JP2007295671A - 車両駆動制御装置および車輪スリップ判定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】車輪のスリップを良好に判定する。
【解決手段】本発明の車両駆動制御装置は、前輪を駆動するフロントモータと、後輪を駆動するリアモータと、フロントモータの回転数から予測されるリアモータの予測回転数とリアモータの実回転数との比較結果に基づいて車輪のスリップの有無を判定する制御部と、を備える。制御部は、モータの予測回転数と実回転数との差がスリップ判定値を超える場合にいずれかの車輪にスリップが生じていると判定する。
【選択図】図2
【解決手段】本発明の車両駆動制御装置は、前輪を駆動するフロントモータと、後輪を駆動するリアモータと、フロントモータの回転数から予測されるリアモータの予測回転数とリアモータの実回転数との比較結果に基づいて車輪のスリップの有無を判定する制御部と、を備える。制御部は、モータの予測回転数と実回転数との差がスリップ判定値を超える場合にいずれかの車輪にスリップが生じていると判定する。
【選択図】図2
Description
本発明は、モータにより駆動される車両の車両駆動制御装置に関し、特に複数のモータがそれぞれ別個の車輪を駆動する車両駆動制御装置、および当該車両に好適な車輪スリップ判定方法に関する。
従来から、左右の前輪をそれぞれ独立のモータにて駆動する電気自動車の駆動制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置においては、左右のモータそれぞれの回転数検出値の差が一定値以上の場合にモータ回転数の高い側のトルク指令値が当該差に応じて減算される。これにより、車輪のスリップによるモータ回転数の異常な上昇を防止することができるとされている。
特開平9−252505号公報
上述の装置では、単に左右輪のモータ回転数検出値の差に基づいてモータのトルク指令値を演算している。ところが実際には、例えば前輪と後輪とをそれぞれ異なるモータにより駆動するというように車輪によって駆動系を異ならせる場合がある。このような場合には、車両速度とモータ回転数との関係をモータごとに異ならせる場合もあり得る。そうすると、各モータ回転数の差から直ちに車輪のスリップの有無を判定することは難しい。
そこで、本発明は、車速とモータ回転数との関係がモータによって異なる場合であっても良好に車輪のスリップを判定することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両駆動制御装置は、第1の車輪を駆動する第1のモータと、第1の車輪とは異なる第2の車輪を駆動する第2のモータと、第1のモータの回転数から予測される第2のモータの予測回転数と第2のモータの実回転数との比較結果に基づいて車輪のスリップの有無を判定する制御部と、を備える。
車両によっては、車輪ごとに駆動系を異ならせる場合がある。例えば4輪駆動の車両では前輪と後輪とで駆動用のモータあるいはモータから車輪への減速比を異ならせることがある。この場合、車速とモータ回転数との関係は前輪側と後輪側とでに異なることになるものの、正常な走行中においては、前後のモータの回転数の間には一定の関係が存在する。一方、いずれかの車輪にスリップが発生すれば、その車輪を駆動するモータの回転数が上昇する。このため、スリップ時のモータ回転数の相互の関係は正常な走行時の関係から離れてしまうことになる。よって、モータの回転数の変動から車輪のスリップの有無を判定することが可能である。
上述の態様においては、制御部は第2のモータの予測回転数を比較対象として用いるので、第2のモータの実際の回転数と直接に容易に比較することができる。制御部は、第2のモータの予測回転数を第1のモータの回転数から予測することにより、予測回転数を容易に取得することができる。正常な走行中において理想的には、判定対象となる第2のモータの予測回転数は当該判定対象モータの実回転数に一致するものと考えられる。よって、制御部は、判定対象モータの実回転数と予測回転数との比較結果に基づいて、いずれかの車輪にスリップが生じているか、あるいは生じる可能性が高い状態にあるか否かを判定することができる。第1のモータの回転数から予測される第2のモータの予測回転数を比較対象として用いることにより、車速とモータ回転数との関係がモータによって異なる場合であっても良好に車輪のスリップを判定することができる。
制御部は、予測回転数と実回転数との差がスリップ判定値を超える場合に第1の車輪または第2の車輪にスリップが生じていると判定するとともに、予測回転数と実回転数との差がスリップ判定値よりも小さい仮スリップ判定値を超える場合に第1の車輪または第2の車輪にスリップが生じるおそれがあると判定してもよい。
