ところで、図12のKA部分を拡大した図13に示したように、導波管90、91の分岐部分には、突出部Tが多数設けられている。これらの突出部Tは、多方向にほぼ直角に分岐した後、かなり大きく突出し、その先端では角張った構造をしている。突出部Tがこのような構造になっているのは、各突出部Tによってマイクロ波を所望の方向へ誘導したり、所望の地点で分岐させるためである。
しかしながら、マイクロ波の電界エネルギーは、尖ったところや角張ったところに集中する性質を持っている。このため、導波管90、91をマイクロ波が伝播するとき、前述した構造を有する突出部Tには、電界エネルギーが集中する。このとき、突出部Tにおけるマイクロ波の電界エネルギーの強度は、誘電部材の誘電率εに近似する。具体的には、誘電部材として、たとえば、アルミナ95を使用した場合、突出部Tの近傍では、比誘電率倍(比誘電率k=ε/ε0 ε:アルミナ95の誘電率、ε0:真空状態における誘電率)の強度を持つ電界、すなわち、導波管内にアルミナ95を充填させていない場合の約8.6倍の強度を持つ電界が発生する。この結果、突出部Tの近傍は、電流が流れやすい状態、すなわち、異常放電が起こりやすい状態となる。
また、導波管90、91およびこの導波管内に充填されるアルミナ95はどちらも固体である。よって、導波管90、91とアルミナ95とを密着して設けると、導波管90、91を形成する金属とアルミナ95との熱膨張係数の違いにより、アルミナ95に割れが生じる場合がある。このため、導波管90、91とアルミナ95との間には、わずかな隙間Sが設けられている。その隙間Sは、導波管90、91およびマイクロ波発生器94を介して外部(大気系)と連通している。そのため、この隙間Sには、大気が充填される。
突起部Tに対してその近傍に大気およびアルミナ95等の誘電体が存在する、いわゆるトリプルジャンクションB1〜B9では、突起部Tに対してその近傍に大気のみが存在し、誘電体が存在しない場合より異常放電が起こる可能性が高くなる。その理由について以下に述べる。
電界が集中している突起部Tに対して、その近傍に大気および誘電体が存在すると、誘電体の表面に沿って樹枝状の放電路が形成される。このような放電は沿面放電と呼ばれる。この沿面放電は、次のようなメカニズムにより発生すると考えられている。すなわち、誘電体近傍に存在する電子が誘電体に衝突することにより、誘電体に吸着していたガス(大気)が脱離し、プラズマ化する。これにより、誘電体表面にて局部的に放電が発生する。この結果、電子が増倍するとともにさらに脱離したガス(大気)がプラズマ化することにより絶縁破壊が生じ、電子が放出されて誘電体の表面に沿って電流が流れる。これが沿面放電である。
このようにして、突出部T付近は、そもそも電界が集中して異常放電が生じやすいところ、その近傍に大気および誘電体が存在する、いわゆるトリプルジャンクションB1〜B9では、誘電体に沿って沿面放電が誘引されるため、誘電体が存在しない場合に比べて異常放電が起こる可能性がより高くなる。
これに加えて、プラズマ処理装置の起動後、処理室内でガスがプラズマ着火するまでにはある程度の時間がかかる。この間、ガスをプラズマ着火させるために、マイクロ波発生器94からは、大パワーのマイクロ波が出力される。また、この間、処理室内は絶縁体として機能する。よって、マイクロ波は、スロット92を通って誘電体窓93を透過しても、処理室内に入射されずに反射し、再び導波管内に戻る。このようにして、マイクロ波発生器94から出力された大パワーのマイクロ波と反射されたマイクロ波のパワーとにより、トリプルジャンクションB1〜B9では、電界強度が非常に高くなり、導波管90、91内にて異常放電が発生する可能性が極めて高くなる。
また、プラズマ着火後も、均一なプラズマが安定的に生成されるまでにはある程度の時間がかかる。プラズマは、導体であるため、処理室内に入射されたマイクロ波の一部を吸収する。しかし、均一なプラズマが安定的に生成されるまでの間は、プラズマの生成状態が不安定であるため、処理室内に入射されたマイクロ波のうち、プラズマに吸収される電界エネルギーの量およびプラズマを反射する電界エネルギーの量が変動する。この結果、プラズマの状態が変化して、プラズマ内のインピーダンスが変動する。このような変動に対しては、チューナ98によってインピーダンスの整合をとるが、プラズマ内のインピーダンスが常に変動すると、このインピーダンス整合が不安定な状態になる。
さらに、インピーダンス整合が安定化した後も、プロセス実行中にガス種やマイクロ波のパワー等のプロセス条件を変化させたときには、プラズマ内のインピーダンスが変動し、その後、すぐさま定常状態に戻るとしても、瞬間的にインピーダンス整合が不安定な状態になる。
このようにして、瞬間的であってもインピーダンス整合が不安定な状態になると、導波管90、91内の電界強度にバラツキが生じる。これにより、そもそも異常放電しやすいトリプルジャンクションB1〜B9において、異常放電が発生する可能性が極めて高くなる。この結果、異常放電が発生した部分で熱が生じ、導波管90、91の焼損(図12のC)、あるいは誘電部材の破壊をまねく。プラズマ処理装置を構成する各種部材は、非常に高価であるため、それらの破損は好ましくなく、また、破損による処理のスループットの低下も大きな問題である。このため、これらを回避するために異常放電を発生させない対策が必要となる。
その対策として、導波管90、91に液体の波長可変物質を充填させる方法も考えられる。しかしながら、液体は、取り扱いが難しく、導波管90、91から漏れて処理室内に入り込むと、パーティクルとなって、たとえば、被処理体上に形成された成膜等に混入して膜質を劣化させるなど、プラズマ処理の精度を著しく低下させる要因となる。
上記問題を解消するために、本発明では、導波管内の異常放電を抑止するプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法が提供される。
すなわち、上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、分岐部分を有し、上記分岐部分を介してマイクロ波を伝播させる導波管と、上記導波管を伝播したマイクロ波を複数のスロットに通すスロットアンテナと、上記複数のスロットに通したマイクロ波を透過させる誘電体窓と、上記誘電体窓を透過したマイクロ波によりガスをプラズマ化させて被処理体をプラズマ処理する処理室と、を備えたプラズマ処理装置が供給される。
このプラズマ処理装置は、さらに、上記分岐部分にて分岐する前の導波管を閉塞するように上記分岐前の導波管内のいずれかの位置に第1の誘電体を備え、上記第1の誘電体により閉塞された上記導波管内の空間のうち、上記分岐部分を含む側の空間には、絶縁性ガスが充填されている。
