JP2008056496A - マイクロ化学チップ用ガラス基板およびその製造方法ならびにマイクロ化学チップの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】
溝を有するガラス基板と他方のガラス基板を熱融着により接合してマイクロ化学チップを製造するとき、貼り合わせ面の全面で接合できず、微小流路に沿って未融着部分が発生していた。
【解決手段】
ガラス板の主表面を研磨により、面内板厚み差を3μm以下、測定波長範囲0〜5mmのうねり(ωa値)を2nm以下に平滑化したことを特徴とするマイクロ化学チップ用ガラス基板である。このガラス基板は熱融着で溝に沿って未融着を発生させることなく接合することができる。ガラス板の主表面を酸化セリウムの砥粒を含有する研磨液と研磨パッドを用いる研磨により、ガラス板片面の取り代を15μm以上研磨することにより、サイドエッチングがない溝を形成することができる。
【選択図】 図1
Description
本発明は、マイクロ化学チップ用のガラス基板およびその製造方法並びにマイクロ化学チップの製造方法に関する。
マイクロ化学チップは、溝が形成されたガラス基板上に、試料液の注入孔及び排出孔が溝に対応する位置に配置された他のガラス基板を接合したものをいい、接合後その溝の部分に微小流路が形成されたものである。
マイクロ化学チップを構成する2枚のガラス基板の一方のガラス基板に、微小流路となる所定形状の溝を形成する方法が非特許文献1に開示されている。非特許文献1には、パイレックス(登録商標)ガラス板を平均粗さ50nm程度に研磨し、その後ガラス表面近傍に存在する残留応力を除去するために、ガラスの徐冷点近傍で熱処理することが記載されている。そしてこのガラス板主表面にCrとAuの金属積層膜をマスキング膜として被覆し、フッ化水素酸(フッ酸)を用いる化学エッチングにより溝を形成する方法が記載されている。
シーエムシー出版「インテグレーテッド ケミストリー」−マイクロ化学チップが拓す科学と技術−の第4章マイクロ加工技術の4.2.2項 チップ作製工程(書籍番号ISBN 4−88231−436−3)
また、マイクロ化学チップを構成する2枚のガラス基板を接合する方法として、特開平15−215140号公報に開示されているように熱融着により接合する方法が知られている。
ガラス基板を接合するときの熱融着温度を軟化点より低い温度に下げるために、ガラス基板を減圧環境でプレス加圧により行う方法が、特開2004−210592号公報に開示されている。
微小流路を内蔵するマイクロ化学チップは、ガラス板の主表面を研磨により平滑化し所定形状の溝を酸によるエッチングにより形成して溝付きガラス基板とし、研磨により平滑化した他のガラス板の主表面に試料液の注入孔及び排出孔となる貫通孔を設けて第2のガラス基板とし、これら二枚のガラス基板を貼り合わせて熱融着により接合して製造される。
市販のガラス板を購入して非特許文献1に記載された方法によりガラス板にフッ酸をエッチング液として断面半円形状の溝をガラスの表面に形成すると、形成された溝の側壁上部に、溝の長手方向と略直角の方向にサイドエッチング(過剰にエッチングされる部分が発生する)が生じるという問題があった。また、このガラス基板を融着により貼り合わせたとき、溝の両外側でガラス基板の接合が不十分で未融着部分が生じるという問題があった。
このガラスの溝近傍で生じるガラス基板の未融着を解消するために、特許文献1に記載されているようにガラスの徐冷点以上の比較的高温にガラスを加熱して熱融着すると、ガラス基板に反りが生じるという新たな問題が生じる。また、貼り合わせたガラス基板の上に加圧治具(アルミナ等のセラミックス材の重し)を載せて貼り合わせ面を圧接すると、加圧治具の表面凹凸がガラス基板表面に転写されて、ガラスの光学的特性を劣化させる(微細凹凸によりガラスがくもり可視光線の散乱が増大する)という問題点があった。
