以下では図面等を参照して本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態を示す概略構成図である。
吸気コレクタ21を含むエンジン1の吸気通路2には、上流からエアフローメータ61と、吸気スロットル装置51と、燃料インジェクタ52とが設けられている。吸気スロットル装置51は、吸気スロットル51aとスロットルモータ51bとからなる。運転者がアクセルペダル35を踏み込むと、コントローラ7は、アクセルポジションセンサ67の信号に基づいて目標トルクを定め、この目標トルクを実現するための目標空気量を定め、この目標空気量が得られるようにスロットルモータ51bを介して吸気スロットル51aの開度を制御する。また例えばASCD(Auto Speed Control Device)による定速走行のためのトルク要求信号や、自動変速機の変速ショックを緩和するための回転同期制御のためのトルク要求信号があると、コントローラ7は、この目標トルクを実現するための目標空気量を定め、この目標空気量が得られるようにスロットルモータ51bを介して吸気スロットル51aの開度を制御する。吸気スロットル装置51は、アクセルペダル35と機械的に接続されておらず、スロットルモータ51bが吸気スロットル51aを駆動する。このため、吸気スロットル実開度が吸気スロットル目標開度と一致するまでに応答遅れがある。
排気通路3には、マニホールド触媒31と、床下触媒32とが設けられている。マニホールド触媒31及び床下触媒32は排気の空燃比が理論空燃比を中心とした狭い範囲にあるとき、排気に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を同時に除去できる三元触媒である。このため、コントローラ7では運転条件に応じて燃料インジェクタ52からの基本噴射量を定めるとともに、マニホールド触媒31の上流に設けたO2センサ64の信号に基づいて空燃比をフィードバック制御する。
またエンジン1は、吸気バルブ15のリフト量及び作動角を連続的に可変制御する多節リンク状の機構で構成される可変バルブ機構(variable valve event and lift control system;以下「VEL機構」と略す)41と、クランクシャフト14と吸気バルブ用カムシャフト41aとの回転位相差を連続的に可変制御して、吸気バルブ15のバルブタイミングを進遅角する可変バルブタイミング機構(valve timing control;以下「VTC機構」と略す)42とを備える。これらの具体的な構成は特開2003−314347号公報により公知であるのでその詳しい説明は省略する。
吸気スロットル51aにより調量される空気は、吸気コレクタ21に蓄えられた後、吸気マニホールド22を介して各気筒のシリンダ11に導入される。燃料は各気筒の吸気ポート23に配置された燃料インジェクタ52より、所定のタイミングで吸気ポート23に間欠的に噴射供給される。ここで、燃料インジェクタ52に与える燃料噴射量は、コントローラ7がエアフローメータ61(空気流量検出手段)により検出される吸入空気流量と、クランク角センサ(33、34)からの信号に基づいて演算されるエンジン回転速度とに応じて算出している。
噴射された燃料は吸気と混合して混合気を作り、この混合気は吸気バルブ15を閉じることでシリンダ11に閉じこめられ、ピストン13の上昇によって圧縮され、点火プラグ17により着火されて燃焼する。この燃焼によるガス圧がピストン13を押し下げる仕事を行い、このピストン13の往復運動はクランクシャフト14の回転運動へと変換される。燃焼後のガス(排気)は排気バルブ16が開いたとき排気通路3へと排出される。
図2は、本発明の基本コンセプトを説明する図である。
続いてこの図2を参照して、内燃エンジン1の加速時における、この発明による燃料噴射制御の基本コンセプトを説明する。
図2(A)に示すように、時刻t1でドライバがアクセルペダル35を踏み込んで、アクセルペダル踏込量APOが第1踏込量APO1から第2踏込量APO2へと増加を開始する。前述のように、スロットル開度TVOの変化は、アクセルペダル踏込量APOの変化に対して遅れる。ここでは、スロットル開度TVOは時刻t4になって増加を開始する。
このように内燃エンジン1の加速時や減速時には、図2(A)に示すように、アクセルペダル踏込量APOの立ち上がりに対して、吸気スロットル51aの応答遅れの分だけ吸気スロットル開度TVOの立ち上がりが遅れる。したがって吸気スロットル開度TVOの波形は、アクセルペダル踏込量APOの波形を右方向に平行移動したものに等しい。ただし吸気スロットル51aは、アクセルペダル35の踏み込みに対して一次遅れ又は数次遅れとなるので、図2(A)に示すような波形になる。
そしてシリンダ11の吸入空気量の変化は、スロットル開度TVOの変化に対してさらに遅れる。すなわち吸気スロットル51aを通過した吸気は、コレクタ21に一旦蓄えられた後に、シリンダ11に吸入される。したがってシリンダ11の吸入空気量の変化は、スロットル開度TVOの変化に対してさらに遅れる。ここではシリンダ11の吸入空気量は時刻t5になって増加し始める。シリンダ11に実際に吸入される空気量をシリンダ吸入実空気量Qcと称する。
この発明は、加速を含む過渡運転において、シリンダ11に実際に吸入される空気量の変化と、燃料噴射量の変化とのズレを解決して、空燃比の制御精度を高めることを主題としている。そのために、図2(C)では、説明の都合上シリンダ吸入実空気量Qcと要求噴射量Tpfとを同じ高さに描いている。実際には、理論空燃比において燃料噴射量を1とすれば、吸入空気量は14.7となる。また、シリンダ吸入実空気量Qcの単位は[g/cycle](グラム/サイクル)であり、要求噴射量Tpfの単位は[msec](ミリ秒)である。したがって、単位も異なるが、ここでは増加のタイミングのみを問題としているので、表記を簡略化するために単位の違いも無視している。結果として、シリンダ吸入実空気量Qcと要求噴射量Tpfの波形は同じ形となり、両者の間に時間軸方向のズレのみが存在することになる。
