JP2007242535A - 電解質膜−電極接合体 - Google Patents

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Abstract

【課題】触媒層の空孔構造を維持し、電子伝導性物質の劣化が進んでも触媒層の構造、特に厚みの変化の少ない電解質膜−電極接合体を提供する。
【解決手段】電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層とを有する、電解質膜−電極接合体であって、少なくともカソード触媒層が、触媒成分、イオン伝導性物質、電子伝導性物質及びフィラーを含み、かつフィラーを含む触媒層は、起動停止試験後の空孔率が0.5以上である際の、起動停止試験前後の厚みの減少率が30%以下であることを特徴とする電解質膜−電極接合体。
【選択図】図1

Description

本発明は、電解質膜−電極接合体(CCM:Catalyst Coated Membrane)、特に燃料電池用電解質膜−電極接合体に関するものである。特に、本発明は、起動停止/連続運転を繰り返して触媒層中の電子伝導性物質(特にカーボン担体)の腐食が進行した後であっても、触媒層、特にカソード触媒層の薄層化が抑制・防止され、さらに触媒層の構造(特に、厚み)のばらつきが抑制・防止される電解質膜−電極接合体(CCM)、特に燃料電池用電解質膜−電極接合体に関するものである。
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動して高出力密度が得られる燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。特に、固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動することから、電気自動車用電源として期待されている。固体高分子型燃料電池の構成は、一般的には、電解質膜−電極接合体を、ガス拡散層さらにはセパレータで挟持した構造となっている。電解質膜−電極接合体は、高分子電解質膜が一対の電極触媒層により挟持されてなるものである。
このような電解質膜−電極接合体を有する固体高分子型燃料電池では、以下のような電気化学的反応が進行する。まず、アノード側に供給された燃料ガスに含まれる水素は、触媒成分により酸化され、プロトンおよび電子となる(2H→4H+4e)。次に、生成したプロトンは、電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらに電極触媒層と接触している高分子電解質膜を通り、カソード側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、電極触媒層を構成している電子伝導性物質、さらに電極触媒層の高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、セパレータおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する(O+4H+4e→2HO)。燃料電池では、上述した電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。
このように、十分な燃料電池の発電効率を達成するためには、燃料ガスおよび酸化剤ガスを触媒層全体に均等に供給することが必要であり、このためにはガス流路となる触媒層の空孔構造を維持する必要がある。しかしながら、実際には、電解質膜を各電極触媒層で挟持して電解質膜−電極接合体を作製する際に、上記各部材をホットプレスするが、このホットプレス工程後に厚み方向の力により触媒層の空孔構造が潰れてしまう。このため、作製した電解質膜−電極接合体には十分な空孔構造が存在しきれず、各触媒層中での良好なガス拡散性が確保できず、十分な発電効率が達成できないという問題があった。
このため、発電効率の高い空孔構造を有する触媒層を形成するために、触媒層形成時に造孔剤として炭素ウィスカーを添加する方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法によると、造孔剤として繊維状物質を使用することによって、繊維がピラーとなってホットプレス時の荷重を受け持ち、ガスチャンネルが潰されるのを防ぐため、カーボン担体が腐食しても、カーボン繊維が触媒層の空孔構造を維持することができる(段落「0016」)。
特開2003−151564号公報
上記特許文献1に記載される触媒層の形成方法は、電子伝導物質、イオン伝導物質、造孔剤を混合し、この混合物を触媒物質を含む溶液で処理する(段落「0026」)方法であるが、この方法では、触媒物質は、電子伝導物質に加えて、造孔剤表面にも担持する(段落「0018」)。しかしながら、これらのうち、触媒活性を有効に示すのは電子伝導物質に担持したものであり、造孔剤表面に担持した触媒物質は凝集した状態で担持されてしまうため実際に触媒活性を発揮できる有効表面積は非常に小さくなる。このため、造孔剤表面に担持した触媒物質は、十分な触媒活性を発揮できず、触媒層全体としては、造孔剤を添加しない従来の触媒に比して、触媒活性が低下してしまうという問題がでてくる。また、上記特許文献1では、各触媒層間のカーボン劣化のバラツキ、さらには単一触媒層内でのカーボン劣化による構造(特に、厚み)のバラツキについては何ら考慮されておらず、実施例でも、アノード及びカソード触媒層双方に造孔剤が添加されているため、カーボン劣化の起こり難い部分、例えば、アノード層にも造孔剤が配置されており、触媒活性の面及び経済的な面で好ましくない。
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、触媒層の空孔構造を維持し、電子伝導性物質の劣化が進んでも触媒層の構造、特に厚みの変化の少ない電解質膜−電極接合体を提供することを目的とする。
