JP2007321503A - 複合pc鋼材及び複合pc鋼撚り線 - Google Patents

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Abstract

【課題】建築物や橋梁その他の構造物のアウトケーブル、ブレース材として、ケーブルの周囲にグラウトを充填しないで地震や強風等の外乱によるエネルギを所定以上に消費させ得る引張鋼材としての複合PC鋼材又は複合PC鋼撚り線を得る。
【解決手段】複合PC鋼材Aは、その断面に弾性限が異なる異種強度の複数の高強度鋼材1と複数の低強度鋼材2を、中心部の高強度鋼材1の外周に変形拘束材のカーボランダム3を介して他の高強度鋼材1と低強度鋼材2が接し、かつ他のそれぞれの鋼材1、2が互い違いに接触し、全ての鋼材が一体となるように配置して構成されている。変形拘束材は、鋼材間の軸方向及び/又は径方向への変形を拘束する部材であり、中心部の高強度鋼材1の外周のカーボランダム3は粒子を鋼材表面に付着させ、上記他の鋼材1、2の外周を囲むように炭素繊維のシート4がさらなる変形拘束材として配置され、このシート4により鋼材1、2の全体が一体となるように結束されている。
【選択図】図1A

Description

この発明は、プレストレスコンクリート構造物等の構成部材として使用され、構造物に作用する地震や強風等の外力による架構エネルギに対する消費(吸収)能を高めた複合PC鋼材及び複合PC鋼撚り線に関する。
プレストレスコンクリート構造物、特にプレキャスト・プレストレストコンクリート構造の柱・梁接合部に対し地震や強風等の外力による架構エネルギが作用する際に、その架構エネルギの消費(吸収)能を高める手段として、引張鋼材や混合ケーブルなどが知られている。引張鋼材の一例として、特許文献1の「引張鋼材」が公知である。この引張鋼材は、長さ方向に高強度の引張鋼素材と低強度の引張鋼素材が共存するように構成したというものである。
混合ケーブルの例として、特許文献2の「柱とPCa梁との接合構造及び接合方法」が公知である。この特許文献2に記載されている「混合ケーブル」は、柱の左右側面にPCa梁の端面を接合し、一方の梁の定着位置から柱を経由して他方の梁の定着位置まで配置されたシース管に挿通させて緊張かつ定着させる接合構造に使用される。そして、この混合ケーブルは、定着位置で梁内に配置されたシース管内に緊張材としてのPC鋼材撚り線と鉄筋を挿通させ、PC鋼撚り線を緊張させ柱と梁とを圧着させたうえ、PC鋼撚り線を楔により定着具に定着させ、鉄筋には緊張力を与えない状態で、シース管内にグラウト材を注入してPC鋼撚り線と鉄筋とを柱及び梁と一体化し、梁に生じる曲げ応力に対してPC鋼撚り線と鉄筋の引張力で抵抗するように構成したというものである。
上記引張鋼材や混合ケーブルは、柱や梁の曲げ部材に埋設して使用され、その場合ケーブルの周囲をグラウト(セメントミルク)で充填する必要があり、従ってコンクリート曲げ部材に引張鋼材を埋設する場合にしか適用できないという問題がある。しかし、最近では橋梁や各種構造物等において、増設や補強が容易なアウトケーブルによって地震力を負担するような構造や、ブレース構造の採用が増えてきており、このような構造に使用されるケーブルはグラウトされない場合が多く、上記先行技術の引張鋼材や混合ケーブルでは対応できない場合が多い。
