JP2007284383A - 尿細管上皮前駆細胞を含有する腎保護剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】尿細管上皮組織の再建ないし機能回復に有効な腎保護剤を提供すること。
【解決手段】 間葉系細胞の培養上清の存在下、尿中落下細胞を培養し、尿細管上皮前駆細胞を得る。得られた尿細管上皮前駆細胞を有効成分として腎保護剤を製造する。
【選択図】なし

Description

本発明は尿細管上皮前駆細胞を利用した腎保護剤に関する。
尿中落下細胞からの尿細管上皮細胞の培養に関しては、1972年にSutherlandとBainが初めて新生児の尿中落下細胞から尿細管上皮細胞の培養に成功したことを報告した(非特許文献1)。その後、Herzらは成人から(非特許文献2)、Sensらは嚢胞性線維症の乳児から(非特許文献3)、Detrisacらは糖尿病腎症から(非特許文献4)、Racusenらは急性尿細管壊死症例から(非特許文献5)、尿細管上皮細胞を分離培養することに成功している。このように過去にいくつかの報告があるが、ほとんどの場合において細胞の由来は不明である。その理由は、尿から分離増殖させた尿細管上皮細胞が培養時に死滅しやすいこと、及びそのために継代培養が困難で細胞の同定に至らなかったことにあると考えられる。
ところで、尿細管上皮細胞であることの指標としてドーム形成能が重要である。これまでの報告では、尿細管上皮細胞であるとして分離された細胞であってもそのドーム形成能は低く、概ね3〜4世代を越えるとドーム形成能が喪失してしまうものであった。即ち、継代培養の際に尿細管上皮細胞としての性状を長期に亘って維持できないものであった。
最近になって、尿細管S3セグメントから尿細管上皮細胞をマイクロダイセクション法で単離培養した例が北村らによって報告された(非特許文献6)。この報告では、得られた尿細管上皮細胞を虚血再灌流障害マウスに注入することによって、尿中障害マーカーNAGの発現量が有意に減少することが示された。
Nature 239:231 Proc. Soc. Exp. Biol.Med. 16:153-157 Pediatric Pathology 2:165-170 Clin. Invest. 71:170-173 Lab. Invest. 64:546-556 The FASEB Journal. 2005;19:1789-1797. Kidney International, Vol 65(2004), pp.1604-1614
本発明は、尿細管上皮組織の再建ないし機能回復に有効な腎保護剤を提供することを課題とする。
以上の課題に鑑み鋭意検討した結果、採取した尿中落下細胞をマウス間葉系細胞の培養上清の存在下で培養することによって、ドーム形成能を長期間に亘り維持することに加え、近位尿細管や遠位尿細管マーカーであるAQP-1、上皮細胞のマーカーであるZO-1、及び腎臓発生に必須の遺伝子Pax2及びPax8の発現が認められる尿細管上皮前駆細胞を得ることに成功した。また、初代培養細胞をフローサイトメトリーで解析したところ、サイド・ポピュレーション細胞(以下、「SP細胞」ともいう)が極めて高頻度(イヌの細胞(イヌ6頭)で平均0.01%、ヒトの細胞(6症例)で平均0.33%)で含まれていることが明らかになった。過去に腎組織からSP細胞を分離した例が報告されているが(非特許文献7)、その場合のSP細胞の割合は0.003%〜0.1%である。これと比較すれば、尿中落下細胞の中のSP細胞の量はかなり多いことが分かる。
次に、得られた尿細管上皮前駆細胞を虚血障害イヌモデルに局所注入し、生体への適用の可能性を検討した。その結果、細胞注入群では有意に腎機能障害の軽減が認められた。即ち、当該細胞が実際に生体で尿細管上皮組織の再建を促すことが示された。
以上の通り、尿中落下細胞から調製された尿細管上皮前駆細胞が腎障害の治療又は予防に有効であることが判明した。その後の実験によって、尿管切断端、尿道バルンカテーテル、及び腎盂に留置した尿管ステントのいずれから採取した場合であっても、尿中落下細胞由来のヒト尿細管上皮前駆細胞を調製できることが示された。また、腎血流再開直後に採取した尿中落下細胞、腎血流再開から10日目に採取した尿中落下細胞、さらには腎虚血のない正常な腎臓に由来する尿中落下細胞からも尿細管上皮前駆細胞を取得できることが示された。このように、虚血等の病的状態の腎に限らず、正常腎からも尿細管上皮前駆細胞を調製できることが示された。
