以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明は繰り返さず省略する。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1における半導体レーザの基本的な構成を示す断面図である。長さLのp−InP基板8上に、p−InP下クラッド層14、その上に活性層3、その上にn−InP上クラッド層13、さらにその上にn−InGaAsPコンタクト層12がある。ここで活性層3はInGaAsPの組成の異なる層を積層した多重量子井戸構造である。p−InP基板8の下にはp側電極2、n−InGaAsPコンタクト層12の上にはn側電極1が形成されている。
基板8に沿った方向で見ると、これらの層の一方の側にはレーザ光17が出射する出射端面9があり、他方の側には反射端面7がある。出射端面9側には低反射膜16がコーティングされ、反対側の反射端面7には高反射膜15がコーティングされている。
図1のように、上記の層のうち活性層3は直接に出射端面9に接せず、レーザ光の出射端面9と活性層3との間に活性層3よりもバンドギャップの大きい半導体のInPからなる窓領域11を有している。窓領域11は、活性層11の出射端面側の端面近傍から出射端面9まで伸びる第1の半導体層21がある。第1の半導体層21のp−InP基板8と反対側にはn−InP上クラッド層13の一部を含む第2の半導体層がある。また、第1の半導体層21のp−InP基板側には、p−InP下クラッド層14やp−InP基板8の一部を含む第3の半導体層23がある。従って第1の半導体層は第2の半導体層22および第3の半導体層23によって厚さ方向に挟まれている。また1の半導体層21の屈折率は第2の半導体層22および第3の半導体層23の屈折率よりも低い。さらに第1の半導体層の厚さは活性層3の厚さ以上で、第2の半導体層22の厚さ以下、また第3の半導体層23の厚さ以下となっている。
図2は、本実施の形態1における半導体レーザの構成をより詳細に示す断面図である。活性層3の出射端面9側の側面近傍と出射端面9との間の窓領域11には電流閉じ込め層10がある。また、電流閉じ込め層10は、その層の厚さ方向に、下側をp−InP下クラッド層14、上側をn−InP上クラッド層13によって挟まれている。ここで電流閉じ込め層10は、基板側からp−InP層10c、n−InP層10b、p−InP層10aの導電型の異なる半導体層を順次積層したp−InP/n−InP/p−InP構造を有している。図1の第1の半導体層21は図2のn−InP層10b、図1の第2の半導体層22は図2のp−InP層10aとn−InP上クラッド層13とが積層した層、図1の第3の半導体層23は図2のp−InP層10c、p−InP下クラッド層14、p−InP基板8が積層した層、にそれぞれ相当する。
活性層3とn−InP上クラッド層13との間にn−InP埋め込み層4があり、n−InP埋め込み層4内の活性層3に近接する位置で、出射端面9側に近い長さLgにわたる回折格子領域6には、活性層3に沿ってInGaAsPガイド層からなる回折格子5がある。
ここで、電流閉じ込め層10のn−InP層10bの不純物濃度は、そのn−InP層10bを上下から挟むp−InP層10cおよびp−InP層10aの不純物濃度よりも高く、また電流閉じ込め層10の厚さ方向の上下にあるp−InP基板8、p−InP下クラッド層14、n−InP上クラッド層13の不純物濃度より高くなっている。
不純物濃度を高くしたことにより、プラズマ効果で屈折率が低下するので、電流閉じ込め層10中のn−InP層10bは、その上下から挟むp−InP層10cおよびp−InP層10a、さらにp−InP基板8、p−InP下クラッド層14、およびn−InP上クラッド層13よりも屈折率が低くなっている。従って、活性層3の出射端面側の端面近傍から出射端面まで伸びる半導体層は、その半導体層を挟む上下の半導体層よりも屈折率が低くなっている。
例えば、n−InP層10bの不純物濃度を7×1018〜2×1019cm−3の範囲の値として、n−InP層10bを上下から挟むp−InP層10cおよびp−InP層10a、またp−InP基板8、p−InP下クラッド層14、およびn−InP上クラッド層13の不純物濃度は1×1018〜5×1018cm−3の範囲の値とする。これによりn−InP層10bの屈折率はその層を厚さ方向に上下から挟む半導体層の屈折率に対して、0.1%〜数%程度低い値となる。