このような状況で、ケーブルの周囲をグラウトで充填しないことを条件として、例えば低強度鋼のみの引張鋼材を、橋梁や各種構造物等のアウトケーブル・ブレースとして用いた場合、地震や風などの外乱による引張力によりアウトケーブル・ブレースが降伏し、圧縮力には引張鋼材は抵抗しないので、初回の引張力が作用するときはエネルギを消費(吸収)するが、それ以降は消費(吸収)しない。又、残留変形が大きい点も問題である。
一方、高強度鋼のみの引張鋼材を橋梁や各種構造物等のアウトケーブル・ブレースとして用いた場合、アウトケーブル・ブレースは弾性範囲内に留まるので、外乱によるエネルギ消費(吸収)はない。このため、ケーブルの周囲を現場でグラウトにより充填しなくても地震や強風などの外乱による架構エネルギ消費、即ち上記橋梁や各種構造物の接合部等に作用するエネルギを吸収し、橋梁や各種構造物等の崩壊を防止することが出来る引張鋼材の開発が所望されている。
上記混合ケーブルと呼ばれている異種強度鋼混合撚り線の挙動については、図6の(a)図に示すように、PC鋼材を用いた高強度鋼撚り線1’の芯線の外周に同じ高強度鋼撚り線1’と鉄筋のような低強度鋼撚り線2’の複数の撚り線を配置したPC鋼撚り線において、繰返し荷重の引張荷重を負荷した後除荷する際に、負荷時には高強度鋼撚り線1’は弾性伸び、低強度鋼撚り線2’は塑性伸びしてそれぞれ同じ長さ伸び、除荷時には高強度鋼撚り線1’は弾性縮み、低強度鋼撚り線2’は座屈せず塑性縮みをして同じ長さ縮むのが理想的な挙動である。
しかし、異種強度鋼混合撚り線は、それぞれの素線の強度の違いから、高強度鋼撚り線1’と低強度鋼撚り線2’が同一の変形をしない。特に、図6の(b)図に示すように、引張軸力を加えた後に除荷する過程に問題が多い。強度差が大きいため、低強度鋼撚り線2’が降伏してしまい、高強度鋼撚り線1’の縮みに追従せず、低強度鋼撚り線2’のみ伸びた状態になってしまうことがあるからである。また、図6の(c)図に示すように、除荷時には低強度鋼撚り線2’が圧縮域に入り、外周方向へ膨らみ座屈現象を起こすことがある。従って、このような現象を起こさないような対策を異種強度鋼混合撚り線に対して付加しなければ、十分なエネルギ消費(吸収)をし得る異種強度鋼混合撚り線は得られない。
なお、セメントミルクを注入して異種強度鋼混合撚り線の廻りを固めた場合でも、コンクリートの目地もしくは、ひび割れ部分において、異種強度鋼混合撚り線の低強度鋼撚り線2’が、ケーブルの外周方向への膨らみ、座屈現象を起こすことがあるので、同様の対策を採ることが望ましい。
この発明は、上記の問題に留意して、ケーブルの周囲にグラウトを充填しないで地震や強風等の外乱によるエネルギを所定以上に消費(吸収)、減衰させる引張鋼材として、橋梁やその他の構造物のアウトケーブル、ブレース材に利用し得る複合PC鋼材及び複合PC鋼撚り線を提供することを課題とする。
この発明は、上記の課題を解決する手段として、弾性限が異なる異種強度の鋼材を組み合わせた複合PC鋼材において、上記複合PC鋼材を構成する各鋼材に各鋼材間の軸方向と径方向又は径方向のみの方向への変形を拘束する変形拘束材を設け、繰返し荷重に対し低弾性限の鋼材に、高弾性限の鋼材の伸縮と同等の塑性伸び又は塑性縮みを生じさせるように変形拘束材により両鋼材間を拘束するようにした複合PC鋼材の構成としたのである。
上記課題を解決するもう1つの手段として、弾性限が異なる異種強度の鋼撚り線を組み合わせ、断面視中央の芯線を囲んでその外側に他の異種強度の鋼撚り線を撚り合わせるように配置した複合PC鋼撚り線において、上記複合PC撚り線を構成する各鋼撚り線に各鋼撚り線間の軸方向と径方向又は径方向のみの方向への変形を拘束する変形拘束材を設け、繰返し荷重に対し低弾性限の鋼材に、高弾性限の鋼材の伸縮と同等の塑性伸び又は塑性縮みを生じさせるように変形拘束材により両鋼撚り線間を拘束するようにした複合PC鋼撚り線の構成とすることが出来る。