この問題を解消するために特許文献2に記載されている減圧環境を整えてガラス基板の熱融着を徐冷点以下の温度で行う方法が考えられるが、耐熱真空装置を設置する必要があり設備コストが高価になるという問題点があった。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、マイクロ化学チップを製造するに当たり、酸のエッチングで溝を形成するときにガラス表面にサイドエッチングを生じないガラス基板であり、ガラス基板に形成した溝近傍に未融着による接合不良が生じないガラス基板を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の問題点を生じる原因がガラス基板の主表面の平滑性に関係があると考え鋭意研究した結果、本発明をするに至った。
本発明の請求項1は、ガラス板の主表面が研磨により面内板厚み差が3μm以下、測定波長範囲0〜5mmのうねり(ωa値)が2nm以下に平滑化されていることを特徴とする。
本発明において、ガラス基板の主表面を研磨により平滑化する処理とは、ガラス板の主表面のうねりを小さくすることとガラス板の面内板厚み差を小さくすることが含まれる。ガラス板の主表面に化学エッチング法により形成した溝を有するガラス基板と他方のガラス基板を熱融着に貼り合わせると、溝の長手方向に沿って溝の外側の2枚のガラス基板の間に隙間が生じることがあった。この未融着部の基板間の距離は狭く、微小流路に注入した試料液がスムースに流れず滞留する原因となっていた。
上記の未融着は、用いる溝付きガラス基板およびそのガラス基板と貼り合わせる他方のガラス基板との平滑性が関係し、面内板厚み差が3μm以下、測定波長範囲0〜5mmにおけるうねり(ωa値)が2nm以下とすることにより解消する。
請求項2は、請求項1において、ガラス板が歪み取りアニール処理が施されていることを特徴とする。
本発明の研磨は、酸化セリウム、酸化アルミニウム、コロイダルシリカなどの砥粒のいずれか1種を含有する研磨液と研磨パッドを用いる研磨(精密研磨)により実施される。研磨はガラス表面を加圧することにより、ガラス表面及びその近傍に圧縮応力を発生させると同時に、ガラス表面を除去していく。すなわちガラス表面を研磨により除去しながら砥粒の加圧によりガラス内部に圧縮応力を生じさせる研磨工程は、ガラス表面の除去による平滑化と圧縮応力の生成が同時併行して行われる。加圧による応力の内部方向への生成スピードが研磨によるガラスの除去スピードより早いので、研磨を停止した状態でガラス表面に圧縮歪みが残留することになる。
ガラス表面に圧縮歪みが残留していると、酸による化学エッチングにより形成された溝の壁面とガラス表面とが交叉する溝の稜線部で、スムースにエッチングされずガラス面が凹凸形状を呈する不良欠点が生じる。この不良欠点の発生を防止するために、研磨後のガラス表面に残留する歪みをアニール処理(加熱処理)で徐去するのが好ましい。
請求項3は、 ガラス板の主表面を酸化セリウムの砥粒を含有する研磨液と研磨パッドを用い、ガラス板片面の取り代を片面15μm以上研磨して、面内厚み差を3μm以下、測定波長範囲0〜5mmにおけるうねり(ωa値)を2nm以下に平滑化することを特徴とする。
ガラス板の主表面の平滑化は、酸化セリウムなどの砥粒を用いて行うが、ガラス基板の板厚みを所定の厚みに調整するために、ガラスの研磨(平滑化)に先立ち、たとえば酸化アルミニウムの砥粒を用いたラッピングやダイヤモンド砥粒を土台に固定した砥石を用いるラッピングによりガラス板が研削加工される。この加工は、鋭利かつ硬質の砥粒でガラス板を加工するため、ガラス表面に比較的深い疵をつけることがある。このような疵を除去するためにガラス基板の表面を片面につき、ラッピング後15μm以上研磨により除去することが好ましい。
ガラスの片面研磨取り代を15μm以上で、うねり(ωa値)を2nm以下とする平滑面を迅速に(総研磨加工時間を短く)するために、硬質ウレタンパッドを用いる前段研磨とスエードタイプの硬質パッドを用いる後段研磨とからなる多段研磨を行ったり、研磨砥粒の平均粒径D50が異なる2種類の研磨砥粒を用いる前段と後段からなる多段研磨を行うのが好ましい。前段研磨(第1ポリッシュ)および後段研磨(第2ポリッシュ)の研磨砥粒および研磨圧力や研磨液中の研磨砥粒の濃度を適時調整して行う。
