JP2007317836A - 油入変圧器の診断方法 - Google Patents

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茂之 塚尾
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Abstract

【課題】鉄心二重接地に起因する過熱異常の判定を可能とする油入変圧器の診断方法を提供する。
【解決手段】油入変圧器から採取した絶縁油(試料油5)についてジアセチルの検出有無を分析することにより、鉄心二重接地に起因する過熱異常の有無を判別する診断方法であり、特に、PTI−GCMS分析法(ppbオーダーの精度)にてジアセチルが検出されなかった場合に、鉄心二重接地に起因する過熱異常有りと判別する。
【選択図】図1

Description

本発明は、油入変圧器の診断方法に関し、特に、鉄心二重接地に起因する過熱異常の判定を可能とする油入変圧器の診断方法に関する。
油入変圧器の内部に過熱や放電の異常現象が発生していると、内部に使用されている絶縁油、絶縁紙等の絶縁材料が徐々に分解して絶縁耐力が低下し、ついには絶縁破壊事故に至ることが懸念される。
そこで、油入変圧器の保守管理技術の一環として、油中ガス分析による変圧器内部異常の有無の判定基準や内部異常様相の診断などが「非特許文献1」にまとめられている。非特許文献1に記載された方法(以下において、「電協研法」ということがある)は、変圧器運転中の状態で容易に行えることから実用化され、稼働中の油入変圧器に適用されて事故防止に役立っている。
〔非特許文献1記載の「電協研法」〕
油中ガス分析による保守管理の方法は、変圧器の内部に異常があって過熱や放電が発生していると、絶縁油、絶縁紙、その他の絶縁材料が熱分解して分解ガスを発生し、生成した分解成分が絶縁油中に溶解するので、その絶縁油を採油して絶縁油中に含まれるガス成分を分析することによって異常を診断するというものである。
ガス成分としては、窒素(N2)、酸素(O2)、水素(H2)、メタン(CH4)、エタン(C26)、エチレン(C24)、アセチレン(C22)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)が用いられ、各ガス成分の量を分析することで診断される。
これらのガスのうち、H2,CH4,C26,C24,C22,COの和を可燃性ガス総量(Total Combustible Gas:TCG)といい、発生ガス量の管理指標として用いられている。
非特許文献1では、油中ガス分析結果から特定ガスの絶対量・増加量により、変圧器の状態を正常、要注意1、要注意2、異常のレベルにランク分けして所定の診断フローにより管理している。
油中ガス分析結果から異常の箇所、異常の程度、および緊急性を判断するために、以下の様相診断の方法が規定されている。
(1)ガスパターンによる診断(様相診断1)
(2)組成比(異常診断図)による診断(様相診断2)
(3)特定ガスによる診断(様相診断3)
(1)のガスパターンによる診断方法は、横軸に対象ガスを、縦軸には各ガスの最大値を1とし(最大値を示すガスを主導ガスと呼んでいる)、それに対する比率をプロットしてパターン図を描いて、その形状により異常の内容を診断するものである。変圧器内部の異常が放電と過熱ではガスパターンが異なることが知られており、ガスパターンにより異常部位の様相を診断するものである。
(2)の組成比による診断方法は、特定ガスとしてのC22,C24とC26のガス量の比率(体積比)から異常現象の内容を判断するもので、異常診断表や異常診断図としてまとめられている。異常診断図は、C24/C26の比率(体積比)を横軸、C22/C24およびC22/C26の比率(体積比)を縦軸とし、プロットして診断を行うもので、放電と過熱の判別や、放電のうちアーク放電と部分放電を区別することができる。
(3)の特定ガスによる診断は、異常内容を診断する上で極めて特定なガスに着目して診断する方法で、その代表的なガスとしてCO,CO2,C22などを適用する。例えば、絶縁紙が過熱する場合には炭酸ガスの発生割合が多くなるのでCO2/CO≦3の場合には絶縁紙が過熱していると診断する。
〔「電協研法」の改良手法〕
