JP2007259960A - 非侵襲体内成分計測用腕支持台 - Google Patents

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充啓 鶴来
Katsuhiko Maruo
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Abstract

【課題】被検者の体動および装置の装着状態のばらつきによる測定誤差をより小さくすることを可能とする非侵襲体内成分計測用腕支持台を得る。
【解決手段】支持台1に対して肘関節103を位置決めする凹部1cと、被検者の前腕101を支持台1上に固定する腕固定手段2,3と、支持台1上に固定された被検者の腕100について手首位置Pが特定された場合に、基準位置としての手首位置Pからの距離が当該手首位置Pと肘関節位置Qとの間の長さに対して所定比率(25%〜45%)となる被検領域Aを提示する被検領域提示手段9と、を備える。
【選択図】図1

Description

本発明は、体内成分計測装置を用いて非侵襲で生体内成分の計測を行う場合に、被検者の腕を所定の姿勢で支持する非侵襲体内成分計測用腕支持台に関する。
従来、生体の表面に測定用の近赤外光を照射し、生体から受ける測定光の反射光を受光して、その反射光成分から生体信号を測定することによって、生体内の種々の情報を得る生体内成分計測装置が知られている(例えば、特許文献1、2)。
この装置は、近赤外光の吸収強度がグルコースの存在によって影響されることを利用したもので、受光された反射光の吸光度スペクトルを測定することにより光吸収強度を検知し、生体内のグルコース濃度を検出して血糖値を測定する。かかる装置によれば、採血等を行わずに非侵襲で血糖値を得ることができるため、測定者に大きな負担を与えずに済むという利点がある。特に、比較的長時間に亘って血糖値の経時変化を取得するような場合には極めて有効である。
特開昭60−236631号公報 特開平11− 70101号公報
しかしながら、かかる装置では、赤外光を受発光するプローブの皮膚との接触状態や接触圧力等によって、生体内で赤外光が透過する領域の厚み等が変化し、測定結果に誤差が生じる場合がある。
特に、比較的長時間に渡って継続的に血糖値の経時変化を取得するような場合には、こうした測定誤差の要因となる種々の外乱が想定される。例えば、ベッドに横たわる被検者が体位を変換する場合や、痰の吸引、オムツ替えを行う場合などは、被検者の体の少なくとも一部を動かすことで接触状態や接触圧力が変化しやすくなるし、人工呼吸器による周期的な体動や、覚醒、発作、不規則体動などの患者自らの動作によっても筋肉が動き、接触状態や接触圧力が変化して、測定結果に誤差が生じる場合がある。
また、被検者を移動させたり体の一部を動かしたりせざるを得ない場合には、装置を一時的に取り外して再度装着するような状況も起こりうるが、そのような場合には、装着状態を再現できなければ、取り外していた期間の前後で血糖値が変化したのか否かを把握できなくなる虞もある。
さらに、プローブを取り付ける者が変わるたびに装着状態が変化するような状況では、測定結果に対する信頼性が低くなってしまう。
そこで、本発明は、被検者の体動や装置の装着状態のばらつきによる測定誤差をより小さくすることを可能とする非侵襲体内成分計測用腕支持台を得ることを目的とする。
請求項1の発明にあっては、台座に対して被検者の肘関節を位置決めする位置決め部と、被検者の腕の肘関節と手首との間を台座上に固定する腕固定手段と、上記位置決め部によって台座に対して位置決めされるとともに上記腕固定手段によって台座上に固定された被検者の腕について手首位置が特定された場合に、手首位置および肘関節位置のうちいずれか一方として定められた基準位置からの距離が当該手首位置と肘関節位置との間の長さに対して所定比率となる被検領域を提示する被検領域提示手段と、を備えることを特徴とする。
請求項2の発明にあっては、上記所定比率は、手首位置を基準とした場合に、20%以上45%以下であることを特徴とする。