上記の構成としたこの発明の複合PC鋼材、複合PC鋼撚り線は、橋梁や各種構造物の接合部等に用いた場合、ケーブルの周囲をグラウトで充填しなくても地震や強風などの外乱による架構エネルギ消費、即ち上記橋梁や各種構造物の接合部等に作用するエネルギを吸収(消費)し、橋梁や各種構造物等の崩壊を防止することが出来る。上記複合PC鋼材、複合PC鋼撚り線は、変形拘束材により架構エネルギ消費能を所定レベル以上に設定することが望ましいが、その場合複合PC鋼材、複合PC鋼撚り線の架構エネルギ消費(吸収)能を表す等価粘性減衰定数を5%以上に設定するのが望ましい。
上記架構エネルギの消費(吸収)能は、等価粘性減衰定数を評価指標として評価される。等価粘性減衰定数(heq)とは、地震などの外乱が構造物に作用して生じる振動が初めから終わりまでにどの程度減衰するかを、その減衰状態の動的な評価を含めて最も的確に表わす等価な粘性減衰(速度に比例する減衰)に置換し、弾性解析を行うのに用いられる減衰定数をいう。
上記複合PC鋼撚り線では、鋼撚り線の芯線の外周面に炭素を含むカーボランダム(炭化珪素の商品名)のような粒状材の変形拘束材を配設した複合PC鋼撚り線とするのが望ましい。さらに、上記粒状材の変形拘束材に加えて、炭素を含む炭素繊維シートのような高弾性材料を変形拘束材として鋼撚り線の芯線を囲む複数の鋼撚り線の外周に配設した複合PC鋼撚り線とすることも出来る。又、鋼撚り線の断面視外周を囲むようにエポキシ樹脂を主成分とする硬化性組成物のような充填材を変形拘束材として配設した複合PC鋼撚り線とすることも出来る。
この発明の複合PC鋼材、複合PC鋼撚り線は、弾性限が異なる異種強度の鋼材、鋼撚り線を組み合わせ、上記複合PC鋼材、複合PC撚り線を構成する各鋼材、鋼撚り線に各鋼材、鋼撚り線間の軸方向と径方向又は径方向のみの方向への変形を拘束する変形拘束材を設け、繰返し荷重に対し低弾性限の鋼材、鋼撚り線に、高弾性限の鋼材、鋼撚り線の伸縮と同等の塑性伸び又は塑性縮みを生じさせるように変形拘束材により両鋼材、鋼撚り線間を拘束するようにしたから、上記変形拘束材により繰返し荷重に対し複合PC鋼材、複合PC鋼撚り線の架構エネルギ消費能を所定レベル以上に設定することにより、低強度の鋼線の径方向への膨らみや、軸方向へのずれ等による塑性伸縮を防止することが出来る。従って、橋梁やその他の構造物のアウトケーブル、ブレース材として、ケーブルの周囲にグラウトを充填しないで地震や強風等の外乱によるエネルギを所定以上に消費させ得る引張鋼材としての複合PC鋼材及び複合PC鋼撚り線を得ることが出来る。
以下、この発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1Aは、(a)第1実施形態のPC鋼材と第2実施形態のPC鋼撚り線の断面図、(b)第1実施形態のPC鋼材の外観斜視図、(c)第2実施形態のPC鋼撚り線の外観斜視図をそれぞれ示す。図示のように、第1実施形態の複合PC鋼材A、第2実施形態の複合PC鋼撚り線Aのいずれも、(a)図に示すように、その断面は共通であり、第1実施形態の複合PC鋼材Aは、複数(図示の例では4本)の高強度鋼材1と複数(図示の例では3本)の低強度鋼材2を、中心部の高強度鋼材1の外周に変形拘束材のカーボランダム3を介して他の高強度鋼材1と低強度鋼材2が接し、かつ他のそれぞれの鋼材1、2もカーボランダム3を介して互い違いに接触し、全ての鋼材が一体となるように配置して構成されている。