また、n−InP層10bの厚さは活性層3の厚さ以上であり、p−InP基板8およびn−InP上クラッド層13以下となっている。従ってn−InP層10bの厚さはn−InP層10bを厚さ方向に上下から挟む半導体層の厚さ以下である。従って、活性層3の出射端面側の端面近傍から出射端面方向に伸びる屈折率が低い半導体層は、活性層3の厚さ以上であり、その半導体層を挟む半導体層の厚さ以下である。
例えば、活性層3の厚さを0.1〜0.3μm、n−InP層10bの厚さを0.4〜1μm、またn−InP上クラッド層13の厚さを1〜3μm、p−InP基板8の厚さを30〜100μmなどとする。また、基板の全長、つまり出射端面9と反射端面7との距離Lは250〜400μm、回折格子領域6の長さLgは50〜150μm、窓領域11の長さは20〜50μmなどとする。
図3は本実施の形態1における半導体レーザの構成を示す斜視図である。図3において断面20で切断された形状が図2に相当する。なお、図3では出射端面の低反射膜16と反射端面の高反射膜15は省略した。活性層3は幅1−2ミクロン程度のストライプ状で、その長手方向が出射端面と反射端面との間を結ぶ方向に沿っている。また、活性層3の側面はp−InP/n−InP/p−InPからなる電流閉じ込め層10で埋め込まれている。
次に、本実施の形態1の半導体レーザの製造方法について簡単に述べる。p−InP基板8上に、p−InP下クラッド層14、その上に活性層3、さらにその上にn−InP埋め込み層4を順次、半導体エピタキシャル成長方法を用いて積層する。n−InP埋め込み層4を積層する途中に、InGaAsPガイド層の積層とエッチング加工により、活性層3の近傍に回折格子5を形成する。ここで回折格子5はそのブラッグ反射波長が活性層3のレーザ発振で利得が得られる波長範囲内にあるように設定される。
例えば、活性層3のレーザ発振で利得が得られる波長範囲が1.4〜1.6μmの場合、回折格子5のブラッグ反射波長を1.45〜1.55μmの範囲の適当な波長とする。
次いで、その上にSiO2膜やSiNX膜を成膜して、フォトリソグラフィーにより幅1−2ミクロン程度のストライプ状のレジストパターンを作成し、このレジストパターンをマスクとしてSiO2膜やSiNX膜をエッチングする。レジスト除去後、パターニングされたSiO2膜やSiNX膜をマスクとしてさらにその下のn−InP埋め込み層4、活性層3、さらにp−InP下クラッド層14の途中までエッチングする。図2では電流閉じ込め層10の一番下のp−InP層10cの底面の位置までエッチングする。その結果、活性層3の側面の外側に活性層3の厚さよりも高い段差部分を有するエッチング領域ができる。従って、このエッチング領域は、活性層3の出射端面側の端面から出射端面方向に伸び、かつ活性層3の厚さよりも厚い空間となっている。
その後、パターニングされたSiO2やSiNXの膜を選択成長のマスクとしてp−InP/n−InP/p−InPからなる電流閉じ込め層10をMOCVD法やLPE法などを用いて成膜して、活性層3の側面の外側のエッチング領域を、ほぼn−InP埋め込み層4と同じ高さになるまで埋め込む。このときp−InP層10c、n−InP層10b、p−InP層10aの各層の厚みは成膜速度と成膜時間とで調節することができる。ここではn−InP層10bの厚さを活性層3の厚さ以上とする。
なお、活性層3の出射端面側の端面付近における電流閉じ込め層10のp−InP/n−InP/p−InPの各層は、エッチング領域の形状や成膜の条件などにより、図2のように、傾斜した層となることが多い。その場合でも、これらの層は活性層3の出射端面側の端面から出射端面方向に伸びているとみなすことができる。
例えば、活性層3の側面の外側の段差部分の高さをエッチング時に活性層3の厚さの3倍以上とすれば、p−InP層10c、n−InP層10b、p−InP層10aの各層の厚みを同じにしてもn−InP層10bの厚みは活性層3の厚さ以上となる。
また、電流閉じ込め層10の各層の導電型や不純物濃度は成膜時に添加する不純物の濃度によって調整することができる。InPの場合P型とするにはZn、n型とするにはSやSeなどの不純物を添加する。ここではn−InP層10bの不純物濃度を電流閉じ込め層10のp−InP層10c、p−InP層10aや、p−InP基板8、p−InP下クラッド層14の不純物濃度よりも高くする。これによってn−InP層10bの屈折率を低くすることができる。