本発明者は、上記問題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、以下に詳述するカソード触媒層でのカーボン担体の腐食による触媒層の薄層化の問題に着目した。すなわち、この腐食メカニズムを図1及び図2を参照しながら説明すると、例えば、燃料電池の運転を停止して数時間以上放置した場合、スタック周囲のシール部からの微量リークや、スタックに繋がるポンプやコンプレッサー等からのリークにより、アノード触媒層系やカソード触媒層系には外気(空気)が混入して、アノード触媒層側に残存する水素は外気中の酸素により消費されるため、最終的にはアノード触媒層−カソード触媒層系は空気−空気のガス雰囲気となっている(図1の前段部分)。このような状態で起動してアノード側に水素が導入されると、図1の後段に示されるように、アノードの上流(水素供給側)から下流(空気雰囲気)にかけて局部電池が形成する。ここで、アノード下流の空気存在部に対向する領域のカソードは、電解質電位に対して高電位(1.5V程度)になるため、このカソード電位と電解質電位との大きな差が駆動力となって、この領域ではカソード触媒層における電子伝導性物質であるカーボン担体に対して、C+2HO→CO+4H+4eの反応が起こり(図2参照)、カーボンが腐食して、触媒層の空孔構造が壊れて、触媒層が薄層化し、これにより、触媒層のガス拡散性及び排水性が低下して濃度過電圧が増大し、電池特性が低下すると考えられる。このような現象は、上述したように、水素が存在するアノード上流側に対向するカソード触媒層領域や、通常発電時のカソード触媒層においても、非常に遅い速度ではあるものの起こっており、上記したような比較的長期間放置した後に起動した場合には、アノード下流の空気存在部に対向する領域のカソード触媒層領域では腐食の駆動力であるカソード電位と電解質電位の差が特に大きいためカーボンの腐食反応速度が大きくなり、この領域での触媒活性の低下や触媒層の薄層化が顕著である。また、反応により生成した水分やセパレータに設けられたガス流路を通じて供給されたガスに含まれる水分は、触媒層において停留しやすく、触媒層においてガス流路の入口側から出口側に向かって停留する水分量が多くなるが、カーボン担体の腐食は、上記反応式から明らかなように、水を酸化剤として進行するため、燃料電池の耐久性の低下の要因となるカーボン担体の腐食は、起動停止/連続運転を繰り返すうちに、ガス流路の入口側から出口側に向かうにつれて著しく生じ、それに従って特にカソード触媒層のガス流路の出口側の厚みが薄くなり、触媒層の厚みにバラツキが生じる。このように触媒層においてガス流路の入口側のカーボン担体の腐食が少なくても、出口側のカーボン担体の腐食が大きいことに起因して、触媒層の平滑性が損なわれて電池のシール性が低下して電池全体の発電性能が低下すると考えられる。
このため、本発明者は、上記触媒層の薄層化の問題を解決するために、さらに鋭意研究を行なった結果、カソード触媒層にフィラーを添加することによって、起動停止/連続運転により触媒層中の電子伝導性物質の劣化(特に、カーボン担体の腐食)が空孔率が0.5以上になるくらいまで進行しても、フィラーが触媒層を支えるため、触媒層の薄層化を有意に抑制・防止できることを知得した。さらに、本発明者は、さらに触媒層の形成方法について鋭意検討を行なった結果、電子伝導性物質に触媒成分を担持させて一旦電極触媒を得た後、電極触媒にフィラーを添加することによって触媒層を形成すると、触媒成分は電子伝導性物質表面にのみ選択的に担持され、フィラー表面には担持しないため、このような方法によって形成した触媒層は、触媒成分が反応ガスと接触できる有効表面積を十分確保できるため、優れた触媒活性を発揮できることをも知得した。
すなわち、上記目的は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層とを有する、電解質膜−電極接合体であって、少なくともカソード触媒層が、触媒成分、イオン伝導性物質、電子伝導性物質及びフィラーを含み、かつフィラーを含む触媒層は、起動停止試験後の空孔率が0.5以上である際の、起動停止試験前後の厚みの減少率が30%以下であることを特徴とする電解質膜−電極接合体によって達成される。
本発明によれば、触媒層の電子伝導性物質が劣化/腐食した後であっても、触媒層の厚みの減少(触媒層の薄層化)を有意に抑制・防止できる。また、本発明によると、電子伝導性物質が劣化/腐食しても、フィラーによりガス流路は確保されるので、触媒層内のガスの拡散性が維持できる。したがって、本発明の電解質膜−電極接合体を有する燃料電池は優れた発電効率を発揮できる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の第一は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層とを有する、電解質膜−電極接合体であって、少なくともカソード触媒層が、触媒成分、イオン伝導性物質、電子伝導性物質及びフィラーを含み、かつフィラーを含む触媒層は、起動停止試験後の空孔率が0.5以上である際の、起動停止試験前後の厚みの減少率が30%以下であることを特徴とする電解質膜−電極接合体(本明細書中では、単に「CCM」とも称する)を提供するものである。本発明は、フィラーを電気伝導性物質の腐食度合いが特に多いカソード触媒層に少なくとも添加することを特徴とする。これにより、フィラーが触媒層の厚み方向の空孔構造を保持する役割を果たすので、触媒成分を担持している電子伝導性物質が腐食して空孔率が0.5以上と空隙の占める割合が大きくなっても、フィラーの存在により触媒層の厚みの減少(触媒層の薄層化)を有意に抑制・防止できる。また、電子伝導性物質が腐食しても、触媒層はつぶれずにフィラーによりガス流路は確保されているので、ガスの拡散性は良好な状態で維持できるため、本発明のCCMを有する燃料電池は優れた発電効率を発揮できる。