時刻t1におけるアクセルペダル踏込量APOの変化開始から、時刻t4における吸気スロットル51aのスロットル開度TVOの変化開始までは、40〜50ミリ秒要する。
この発明の基本コンセプトは、燃料噴射量をスロットル開度TVOの代わりに吸気スロットルの開度を制御するための信号(アクセルペダル踏込量の信号や、例えばASCDによる定速走行のためのトルク要求信号や、自動変速機の変速ショックを緩和するための回転同期制御のためのトルク要求信号)に基づいて計算することであり、その結果スロットル開度TVOの変化に先行して要求噴射量Tpfを計算できる。
時刻t1におけるアクセルペダル踏込量APOの変化開始から、時刻t5におけるシリンダ11の吸入空気量の変化開始に至るまでの応答遅れを以下の説明では無駄時間T2と称する。
コントローラ7は、図2(C)に示すように、シリンダ吸入実空気量Qcの変化の位相をアクセルペダル踏込量APOの変化の位相と一致するまで、無駄時間T2を用いて進角処理し、処理後の値をシリンダ吸入予測空気量Qcaとする。無駄時間T2は一定値としてあらかじめ与える。コントローラ7は、さらに、シリンダ吸入予測空気量Qcaに、噴射タイミングと同期させるための無駄時間T1による遅延処理を加えて、図2(C)に一点鎖線で示す要求噴射量Tpfを得る。
図2(C)の各曲線は、アクセルペダル踏込量APOの変化から計算した値を示し、吸気バルブ15の開閉を考慮していない。実際には図2(B)に示すように吸気バルブ15が時刻t6で閉じるので、時刻t6におけるシリンダ吸入実空気量Qcの値Qc1がシリンダ11の吸入実空気量である。要求噴射量Tpfの曲線の時刻t2における値Tpf1が吸入実空気量Qc1に対応する要求噴射量である。したがって、コントローラ7が実際に計算するのは、時刻t2における要求噴射量Tpf1である。
図2(A)〜図2(C)では、内燃エンジン1の回転速度Neを一定とし、噴射タイミングは、時刻t0よりも少し遅れた時刻t2であると仮定している。時刻t3から時刻t6までが吸気バルブ15の開弁期間であり、噴射タイミングは吸気ストロークの直前に設定されている。この関係はどのシリンダ11についても同じとする。
図2(A)〜図2(C)の横軸は時間軸であるため、エンジン回転速度Neが変化すると、噴射タイミングも変化する。具体的には、エンジン回転速度Neが下がると噴射タイミングが遅くなって図の右方向へ移動する。エンジン回転速度Neが上がると噴射タイミングが早くなって図の左方向へ移動する。これに伴い、無駄時間T1も変化する。つまり無駄時間T1はエンジン回転速度Neの関数である。
図3を参照してコントローラ7の具体的な構成について説明する。
コントローラ7は燃料噴射量Tiを計算する。コントローラ7は、エアフローメータ出力遅れの進み補償ユニット71と、スロットル開口予測面積計算ユニット721と、スロットル開口実面積計算ユニット722と、面積比計算ユニット723と、補正予測圧力比計算ユニット731と、補正実圧力比計算ユニット732と、圧力比の比率計算ユニット733と、密度比計算ユニット740と、吸入予測空気量計算ユニット74と、吸気通路下流部充填モデル75と、1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76と、無駄時間計算ユニット77と、要求噴射量計算ユニット78と、燃料噴射量計算ユニット79と、シリンダ吸入空気量計算ユニット701と、シリンダ吸入空気量相当噴射量計算ユニット702とを備える。なお、図3に示す各ブロックはコントローラ7の各機能を、仮想的なユニットとして示したもので、各ブロックは物理的な存在を意味しない。
これらの計算ユニットにより、コントローラ7は内燃エンジン1の運転中に、1ミリ秒間隔で、燃料噴射量Ti[msec]を計算する。
エアフローメータ出力補償ユニット71は、エアフローメータ61から入力した信号に応答遅れに対して進み補償し、エアフローメータ検出流量Qa [g/msec](グラム/ミリ秒)を計算する。エアフローメータ61の信号に、応答遅れの進み補償を加えることは、特開2003−314347号公報によって公知であり、ここではその手法をそのまま適用する。
スロットル開口予測面積計算ユニット721は、要求駆動トルクTrq又はアクセルポジションセンサ67が検出したアクセルペダル踏込量APOに基づいて、それに対応するスロットル開口面積(以下「スロットル開口予測面積」という)AAPO[m2](平方メートル)を計算する。具体的な計算方法は後述する。
スロットル開口実面積計算ユニット722は、あらかじめコントローラ7のROMに格納された図6(B)の特性マップを検索して、スロットル開度センサ36が検出する吸気スロットル51aのスロットル開度TVOからスロットル開口実面積ATVO [m2](平方メートル)を計算する。
面積比計算ユニット723は、スロットル開口予測面積AAPOとスロットル開口実面積ATVOとの比AAPO/ATVOを計算する。
補正予測圧力比計算ユニット731は、後述の吸気通路下流部の予測圧力Pma [Pa](パスカル)と、大気圧センサ68が検出する大気圧Pa [Pa]との比Pma/Paから、図7(A)に示す特性のあらかじめコントローラ7のROMに格納されたマップを検索して補正予測圧力比PRAを求める。
補正実圧力比計算ユニット732は、後述の吸気通路下流部の実圧力Pm [Pa]と大気圧Pa [Pa]との比Pm/Paとから、図7(B)に示す特性のあらかじめコントローラ7のROMに格納されたマップを検索して、補正実圧力比PRを求める。