その後、SiO2やSiNXの膜を除去して、n−InP層10bよりも不純物濃度が低くn−InP層10bの厚さ以上のn−InP上クラッド層13を積層して上面全体を埋め込む。またn−InGaAsPコンタクト層12を積層し、n側電極1を形成し、p−InP基板8の裏面にp側電極2を形成する出射端面9および反射端面7で切断後に低反射膜16、反射端面7側に高反射膜15を形成する。
以上のような手順により、出射端面と活性層との間に活性層よりもバンドギャップの大きい半導体からなる窓領域を有し、その窓領域は、活性層の出射端面側の端面近傍から出射端面まで伸びる第1の半導体層と、その半導体層を厚さ方向に挟む第2の半導体層と第3の半導体層とを備え、第1の半導体層の屈折率は第2の半導体層および第3の半導体層の屈折率よりも低く、第1の半導体層の厚さは活性層の厚さ以上で、第2の半導体層の厚さ以下、また第3の半導体層の厚さ以下である半導体レーザを作製することができる。
次に、この半導体レーザの動作について述べる。この半導体レーザのn側電極1とp側電極2との間に、n−InGaAsPコンタクト層12、n−InP上クラッド層13、p−InP下クラッド層14を介して順方向に電流を流し、多重量子井戸から成る活性層3に電流を注入することによって活性層3内にレーザ光が発生する。InGaAsPからなる活性層3はn−InP上クラッド層13、p−InP下クラッド層14よりも屈折率が高いため、発生した光は活性層3にほぼ閉じ込められて伝播する。回折格子5は近接する活性層3と光学的に結合するので、回折格子5のブラッグ反射波長の活性層3を伝播する光は活性層3中で反射する。回折格子5と、高反射膜15で被覆された反射端面7からの光の帰還作用によって、利得が損失を上回るようになるとレーザ発振する。活性層3からのレーザ光は窓領域11を経て出射端面9より出射するが、窓領域11は活性層3よりもバンドギャップの大きい半導体材料からなるため、活性層3からのレーザ光を透過し、大半の出力光17が低反射膜16で覆われた出射端面9から取り出されることになる。出射されるレーザ出力光の波長は、活性層3に近接する位置に設けられた回折格子5のブラッグ反射波長によって決まる。
活性層3と回折格子5との光学的結合の強さ(結合係数)や、回折格子領域6の長さLg、また活性層3の全長やその屈折率などを調整することで、出力されるレーザ光を単一モードとすることができる。
また、窓領域11の活性層3の出射端面9側の端面近傍と出射端面9との間は、p−InP/n−InP/p−InPからなる電流閉じ込め層10によって形成されているが、この電流閉じ込め層10は、レーザに電流を流した際に、主に活性層3のみに電流が流れるように抵抗を高くした層である。本実施の形態1ではp−InP/n−InP/p−InPのように異なる導電型の層を積層することにより、それらの界面のpn接合で生じる抵抗の非常に高い空乏層によって電流をブロックして、電流閉じ込め層10のない活性層3のみに電流が流れるようにしている。これによってレーザ光発振の効率を高めることができる。
次に、本実施の形態1における窓領域11の作用について説明する。図8は本実施の形態1の比較例である従来の半導体レーザの構成を模式的に示した断面図であり、回折格子を有する半導体レーザであって活性層が出射端面と反射端面の全長にわたって形成された半導体レーザである。本実施の形態1の構造の図2と比較して窓領域11がない構造である。
半導体レーザの出射端面から出射されたレーザ光は、外部の光学部品等によって部分的に反射されて、一部が半導体レーザの出射端面9側に戻ってくる。出射端面9から入射された光が活性層3に入ると、その光を種とした誘導放出が起こり、本来のレーザ光の信号に別の信号が乗りRINが増加する。また、活性層3に入った光の影響で屈折率が変化することにより、発振する波長帯域が広がってしまうなどの性能劣化も生じる。
屈折率の高い領域が屈折率の低い領域に囲まれたような光導波路構造においては、光は屈折率の高い領域を伝播する。図8のように窓領域の無い構造では、n−InP上クラッド層13、p−InP下クラッド層14よりも屈折率が高い活性層3が出射端面9まで有り、従って出射端面9まで光導波路の構造を有している。出射端面9の活性層3近辺に入射した光は、屈折率が高い活性層3の中のほうがクラッド層よりも伝播しやすいので、大半が活性層3の内部に結合してしまう。従って従来の窓領域のない構造では、活性層3に入る反射戻り光を減少することができない。
