JP2008032527A - 焼入硬化層深さの測定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】検出コイルで検出した出力電圧波形から、鋼材の焼入硬化層の深さを導出する。
【解決手段】焼入処理を施した鋼材1を励磁コイル2で励磁し、その鋼材1の表面に渦電流を生じさせ、この渦電流で誘導される誘導磁場を検出コイル3で検出し、検出コイル3で検出した出力電圧波形6の電圧実効値から得られる数値データを、同種鋼材1の焼入硬化層の深さと出力電圧波形6から得られる数値データとの相関関係を示すデータベースと比較することによって、この鋼材1の焼入硬化層の深さを導出する。この数値データとして、電圧実効値Vrms、時間軸8とこの出力電圧波形6とによって囲まれる面積値S、最大電圧値Vmaxと最小電圧値Vminとの差Vp−pの3つのうち、いずれかが採用できる。
【選択図】図2

Description

この発明は、鋼材表面の焼入硬化層の深さを非破壊で測定する測定方法に関する。
高周波加熱等で焼入処理を施した鋼材、例えば軸受用鋼材は、焼入条件に対応して、表面から数mm程度の深さまで焼入硬化層が形成され、その焼入硬化層は鋼材の耐摩耗性や摺動信頼性等の向上に寄与する。これらの諸特性を確実に発揮するためには、前記焼入硬化層が表面から所定の深さ以上まで存在することが必要なので、この深さを測定して確認することが必要不可欠である。
この焼入硬化層の深さの測定方法は、破壊検査と非破壊検査の2つに大別され、前者として、その鋼材の表面近傍の一部を機械加工で切り出し、切り出した断面をビッカース硬度計を用いて硬さを所定間隔で測定し、焼入硬化層の深さを知る方法、後者として、超音波の反射により、焼入硬化層の深さを知る方法が挙げられる。
前者の破壊検査は、試験片の作製に時間やコスト等を要し、製品を破壊するので全数検査が不可能なことから、測定の自動化が容易であり全数検査が可能な、後者の非破壊検査を採用したいという要望が強い。しかしながら、上記超音波の反射による測定は、鋼材中での入射超音波の損失が大きいので、正確な測定が難しいという問題がある。
このため、測定精度の高い非破壊検査方法が求められており、その一方法として、図1に基づいて説明すると、励磁コイル2と検出コイル3を同軸に並置し、励磁コイル2に交流電源、検出コイル3に電圧計5をそれぞれ接続し、これらのコイルと同軸に、円柱状の被検査体となる鋼材1を同軸に挿入して検査するものが提案されている(非特許文献1参照)。なお、図1に示す構成は、2個の励磁コイル2が用いられているが、非特許文献1では、用いられる励磁コイル2は1個のみである。
社団法人自動車技術会 学術講演会前刷集No.82−04 p11〜14
この方法は、前記鋼材1を励磁コイル2から発生する交流磁場で励磁し、その交流磁場が鋼材1の表面から数mmの深さまで侵入し、その交流磁場が侵入した領域で渦電流が誘起され、その渦電流が鋼材1の周囲に交流磁場を新たに生じ、新たに生じた交流磁場で前記検出コイル3に交流電圧が生じ、その交流電圧を前記電圧計5で測定し、その測定した出力電圧を解析して、鋼材1表面の焼入硬化層の深さを導出する。
この方法は以下の考えに基づいており、まず、上記高周波加熱等による焼入処理に一般に用いられている鋼材1として炭素鋼があり、この炭素鋼は、フェライト相とパーライト相とが混在した組織であり、これを高周波加熱等の加熱処理の後に急冷すると、その鋼材1の表面領域近傍が急冷され、その表面領域近傍がマルテンサイト相へ相変態する。このマルテンサイト相は、フェライト相やパーライト相と比較して硬度が高いので、優れた耐摩耗性と摺動信頼性を有する。すなわち、軸受等の耐摩耗性と摺動信頼性を要求される面に焼入してマルテンサイト相とすることは好ましいものである。
つぎに、そのマルテンサイト相は透磁率が低いという特性があり、その鋼材1の透磁率と交流磁場の侵入の深さとの間には負の相関がある。すなわち、透磁率が低いほど、つまり、マルテンサイト相の領域で、交流磁場はその鋼材1の深い領域まで侵入する。
このため、鋼材を励磁コイルで励磁し、その鋼材に渦電流を発生させ、その渦電流で誘導される誘導磁場を検出コイルで出力電圧として検出すると、その磁場の侵入深さが深くなるほど、出力電圧は励磁コイルへの入力電圧に対して位相の遅れ(位相差φ)が生じる。この位相差φの大きさはマルテンサイト相の深さ、すなわち、焼入硬化層の深さに対応する。
この考えに基づけば、上記電圧計5による出力電圧は、図4に示すように、磁場の侵入深さが深くなるほど、入力電圧との位相差φが大きくなり、励磁コイル2に印加した入力電圧波形7に対して、検出コイル3で検出された出力電圧波形6が、位相差φだけ時間軸8の後方にシフトする。そのシフトに伴い新たな電圧成分Xが生じる(図4参照)。
