選択された特性(特定の結合特性、例えば、生物学的活性の触媒、活性または阻害などの特定の特性)を有するポリペプチドの産生に、多大な経済的な関心が持たれている。前記特性を有するポリペプチドは、非常に多数のポリペプチドバリアントから同定および選択されなければならない。最終的には、このような方法は、自然界の進化の模倣である。典型的には、多数の遺伝的に多様なポリペプチドミュータントを、最初の段階で産生する。第二の段階において、これらのポリペプチドミュータントを、望ましい特性に従って選択する。多様性の産生およびその後の標的への選択の方法は、望む回数だけ繰り返すことができる。しかしながら、遺伝的情報(遺伝子型:genotype)をポリペプチド(表現型:phenotype)へと割当てしなければならず、通常は、一方を他方に物理的に結合することによってなされる。
現在、ポリペプチドをコードする核酸の選択のための多くの方法が知られている。これらの方法は、ポリペプチドライブラリーの遺伝子型と表現型を物理的につなぐための異なる原理を利用している。
「ファージディスプレイ」と呼ばれる方法が、特定の結合特性を有するポリペプチドの選択のために使用され、成功している(Clackson T. and Wells J.A. (1984) In vitro selection from protein and peptide libraries. Trends Biotechnol. 12(5): 173-84を参照)。この方法においては、繊維状ファージ粒子が、その表面にポリペプチドを有し、遺伝情報(遺伝型)はその内部に保持する。核酸(DNA)と遺伝子産物(タンパク質)の間の物理的なつながりは、細菌細胞内部でのファージ粒子の産生の間に行なわれる。このようなことを行なうために、遺伝子型と表現型の保持を、ファージ粒子の代わりに酵母細胞(酵母ディスプレイ)または細菌細胞(細菌細胞ディスプレイ)で行なうという、類似の手法が知られている。これらの手法は、一般的に、ポリペプチドバリアントをコードするDNA分子が、ポリペプチドライブラリーの産生のために細胞に導入される。しかしながら、多量の環状DNAの産生およびそれらの形質転換を細胞内で行うことは非常に困難である。更にその上、ペプチドライブラリーの大きさは制限されている。多大な努力によって、1011のポリペプチドバリアントを有するライブラリーが得られた。108から109のポリペプチドバリアントを有するライブラリーは、通常の方法でクローニングされる。
ポリペプチドの進化選択のための他の方法として、選択されるポリペプチドを、DNA結合タンパク質、Lacリプレッサーへの融合によって、コード核酸に結合させる方法がある(Cull M.G. et al.(1992) Screening for receptor ligands using large libraries of peptides linked to the C terminus of the lac repressor. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 85(5): 1865-9)。リプレッサータンパク質は、ポリペプチドを、コードしているプラスミドに、プラスミド上のLacオペレーター配列への非共有結合によって結合させる。ポリペプチドが、それをコードする核酸へと結合することを確実なものにするために、反応は細菌細胞の内部で行なわれる。遺伝子型と表現型のin vivoでの結合が原因で、ポリペプチドライブラリーの大きさは、この方法でも制限される。なぜならば、多量の環状DNAの産生およびそれらの形質転換を細胞内で行うことは、非常に困難であるからである。この手法においては、ポリペプチドへの核酸の結合の際に用いた非共有結合は、その後の選択工程において、非常に穏やかな反応条件が必要となってくる。それゆえ、非常に強い結合特性を有するポリペプチド(遅い解離速度(低いkoff)を有する長く結合している複合体)は、非共有結合が原因で、選択することができない。なぜならば、このような核酸およびポリペプチドは、これらの選択に必要な長いインキュベーション時間の間に解離するからである。
いわゆる「リボソームディスプレイ(またはポリソームディスプレイ)」方法においては、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする核酸と一緒にリボソームの表面に結合している(Roberts R.W. (1999) Totally in vitro protein selection using mRNA-protein fusions and ribosome display. Curr. Opin. Chem. Biol. 3(3): 268-73)。その結合は、リボ核酸の翻訳が中断されるときに形成される。形成されたポリペプチドは、コードmRNAとともに、リボソームに結合している。この方法を用いて、異なる標的ポリペプチド(例えば、ペプチド、抗体またはアンキリン)に特異的に結合するポリペプチドが単離された。この方法は、完全にin vitroで行うことができるという利点を有し、より大きなポリペプチドライブラリー(>1012)を調製することができる。リボソームディスプレイ手法の欠点は、特別な条件下(高塩濃度、低温)で、ポリペプチドの選択を行なう必要があることであり、その結果、RNA/リボソーム/ポリペプチド複合体が安定となるが、この条件は、ポリペプチド選択のために使用される方法の条件としては必ずしも適していない。
表現型と遺伝子型を連結させる他の方法として、mRNAを、最初に、ピューロマイシンに共有結合させ、その後で、ピューロマイシンを、mRNAコードポリペプチドに結合させる方法がある。いわゆる「in vitroウィルス」方法においては、3’末端でピューロマイシングループを有するmRNAを転写させる。リボソームが、mRNAのコード領域(オープンリーディングフレーム)の末端に達したときに、ピューロマイシングループは、形成されたポリペプチドに共有結合することとなる。この方法の更なる欠点は、遺伝子型がmRNAによってコードされていることである。mRNAは、非常に少量のRNAseの混入によって、酵素分解されやすい。「in vitroウィルス」に関する様々な方法が知られており、その中には、RNAを、難しい方法によって、より安定なDNAに置換させる手法がある(Roberts R.W. and Szostak J.W. (1997) RNA-peptide fusions for the in vitro selection of peptides and proteins. Proc. Natl. Acad. U S A. (94(23): 12297-302; 米国特許第6,281,344号: Nucleic acid-protein fusion molecules and libraries)。
加えて、表現型と遺伝子型のin vitro連結のための方法が提案されており、この方法は、E. coliバクテリオファージP2Aの複製阻害因子の切れ目を入れる特性に基づく(FitzGerald, K. (1999) In vitro display technologies - new tools for drug discovery. (Drug Discovery Today, Vol. 5, No. 6))。複製阻害因子は、DNAの一方の鎖を切断し、切断するときに、チロシン残基によってDNAの5’に共有結合するエンドヌクレアーゼである。翻訳は、既に、タンパク質の細菌内産生における転写の間に行われているので、新たに形成されたP2Aポリペプチド融合タンパク質は、コードDNAと接触するようになる。このような酵素のcis活性は、in vitroで遺伝子型と表現型を連結させることが可能となる。しかしながら、この方法によって特性が改良されたタンパク質は知られていない。
表現型と遺伝子型をin vitroで結合させる更なる既知の方法は、mRNA-アプタマーのHIV1のTatタンパク質への非共有結合ではあるが高いアフィニティを有する結合に基づく(Fujita S. et al. (2002) Novel approach for linking genotype to phenotype in vitro by exploiting an extremely strong interaction between RNA and protein. J. Med. Chem. 45(8): 1598-606)。遺伝子型と表現型の連結は、「リボソームディスプレイ」および「in vitroウィルス」方法と同じように、翻訳の間にin vitroで行われる。この方法は、コンポーネントが解離する危険を有するという欠点がある。更にその上、この方法は、遺伝子型をコードするために、RNAse分解を受けやすいmRNAに基づいている。
