JP2008037258A - 自転車用クランク - Google Patents

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靖久 増田
Akihiko Kitano
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Abstract

【課題】高い強度と軽量性を犠牲にせずに生産性を向上させた自転車用クランクの構造を提供する。
【解決手段】横断面形状がC形の第1の部材と第2の部材が、第1の部材のC形両腕部の外面上に第2の部材のC形両腕部の内面が当たるように嵌め合わせられた自転車用クランクであって、右ペダルを踏み込む時にかかるモーメントの向きを正、左ペダルを踏み込むときにかかるモーメントの向きを負とするとき、第1の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つが踏み込み時にかかるモーメントと異符号であり、かつ第2の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つがいずれも踏み込み時にかかるモーメントと同符号であることを特徴とする自転車用クランク。
【選択図】図10

Description

本発明は、軽量かつ高強度で成形性のよい自転車用クランクに関するものである。
自転車用クランクは、ペダルとブラケットスピンドルとを繋ぐ部品であり、ペダルからの踏力を伝える動力伝達部材である。クランクの要求特性として、ペダルからの荷重を繰り返し受けても損傷や変形を生じないための耐疲労性や、ペダルを踏んだ際のフィーリングを良好としたりクランクが変形によってフレームやチェーンと接触しないための剛性が重視される。さらに、車体全体の軽量化要求があることに加えてクランク自体が回転運動するため、できるだけ軽量であることが望まれる。こうした要求は、いわゆるロードレーサーなどの競技用自転車において特に厳しい。
そこで軽量かつ高剛性な自転車用クランクとして、複数のFRP外殻を組み立てる構造のものが提案されている(例えば、特許文献1)。この構造のクランクでは接合部の信頼性が重要である。
FRPの接合部に関してはさまざまな検討がなされており、例えば、特許文献2では、FRP内の強化繊維を接合部で露出させ互いに絡め合わせた後に、再度樹脂を含浸させて接合する方法を提案している。確かにこの方法では接合強度は上げられるが、強化繊維を露出させる際に加熱による樹脂の焼きとばし、または、有機溶媒による樹脂の溶解が必要であり、作業性が非常に悪く、時間もかかる。また、再度樹脂を含浸させる際には、強化繊維の絡み合った中に樹脂を流す必要があり、均一な樹脂の流れをコントロールすることが難しく、結果として接合部の強度のばらつきが懸念される。
また、特許文献3では、接合部外側にあて板をあて、接着部にかかる応力の低減をすることにより補強する方法を提案している。この方法は簡便であり効果も期待できるが、部材の外部に飛び出るようにあて板を当てると、意匠性に難があったり、動きの中で他部材との干渉を起こすおそれがある。さらに、接着部が曲面状になっていて複雑形状のあて板が必要になったり、例えば中空にするための接着部などでは後から内部にあて板をあてられない場合などがあり、適用できない場合もある。また、あて板の重量分、軽量性が損なわれる。
国際公開第2005/068284号パンフレット 特開2001−252985号公報 特開平10−68479号公報
軽量かつ高剛性な自転車用クランクを、複数のFRP外殻の接着により得る場合において接着部の強度を上げること、信頼性を確保することは困難であった。本発明は、かかる課題を解決し、高い強度と軽量性を犠牲にせずに生産性を向上させた自転車用クランクの構造を提供することを目的とする。
上記課題に対し各種検討した結果、本発明者は自転車用クランクがねじり荷重や曲げ荷重を受けた際に、接合部に対してせん断方向だけでなく引き剥がし方向の変形も生じることを発見した。接着剤は一般にせん断方向の応力に対しては十分な強度を持つが、引き剥がし方向に対しては強度が低い。そのため接合部は主にせん断方向に応力を受けるよう設計するが、複雑形状で、曲げ荷重とねじり荷重が同時にかかるような複雑な応力条件下では、引き剥がし方向の応力を押さえることが難しい。
しかし、自転車用クランクでは、支配的な荷重は自転車搭乗者のペダル踏み込みであり、回転方向が決まっているので、支配的なねじり荷重のかかる向きも決まった向きである。そこで、ねじり荷重がかかったときの変形モードとFRPの弾性特性を組み合わせて検討した結果、弾性特性の内、弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項をコントロールすることによって引き剥がし方向の変形を押さえられる構造を発見し、本発明に想到した。
