JP2007314493A - モノクローナル抗体、その製造方法、及び用途 - Google Patents

モノクローナル抗体、その製造方法、及び用途 Download PDF

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Abstract

【課題】肺癌及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体、該モノクローナル抗体を含む癌診断用試薬、及び癌診断用キット、該モノクローナル抗体の製造方法、並びに該モノクローナル抗体を用いた肺癌及び膀胱癌の検出方法及び識別方法を提供する。
【解決手段】肺癌及び膀胱癌の癌マーカであるヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、又は該ポリペプチドの断片に特異的に反応する癌診断用モノクローナル抗体、該抗体を含む診断薬、及び診断用キットを提供する。さらに、患者から採取された体液サンプル、又は組織サンプルを、前記癌診断用モノクローナル抗体と接触させ、ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、及び該ポリペプチドの断片からなる群から選ばれた該サンプルに含まれる癌マーカと、該モノクローナル抗体との複合体を形成させ、該複合体を検出することを特徴とする、肺癌及び膀胱癌の検出方法を提供する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、肺癌及び膀胱癌マーカである、ヒトサイトケラチン9に特異的に反応する、モノクローナル抗体に関する。特に、本発明は、該モノクローナル抗体を含む、癌診断用試薬、及び癌診断用キット、該モノクローナル抗体の製造方法、該モノクローナル抗体を用いた、癌の検出方法及び肺癌の識別方法に関するものである。
肺癌は、発生頻度が高く、また膵臓癌と並び難治性癌の代表であり、通常、患者が病状に気付く時には、治療不可能な状態まで進行している。従来、肺癌の診断は、X線と、唾液の細胞学検査を組み合わせて行われて来たが、局在化状態で、治療し得る状態にある間に発見することが難しい場合が多かった。このため、肺癌マーカを用いた早期診断に関する研究に重点が置かれてきた。
例えば、ヒト非小細胞肺癌に対して特異的な肺癌抗原(HCAVIII)が肺癌マーカとして特定、単離され、かつ該肺癌マーカに対する抗体を診断、及び治療に用いる方法が開発されている(特許文献1)。また、ヒト非小細胞肺癌タンパク質に関連するLCGAのアミノ酸中に見られるエピトープに対する特異的なモノクローナル抗体が開発されている(特許文献2)。
このように開発された従来のモノクローナル抗体は、個々に肺癌マーカとして特定され、単離精製されたポリペプチド等を免疫源として用いて製造されたものであり、癌特異的な翻訳後修飾、立体構造異常、プロセッシング異常、スプライシング異常を検出する作業は困難を伴うものであった。
特表平10-503087号公報 特表2003-501444号公報 特開平01-052800号公報 P.G. Chu及びL.M. Weissの論文, 「ヒト組織及び新生物におけるケラチンの発現(Keratin expression in human tissues and neoplasms Histopathology) 20, 403-439 (2002)
本発明は、肺癌及び膀胱癌マーカである、ヒトサイトケラチン9に特異的に反応する、モノクローナル抗体を提供する。さらに、本発明は、該モノクローナル抗体を含む、癌診断用試薬、癌診断用キット、該モノクローナル抗体の製造方法、該モノクローナル抗体を用いた、肺癌及び膀胱癌の検出方法及び識別方法を提供する。
前記状況に鑑み、本発明者らが研究を行った結果、精製抗原ではなく、癌細胞、又はその破砕物などの未精製抗原を用いてモノクローナル抗体を作成し、獲得した該抗体を用いて未知の抗原を精製し、プロテオーム技術を用いて同定する方法を確立することができた。本発明では、このような方法でヒトサイトケラチン9に特異的なモノクローナル抗体を得た。また、該同定作業により、該ヒトサイトケラチン9が、肺癌及び膀胱癌マーカであること、特にヒト肺神経内分泌癌である、肺小細胞癌と肺大細胞性神経内分泌癌の検出に有用であることが明らかになった。
なお、非特許文献1には、サイトケラチンは1〜20のサブクラスに分類され、上皮組織における正常細胞、及び腫瘍細胞で発現されていることが記載されている。そして、特許文献3には、サイトケラチンが、腫瘍性上皮細胞によって分泌され、上皮腫瘍、特に乳房上皮腫瘍の検出、及び同定に用いる腫瘍マーカとして有用であることが記載されている。しかし、特にサイトケラチン9が、肺癌及び膀胱癌細胞の特異的癌マーカであることは、従来、知られておらず、本発明者らの研究によって初めて得られた知見である。本発明は、該知見に基づいてなされたものである。
なお、サイトケラチン9、又はその断片はそれ自身単独で、肺癌及び膀胱癌細胞の特異的癌マーカとなり得るが、肺癌及び膀胱癌に特異的な翻訳後修飾、立体構造異常、プロセッシング異常、及びスプライシング異常などを有する、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されたヒトサイトケラチン9、及びその断片は、さらに特異的な肺癌及び膀胱癌細胞の特異的癌マーカとなり得る。このため、本発明ではその両者を肺癌及び膀胱癌細胞の特異的癌マーカとみなしている。
したがって、本発明は、ヒトサイトケラチン9に特異的に反応する、肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体を提供する。
また、本発明は、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されるヒトサイトケラチンに特異的に反応する、肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体を提供する。
さらに、本発明は、配列番号1のポリペプチド、又は該ポリペプチドの断片に特異的に反応する、肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体を提供する。
さらに、本発明は、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された、配列番号1のポリペプチド、又は該ポリペプチドの断片に特異的に反応する、肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体を提供する。
さらに、本発明は、前記診断用モノクローナル抗体を含む、肺癌、及び膀胱癌診断用試薬、及び前記癌診断用モノクローナル抗体を含む、肺癌、及び膀胱癌診断用キットを提供する。
さらに、本発明は、ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、又は該ポリペプチドの断片に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、液体培地中、又は哺乳動物の腹腔内で増殖させることを特徴とする、肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されるヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、液体培地中、又は哺乳動物の腹腔内で増殖させることを特徴とする、前記肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、該ポリペプチドの断片、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されたヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片に特異的に反応する、癌診断用モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供する。
さらに、本発明は、ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、該ポリペプチドの断片、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されるヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片に、特異的に反応するモノクローナル抗体を含む、抗肺癌及び抗膀胱癌医薬組成物を提供する。
