以下、本発明の第1の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1および図2,図4から図9,図11から図15は、それぞれ第1の実施形態に関係する図面を表している。
はじめに本発明におけるエレベータ群管理システムの制御イメージ(制御原理)を図8,図9を基にして説明する。図8は、本発明によるエレベータ群管理システムの制御イメージの一例を表した図である。図8において、左側はビル内の昇降路断面(垂直方向)とその中を動くエレベータかごの状態をイメージ的に表した図である。図8の右側の図は、横軸(A01)が時間軸、縦軸(A02)がビルの階床の軸(ビルの垂直方向の位置の軸)を表した図であり、時間軸上での各エレベータかごの運行の軌跡を表すことができる(一般に運行線図と呼ばれている)。図8では、例として2台のエレベータ群管理システムの状態を表している。図8の左側の図より、1号機(1と記述されたかご)は1階床で反転して上昇運転をしており、2号機(2と記述されたかご)は2階床から下降運転をしている。この様子を、右側の運行線図で見ると、現時点を表す軸より左方向において、1号機(A03),2号機(A04)とも下降運転をして、それぞれ1階床,2階床に位置している様子が分かる。つまり、図8右側の運行線図において、現時点より左側の各エレベータかごの軌跡が実際の軌跡を表している。例えば、1号機の実際の軌跡はA031の軌跡であり、2号機の実際の軌跡はA041の軌跡である。
本発明のポイントは、運行線図において現時点より右側の将来方向の時間軸上に描かれている軌跡である。これが各かごが今後通るべき‘目標軌跡’を表している。以下ではこの目標軌跡を‘目標ルート’と呼ぶ。本発明によるエレベータ群管理システムの特徴は、この目標ルートに従うように各エレベータかごの動作(より正確には割当て)を制御する点にある。具体的に各かごの目標ルートは、1号機の場合、A032がその目標ルートであり、2号機の場合、A042がその目標ルートとなっている。この目標ルート、時間軸上で各号機が通るべき目標(または基準)となる軌跡を制御に導入したことが、これまでの群管理制御にはない本発明独自の特徴となっている。
図9は、目標ルートに従って、ホール呼びに対するエレベータかごの割当てを決定する様子を表した図である。図9は、図8と基本的に同じ図である(左側が昇降路垂直断面上のエレベータの状態を表しており、右側が運行線図を表している)。まず新規のホール呼びが3階の上昇方向に発生したとする(図9の左側の図を参照)。このホール呼びに対して、群管理制御は、1号機(B03)か2号機(B04)のどちらか適切な号機を割当てる。ここでは1号機(B03)の動きに注目する。1号機の目標ルートはB032の軌跡である。1号機の予想ルート(現時点から先の時点の予想軌跡、以下この予想軌跡を‘予想ルート’と呼ぶ)は、新規ホール呼びを割当てず通過させる場合はB033のルート(予想ルート1)となり、新規ホール呼びを割当てた場合はB034のルート(予想ルート2)となる。ここで、本発明の群管理制御では、各号機の動きを目標ルートに従うように動かすことにある。従って、目標ルートにより近づくのはB033の予想ルート1、即ち、ホール呼びを割当てず通過させるルートの方であり、1号機にはこのホール呼びを割当てないようにする。この結果、1号機の実際の軌跡は目標ルートに追従するように動作する。
本制御の効果については改めて述べるが、その基本は、目標ルートを、将来的に各エレベータかごが時間的等間隔状態の軌跡になるように描くことによって、実際のかごの軌跡がその目標ルートに追従するようになり、その結果、長期的に安定して各かごを時間的等間隔な軌跡を保つように制御することができることにある。
例えば、図9の場合、現時点までの1号機(B03)と2号機(B041)のそれぞれの実際の軌跡:1号機の軌跡(B031),2号機の軌跡(B041)は接近しておりだんご運転状態にあることが分かる。ここで、3階上昇方向に発生した新たなホール呼びを2号機に割当てると、1号機(B03)と2号機(B04)の距離は依然として近づいたままであり、だんご運転が継続する。しかし、1号機と2号機を引き離して、各かごの軌跡が時間的等間隔になるように設定した目標ルートに沿って制御させるようにすると、1号機(B03)には割当てられず、目標ルートの通り、時間的等間隔の状態に近づいていく。
以下、図8と図9を基に、本発明によるエレベータ群管理システムの制御原理の特徴を整理する。
1)図8に示すように、各かごに対して、時間軸上で目標となる軌跡,目標ルートを設定する。
2)図9に示すように、各かごの軌跡が目標ルートに追従するように、目標ルートと予想ルートを比較して、より目標に近づくようなかごにホール呼びの割当てを決める。
3)その結果として、各かごは目標ルートに追従するように動作する。
4)ここで、目標ルートは、基本的には、各かごの軌跡が時間的に等間隔になるように設定するため、各かごは長期的に安定して、時間的等間隔状態になるように制御される。
次に、図1を用いて、本発明によるエレベータ群管理システムの制御システム構成を説明する。図1は、本発明によるエレベータ群管理システムの制御システム構成を表しており、この制御システムは、例えばマイコン,DSP(Digital Signal Processor),システムLSI,パーソナルコンピュータを含む計算機などの上で実行される。図1において、ポイントとなるのが目標ルート制御部101内の目標ルート作成部103,予想ルート作成部104,ルート評価関数によるルート評価関数演算部105と、割当てエレベータ選択部2の4つの要素である。基本的にこの4つの要素によって、先に図8,図9により説明した目標ルートによる制御が実行される。
以下、図1の制御構成の詳細を説明する。まず図1は大きく、複数台のエレベータ(42A,42B,42C)とその各々のエレベータを個別に制御する各エレベータ毎(1号機からN号機)の制御装置(41A,41B,41C)、そして複数台のエレベータを1つのグループとして統括制御する群管理制御部1により構成される。ここで、1号機からN号機までの各エレベータの制御装置(41A,41B,41C)は、各エレベータに割当てられたホール呼びとホール呼びより派生するかご呼びの情報を基に位置や速度を制御する。
群管理制御部1の機能は、発生したホール呼びに対して、各エレベータに関する情報(位置,進行方向,既に割当てられるホール呼び,派生したかご呼び,ホール呼びの待ち時間等)を基にして、目標ルート制御部101で最適となる号機を評価し、この号機にホール呼びを割当てることにある。以下、この働きを詳しく説明する。
目標ルート制御部101において、目標ルート仕様決定部102は、交通流データ部7の情報を基に目標ルートの仕様を設定する。この詳細は後ほど説明するが、基本的には、各エレベータの時間的等間隔状態の軌跡が目標ルートの仕様になる。また交通流データ部7は、その時点のビルの交通流情報(エレベータを用いた人の移動の統計的情報)を出力する。
目標ルート作成部103では、図8で示したような各エレベータかごに対する目標ルート(図8のA032,A042)を作成する。この目標ルートの作成には、ホール呼びデータ部8から得られるホール呼び情報(各かごに割当てられているホール呼びの情報),かご呼びデータ部9から得られるかご呼び情報(各号機に割当てられているかご呼びの情報),交通流データ部7から得られる交通流情報,平均停止数データ部5から得られるエレベータの平均停止数(例えば、エレベータが上方向または下方向へ移動する間の停止回数の期待値),停止時間データ部6から得られる停止時間情報(例えば、1回当りの平均停止時間),各かご号機の仕様データ部11より得られる定格速度等のエレベータ各号機の仕様情報,有効台数・号機名データ部12から得られるその時点またはその時間帯でのエレベータの有効台数とその号機名の情報(群管理として制御できる台数),サービス階データ部13から得られるその時点またはその時間帯での有効なサービス階床情報,予想ルート作成部104から得られる予想ルート情報が入力データとなる。尚、エレベータの平均停止数と停止時間は、その時点のビルの交通流に依存するため(例えば、出勤時は停止期待値は大きくなる)、平均停止数データ部5と停止時間データ部6は交通流データ部7からの交通流情報を入力する構成となっている。目標ルート作成法の詳細は後述するが、このようなビル交通流・エレベータ状態の詳細な情報を用いることによって、より適切な目標ルートを設定することができる。
予想ルート作成部104では、各号機に対する予想ルートを作成する。予想ルートは、例えば図9に示した予想ルート1(B033),予想ルート2(B034)がその具体例であり、現時点からの各かごが取りえる予想軌跡を表す。予想ルートの作成には、目標ルート作成の場合と同様に、ホール呼びデータ部8から得られるホール呼び情報,かご呼びデータ部9から得られるかご呼び情報,交通流データ部7から得られる交通流情報,平均停止数データ部5から得られるエレベータの平均停止数,停止時間データ部6から得られる停止時間情報,各かご号機の仕様データ部11より得られるエレベータ各号機の仕様情報,有効台数・号機名データ部12から得られるその時点またはその時間帯でのエレベータの有効台数とその号機名情報,サービス階データ部13から得られるその時点またはその時間帯での有効なサービス階床情報,仮割当てかご設定部からの仮割当て情報が入力データとなる。本制御方式においては、正確な予想が重要ポイントの一つであり、上記のようにビル交通流・エレベータ状態の詳細な情報を用いることによって、これを実現することができる。予想ルートの詳しい作成法については後で説明する。