一方、本実施の形態1の図2のように窓領域11を有する構造では、窓領域11に光導波路構造が形成されていないため、反射戻り光が窓領域11を通過して活性層に結合するまでの間にモード変換が起きて、n−InP上クラッド層13、p−InP下クラッド層14、p−InP基板8の部分にも広く分散する。分散した光は、それらの上下にある電極で吸収されるなどで、活性層3に到達し、結合するまでに減衰する。このように、窓領域11によって活性層3に結合する反射戻り光を減らすことができるので、反射戻り光による性能劣化を抑制することができる。
さらに、本実施の形態1の半導体レーザでは、窓領域11に、活性層の出射端面側の端面近傍から出射端面方向に伸びる半導体層が、厚さ方向にその半導体層よりも屈折率の高い半導体層によって挟まれた低屈折率層であるという構成を有している。図2において低屈折率層は電流閉じ込め層10中のn−InP層10bに相当し、n−InP層10bは下側をp−InP層10c、p−InP下クラッド層14、p−InP基板8からなるn−InP層10bよりも屈折率の高い半導体層、また上側をp−InP層10a、p−InP上クラッド層13からなるn−InP層10bよりも屈折率の高い半導体層によって挟まれている。
また、窓領域11において低屈折率のn−InP層10bの厚さは活性層3の厚さ以上であり、n−InP層10bを挟むn−InP層10bよりも屈折率の高い半導体層それぞれの厚さ以下となっている。
なお、p−InP層10aの厚さやp−InP層10cの厚さは、屈折率の低いn−InP層10bの厚さより薄くてもよい。その場合、p−InP層10aのn−InP層10bと反対側にn−InP層10bよりも屈折率が高く厚さの厚いn−InP上クラッド層13があり、p−InP層10cのn−InP層10bと反対側にn−InP層10bよりも屈折率が高く厚さの厚いp−InP下クラッド層14やp−InP基板8があればよい。また電流閉じ込め層10のうち屈折率の低い層は、必ずしもn−InP層10bでなくてもよい。窓領域11において活性層3から出射端面9側に、活性層3よりも厚さが厚く、上下の半導体層よりも屈折率の低い層を備え、屈折率の低い層の厚さが、上下の半導体層よりも薄いように構成されるとよい。
上記のようにした結果、n−InP層10bに入射する光は、より屈折率の高い上下の半導体層に結合して、その半導体層を伝播しようとするので、低屈折率のn−InP層10bは光が伝播しにくい層となっている。従って、窓領域11の低屈折率のn−InP層10bを伝播する光は弱くなる。n−InP層10bは活性層3の出射端面9側の端面近傍から出射端面9方向に伸びるような位置にあるため、出射端面9側から戻ってくる反射戻り光が活性層3に結合する光は減少することになる。結果として、比較的強い反射戻り光がある場合でも性能劣化を抑制することができる。
また、窓領域11において低屈折率のn−InP層10bの厚さは活性層3の厚さ以上であり、n−InP層10bを挟むn−InP層10bよりも屈折率の高い半導体層のそれぞれの厚さ以下としたため、n−InP層10bよりも屈折率の高い半導体層を光が伝播しやすくなり、また屈折率の高い半導体層を伝播する光が活性層3に結合する光を大幅に減らすことができる。これによって反射戻り光による性能劣化をさらに抑制することができる。
活性層3の出射端面9側の端面近傍から出射端面方向に伸びる低屈折率層は、図2のように必ずしも窓領域11の活性層3から出射端面9まで全域にわたってある必要は無く、活性層3の出射端面9側の端面近傍から出射端面方向に伸びる領域にあれば効果がある。
また活性層3を出射端面9側に延長した領域に位置していなくても、例えば本実施の形態1の図2のように、延長した領域の近傍にあれば効果を有する。
低屈折率層を活性層3を出射端面9側に延長した領域の位置に形成してもよく、その場合、例えば、活性層3の形状をエッチングによってストライプ状に加工する前に、n−InP埋め込み層4の上に高さ調節用のInPクラッド層を形成し、エッチング深さと電流閉じ込め層10の厚さ方向の関係から、電流閉じ込め層10中の屈折率の低い層が活性層3を出射端面9側に延長した領域に位置するようにしても良い。
また、電流閉じ込め層10の層部分は必ずしもp−InP/n−InP/p−InPの積層構造である必要は無く、例えば、2つ、または4つ以上の層からなる構造であっても良い。また屈折率が低い層はn−InP層でなくてもよく、いずれかの層、または全ての層の屈折率が低くなるようにしても良い。