このため、この方法では、測定したい鋼材1と同じ組成・組織の鋼材1を用いて、焼入硬化層の深さと電圧成分Xとの相関関係を予めデータベース化しておき、このデータベースと同種の鋼材1の電圧成分Xを求め、この電圧成分Xをデータベースと比較して焼入硬化層の深さを導出する。
この非特許文献1に示す方法は、まず、(1)上記入力電圧波形および出力電圧波形のそれぞれの波形のピーク位置を特定し、それぞれのピーク位置の時間軸方向のずれ量から位相差を導出し、次に、(2)その位相差から上記電圧成分を導出する。
上記位相差の導出は、作業者がその波形から位相差を読み取るか、あるいは、データ処理ソフト等を用いて自動計算するか、いずれかを選択する。また、その位相差の大きさから上記電圧成分の大きさを求めるには、作業者の手作業で、あるいは、前記と同様にデータ処理ソフト等を用いた自動計算で行う必要がある。そのため、取得した出力電圧波形に対して、入力電圧波形も用いて複数のデータ処理を行い、最後に、既存のデータベースと比較して焼入硬化層の深さを導くので、そのデータ処理に多くの手間とコストを要する。
この発明は、このような現状に鑑み、上記の非特許文献1に示す方法以外の方法でもって、鋼材の焼入硬化層の深さを導出することを課題とする。
上記の課題を解決するため、この発明は、上記検出コイルで検出した出力電圧波形が焼入硬化層の深さに応じて異なることに着目し、その各焼入硬化層の深さとその各焼入硬化層の深さに対応したそれぞれ異なる前記出力電圧波形との相関関係をデータベースとして予め用意し、被検査鋼材における前記検出コイルで検出した出力電圧波形を前記データベースに当てはめて、その出力電圧波形に対応する焼入硬化層の深さを前記被検査鋼材の焼入硬化層の深さとすることとしたのである。
このようにすれば、各焼入硬化層の深さに対応した出力電圧波形が得られるため、その出力電圧波形に対応するデータベース内の焼入硬化層の深さがその被検査鋼材の焼入硬化層深さと認識できる。
前記データベースは、被検査物と同種の各鋼材の各焼入硬化層の深さを、上述のその鋼材の表面近傍の一部を機械加工で切り出し、切り出した断面をビッカース硬度計等を用いて硬さを所定間隔で測定して得ると共に、その各鋼材を励磁コイルで励磁して渦電流を生じさせ、この渦電流で誘導される誘導磁場を検出コイルで出力電圧として検出し、その検出した各出力電圧波形と前記各焼入硬化層の深さを対応させることにより作成する。
この発明によると、各焼入硬化層の深さに対応したそれぞれ異なる前記出力電圧波形との相関関係により、被検査鋼材の焼入硬化層の深さを検出するようにしたので、上記非特許文献1に記載の方法のように、入力電圧波形も用いて複数のデータ処理を行い、最後に、既存のデータベースと比較して焼入硬化層の深さを導くものに比べれば、手間とコストを大幅に節約できる。
この発明の実施形態としては、焼入して焼入硬化層を形成した鋼材を励磁コイルで励磁して、鋼材に渦電流を生じさせ、この渦電流で誘導される誘導磁場を検出コイルで出力電圧として検出し、その検出した出力電圧に基づき、非破壊で前記焼入硬化層の深さを測定する焼入硬化層深さの測定方法において、その測定方法による前記鋼材と同種の鋼材の各焼入硬化層の深さとその各焼入硬化層の深さに対応したそれぞれ異なる前記出力電圧波形との相関関係をデータベースとして予め用意し、被検査鋼材における前記検出コイルで検出した出力電圧波形を前記データベースに当てはめて、その出力電圧波形に対応する焼入硬化層の深さを前記被検査鋼材の焼入硬化層の深さとする構成を採用することができる。
この構成においては、出力電圧波形を識別してデータベースに当てはめる必要があり、その出力電圧波形を識別する手段としては、例えば、それをオシロスコープに付属するデータ処理機能を活用する。
また、出力電圧波形に代えて、その出力電圧波形の電圧実効値、その出力電圧波形の一定時間においてこの出力電圧波形と時間軸とによって囲まれる面積値、その出力電圧波形の最大電圧値と最小電圧値との差Vp−p等とすることができる。前記一定時間は、好ましくは一周期又は半周期とする。これらの電圧実効値等は、出力電圧波形から容易に数値データ化できる。
上記電圧実効値は一般的に市販されているオシロスコープの基本機能を用いて計算される。この値を、同種鋼材の焼入硬化層の深さと出力電圧波形から得られる電圧実効値との相関関係を示すデータベースと比較することによって、この鋼材の焼入硬化層の深さを導出する。