ルート距離指標によるルート評価関数演算部105では、各かご毎に目標ルートと予想ルートとの‘近さ’をルート距離指標を用いたルート評価関数によって評価する。このルート評価関数を用いることで、ホール呼びの割当てを決める場合に、予想ルートが目標ルートにより近くなるようなエレベータかごを判定することができる。ルート距離指標とは、例えば図9を例に取ると、1号機の目標ルート(B032)と予想ルート(B033またはB034)との近さを定量化する指標である。ルート距離指標とルート評価関数の詳細は後ほど説明する。
待ち時間評価値演算部15では、各かごに割当てられたホール呼びに対する予想待ち時間に基づいた評価値を演算する。例えば、新規に発生したホール呼びに対して各かごを仮割当てした場合のそれぞれの予想待ち時間をそのまま評価値とする方法や、新規に発生したホール呼びに対して各かごを仮割当てした場合に、それぞれのかごに対して既に割当てられている全ホール呼び中の予想待ち時間の最大値を評価値とする方法が考えられる。
総合評価値演算部14では、ルート距離指標によるルート評価関数演算部105で算出されたルート評価関数値と、待ち時間評価値演算部15で算出された待ち時間評価値とを重み付け加算して総合評価値を算出する。ルート評価関数値をΦR(k),待ち時間評価値をΦW(k),重み係数をWC,総合評価値をΦT(k)とすると、総合評価値ΦT(k)は次式によって表される。
ΦT(k)=ΦW(k)+ΦR(k)×WC …(A)
ここで、kはかごがk号機であることを表している。重み係数WCはその時点の交通流状態に対応して値が変わるような特性をもつ。例えば、閑散時(深夜,早朝など)のような場合は、ホール呼びの発生が少ないため、ルート評価値よりも待ち時間評価値を重視するのが適切であり、WCの値は小さくする。他方、混雑時は、ホール呼びが頻繁に発生するため、目標ルートによる制御が有効であり、WCの値は大きくする。このように(A)式のような総合評価値を用いることによって、交通流状態に対応して、待ち時間による割当て評価と目標ルートによる割当て評価のバランスを取ることができる。
割当てエレベータ選択部2では総合評価値演算部14によって計算された各かごの総合評価値を基に、ホール呼びに対する割当てかごを決定する。
以上に説明した図1の制御構成の各要素の働きによって、図8,図9で説明した目標ルートによる制御原理を実現することができる。尚、正確に言うと、図8,図9は、図1中の目標ルート制御部101の働きに焦点を当てており、待ち時間評価値演算部15の作用については省略している。
次に、目標ルートによる群管理制御の処理全体の流れを図19のフローチャートにより説明する。まず入力情報更新処理(ST101)では、その時点での、次の情報およびデータ(ホール呼び情報(図1のホール呼びデータ部8より入力)、かご呼び情報(図1のかご呼びデータ部9より入力),かご情報(図1のかご情報データ部10より入力),交通流情報(図1の号機仕様データ部11より入力),交通流情報に依存する平均停止数(図1の平均停止数データ部5より入力)と停止時間(図1の停止時間データ部6より入力),有効台数とその号機名(図1の有効台数・号機データ部12より入力),対象となるサービス階床(図1のサービス階データ部13より入力))が制御に必要となる入力情報として更新される。
尚、図19では便宜上、入力情報処理として一括して上記の情報を入力する形で表しているが、各情報を必要な時にのみ入力する形、例えば、図19の全体のフローの中でいくつかに分けて入力するようにしてもよいし、時間的に分けて入力するようにしてもよい。また定格速度等の各エレベータ号機の仕様情報(図1の各かご号機の仕様データ部より得られる情報)は、エレベータが据付けられているビルで決まる値のため、あらかじめ定数として設定されるものとする。次の目標ルート仕様設定処理(ST102)では、図1の目標ルート仕様設定部102の働きにより、目標ルートの仕様が設定される。基本的にこの仕様は、時間的等間隔状態が設定される。目標ルート作成処理(ST104)では、図1の目標ルート作成部103の働きにより、設定された目標ルート仕様に従った目標ルートが作成される。
予想ルート作成処理A(ST104)では、図1の予想ルート作成部104の働きにより予想ルートが作成される。次に、例えば新規にホール呼びの発生が検知された場合など、ホール呼びに対するかご割当て処理が発生した場合(ST105)は、その条件分岐以下に図示されている一連のかご割当て処理が実行される。以下、かご割当て処理の流れを説明する。ここでは、各かごにホール呼びを仮に割当て設定する処理を、ループ処理によって実行する。このループを図19では仮割当てかごループ(ST106)と名付けている。仮割当てかごループ(ST106)では、仮割当てかごを、ka号機として、変数kaを1号機からN号機まで1つずつ変えて、各エレベータ号機に対する処理をループ上で実行する。図1の仮割当てかご設定部が上記の仮割当て設定処理を実行する。ループ内部では、まず予想ルート作成処理B(ST107)が実行される。これはホール呼びをka号機に仮割当てた条件で、その時の予想ルートを作成する処理である(予想ルート作成処理A(ST104)は仮割当てかごを考えていないのに対して、予想ルート作成処理B(ST107)は仮割当てかごを反映した予想ルートを作成する)。この処理は、図1の予想ルート作成部104で実行される(仮割当てかごの情報は図1の仮割当てかご設定部3より得られる)。次に、作成した仮割当てかごka号機の予想ルートを用いて、仮割当てかごをka号機(Ka=1からNまで)とした場合のルート評価関数を演算する(ST108)。このルート評価関数は、基本的に目標ルートと予想ルートとの近さ度合いを表す指標であり、その演算は図1のルート距離指標によるルート評価関数演算部105によって実行される。
次に、仮割当てかごka号機に割当てられているホール呼びの予想待ち時間に基づいて、待ち時間評価値を演算する(ST109)。待ち時間評価値は、新規に発生したホール呼びに対して各かごを仮割当てした場合の予想待ち時間とする方法、新規に発生したホール呼びに対して各かごを仮割当てした場合に、それぞれのかごに対して既に割当てられている全ホール呼び中の予想待ち時間の最大値とする方法が考えられる。上記処理によって算出されたルート評価関数値と待ち時間評価値とを重み付け加算することによって総合評価値が演算される(ST110)。総合評価値の算出式は(A)式のようになる。
以上の仮割当てかごループ内処理は、ループが終了する(kaがNになるまで)まで繰り返される(ST111)。この結果、仮割当てかごka号機をka=1からNまで変えて仮割当てしたN個(群管理台数分)の総合評価値が得られる。割当てエレベータ選択処理では、N個の総合評価値を基にして、最適な割当てかごを選択する(ST112)。この処理は図1の割当てエレベータ選択部2で実行される。
以上、説明した図19のフローチャートに従うことによって、新規ホール呼び発生時に、各エレベータかごにホール呼びを仮割当てして、それぞれの場合の予想ルートと目標ルートととの近さ具合をルート評価関数で表すことができ、さらに予想待ち時間に基づく指標を加えて、その中から最適な評価値(最小の評価値)となる仮割当てかごを実際に割当てるかごとして選択する。
次に、図1に示したエレベータ群管理システムの制御システム構成内の目標ルート制御部101の各制御要素、1)目標ルート作成部(図1の103)、2)予想ルート作成部(図1の104)、3)ルート距離指標によるルート評価関数演算部(図1の105)、4)目標ルート仕様設定部(図1の102)の処理内容の詳細について説明する。
まず、本発明において最も重要な要素の一つである目標ルート作成部の処理内容の詳細を、図2,図11〜図16を用いて説明する。図2は目標ルート作成部の構成の一例を示した図である。図2に示した目標ルート作成部の構成は、大きく次の4つの要素、1)目標ルート更新判定部(図2の103A)、2)現状の位相時間値算出部(図2の103B)、3)各かごの位相時間値の調整量算出部(図2の103C)、4)調整後のルート作成部(図2の103D)で構成される。
始めに、概要的な制御イメージの説明として、上記4つの要素の働きについて説明する。目標ルート更新判定部(図2の103A)では現在の目標ルートを更新するか否かを判定する。目標ルート更新と判定された場合は、次段の現状の位相時間値算出部(図2の103B)で、その時点の各エレベータかごの予想ルートに対して、各かごのルートの間隔状態を位相時間値という指標で評価する。ここで、‘位相’の考えを用いる理由は、例えば、電気回路理論で正弦波の3相交流の波形を考えた場合、各相の波形が均等化している状態とは、各相の位相が2π/3(rad)ずつの等位相の状態であることに基づいている。
つまり、各かごのルートを波形と見なして、その波形に対して‘位相のような指標’を用いれば、各ルートに対する間隔の状態を評価しやすくなる。この‘位相のような指標’が、本発明で用いる位相時間値という指標に対応する。位相時間値については後ほど詳しく説明する。現状の位相時間値算出部(図2の103B)でその時点での位相時間値を算出した後、その位相時間値を均等にするための各かごの位相時間値調整量を、各かごの位相時間値の調整量算出部(図2の103C)において計算する。上記で算出された調整量を基にして、調整後ルート作成部(図2の103D)にて、元の各かごの予想ルートの時間位相値を調整する。調整の結果得られたルートが各かごに対する目標ルートとなる。
