JP2007506406A - 無酸素条件でのタンパク質の単離方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質を単離する方法に関する。基本的に、本発明の方法によって、タンパク質の単離方法においてβ−メルカプトエタノール又はジチオスレイトールなどの還元剤を使用することは不要になる。本発明の方法は、組換え細胞から、プロインシュリンなどの前駆体タンパク質を単離するのに特に適している。

Description

本発明は、タンパク質を単離する方法に関する。より具体的には、本発明は、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質を単離する方法を提供する。
ヒトのペプチドホルモンであるインシュリンは、摂食時及び空腹時の血糖値を調節し、肝臓及び脂肪組織細胞の細胞表面受容体を介して作用する。グルコースの取り込み、貯蔵及び産生を調節するのみならず、インシュリンは、とりわけ、脂質の産生と分解の調節にも関与している。
インシュリンの供給の欠乏は、血糖濃度の上昇(高血糖)をもたらし、慢性型においては、糖尿病(DM)の古典的な症候を呈する。インシュリンは、DMに罹患している患者に毎日投与される。
成熟したヒトインシュリンは、2個の鎖間ジスルフィド架橋によって連結されたA(α)及びB(β)鎖から構成されるペプチドである。第三のジスルフィド架橋が、A鎖の2個の残基を連結する。生合成前駆体であるプロインシュリンでは、A及びB鎖は、Cペプチドによって互いに連結されており、Cペプチドの役割は、A及びBセグメント間に適切なジスルフィド架橋を形成するのを助け、プロインシュリン分子を適切に折り畳ませることである。成熟の最後の段階では、タンパク分解酵素が特異的なアミノ酸残基を切断して、Cペプチドを放出し、成熟インシュリンを形成する。
現在、生合成組換えヒトインシュリンは、とりわけ、例えばE.コリ又は酵母中で発現されるプロインシュリン様ポリペプチドとして製造されている(例えば、米国特許第5,593,860号参照)。多くのケースで、プロインシュリンは、例えばヒト銅/亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(hSOD)などの異種タンパク質に、メチオニン残基を介してプロインシュリンが架橋された融合タンパク質又は組換えハイブリッドとして産生される。通常、これらのハイブリッドは、細胞内沈殿タンパク質又は封入体として組換え細胞中に蓄積する。
組換えプロインシュリンの製造中に、細胞の溶解後に遠心によって得られる封入体は、低濃度の界面活性剤又は変性剤で洗浄される。所望のタンパク質の純度を増加させるために、このような処理が繰り返される。分子間の疎水性相互作用及び誤ったジスルフィド結合の形成を最小限に抑えるために、ジチオスレイトール(DTT)又は2−メルカプトエタノールなどの還元剤を含有する尿素又はグアニジン塩酸溶液などの変性剤の中に、洗浄された封入体が溶解され、沈殿によって回収される。
異種タンパク質からプロインシュリンポリペプチドを放出するために、このハイブリッドは、通常、臭化シアン(CNBr)によって単離され、切断される。プロインシュリンは、酸化的亜流酸塩分解によってさらに修飾されて、プロインシュリンS−スルホン酸塩になる(例えば、EP 0 055 945及びEP 0 196 056参照)。次いで、プロインシュリンS−スルホン酸塩は、さらに精製され、ジチオスレイトール(DTT)、2−メルカプトエタノールなどの還元剤又はグルタチオンなどの酸化還元系を使用することによって、還元条件下で本来の高次構造へと再度折り畳まれる。プロインシュリンのインシュリンへの変換(すなわち、Cペプチドの除去)は、トリプシン及びカルオキシペプチダーゼBの複合作用によって達せられる。最後に、インシュリンは、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)を通じて精製され、必要に応じて結晶化される。
組換え細胞の溶解からプロインシュリンの適切な折り畳みに至るまでの完全な単離操作の間に、(融合)タンパク質中に含まれるシステイン残基の遊離チオール基は、不適切な又は非特異的な分子内又は分子間ジスルフィド架橋を形成することがある。これによって、でたらめなペプチドと不活性なホルモンが生じ、又は所望のタンパク質と莢雑タンパク質の「凝集物」が形成される(米国特許第6,150,134号)。従って、誤ったジスルフィド架橋の形成を防ぐために、遊離チオール基を封鎖するか、又は、誤ったジスルフィド結合を選択的に切断することを操作に含ませるべきである。