類似の方法は、マイクロコンパートメント(micro compartment)内での、ストレプトアビジン-ポリペプチドコンジュゲートの、ビオチン化したこれらをコードする核酸への結合に基づく(Doi N. and Yanagawa H. (1999) STABLE: protein-DNA fusion system for screening of combinatorial protein libraries in vitro. FEBS Lett. 457(2): 227-30))。遺伝型と表現型のcis連結を確かなものとするために、この方法においては、ストレプトアビジン-ポリペプチドコンジュゲートを、油中水型エマルジョンの水溶性コンポーネントで転写および翻訳を行なう。それぞれのコンポーネントは、最大でも1つの核酸を含む。ストレプトアビジン-ポリペプチドコンジュゲートの翻訳後、これらは、コンポーネントにおいてビオチン化DNAに結合することができる。ポリペプチド-核酸コンジュゲートは、その後、エマルジョンから抽出し、望む特性に基づく選択方法に供することができる。しかしながら、この方法の制限は、転写-/翻訳混合物においては、ストレプトアビジンの発現が不十分であることである。
遺伝子型と表現型を結びつけるための更なる方法として、油中水型エマルジョンにおいて、転写-/翻訳混合物とDNAのコンパートメント化に基づく方法が知られている(Sepp A. et al. (2002) Microbead display by in vitro compartmentalisation: selection for binding using flow cytometry. FEBS Lett. 532(3): 455-8; 米国特許第6,489,103号: In vitro sorting method)。このような方法においては、遺伝子型および表現型のキャリアーとして、ビーズを使用する。それぞれのビーズ上では、コードDNA断片と複数のペプチド配列特異的抗体が接合している。DNA断片は、ペプチド配列の遺伝情報を保有しており、このペプチド配列は、可変ポリペプチドに融合している。ビーズを、転写-/翻訳混合物とともに、油中水型エマルジョンの分離したコンパートメントに封入する。発現したポリペプチド-ペプチドコンジュゲートは、ビーズ上の抗体への結合によって、固定化される。この方法は、選択方法の条件下で、遺伝子型と表現型が解離しやすいという欠点を有する。このため、異なるビーズ間で、ポリペプチド-ペプチドコンジュゲートの交換が生じるという危険があり、その結果、遺伝子型の表現型への間違った割当てが生じるという危険がある。
遺伝子型と表現型を結びつけるための他の方法として、in vivoで、メチラーゼ-ポリペプチド融合ポリペプチドを、DNAに結合させる方法がある(米国特許第5,856,090号: DNA-methylase linking reaction)。DNAは、メチラーゼ認識配列5’-GGCC-3’であって、配列中の三番目の塩基(シチジン)を、フルオロデオキシシチジン(F)で置換した配列を有する。新規の配列5’-GGFC-3’は、自殺型阻害因子(suicide inhibitor:「mechanism-based inhibitor」とも呼ばれる)としての働きを有する。この配列と反応するメチラーゼ-ポリペプチド融合タンパク質は、不可逆的にDNAに結合する。このことを行なうために、配列5’-GGCC-3’と同時にメチラーゼポリペプチドの遺伝子を含む環状DNAを、細菌細胞に導入する。フルオロデオキシシチジンを、これらの細胞の培養培地に添加し、プラスミドの複製の間に、5’-GGCC-3’配列へと導入させる。メチラーゼ-ポリペプチド融合タンパク質は、プラスミドに共有結合することができる。この方法は、プラスミドに結合するメチラーゼ融合タンパク質の数が正しくは規定されていないという欠点を有する。良く発現するポリペプチドミュータントは、プラスミド上により豊富に固定化され、その結果、選択工程において、アビディティ効果のために、平均的な結合特性を有する良く発現するポリペプチドミュータントが、あまり発現しないが非常に良好に結合するポリペプチドミュータントより優れてしまう可能性がある。更にその上、この手法においては、ポリペプチドライブラリーのサイズも、in vivoでの遺伝子型と表現型の結合が原因となって、制限される。
国際公開公報WO 98/37186号には、タンパク質発現ライブラリーの産生方法が開示されており、この方法では、タンパク質は、コードするDNAに共有結合している。使用するタンパク質コンジュゲートは、タンパク質-DNA結合領域(ファージP2のプロテインA;P2A)およびディスプレイ領域(評価すべきタンパク質)をコードしている。
しかしながら、前記特許出願の要約で述べられている文献「Liu Y. and Haggard-Ljungquist E., Nucleic Acid Research, 22, p. 5204-5210 (1994)」から、DNAを共有結合するために使用する精製したファージP2のプロテインAは、二本鎖でoriを含むDNAに結合せず、一本鎖でoriを含むDNAにのみ結合し、このことによって、プロテインAがoriに接近しやすいためには、特定のDNA構造および/または特異的なタンパク質が必要であることを指摘することができる。この制限は、同じ機能を有する他のタンパク質でも観察されている。この文献の実験セクションにおいて、プロテインAがインクルージョンボディを形成し、如何なる可溶タンパク質も検出されないことが具体的に記載されている。それゆえ、このタンパク質は、最初に変性させ、その後に、in vitroでフォールディングさせなければならない。このため、機能的な形態でのこのタンパク質の発現は、非常に不十分である。
前記した国際公開公報WO 98/37186号は、また、P2Aは、最初にssDNAによって活性化される必要があることを指摘している。記載されたシステムは、不十分であるため、同じ出願人(Isogenica)は、その後の出願(国際公開公報WO 04/022746号)において、以前の出願を以下のように認識していた:
「他の従来の方法、共有結合的ディスプレイ手法、すなわちCDTが、国際公開公報WO 98/37186号に記載されている。この方法は、遺伝子型の表現型への結合を維持するための、クロスリンクするタンパク質のcis作用を介した、タンパク質のDNAへの共有結合に基づく。この方法は、2つの要件が、この手法を成功に導くために必要であることを教示する。第一に、in vitroでコードDNAと相互作用(cis作用)するタンパク質が必要であり、第二に、前記タンパク質は、自身の鋳型DNAに共有結合しなければならない。この方法は、DNAに、回収および対象とする結合ペプチドの同定を妨げうる化学的な改変がなされているという悩みを有する。
前記方法に加えて、結合活性および酵素活性を直接選択することができ、対象とするペプチドをコードするインタクトな遺伝物質の回収が可能であって、複合ペプチド構造の十分な産生が可能となる、in vitroでペプチドライブラリーを構築する融通が利く方法に対する必要性が存在する。」
それゆえ、遺伝子型と表現型の共有結合は、システムの欠点のために、如何なる実際的な有用性も有していなかった。
ポリペプチドの、それをコードするDNAへの結合のためには、DNAへの結合が特異的であり、DNA分子あたり、規定した数のポリペプチド分子が結合することが遵守されていなければならない。選択方法においては、DNA分子に結合するポリペプチドの数が実験の成功に非常に重要であるために、後者は重要である。例えば、特異的に結合するタンパク質を選択する場合、複数のポリペプチドがDNA分子に結合するので、アビディティ効果によって、より低いアフィニティを有するポリペプチドが選択されてしまうという結果が導かれうる。このことは、特定のタンパク質に結合するための任意のタンパク質を得ることが難しい場合に、極めて稀に望まれる。この場合、高いアフィニティを有するタンパク質をその後に産生するために、より低いアフィニティを有する結合タンパク質を選択しようとする。ファージディスプレイを用いた抗体の選択においては、1つより多い抗体をファージ表面に設置させた場合、高いアフィニティを有する抗体を選択することが非常に困難であることが実証されている(Winter G. et al. (1994) Making antibodies by phage display technology. Ann. Rev. Immunol. 12: 433-55)。
米国特許第6,281,344号
米国特許第6,489,103号
米国特許第5,856,090号
国際公開公報WO 98/37186号
国際公開公報WO 04/022746号
米国特許第2002/119459号
Clackson T. and Wells J.A. (1984) In vitro selection from protein and peptide libraries. Trends Biotechnol. 12(5): 173-84