しかしながら、上記の「電協研法」では、過熱モードと放電モードの判別は可能であるが、過熱モードにおいて、過熱箇所が巻線部位であるのか、鉄心部位であるのかを的確に判別することが困難であったため、かかる判別を可能とするべく、ガス発生トレンドによる判別などを「電協研法」に追加した診断方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。図12は、変圧器50の内部構造の概略図であり、53が鉄心部位、54が巻線(コイル)部位を示す。
特許文献1に記載された診断方法は、採油・分析した油中ガス分析データを用いて、分析ガス成分のうちエチレンとエタンの比率から等価過熱温度を推定し、過熱温度から単位面積単位時間あたりのガス生成量を推定し、採油毎の油中ガス分析データから算出した油中可燃性ガス総量の単位時間当たりの増加率と単位時間単位面積あたりのガス生成量から等価過熱面積を計算して、等価過熱面積と等価過熱温度の関係をグラフ化し、鉄心系および巻線系の取り得る範囲と比較した診断図により異常箇所を診断する、というものである。
〔高精度油中ガス分析手法〕
また、油入変圧器の内部に使用された絶縁材料の部分放電、局部過熱による分解成分は、蒸気圧が低くて沸点が高くガス化しにくいので、上記の「電協研法」等の方法ではその分析が困難であったため、蒸気圧が低く高沸点の分解成分を分析する方法として、高精度油中ガス分析手法が提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。
特許文献2,3に記載された診断方法は、PTI−GCMS分析法にて、すなわち、油入変圧器から採取した絶縁油(試料)中にヘリウムガスなどのキャリアガスをバブリングして抽出した分解成分をコールドトラップさせる方法(PTI法(Purge and Trap Injector))とGCMS(ガスクロマトグラフ分析器)で分析する方法にて、分析を行い、検出成分の種類や量などから内部異常を診断する、というものである。
「電気協同研究」、第54巻、第5号(その1)、平成11年2月、社団法人 電気協同研究会発行 特開2004−200348号公報 特開平9−72892号公報 特開2002−350426号公報
しかし、特許文献1に記載の等価過熱面積とC24/C26比による診断やガス発生トレンドによる診断では、油入変圧器の鉄心二重接地に起因する過熱異常の判定において、実験データと実器での過去の不具合データが一致しない場合があり、明確な判別が困難であった。
また、特許文献2,3に記載の診断方法は、モデル実験を主としたデータに基づくものであるため、鉄心二重接地に起因する過熱異常を明確に判別するに至っていない。
ここで、鉄心二重接地(double core earth)(以下において「鉄心系二重接地」ということもある。)とは、変圧器内部の鉄心とタンク等の構造物とが何らかの原因により2点(ないしはそれ以上)にて接地されることを言い、単に、二重接地(double earth)と呼ばれることもある。変圧器内部の鉄心やタンク等の構造物は浮遊電極とならないよう、一点にて接地することを基本とするが、鉄心二重接地されることにより、循環電流が流れ、過熱や放電等の絶縁上の異常状態を生ずる。
鉄心二重接地に起因する過熱異常を明確に判別できると、緊急性を要する巻線系の異常の可能性を排除することができるため、油入変圧器の適切な修理時期見極めによる経済的効果(コストメリット)が期待できる
従って、本発明の目的は、鉄心二重接地に起因する過熱異常の判定を可能とする油入変圧器の診断方法を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するため、油入変圧器から採取した絶縁油についてジアセチルの検出有無を分析することにより、鉄心二重接地に起因する過熱異常の有無を判別することを特徴とする油入変圧器の診断方法を提供する。
上記の本発明は、以下の特徴を1つ以上有する発明を含む。
(1)前記ジアセチルがppbオーダーで検出されなかった場合に、鉄心二重接地に起因する過熱異常有りと判別する。
(2)前記ジアセチルの検出有無の分析は、PTI−GCMS分析法にて行なう。
(3)前記油入変圧器から採取した絶縁油中の可燃性ガス総量のガス発生トレンド(経時変化)を(a)増加率がほぼ一定、(b)ガス急増後に停止、(c)ある時点から急増、(d)増加率が徐々に上昇、の4パターンに分類した場合において、(a)増加率がほぼ一定又は(c)ある時点から急増に分類されたときに、前記ジアセチルの検出有無を分析して、鉄心二重接地に起因する過熱異常の有無を判別する。
