JP2008024673A - 糖化最終産物形成阻害作用を有する1,3−ジチアン誘導体 - Google Patents

糖化最終産物形成阻害作用を有する1,3−ジチアン誘導体 Download PDF

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隆 中川
Ryohei Sekimoto
亮平 堰本
Kazuhiro Onoki
和弘 小野木
Toshio Miyata
敏男 宮田
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Abstract

【課題】
糸球体疾患の予防及び/又は治療剤、特に糖尿病性腎症の予防及び/又は治療用の医薬として有用な新規なAGE形成阻害剤を提供すること。
【解決手段】
次の一般式(1)
【化1】
Figure 2008024673



(式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC−Cアルキル基、又はC−Cシクロアルキル基を示す。)
で表される化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物。
【選択図】なし

Description

本発明は糸球体病変における不可逆的蛋白修飾による糖尿病性腎症の発症又は進展に対する予防及び/又は治療に有用な薬剤に関する。
現在、本邦では糖尿病患者、糖尿病が疑われる患者及び糖尿病予備群が約2千万人存在するといわれている。糖尿病を起因とした合併症のうち、糖尿病性腎症の発症率は年々増加の推移をたどり、すでに慢性糸球体腎炎の発症率を上回り第一位となっている。
糖尿病性腎症が発症した場合における最大の問題点は、末期腎不全即ち透析への移行率が、非常に高いことにある。また、糖尿病性腎症による透析への移行は医療費高騰等の社会的に大きな問題となっている。そこで、糖尿病性腎症に関わる治療剤、または予防を期待できる薬剤が強く望まれている。
糖尿病性腎症の成因には、(1)遺伝的素因をはじめとして、(2)糸球体血行動態変化、(3)グリケーションの亢進やカルボニル・酸化ストレスにより生じた糖化最終産物(Advanced Glycation End Products(以下、「AGE」と称する))の蓄積、(4)Protein Kinase Cの活性化や、(5)ポリオール代謝の亢進など、様々な因子の関与が考えられている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。
現在、糖尿病性腎症の治療現場では、糸球体血行動態の改善を主目的としたアンジオテンシン変換酵素阻害剤(以下、「ACE阻害剤」と称する)やアンジオテンシンIIの1型受容体拮抗剤(以下、「ARB」と称する)が汎用されており、基礎のみならず臨床的なevidenceが報告されている(非特許文献6、非特許文献7)。
しかしながら、これらの多くは血圧降下剤として認可されており、糖尿病性腎症の治療剤としての認可はほとんどなされていない。単に、糖尿病性腎症の患者の多くは高血圧であることから、これらが汎用されているに過ぎない。なお、ACE阻害剤のタナトリル錠(塩酸イミダプリル)はI型糖尿病性腎症の治療剤として初めて認可されたものの、糖尿病性腎症に対する治療または予防的作用を有する薬剤はほとんどなく、新規な薬剤の登場が切望されている。
そこで次の糖尿病性腎症の治療剤として、AGE形成阻害剤が注目を浴びている。AGEで修飾されたタンパクは腎循環動態、腎糸球体基底膜の濾過機構等、多数の腎機能に悪影響を及ぼし、また、AGE自身がメサンギウム細胞等の腎構成細胞に多数存在するAGE関連受容体(例えば、Receptor for AGE:RAGE)に作用して、サイトカインや増殖因子等の障害因子を産生させることが報告されている(非特許文献8等)。従って、AGEの形成を抑制することは、糖尿病性腎症の進展抑制に繋がると考えられる。
アミノグアニジンは、反応性カルボニル化合物(3−デオキシグルコソン、メチルグリオキサールなど)の捕捉作用、酸素ラジカル(特に、ヒドロキシラジカル)の捕捉作用および金属キレート形成作用により、AGEの形成を阻害すると考えられており、AGE阻害に基づく糖尿病性腎症の治療剤として、最初に本格的な研究がなされた化合物である。しかし、これはすでに臨床治験も終了したが、いまだ実用化には至っていない。(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
また、その他のAGE形成阻害剤としてはアミノグアニジンの誘導体であるOPB−9195、LR−90、ALT−946、天然化合物及びその類縁体であるチアミン(ビタミンB)、チアミンピロリン酸、ベンフォチアミンなど幾つかの化合物が知られている(非特許文献12)が、いずれも実用化には至っていない。
Cooper,ME.et al.;Lancet,352,213−219,1998 槙野博史;糖尿病性腎症 発症・進展機序と治療:80−121,1999年;診断と治療社 Bohlender, J.et al.;Am. J. Physiol. Renal Physiol.,289,F645−F659,2005 D, Jay.et al.;Free Radical Biology & Medicine,40,183−192,2006 Vinik, A.;Expert Opin. Investig. Drugs,14(12),1547−1559,2005 Masakuni,N.et al.;Jpn. J. Pharmacol.,85:416−422,2001 Rossing, K.et al.;Diabetes Care.,28(9):2106−2112,2005 Locatelli, F.et al.;Nephrol.Dial.Transplant.,18(9):1716−25,2003 Price,DL.et al.;J. Biol. Chem.,276,48967−48972,2001 Abdel−Rahman, E.et al.;Expert Opin. Investig. Drugs.,11(4):565−574,2002 Mark E.et al.;Current Diabetes Reports.,4:441−446,2004 今泉勉 ほか;AGEs研究の最前線:209−217,2004年;メディカルレビュー社
本発明は、新規なAGE形成阻害剤を提供することにある。AGE形成阻害剤は糸球体病変における不可逆的蛋白修飾による糖尿病性腎症の発症および進展に対する予防又は治療に有用である。また、原疾患が糖尿病性腎症と診断されていない患者であっても、慢性糸球体腎炎や高血圧性腎症などの糸球体疾患により透析移行している患者の多くは血漿中のAGEが著しく増加しているという周知の事実から、AGE形成阻害剤は糖尿病性腎症のみならず、慢性糸球体腎炎や高血圧性腎症なども含めた糸球体疾患に対する予防又は治療に有用である。
上記実情に鑑み、本発明者らは、AGE形成阻害作用を持つ化合物を探索した結果、下記一般式(1)で表される化合物が、AGEの一種であるペントシジンを指標にしたin vitro系での阻害試験において、アミノグアニジンと比較して、強いAGE形成阻害作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記一般式(1)
Figure 2008024673