上述したように、本発明に係る触媒層は、フィラーを添加することによって、起動停止試験後の空孔率が0.5以上と空隙の占める割合が大きくなっても、起動停止試験前後の厚みの減少率が30%以下であることを特徴とする。従来、電子伝導性物質の腐食により空孔率が0.5以上になるほど空隙が多く形成されると、特に触媒層の厚み方向の形状保持力が低下して、触媒層、即ちガス流路がつぶれて、ガスが良好に触媒層内を拡散することができない。このため、従来のCCMを有する燃料電池では、起動停止/連続運転を繰り返すうちに発電効率が過度に低下してしまうという問題があった。これに対して、本発明のCCMは、空孔率が0.5以上程度まで触媒層中に空隙が多く形成されても、触媒層の厚みが保持できるため、このようなCCMでは、ガス流路が十分確保され、ガスがスムーズに触媒層内を拡散できる。このため、本発明のCCMを有する燃料電池は、起動停止/連続運転を繰り返した後であっても、発電効率の低下を抑制・防止でき、長期にわたって優れた発電効率を達成することができる。この際、フィラーを含む触媒層は、起動停止試験後の空孔率が0.5以上である際の、起動停止試験前後の厚みの減少率は、20%以下であることが好ましい。また、フィラーを含む触媒層は、起動停止試験後の空孔率が0.8以上である際の、起動停止試験前後の厚みの減少率が、30%以下、より好ましくは20%以下であることが好ましい。
本明細書において、「空孔率」とは、触媒層内の空隙の形成度合いを示す指標であり、一般的には、CCMを凍結割断して、(1)Adobe社製PhotoshopやJtrimなどのソフトを用いて、触媒層の断面のSEM写真を画像処理して、触媒層断面中の黒色、白色を識別することによって、その割合を空孔率して算出する;または(2)市販のソフトを用いない場合には、同様にして触媒層の断面をSEM撮影した画像をコンピュータに取り込み、ドット表示に置換したのち、ドットの黒色度合いを判定するスクリプトを自作し、画像処理を実施し、黒色、白色を識別することによって、その割合を空孔率して算出する;または(3)コンピュータを使用しない簡便な方法として、複数視野において触媒層の断面のSEM画像を用意し、各々の画像に無作為に10cm以上の長さで直線を引き、直線上の触媒担体(触媒金属を含む)部と空孔部との比率(空孔率)を求めて、100本程度、同様の手法を反復し、このようにして求めた空孔率の平均を算出して、この値を触媒層内の空孔率として表わす、などの方法が使用できる。本発明における起動停止試験後の「空孔率」は、上記方法のうち、(3)の方法を使用したものであり、より具体的には下記実施例に記載した方法によって測定した値である。
また、本明細書において、「起動停止試験前後の厚みの減少率」とは、下記実施例に示される起動停止試験を実施して、その試験前後の触媒層の厚みを測定し、下記式に示されるように、試験前後の触媒層の厚みの差を試験前の触媒層の厚みで除した値をパーセントで表わした値とする。
本発明において、フィラーは、カソード触媒層には少なくとも添加される。この際、上述したように、電子伝導性物質の劣化/腐食は主にカソード触媒層で生じるので、アノード触媒層にフィラーを配合する必要はなく、触媒活性などを考慮すると、フィラーはカソード触媒層のみに含ませることが好ましい。
本発明において、フィラーの材質としては、触媒層の薄層化を抑制・防止できるものであれば特に制限されないが、具体的には、アルミナウィスカー、シリカウィスカー等の無機繊維;単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)、気相成長カーボン繊維(VGCF)、気相成長カーボンナノチューブ(VGCN)、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル等の炭素繊維;ナイロンやポリイミド等の高分子繊維などが挙げられる。これらのうち、導電性を有することなどを考慮すると、炭素繊維が好ましく、特に気相成長カーボン繊維(VGCF)、気相成長カーボンナノチューブ(VGCN)が好ましく用いられる。
特にフィラーがカソード触媒層内に使用される場合には、フィラーは、自身が撥水性を有するもの、または表面が撥水化処理されていることが好ましい。本発明では、繊維状のフィラーが触媒層中で絡み合って存在しているため、触媒層の厚み方向や空孔構造をより強く保持することができるが、燃料電池にあっては、上述したように、発電に伴いカソード側の触媒層内では水蒸気が生成し、その水蒸気は触媒層の表面側に形成されるガス拡散層を通って系外に排出される。このため、カソード触媒層中のフィラーに撥水性を付与することによって、水蒸気の結露を防止して、結露によるガス流路の閉塞を抑制・防止することにより、ガス拡散性を向上することができる。または、同様の理由により、フィラーは、自身が親水性を有するもの、または表面が親水化処理されているものもまた好ましい。このようなフィラーは、発電によって生成した水蒸気が結露しても、水が毛細管現象によってフィラー中にしみこみ、液滴が生じない。このため、触媒層中のガス流路が水滴によって閉塞することを防止し、発電効率の低下を抑制・防止できる。特に、ガス出口側は湿度が高くなって結露が起こりやすいため、このような撥水性および/または親水性を有するフィラーの添加は、薄層化の抑制・防止効果に加えて、発電効率の低下の抑制・防止効果の面で特に有効である。また、毛細管現象によって、水が過剰な場所から水の不足している場所への水の速やかな移動が起こり、これによって電極内部では自発的な水不足の解消がなされる。その結果、加湿量に応じた電圧変動の発生が抑制されるといった効果もまた期待される。
また、フィラーの材質や形状は、触媒層の薄層化を抑制・防止できるものであれば特に制限されないが、導電性繊維であることが好ましい。このようにフィラーが繊維状であると、触媒層の厚み方向の構造を維持する能力に特に優れるからである。導電性繊維の直径やアスペクト比など、導電性繊維の大きさは、触媒層の薄層化を抑制・防止できる大きさであれば特に制限されず、適宜選択できる。本発明によると、このような繊維状のフィラーを後述する触媒インクに添加して触媒層を形成することにより、繊維が触媒層の厚み方向の構造を維持して、起動停止/連続運転などによる電子伝導性物質の劣化/腐食に対する触媒層の薄層化を抑制・防止でき、また、ガス流路を潰すことなくガスの良好な拡散を達成できるため、発電効率が向上できる。なお、本発明では、フィラーを触媒層形成後に除く必要はないため、本発明のCCMの製造工程は以下に詳述するように非常に簡便な方法である。