(4)前記油入変圧器から採取した絶縁油中のエチレンとエタンの体積比(C/C比)を用いた計算式から等価過熱温度を推定し、前記等価過熱温度を用いた計算式から単位面積単位時間あたりのガス生成速度を推定し、前記絶縁油中の可燃性ガス総量の増加率と前記ガス生成速度を用いた計算式から等価過熱面積(過熱面積係数)を推定して、前記等価過熱面積と前記等価過熱温度の関係をグラフ化し、或いは前記等価過熱面積(過熱面積係数)と前記C/C比の関係をグラフ化し、異常箇所が変圧器の鉄心系であるか巻線系であるかを診断した後に、前記ジアセチルの検出有無を分析して、鉄心二重接地に起因する過熱異常の有無を判別する。
本発明によれば、油入変圧器の鉄心二重接地に起因する過熱異常の判定を行なうことができる。
[本発明の実施の形態]
〔油入変圧器の診断方法〕
本実施の形態に係る油入変圧器の診断方法は、油入変圧器から採取した絶縁油についてジアセチルの検出有無を分析することにより、鉄心二重接地に起因する過熱異常の有無を判別する。ジアセチルが検出されなかった場合に(特に、ppbオーダーで検出されなかった場合に)、鉄心二重接地に起因する過熱異常有りと判別する。
ジアセチルの検出有無の分析は、例えば、上述したPTI−GCMS分析法にて行なう。以下に詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る油入変圧器の診断方法においてPTI−GCMS分析法を行うための装置の概略図である。
まず、PTI−GCMS分析装置の構成を説明する。
図1において、1は試料油(絶縁油)を収納する試料油容器、2は試料油容器1の注油口、3は試料油容器1の排油口、4は排油バルブ、5は試料油、6はヘリウムガスなどの不活性ガスをキャリアガスとしてバブリングするキャリアガス給気管(バブリング管)、7は試料油を加熱するためのヒータ、8はバブリングするキャリアガスを注入するキャリアガス注入管、9はキャリアガスの流量調節弁、10は二方コック、11はキャリアガス送気管、12はバブリングにより抽出された抽出ガスを取り出すガス抽出管、13は抽出ガスをキャリアガスとともに通気する抽出ガス通気管、14は三方コック、15はコールドトラップ容器、15aはコールドトラップ容器15の液体窒素等の冷媒の供給口、15bはその排出口、16は分解成分を凝縮捕獲するコールドトラップ、17はコールドトラップ16を加熱するヒータ、18は三方コック、19はキャリアガスを供給するガス給気管、20はヘリウムガス等のキャリアガスが充填されたガスボンベ、21は流量調節弁、22は三方コック、23はガスクロマトグラフ分析器(以下、GCMSという)であり、GCMS23はカラム23aと検出器23bとガス排出口23cとで構成されている。24は冷媒容器、25は液体窒素等の冷媒、26は冷媒25を供給するために冷媒容器24に圧力を加える加圧管、27は冷媒供給管、28は流量調節弁である。
次に、上記分析装置で行うPTI−GCMS分析法について説明する。
(1)二方コック10および排油バルブ4を開き、キャリアガス送気管11からキャリアガスを流量調節弁9により流量調節して試料油容器1側の流路に流して流路の空気をブローアウトする。
(2)三方コック14および22をGCMS23側に開いてコールドトラップ16およびGCMS23の部分の空気をブローアウトする。
(3)冷媒容器24の加圧管26から圧力を加えて冷媒(液体窒素)25をコールドトラップ容器15に導き、−130℃程度に冷却する。
(4)注射器等により試料油5を数ミリリットル採取し、試料油容器1の注油口2より試料油容器1内に注入する。
(5)三方コック14を試料油容器1側に切換え、試料油容器1をヒータ7により、蒸気圧が53Paになる温度で加熱し、二方コック10を開いて流量調節弁9により流量調節し、キャリアガス給気管6にキャリアガスを供給して数分間バブリングして試料油5中に溶解している分解成分を抽出する。抽出された分解成分をキャリアガスとともにコールドトラップ容器15内のコールドトラップ16の内径部に導入し、分解成分をコールドトラップ16に凝縮捕獲する。