請求項3の発明にあっては、被検者の腕の肘関節と手首関節との間が、肘側を下、手首側を上とし、かつ水平載置姿勢に対して5°以上45°以下の角度を持つ傾斜姿勢で、台座上に載置されるように構成したことを特徴とする。
かかる計測におけるプローブ装着位置について発明者らが鋭意研究を重ねたところ、前腕中の手首位置および肘関節位置を基準として定まる一定領域において、被検者の体動による測定値の変動が小さくなることが判明した。
したがって、本発明にかかる非侵襲体内成分計測用腕支持台によれば、上記被検領域提示手段によって、台座に位置決め固定された腕に対して、その手首位置および肘関節位置を基準として定まる上記一定領域を被検領域として提示することができるので、被検者の体動による測定値の変動を小さくすることができる上、作業者による装着状態および装着位置のばらつきによる測定値の変動も小さくすることができる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態にかかる非侵襲体内成分計測用腕支持台の側面図、図2は、非侵襲体内成分計測用腕支持台の平面図、図3は、腕に装着したプローブの断面図、図4は、非侵襲体内成分計測装置を示す図であって、(a)は装置の概略構成図、(b)はプローブの装着面の平面図、(c)は出射体の端面の平面図、図5は、生体内(皮膚組織)における近赤外光の入射と反射を示す説明図である。
まずは、図1および図2を参照して、本実施形態にかかる非侵襲体内成分計測用腕支持台(以下、単に支持台と記す)1について説明する。
図1に示すように、支持台1は、例えば樹脂素材を適宜形状に成形してなるものであり、細長くかつその長手方向に所定の傾斜角度θで緩やかに傾斜する傾斜面1aと、当該傾斜面1aより短く逆方向に傾斜する傾斜面1bと、を有している。この支持台1では、被検者の腕100の前腕101を傾斜面1a上に載せ、傾斜面1a,1bの境界に形成される側面視略V字状の凹部1cに肘関節103を当てた状態が、測定時の腕100(前腕101)の姿勢(測定姿勢)として規定されている。すなわち、本実施形態では、凹部1cが位置決め部に相当する。なお、1dは支持台1の掌を載置可能な上端面であり、この上端面1dを設けることで、前腕101の筋肉の動きを抑えることができる。
また、図2に示すように、傾斜面1aの短手方向両端部には、それぞれ、長手方向に沿って延設される一対の略平行な溝1f,1fが形成されており、各溝1fには、腕固定手段2,3の各ベース部2a,3aから突出する略矩形柱状の挿入部2b,3bが、一つずつ嵌挿されている。溝1fの断面形状は一定となっており、挿入部2b,3bを溝1fの長手方向の任意位置に嵌挿できるようにしてある。したがって、被検者の前腕101の長さに合わせて手首近傍の位置と肘部近傍の位置に腕固定手段2,3を設置することができる。
そして、対応するベース部2a,2a同士およびベース部3a,3a同士を、いずれも傾斜面1aの短手方向に整列して装着するとともに、これらベース部2a,2a間、ならびにベース部3a,3a間に、それぞれ帯状の固定ベルト2c,3cを架設して、これら固定ベルト2c,3cによって被検者の腕100の前腕101を支持台1上で抱持するようにしている。固定ベルト2c,3cは、樹脂や、ゴム、布等の可撓性かつ好適には伸縮性を有する素材であり、特に手首側の固定ベルト2cについては、手首近傍の皺(手根骨と橈骨との間の皮膚表面上にできる皺等)105や突起(橈骨茎状突起、尺骨茎状突起等)106の位置が視認しやすくなるよう、窓や透明部を設けるか、あるいは全体として透明素材を用いるのが好適である。さらに、面ファスナを備えるなどして、巻回長や束縛力を適宜に調整できるようにしてもよい。
また、凹部1cの幅方向両側には突壁部1e,1eを設け、傾斜面1b側の突壁部1e,1e間には上記固定ベルト2c,3cと同様の固定ベルト4を架設して、この固定ベルト4によって被検者の上腕102を抱持できるようにしてある。なお、突壁部1e,1eは、肘関節103を位置決めする位置決め手段としても機能することになる。