ふたつの圧力比の比率の計算ユニット733は、補正予測圧力比PRAと補正実圧力比PRとの比率PRRを計算する。
密度比計算ユニット740は、吸気スロットル51aにおける空気の密度比ρtha/ρthを、次式(1-1)(1-2)で求める。
なおチョーク時であるか否かは、吸気スロットル51aの前後の圧力比(Pm/Pthf)に基づいて判定する。すなわちPm/Pthf<0.53のときにはチョーク時であると判定し、Pm/Pthf≧0.53のときには非チョーク時であると判定する。
またρthfa/ρthfは、次式(2)である。
ここで式(2)の具体的な求め方について図8を参照して説明する。
吸気通路上流部における予測空気量Qthfaは次式(3)で表される。
また空気密度ρは空気量Q/容積Vであるから、ρthfa/ρthfは以下の式になる。
吸気通路上流部の容積は一定(不変)なので次式(5)になり、これに式(3)を代入すれば前述の式(2)が求まる。
吸入予測空気量計算ユニット74は、エアフローメータ検出流量Qaを、次式(6)に示すように、面積比AAPO/ATVO及び圧力比の比率PRRで補正し、シリンダ吸入予測空気量Qaa [g/msec]を計算する。
吸気通路下流部充填モデル75には、このようにして計算されたシリンダ吸入予測空気量Qaaが入力される。吸気通路下流部充填モデル75は、吸気通路下流部の空気量Cma [g]と、吸気通路下流部の実圧力Pm [Pa]と、吸気通路下流部の予測圧力Pma [Pa]を計算する。
なお吸気通路下流部とは、吸気通路のうちの吸気スロットル51aよりも下流側の部分を指し、本実施形態では、吸気コレクタ21と、吸気マニホールド22と、吸気ポート23とを合わせた部分である。
1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76は、吸気通路下流部の空気量Cmaを用いて、1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量Qca[g/cycle](グラム/サイクル)を計算する。
吸気通路下流部充填モデル75及び1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76の詳細な構成については後述する。
無駄時間計算ユニット77は、エンジン回転速度Ne[rpm]と吸気スロットル51aの無駄時間T2とから、次式(7)により無駄時間T1を計算する。
先取りクランク角区間X1は、燃料噴射開始時期から吸気バルブ15の閉鎖時期までのクランク角区間に相当する。先取りクランク角区間X1は、燃料噴射タイミングがあらかじめ決められていて、かつ吸気バルブ15の開閉タイミングやバルブリフト量が一定の場合には、例えば250度、といった一定値である。
要求噴射量計算ユニット78は、1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量Qca[g/cycle]と無駄時間T1とに基づいて、まず、図2(C)に示すように、既知の値である時刻t2から無駄時間T1手前の時点における1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量Qca [g/cycle]を計算する。計算ユニット76が与える1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量Qcaは時間の関数であるので、この関数に時刻t=t2-T1を与えることで1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量Qcaの具体的数値Qca1 [g/cycle]を計算する。要求噴射量計算ユニット78は、さらに次式(8)でQca1 [g/cycle]を理論空燃比の14.7で除して、理論空燃比を実現するための要求噴射量Tpf1 [msec]を求める。要求噴射量Tpf1は燃料噴射パルス幅で表される。
燃料噴射量計算ユニット79は、要求噴射量計算ユニット78が計算した要求噴射量Tpf1 [msec]を用いて次式(9)によりシーケンシャル噴射かつ同期噴射の燃料噴射量Ti [msec]を計算する。
式(9)は空燃比フィードバック補正による燃料噴射量の公知の計算式である。過渡補正量Kathosは壁流補正のための値である。目標当量比Tfbyaは目標空燃比に対応する値であり、理論空燃比を目標空燃比に設定する場合には目標空燃比Tfbyaは1.0、リーン空燃比を目標空燃比に設定する場合には目標当量比Tfbyaは1.0未満の値、リッチ空燃比を目標空燃比に設定する場合には目標空燃比Tfbyaは1.0より大きな値となる。
コントローラ7はこのようにして計算された燃料噴射量Ti [msec]に相当する燃料噴射パルス信号を噴射タイミングにおいて燃料インジェクタ52に出力する。
シリンダ吸入空気量計算ユニット701は、1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入予測空気量Qcaを無駄時間T2 [msec]遅角させた値をシリンダ吸入実空気量Qc[g/cycle]として計算する。
シリンダ吸入空気量相当噴射量計算ユニット702は、1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入予測空気量Qcaに対する噴射量を計算し、その値を無駄時間T2 [msec]遅角させてシリンダ吸入空気量相当噴射量Tp [msec]を計算する。噴射量Tpは燃料噴射パルス幅で表される。
シリンダ吸入空気量相当噴射量計算ユニット702が計算するシリンダ吸入空気量相当噴射量Tp及びシリンダ吸入空気量計算ユニット701が計算するシリンダ吸入実空気量Qcは、定常運転の燃料噴射制御のために計算される値であり、過渡運転の燃料噴射制御には使用されない。