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それゆえ、本発明の目的は、従来技術が有する欠点を有しない方法を提供することである。特に、このような方法においては、DNA分子あたり結合するポリペプチドの数を制御できることが望ましい。例えば、アビディティ効果は、この方法で避けることができる。方法は迅速で、より効率的であるべきであり、例えば、短いインキュベーション期間を有し、時間を消費する細胞サイクルを避けるべきである。更なる目的は、多くのおよび時には過酷な条件での選択方法を行なうのに十分な強固さも有する、遺伝型と表現型との結合を提供することである。
更に、本発明は、コードタンパク質の特性に従って、複雑でない方法で、核酸を十分且つ迅速に選択することができる方法を提供する目的に基づく。好ましくは、この方法によって、核酸が、コードタンパク質の特性に従って選択することができるだけでなく、この方法の一回のまたは複数のサイクルを介して、核酸を改変および最適化することによって、進化的な方法で最適化することができる。
本発明の課題は、請求項1に記載の方法によって解決される。
本発明は、核酸および核酸によってコードされているポリペプチドの産生および割当てのための方法であって、以下の工程:
a)油中水型エマルジョン内へ、in vitro転写-翻訳混合物とともに、核酸をコンパートメント化する工程、
b)前記油中水型エマルジョンのマイクロコンパートメント内で、前記核酸によってコードされている融合ポリペプチドをin vitro発現し、それぞれの核酸が、コードする融合ポリペプチドに結合する工程、
を含み、
それぞれの融合ポリペプチドが、少なくとも1つの定常ペプチド部分Iおよび少なくとも可変ペプチド部分IIを含み、工程b)において、前記融合ポリペプチドが、その融合ポリペプチドをコードする核酸に共有結合し、この方法で結合した核酸あたりの前記融合ポリペプチドの数が、規定可能な整数である、方法。
この方法によって、核酸によってコードされているポリペプチドとともに、核酸の割当ておよび産生が可能となる。このような遺伝子型と表現型との連結は、多くの数の核酸のための、核酸によってコードされているタンパク質の特性に基づく選択方法には必須である。さもなければ、それぞれの核酸および/またはそれぞれのタンパク質は、コンテナーの中に蓄えられ、使用されなければならないからである。
驚くべきことに、このin vitro方法で使用する共有結合によって、遺伝子型(核酸)と表現型(タンパク質)を、安定な方法でお互いに結合させ、核酸に対するタンパク質の比率の正確な制御が可能となることを見出した。
本発明との関連において使用される用語「規定可能な整数」とは、核酸配列または構造が、核酸結合タンパク質の認識配列の数によって、核酸配列または構造に結合する融合ポリペプチドの正確な数を規定する、すなわち、特定することを意味する。
本発明の方法にとっては、融合ペプチドをコードする核酸に共有結合する少なくとも1つの定常ペプチド部分Iを含み、適した選択方法で望む核酸を選択するのに使用される少なくとも1つの可変ペプチド部分IIを含む融合タンパク質を、核酸がコードしていることが必須である。
ポリペプチドの選択の間、核酸とポリペプチドの間の共有結合が、部分的には激しい条件下であっても核酸とポリペプチドの間の結合に損傷を与えることなく、複合体の安定性を確実なものとする。
好ましい実施態様においては、この方法は、付加的に、油中水型エマルジョンから、工程b)で調製した融合ポリペプチド-核酸複合体を抽出する工程を含む。
油中水型エマルジョンから、融合ポリペプチド-核酸複合体を抽出することによって、複合体を、その後の工程のために、たとえば選択方法のために、調製することができる。また、当業者に知られた他の精製および/または単離方法も実施することができる。
更に好ましい実施態様においては、本発明による方法は、ペプチド融合部分が望む特性を有するこれら融合ポリペプチド-核酸複合体から選択する工程を付加的に含む。これらの特性は、他の分子(例えば、タンパク質、ペプチド、金属、ポリマーなど)への特異的な結合とすることでき、または、触媒効果または他の分子もしくは生物学的システム(例えば、細胞フリーおよび細胞システムもしくは組織システム)の活性化もしくは阻害などの特異的な生物学的機能とすることもできる。好ましくは、本発明による全ての方法は、in vitroで実施される。しかしながら、選択工程は、また、例えば細胞および組織の使用を含むことができる。
それぞれのDNA-融合ポリペプチド複合体の具体的な必要性に、任意に通常の方法で適用することができる、タンパク質を選択する分野において知られている全ての方法は、当業者にとって使用することができる。融合ポリペプチドも、DNAも、それら両者の間の結合も影響を与えない、すなわち、改変または消滅しないことは、これらの選択方法にとっては、ほとんど必要ではない。選択方法として、多くの物質を同時にそして全体としてアッセイし、結果がそれぞれのアッセイした物資(ここでは、DNA-タンパク質融合体)について構築されている、典型的なスクリーニング方法を使用することができる。選択方法として、1つまたは複数の、同じまたは異なる方法を、並行してまたは連続して行なうことができる。選択方法の例示的な実施態様を、実施例において示す。
本発明による方法の更に好ましい実施態様は、任意に行った抽出工程後の、選択された核酸分子の増幅を含む。増幅することによって、選択された遺伝子型は、再度、表現型と分離する。現在では、増幅した核酸は、コードタンパク質およびペプチドの産生に使用することができ、または、例えば1つまたは複数の選択方法とともに、サブ選択を提供するために、再度、本発明による方法へと導入することができる。
より好ましい実施態様においては、本発明による方法は、付加的に、本発明により得られる核酸をランダムまたは定方向変異する工程を含む。例えば、変異については、工程e)の間または工程e)の後における、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、欠失、化学的改変または挿入が理解される。ランダムまたは定方向変異によって、本発明の方法において、変更した特性に関して、再度、既に選択された核酸を使用することが可能となり、同じまたは異なる選択方法によって最適化することができる。例えば、この方法においては、タンパク質産生物が既に特異的に結合するものとして選択された核酸を、本発明によって更に最適化することができる。加えて、当業者は、本発明の方法を使用して、活性、阻害または触媒効果に関して、核酸またはそのポリペプチド産生物を最適化することができる。
更に好ましい実施態様においては、本発明の方法は、選択された核酸を最適化する目的で、任意に行った核酸の1つのまたは複数の変異導入後に、一回または複数回、同じまたは異なる選択方法を用いて、以前に行なった方法の1つを、付加的に繰り返す工程を含む。
好ましくは、本発明による方法において使用される核酸は、二本鎖rRNA、mRNAまたはDNAである。より好ましくは、核酸はDNAであり、最も好ましくは、直鎖DNAである。なぜならば、これらは、ポリメラーゼ連鎖反応によって、迅速且つ容易に産生することができるからである。
更に好ましい実施態様においては、本発明の方法において使用される核酸は、化学的に改変された核酸、特に、化学的に改変されたDNAである。化学的に改変されたDNAとは、一般的なヌクレオチド以外のもの、および/または、天然に存在する塩基A、T、GおよびCとは異なる、付加的な化学的構築物を含むDNAである。例えば、このような改変は、コードされた融合ポリペプチドの定常ペプチド部分Iへの共有結合に有用であろう。改変が、一般的な増幅によって導入することができない場合、改変は、例えば、コンパートメント化工程a)の前、または、改変プライマーを用いた増殖工程e)の間に、直接的に導入することができる。核酸へ改変を導入するための他の化学的方法は、当業者に知られており、本発明において使用することができる。
好ましくは、本発明による方法に使用される油中水型エマルジョンのそれぞれのマイクロコンパートメントは、1つより多くの核酸を含まない。このことにより、核酸の、これをコードするポリペプチドへの割当て、すなわち両者の結合が、選択方法において誤った情報へと導かないことを確実なものとすることができる。
油中水型エマルジョンによって調製されるマイクロコンパートメントについて、このような割当ては、ほとんどの場合、1μmから2μmの平均直径を有するマイクロコンパートメントについては確実であり、このサイズのマイクロコンパートメントは、本発明の好ましい実施態様である。
本発明による方法においては、それぞれのペプチド部分Iは、好ましくは、1つの核酸分子に共有結合している。この1:1比率によって、選択を媒介する領域の接近性にも選択が依存する選択方法において、アビディティ効果、沈殿、および、特にはタンパク質部分の立体障害が回避される。
好ましい実施態様においては、融合ポリペプチドの定常ペプチド部分Iは、(シトシン-5-)-メチルトランスフェラーゼである。