そして、本実施形態では、図2に示すように、腕固定手段2のベース部2a,2a、腕固定手段3のベース部3a,3a、および突壁部1e,1eを、いずれも、腕100が横方向(傾斜面1a,1bの幅方向)に動くのを規制する動作規制手段としても機能させている。このとき、ベース部2a,3aは、支持台1に対して着脱可能であるため、幅の異なるものを複数準備しておき、被検者の腕100の太さにあわせて適宜に取り替えて、ベース部2a,2a間あるいはベース部3a,3a間の間隙の広さを調整してもよい。なお、傾斜面1aを平坦面とせず、前腕101の外形に倣って長手方向に伸びる浅い溝状に形成してもよい。
ここで、伏臥状態にある被検者の体位を変換させる場合などにおいては、肘関節103が支点となって腕100が動くケースが多い。このため、本実施形態のように、前腕101の両端部を腕固定手段2,3によって固定する、すなわち、肘関節103の手首側を腕固定手段3によって固定するとともに、手首近傍を腕固定手段2によって固定するのが、効果的となる。さらに、本実施形態のように、突壁部1eおよび固定ベルト4によって肘関節103の上腕側を固定すれば、より一層効果的である。
また、腕100の筋肉の動きには、肘関節103や手首の関節の動き、特に、それら関節における回転運動や屈伸運動が大きく影響を及ぼす。このため、本実施形態のように、ベース部2a,2aおよびベース部3a,3aによって腕100を緩やかに挟持することにより、当該腕100の横方向の動きを規制するともに、固定ベルト2c,3c,4によって、腕100を抱持するのが効果的である。
ところで、本実施形態では、図2に示すように、プローブ10(図3参照)を設置するのに好適な被検領域Aを、前腕101の中央部より手首側の領域としている。この被検領域Aについての考察は後述するが、発明者らの研究から、この被検領域Aの位置および長さは、前腕101の長さに比例して変化するものであり、長さ等が異なる腕100に対しても、その腕100内の共通の場所(例えば手首位置P)を基準位置とした場合には、当該基準位置からの長手方向に沿う距離が前腕101の長さ(すなわち手首位置Pと肘関節位置Qとの間の距離)に対して所定比率となる領域として特定することができるという知見を得た。
そこで、本実施形態では、支持台1に被検領域提示手段9を設け、支持台1に位置決めされかつ固定された被検者の腕100に対して、当該腕100の長さに応じた適切な被検領域Aを提示するようにしている。
具体的には、支持台1に、腕100(前腕101)と略平行に延設されるレール5と、このレール5に進退可能に支持されるスライダ6とを設け、さらに、一端7bが支持台1の肘関節位置Q近傍に固定されるとともに、他端7cがスライダ6に固定される伸縮体7(例えば帯状のゴムやコイルスプリング等)を備え、スライダ6をレール5に沿って動かしたときに、当該スライダ6の位置に応じて伸縮体7が伸縮するようにしている。
そして、伸縮体7に、一定の伸張状態における他端7c(手首側の端部)からの距離が当該伸張状態での伸縮体7の両端7b,7c間の長さに対して所定比率(本実施形態では25〜45%)となる領域を示す指標(提示要素)7aを設定している。この指標7aは、例えば、他の領域と区別できる色や、記号、文字、模様、形状(幅広部、幅狭部、凹凸)等として施すことができる。なお、ここでの伸張状態とは、伸縮体7に座屈や湾曲が無く、真っ直ぐに伸張した状態を意味している。
かかる伸縮体7は弾性的に伸縮するため、その両端7b,7c間の長さが変化すると、その伸びに応じて指標7aの位置および領域も同じ比率で変化するから、指標7aによって示される領域は、伸縮体7の長さによらず、常に、他端7cからの距離が両端7b,7c間の長さに対して所定比率(すなわち、本実施形態では25〜45%)となる領域を示すことになる。