これによれば、導波管は、分岐部分にて分岐する前の導波管のいずれかの位置で第1の誘電体により閉塞される。このようにして、マイクロ波発生器を介して外部(大気系)と連通している導波管が第1の誘電体により仕切られることによって、導波管内の空間のうち分岐部分を含む側の空間を大気から遮断することができる。この結果、分岐部分を含む側の導波管内に、絶縁性ガスのみを充填させることができる。
ここで、導波管の分岐部分とは、導波管の突起を形成する部分をいい、たとえば、導波管内に形成されたπ分岐、T分岐、十字分岐またはY分岐等、複雑な形状の突起を形成する部分が挙げられる。より具体的には、図13に示した導波管の突起部Tが導波管の分岐部分の一例として挙げられる。
前述したように、導波管の分岐部分は、マイクロ波を所望の方向へ誘導したり、所望の地点で分岐させるために、かなり大きく突出し、その先端では角張った構造をしている。一方、マイクロ波の電界エネルギーは、尖ったところや角張ったところに集中する。この性質から、導波管をマイクロ波が伝播するとき、導波管の分岐部分には、電界エネルギーが集中する。このとき、導波管の分岐部分におけるマイクロ波の電界エネルギーの強度は、導波管に充填された誘電部材の誘電率εに近似する。このため、導波管の分岐部分の近傍では、比誘電率倍(比誘電率k=ε/ε0 ε:誘電部材の誘電率、ε0:真空状態における誘電率)の強度を持つ電界が発生する。この結果、導波管の分岐部分の近傍にて電流が流れやすい、すなわち、異常放電が起こりやすい状態となる。
このようにして電界が集中している突起部Tに対してその近傍に大気および誘電体が存在する、いわゆるトリプルジャンクションでは、前述したように、誘電体表面に沿って沿面放電が発生し易いため、誘電体が存在しない場合に比べて異常放電が起こる可能性はより高くなる。
しかし、本発明によれば、この分岐部分を含む側の空間には、絶縁性ガスが充填される。よって、本発明では、誘電体に吸着しているガスは大気ではなく絶縁性ガスとなる。これにより、本発明では、いわゆるトリプルジャンクションを構成する誘電体近傍に存在する電子が誘電体に衝突することにより、誘電体から脱離するガスは、従来の大気に替えて絶縁性ガスとなる。脱離された絶縁性ガスは従来の大気に比べて電離しにくい。換言すれば、脱離した絶縁性ガスはプラズマ化しにくい。この結果、誘電体表面にて局部的に放電が発生することを抑止することにより、誘電体の表面近傍にて従来生じていた絶縁破壊を抑制し、誘電体表面にて沿面放電が生じる可能性を著しく低くすることができる。
これにより、導波管の分岐部分にて異常放電が生じる可能性を極めて低くすることができる。この結果、異常放電によって生じた熱による導波管の焼損や誘電体の破壊を防止することができる。これにより、高価なプラズマ処理装置の維持および管理に要する費用を低減することができるとともに、プラズマ処理装置の稼動率を上げることにより、スループットを向上させ、これによりシステム全体の生産性を向上させることができる。
さらに、上記プラズマ処理装置は、上記分岐部分にて分岐した後の導波管を閉塞するように上記分岐後の導波管内のいずれかの位置に第2の誘電体を備え、上記第1の誘電体および上記第2の誘電体により閉塞された上記導波管内の空間に絶縁性ガスを充填してもよい。
このとき、上記第2の誘電体は、上記分岐後の導波管内の位置であって、上記複数のスロットが配置された位置より上記分岐部分側の位置に設けられていてもよい。
また、上記第1の誘電体および上記第2の誘電体により閉塞されている上記導波管の内部空間の圧力は、大気圧以上であることが好ましい。このように、導波管内部のうち、第1の誘電体および第2の誘電体により閉塞された空間(すなわち、導波管の分岐部分を含んだ空間)の内部圧力を大気圧以上とすることにより、外部からの大気が閉塞空間の内部に入り込むことを避けることができる。これにより、閉塞空間に充填された絶縁性ガスに対する空気の混合率が高まって、閉塞空間内の絶縁性が弱まることを回避することができる。この結果、導波管の分岐部分にて異常放電が生じる可能性を、さらに低減することができる。
また、上記充填された絶縁性ガスは、SF6ガスまたはSF6ガスと他の所望のガスとの混合ガスのいずれかであってもよい。このとき、SF6ガスと混合する所望のガスは、Arガス、Heガス、Xeガスなどの不活性ガスが好ましい。
これによれば、導波管は、分岐する前に第1の誘電体により閉塞されるとともに、分岐した後に第2の誘電体により閉塞される。また、上記第1の誘電体および上記第2の誘電体により閉塞された導波管内の空間に絶縁性ガスが充填される。この空間には、導波管の分岐部分が含まれている。よって、特に従来異常放電が起こりやすかった分岐部分の異常放電を効果的に抑制することができる。
これに加え、上記第2の誘電体は、分岐した後の導波管内の位置であって複数のスロットが配置された位置より上記分岐部分側の位置に設けられる。この結果、第2の誘電体が隔壁となって、上記空間に充填された絶縁性ガスが複数のスロット位置まで漏れることを回避することができる。これによれば、つぎのような効果を奏することができる。
通常、複数のスロットの下部には、処理室を密閉するとともにマイクロ波を透過する誘電体窓が設けられていて、この誘電体窓により各スロット(開口)は塞がれている。しかし、何らかの原因でスロットから処理室内にガスが通過する通り道ができるおそれがある。たとえば、誘電体窓と処理室との接合面に設けられた図示しないOリングを介してスロットから処理室内にガスが漏れる場合である。
このような場合、処理室内に進入した絶縁性ガス(SF6ガスやSF6ガスを含む混合ガス)が、マイクロ波の電界エネルギーにより解離して、処理室内にてS系ガスやF系ガスに分解するおそれがある。このようにして処理室内にて発生したF系ガスは、処理室本体のアルミニウム(Al)や天井部のアルミナ(Al2O3)と反応する。これにより、処理室の内壁や天井部がフッ化され、部分的にAlFになることがある。また、たとえば、処理室の内壁や天井部に付着したSiO2膜とFとが反応することにより、SiF1〜SiF4ガスとなることもある。
このようにして発生したAlF膜の一部は、たとえば、成膜時のイオンの作用によりAl−F結合が切れてFとなり、再び処理室内に放出される。また、処理室内に存在することとなったF2ガスや、SiO2膜とFとが反応して生成されたSiFxガスのうち、SiF4ガスは結合状態が安定しているので、その一部が処理室外に排出されず、処理室の内壁に物理的に吸着する。しかし、このようにして内壁に吸着したF2ガスやSiF4ガスは、吸着エネルギーが小さいため脱離しやすい。この結果、処理室内に発生したF系残留物が処理室の内壁から脱離して成膜中の薄膜に混入することとなり、被処理体に良質な膜を形成することができない。