低屈折率層またはそれを挟む半導体層の屈折率変化を生じる方法は、低屈折率層またはそれを挟む半導体層のどちらか、または両方の半導体組成を変化させる方法であってもよく、また、それらの層にひずみを加える方法や、局所的にイオン注入などで不純物を添加や欠陥を生じさせる方法であっても良い。
また電流閉じ込め層10の層の一部または全体を活性層3よりもバンドギャップの大きな他組成を有する半導体材料で形成されていてもよい。
また、上記の半導体レーザは、p−InP下クラッド層14が厚く、活性層8のエッチング後も窓領域11に残る場合について説明したが、p−InP下クラッド層14が薄く、活性層8のエッチング時に窓領域11のp−InP下クラッド層14がなくなる構造であっても良い。図4は本実施の形態1の別の形態の半導体レーザの構成を示す断面図である。図2と比べて、p−InP下クラッド層14が薄く、窓領域11にはp−InP下クラッド層14がない。この構成でも、p−InP基板8の屈折率はn−InP層10bの屈折率よりも高く、p−InP基板8の厚さはn−InP層10b以上であるので、本発明の効果を有する。
本実施の形態1では活性層3の近傍に回折格子5を有するDFBレーザであったが、回折格子5のない半導体レーザであっても、本実施の形態1のような窓領域11を備えていれば本発明の効果を有する。
上記のように、本実施の形態1では、活性層の出射端面側の端面近傍から出射端面方向に伸びる第1の半導体層と、第1の半導体層を厚さ方向に挟む第2の半導体層および第3の半導体層とを備え、第1の半導体層の屈折率は第2の半導体層および第3の半導体層よりも小さく、第1の半導体層の厚さは活性層の厚さ以上、第2の半導体層の厚さ以下、また第3の半導体層の厚さ以下である窓領域を備えている。このため反射戻り光は直接活性層に入射せず、窓領域を通過する間に減衰した後に活性層に到達する。その結果、比較的強い反射戻り光がある場合でも性能低下を抑制することができる。
また、上記のように、窓領域11によって反射戻り光の影響を抑制できるので、本発明の半導体レーザそのものの戻り光でなく、例えば、他のレーザから波長の異なる光が出射端面側から入力された場合であっても、その影響を抑制することができる。
(実施の形態2)
図5は本実施の形態2の半導体レーザの構成を示す断面図である。本実施の形態2の半導体レーザは、実施の形態1の構成に加えて、活性層の利得ピーク波長よりも短いブラッグ反射波長を有する回折格子5bを活性層に沿って設けたことにより、出射するレーザ光の波長が活性層の利得ピーク波長よりも短いことを特徴とする。基本的には図2と同じ構成を有し、その回折格子の周期に特徴がある。
反射戻り光が活性層3に吸収されると、レーザ内部の電界やキャリア密度が変動して、等価屈折率が変動する。等価屈折率揺らぎは、動的な光出力ゆらぎと発振波長の揺らぎを引き起こし、RINの増大の一因となる。キャリア密度変動と屈折率変動との比例係数は、線幅増大係数αで表される。従って原理的には、αが小さくすることは、反射戻り光による性能劣化を抑制することに効果がある。
図6は、本実施の形態2の半導体レーザの利得および線幅増大係数αと波長との関係を模式的に示したグラフである。ここで、半導体レーザの活性層3には1.5ミクロン帯に発光波長を有するものを用いた。図6の上段の利得のグラフでは利得ピーク52が見られるように、活性層3の利得はその活性層の組成や構造によって特定の波長に対してピークを持つ。一方、図6の下段のグラフのようにαは波長に対して、単調に増加し、活性層の利得ピークの波長51を越えるとさらに急激に増加する傾向である。従って、発振波長54を活性層の利得ピークの波長51よりも短波長側に離調(デチューニング)58させると、発振波長での利得55は利得のピーク52から減少するが、発振波長でのα56は利得ピーク波長でのα52よりも小さくなる。DFBレーザの場合発振波長を回折格子5bのブラッグ反射波長で決められるので、本実施の形態2では活性層の利得ピーク波長よりも短いブラッグ反射波長を有する回折格子5bを活性層3に沿って設けた。これにより出射するレーザ光の波長が活性層3の利得ピークの波長51よりも短くなり、その分αが小さくなるので、反射戻り光が活性層3に戻った場合でも反射戻り光による性能劣化を抑制することができる。