この態様によれば、制御部は、モータの予測回転数と実際の回転数との差がスリップ判定値を超える場合にいずれかの車輪にスリップが発生したものと判定する。スリップ判定値は、車輪にスリップが実際に発生したか否かを判定するための閾値である。また、制御部は、モータの予測回転数と実際の回転数との差がスリップ判定値よりも小さい仮スリップ判定値を超える場合にいずれかの車輪にスリップが生じるおそれがあると判定する。仮スリップ判定値は、スリップが発生するおそれがあるか否かを判定するための閾値である。このようにすれば、スリップ判定値による判定に先立って、仮スリップ判定値によりスリップが起こりそうな状態であるか否かを検出することができる。よって、例えばスリップが発生する前にモータ出力を抑えるというように、スリップによるモータへの影響を未然に軽減することが可能となる。
制御部は、第1のモータの回転数と第2のモータの回転数との対応関係を用いて第1のモータの実回転数から第2のモータの予測回転数を演算するものであって、正常な走行状態において測定された第1及び第2のモータの実回転数を利用して前記対応関係を更新してもよい。
この態様によれば、制御部は、正常な走行状態において測定された第1及び第2のモータの実回転数を利用して、第1のモータの回転数と第2のモータの回転数との対応関係を更新する。制御部は、更新された対応関係を用いて第1のモータの実回転数から第2のモータの予測回転数を演算することができる。よって、スリップ以外に走行中に想定される例えばタイヤの摩耗や車輪の組付け誤差などのモータ回転数の変動要因によるモータ予測回転数の誤差を低減させることができる。その結果、より高精度に車輪のスリップの有無を判定することができる。
制御部は、予測回転数と実回転数との大小関係に基づいて第1の車輪または第2の車輪のいずれにスリップが生じているかを特定し、スリップが生じているほうの車輪を駆動するモータの出力を制限してもよい。
この態様によれば、制御部は、スリップの生じた車輪を特定し、スリップが発生している車輪を駆動するモータに対してモータの出力に制限を課す。これにより、スリップ発生時のモータ回転数の過度の上昇からモータを保護することができる。
本発明の他の態様の車両駆動制御装置は、第1の車輪を駆動する第1のモータと、第1の車輪とは異なる第2の車輪を駆動する第2のモータと、第1のモータの回転数から予測される第2のモータの予測回転数と第2のモータの実回転数との比較結果に基づいて第1のモータまたは第2のモータの出力を制限する制御部と、を備えてもよい。このようにすれば、いずれかの車輪にスリップが生じているか、あるいは生じる可能性が高い状態にある場合にモータの出力を制限し、スリップによるモータ回転数の過度の上昇からモータを保護することができる。
本発明の別の態様は、車輪スリップ判定方法である。この方法は、それぞれ別個の車輪を駆動する複数のモータを搭載する車両用の車輪スリップ判定方法であり、判定対象モータの実回転数と他のモータの回転数から予測される当該判定対象モータの予測回転数との比較結果に基づいて車輪のスリップの有無を判定するという方法である。
本発明によれば、車輪のスリップを良好に判定することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両駆動制御装置が適用された車両1を示す概略構成図である。車両1は4輪駆動のハイブリッド車両として構成されている。車両1の駆動系は、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」といい、電子制御ユニットは、すべて「ECU」と称する。)7により制御される。車両1は、エンジン2と、エンジン2の出力軸であるクランクシャフトに接続された3軸式の動力分割機構3と、動力分割機構3に接続された発電可能なジェネレータ4と、前輪側変速機5を介して動力分割機構3に接続されたフロントモータ6とを備える。前輪側変速機5には、前輪側ドライブシャフト8を介して車両1の右前輪9FRおよび左前輪9FLが連結される。本実施形態においては、フロントモータ6が第1のモータに対応し、前輪が第1の車輪に対応する。
エンジン2は、例えばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジンECU10により制御される。エンジンECU10は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、エンジン2の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン2の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。また、エンジンECU10は、必要に応じてエンジン2の作動状態に関する情報をハイブリッドECU7に与える。