すなわち、
(1)横断面形状がC形の第1の部材と第2の部材が、第1の部材のC形両腕部の外面上に第2の部材のC形両腕部の内面が当たるように嵌め合わせられた自転車用クランクであって、右ペダルを踏み込む時にかかるモーメントの向きを正、左ペダルを踏み込むときにかかるモーメントの向きを負とするとき、第1の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つがいずれも踏み込み時にかかるモーメントと異符号であり、かつ、第2の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つがいずれも零であることを特徴とする自転車用クランク。
(2)横断面形状がC形の第1の部材と第2の部材が、第1の部材のC形両腕部の外面上に第2の部材のC形両腕部の内面が当たるように嵌め合わせられた自転車用クランクであって、右ペダルを踏み込む時にかかるモーメントの向きを正、左ペダルを踏み込むときにかかるモーメントの向きを負とするとき、第1の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つがいずれも零であり、かつ第2の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つがいずれも踏み込み時にかかるモーメントと同符号であることを特徴とする自転車用クランク。
(3)横断面形状がC形の第1の部材と第2の部材が、第1の部材のC形両腕部の外面上に第2の部材のC形両腕部の内面が当たるように嵌め合わせられた自転車用クランクであって、右ペダルを踏み込む時にかかるモーメントの向きを正、左ペダルを踏み込むときにかかるモーメントの向きを負とするとき、第1の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つが踏み込み時にかかるモーメントと異符号であり、かつ第2の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つがいずれも踏み込み時にかかるモーメントと同符号であることを特徴とする自転車用クランク。
(4)前記横断面形状がC形の部材が、FRP(繊維強化プラスチック)からなることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の自転車用クランク。
(5)前記横断面形状がC形の部材が、繊維が一方向に引きそろえられたプリプレグからなる層を含むことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の自転車用クランク。
(5)前記横断面形状がC形の部材の積層構成が、長手方向に対して±θ(θは30°から60°)の角度をなす向きに繊維を配向させた層を含むことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の自転車用クランク。
本発明によれば、以下に説明するとおり、高い強度を持ち、軽量で、かつ簡便な方法により生産できる自転車用クランクを得ることができる。
本発明の自転車用クランクは、横断面形状がC形の部材(以下C形部材と記すこともある)を少なくとも二体接着してなる。二体のC形部材の組み合わせ方法については、図1に断面を模式的に示すように、第1の部材のC形両腕部の外面に第2の部材C形両腕部の内面が当たるように嵌合するように配置する。これにより、C形両腕部を接着部とすることができ、接触面積が増え接着強度が上がるうえに、接着後に中空構造とすることができ、軽量性と剛性を高いレベルで両立できる。
C形部材をKirchhoffの仮定を用いた板理論の拡張である古典積層板理論によって見たとき、図2に示すようなこの部材に作用する合応力Nと合モーメントMによって、面内歪みεと板曲げとしての曲率κが下記式(1)のように表される。
Figure 2008037258
ここで、N,M,ε,κは面内の主軸方向2つと面内せん断方向1つのあわせて3つの項を持つベクトルである。A,B,Dはそれぞれ面内剛性、カップリング剛性、曲げ剛性をあらわす3×3の行列である。各行列の成分は、図3に示すようなN層積層板では、k層目の剛性マトリックスQと積層板内での厚さ方向位置zを用いて、下記式(2)〜(4)で示される。
Figure 2008037258
Figure 2008037258
Figure 2008037258
ここで、Qは二次元直交異方性を仮定すると、図4に示すような各層の材料主軸の配向角θと各層の材料主軸方向の工学的弾性係数E,E,νLT,GLTを用いて下記式(5)で示される。
Figure 2008037258