ジスルフィド結合の切断は、とりわけ、a)システイン酸酸化又は過ギ酸処理によって、システイン残基を修飾してシステイン酸とする、b)亜流酸塩分解(sulfitolysis)によってシステインを修飾してS−スルホ−システインにする(R−S−S−R→2R−SO )、c)ホスフィン又はメルカプタンなど、ある種の還元剤によって還元する、ことによって達成することができる(例えば、EP 0 379 162参照)。
しかしながら、タンパク質を単離した後に「オキシドシャッフリング」剤を使用するより、誤ったジスルフィド結合の形成を阻止するほうが好ましく、これを達成するためにも、同じく、ジチオスレイトール(DTT)、β−メルカプトエタノール、システイン、グルタチオン、E−メルカプトエチルアミン又はチオグリコール酸などの幾つかの還元剤が最も一般的に使用される。
しかしながら、上記全ての還元剤の使用には、毒性リスクがある、高価である、製品へのそれらの混入のため、さらなる精製が必要であるという問題がある。
それ故、組換えプロインシュリンを調製するための従来法は、溶解及びスルホン化、精製、濃縮という複雑な工程を必要とするので、満足のいくものではないことが明らかとなっており、この従来法においては、プロインシュリンの再折り畳みが効率的に進行せずに、所望のタンパク質の収率が低下する。
従って、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質を、効率的且つ混入物が少ない様式で単離するための改良法が必要とされている。
本発明者らは、実質的に無酸素雰囲気下でジスルフィド結合を有するタンパク質の単離を実施することによって、前記単離における還元剤の使用を回避することができ、又は少なくとも実質的に軽減できることを見出した。
本発明は、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質を実質的に無酸素の条件下で単離することを含む、前記タンパク質を単離する方法を提供する。
本発明の方法を使用することによって、好ましくない還元剤を使用する必要なしに、ジスルフィド結合を含むタンパク質を環境から抽出し、単離することが可能となった。本発明の方法の利点の一つは、単離され、精製されたタンパク質産物からこのような還元剤を抽出することがもはや不要であり、このため、単離操作がさらに効率的なことである。さらに、本発明の方法は、タンパク質のでたらめな高次構造の形成を抑え、安定な本来の高次構造のタンパク質を高い収率でもたらす。
本明細書において使用される「精製」又は「精製する」並びに「単離」及び「単離する」という用語は、組換え細胞の培養物から得られるような成分の混合物から、所定の高分子種などの単一成分を放出し、取得する過程として定義される。特に、本明細書の単離操作は、細胞の収集と溶解、該溶解から得られた粗細胞抽出物から得た特定のタンパク質の抽出を含み、核酸又は多糖などの他の細胞成分から、所望のタンパク質を含む封入体などの細胞下構造を単離する様々な工程をさらに含み得る。さらに具体的には、本発明の精製操作は、タンパク質をかなり純粋な形態で単離する過程、すなわち、単離した時に、タンパク質にさらなる不純物が存在しないようにする過程を含む。
「単離された」及び「精製された」とは、その自然の環境から分離されており、自然の状態において、ともに存在している他の成分が約60%から約99%存在しないこと、好ましくは80%から99%存在しない任意の分子又は化合物を意味する。
本明細書において使用される「組換え」という用語は、組換え又は合成によって生成されたタンパク質又は核酸構築物を表し、例えば、タンパク質の場合には、宿主細胞中に存在する、あるベクター若しくはプラスミドに結合された一連の特定の核酸要素又は発現カセットのRNA転写物の翻訳を通じて生成されたタンパク質を表す。本明細書において使用される「組換え」という用語は、意図的な人的介入を行わずに発生する現象などの天然に発生する現象(例えば、自発的変異、自然の形質転換/形質導入/遺伝子転位)による細胞又はベクターの変化を包含しない。
「宿主細胞」とは、ベクター又は発現カセットを含有し、それらの複製及び/又は発現を支える細胞を意味する。宿主細胞は、E.コリなどの原核細胞とすることができ、又は酵母、昆虫、両生類、植物細胞若しくは哺乳類細胞などの真核細胞とすることができる。好ましくは、宿主細胞は、細菌又は原核細胞である。インシュリンを生産するための特に好ましい宿主細胞は、E.コリ宿主細胞であり、好ましくはE.コリ株Sφ733である。
本明細書において使用される「ベクター」には、宿主細胞の形質移入において使用され、その中にポリヌクレオチドを挿入することができる核酸に対する呼称が含まれる。ベクターは、しばしばレプリコンである。