請求項4は、ガラス板の主表面が研磨により面内板厚み差が3μm以下、測定波長範囲0〜5mmにおけるうねり(ωa値)が2nm以下に平滑化されている複数枚のガラス基板を貼り合わせて加熱融着し、前記貼り合わせ面の全面で接合することを特徴とする。
ガラス板の主表面を、面内板厚み差を3μm以下、測定波長範囲0〜5mmのうねり(ωa値)を2nm以下に平滑化することにより、貼り合わせ面の全面について熱融着により接合でき、溝に沿ってガラス基板間に隙間を生じない。
請求項5は、請求項4において、融着温度が前記ガラスの徐冷点以上軟化点未満の温度であることを特徴とする。
融着接合する温度をガラスの徐冷点以上軟化点未満の温度にすることによりガラス基板の反りを抑制することができる。また貼り合わせたガラス基板の上に加圧治具(アルミナ等のセラミックス材の重し)を載せて貼り合わせ面を圧接しても、加圧治具の表面凹凸がガラス基板表面に転写されて、ガラスの光学的特性が劣化するのが防止できる。用いるガラス板の主表面をうねり(ωa値)を2nm以下、板厚み差を3μm以下に平滑化することにより、貼り合わせ面の全体で軟化点以下の温度で融着することができる。融着接合は徐冷点以上の温度に一定時間加熱維持して行う。
請求項1に記載のガラス基板を貼り合わせて熱融着により接合して得られる微小流路付きマイクロ化学チップは、微小流路に沿って未融着による隙間がなく融着接合している。これにより微小流路内に注入した試料液が隙間で滞留することがない。
さらに請求項2のガラス基板によれば、ガラス板の主表面の研磨により生じた残留歪みがアニール処理(加熱処理)により除去されているので、化学エッチングにより形成した溝の壁面の上端部は溝の底部と同じように表面平滑にエッチングされ、表面凹凸が発生しない。
さらに請求項3によれば、ガラス板の主表面のラッピングにより生じた微小クラックが除去されるので、化学エッチングにより形成した溝の壁面にサイドエッチングが発生しない。この結果、液の滞留が生じない微小流路付きマイクロ化学チップが得られる。
請求項4によれば、ガラス基板の主表面の平滑性および面内板厚み差が所定量以下に制御されているので、このガラス基板を用いて作製した微小流路内蔵のマイクロ化学チップは微小流路に沿ってガラス基板の貼り合わせ面に未融着による隙間がない。
請求項5によれば、融着温度がガラスの軟化点以下であるので、ガラス基板に反りの発生が抑制される。
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態に係るマイクロ化学チップ用ガラス基板およびその製造方法、それを用いて得られるマイクロ化学チップについて詳細に説明する。
図1は、溝付きガラス基板2(本発明のガラス板の主表面に溝を形成したマイクロ化学チップ用ガラス基板の一実施例)を用いて作製されるマイクロ化学チップを説明する図である。図1(a)は、本発明のマイクロ化学チップの一実施例の分解斜視図である。図1(b)はマイクロ化学チップの平面図である。図1(c)は図1(b)の線A−A’における面図である。図1(d)は、図1(b)の線B−B’における断面図である。
図1において、本発明に係るのマイクロ化学チップ100は、接合面8に両端がそれぞれ二股に分岐した0.1±0.01mm幅、深さが0.04±0.004mmの断面略半円形状の溝1が形成された溝付きガラス基板2(ベースプレート)と、溝付きガラス基板2の溝形成面に接合される第2のガラス基板4(カバープレート)を備える。第2のガラス基板4は、溝1に対応する位置に試料の注入・排出用の貫通孔3を有する(図1(a))。溝1は、これら2枚のガラス基板が貼り合わされてマイクロ化学チップ100の微小流路5を構成する。
上記マイクロ化学チップ100の微小流路5を適当な形状に形成し、貫通孔3から試料溶液を注入して、電気泳動法、光熱分光分析方法(熱レンズ分析法)、蛍光分析法などの公知の方法により、微小流路中で液内の試料の定性分析、定量分析、混合、反応、抽出、分離等が行われる。
ガラス基板の材料としては、蛋白質、血液、DNAなどの生態試料の分析や環境分析用に用いるマイクロ化学チップを考慮すると、化学耐久性がある(耐酸性、耐アルカリ性が高い)ガラスが好ましく、硼珪酸ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ソーダ石灰珪酸ガラス等がよい。