さらに、本発明は、ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、該ポリペプチドの断片、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されるヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片に特異的に反応する、モノクローナル抗体を投与することを含む、肺癌及び膀胱癌の治療方法を提供する。
さらに、本発明は、肺癌及び膀胱癌の検出方法であって、患者から採取された体液サンプル、又は組織サンプルを、前記癌診断用モノクローナル抗体と接触させ、ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、及び該ポリペプチドの断片からなる群から選ばれた該サンプルに含まれる癌マーカと、該モノクローナル抗体との複合体を形成させ、該複合体を検出することを特徴とする、前記検出方法を提供する。
さらに、本発明は、肺癌及び膀胱癌の検出方法であって、患者から採取された体液サンプル、又は組織サンプルを、前記癌診断用モノクローナル抗体と接触させ、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されるヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片からなる群から選ばれた該サンプルに含まれる癌マーカと、該モノクローナル抗体との複合体を形成させ、該複合体を検出することを特徴とする、前記検出方法を提供する。
なお、本願明細書中の用語「LCNEC細胞」とは、ヒト肺癌細胞である大細胞性神経内分泌癌(large cell neuroendocrine carcinoma)細胞をいう。
また、本願明細書中の用語「SCLC細胞」とは、ヒト肺小細胞癌(small cell lung carcinoma)細胞をいう。
また、本願明細書中の用語「HRP」とは、西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase)をいう。
本発明は、ヒトサイトケラチン9、及びその関連ペプチドを、肺癌及び膀胱癌細胞の特異的癌マーカとして利用することにより、癌診断用モノクローナル抗体、該モノクローナル抗体を含む癌診断用試薬、及び癌診断用キット、該モノクローナル抗体の製造方法、並びに該モノクローナル抗体を用いた肺癌及び膀胱癌の検出方法を提供するという効果を有する。
本発明の癌診断用モノクローナル抗体は、ヒト細胞に存在する、癌マーカ、特に肺癌又は膀胱癌の癌マーカであるヒトサイトケラチン9、例えば、配列番号1のポリペプチド、又は該ポリペプチドの断片に特異的に反応するものである。なお、先に記載したように、サイトケラチン9、又はその断片はそれ自身単独で、肺癌及び膀胱癌細胞の特異的癌マーカとなり得るが、肺癌及び膀胱癌に特異的な翻訳後修飾、立体構造異常、プロセッシング異常、及びスプライシング異常などを有する、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されたヒトサイトケラチン9、及びその断片は、さらに特異的な肺癌及び膀胱癌細胞の特異的癌マーカとなり得る。このため、本発明ではその両者を肺癌及び膀胱癌細胞の特異的癌マーカとしている。
本発明者らは、該ハイブリドーマ細胞株であるKU-L001細胞株とKU-L008細胞株を作成し、微生物寄託機関に寄託した。KU-L001細胞株の寄託番号はFERM P-20697であり、KU-L008細胞株の寄託番号はFERM P-20698である。なお、該微生物寄託機関は、経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所の特許生物寄託センター(IPOD)である。
また、該モノクローナル抗体は、ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、又は該ポリペプチドで免疫したβ細胞から作成したハイブリドーマを培養することにより製造することができる。
従来、モノクローナル抗体は、Kohler及びMilsteinにより最初に報告された細胞融合法により、主として精製抗原で免疫したB細胞とミエローマ細胞を用いて作成されてきた。これに対し、本発明者らは、癌細胞そのもの、又はその破砕物などをマウスに投与して、形成された多種類の抗体産生B細胞からハイブリドーマを作り、これらをスクリーニングして目的とする抗体を産生するハイブリドーマを作成した。そして、得られたモノクローナル抗体で、感作に用いた癌細胞などから未知抗原を回収、精製し、プロテオーム技術により該抗原を同定するという手法を用いた。したがって、本発明のモノクローナル抗体作成は、抗体産生B細胞の調製、ハイブリドーマの作成、抗原の収集、及び抗原の同定という工程を含む方法によりなされる。次に、各工程について説明する。
(抗体産生B細胞の調製)
該抗体産生細胞の調製は、肺癌細胞、又はその破砕物などの未精製抗原を温血動物に投与し、その脾臓、又はリンパ節などを取り出して、マウスミエローマ細胞と細胞融合することにより行う。
該肺癌細胞は、患者から切除した肺癌細胞、又は継代培養細胞株のいずれでもよい。該継代培養細胞株としては、本発明者らが樹立したヒトLCNEC細胞株LCN1、及びLCN2があり、また多くの研究室で使用されているSCLC細胞株N231、Lu130、及びLu135vがある。なお、免疫染色法によるモノクローナル抗体のスクリーニングにも、これらの細胞株を使用することができる。
なお、該肺癌細胞を、温血動物の感作に用いる場合、細胞自体をそのままの形態で、又は該細胞のホモジュネートなどの形態で使用するのが好ましい。
前記温血動物は、特に制限されるものではないが、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどを挙げることができ、特にマウス、ラット、モルモットなどの小動物が好ましい。
また、前記肺癌細胞等は、例えば、腹腔内、静脈,皮下など、抗体産生が可能な部位に投与する。マウスを用いる場合、腹腔又は尾静脈から投与するのが好ましい。また、該細胞などの投与は、それ自体単独で、又は抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントと共に投与してもよい。
なお、該肺癌細胞等は、該温血動物の体重1kgあたり、5×10〜10個程度、又はその相当量を投与する。例えば、マウスを使用する場合、1〜2×10個/匹投与するのが好ましい。
また、前記肺癌細胞等は、温血動物に対して、通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度投与する。また、該免疫された温血動物から抗体価が認められた個体を選択して、最終免疫を行い、その2〜5日後に脾臓、又はリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させる。
(ハイブリドーマの作成)
得られた抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを作成する。マウスを用いる場合、該ミエローマ細胞として、SP2/0、NS-1、P3U1、AP-1などの細胞株を挙げることができる。また、融合促進剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどがあり、PEG、特にPEG1000〜PEG6000が好ましい。該PEGは濃度10〜80%程度で添加するのが好ましい。
前記抗体産生細胞とミエローマ細胞との好ましい数比率は、通常1:1〜20:1程度である。これらの細胞は、通常20〜40℃、好ましくは30〜37℃で通常1〜10分間インキュベートすることで効率よく細胞融合させることができる。
次に、細胞融合で得た細胞群を、牛胎児血清10〜20%を含む動物細胞用培地(例えば、RPMI1640)を用いて、5日〜25日間培養し、細胞コロニーを形成させる。該細胞コロニーには、未知の抗体を産生するハイブリドーマ、抗体未産生ハイブリドーマ、及び未融合ミエローマ細胞などが含まれている。該培養上清に未知の抗体が含まれているか否かを確認することで、所望のハイブリドーマの存在をスクリーニングする。該スクリーニング方法は後述する。
前記限界希釈法は、次の手順で行う。該スクリーニングで確認された、抗体産生ハイブリドーマを含む細胞コロニーに対し、1細胞/ウエルの割合で細胞を蒔く限界希釈法を2度行い、ハイブリドーマが確認できたウエルの培養上清を用いて、スクリーニングにより、該未知抗体の産生が確認されたハイブリドーマを単クローンとする。