又、中心部の高強度鋼材1の外周のカーボランダム3は粒子サイズ200〜300μmで、ビッカース硬度500を上回る硬度を有するものを鋼材表面に付着させている。そして、上記他の鋼材1、2の外周を囲むように高弾性材料の炭素繊維のシート4(厚さ0.6mm程度)がさらなる変形拘束材として配置され、このシート4により鋼材1、2の全体が一体となるように結束されている。変形拘束材としては、エポキシ樹脂のように被覆加工が容易なものの他に、炭素繊維(235kN/mm)以外にもガラス繊維(70GN/mm)、アラミド繊維などシート状にできるものが好ましい。特に、PC鋼材と同等以上の弾性限を有するものがより好ましい(鉄鋼210kN/mm)。
上記高強度鋼材1、低強度鋼材2は、所定径以上の太い棒状鋼材であり、図示のように、直線状にかつ互いに平行状に延びている。高強度鋼材1の材料の強度レベルは、2200N/mmのPC鋼材、低強度鋼材2の材料の強度レベルは600N/mmの鋼材が用いられている。なお、カーボランダムは、中心素線および外側素線相互間の変形を拘束するのに用いられ、炭素繊維は、外側素線が法線方向に膨らむのを拘束するために区別して用いられている。なお、カーボランダムは性能を発揮させるために絶対必要ではなく、炭素繊維のみでも可能である。
第2実施形態の複合PC鋼撚り線Aは、拡大した断面では第1実施形態の複合PC鋼材Aと同じであり、図1Aの(c)図に示すように、高強度鋼材1に替えて高強度鋼撚り線1’を、低強度鋼材2に替えて低強度鋼撚り線2’を用い、全体を複合PC鋼撚り線として構成されている点が異なるが、材料的には第1実施形態と同じである。この第2実施形態でも、第1実施形態と同じように、変形拘束材であるカーボランダム3の粒子、炭素繊維のシート4が配置されている。
上記の構成とした各実施形態の複合PC鋼材A1、複合PC鋼撚り線Aは、上記変形拘束材であるカーボランダム3の粒子、炭素繊維のシート4を備えたことにより、引張鋼材の周囲を建設現場でグラウト等により充填することなく、又所定以上の引張力を繰返し荷重として加えた場合でも、外周方向への膨らみ、軸方向へのずれを完全に拘束することが出来る。従って、地震、強風等の外力が繰返し荷重として作用するような構造物の接合部に対する変形拘束材として使用した場合に、その架構構造において十分な架構エネルギを消費(吸収)することが出来る材料として用いることが出来る。
上記架構エネルギの消費能は、等価粘性減衰定数を評価指標として評価される。等価粘性減衰定数(heq)とは、地震などの外乱が構造物に作用して生じる地震が初めから終わりまでにどの程度減衰するかを、その減衰状態の動的な評価を含めて最も的確に表わす等価な粘性減衰(速度に比例する減衰)に置換し、弾性解析を行うのに用いられる減衰定数をいう。減衰の種類には、外部粘性減衰、内部粘性減衰、固体摩擦減衰、履歴減衰があり、これらの減衰のうち履歴減衰に着目する。