また、SiO2膜とF系ガスとが反応することにより、SiO2膜の一部がSiFx膜になる場合もある、この場合、SiO2膜とSiFx膜とでは誘電率εが異なるため、被処理体に形成された膜特性にバラツキが生じてしまう。
以上のようにして、SF6ガスまたはSF6ガスを含む混合ガスが、スロットから処理室内に漏れ出すことにより、膜が劣化して被処理体を製品化できない状況を回避するために、本発明では、上記第2の誘電体が設けられる。これにより、絶縁性ガスは、導波管に隣接して設けられた複数のスロットより分岐部分側の位置まで充填され、複数のスロットの位置には充填されない。これにより、複数のスロットから処理室内にSF6ガスなどの絶縁性ガスが漏れ出すことを防ぐことができる。この結果、導波管内にF系ガスを閉じ込めることができる。これにより、処理室内がF系ガスにより汚染されることなく、処理室内にて一定の品質を保ちながらより安定的に被処理体をプラズマ処理することができる。
さらに、上記第1の誘電体および上記第2の誘電体の隔壁によって絶縁性ガスを充填させる空間を狭くすることにより、充填する絶縁性ガスの量を少なくすることができる。充填されるSF6ガスは地球温暖化係数が高いガスであるため、絶縁ガスの充填量を少なくすることにより、地球温暖化を防止することができるとともにコストを削減することができる。
また、上記のように絶縁性ガスを充填させる空間を狭くすることにより、空間内の圧力を容易かつ正確に所望の圧力に制御することができる。これにより、絶縁性ガスを充填させる空間内を所定の高圧に制御することができる。この結果、空間内の絶縁性を向上させ、上記空間内に含まれる導波管の分岐部分における異常放電をさらに抑止することができる。
上記第1の誘電体と上記分岐前の導波管とは、第1のシール部材により封止されていてもよい。これによれば、第1の誘電体を隔壁として、分岐部分を含んだ導波管内の空間は、気密な状態に保たれながら、分岐前の導波管内の空間と分離される。この結果、上記分岐部分を含む側の空間を確実に大気から遮断することができる。
また、上記第2の誘電体と上記分岐後の導波管とは、第2のシール部材により封止されていてもよい。これによれば、第2の誘電体を隔壁として、スロットに隣接する導波管内の空間は、気密な状態に保たれながら、分岐部分を含んだ空間と分離される。これにより、複数のスロットから処理室内にSF6ガスなどの絶縁性ガスが漏れ出すことを確実に防ぐことができる。これにより、処理室内がF系ガスにより汚染されることなく、処理室内にて一定の品質を保ちながら、より確実かつ安定的に被処理体をプラズマ処理することができる。なお、第1のシール部材および第2のシール部材としては、たとえば、Oリングが挙げられる。
上記誘電体窓は、複数枚の誘電体から構成され、各誘電体は、上記複数のスロットのうち少なくともいずれかのスロットに通されたマイクロ波を透過させるようにしてもよい。
これによれば、誘電体窓は、複数枚の誘電体から構成されており、さらに、各誘電体にスロットがそれぞれ設けられている。しかも、従来に比べ、各誘電体の面積は著しく小さくなる。このように構成された各誘電体にマイクロ波を透過させることにより各誘電体の表面にて表面波を均一に伝播させることができる。この結果、プロセスウィンドウを広くすることができるとともにプラズマ処理を精度よく行うことができる。また、誘電体窓を小型化、軽量化した複数枚の誘電体により構成することにより、被処理体の大面積化に対してフレキシブルに対応することができる。
上記各誘電体には、被処理体と対向する面にて凹部または凸部の少なくともいずれかが形成されていてもよい。これによれば、各誘電体に形成された凹部または凸部により、各誘電体下面にて表面波が伝播する際の電界エネルギーの損失を増加させることができる。これにより、表面波の伝播を抑え、定在波の発生を抑制し、より均一なプラズマを生成することができる。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、分岐部分を有する導波管と、上記分岐部分にて分岐する前の導波管内のいずれかの位置に上記導波管を閉塞するように設けられた第1の誘電体と、複数のスロットを有するスロットアンテナと、マイクロ波を透過させる誘電体窓と、被処理体をプラズマ処理する処理室と、を備えたプラズマ処理装置を使用して被処理体をプラズマ処理するプラズマ処理方法が提供される。
このプラズマ処理方法は、上記第1の誘電体により閉塞された上記導波管内の空間のうち、上記分岐部分を含む側の空間に充填されている絶縁性ガスにより上記分岐部分近傍の絶縁性を保ちながら、上記分岐部分を介して上記導波管にマイクロ波を伝播させ、上記導波管を伝播したマイクロ波を上記スロットアンテナの複数のスロットに通し、上記複数のスロットに通されたマイクロ波を上記誘電体窓に透過させることにより、マイクロ波を上記処理室内に入射させ、上記誘電体窓を透過したマイクロ波によりガスをプラズマ化させて被処理体をプラズマ処理する。
これによれば、上記第1の誘電体により閉塞された上記導波管内の空間のうち、上記分岐部分を含む側の空間に充填されている絶縁性ガスにより上記分岐部分近傍の絶縁性を保つことができる。これにより、いわゆるトリプルジャンクションを構成する誘電体の表面近傍にて従来生じていた絶縁破壊を抑制し、誘電体表面にて沿面放電が生じる可能性を著しく低くすることにより、電界が集中する突出部においても異常放電の発生を著しく低減することができる。この結果、異常放電によって生じた熱による導波管の焼損や誘電体の破壊を防止することができる。また、上記第1の誘電体により上記分岐部分を含む側の空間を大気から遮断することができる。
上記プラズマ処理装置には、さらに、上記分岐部分にて分岐した後の導波管内のいずれかの位置に上記導波管を閉塞するように第2の誘電体が設けられ、上記第1の誘電体および上記第2の誘電体を隔壁とした上記導波管内の空間に絶縁性ガスを充填することにより、上記分岐部分近傍の絶縁性を保ちながら、上記分岐部分を介して上記導波管にマイクロ波を伝播させるようにしてもよい。
これによれば、第2の誘電体により、SF6ガス等の絶縁性ガスが、スロットから処理室内に漏れ出すことを防ぐことができる。この結果、処理室内がF系ガスにより汚染されることなく、一定の品質を保ちながら、被処理体を安定的にプラズマ処理することができる。
さらに、上記第2の誘電体の隔壁によって絶縁性ガスを充填させる空間を狭くすることにより、絶縁性ガスの充填量を少なくすることができる。これにより、地球温暖化を防止することができるとともにコストを削減することができる。