次に本発明のガラス基板及びマイクロ化学チップの製造方法を図2を参照して説明する。ガラス素板から所定のサイズに切断し、その端面を面取りする。得られたガラス板の主表面を、まずアルミナ砥粒(たとえばフジミインコーポレイテッド社製FO♯1000)を用いて両面ラッピング装置によりラッピングし、ガラス板の厚みを所定厚みまで薄くする。
次に、ラッピングしたガラス板を前段研磨(第1ポリッシュ)する。前段研磨は酸化セリウムの砥粒を水に懸濁させた研磨液をガラス主表面に供給しながら研磨パッド(たとえばローデス社製LP66)をガラス板に押さえつけながらガラス表面上で砥粒を移動させて研磨する。研磨には両面研磨装置を用いることができる。酸化セリウムの砥粒の平均粒径D50は約1.0〜約1.4μm程度の粗さのものを用い、研磨圧力60〜100gf/cm2、研磨時間30〜60分で厚みを約0.71mmまで研磨する。平均粒径が1.4μmを超える砥粒を用いても、砥粒の粒径アップによる研磨レートを向上させる効果が得られず、また研磨砥粒によるキズが発生し、歪みをガラス表面に残し、この歪みに起因してエッチピットの発生原因となるので好ましくない。平均粒径D50が1.0μm未満では研磨速度が低下し研磨加工時間が長くなるので好ましくない。
研磨砥粒の最大粒径が10μmを超えると、研磨砥粒による研磨キズが発生し洗浄後の潜傷の発生原因となるので、砥粒の粒径分布は最大10μm以下とするのがよい。
次に、前段研磨したガラス板は、洗浄して必要により後段研磨(第2ポリッシュ)する。後段研磨は酸化セリウムの砥粒を水に懸濁させた研磨液をガラス主表面に供給しながら研磨パッド(たとえばカネボウ社製7713S)をガラス板に押さえつけながら、ガラス表面上で砥粒を移動させて研磨する両面研磨装置を用いることができる。酸化セリウムの砥粒の平均粒径D50は約0.3〜約1.0μm程度の粗さのものを用い、研磨圧力30〜100gf/cm2で20〜50分程度で、厚みを約0.70mmに研磨する。その後洗浄してガラス板の主表面を清浄にする。
後段研磨に用いる砥粒の平均粒径は、前段研磨に用いる砥粒の平均粒径より小さくするのが好ましい。ガラス表面に発生する残留応力を小さくする観点から、前段研磨の工程の研磨圧力を複数に分け、後半の研磨の圧力を前半の研磨の圧力より小さくするのが好ましい。同様に、後段研磨の工程の研磨圧力を前半と後半に分け、後半の研磨圧力を前半の研磨圧力より小さくするのが好ましい。平均粒径D50が0.2μm未満では、研磨レートが低くなり長い加工時間を必要とするので好ましくない。
また、後段研磨に引き続き、コロイダルシリカの研磨砥粒(平均粒径D50が約0.04μm程度)を含む研磨液を用いる精密研磨(第3ポリッシュ)を追加してもよい。これにより一層ガラスの主表面に残留応力が小さい平滑面が得られる。
本発明の研磨により、ガラス板の主表面を、測定波長範囲0〜5mmのうねり(ωa値)が2nm以下、かつガラス板の面内厚み差が3μm以下の平滑面にすることができる。
ラッピング工程直後のガラス主表面は、砥粒の研削により微細な疵(マイクロクラック)が多数あり、マイクロクラックはガラス表面から深く侵入している。このマイクロクラックは後工程のエッチングによる溝形成で図5に示すようなサイドエッチ不良(溝壁面上端部から溝の外側に向かってガラスの平滑面に存在するマイクロクラックに沿ってエッチングが進むことにより生じる不良欠点)の原因となる。図5(a)は略半円形状の溝の断面図(図5(b)のA−A断面)であり、図5(b)は溝1の平面図である。
溝1の内壁上端部のガラス主表面で発生するサイドエッチング20は、エッチング前の傷の幅が小さくても、エッチング液がマイクロクラックの間に浸透することにより数μm〜数十μmに拡大する。溝に生成したサイドエッチング不良は、微小流路内を流れる液の滞留、液のスムースでない流れ(層流の乱れ)を引き起こすので好ましくない。