履歴減衰は、構造物が非弾性域で繰返し荷重を受ける場合に生じる減衰であり、構造物の部材に引張荷重を加えた後除荷すると、この部材の引張荷重と伸びの関係を表す図上(図示省略)で引張荷重を加える時に描く曲線と引張荷重を除荷するときに描く曲線が異なる経路を辿りループ状の曲線となる。このループ状の曲線に囲まれた面積のエネルギが1サイクルで消費されるエネルギであり、この消費エネルギが履歴減衰と定義される。履歴減衰における曲線の面積は、等価な三角形状の面積に置き換えられて等価粘性減衰定数heqが求められる。そして、履歴減衰は等価粘性減衰定数を用いて2heqωmで評価でき、減衰定数が大きければ大きいほど、構造物の減衰が大きくなる。これにより構造物の振動を減衰させる効果があるかを示す指標として等価粘性減衰定数を用いることが出来る。
図1Bに第3実施形態としての複合PC鋼撚り線Aの断面図及び外観斜視図を示す。この実施形態では、鋼撚り線は図1A(c)図の高強度鋼撚り線1’と低強度鋼撚り線2’の異種強度混合鋼撚り線からなり、かつそれぞれの撚り線1’、2’の外周方向への膨らみ及び軸方向へのずれを拘束するために、撚り線と撚り線1’、2’の素線間にまでエポキシ樹脂の充填被覆層5を充填して全体を被覆し、製作されたものである。樹脂は被覆加工が可能であれば制限しないが、例えば、特許第2998146号公報や特開2001−3517号公報に開示されたものを用いることができる。特に、押出加工が容易なポリエチレンやエポキシが好ましく、中でも、粉体塗装が可能なエポキシがより好ましい。
この例では、第1、2実施形態における変形拘束材であるカーボランダム3の粒子、炭素繊維のシート4に替えて、エポキシ樹脂を変形拘束材として備えたことにより、所定以上の引張力を繰返し荷重として加えた場合でも、外周方向への膨らみ、軸方向へのずれを所定範囲内に拘束することが出来る。従って、地震、強風等の外力が繰返し荷重として作用するような構造物の接合部に対する変形拘束材として使用した場合に、その架構構造において十分な架構エネルギを消費(吸収)することが出来る材料として用いることが出来る。
上記第2、第3実施形態の複合PC鋼撚り線A、Aの鋼素線としてPC鋼材用素線を用い、素線径5mmφ、強度レベル2200N/mmの高強度鋼撚り線1’の4本と、素線径5mmφ、強度レベル600N/mmの低強度鋼撚り線2’の3本を用いた複合PC鋼撚り線の試験体a、bをそれぞれ実施例1、2、又図示していないが、上記と同じ高強度鋼撚り線1’、低強度鋼撚り線2’の異種強度混合鋼撚り線のみからなる複合PC鋼撚り線の試験体cを比較例1とし、以下では上記実施例1、2の複合PC鋼撚り線の試験体a、bと上記比較例1の試験体cに対して行った試験結果について記載する。
試験では、500kN縦型引張試験機に試験体aの複合PC鋼撚り線と、試験体bの複合PC鋼撚り線、比較例1の試験体cの複合PC鋼撚り線のみの端部をそれぞれ通常使用する楔を用いてセットし、固定する。この試験による結果を説明する前に、まず図2に試験体cの複合PC鋼撚り線(図中では異種強度混合撚り線として示す)をモデルとして、この試験体cに対して引張試験を行った場合の予想線図について、その試験による引張軸力と、異種強度混合鋼撚り線、その素線である高強度鋼素線、低強度鋼素線のそれぞれの伸びとの関係を表す模式図を示す。
この試験では、図示のように、高強度鋼素線は常に弾性、低強度鋼素線は弾塑性の範囲で繰返し引張力を加える。異種強度混合撚り線は、常に引張軸力を受ける状態であるため、プレストレスを与え、振幅の中央(B)まで引張軸力を加えた後に除荷した位置(O)を初期状態とする。そして、初期状態から振幅CE間で繰り返し引張軸力を与える。これを繰り返し実施し、変位は撚り線に貼り付けた歪ゲージの値を参考にして制御した。なお、実際の試験では、最大振幅までに小振幅での繰り返し載荷も実施している。