上記で説明した概要的な制御構成に対する動作を図11の動作イメージを用いて説明する。図11は、図2に示した目標ルート作成部によって実行される目標ルート作成プロセスの動作イメージを示した図である。ここではまず先に説明した概要的な制御内容に基づいた制御の動作イメージを説明する(図11の詳細はさらに後ほど説明する)。まず図11(A)の図(調整前の目標ルート形状)は、図2で説明した目標ルート作成のベースになる現時点での各かごの予想ルートに対応している。ここでは3台のエレベータ群管理システムを考えている。図11(A)において、1号機のかご(C010),2号機のかご(C020),3号機のかご(C030)は、現時点の軸上(C050)でそれぞれ、8階を下降中、3階を下降中、4階を下降中の状態にある。この3台のかごの現時点以降の予想ルート(予想される軌跡)はそれぞれ、1号機が実線の軌跡(C011)、2号機が一点鎖線の軌跡(C021)、3号機が点線の軌跡(C031)となっている。
尚、予想ルート作成法については予想ルート作成部の説明の項で詳しく説明する。これらの軌跡は明らかにそれぞれが接近しており、だんご運転状態に近いことが分かる。図2の目標ルート作成部の制御構成に戻って、まず目標ルート更新判定部(図2の103A)で、目標ルートの更新が判定された場合、現状の位相時間値算出部(図2の103B)では、図11(A)の各かごの予想ルート(図11(A)のC011,C021,C031)に対して、これらを一種の波形と見なして、それぞれの位相時間値を算出する。この位相時間値は、図11(A)のグラフ中の調整基準時間軸(C040)を各かごの予想ルートが横切る交点で計算される。
次に、この位相時間値を基に、それぞれの予想ルートが等間隔状態になるための調整量が、各かごの位相時間値の調整量算出部(図2の103C)で計算される。この調整量は図11(A)上では、調整基準時間軸上(C040)の3つの黒丸の点として表される。例えば1号機の場合は、C01Aの点が調整量を反映した点であり、1号機の予想ルート(図11(A)のC011)はこの点(C01A)を通るように次の処理で調整される。同様に、2号機の予想ルート(図11(A))のC021)は点C02Aを、3号機の予想ルート(図11(A)のC032)は点C03Aを通るように次の処理で調整される。この処理を実施するのが、図2の調整後ルート作成部(103D)であり、ここで調整量に基づいて予想ルートが調整されて新たな目標ルートが作成される。その結果が、図11(B)に示された軌跡になる。図11(B)は、図11(A)に示された予想ルートを基にして作成された新たな目標ルートを表した図である。3台の各かご(図11(B)のC010,C020,C030)に対して、1号機(C010)の目標ルートは実線の軌跡(C011N)であり、2号機(C020)の目標ルートは1点鎖線の軌跡(C021N)、3号機(C030)の目標ルートは点線の軌跡(C031N)となっている。この目標ルートの軌跡の特徴は、図11(B)に示されるように、時間的に等間隔な状態へ導くように各かごのルートが引かれていることにある。
具体的には、図11(B)において調整基準軸(C040)から先の時間では3台のかごの目標ルートはそれぞれ時間的に等間隔状態になっており、現時点を表す軸(C050)と調整基準時間軸(C040)との間の時間(図11(B)で調整エリアと書いた時間領域)では、各かごをそのような時間的等間隔状態へと導くように軌跡が引かれている。図11(A)に示した予想ルートを基にして、各ルートが調整量より求めた点(図11(A)および図11(B)の調整基準軸の点、C01A,C02A,C03A)を通るように、それぞれのルートを調整することによって、このようなルート(図11(B)に示すような目標ルート)を作成することができる。この作成法の詳細は後ほど改めて説明する。その前に、図12と図13を用いて、目標ルート作成法の基本的な考え方を整理する。
図12と図13は、本発明の特徴である目標ルートに対して、その作成法の基本的な考え方を表している。まず図12の内容について説明する。図12は、目標ルートの作成の基本的な考え方となる調整エリアによる目標ルート作成の考え方を説明している。図12のグラフについて、横軸は時間軸を表し、縦軸はビルの階床の位置を表している。グラフは調整基準時間軸(D04)を境にして、2つの領域に分かれている。このうち左側の領域(D01)が調整エリアとなる。調整エリアについては、図11(B)についての説明で少し触れたが、現時点を表す時間軸(D03)と調整基準時間軸(D04)とに挟まれた領域で、図12に示すように、この領域が過渡状態、すなわち理想とする時間的等間隔状態へ近づけようとする領域になる。そして、その先の調整基準時間軸以降が定常状態、すなわち理想とする時間的等間隔状態へ落ち着いた領域(D02)となる。つまり、定常状態の領域(D02)で理想状態となるように、そこへ導く過渡状態を調整エリア内で作成して理想状態へ導くという考え方になる。
図13は、目標ルートにおける調整エリアによる制御の考え方を表している。この図では、調整エリアを利用した目標作成のプロセスを示している。これは既に図2において概要として説明した次の4つのプロセスからなる。1)現状での予想ルートを描く(図13のST701)、2)調整基準時間軸における各かごの現状の位相時間値を算出(ST702)、3)現状の位相時間値を基に、時間的等間隔になるような各かごの調整量を算出(ST703)、4)調整量に従って調整エリア内にある予想ルートのグリッドを調整、これが目標ルートとなる(ST704)。このように、本発明の核となる目標ルートの作成方法は、図12で説明した作成の基本的考え方と、図13に示した4つの基本プロセスで実行されることを特徴としている。
以上、目標ルート作成に関する構成要素の基本部分,概要の動作,作成の基本的考え方と基本となるプロセスを説明した。
以下では、図2,図11,図14,図15により、目標ルート作成に関する詳細について説明する。まず図2に示した目標ルート作成部の中の詳細要素について説明する。現状の位相時間値算出部(図2の103B)は、初期状態ルート作成部(103B1),調整基準時間軸設定部(103B2),調整基準軸における各かごの位相時間値算出部(103B3),位相時間値順のソーティング部(103B4)からなる。初期状態ルート作成部(103B1)では、その時点における各かごの予想ルートを作成してこれを初期状態のルートにする。この初期状態のルートは、図11(A)に示されている調整前の目標ルート形状に対応する。調整基準時間軸設定部(103B2)では、調整基準時間軸を設定する。調整基準時間軸における各かごの位相時間部算出部(103B3)では、調整基準時間軸における各かごの位相時間値を算出する。
ここで、図15を用いて位相時間値の詳細を説明する。図15において、グラフの横軸は位相時間値を表し、縦軸はビルの階床位置を表している。図15に示されたグラフはエレベータかごの予想ルートを表したもので、この予想ルートは周期をTとする周期関数になるものと仮定する。例えば、図11(A)の1号機の予想ルート(図11(A)のC011)がこの例に対応する。図11(A)の1号機の予想ルート(図11(A)のC011)は周期関数になっていることが分かる。図15のグラフは、この周期関数となる予想ルートから、最下階(この場合、基準階)を始点(出発点)とする1周期分を切り出したルートになっている。このルートは、かご上昇時のルート(図15のG01)とかご下降時のルート(図15のG02)からなり、ビル内をかごが1周するルートに対応している。ここで、階床位置を位相と見なして、かごの最下階の位相を0または2π(rad)、最上階の位相をπ(rad)とする。また正弦波と同様に考えて、位相0〜πを正の極性の位相(かごが上昇運転時を正の位相)、位相π〜2πを負の極性の位相(かごが下降運転時を負の位相)とする。この時、位相πの時点(図15の時点Tπ)では、位相が正から負に反転するため、この時点を反転位相時間Tπと名付ける。また最上階の階床位置をy_maxで表すことにする。以上の設定条件の下で、予想ルート上のあるかごの位相時間値tp(0≦tp<T)を次式のように定義する。
tp=(Tπ/y_max)×y(かご上昇時:0≦tp<Tπ) …(1)
p=−{(T−Tπ)/y_max}×y+T(かご下降時:Tπ≦tp<T)
…(2)
ここで、yは求めるかご予想位置を階床軸上の位置として表した量とする。例えば、図15に示した予想ルート上において、かごの予想位置y(図15のG03)に対する位相時間値tpは、式(1)より、tp=(Tπ/y_max)×yと算出することができる。位相時間値tpの特徴は、位相量を時間の次元に直した値のため、各ルートの任意の時点における位相量を位相時間値によって一意に評価できる点が挙げられる。従って、各かごの予想ルートの時間的等間隔状態の度合いを、位相時間値を用いることで容易に評価することができる。
図2に説明を戻す。現状の位相時間値算出部(図2の103B)内の調整基準時間軸における各かごの位相時間値算出部(103B3)では、式(1)または式(2)を用いて、各かごの予想ルートと調整基準時間軸との交点に対する位相時間値を算出する。図14は目標ルートの作成過程を表している。この図では、分かりやすいように、1つのかご(2号機)だけを抜き出して示している。図14(A)は、調整前の目標ルート形状としての予想ルート(図14(A)のC021)を示している。この予想ルートは図2の初期状態ルート作成部(図2の103B1)で作成される。図14(A)の調整基準時間軸(図14(A)のC040)は、図2の調整基準時間軸設定部(図2の103B2)で設定される。この調整基準時間軸(図14(A)のC040)における2号機の予想ルート(図14(A)のC021)の位相時間値tp、即ち、2号機の予想ルートと調整基準時間軸との交点(図14(A)のC060)における位相時間値tpを算出するのが、調整基準時間軸における各かごの位相時間値算出部(図2の103B3)になる。