車両1はリアモータ16も備えている。後輪側変速機15には、後輪側ドライブシャフト18を介して車両1の右後輪9RRおよび左後輪9RLが連結される。リアモータ16の出力は、後輪側変速機15を介して左右の後輪9RR、9RLに伝達される。本実施形態においては、リアモータ16が第2のモータに対応し、後輪が第2の車輪に対応する。
動力分割機構3は、前輪側変速機5を介してフロントモータ6の出力を左右の前輪9FR、9FLに伝達する役割と、エンジン2の出力をジェネレータ4と前輪側変速機5とに振り分ける役割と、フロントモータ6やエンジン2の回転速度を減速あるいは増速する役割とを果たす。
ジェネレータ4、フロントモータ6およびリアモータ16は、それぞれモータ駆動用のインバータを含む電力変換装置11を介してバッテリ12に接続されており、電力変換装置11には、モータECU14が接続されている。モータECU14も、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号等に基づいて電力変換装置11を介してジェネレータ4、フロントモータ6およびリアモータ16を制御する。フロントモータ6及びリアモータ16には、それぞれの回転数を検出するための例えばロータリエンコーダ等の回転変位検出器が内蔵されている。回転変位検出器の出力信号はモータECU14に送信され、モータECU14はフロントモータ6及びリアモータ16の回転数を検出することができる。
なお本実施形態においてはフロントモータ6及びリアモータ16は共通のモータECU14及び電力変換装置11により制御されているが、フロントモータ6及びリアモータ16のそれぞれを別個のコントローラにより制御するようにしてもよい。この場合、フロントモータ用コントローラ及びリアモータ用コントローラはともにハイブリッドECU7と通信可能に構成されるとともに、フロントモータ用及びリアモータ用コントローラ相互間も通信可能に構成される。
ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、電力変換装置11を介してバッテリ12から電力をフロントモータ6、リアモータ16に供給することで、フロントモータ6の出力により左右の前輪9FR、9FLを駆動し、またリアモータ16の出力により左右の後輪9RR、9RLを駆動することができる。また、エンジン効率のよい運転領域では、車両1はエンジン2によって駆動される。この際、動力分割機構3を介してエンジン2の出力の一部をジェネレータ4に伝えることにより、ジェネレータ4が発生する電力を用いて、フロントモータ6及びリアモータ16を駆動したり、電力変換装置11を介してバッテリ12を充電したりすることが可能となる。
また、車両1を制動する際には、ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、前輪9FR、9FLから伝わる動力によってフロントモータ6が回転させられ、フロントモータ6が発電機として作動させられる。また、後輪9RR、9RLから伝わる動力によってリアモータ16が回転させられ、リアモータ16が発電機として作動させられる。すなわち、フロントモータ6、リアモータ16、電力変換装置11、ハイブリッドECU7およびモータECU14等は、車両1の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両1を制動する回生ブレーキユニットとして機能する。
車両1は、このような回生ブレーキユニットに加えて、液圧ブレーキユニット20を備えており、両者を協調させるブレーキ回生協調制御を実行することにより車両1を制動可能なものである。液圧ブレーキユニット20は液圧源や液圧アクチュエータを含んで構成される。液圧アクチュエータは各車輪に制動力を付与するためのホイールシリンダ21FR〜21RLやホイールシリンダ21FR〜21RLの液圧を制御するための制御弁を備える。ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、回生ブレーキユニット及び液圧ブレーキユニット20の動作状態や運転者からの制動要求を検出する各種センサからの信号に基づいてブレーキ回生協調制御を実行する。
上述のハイブリッドECU7やエンジンECU10、モータECU14、ブレーキECU70は、いずれもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されている。これらのECUは、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。