図3には示されていないが、好ましくは、コントローラ7は、内燃エンジン1の定常運転と過渡運転とを判別し、定常運転では従来と同様にシリンダ吸入実空気量Qcとシリンダ吸入空気量相当噴射量Tpとを用いて燃料噴射量Tiを計算し、過渡運転では1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入予測空気量Qcaと要求噴射量Tpfとを用いて燃料噴射量Tiを計算する。
図4はスロットル開口予測面積計算ユニット721の詳細について説明する図である。
スロットル開口予測面積計算ユニット721は、アクセル踏込量に基づくスロットル開口予測面積計算部7211と、トルク要求信号に基づくスロットル開口予測面積計算部7212と、ハイセレクト部7213と、アイドル維持信号に基づくスロットル開口予測面積計算部7214と、スロットル開口予測面積算出部7215とを有する。
アクセル踏込量に基づくスロットル開口予測面積計算部7211は、アクセルポジションセンサ67が検出したアクセルペダル踏込量APOに基づいて、あらかじめコントローラ7のROMに格納された図6(A)の特性マップを検索することで、アクセル踏込量APOに基づくスロットル開口予測面積AAPO1を計算する。
トルク要求信号に基づくスロットル開口予測面積計算部7212は、トルク要求信号Trqに基づいてスロットル開口予測面積AAPO2を計算する。トルク信号の一例を挙げると、例えばASCD(Auto Speed Control Device)による定速走行のためのトルク信号や、自動変速機の変速ショックを緩和するための回転同期制御のためのトルク信号がある。トルク要求信号に基づくスロットル開口予測面積計算部7212は、必要空気量計算部72121と、スロットル開口面積換算部72122とを有する。トルク要求信号に基づくスロットル開口予測面積計算部7212は、必要空気量計算部72121においてトルク要求信号に基づく必要空気量を計算し、スロットル開口面積換算部72122において必要空気量を通過させるために開口すべきスロットル面積AAPO2を計算する。
ハイセレクト部7213は、アクセル踏込量に基づくスロットル開口予測面積AAPO1と、トルク要求信号に基づくスロットル開口予測面積AAPO2とを比較して、大きい方をスロットル開口予測面積基本値AAPO0とする。
アイドル維持信号に基づくスロットル開口予測面積計算部7214は、アイドル回転の確保に必要なエンジントルクのアイドルトルク分に相当する吸気スロットルの開口面積AISCを計算する。具体的には補機駆動トルク等を含めてアイドル回転速度制御(ISC)において目標アイドル回転速度を維持するのに必要なトルク分の開口面積として算出する。
スロットル開口予測面積算出部7215は、スロットル開口予測面積基本値AAPO0にアイドルトルク相当開口面積AISCを加算してスロットル開口予測面積AAPOを計算する。
次に図5を参照して、吸気通路下流部充填モデル75と、1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76との構成を説明する。
吸気通路下流部充填モデル75と、1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76との組み合わせは、特開2001−50091号公報により公知である。ここでは、公知の技術を応用し、吸気通路下流部充填モデル75及び1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76を図5に示すように構成する。
すなわち吸気通路下流部充填モデル75は、流入空気量計算部751と、空気量収支計算部752と、実圧力計算部753と、予測圧力計算部754とを備える。
1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76は、予測空気量計算部761と、加重平均処理部762と、単位換算部763とを備える。
図5と公知技術との相違は、吸気通路下流部充填モデル75の入力値として、エアフローメータ流量Qaに代えて、吸入予測空気量Qaaを用いる点と、吸気通路下流部充填モデル75が実圧力計算部753と予測圧力計算部754を備える点である。この違いにより、アクセルペダル踏込量APOの変化に一致するまで位相を進角させた1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量Qcaを計算できる。つまり、図2(C)において1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入実空気量Qcを無駄時間T2進角させた値が計算される。ここで計算される値が1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入予測空気量Qcaである。前述のように無駄時間T2はあらかじめ一定値として与えられる。
なお図5に示す各ブロックもコントローラ7の各機能を、仮想ユニットとして示したもので、各ブロックは物理的な存在を意味しない。
各部について簡単に説明する。
流入空気量計算部751は次式(10)により、シリンダ吸入予測空気量Qaaに計算周期Δt、すなわち1ミリ秒を乗じて吸気通路下流部へ流入する空気量Caa [g]を計算する。
空気量収支計算部752は次式(11)により、前回値Cma-1に流入空気量Caa [g]を加算するとともに、シリンダの吸入空気量(吸気通路下流部からは流出する)Cca [g]を減算することで、吸気通路下流部空気量Cma [g]を計算する。