ここでm=cosθ,n=sinθである。なおνTLは相反定理より
Figure 2008037258
である。
これより各層の材料と積層構成が決まると積層板の弾性特性が求められることが分かるが、式(1)の逆を取ると以下式(6)となる。
Figure 2008037258
ここで、
Figure 2008037258
は弾性コンプライアンスであり、
Figure 2008037258
の逆行列である。α,β,δは弾性コンプライアンスから3×3の部分行列を抜き出したものとする。このとき、
Figure 2008037258
は合モーメントと面内歪みの連成項、曲率と面内合応力の連成項であり、この成分のうちβ13,β23,β32,β31の4つが弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項(以下、単に、曲げねじりカップリング項と記すこともある)となる。
ペダルを踏み込むことによって、自転車クランクにはモーメントがかかり、このモーメントはねじり荷重として負荷されることとなる。そして、このねじり荷重は、C形部材にはせん断応力として伝達される。すなわち、C形部材に負荷される応力は図2の合応力ではN成分として伝達される。
ここで、右ペダルを踏み込むときのモーメントを正とすると、このモーメントはC形部材に正の向きのせん断応力として伝達される。このとき、曲げねじりカップリング項4つが共に正ならば、式(6)よりC形部材の曲率κの各成分は正となり、C型部材は開口部を狭める向きに変形する。逆に、曲げねじりカップリング項4つが共に負ならば、正の向きのせん断応力が伝達されたとき、C形部材の曲率κの各成分は負となり、C型部材は開口部を拡げる向きに変形する。左ペダルを踏み込む向きは、右ペダルを踏み込む向きと逆になるので、左ペダルを踏み込むときのモーメントは負となり、このモーメントはC形部材に負の向きのせん断応力として伝達されるため、C形部材の曲げねじりカップリング項が正であれば、式(6)よりC形部材の曲率κの各成分は負となり、C型部材は開口部を拡げる向きに変形する。つまり、ペダルを踏み込んだとき、C形部材の曲げねじりカップリング項の正負と開口部の変形の向きは右クランクの場合とは逆になる。すなわち、ペダルを踏み込むモーメントの符号と、C形部材の曲げねじりカップリング項の符号が同符合のとき、C形部材は開口部を狭める向きに変形し、ペダルを踏み込むモーメントの符号と、C形部材の曲げねじりカップリング項の符号が異符合のとき、C形部材は開口部を拡げる向きに変形する。
第1の部材の曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つと、第2の部材の曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つがすべて零の時、接着部では、せん断応力と共に、第1の部材と第2の部材の中立軸のオフセット量により偶力が発生するので、図5に示すようにC形部材に互いに接着端部を引き剥がすような曲げ変形が生じ、接着端部での剥離を引き起こす事となる。図中矢印はC型部材の変形の向きを表す。
また、β31とβ32が異符号となると面内主軸方向での変形の向きが逆になるので長手方向と横断面方向の変形の向きが逆となり、好ましくない。そこで、この曲げねじりカップリング項4つを非零かつ同符号とすることにより、ねじり荷重がかかったとき、C形部材に長手方向と横断面方向の変形の向きがそろった曲げ変形を生じさせ、接着部の引き剥がしを抑制することができる。曲げねじりカップリング項を非零とするには、C形部材を非対称積層構造にし、4つの曲げねじりカップリング項を同符号とするには例えば反対称積層構造やそれに近い構造とすることによって可能である。
かかる曲げねじりカップリング項は、材料主軸方向の工学的弾性係数E,E,νLT,GLTと、積層構成から、算出することができるので、適宜積層構成を変更して、再計算を繰り返すことで適切な曲げねじりカップリング項を与える積層構成を得ることができる。曲げねじりカップリング項は、対称積層構成とすることで零とすることができる。また、例えば[θ/-θ](θは材料主軸の部材座標系に対してなす角度、0<θ<90°、右回り座表系)という積層構成では曲げねじりカップリング項は正となり、[-θ/θ]とすると負にすることができる。θの値を変化させることにより、曲げねじりカップリング項の各項の値も変化させることもできる。より複雑な積層構成については、コンピュータを利用することにより容易に計算することができ、適切な積層構成を設計することが可能である。