本発明において、フィラーは、少なくともカソード触媒層に添加されるが、この際、フィラーは、カソード触媒層内で均一に分布してもあるいは触媒層内で量を変えて存在させてもいずれでもよいが、フィラーの添加量を、触媒層内の電子伝導性物質の劣化/腐食の程度(空孔率)に合わせて変化させることが経済的及び触媒活性の面で好ましい。この際、フィラーは、電子伝導性物質の劣化/腐食の程度の多い(即ち、空孔率の高い)部位に多く添加することが好ましく、より好ましくはカソード触媒層のガス流路の出口側領域および/またはアノード触媒層のガス出口に対向するカソード触媒層領域に多く配置する。これらの領域は、上述したように特に電子伝導性物質の劣化/腐食が起こやすい領域であるため、このような領域にフィラーを多く配置することによって、触媒層のガス入口とガス出口での触媒層の厚みの差を少なくして触媒層表面を平滑なまま維持することができる。このため、このようなCCMを有する燃料電池はシール性が向上でき、電池全体の発電性能に優れる。なお、フィラーを多く配置する領域は、カソード触媒層のガス流路の出口側領域またはアノード触媒層のガス出口に対向するカソード触媒層領域のいずれかであってもあるいは双方であってもよく、電子伝導性物質の劣化/腐食の予想される度合いによって適宜選択される。また、上記領域におけるフィラーを多く配置する割合もまた、特に制限されず、電子伝導性物質の劣化/腐食の予想される度合いによって適宜選択される。以下、例えば、フィラーをカソード触媒層のガス流路の出口側領域に多く配置される場合のフィラーの配置の好ましい実施態様を記載する。すなわち、フィラーは、触媒層のガス入口からガス出口に向かって添加量が連続的に増加するように配置されても、あるいはガス入口からガス出口に向かって添加量が段階的に増加するように配置されもいずれでもよいが、製造工程の簡便さを考慮すると、添加量を段階的に増加させることが好ましい。添加量を段階的に増加させる方法は、公知のいずれの方法によってなされてもよいが、例えば、触媒層の所望の部位を、所定の濃度のフィラーの溶液若しくは分散液中に浸漬若しくは塗布する、あるいは単一の濃度のフィラーの溶液若しくは分散液中に所定の量含まれるようになるまで繰り返し浸漬若しくは塗布する方法などが使用できる。また、添加量を段階的に増加させる場合の添加量は、電子伝導性物質の劣化/腐食の程度によって異なるため、使用する電子伝導性物質の種類や起動停止/連続運転などによって適宜選択される。
また、本発明において、フィラーを触媒層内に配置する場合の、フィラーの添加量は、電子伝導性物質の劣化/腐食の程度によって異なり、使用する電子伝導性物質の種類や起動停止/連続運転などによって適宜選択される。フィラーの添加量は、通常の起動停止/連続運転下での電子伝導性物質の劣化/腐食によっても触媒層の薄層化は良好に抑制・防止でき、かつ優れた触媒活性(発電効率)をも維持できる範囲であればよい。好ましくは、フィラーの添加量は、触媒成分、イオン伝導性物質、電子伝導性物質及びフィラーの合計質量に対して、5〜20質量%である。
本発明において、触媒層を構成する触媒成分は、カソード触媒層に用いられる場合には、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、アノード触媒層に用いられる触媒成分もまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びこれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード触媒をして合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できるが、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が10〜70原子%とすることが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、カソード触媒層に用いられる触媒成分及びアノード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択できる。以下の説明では、特記しない限り、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義であり、一括して、「触媒成分」と称する。しかしながら、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択される。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。この際、触媒インクに用いられる触媒粒子の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って酸素還元活性が低下する現象が見られる。従って、触媒インクに含まれる触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらにより好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmの粒状であることが好ましい。担持の容易さという観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値により測定することができる。
本発明において、上述した触媒成分が電子伝導性物質に担持されて電極触媒が形成され、これが後述する触媒インクに含まれる。
前記電子伝導性物質としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
前記電子伝導性物質のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m/g、より好ましくは80〜1200m/gとするのがよい。前記比表面積がこのような範囲であれば、電子伝導性物質への触媒成分および高分子電解質の良好な分散性を維持でき、触媒成分及び高分子電解質の有効利用率を向上させ、十分な発電性能が達成できる。
また、前記電子伝導性物質の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
前記電子伝導性物質に触媒成分が担持された電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%とするのがよい。前記担持量が上記範囲であると、触媒成分の電子伝導性物質上で良好に分散でき、発電性能の向上が期待できる。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
