状の溝を形成することを特徴とする。
本発明の精密研磨に先立つラッピングは、ダイヤモンド砥粒あるいはアルミナ砥粒と公知の両面研磨機を用いて行うことができる。ラッピング工程では、砥粒の硬度はガラスの硬度よりも大きく、この硬い砥粒がガラス面に押しつけられてガラスが研削される。ガラス表面は研削により除去されつつ、砥粒に押しつけられることにより圧縮応力が形成される。生成された圧縮応力層は、形成されると素早く研削砥粒により削り取られて消失していく。すなわち加圧による圧縮応力層の生成と生成した圧縮応力層の研削による消失とが併行して行われる。
研削により圧縮応力層がガラス内部に向かって形成される速度は、ガラス表面が研削により除去される速度より大きい。したがって一定の厚みの研削後、研削を停止したガラス表面には圧縮歪み層が残留することになる。
本発明では、ガラスの片面あたりの取り代を25μm以上とする精密研磨によりガラスの表面を平滑化するので、ラッピング工程で生じた歪みを実質的に除去することができる。これにより、フォトリソグラフ法によりガラス表面に形成したマスキング材(膜)を用いる化学エッチングで所定形状の溝を形成するに際して、溝の壁面にエッチングムラ(エッチピットの生成)が抑制されるかまたは発生しない。
請求項2は、請求項1において、精密研磨が酸化セリウムの砥粒を懸濁させた研磨液と研磨パッドを用いる研磨であることを特徴とする。
本発明の精密研磨は、酸化セリウムの砥粒をたとえば水に懸濁させた研磨液と研磨パッドを用い、オスカー式両面研磨機を用いる公知の研磨方法を採用することができる。酸化セリウムの砥粒の平均粒度D50や粒度分布、研磨液の濃度、研磨圧力など研磨条件が適時定められる。
請求項3は、請求項2において、精密研磨が多段研磨からなることを特徴とする。後段の精密研磨の砥粒の平均粒径が前段の精密研磨の砥粒の平均粒径より小さくなるように砥粒の平均粒径が選ばれる。これにより所定の取り代を研磨するのに、総研磨加工時間を短くし、かつ平滑性をあげることができる。また、研磨後のガラス面の残留圧縮応力をより小さくすることができる。
請求項4は、請求項2または3において、精密研磨に引き続いてコロイダルシリカの研磨砥粒を含有する研磨液と研磨パッドを用いる精密研磨の平滑化工程を追加することを特徴とする。
コロイダルシリカの研磨砥粒による最終段の精密研磨を附加することにより、一層平滑面を上げ、残留歪みを一層小さくすることができる。
請求項5は、請求項1〜4のいずれかにおいて、アニール処理の温度がガラスの歪み点以下であることを特徴とする。
本発明のアニール処理は、精密研磨工程で発生した残留歪み量を一層小さくするまたは除去する熱処理である。ガラス表面のアニール処理を行うことにより、エッチピットがない溝を化学エッチングで一層確実に形成することができる。さらにアニール温度をガラスの歪み点(ガラスの粘度ηがlogη=14.5となる温度)以下とすることにより、ガラス板に反りが発生するのが抑制できる。
一般に、ガラスの残留歪みを除去するアニール操作(所定温度に加熱して、その温度に一定時間維持する温度プログラムにガラスを供する操作)は、ガラスの粘度ηがlogη=13〜14で定義される徐歪域(Annealing Range)温度に一定時間ガラスを維持して行われ、その上限徐歪温度(内部歪みが15分で除去される温度:Deformation Temperature)として定義されるlogη=13の温度と下限徐歪温度(内部歪みが4時間で除去される温度:Strain Point)として定義されるlogη=14.5の温度(歪み点)の間で行われる。
本発明のアニール処理(熱処理)は、加熱されたガラス板が冷却過程においてガラス表面あるいは内部に生成し、室温まで冷却されてもなおガラス内部に残留する歪みを除去するのではなく、ガラス板表面の精密研磨により生じたガラス表面近傍の残留歪みを低減する熱処理であり、もって化学エッチングで溝を加工するに際して、エッチピットを生成しないようにするものである。
精密研磨によりラッピング歪み層が除去されても、新たに精密研磨により形成された小さい圧縮歪み層がなおガラス表面に残留していることがある(研磨歪み層)。精密研磨により生成した残留歪みは、ガラスの歪み点以下の温度でアニールすることにより除去することができる。したがってアニール処理により、ガラスの反り・変形を生じさせることなく、ガラス表面を溝形成工程でエッチピットが生じない表面に改質することができる。