ペダルを踏み込んだときにかかるモーメントと外側に配置された第2の部材の曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つが同符号となるように第2の部材の積層構成を定め、内側に配置された第1の部材の曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つがいずれも零となるように第1の部材の積層構成を定めることにより、図6に示すように、ねじり荷重がかかった際に、内側に配置された第1の部材は偶力により接着端部を引き剥がす向きに変形しようとするが、外側に配置された第2の部材が開口部を狭める向きに第1の部材より大きく曲げ変形し、結果として接着部が締め込まれる向きに応力がかかり、引き剥がしを抑制することができる。
また、ペダルを踏み込んだときにかかるモーメントと内側に配置された第1の部材の曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つが異符号となるように第1の部材の積層構成を定め、外側に配置された第2の部材の曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つをいずれも零となるように第2の部材の積層構成を定めることにより、図7に示すように、内側に配置された第1の部材が開口部を拡げる向きに第2の部材よりも大きく曲げ変形し、接着部を締め込むことができる。
さらには、ペダルを踏み込んだときにかかるモーメントと外側に配置された第2の部材の曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つが同符号となるように第2の部材の積層構成を定め、かつ、かかるモーメントと内側に配置された第1の部材の曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つが異符号となるように第1の部材の積層構成を定めると、図8に示すように、外側、内側どちらも変形して両方から接着部を締め込むこととなり、接着部の引き剥がしがより強く抑制できる。
ここまでは説明を簡単にするために積層構造をとる部材として述べたが、例えば厚さ方向に物性が傾斜的に変化する部材などでも、古典積層板理論を適用できるため、同様の変形モードを実現することができ、本発明を適用できる。また、C形部材の内側にリブを配置するなどの方法により更なる高剛性化を行ってもよい。
C形部材は、自転車クランクに求められる軽量性、高剛性、高強度という特性を満たすためには、FRP(繊維強化プラスチック)からなることが好ましい。FRPとは、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂などのプラスチックを、強化繊維である炭素繊維などで強化したものである。プラスチックには、上記した、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂の他、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化樹脂の他、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂など熱可塑樹脂が使用される。強化繊維は、炭素繊維やガラス繊維などの無機繊維や、アラミド繊維(ケブラー、トワロンなど)、高強度ポリエチレン繊維、PBO繊維などの有機繊維であり、強化繊維の比重は軽金属であるアルミニウムの比重2.7より小さい。また、樹脂の比重は1.5以下であるため、FRPの比重もアルミニウムを下回る。中でも、炭素繊維とエポキシ樹脂を重量比で4:6〜7:3の割合で組み合わせたCFRPは、重量当たりの剛性、強度が最も高く、本発明で最も好ましい材料である。ちなみに、通常、炭素繊維の弾性率は、200〜800GPa、強度は3GPa〜8GPaであり、アルミニウムの弾性率70GPa、強度0.2〜0.8GPaを大きく上回る。また、炭素繊維の比重は、1.5〜2.0程度で、アルミニウムの比重2.7より軽い。さらに、エポキシ樹脂の比重は、1.2〜1.3であり、樹脂を炭素繊維で強化したCFRPの比重は、アルミニウムのそれを大きく下回る。
C形部材の積層構成を設計する際には、候補となる積層構成に対して曲げねじりカップリング項を計算し、各項の符号を確認しながら設計を進めていくことが好ましい。これらの積層構造については、なかでも繊維を一方向に引きそろえたプリプレグからなる層を含むようにすると、設計が容易となることから好ましい。また、自転車用クランクの長手方向に対して斜めに繊維が配向されるように積層する層を含むとねじり方向の剛性がコントロールできるので好ましく、かかる繊維配向を30〜60°の範囲とすると応力を効果的に負担でき、より好ましい。この斜めに繊維が配向された層と自転車用クランクの長手方向に繊維が配向された層の積層順を適切に決めることにより、接着部の引き剥がしを抑制する曲げ変形モードが得られる。