式(11)の右辺のシリンダ吸入空気量Cca-1は、シリンダ吸入予測空気量計算部761が一制御周期前に計算したシリンダ吸入予測空気量(すなわちCcaの前回値)である。
実圧力計算部753は、吸気通路下流部空気量Cma [g]と、温度センサ44が検出した吸気通路下流部温度Tm [K]と、吸気通路下流部容積Vm [m3]とを用いて、次式(12)により吸気通路下流部実圧力Pm [Pa]を計算する。なお式(12)は気体の状態方程式から導かれる。
予測圧力計算部754は、吸気通路下流部圧力Pmを吸気スロットル51aの無駄時間T2進角させた、アクセラレータ開度相当吸気通路下流部圧力Pma [Pa]を計算する。
シリンダ吸入予測空気量計算部761は、吸気通路下流部空気量Cma [g]と、シリンダ11の容積Vc [m3]と、吸気通路下流部の容積Vm [m3]とを用いて、次式(13)でシリンダ吸入予測空気量Cca [g]を計算する。なおVc及びVmは一定値である。
式(13)は以下のようにして求められる。気体の状態方程式が以下の式(14)で表される。
この関係を書き直すと次式(15)が得られる。
これをシリンダ11に適用してシリンダ11のモル数、すなわち空気量Ccを次式(16)で求めることができる。
シリンダ11の圧力Pcと吸気通路下流部圧力Pmは等しく、かつシリンダ11の温度Tcと吸気通路下流部温度Tmは等しいと見なすと、式(16)は次式(17)に書き換えられる。
一方、気体の状態方程式から以下の式が導かれる。
したがって吸気通路下流部においては次式(19)の関係が成立する。
式(19)を式(17)に代入すると、次式(20)が得られる。
シリンダ11の空気量Ccをシリンダ吸入予測空気量Ccaに置き換えれば上の式(13)が得られる。
予測空気量計算部761が計算したシリンダ吸入予測空気量Ccaは、次の計算サイクルにおいて、空気量収支計算部752で使用される。このように予測空気量計算部761と空気量収支計算部752とは、互いの計算値を用いてサイクリックに計算する。
加重平均処理部762は、シリンダ吸入予測空気量Ccaを次式(21)で加重平均してシリンダ吸入予測空気量の加重平均値Ccak [g]を計算する。
単位換算部763は、シリンダ吸入予測空気量の加重平均値Ccak [g]を、計算周期に対応させるべく、エンジン回転速度Ne[rpm]を用いて次式(22)で1燃焼サイクル、すなわち6気筒エンジンではクランク角120度当たりのシリンダ吸入予測空気量Qca[g/cycle]に変換する。
このようにして、吸気通路下流部充填モデル75と、1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76は、1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入予測空気量Qca [g/cycle]、吸気通路下流部の実圧力Pm [Pa]、吸気通路下流部の予測圧力 Pma [Pa]を計算する。
図9を参照して、本発明の作用及び効果を説明する。
なおここでは時刻t1でドライバがアクセルペダル35を踏み込んで一定踏込量を維持する場合、すなわち図4のスロットル開口予測面積計算ユニット721においてスロットル開口面積AAPOをアクセルペダル踏込量APOに基づいて計算した場合について考える。
図9(A)に示すように、ドライバがアクセルペダル35を踏み込むと、スロットル開口予測面積がアクセルペダル踏込前の予測面積AAPO10から踏込後の予測面積AAPO20に増える。この変化はスロットル開口実面積ATVOの変化よりも進んでいる。
ここで内燃エンジン1の加速時の吸入予測空気量Qaaの変化を考える。
計算を簡略化するために補正圧力比PRA=Pma/Paとし、補正圧力比PRAと補正圧力比PRの比率PRR=PRA/PR=Pma/Pmとする。このようにすれば式(6)は次式(23)に置き換えることができる。
式(23)の右辺の面積比AAPO/ATVOは、踏込前予測面積AAPO10から踏込後予測面積AAPO20に達するまで増大し、吸気スロットル開口実面積ATVOが立ち上がるまで一定値を保ち、その後は減少して、1に収束する。
圧力比Pma/Pmは、吸気通路下流部の予測圧力Pmaがアクセルペダル踏込前の第1圧力Pm1から踏込後の実圧力を第2圧力Pm2に達するまでは増加し、吸気通路下流部の実圧力Pmが立ち上がるまで一定値を保ち、その後は減少して、1に収束する。
吸入予測空気量Qaaは、上述のように変化する面積比AAPO/ATVO及び圧力比の比率Pma/Pmに比例する。その結果、吸入予測空気量Qaaは、図9(A)の波形に示すように時刻t1で急激に立ち上がってピークを成し、その後徐々に減少してエアフローメータ流量Qaと一致する。
このように、吸入予測空気量Qaaは、エアフローメータ流量Qaの変化の位相がアクセルペダル踏込量APOの変化の位相に一致するまで、エアフローメータ流量Qaを進角させた値、つまりエアフローメータ流量Qaを吸気スロットル51aの無駄時間T2進角させた値である。
以上の述べたように、本発明の構成によれば、少なくとも過渡運転時にアクセルペダル踏込量APOに基づいて燃料噴射量を決定するので、従来のようにスロットル開度TVOと同位相で変化するエアフローメータの検出流量に基づいて燃料噴射量を決定するのと比べて、シリンダ吸入空気量の変化を早いタイミングで把握し、シリンダ吸入空気量の変化に適合した燃料噴射量を早期に設定することができる。その結果、内燃エンジンの加速や減速などの過渡運転における空燃比の制御精度が向上する。
また図9では、ドライバがアクセルペダルを踏み込んだ場合で説明したが、ASCD等によるトルク要求信号による場合も同様であり、この場合でも内燃エンジンの加速や減速などの過渡運転における空燃比の制御精度が向上する。