図3に上記基礎試験と同様な手順で試験体aの複合PC鋼撚り線、試験体bの複合PC鋼撚り線、及び比較例1について同じ試験を行った結果について示す。(a)図は試験体a、(b)図は試験体b、(c)図は比較例1の試験体cの試験結果である。試験体aの試験では、初期荷重を加えた後繰返し荷重を加えると、その履歴曲線はループCDEFを描いており、負荷時と除荷時のループがCDとEFの曲線で囲まれる面積が大きくなることによりその間にエネルギ消費(吸収)が行われる。従って、消費エネルギが大きく、炭素繊維とカーボランダムにより低強度鋼撚り線の膨らみと軸方向へのずれを拘束すれば、十分なエネルギ消費が行われることが明確となった。
試験体bの複合PC鋼撚り線では、最初の1サイクル目のみ僅かにループを描いているものの、2サイクル目以降は、低強度鋼撚り線の外周方向への膨らみがあり、僅かな幅の履歴ループの曲線CD、EF上を繰り返し辿り、消費されるエネルギは試験体aより小さいが、最小限必要なエネルギ消費は行われる。比較例1では、初期荷重を負荷した後、引張力を弱めると低強度鋼撚り線が外周方向へ膨らみ始め、履歴曲線は曲線CD上を繰り返し辿る。1サイクルの間に消費されるエネルギは、履歴曲線CDEFで囲まれた面積に相当するが、比較例1では履歴ループを全く描いておらず、エネルギ消費が全く得られない。
以上から試験体aの複合PC鋼撚り線は、エネルギ消費能が大きいことが理解されるが、このエネルギ消費能力を、等価粘性減衰定数(heq)で評価する。減衰定数が大きいほど、外乱を受ける構造物の振動の減衰が大きくなり望ましい。上記の複合PC鋼撚り線の構成の減衰の程度がどの程度であるかを図4に示す。横軸は最大振幅時のサイクル数、縦軸は等価粘性減衰定数を示す。なお、等価粘性減衰定数の詳細については前述した通りである。
図4に示すように、試験体aの複合PC鋼撚り線は外周方向への膨らみ、軸方向へのずれを共に拘束したため、3サイクルとも8%前後の等価粘性減衰定数値を示しており、外乱時のエネルギ消費が十分得られることが分かる。試験体bでは、最初のサイクルは等価粘性減衰定数値が8.5%もあるが、2サイクル目から低強度鋼撚り線の外周への膨れが観察され、4.9%まで低下したが、等価粘性減衰定数値として最小限3%以上の値を示し、必要最小限のエネルギ消費が行われる。
一方、試験体cの異種強度混合鋼撚り線では、何も変形拘束材を施していないため、等価粘性減衰定数は2.6〜0.9%であり、エネルギ消費(吸収)は殆どない。一般に、PC鋼撚り線を構造部材の補強材として使用する場合に、その等価粘性減衰定数値は5%程度以上あれば、地震時の減衰効果が期待できるとされている。したがって、上記試験体a、bの複合PC鋼撚り線であれば、必要な減衰効果が得られ、試験体cの複合PC鋼撚り線では減衰効果が不十分であることが分かる。
上記以外の実施可能なPC鋼材a〜aの部分変形形態の例を、図1Aの(d)図に示す。いずれも、ハッチングを入れて示す高強度鋼材(高強度鋼素線)1、白丸印○で示す低強度鋼材(低強度鋼素線)2を互いに同径又は異径状に、あるいは部分円弧断面と円形断面の部材等の組み合わせとしている。素線の本数構成は特に制限しないが、これらの製造には、現有のJIS規格等の鋼撚り線用の製造設備が利用できる7本、10本、19本で構成するものが好ましく、特に、エネルギー消費能の高いa、a、aの形態がより好ましい。