請求項6は、請求項5において、アニール処理の温度をガラスの歪み点より90℃低い温度以上で行うことを特徴とする。
ガラスの歪み点以下90℃より低い温度でアニール処理をすることは、ガラス表面層の徐歪み速度が低く、処理に長時間を要するので好ましくない。
請求項7は、請求項1〜6のいずれかの溝付きガラス基板の製造方法により、ガラス板の表面が波長範囲0〜5mmの表面うねり(ωa値)で2.5nm以下に平滑化したことを特徴とする。
溝付きガラス基板の表面は、研磨によりうねり値ωaが2nm以下に平滑化されているので、このガラス基板を用いて作製した微小流路を内蔵するマイクロ化学チップは、ガラス板の貼り合わせ面に未融着部が生じない。
請求項8は、請求項7に記載の溝付きガラス基板とガラスの表面が精密研磨された第2のガラス基板を貼り合わせて、ガラスの転移点以上屈伏点未満の温度で融着接合することを特徴とするマイクロ化学チップの製造方法である。
本発明の溝付きガラス基板の製造方法よれば、ガラス板の表面にラッピング工程により生じた表面残留応力層を精密研磨工程で除去すると共に、ガラス表面を平滑化するので、ガラス表面の研磨による圧縮応力が小さく抑えられている。
ガラス表面に残留する歪みは精密研磨工程のみで生じた比較的小さい歪みであるので、歪み取りアニール温度をガラスの歪み点以下で行うことができ、ガラス板に反りを生じさせることなく、ガラス表面の残留歪みの除去を確実に行うことができる。これによりエッチピットが生じない溝付きガラス基板をより確実に安定して得ることができる。
また、ガラス板の表面の精密研磨を、前段研磨と前段研磨時の砥粒より小さい砥粒を用いる後段研磨との多段研磨で行うことにより、ラッピング歪み層の除去の迅速化と研磨面の平滑度の向上に要する総研磨加工時間の短縮をはかることができる。
本発明の溝付きガラス基板の製造方法により得られるガラス基板を用いて得られる微小流路が内蔵したマイクロ化学チップは、微小流路の壁面にエッチピットに起因するくぼみがないので、流路に注入した試料液は滞留を生じることなくスムースに流れる。
以下、図面を参照しながら、本発明の溝付きガラス基板およびマイクロ化学チップの製造方法の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る溝付きガラス基板の製造方法により得られる溝付きガラス基板2とそれを用いて作製されるマイクロ化学チップ100の概略構成図である。図1(a)は、本発明のマイクロ化学チップの一実施例の分解斜視図である。図1(b)はマイクロ化学チップの平面図である。図1(c)は図1(b)の線A−A’における断面図である。図1(d)は、図1(b)の線B−B’における断面図である。
図1において、本発明のマイクロ化学チップ100は、接合面8に両端がそれぞれ二股に分岐した0.3±0.2mm幅で、深さが0.1±0.05mmの断面略矩形または略半円形状の溝1が形成された溝付きガラス基板2(ベースプレート)と、溝付きガラス基板2の接合面に接合される第2のガラス基板4(カバープレート)を備える。第2のガラス基板4は、溝1に対応する位置に試料注入・排出用の貫通孔3を有する(図1(a))。溝1は、これら2枚のガラス基板が貼り合わされてマイクロ化学チップ100の微小流路5を構成する。
上記マイクロ化学チップ100の微小流路5を適当な形状に形成し、貫通孔3から試料溶液を注入して、電気泳動法、光熱変換分光分析方法(熱レンズ分析法)、蛍光分析方法などの公知の方法により、微小流路内で液中の試料の定性分析、定量分析、混合、反応、抽出、分離等が行われる。
次に本発明の溝付きガラス基板2の製造方法について説明する。溝付きガラス基板2や第2のガラス基板4の材料としては、蛋白質、血液、DNAなどの生態試料の分析や環境分析用に用いるマイクロ化学チップを考慮すると、化学耐久性がある(耐酸性、耐アルカリ性が高い)ガラスが好ましく、硼珪酸ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ソーダ石灰珪酸ガラス等がよい。