一度目の限界希釈法は96ウエルプレートを用いて、ウエル当たりハイブリドーマが2個入るように、200μlのRPMI-1640培地(最終濃度が15%牛胎児血清と10% BM-Condimed H1(ロシュ・ダイアグノスティック、東京))を加える。1週間から2週間後に、各ウエルに1個ないし2個のハイブリドーマのコロニーが見えてくる。この時点で、さらに上記と同様のスクリーニング法を用いてハイブリドーマが抗体産生能力を維持しているか否かを検討する。
陽性ウエルからハイブリドーマを採取し、96ウエルプレートを用いて、ウエル当たり細胞が0.5個入るように200μlのRPMI-1640培地(最終濃度が15%牛胎児血清と10% BM-Condimed H1)を加える。これも約1週間から10日後にウエルによって通常1個のハイブリドーマのコロニーが見られる。この上清を用いて、同様のスクリーニング方法を用いて、抗体の産生を確認する。このハイブリドーマはこの時点で単クローンとなっており、この培養上清をモノクローナル抗体として使用することができる。
前記ハイブリドーマのスクリーニングは、未精製抗原として用いた肺癌細胞等に特異的な抗体、及び/又はハイブリドーマのIgG抗体を、特異性を問わず検出することにより行う。本発明のスクリーニングでは、特に制限なく、前記抗体を検出する常法を採用することができる。
前者の例を挙げると、例えば、前記未精製抗原として用いた肺癌細胞を培養上清と接触させ、放射性物質、酵素、及び蛍光色素などで標識した抗免疫グロブリン抗体、又はタンパク質Gを加えて、前記肺癌細胞と結合したモノクローナル抗体を検出する方法がある。例えば、免疫染色法である。ここで抗免疫グロブリン抗体とは、細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体である。
後者の例を挙げると、培養上清に含まれる抗体を膜などに固定し、放射性物質、酵素、及び蛍光色素などで標識した抗免疫グロブリン抗体、又はタンパク質Gと接触させて複合体を形成させて、該抗体を検出する方法がある。例えば、免疫ブロット法である。
前記細胞コロニーのスクリーニングでは、培養上清が、前記肺癌細胞などのいずれか一部に陽性を示した細胞コロニー、及び該肺癌細胞等も用いた方法では陰性であっても、未知の抗原に対する抗体を産生していると確認されたコロニーを選択し、単一クローンのハイブリドーマを作成することができる。
(モノクローナル抗体の調製)
まず、得られた単一クローンのハイブリドーマを培養して、該培養上清から、前記肺癌細胞に反応する抗原未知のモノクローナル抗体を回収し、該抗体を精製する。
該ハイブリドーマの培養は、常法により、通常、ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン(HAT)などを添加して、牛胎児血清10〜20%を含む動物細胞用培地(例えば、RPMI1640)で行うことができる。該培養上清を必要量獲得した後、該抗体の分離、精製を行う。該分離精製は、通常の免疫グロブリンの分離精製法で行うことができる。例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例えば、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相、タンパク質Gなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法などである。
(モノクローナル抗体に対する抗原の同定)
まず、得られたモノクローナル抗体を用いて、その抗原を分離精製し、その後、プロテオーム手法により該抗原のタンパク質を同定する。
該分離精製は、抗体を認識し結合するタンパク質や化学的な吸着活性剤を固相担体に固定した抗原精製用固相担体を用いる。該固相担体に前記モノクローナル抗体を結合させ、抗原を含むタンパク質混合物の中から抗原のみを固相単体にトラップする。その後、変性剤を用いて該固相担体から該モノクローナル抗体と抗原、又は抗原を分離する。
該吸着活性剤の例を挙げると、タンパク質G、タンパク質A、モノクローナル抗体のFc領域を認識し結合する抗体などがある。また、該抗体を、適当な結合剤を用いて固相担体へ化学的に結合させることができる。該固相担体の例を挙げると、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコンなどの合成樹脂、及びガラスなどがあり、これらをビーズ、プレートなど所望の形態で使用することができる。
また、該変性剤の例を挙げると、SDSなどのタンパク質の活性を損失させる界面活性剤やウレアやグアニジン塩酸塩などのカオトロピック塩などがあり、前者は通常0.1%〜10%の濃度で、また、後者は1 M〜9 Mの濃度で用いるのが好ましい。
該抗原分離法の好ましい例を挙げると、図1に示されているような免疫沈降法がある。該免疫沈降法では、固相担体として、タンパク質Gが固定化された合成樹脂磁性ビーズを用い、前記抗体産生ハイブリドーマの培養上清と接触させて、磁性ビーズ−タンパク質G-モノクローナル抗体(IgG)の複合体を調製する。該複合体を、免疫に用いた肺癌細胞の可溶性画分と接触させ、該抗体に対する抗原をトラップ(捕獲)する。次いで、変性剤を加えて該複合体から前記抗原と抗体を分離し、所望の濃度まで濃縮する。
次に、得られた抗原タンパク質をプロテオーム手法により同定する。該同定は2種の分析方法を組み合わせて行う。すなわち、前記精製した抗原を2つに分けて、それぞれを二次元電気泳動で展開し、一方のゲル(ゲル1)はクーマシー染色して、抗原と思われるスポットを特定し、これをゲル内消化して質量分析計を使って抗原を同定する。もう一方のゲル(ゲル2)で、該スポットのタンパク質が抗原であることをウエスタンブロッティングにより確認する。
該抗原の同定であるが、図1に示されているように、濃縮した前記抗原、及び抗体混合物を、二次元電気泳動で展開し、ゲル上の抗原スポットを切り出して、消化酵素(トリプシン)を用いてゲル内消化してペプチド断片群とし、質量分析計で、各ペプチド断片の分子量ならびにアミノ酸配列情報を調べ、データベース検索により、該抗原が対応する既知のタンパク質を特定することができる。
なお、該二次元電気泳動では、一次元目は、アクリルアミド又はアガロースのゲルを用い、展開液としてアスパラギン酸、及び水酸化ナトリウム水溶液を用い、電圧300〜800 V、で10〜24時間程度展開する。また、第2回目は、アクリルアミドゲルを用い、展開液として、トリス、グリシン、SDS溶液を用い、電流20〜100 mA、で2〜5時間程度展開する。また、抗原スポットの検出は、クーマシー染色、銀染色又はサイプロルビー、Cy3-Dy、Cy5-Dyなどの蛍光色素で行う。ゲル内消化は、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、V8プロテアーゼなどのプロテアーゼを用いて、20〜37℃で2〜24時間程度行うのが好ましい。
(質量分析計によるタンパク質の同定法)
質量分析計はタンパク質、及びペプチドをイオン化する部分(イオン源)と質量を測定する質量分析部からなる。イオン源ではタンパク質を分解することなく水素イオンを付加する。タンパク質、及びペプチドの分析を対象とした質量分析計ではイオン源はMALDI法(matrix-assisted laser desorption ionization)とESI(electrospray ionization)法の2種類が使われている。MALDI法は試料を、マトリックス試薬(CHCA:α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸、又はDHB: 2,5-ジヒドロキ安息香酸)と混ぜてプレート上に乾固する。
質量分析計内でその試料にレーザーを照射することにより、タンパク質を分解することなくソフトにイオン化する。ESI法では高電圧の加えられたノズルからタンパク質溶液を噴霧する。電荷をもったタンパク質溶液の小さな液滴は、水が蒸発するにつれ縮んでいく。最終的には、H+が1個以上付加したタンパク質イオンが残る。このように溶液中に存在するタンパク質を直接イオン化できる点がESIの特徴である。これによって、HPLCなどの液体クロマトグラフィー(LC)と連結していわゆるLC-MS分析が可能となる。
HPLCの使用により多成分のペプチドを含んだ試料も前処理無しで各成分ごとに分離してMS、及びタンデムMS(MS/MS)測定することが可能である。イオン源でイオン化(H+の付加)されたタンパク質イオンは質量分析部へと導入される。質料分析部では導入されたタンパク質イオンを電場、又は磁場でイオンを操作し、そのイオンの分子量(質量)に応じた挙動を解析することにより、かなり正確な質量を測定することが可能である。タンパク質を対象とした質量分析計では5種類(Q, QqQ, IT, TOF, FTICR)のものが使われている。