素線径は特に制限しないが、一般に流通しているφ32mm以下とすることが好ましく、撚り線に加工可能なφ7mm以下とすることがより好ましい。素線はパラレルに束ねてもよいが、運搬が容易なコイル状にすることができる撚り線にすることが好ましい。素線の断面形状も制限しないが、コイル状にして運搬可能な撚り線にすることができる円や楕円形状が好ましい。これらのPC鋼材も、素線間に変形拘束材(図示せず)を設ける。
この発明の複合PC鋼材、複合PC鋼撚り線は、ケーブルの周囲に現場でグラウトを充填しないで地震や強風等の外乱によるエネルギを所定以上に減衰させ得る引張鋼材としたものであり、橋梁やその他の構造物のアウトケーブル、ブレース材として広く利用できる。
第1、2実施形態の(a)複合PC鋼材A、複合PC鋼撚り線Aの断面図、(b)複合PC鋼材Aの外観斜視図、(c)複合PC鋼撚り線Aの外観斜視図、(d)他の実施可能なPC鋼材a〜aの形態を示す断面図 第3実施形態の複合PC鋼撚り線Aの(a)断面図、(b)外観斜視図 模式試験による引張軸力と鋼撚り線の伸びとの関係を表す図 模式試験と同様な手順による実施例の試験体a、bの複合PC鋼撚り線と、比較例1の試験体cについての試験結果の図 試験体a、bの複合PC鋼撚り線、比較例1の試験体cの減衰の程度を等価粘性減衰定数(heq)により示す図 複合PC鋼材、複合PC鋼撚り線の応用例を示す図((a)ブレース、(b)制震間仕切り、(c)アウトケーブル) 異種強度鋼撚り線の基本作用を説明する図
符号の説明
1 高強度鋼材
1’ 高強度鋼撚り線
2 低強度鋼材
2’ 低強度鋼撚り線
3 カーボランダム(炭化珪素)
4 炭素繊維のシート
PC鋼材
、A PC鋼撚り線
eq 等価粘性減衰定数

Claims (6)

  1. 弾性限が異なる異種強度の鋼材1、2を組み合わせた複合PC鋼材において、上記複合PC鋼材を構成する各鋼材1、2に各鋼材間の軸方向と径方向又は径方向のみの方向への変形を拘束する変形拘束材を設け、繰返し荷重に対し低弾性限の鋼材に、高弾性限の鋼材の伸縮と同等の塑性伸び又は塑性縮みを生じさせるように変形拘束材により両鋼材間を拘束するようにしたことを特徴とする複合PC鋼材。
  2. 弾性限が異なる異種強度の鋼撚り線1’、2’を組み合わせ、断面視中央の芯線を囲んでその外側に他の異種強度の鋼撚り線1’、2’を撚り合わせるように配置した複合PC鋼撚り線において、上記複合PC撚り線を構成する各鋼撚り線1’、2’に各鋼撚り線間の軸方向と径方向又は径方向のみの方向への変形を拘束する変形拘束材を設け、繰返し荷重に対し低弾性限の鋼材に、高弾性限の鋼材の伸縮と同等の塑性伸び又は塑性縮みを生じさせるように変形拘束材により両鋼撚り線1’、2’間を拘束するようにしたことを特徴とする複合PC鋼撚り線。
  3. 前記異種強度の鋼撚り線1’、2’の芯線をその外側の低強度鋼撚り線より弾性限の高い高強度鋼線としたことを特徴とする請求項2に記載の複合PC鋼撚り線。
  4. 前記鋼撚り線1’、2’の芯線の外周面に炭素を含む粒状材の変形拘束材を配設したことを特徴とする請求項2又は3に記載の複合PC鋼撚り線。
  5. 前記鋼撚り線1’、2’の芯線を囲む複数の鋼撚り線1’、2’の外周に炭素を含む高弾性材料の変形拘束材を配設したことを特徴とする請求項4に記載の複合PC鋼撚り線。
  6. 前記鋼撚り線1’、2’の断面視外周を囲むように高弾性材料の充填材による変形拘束材を配設したことを特徴とする請求項2又は3に記載の複合PC鋼撚り線。
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