例えば、図14(A)の交点C060の場合、かごは上昇運転状態(位相では0(rad)からπ(rad)の間)であるため、予想かご位置yから、式(1)により位相時間値tpを算出することができる。ここで、周期Tは、ビルの階床数,階床幅,かごの定格速度、そしてその時点のビルの交通流状態で決まる平均停止数,停止時間のデータから求めることができる。同様に、反転位相時間Tπも上記のデータから求めることができる。また最上階の階床位置y_maxはビルによって定まる定数になる。図2に戻り、上記のようにして各かごの位相時間値を調整基準時間軸における各かごの位相時間値算出部(図2の103B3)で算出した後、この各かごに対する位相時間値を位相時間値順のソーティング部(図2の103B4)で位相時間値の順にソーティングする。以下、この順を位相順と呼ぶ。各かごの位相時間値tpは、図15で説明したように、1周分の波形上で定義されてものであり、図15の波形上で時間的に先の位置にあるほど位相時間値が大きくなる。一方で、tpは、0≦tp(k)<Tの範囲にあるように調整されている。例えば、図11(A)の調整前の目標ルート形状(予想ルートに対応)における3台のかご状態を例に取ると、調整基準軸(図11(A)のC040)と各かごの予想ルート(図11(A)のC011,C021,C031)との交点より、各かごの位相時間値の順は、小さい方から3号機,2号機,1号機の位相順になる。位相時間値順のソーティング部(図2の103B4)では、ソーティングアルゴリズム(例えば、直接選択法やバブルソートなど)を用いて、このような位相順を計算している。各かごの位相時間値の調整量算出部(図2の103C)では、算出された各かごの位相時間値とその位相順を基に、各かごの間隔を位相時間値で計算して、この値と等間隔になるための基準値とを比較して、その差として表される各かごの位相時間値の調整量を算出する。予想ルートから各かごの間隔(位相時間値で評価)を求めて、これを等間隔になるための基準値と比較して、その差分をこれから調整すべき調整量とするのがここでの考え方になる。
以下、図11(A)を例に各かごの位相時間値の調整量算出部(図2の103C)の処理内容を説明する。先に説明したように、図11(A)において、各かごの予想ルート(図11(A)のC011,C021,C031)の調整基準時間軸(図11(A)のC040)における位相時間値の位相順は3号機,2号機,1号機の順になっている。予想ルートの1周時間をTとすると(3台とも1周時間は等しい)、k号機の位相時間値tp(k)は、3号機がtp(3)=0.09T、2号機がtp(2)=0.17T、1号機がtp(1)=0.77Tとなる。位相順に各かごの間隔を計算すると、2号機と3号機の間隔はtp(2)−tp(3)=0.08T、1号機と2号機の間隔がtp(1)−tp(2)=0.6T、3号機と1号機の間隔がtp(3)−tp(1)+T=0.32Tとなる。このように位相時間値により各かごの間隔を定量化することで、各かごの間隔を定量的に評価することができる。例えば、上記の結果から2号機と3号機の間隔が非常に詰まっていることが分かる。位相時間値では1周時間をTとして設定しているため、N台の群管理の場合、目標としている時間的等間隔状態での各かごの間隔はT/Nで表すことができる。図11(A)の例では、3台群管理のため、目標とするかごの間隔はT/3=0.33T になる。この目標とする間隔と、現状の各かごの間隔との差が、調整すべき間隔になる。例えば、2号機と3号機間では+0.25T(=0.33T−0.08T)が調整すべき間隔値となり、1号機と2号機間では−0.27T(=0.33T−0.6T)、3号機と1号機間では、+0.01T(=0.33T−0.32T)がそれぞれ調整すべき間隔値となる。上記において、符号は正の符号が間隔の増大(目標に対して現状の間隔を広げる必要がある)、負の符号が間隔の減少を表している(目標に対して現状の間隔を縮める必要がある)。この調整すべき間隔値を基に、各かごに対する位相時間値の調整量を算出する。
これは次のアルゴリズムにより求めることができる。例えば、3台の群管理として、位相順にA号機,B号機,C号機の順に並んでいるとする(一般化するため、ここではアルファベットで号機の名前を表記している)。上記より、0≦tp(A)≦tp(B)≦tp(C)<Tが成り立っている。ここで、各かごに対する位相時間値の調整量を△tp(k)(kはかごがk号機であることを表す)で表すことにする。まず調整後の各かごの間隔が目標とする間隔T/3を満たすために以下の各式が成立する必要がある。
(tp(B)+△tp(B))−(tp(A)+△tp(A))=T/3 …(3)
(tp(C)+△tp(C))−(tp(B)+△tp(B))=T/3 …(4)
(tp(A)+△tp(A))−(tp(C)+△tp(C))+T=T/3 …(5)
例えば(3)式について、現状の位相時間値tp(B)に対して、調整後の位相時間値はtp(B)+△tp(B)で表される。従って、(3)式は、調整後のB号機の位相時間値と調整後のA号機の位相時間値との差、つまり間隔がT/3を満たすことを表している。ここで、上記3つの方程式は互いに独立していないため、この3式のみでは、△tp(A),△tp(B),△tp(C)について解くことができない。そこでもう一つの条件として、現状の各かごの位相時間値で見た配置上の重心と、調整後の各かごの位相時間値で見た配置上の重心が一致するという条件を加える。この条件は次式のようになる。
(tp(A)+tp(B)+tp(C))/3={(tp(A)+△tp(A))
+(tp(B)+△tp(B))+(tp(C)+△tp(C))}/3…(6)
(6)式を整理すると(7)式のようになる。
△tp(A)+△tp(B)+△tp(C)=0 …(7)
(3),(4),(5),(7)式を、△tp(A),△tp(B),△tp(C)について解くと、次式のようになる。
△tp(A)=(−2/3)tp(A)+(1/3)tp(B)+(1/3)tp(C)
+(−1/3)T …(8)
△tp(B)=(1/3)tp(A)+(−2/3)tp(B)+(1/3)tp(C)
…(9)
△tp(C)=(1/3)tp(A)+(1/3)tp(B)+(−2/3)tp(C)
+(1/3)T …(10)
まとめると、調整前の位相時間値が、0≦tp(A)≦tp(B)≦tp(C)<Tとなる、3台のかご、A号機,B号機,C号機に対して、各かごが調整後に時間的等間隔状態となり、かつ調整前後で3台の配置上の重心が変わらないという条件を満たすような調整量△tp(A),△tp(B),△tp(C)は、それぞれ式(8),(9),(10)によって求めることができる。
例えば、図11(A)を例に取ると、この図のケースでは、A,B,C号機は、それぞれ3,2,1号機となる。従って、tp(A)=tp(3)=0.09T,tp(B)=tp(2)=0.17T,tp(C)=tp(1)=0.77Tとなり、各かごに対する調整量は(8),(9),(10)式より、△tp(A)=△tp(3)=−0.081T,△tp(B)=△tp(2)=0.177T,△tp(C)=−0.096Tのように求められる。確認として、調整後のそれぞれの位相時間値を求めると、tp(A)+△tp(A)=tp(3)+△tp(3)=0.010T,tp(B)+△tp(B)=tp(2)+△tp(2)=0.343T,tp(C)+△tp(C)=tp(1)+△tp(1)=0.677T となり、それぞれのかごの間隔は、全て0.33T になり等間隔の条件を満足できている。
次に図2に戻り、各かごの位相時間値の調整量算出部(図2の103C)で求めた調整量を用いて、調整後ルート作成部(図2の103D)により、調整後のルートを作成する処理の詳細を説明する。調整後ルート作成部では、まず各かごのルート上のグリッドの調整量算出部(図2の103D1)で、各かごの調整前の目標ルート(予想ルートに対応)上のグリッドの調整量を算出する。始めに、図14(A)によりグリッドについて説明する。図14(A)は、分かりやすいように、2号機の調整前の目標ルート(予想ルートに対応)だけを抜き出した図を表している。グリッドとは、調整エリア内での対象としているルートの方向反転点と定義しており、図14(A)においては、調整前の目標ルート(C021)の3つの方向反転点C022,C023,C024がグリッドとなる(調整エリア内の方向反転点がグリッドになるので、上記3つの点に限定される)。このグリッドの位置を水平方向に調整することによって、対象としているルートの位相時間値を調整できる。各グリッドの調整量は、そのかごの調整量を総量として、現時点に近いグリッドから順にそのグリッドに設定されたリミッタ値を超える値まで割当てる方法で決定される。ここで、各グリッドの調整量のリミッタ値は、グリッドのリミッタ値設定部(図2の103D2)で設定される。