ここで、本実施形態では、伸縮体7の一端7bを支持台1の肘関節位置Qに合わせて固定してある。したがって、スライダ6をレール5に沿って動かして、他端7cを、支持台1に位置決めされかつ固定された腕100(前腕101)の手首位置Pに位置合わせすれば、伸縮体7が前腕101の肘関節位置Qと手首位置Pに対応して伸びることになるから、当該伸縮体7に施された指標7aが、手首位置Pを基準位置として、当該手首位置Pからの距離が、手首位置Pと肘関節位置Qとの間の長さに対して所定比率(25%〜45%)の範囲となる領域、すなわち、被検領域Aを示すことになる。すなわち、本実施形態では、上述した伸縮体7の性質を利用して、腕100(前腕101)の長さが異なるあらゆるケースに対し、手首位置Pに伸縮体7の他端7cを位置合わせするという操作を行うのみで、常に、手首位置Pおよび肘関節位置Qに対応した被検領域Aが提示されるようになるのである。なお、被検領域Aは、図2に示すように、前腕101において指標7aに対して傾斜面1aの幅方向に隣接する領域となるが、このとき、固定ベルト2c,3cを当該傾斜面1aの幅方向と略垂直な方向に架設しておけば、指標7aの両端を固定ベルト2c,3cの端縁と平行に目視で延長することができ、より容易にかつより精度良く被検領域Aを認識できるようになる。
このとき、スライダ6には爪部6aを設ける一方、支持台1側にはレール5に沿って伸びるラッチ8を設け、爪部6aをラッチ8に係止することで、他端7cが手首位置Pに位置合わせされた状態でスライダ6を係止できるようにするのが好適である。こうすれば、伸縮体7の他端7cが手首位置Pに位置決めされた状態を極めて容易に維持することができて、作業者(測定実施者)の手間を省くことができる上、提示された被検領域Aを視認しながらプローブ10の装着作業を容易に行うことができる分、測定精度をより確実に高めることができる。
なお、被検領域提示手段9に関連する部品、すなわち、レール5や、スライダ6、伸縮体7、ラッチ8等は、いずれも、支持台1の側壁面上に設け、腕100の邪魔にならないようにするのが好適である。
次に、図3〜図5を参照して、上記支持台1が適用される非侵襲体内成分計測装置20(以下、単に計測装置20と記す)の概要について説明する。
図3に示すように、プローブ10は、前腕101(被検領域A)の表面に所定の圧力で押圧接触した状態で、固定治具13およびテープ14を用いて装着固定される。
また、図4の(a)に示すように、計測装置20は、ハロゲンランプ等の光源21から出た近赤外光を、熱遮蔽板22、ピンホール23、光学レンズ24を介して光入射体25の一端に入射させ、さらに、当該光入射体25からその他端に接続されている光ファイバケーブル26,26に入射させる。光ファイバケーブル26,26のうち一方は生体に押圧接触される測定用のプローブ10に接続され、他方はリファレンスプローブ10Rに接続されている。
プローブ10から腕100内に出射された近赤外光は、生体内で反射されて、その反射光が再びプローブ10に取り込まれ、光ファイバケーブル27を経て出射体28に入射され、さらに、シャッタ29、レンズ30、反射鏡31、および回折格子32を経て受光素子33に入射される。この受光素子33で検出されて電気信号に変換された光信号は、A/D変換器34でA/D変換されて、パーソナルコンピュータ等の演算装置35に入力される。演算装置35では、光信号中の生体信号であるスペクトルを解析して生体内成分が算出される。
また、この計測装置20は、環境やその他の外乱による影響を排除すべく、セラミック板等の基準部材Sで反射された近赤外光を参照光として検出して、測定光と同様のスペクトル解析を行うことで、測定誤差を補正するようにしている。
すなわち、リファレンスプローブ10Rから出射され、基準部材Sで反射された反射光は、再びリファレンスプローブ10Rに取り込まれ、光ファイバケーブル27を経て出射体28Rに入射され、さらに、シャッタ29、レンズ30、反射鏡31、および回折格子32を経て受光素子33に入射される。シャッタ29は、プローブ10を経由した測定光およびリファレンスプローブ10Rを経由した参照光のうちいずれか一方のみを選択的に透過させるようになっている。演算装置35は、参照光に対する演算処理結果に基づいて、測定光に対する演算処理結果を補正することで、測定精度を高めるようにしている。
図4の(b)に示すように、プローブ10およびリファレンスプローブ10Rの端面の略中央部には、いずれも受光ファイバ12rが配置されており、当該受光ファイバ12rから所定の距離Lだけ離間した円周に沿って複数の発光ファイバ12eが配置されている。また、図4の(c)は、出射体28,28Rの端面を示しており、その略中央部に、受光ファイバ12rの他端部に相当する発光ファイバ12oが設けられている。