(式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC−Cアルキル基、又はC−Cシクロアルキル基を示す。)
で表される化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物を提供するものである。
また、本発明は、上記一般式(1)で表される化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤を提供するものである。
更に、本発明は、上記記載のAGE形成阻害剤を有効成分とする糸球体疾患の予防または治療剤を提供するものであり、さらに糖尿病性腎症の予防または治療剤を提供するものである。
本発明の一般式(1)で表される化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物は、後記試験例に示すように、優れたAGE形成阻害作用を有し、糸球体疾患の予防及び/又は治療剤、特に糖尿病性腎症の予防及び/又は治療剤として有用である。
実施例に記載するとおり、血液透析患者の血漿を用い、アミノグアニジンまたは各被検薬物を添加した評価において、各被検薬物は、アミノグアニジンと比べ、優れたAGE形成阻害活性を示した。即ち、血液透析患者の血漿を用い、37℃、7日間、アミノグアニジンまたは各被検薬物を添加した系において認められた主要なAGEの一種であるペントシジンの生成に対して、各被検薬物の添加は、いずれもアミノグアニジン添加に比べ、強いペントシジン生成抑制作用を示した。
一般式(1)中、Rは直鎖又は分岐鎖のC-Cアルキル基、又はC−Cシクロアルキル基を示す。ここで、直鎖又は分岐鎖のC-Cアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられ、tert−ブチル基が好ましい。また、C−Cシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
一般式(1)で表される化合物中の−COORの置換位置は、1,3−ジチアン環の4位または5位であり、4位が好ましい。置換位置が4位にある場合は光学活性を有するが、本発明の化合物はこれらの光学活性体単独又はこれらの混合物のいずれも包含する。
特に好ましい化合物として、4−tert−ブトキシカルボニル−2−シアノイミノ−1,3−ジチアンを具体的に挙げることができる。
一般式(1)で表される化合物の酸付加塩としては、薬学上許容される塩であれば特に制限されない。例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩のような鉱酸の酸付加塩;安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等の有機酸の酸付加塩が挙げられる。
一般式(1)で表される化合物の溶媒和物としては、水和物等が挙げられる。
本発明の一般式(1)で表される化合物は、シアノイミノジチオ炭酸ジカリウム(2)とジブロモエステル(3)を溶媒の存在下、反応させて製造することができる。
Figure 2008024673