ガラス板は、必要により所定の厚みまでアルミナ砥粒あるいはダイヤモンド砥粒によりガラスの表面をラッピング(研削)し、その後ラッピングした面を精密研磨する。本発明の溝付きガラス基板の製造方法においては、精密研磨工程における研磨取り代をガラス片面について25μm以上とする。これにより、ラッピングが影響を及ぼしているガラス表面層を除去することができる。
精密研磨は、被研磨ガラスよりも硬度が大きい研磨砥粒を懸濁させた研磨液をガラス表面に供給し、研磨砥粒をガラス表面に押しつけながらガラス表面を移動させて行うので、ガラス表面は砥粒により研削されて次々と消失されていくとともに、砥粒により押圧されて圧縮応力がガラス内部に向かってその大きさは小さいが形成されていく。
精密研磨によりガラス表面に圧縮応力が残留していると、次工程のフッ酸を含有する化学エッチングで溝を形成するとき、エッチピット(溝壁面に発生するエッチングムラ)が発生する。この残留応力を小さくするには、精密研磨の後段(最終段)を小さい研磨砥粒、小さい研磨圧力、長い研磨時間により研磨するのがよい。
このような観点から、最終段の精密研磨として、コロイダルシリカの遊離砥粒を懸濁させた研磨液と研磨パッドを用いる精密研磨工程を追加することができる。
図2は、エッチングにより形成される溝の壁面に発生するエッチピットを説明する模式図である。図2(a)は、フッ酸を含むエッチング液を用いてフォトリソグラフ法で化学エッチングして得られる溝1が形成された溝付きガラス基板2(ベースプレート)と第2のガラス基板4(カバープレート)が貼り合わされて形成される微小流路の断面を示している。溝付きガラス基板2の溝が形成されている部分以外のガラス表面に、精密研磨による応力が残留していると、溝1の断面の両端部はスムースにエッチングされず、エッチピット20が発生する。このエッチピットは溝1を上部から見ると、ガラス基板2の主表面(エッチングのときにマスキングされている部分)と断面半円形状の溝の境界で、ギザギザ状の凹凸で4認識される(図2(b))。この凹凸は、微小流路の壁面の一部に凹凸を生じさせることになり、マイクロ化学チップの微小流路内での試料液の流れに乱れを生じさせる原因になる。
ラッピングは、たとえばアルミナ砥粒と両面研磨装置を用いてラッピングする。アルミナ砥粒の粒径番手は♯1000前後とし、研削加工圧力は60〜100gf/cm2で、研削時間25〜40分間で研削する。
前段研磨は酸化セリウム砥粒(平均粒径D50が0.8〜1.2μm)を水に懸濁させて研磨液と研磨パッド(たとえばローデス社製LP66)を用いる両面研磨装置により研磨する。研磨圧力は60〜100gf/cm2で、研磨時間40〜60分間で研磨する。
後段研磨は酸化セリウム砥粒(平均粒径D50が0.4〜0.6μm)を水に懸濁させて研磨液と研磨パッド(たとえばカネボウ社製7713S)を用いる両面研磨装置により研磨する。研磨圧力は40〜90gf/cm2で、研磨時間25〜60分間で研磨する。
ガラス板片面当たりの研磨取り代は、前段研磨により20〜30μm、後段研磨により5〜10μm、多段研磨により25〜35μmとするのが好ましい。
最終段の研磨に用いるコロイダルシリカ研磨砥粒は、水に懸濁した研磨液としてガラス表面に供給される。研磨砥粒の粒度は、平均粒度D50が0.1μm以下が好ましくは、0.04μm以上が好ましい。本発明の酸化セリウムを研磨砥粒とする精密研磨により、ガラス表面に残留する圧縮歪みを小さくなるように制御して、ガラス表面をうねり値ωa(測定波長範囲0〜5mmのいわゆるショートレンジうねり)を2nmあるいはそれ以下に平滑化することができる。
精密研磨したガラス表面の残留歪みを一層確実に除去するために、歪み取りアニール処理(加熱処理)を行う。アニール処理を施すことにより後続するエッチングによる溝形成工程で微細なエッチピットの発生をなくすことができる。
歪み取りアニール処理は、たとえば電気炉中でガラス板を所定温度に加熱して一定時間維持して行うが、ラッピング工程で生じる歪みを精密研磨により除去することにより、驚いたことにガラスの歪み点以下の温度のアニール処理でガラスの歪みを除去することができる。このような歪み点以下の低い温度のアニール処理は、ガラス板に反りを発生させない利点を有する。