ラッピングにより生じるマイクロクラックや取り扱いキズをガラス表面から除去するために、ガラス板片面について15μm以上の取り代の研磨を行うことが好ましく、20μm以上とするのが一層好ましい。また、30μmを超えて研磨を行ってもガラス表面のマイクロクラックをさらに少なくする効果がなく、研磨に要する時間が長くなるので好ましくない。
ラッピングの研削量は、通常両面合計で0.2〜0.5mm(中心値0.35mm)とされる。0.2mm未満では、ガラス素板に存在する扱い傷などの比較的深い傷の除去が十分でなく、平坦度の修正効果も小さい。一方、0.5mm超えのラッピングは、ガラスの傷の除去効果が飽和し、加工時間が長くなるマイナス面が生じるので好ましくない。
マイクロ化学チップのベースプレートになる溝が形成されたガラス基板は、必要によりアニール処理を行う。このアニール処理(熱処理)は研磨によりガラス表面層に生じた圧縮残留層を除去する熱処理であり、残留歪みを除去することにより、後工程のエッチングにより溝を形成するときにエッチングピット(溝の壁面とガラス主表面との境界に生じるエッチング量の不揃いによる表面凹凸)の不良欠点の発生を確実に防止することができる。アニール処理は、上記の研磨工程で生じた残留歪み量が小さいほどより低温で実施できる。上記の多段研磨またはコロイダルシリカの研磨を追加した研磨により、ガラスの歪み点またはそれ以下の温度で歪みを除去または歪み量を小さくすることができ、エッチングによる溝の形成工程でエッチピットの発生を防止することができる。
徐歪みのためのアニール処理(熱処理)は、たとえば電気炉中でガラス板を所定温度に加熱して一定時間維持して行われる。微細な酸化セリウムの砥粒、好ましくは平均粒径D50が0.4μm以下の砥粒や、コロイダルシリカを研磨砥粒とする最終段精密研磨を行うことにより、驚いたことにガラスの歪み点またはそれ以下の温度で、ガラス表面の歪み取りを確実に行うことができる。これは、本発明の最終段の精密研磨により残留歪みが著しく小さくなっていることによるものと推定される。このような歪み点以下の低い温度でのアニール処理は、ガラス板に反りを発生させない利点を有する。
アニール処理後のガラス板は洗浄されマスキング膜が所定形状に被覆される。ガラス板の主表面を所定形状にエッチングするためのマスキング膜は、スパッタリング薄膜形成法により被覆したクロム膜と金膜の積層膜をフォトレジストパターニング法により形成する。エッチング液はフッ酸を主成分とする液(たとえば49%のフッ酸)を室温または若干加温したものを用いることができる。ガラスの種類により異なるが約1〜5分間のエッチングにより溝の形成を完了し、マスキング膜を硫酸第二セリウムアンモニウム液で除去し、洗浄して溝付きガラス基板を得る。得られる溝の断面はエッチングによるガラスの侵食が等方的に行われるために断面半円形状の溝になる。
次に、マイクロ化学チップの第2のガラス基板となるカバープレートの製造方法について述べる。図2において、研磨されたガラス板の主表面はワックスの保護膜が貼り付けられ、所定の大きさの注入孔または排出孔となる貫通孔3がドリルで開けられる。その後ワックスを溶解除去して洗浄して、清浄なカバープレートとする。
溝付きガラス基板2(ベースプレート)と第2のガラス基板(カバープレート)は、図3に示すように、熱融着により接合される。図3は熱融着の接合方法の一実施例として2組のマイクロ化学チップを同時に熱融着により接合する方法を示す。表面がよく研磨されたアルミナ製の基台9上に一組のベースプレート2およびカバープレート4を重ね合わせて載置し、その上に表面がよく研磨されたアルミナ製の加重(重し)10を載せ、さらにその上に他の一組のベースプレート2およびカバープレート4を重ね合わせて載置し、最後にアルミナ製の加重10を載せる。アルミナ製の加重10により接合面が圧接される。このように重ねたものを電気炉中に入れて所定温度に加熱して接合する。重ね合わせる組数は特に限定されないが1〜10組程度とするのがよい。また加重は1〜50g/cm2とするのがよい。