ここで、人間を含む生物の皮膚組織は、通常、図5に示すように、角質層を含む皮膚層110(厚み:0.2〜0.4[mm])、真皮層111(厚み:0.5〜2[mm])、皮下組織層112(厚み:1〜3[mm])の三層から構成されている。真皮層111中には毛細血管が発達しており、血中の生体成分に応じた物質移動が速やかに生じる。特に、血中グルコース濃度(血糖値)に対して、真皮層111中のグルコース濃度は追従して変化すると考えられている。これに対して、皮下組織層112は脂肪組織が中心であり、グルコース等の水溶性の生体成分は、皮下組織層112中には均一な状態では存在しにくい。したがって、血中グルコース濃度(血糖値)をより精度良く測定するには、近赤外光Bを主として真皮層111で反射させ、当該真皮層111の近赤外光スペクトルを選択的に測定するのが好適であり、そのために、プローブ10における発光ファイバ12eと受光ファイバ12rとの距離L(図4(b)参照)を2mm以下としてある。
次に、図6を参照して、腕100に対して上記プローブ10を装着するのに好適な被検領域Aについて説明する。図6は、被検者の体位変換前後におけるプローブの接触圧力の変化量を前腕の各位置について計測した結果を示すグラフ(b)を前腕(a)と対応させて示したものである。なお、図中Xは、腕100(前腕101)の長手方向略中央部の計測線Cに沿った各点における手首位置Pからの距離を、手首位置Pと肘関節位置Qとの間の距離で除したパラメータである。
発明者らが詳細な実験を行って確認したところ、図6の(b)に示すように、基準位置としての手首位置Pからの距離が、手首位置Pと肘関節位置Qとの間の長さ(前腕101の長さ)に対して25%〜45%となる領域については、体位変換前後におけるプローブ10の接触圧力の変化が、他の領域に比べて小さくなることが判明した。
かかる特性は、Xが45%以下の領域、すなわち前腕101の略中央部より手首側の領域は、腱が多く、体位変換に伴う筋肉(筋)の動きによる影響が小さい領域であることと、ただし、手首位置Pに近付き過ぎた場合は(Xが25%未満の領域)、掌の微小な動きが手首関節を動かすことによる皮膚表面の皺等が原因で、接触圧力の変動が大きくなることに、起因するものと考えられる。
以上のように、発明者らは、好適な被検領域Aは、前腕101の略中央部より手首側の領域であって、さらに前腕の中央部と手首位置との中間位置よりも上腕側の領域、より詳しくは、基準位置としての手首位置Pからの距離が当該手首位置Pと肘関節位置Qとの間の長さに対して25%以上45%以下の領域であるという知見を得たのである。なお、ここでは示さないが、こうした特性は、被検者によらずほぼ同一の特性を示しており、また、前腕101の長さによって正規化しているため、あらゆる長さの腕100について適用することができる。
次に、図7〜図11を参照して、上記支持台1を使用して血糖値測定を行った実験結果について説明する。図7は、実験結果の一例を示す表、図8〜図13は、測定条件が異なる各被検者についての血糖値の経時変化を示すグラフである。
図7に示すように、実験は、9歳から77歳までの男女複数の被検者に対し、種々の条件において、約3時間(180分)程度の比較的長時間に亘って行ったものである。この測定では、接触面積がφ18[mm]のプローブ10を用い、図3に示すようにして、固定治具13およびテープ14を用いて、前腕101の被検領域Aに安定的に装着した。
また、血糖値測定は5分間隔で行い、同時に参照用に採血も行って、採血による血糖値(採血値)と、測定による血糖値(推定値)との比較を行った。その際、適宜に、糖負荷を与えたり、枕の出し入れによる体位変換操作を行ったりして、それらによる影響を観察した。このとき、枕は背中側に挿入し、被検者の体がプローブ10および支持台1側に約20°程度傾くようにした。この姿勢変化によって、プローブ10を装着している前腕101側の肘関節103に体重がかかって当該前腕101の筋肉が動きやすくなる状態を得て、その動きによる影響がより顕著に現れるようにした。