また、上記面積値も一般的に市販されているオシロスコープの基本機能を用いて導出される。この値を、同種鋼材の焼入硬化層の深さと出力電圧波形から得られる面積値との相関関係を示すデータベースと比較することによって、この鋼材の焼入硬化層の深さを同様に導出する。
さらに、上記Vp−pも一般的に市販されているオシロスコープの基本機能を用いて導出される。この値を、同種鋼材の焼入硬化層の深さと出力電圧波形から得られるVp−pとの相関関係を示すデータベースと比較することによって、この鋼材の焼入硬化層の深さを同様に導出する。
この励磁コイルおよび検出コイルとして、その軸心に、焼入処理を施した鋼材を挿入できる公知のコイルを採用できる。
この励磁コイルに交流磁場を生じさせるための電源として、市販の交流電源から選択でき、新たに生じた交流磁場を検出コイルで検出するために、市販の電圧計、例えば、測定された出力電圧波形に対して、最大電圧値の抽出等の簡単なデータ処理機能が設けられたオシロスコープが採用できる。
この鋼材1を図1に示した構成で測定し、図2(a)で示す出力電圧波形6を得た。さらに、上記検出コイル3に接続されたオシロスコープ5が有する電圧実効値Vrmsの計算機能を用いて、電圧実効値Vrmsを導出した。
上記測定に用いたものと同じ組成・組織の鋼材1を用いて、焼入硬化層深さが異なる鋼材1を4個製作し、その4個のうち、焼入深さが最も深い鋼材1の電圧実効値Vrmsと上記焼入硬化層の関係を、図3(a)に示すグラフ上にプロット(p1)した。
さらに、残りの3個の鋼材1についても焼入硬化層が深い順に、同様に電圧実効値Vrmsと焼入硬化層の関係を導出し、図3(a)にプロット(p2〜p4)した。また、熱処理を行わなかった鋼材1についても同様にプロット(p5)した。このようにして、焼入硬化層の深さと電圧実効値Vrmsとの相関関係をデータベース化した。
例えば、図2(a)において、電圧実効値Vrmsが0.19Vの場合、図3(a)中の、検出コイル3の電圧実効値x(V)と硬化層深さy(mm)との関係を示す下記の一次回帰式から、焼入硬化層の深さは3.1mmと容易に求まる。
〔数1〕y=−59.99x+14.53
上記出力電圧波形6から、時間軸8とこの出力電圧波形6とによって囲まれる面積値Sを抽出する場合、または、最大電圧値Vmaxと最小電圧値Vminとの差Vp−pを抽出する場合も、上記と同じ手法で、焼入硬化層との関係を予め導出(図3(b)または図3(c))しておくことで、電圧実効値Vrmsを用いた場合と全く同じように、焼入硬化層の深さを求めることができる。なお、図3(a)、(b)、(c)は、検出コイル3の巻き数、励磁電流値等が異なった条件で測定したものである。
この発明の測定装置構成を示す全体図 出力電圧波形において、(a)は電圧実効値、(b)は時間軸とこの出力電圧波形とによって囲まれる面積値、(c)は最大電圧値と最小電圧値との差Vp−pを示す図 焼入硬化層の深さと、(a)は電圧実効値、(b)は時間軸とこの出力電圧波形とによって囲まれる面積、(c)は最大電圧値と最小電圧値の差Vp−pとの相対関係を示す図 従来法における位相差φと電圧成分Xを示す図
符号の説明
1 鋼材
2 励磁コイル
3 検出コイル
6 出力電圧波形
8 時間軸

Claims (4)

  1. 焼入して焼入硬化層を形成した鋼材(1)を励磁コイル(2)による交流磁場で励磁して、鋼材(1)に渦電流を生じさせ、この渦電流で誘導される誘導磁場を検出コイル(3)で出力電圧として検出し、その検出した出力電圧に基づき、非破壊で前記焼入硬化層の深さを測定する焼入硬化層深さの測定方法において、
    その測定方法による前記鋼材(1)と同種の鋼材の各焼入硬化層の深さとその各焼入硬化層の深さに対応したそれぞれ異なる前記出力電圧波形(6)との相関関係をデータベースとして予め用意し、被検査鋼材(1)における前記検出コイル(3)で検出した出力電圧波形(6)を前記データベースに当てはめて、前記検出した出力電圧波形(6)に対応する焼入硬化層の深さを前記被検査鋼材(1)の焼入硬化層の深さとすることを特徴とする焼入硬化層深さの測定方法。
  2. 上記出力電圧波形(6)に代えて、その出力電圧波形(6)の電圧実効値としたことを特徴とする請求項1に記載の焼入硬化層深さの測定方法。
  3. 上記出力電圧波形(6)に代えて、その出力電圧波形(6)の一定時間においてこの出力電圧波形(6)と時間軸(8)とによって囲まれる面積値としたことを特徴とする請求項1に記載の焼入硬化層深さの測定方法。
  4. 上記出力電圧波形(6)に代えて、その出力電圧波形(6)の最大電圧値と最小電圧値との差としたことを特徴とする請求項1に記載の焼入硬化層深さの測定方法。
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