2枚のガラス基板を貼り合わせ面で熱融着させる接合温度が高いと、貼り合わせ面と異なるガラス板表面(マイクロ化学チップとしたときのチップ表面)は、加重10、10により接して圧接されているので、加重10の表面凹凸がガラス板に転写され、微細な表面凹凸が転写されるという不具合が生じる。このガラス板表面に転写形成される微小凹凸は、入射する光を散乱させ(ガラス板のヘイズ率が大きくなり入射光の散乱成分が多くなる)、マイクロ化学チップの微小流路内に直線光を入射するのに不都合を生じる。熱融着による接合をガラスの軟化点以下の温度で行うことにより、ガラス表面の光学特性の低下(ヘイズ率の値の増大)を防止することができる。
溝付きガラス基板と第2のガラス基板を熱融着により接合するとき、ガラス基板の主表面を研磨により、面内板厚み差が3μm以下、測定波長0〜5mmにおけるうねり(ωa値)が2nm以下に平滑化することにより、溝の内壁の上端部と第2のガラス基板間に未融着が生じることが防止され、液溜まりが生じない微小流路を形成することができる。
一方0.2nm未満のうねりの値に研磨することは、研磨パッドの表面の平坦性を向上させる必要があり、それに伴い研磨速度が低下して研磨に多くの時間を要し、加工効率が低下するので好ましくない。このような工業的実用面から0.2nm以上とするのが好ましい。
図4は溝の内壁上端部で生じる未融着を説明する図である。図4(a)は微小流路5の断面両端部であって、溝付きガラス基板2とガラス基板4の貼り合わせ面に未融着部30が生じている状態を示す。図4(b)は未融着部30の部分拡大図である。未融着部30はその隙間の開口寸法が1/10μm〜数μm程度、長さ(奥行き)が数10μm程度の断面くさび型であり、溝の長さ方向に沿って生じる。このような未融着部が微小流路5に沿って存在すると、試料溶液がこの隙間に毛細管現象で侵入し流れにくくなり、マイクロ化学チップ内で起こる抽出、混合、反応などを正常に行うことができなくなる。本発明のガラス基板を用いて得られるマイクロ化学チップの微小流路は、ガラス主表面が研磨により平滑に制御されているので、図4に示すような微小流路5に断面くさび型の隙間が生じない。試料液の流れがスムースであり、正常に分析、反応等の操作が行える。
接合するガラス基板の表面の測定波長範囲が0〜5mmの狭いレンジのうねりωa値および板厚み差を所定の値以下にすることが、微小流路に沿って発生する未融着を防止する理由は必ずしも現時点で明らかでない。以下に実施例により本発明を詳述する。
縦70mm横30mmのテンパックスフロートガラス板(ショット社製板厚み1.1mm)を20枚アルミナ砥粒を用いてラッピングし、厚みを約0.75mmにした。このガラス板を前段研磨として、酸化セリウムの砥粒の平均粒度D50が1.2μmである三井金属鉱業社製の酸化セリウム遊離砥粒を含む研磨液とローデス社製研磨パッドLP66を用いて、研磨圧力80gf/cm2で25分間両面研磨装置により厚みが0.71mm(取り代片面で20μm)になるまで前段研磨した。さらに後段研磨として、平均粒度D50が0.4μmの酸化セリウムの砥粒を含む研磨液とカネボウ社製の研磨パッド7713Sを用いて、研磨圧力60gf/cm2で、5分間の研磨によりガラス板厚みが0.70mmになるまで研磨(取り代片面5μm)した。研磨により平滑化したガラス板の測定波長範囲0〜5mmのうねり(ωa値)はOPTIFLAT(PHASESHIFT Technology社製)測定機で測定したところ2.0nmで、面内板厚み差はマイクロメータで測定したところ3.0μmであった。
得られたガラス基板のうち一枚について、洗浄後クロム膜と金膜の積層膜をスパッタリング薄膜形成法で被覆し所定形状にパターニングしてマスキング膜とした。室温の49%フッ酸をエッチング液とするフォトリソグラフパターニングを用いる化学エッチング法により、最大巾約100μm、深さ約40μmの断面が半円形状の溝をガラス表面に形成した。この溝付きガラス基板と同時に研磨し所定位置にマイクロドリルにより試料の注入孔および排出孔となる貫通孔を開けたガラス基板を貼り合わせて、表面を研磨したアルミナの焼結セラミックス材に図3で示すように挟んで、電気炉内で加熱してガラス基板を融着接合した。融着接合温度はガラスの徐冷点である568℃で、維持時間を5時間とした。接合したガラス基板を徐冷後炉外へ取り出し、ガラス基板の接合状態を調べたところ、貼り合わせ面の全面について熱融着が行われて、表1に示すように微小流路に沿って未融着部は認められなかった。