驚くべきことに、メチルトランスフェラーゼは、高い安定性で、in vitroで核酸に結合し、その上、in vitroで容易に転写および翻訳することが実証された。これらの物質のDNA結合性は、タンパク質の大部分の選択方法の過酷な実験条件にも耐える。直鎖DNAの使用にも驚くべきである。現在まで、メチルトランスフェラーゼは、in vivo細胞内で、環状プラスミドへの結合にはほとんど使用されていなかった。
DNA-(シトシン-5-)メチラーゼは、原核生物だけでなく、真核生物でも見出されている。真核生物の(シトシン-5-)-メチルトランスフェラーゼファミリーメンバーのアミノ酸配列は、高い相同性を有する。この相同性は、これらのタンパク質の10の保存された領域において最も高い。全ての(シトシン-5-)-メチルトランスフェラーゼは、補酵素S-アデニシルメチオニンから、メチル基を、DNAのシトシンの5部位へ転移する。
好ましくは、メチルトランスフェラーゼは、M.Hae III、M.Hha I、M.Hpa I、M.Msp IおよびAlu Iからなる群から選択される。
以下に、前記したメチルトランスフェラーゼおよび対応する認識部位を示す。
本発明を実施するのに有用な更なるメチラーゼは、当業者に知られており、容易に見出される(例えば、精製した酵素を販売しているNew England Biolabsのカタログ)。
しかしながら、前記したメチラーゼに続いて、当業者に知られている他のタンパク質またはペプチドを、本発明によって、DNAを共有結合するのに使用することができる。好ましくは、これらは、末端タンパク質である。
DNAに共有結合するタンパク質は、例えば、Streptomyces pneumoniaeおよびE. coliのファージ(例えば、Phi29、Cp-1およびPRD1)から知られている。更なるこのようなタンパク質は、ウィルス、例えばアデノウィルスに、直鎖プラスミド(例えばS1、Kalilo)におよび細菌(例えばStreptomyces)にも存在している。
バクテリオファージphi29の末端タンパク質(TP)は、最も特徴づけされているタンパク質である。このタンパク質は、DNAの5’末端に結合する。phi29のゲノムの複製の間に、新規に合成されたDNA鎖の末端が、末端タンパク質に結合する(protein priming mechanism)。しかしながら、この目的のためには、「old TP-DNA」、phi29 DNAポリメラーゼおよび「new」TPの四量体複合体が必要である。しかしながら、このシステムは、その後に直接的なクロス結合させるin vivo発現システムには、現実的ではない。Meijer, W.J.J., Horcajadas J.A., Salas M., phi29 family of phages, Microbiology and Molecular Biology Reviews (2001), p. 261-287。
Haemophilus aegypticusに由来するメチルトランスフェラーゼHae IIIは、特に、本発明による方法を実施するのに好ましい。
本明細書においては、メチルトランスフェラーゼの認識配列として、配列5’-GGFC-3’(Fは5-フルオロデオキシシチジンである)を含む改変核酸の使用が特に好ましい。
本発明の更なる態様は、本発明の方法を実施するのに好ましい試薬の使用に関する。
この態様において、好ましい実施態様は、本発明による方法における、少なくとも1つの(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼの使用である。
この態様における更に好ましい実施態様は、本発明による方法における、それぞれが少なくとも1つの定常ペプチド部分Iおよび少なくとも1つの可変ペプチド部分IIを含む融合ポリペプチドまたは共有結合した核酸-融合ポリペプチド複合体の使用であって、融合ポリペプチドは、ペプチド部分Iによって、前記融合ポリペプチドをコードする核酸に共有結合しており、この用法で結合した核酸あたりの融合ポリペプチドの数は規定可能な整数である使用である。
以下の1つの方法において、本発明の工程を、図を参照して例示的な方法で示す。
図Aの第一工程Aにおいて、お互いに若干異なっている遺伝子の集合1(DNAライブラリー1)を、これらの遺伝子の発現を可能とする懸濁液(転写-/翻訳溶液)とともに、油中水型エマルジョン3Aの水相に取り込ませる。この工程は、好ましくは、最大でも1つの核酸(好ましくは、直鎖DNA分子2)が、水溶性コンパートメント3Bあたりに存在するような方法で行なわれる。その後、水溶性コンパートメントに存在する遺伝子が、転写-/翻訳溶液成分によって、ポリペプチドとして発現する。
本発明による調製された融合ポリペプチド5は、2つのペプチド部分IおよびIIを含む。ペプチド部分I 5Aは、DNA分子上に存在する化学基と、または、核酸それ自身と結合することができるポリペプチドである。この化学基(ホシ☆、ここでは、DNA 2の左末端)は、DNA 2の配列に位置させるか、または、DNA 2の一方の末端に加えることができる。化学反応の間に、共有結合、そしてそれによるポリペプチド-DNA複合体6が、ポリペプチドとDNA分子の間に形成される。可変ペプチド部分II 5Bは、発明の選択工程によってその特性が求められたポリペプチドである。最終的に、試験管内進化が、本発明による方法によって行われる。
好ましくは、DNA-ポリペプチド融合複合体6は、結合後の抽出(工程B)によって、エマルジョンから分離する。この方法では、DNA-ポリペプチド複合体6の集合4が得られ、集合内では、DNA分子2は、ポリペプチド5A/5Bに共有結合しており、それぞれの核酸分子2は、それがコードする融合ポリペプチド5に結合している。
このDNA-ポリペプチド融合複合体6の集合4を用いて、本発明による選択方法において、選択した、または予め選択した特性を有するポリペプチドを選び、スクリーニングし、または選択する(工程C)。例えば、特異的に結合するポリペプチドの選択は、アフィニティ精製によって行なう。この目的のために、ポリペプチド-DNA複合体6の集合4を、固定化した標的分子8に加えると、特異的に結合するポリペプチド7を見出すことができる。非結合のポリペプチド-DNA複合体は、洗い流す。
その後(工程D)、結合したポリペプチド7の遺伝情報を、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって増幅し、これによって、複合体から分離する。増幅の間に、新たな遺伝子の集合9が得られ、これは、更なるポリペプチド-DNA複合体を得て、選択サイクルを実施するのに使用することができる(ルートE)。本発明によるこのような選択サイクルを十分な回数行なった後、選択されたDNA断片を、更なるサイクルのために変異を導入するか、または、コードポリペプチドのより密接な特徴づけのためにクローニングすることができる。
本発明の方法を実施することによって、試験管内での進化工程、多様性の産生、有用なバリアントを選択することによる最適なものの生存、新規の多様性の増殖および産生が、模倣される。例えば、現存する手法に対する利点は、以下を含む:
a)全ての方法が、in vitroで行なわれる、すなわち、ライブラリーのサイズを制限する生きた細胞での形質転換を回避することができる。
b)ポリペプチド-遺伝子型複合体は、好ましくはRNAを含まない。それゆえ、RNAaseの混入の危険が(リボソームディスプレイまたはmRNAディスプレイなどの他のin vitro方法と対照的に)重要でなくなる。
c)本発明による方法によって、DNAライブラリーの単純な産生が可能となる。PCRのみを行う必要があり、制限酵素切断もライゲーションまたは細胞の形質転換も必要ではない。このことによって、核酸ライブラリーを調製するのに必要な期間を著しく減少できる(数週間に代わって数日間)。それゆえ、複数の選択-/進化サイクルを、比較的に短い時間で、あまり複雑ではなく、次々に行なうことができる。
d)共有結合が、ポリペプチド(表現型)とDNA(遺伝子型)の間に形成され、これは、エマルジョンからポリペプチド/DNA-融合複合体の抽出が任意に行なわれた後において、複合体の安定性を確実なものとすることができるという利点を有する。
e)好ましくは、1つの融合ポリペプチドのみが、核酸分子あたりに結合する。最小限のアビディティ効果および増大した感度によって、高いアフィニティを有するバインダー(一価ディスプレイ)の選抜/選択が可能となる。
本発明においては、油中水型エマルジョンを、本発明によるコンパートメント化のために使用する。この目的のために、油によって囲まれた多くの小さな水のコンパートメントが形成され、これが、核酸/遺伝子(好ましくはDNA分子)およびその遺伝子産物を空間的に一緒にさせる機能を有する。コンパートメント化によって、遺伝子の遺伝子型を、それがコードする産物(RNAまたはポリペプチド)の選択した特性、すなわち表現型と接触させることが可能になる。この空間的な割当ておよび制限によって、共有結合の一義的な割当てが確かなものとなる。