Q: 四重極型(quadrupole)
QqQ: 三連四重極型(triple quadrupole)
IT: イオントラップ型(ion trap)
TOF: 飛行時間型(time-of-flight)
FTICR: フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型
(Fourier transform ion cyclotron resonance)
市販されている質量分析計の種類はイオン源(2種類)と質量分析計(4種類)を組み合わせたもの、これに加えて2種類の質量分析計を組み合わせたハイブリッド質量分析計がある。タンパク質の同定にはMALDI-TOF MS, MALDI-TOF-TOF MS, MALDI-IT-TOF MS, MALDI-QqQ-TOF MS, ESI-IT MS, ESI-QqQ-TOF MSが主に使われている。
(MS/MSスペクトル法)
MS/MS法は2台の直列に接続された質量分析計(タンデム質量分析計:Tandem mass spectrometer)で衝突誘起解離(Collision-induced dissociation:CID)を行い、構造情報を持ったスペクトルを得る方法である。CIDとは前駆体イオンをターゲットガス(Xe, He, Ar)に衝突させることにより、衝突エネルギーを利用しイオンの解離を起こさせることを意味している。
ペプチドをMS/MS測定することによりそのペプチドのアミノ酸配列情報を得ることが出来る。
(タンパク質同定法)
タンパク質同定のための解析には PMF法(Peptide mass finger printing method)とST法(sequence tag method)がある。いずれも質量分析データとタンパク質データベース上のタンパク質を、下記URLにあるタンパク質同定用ソフトウエアを使用して比較し、質量分析データにもっとも一致するタンパク質をデータベース上から検索する。
Mascot: http://www.matrixscience.com/
ProFound:http://prowl.rockefeller.edu/
MS-Fit: http://prospector.ucsf.edu/
それぞれの方法の概要は以下の通りである。
(PMF法)
解析に必要な測定データは酵素消化後のペプチド断片のMSスペクトルのみである。このデータを解析用ソフトウエアの入力フォーマットにしたがって提示する。コンピュータではデータベース上の全てのタンパク質をコンピュータ上で酵素消化して、MSスペクトルをシミュレートし、測定で得たMSスペクトルと最も一致するタンパク質を検索する。この方法の利点は酵素消化ペプチドのモノアイソトピック質量(Monoisotopic mass)が測定出来れば基本的にはどんな質量分析計でもタンパク質同定が可能な点である。最も汎用性が高く、共同利用の可能なMALDI-TOF MSが主に使われている。しかし、HPLCを使用しないため酵素の自己消化物やゲル内消化時に混入する夾雑物を出来るだけ減らす必要があり、注意深い試料調製と測定前の試料の脱塩が必要である。
(ST法)
ST法ではMSデータとともにMS/MSデータを解析に使用している。解析ソフトウエアは質量分析から得た各ペプチドのMSデータとMS/MSデータをもとにデータベース上のタンパク質を検索する。MS/MSデータの使用により同定の確度はかなり高くなる。MSスペクトル、及びMS/MSスペクトルの測定精度は装置によって異なるため一概には言えないが、酵素消化ペプチド1つの高精度なMS、及びMS/MSスペクトルからタンパク質を同定することも可能である。この方法でタンパク質を同定するためにはMS/MSスペクトルを測定できるイオントラップ型、又はハイブリッド型の質量分析計が必要である。
なお、抗原同定のための質量分析、及び得られたデータの解析を次のような手順で行うのが好ましい。
まず、ゲル内消化によって得られたペプチド混合物を逆相液体クロマトグラフィー(ナノスペースSI-2, 資生堂社製,日本)で分離し、分離したペプチドを随時直接質量分析計(LCQ-DECA, サーモエレクトロン社製,ドイツ)に導入し、MSスペクトルとタンデムMSスペクトル(MS/MSスペクトル)の測定を行う。データベース検索は同定用プログラム Sequest Search Ver 2.0(J.R. Yates, J.K. Eng, A.L. McCormack, D. Schieltz: Anal. Chem. 67, 1426 (1995))を用いてSequence Tag 法を用いる。これにより、質量分析データと最も良く一致するタンパク質をデータベース中から選び出した。このプログラムによるタンパク質同定の概略は以下のとおりである。
(1)該プログラムはデータベース上の全てのタンパク質をコンピュータ上でトリプシン消化し、酵素消化ペプチドリストを作成する。
(2)測定で得られた1つのペプチド(P1とする)の分子量 MW ±1の分子量範囲にあるペプチドを(1)のリストから選び出す。
(3)(2)で選び出した全ペプチドのMS/MSスペクトルをそのアミノ酸配列よりコンピュータ上でシミュレートする。
(4)測定で得たP1のMS/MSスペクトルと(3)でシミュレートしたMS/MSスペクトルを比較して、その一致度合いからP1がデータベース上のどのタンパク質のどの部分のペプチド断片である可能性が高いか、その可能性の高いペプチドを一致度合いに応じたスコアーを付ける。
(5)質量分析計で測定された全てのペプチドについて上記(2)〜(4)の作業を行う。
(6)(5)の結果をもとにデータベース上のタンパク質の中から質量分析データに最も一致するタンパク質を選ぶ。このときに1番可能性の高いタンパク質から15番目に可能性の高いタンパク質まで、それぞれの可能性に応じてスコアーを付ける。
1番スコアーの高いタンパク質が真に分析したタンパク質であるか否かの判断基準は、主に以下の2点である。
1. 1番目のタンパク質が他に比べて有意にスコアーが高い場合。
2. 該タンパク質が上記(4)において一番可能性が高いと判断されたペプチドを3種類以上含む場合。
これらの同定、及び確認作業により、本発明の抗体に対する抗原が、ヒトサイトケラチン9であると確認することができた。なお、該抗原決定の具体的な内容は実施例で説明する。
(本発明の癌診断方法、及び癌診断用試薬)
本発明の診断試薬は、前記診断用モノクローナル抗体を含む肺癌、及び膀胱癌診断用試薬である。
本発明の抗体に対する抗原は、肺癌、及び膀胱癌から分泌されるヒトサイトケラチン9、及びその断片であり、該癌細胞の間質や血液などの体液中で検出される。したがって、本発明の抗体は、該サイトケラチン9の存在を検出するためのin vitroイムノアッセイで使用することが好ましい。該イムノアッセイでは、本発明の抗体、またはその抗体フラグメントを、液相中、又は固相担体に結合させて使用する。
なお、本発明の抗体は、当該技術分野で公知の標識物質、及び標識法を用いて標識することができる。本発明で使用する標識物質の例を挙げると、酵素標識、放射性同位元素標識、非放射性標識、蛍光標識、毒素標識、及び化学発光標識ある。これらの標識と本発明の抗体との結合は、特に制限なく、公知の標準的手法を用いて行うことができる。
例えば、本発明の抗体を用いて、組織学サンプル、及び生検献体に癌由来のヒトサイトケラチン9が発現する癌細胞の存在を、定量的、又は定性的に検出することができる。該検出は、例えば、該抗体を放射性標識、蛍光標識、酵素標識、又は他の適当な標識を用いるイムノアッセイで行うことができる。
また、本発明のモノクローナル抗体を用いて、サンドイッチアッセイなどの免疫測定アッセイを行い、血清などの液体サンプル中の癌由来のヒトサイトケラチン9を測定することができる。典型的なサンドイッチアッセイにおいて、所定量の非標識抗体を、試験液に不溶性の固相支持体に結合させ、所定量の検出可能な標識可溶性抗体を添加することで、固相上の抗体、抗原であるヒトサイトケラチン9と、標識抗体との間で形成される複合体の検出、及び定量が可能となる。
また、検出可能なシグナルを発生する試薬で標識された、本発明のモノクローナル抗体を、肺癌、又は膀胱癌患者に投与することで、その癌のin vivo位置を決定することができる。例えば、該標識抗体を患者に投与した場合、前記ヒトサイトケラチン9を発現する癌細胞の検出は、in vivo画像化技術によって行うことができる。該位置は、外部シンチグラフィー法、エミッション・トモグラフィー法、又は放射線核走査法を用いて行うことができる。特に肺癌の存在は、予め組織サンプルを取り出すことなく検出することができる。またこの方法により、肺癌の進行度、及び治療に対する応答性をモニターすることができる。