本発明は主として以上の成果に基づくものであり、以下の構成からなる腎保護剤を提供する。
[1]間葉系細胞の培養上清の存在下、尿中落下細胞を培養するステップを経て調製された尿細管上皮前駆細胞を含有する腎保護剤。
[2]前記間葉系細胞がマウス線維芽細胞である、[1]に記載の腎保護剤。
[3]前記尿細管上皮前駆細胞が、前記ステップで得られた細胞の中からサイド・ポピュレーション画分を分離し、培養することによって得られた細胞である、[1]又は[2]に記載の腎保護剤。
[4]前記尿細管上皮前駆細胞が、以下の(a)及び(b)の性状を示すことを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の腎保護剤、
(a)ドーム形成能を安定して維持する、及び
(b)AQP-1遺伝子、Na+/HCO3-共輸送体(SLC4A4)遺伝子、K−カドヘリン遺伝子、Na+/HCO3-共輸送体(SLC4A7)遺伝子、カルジピンD28K遺伝子、Pax2遺伝子、Pax8遺伝子、及びZO-1遺伝子を発現する。
本発明は、尿細管上皮組織の再建ないし機能回復に有効な腎保護剤に関し、尿中落下細胞より調製された尿細管上皮前駆細胞を含有することを特徴とする。本発明の腎保護剤の作用・効果は、生体に投与された尿細管上皮前駆細胞自体(又はその後代)が尿細管上皮組織の構成細胞として機能し、或いは周囲の細胞へ好ましい作用を及ぼすことによって発揮されると予想される。
本発明において「尿細管上皮前駆細胞」とは、尿細管上皮細胞への分化を運命付けられた細胞であって、尿細管上皮細胞に特徴的な性状、即ちドーム形成能を発揮すること及び各種マーカー(尿細管マーカーAQP-1、上皮細胞マーカーZO-1、腎臓発生に必須のPax2、Pax8)陽性であることを示す。中でもドーム形成能は経上皮輸送の指標であり、尿細管上皮細胞であることを決定付ける重要な性状の一つである。ドーム形成能の有無は、細胞を増殖可能な条件下で培養した際、ドーム様の隆起が認められるか否かによって判断できる。一方、各種マーカーの検出は常法(免疫染色など)で行うことができる。
(尿中落下細胞)
尿中落下細胞とは、尿中に認められる腎由来の細胞である。尿中落下細胞は腎盂、尿管、膀胱、若しくは尿道より採取された尿、又は排泄された尿より採取することができる。尿の採取には例えばカテーテル、ステント、チューブ、注射器などの器具が利用される。
尿中落下細胞の採取源(ドナー)は、好ましくは本発明の腎保護剤を適用する対象と同一とする。このように自己由来の細胞を使用することにすれば免疫拒絶の問題を回避できる。尚、同種細胞(他家細胞)又は異種細胞の使用を妨げるものではない。
本発明で使用可能な尿中落下細胞はヒト細胞に限られない。即ち、ヒト、及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)の尿より分離した尿中落下細胞を使用可能である。
(培養ステップ)
採取した尿中落下細胞は、間葉系細胞の培養上清の存在下での培養に供される。この培養ステップを経ることによって、生体に投与された際に腎機能の回復を促す尿細管上皮前駆細胞を選択的に得ることが可能となる。
「間葉系細胞」とは、中胚葉に発生の起源をもつ細胞の総称であり、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、内皮細胞、筋肉細胞、心筋細胞、神経細胞などがその概念に含まれる。本発明ではこれらの細胞の前駆細胞ないし幹細胞も「間葉系細胞」に含まれることとする。
「間葉系細胞の培養上清の存在下で培養すること」とは、典型的には、間葉系細胞を培養して得られた培養上清を添加した培地内で培養することを意味する。但し、必ずしも培養当初から当該条件下で培養しなくてもよく、例えば適当な時期に間葉系細胞の培養上清を培地に添加することにしてもよい。また、間葉系細胞の培養上清を添加した培地を使用するのではなく、間葉系細胞と共培養することも、ここでの「間葉系細胞の培養上清の存在下で培養すること」に該当する。即ち、本発明の一態様では、尿中落下細胞を間葉系細胞培との共培養に供する。
間葉系細胞の動物種は特に限定されず、ヒトや非ヒト霊長類、マウス、ラットなどの間葉系細胞が用いられる。例えば、間葉系細胞は動物個体より常法で調製することが可能である。また、いくつかの間葉系細胞については市販されており、容易に入手可能である。例えばマウスについてはNIH 3T3マウス線維芽細胞、MC3T3-E1細胞、ATDC5細胞、C2C12細胞、C3H10T1/2細胞(以上、いずれもATCC(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)より入手可能である)などの細胞株が提供されている。