以上に説明したように、本発明によれば、導波管内の異常放電を抑止するプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法を提供することができる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の構成及び機能を有する構成要素については、同一符号を付することにより重複説明を省略する。
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態にかかるプラズマ処理装置の構成について、図1および図2を参照しながら説明する。図1は、本実施形態にかかるプラズマ処理装置を縦方向(y軸に垂直な方向)に切断した断面図であり、図2は、本実施形態にかかるプラズマ処理装置の処理室の天井面を示した図である。なお、本実施形態では、プラズマ処理装置の一例として、マイクロ波のパワーを用いてガスをプラズマ化するマイクロ波プラズマ処理装置を例に挙げて説明する。
マイクロ波プラズマ処理装置100は、処理容器10と蓋体20とを備えている。処理容器10は、その上部が開口された有底立方体形状を有している。処理容器10および蓋体20は、たとえば、アルミニウム等の金属からなり、電気的に接地されている。
処理容器10には、その内部にて基板Gを載置するためのサセプタ11(載置台)が設けられている。サセプタ11は、たとえば窒化アルミニウムからなり、その内部には、給電部11aおよびヒータ11bが設けられている。
給電部11aには、整合器12a(たとえば、コンデンサ)を介して高周波電源12bが接続されている。また、給電部11aには、コイル13aを介して高圧直流電源13bが接続されている。整合器12a、高周波電源12b、コイル13aおよび高圧直流電源13bは、処理容器10の外部に設けられている。また、高周波電源12bおよび高圧直流電源13bは、接地されている。
給電部11aは、高周波電源12bから出力された高周波電力により処理容器10の内部に所定のバイアス電圧を印加するようになっている。また、給電部11aは、高圧直流電源13bから出力された直流電圧により基板Gを静電吸着するようになっている。
ヒータ11bには、処理容器10の外部に設けられた交流電源14が接続されていて、交流電源14から出力された交流電圧により基板Gを所定の温度に保持するようになっている。
処理容器10の底面は筒状に開口され、その外部周縁にはベローズ15の一端が装着されている。また、ベローズ15の他端は昇降プレート16に固着されている。このようにして、処理容器10底面の開口部分は、ベローズ15および昇降プレート16により密閉されている。
サセプタ11は、昇降プレート16上に配設された筒体17に支持されていて、昇降プレート16および筒体17と一体となって昇降し、これにより、サセプタ11をプロセスに応じた高さに調整するようになっている。また、サセプタ11の周囲には、処理室Uのガスの流れを好ましい状態に制御するためのバッフル板18が設けられている。
処理容器10の底部には、処理容器10の外部に設けられた真空ポンプ(図示せず)が備えられている。真空ポンプは、ガス排出管19を介して処理容器10内のガスを排出することにより、処理室Uを所望の真空度まで減圧する。
蓋体20には、蓋本体21、導波管30、複数のスロット31を有するスロットアンテナ32および誘電体窓33が設けられている。蓋本体21の下面外周部と処理容器10の上面外周部との接合面にはOリング25が配設されていて、これにより、プラズマ処理を施す処理室U内は気密に保持されている。
導波管30は、その断面形状が矩形状であり、図2に示したように、処理室の天井面の上方にて互いに左右対称になるように蓋本体21に2つ配置されている。各導波管30は、その一端にてチューナ38を介してマイクロ波発生器34にそれぞれ連結されている。また、各導波管30は、マイクロ波の進行方向に対して複数のスロット31が配置された位置より手前の位置に分岐部分BPを有している。図2および図2のKB部分を拡大した図3に示したように、1本の導波管30が分岐部分BPにて10分岐することにより、10本の導波管が並んで蓋本体21に配設される。したがって、処理室の天井面の上方には、分岐後の導波管が20本並行に配設される。
チューナ38(例えば、スタブチューナ)は、プラズマ内のインピーダンスの変動に対してその整合(マッチング)をとるために設けられている。
各導波管30の内部には、フッ素樹脂(たとえば、アルミナ(Al2O3)、石英、テフロン(登録商標);PTFE(Polytetrafluoroethylene))などの誘電部材が充填され、この誘電部材によりマイクロ波の管内波長λgが、λg=λc/(ε)1/2にて示される値に制御されるようになっている。ここで、λcは自由空間(真空状態)の波長、εは誘電部材の誘電率である。ただし、本実施形態では、図3のKC部分を拡大した図4に示したように、分岐部分BPおよび分岐後の導波管内H2には、誘電部材としてアルミナ40または石英41が充填されている。
導波管30と導波管30内に充填されたアルミナ40または石英41との間には、わずかな隙間Sが設けられている。分岐部分BPの隙間Sには大気が充填されている。これは、分岐部分BPは、導波管30、チューナ38およびマイクロ波発生器34を介して外部と連通しているためである。
本実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100では、図3のI−I断面である図5(a)に示したように、分岐部分BPへのマイクロ波の入口には、導波管30を閉塞させる第1の誘電体43が配設されている。また、図3のII−II断面である図5(b)に示したように、分岐部分BPからのマイクロ波の出口には、導波管30を閉塞させる第2の誘電体44が配設されている。第1の誘電体43および第2の誘電体44は、たとえば、石英やアルミナなどから形成されている。
第1の誘電体43と導波管30との接合面は、第1のOリング43aにより封止され、第2の誘電体44と導波管30との接合面は、第2のOリング44aにより封止されている。さらに、このようにして第1の誘電体43および第2の誘電体44により仕切られた導波管内部の空間(分岐部分BP)には、SF6ガスが充填されている。なお、第1の誘電体43、第2の誘電体44および分岐部分BPの空間に充填されたSF6ガスの機能、作用および効果については後述する。