また、電子伝導性物質への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
本発明のカソード触媒層/アノード触媒層(以下、単に「触媒層」とも称する)には、電極触媒(触媒成分が電子伝導性物質に担持したもの)の他に、イオン伝導性物質(本明細書中では、「アイオノマー」とも称する)が含まれる。前記イオン伝導性物質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくとも高いプロトン伝導性を有する部材であればよい。この際使用できるイオン伝導性物質は、ポリマー骨格の全部又は一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質とに大別される。
前記フッ素系電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ゴアセレクト(登録商標、ジャパンゴアテックス株式会社製)、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
前記炭化水素系電解質として、具体的には、ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸等が好適な一例として挙げられる。
イオン伝導性物質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましく、なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
本発明のCCMに用いられる電解質膜としては、特に限定されず、触媒層に用いたものと同様の電子伝導性物質からなる高分子電解膜が挙げられる。また、デュポン社製の各種のNafion(デュポン社登録商標)やフレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)に代表されるパーフルオロスルホン酸膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂(ダウエックス、登録商標)、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜など、一般的に市販されている固体高分子型電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。前記電解質膜に用いられる高分子電解質と、各触媒層に用いられる高分子電解質とは、同じであっても異なっていてもよいが、各触媒層と電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
前記電解質膜の厚みとしては、得られるCCMの特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜100μmである。製膜時の強度やCCM作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、CCM作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
また、上記電解質膜としては、上記したようなフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂による膜に加えて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などから形成された多孔質状の薄膜に、リン酸やイオン性液体等の電解質成分を含浸したものを使用してもよい。
本発明のCCMの製造方法は、特に制限されず、上記したようにカソード触媒層、さらには必要であればアノード触媒層にフィラーを添加する以外は、従来公知の方法と同様の方法が適用できる。例えば、触媒成分、イオン伝導性物質、電子伝導性物質及び必要であればフィラーから調製された触媒インクを所望の厚さで転写用台紙上に塗布・乾燥することによって、カソード側及びアノード側の触媒層をそれぞれ形成し、さらにこの触媒層が内側にくるように電解質膜を上記触媒層で挟持してホットプレス等により接合した後、転写用台紙を剥がすことによって、CCMが得られる。
以下、本発明のCCMの製造方法の好ましい実施態様である、カソード触媒層のみがフィラーを含む場合の方法を説明する。なお、以下の態様は、本発明の好ましい態様を示したものであり、本発明のCCMの製造方法が下記方法に限定されるものではない。
まず、電極触媒、イオン伝導性物質及び溶剤を一緒に混合して、アノード用触媒インクを調製する。また、電極触媒、イオン伝導性物質、溶剤及びフィラーを適当な順序で混合して、カソード用触媒インクを調製する。この際、上記したようにして電子伝導性物質に触媒成分を担持させて電極触媒を予め調製した後、電極触媒にフィラーを添加することが特に好ましい。これにより、触媒成分は電子伝導性物質表面にのみ選択的に担持され、フィラー表面には担持しないため、このような方法によって調製した触媒インクを用いて形成した触媒層は、触媒成分が反応ガスと接触できる有効表面積を十分確保でき、優れた触媒活性を発揮できるからである。また、電極触媒、イオン伝導性物質、溶剤及びフィラーの添加順序は、特に制限されないが、(ア)電極触媒及びフィラーを混合した後、これにイオン伝導性物質を添加、混合する工程;(イ)電極触媒及びイオン伝導性物質を混合した後、これにフィラーを添加、混合する工程;(ウ)電極触媒、イオン伝導性物質及びフィラーを一緒に添加、混合する工程などが好ましく使用され、(ウ)、(イ)及び(ア)の順で好ましい。この際、溶剤は、上記いずれの部分で添加されてもよい。