間葉系細胞の培養上清は、間葉系細胞を適当な培地(例えばMEM培地を基本とした培地)で所定時間(例えば1時間から10日)培養した後、細胞成分を除去することによって得ることができる。
好ましい間葉系細胞は線維芽細胞である。即ち、本発明の好ましい一態様では線維芽細胞の培養上清を使用する。具体的には例えばマウス線維芽細胞(上記のNIH 3T3マウス線維芽細胞など)の培養上清を使用する。
本発明で使用する培地は、基本培地に間葉系細胞の培養上清(但し、間葉系細胞との共培養を行う場合は必須でない)とその他の必要な成分を添加することによって調製することができる。基本培地は各種アミノ酸、糖質、脂質、核酸、無機塩、ビタミン、ミネラルなどの基本的な構成成分を含む培地であり、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(ナカライテスク株式会社、シグマ社、ギブコ社等)、ハムF12培地(Ham's F12)(SIGMA社、Gibco社等)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、グラスゴー基本培地(Gibco社社等)等が開発されている。本発明ではこのような基本培地のいずれか、又はこのような基本培地の二つ若しくは二つ以上を混合した培地(混合培地)を使用することできる。混合培地の一例として、DMEMとハムF12培地を等量混合した培地を挙げることができる。
間葉系細胞の培養上清の存在下で尿中落下細胞を培養して得られた細胞(初代培養細胞)をフローサイトメトリーで分析すると、非特異的幹細胞の性質を持つサイド・ポピュレーション細胞(SP細胞)が高頻度で存在していることが判明した。SP細胞とは、正常臓器において存在が認められている細胞画分(SP画分)の一つであり、一般的にその画分内に幹細胞が存在すると言われている(Goodell, M.A. et al.:Nat.Med., 3:1337-1345,1997、Goodell, M.A. et al.:J.Exp.Med., 183:1797-1806,1996)。当初、SP画分は血球系の幹細胞分離に用いられた。その後、他臓器でもその存在が証明された(Gussoni, E. et al.:Nature, 401:390-394,1999、Seale, P. et al.:Cell, 102:777-786,2000、Asakura, A. et al. :J. Cell Biol., 159:123-134,2002)。腎臓においてもSP細胞の存在が確認されている(Iwatani H. et al.:Kidney International, Vol.65(2004), pp.1604-1614)。尚、SP細胞はHoechst33342色素の排泄能力を有していることで特徴付けられる。
本発明の好ましい一態様では尿中落下細胞の中のSP画分を利用する。つまり、尿中落下細胞の中からSP画分を分離し、それを培養に供する。SP画分の分離はフローサイトメトリーを用いて行うことができる。SP細胞の分離操作は常法に従えばよい。簡単に言えば、細胞集団にHoechst33342色素を取り込ませた後、フローサイトメトリー解析を行い、メインポピュレーション(リニアな細胞集団)から横にずれて突出する、Hoechst33342弱陽性でレセルピン付加で消失する細胞集団を分離採取する。
(細胞の性状)
本発明の腎保護剤が含有する尿細管上皮前駆細胞は次の性状によって特徴付けられる。即ち、(a)ドーム形成能を安定して維持すること、及び(b)AQP-1遺伝子、Na+/HCO3-共輸送体(SLC4A4)遺伝子、K−カドヘリン遺伝子、Na+/HCO3-共輸送体(SLC4A7)遺伝子、カルジピンD28K遺伝子、Pax2遺伝子、Pax8遺伝子、及びZO-1遺伝子を発現することである。