図9に示す形状の自転車クランクについて検討した。この形状はペダル軸が結合する部分と、ブラケットスピンドルが結合する部分を両端に持ち、これらの軸間距離が170mmである。クランクの幅は35mm、厚さは14mmである。この部材は図10に一部形状をカットして示すように2体のC形部材を組み合わせ、中空となるよう成形されたものである。
使用した材料は、弾性率280GPa,引張強度4.4GPaの炭素繊維を一方向に引きそろえてエポキシ樹脂を含浸した一方向プリプレグ(繊維目付190g/m,樹脂重量含有率35%,樹脂硬化温度120℃,繊維方向弾性率E146GPa,繊維直交方向弾性率E8.5GPa,横弾性率GLT4.9GPa,ポアソン比νLT0.31)である。端部のペダル軸結合部およびブラケットスピンドル結合部には、アルミ合金A2014を切削して作ったインサート部品(重量:36.2g、2個)を埋め込んだ。接着剤は構造用エポキシ接着剤(東レ・ファインケミカル(株)製TE−2220)を用いた。
積層構成は長手方向を0度とし右回り座標系で定義した角度を用いて表現している。
強度の評価はJIS D9415のペダル取り付け部静荷重強度の試験法に従った。この試験法では、自転車クランクにはねじり荷重がかかる。強度の評価は荷重1.5kNまでかけたときに破壊しなければ合格とした。剛性の評価は、強度の評価と同様の固定法、負荷法をとったときの荷重0.5kN時の荷重点変位が2.5mm以下ならば合格とした。かけるモーメントの向きは左ペダルを踏み込む向き、すなわち本発明で負と定義した向きとした。
(実施例1)
一方向プリプレグを10層、内側から[45/−45/45/−45/0/45/−45/0]となるよう積層したものを金型でプレス成形し、C形部材Aを成型した。このとき、β13=−1.52×10−3−1,β23=−3.31×10−3−1,β32=−3.81×10−3−1,β31=−7.94×10−4−1となり、このC形部材Aは、ねじり荷重がかかったときに外側から接着部を閉じる向きに変形する。つぎに、一方向プリプレグを8層、内側から[45/0/−45/90]となるよう積層したものを同様に成形しC形部材Bを得た。このC形部材Bの曲げねじりカップリング項は零である。C形部材Aの中にC形部材Bが嵌合するように接着し、自転車用クランクを得た。
(実施例2)
一方向プリプレグを8層、内側から[45/0/−45/90]となるよう積層したものを金型でプレス成形し、C形部材Cを成型した。このC形部材Cの曲げねじりカップリング項は零である。つぎに、一方向プリプレグを8層、内側から[−45/45/−45/45/0/−45/45/0]となるよう積層したものを同様に成形しC形部材Dを得た。このとき、β13=1.52×10−3−1,β23=3.31×10−3−1,β32=3.81×10−3−1,β31=7.94×10−4−1となり、このC形部材Dは、ねじり荷重がかかったときに内側から接着部を閉じる向きに変形する。C形部材Cの中にC形部材Dが嵌合するように接着し、自転車用クランクを得た。
(実施例3)
一方向プリプレグを10層、内側から[45/−45/45/−45/0/45/−45/0]となるよう積層したものを金型でプレス成形し、C形部材Eを成型した。このとき、β13=−1.52×10−3−1,β23=−3.31×10−3−1,β32=−3.81×10−3−1,β31=−7.94×10−4−1となり、このC形部材Eは、ねじり荷重がかかったときに外側から接着部を閉じる向きに変形する。つぎに、一方向プリプレグを8層、内側から[−45/45/−45/45/0/−45/45/0]となるよう積層したものを同様に成形しC形部材Fを得た。このとき、β13=1.52×10−3−1,β23=3.31×10−3−1,β32=3.81×10−3−1,β31=7.94×10−4−1となり、このC形部材Fは、ねじり荷重がかかったときに内側から接着部を閉じる向きに変形する。C形部材Eの中にC形部材Fが嵌合するように接着し、自転車用クランクを得た。
(比較例1)
一方向プリプレグを8層、内側から[45/0/−45/90]となるよう積層したものを金型でプレス成形し、C形部材Gを成型した。つぎに、一方向プリプレグを8層、内側から[45/0/−45/90]となるよう積層したものを同様に成形しC形部材Hを得た。このとき、C形部材G,Hはいずれもβ13=β23=β32=β31=0となる。C形部材Gの中にC形部材Hが嵌合するように接着し、自転車用クランクを得た。
上記の結果を表1にまとめる。
Figure 2008037258