上記の方法を図14(A)のケースを例に取って説明する。まず2号機の3つの各グリッドに対するグリッドの調整量を、△gtp(k=2,i=1,2,3)とおく。ここで、kは号機の番号を表し(2号機の場合はk=2)、iはグリッドの番号を表す。グリッド番号iは、現時点から将来方向に、番号の若い順で番号付けをする。また各グリッドの調整量に対するリミッタ値をL△gtp(k=2,i=1,2,3)とおく。既に求めたように、2号機の位相時間値の調整量は、tp(2)+△tp(2)=0.343T であり、これをリミッタ値以下となるように、△gtp(k=2,i=1),△gtp(k=2,i=2),△gtp(k=2,i=3)にそれぞれ割り付けていく。例えば、各グリッドのリミッタ値を、L△gtp(k=2,i=1)=0.2T,L△gtp(k=2,i=2)=0.2T,L△gtp(k=2,i=3)=0.1T とすると、まず1つ目のグリッドの調整量は、△gtp(k=2,i=1)=0.2T(=L△gtp(k=2,i=1);リミッタ値に張り付く)となる。また残りの位相時間調整量の総量は0.343T−0.2T=0.1143T となる。次に2つ目のグリッドの調整量は、△gtp(k=2,i=2)=0.143T となる。残る位相時間調整量の総量はゼロとなるため、3つ目のグリッドの調整量は、△gtp(k=2、i=2)=0となる。図2に戻り、調整後のグリッド位置算出部(図2の103D3)では、各グリッドに対する調整量(△gtp(k,i))と、調整前の当該グリッドの位置(これをgp(k,i)とおく)より、調整後のグリッド位置(これをgp_N(k,i)とおく)を計算する。例えば、k=2号機で、グリッド数が3個(i=1,2,3)の場合、それぞれのグリッドの計算式は次のようになる。
gp_N(k=2,i=1)=gp(k=2,i=1)+△gtp(k=2,i=1)
…(11)
gp_N(k=2,i=2)=gp(k=2,i=2)+△gtp(k=2,i=1)
+△gtp(k=2,i=2)
…(12)
gp_N(k=2,i=3)=gp(k=2,i=3)+△gtp(k=2,i=1)
+△gtp(k=2,i=2)
+△gtp(k=2,i=3)
…(13)
グリッドの調整量は後続のグリッドに引き継がれていくため、一番最終のグリッドでは、そのかごに対する位相時間値調整量の総量分だけ、位置が調整されるようになる。以上のようにして、調整された各グリッドの位置に対して、これらを結び付けることによって、新たな目標ルートを作成することができる。目標ルートデータ演算部(図2の103D4)では、この新たな目標ルートデータを演算して更新する。図14(B)の太字で描かれたルートは、図14(B)の調整前の目標ルート(予想ルートに対応)を基にした、調整後の目標ルートを表している。図14(B)上で、調整前の目標ルートが細い1点鎖線(C021)で表されており、調整後の目標ルートが太い1点鎖線(C021N)で表されている。調整後のグリッド位置算出部(図2の103D3)で、調整後のグリッド位置が算出されて、その結果、C022のグリッドは調整後にC022Nにシフトする。同様に、C023のグリッドはC023N,C024のグリッドはC024Nにそれぞれシフトする。この3点のグリッドをつなぎ合わせると、太字の1点鎖線のルート(C021N)を描くことができ、これが新たに更新される目標ルートとなる。
図14(B)から分かるように、新たに更新された目標ルート(調整後の目標ルート)は、位相時間値の調整量に設定された調整後の目標点を通過する。上記のように、各かごのルートが調整後の目標点を通過するように調整されるため、その結果は、図11(B)のようになり、調整基準時間軸(図11(B)のC040)以降で、3台の目標ルート(C011N,C021N,C031N)は時間的等間隔状態になっている様子が分かる。当然、各ルート(C011N,C021N,C031N)は、それぞれの調整後の目標点(図11(B)のC01A,C02A,C03A)を通過している。また、グリッドによって調整されている調整エリア内の目標ルートは、調整基準時間軸以降で時間的等間隔状態になるための過渡的な案内役の役割を担っていることも分かる。以上、目標ルートの作成処理の詳細を図2を基に説明した。
次に、図20の目標ルート作成処理フローチャートにより、目標ルート作成の処理の流れを説明する。まず目標ルートを更新するかどうかの判定を行う(ST201)。この処理は、図2の目標ルート更新判定部(103A)にて実行される。更新判定の結果、更新しない場合は、処理を抜ける。更新する場合は、次の処理へと進む。更新判定方法については、図24を用いて後ほど詳しく説明する。目標ルートを更新すると判定された場合、かご号機ループ(ST202)によって、各かごについてのループ処理を実行する。ループ処理の中では、現状の位相時間算出処理が実施される(ST203)。この処理は既に説明した図2の現状の位相時間値算出部(103B)において処理される。全てのかごに対して現状の位相時間値を算出し終えたならば、かご号機ループから抜ける(ST204)。
次に、算出した現状の位相時間値を用いて、各かごの位相時間値の調整量を算出する(ST205)。これは、図2の各かごの位相時間値の調整量算出部(103C)で実行される。この処理の詳細についても既に説明している。算出した各かごの位相時間値の調整量を基にして、再度、かご号機ループを実行して(ST206)、各かごに対して、調整後のルート作成処理を行う(ST207)。この調整後のルート作成処理は、図2の調整後ルート作成部(103D)で実行される。この処理の詳細についても既に説明している。全てのかごに対して上記の処理を実行したならば、かご号機ループから抜けて(ST208)、目標ルート作成処理が終了する。
次に、目標ルートの更新判定処理の詳細を図24のフローチャートを用いて説明する。目標ルートの更新には、大きく次の3つの考え方がある。1)所定の周期で定期的に更新する方法、2)あるかごの目標ルートと予想ルートとの距離(ここでは、ルート間距離と呼ぶ)を検出して、これが所定値を超えて離れた場合に更新する方法、3)上記の1)と2)の方法を組合わせた方法。図24は、上記中の3)の方法に対応している1)と2)については3)の方法を部分的に利用すれば実行できる)。まず、時計またはタイマーをチェックして、所定の更新周期を経過したかどうかをチェックする(図24のST601)。
更新周期を経過した場合は、目標ルートの更新処理を実施する(ST606)。この処理は、図2の目標ルート更新判定部(図2の103A)以後の処理、もしくは図20の更新判定(図20のST201)の更新実施でYESとなる場合の処理(ST202以降の処理)に対応する。所定の更新周期を更新していない場合は、次に、かご号機ループ(図24のST602)でループ処理を行い、各かごに対して、目標ルートと予想ルートとの距離(ルート間距離)を算出して、この距離が所定のしきい値以上でないかを判定する(ST603)。
目標ルートと予想ルートとの距離(ルート間距離)は目標ルートと予想ルートがどれ位離れているかを表す指標であり、詳細は後ほど図18により説明する。この処理の考え方は、目標ルートと予想ルートとのかい離が大きくて、目標の方を修正しなければならない場合に、それを所定のしきい値で判定するという考え方になる。各かごについて、1つでもルート間距離がしきい値以上の場合は(ST603)、目標ルートの更新処理を実施する(ST606)。全てのかごについてルート間距離をチェックして(ST604)、ルート間距離が全てのかごに対してしきい値より小さい場合は、目標ルートは更新せず、現在の目標ルートをそのまま用いる(ST605)。目標ルートの更新については、適宜修正して常に適正な目標ルートに保たせる考え方(‘柔軟な目標ルート’)と、一度決めた目標ルートはしばらくは変えず、できるだけそれを維持する考え方(‘確固たる目標ルート’)の2つの考え方ができる。それぞれに長所・短所があるため、図18で説明した更新周期とルート間距離のしきい値の2つの制御パラメータを適切に設定すればよい。
以上、本発明−目標ルートで制御するエレベータ群管理−において核となる、目標ルート作成方法について説明した。次に、目標ルートに実際のかごの軌跡を追従させるための指標となる予想ルートの作成法について説明する。
以下、予想ルートの作成方法を、図5,図6,図19,図21,図22を用いて説明する。まず図19により、予想ルート作成について2通りのケースがあることを説明する。図19は、本発明によるエレベータ群管理システムの制御全体の処理フローチャートであり、これは既に説明している。図19において、予想ルート作成処理は、予想ルート作成処理A(図19のST104)と予想ルート作成処理B(ST107)の2つがある。予想ルート作成処理Aは、ホール呼びに対する仮割当てを考えない予想ルート、言い換えると、現在の状態をそのまま反映させた予想ルートを作成する。このような予想ルートは、目標ルート更新判定時に、目標ルートとのルート間距離を判定するために使用されたり、目標ルート作成時に、その原型(調整前の初期状態)となる調整前の目標ルートとして使用される。
もう一方の予想ルート作成処理Bは、かごの仮割当て状態を反映させた予想ルートを作成する。このような予想ルートは、新規ホール呼び発生時などの仮割当て評価の際に用いられる。
まず、上記で説明した予想ルート作成処理Aに対応する予想ルート作成方法について図6を用いて説明する。図6において、まず階床毎の到着予測時間演算部(104B1)にて、その時点の交通流状態によって決まる平均停止数データと停止時間データ、さらに、各かごに割当てられているホール呼びのデータ(割当てられているホール呼びの発生階など)、同じく各かごに発生しているかご呼びのデータ(かご呼びの発生階など)、かご状態データ(現在の位置,方向,速度など)、各かご号機仕様データ(定格速度など)、有効台数とそのかご名のデータ,サービス階のデータ(各かごについてのサービスする階床のデータ)を用いて、各かごに対して、階床毎の到着予測時間を計算する。