本明細書において使用される「タンパク質」という用語は、ポリペプチド又はその任意の一部を表す。
「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸のポリマーを表し、特定長の産物を表さない。このため、ペプチド、オリゴペプチド及びタンパク質は、ポリペプチドの定義に含まれる。本用語は、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化なども表さず、又はこれらを除外する。本定義に含まれるのは、例えば、アミノ酸の類縁体(例えば、非天然アミノ酸なども含まれる。)を一以上含有するポリペプチド、置換された結合を有するポリペプチド、及び本分野で公知の修飾(天然に存在するものと天然に存在しないものの両方)である。
本明細書において使用される「組換えタンパク質」という用語は、(1)組換えDNA技術を用いて連結された異なる起源のDNA分子の組合せの発現によって得られる半合成若しくは合成起源のポリペプチド、(2)その起源若しくは操作によって、本来付随しているタンパク質の全部若しくは一部が付随していない半合成若しくは合成起源のポリペプチド、(3)本来連結しているポリペプチドとは別のポリペプチドに連結された半合成若しくは合成起源のポリペプチド、又は(4)本来存在しない半合成又は合成起源のポリペプチドを表す。
「封入体」及び「屈折体」という用語は、各タンパク質の非特異的沈殿から生じる細胞内凝集物を表す。封入体及び屈折体の形成は、細胞質中での高レベルのタンパク質産生の結果であることが多い。封入体及び屈折体は、本来のタンパク質又は折り畳まれていないタンパク質から形成されるより、むしろ折り畳み中間体の蓄積を通じて形成される。封入体又は屈折体は、以下の理由のうちの何れか又は全てによって形成され得る。発現されたポリペプチドの異種性;高いタンパク質発現速度;非共有的な会合の結果として、分子間凝集する比較的多量の疎水性タンパク質、ヘルパータンパク質のようなシャペロンが存在しない又は不十分にしか利用できない。
本明細書において使用されている「ジスルフィド結合」という用語は、それぞれ、システイン残基の酸化によって形成される、ポリペプチド鎖又はポリペプチド鎖の部分の間の一又は複数の架橋として定義される。生じたジスルフィドは、シスチンと称される。
本明細書において使用される「実質的に無酸素」という用語は、酸素の大幅な欠乏又は酸素の実質的な欠如として定義され、大気中で通常遭遇される酸素レベルの減少から、例えば雰囲気、液体環境又は組織の完全な無酸素状態にわたり得る。
「タンパク質の高次構造」とは、ペプチド鎖の二次(ヘリックス、シート)、超二次(モチーフ)、三次(ドメイン)及び四次(多量体タンパク質)構造などの、タンパク質の特徴的な三次元形状を表す。
本明細書において使用される「本来の高次構造」という用語は、C.B.Anfinsen(Nobel Lecture, December 11, 1972)によって定義されるギブスのフリーエネルギーが最少となるように、その中でタンパク質が球状に折り畳まれる生体系における、生物学的に活性な形態のタンパク質の特徴的な状態、形成、形状又は構造を表す。
「再折り畳み」とは、完全な変性後のタンパク質が、そのジスルフィド結合の還元的切断によって本来の高次構造のタンパク質へと転換するインビトロ過程を表す。
ジスルフィド結合を有するタンパク質は、スルフヒドリル酸化還元酵素を例外として、一般に細胞質中には認められない。しかしながら、細胞質から搬出されるタンパク質(例えば、インシュリン及びアルカリホスファターゼなど)は、通例、ジスルフィド結合を含有する。これは、細胞質と細胞外環境との還元能の差に起因することが多く、細胞質中にチオレドキシン還元酵素が存在することが重要な要因であると考えられている。本来の高次構造中に酸化されたジスルフィドを含み得る細胞外タンパク質を、細胞質内で不活性な還元型に保つためには、細胞活性とチオレドキシン還元酵素活性の両方が必要とされることが、複数の研究によって示されている(Derman et al., 1993. Science 262:1744−47;Derman and Beckwith. 1995. J. Bacteriol. 177:3764−70)。
溶解(又は基質の枯渇による細胞の死亡若しくは増殖停止)後には、チオレドキシン還元酵素は、もはや、還元型のタンパク質のシステイン残基を維持することができず、システイン残基のジスルフィド結合への酸化を伴いながら、タンパク質のランダムな折り畳みが開始する。この過程は、しばしば、異常に折り畳まれたタンパク質又はでたらめなタンパク質をもたらす。