なお、比較例1〜6は、いずれも、プローブ10を被検領域Aからはずれた位置に装着した場合の測定結果であり、そのうち、さらに、比較例1,2,4,6は、支持台1の傾斜面1aの傾斜角度(図1中のθ)が小さい場合(0°:略水平)かあるいは大きい場合(60°)についての測定結果である。
以上の実験により、以下の知見が得られた。
1.支持台1およびプローブ10の取り付けに関し、本実施形態にかかる上記支持台1を用いることで、作業者(測定実施者)は、容易に、また全被検者に対して極めて円滑にセッティングし、かつ測定を行うことができた。
2.図8および図9に示すように、プローブ10を被検領域A内に装着した場合には(実施例1および13)、前腕101の長さによらず、例えば前腕101が成人に比べて短い9歳の子供に対しても、採血値と推定値とは良好に一致しており、測定誤差を許容範囲内に収めることができた。ただし、上記Xが40〜45%の範囲、すなわち、プローブ10の装着位置が筋肉の多い領域に近付くと、傾斜面1aの傾斜角度θが5°または45°の場合に、推定値のずれが大きくなる傾向があった。また、実施例10(図10)では、一回目の体位変換(枕挿入)によってわずかに誤差が大きくなるものの、その後の枕抜きでは全く影響が生じず、全体としては20%以内の測定誤差に収めることができた。したがって、プローブ10の設置は、可能な限り被検領域Aの中央部とするのが望ましいが、当該中央部への設置が難しい場合には、傾斜面1aの傾斜角度θを20°前後としておくことで対処が可能であることが判明した。
3.一方、比較例3(図13)のように、傾斜面1aの傾斜角度は適切であるが、プローブ10を肘関節103側に寄せて設置した場合は、プローブ10が筋肉の多い領域に対応することになる分、体位変換による影響が大きく、体位変換において枕を挿入したり抜いたりする度に、推定値(測定値)の大きな変動が生じることが判明した。また、比較例5(図12)は、プローブ10を手首位置Pに設置した場合を示すが、かかる場合には、精度の良い測定を行うことができなかった。これは、手首の皺の影響でプローブ10と皮膚との接触状態が不安定であることや、比較的汗をかきやすい部位であることが原因と推定される。さらに、比較例2(図11),4,6の場合のように、傾斜面1aの傾斜角度θを60°と大きくすると、支持台1が不安定で、測定中に倒れるという不具合が生じた。
以上の本実施形態によれば、支持台1が、支持台1に対して被検者の肘関節103を位置決めする位置決め部としての凹部1cと、前腕101を支持台1上に固定する腕固定手段2,3と、凹部1cによって位置決めされるとともに腕固定手段2,3によって固定された腕100について手首位置Pが特定された場合に、基準位置としての手首位置Pからの距離が当該手首位置Pと肘関節位置Qとの間の長さに対して所定比率となる被検領域Aを提示する被検領域提示手段9と、を備えるため、手首位置Pおよび肘関節位置Qを基準として定まる好適なプローブ10の装着領域である被検領域Aを提示することができるので、作業者がプローブ10の好適な装着位置を容易に認識できるようになって、作業者による装着状態および装着位置のばらつきによる測定値の変動を小さくすることができる。
特に、医療現場では、より迅速かつより的確な測定が要求される場合があり、容易にかつ精度の良い測定を可能とする本実施形態にかかる支持台1は有効である。また、医師や看護婦など、複数の作業者(測定実施者)が対応するケースが考えられ、作業者による装着位置や装着状態のばらつきを抑えることができる点でも極めて有効となる。
また、本実施形態によれば、被検領域提示手段9は、被検者の前腕101に沿って、弾性的に伸縮可能な伸縮体7を有し、当該伸縮体7の一端7bは肘関節位置Qに対応する位置決め部としての凹部1c近傍に固定されるとともに、当該伸縮体7には、伸張状態において基準位置としての手首位置Pに対応する他端7cからの距離がその両端7b,7c間の長さに対して上記所定比率となる領域を示す指標7aが施され、伸縮体7が被検者の前腕101に沿って延伸されるとともに他端7cが当該被検者の手首位置Pに位置合わせされたときに、当該指標7aによって被検領域Aが提示されるようにしたため、上記伸縮体7の性質を利用した比較的簡素な構成によって、腕100(前腕101)の長さが異なるあらゆるケースに対し、手首位置Pに伸縮体7の他端7cを位置合わせするという操作を行うのみで、常に、手首位置Pおよび肘関節位置Qに対応した被検領域Aを提示することができる。また、被検領域提示手段9を比較的簡素な構成として具現化することができる分、支持台1の小型化および軽量化にも資することになる。