なお上記説明においては、計算を簡略化し理解を容易にするために補正圧力比PRR=Pma/Pmとしたが、実際の構成は、PRR=PRA/PRである。補正予測圧力比PRAは、図6(A)に示したように圧力比Pma/Paが1.0に近い付近では小さな値となるように設定されている。補正実圧力比PRも同様に、図6(B)のように圧力比Pm/Paが1.0に近い付近では小さな値となるように設定されている。このように設定する理由は以下である。
すなわち、圧力比Pma/Pa及びPm/Paが1.0に近い領域とは、内燃エンジン1の高負荷領域にあたる。高負荷領域の空気流量は式(23)で計算される吸入予測空気量Qaaより小さい。そこで、圧力比Pma/PaとPm/Paが1.0に近づくにつれて減少する補正圧力比PRA及びPRを用いて、高負荷領域の吸入予測空気量Qaaを実空気流量に近づけているのである。図6(A)に示す補正圧力比PRAの特性は、図6(B)に示す補正圧力比PRの特性と同一であり、これらの特性は吸気スロットル51aの流量特性に依存する。
ところで、無駄時間計算ユニット77が式(7)で計算する無駄時間T1は、エンジン回転速度Neが低下するにつれて減少する。そして、エンジン回転速度Neがある値以下に低下すると、無駄時間T1は負の値となる。ところが無駄時間T1は、コントローラ7が、シリンダ吸入予測空気量Qcaを噴射タイミングと同期させるために加える遅れ処理の時間であり、論理的に負の値は取り得ない。そこでコントローラ7は、無駄時間T1が負の値となる場合には、吸気スロットル51aの動作タイミング、すなわち図9(A)のATVOの変化を遅らせる。具体的には、式(7)から導かれる次式(24)の条件が成立する場合に、この処理を行なう。
式(24)はさらに次式(25)に変形される。
このようにしてコントローラ7は、式(25)の左右の項が等しくなるまで、吸気スロットル51aの動作タイミングを遅らせる。これにより無駄時間T2が増大し、無駄時間T1が負の値になることを防止できる。
(第2実施形態)
図10は、本発明による燃料噴射制御装置の第2実施形態のコントローラのブロック構成図である。
なお以下に示す各実施形態では前述した実施形態と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
この実施形態では、第1実施形態のシリンダ吸入空気量計算ユニット701と、シリンダ吸入空気量相当噴射量計算ユニット702とに代えて、吸気通路下流部充填モデル751と、1燃焼サイクル当たりシリンダ空気量計算ユニット761と、シリンダ吸入空気量計算ユニット7011と、シリンダ吸入空気量相当噴射量計算ユニット7021とを備える。
吸気通路下流部充填モデル751と、1燃焼サイクル当たりシリンダ空気量計算ユニット761とは、前述の特開2001−50091号公報に開示された公知技術をそのまま用いて構成する。
第1実施形態においては、シリンダ吸入空気量相当噴射量Tp [msec]を、1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入予測空気量Qcaから計算しているが、この実施形態では従来と同じくエアフローメータ検出流量Qaから計算する。
すなわち、吸気通路下流部充填モデル751と、1燃焼サイクル当たりシリンダ空気量計算ユニット761とが、エアフローメータ検出流量Qaから1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入空気量Qck [g/cycle]を計算する。
シリンダ吸入空気量計算ユニット7011は、1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入空気量Qckをそのままシリンダ吸入実空気量Qc [g/cycle]として出力する。
シリンダ吸入空気量相当噴射量計算ユニット7021は、1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入空気量Qck [g/cycle]に基づき次式(26)によってシリンダ吸入空気量相当噴射量Tp [msec]を計算する。
式(26)は式(8)の1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量Qca1を1燃焼サイクル当たりシリンダ吸入空気量Qckに置き換えたものである。
この実施形態においても、少なくとも過渡運転時にシリンダ吸入予測空気量Qca1に基づき燃料噴射量Ti [msec]を計算する点に関しては第1の実施形態と全く同一であり、過渡運転時の空燃比制御精度の向上に関して、第1の実施形態と同様の好ましい効果が得られる。
(第3実施形態)
第1実施形態及び第2実施形態は、吸入空気量を吸気スロットル51aで調整する内燃エンジンにこの発明を適用した実施形態であるのに対して、この第3実施形態ではアクセルペダル踏込量APO又は要求駆動トルクTrqに応動する可変動弁機構(VEL機構41及びVTC機構42)により吸入空気量を調整するいわゆるノンスロットルエンジンにこの発明を適用する。なお以下では発明の理解を容易にするために、可変動弁機構がアクセルペダル踏込量APOに応動する場合を例示して説明する。
VEL機構41及びVTC機構42の具体的な構造は、例えば特開2003−314347号公報により公知であるが、その特性を図11を参照して簡単に説明する。
VEL機構41によれば、図11に実線で示したように吸気バルブ15の開閉タイミング及びリフト量を自由に変更できる。またVTC機構42によれば、図11に破線で示したように吸気バルブ15の開閉期間は一定のまま開閉タイミングを自由に変更できる。したがってVEL機構41及びVTC機構42を合わせて制御すれば、吸気スロットルがなくてもシリンダに吸入される吸気量を調整できる。