例えば、単純な例として、4階床のビルで対象としているかごが1階に上昇方向で停止している場合を考える。ここで、単純に1階床の移動時間を2秒、停止時の停止時間は一律10秒に決める。またこのかごには、2階においてホール呼びが割当てられており、かご呼びが4階に発生しているとする(1階で乗り込んだ乗客によって発生したかご呼びとする)。当該時点での交通流状態は、階間移動が比較的多い平常時の交通流状態とする。従って、各階,方向での平均停止数は次のようになると仮定する−1階(上昇):0.25,2階(上昇):0.25,3階(上昇):0.25,4階(上昇):0.25,5階(下降):0.25,4階(下降):0.25,3階(下降):0.25,2階(下降):0.25 。尚、ここでの平均停止数は、かごがビル内を1周運転する場合の各階に対する平均停止数を表している。以上の条件から、対象としているかごの各階毎の到着予想時間を計算すると次のようになる−1階(上昇):0秒,2階(上昇):2秒,3階(上昇):14秒,4階(上昇):18.5秒,5階(反転):30.5秒,4階(下降):35秒,3階(下降):39.5秒,2階(下降):44秒,1階(反転):48.5秒 。これら各階に対する到着予測時間という関係を逆に考えて、将来の時間に対するかごの予想位置と考えると、時間軸を横軸、階床の位置を縦軸にした座標を導入して、時間と予想位置で決まる点を結ぶことで、将来の予想ルートを作成することができる。例えば、上記の例を用いると、時間軸を横軸(t軸),階床の位置を縦軸(y軸)にした座標上で、(t(秒),y(階))として、(0,1),(2,2),(14,3),(18.5,4),(30.5,5),(35,4),(39.5,3),(44,2),(48.5,1)の点をプロットすることができ、これらの点を結ぶと予想ルートが作成できる。この例では、停止時間を省略しているが、停止時間を含めて予想ルートを引くこともでき、その場合は、停止終了時の点を新たに追加すればよい。停止時間を含めると、予想ルートの形状はより正確になる。
図6に戻り、図6の予想ルートデータ演算部(104B2)では、階床毎の到着予想時間演算部(104B1)で算出された階床毎の到着予測時間を基に、上記に述べた手順に従って予想ルートのデータを作成する。手順をもう一度まとめると、階床毎の到着予測時間を、将来の時間に対するかごの予想位置と考えて、横軸を時間軸、縦軸を階床位置にした座標軸上の点に写像して、各点を線分で結び付けることにより予想ルートを作成することできる。この時、予想ルートは、横軸を時間軸、縦軸を階床位置にした座標軸上の関数と考えることができ、時間をt、階床位置をy、かごの号機番号をk(1≦k≦N:Nはかごの合計台数)とすると、y=R(t,k)として表すことができる。
次に図20により、予想ルート作成処理Aに対応する予想ルート作成の処理の流れを説明する。まず予想ルートの更新判定を実施するか否かを判定する(ST301)。この処理の目的は、予想ルートを毎回更新するとマイコン等の処理装置の負荷が大きくなるため、影響のない範囲の周期(例えば0.5 秒等)で更新しようという理由による。更新判定の結果、更新しない場合は処理を抜ける。更新実施の場合は次の処理へ移る。更新実施の場合、かご号機ループにより(ST302)、各かごに対して、階床毎の予測時間演算処理(ST303)と到着予測時間を基にした予想ルートデータ演算処理(ST304)を実行する。それぞれの処理は、図6の階床毎の到着予測時間演算部(104B1)、予想ルートデータ演算部(104B2)で実行される。これらの処理の詳細は既に説明している。全てのかごについて、上記の処理が終了すると、処理を抜ける(ST305)。このようにして、所定の周期で、全てのかごに対する予想ルートを適宜更新していく。新規のホール呼びやかご呼びは不定期に発生するが、図21のフローチャートに従うことで、状況に応じた予想ルートを適用することができる。
図5は、予想ルート作成処理B(図19のST107に記載、仮割当てを反映した場合の予想ルート作成)に対応する予想ルート作成部の処理構成を表している。処理の考え方は、図6の場合(予想ルート作成処理A)と同じになる。異なるのは、仮割当てかごに対して、仮割当てを反映した予想ルートを作成する点にある。具体的には、新規ホール呼びに対する仮割当てかごをka号機とすると、この仮割当て情報(仮割当てかご(ka号機),対応するホール呼びの発生階と方向)を、通常の予想ルート作成に必要な入力情報(図6の説明で記述した情報)に加えて、階床毎の到着予測時間を演算し(階床毎の到着予測時間演算部104A1で実行)、さらにそれを基に予想ルートデータを演算する(予想ルートデータ演算部で実行)。このようにして得られた仮割当てを反映した予想ルートは、時間−階床位置の座標上で関数R(t,ka)として表すことができる。仮割当て以外のかご(ka号機以外のかご)については、図6で説明したプロセスと全くと同じ処理を行う。まず階床毎の到着予測時間演算部(104A3)で階床毎の到着予測時間を算出して、これを基に予想ルートデータ演算部(104A4)で予想ルートデータを作成する
。得られた予想ルートは関数R(t,k)(1≦k≦N、但しk≠ka)として表すことができる。
図22は、上記の予想ルート作成処理Bに対応する予想ルート作成の処理フローチャートを表している。まず仮割当てかごka号機に対して、その仮割当て情報(対応するホール呼びの発生階,方向等)を取得して(ST401)、その情報を基に、かごka号機に対して仮割当てを反映した階床毎の到着予測時間を演算する(ST402)。そして階床毎の到着予測時間を基に予想ルートデータを演算する(ST403)。次に、仮割当てかごka号機を除いたかご号機ループを実行して(ST404)、ka号機を除く各かごに対して、階床毎の到着予測時間を演算し(ST405)、さらにそれを基に、予想ルートデータを演算する(ST406)。上記の処理を、kaを号機を除く全てのかごに対して実行すると、処理は終了する(ST407)。このようにして、仮割当てかごka号機の予想ルートと、仮割当て以外のかごk号機(1≦k≦N、但しk≠ka)の予想ルートを作成することができる。
以上、予想ルートの作成方法について説明した。次に、目標ルートと予想ルートとの近さ具合を測る指標となるルート間距離と、割当てを決める際の指標となるルート評価関数について説明する。現行の方式では、割当てを定量的に評価する「割当て評価関数」を、各呼びに対する予測待ち時間の関数で定義している。本発明の制御方式では、「割当て評価関数」を予測待ち時間ではなく、目標ルートと予想ルートとの近さを表す量(ルート間距離)で定義するところが大きな特徴となる。
まず、目標ルートと予想ルートの近さを表す指標であるルート間距離について、図18を用いて説明する。図18はルート間距離の算出法を表しており、まず図18(A)について説明する。図18(A)のグラフは、横軸が時間軸、縦軸が階床位置を表しており、このグラフ上で、目標ルートR*(t,k)(tは時間、kはk号機のかごであることを表している)はF011の軌跡、予想ルートR(t,k)はF012の軌跡で表されている。図18(A)より、目標ルートと予想ルートの近さを表す指標として、最も適切な指標は両者に挟まれた領域の面積であると考える。明らかに2つのルートが近づくほど面積は小さくなり、2つのルートが一致した場合、面積は零になる。そこで、目標ルートを表す関数R*(t,k)と予想ルートを表す関数R(t,k)とに挟まれた面積をルート間距離として定義する。面積は積分によって求めることができる。この積分方法には、時間軸方向の積分と階床軸方向の積分の2通りが考えられるが、図18(A)は時間軸方向に積分する方法を表してる。この積分の式は次のようになる。
∫{R*(t,k)−R(t,k)}dt …(14)
面積を求める時間範囲は、現時点から調整基準軸までの範囲、つまり調整エリアの範囲に定める。これより、面積を求める領域は、図18(A)の目標ルートR*(t,k)(F011)と予想ルートR(t,k)(F012)に挟まれた領域内の縦線によって示された領域となる。以上より、目標ルートと予想ルートとのルート間距離をL[R*(t,k),R(t,k)]として表すと、L[R*(t,k),R(t,k)]は次式によって表すことできる。
L[R*(t,k),R(t,k)]=∫{R*(t,k)−R(t,k)}dt
(積分区間は調整エリア) …(15)
実際にマイコン等で演算する場合、上記の積分式は矩形の面積の積算で近似的に算出される。例えば、図18(A)において、目標ルートを予想ルートに挟まれて時間軸方向の長さが△tの矩形(F013)を考える。この矩形の面積を△Sとすると、△Sは次式で表される。
△S={R*(t,k)−R(t,k)}×△t
調整エリア全体にわたって、このように△t毎に矩形を切り出して、その面積を積算すると、近似的に式(15)の値を計算することができる。この方法は次式のように表すことができる。
L[R*(t,k),R(t,k)]=Σ△S=Σ{R*(t,k)−R(t,k)} ×△t(矩形を切り出す区間は調整エリア) …(16)
図18(B)は、階床位置の軸方向に積分する場合の例を表している。階床軸を表す変数をyとして、目標ルートをR*(y,k)、予想ルートをR(y,k)で表すと、この場合のルート間距離を表す式は次のようになる。
L[R*(y,k),R(y,k)]=∫{R*(y,k)−R(y,k)}dy
(積分区間は全階床) …(17)