本発明者らの検討によって、ドーム形成能を安定して維持することに加え、AQP-1やNa+/HCO3-共輸送体(SLC4A4)、K-カドヘリンなどの近位尿細管尿細管特異的遺伝子、Na+/HCO3-共輸送体(SLC4A7)などのヘンレイループ及び遠位尿細管特異的遺伝子、カルジピンD28Kなどの遠位尿細管特異的遺伝子、Pax2やPax8などの胎児発生期の腎臓で発現する遺伝子が発現し、さらには上皮細胞に特異的なZO-1が発現する尿細管上皮前駆細胞、即ち発生期の腎臓に存在する腎臓幹/前駆細胞のような未分化細胞や近位尿細管、ヘンレイループそして遠位尿細管へと続く腎ネフロンの尿細管株に分化した細胞が尿中落下細胞として存在することが示唆された。本発明の腎保護剤は、本発明者らが見出すことに成功した、以上の性状を備える尿細管上皮細胞を含有する。
ここでの「ドーム形成能を安定して維持すること」の評価は、継代培養後の細胞がドーム形成能を呈するか否かを調べることによって行うことができる。本発明者らが取得に成功した細胞では、6継代も安定してドーム形成能を維持していた。
(製剤化)
本発明の腎保護剤には、所望の治療効果が発揮されるように、一回投与分の量として例えば1×106個〜1×108個の尿細管上皮前駆細胞を含有させる。細胞の含有量は、レシピエント(被提供者)の性別や年齢、患部の状態、細胞の状態などによって適宜調整することができる。
本発明の腎保護剤には、尿細管上皮前駆細胞の他、細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等、細菌の混入を阻止する目的で抗生物質等、細胞の活性化や分化を促すことを目的としてビタミン類やサイトカイン等が適宜含有される。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を本発明の腎保護剤に含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
(適用疾患)
本発明の腎保護剤は腎機能障害の予防又は治療に有効である。従って通常は、腎機能障害の予防又は治療が必要な対象(レシピエント)に対して本発明の腎保護剤が投与されることになる。但し、その効果を確認・検証することなどの実験目的で本発明の腎保護剤を使用することもできる。
本発明の腎保護剤は尿細管の治癒・再建を促す。従って、尿細管損傷を伴う各種の病態(例えば急性腎不全、溶血性尿毒性症候群、急性尿細管壊死、間質性腎炎、急性乳頭壊死)、または最近は糸球体疾患も2次的に糸球体毛細血管のその下流である尿細管周囲毛細血管を介して尿細管上皮細胞が障害されることが知られていることより糸球体疾患(例えば糸球体腎炎、糖尿病性腎症、膠原病に伴う腎炎、)などの予防又は治療に対して使用され得る。
本発明の腎保護剤が投与される対象はヒト、又はヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)である。好ましくは、本発明の腎保護剤はヒトに対して使用される。
(投与方法)
本発明の腎保護剤は好ましくは患部への局所注入により投与される。但し、本発明の腎保護剤中の有効成分である尿細管上皮前駆細胞が患部に送達される限り、投与経路はこれに限られるものではない。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、対象(レシピエント)の性別、年齢、病態などを考慮することができる。
1.イヌ尿中落下細胞由来の尿細管上皮前駆細胞
(1)尿中落下細胞からの尿細管上皮前駆細胞の調製
麻酔ビーグル犬(平均10ヶ月、10kg)の虚血再灌流前の腎盂尿及び虚血(左腎虚血50分)再灌流後の腎盂尿をそれぞれ採取し(図1を参照)、その中に存在する尿中落下細胞を分離した。分離・培養操作は無菌的に行い、具体的な操作手順や使用する培地などはKitamuraらの報告(The FASEB Jounal, Vol.19 November 2005, pp.1789-1797)に準じた。無菌的に採取した尿を4℃、1100rpmの条件で5分間遠心分離し、上清を除去した後、10%FBS(Fetal Bovine Serum)を含有するDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)(Sigma)10mlで懸濁し、再度遠心分離、上清除去による細胞洗浄の操作を4回繰り返した。このようにして分離された細胞を、10%FBSを含有するDMEM/F12(Sigma)に最終濃度として5mg/mlインスリン、5mg/ml、トランスフェリン、2.5mg/mlのニコチンアミド(Sigma)、5ng/ml亜セレン酸ナトリウム(ITS-X、ギブコ社)、10-8Mのハイドロコルチゾン (Sigma)を添加した培地と、10%FBSを含有するDMEMでマウス間葉系細胞を約24時間培養した際の培養上清とを1:1で混合した培地10mlで混濁し、ゼラチンコーチングを行った細胞培養皿(BDFALCON)にて培養した。