また、本発明のモノクローナル抗体を用いて、肺癌、及び膀胱癌を治療するための医薬組成物を調製することができる。該組成物は、医薬として許容し得るビヒクルとともに、治療上有効な量の抗体を含む。
また、本発明の抗体を、抗腫瘍効果を有する種々の薬剤の担体として用い、免疫学的複合体を提供することができる。該薬剤の例を挙げると、タキソール、イレッサ、アドリアマイシン、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、ビンクリスチン、エピルビシン、メトトレキセート、5Fu(5-フルオロウラシル)、アクラシノマイシンなどの制ガン剤、リシンA、ジフテリアトキシンなどの毒素、アンチセンスRNAなどの免疫学的応答調節剤、酵素、及び放射性同位元素がある。
さらに本発明の医薬組成物として、本発明の抗体と結合し、かつ前記薬剤を含んだリポソームがある。該抗体を担持するリポソームは、二重の脂質層からなるが、該脂質層が多重層になったもの、あるいは一層のものいずれも使用することができる。該リポソームの構成成分としては、フォスファチジルコリン、コレステロール、フォスファチジルエタノールアミン、さらに電荷付与物質としてフォスファチジン酸などを用いることができる。
次に、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。該実施例は、本発明を具体的に説明するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
(実施例1)
(AMeX固定法)
本発明のモノクローナル抗体を、免疫染色法で検出した。該方法に用いた大細胞性神経内分泌癌であるLCN1細胞株のAMeX固定を下記の手順で行った。
培養したLCN1細胞株を1,000回転で10分間遠心し、上清を捨てた。2価のイオンを含まないリン酸緩衝生食液(PBS-)10 mlを加え、攪拌後、さらに1,000回転10分間で遠心した。その上清を捨てた後、4℃アセトンの30 mlを加え、4℃で16〜18時間固定した。固定後、上清を捨て、新たに4℃のアセトンを加え、室温で15分間浸透機を用いて室温に戻しながら脱水反応を行った。
さらに、上清を捨て、室温のアセトンを加え浸透機上で15分間攪拌を行い、水分を出来るだけ除いた。その後、安息香酸メチルを加え同様の方法で15分間2回置換反応を行った。さらに、キシレンを用いて透徹反応を同様の方法で行い、最後に融解温度58〜-60℃のパラフィンに入れ、真空ポンプで減圧しながら、4時間かけて細胞標本にパラフィンを浸透させた後、パラフィンに包埋し、4℃でブロックを保存した。
該ブロックをミクロトームで約3μmの切片とし、シランコーティングスライドグラスに拾い、40℃で1日乾燥させた。その後、ジッパー付きのビニール袋に入れ、4℃で保存した。
(実施例2)
(ハイブリドーマの作製)
ヒト肺癌の大細胞性神経内分泌癌であるLCN1細胞株1×10個を、5週齢のメスBalb/cマウスの腹腔に一週間おきに3回投与し、免疫した。第3回目の投与から3日後、該免疫マウスの尾静脈から1μlの血液を採取し、リン酸緩衝生食液(0.0075 M, pH 7.4; 以下PBSと略す。)で100倍希釈し、該希釈液を用いて免疫源に用いたLCN1細胞株をAMeX包埋した細胞標本を免疫染色した。
該免疫染色法による免疫マウスの抗体価の確認を下記の手順で行った。約3μmに薄切したAMeX包埋LCN1細胞株をキシレンで15分間脱パラフィンした。その後、該切片を下降エタノール系列(100%エタノール3槽→95%エタノール1槽→90%エタノール1槽→80%エタノール1槽→70%エタノール1槽)に10秒間ずつ通し、徐々にエタノールの濃度を下げながら脱キシレン操作を行った。
その後、該切片を流水水洗し、3%過酸化水素水を該切片に載せ10分間反応させ、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。さらに流水水洗した後、該切片を0.075 M TBS(pH 7.5)に5分間浸し、続いて2%正常ブタ血清/TBSで10分間処理し、非特異的蛋白質の反応を阻止した。
その後、該切片上の過剰な溶液をティッシュペーパー等で除いた後、先に示したように100倍希釈したマウス血清100μlを該切片に載せ、湿箱中で、室温2時間反応させた。該反応後、TBSで5分ずつ3回洗浄し、二次抗体としてHRP標識の高感度ポリマー試薬(ChemMate ENVISIN、DAKO Japan、京都)を該切片に滴下し、室温で30分間反応させた。
該反応後、TBSで5分ずつ3回洗浄し、HRP酵素の基質反応液であるStable DAB溶液(Invitrogen、東京)を100μl滴下し、2〜3分間反応させ、該抗原抗体産物を可視化した。その後、核染色として、マイヤーのヘマトキシリン30秒間染色した後、上昇エタノール系列(70%エタノール1槽→80%エタノール1槽→90%エタノール1槽→95%エタノール1槽→100%エタノール3槽)に通し、ついでキシレンを数槽通した後、化学封入剤、エンテラン(ムトー、東京)を滴下し、カバーグラスを載せて永久標本とした。
該封入後、顕微鏡で、免疫したマウスの血清中に含まれる抗体が認識する抗原の局在を確認した。該免疫マウス血清を用いたLCN1細胞の染色結果を図4に示す。
該LCN1細胞株が染色されて、その血液中の抗体価上昇が確認されたマウスを選び、第3回目の免疫から1週間後、最終免疫を同様の方法で行った。その3日後に、Balb/cマウスから脾臓細胞を取り出し、該脾臓細胞とミエローマ細胞SP2/0とを、ポリエチレングリコールを用いて細胞融合させた。該ミエローマ細胞と該脾細胞の割合は1:5とし、96ウエルプレートの1ウエル当たり該脾細胞が1.8×105個となるように調整した。
該細胞融合から8〜23日後に、ハイブリドーマのコロニーが出現したウエルから培養上清100μlを回収し、該上清を一次抗体とした。
(免疫染色法によるハイブリドーマのスクリーニング)
前記上清を一次抗体として、LCN1細胞株の標本を免疫染色し、該細胞株が陽性を示したコロニーを、目的とするモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを含むと判断し、選択した。該免疫染色法は免疫マウス血清を一次抗体として用いた免疫染色法と同様である。LU-L001抗体、及びLU-L008抗体とAMeX固定したLCN1細胞との反応性を図5に示す。
(実施例3)
(免疫ブロット法によるハイブリドーマのスクリーニング)
前記免疫染色で陽性であったコロニーだけでなく、陰性であっても、免疫ブロット法で、未知の抗原に対する抗体(IgG抗体)を産生していると確認されたコロニーも、目的とするモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを含むものとして選択した。該免疫ブロット法は下記の次のように行った。
該免疫ブロット法はPVDF膜(商品名Immobilon-P, 日本ミリポア、東京)を親水化した後、96ウエルのドットブロット装置に装着した。トリス塩酸緩衝生食水(pH 7.4、TBS))200μl中に、コロニーがあるウエルから得た前記培養上清20μlを加え、ブロット装置に注入した。さらにTBS 50μlを追加し、壁に付いた抗体等を溶液に溶解させた。
さらに、アスピレータで吸引した後、前記PVDF膜を装置から外し、タッパーウエアに移し、イムノブロック(Immunoblock; 大日本製薬、東京)30 mlを加えて浸透機上で30分間、タンパク質の非特異的染色性を低下させた。その後、界面活性剤(Tween-20)0.5%を加えたTBS(TBS-T)で、該PVDF膜を浸透機上で1分間洗浄した。
続いて1000倍希釈のHRP標識抗マウス免疫グロブリン抗体(IgG抗体:Dako Japan、京都)を湿箱中で室温45分間反応させ、次いでTBS-Tを用いて3分間5回浸透機上で洗浄した。1分間TBSで洗浄した後、化学発光試薬としてSuperSignal West Dura Extend Duration Substrate (PIRCE, Rochford, IL)溶液を1分間反応させた。発光の有無は化学発光検出機Cool Saver (ATTO、東京)を用いて同定した。該発光が見られたハイブリドーマを選択した。実際のスクリーニング結果を図6に示す。
(実施例4)
(ハイブリドーマのクローニング)