また、本実施形態によれば、支持台1上に固定された被検者の腕100に沿って延伸するレール5と、当該レール5に進退可能に支持されるスライダ6と、を備え、伸縮体7の他端7cをスライダ6に固定したため、伸縮体7を、被検者の腕100に沿ってより確実に沿わせることができて、手首位置Pの特定精度、ひいては被検領域Aの提示精度を向上することができる。また、スライダ6をレール5に沿って動かすという単純な操作で伸縮体7を伸縮させることができる分、測定前のセッティングをより円滑に行うことができる。
しかも、鋸歯列としてのラッチ8とスライダ6に設けた爪部6aとによって、スライダ6を所定領域内の任意の位置で支持台1に係止することができるようにしたため、伸縮体7の他端7cが手首位置Pに位置合わせされた状態を容易に維持して、伸縮体7の指標7aを視認しながら、当該指標7aに対応する被検領域Aにより容易にかつより精度良くプローブ10を装着することができる。
また、本実施形態では、手首位置Pを基準とした場合の所定比率は、20%以上45%以下とするのが好適である。すなわち、この比率が45%を超えた肘関節103側の領域では、筋肉が多くなる分、体位変換によるプローブ10の接触圧力の変化が大きくなるし、20%を下回る手首側の領域では、手首の関節に近付く分、皮膚の動きが多くなって、プローブ10の接触状態が変化しやすくなるのに対し、20%以上45%以下の領域では、腱が多く、体位変換による影響を受けにくくなるからである。なお、特に、前腕101の外側部よりも内側部の方が皮膚の状態が安定しており、また、体毛の影響を受けにくくなることから、プローブ10の装着位置としては好適である。そして、この場合には、プローブ10との相互干渉を避けるべく、上記被検領域検出手段9は、支持台1の前腕101の外側部側となる側壁に設けるのが好適である。
また、本実施形態では、被検者の腕100の肘関節103と手首関節との間が、肘関節103側を下、手首側を上とし、かつ水平載置姿勢に対して5°以上45°以下の角度を持つ傾斜姿勢で、支持台1上に載置されるように構成するのが好適である。すなわち、傾斜面1aの傾斜角度θが5°を下回ってより水平姿勢に近付くと、肘関節につながる筋肉が伸びた状態になって、特に長時間の計測時においては、被検者に苦痛を強いることになる。また、筋肉が伸びたままの状態では、体位変換時に体が傾斜した際に伸びた筋肉が弛むような場合もあって、この点からも好ましくない。逆に、傾斜面1aの傾斜角度θが45°を超える急傾斜となると、支持台1自体の安定性が低くなり、これを解消するには、支持台1を固定する手段を設けたり、支持台1の底面を広くとったりして、装置構成が大がかりとなって重量増を招くことにもなる。また、支持台1の高さが高くなって、他の医療行為等の障害となる虞もある。この点、5°以上45°以下の適宜な傾斜を持たせることで、筋肉を多少緊張した状態に保持して、弛みによる接触圧力の変化を抑制することができるとともに、必要以上に傾斜角度が大きくなって、支持台1自体が邪魔になったり大型化したりするのを抑制することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。
例えば、上記基準位置を、肘関節位置としてもよい。その場合も、前腕に対する被検領域の場所は全く同じであるが、基準位置が逆側の端部となる関係で、所定比率は55%以上75%以下となる。