その結果、虚血前の腎盂尿から分離した尿中落下細胞の初代培養によって、ドーム形成能を有する細胞群を1×102個得ることに成功した(100%(3/3)の成功率)。虚血再灌流後60分の腎盂尿から分離した尿中落下細胞からは同様の細胞群を1×106個得ることができた(100%(8/8)の成功率)。これらの細胞群は、SP画分をシングル・セル・ソーティングすることにより平均で0.100%の頻度で得られ、増殖能力の高い細胞群であった。また免疫組織学的検討によりAQP-1、ZO-1が発現し、近位尿細管への分化を示唆した。また、Pax2及びPax8陽性であった。これらの結果より、得られた細胞は尿細管上皮前駆細胞であると判断した。
(2)調製した尿細管上皮前駆細胞の有用性
調製に成功した細胞の有用性を評価するために移植実験を行った。具体的にはまず、図1に示すように、採尿したビーグル犬を用いて単腎虚血再灌流イヌモデル(不可逆性腎障害モデル)を作製した。このイヌモデルは急性尿細管壊死を生じる手法として確立されている。上記手法で調製した、蛍光ラベルした尿細管上皮前駆細胞を対側腎に対して局所注入(片腎あたり0.5ml(5×106個の細胞))することでイヌ腎臓皮膜下へ自家移植した(細胞注入群)。コントロール群では同様に生理食塩水を局所注入した(コントロール群)。
細胞注入群とコントロール群の間で腎機能の変化を比較したところ、血中Crの評価では注入操作直後において両群の間に有意差は認められず(細胞注入群(N=7):0.78±0.11mg/dl vsコントロール群(N=5):0.74±0.10mg/dl, P=0.516)、しかし注入操作後1週間では細胞注入群の血中Crの値はコントロール群のそれに比して有意に低かった(細胞注入群(N=7):0.78±0.11mg/dl vsコントロール群(N=6):0.74±0.10mg/dl, P=0.0065)。
一方、細胞注入群について蛍光を観察したところ、注入操作4週後において、蛍光ラベルした尿細管上皮前駆細胞が腎臓被膜下に集塊を形成していること、及び皮髄境界にかけて散在性に存在していることが確認された(図2)。また、尿細管外ばかりでなく、一部に尿細管を形成する尿細管上皮前駆細胞を確認した(図3)。一方、細胞注入群の8週間後の右腎臓はマクロではまったく正常であった(図4)。細胞注入時にマーキングのために腎臓表面にかけていたバイクリルとその周囲の皮下出血はすっかり吸収され、正常腎臓と変わらないマクロの所見であった。尚、病理組織においても、再生に関与したと思われる軽度の細胞浸潤はあるが異常を認めなかった。細胞注入8周後では、蛍光でラベルした尿細管上皮前駆細胞を確認できなかったが、PAS陽性の細い束のようになった尿細管を皮髄境界に一部認め、再生を示唆する所見であった(図5)。一方、コントロール群は術後9日に急性腎不全で死亡し、その腎臓は萎縮し出血壊死を起こしていた。病理組織では凝固壊死と基底膜の消失があり急性尿細管壊死の状態であった(図4)。
一方、尿中落下細胞の由来(オリジン)を明らかにするために正常摘出腎を皮質と髄質に大きく分離し、蛋白融解剤で細胞レベルまで分解し、得られた細胞を上記の方法で培養したところ(N=1)、皮質髄質両方から尿細管上皮前駆細胞を培養可能であった。髄質からの方がより多くの細胞を培養できたことから、髄質由来の細胞の割合が多いものと思われる。尚、培養した細胞を正常腎に対して被膜下注入すると、2時間後には腎間質、尿細管及び尿細管内尿中に存在することが観察された。
以上のように、腎虚血再灌流前と直後に無菌的に採取した尿中落下細胞から尿細管上皮前駆細胞を培養することにそれぞれ成功した(成功率は100%(3/3)と100%(8/8))。また、得られた細胞を同イヌ不可逆性単腎症虚血再灌流障害モデルに局所注入すると、4週間後の時点において、被膜下から間質を経由して皮髄境界に移動する尿細管前駆細胞を認めた。また腎局所注入した尿細管上皮前駆細胞は腎機能障害を軽減せしめた。
2.ヒト尿中落下細胞由来の尿細管上皮前駆細胞
(1)尿中落下細胞からの尿細管上皮前駆細胞の調製