前記免疫染色で陽性を示したコロニー、及び前記免疫染色は陰性であっても前記免疫ブロット法で未知の抗原に対するIgG抗体を産生していると確認されたコロニーの細胞を、1個ずつウエルに蒔く限界希釈法を2度行った。ハイブリドーマの存在が確認できたウエルの上清を用いて、先に記載した手順で、LCN1細胞株の免疫染色と免疫ブロット法を行い、モノクローナル抗体産生が確認されたものを単クローンのハイブリドーマとした。
このような手順により、前記LCN1細胞株と特異的に結合する、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、KU-L001細胞株とKU-L008細胞株とを得た。本発明者らは、さらに、これらの細胞株が産生する抗体の抗原同定を試み、かつ該抗体が特異的に反応する癌の範囲を検討した。
(実施例5)
(該モノクローナル抗体に対する抗原(ヒトサイトケラチン9)の同定とその確認)
本実施例では、図1に示されている手順で、濃縮した前記抗原及び抗体混合物を得て、二次元電気泳動で展開し、クーマシー染色で確認した。その後、ゲル上の抗原スポットを切り出して、消化酵素(トリプシン)にてゲル内消化によりペプチド断片群とし、質量分析計で、各ペプチド断片の分子量、及びアミノ酸配列情報を測定した。この結果をデータベース検索により、該抗原が対応する既知のタンパク質を特定した。次にその詳細を説明する。
(抗原の分離)
該分離精製は、抗体のFc領域を認識し結合するタンパク質Gを固定した磁気ビーズ(Dynabeads Protein G, Invitrogen社製)を使用して行った。該磁気ビーズに前記モノクローナル抗体産生細胞の培養上清を反応させて培養上清中の抗体を磁気ビーズに固定した(図1(1))。その後、肺癌培養細胞(LCN1)にHEPESバッファー(pH 8)を加えてホモジナイズして得られた可溶性タンパク質混合物(タンパク量約200μg)を上記のモノクローナル抗体を固定化した磁気ビーズと反応させる。これにより、磁気ビーズに固定されている抗体と、可溶性タンパク質混合物中の抗原との抗原抗体反応により、抗原だけを磁気ビーズにトラップする(図1(2))。その後、変性剤(SDS)を含む溶液(1% SDS, 50mM Tris-Cl (pH8.5), 0.1% -メルカプトエタノール)約20μlを加えて磁気ビーズ上のタンパク質Gを変性させることにより抗体を磁気ビーズから分離し、抗体と抗原を回収する(図1の(3))。
(抗原の精製と抗原の確認)
回収した抗原を二次元電気泳動により精製するとともに、抗原スポットの検出により確認した。該二次元電気泳動では、一次元目は、アガロースのゲルを用い、展開液としてアスパラギン酸、及び水酸化ナトリウム水溶液を用い、電圧500 Vで18時間程度展開した。また、二次元目は、アクリルアミドゲルを用い、展開液として、トリス、グリシン、SDS溶液を用い、電流40 mA、で3時間程度展開した。また、抗原スポットの検出は、クーマシー染色で行った。その結果を図3Aに示す。
該抗原精製に当たっては前記の通りタンパク質Gの結合した磁気ビーズを使用した。このため該磁気ビーズに抗原をトラップし、変性剤で回収した溶液中には抗原と共に抗体が存在している。したがって、クーマシー染色したときに抗体の軽鎖と重鎖と抗原が検出される。図3Aでは抗体の軽鎖と重鎖以外のスポットは図中の点線○印(抗原と記載)で示したスポット以外に明確なスポットはない。したがって該スポットが抗原タンパク質のスポットであることが判る。
今回行った免疫沈降法では、しばしば磁気ビーズに非特異的に吸着したタンパク質を抗原と判断することがある。しかし、他の抗体を用いた同様の実験において二次元電気泳動上のこの位置にスポットが確認されたことは無い。したがって、該スポットが磁気ビーズに非特異的に吸着したタンパク質ではなく、抗原であることは明らかである。
また、図中の点線○印で示した部分には2つのクーマシースポットが存在するが、その2つのスポット中のタンパク質を同定した結果、両方のスポットにヒトケラチン9が確認できた。したがって、この2つのスポットは同じタンパク質であると考えられる。2つのスポットとして検出された理由は2つ考えられる。その一つは該タンパク質の一部が何らかの翻訳後修飾を受けたため、等電点の違いが生じたこと、もう一は二次元電気泳動の一次元目の電気泳動の際に、抗原が存在量の多い抗体の重鎖、又は軽鎖に巻き込まれて(あるいは相互作用しながら)移動したことである。
以上の2点は二次元電気泳動では起こり得ることであり、図3A、図3Bにおいて抗体の軽鎖が2、又は3スポットに分かれているのも同様の理由である。
図3Bに図3Aと同様の操作で二次元電気泳動して得られたもう一枚のゲルに対して、該抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った結果を示す。該検出は化学発光で行った。このウエスタンブロッティングでは、二次抗体としてマウスIgG抗体を認識する抗体を使用しているため、抗体の軽鎖と重鎖も検出されている。それ以外の部分で発光検出された部分が抗原である。
該抗原の部位は図3Aのクーマシー染色された抗原部位と一致しており、前記免疫沈降法(図1の手順)で濃縮されたタンパク質が抗原であることが確認できた。
(質量分析による抗原同定)
該抗原同定のためのゲル内消化は以下の方法で行った。図3Aの抗原スポットを切り出したゲル片を50%アセトニトリル、50 mM重炭酸アンモニウムで完全に脱色した。該ゲル片を蒸留水で洗浄後、100% アセトニトリル中にて15分脱水し、遠心エバポレータで60分乾燥した。乾燥したゲル片に、25 mM Tris-HCl (pH 9.0)に溶かした0.5 ng/μl トリプシン(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を約20μl加えて、氷中で45分吸収させた。
その後、余分なトリプシン溶液を除去し、50 mM Tris-HCl pH 9.0をゲルが浸る程度まで加えて、37℃で18時間ゲル内消化を行った。該酵素消化終了後、ゲル片のまわりの溶液を完全に回収し、氷中で一時保存した。さらに、まだゲル内に残っているペプチド断片を回収するために、50% アセトニトリル/5% ギ酸溶液をゲルが浸る程度加え、室温で20分攪拌した。攪拌後、その上清を先程保存しておいた溶液に加えた。こうして回収した酵素消化ペプチド混合物を質量分析計で分析し、タンパク質を同定した。
次に質量分析計によるタンパク質の同定を図2に示す手順で行った。該同定は2種の分析方法を組み合わせて行った。すなわち、前記精製した抗原を2つに分けて、それぞれを二次元電気泳動で展開し、一方のゲル(ゲル1)はクーマシー染色して、抗原と思われるスポットを特定し(図2の(1))、これをゲル内消化して質量分析計を使って抗原を同定した。もう一方のゲル(ゲル2)で、該スポットのタンパク質が抗原であることをウエスタンブロッティングで確認した(図2(2))。
(データ解析と抗原の決定)
該データベース検索した結果を図7(「同定解析結果」)に示す。質量分析で精度の高いMSスペクトル、及びMS/MSスペクトルが観測された32種類のペプチドに対して前記(1)〜(6)に従ってデータベース検索を行った。32種類個々のペプチドに対して検索した結果が図7の15行から46行のそれぞれに示されている。A列は32種類のペプチドの番号である(これは検索ソフトがつけた番号)。
該データベース上の全てのタンパク質をコンピュータ上でトリプシン消化したペプチドの中から、1〜32の個々のペプチドの観測分子量±1.5のペプチドを選び出し、そのアミノ酸配列からMS/MSスペクトルをシミュレートする。そのMS/MSスペクトルと測定結果のMS/MSスペクトルを比較して、最も一致したデータベース上のペプチドのアミノ酸配列と、そのペプチドが含まれるタンパク質の分子量とデータベース上の登録番号が、それぞれ図7のM列、L列、J列に示されている。また、C列は最も一致したデータベース上のペプチドの分子量の計算値、D列はC列の計算値と観測されたペプチドの分子量の差を示している。
1〜32のペプチドの個々の評価をもとに総合的に判断して、質量分析結果と一致するデータベース上のタンパク質をその確度の高いものから順番に49行から63行に表示している。A列の数値は確度の高い順番に対応している。該データベース検索の結果、最も確度の高いタンパク質はデータベース上の登録番号gi|435476|emb|CAA82315.1|(49行、B列)のタンパク質でスコアーは92.8(49行、C列)であった。49行のD列、E列の数値は、前記1〜32のペプチドの個々の評価の結果、8種類(2,3,4,11,13,14,18,22)のペプチドの測定結果と最も一致し、該データベース上のペプチドが、このタンパク質に含まれていたことを示している。図8に最も同定確度の高いタンパク質のタンパク名とアミノ酸配列を質量分析データと対応させて示す。第6行にタンパク質のデータベース上の登録番号とタンパク名(サイトケラチン9)と分子量(62,129)が示されている。また7行から12行にこのタンパク質のアミノ酸配列が一文字表記で示されている。この中で下線を引いた部分が今回の質量分析で観測されたペプチド部分に対応している。また、18行から25行はこれらのペプチドのアミノ酸番号が示されている。