アニール処理の温度は、処理時間を迅速にする観点から、歪み点より90度低い温度以上で行うのが好ましい。たとえば、ベースプレート(溝付きガラス基板2)を市販のテンパックスガラス(歪み点が約520℃)を用いて作製する場合は、430〜520℃の温度範囲でアニール処理をすることにより、ガラスの反り確実に抑制して(平坦性を悪化させないで)エッチピットの発生を防止することができる。
次に、本発明にかかるガラス基板の溝形成およびマイクロ化学チップの製造方法について図3を参照しながら説明する。まずカバープレートとするべく所定形状に切断され、端面が面取りされたガラス板6の所定位置にドリルにより注入孔および排出孔となる貫通孔3をあける(図3のa工程)。
ベースプレート(溝付きガラス基板2)となるガラス板7の表面にクロム膜と金膜の積層膜からなる金属マスキング膜11をスパッタリング薄膜形成法により被覆し、さらにフォトレジスト層12を塗布する。マスキングパターン13でマスキングされていない部分のフォトレジスト層を、紫外光を照射して変質、溶解、除去し、露出した金属マスキング膜を硝酸第二セリウムアンモニウム水溶液で除去する。露出したベースガラスの表面をフッ酸を含有する酸系のエッチング液でエッチングする。エッチングは、たとえば加温または室温度の49%フッ酸を用い、2〜5分間程度のエッチング時間で行う。以上により断面が略半円形状の溝がガラス主表面に形成される(図3の(b)工程)。
ベースプレートとカバープレートを熱融着により接合し、内部に注入孔、微小流路、排出孔が連通するマイクロ化学チップを得る(図3の(c))。以下に本発明を実施例と比較例により詳述する。
縦70mm横30mmのショット社製テンパックスガラス板(厚み1.1mm)を粗さグレードが♯1000のアルミナ砥粒を用いる両面研磨装置でガラス板の両面を研削し、厚みを約0.75mmにした。このガラス板を表1に示すように、前段精密研磨として砥粒の平均粒度D50が1.2μmである三井金属鉱業社製の酸化セリウム遊離砥粒を懸濁させた研磨液とローデス社製研磨パッドLP66を用いて、ホフマン型両面研磨装置により厚みが0.71mm(取り代片面20μm、両面40μm)になるまで精密研磨した。研磨圧は80gf/cm2に調整した。さらに後段精密研磨として平均粒度D50が0.4μm、の酸化セリウムの砥粒を懸濁させた研磨液とカネボウ社製研磨パッド7713Sを用いて、ガラス厚みが0.70mmになるまで研磨(取り代片面5μm、両面10μm)した。片面の総取り代25μmの精密研磨により平滑化したガラス板のうねり(ωa値)を、OPTIFLAT測定機(PHASESHIFT Technology社製)で測定した。波長範囲0〜5mmの測定条件で2.5nmであった。
このガラス板をガラスの歪み点に相当する520℃で5時間アニール処理を行った。クロム膜と金膜の積層スパッタ膜をマスキング膜として、49%フッ化水素酸によりガラス板表面を化学エッチングし、断面が略半円形の溝を形成した。得られた溝付きガラス基板の溝壁面は、図2に示すようなエッチピット(溝の外部に突き出るギザギザ状の表面凹凸)が溝壁上端部に認められず、内壁全体が平滑な面であった。
実施例1とは、研磨時間を変えて精密研磨による取り代を変えた以外は同じようにして溝付きガラス基板のサンプルを作製した。得られた溝付きガラス基板の研磨面のうねり値は表1に示すように2.2nmであった。またエッチングにより形成した溝の壁面には、エッチピットが認められなかった。
実施例1とは、アニール処理の温度を歪み点より90℃低い温度である430℃にした以外は同じようにして、溝付きガラス基板のサンプルを作製した。得られた溝付きガラス基板は表1に示すように、溝の壁面にはエッチピットが認められなかった。
実施例1とは、アニール処理の温度をガラスの転移点(560℃)とした以外は実施例1と同じようにして溝付きガラス基板のサンプルを製作した。実施例3と同様、溝の壁面にはエッチピットが認められなかった。
比較例1
実施例1とは、研磨時間を変えて精密研磨による取り代を片面当たり15μmとした以外は同じようにして溝付きガラス基板のサンプルを作製した。このサンプルのうねり値は表1に示すように2.8nmであったが、エッチングにより形成した溝の壁面には、エッチピットが認められた。この原因はラッピングにより生じたガラス表面の歪み層が精密研磨により除去されずに残り、残留歪み層がアニール処理により除去されずに残留していたためと考えられた。