ジスルフィド結合の存在を含む、本来の高次構造状態のタンパク質(例えば、インシュリンなど)の純粋な抽出物を組換え材料から取得するためには、正しいジスルフィド結合の形成が重要な段階である。
この本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質を単離するための従来法は、還元剤の存在に依存している。チオレドキシン還元酵素の還元能が減少する時点から、タンパク質が安定化され得る時点又は正しい折り畳みのための条件が与えられる時点まで、無酸素の条件を適用することによって、でたらめなタンパク質の形成を効果的に防げることが本発明によって見出された。
第一の側面において、本発明は、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質を実質的に無酸素の雰囲気下で単離することを含む、前記タンパク質を単離する方法を提供する。
本発明の方法を使用すると、上述されているような還元剤が実質的に混入していない単離されたタンパク質産物が得られるであろう。この場合、前記タンパク質の大部分および実質的部分は活性を有し、本来の高次構造状態を取り、且つ生物学的に活性である。
本発明の方法に使用することができる適切なタンパク質は、原則的には、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質であるが、他のペプチドも本発明の方法によって単離し得る。極めて適切なタンパク質は、例えば、インシュリン、バゾプレッシン、ソマトスタチン、オクトレオチド、エンドセリンI、ノッチン様タンパク質(knottin−like protein)などのペプチドホルモン、リボヌクレアーゼなどの酵素、Cn2サソリ毒素、コノトキシンのエピトープなどのエピトープ及び/又はLDL受容体エピトープモジュールである。
一般に、ウイルス、細菌、真菌(酵母を含む。)、植物、動物又はヒトの何れかから得られるものであれば、ジスルフィドに富むタンパク質、ペプチド又はそれらの断片は、例えば、薬物設計において構造活性相関を研究する上で価値がある。従って、これらのタンパク質の本来の高次構造をさらに効率的に達成する本発明の可能性は、かかる科学分野に対しても重要な利点を有する。
本発明の方法は、ウイルス若しくはプリオンに随伴し、又は原核生物(細菌など)によって産生され、又は真核生物(酵母、真菌、植物、動物又はヒト細胞など)によって産生されるものなど、任意の供給源から得られる、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質の単離に適している。好ましくは、前記タンパク質は、産生生物の細胞のサイトゾル中に発現されたときに還元された形態又は状態であり、且つ、酸化された状態にあるときに、その本来の高次構造となる細胞外タンパク質である。
当業者であれば、ジスルフィド結合を有するタンパク質が、適切に(再)折り畳みされているかどうか、及び本来の高次構造にあるかどうかを決定することができる。このような決定には、例えば、適切に折り畳まれ、酸化され、及び消化されたLys−Arg-インシュリン中間体のHPLC分析による測定が含まれる。
本発明の方法は、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有する、組換えによって産生されたタンパク質を単離するために、好ましく使用される。組換えによって産生されたタンパク質は、直接発現されるか、又は融合タンパク質として発現され得る。発現されたタンパク質の検出は、例えば、ラジオイムノアッセイ、ウェスタンブロッティング技術又は免疫沈降などの、本分野で公知の方法によって行われる。
(組換え)タンパク質を製造又は(生)合成する様式は、本発明の方法とは全く無関係である。組換えタンパク質は、原理的には、本分野において公知である任意の方法によって調製することができ、例えば、組換えタンパク質の調製に使用される方法、例えば、組換え酵母によって、より好ましくは組換え細菌によって、最も好ましくは組換えE.コリ細胞(例えば、米国特許第5,593,860号に記載されているものなど)によって、調製することができる。多くの例では(但し、必ずしも全ての例ではない。)、このような方法は、融合タンパク質又はハイブリッドの形成をもたらすであろう。従って、本発明の方法は、融合タンパク質の単離に使用するのに極めて適している。