内燃エンジンの回転速度と負荷に規定される運転条件に応じて吸気バルブの目標開弁タイミングや目標閉弁タイミングを設定する方法は、特開2003−129871号公報、特開2003−65131号公報及び特開平11−002140号公報に開示されている。簡単には、内燃エンジンが低負荷状態から高負荷状態へ移行する加速時には、図12に示すように、吸気バルブ15と排気バルブ16のバルブオーバーラップが拡大するように、吸気バルブ15の開弁タイミングと開弁タイミングの各目標値を進角させる。
このように、ノンスロットルエンジンでは、アクセルペダル踏込量APOに応じて必要吸気量を計算し、その吸気量が得られるようにVEL機構41及びVTC機構42を制御する。なおそのときの吸気バルブ15の開閉タイミング及びリフト量とスロットル開口面積との相関は既知であり、ここではその関係に基づいて吸気バルブ15の開閉タイミング及びリフト量に相当するスロットル開口面積を求めて制御を行う。
ところでVEL機構41及びVTC機構42によって吸気量を調整する場合も、吸気スロットルで吸気量を調整するときと同様に、応答遅れが存在する。
図13は、本発明による燃料噴射制御装置の第3実施形態による動作を説明する図である。
コントローラ7が時刻t10で吸気バルブ15の目標開弁タイミングIVOmの第1開弁タイミングIVOm1から第2開弁目標タイミングIVOM2へのタイミング変更を指令した場合に、実際の開弁タイミングIVOrは時刻t14で変更が開始される。
なお、図13(D)においても、図2(C)と同様にシリンダ吸入実空気量Qcと要求噴射量Tpfとを同じ高さに描いている。
そこで本実施形態では、VEL機構41及びVTC機構42の作動に先立ってアクセルペダル踏込量APO(要求駆動トルクTrq)に応じて出力される目標開弁タイミングIVOmのタイミング変更指令に基づき燃料噴射量を計算すれば、吸気バルブ15の実際の開弁タイミングIVOrに先立って、要求噴射量Tpfを計算することができる。
すなわち、図13(B)に示すように、吸気バルブ15の開弁タイミングを、応答遅れ期間Tv2相当進角させた開弁タイミング先取り値IVOffを想定する。そして開弁タイミング先取り値IVOffを要求噴射量に同期させるための無駄時間Tv1の遅れ処理を加えて、図の破線に示すように、要求燃料噴射量Tpf1の計算根拠となる仮想開弁タイミングIVOfを設定する。図13(B)には開タイミングIVOについて図示したが、閉タイミングIVCについても同様にして仮想閉弁タイミングIVOfを設定する。そしてこれらのタイミングから要求噴射量Tpf1を計算する。
より具体的には、図13(D)に示すシリンダ吸入予測空気量Qcffを時間tの関数として求め、無駄時間Tv1から時間tを特定することで、図に示す要求噴射量Tpf1を計算する。
この実施形態においても、少なくとも過渡運転時にシリンダ吸入予測空気量Qcaに基づき燃料噴射量Ti [msec]を計算するので、過渡運転時の空燃比制御精度の向上に関して、第1実施形態や第2実施形態と同様の好ましい効果が得られる。
なおVEL機構41及びVTC機構42のいずれか一方の機構によって吸気量を変更する内燃エンジンにもこの発明は適用可能である。
(第4実施形態)
図14,図15は、本発明による燃料噴射制御装置の第4実施形態のコントローラのブロック構成図である。
この実施形態は、吸気スロットル51aと、可変動弁機構(VEL機構41及びVTC機構42)とをともに備えた内燃エンジンへのこの発明の適用に関する。
この実施形態においても、コントローラ7は、第1実施形態と同じく図3に示す機能を備える。しかしながら、この実施形態は、1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76が使用するシリンダ11の容積Vc [m3]は以下の理由から一定でない点で、第1の実施形態と相違する。そのために、コントローラ7は図5に示す各ユニットに加えて、吸気バルブ15の実際の開弁タイミングIVOrと閉弁タイミングIVCrとからシリンダ11の容積Vcを計算するために図14に示すシリンダ容積計算ユニット760を備える。
物理的な意味合いにおけるシリンダ容積は、ピストンのストロークが変化しない限り一定であるが、吸気バルブ15の実際の開弁タイミングIVOrと閉弁タイミングIVCrによって、計算ユニット76が使用するシリンダ容積Vcが変化するのは次の理由による。
すなわち、可変動弁機構を備える場合には、図12に示すように、開弁タイミングIVOと閉弁タイミングIVCの変化に応じて、排気バルブ16と吸気バルブ15がともに開いているバルブオーバーラップが発生する。バルブオーバーラップは、排気通路3からシリンダ11への排気の逆流を招く。この現象を内部排気環流(internal Exahust Gas Recirculation(EGR))と呼ばれる。内部EGR量の増加は、吸気バルブ15からシリンダ11への吸入空気量の減少をもたらす。これは、シリンダ容積Vcが実質的に小さくなることに等しい。
シリンダ容積Vcが実質的に変化すると、シリンダ吸入予測空気量Qcaも変化する。そこで、吸気バルブ16の実際の閉弁タイミングIVCrに基づいてシリンダ容積計算ユニット760がシリンダ容積Vcを計算するのである。具体的な計算内容は後述する。そして計算されたシリンダ容積Vc [m3]を用いて1燃焼サイクル当たりのシリンダ吸入予測空気量計算ユニット76がシリンダ吸入予測空気量Qcffを計算する。シリンダ吸入予測空気量Qcffは、第1実施形態や第2実施形態のシリンダ吸入予測空気量Qcaに相当する。したがって第1実施形態や第2実施形態のQcaをQcffに置き換えることで、第1実施形態や第2実施形態と同様に燃料噴射量Ti [msec]を計算できる。