再び図1に戻ると、スロットアンテナ32は、各導波管30の下部にて蓋本体21と一体となって形成されている。スロットアンテナ32は、アルミニウムなどの非磁性体である導電性材料から形成されている。スロットアンテナ32には、各導波管30の下面にて、分岐後の各導波管30に、図2に示した11組のスロット31がそれぞれ設けられている。各スロット31の内部には、フッ素樹脂、アルミナ(Al2O3)、石英などの誘電部材が充填されている。
図2に示したスロット31は、2つの開口31a、31bから形成されている。各開口31a、31bは、その長手方向がマイクロ波の進行方向に対して左右にそれぞれ45°の傾きを持ちながら、開口31aの中央から開口31bの中央までのy軸方向の距離が、管内波長λgの1/4だけ離れた位置にて略T字状に配置されている。
たとえば、マイクロ波が円偏波である場合、導波管30内を伝播するマイクロ波により導波管30内にて発生する電磁界は回転する。電磁界は回転しながら略T字型スロット31から漏れ、誘電体窓33を透過して処理室U内に供給されるようになっている。
スロットアンテナ32の下部には、2つの導波管30に対して2枚の誘電体窓33が、配置されている。2枚の誘電体窓33は、石英ガラス、AlN、Al2O3、サファイア、SiN、セラミックスなどの誘電材料により形成されている。
各誘電体窓33は、格子状に形成された梁36によりその周縁にてそれぞれ支持されている。梁36は、アルミニウムなどの非磁性体である導電性材料にて形成されている。図1に示したように、梁36は、その内部を貫通する複数のガス導入管37を有している。
冷却水配管50には、マイクロ波プラズマ処理装置100の外部に配置された冷却水供給源51が接続されていて、冷却水供給源51から供給された冷却水が冷却水配管50内を循環して冷却水供給源51に戻ることにより、蓋本体21は、所望の温度に保たれるようになっている。
ガス供給源52は、マスフローコントローラ53およびバルブ54と連結し、さらに、ガスライン55を介して複数のガス導入管37に接続されている。ガス供給源52は、マスフローコントローラ53の開度およびバルブ54の開閉をそれぞれ制御することにより所望の濃度のガスをガスライン55から複数のガス導入管37に通して、処理室U内に供給する。
以上に説明した構成により、図2のマイクロ波発生器34から出力された、たとえば、2.45GHz×2のマイクロ波は、分岐前の2本の導波管30を伝播し、分岐部分BPにてそれぞれ10分岐し、20本の導波管をさらに伝播して各スロット31に通され、さらに、各誘電体窓33を透過して処理室U内に入射される。このようにして入射されたマイクロ波の電界エネルギーによってガス供給源52から供給されたガスがプラズマ化されることにより、基板Gがプラズマ処理されるようになっている。
(分岐部分近傍にて発生する異常放電)
図3のKC部分を拡大した図4に導波管30の分岐部分の一部を示したように、導波管30の分岐部分とは、導波管30の突起を形成する部分をいい、たとえば、突出部Tをいう。これらの突出部Tは、多方向にほぼ直角に分岐した後、かなり大きく突出し、その先端では角張った構造をしている。
このような構造を有する突出部Tには、電界エネルギーが集中する。なぜなら、マイクロ波の電界エネルギーは、尖ったところや角張ったところに集中する性質を持っているためである。このとき、突出部Tに集中する電界エネルギーの強度は、誘電部材の誘電率εに近似する。誘電部材の一例としてアルミナ40を使用した場合、突出部Tの近傍では、比誘電率倍(比誘電率k=ε/ε0 ε:アルミナ40の誘電率、ε0:真空状態における誘電率)の強度を持つ電界、すなわち、導波管内にアルミナ40を充填させていない場合の約8.6倍の強度を持つ電界が発生する。この結果、突出部Tの近傍にて非常に電流が流れやすくなり、導波管30内にて異常放電が発生しやすい状態となる。
また、導波管30およびこの導波管内に充填されるアルミナ40はどちらも固体である。よって、導波管30とアルミナ40とを密着して設けると、導波管30を形成する金属とアルミナ40との熱膨張係数の違いにより、アルミナ40に割れが生じる場合がある。このため、導波管30とアルミナ40との間には、わずかな隙間Sが設けられている。その隙間Sは、導波管30およびマイクロ波発生器34を介して外部(大気系)と連通している。そのため、この隙間Sには、大気が充填される。
突起部Tに対してその近傍に大気およびアルミナ40が存在する、いわゆるトリプルジャンクションB10〜B15では、突起部Tに対してその近傍に大気のみが存在しアルミナ40が存在しない部分より異常放電が起こる可能性が高くなる。その理由について以下に述べる。
電界が集中している突起部Tに対してその近傍に大気およびアルミナ40が存在すると、アルミナ40の表面に沿って樹枝状の放電路が形成される。このような放電は沿面放電と呼ばれる。この沿面放電は、次のようなメカニズムにより発生すると考えられている。すなわち、アルミナ40の近傍に存在する電子がアルミナ40に衝突することにより、アルミナ40に吸着していたガス(大気)が脱離し、プラズマ化することにより、アルミナ40の表面にて局部的に放電が発生する。この結果、電子が増倍するとともに、さらに脱離ガス(大気)がプラズマ化することにより絶縁破壊が生じ、電子が放出されてアルミナ40の表面に沿って電流が流れる。これが沿面放電である。
突出部T付近は、そもそも電界が集中して異常放電が生じやすいところ、その近傍に大気およびアルミナ40が存在する、いわゆるトリプルジャンクションB10〜B15では、このようにしてアルミナ40に沿って沿面放電が誘引されるため、アルミナ40が存在しない場合に比べて異常放電が起こる可能性がより高くなる。
これに加えて、プラズマ処理装置の起動後、処理室内においてガスがプラズマ着火するまでにはある程度の時間がかかる。この間、ガスをプラズマ着火させるために、マイクロ波発生器34からは、大パワーのマイクロ波が出力される。また、この間、処理室Uの内部は絶縁体として機能する。よって、マイクロ波は、スロット31を通って誘電体窓33を透過しても、処理室内に入射されずに反射し、再び導波管30内に戻る。このようにして、マイクロ波発生器34から出力された大パワーのマイクロ波と反射されたマイクロ波のパワーとにより、導波管30内の電界強度が非常に高くなり、異常放電が発生する可能性が高くなる。
また、プラズマ着火後も、均一なプラズマが安定的に生成されるまでにはある程度の時間がかかる。プラズマは、導体であるため、処理室内に入射されたマイクロ波の一部を吸収する。しかし、均一なプラズマが安定的に生成されるまでの間は、プラズマの生成状態が不安定であるため、処理室内に入射されたマイクロ波のうち、プラズマに吸収される電界エネルギーとプラズマを反射する電界エネルギーとの割合が変動する。この結果、プラズマの状態が変化して、プラズマ内のインピーダンスが変動する。このような変動に対しては、チューナ98によってインピーダンスの整合をとるが、プラズマ内のインピーダンスが常に変動すると、このインピーダンス整合が不安定な状態になる。