(6)コールドトラップ16をヒータ17により200℃以上に急速加熱し、凝縮捕獲した分解成分を気化させてキャリアガスを流しながらGCMS23に導入して分析する。
油入変圧器から採取した試料油を上記のPTI−GCMS分析法で分析すると、抽出された分解成分はコールドトラップ16で凝縮して捕獲され、200℃以上に急速加熱することにより、蒸発して瞬時にGCMS23に導入されるため、精度よくppbオーダーで検出・分析ができる。分析結果から、ジアセチルの検出有無を確認することで、鉄心二重接地に起因する過熱異常の有無を判別できる。
本実施の形態に係る油入変圧器の診断方法は、特許文献1に記載の判断手法などでは判定が困難であった鉄心二重接地に起因する過熱異常の判定を可能とするものであるため、例えば特許文献1に記載の判断手法と組み合わせて用いることで、より精度の高い診断フローの構築が可能となる。さらに、特許文献1に記載の判断手法に先立ち、非特許文献1記載の「電協研法」によるガスパターンや様相診断図を用いて診断を行ない、その結果、過熱と診断されたが、過熱部位の特定に至っていないものを主な診断対象とする。
以下に特許文献1に記載の判断手法と上記診断方法との組み合せによる診断フローを説明する。
(等価過熱温度と等価過熱面積による診断方法)
非特許文献1記載の「電協研法」では、異常箇所の過熱温度や過熱面積を過去の文献のデータにより推定できるとされているので、モデル実験や内部点検などにより異常箇所が判っている変圧器のガス分析データを基に、対象とする変圧器の油中ガス分析のデータから過熱温度と過熱面積を推定して、その関係から異常箇所が鉄心系か巻線系かを判別する。以下に判別のための方法を示す。
(等価過熱温度の推定)
等価過熱温度(T(℃))は、エチレン(不飽和炭化水素)とエタン(飽和炭化水素)ガスの比(体積比)を用い、文献(「絶縁油の局部過熱による分解ガスの挙動」、月岡ら、電気学会論文誌A、98巻、7号、381頁、昭和53年)の実験データから式(1)により計算することで推定する。
T=320×log(C24/C26)+530 ……… (1)
(等価過熱面積の推定)
等価過熱面積(S(cm2))は、下記の式(2)により計算することで推定する。
S=(Qoil×C×10−3)/(30×24×K) ……… (2)
ここで、
Qoil:変圧器油量(Lit)
C:可燃性ガス総量(TCG)の増加率(ppm/月)
C=(△TCG/△D)×30 ………… (3)
△TCG:TCGガス量の差分(ppm)
△D:油分析データの間隔(日)
K:単位面積単位時間当たりのガス生成速度(ml/cm2・h)
ガス生成速度Kは、以下の式を使用して計算する。
Log(K)=14−12000/(T+273), T>562
Log(K)=5.5−4900/(T+273), 562≧T>285
Log(K)=1.2−2500/(T+273), T≦285
(等価過熱温度と等価過熱面積による判別)
異常箇所が鉄心系か巻線系かの判別は、油中ガス分析データより上記の計算式で計算した等価過熱温度(縦軸)と等価過熱面積(横軸)の関係をグラフにプロットし、モデル実験や過去の事例から算出した範囲と比較して行う。あるいは、等価過熱面積(過熱面積係数)を横軸に、過熱温度の指数であるC/C比(体積比)を縦軸にとったグラフにプロットしてガス発生の特徴を検討する。
鉄心系と巻線系では、等価過熱面積と等価過熱温度の関係に有意差が認められ、鉄心系の異常の場合には、薄いけい素鋼板の局部で過熱するため、面積が小さく鉄板への熱伝導も悪いため過熱温度が高く過熱面積が小さくなる傾向にあり、一方、巻線系の異常の場合には、熱伝導がよい銅線を絶縁紙で包んでいる構造のため、過熱面積が広く過熱温度が低い傾向にある。これより、異常箇所が鉄心系か巻線系かをある程度の精度をもって判別することが可能となる。
(ガス発生のトレンドおよび等価過熱面積による診断)
等価過熱面積と等価過熱温度による診断により、鉄心系と巻線系の判別精度を向上することができるが、鉄心系と巻線系で領域が重なっている部分があり、また鉄心系でも二重接地の場合には広い範囲に分布することが考えられる。そこでガス発生のトレンド(経時変化)と等価過熱面積の閾値の組み合わせによる診断方法を用いることにより、さらに鉄心系と巻線系の判別精度を向上することができる。ガス成分としては、特に、H2,CH4,C26,C24,C22,CO,これらの可燃性ガス総量(TCG)が用いられ、ガス成分の量、増加率を分析する。