また、被検領域提示手段は、電気的な処理を介して被検領域を提示するものとして構成してもよい。例えば、何らかの形で手首位置が特定された場合に、コンピュータ等の演算処理装置で、入力された手首位置情報に対応する被検領域の位置を演算し、支持台の傾斜面の傍らには、長手方向に沿ってLEDや液晶パネル等からなる表示部を設置しておき、当該表示部において、被検領域を表示するようにしてもよい。また、手首位置の特定に関しては、支持台の傾斜面の傍らに長手方向に沿って多数のソケットを配列しておき、手首位置に対応するソケットに端子を差し込むことで当該端子が差し込まれた位置として特定できるようにしてもよいし、長さを測定する定規を設けておき、その計測値を演算処理装置に入力するようにしてもよいし、傾斜面に圧力センサ等を設けて、面圧によって前腕の位置や長さを取得してもよい。また、上記実施形態の伸縮体の長さやスライダの位置を検出するセンサを設けることで、手首位置を特定できるようにしてもよい。
また、支持台を、空気を封入して膨らませたビニールやウレタンのスポンジ等、軟質素材を用いて構成してもよい。こうすれば、軽量化が図れて移動させやすくなるという利点がある。
本発明の実施形態にかかる非侵襲体内成分計測用腕支持台の側面図。 本発明の実施形態にかかる非侵襲体内成分計測用腕支持台の平面図。 腕に装着したプローブを示す断面図。 非侵襲体内成分計測装置を示す図であって、(a)は装置の概略構成図、(b)はプローブの装着面の平面図、(c)は出射体の端面の平面図。 生体内(皮膚組織)における近赤外光の入射と反射を示す説明図。 被検者の体位変換前後におけるプローブの接触圧力の変化量を前腕の各位置について計測した結果を示すグラフ(b)を前腕(a)と対応させて示す図。 本発明の実施形態にかかる非侵襲体内成分計測用腕支持台を用いた血糖値測定の実験結果の一例を示す表。 図7中の実施例1について血糖値の採血による測定値(採血値)および非侵襲体内成分計測装置による測定値(推定値)の経時変化を示すグラフ。 図7中の実施例13について血糖値の採血による測定値(採血値)および非侵襲体内成分計測装置による測定値(推定値)の経時変化を示すグラフ。 図7中の実施例10について血糖値の採血による測定値(採血値)および非侵襲体内成分計測装置による測定値(推定値)の経時変化を示すグラフ。 図7中の比較例2について血糖値の採血による測定値(採血値)および非侵襲体内成分計測装置による測定値(推定値)の経時変化を示すグラフ。 図7中の比較例5について血糖値の採血による測定値(採血値)および非侵襲体内成分計測装置による測定値(推定値)の経時変化を示すグラフ。 図7中の比較例3について血糖値の採血による測定値(採血値)および非侵襲体内成分計測装置による測定値(推定値)の経時変化を示すグラフ。
符号の説明
1 非侵襲体内成分計測用腕支持台(台座)
1c 凹部(位置決め部)
2,3 腕固定手段
5 レール
6 スライダ
7 伸縮体
7a 指標
7b 一端
7c 他端
9 被検領域提示手段
20 非侵襲体内成分計測装置
100 腕
101 前腕
A 被検領域
P 手首位置
Q 肘関節位置

Claims (3)

  1. 台座に対して被検者の肘関節を位置決めする位置決め部と、
    被検者の腕の肘関節と手首との間を台座上に固定する腕固定手段と、
    前記位置決め部によって台座に対して位置決めされるとともに前記腕固定手段によって台座上に固定された被検者の腕について手首位置が特定された場合に、手首位置および肘関節位置のうちいずれか一方として定められた基準位置からの距離が当該手首位置と肘関節位置との間の長さに対して所定比率となる被検領域を提示する被検領域提示手段と、
    を備えることを特徴とする非侵襲体内成分計測用腕支持台。
  2. 前記所定比率は、手首位置を基準とした場合に、20%以上45%以下であることを特徴とする請求項1に記載の非侵襲体内成分計測用腕支持台。
  3. 被検者の腕の肘関節と手首関節との間が、肘側を下、手首側を上とし、かつ水平載置姿勢に対して5°以上45°以下の角度を持つ傾斜姿勢で、台座上に載置されるように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の非侵襲体内成分計測用腕支持台。

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