上記方法において、溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶剤が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。また、溶剤の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できるが、触媒インクにおいて、電極触媒は、所望の作用、即ち、水素の酸化反応(アノード側)及び酸素の還元反応(カソード側)を触媒する作用を十分発揮できる量であればいずれの量で、使用されてもよい。電極触媒が、触媒インクの全質量に対して、5〜30質量%、より好ましくは9〜20質量%となるような量で存在することが好ましい。また、フィラーの触媒インク中の含量に関しても、フィラーが、所望の作用、即ち、触媒層の薄層化の抑制・防止作用を十分発揮できる量であればいずれの量で使用されてもよい。好ましくは、フィラーが、触媒成分、イオン伝導性物質、電子伝導性物質及びフィラーの合計質量に対して、5〜20質量%の量で存在する。
また、上記方法において、電極触媒とフィラーとの混合割合は、優れた触媒層の薄層化の抑制・防止効果及び触媒活性が満足できるものであれば特に制限されず、それぞれの添加量が、上記した範囲内に含まれれば特に制限されない。
本発明の触媒インクは、増粘剤を含んでもよい。増粘剤の使用は、触媒インクが転写用台紙上にうまく塗布できない場合などに有効である。この際使用できる増粘剤は、特に制限されず、公知の増粘剤が使用できるが、例えば、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などが挙げられる。増粘剤を使用する際の、増粘剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されないが、触媒インクの全質量に対して、好ましくは5〜20質量%である。
次に、上記で調製されたアノード用及びカソード用触媒インク(以下、一括して、「触媒インク」と称する)を、それぞれ、転写用台紙上に塗布・乾燥して、アノード触媒層及びカソード触媒層を形成する。この際、転写用台紙としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート、ポリエステルシートなどの公知のシートが使用できる。なお、転写用台紙は、使用する触媒インク(特にインク中のカーボン等の導電性担体)の種類に応じて適宜選択される。また、上記工程において、触媒層の厚みは、水素の酸化反応(アノード側)及び酸素の還元反応(カソード側)の触媒作用が十分発揮できる厚みであれば特に制限されず、従来と同様の厚みが使用できる。具体的には、触媒層の厚みは、1〜30μm、より好ましくは1〜20μmである。また、転写用台紙上への触媒インクの塗布方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、あるいはスプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。また、塗布された触媒層の乾燥条件もまた、触媒層から溶剤を完全に除去できる条件であれば特に制限されない。具体的には、触媒インクの塗布層(触媒層)を真空乾燥機内にて、室温〜100℃、より好ましくは50〜80℃で、30〜60分間、乾燥する。この際、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。次に、このようにして作製された触媒層で電解質膜を挟持した後、当該積層についてホットプレスを行なう。この際、ホットプレス条件は、触媒層及び電解質膜が十分密接に接合できる条件であれば特に制限されないが、100〜200℃、より好ましくは110〜170℃で、電極面に対して1〜5MPaのプレス圧力で行なうのが好ましい。これにより電解質膜と触媒層との接合性を高めることができる。ホットプレスを行なった後、転写用台紙を剥がすことにより、触媒層と電解質膜とからなるCCMを得ることができる。
なお、上記では、転写方法により、CCMを製造する方法について述べてきたが、本発明のCCMは、直接塗布などの他の方法によって製造されてもよい。このような場合の製造方法は、特に制限されず、公知の直接塗布法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できるが、例えば、以下のような方法が使用できる。上記したような触媒インクを、電解質膜上に直接塗布して、各触媒層が形成される。この際、電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。例えば、触媒インクを電解質膜上に、乾燥後の厚みが5〜20μmになるように、塗布し、真空乾燥機内にてまたは減圧下で、25〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、5〜30分間、より好ましくは10〜20分間、乾燥する。なお、上記工程において、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。
なお、本発明によるCCMは、下記に詳述されるように、一般的にガス拡散層をさらに有してもよく、この際、ガス拡散層は、上記方法において、転写用台紙を剥がし、得られた接合体をさらにガス拡散層で挟持することによって、触媒層と電解質膜との接合後にさらに各触媒層に接合することが好ましい。または、触媒層を予めガス拡散層表面上に形成して触媒層−ガス拡散層接合体を製造した後、上記したのと同様にして、この触媒層−ガス拡散層接合体で電解質膜をホットプレスにより挟持・接合することもまた好ましい。
この際、CCMに用いられるガス拡散層としては、特に限定されず公知のものが同様にして使用でき、例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とするものなどが挙げられる。前記基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。厚さが上記範囲内にあれば、機械的強度、ガスや水などの透過性を十分達成することができる。
触媒層をガス拡散層表面上に形成する方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、スプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。また、触媒層のガス拡散層表面上への形成条件は、特に制限されず、上記したような具体的な形成方法によって従来と同様の条件が適用できる。