モデル実験結果では、巻線系においては可燃性ガス総量の増加率が徐々に拡大する傾向が認められ、一方、鉄心系ではある時点で油中分解ガスが急増したり、停止したりする現象が認められる。また、過去にガス分析で異常があり、内部点検や解体調査により異常箇所が明らかになった変圧器についても、巻線系では、可燃性ガス総量の増加率が徐々に増加していき、鉄心系では、ガス発生が急増して停止するなど、モデル実験と同様な傾向が認められている。
これらの事実から、ガス発生のトレンドを、
a.増加率がほぼ一定
b.ガス急増後に停止
c.ある時点から急増
d.増加率が徐々に上昇
のパターンに分類することにより、鉄心系と巻線系の判別に使用できる。
このうち、dの増加率が徐々に増加する場合が巻線系である可能性が高いが、より精度を高めるため上記した等価過熱温度と等価過熱面積による診断方法により算出した等価過熱面積係数の閾値以上となる場合に、巻線系の可能性が高いと判定する。等価過熱面積係数の閾値はデータの蓄積により決定するが、実フィールド器のデータと変圧器内部異常様相データ双方の蓄積と、異常進展速度も考慮した閾値を設定することとなる(例えば、等価過熱面積係数の閾値として0.2を設定することができる)。
ガス発生のトレンドがd(増加率が徐々に増加)の場合に等価過熱面積係数が閾値未満(以下)であるときは、巻線系の初期又は鉄心系の可能性が考えられると判断する。この場合、鉄心系と判断を誤らないように、変化の方向(過熱面積係数の移動方向、即ち、過熱面積係数が0.2を超過するか否か)を追跡調査することが望ましい。
また、ガス発生のトレンドがb(ガス急増後に停止)およびc(ある時点から急増)の場合に鉄心系である可能性が高いが、等価過熱面積係数が閾値未満(以下)であれば鉄板に関係する鉄心系の可能性が高いと判断する。ガス発生のトレンドがb(ガス急増後に停止)の場合に等価過熱面積係数が閾値以上であれば二重接地の可能性が考えられると判断する。
(ジアセチル診断フローによる判定)
等価過熱面積とC/C比による診断の結果、鉄心系二重接地の領域に多く分布する場合において、ガス発生のトレンドがa(増加率がほぼ一定)の場合、ジアセチル検出の有無を分析し、検出無しのときは、鉄心系二重接地と推定することができる。
ガス発生のトレンドがa(増加率がほぼ一定)の場合にジアセチル検出の有無を分析し、検出有りのときは、巻線系・絶縁物過熱の可能性が考えられ、ガス発生トレンドおよび他手法との総合判断により判定する。この場合に等価過熱面積係数が閾値未満(以下)であるときは、鉄板に関係する鉄心系の可能性が考えられる。
また、等価過熱面積とC/C比による診断の結果、鉄心系二重接地の領域に多く分布する場合において、ガス発生のトレンドがc(ある時点から急増)の場合に等価過熱面積係数の閾値以上であるとき、ジアセチル検出の有無を分析し、検出無しのときは、鉄心系二重接地と推定することができる。ジアセチル検出の有無を分析し、検出有りのときは、巻線系・絶縁物過熱の可能性が考えられ、ガス発生トレンドおよび他手法との総合判断により判定する。
以上をまとめると表1のようになる。即ち、表1は過熱面積係数とガス発生トレンドを組み合わせた診断表(判定基準)の例およびジアセチル診断フローを示す。なお、表1中のジアセチル診断フローにおいて、「等価過熱面積とC/C比による診断の結果、鉄心系二重接地の領域に多く分布」は、「等価過熱温度(縦軸)と等価過熱面積(横軸)による診断の結果、鉄心系二重接地の領域に多く分布」でも代替可能である。
[本発明の実施の形態の効果]
(1)従来の診断方法では判定が難しかった油入変圧器の鉄心二重接地に起因する過熱異常の判定が可能となり、診断精度の向上を図ることができる。
(2)鉄心二重接地に起因する過熱異常の判定が可能となることで、油中ガス分析により異常を検出した後の油分析の追跡インターバルを、異常箇所の状況に応じた適切な間隔(電気的事故に結びつく可能性の高い巻線系の追跡インターバルを短く、変圧器の停止に結びつかない鉄心系の追跡インターバルを長くする)にすることができ、保守費用の低減と保守管理レベルの適正化を図ることができる。
本発明の実施の形態に係る油入変圧器の診断方法の効果を実動の油入変圧器(実器)において検証した。