なお、データベース検索の結果2番目、又は3番目に可能性のあるタンパク質(図7の50行、51行)も同等のスコアーが出ている。
データベース上のgi|55956899|ref|NP_000217.2|、gi|453155|emb|CAA52924.1|のタンパク質を見たところ両方ともサイトケラチン9を示していた。また、4番目に可能性のあるタンパク質(図7の第52行)はサイトケラチン9の一部からなるタンパク質であった。
さらにLU-L001抗体を使った免疫沈降により濃縮したタンパク質の二次元電気泳動スポットを切り出してゲル内消化して検討した結果、得られたペプチド中の8種類がこのサイトケラチン9由来であった。また、図7の5番目以降の候補タンパク質はスコアーが非常に低いことから、このスポットにはサイトケラチン9以外のタンパク質が含まれている可能性は非常に低いことが判る。したがって、本発明者らは、該抗体の抗原はサイトケラチン9と結論付けた。
(実施例6)
(モノクローナル抗体とAMeX固定ヒト肺がん組織との反応性の確認)
ヒト肺腺癌組織4例、小細胞癌2例、大細胞癌1例とその非腫瘍性末梢肺組織に4℃アセトン30 mlを加え、前記培養細胞と同様の方法でAMeX固定組織を作製した。これら組織の3μm切片を作製し、免疫染色を行った。該染色の方法はAMeX固定細胞での方法と同様である。
該染色結果は図9に示すように、腺癌の1例、小細胞癌の1例の腫瘍細胞の細胞質に様々な程度で陽性反応が認められた。また、腫瘍間質の線維芽細胞にも腺癌の4例全例、小細胞癌1例、大細胞癌1例で様々な程度に認められた。しかし、同一患者から得られた非腫瘍性の末梢肺組織では染色性は認められなかった。したがって、該抗体が腫瘍細胞や腫瘍間質と高い反応性を有することが判る。
(実施例7)
(モノクローナル抗体による血清学的癌スクリーニング)
Immobilon-Pメンブレン(ミリポア)を20秒間メタノールに浸し、親水化した。該反応後、メンブレンをTBSに移した。患者、及び健常人血清をTBSで100倍と1,000倍に希釈しておいた。処理したメンブレンはドットブロット装置(BIO-BLOT, BIORAD、東京)にセットした。各ウエルにTBSを200μlずつ入れ、さらに希釈した血清を20μlずつ加えた。アスピレータで吸引後、300μlのTBSを各ウエルに注ぎ、再び吸引した。メンブレンを該装置から取り外し、50 mlのブロッキング剤(イムノブロック、大日本製薬)の入った小型のタッパーに入れ、浸透しながら30分間ブロッキングした。その後、メンブレンはTBS-T(TBSに最終濃度0.1%のTween 20を加えたもの)で5分間洗浄した。
さらに、一次抗体としてハイブリドーマの培養上清とイムノブロックを等量混合し、5×10cmのメンブレンに対して混合液約1 mlをメンブレンに滴下し、室温で1時間反応させた。該反応後、TBS-Tで5分ずつ5回洗浄したメンブレンは二次抗体として2%正常ブタ血清で1,000倍希釈したHRP標識の抗マウスIgG (Fab')2 (Dako Japan)を5×10cmのメンブレンに対して約1 ml使用して室温で45分間反応させた。該反応後、TBS-Tで5分ずつ5回洗浄した後、HRPの化学発光試薬SuperSignal West Dura Extended Duration Substrate (PIERCE)との反応を1分間行い、その化学発光をCoolSaver (ATTO)で検出した。
用いた血清中に目的の抗原が多く存在する場合は、強い発光が検出できる。存在しない場合や極端に少ない場合、発光はほとんど見られない。染色結果はこの装置と連動しているコンピュータ上で処理、保存される。
該抗体と肺癌患者血清との反応性を図10に示す。該抗体は肺癌患者の血清や膀胱癌患者の血清と強い反応性を示したが、健常人の血清とは反応しなかった。したがって、該抗体は肺癌患者、及び膀胱癌患者を早期に発見するのに有効であることが判る。
(実施例8)
(該抗体とホルマリン固定・パラフィン包埋細胞標本との反応性)
LCN1細胞、N231細胞(小細胞癌由来)を1,000回転で10分間遠心し、上清を捨てた。2価のイオンを含まないリン酸緩衝生食液(PBS-)を10 ml加え、攪拌後1,000回転10分間遠心した。該上清を捨てた後、10%ホルマリンを30 ml加え4℃で16〜18時間固定した。固定後、上清を捨て、70%エタノール、80%エタノール、90%エタノールを加え、それぞれ浸透機上で2時間ずつ攪拌しながら脱水した。さらに100%エタノールを加え、室温で2時間浸透後、新しい100%エタノールに変え意中や脱水を完全に行った。
翌日、クロロホルムに変え、室温で2時間を2回浸透しながら透徹操作を行った。最後に融解温度が58〜60℃のパラフィンに入れ、4時間真空ポンプで減圧しながら細胞標本にパラフィンを浸透させた後、パラフィンに包埋し、4℃で該ブロックを保存した。該切片はミクロトームを用いて約3μmに薄切し、シランコーティングスライドグラスに拾い、40℃で1日乾燥させる。その後、ジッパーつきのビニール袋に入れ、4℃で保存した。ホルマリン固定・パラフィン切片を用いた免疫染色を以下に示す。
前記の細胞標本や病理検査標本を、診断用に10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋された各種肺がん組織の3μmに薄切した組織切片をキシレンで15分間脱パラフィンした。その後、切片は下降エタノール系列(100%エタノール3槽→95%エタノール1槽→90%エタノール1槽→80%エタノール1槽→70%エタノール1槽)を10秒間ずつ通し、徐々にエタノールの濃度を下げながら脱キシレン操作を行った。その後、該切片を流水水洗し、3%過酸化水素水を切片に載せ10分間反応させ、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。
さらに流水水洗した後、該切片は0.01 Mクエン酸緩衝液(pH 6.0)に最終濃度0.1%になるようにTween 20を加えた溶液200 mlを入れたプラスチック製の容器に入れ、オートクレーブで121℃、10分間抗原性の賦活化を行った。該処理後、容器毎に扇風機で室温まで温度を下げた。該溶液が室温まで戻ったら、切片は0.075 M TBS(pH 7.5)に5分間浸し、続いて2%正常ブタ血清/TBSで10分間処理し、非特異的蛋白質の反応を阻止した。
その後、該切片上の過剰な溶液をティッシュペーパー等で除いた後、ハイブリドーマの培養上清100μlを該切片に載せ、湿箱中で、室温で2時間反応させた。該反応後、TBSで5分ずつ3回洗浄し、二次抗体としてHRP標識の高感度ポリマー試薬(ChemMate ENVISIN、DAKO Japan)を該切片に滴下し、室温で30分間反応させた。反応後、TBSで5分ずつ3回洗浄後、HRP酵素の基質反応液であるStable DAB溶液(Invitrogen、東京)を100μl滴下し、2〜3分間反応させ、抗原抗体産物を可視化する。
その後、核染色として、マイヤーのヘマトキシリン30秒間染色した後、上昇エタノール系列(70%エタノール1槽→80%エタノール1槽→90%エタノール1槽→95%エタノール1槽→100%エタノール3槽)を通し、ついでキシレンを数槽通した後、化学封入剤、エンテラン(ムトー、東京)を滴下、カバーグラスを載せて永久標本とした。封入後、顕微鏡で該抗体が認識した抗原の局在、その程度を確認した。
得られた抗原は、ホルマリン固定したLCN1細胞やN231細胞とも反応性が認められた(図11)。また、26例のホルマリン固定・パラフィン包埋されたヒト肺癌組織との反応性を図12〜15に、全体の染色結果を表1に示す。
次に、本明細書に添付した図面の内容を要約して説明する。
免疫沈降法による抗原の分離、精製方法を示すフローチャートである。 質量分析計による抗原の同定、及びウエスタンブロッティングによる抗原の確認手順を示す、フローチャートである。 写真Aは抗原精製物の電気泳動による検出結果を、写真Bはウエスタンブロッティングによる抗原の確認結果を示す。 免疫されたマウスの血清中に含まれる抗体が認識する抗原の局在を示す、LCN1細胞の染色結果の写真である。LCN1細胞免疫マウス血清を一次抗体する免疫染色の結果であり、LCN1細胞の核、細胞質、際棒膜など様々な部分との反応性が観察される。十分に抗体価が上昇していることが示されている。 LU-L008抗体とAMeX固定LCN1細胞との反応性を示す写真である。LCN1細胞の細胞質に同様に反応性が認められる(→)。