例えば、活性層の利得ピーク波長51よりも10ナノメートル以上、より好ましくは20ナノメートル以上短波長側に離調するようにすれば活性層3に到達した反射戻り光に起因する等価屈折率の動的な変動が大幅に抑えられるので、性能低下を抑制する効果が大きい。
また、αを低減する方法として、本実施の形態2の方法に加えて、活性層3を構成する多重量子井戸層への圧縮又は引張り歪の印加や、多重量子井戸層のうち障壁層にのみp型ドーピングを行う変調ドープなどの方法を併用しても効果的である。
図7は実施の形態2の半導体レーザの反射戻り光量とRIN相対雑音強度との関係を示すグラフである。図7には、実施の形態2のレーザの3個のRIN測定値62と、比較データとして活性層の全面に沿って回折格子5cを有する分布帰還型の従来の半導体レーザの測定値64とを示している。なお、反射戻り光とRINの測定の際には、RINが最大値を取るように反射戻り光の偏波面を偏波コントローラによって調整している。ここで、使用したレーザは、出射端面9と反射端面7との間隔Lを300μm、窓領域3の長さを20μm、利得ピーク波長よりも短波長側に離調した離調量を10nm、回折格子5bと活性層3との間の結合係数κと回折格子領域6の回折格子長Lgとの積κ×Lgの値を0.9に設定したレーザである。図7のように、従来の半導体レーザと比較すると、弱い反射戻り光量から比較的強い―15dBの反射戻り光量まで、すべての反射戻り光量において実施の形態2の半導体レーザのRINが低い値を保っている。また、図には示していないが、非特許文献1のように局所的に回折格子を設けた半導体レーザと比較しても、―30dB以上の比較的強い反射戻り光に対してもRINが極めて小さく、本実施の形態2は顕著な効果を有している。
また、さまざまな構造パラメータを有する半導体レーザを作製し、RINの反射戻り光量依存性を評価した結果、出射端面と反射端面との間隔Lが一定の場合に、κの値とLgの値とを適切に選ぶ事によって、反射戻り光による性能劣化を顕著に抑制できることを見出している。Lが250〜400μm、窓領域の長さが20〜50μm、回折格子のブラッグ波長と利得ピーク波長との離調量が10nm以上の場合において、κとLgとの積の値が0.6〜1.1の範囲にあるようにすると反射戻り光による性能劣化を顕著に抑制することができる。
以上のように実施の形態2では実施の形態1の窓領域によって、活性層に結合する反射戻り光を減少することができるうえに、DFBレーザの発振波長を決める回折格子のブラッグ反射波長が活性層3の利得ピーク波長51よりも短くなるように離調(デチューニング)されているので、活性層3に到達した反射戻り光に起因する等価屈折率の動的な変動が及ぼす影響を低減する事ができ、性能低下を抑制することができる。
また、本実施の形態1および2のように、窓領域11を有するDFBレーザの構造では、反射戻り光が活性層3に近接して設置された回折格子によって反射され、再び出射端面から出射する光も減少する効果がある。この回折格子によって反射された反射戻り光は、受光側において本来の出力光との間でクロストークを起こす問題が知られているが、本発明はこのクロストークを減少することにも効果がある。
なお、上記の本実施の形態1および2では、p-InP基板上に素子が形成された場合について示したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でn-InP基板上において各層の導電性を反転させる構成や、回折格子を活性層の下や活性層中に設けた構成、も同様に可能である。さらに、本実施の形態1および2では出射側とは反対側の端面に高反射コーティング膜が形成されている場合について示したが、高反射コーティング膜を形成せずに、へき開端面をそのまま使用してもよい。また、窓領域は出射端面側だけでなく反射端面側にあってもかまわない。
本実施の形態1および2のような半導体レーザとすれば、アイソレータが無くても光通信システムに使用できるような反射戻り光に対して性能劣化の小さい半導体レーザとなるので、これらを、光通信用システムのレーザ光源に用いたり、レーザ光源モジュールとして用いたりすることで、アイソレータが不要となり、より簡単な構成の光通信システムやレーザ光源モジュールを実現できる。
(実施の形態3)
図9は本実施の形態3の半導体レーザモジュールの構成を示す概略図である。半導体レーザ81と、その半導体レーザ81の出射光83を集光する複数のレンズ82a、82b、82cおよび、偏光子85をケース88内に備えている。ここで半導体レーザ81は実施の形態1または2で述べた半導体レーザを用いる。