練馬地区に設置の油入変圧器(富士電機製、AD15360T1、275kV、300MVA、1979年製造)について、「電協研法」および特許文献1記載の診断方法に基づく分析を行なった結果を図2乃至図6に示す。
図2は、「電協研法」に基づくガスパターンを示し、図3は、「電協研法」に基づく様相診断図を示す。
図2,3より、C主導の過熱が想定され、かつ過熱中(300℃〜700℃)であることが判る。
図4は、特許文献1記載の診断方法に基づくガス発生トレンド(ガス濃度)を示し、図5は、特許文献1記載の診断方法に基づくガス発生トレンド(油中ガス増加率)を示す。
図4,5より、ある時点から可燃性ガスが急増しており、鉄板に関係する鉄心系あるいは巻線系の可能性が高い、あるいは巻線系または鉄心系二重接地の何れかの可能性が判る。
図6は、特許文献1記載の診断方法に基づく等価過熱面積とC/C比(体積比)による診断図を示す。
図6より、巻線系または鉄心系二重接地の何れかの可能性が判る。
以上より、図6の等価過熱面積とC/C比による診断の結果、鉄心系二重接地の領域に多く分布し、ガス発生トレンドでは、c.ある時点(2002年頃)から急増しており、過熱面積係数の殆どが0.2〜1.8の分布であったことから、本発明の実施の形態に係る油入変圧器の診断方法である上述の「ジアセチル診断フロー」に従い、ジアセチル検出の有無をPTI−GCMS分析法(前述した工程(1)〜(6))で分析したところ、ジアセチルが検出されなかったため、鉄心系二重接地と判定した。
診断を行なった実器を実際に解体してみたところ、異常過熱の要因(部位)は絶縁紙を介した鉄心系二重接地であり、上記判定結果と一致した。
なお、ジアセチル検出の分析(PTI−GCMS分析法)の試験条件、使用機器は以下の通りである。バラツキを考慮して2回〜3回分析を行った。
<試験条件>
試験絶縁油の油量:15ミリリットル
<使用機器>
・コールドトラップ:PTI/CT(型式CP4010、CHROMPACK製)、PTI/CTコントロールユニット(型式CP4010/4020 Controller、CHROMPACK製)
・GCMS:Gas Chromatograph(型式GC-17A、島津製作所製)、Gas Chromatograph Mass Spectrometer(型式GCMS-QP5050A、島津製作所製)
・流量計:Digital Flow Mater(型式FM220E、GL Sciences製)
・キャリアガスコントロールユニット:Carrier Gas Pressure Controller(型式FC-226-01、GL Sciences製)
・液体窒素コントロールユニット:Liquid Pressure Controller(型式FC-226-02、GL Sciences製)
・ヒータ:(型式Heater、CHROMPACK製)
本発明の実施の形態に係る油入変圧器の診断方法の効果を実動の油入変圧器(実器)において検証した。
戸塚地区に設置の油入変圧器(明電舎製、FBORSDL−M、154kV、150MVA、1978年製造)について、「電協研法」および特許文献1記載の診断方法に基づく分析を行なった結果を図7乃至図11に示す。
図7は、「電協研法」に基づくガスパターンを示し、図8は、「電協研法」に基づく様相診断図を示す。
図7,8より、CH主導の過熱が想定され、かつ過熱中(300℃〜700℃)であることが判る。
図9は、特許文献1記載の診断方法に基づくガス発生トレンド(ガス濃度)を示し、図10は、特許文献1記載の診断方法に基づくガス発生トレンド(油中ガス増加率)を示す。
図9,10より、増加率がほぼ一定であり、鉄板に関係する鉄心系あるいは巻線系の可能性が高い、または鉄心系二重接地の何れかの可能性が判る。
図11は、特許文献1記載の診断方法に基づく等価過熱面積とC/C比(体積比)による診断図を示す。
図11より、巻線系または鉄心系二重接地の何れかの可能性が判る。
以上より、図11の等価過熱面積とC/C比による診断の結果、鉄心系二重接地の領域に多く分布し、ガス発生トレンドでは、a.増加率がほぼ一定であり、過熱面積係数が0.01〜1.8の分布であったことから、本発明の実施の形態に係る油入変圧器の診断方法である上述の「ジアセチル診断フロー」に従い、ジアセチル検出の有無をPTI−GCMS分析法で分析したところ、ジアセチルが検出されたため、鉄心系二重接地ではなく、巻線系・絶縁物過熱の可能性ありと判定した。