別の好ましい実施形態において、前記方法は、封入体中に産生されることができるタンパク質を単離するために使用される。最も好ましい実施形態において、本発明の方法は、pDBAST−LATベクター(米国特許第6,001,604号又は国際特許公開96/20724号を参照)から得られる、プラスミドpDBAST−RAT−N71(Bio−Technology General Ltd., Rehovot, Israel)を担持し、発現する組換えE.コリ株Sφ733によって産生される封入体中に含まれるインシュリン前駆体タンパク質を単離するために使用される。
本方法は、タンパク質を単離するための従来工程の実施を含み、この工程は、無酸素の条件下で実質的に行われる。本発明の方法において、収集、溶解及びタンパク質抽出という最初の段階は、上記還元剤を使用せずに、無酸素の条件下で行われる。
本発明の方法は、実質的に無酸素の条件下でタンパク質を単離することを含む。好ましくは、無酸素の条件は、窒素雰囲気、二酸化炭素雰囲気、又はヘリウム若しくは他の不活性ガスの雰囲気などの無酸素雰囲気を単離環境に与えることによって達成される。最も好ましくは、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質の単離中に無酸素の条件を与えるために、N雰囲気が本発明の方法において使用される。
好ましくは、本発明の方法に適用される無酸素条件は、0ないし1容量%、好ましくは0ないし0.5容量%、さらに好ましくは0ないし0.05%のOを含有する雰囲気に等しい条件、又は前記雰囲気と平衡状態にある液体である。最も好ましい実施形態において、前記無酸素条件は、実質的に0容量%のOを含有する雰囲気に等しい条件、又は該雰囲気と平衡状態にある液体である。
要約すれば、本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質を単離するための本発明の方法は、細胞の増殖及び/又はタンパク質自体の産生を含まない。しかしながら、細胞の収集(収集後の細胞の洗浄を含む。)の開始から、凍結(例えば、単離された封入体の凍結)による単離されたタンパク質の安定化に至るまで、本発明の方法は、タンパク質を含有する産生細胞などのタンパク質産生原料に対して実施される。
より具体的には、チオレドキシン還元酵素活性の減少の結果、細胞のサイトゾル中の還元能が弱まったときに、例えば、例えば収集及び収集後の洗浄中に、細胞が増殖を停止したときに、細胞が既に無酸素条件下に置かれていることが好ましい。無酸素条件は、タンパク質の再折り畳みが開始するまで、工程を通じて維持されるのが好ましい。
本発明の方法は、適切には、例えば、酵素的な前処理による細胞溶解などの工程の後に、例えば、超音波処理、加圧型細胞破壊装置による細胞の処理又はUltra−Turrax(R)処理などの高剪断混合による細胞の破壊又は断片化を含むことができるが、但し、前記溶解は無酸素条件下で行われる。本発明の方法のさらなる工程は、所望のタンパク質が封入体中に産生される場合には、無酸素条件下で、サイトゾルから封入体を分離又は単離することを含み得る。この工程の後に、単離された封入体を保存し、例えば、−20℃で凍結し、又は、例えば2から8℃で冷却することによって、その中に含まれるタンパク質を安定化することが可能である。タンパク質の単離及び精製におけるその他の工程段階は、必ずしも、無酸素条件下で実施されない。
保存から取り出された後、又は上記単離工程後にそのまま、前記単離され且つ必要に応じてさらに精製されたタンパク質は、本来の高次構造へと再折り畳みされ得る。一般に、ジスルフィド結合含有タンパク質の場合、変性された分子間ジスルフィド架橋の形成を回避するために、このような再折り畳みは、希釈溶液中で行われる。インシュリンを再折り畳みするための極めて適切な方法は、NaHCO及びEDTAを含有するpH12.0の緩衝液中に前記タンパク質を溶解させること、pHを11,2に下げること、木炭で処理すること、並びにろ過することを備える。次いで、ジスルフィドを酸化するために溶液に空気を与えることにより、ポリペプチドが折り畳まれる。
融合産物の場合、所望の組換えタンパク質を放出させるために、適切なタンパク分解酵素による融合タンパク質の消化を引き続き行うことができる。本発明の方法は、さらに、界面活性剤による可溶化、硫酸アンモニウムなどの物質による選択的な沈殿、カラムクロマトグラフィー、免疫精製法、アフィニティークロマトグラフィー及びその他の技術を含む、本分野で周知の標準的な技術によって、相当なタンパク質の純度まで精製することをさらに含み得る。例えば、「R. Scopes, Protein Purification: Principles and Practice, Springer− Verlag: New York (1982) ; Deutscher, Guide to Protein Purification, Academic Press (1990)」を参照。