まず、ケース88の外部から伝送すべき電気信号が配線89を通じて半導体レーザ81に入力される。この電気信号に応じて半導体レーザ81から出射した出射光83は、球レンズであるレンズ82aによっておおよそ平行なビームにされたのち、偏光子85を通過する。偏光子85は特定の方向(透過軸方向)の直線偏光を透過し、その方向からずれた偏光を吸収する。実施の形態1または2で述べたような量子井戸構造を有する半導体レーザでは、一般に電界の振動する方向が基板と並行なTE(Transverse Electric)光が出射光の主成分となる。また場合によっては基板に垂直なTM(Transverse Magnetic)光が主成分となることもある。そこで偏光子85の透過軸の方向は、半導体レーザ81から出射した出射光83の主な偏光成分の方向と一致させておく。これにより、偏光子85を通過する出射光83の強度は最大となる。
偏光子85は、例えば、銀などの金属ナノ粒子を板状ガラスに含有させ、面内の一方向に引き伸ばして配列することで偏光特性を持たせたものを用いることができる。
偏光子85を通過した直線偏光の出射光83はレンズ82b、83cにより集光され、単一モードの光ファイバ87の端面に入射する。これらのレンズ82b、83cとしてはGRIN(GRaded−INdex、屈折率勾配型)ロッドレンズを用いることができる。以上のように入力された電気信号は光信号に変換されて光ファイバ87中を伝搬する。
上記の構成では出射光83の偏光方向は半導体レーザ81から光ファイバ87の入射端面まで回転されずに保持される。光ファイバ87中を伝搬中の光は途中に屈折率の不連続な部分など反射点などがあると反射され、再び上記の逆順に進み半導体レーザ81側に戻る戻り光となる。しかし、通常、光ファイバ87を伝搬する途中、または反射点では偏光方向は保持されず、戻り光の偏光方向は元の出射直後の偏光方向からずれる。本実施の形態3の半導体レーザモジュールでは上記のように半導体レーザ81と光ファイバ87の入射端面との間に偏光子85を設置したので、戻り光のうち偏光子85の透過軸方向に一致しない偏光成分は吸収される。このため偏光子85によって戻り光の多くの成分が吸収され、半導体レーザ81に戻る反射戻り光は減少する。反射戻り光が低減されることにより、半導体レーザ81の発振線幅の増大や相対雑音強度RINの増大を生じにくくすることができる。
なお、反射戻り光の中で半導体レーザ81の偏光方向が同一の偏光成分は、偏光子85の作用で減衰されずそのまま半導体レーザ81の出射端面に戻ってくるが、実施の形態1または2に記載の戻り光耐性の高い半導体レーザ81を用いているため、システムの要求する仕様を満足するRINの値を維持することができる。従って、以上のような構成によって光アイソレータを使用しない半導体レーザモジュールでも光通信システムの性能を向上させることができる。
なお、偏光子85、レンズ82a、82b、83cは光の入射側または出射側、またその両側に出射光81の波長の光が低反射となるように反射防止膜が形成されていると、半導体レーザモジュール内部での反射戻り光の発生を防ぐので好ましい。また、反射防止膜を形成した偏光子85によってモジュールからの反射減衰量も十分に大きくする事ができる。
また、図9のように偏光子85が出射光83の伝搬方向である光軸に対してその入射面が垂直に設置されていてもよいが、傾斜するように設置されてもよい。入射面を傾斜させた場合はその面での反射した光が半導体レーザ81に戻りにくくなるのでモジュール内部での反射戻り光の発生をさらに低減することができる。傾斜させるかわりに半導体レーザ81側の入射面が凸面となるように偏光子85を湾曲させてもよい。また、偏光子85を傾斜や湾曲して配置する場合は、入射面に対して斜めから入射した場合でも出射光83の波長で低反射、例えば反射率1%以下、となるように上記の反射防止膜は多層膜フィルタとするとよい。
また、ケース88は外部から光が入らない構造が望ましく、また、内壁には光を吸収する材料や塗料が塗布されていてもよい。
また、本実施の形態3では複数のレンズを用いて、いわゆる第二レンズ分割型共焦点系といわれる構成となっているが、レンズは少なくとも光ファイバ87に集光するレンズが1つあれば良く、偏光子85は半導体レーザ81と光ファイバ87に入射端面との間にあればよい。
(実施の形態4)