さらに、インピーダンス整合が安定化した後も、プロセス実行中にガス種やマイクロ波のパワー等のプロセス条件を変化させたときには、プラズマ内のインピーダンスが変動し、その後、すぐさま定常状態に戻るとしても、瞬間的にインピーダンス整合が不安定な状態になる。
このようにして、瞬間的であってもインピーダンス整合が不安定な状態になると、導波管30内の電界強度にバラツキが生じる。これにより、そもそも異常放電しやすいトリプルジャンクション(図4では、B10〜B15)において、異常放電する可能性が極めて高くなる。この結果、異常放電が発生した部分で熱が生じ、導波管30の焼損や誘電体窓33の破壊をまねく。マイクロ波プラズマ処理装置100を構成する各種部材は、非常に高価であるため、それらの破損は好ましくなく、また、破損による処理のスループットの低下も大きな問題である。このため、これらを回避するために異常放電を発生させない対策が必要となる。
(SF6ガスの充填)
そこで、発明者は、本実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100において、図2、図3および図2の分岐部分BPの斜視図を模式的に示した図5のように、導波管30を第1の誘電体43および第2の誘電体44により閉塞し、さらに、第1のOリング43aおよび第2のOリング44aによりシーリングした状態で、分岐部分BPの空間にSF6ガスを充填することを考案した。
(SF6ガスの絶縁作用)
充填されたSF6ガスは、絶縁性を有する。それを証明するための実験装置のモデル200を図6に示す。この実験モデル200では、密閉容器210内に上部電極uおよび下部電極lが平行して設けられ、上部電極uおよび下部電極lは、直流電源DCに接続されている。また、下部電極lには、電流計Aが接続されている。密閉容器210には、各種ガスgが充填されている。
この実験モデル200を用いて、密閉容器210に空気、SF6ガス、N2ガスをそれぞれ充填した上で、直流電源DCから所定の直流電圧が印可されたときに上部電極uから下部電極lに流れる電流値を図7に示す。この結果から、SF6ガスが、最も電流を通しにくく(すなわち、絶縁性が高く)、N2ガスが最も電流を通しやすい(すなわち、絶縁性が低い)ことがわかる。ただし、空気は、N2ガスよりも絶縁性が高く、SF6ガスよりも絶縁性が低いが、比較的N2ガスと同じように電流を通しやすい。
また、SF6ガスと空気とを混合させた混合ガスの絶縁性を示すための実験装置のモデル220を図8に示す。この実験モデル220では、上部電極uが、密閉容器220の上端部に設けられ、下部電極lが、密閉容器220の下端部にて上部電極uに対して10mm離れて平行に設けられている。上部電極uと下部電極lとの間には、直径10mmの円柱状絶縁物Cylが挿入されている。密閉容器220内には、SF6ガスと空気とを混合させた混合ガスが充填されている。密閉容器220の内部圧力は5atmに保持されている。
なお、この実験モデル220の上部電極uおよび下部電極lは、本実施形態にかかる矩形状の導波管30の上部壁および下部壁に対応し、円柱状絶縁物Cylは、本実施形態にかかる導波管30の内部に挿入された誘電部材に対応し、密閉容器220の内部に充填された混合ガスは、本実施形態にかかる導波管30の内部に充填されたガス(SF6)に対応する。
この実験モデル220を用いて、密閉容器210内の空気に対するSF6ガスの混合率を変化させたときの、フラッシュオーバー電圧VB(FOV VB)を測定した結果を図9に示す。この結果は、電気学会技術報告第248号から抜粋したものである。この結果に示されるように、空気に対してその約5%以上の割合のSF6ガスを密閉容器210内に混合すると、上部電極uおよび下部電極l間に所定量以上の直流電流が流れるために必要なフラッシュオーバー電圧VBが顕著に高くなる。これにより、空気にその5%程度のSF6ガスを混合させただけで、電極間の絶縁性が著しく高くなることがわかる。
以上の結果から、発明者は、分岐部分を含んだ導波管30の内部空間に、従来充填されていた大気に替えて絶縁性の高いSF6ガスを充填することとした。この結果、発明者は、アルミナ40の表面近傍が、絶縁性が高く電離しにくいSF6ガスで満たされることにより、アルミナ40の表面近傍にて絶縁破壊が生じにくく、電流が流れにくい状態、すなわち、アルミナ40の表面近傍にて沿面放電が生じにくい状態を作り上げることができた。この結果、導波管の分岐部分にて異常放電が生じる可能性を極めて低くすることができた。
また、このとき、第1の誘電体43および第2の誘電体44により閉塞されている導波管30の内部空間(すなわち、導波管30の分岐部分を含んだ空間)の圧力が、大気圧以上になるようにした。このように、第1の誘電体43および第2の誘電体43により閉塞された空間の内部圧力を大気圧以上とすることにより、導波管30およびマイクロ波発生器34を介して外部からの大気がこの閉塞空間の内部に入り込むことを避けることができた。これにより、閉塞空間に充填されたSF6ガスに対する空気の混合率が高まって、閉塞空間内の絶縁性が弱まることを回避することができた。この結果、導波管30の分岐部分にて異常放電が生じる可能性を、さらに低減することができた。
(SF6ガスの漏れおよびその対策)
しかし、上記原理を単純にマイクロ波プラズマ処理装置100に応用すると、SF6ガスが処理室Uに漏れるという深刻な問題が生じるおそれがあり、その場合には、基板Gに良好なプラズマ処理を施すことができない。以下に、SF6ガスが処理室Uに漏れた場合の問題について説明し、その後、発明者が発案したSF6ガスの漏れ防止対策について説明する。
(SF6ガスの漏れ問題)
通常、複数のスロット31の下部には、処理室Uを密閉するとともにマイクロ波を透過する機能を持つ誘電体窓33が設けられていて、この誘電体窓33により各スロット31(開口)は塞がれている。しかし、何らかの原因でいずれかのスロット31から処理室内にSF6ガスが通過する通り道ができるおそれがある。たとえば、誘電体窓33と処理室Uとの接合面に設けられた図示しないOリングを介してスロット31から処理室Uの内部にSF6ガスが漏れる場合である。
このような場合、処理室内に進入したSF6ガスが、マイクロ波の電界エネルギーにより解離して、処理室内にてS系ガスやF系ガスに分解するおそれがある。このようにして処理室内にて発生したF系ガスは、処理室本体のアルミニウムや天井部のアルミナと反応する。これにより、処理室Uの内壁や天井部がフッ化され、部分的にAlFになることがある。また、たとえば、処理室Uの内壁や天井部に付着したSiO2膜とFとが反応することにより、SiF1〜SiF4ガスとなることもある。