実施例1とは、研磨時間を変えて精密研磨による取り代を片面当たり15μmとした以外は同じようにして溝付きガラス基板のサンプルを作製した。このサンプルのうねり値は表1に示すように2.8nmであったが、エッチングにより形成した溝の壁面には、エッチピットが認められた。この原因はラッピングにより生じたガラス表面の歪み層が精密研磨により除去されずに残り、残留歪み層がアニール処理により除去されずに残留していたためと考えられた。
マイクロ化学チップの作製を行った。ベースプレートとして実施例1で得られたうねりωa値が2.5nmに平滑化された溝付きガラス板を用い、カバープレートとして実施例1と同じ研削および精密研磨(研磨片面取り代25μm)に得たガラス板を用いた。これらのガラス板をこのガラスの転移点である562℃に5時間維持して融着接合した。融着接合は、図4に示すように表面を研磨したアルミナ製の基台9の上に溝付きガラス基板2とこの溝付きガラス基板2と貼り合わせる第2のガラス基板4を重ねて載置し、その上にアルミナ製の板(重し)10を載せ、さらに他の一組の溝付きガラス基板2と第2のガラス基板4を重ねて載置し、最後にアルミナ製の板(重し)10を載せ、これらを電気炉内でガラスが融着する温度まで加熱した。
ガラス板が融着接合して得られる接合体(マイクロ化学チップ)の微小流路の壁面、貼り合わせ面の融着状態、アルミナ製の板(加重)の表面の微細凹凸のガラス板表面への転写の有無について調べた結果を表2に示す。
このサンプルの微小流路の壁面は滑らかであり、貼り合わせ面の全面で融着接合が行われていた。また凹凸の転写は認められず(可視光線ヘイズ率0.1%)、入射光がガラス表面で散乱することがないマイクロ化学チップが得られることが分かった。
実施例5とは、接合温度をガラスの屈伏点(652℃)より22℃低い630℃とした以外は同じようにしてマイクロ化学チップを作製した。結果は表2に示すように、微小流路壁面は滑らかであり、貼り合わせ面の全面で融着していた。アルミナ製の板の凹凸がガラス板の表面に転写し、マイクロ化学チップのガラス板の表面が荒れて曇りが生じていた。可視光線のヘイズ率は0.4%であった。
比較例2
ベースプレートとして精密研磨による片面取り代が10μmでうねり値が2.5nmに平滑化された溝付きガラス板を用い、カバープレートとして実施例1で用いた研削、精密研磨により得られた片面研磨取り代が25μmでうねり値2.5nmのガラス板を用い、表2に示すように562℃で接合した。
ベースプレートとして精密研磨による片面取り代が10μmでうねり値が2.5nmに平滑化された溝付きガラス板を用い、カバープレートとして実施例1で用いた研削、精密研磨により得られた片面研磨取り代が25μmでうねり値2.5nmのガラス板を用い、表2に示すように562℃で接合した。
ガラス基板のうねり値が2.5nmと平滑化されていたので、転移点での接合で貼り合わせ面の全面で融着し、アルミナ製の板の転写は認められなかった。微小流路には、エッチピットに起因するくぼみが溝の壁面(貼り合わせ面)に多数発生した。
比較例3
ベースプレートとして精密研磨による片面取り代が10μmでうねり値が4nmに平滑化された溝付きガラス板を用い、カバープレートとして片面研磨取り代が25nmでうねり値4nmのガラス板を用い、表2に示すように565℃で接合した。
ベースプレートとして精密研磨による片面取り代が10μmでうねり値が4nmに平滑化された溝付きガラス板を用い、カバープレートとして片面研磨取り代が25nmでうねり値4nmのガラス板を用い、表2に示すように565℃で接合した。
転移点を接合温度としたので、アルミナ製の板の転写は認められなかったが、ガラス板の平滑度が粗いため貼り合わせ面の全面で融着せず、マイクロ化学チップには未融着の個所が生じた。また、溝付きガラス板の精密研磨による取り代が小さいためラッピングにより発生した歪みが除去できず、この残留歪みに起因するエッチピットが、そのまま微小流路にくぼみとして多数発生した。
以上、研削、研磨により表面が平滑化された溝付きガラス板は、研削により生じた表面残留応力を片面当たりの取り代を25μm以上とする精密研磨により除去することにより、溝形成時にエッチピットが生じないようにするアニール処理温度をガラスの歪み点以下90℃まで低温化できることが分かった。