図2は、本実施形態における車輪スリップ判定方法を説明するためのフローチャートである。図2に示される処理は、モータECU14により車両の駆動中に所定の周期、例えば数msecごとに繰り返し実行される。
図2に示されるように、処理が開始されるとモータECU14はまず、フロントモータ6の回転数rFを取得する(S10)。具体的にはモータECU14は、フロントモータ6に内蔵されているロータリエンコーダの出力信号を受けてフロントモータ6の回転数rFを算出する。
次いでモータECU14は、フロントモータ6の回転数rFに基づいてリアモータ16の予測回転数rR1を算出する(S12)。前輪側の駆動系と後輪側の駆動系とが同一であればフロントモータ回転数とリアモータ回転数とは概ね一致する。ところが本実施形態のように前輪と後輪とを異なるモータで駆動する場合には、車速とモータ回転数との関係を設計上の必要性からモータごとに異ならせる場合もしばしばある。このような場合にはフロントモータ回転数とリアモータ回転数とは一致しない。そこで、モータECU14は、図3に示されるモータ回転数変換マップを用いて、フロントモータ6の回転数rFからリアモータ16の予測回転数rR1を算出する。
図3は、本実施形態に係るモータ回転数変換マップの一例を示す図である。図3の縦軸はフロントモータ6の回転数を示し、横軸はリアモータ16の回転数を示す。通常フロントモータ回転数は車速に比例し、リアモータ回転数もまた車速に比例するから、図3に示されるようにフロントモータ回転数はリアモータ回転数に比例する。モータECU14は、このようなモータ回転数変換マップに相当するフロントモータ回転数とリアモータ回転数との対応関係を予め記憶しており、フロントモータ6の回転数の測定値rFに対応するリアモータ16の予測回転数rR1をマップに基づいて換算することができる。なお、フロントモータ6及びリアモータ16の減速比が可変である場合には、減速比に応じた複数の異なるマップを使い分けてフロントモータ6の回転数rFからリアモータ16の予測回転数rR1を算出することができる。
図2に戻って処理の説明を続ける。リアモータ16の予測回転数rR1が演算されると、モータECU14は、この予測回転数rR1の比較対象となるリアモータ16の実回転数rR2を取得する(S14)。具体的にはモータECU14は、リアモータ16に内蔵されているロータリエンコーダの出力信号を受けてリアモータ16の実回転数rR2を算出する。なお、制御部は、リアモータ16の実回転数rR2をフロントモータの回転数rFと同時に測定してもよい。
次にモータECU14は、リアモータ16の予測回転数rR1と実回転数rR2とを比較することにより車輪のスリップの有無を判定する。本実施形態では具体的には、リアモータ16の予測回転数rR1と実回転数rR2との差の絶対値|rR1−rR2|がスリップ判定値Kaよりも大きいか否かを判定する(S16)。絶対値|rR1−rR2|がスリップ判定値Kaを超えると判定された場合には(S16のYes)、モータECU14は、スリップ抑制処理を実行する(S20)。スリップ抑制処理については図4を参照して後述するが、要するに、スリップが前輪及び後輪のいずれで発生したのかを特定し、スリップが発生した車輪を駆動するモータの出力に制限を加えるという処理である。スリップ抑制処理を実行することにより、スリップ発生時のモータ回転数の過度の上昇を抑制することができる。
ここで、スリップ判定値Kaは予め設定されてモータECU14に記憶されている。スリップ判定値Kaは、スリップの発生によるモータの高回転を抑えモータを適切に保護することができるように適宜実験等により設定されることが好ましい。そのためにスリップ判定値Kaは、スリップ時にモータに流れることが予測される電流値や、過大な電流に対するモータの耐久性、スリップ判定からスリップ抑制処理の実行までにかかる所要時間などを考慮して定められることが望ましい。
一方、絶対値|rR1−rR2|がスリップ判定値Kaを超えていない場合には(S16のNo)、モータECU14は、マップ学習処理を実行する(S22)。マップ学習処理については図5を参照して後述するが、要するに、スリップの発生していない正常な走行中に蓄積されたフロントモータ6及びリアモータ16の実回転数rF及びrR2を用いて上述のモータ回転数変換マップを更新するという処理である。マップ学習処理を実行することにより、タイヤ摩耗等のモータ回転数の変動要因の影響を軽減して、より高精度に車輪のスリップを判定することができるようになる。