実施例1とは、前段の研磨時間及び後段の研磨時間を共に長くして研磨面をより平滑化した以外は同じようにしてガラス基板を作製した。このガラス基板のうねり値は0.4nmであり、面内板厚み差は1.0μmであった。実施例1と同じようにして熱融着によりマイクロ化学チップを作製した。このサンプルは表1に示すように未融着部は発生していなかった。
比較例1
実施例1とは、前段研磨時間を短くし、かつ後段研磨時間も短くし、それ以外は同じようにして研磨し、うねり値が2.8nm、面内板厚み差が4.0nmのガラス基板を得た。このガラス基板を用いて実施例1と同じようにして微小流路を内蔵するマイクロ化学チップを作製した。得られたマイクロ化学チップには、微小流路の両側に沿って図4に示すような幅約数10μmの断面くさび形状の未融着個所が認められた。この未融着個所は光学顕微鏡で白色に反射して認められた。
実施例1とは、前段研磨時間を短くし、かつ後段研磨時間も短くし、それ以外は同じようにして研磨し、うねり値が2.8nm、面内板厚み差が4.0nmのガラス基板を得た。このガラス基板を用いて実施例1と同じようにして微小流路を内蔵するマイクロ化学チップを作製した。得られたマイクロ化学チップには、微小流路の両側に沿って図4に示すような幅約数10μmの断面くさび形状の未融着個所が認められた。この未融着個所は光学顕微鏡で白色に反射して認められた。
比較例2
実施例2で得られた研磨ガラス基板をベースプレートとし、比較例1で得られた研磨ガラスをカバープレートとして、実施例1と同じ方法で加熱融着してマイクロ化学チップを作製した。得られたサンプルの融着状態は表1に示すように、幅約数10μmの未融着個所が微小流路の両側に沿って認められた。
実施例2で得られた研磨ガラス基板をベースプレートとし、比較例1で得られた研磨ガラスをカバープレートとして、実施例1と同じ方法で加熱融着してマイクロ化学チップを作製した。得られたサンプルの融着状態は表1に示すように、幅約数10μmの未融着個所が微小流路の両側に沿って認められた。
比較例3
比較例1で得られたガラス基板をベースプレートとし、実施例2で得られたガラス基板をカバープレートとして、実施例1と同じ方法で加熱融着してマイクロ化学チップを作製した。得られたサンプルの融着状態は表1に示すように幅約数10μmの未融着個所が微小流路の両側に認められた。
比較例1で得られたガラス基板をベースプレートとし、実施例2で得られたガラス基板をカバープレートとして、実施例1と同じ方法で加熱融着してマイクロ化学チップを作製した。得られたサンプルの融着状態は表1に示すように幅約数10μmの未融着個所が微小流路の両側に認められた。
上記の実施例および比較例から、ガラス基板の貼り合わせ面のうねりは2nm以下であり、ガラス基板の面内板厚み差が3.0μm以下に平滑化することにより、微小流路に沿って溝付きガラス基板と第2のガラス基板との間に未融着が原因の隙間ができないことが分かる。
次にエッチングにより溝を形成するときに、図5に示すようなサイドエッチング不良の発生を防止するための研磨取り代量を調べた。すなわちガラス基板のラッピングにより生じたガラス表面から内部に向かって生成したマイクロクラック(微小傷)を除去するために必要な酸化セリウムの砥粒による研磨取り代量について調べた。
ラッピング条件及び酸化セリウムの研磨条件は実施例1と同じとし、片面研磨取り代を種々変えたサンプルを作製した。研磨したガラス表面を49%フッ酸で処理して潜傷を浮き上がらせてガラス1枚当たりの傷の数を光学顕微鏡により計測した結果を表2に示す。ガラス片面を約15μm研磨することにより、傷はほとんど除去できることが分かった。
表2のサンプル番号3のガラス基板(ガラス片面研磨取り代15μm)を用いて、実施例1と同じようにして、図1に示すような形状の微小流路を内蔵するマイクロ化学チップを作製した。このチップは微小流路の壁面とガラス基板表面の境界部に、図5のサイドエッチング20で示されるような不良欠点は認められなかった。
比較例4