油中水型エマルジョンの産生において、遺伝子/核酸とその遺伝子産物(mRNAおよびポリペプチド)が、誤った割当を生じるようなコンパートメント間での拡散ができないように、エマルジョンは十分安定とするように注意する必要がある。また、水のコンパートメントは、お互い融合することができない。油中水型エマルジョンは、好ましくは、油相(例えば鉱物油)に、界面活性剤(例えばSpan 80、Tween 80)の添加によって安定化する。このようにすることによって、水-および油相の自発的な分離を防ぐことができる。
図2において、油中水型エマルジョンのマイクロコンパートメントまたは水コンパートメント内における工程を、図示する。それぞれの水コンパートメントにおいては、好ましくは、最大でも1つのDNA分子2が、例を挙げると、自殺型阻害因子(例えば、(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ認識配列)または化学基(ホシ記号)とともに、存在する。最初の工程(III、転写)においては、mRNA 10は、水コンパートメント内に存在するDNA分子2から開始して合成され、このmRNAは、第二の工程(IV、翻訳)のための鋳型として使用される。この方法においては、融合タンパク質または融合ポリペプチド5(ドメイン5Aおよび5Bからなる)が発現する。この融合ポリペプチド5は、自殺型阻害因子(☆)と、DNA分子でまたはDNA分子上で反応し(工程V)、DNA-ポリペプチド複合体6を形成する(図1参照)。この遺伝子型と表現型の連結によって、表現型の特性による遺伝子型の選抜/選択が可能となる。選択された遺伝子のその後の増幅(ここでは、ポリメラーゼ連鎖反応、PCR)によって、選択方法において求まったDNA分子の増加がもたらされる。ポリペプチドが、このポリペプチドをコードしていないDNA分子と共有結合を形成した場合は、選択した特性を有するポリペプチドをコードしていないDNA分子が選択されるであろう。このため、本発明の方法における試験管内進化にとっては、ポリペプチドが対応する遺伝子と連結することが重要である。
水コンポーネント3Bのサイズは、一方で遺伝子の発現を(米国特許第6,489,103号、In vitro sorting method)、他方で発現融合ポリペプチド5へのDNA分子2の結合を効率的な方法で確かなものにするために、非常に重要である。結合反応が二分子工程であるので、結合効率は、水コンポーネントのサイズに依存する。このことは、連結の速度が、DNAおよび連結されるタンパク質の濃度の増加とともに増加することを意味する。
DNAの濃度によって、容積単位あたりにどれだけの量の物質の分子が存在するかが求まる。本発明においては、最大でも1つのDNA分子が水コンポーネントあたりに存在することが好ましい。なぜならば、好ましい遺伝子型-表現型融合複合体がこの方法で得ることができるからである。このため、DNAの濃度は、水コンパートメントの直径の増加に関連した第三の力によって減少する。このようにして、直径2μmの水コンパートメント内のDNA分子によって、0.4nMの濃度がもたらされ、一方、直径1μmのマイクロコンパートメント内のDNA分子では、濃度3.2nMと計算される。同じ考えが、発現したポリペプチドについてもなすことができる。本発明についての水コンパートメントの好ましいサイズ(すなわち、好ましい直径)は、1μmから2μmの範囲である。
1mlのエマルジョンにおいて、1μmの平均コンパートメント直径を有する約1011のコンパートメントを形成することができる。より大きなDNAライブラリーと関連するので、できるだけ多くの数のコンパートメントを産生することが望ましい。しかしながら、水コンパートメントは、ある最小のサイズに達しないようにはするべきでない。なぜならば、米国特許第6,489,103号および他の文献によれば、ポリペプチドの発現に必要である全ての分子が適合するわけではないからである。
最初の選択サイクルの間の誤った陽性選択に関して、本発明による方法はある程度耐えうる。例えば、1つより多いDNA断片が、1つのコンパートメントに到達した場合、選択された表現型は、望まない遺伝子型に誤って結合している可能性がある。その複合体が、その後の選択で単離される場合、そのDNAがPCRによって増幅される。しかしながら、これらの誤って選択された遺伝子型は、問題を有さない。なぜならば、それらは、以下の選択サイクルで除外されることができるからである。
例えば、油中水型エマルジョンは、水相および有機相の単純な混合によって調製することができる。混合は、文献に記載の幾つかの方法によって達成することができる(Finch C.A. et al., (1993) Encapsulation and controlled Release. Spec. Publ.-R. Soc. Chem. 138, 35)。例えば、水相をゆっくりと一滴ずつ加える間に、油相を、マグネティックスターラーで攪拌することができる。水相の添加後、エマルジョンのコンパートメントが望むサイズの分布になるまで、通常は、一定の時間攪拌する。攪拌の時間および速度は、水コンパートメントのサイズ分布にとって非常に重要である(Tawfik D.S. and Griffiths A.D. (1998) Man-made cell-like compartments for molecular evolution. Nat. Biotechnol. 16(7), 652)。
ポリペプチドが、直鎖または環状DNA断片から開始して油中水型エマルジョンで発現することができるように、タンパク質合成に関する機構を、DNAとともに、コンパートメントへ導入しなければならない。この機構は、連動したin vitro転写-/翻訳システムからなる。多くの市販の製品が、この目的のために利用することができる。油中水型エマルジョン内での細胞フリーのポリペプチド発現は、既に、1992年に文献に記載されている(Nametkin S.N. et al. (1992) Cell-free translation in reversed micelles. FEBS 309, 330)。油中水型エマルジョンで発現したポリペプチドの収率は、一般的には、非コンパートメント化溶液よりも、極めて少ない。収率の減少の程度は、発現させるポリペプチドに依存する(米国特許第2002/119459号, Optical sorting method)。
ポリペプチドの発現、そして、水相でのDNAへのこれらの連結の後で、ポリペプチド-DNA複合体は、エマルジョンから抽出することができる。この目的のために、エマルジョンを遠心分離し、水コンパートメントを反応バイアルの底に沈める。水コンパートメントは沈殿するが、インタクトなままである。油の上清を完全に取り除く。このようにして、水相を、油相から抽出することができる(Tawfik D.S: and Griffiths A.D., 1998を参照)。
好ましくは、実際の選択実験は、抽出したポリペプチド-DNA融合複合体を用いて行なう。
この目的のために、例えば、求める結合ポリペプチドのための分子を、固体表面上に固定することができる。この表面は、クロマトグラフィーカラムの樹脂、プラスチック表面または小さなビーズとすることができる。固定化分子に結合することができるポリペプチド-DNA融合複合体は、系を洗浄した場合でも、固体表面に存在し続ける。洗浄後に、存在するポリペプチド-DNA融合複合体を表面から溶出し、その後、PCRによって増幅させることができる。ビーズを使用することによって、場合によっては洗浄後に直接、存在するDNA分子を増幅することができる(溶出無し)。増幅の間、新たに選択したDNAライブラリーを入手する。このようにして、更なる複合体形成-および選択サイクルを行なうか、DNAライブラリーの多様性を増すために、新たな変異を導入するかのいずれかを行なう。変異導入の方法は、文献に記載されており、当業者に知られている。
以下に、本発明を実施するのに好ましいルートを、例示して示す:
ポリペプチドと核酸の連結のために、Haemophilus aegypticus (M.Hae III) (ATCC 1116)に由来するタンパク質Hae IIIメチラーゼを使用する。M.Hae IIIは、認識配列5’-GGCC-3’の左から三番目の残基(シチジン、C)をメチル化する。このシチジンが5-フルオロデオキシシチジン(F)によって置換されているDNA断片(5’-GGFC-3’)は、Hae IIIメチラーゼの自殺型阻害因子(mechanism-based inhibitorとも呼ばれる)認識配列としての機能を有し、DNAとポリペプチドの間で共有結合がなされる場所である。この自殺型阻害因子は、基質と複合体を形成したM.Hae IIIメチラーゼの三次元構造の解明のためにデザインされた(Chen L. et al. (1991) Direct identification of the active-site nucleophile in a DNA (cytosine-5)-methyltransferase. Biochemistry 30, 11018)。改変した塩基5-フルオロデオキシシチジンを含むオリゴヌクレオチドを使用することによって、選択実験のために後に使用される結合部位を、容易にPCRによってDNAへ導入することができる。5-フルオロデオキシシチジンで改変されたオリゴヌクレオチドは、市販されている(Microsynth, Balgach, Switzerland)。