図10は本実施の形態4の半導体レーザモジュールの構成を示す概略図である。実施の形態3の図9では複数のレンズを用い、また光ファイバ87の入射端面はGRINレンズからなるレンズ82cに接続する構成としたが、本実施の形態4ではレンズを1個のレンズ82dとしてレンズと光ファイバ87の入射端面とが離れた構成とした。また、光ファイバ87の入射端面はその出射光83の光軸に対して傾斜した面とされ、その入射端面部分はフェルール90で保持される。このフェルール90の端面に反射防止コーティングされた偏光子81が設置される。このように、偏光子81の入射面と光ファイバ87の入射端面は半導体レーザ81の出射光83の光軸に対して傾斜するので、偏光子81やこれらの面で反射する光が半導体レーザ81に戻ることを防止できる。偏光子81によって反射戻り光が低減される効果があることは本実施の形態3と同様である。
(実施の形態5)
また図11は本実施の形態5の半導体レーザモジュールの構成を示す概略図である。この半導体レーザモジュールは光アクセス系の通信システムで用いられ、波長の異なる上り/下りの光信号が双方向に伝送される一心双方向の光モジュールとなっている。
実施の形態4の構成の半導体レーザとレンズとが半導体レーザパッケージ91に収納され、半導体レーザパッケージ91と光ファイバ87との間に波長選択フィルタ93が追加され、さらにフォトダイオードパッケージ94が追加された構成である。半導体レーザパッケージ91、フォトダイオードパッケージ94およびフェルール90はケース88の壁面に固定されている。半導体レーザパッケージ91とフォトダイオードパッケージ94にはそれ端子94があり、これらの端子94を通じてケース88の外部から電気信号を入出力する。
半導体レーザパッケージ91の内部では半導体レーザから出射光がレンズにより集光されて上り光97として光ファイバ87の端面から入射される。一方、その上り光97と異なる波長を有する下り光98が光ファイバ87の端面からケース88内に出射される。
半導体レーザパッケージ91と光ファイバ87の端面との間には、上り光97の波長の光を透過し、下り光98の波長の光を反射する波長選択フィルタ95が設置されている。半導体レーザパッケージ91からの上り光97の光軸は光ファイバ87の光軸に一致するように配置され、その光軸を結ぶ直線に対する垂線上に方向にフォトダイオードパッケージ94が配置される。その光軸を結ぶ直線と垂線との交点位置に波長選択フィルタ95が45度傾けて設置される。これにより、上り光97は光軸上を進み波長選択フィルタ95を透過して光ファイバ87の端面に入射される。一方、下り光98は反射されてフォトダイオードパッケージ94に入射され、双方向の光通信が可能となる。
なお、波長選択フィルタ95は上り光97の波長の光を反射し、下り光98の波長の光を透過するものとして、上記の半導体レーザパッケージ91とフォトダイオードパッケージ94との配置を入れ替えた構成としてもよい。
本実施の形態5においても実施の形態4と同様に、出射光の光軸に対して斜めの端面を有する光ファイバ87が固定されたフェルールに偏光子85が固定されているので、同様に半導体レーザへの戻り光が低減される。これにより例えば光ファイバ87の途中で反射が増加する場合があってもその影響を受けにくいので信頼性の高い光通信が可能となる。
1 n側電極、2 p側電極、3 活性層、4 n-InP埋め込み層、5、5b 回折格子、6 回折格子領域、7 反射端面、8 p-InP基板、9 出射端面、10 電流閉じ込め層、10a p-InP層、10b n-InP層、10c p-InP層、11 窓領域、12 n-InGaAsPコンタクト層、13 n-InP上クラッド層、14 p-InP下クラッド層、15 高反射膜、16 低反射膜、17 レーザ光、20 断面、21 第1の半導体層、22 第2の半導体層、23 第3の半導体層、51 活性層の利得ピークの波長、52 利得のピーク、53 利得のピーク波長のα、54 発振波長、55 発振波長における利得、56 発振波長におけるα、58 離調(デチューニング)、62 RIN測定値、64 従来の半導体レーザのRIN測定値、81 半導体レーザ、82a、82b、82c レンズ、83 出射光、85 偏光子、87 光ファイバ、88 ケース、89 配線、90 フェルール、92 半導体レーザパッケージ、93 フォトダイオードパッケージ、94 端子、95 波長選択フィルタ、97 上り光、98 下り光