スリップ抑制処理またはマップ学習処理が終了すると、モータECU14は、本実施形態に係るスリップ判定処理を終了する。その後、モータECU14は図2に示される処理を次の実行タイミングで再度実行する。
図4は、本実施形態に係るスリップ抑制処理S20を説明するためのフローチャートである。図2を参照して説明したようにリアモータ16の予測回転数rR1及びリアモータ16の実回転数rR2とが得られ、両者の差の絶対値がスリップ判定値Kaを超えると判定されると、モータECU14は、スリップ抑制処理を実行する。
スリップ抑制処理が開始されると、モータECU14は、まずリアモータ16の実回転数rR2と予測回転数rR1との大小関係、具体的には実回転数rR2が予測回転数rR1よりも大きいか否かを判定する(S24)。リアモータ16の予測回転数rR1はフロントモータ6の回転数rFから得られた値であるから、リアモータ16の実回転数rR2が予測回転数rR1よりも大きいということは、後輪のスリップによりリアモータ16がフロントモータ6よりも相対的に過剰に回転しているということを意味する。よって、実回転数rR2が予測回転数rR1よりも大きいと判定された場合には(S24のYes)、モータECU14は、後輪のスリップによるリアモータ16への悪影響を軽減するために、リアモータ16の出力トルクを制限する(S26)。
逆に、リアモータ16の予測回転数rR1が実回転数rR2よりも大きければ、前輪のスリップによりフロントモータ6がリアモータ16よりも相対的に過剰に回転していると言える。よって、予測回転数rR1が実回転数rR2よりも大きいと判定された場合には(S24のNo)、モータECU14は、フロントモータ6の出力トルクを制限する(S28)。
モータECU14は、モータ出力トルクに上限値を設定することにより、モータの出力トルクを制限する。スリップ抑制処理を開始する時点でのモータの出力トルクがこの上限値を既に超えている場合には、モータECU14は、上限値までモータの出力トルクを低下させ、以降の出力トルクが上限値を超えないようモータを制御する。スリップ抑制処理の開始時にモータ出力トルクが上限値に達していない場合には、モータECU14は、出力トルクが設定された上限値を超えないように以降のモータの制御を継続する。ここで、モータ出力トルクの上限値は、上述のスリップ判定値Kaと同様にモータを適切に保護するという観点から予め適宜設定され、モータECU14に記憶されている。
図5は、本実施形態に係るマップ学習処理S22を説明するためのフローチャートである。図2を参照して説明したようにモータECU14は、リアモータ16の予測回転数rR1と実回転数rR2との差の絶対値がスリップ判定値Kaを下回る場合にマップ学習処理を実行する。
マップ学習処理が開始されると、モータECU14は、まずスリップ抑制処理S22の直近の実行から設定時間Tが経過しているか否かを判定する(S30)。設定時間Tが経過していると判定された場合には(S30のYes)、モータECU14は、設定時間Tが経過するまでに記憶されたフロントモータ6及びリアモータ16の回転数測定値rF及びrR2の対応関係に基づいてモータ回転数変換マップを更新する(S32)。一方、設定時間Tが経過していないと判定された場合には(S30のNo)、モータECU14は、直前に測定されたフロントモータ6及びリアモータ16の回転数rF及びrR2の値、つまりS10及びS14(図2参照)での測定値を記憶し(S34)、マップ学習処理を終了する。
ここで、設定時間Tは例えば数秒程度と予め設定されてモータECU14に記憶されている。設定時間Tは、直前に発生したスリップがモータ回転数に及ぼす影響が充分に小さくなるまでの時間や、モータ回転数変換マップを更新するのに必要な測定回数を得るための時間などを考慮して適宜定めることができる。
マップ学習処理を実行することにより、スリップの発生していない正常な走行中に想定されるモータ回転数の変動要因の影響を軽減して、より高精度に車輪のスリップを判定することができる。このような変動要因としては、例えばタイヤ摩耗のように走行距離や走行時間の増加に応じて経時的にモータ予測回転数の誤差を増加させるものや、あるいは車輪の組付け誤差のように設計上の車両と実際の車両との違いに起因するものなどがある。
なお、上述の説明では、制御部は、絶対値|rR1−rR2|がスリップ判定値Kaを超えていないことを条件としてマップ学習処理を実行しているが、この条件が成立するたびに必ずしも毎回マップ学習処理を行わなくともよい。マップ学習処理は適宜の頻度で省略することができる。例えば、モータ予測回転数の実回転数に対する誤差が許容できる範囲を超えない程度にマップ学習処理の実行頻度を調整してもよい。一例として、車両の始動後に1度マップ学習処理が実行された場合には、その後の1トリップ中はマップ学習処理を省略してもよい。