64個のハイブリドーマの上清を免疫ブロット法でスクリーニングした結果を示す写真である。ハイブリドーマごとに様々な程度で抗体の産生が認められる。強い反応を示している細胞を選択しクローニングを行った。 得られた抗原を質量分析計で分析し、そのデータをデータベース検索した結果を示す表である。 図7に示された質量分析データに対応する、同定確度の高いタンパク質のタンパク名とアミノ酸配列を示す表である。 モノクローナル抗体とAMeX固定ヒト肺がん組織との反応性を示す写真である。腺癌、小細胞癌、大細胞癌の腫瘍間質の線維芽細胞が様々な程度に陽性を示している(→)。また、大細胞癌組織では腫瘍細胞の細胞質にも反応が見られる(太い→)。一方、正常肺組織には反応性が認められない。 モノクローナル抗体と、肺癌患者血清や膀胱癌患者のとの反応性を示す。該抗体は肺癌、膀胱癌患者血清と広く反応したが、健常者血清とは反応が見られなかった。図中、1−12は肺癌患者血清、13−18は膀胱癌患者血清、N1-N4は健常者血清である。
モノクローナル抗体と、ホルマリン固定したLCN1細胞やN231細胞とも反応性を示す写真である。ホルマリン固定されたLCN1細胞との反応性が観察される(→)。LCN1細胞より発現量は低下している、N231細胞とも反応が観察される(→)。 モノクローナル抗体と肺腺癌との反応性を示す写真である。(左)はHE染色であり、(右)は該抗体との反応性を示す。間質(←で示した部位)の線維芽細胞の多くが陽性(褐色)である:評価間質2+:腫瘍細胞(短い←)腫瘍0と評価した。 モノクローナル抗体と肺腺癌との反応性を示す写真である。(左)はHE染色であり、(右)は該抗体との反応性を示す。間質(←)の線維芽細胞は散在性に少数が陽性であり:評価間質1+で、腫瘍細胞(短い←)はほとんどが陽性である:評価腫瘍2+。 モノクローナル抗体と肺扁平上皮癌との反応性を示す写真である。(左)はHE染色であり、(右)は該抗体との反応性を示す。間質(←)も、腫瘍細胞(短い←)も、ともに評価:2+である。 モノクローナル抗体と正常肺組織との反応性を示す写真である。左右2例の正常肺組織は、どちらも該抗体との反応性は認められない。
配列表のフリーテキスト
(配列番号1) 配列番号1は、ヒトサイトケラチン9のアミノ酸を示す。該配列番号1のヒトサイトケラチン9は、アミノ酸置換による変異体を含む。

Claims (20)

  1. ヒトサイトケラチン9に特異的に反応する、肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体。
  2. 前記ヒトサイトケラチン9が、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されるヒトサイトケラチン9である、請求項1記載のモノクローナル抗体。
  3. 配列番号1のポリペプチド、又は該ポリペプチドの断片に特異的に反応する、肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体。
  4. 前記配列番号1のポリペプチド、又は該ポリペプチドの断片が、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されたものである、請求項1記載のモノクローナル抗体。
  5. ハイブリドーマFERM P-20697、又はFERM P-20698によって産生された、肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項記載の診断用モノクローナル抗体を含む、肺癌、及び膀胱癌診断用試薬。
  7. 請求項1〜5のいずれか1項記載の癌診断用モノクローナル抗体を含む、肺癌、及び膀胱癌診断用キット。
  8. ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、又は該ポリペプチドの断片に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、液体培地中、又は哺乳動物の腹腔内で増殖させることを特徴とする、請求項1、又は3のいずれか1項記載の肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体の製造方法。
  9. 肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されたヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、液体培地中、又は哺乳動物の腹腔内で増殖させることを特徴とする、請求項2又は4のいずれか1項記載の肺癌、及び膀胱癌診断用モノクローナル抗体の製造方法。
  10. 前記ハイブリドーマが、ハイブリドーマFERM P-20697又はFERM P-20698である、請求項8又は9のいずれか1項記載の製造方法。
  11. ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、該ポリペプチドの断片、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されたヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片に特異的に反応する、癌診断用モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
  12. FERM P-20697で特定されるハイブリドーマ。
  13. FERM P-20698で特定されるハイブリドーマ。
  14. ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、該ポリペプチドの断片、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されるヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片に、特異的に反応するモノクローナル抗体を含む、抗肺癌及び抗膀胱癌医薬組成物。
  15. ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、該ポリペプチドの断片、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されるヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片に特異的に反応する、モノクローナル抗体を投与することを含む、肺癌及び膀胱癌の治療方法。
  16. 肺癌及び膀胱癌の検出方法であって、患者から採取された体液サンプル、又は組織サンプルを、請求項1、3又は5のいずれか1項記載の癌診断用モノクローナル抗体と接触させ、ヒトサイトケラチン9、配列番号1のポリペプチド、及び該ポリペプチドの断片からなる群から選ばれた該サンプルに含まれる癌マーカと、該モノクローナル抗体との複合体を形成させ、該複合体を検出することを特徴とする、前記検出方法。
  17. 肺癌及び膀胱癌の検出方法であって、患者から採取された体液サンプル、又は組織サンプルを、請求項2、4又は、5のいずれか1項記載の癌診断用モノクローナル抗体と接触させ、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌されるヒトサイトケラチン9、肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された配列番号1のポリペプチド、或いは肺癌細胞、又は膀胱癌細胞から分泌された該ポリペプチドの断片からなる群から選ばれた該サンプルに含まれる癌マーカと、該モノクローナル抗体との複合体を形成させ、該複合体を検出することを特徴とする、前記検出方法。
  18. 該体液サンプルが血清である、請求項16又は17のいずれか1項記載の検出方法。
  19. 該肺癌が、ヒト肺神経内分泌癌である、肺小細胞癌、又は肺大細胞性神経内分泌癌である、請求項16又は17のいずれか1項記載の検出方法。
  20. 該複合体を、標識した抗IgG抗体を用いて検出する、請求項19記載の検出方法。
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