図18(B)を見ると分かるように、階床軸方向に積分する場合、同じyの値でもR*(y,k)は2つ以上の値を取りうることがある(R(y,k)についても同様)。従って、実際に計算する場合には注意が必要となる。このように階床軸方向の積分は処理が複雑になるため、実際のケースでは時間軸方向の積分(式(15)また式(16))を用いるのがよい。
次に、ルート間の距離を用いて仮割当て時の割当て評価関数を演算するルート距離指標によるルート評価関数演算部(図1の105)の詳細について、図7と図23を用いて説明する。この処理は、図19のフローチャート上のルート評価関数演算処理(図19のST108)に対応しており、仮割当てを行った各かごとそれ以外のかごに対して、目標ルートと予想ルートとのルート間距離を計算して、これらを基にしたルート評価関数がここで計算される。以下、図7と図23により、ルート評価関数演算の詳細を説明する。
まず図7について、仮割当てかごをka号機とすると、ka号機の目標ルートデータR*(t,ka)と予想ルートデータR(t,ka)から、式(15)または式(16)に基づいて、ルート間距離L[R*(t,ka) ,R(t,ka) ]がルート間の距離演算部105Aで算出される。ここで、予想ルートデータR(t,ka)は仮割当てかごによる停止を反映させたルートになっている。算出されたルート間距離L[R*(t,ka),R(t,ka)]は絶対値演算部105Bで絶対値|L[R*(t,ka),R(t,ka)]|に変換される。また仮割当てかご以外のかごk号機(1≦k≦N,k≠ka、Nはエレベータ台数合計)に対して、k号機の目標ルートデータR*(t,k)と予想ルートデータR(t,k)から、式(15)または式(16)に基づいて、ルート間距離L[R*(t,k),R(t,k)]がルート間の距離演算部105Cで算出される。ルート間距離L[R*(t,k),R(t,k)]は、絶対値演算部105Dで絶対値|L[R*(t,k),R(t,k)]|に変換されて、さらに積算演算部でka号機を除く全てのかごについてのルート間距離が積算される。この積算値は次のように表される。
Σ|L[R*(t,k),R(t,k)]|(1≦k≦N,k≠ka、Nはエレベー タ台数合計) …(18)
加算演算部105Bでは、絶対値演算部105Bで算出された結果と積和演算部105Eで算出された結果が加算されて、ka号機に仮割当てした場合のルート評価関数ΦR(ka)が計算する。ルート評価関数ΦR(ka)は次式のように表される。
ΦR(ka)=|L[R*(t,ka),R(t,ka)]|+Σ|L[R*(t,k) ,R(t,k)]|(1≦k≦N,k≠ka、Nはエレベータ台数合計) …(19)
従来方式で用いられている予想待ち時間を用いた割当て評価関数の場合は、仮割当てかごのみで評価関数を計算するのが一般的であるが(式(19)を例にすると、式(19)の第1項のみを計算する)、本発明のようなルート間距離を用いた割当て評価関数の場合は、式(19)のように、仮割当てかごka号機に、仮割当て以外のかごに対する評価項(式(19)の第2項)を加えるところが特徴となる。
図23は、図7で説明したルート評価関数演算処理に対するフローチャートを表しており、以下、その流れを簡単に説明する。まず仮割当てかごka号機に対する情報(仮割当てを行ったホール呼びの発生階と方向等)を取得する(ST501)。次にこれを基に、仮割当てかごka号機に対するルート間距離L[R*(t,ka),R(t,ka)]の計算して、それを絶対値に変換する(ST502)。次に、仮割当てかごka号機以外の各かごに対して、かご号機ループを実施する(ST503)。かご号機ループ内では、まずかごk号機に対するルート間距離L[R*(t,k),R(t,k)]を計算して、それを絶対値に変換する(ST504)。さらにこの値を、かご号機ループで反復させながら積算していく(ST505)。全てのかごに対してこれらの処理が終わるまでかご号機ループは繰り返される(ST506)。そして全てのかごに対して上記の処理が終了すると、仮割当てかごka号機に対するルート間距離の絶対値|L[R*(t,ka),R(t,ka)]|と仮割当てかごka号機以外の各かごのルート間距離の絶対値の積算値Σ|L[R*(t,k),R(t,k)]|が加算されて、式(19)で表されるルート評価関数ΦR(ka)が計算される(ST507)。
以上のように説明したルート評価関数ΦR(ka):1≦ka≦Nに基づいて、ホール呼びに割当てるかごを決定する。N個のΦR(ka):1≦ka≦Nに対して、ΦR(ka)が最小となるかご割当てが、各かごの目標ルートに予想ルートを最も近づける割当てになる。従って、対象とするホール呼びに対する割当てかごは、ΦR(ka)が最小となるかごka号機が選択される。この処理は図1の割当てエレベータ選択部2で実行される。
図1の各制御要素の詳細説明の最後として、目標ルート仕様設定部(図1の102)の詳細を図4を用いて説明する。図4において、ルート仕様選択部102Aでは、その時点の交通流データと時刻データを基にして、ルート仕様データベース102Bから、最も適切なルート仕様を選定して、これを実行すべきルート仕様として、目標ルート作成部(図1の103)へ出力する。上記において、ルート仕様データベース102Bには、ビルの交通流状態に応じていくつかのルート仕様パターン(以下では、これらをルートモードと呼ぶことにする)が格納されている。具体的なルートモードとして、既に説明している時間的等間隔ルートモード102B1,出勤時対応ルートモード102B2,昼食時前半対応ルートモード102B3,昼食時後半ルートモード102B4,特殊交通流A対応ルートモード102B5,特殊交通流B対応ルートモード102B6などが挙げられる。時間的等間隔ルートモード102B1は、最も基本となるルートモードであり、各かごのルートが時間的等間隔状態となることを目標仕様としている。
通常はこの時間的等間隔ルートモードが選定されることになる。出勤時対応ルートモード102B2は、出勤時に特有のアップピーク形の交通流に対応した目標仕様が定められている。同様に、昼食時前半対応ルートモード102B3には、昼食時前半に特有のダウンピーク形の交通流、昼食時後半ルートモード102B4には、昼食後半に特有のアップピークとダウンピークが入り混じった交通流にそれぞれ対応した目標仕様が定められている。また、特殊交通流A対応ルートモード102B5,特殊交通流B対応ルートモード102B6には、そのビルに特有の特殊な交通流に対応した目標仕様が定められている。
以上、図1を基にして、本発明(目標ルートを用いた新たな群管理制御)の第1の実施例の制御構成とその処理内容について説明した。これまでのまとめとして、本発明による制御と従来の制御との違いを図10により説明する。図10において、図10(A)は本発明による目標ルートによる制御の考え方を運行線図上で表しており、図10(B)は従来の制御による制御の考え方を運行線図上で表している。まず図10(A)の目標ルートに制御は、それぞれのかごに対して、各かごの将来の取るべき軌跡を目標ルートとして定めることで、この目標ルートを基準にして将来の各かごの動きを考慮した制御が実現できる。具体的には、将来の時間軸方向に対して、各かごが時間的に等間隔になる目標ルートを定めることによって、将来的に各かごが時間的等間隔状態を安定して維持できるようになり、長待ち(例えば1分間以上の待ち時間)の発生を抑制することができる。
一方、従来の制御方法は、図10(B)に示すように、基本的に発生した呼びに対する予想待ち時間のみを基準にして割当てを評価しており、将来のかごの状況は評価していない。従って、将来の各かごの軌跡を制御できず、だんご運転が発生しやすくなり、長待ちが発生しやすくなるという問題を抱えている。また従来ある将来のかごの状況を評価している制御についても、ある一断面またはポイント毎の断面で見た評価のため、連続的に将来の軌跡を制御することができず、安定して時間的等間隔状態を維持することは難しい。また図10(A)と図10(B)を比較すると、明らかに図10(A)の方がより多くの情報(将来の時間軸上に連続的に描かれた目標ルートと予想ルート)を用いてかごの割当てを評価していることが分かる。従って、当然ながら、その時のいろいろな状況を考えた制御が実現できることが分かる。
最後に、図2の目標ルート作成方法によって作成された目標ルートの特徴について補足する。図2の目標ルート作成方法では、目標ルートを作成するための初期状態のルート(または調整前の目標ルートとも呼んでいる)として、予想ルートを適用した。この予想ルートは、図5または図6で説明したように、その時点の交通流状態を反映した各階毎(かつ方向別)の平均停止数,平均停止時間のデータを用いて作成している(この他に、既に割当てられたホール呼び停止データ,発生しているかご呼び停止データも含んでいる)。そのため、まず予想ルートの形状は、その時点の交通流状態を反映させた形状になっている。例えば、出勤時の場合は上昇方向の停止数がほとんどのため(1階で乗客が乗って、各階で停止して乗客が降りて、また1階に戻る)、予想ルートの形状は上昇方向の傾きが緩やかで(△y/△tが正で小さい)、下降方向の傾きが急な(△y/△tが負で大きい)形状となる。
目標ルートは、この予想ルートを基に調整エリアのグリッドを調整して作成させるため、目標ルートもまたその時点の交通流状態を反映した形状となっている。例えば、出勤時の目標ルートは、出勤時の交通流状態を反映した上昇方向の傾きが緩やかで、下降方向の傾きが急な形状をなしており、昼食前半時や退勤時の目標ルートは、その交通流状態を反映した上昇方向の傾きが急で(平均停止数が少)、下降方向の傾きが緩やかな(平均停止数が大)形状をなしている。つまり、図2に示した目標ルートの作成方法によって、その時点の交通流の状態を反映させた的確な目標ルート形状を作成することができる。本発明で示した目標ルートによる制御方法は、その基準となる目標ルートの作成方法が制御の性能を決める大きな鍵を握っており、交通流状態を的確に反映できる図2の目標ルート作成方法は非常に有効な方法と言える。