本発明による試験管内進化によってその特性が改変されたポリペプチドは、メチラーゼのC末端に結合させる。融合タンパク質は、少なくとも2つのドメインからなり、その1つは(Hae IIIメチラーゼ)はDNAに共有結合する働きを有し、もう1つの他のドメインによって、選択される特性が求まる。
M.Hae III融合タンパク質をコードする直鎖DNA断片からなるDNAライブラリーを、転写-翻訳溶液および補酵素S-アデノシルメチオニン(SAM)とともに、油中水型エマルジョンへと導入する。DNAは、水溶性コンパートメントで転写され、生じたmRNAが翻訳される。このようにして、M.Hae III融合ポリペプチドが形成され、これは、5-フルオロデオキシシチジンと反応し、それによって、DNAとの共有結合が形成される。油中水型エマルジョンからのDNAメチラーゼ融合タンパク質複合体の抽出後、特異的に結合する、または、アロステリックに作用する、選択された特性を有するポリペプチドを得るために、選択実験を行なうことができる。
本発明は、図を参照に例示される。
以下に、本発明を、本発明の好ましい実施態様に関して、非制限的な例で例示する。
(実施例1)
本実施例は、有利な物理的特性を有する油中水型エマルジョンの産生を示す。
約100ngのDNA(発現のための鋳型、その量は変化させることができる)および80μMのS-アデノシルメチオニンとともに、50μlの水相(氷冷した転写/翻訳混合物(Roche))を、950μlの氷冷した油相(鉱物油(Sigma, M-5904)、4.5%(v/v)のSpan 80(Fluka)および0.5%(v/v)のTween 80(Fluka)、新たに調製)に加えた。
錠剤のためのガラスバイアル(Forma Vitrum AG, 40.0×18.75mm)内で、2分間かけて、一滴ずつ添加した。それぞれ10μlずつ5工程で水相を滴下する間、マグネティックスターラー(Heidolph MR 1000)を2000rpm(rounds per minute)で攪拌した。水相の添加後、攪拌を2000rpmで更に5分間続け、望むサイズの分布のコンパートメントに到達させた。
図3Aおよび3Bでは、前記のように調製した油中水型エマルジョンの水コンパートメントのサイズ分布を示す。X軸において、マイクロコンパートメントの直径(PD、μm)を対数目盛でプロットした。Y軸の値(% WP)は、対応するサイズのマイクロコンパートメントの水相画分の割合を示す(WP、水相の総容量の%)。
図3Aは、異なる時間における、油中水型エマルジョンのサイズ分布を示す。エマルジョンを調製し、その後、光散乱により(時間t1 = 0時間、実線カーブ1)、水コンパートメントのサイズ分布を直接求めた。油中水型エマルジョンを室温で96時間保存した後に、もう一度同じ測定を行なった(時間t2 = 96時間、点線カーブ2)。これらの2つのカーブ1および2によって示されたサイズ分布は、ほとんど変わらなかった;エマルジョンは安定である。サイズ分布は、Mastersizer X(Malvern Instruments Ltd., UK)で測定した。
図3Bは、前記のように調製した三つの油中水型エマルジョンの再現性を示す。サイズ分布のプロファイル(1、実線;2、点線;3、破線)は、ほとんど変わらなかった;エマルジョンは再現性可能である。サイズ分布は、Mastersizer X(Malvern Instruments Ltd., UK)で測定した。
(実施例2)
本実施例は、ポリペプチドへのDNAの共有結合を示す。
認識配列5’-GGFC-3’を有する268bpの長さのDNA断片を、本明細書で示す連結実験に使用した(F=5-フルオロデオキシシチジン)。2nMのDNAを、M.Hae III(38nM)および80μM S-アデノシルメチオニン(SAM)(New England Biolabs)とともに、反応バッファー(New England Biolabs)、50mM NaCl、50mM Tris-HCl (pH 8.5)、10mM ジチオトレイトール中で、37℃で異なる時間インキュベートした(15、30、60、120、180および240分間)。反応は、70℃で15分間加熱して停止させた(M.Hae IIIの不活性化)。サンプルを、変性10%TBE尿素ゲル(Novex)上で分析した。ゲルを、SYBR green II(Molecular Probes, Oregon, USA)で染色した。このように、一本鎖核酸を可視化した(図4参照)。
図4に示すゲルの最初のレーンMは、サイズマーカーをアプライした(10bp ladder, Invitrogen)。左から右へのレーン2-7においては、インキュベーション時間を増やしたサンプルをアプライした(各レーンの上に、インキュベーション時間を示す(15’-240’))。レーンX、YおよびZは、以下の3の陰性コントロールを示す:
X:補酵素SAMが存在しないサンプル;
Y:M.Hae IIIメチラーゼが存在しないサンプル;
Z:反応に使用したDNA断片(268bp)が存在しないサンプル。
変性ゲルおよび70℃での前処理によって、共有結合したM.Hae IIIのみがDNAに会合していることが確認された。M.Hae IIIが結合したDNAは、非結合のDNAよりもゆっくりとゲル上を泳動した。図4において、インキュベーション時間の増加とともに、上のバンドが濃くなることが、明確に認識することができる。これは、インキュベーション時間が増すと、より多くのDNA分子がM.Hae IIIに結合することを意味している。約2時間後、上のバンドと下のバンドの濃さが、ほとんど同じ濃さになった。
二本鎖DNA分子中で、一本鎖のみが自殺型阻害因子を含む。M.Hae IIIがそれぞれの認識配列5’-GGFC-3’に、すなわち、それぞれの二本鎖DNAに共有結合するならば、全てのDNAの半分がメチラーゼに結合することとなる。ゲルの上のバンドと下のバンドが、同じ濃さを示すことから、非改変一本鎖とM.Hae III会合一本鎖は同数存在している。これは、2時間後に、結合が定量的に生じることを意味している。
(実施例3)
本実施例においては、M.Hae III融合タンパク質をin vitroで発現させた。
M.Hae III融合タンパク質の発現のために、市販の転写-/翻訳システムを使用した(RTS E.coli HY Kit, Roche Applied Science, Switzerland)。このin vitroシステムとともに遺伝子を発現させるために、調節DNA配列を、5’-および3’-末端に加えなければならない。これは、オーバーラッピングPCRによって行なった(PCR assembly)。配列は、市販されている(RTS E.coli Linear Template Generation Set, His-tag, Roche Applied Science, Switzerland)。
PCRによって、DNAへ自殺型阻害因子5’-GGFC-3’を導入するために、Linear Template Generation Setによって得られたDNA断片を用いて更なるPCRを行なった。プライマー(オリゴヌクレオチド)として、Lin ext baおよびHae sub foを使用した。Hae sub foは、5-フルオロデオキシシチジンを有するHae IIIメチラーゼに対する認識配列(自殺型阻害因子)を有する。PCRは、以下の温度プログラムで行なった:
94℃(3分間)→[94℃(1分間)→58℃(1分間)→72℃(3分間)]30サイクル→72℃(5分間)→4℃
PCR産物は、QiagenのQIAquick PCR Purification Kitで精製した。
M.Hae III-His tag、M.Hae III-Flag tag、M.Hae III-カルモジュリン-His tagおよびM.Hae III-ED-B-His tagをコードするDNA鋳型を、同じように調製した(ED-B:フィブロネクチンの細胞外ドメインB)。Hae IIIメチラーゼへの融合は、全て、そのC末端へ結合させた。融合タンパク質は、フリー溶液およびエマルジョンで発現させた。
フリー溶液での発現:
200ngの各DNA鋳型を、25μlのin vitro転写-/翻訳混合物(Roche Applied Science)中で、30℃で3時間インキュベートした。
エマルジョンでの発現:
300ngの各DNA鋳型を、氷冷した50μlのin vitro転写-/翻訳混合物(Roche Applied Science)中でインキュベートした。前記のように、油中水型エマルジョンを調製した。最終的なエマルジョンを、30℃で3時間インキュベートした。ポリペプチドの発現およびDNA-ポリペプチド融合複合体の形成後に、水相を、エマルジョンから抽出した。エマルジョンを10.000rpmで6分間遠心分離し、油上清を吸引によって除去し、沈殿したエマルジョンに150μlのPBSを加えた。
その後に、1mlの氷冷した水飽和ジエチルエーテルを加えて、サンプルをボルテックスで十分に攪拌した。有機相と水相が分離するように、反応バイアルを静置させた。その後、有機相の下の水相をピペットで取り除き、別の反応バイアルへと移し、残ったジエチルエーテルを蒸発させるために、40℃で10分間インキュベートした。
発現量をウェスタンブロットで分析した(検出:抗-His-HRPコンジュゲート(Sigma)または抗-Flag(Sigma)と抗-マウス-HRPコンジュゲート(Sigma))。このように行なったところ、エマルジョン中で、フリー溶液で予期された発現収率の約20%が得られたことが求まった。M.Hae III-カルモジュリン-His tag融合タンパク質のみが、エマルジョンでの発現を検出することができなかった。融合タンパク質の如何なる断片も検出されず、低いプロテアーゼ活性であることを結論付けることができた。
また、発現した融合タンパク質のメチラーゼ活性を分析した。標的配列:
をメチル化することによって、DNA断片は、制限酵素Not Iによる切断から保護することができる。Not I切断部位を含むDNA断片を、M.Hae III融合タンパク質とインキュベートする場合、この断片はNot Iによって切断されない。
M.Hae III融合タンパク質が発現した転写-/翻訳溶液を、Not Iを含むDNA断片とインキュベートした。その後、DNA断片がNot Iによって切断されるかを調べた。調べた全ての場合において、発現したタンパク質は活性であった。1つの例外は、油中水型で発現させたM.Hae III-カルモジュリン-His tag融合タンパク質であり、これは、Not I制限酵素部位を有するDNAを50%までしか保護しなかった。このことによって、低い発現レベルであることを結論付けることができた。
(実施例4)
本実施例は、M.Hae III-His tagに結合するNi-アフィニティカラムクロマトグラフィーによる、DNA断片の仕分け、ここでは選択を示す。同じDNA断片をM.Hae III-His tagタンパク質に連結させなかった場合には、選択されなかった。
最初に、M.Hae IIIをコードするDNA鋳型を、リコンビナント産生したM.Hae III-His tagとインキュベートすることによって、DNAを、M.Hae III-His tagタンパク質に連結させた。
2nMのDNAを、350ngのM.Hae III-His tagおよび80μMのS-アデノシルメチオニンとともに、反応バッファー(New England Biolabs、50mM NaCl、50mM Tris-HCl (pH 8.5)、10mM ジチオトレイトール)中で、37℃で1時間30分間インキュベートした(総反応容量:30μl)。陰性コントロールについては、M.Hae III tagを除去した。
インキュベーション後に、50μMのバッファーA(50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 10mM イミダゾール, 0.1% Tween 20(Fluka) pH=8.0)を加えた。
20μlのNi-NTAマグネティックアガロースビーズ(Qiagen, Cat. No. 36111)を加え、サンプルを1時間室温でインキュベートした。
マグネティックNi-NTAアガロースビーズを、四回、100μlのバッファーB(50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 20mM イミダゾール, 0.1% Tween 20, pH 8.0)を用いて、Magnetic Separator(MPC-S, Dynal, Norway)によって洗浄した。
最後の洗浄工程後、Ni-NTAマグネティックアガロースビーズを、100μlの滅菌水に再懸濁した。
1μlの洗浄したニッケルビーズを用いて、残っているDNAの量を、定量PCRによって分析した(Wang A.M. et al. (1989) Quantitation of mRNA by the polymerase chain reaction. Proc. Natl. Acad. Sci. 86, 9717)。このPCRにおいては、鋳型の3’末端の最後の331塩基対のみを増幅させた。プライマーとして、オリゴヌクレオチドHae end ba(下流)およびHae sub fo short 2(上流)を使用した。競合DNAとして、M.Hae III-ED-B-His tag融合タンパク質をコードする鋳型を使用した(0.1pM)。前記プライマーを用いて、577bpの長さのDNA断片を、この鋳型から開始して増幅させた。選択した核酸の増幅後、サンプルを、アガロースゲル(1.4%)上にアプライした。
アガロースゲルを図5に示す。レーン1および4は、サイズマーカーをロードした(Smart Ladder Eurogentech)。600bpラベルより僅かに下のバンドは、競合剤としてPCRに加えたDNA断片である。より下側のバンドは、酵素M.Hae IIIとインキュベートした331bpのDNA断片である。レーン2においては、実験サンプルをアプライし、レーン3は、M.Hae III-His tagを含まない陰性コントロールである。レーン5では、0.1pMの331bpのDNA分子を、定量比較としてPCR溶液に加えた。レーン6は、競合DNA(陰性コントロール)のみを用いたPCRの結果を示す。
(実施例5)
M.Hae III-His tagおよびM.Hae-Flag tag融合ポリペプチドのin vitroでの発現、ならびに、アフィニティクロマトグラフィによるその後の仕分け、ここでは選択。
当業者に一般的な方法によって、プラスミドpIVEX2.3d(Roche Applied Science, Switzerland)へと、M.Hae III-His tag(I)およびM.Hae III-Flag(II) tagをコードする遺伝子をクローニングした。両方のプラスミドのそれぞれ500ngを、25μlの転写/翻訳混合物(Roche Applied Science, Switzerland)中で、それぞれ30℃で2時間インキュベートした。したがって、M.Hae III-His tag(III)およびM.Hae III-Flag tag(IV)をコードする直鎖DNA鋳型(それぞれ50ng)も、25μlの転写/翻訳混合物中で、30℃で2時間インキュベートした。ポリペプチドの発現を、ウェスタンブロットによって分析した(実施例3を参照)。
サンプルIからIVに、50μMのバッファーA(50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 10mM イミダゾール, 0.1% Tween 20(Fluka) pH=8.0)を加えた。20μlのNi-NTAマグネティックアガロースビーズ(Qiagen, Cat. No. 36111)を加え、サンプルを1時間室温でインキュベートした。マグネティックNi-NTAアガロースビーズを、六回、100μlのバッファーB(50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 20mM イミダゾール, 0.1% Tween 20, pH 8.0)を用いて、Magnetic Separator(MPC-S, Dynal, Norway)によって洗浄した。最後の洗浄工程後、Ni-NTAマグネティックアガロースビーズを、再度、100μlのPBSに懸濁した。1μlの洗浄したニッケルビーズを用いて、残っているDNAの量を、PCRによって分析した。
PCRのために、プライマーM.Hae Nco Ba(下流)およびM.Hae Xho His fo(上流)を使用した。これらのプライマーを用いて、1020bpのDNA断片を増幅した。PCRのために、以下の温度プログラムを使用した:
94℃(3分間)→[94℃(1分間)→55℃(1分間)→72℃(90秒間)]25サイクル→72℃(3分間)→4℃
PCRサンプルIからIVを、分析のためにアガロースゲル(1.4%)上にアプライした(図6Aおよび6B)。
図6Aは、in vitro転写/翻訳のための鋳型としてプラスミドDNAを用いた選択実験を示す。右側のレーン(M)には、5μlのサイズマーカーをロードした(Smart Ladder, Eurogentech)。左側の最初のレーン(I)には、M.Hae III-Flag tagをコードするプラスミドを、in vitro転写/翻訳に使用したサンプルをロードした。真ん中のレーン(II)には、M.Hae III-Flag tagをコードするプラスミドを、in vitro転写/翻訳に使用したサンプルをロードした。