前記ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことを目的として、前記基材に撥水剤を含ませることが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、前記ガス拡散層は、前記基材上に撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層を有するものであってもよい。
前記カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
前記カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、前記基材に用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。
前記カーボン粒子層における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。
前記カーボン粒子層の厚さは、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
ガス拡散層に撥水剤を含有させる場合には、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層に用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。
ガス拡散層において基材上にカーボン粒子層を形成する場合には、カーボン粒子、撥水剤等を、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などの溶媒中に分散させることによりスラリーを調製し、前記スラリーを基材上に塗布し乾燥、もしくは、前記スラリーを一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これを前記ガス拡散層上に塗布する方法などを用いればよい。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃程度で熱処理を施すのが好ましい。
なお、触媒層と電解質膜と、及び好ましくはガス拡散層を含む接合体の製造方法は、上述した方法に限定されない。すなわち、触媒インクを電解質膜上に塗布・乾燥させた後ホットプレスして、触媒層を電解質膜と接合し、得られた接合体をガス拡散層で挟持して、CCMとする方法;触媒インクを、前記ガス拡散層上に塗布・乾燥させて触媒層を形成し、これを電解質膜とホットプレスにより接合する方法、などであってもよく各種公知技術を適宜用いて行えばよい。
本発明のCCMは、上述した通り、触媒担体として用いられる電子伝導性物質、特にカーボン担体の腐食が起きた後であっても、触媒層の薄層化を抑制・防止することが可能である。また、本発明のCCMでは、電子伝導性物質が劣化/腐食しても、フィラーによりガス流路は確保されているので、触媒層内のガスの良好な拡散性が維持できる。従って、本発明の電解質膜−電極接合体を有する燃料電池は優れた発電効率を発揮できる。したがって、本発明はさらに、本発明のCCMを用いてなる燃料電池を提供するものである。
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、リン酸型燃料電池に代表される酸型電解質の燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
前記高分子電解質型燃料電池は、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求されることによるカーボン担体の腐食、および、運転時に高い出力電圧が取り出されることにより高分子電解質の劣化が生じやすい自動車などの移動体用電源として用いられるのが特に好ましい。
前記燃料電池の構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用すればよいが、一般的にはCCMをセパレータで挟持した構造を有する。
前記セパレータとしては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、従来公知のものであれば制限なく用いることができる。セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するための流路溝が形成されてもよい。セパレータの厚さや大きさ、流路溝の形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
また、各触媒層に供給されるガスが外部にリークするのを防止するために、ガスケット層上の触媒層が形成されていない部位にさらにガスシール部が設けられてもよい。前記ガスシール部を構成する材料としては、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ガスシール部の厚さとしては、2mm〜50μm、望ましくは1mm〜100μm程度とすればよい。
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してCCMを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
実施例1
図6に示されるように、白金担持カーボン微粒子((株)田中貴金属製、商品名:TEC10E50E)及びVGCFを、1:0.2の質量比になるように混合し、さらにこれに水を添加し、均一に混合するまで、攪拌した。この溶液に、アイオノマーとして市販のNafion溶液(1−プロパノール中に5wt%の濃度でNafionを分散/懸濁したもの、デュポン製)及び溶剤として1−プロパノールを加えて、均一に混合するまで、混合液の温度が35℃に保持されるように、29℃の冷却水を反応容器の周囲に流しながら、約3時間攪拌して、カソード用の触媒インクを調製した。上記方法において、VGCFを添加しない以外は同様の方法を繰り返して、アノード用の触媒インクを調製した。
上記で調製したカソード用及びアノード用の触媒インクを、それぞれ、スクリーンのメッシュ部に流し入れ、スクレーパでならした後、スキージ(ゴムヘラ)を用いて、スクリーンプリンタにてテフロンシート(大きさ:5cm×5cm)上に塗布し、真空乾燥機にて1時間、乾燥させた。この塗布・乾燥工程を7〜8回繰り返して、重ね塗りを行なった。その結果、触媒白金の含量が0.4mg/cmである触媒層が形成されたカソード用及びアノード用の転写シートをそれぞれ作製した。