このようにして発生したAlF膜の一部は、たとえば、成膜時のイオンの作用によりAl−F結合が切れてFとなり、再び処理室Uの内部に放出される。また、スロット31から処理室内に漏れ出したF2ガスや、SiO2膜とF系ガスとが反応して生成されたSiFxガスのうち、SiF4ガスは結合状態が安定しているので、その一部が処理室外に排出されず、処理室Uの内壁に物理的に吸着する。しかし、このようにして内壁に吸着したF2ガスやSiF4ガスは、吸着エネルギーが小さいため脱離しやすい。この結果、処理室Uの内部に発生したF系残留物が処理室Uの内壁から脱離して成膜中の薄膜に混入することにより、基板Gに良質な膜を形成することを妨げるという問題が生じる。
また、SiO2膜とF系ガスとが反応することにより、SiO2膜の一部がSiFx膜になると、SiO2膜とSiFx膜とでは誘電率εが異なるため、基板Gに形成された膜特性にバラツキが生じてしまう。
(SF6ガスの漏れ防止対策)
以上のように、SF6ガスが、スロット31から処理室Uの内部に漏れ出すことにより、膜が劣化して基板Gが製品化できない状況を回避するために、発明者は、まず、図5(a)に示した分岐部分BPへのマイクロ波の入口に、導波管30を閉塞させる第1の誘電体43を設け、さらに、第1の誘電体43と導波管30との接合面に第1のOリング43aを設けた。このようにして、第1の誘電体43によって導波管30を塞ぎ、さらに、第1のOリング43aにより第1の誘電体43と導波管30との接合面を封止することにより、分岐部分BPを含む空間と分岐前の導波管内の空間とを完全に分離することができた。この結果、分岐部分BPの空間を完全に大気から遮断することができた。
また、発明者は、図5(b)に示した分岐部分BPからのマイクロ波の出口に、導波管30を閉塞させる第2の誘電体44を設け、さらに、第2の誘電体44と導波管30との接合面に第2のOリング44aを設けた。このとき、発明者は、図2に示したように、マイクロ波の進行方向に対して第2の誘電体44を複数のスロット31より手前の位置に配置した。このようにして、分岐部分BPの空間を確実に密閉した状態において、発明者は、分岐部分BPの空間にSF6ガスを充填させた。
図5にその動きを矢印で示したように、マイクロ波は、第1の誘電体43を透過して分岐部分BPの空間に入る。その後、分岐しながら、第2の誘電体44を透過して分岐部分BPの空間から出る。このようにして、発明者は、第1の誘電体43および第2の誘電体44を用いて、分岐部分BPの空間へのマイクロ波の進行を妨げることなく、気密な分岐部分BPの空間にSF6ガスを充填をすることができた。さらに、第1のOリング43aおよび第2のOリング44aを用いて、分岐部分BPの空間を確実に密閉することができた。この結果、発明者は、充填されたSF6ガスが分岐部分BPの空間以外に漏れ出ることを確実に防ぐことができた。
この結果、導波管内にSF6ガスを完全に閉じ込め、いずれかのスロット31を介してF系ガスが処理室Uに漏れ出ること確実に回避することができた。これにより、処理室内がF系ガスにより汚染されることなく、処理室内にて基板Gに良好なプラズマ処理を施すことができた。
さらに、発明者は、SF6ガスを充填させる空間を第1の誘電体43および第2の誘電体44によって狭めることにより、SF6ガスの充填量を少なくすることができた。この結果、地球温暖化を防止するとともにコストを低減することができた。
また、発明者は、SF6ガスを充填させる空間が狭くすることにより、空間内の圧力を容易かつ確実に所望の圧力に制御することができた。このようにして、絶縁性ガスを充填させる空間内を高圧に制御することにより、上記空間内の絶縁性をさらに向上させることができた。この結果、発明者は、上記空間内に含まれる分岐部分BPにおける異常放電の発生をより効果的に抑えることができた。
この結果、異常放電により生じた熱による導波管30の焼損や誘電体窓33の割れを防止することができた。これにより、高価なマイクロ波プラズマ処理装置100の維持および管理に要する費用を低減することができるとともに、マイクロ波プラズマ処理装置100の稼動率を上げることにより、スループットを向上させ、これによりシステム全体の生産性を向上させることができた。
(第2実施形態)
つぎに、本発明の第2実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100の構成について、図10および図11を参照しながら説明する。図10は、本実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100を縦方向(y軸に垂直な方向)に切断した断面図であり、図11は、本実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100の処理室の天井面を示した図である。
第2実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100は、誘電体窓33が多数枚のタイル形状の誘電体から構成され、導波管30がY分岐している点で、2枚の誘電体窓33から構成され、導波管30がπ分岐していた第1実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100と構成上異なる。よって、この相異点を中心に、本実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100について説明する。
(マイクロ波プラズマ処理装置の構成)
本実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100には、図10の蓋本体21には、導波管30、複数のスロット31を有するスロットアンテナ32に加え、図11に示したように多数枚のタイル状の誘電体33aが設けられている。
マイクロ波発生器34およびチューナ38に接続された導波管30は、二股に分岐され(Y分岐)、2本の導波管となって、処理室Uの天井面中央にて終端するように蓋本体21に配置されている。このようにして、蓋本体21の内部には、x軸方向に8本の導波管30が並んで配置されると同時に、同一構成の導波管30、チューナ38およびマイクロ波発生器34が、天井面中央のx軸に平行な軸を対称として反対側にも配置される。これにより、16本の導波管30は、各導波管30がその端面にて互いに対向するように8本ずつ並んで配置されるとともに、8台のマイクロ波発生器34が4台ずつ対面して設けられる。このように構成されたマイクロ波プラズマ処理装置100の処理室Uでは、前述したように、1100mm×1300mm(チャンバ内の径:1470mm×1590mm)の基板G(G5基板サイズ)が処理される。