表2のサンプル番号1のガラス基板(ガラス片面研磨取り代10μm)を用いて、実施例1と同じようにして、図1に示すような形状の微小流路を内蔵するマイクロ化学チップを作製した。このチップは微小流路の壁面とガラス基板表面の境界部に、図5で示すようなくさび形のサイドエッチング不良が多数認められた。この結果からラッピング研削後の研磨はガラス片面15μm以上研磨することがよいことが判明した。
表2のサンプル番号1のガラス基板(ガラス片面研磨取り代10μm)を用いて、実施例1と同じようにして、図1に示すような形状の微小流路を内蔵するマイクロ化学チップを作製した。このチップは微小流路の壁面とガラス基板表面の境界部に、図5で示すようなくさび形のサイドエッチング不良が多数認められた。この結果からラッピング研削後の研磨はガラス片面15μm以上研磨することがよいことが判明した。
また、表2から研磨取り代をガラス片面30μmを超えて研磨してもサイドエッチをさらに減少させる効果が期待できないことが分かる。
上記は、底面を有する溝が形成されたガラス基板と第2のガラス基板を熱融着により接合したマイクロ化学チップについて述べたが、本発明はこれに限定されるものでな。たとえばガラス基板、ガラス厚み方向に貫通する溝が形成されたガラス基板および貫通孔を開けたガラス基板をこの順に貼り合わせて、3枚のガラス基板を熱融着により接合するマイクロ化学チップの作製にも適用できる。
本発明のガラス基板は、微小流路を内蔵するマイクロ化学チップを製造するのに用いられる。
1:溝
2:溝付きガラス基板(ベースプレート)
3:貫通孔(注入孔、排出孔)
4:第2のガラス基板(カバープレート)
5:微小流路
6:ガラス板
7:ガラス板
8:貼り合わせ面
9:アルミナ製基台
10:アルミナ製加重(重し)
20:サイドエッチング
30:未融着
100:マイクロ化学チップ
2:溝付きガラス基板(ベースプレート)
3:貫通孔(注入孔、排出孔)
4:第2のガラス基板(カバープレート)
5:微小流路
6:ガラス板
7:ガラス板
8:貼り合わせ面
9:アルミナ製基台
10:アルミナ製加重(重し)
20:サイドエッチング
30:未融着
100:マイクロ化学チップ
Claims (5)
- ガラス板の主表面が、研磨により面内板厚み差が3μm以下、測定波長範囲0〜5mmのうねり(ωa値)が2nm以下に平滑化されていることを特徴とするマイクロ化学チップ用ガラス基板。
- 前記ガラス板は除歪みアニール処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学チップ用ガラス基板。
- ガラス板の主表面を酸化セリウムの砥粒を含有する研磨液と研磨パッドを用い、ガラス板片面の取り代を15μm以上研磨して、面内厚み差を3μm以下、測定波長範囲0〜5mmのうねり(ωa値)を2nm以下に平滑化することを特徴とするマイクロ化学チップ用ガラス基板の製造方法。
- ガラス板の主表面が研磨により面内板厚み差が3μm以下、測定波長範囲0〜5mmにおけるうねり(ωa値)が2nm以下に平滑化されている複数枚のガラス基板を貼り合わせて加熱融着し、前記貼り合わせ面の全面で接合することを特徴とするマイクロ化学チップの製造方法。
- 前記融着接合温度がガラスの徐冷点以上軟化点未満であることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ化学チップの製造方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2018039701A (ja) * | 2016-09-08 | 2018-03-15 | 日本電気硝子株式会社 | マイクロ流路デバイス用ガラス基板 |
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-
2005
- 2005-01-12 JP JP2005004863A patent/JP2008056496A/ja active Pending
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