ここで、以下の非限定的な実施例によって、本発明を例示する。
(実施例)
発酵後、加圧された空気の添加を遮断し、超過圧を除去し、培養物及びプロセス液より上の上部空間への窒素の噴き付けによって、培養液を無酸素状態にする。上部空間への窒素の噴き付けは、その後の全ての処理工程(細胞の収集及び洗浄、細胞溶解並びに封入体の追加処理が含まれる。)の間、継続される。窒素の噴き付けは、容器、貯蔵タンクなどの処理装置並びに遠心管、ホモゲナイザー及びろ過ユニットなどの補助装置に対しても行われる。窒素の噴き付けは、固定された配管を用いて実施される。
組換えヒトインシュリン前駆体を産生する産生株Sφ733/pDBAST−RAT−N−7−1の450L規模の2つの同一培養物を、同一の作業用セルバンクのアンプルの内容物から増殖させた。続いて、一連の発酵を行い、妥当性が実証された分析操作を用いて、両培養物のサンプルを分析した。その結果は、両培養物が極めて同様の態様で進行したこと、並びに得られた吸光度、乾燥重量、タンパク質及び相対インシュリン前駆体最終濃度は、8%未満の相違を示したことを明らかにしている。
発酵後、図1のフローチャートに模式的に図示されている同一の封入体(IB)回収操作を、両培養物に対して行った。
IB回収操作の間、後者の培養物のみに、一層の窒素ガスを与えた。前者の培養物は、有酸素状態下で取り扱った。
IB回収の後、正しく折り畳まれたインシュリン前駆体タンパク質の量を、HPLCを用いて決定するために、得られた封入体産物に対して小規模な再折り畳みと精製を行った。
この分析によって、無酸素状態で処理された培養物の収率に比べて、有酸素的に処理された培養物1リットル当りの、正しく酸化され、折り畳まれ、及び消化されたインシュリン前駆体の収率は、僅かに8.1%すぎないことが明らかとなった。
本発明者らは、インシュリンペプチドの単離に対する、異なる雰囲気条件の効果を明らかにすることができた。これは、無酸素的に回収された封入体の懸濁物を3つの40mLの分取液に分配する実験によって行われた。それぞれ、窒素ガス、加圧された空気又は酸素ガスの等しい流速を用いて、これらの分取液に16時間散布した。次に、取得可能なインシュリンの量を測定するために、前記懸濁物及び出発材料に対して、小規模な再折り畳みと精製を行った。封入体懸濁物に加圧された空気又は酸素ガスを散布すると、正しく折り畳まれたタンパク質の収率が激減するのに対して、窒素ガスを16時間散布したものは、収率に対してこのような影響を有さないことが、この分析によって示された。本発明の方法を使用すると、処理中にインシュリン前駆体封入体から酸素を除外したときに、正しく折り畳まれたタンパク質の収率を著しく増加させ得ることを、このことは示している。本実験の結果は、図2に示されている。
図1は、本発明の方法に含まれる主要な操作工程の模式的フローチャートである。 図2は、実施例2に記載されている単離された封入体懸濁液の40mL分取液の散布効果を示している。

Claims (8)

  1. 本来の高次構造中にジスルフィド結合を有するタンパク質を実質的に無酸素の条件下で単離することを備える、前記タンパク質を単離する方法。
  2. 前記実質的に無酸素の条件が実質的に無酸素の雰囲気を備える、請求項1に記載の方法。
  3. 前記タンパク質が、組換え細胞の封入体として存在する組換えハイブリッドタンパク質である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記単離が、前記細胞の収集及び破壊、前記封入体の単離及び/又は単離された産物の安定化を備える、請求項3に記載の方法。
  5. 前記タンパク質が前駆体タンパク質である、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
  6. 前記タンパク質がインシュリンである、請求項1から5の何れか1項に記載の方法。
  7. 前記実質的に無酸素の雰囲気が窒素雰囲気である、請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
  8. 前記組換え細胞が、プラスミドpDBAST−RAT−N−7−1を担持し、該プラスミドを発現するE.コリ株Sφ733の細胞である、請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
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