ここで、原料となるシアノイミノジチオ炭酸ジカリウム(2)はJournal of Organic Chemistry,32,2567−2570(1967)記載の方法に従って製造することができる。また、ジブロモエステル(3)は−COORの置換位置の違いで2,4−ジブロモブタン酸エステルと3−ブロモ−2−ブロモメチルプロピオン酸エステルに分かれるが、2,4−ジブロモブタン酸エステルの場合はJournal of Organic Chemistry ,46,2999−3011(1981)、3−ブロモ−2−ブロモメチルプロピオン酸エステルの場合はJournal of Organic Chemistry ,20,780−786(1955)、Journal of Organic Chemistry ,35,690−696(1970)等に記載の方法あるいは類似の方法で製造できる。
溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル等をもちいればよく、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)が特に好ましい。
ジブロモエステル(3)の使用割合は、シアノイミノジチオ炭酸ジカリウム(2)に対して、1.0〜1.5当量使用するのが好ましい。反応は0℃〜溶媒の沸点で30分〜24時間、好ましくは20℃〜80℃で30分〜6時間反応させることにより行なわれる。
本発明の一般式(1)で表される化合物は、上記の方法によって得られるが、さらに必要に応じて再結晶法、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段を用いて精製することができる。また必要に応じて、常法によって前記した所望の溶媒和物にすることもできる。
本発明の予防及び/又は治療剤は、一般式(1)で表される化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物を含有するものであって、単独で用いてよいが、通常は薬学的に許容される担体、添加物等を配合して使用される。その投与形態は、特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できる。斯かる剤形としては、例えば、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等を挙げることができる。
これらの製剤は、その剤形に応じて製剤学上使用される賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤等の医薬品添加物と適宜混合、希釈又は溶解し、常法に従い製造することができる。
例えば、散剤の場合は、必須成分のほかに、必要に応じて適当な賦形剤、滑沢剤等を加え、よく混和して調製すればよい。錠剤の場合は、必要に応じて適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を加え、常法に従い打錠して調製すればよい。また錠剤は必要に応じてコーティングを施し、フィルムコート錠、糖衣錠等にすることができる。
また、注射剤の場合は、液剤(無菌水又は非水溶液)、乳剤及び懸濁剤の形態とすることができる。これらに用いられる非水担体、希釈剤、溶媒又はビヒクルとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射可能な有機酸エステルが挙げられる。また、該組成物には防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤等の補助剤を適宜配合することができる。
本発明の一般式(1)で表される化合物の投与量は年齢、体重、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して1日1〜1000mgを、1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与するのが好ましい。
以下、実施例、試験例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1. 4−tert−ブトキシカルボニル−2−シアノイミノ−1,3−ジチアンの製造
Figure 2008024673
シアノイミノジチオ炭酸ジカリウム5g(25.7mM)と2,4−ジブロモブタン酸 tert−ブチルエステル8.15g(27.0mM)をN,N−ジメチルホルムアミド75mLに溶解し、50℃で1時間10分攪拌した。反応液を冷却後、酢酸エチル1.5L抽出を行い、有機層を水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をクロロホルム/n−ヘキサンで再結晶して、標記化合物を得た。収量:4.24g(63.9%)
mp 100−103℃
1H―NMR(400MHz,CDCl3)δ:1.51(s,9H),2.40―2.72(m,2H),3.22−3.44(m,2H),4.19(t,1H,J=7.0Hz)
試験例1. 血液透析患者の血漿を用いてのAGE形成阻害作用
血液透析患者の血漿中AGE(指標:ペントシジン)の測定はMiyataらの報告に従って実施した(Miyata,T.et al:J Am Soc Nephrol,13,2478−2487,2002)。血液透析患者の血漿0.9mLをアミノグアニジンまたは各被検薬物の存在下(添加量は0.1mL)で、37℃で7日間反応した。アミノグアニジンおよび各被検薬物の最終濃度は5.0mMとした。なお、アミノグアニジンまたは各被検薬物はジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解して使用した。DMSOの最終濃度は反応溶液1mL中、反応時における酸化反応に影響しない10%とした。7日間の反応後に、アミノグアニジンまたは各被検薬物を添加した血漿中のペントシジンの濃度を以下に示す方法で測定した。
反応溶液0.05mLに等量の10%トリクロロ酢酸(以下、「TCA」と称する)を加え、5000×g、5分間遠心した。上清を除去し、沈殿物を5%TCA 0.3mLで洗い、その後凍結乾燥し乾燥させた。次いで、窒素条件下で110℃、16時間6N塩酸 0.1mL添加し、乾燥物を加水分解した。引き続き、5N水酸化ナトリウム 0.1mLと0.5Mリン酸緩衝液(pH7.4) 0.2mLを添加し中和した。中和溶液は、口径0.5μmのフイルターを通し、リン酸緩衝液で希釈し、ペントシジン測定用サンプルを調整した。ペントシジン濃度の測定はMiyataらの方法に従って実施した。
表3に、各被検薬物によるペントシジン阻害強度を、アミノグアニジンによる阻害強度を1.0とした場合における相対値として表した(阻害強度はコントロール群を対照においた。コントロール群にはDMSOのみ添加した)。相対値は次の算出式により求めた。
相対値=(被検薬物の阻害率)÷(アミノグアニジンの阻害率)
アミノグアニジンおよび各被検薬物の反応中における最終濃度は5.0mMに固定した。
Figure 2008024673
各被検薬物の相対値は、3.61と算出され、アミノグアニジンによるペントシジン阻害活性よりも強かった。以上から、一般式(1)で表される本発明の化合物は、アミノグアニジンよりも強力なAGE形成阻害作用を有し、さらに強力な治療剤としての可能性が本実験結果より明らかとなった。

Claims (4)

  1. 次の一般式(1)
    Figure 2008024673

    (式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC−Cアルキル基、又はC−Cシクロアルキル基を示す。)
    で表される化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物。
  2. 請求項1記載の化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤。
  3. 請求項1記載の化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする糸球体疾患の予防及び/又は治療剤。
  4. 糸球体疾患が、糖尿病性腎症である請求項3記載の予防及び/又は治療剤。
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