図6Bは、in vitro転写/翻訳のための鋳型としてプラスミドDNAを用いた仕分け、すなわち選択実験を示す。右側のレーン(M)には、5μlのサイズマーカーをロードした(Smart Ladder, Eurogentech)。真ん中のレーン(III)には、M.Hae III-His tagをコードする直鎖DNAを、in vitro転写/翻訳に使用したサンプルをロードした。右側のレーン(IV)には、M.Hae III-Flag tagをコードする直鎖DNAを、in vitro転写/翻訳に使用したサンプルをロードした。
図6Aおよび図6Bのアガロースゲル上のDNAバンドの濃さから、M.Hae III-His tag融合ポリペプチドに連結したDNAが、Niアフィニティカラムクロマトグラフィーによって選択され増幅されたのに対して、M.Hae III-Flag tag融合ポリペプチドは選択サイクルによって選択されることがなかったことが明らかに示された。
(実施例6)
以下に、直鎖DNA分子を、これらによってコードされているタンパク質の結合特性に基づく例示の方法で、選択する。
この目的のために、融合タンパク質M.Hae III-カルモジュリンをコードするDNA鋳型を産生した。このDNA鋳型を、実施例3と同じように調製した。
キット製造者の取扱説明書に従って(RTS E.coli HY Kit, Roche Applied Sciences)、氷上で冷やしながら、in vitro転写/翻訳混合物を調製した。40μlの転写/翻訳混合物、5μlのS-アデノシルメチオニン(終濃度80μM)、100ngのM.Hae III-カルモジュリンDNA鋳型(約5×1010分子)および水を、全体で50μlの容量が得られるように加えた。DNA
は、乳化前にゆっくりと加えた。エマルジョンの調製のために、実施例1に記載したように、950μlの油相に水相を一滴ずつ加えた(2分間にわたって5×10μl)。
タンパク質の発現および共有結合したタンパク質-DNA複合体の産生のために、サンプルを30℃で150分間インキュベートした。その後、DNA-タンパク質融合体を含む水相を、エマルジョンから以下のように抽出した:サンプルを7.000rpmで10分間遠心し、水コンパートメントを、反応バイアルの底に沈殿させた。上清(油相)を吸引除去し、150μlのバッファーを加え(バッファーは、1mM CaCl2, pH 7.4, 後に使用するマグネティックビーズをブロックするための5μMのビオチン化二本鎖DNA断片:
, 1μMの競合二本鎖DNA断片:
を加えたTBS(Tris-buffered saline)からなる)、その後1mlのジエチルエーテルを加えた。その後、サンプルを、2×10秒間、ボルテックスで攪拌した。水相と油相が分離した後、下層の水相をピペットで取り出し、残っているジエチルエーテルを完全に蒸発させるために、24穴マイクロタイタープレート内で10分間乾かした。
水相の抽出の間に、ストレプトアビジンでコートされた25μlのマグネティックビーズ(Dynabeads, Dynal, Norway)を、ビオチン化したカルモジュリン-結合ペプチド(400nM:
)と、または、ビオチン化した抗-Flag抗体M2(2μl/50μlのビーズ、M2抗体、Sigma Aldrich)と、15分間インキュベートした。カルモジュリン結合ペプチドは、エマルジョンの水相に存在するM.Hae III-カルモジュリン-DNA融合体を選択するのに使用し、抗-Flag抗体は、陰性コントロールとして使用した。ペプチドまたは抗体とマグネティックビーズのインキュベーション後に、これらを、TBSC 0.1% Tween 20(Fluka)で一回洗浄した。その後、ビーズを、ビオチン化DNA断片(5μM):
を用いて15分間室温でブロックした。
抽出した水相を二等分し、前記で調製したマグネティックビーズと混合した。水相の半分は、カルモジュリン結合タンパク質でコートしたビーズに加え、半分のもう1つは、抗-Flag抗体でコートしたビーズとインキュベートした。両方のサンプルを、室温で45分間インキュベートし、10分間ごとに穏やかにシェイクした。
その後、マグネティックビーズを、Magnetic Separator(Dynal, Norway)によって、それぞれ100μlのTBSC 0.1% Tween 20(Fluka)で六回洗浄し、100μlのTBSCで一回洗浄し、マグネティックビーズの表面から、非結合のDNA-タンパク質融合体を取り除いた。洗浄後、マグネティックビーズを100μlの水で洗った。
その後、どれぐらいのDNA-M.Hae III-カルモジュリン融合タンパク質が、カルモジュリン結合ペプチドでコートしたマグネティックビーズまたは抗-Flag抗体でコートしたマグエティックビーズに結合することによって、選択されるかを評価した。この分析は、当業者の一般的な方法を用いて、すなわち、「リアルタイム ポリメラーゼ連鎖反応」(real-time PCR)(Applied BiosystemsのTaq-Man(商標)を用いて)行なった。real-time PCRの鋳型として、水に浮かんでいる100μlの全てのマグネティックビーズの0.1μlを使用した。それぞれのサンプルを三回測定した。
選択のために、カルモジュリン結合ペプチドでコートしたマグネティックビーズを使用したサンプルでは、7.8(±1.1)×105のDNA分子を0.1μlのビーズ上で検出した。しかしながら、抗-Flag抗体のみを用いた陰性コントロールにおいては、6.9(±1.4)×102のDNA分子のみが測定された(結果の標準偏差を丸括弧で示す)。結果として、ビーズを、抗-Flag抗体の代わりに、カルモジュリン結合タンパク質でコートした場合、1130倍のM.Hae III-カルモジュリンをコードするDNA分子が選択された。同じ実験を、他のM.Hae III融合タンパク質(マグネティックビーズ上の対応する抗体を用いて)でも行い、似たような結果が得られた。選択されたDNA数の比率(実験/陰性コントロール)は、557から6897の間で変化した。
(実施例7)
改変した(例えば、付加、置換、穴失による)DNA分子を有するライブラリー用いて機能するために、本明細書に記載の方法を用いて、ライブラリーから、望む結合特性を有するタンパク質-DNA融合コンジュゲートのみを選択することができる。
それゆえ、モデル実験を、2つの異なるDNA鋳型からなる混合物を用いて行なった。1つの鋳型は、融合タンパク質M.Hae III-カルモジュリンをコードし、もう1つは、M.Hae III-ED-Bをコードする。鋳型を、実施例3に記載したのと同じ方法で調製した。他に記さない限り、実験は、実施例6のプロトコールに従って行なった。
総量で109のDNA分子の混合物を、転写/翻訳混合物に加えた。このDNA混合物においては、融合タンパク質M.Hae III-ED-BをコードするDNA分子が、M.Hae III-カルモジュリンをコードするDNA分子よりも4200倍多かった。カルモジュリン結合タンパク質または抗-Flag抗体(M2, Sigma-Aldrich)のいずれかでコートしたマグネティックビーズを用いて、選択実験を行なった。実験結果は、real-time PCRによって評価した。しかしながら、マグネティックビーズは、直接、real-time PCRに使用できなかったので、選択されたDNAを、最初に、プライマー:
を用いて増幅した。PCRは、以下の温度プログラムで行なった:
94℃(3分間)→[94℃(45秒間)→51℃(1分間)→72℃(100秒間)]35サイクル→72℃(3分間)→4℃
M.Hae III-ED-BおよびM.Hae III-カルモジュリンをコードするDNA分子の比率は、水中でサンプルを1:105に希釈した後、real-time PCRを用いて測定した[ED-Bまたはカルモジュリンの遺伝子に特異的なTaqMan(商標)サンプルを用いる(Microsynth, Balgach, Switzerland)]。1μlの希釈DNA溶液を測定に使用し、それぞれの測定は、三回行なった。陰性コントロール(マグネティックビーズ上の抗-Flag抗体)の場合、M.Hae III-カルモジュリンをコードするDNA分子は検出されなかった。カルモジュリン結合ペプチドでコートしたマグネティックビーズを使用したサンプルにおいては、M.Hae III-ED-Bをコードする1.4(±0.2)×106のDNA分子、および、M.Hae III-カルモジュリンをコードする5.1(±0.7)×104のDNA分子が検出された(測定の標準偏差を丸括弧で示す)。結果として、選択後のM.Hae III-ED-BとM.Hae III-カルモジュリンの比率は27であった。開始混合物のDNA分子の比率(4200)と選択後のDNA分子の比率(27)の比較によって、この実験により、M.Hae III-カルモジュリンをコードするDNA分子の153倍濃縮がもたらされた。