生体腎移植症例(血流再開後1時間尿)は尿管切断断端から、死体腎移植症例(術後10日目)は尿道バルンカテーテルから、腎部分切除症例(血流再開後1時間尿)は腎盂に留置した尿管ステントから、腹腔鏡下腎盂形成術症例(術後3日目)は腎盂に留置した尿管ステントからそれぞれ採尿し、尿中落下細胞を分離・培養した。その結果、いずれの場合も腎血流再開後60分の尿中落下細胞からドーム形成する尿細管上皮前駆細胞を培養することに成功した(図6を参照。生体腎移植症例:78.6%(11/14)、死体腎移植症例:25.0%(1/4)、腎部分切除症例:75.0%(3/4)、腹腔鏡下腎盂形成術症例:100%(1/1)、合計:69.6%(16/23))。尿細管上皮前駆細胞は、SP画分をシングル・セル・ソーティングすることにより0.33%以下の頻度で得られ、増殖能力の高い細胞群であった。また免疫組織学的検討によりAQP-1,、ZO-1が発現し、近位尿細管ばかりでなく遠位尿細管への分化を示唆した。
(2)尿中落下細胞の観察
腎拡大内視鏡を用いて表在の皮質尿細管を腎血流再開10分後で尿中落下細胞を観察し、尿中落下細胞の移動速度を評価した。その結果、腎拡大内視鏡を用いて表在の皮質尿細管を腎血流再開10分後で数十個の下流へオシレーション・パターン(ocillation pattern)で流れる尿中落下細胞を可視化し、その速度は56±22μm/秒であった(図7)。この細胞を含むと思われる腎盂尿の落下細胞から上記培養法で尿細管上皮前駆細胞が培養されたと思われる。
3.まとめ
ヒトやイヌの尿中落下細胞として尿細管前駆細胞が存在することを説明する明快なメカニズムはまだ提唱されていないが、尿細管上皮細胞のターン・オーバーとして尿細管上皮細胞が常に脱落再生していくことに尿中落下細胞が大きく関与していると考えられる。また、蛍光色素を利用した実験によって、尿中落下細胞から調製された尿細管上皮前駆細胞を正常腎臓に注入すると2時間で腎臓間質、尿細管腔内を経由して尿中に移動することが確認されたことから、尿細管上皮は特に適度な虚血が加わった場合、積極的に細胞を管腔側に脱落させ、その近傍の尿細管幹細胞から再生を始めるメカニズムを持っているのかもしれない。
腎血流再開直後、腎血流再開から10日目、更には腎虚血のない正常な腎臓からも本法で尿細管上皮前駆細胞を培養することに成功した。このように、虚血等の病的状態の腎からはもとより、正常腎からも本法で尿細管上皮前駆細胞を採取できることが示され、広い応用範囲を示唆した。
本発明の腎保護剤は、尿細管の損傷を伴う腎機能障害の予防又は治療薬として利用される。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
イヌ尿中落下細胞からの尿細管上皮前駆細胞の同定方法、及び右単腎虚血再灌流障害に対する細胞治療実験プロトコール。 イヌ尿細管上皮前駆細胞注入4週後の腎組織像。a)等倍、b)20倍(腎被膜下近傍)、c)20倍(腎皮髄境界近傍)。 イヌ尿細管上皮前駆細胞注入4週後の腎組織像。左上:等倍、右上:腎皮髄境界近傍の拡大(左上の組織像における真ん中の囲い部分に相当する)、左下:腎被膜下近傍の拡大(左上の組織像における左下の囲い部分に相当する)、右下:尿細管部分の拡大(左上の組織像における右上の囲い部分に相当する)。 尿細管上皮前駆細胞注入前後の右腎(マクロ観察)。 イヌ腎被膜下自己尿細管上皮前駆細胞局所注入8週後の組織像。 臨床例における、尿中落下細胞からの尿細管上皮前駆細胞の培養結果。 生体移植腎血流再開10分後に腎拡大内視鏡で観察された尿中落下細胞の様子。

Claims (4)

  1. 間葉系細胞の培養上清の存在下、尿中落下細胞を培養するステップを経て調製された尿細管上皮前駆細胞を含有する腎保護剤。
  2. 前記間葉系細胞がマウス線維芽細胞である、請求項1に記載の腎保護剤。
  3. 前記尿細管上皮前駆細胞が、前記ステップで得られた細胞の中からサイド・ポピュレーション画分を分離し、培養することによって得られた細胞である、請求項1又は2に記載の腎保護剤。
  4. 前記尿細管上皮前駆細胞が、以下の(a)及び(b)の性状を示すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の腎保護剤、
    (a)ドーム形成能を安定して維持する、及び
    (b)AQP-1遺伝子、Na+/HCO3-共輸送体(SLC4A4)遺伝子、K−カドヘリン遺伝子、Na+/HCO3-共輸送体(SLC4A7)遺伝子、カルジピンD28K遺伝子、Pax2遺伝子、Pax8遺伝子、及びZO-1遺伝子を発現する。
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