以下では、本発明によるエレベータ群管理システムの第2の実施例について説明する。第2の実施例の制御全体構成は図1の構成と同じであり、異なる点は、図1における目標ルート作成部103で実施する目標ルートの作成方法にある。第2の実施例による目標ルート作成法を、図3,図16,図17により説明する。まず図16により、第2の実施例に対する目標ルート作成の考え方を説明する。図16(A)は調整前の目標ルート形状(目標ルート作成のための初期状態のルート)を表し、これは第1の実施例と同様にその時点での予想ルートが使われる。
図16(B)は調整後の目標ルート形状を表している。第2の実施例である図16(B)の目標ルート形状と第1の実施例である図11(B)の目標ルート形状との違いのポイントは、現時点の軸のところにある。まず図11(B)(第1の実施例)では、目標ルートは現在のかご位置を始点に引かれている。一方で、図16(B)(第2の実施例)では、目標ルートは現在のかご位置を始点にはしていない。両者の違いはそれぞれの目標ルートに対する思想による。図11(B)(第1の実施例)では、目標ルートを、現時点のかご位置から過渡的にどういうルートたどれば時間的等間隔状態に至るかを明示したルートになっている。一方、図16(B)(第2の実施例)では、目標ルートを、本来そこに到達すべきルートとして示している。わかりやすい言葉で表現すると、図11(B)(第1の実施例)の目標ルートは、現在の位置からどういう経路をたどれば時間的等間隔になるかを案内する‘親切な’目標ルートであるのに対して、図16(B)(第2の実施例)の目標ルートは、上記の案内部分がなく、始めからたどり着くべきルートを示して「とにかくここまで来なさい」という意図の目標ルートになっている。上記の思想の違いが、目標ルート作成時に目標ルートが現時点のかごを始点にしているか否かの違いになって表れている。
第2の実施例のような目標ルートを用いても、目標ルート通りに制御することが可能であることを図17を用いて説明する。図17は、目標ルートと実際のかごのその後の軌跡を表している。図17(A)は、実際のかごのその後の軌跡において割当て数が少ない、従って停止数が少ない場合を表しており、図17(B)は割当て数が多い、従って停止数が多い場合を表している。図17(A)と図17(B)を比べると、図17(B)の方が目標ルートと実際の軌跡との偏差が小さいことが分かる。
既に説明した通り本発明による割当て制御では目標ルートと予想ルートの偏差(ルート間距離)が小さくなるようにかご割当てが選択される。従って、図17(B)のように、このかご(2号機としている)にはより多くの呼びが割当てられるように制御されるはずである。その結果、実際のルートが目標ルートに追従するようになる。従って、第2の実施例のような目標ルートを用いても、目標ルート通りに制御することが可能と言える。
図3は、上記で説明した第2の実施例による目標ルート作成部の制御構成の詳細を表している。図3において、図2(第1の実施例による目標ルート作成部)と同じ要素については、同じ符号を記しており、ここでは説明を省略する。具体的には、図3において、目標ルート更新判定部103A,現状の位相時間値算出部103B,各かごの位相時間値の調整量算出部103Cについては、図2(第1の実施例)と同じ処理を実施する。異なるのは調整後ルート作成部103Eになる。調整後ルート作成部103Eでは、1)調整基準時間軸における各かごの目標点算出部103E1で目標点を算出し、2)目標点を起点にしたグリッド位置算出部103E2で目標ルート作成のためのグリッドを算出して、3)目標ルートデータ演算部103E3でグリッドをつないで目標ルートデータを計算する。
以下、この調整後ルート作成部103Eの詳細処理内容を説明する。
まず各かごの位相時間値の調整量算出部103Cで算出された位相時間調整量△tp(k)(kはかごがk号機であることを表す)を用いて、調整基準軸上の各かごの目標点が、調整基準軸時間軸における各かごの目標点算出部103E1で計算される。調整前の位相時間値をtp(k)(この位相時間値は調整前ルートの調整基準時間軸上での位相時間値となる)とすると、調整後の位相時間値tp_N(k)は次のようになる。
tp_N(k)=tp(k)+△tp(k) …(20)
この調整後の位相時間値tp_N(k)を調整基準軸上の位置(階床軸上の位置)で表した点が、各かごの目標点になる。各かごの目標点の位置をy_N(k)とすると、これは次式によって算出できる(図15を参照)。
かごが上昇方向の場合
y_N(k)=(y_max/Tπ)×tp_N(k) …(21)
かごが下降方向の場合
y_N(k)=−{y_max/(T−Tπ)}×(tp_N(k)−T)…(22)
調整前の目標ルート形状を示した図16(A)上で、各かごの目標点は、点E012(1号機の目標点),点E022(2号機の目標点),点E032(3号機の目標点)として表されている。この目標点を基準にして、各かごの調整前の目標ルート(予想ルートに対応)E011,E021,E031が、各目標点を通るようにグリッドの平行移動の処理を行い、調整後の目標ルート(図16(B)のルート)を算出する。図3に戻り、目標点を起点にしたグリッド位置算出部103E2では、この平行移動の処理を計算する。調整前の目標ルートに対する各かごの各グリッド(方向反転の点)の時間軸上の位置をgp(k,i)(kはかごがk号機であることを表し、iはグリッドの番号を表す)とおき、調整後の目標ルートに対する各かごの各グリッドをgp_N(k,i)とおくと、調整後のグリッドgp_N(k,i)は次式によって求めることができる。
gp_N(k,i)=gp(k,i)+tp_N(k) …(23)
式(23)は、かごk号機のグリッドを全て調整量tp_N(k)だけ平行移動させることを表している。目標ルートデータ演算部103E3では、調整後の各グリッドの時間軸上の位置gp_N(k,i)から、これらをつないだ線分によって計算される目標ルートデータを演算する。以上の処理によって、調整前の目標ルート(図16(A)のE011,E021,E031)は、時間的に等間隔な調整後の目標ルート(図16(B)のE011,E021,E031)に変換される。図16(B)の調整後の各目標ルートを見ると、意図した通りに調整基準軸(図16(B)のE040)上の目標点E012,E022,E032を通過していることが確認できる。
尚、上記の説明から分かるように、目標点自身は、調整後の目標ルートを算出するための処理に直接関係はしない。従って、図3の調整後ルート作成部103Eから、調整基準時間軸における各かごの目標点算出部103E1を除いても調整後の目標ルート(図16(B)のE011,E021,031)を得ることができる。目標点自体はあくまで動作確認などの用途のために用いられる。また補足として、図16(B)を見ると、現時点の時間軸(E050)と調整基準時間軸(E040)との間の調整エリア内の目標ルート形状も完全に時間的等間隔状態になっている。しかし、図16(B)は、分かりやすい例として、各かごに対して既に割当てられているホール呼びやかご呼びが無い条件で考えているためで、既にホール呼び・かご呼びが割当てられている場合は、各かごで不均等に呼び停止が割当てられるため、調整エリア内では必ずしも時間的等間隔状態になるわけではない。
なお、本実施例では各かごの時間的等間隔制御について述べたが、本発明は必ずしも各かごの時間的等間隔制御に限定されるものでもない。本発明によれば、エレベータの運行目的に応じて目標ルートを定めるだけで、その運行目的に応じたエレベータの運行も可能になる。従って、省エネルギ等を考慮して各エレベータの目標ルートを定めれば、省エネルギ等を実現できるエレベータの群管理制御が実現できるのである。
1…群管理制御部、2…割当てエレベータ選択部、3…仮割当てかご設定部、5…平均停止数データ部、6…停止時間データ部、7…交通流データ部、8…ホール呼びデータ部、9…かご呼びデータ部、10…かご情報データ部、11…各かご号機の仕様データ部、12…有効台数・号機名データ部、13…サービス階データ部、41A…エレベータ1号機制御装置、41B…エレベータ2号機制御装置、41C…エレベータN号機制御装置、42A…エレベータ1号機、42B…エレベータ2号機、42C…エレベータN号機、101…目標ルート制御部、102…目標ルート仕様設定部、103…目標ルート作成部、103A…目標ルート更新判定部、103B…現状の位相時間値算出部、103B1…初期状態ルート作成部、103B2…調整基準時間軸設定部、103B3…調整基準時間軸における各かごの位相時間値算出部、103B4…位相時間値順のソーティング部、103C…各かごの位相時間値の調整量算出部、103D…調整後ルート作成部、103D1…各かごのルート上のグリッドの調整量算出部、103D2…グリッドのリミッタ値設定部、103D3…調整後のグリッド位置算出部、103D4…目標ルートデータ演算部、103E…調整後ルート作成部、103E1…調整基準時間軸における各かごの目標点算出部、103E2…目標点を起点にしたグリッド位置算出部、103E3…目標ルートデータ演算部、104…予想ルート作成部、105…ルート距離指標によるルート評価関数演算部。