電解質膜としてのNafion膜(大きさ:7cm×7cm、Nafion112、デュポン製)を、上記で作製したカソード用及びアノード用の転写シート2枚で、触媒層がそれぞれNafion膜と接するように、挟みこみ、上記転写シートに対して、130℃、2.6MPaで、10分間ホットプレスを行なった後、100℃まで冷却した後、圧力を開放し、さらに常温にて自然冷却を行なった後、テフロンシートを剥がして、本発明のCCM(1)を得た。このようにして得られた本発明のCCM(1)を、さらにガス拡散層となるカーボンペーパー(厚さ300μm)で両面から挟んだものを、発電評価用セルに組み込んだ。
比較例1
実施例1において、VGCFを添加せずにカソード用の触媒インクを調製する以外は、実施例1の方法と同様の方法に従って、比較用CCM(1)を作製した後、実施例1と同様にして、この比較用CCM(1)をさらにガス拡散層となるカーボンペーパー(厚さ300μm)で両面から挟んだものを、発電評価用セルに組み込んだ。
実施例2:起動停止試験
上記実施例1で作製した本発明のCCM(1)を組み込んだ発電評価用セル及び比較例1で作製した比較用CCM(1)を組み込んだ発電評価用セルについて、以下のようにして、燃料電池単セルの起動停止試験を行なった。なお、当該試験に際しては、アノード側に燃料として水素を供給し、カソード側には空気を供給した。両ガスとも供給圧力は大気圧とし、水素と空気で飽和加湿したものを、図3に示されるような流量で、それぞれ、アノード及びカソードに供給した。この際の各供給ガスの流量は下記のとおりであった。すなわち、図3に示されるように、アノード側では、水素を最初に、60秒間、260ml/分の流量でアノード側に供給した後、空気を50ml/分の流量でパージし、その後、空気パージを停止して、再度水素を、アノード側に供給した。この計2分間のサイクルを1サイクルとした。一方、カソード側では、図3に示されるように、空気を最初に、60秒間、空気を1040ml/分の流量でカソード側に供給した後、大気圧で出口側を解放して空気の供給を停止し、この状態を60秒間保持し、この計2分間のサイクルを1サイクルとした。このサイクルを3000回行なった(起動停止試験)。なお、上記試験を通じて、燃料電池本体の温度は70℃に設定した。また、電流密度に関しては、1サイクルのうち、前半の60秒間は1.0A/cmになるように電流密度を上昇させた後、この電流密度を一定時間維持した後、一気に0A/cmに落として、この状態を60秒間維持した。また、発電を停止する場合には取り出す電流密度をゼロとした後、アノードは窒素パージをして水素を排出した。
上記試験終了後、本発明のCCM(1)及び比較用CCM(1)を凍結割断して、SEM写真を撮り、カソード触媒層の厚みを測定した。なお、本発明のCCM(1)及び比較用CCM(1)について、上記起動停止試験前のカソード触媒層部の厚みを予め測定しておいた。この結果を下記表1ならびに図4及び5に示す。
また、本発明のCCM(1)及び比較用CCM(1)を凍結割断したものについて、上記で作製した触媒層の断面のSEM画像を用意し、各々の画像に無作為に直線を引き、直線上の触媒担体(触媒金属を含む)部と空孔部の比率を求めた。この作業を、100本の直線について同様にして繰り返し、下記式に示されるように、各直線上の触媒担体部と空孔部の比率との比率の平均を算出して、この値を触媒層内の空孔率(即ち、請求項1における「起動停止試験後の空孔率」)とした。その結果を下記表に示す。
本発明の電解質膜−電極接合体(CCM)は、触媒層の経時的な薄層化を有効に抑制・防止しかつ発電効率のよい燃料電池に適用できる。
長期放置後のアノード/カソードのガス雰囲気、ならびに長期放置後の起動時のアノード/カソードのガス雰囲気と局部電池状態、を示す説明図である。 局部電池において生じる電気化学反応を示す説明図である。 実施例2における起動停止試験条件を示す図である。 実施例1のCCMの断面を示すSEM写真である。 比較例1のCCMの断面を示すSEM写真である。 実施例1のCCMの製造工程を示す図である。

Claims (7)

  1. 電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層とを有する、電解質膜−電極接合体であって、
    少なくともカソード触媒層が、触媒成分、イオン伝導性物質、電子伝導性物質及びフィラーを含み、かつフィラーを含む触媒層は、起動停止試験後の空孔率が0.5以上である際の、起動停止試験前後の厚みの減少率が30%以下であることを特徴とする電解質膜−電極接合体。
  2. 前記フィラーを含む触媒層は、起動停止試験後の空孔率が0.8以上である際の、起動停止試験前後の厚みの減少率が30%以下である、請求項1に記載の電解質膜−電極接合体。
  3. カソード触媒層のみが、触媒成分、イオン伝導性物質、電子伝導性物質及びフィラーを含む、請求項1または2に記載の電解質膜−電極接合体。
  4. 前記フィラーを含む触媒層は、電子伝導性物質に触媒成分を担持させて電極触媒を得た後、前記電極触媒にフィラーを添加することによって形成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解質膜−電極接合体。
  5. 前記フィラーは、カソード触媒層のガス流路の出口側領域および/またはアノード触媒層のガス出口に対向するカソード触媒層領域に多く配置される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解質膜−電極接合体。
  6. 前記フィラーは、導電性繊維である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解質膜−電極接合体。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の電解質膜−電極接合体を用いてなる燃料電池。
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