次に図15を参照して、シリンダ容積計算ユニット760の具体的な構成を説明する。図14の計算は、第1実施形態の図3の計算と同じく1ミリ秒間隔で実行される。対応して、シリンダ容積計算ユニット760も図15に示す燃料噴射量Ti [msec]の計算を1ミリ秒間隔で実行する。
可変動弁機構のもとでのシリンダ容積Vcの計算は、特開2001−050091号公報に開示されている。ここでは、シリンダ容積Vcの計算に、開示された計算方法を適用するとともに、新たに吸気バルブ開閉タイミング要求値計算部7601を追加する。
図15を参照すると、吸気バルブ開閉タイミング要求値計算部7601は、吸気バルブ閉弁タイミング先取り値計算部76011と、吸気バルブ開弁タイミング先取り値計算部76012と、無駄時間計算部76013と、吸気バルブ閉弁タイミング要求値計算部76014と、吸気バルブ開弁タイミング要求値計算部76015とを備える。
吸気バルブ閉弁タイミング先取り値計算部76011は、アクセルペダル踏込量APOに基づいて吸気バルブ閉弁タイミング先取り値IVCffを計算する。吸気バルブ閉弁タイミング先取り値IVCffは、具体的にはアクセルペダル踏込量APOに対応する吸気バルブ15の閉弁タイミングIVCの目標値である。ただし、アクセルペダル踏込量APOは時間とともに変化するので、吸気バルブ閉弁タイミング先取り値IVCffも時間の関数として表される。結果として、吸気バルブ閉弁タイミング先取り値IVCffは、吸気バルブ15の実際の閉弁タイミングIVCrを可変動弁機構の無駄時間Tv2進角させた値に相当する。
同様に、吸気バルブ開弁タイミング先取り値計算部76012は、アクセルペダル踏込量APOに基づいて吸気バルブ開弁タイミング先取り値IVOffを計算する。吸気バルブ開弁タイミング先取り値IVOffは、具体的にはアクセルペダル踏込量APOに対応する吸気バルブ15の開弁タイミングIVOの目標値である。ただし、アクセルペダル踏込量APOは時間とともに変化するので、吸気バルブ開弁タイミング先取り値IVOffも時間の関数として表される。結果として、吸気バルブ開弁タイミング先取り値IVOffは、吸気バルブ15の実際の開弁タイミングIVOrを可変動弁機構の無駄時間Tv2進角させた値に相当する。
無駄時間計算部76013は、エンジン回転速度Ne[rpm]と可変動弁機構の無駄時間Tv2とから次式(27)によって無駄時間Tv1 [msec]を計算する。
先取りクランク角区間X1は、図13(C)において、燃料噴射タイミングから吸気バルブ15の閉鎖に至るクランク角区間に相当する。
吸気バルブ閉弁タイミング要求値計算部76014は吸気バルブ閉弁タイミング先取り値IVCffを無駄時間Tv1遅角させた吸気バルブ閉弁タイミング要求値IVCfを計算する。
吸気バルブ開弁タイミング要求値計算部76015は、吸気バルブ開弁タイミング先取り値IVOffを無駄時間Tv1遅角させた吸気バルブ開弁タイミング要求値IVOfを計算する。
目標シリンダ容積計算部7602は、吸気バルブ閉弁タイミング要求値IVCfから、対応するシリンダ容積を時間の関数として計算して目標シリンダ容積Vcm [m3]を計算する。
シリンダ内新気割合計算部7603は、吸気バルブ開弁タイミング要求値IVOf、排気バルブ閉弁タイミングEVC(一定値)、また必要によってEGR率に基づいてシリンダ新気割合η [%]を計算する。
実シリンダ容積計算部7604は、目標シリンダ容積Vcmにシリンダ新気割合η [%]を乗じて、実シリンダ容積Vcr [m3]を計算する。実シリンダ容積Vcr [m3]はシリンダ11の新気だけの容積に相当する。
前述のように、排気バルブ閉弁タイミングEVCと吸気バルブ開弁タイミング実値IVOrとで、バルブオーバラップ量が決まる。バルブオーバラップが多いほどシリンダ11の内部EGR量が増えるので、シリンダ新気割合η [%]はオーバラップ量に基づいて求める。
可変動弁機構を備える内燃エンジンは、オーバーラップ量の制御により内部EGR量を任意に調整できる。さらに外部EGR装置も備える場合には、その外部EGR装置のEGR率によってさらにシリンダ新気割合η [%]を補正する。
シリンダ容積変化速度計算部7605は、次式(28)により実シリンダ容積Vcr [m3]にエンジン回転速度Ne [rpm]を乗じて、シリンダ容積変化速度ΔVc [m3/msec]を計算する。
シリンダ容積算出部7606は、次式(29)によりシリンダ容積変化速度ΔVcに計算周期Δtを乗じてシリンダ容積Vc [m3]を計算する。
このように、吸気スロットル51aと可変動弁機構をともに備えた内燃エンジンにこの発明を適用した場合も、過渡運転での空燃比制御精度の向上に関して、上記各実施形態と同様の好ましい効果が得られる。
以上を要約すると、この発明は、コントローラ7がアクセルペダル踏込量APO又は要求駆動トルクTrqに基づきシリンダ11の目標吸入空気量を計算し、目標吸入空気量を実現するように吸入空気量調整メカニズムを制御する一方、制御後の吸入空気量調整メカニズムが実現する吸入空気量の予測値Qcaをアクセルペダル踏込量APO又は要求駆動トルクTrqに基づき計算し、予測値Qcaに基づく目標燃料噴射量へと燃料インジェクタ52の燃料噴射量を制御する。したがって、アクセルペダル踏込量APO(要求駆動トルクTrq)の変化からシリンダ11の実際の吸入空気量が変化するまでのタイムラグの中で燃料噴射が行なわれる場合であっても、予測値Qcaに基づく燃料噴射量の燃料が噴射される。このため、吸入実空気量に基づき燃料噴射量を計算する従来の燃料噴射制御と比べて、燃料噴射量変化の応答性が増し、加速時や減速時における空燃比の制御精度が向上する。
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明と均等であることは明白である。