診断を行なった実器を実際に解体してみたところ、異常過熱の要因(部位)は巻線系の抑振シールドであり、上記判定結果と一致した。
なお、ジアセチル検出の分析(PTI−GCMS分析法)の試験条件、使用機器は実施例1と同様である。
本発明の実施の形態に係る油入変圧器の診断方法においてPTI−GCMS分析法を行うための装置の概略図である。 実施例1に係る「電協研法」に基づくガスパターンを示す。 実施例1に係る「電協研法」に基づく様相診断図を示す。 実施例1に係る特許文献1記載の診断方法に基づくガス発生トレンド(ガス濃度)を示す。 実施例1に係る特許文献1記載の診断方法に基づくガス発生トレンド(油中ガス増加率)を示す。 実施例1に係る特許文献1記載の診断方法に基づく等価過熱面積とC/C比(体積比)による診断図を示す。 実施例2に係る「電協研法」に基づくガスパターンを示す。 実施例2に係る「電協研法」に基づく様相診断図を示す。 実施例2に係る特許文献1記載の診断方法に基づくガス発生トレンド(ガス濃度)を示す。 実施例2に係る特許文献1記載の診断方法に基づくガス発生トレンド(油中ガス増加率)を示す。 実施例2に係る特許文献1記載の診断方法に基づく等価過熱面積とC/C比(体積比)による診断図を示す。 変圧器の内部構造の概略図である。
符号の説明
1:試料油容器
2:注油口
3:排油口
4:排油バルブ
5:試料油
6:キャリアガス給気管(バブリング管)
7:ヒータ
8:キャリアガス注入管
9:流量調節弁
10:二方コック
11:キャリアガス送気管
12:ガス抽出管
13:抽出ガス通気管
14:三方コック
15:コールドトラップ容器
15a:冷媒供給口、
15b:冷媒排出口
16:コールドトラップ
17:ヒータ
18:三方コック
19:ガス給気管
20:ガスボンベ
21:流量調節弁
22:三方コック
23:ガスクロマトグラフ分析器
23a:カラム
23b:検出器
23c:ガス排出口
24:冷媒容器
25:冷媒
26:加圧管
27:冷媒供給管
28:流量調節弁
50:変圧器
51:タンク
52:タンク磁気シールド
53:鉄心
54:巻線(コイル)

Claims (5)

  1. 油入変圧器から採取した絶縁油についてジアセチルの検出有無を分析することにより、鉄心二重接地に起因する過熱異常の有無を判別することを特徴とする油入変圧器の診断方法。
  2. 前記ジアセチルがppbオーダーで検出されなかった場合に、鉄心二重接地に起因する過熱異常有りと判別することを特徴とする請求項1記載の油入変圧器の診断方法。
  3. 前記ジアセチルの検出有無の分析は、PTI−GCMS分析法にて行なうことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の油入変圧器の診断方法。
  4. 前記油入変圧器から採取した絶縁油中の可燃性ガス総量のガス発生トレンド(経時変化)を(a)増加率がほぼ一定、(b)ガス急増後に停止、(c)ある時点から急増、(d)増加率が徐々に上昇、の4パターンに分類した場合において、(a)増加率がほぼ一定又は(c)ある時点から急増に分類されたときに、前記ジアセチルの検出有無を分析して、鉄心二重接地に起因する過熱異常の有無を判別することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の油入変圧器の診断方法。
  5. 前記油入変圧器から採取した絶縁油中のエチレンとエタンの体積比(C/C比)を用いた計算式から等価過熱温度を推定し、前記等価過熱温度を用いた計算式から単位面積単位時間あたりのガス生成速度を推定し、前記絶縁油中の可燃性ガス総量の増加率と前記ガス生成速度を用いた計算式から等価過熱面積(過熱面積係数)を推定して、前記等価過熱面積と前記等価過熱温度の関係をグラフ化し、或いは前記等価過熱面積(過熱面積係数)と前記C/C比の関係をグラフ化し、異常箇所が変圧器の鉄心系であるか巻線系であるかを診断した後に、前記ジアセチルの検出有無を分析して、鉄心二重接地に起因する過熱異常の有無を判別することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の油入変圧器の診断方法。
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