以上のように本実施形態においては、モータECU14は、フロントモータ6の回転数からリアモータ16の予測回転数を演算し、リアモータ16の実回転数と比較して予測回転数と実回転数との大小関係からスリップの発生している車輪を特定することができる。そして、モータECU14は、スリップが発生している車輪を駆動するモータに対して出力トルクに制限を課している。これにより、スリップ発生時のモータ回転数の過度の上昇からモータを保護することができる。
なお、上述のように複数のモータ回転数の比較からスリップの有無を判定する手法の他に、典型的には特定の1つのモータの回転数が設定上限値を超えたことからスリップの発生を検出することも可能である。このような典型的な手法に比べて、本実施形態によれば、複数のモータの回転数の相違に基づいて判定しているので、より敏感にスリップの発生を検出することができるという点で好ましい。これは、本実施形態が本来一致するはずである予測回転数と実回転数との相対的なずれに基づいて検出する手法であるために、典型的な手法よりもスリップの発生を判定する閾値をより低く設定することが可能であろうと期待されるためである。
更に言えば、より好ましくは、制御部は、複数のモータのそれぞれに対してスリップ判定用の回転数上限値を設定してもよい。このように本実施形態に上述の典型的な手法を併用することにより、前輪及び後輪の双方に同時にスリップが発生していることをより確実に検出し、必要な処置を速やかに実行することが可能となる。
引き続き図6を参照して上述の実施形態の変形例を説明する。図6は、本実施形態の変形例に係るスリップ判定方法を説明するためのフローチャートである。この変形例においては、上述のスリップ判定処理に加えて、スリップが発生するおそれのある状態であるか否かも判定される。これにより、車輪のスリップによるモータへの悪影響をより確実に抑制することが可能となる。以下では便宜上、スリップが発生するおそれのある状態を「仮スリップ状態」と適宜称することとする。
図6に示される処理が開始されると、モータECU14は、フロントモータ6及びリアモータ16それぞれの実回転数rF及びrR2を取得するとともに、フロントモータ6の回転数rFからリアモータ16の予測回転数rR1を演算する(S10〜S14)。
そしてモータECU14は、車輪が仮スリップ状態であるか否かをまず判定する。この仮スリップ判定は、車輪がスリップ状態にあるか否かを判定するのに先立って行われる。具体的には、リアモータ16の予測回転数rR1と実回転数rR2との差の絶対値|rR1−rR2|が仮スリップ判定値Kbよりも大きいか否かを判定する(S15)。絶対値|rR1−rR2|が仮スリップ判定値Kbを超えていない場合には(S15のNo)、車両が正常に走行しているものとして、モータECU14は、図5を参照して説明したマップ学習処理を実行する(S22)。この場合、モータ回転数変換マップの更新は、スリップ抑制処理S22の直近の実行から設定時間Tが経過するだけでなく、仮スリップ処理S21の直近の実行からも設定時間Tが経過してから行うことが望ましい。
ここで、仮スリップ判定値Kbは、上述のスリップ判定値Kaよりも小さい値に予め設定されてモータECU14に記憶されている。このようにすれば、車輪がスリップする前に仮スリップ状態であると判定することが可能となり、スリップの発生によるモータ高回転を未然に防止することができる可能性が高まるという点で好ましい。また、仮スリップ判定値Kbは、タイヤの摩耗などの正常な走行中に生じ得る変動要因から予測される絶対値|rR1−rR2|の値よりも大きく設定することができる。このようにすれば、仮スリップ状態であると正常時に誤って判断する可能性を低減させ、的確に仮スリップ状態を判定することができるという点で好ましい。
絶対値|rR1−rR2|が仮スリップ判定値Kbを超えると判定された場合には(S15のYes)、モータECU14は、更に絶対値|rR1−rR2|がスリップ判定値Kaを超えるか否かを判定する(S16)。絶対値|rR1−rR2|がスリップ判定値Kaを超えると判定された場合には(S16のYes)、モータECU14は、図4を参照して説明したスリップ抑制処理を実行する(S20)。
一方、絶対値|rR1−rR2|がスリップ判定値Kaを超えていないと判定された場合には(S16のNo)、モータECU14は、仮スリップ処理を実行する(S21)。仮スリップ処理は、スリップが発生するおそれのある車輪を駆動するモータの出力に制限を加えるという処理である。仮スリップ処理は、スリップ抑制処理と同様の処理である。具体的には、モータECU14は、モータの実回転数と予測回転数との大小関係に基づいてスリップが前輪及び後輪のいずれで発生するおそれがあるのかを特定した上で、スリップが発生するおそれのあるほうの車輪を駆動するモータの出力に制限を加える。