スロットアンテナ32の下部には、同一の導波管30に対してタイル状に形成された13枚の誘電体33aが、その長手方向が各導波管30の長手方向に対して略垂直になるように等間隔に配置されている。各誘電体33aの上部には、2個のスロットがそれぞれ設けられている。以上の構成により、処理室Uの天井面には、全部で208枚(=13×16)の誘電体33aが設けられている。
多数枚の誘電体33aは、石英ガラス、AlN、Al2O3、サファイア、SiN、セラミックスなどの誘電材料により形成されている。なお、図示していないが、各誘電体33aには、基板Gと対向する面にて凹凸がそれぞれ形成されている。このように各誘電体33aに凹部または凸部の少なくともいずれかを設けることによって、誘電体下部にて生成される表面波が各誘電体33aの表面を伝播する際に、その電界エネルギーの損失を増加させ、これにより、表面波の伝播を抑止することができる。この結果、定在波の発生を抑制して、均一なプラズマを生成することができる。
各誘電体33aは、格子状に形成された梁36によりその周縁にてそれぞれ支持されている。梁36は、アルミニウムなどの非磁性体である導電性材料にて形成されている。
以上に説明した構成により、図11に示した8つのマイクロ波発生器34から出力された、たとえば、2.45GHz×8のマイクロ波は、各導波管30を伝播し、各スロット31に通され、さらに、各誘電体33aを透過して処理室U内に入射される。このようにして入射されたマイクロ波の電界エネルギーによってガス供給源52から供給されたガスがプラズマ化されることにより、成膜等のプラズマ処理が基板Gに施されるようになっている。
導波管30の分岐部分BPへのマイクロ波の入口には、導波管30を閉塞させる第1の誘電体43が設けられ、さらに、第1の誘電体43と導波管30との接合面は、図示しない第1のOリングにより封止されている。
また、導波管30の分岐部分BPからのマイクロ波の出口には、導波管30を閉塞させる第2の誘電体44が設けられ、さらに、第2の誘電体44と導波管30との接合面は、図示しない第2のOリングにより封止されている。さらに、第1の誘電体43および第2の誘電体44により仕切られた分岐部分BPを含む空間には、SF6ガスが充填されている。
これによれば、第1の誘電体43により閉塞された導波管内の空間のうち、分岐部分BPを含む側の空間に充填されているSF6ガスにより分岐部分BP近傍の絶縁性を保つことができる。これにより、導波管30の分岐部分BPに形成された、いわゆるトリプルジャンクションに生じやすい異常放電を効果的に抑制することができる。
この結果、異常放電により生じた熱による導波管30の焼損や導波管30内の誘電部材(アルミナ40)の破壊を防止することができる。また、第2の誘電体44をスロット31の手前に設けることにより、SF6ガスがスロット31から処理室Uの内部に漏れ出すことを防ぐことができる。この結果、処理室内がF系ガスにより汚染されることなく、基板Gに良質なプラズマ処理を施すことができる。
さらに、第2の誘電体44の仕切りによってSF6ガスを充填させる空間を狭くすることにより、SF6ガスの充填量を少なくすることができる。これにより、地球温暖化を防止することができるとともにコストを低減することができる。
なお、図11に示したように、第2実施形態に係るマイクロ波プラズマ処理装置100は、4台ずつ対面して設けられた8台のマイクロ波発生器(34)から出力されるマイクロ波のパワーにより1100mm×1300mm(G5基板サイズ)の基板Gを処理する。しかし、、第2実施形態に係るマイクロ波プラズマ処理装置100を用いてプラズマ処理される基板Gのサイズは、730mm×920mm以上であればよく、たとえば、730mm×920mm(G4.5基板サイズ)の基板Gを処理する装置は、図示されていないが、図11のマイクロ波プラズマ処理装置100を中央にて縦方向に半分に分割した構成、すなわち、導波管30、チューナ38およびマイクロ波発生器34が図11のプラズマ処理装置の半分となった構成を有する。この装置に2台ずつ対面して設けられた4台のマイクロ波発生器34から出力されるマイクロ波のパワーにより、G4.5基板サイズの基板Gは処理される。
以上に説明した各実施形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置100によれば、導波管内の絶縁性を高めて、導波管内における異常放電を効果的に抑止することができる。
なお、第1の誘電体43は、図2および図11にH1にてその範囲を示したように、分岐前の導波管内のいずれかの位置に配設することができる。また、第2の誘電体44は、H2にてその範囲を示したように、分岐後の導波管内のいずれかの位置であって、複数のスロット31が配置された位置より分岐部分BP側の位置に配設することができる。
また、第1の誘電体43および第2の誘電体44は、両方備えられていることが好ましいが、第1の誘電体のみであってもよい。
また、以上に説明した各実施形態では、分岐部分BPの空間に充填する絶縁性ガスとしてSF6ガスを例示した。しかし、分岐部分BPの空間に充填するガス種は、絶縁性ガスであればSF6ガスに限られず、たとえば、SF6とN2との混合ガス、SF6とArとの混合ガス、SF6とN2Oとの混合ガス、あるいはSF6とCF4との混合ガスであってもよい。
また、上記各実施形態では、導波管30の分岐部分BPは、π分岐およびY分岐を有していたが、マイクロ波を分岐する形状であればこれに限られず、T分岐や十字分岐などの形状を有していてもよい。
上記実施形態において、各部の動作はお互いに関連しており、互いの関連を考慮しながら、一連の動作として置き換えることができる。そして、このように置き換えることにより、プラズマ処理装置の発明の実施形態を、プラズマ処理装置を使用して被処理体をプラズマ処理するプラズマ処理方法の実施形態とすることができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
たとえば、本発明にかかるプラズマ処理装置は、以上に説明した構成のマイクロ波プラズマ処理装置に限られず、たとえば、ECR(Electron Cyclotron Resonance;電子サイクロトロン共鳴)プラズマ処理装置、容量結合型プラズマ処理装置、誘導結合型プラズマ処理装置にも適用可能である。
また、本発明にかかるプラズマ処理装置では、成膜処理、拡散処理、エッチング処理、アッシング処理などのあらゆるプラズマ処理が実行可能である。