比較例1ではねじり荷重がかかると接着部に引き剥がす向きの変形が見られ、荷重1.4kNで接着部が剥がれ、不合格となった。それに対し、実施例1はC形部材Aが接着部を外から締め込むことにより引き剥がし変形を押さえ、強度試験に合格した。また、実施例2ではC形部材Dが接着部を内側から締め込むことにより引き剥がしを抑制し、強度試験に合格した。実施例3ではC形部材E、Fが接着部を両側から互いに締め込むことにより引き剥がしを抑制し、強度試験に合格した。剛性、重量については4体とも同程度であった。
以上のことより、本発明の構造をとる自転車用クランクは軽量性を犠牲とせずに強度が高く、また生産性も高いものであった。
本発明は、一方向のみにねじり荷重がかかる自転車のクランクに特に好適に利用することができるものであるが、例えば、二輪車の片持ち式リヤサスペンションアームや人型ロボットの腕部構造部材など、一方向のみに支配的なねじり荷重が加わる箇所に適用される部材であれば、中空で軽量かつ高強度である特長を生かし好ましく適用することが可能である。
自転車用クランクの断面の模式図 板にかかる合応力と合モーメントの模式図 積層板断面の模式図 積層角度の座標の取り方の模式図 ねじり荷重がかかったときの接着部を引き剥がす変形状態の模式図 ねじり荷重がかかったときの接着部を外から押さえる変形状態の模式図 ねじり荷重がかかったときの接着部を内から押さえる変形状態の模式図 ねじり荷重がかかったときの接着部を内外両方から押さえる変形状態の模式図 実施例の自転車用クランクの斜視図 実施例の自転車用クランクの一部カットして断面を見せた状態の斜視図
符号の説明
1: 自転車用クランク
2: C形部材
3: 接着部
4: インサート

Claims (6)

  1. 横断面形状がC形の第1の部材と第2の部材が、第1の部材のC形両腕部の外面上に第2の部材のC形両腕部の内面が当たるように嵌め合わせられた自転車用クランクであって、右ペダルを踏み込む時にかかるモーメントの向きを正、左ペダルを踏み込むときにかかるモーメントの向きを負とするとき、第1の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つがいずれも踏み込み時にかかるモーメントと異符号であり、かつ、第2の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つがいずれも零であることを特徴とする自転車用クランク。
  2. 横断面形状がC形の第1の部材と第2の部材が、第1の部材のC形両腕部の外面上に第2の部材のC形両腕部の内面が当たるように嵌め合わせられた自転車用クランクであって、右ペダルを踏み込む時にかかるモーメントの向きを正、左ペダルを踏み込むときにかかるモーメントの向きを負とするとき、第1の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つがいずれも零であり、かつ第2の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つがいずれも踏み込み時にかかるモーメントと同符号であることを特徴とする自転車用クランク。
  3. 横断面形状がC形の第1の部材と第2の部材が、第1の部材のC形両腕部の外面上に第2の部材のC形両腕部の内面が当たるように嵌め合わせられた自転車用クランクであって、右ペダルを踏み込む時にかかるモーメントの向きを正、左ペダルを踏み込むときにかかるモーメントの向きを負とするとき、第1の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β113,β123,β132,β131の4つが踏み込み時にかかるモーメントと異符号であり、かつ第2の部材の弾性コンプライアンスの曲げねじりカップリング項β213,β223,β232,β231の4つがいずれも踏み込み時にかかるモーメントと同符号であることを特徴とする自転車用クランク。
  4. 前記横断面形状がC形の部材が、FRP(繊維強化プラスチック)からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自転車用クランク。
  5. 前記横断面形状がC形の部材が、繊維が一方向に引きそろえられたプリプレグからなる層を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の自転車用クランク。
  6. 前記横断面形状がC形の部材の積層構成が、長手方向に対して±θ(θは30°から60°)の角度をなす向きに繊維を配向させた層を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の自転車用クランク。
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