以上のように本変形例によれば、車輪のスリップを検出するのみならず仮スリップ状態をも検出するようにしているので、スリップによりモータに過剰な高回転が生じるのをより確実に防止することができる。
なお付言すると、本実施形態においては、フロントモータ6の回転数からリアモータ16の回転数を予測しているが、本発明はこれに限られない。逆に例えば、モータECU14は、リアモータ16の回転数からフロントモータ6の予測回転数を演算してもよい。このようにしてもフロントモータ6の予測回転数と実回転数とを比較することにより車輪のスリップの有無を同様に判定することができる。要するに、制御部は、異なる特性を有する複数のモータの回転数を各モータの特性間の関係に基づいて共通の指標に換算し、各モータの当該共通指標値の比較結果からスリップの有無を判定するようにしてもよい。
1 車両、 6 フロントモータ、 7 ハイブリッドECU、 9 車輪、 11 電力変換装置、 14 モータECU、 16 リアモータ。
Claims (6)
- 第1の車輪を駆動する第1のモータと、
前記第1の車輪とは異なる第2の車輪を駆動する第2のモータと、
前記第1のモータの回転数から予測される前記第2のモータの予測回転数と前記第2のモータの実回転数との比較結果に基づいて車輪のスリップの有無を判定する制御部と、
を備えることを特徴とする車両駆動制御装置。 - 前記制御部は、前記予測回転数と前記実回転数との差がスリップ判定値を超える場合に前記第1の車輪または第2の車輪にスリップが生じていると判定するとともに、
前記予測回転数と前記実回転数との差が前記スリップ判定値よりも小さい仮スリップ判定値を超える場合に前記第1の車輪または第2の車輪にスリップが生じるおそれがあると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両駆動制御装置。 - 前記制御部は、前記第1のモータの回転数と前記第2のモータの回転数との対応関係を用いて前記第1のモータの実回転数から前記第2のモータの予測回転数を演算するものであって、正常な走行状態において測定された前記第1及び第2のモータの実回転数を利用して前記対応関係を更新することを特徴とする請求項1に記載の車両駆動制御装置。
- 前記制御部は、前記予測回転数と前記実回転数との大小関係に基づいて前記第1の車輪または第2の車輪のいずれにスリップが生じているかを特定し、スリップが生じているほうの車輪を駆動するモータの出力を制限することを特徴とする請求項1に記載の車両駆動制御装置。
- 第1の車輪を駆動する第1のモータと、
前記第1の車輪とは異なる第2の車輪を駆動する第2のモータと、
前記第1のモータの回転数から予測される前記第2のモータの予測回転数と前記第2のモータの実回転数との比較結果に基づいて前記第1のモータまたは第2のモータの出力を制限する制御部と、
を備えることを特徴とする車両駆動制御装置。 - それぞれ別個の車輪を駆動する複数のモータを搭載する車両用の車輪スリップ判定方法であって、
判定対象モータの実回転数と他のモータの回転数から予測される前記判定対象モータの予測回転数との比較結果に基づいて車輪のスリップの有無を判定することを特徴とする車輪スリップ判定方法。
Priority Applications (1)
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JP2006118451A JP2007295671A (ja) | 2006-04-21 | 2006-04-21 | 車両駆動制御装置および車輪スリップ判定方法 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2013509857A (ja) * | 2009-10-30 | 2013-03-14 | エルエスアイ・インダストリーズ・インコーポレーテッド | 電動車両のための牽引システム |
WO2013125402A1 (ja) * | 2012-02-24 | 2013-08-29 | 日産自動車株式会社 | 車両の駆動制御装置 |
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- 2006-04-21 JP JP2006118451A patent/JP2007295671A/ja active Pending
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