また、ガラス基板の貼り合わせ面のうねり値を2.5nm以下とすることにより、ガラスの転移点まで下げて貼り合わせ面を全面で融着できることが分かった。
本発明によりガラス板表面にエッチピットがない、平滑な内壁を有する溝を形成することができ、この溝付きガラス基板を用いて試料液がスムースに流れる微小流路を内蔵するマイクロ化学チップを製造することができる。
1:溝
2:溝付きガラス基板(ベースプレート)
3:貫通孔(注入孔、排出孔)
4:一方のガラス基板(カバープレート)
5:微小流路
6:ガラス板
7:ガラス板
8:貼り合わせ面
9:アルミナ製基台
10:アルミナ製の板(重し)
20:エッチピット
100:マイクロ化学チップ
2:溝付きガラス基板(ベースプレート)
3:貫通孔(注入孔、排出孔)
4:一方のガラス基板(カバープレート)
5:微小流路
6:ガラス板
7:ガラス板
8:貼り合わせ面
9:アルミナ製基台
10:アルミナ製の板(重し)
20:エッチピット
100:マイクロ化学チップ
Claims (8)
- ガラス板の主表面を、ラッピング(研削)により所定厚みに薄くした後ガラス板片面あたりの取り代を25μm以上とする精密研磨により平滑化し、その後アニール処理をし、しかる後酸を含有するエッチング液により化学エッチングして、前記平滑化した面に所定形状の溝を形成することを特徴とする溝付きガラス基板の製造方法。
- 前記精密研磨が酸化セリウムの砥粒を懸濁させた研磨液と研磨パッドを用いる研磨であることを特徴とする請求項1に記載の溝付きガラス基板の製造方法。
- 前記精密研磨が多段研磨からなり、後段の精密研磨の砥粒の平均粒径が前段の精密研磨の砥粒の平均粒径より小さくしたことを特徴とする請求項2に記載の溝付きガラス基板の製造方法。
- 前記精密研磨に引き続いてコロイダルシリカの研磨砥粒を含有する研磨液と研磨パッドを用いる精密研磨による平滑化工程を追加することを特徴とする請求項2または3に記載の溝付きガラス基板の製造方法。
- 前記アニール処理の温度がガラスの歪み点以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溝付きガラス基板の製造方法。
- 前記アニール処理の温度がガラスの歪み点より90℃低い温度以上であることを特徴とする請求項5に記載の溝付きガラス基板の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の溝付きガラス基板の製造方法により、ガラス板の主表面の波長範囲0〜5mmの表面うねり(ωa値)を2.5nm以下に平滑化したことを特徴とする溝付きガラス基板。
- 請求項7に記載の溝付きガラス基板とガラス板主表面が精密研磨された第2のガラス基板を貼り合わせて、ガラスの転移点以上軟化点未満の温度で融着接合するマイクロ化学チップの製造方法。
Priority Applications (2)
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JP2005009094A JP2008056497A (ja) | 2005-01-17 | 2005-01-17 | 溝付きガラス基板およびその製造方法ならびにマイクロ化学チップの製造方法 |
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Cited By (2)
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JPWO2013039232A1 (ja) * | 2011-09-14 | 2015-03-26 | 電気化学工業株式会社 | 硬質基板積層体の加工方法 |
JPWO2013039231A1 (ja) * | 2011-09-14 | 2015-03-26 | 電気化学工業株式会社 | 硬質基板積層体の加工方法及びクランプ治具 |
-
2005
- 2005-01-17 JP JP2005009094A patent/JP2008056497A/ja active Pending
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